ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
私は長い勉強期間を経て戻ってきました
復帰一発目なので少し短めなのと思ってた以上に進みませんでした面目ねぇ
時を少し遡り時刻にして11時手前、2時限目の休み時間に入った大洗女子学園の2-Aの教室にて4人の女子生徒がひとかたまりになって話をしていた
「2-Cの子にも聞いてみたけど、やっぱりゆかりんもまだ来てないって…」
4人の内の一人、武部沙織が口を切ることで他の3人も唸るように難しい表情で俯く
「何か事故とかに巻き込まれて無ければ良いんだけど」
誰にともなく呟いた言葉に答えるものはいなかったが、ただ一人ケータイを開いて画面とにらめっこをしていた少女
西住みほが「あっ」と声を上げた
「杉野さんからは返信入ってる…」
「え!」
4人の会話、その主な内容は友達である杉野直緒と秋山優花里の両名が自分たちのみならず教員の方々にすら連絡を入れないでの欠席であると言う事に対してだった
彼女達にとって秋山に関して言えば普段の真面目さ等もあり純粋な心配であるが杉野に関しては何をしでかすかわからないので何の理由で来ていないかというのが全くと言っていいほど読めず、その為何か良くないことでも起きているんじゃないかと不安を駆り立てていた
しかしそれも西住の方にメールで返信が届いたことで終わりを告げる事となる
「…うん?」
が、当該のメールを開きその内容を目にした彼女の顔が一瞬固まり小首を傾げるとその様子を見ていた武部を含めた3人
五十鈴華と冷泉麻子も釣られるように西住の手の中のケータイ画面を覗き込む
そこに書かれていたのは───
────────
送信者:杉野 直緒さん
件名:Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.、、、
本文:現在電波状況不備につき以降返信不可
尚、忠犬ユカ公をこちらで保護しています
夕方には戻りますのでご心配なく
草々
────────
「忠犬ユカ公…ゆかりんのこと?」
「まぁ、言わんとしてる事はわかるな」
「そうですね」
僅か三行で要点を纏めた簡素な本文、特にそこで目を引くのは「忠犬ユカ公」等と言う訳のわからない単語だった
とは言え本気で何の事かと唸る西住に対し武部、冷泉、五十鈴の3名は何故急にこんな言い回しをしたのかこそわからなかったがその単語が誰を示しているのかくらいは見当がついた
「え、秋山さん…ですか?」
「多分ゆかりんの下の名前と忠犬ハチ公をかけてるんだと思う
…ほら、あの子時折犬っぽいところあるじゃない?」
口をついて出た疑問に対して武部が答えると少し考えるように西住は瞳を閉じて頭の中で普段の秋山優花里という少女の行動と言動を振り返る
すると「西住殿ー!」と元気よくこちらを呼びかける脳内での秋山の姿に犬耳と尻尾の存在を幻視し、ニコニコと笑うその表情と共にものすごい勢いで尻尾が振られているのが見えた
「ンフフッた、確かに…」
今更ながらにそんな事に気づいてしまうとちょっと堪えることも難しく、せめて声くらいは抑えようと思ったものの耐えきれずにそんな笑い声が口から溢れた
確かに言われてみれば秋山と言う少女は犬に似てると西住は思った
時を戻して現在、杉野と秋山の両名を乗せた局地戦闘機紫電改は大洗の学園艦の上空約2000mの位置に来ていた
「遂に戻ってきましたね」
「おう、いや〜久々だと往復1時間程度の距離でも疲れるな」
後ろの席に座り口元まで紫色のマフラーで覆い隠した秋山が眼下に見える大洗の学園艦に身を乗り出す姿勢で視線を送りそう呟くと、操縦席の杉野はそう言って何度か強くぎゅとまばたきをしてからゆっくりと降下し緩く弧を描くように旋回して学園艦の艦首側へ回り込む
「流石にお疲れのようですね…」
「あ〜──特に目がヤバいな、ここまで酷使したの久しぶりだからしょぼつくわ」
徐々に高度を下げて艦首側から着陸姿勢を取る頃には200m程度まで下がり、フラップを展開して降着装置を展開
減速させながら甲板上の建物を突っ切って大型倉庫のある艦尾の方へ進路を向ける
(速力は落ちてる…あとはスロットルを絞って)
計器盤を一瞥した後、スロットルを絞り更に速力を落とす
眼下には倉庫の目の前の広い道が見えており少し機首を上げることで尾部を下にした状態、所謂三点着陸の体勢を取る
