ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

30 / 48
な、なんとかサンダース戦がこれから始まるってことまで書けた〜
もぉ〜長かった〜!




調整期間

 

翌日以降も俺の予定は多忙を極めた、朝練と日中の訓練では1年達への技術指導

それが終われば全体自主練での指導*1、最後に皆が帰ってから放課後の整備の手伝い*2

所謂月月火水木金金のような日々である、ここまで引っ張りだこなのは第343戦車隊(剣部隊)の結成当初〜初陣を飾る約3ヶ月間の慣熟訓練の頃並みだ

 

「あ、伝え忘れてたけど公式戦はカラーリングにもある程度の規制掛かるから試合までには戻してな?」

 

えぇーッ!?

 

そんなある日のこと、もうそろそろで大会本番で明日にはPJの採寸を含めた健康診断を開催を目前として

俺がそういった事で戦車道履修生…主に搭乗戦車に素敵カラーリングを施した面々は頭を抱えていた

ちなみに西住と秋山はそう言えばそうだったと苦笑いだ、見慣れてしまっていたせいか疑問に思わないあたり結構毒されてしまっていると思う

ワンポイントくらいなら許されてるんだけどね、俺もほら…スクール時代に公式戦参加してた時はヤークトティーガーに撃破マーク入れてたし

 

「…んじゃ、今日は戦車の塗り替えしよっか」

 

というわけで角谷が号令を出して急遽本日の予定は戦車の全塗装と相成った

…これ午後には乾くかな、ペンキって柔らかい癖に塗膜が厚いから完全硬化ってかなり時間かかったと思うけど

足付けは…しなくて良いか、近所のホムセンから下地用にミッチャクロンだけ買ってくればいいべ

 

 

 

「…澤、何描いてんの?」

 

「このM3はウサギ小屋から発掘したので、ウサギさんです!」

 

そんなこんなでM3のボディカラーをショッキングピンクから焦げ茶とはまた違う暗めの茶色に塗り直し、ふと上を見上げると澤が装甲に何やらキャラクターのようなものを描き込んでいるのが目に入った為に彼女に聞いてみるとそう返答があった

 

「…なんかこのうさぎ殺意が高くない?」

 

「だ、ダメですかね?」

 

「いや…まぁ良いんじゃないか?他の皆も良いって言ってるなら───」

 

一度振り返った澤のお陰でキャラクターの全体像が見えたんだが物凄く目付きの悪いピンクのうさぎが両手に鋭利な刃物を持っているとんでもねぇバイオレンスな見た目のキャラが描かれており

思わず本心からそう言うと不安そうな声色でそう言われた為、別に他の皆が良いなら良いとフォローを入れておく

 

「…気づいたら他の車両も動物オンリーになってるし」

 

ふと周囲を見渡すとM3以外の車両もそれぞれ八九式がアヒル、Ⅲ突がカバ、38tがカメと様々な動物が描かれていた

…38tって軽戦車なだけあって足は速いんだけどなんでカメなんだろ?

いや、戦車でカメ呼ばわりがないわけじゃないけどな?

例えば重戦車なら攻撃力と防御こそ一丁前だがとにかく足が遅いため重戦車乗りは別名【ドン亀乗り】って言われることもある

 

(んでAチームは…何だアレ)

 

西住達AチームのⅣ号に描かれているのは秋山デザインのアンコウのような何かで、何故か周りが動物のなか隊長車輌のみ魚である

…一瞬わけも分からず宇宙猫顔で考えてみたが大洗の名産の一つにアンコウがあったことを思い出して一人で納得した

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車の塗装をした翌日、遂にPJの採寸の時がやって来た

採寸ともなれば戦車道に復帰した実感がより強く湧いて、私は小さな不安を覚える

──でもそれと同時に、ここの皆となら…そう思ったのもまた事実だ

 

「バスト82───」

 

ふと意識を思考の海から現実へ引き戻すと、目の前では風紀委員の園さんが私のスリーサイズを測っていた

今回採寸するに当たっては体育館にて戦車道履修生全員が早めではあるものの、かなり体力を使う武芸な為に同時に健康診断も行うこととなっている

 

「──クソッタレがぁああああッ!!」

 

身長体重測定は先んじて済ませているので採寸が終われば次は血圧か等と考えていると後ろの方からそんな怒号が聞こえてくる

慌てて振り返ると何やら激怒した様子の杉野さんが結果の書かれている紙をペシーンッと地面に叩きつけており、彼女の後ろには身長計があった為何となく荒れてる原因に察しがついた