──トンッと小さな衝撃が走り降ろした引込脚が路面を掴んだ為にゆっくりとブレーキを掛け、より安全な速度域まで制動をかけるとみるみると速力が落ちていき自身の大型倉庫の敷地までゆっくりと滑走していく
(はぁ、疲れた…)
杉野は紫電改を自身の倉庫の敷地へ機首から突っ込むように格納して発動機を停止させてから、ふうと一つ溜息を吐いて飛行帽を脱いで計器盤の上へ置いた
「もう落下傘外しちゃって良いぞ」
「わかりました」
後ろでいそいそと落下傘をハーネスごと取り外す秋山の作業音を聞きながら杉野自身はシートベルトを外して風防を開け、先に主翼側へと降りていく
少ししてから秋山も後部座席側から操縦席側へ移って来たので出やすいように手を差し伸べて杉野が支えに入った
「出れっか?」
「あ、はい…大丈夫です」
秋山の手を引いて機外へ出る手伝いをしてから杉野は輪止めを降ろしてから紫電改の風防を閉じ、一足先に地面に降りると両方の車輪に輪止めを噛ませた
「仕舞わなくて良いんですか?」
「レシプロ機はバックが出来ねぇからしまう時は大掛かりで時間が掛かるんよ、特に俺は出すとき楽だから後ろ向きにしまいたい派だから余計な」
時間も掛かるし解散して後々時間の取れるときに倉庫へ格納すると言えば秋山も納得したように、それでいて申し訳無さそうに頭を下げる
「すいません、私のために…」
「だから、別に秋山の為だけじゃないんだって
そもそもが西住の為に何かしたいって事なら俺も一緒だったしな」
それに、と付け加えて杉野は続けた
「今朝も言ったが友達同士でいつまでも畏まってんじゃねぇよ、こういう時はありがとうだけ言うもんだ」
わかったか?と聞き返すように秋山へ振り返り、いたずらっぽく眉間に皺を寄せてニッと笑う杉野に
秋山は目を見開いて少しだけ逡巡してから口を開いた
「今日は本当にありがとうございました、杉野殿」
「おう」
◆
さて、時刻は現在16時手前
俺は現在
というのも…
「一応、角谷には休み連絡入れたけど体裁が悪いからな…ちょっとウチで暇潰してくべ?」
「良いんですか?」
恐らく角谷に連絡をしたことで教員連中には話しはついているだろうが、午後練も加味するとまだ他メンツは学校に残っている時間だと思われる
このままどこかで時間を潰してる最中にばったり出くわすと気まずいため俺の家で多少時間を潰してから秋山を家に送っていくと言う算段である
ちなみに、ただでさえ戦車道履修生の練度が低いのに休んでも良いものかと思われるかもしれないが
久しぶりの操縦に加え2機のコルセアを相手取った空中戦、潜入では中ボスクラス二人と鉢合わせ、しまいには50輌超えのシャーマンに包囲された状態から1輌で逃げ切ったりと朝からずっと気を張りっぱなしなのでほとほと疲れ果ててしまった
こんな状況じゃ仮に無理して練習に出ても良い思案も浮かばないだろうし返って足を引っ張る気しかしないため本日の営業はコレにて終了である
「まぁ俺が休みたいってのも本音」
「いや、本当にお疲れ様でした」
そんなこんなで歩きながら裏通りを入っていき15分程歩いた頃に住宅街に差し掛かって視界にちらほらと複数の家が見えてくる
「──あ、もしかしてあそこですか?」
「正解」
そしてその並んだ住宅の中でもかなり手前のある一軒家を指さして秋山が聞いてくる、というのも車一台停められる程度の駐車場には普段秋山や西住達を送り迎えするのに使ってる俺の愛車が停まっているから一目瞭然だろう
「いつもはこっちじゃ無くて倉庫に入れてるんだけど、たまたま紫電改動かすのに邪魔だからこっち停めてんの
良い目印っしょ?」
「あはは…まぁ確かに一目見てわかりましたけど」
それにしても、と付け足して秋山は小首を傾げながら続けた
「杉野殿は一軒家の寮なんですね…」
「んや?ありゃただの借家だぞ」
意外と言いたげな秋山に即座に訂正を入れる、一軒家の寮を借りる場合は部屋が空いてる分他の人が入ってくる
所謂シェアハウスなのが借りる際の基本である、それだと確かに普通に借家を借りるよりはだいぶ安く借りられるのだが知らない他人と一つ屋根の下と言うのは耐え難い
何と言っても最近Aチームメンツという友達ができたがそれまでの大洗での友達は0人である
大事なことだからもう一度言おうか?最近まで友達は0人だったのだ