 

「…ちょっと止めてくるわね」

 

「あ、はい」

 

この人数を見るために園さんを含めた風紀委員の方々がかなりの数応援に駆けつけてくれたものの、突如キレ芸をかました杉野さんにどうして良いか分からず狼狽えているようだった

自分が出ないことには騒動は収まらないと判断したのか溜息を一つ吐いてから園さんは杉野さんのところへ向かった

…よく見ると近くで待機してる同じチームの1年生の子達も少し表情が強張っている

 

「──ちょっと杉野さん、急に大声を張り上げたら周りの子たちがビックリするじゃない」

 

そして園さんは一体何が原因で騒いだのかと杉野さんに問い詰めると、当の本人は身長計を指さしてこう続けた

 

「おい園ちゃん!どうなってんだこの身長計壊れてやがるぞ!!」

 

「手動測定の身長計が壊れるわけないでしょう!?」

 

あまりにもありえない物言いの杉野さんに流石の園さんも突っ込まざるを得ないようで、二人してぎゃあぎゃあとああでもないこうでもないと軽い口論へと突入

 

(…杉野さん、そんなに不満が出るような結果だったんだ)

 

私はその様子を頬が盛大に引き攣ったのを自覚しながら、ふと気になって元の列から外れて二人に近寄ると

先程杉野さんが地面に叩きつけた測定用紙を拾い上げた

そこには…

 

(身長…133cm!?体重31kg!!?)

 

思わず目を疑うような彼女の測定結果が記されていた、…いや、凄い小柄な人なのはわかっていたけれど実際に数値で見ると愕然としてしまう

…そしてさらに驚くべきことにこの測定結果、去年から数値が一つも変わっていないのであった

 

「…いいか?俺もうら若き乙女だから、体重が変わってないのは別にいいし逆にありがたいくらいだ」

 

ある程度言い合って流石に疲れたのか、気づけは杉野さんは息を切らしながら続けた

 

「だが、去年と比べて身長が1cmも伸びてねぇってのはどういう事だああ~~~ッ!?

ナメやがってこの身長計ッ超イラつくぜェ~~~ッ!!」

 

「いや知らないわよ!?別に機械が悪い訳じゃないじゃない!!」

 

理不尽にキレ続ける杉野さんに再度園さんの怒号が飛ぶ

キレてる理由が理由なだけに当初はオロオロしていた周りも今や苦笑いで二人を遠巻きに見守っていた

 

「ふん!どうせ俺より背が高い園ちゃんには俺の屈辱なんてわからねぇよ」

 

「いや、確かに貴女よりは背は高いけど…」

 

杉野さんは拗ねたように頬を膨らませるが、言われた園さんはなんとも言えない苦い表情を浮かべていた

というのも園さんは園さんで目測140〜150の間くらいの背丈で確かに杉野さんより10cm以上は背が高い

が、しかし彼女もまた年齢的にはかなり小柄な部類に含まれるからだろう

ちなみに杉野さんと私の身長差は丁度25cmある、普段の口調や雰囲気で体格差なんて忘れそうになってしまうけど

非情な現実に嘆く杉野さんからは切実さがひしひしと感じ取れる

…多分大洗の学園で一番背の低いもんね、杉野さん

杉野さんより低い人見たこと無いし

 

「いいよもう、来年にはプラス50cmくらい伸びてここにいる皆追い抜く予定だから」

 

「…それはちょっと無理があるでしょ」

 

何やらとんでもなく現実味の無いことを言い出した、来年までに180cm超えか…

ふとそんな彼女の姿を予測してみる、今でもカッコいい杉野さんだ

きっとそこに背丈もついてくればさらにカッコいいのだろうけど…

 

「…あれ?どうした??」

 

気づいたら私は杉野さんのすぐ後ろまで歩みを進めていて、それを感じ取った彼女が園さんとの口論を辞めてこちらへと振り向く

確かに背の高くなった彼女はきっと魅力的なのだろうけれど

…私は今のカッコいい一面も可愛らしい一面もある彼女の方のが良いと思った

 

「…杉野さんはそのままでいてね?」

 

「なんでさッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな騒動もあったものの採寸も無事に済み、その翌日以降も来る大会の日に向けて猛烈な訓練を私達は積んだ

その中で先日から放課後に自主練をすることになり、それは杉野さんが今までのおさらいという形で基礎を徹底的に叩き込むと実技や知識の面で教鞭を振るっているわけだけれど

そこで驚かされたのが一つ…

 