気心知れた人たちとならシェアハウスにしようが気にならないが赤の他人とは御免被りたい
とは言え寮として一人暮らしで借りられるのはアパートかマンションの一室が精々なのでそれはそれで手狭なのだ
「別口だから多少高くはつくけど、借家での一人暮らしも気楽で良いぞ」
「なるほど…そう言う事ですか」
ある程度掻い摘んで話せば秋山は納得の行ったように首を縦に振った、まぁ散々パラ態々借家を借りてまで一人暮らしだと言ってはいるが
あまり大きいと手入れも追いつかないし、荷物などもある程度入れられるスペースさえ確保できれば良かった為に俺の借家はこの近辺では一番小さな家だ
それでも2階建ての4LDKでギリギリ30坪あるかないかくらいなので一人暮らしには充分過ぎる広さである
「てか家まで招いたの秋山が初めてだわ」
「え、そ、そうなんですか?」
前に倉庫までは西住に見せた事はあるが家までは秋山が初めてである、駐車場の車の脇を通り抜けながらそんなことを言ってみれば秋山はちょっと嬉しそうにしていた
…あれよね、友達の家初めて行く時ってちょっとワクワクするよね
「つっても特に面白みのない家だけどな」
玄関について鍵を解除して扉を開くと視界に飛び込んでくるのは見慣れた代わり映えのしない我が家である
「正面がリビングだからそこで時間潰しててくれて構わんよ」
「あ、はい…杉野殿は?」
「化粧落とすの含めてシャワー浴びてくる、あと着替えてぇよ流石に」
秋山が入ってから防犯の為に2つある鍵の内、一つだけロックをかけてから靴を脱いで玄関へ上がりこみリビングダイニングのスライドドアを開ける
「ず、随分スッキリとしてますね」
「必要最低限以外は置かないからな」
これまた見慣れた部屋ではあるものの、ダイニング側にはパッと見の家電は炊飯器とレンジと冷蔵庫そして机とテーブル
リビング側にはソファーとテーブルのみで確かにそこそこ殺風景かも知れない
「テレビとかないんですか?」
「去年ぶっ壊れたから捨てた、元々そんなに見ないから新しく買う必要も無くてな」
「…世捨て人でも目指してるんです??」
趣味に没頭して生きていれば、その趣味の時間が取れなくなる余計なものは自然と自分の周りからフェードアウトさせていく
…まぁ元々テレビなんてのらくろの再放送くらいしか見るもんなかったし、ニュースとかは局によって思想が強いからケータイに入ってくるもの意外自然と見なくなった
正直態々新しく買うほどじゃないのは本音である
「とりあえずどっか適当に座って待ってらっせ」
「あぁ…はい」
ひとまず秋山を席に座らせ、冷蔵庫を開けてお茶か何かないかを見繕う…あれ?瓶の牛乳そろそろ切れそうなんだけど
後で買ってこねぇとな
「とりあえずなっさんのオレンジで良いか?」
「わ、すいませんありがとうございます」
冷蔵庫に入れた飲み物の中で、特に好き嫌いの分かれなそうな無難な物を見繕って取り出す
紙パックのなっさんを発見したのでこれでいいだろう
「んじゃちょっと席を外すわ」
なっさんオレンジを秋山に手渡してから一言いってリビングを出る、とりまシャワー浴びに行こう
◆
杉野殿が退室し、私は一人リビング側のソファーに腰をかけて先程頂いたパックのジュースにストローを刺して中身を一口含む
それにしても…
(落ち着きませんね)
ふうと一息ついて心を落ち着かせようとするも中々そうはいきません、友達の家というのすら未だに慣れないのに今日は二人だけ
それも相手が杉野殿なら尚更です
「…あれ?」
流石に人の家に来てまでケータイで隙を潰す考えはないため、さて杉野殿が戻ってくるまでどう時間を潰したものかと思ってあたりを見渡すとダイニング側の机に恐らく文庫本が3冊程置いてあるのが目に入りました
(そう言えば、この間家では読書で暇潰してるって話をしてましたっけ)
ふと気になってソファーから立ち上がりダイニング側へ移動し、積まれていた本を手に取る
(宮沢賢治《宮沢賢治詩集》、福沢諭吉《学問のすゝめ》、石川啄木《ローマ字日記》…うわぁ作者の名前だけでわかる難しそうな本しか無いじゃないですか)
杉野殿が元々は文学少女(ガチ)だったのは知っていますがこうして実際にその事実を目の当たりにするとなんとも言えない気分になります
というのも私、授業じゃ国語が一番嫌いというか苦手なわけで