「──以上のように、速力の乗った状態で急激な旋回をする際は背の低い戦車でもない限り車輌の重量の中心点

つまり重心がどのように動くかと言うことを念頭に入れて、荷重移動をしっかりこなす事…ひっくり返りたくなければな?」

 

「──とりあえず全チームの共通の課題としては自車の動きを完全に把握出来るようになることかな

どう操作すればどう動くか、路面の状況、また極限下での戦闘起動

車輌に掛かる負荷は一定じゃない、時々刻々と状況と言うのは変わるわけだから

その時にこうしたら車輌の挙動がどう変化するかとか、その癖は繰り返しの練習で完璧に頭に入れといて欲しいかな」

 

普段の行いからすっかり抜け落ちそうになってはいたが、そもそも彼女は約3000人もいる第二学年でその次席の成績に君臨している以上相当に頭が切れる

とは言え戦い方を鑑みて恐らく訓練やこういった操縦技術の口頭説明などはきっと擬音混じりで感覚派の直感型パワーファイターだと心のどこかで思っていた

…実際に彼女の教官としての側面を見るまでは───

 

「──隊列を組んだ状態でかち合ったと想定した場合、フラッグや隊長格の車輌は大体先頭に配置されていることが多い

まぁ最もな理由としては攻撃を受けた際に守りやすいからなんだけど、ウチの車輌を考えるとここで撃破はまず出来ないものと考えろ

じゃあこの場合はどうするかっていうと編隊の一番端を狙うこと」

 

「──基本的に乱戦になっても一対一の格闘戦は避けること、じゃあ何をするのが正解かって話になるんだが

一撃を入れたらとにかく相手の射程外に出る*3とか1輌が隊列に突っ込んでそれに釣られた敵が追いかけ回してる隙にもう1輌が背後に回って仕留める*4等やり方はある…これも時間があれば実際にどうやるのか実技で教えてやれるんだが、一回戦までには厳しいかな」

 

「──一番撃破し易い敵?そりゃ被弾して編隊からはぐれた車輌、もしくは戦闘域から編隊へ集結途中の車輌だな

基本的に本隊へ合流する間際が一番気が抜けやすい、だから単独で動いている車輌はこっそりと付け狙って合流間際に距離を詰めて砲撃を浴びせる*5

まぁまず碌な反撃もできずに撃破できるよ」

 

ホワイトボードに口頭で説明した状況やそれに対する動き方、また時折飛び交う質問へ懇切丁寧な説明を混ぜながらホワイトボードに例図を書き込み、別途で用意して皆に配った資料と合わせ教鞭を振るう杉野さんの様は豊富な経験に裏打ちされた独自の戦術理論を確立している計算高い頭脳派のそれであり

…また説明の端々から戦闘面での彼女の容赦の無さが伺い知れた

 

「ナオ、まるで別人みたい」

 

普段の様子とのあまりのギャップに武部さんがポツリと呟いて、それに同意するかのように周囲に集まった皆も小さく頷く

唯一、元から彼女から指導されていたDチームの皆は真剣な表情で聞き入っている

 

「…お前らあんまり失礼なこと言うと流石の俺でもしまいには泣くから気をつけろよ??」

 

ヒクヒクと頬を引きつらせてなんとも言えない表情で杉野さんは言った、彼女の見た目で泣かれてしまうと罪悪感が凄そうだ

そんな冗談も交えつつ、日が完全に落ちてもうそろそろ解散の雰囲気になった頃Bチーム──改めアヒルさんチームのリーダーである磯辺さんがハイと手を上げた

 

「私達の八九式って他の車輌と比べると出来る事が限られてるのではないかと思うのですが、何が可能なのか明確にしておきたいんですけど」

 

「あぁそうだな…」

 

八九式中戦車は設計が古く、装甲も火力も心許ない所があり

磯辺さんの言う通り出来る事が限られてくる

さてどうしたものかと少し考えるようにしたあと杉野さんが口を開く

 

「確かに八九式は出来ることの幅は少ない、というのも基本的に日本軍戦車全体に言えるんだが対戦車戦を考慮してないからな」

 

そう言って杉野さんはホワイトボードに主力戦車・偵察戦車・支援戦車と大まかに3つに分けて書き込んだ

 

「まぁ色々と細かい話や正確には違かったりとかも車輌によってはあるがそれは後々に説明するとして、まずはこの3つ

対戦車戦に重点を置いた主力戦車、足の速さで大抵の軽戦車が当てはまる偵察戦車、歩兵支援又は対歩兵に重点を置く支援戦車

これでいくと八九式は支援戦車になるわけだ」

 

詳しい話は専門家(秋山さん)がいる手前割愛するけどと笑いながらわかりやすさだけに全振りして杉野さんは大雑把に解説をしていく

 

「他国の戦車にはチャーチルだとか、それこそⅣ号も投入された当初は歩兵支援がメインだったりと支援戦車にも強い戦車はある…それらに比べると八九式はどうも幾分戦力が劣るように見えるが

実は古い戦車ってだけで八九式って出た当初はかなり強い部類の戦車でもあったんだよな」

 

とはいえ戦車道の公式戦ルールは第二次世界大戦集結までに設計や実戦投入された車輌が使用可能な為、それを考えるとやはりどう見ても八九式に正面を切っての砲撃戦が厳しいのは事実だった

 

「けど、実は八九式が中戦車として他国の戦車に比べて勝っている部分がある──軽さだ」

 

「軽さ…?」

 

あまり意味がわかっていない様子で聞き返す磯辺さんに杉野さんはゆっくりと首を縦に振った

確かに八九式は開発段階では軽戦車だった事もあり全重量は12.7tと中戦車の中でもかなりの軽量さではある

その一方で軽い分防御がペラペラというデメリットも存在するんだけれど…

 

「設計が古く軽量に作られた八九式は当然その当時はそれで充分だったから装甲は薄い、なんてったって大戦後期の軽戦車──例としてチャーフィーなんかより5t以上軽い

んで、中・重戦車には火力不足で主砲は効かなかったとしてもほぼ0距離なら大抵の軽戦車は貫通できる」

 

杉野さんはホワイトボードに他国の戦車との重量比や主砲である九〇式五糎七戦車砲の性能諸元を書き込み、その下に「貫通能力、50m以下で30.4㎜」と書いて○で囲った

 

「まぁ最高速のテストはまだしてないけど、こないだエンジン積み替えて理論上最高速が2倍程度にはなってる筈だから

軽さと俊敏さを活かして中・重戦車には偵察や陽動、囮みたいな嫌がらせメインの戦いになるかな

軽戦車を運用してる学校があれば真っ向からの撃ち合いも出来るんだろうけど」

 

現状出来る事を上げていくが、性能的には軽戦車以上中戦車未満といった感じ

…車輌を運用してるのは磯辺さんたちだけど、上手くやれるように指示を出すのは隊長の私だからうまくできるといいんだけど

 

「あとはまぁ、敵陣のど真ん中に突っ込んで錯乱させるのも面白いかもな」

 

「なるほど、つまり根性ですね!」

 

…なんだろう、二人の会話の方向性が不穏な方向に逸れていく気がする

あぁやめて、駄目だよ杉野さん…面倒だからって解説を放棄して「そういうこった!」なんて言わないで…

 

 

 

 

 

 

一回戦まで残り数日となり、最終調整としてさらに多忙さに磨きがかかっている…とはいえ学生の本分は勉強な為

日中と放課後の訓練、それが終わってからの整備…そして家に帰ってからサンダースの過去の戦績をパソコンで見て分析し

それが済んだら勉学の方にも手を伸ばす

お陰でここ最近はすべてが終わって布団に入る頃には時計の針が午前3時を超えることもしばしばあり慢性的な睡眠不足だ

 

(ま、ひとまず一回戦…勝とうが負けようが一回戦が終われば一段落つくだろ)

 

夜ふかしもかれこれ2年ぶりともなれば耐性が落ちたのか少しばかり身体に堪える、夜遊びで徹夜からの試合本番が出来たちょっと前が遠く昔のことに感じる

置かれる環境に慣れてしまえばこうも身体の勝手が変わってくるかとゲンナリとしてしまいそうだった

 

「…あら?ナオちゃん、だいぶお疲れみたいね」

 

「…あぁ、今日は蝶野さんの来てくれる日でしたっけ

いやぁ短期間で詰め込みながらバタバタしてれば疲労も溜まりますよ」

 

大きなあくびを一つしながら格納庫まで向かおうとした所で後ろから大変聞き覚えのある声が聞こえた

振り返ればそこに居たのは蝶野さんこと蝶野一尉の姿である、一瞬あれ?とも思ったがそう言えば生徒会が大会が近いこともありそろそろもう一度呼んで全体指導をしてもらうと言っていたのを思い出して一人納得する

 

「目元、化粧で隈を隠してるわね…少し煮詰めすぎなんじゃないかしら?」

 