教科書に乗っている作品の一部を読むだけで辟易とさせられるのによく彼女は趣味でこういった本が読めるなと素直に感心させられます
自分の苦手科目を得意にしてる人ってやっぱりカッコよく見えますし、それに…
(有名作家の作品はほとんどの内容を覚えてないんですけど、不思議と杉野殿の作品は強く印象に残ってるんですよね)
かつて彼女が文学少女として戦車道の傍らに作ったと思われるいくつかの入選作品は目を通したどれもが印象深く心に残っており、特に《姫押》と題された作品は私にしては珍しく何度も読んだ作品でした
(…一冊お借りしますか)
元々メディアには出てこない彼女は私生活等に謎が多く、それが彼女が単純な撃破数だけで言えば世界レベルで見ても1位2位を争うレベルでありながら知名度の低い由縁でもあります
彼女が何を見て何を思って育ったのか、それを知れるなら嫌いな教科に手を伸ばすのも吝かではありません
これは彼女を理解する良い機会です
「──おう待たせたな」
「……」
「秋山?」
「わっ、す、杉野殿!?」
それから少ししてソファーに戻り抜き取った本の宮沢賢治詩集を読んでいるといつの間にか杉野殿が戻ってきており、肩に掛けたタオルで髪の水気を拭いながらこちらへ話しかけていた事に気づきます
服装も今朝サンダースに乗り込んだ時から着替えたのかダボダボな所謂オーバーサイズの白無地のパーカーと黒いズボンに変わってました…本当に普段からそういう格好なんですね
「すいません気づかなくて、あ…あと本借りてます」
「あぁ、良いよ別に
そのままで待ってるのも辛かったろ」
一旦本に区切りをつけると頭がぼんやりとすることに気づきました、苦手で慣れない本に手を出したせいかおそらくは知恵熱であろうことが疑えます
…まぁまだ詩集な分読みやすくいくつかの表現におおっと感銘を受けるようなものもありましたがやはり苦手なものは苦手です
戦車や重火器のカタログとかはどれだけ文字が多くても終始集中して見れるのにこの違いって何なんでしょうね
「──あ、でもまだこんなもんですか」
「ん?」
「いえ、結構時間も経ったかなと思ったのですが」
時計に目を向ければまだ杉野殿の家にお邪魔して20分も経っていない、感覚的にはもっと長くいる気がしますが不思議な物です
「俺もちょっと休憩して良いか?」
「どうぞどうぞ、何かあれば声かけますので」
「そしたら寝落ち対策に30分くらいしたら声かけてくれねぇ?」
身を清めて更に疲労感が増したのか口元を手で隠しながらもあくびをする彼女にそう言うと、そんな言葉と共に休息に入り
ダイニング側の椅子に腰掛けてテーブルに突っ伏しました、まだほんのり水気を含んで髪を降ろした状態の彼女の髪型にこそ見慣れなさはあるものの
目元の化粧を落とした彼女の顔は見慣れたいつもの物で、眠たげに目尻の下がった表情はいつにもまして優しい顔立ちをしており中々新鮮です
(…これはこれは、中々なことを仰せつかりましたね)
少ししてからそのまま瞳を閉じた杉野殿は普段の目付きが形を潜めて背丈も相まって愛らしい子供にしか見えなくなります
普段なら美人系ですが今は見た目相応の可愛らしい顔立ちに見えるのでこれを起こすとなると結構罪悪感に苛まれそうだなと思わず表情が引き攣ったのを自覚しました
(寝ちゃいましたねぇ…)
微かに聞こえ始めた小さな寝息をBGMにもう一度先程の本を手にとって続きから読み勧めていきます
思い返せば今日一日、かなりバタバタしていたことに加え杉野殿は昨日から準備していたとも言っていましたし
今朝だって私が来る前に久々の飛行ということもあり紫電改の点検などもしていたことでしょう
いつも杉野殿は誰かのために大忙しで、それに愚痴一つ溢す事なく当然のようにやってのけてしまうので本当に彼女には頭が下がる思いがします
「──おやすみなさい、杉野殿───」
呟いた言葉には当然、返事は帰ってきません
──ですがそれで良いのです
◆
「──殿、杉野殿、起きてください」
「…んぅ」
心地よく微睡んでいた所に聞こえた秋山の声と遠慮がちに優しく揺すぶられたお陰で意識も覚醒し、伸びをしながら身を起こして顔を上げる
「時間〜?」
「はい、30分経ったので声を掛けさせていただきました」
「ん、了解了解」
椅子から立ち上がって寝起きな為にふらつく足取りと格闘しながら冷蔵庫まで向かうと中から一本牛乳瓶を取り出して蓋を開け、中身を一気に喉へ流し込む
「あ〜目ェ覚めた〜ッ」
キンキンに冷えた液体を一気飲みしたおかげか一瞬頭に鈍い痛みが走るもその直後から眠気は一瞬で消え失せた
「頃合いも良さそうだし、送ってくわ」
「何から何までありがとうございます」
「良いって、気にすんなよ」
後ろをついてくる秋山にそう言いながらリビングを出て玄関へ、靴は学校指定のものじゃなく普段遣いのスニーカーを履いて外に出る
「もうそろそろ夕暮れですね」
「おー、最近は日も伸びてきたよな」
あと2ヶ月と少しで夏である今の時期はまだ気温こそ日によって肌寒い日があるが日没時間が徐々に伸びてきた為、17時手前の現在時刻でも空はまだ明るい
これから暑い季節到来となると少し気も滅入るがそこは学園艦、北に航路を取ったりして気温自体は1年間でそこまで大きく変わらないのでそこはかなりありがたい
…まぁその分寄港で内地に戻ったときに地獄を見る羽目になるのだが
「うちに忘れ物とかはねぇよな?」
「はい、大丈夫です!」
来た時同様、秋山は背中にリュックサックを背負っている
特に俺の見ている範囲では内容物は取り出してなかったとは思うが念の為聞くと自信満々な返事が帰ってきたために一安心しながら玄関の鍵をかけて駐車場へ
「──杉野殿」
「ん?」
車の鍵を開けて乗り込もうとした際、不意に秋山から声をかけられた為に動きを停めて顔を上げる
当の秋山は少し逡巡するように視線を逸らしたりしながら小さく唸り、やがて決心がついたようにこう口火を切った
「その…今日はずっと杉野殿にお世話になりっぱなしなので、良ければウチでお茶していきませんか?」
当初秋山の提案に流石に気を使いすぎだと遠慮しようと思い浮かぶが、続けて「駄目、ですかね…」と弱々しく視線を落として呟く姿を見せられては断れない
「…秋山がそう言うならお邪魔させて貰うよ」
「良いんですかッ!!」
ついで本心から嬉しそうにパァアッと明るい笑みを浮かべる彼女に思わず目を細める
あー、眩しい眩しい…浄化されっちまうよ
「んじゃ行こっか」
「はいッ」
エンジンを掛けて車に乗り込みシートベルトを閉める、秋山の方もベルトを付けたのを確認してから
住宅街と言うこともあり暖気は無しで秋山の家である《秋山理髪店》へ向けて車を走らせた
◆
同時刻、サンダース大付属の学園艦
その戦車倉庫に1輌のM4シャーマンが乗り付けた
「──ふぅ…久々に乗ったけど足回りのジャダも回転の谷もなし、流石ウチの整備士は調整の腕前もniceなモノね」
キューポラが空いて中から降りてきたのは癖のない金髪をロングヘアにした小柄な女性、サンダース大付属の上空警備隊所属でF6Fヘルキャットで構成されたサザーランド隊の隊長
ジュリアン・サザーランドであった
(今の時間は整備の子たちも帰ってるし、ラッキーだったわ
全くあの子も無茶してくれるんだから)
思わず小さく溜息が漏れるのも、このM4は本日潜入で来ていた杉野と秋山の両名がバレて逃げてくる際に倉庫から盗み出した物だった
他に人がいれば言い訳を考えるのも手間な為、誰もいないこの時間を見計らって返しに来たのだが───
「Wow…随分珍しいお客さんですね、サザーランド先輩?」
「…ケイ」
踵を返してさて帰ろうかと背を向けたところ、背後から突如かけられた言葉に振り向いて足を止める
後ろに置かれていた他の車両の影からサンダース大付属戦車道チームの隊長であるケイが現れた為にサザーランドは内心でしまったと思いつつも表面上では努めて冷静に振る舞う
「とっくに他の子達は帰っている時間でしょう?まだ残ってるなんて精が出るわね」
「いえ、なんとなく戦車を返しに来るならこの時間帯がベストかなと思いまして」
こちらの行動が読まれていることにサザーランドは思わず尻込みしそうになるものの余裕ぶった立ちふるまいのままケイをジッと見つめてから続けた
「なに、私は表で乗り捨てられていたシャーマンを見つけて返しに来ただけさ」
「嘘ですよね?」
誤魔化しも含めてそんな嘘で軽いジャブを打ってみるものの一瞬で見抜かれてはぐうの音も出ない
「何故そう思う?」
「今日のブリーフィングにオッドボールを名乗る侵入者が一人いました、その子が逃げた時に倉庫から盗み出されたのがそのM4ですが…操縦しながら砲を撃っていたのでおそらく侵入者は二人いますよね?
オッドボール達を見失ってからそんなに時間を開けずに、警備隊の滑走路から見慣れない小型機が飛び立つのをうちの子が確認してます」
ここまで言われてしまえば降参だと言わんばかりにサザーランドは肩を竦める、しかし対するケイはその表情がどこか楽しげに笑っていた
「それで?言っとくが戦車道の規定に偵察が禁止されていない以上は私が喋れることはないよ」
「…なるほどそう言うスタンスなわけですね、私が気になってるのはたった一つ
オッドボールのことでは無くあの時このM4を操縦していたのがいったい誰なのか───」
あくまでも秘匿という形を崩さないサザーランドにケイが聞き直すのはオッドボールと名乗った明らかにこういった事柄に慣れていなそうな少女のことでは無く、現状すべてが謎に包まれている
あまりにも手際の良いもう一人の人物についての問だった
「こっちは動かせられる戦車を全車出して逃げられるどころか1輌やられてます、あんなこと出来る人間は日本広しと言えどそういないでしょう」
「そうかな?例えば黒森峰の西住まほなら似たようなことは出来ると思うがね」
多対一で圧倒出来る人物と言われればその筆頭は熊本の西住流、そしてそれを継ぐ西住まほが有名どころだ
なにせ彼女は2年前高校進学最初の練習試合で同校の先達10輌を相手に単騎で下しているのだから
「…
抽選会が終わって昨日の今日での侵入者、それは相手に直接聞かないまでも所属校は大洗だと言うことはケイ的にも状況判断で分かることだった
とは言え軽く調べた範囲で20年近く戦車道から身を引いていた学校な為に何よりも情報が足りない、噂の範囲を出ることはないが聖グロの一軍を相手に勝利したという情報もあるようだがこれも現時点では定かでないため確実とは言い切れない
「…そうだな、一つ聞きたいが
ケイの思いつく限りで戦車道の強豪校と言われたら誰が頭に浮かぶ」
「Umm…それこそ黒森峰の西住まほ、聖グロリアーナのダージリン…あとはプラウダのカチューシャかしら?」
サザーランドの質問の意図は掴めないが、聞かれた以上唸るように考え込みながらケイはぽつりぽつりと3人の名前を上げる
ちなみにもう一人、継続高校のミカという名が頭に思い浮かぶがある程度強いというのはわかっていてもそれ以上に謎が多く何を持って強いと呼べるかがわからなかった為に除外をしている
「まぁその3人は強いな、だがそれは表の戦車道の話だ
…いるんだよ、世の中には…その強豪校のトップと真っ向から戦える強さを持っていても素行やら何やらで裏に回らざるを得なくなった本物がな」
「…つまり先輩の言う本物が大洗に流れ着いた、と?」
ケイの問にサザーランドが答えることはないが、何やら意味深にニコリと笑い返した事からおおよそ当たっているのだろうと踏む
そしてうーんとわざとらしくサザーランドは考えるような素振りを見せた後に続けた
「あまり全部が全部秘密でもケイが可哀想だし、一つヒントをあげようか」
「ヒント…ですか?」
聞き返す言葉に一度頷きながらサザーランドは続けた
「君の好きなサムライの血を引く戦車乗りが大洗にはいる
それくらいかな、私が言えるのは…」
「サムライ…」
それだけ言うとサザーランドは伝えられることは伝えたとばかりにそそくさと帰ってしまう、ケイは一人残された状態で少し思考の海へと飛び込むもその言葉の意味自体はよく理解していた
というのも、元々サムライと呼ばれた戦車乗りに感銘を受けて彼女はフェアプレーに拘るようになったのだから
(坂井さんは年齢的に高校戦車道には出てこれない…
ならその関係者と考えるのが妥当かしらね)
ふと浮かんだのは
ならばその関係者で高校生の年齢の者はと考えた時に、彼女が最後に所属していた部隊のことが頭を過った
(まさか大村の
既に活動してないところだから辻褄は合うけれど)
思い浮かんだ部隊とは片手の指で収まる程ではあるが、ケイ自身も戦ったことがあった
まぁ最も当時はまだ戦車道界から追放をされていなかった日帝学園戦車道チームの助っ人的な立ち位置だった為に直接な戦闘はほぼ無く、自分の知らない優秀な戦車乗りがまだいたのか程度にしか思っていなかった
その認識が変わったのは日帝学園が戦車道界から追放されて剣部隊が無期限の活動休止に陥った頃、当時まだ二軍だった現副隊長の一人であるアリサが一軍入りを果たしたことでタンカスロンという無茶苦茶な競技とそこで設立から活動休止に至るまで最強であり続けた剣部隊の話を聞いてからだった
(
活動休止に陥ってから公にされた戦闘報告書により、常時出撃可能な車輌は十数輌〜二十輌前後であった事が明らかにされ
搭乗員の入れ替えも激しく、選手生命を絶たれて引退を余儀なくされる者が後をたたずにその平均的な選手生命は3ヶ月程であったことから【戦車乗りの墓場】と揶揄をされていた一方で
アリサのように実際に剣部隊の土俵で戦う事となった者達は皆恐怖のどん底に陥れられていたらしい
その理由は…
(1000輌対20輌で勝つって話…今ならちょっと信じれるかも)
タンカスロンは他チーム同士で協力して戦う事が出来るため、数多の戦車チームが次こそは剣部隊に勝つのだと手を組み合った
そしてそれはサンダースの二軍や三軍も同じことで、日本一の戦車の保有数を活かして他チームとの協力も取り付け
更に連日試合を挑むことで剣部隊の搭乗員達の疲労を悪化させて士気を下げさせようと画策、ピーク時には1週間で述べ1000輌に及ぶ怒涛の物量で押し寄せるこちらに対し毎度20輌前後で応戦しその上で勝つと言う漫画のようなことをやってのけ
あまりの被害の多さに剣部隊の本拠地がある大村一帯は【
「あは───」
色々と考えては見た上で、自然と漏れ出た笑い声にケイは自分自身で驚き
その上でニヤリと不敵な笑みを浮かべる
(GOOD、最高に楽しそうじゃない…熱い勝負になるわよ?コレは…)
心底楽しそうな、それでいて獲物を狙う猛禽類のような獰猛さの見え隠れする後輩たちには見せられないような表情で
サンダース大付属戦車道チーム隊長のケイは一人その日を心待ちにするように笑うのだった
ほぼ緩衝材程度の内容ですねぇ…
コレが1日100ページ、2冊合わせて1000ページの小説を読んだあとの語彙力か?と自分でも思いますねハイ
あと実は10/13日って一応杉野の誕生日だったので何か別で書こうかなと思ったのですが、本編全然進んでないのでやめました
来年何か書くかも知れません
…それまでに最終章含めて終わってると良いなぁ
あとこの世界線のアリサは作中で明言してますが元二軍のタンカスロン上がりって設定にしてます
そもそもリボンの武者もパラレルだから時間軸的には問題ないよねって寸法です
はい、話を変えまして
やっぱり後書きに載せておくと優しい方がしてくれるものですね
改めまして本当に、お気に入り登録・感想お待ちしておりますのでよろしくお願いします
余談ですが当作品は作者が過去一頑張って書いてるので結構表現とかで躓いたりするんですけど、そのたびに頭を冷やすのも兼ねてタバコ吸いに行ってるんですがこの作品書き始めてから吸う本数が元の倍近く増えました
昔の小説家とかが軒並みヘビースモーカーだったのってこういうことなのかなと嫌な実感をしております
いつも通り誤字脱字多いとは思いますが、発見次第直して行こうと思います
以上です