「…ありゃりゃ〜、なんでわかっちゃうんすかねぇ」

 

ここ最近になって目元に隈が出来き、心配性の皆にバレないように自然な色合いのファンデとコンシーラで完璧に隠していた筈なのだが蝶野さんには一発でバレてしまった

 

「だって私も結構やるもの、ほら見栄えって大事だし」

 

「…その、お疲れ様です」

 

流石に現役自衛官なだけあり激務であろう蝶野さんからそんな言葉が返ってきた、そういえばこの人戦車教導隊所属だから色んなとこ飛び回ってんのか…ほぇー大変だな自衛官

 

「大人になるとね、昔に比べてそういうのできやすいから誤魔化し方もわかるようになっちゃうのよ」

 

「…いやな特技っすねぇ」

 

「あまり現役自衛官を無礼(ナメ)ないことね!」

 

「うわスゲー、何もカッコよくねー」

 

二人で一緒に歩きながら格納庫へ向かう、そういえば何だかんだ一対一で蝶野さんといるのも随分と久しぶりだな等と考えながら先を歩いていると

ふと蝶野さんからジッと見られている気がして後ろを振り返る

 

「…どうかしたんすか?」

 

「何だかとても感慨深くてね」

 

しみじみとそんな事を言う蝶野さんに思わず「なんすかそれ」と冗談めかして言って、けれどあいも変わらず真剣な眼差しをこちらへ向けてくる蝶野さんに思わず息を呑んだ

 

「…ねぇナオちゃん、貴女が卒業したらこっちの道に来ない?

──元は貴女も自衛官志望だったでしょ?」

 

「…あー──」

 

あまりにも唐突で、久しぶりに聞いた言葉にすぐには回答出来ず気を紛らわせる為に頭を少し乱雑にガシガシと搔く

確かに前は自衛隊で戦車に乗るつもりで、その為に専門コースのある高校へ進学しようと思ったこともあったし

それこそタンカスロンに出てた時は何度か出た話題でもあった

…けど、今は違う

 

「…せっかくですけど、お断りします

今の俺は西住の下以外つく気無いんで、そんな人間自衛官には向かないでしょ」

 

「そっか、残念ね」

 

肩を竦めながら蝶野さんは仕方ないかと言ってそれにしても随分と彼女…西住を買っていると少しだけからかい混じりに聞かれ

ちょっと間を開けてから俺は口を開いた

 

「…あいつ、自分には戦車道の才能がないって思い込んでるんすよ」

 

どの口が言ってるんだが、笑っちゃいますよねと言った瞬間、蝶野さんは盛大に吹き出した

…あぁ、やっぱり蝶野さん西住の本質に気づいてるなコレ

 

「西住のどんな状況でも仲間を救おうとする優しさ、これでいいのかって自問するように前へ進んでいくひたむきさ

例え異質だとしても奇策を打ち出す大胆さ──それらを含めたあいつの戦車道が、俺はスゲェ好きなんすよ」

 

まぁお陰で戦車道を取り巻く流派の方は大ッ嫌いになりましたが、と続けると蝶野さんはなんとも言えない表情をしていたがそれに関しては訂正する気は一切無い

実際去年の全国大会の決勝で西住は全部が全部正しいとは言えないまでも結果的には人の命を救ったにも関わらず

足を引っ張ったのは彼女の後ろに立てかけられた西住流の看板であった

 

「西住は誰も取りこぼさなかった、正直な話…心の底から妬けますね」

 

そして同時に、彼女に下った評価は業腹以外の何物でもなかった

だって彼女は誰かを守る戦車道を貫く事ができて、最強撃破王だと持て囃されていい気になってた俺は結局誰も守ることは叶わず逃げるように引退をした

それなのに俺と彼女の評価は真逆、これが腹ただしい以外のなんと言えようか

 

 

 

 

 

 

 

その日の訓練も終わり、夕刻になった頃

先日採寸をした大洗戦車道チームのPJが届いた

 

「うわ〜ッかわいい!」

 

「あや、写真撮って!」

 

紺を基調にした白スカートの色合いで背中には各チームのパーソナルマークがロゴとして刺繍されている

コレには1年生たちもニッコリである

 

「杉野先輩は…何も入れなかったんですか?」

 

「おう、いつ移動になるかわからねぇし

その都度作り直してたら大変だからな」

 

ちなみに俺のPJの背面部は何も刺繍が入っていない無地のまま、というのも1年生たちもだいぶ技量が身についてきた為

もう俺がいなくてもある程度はこなせると判断したから、いつになるかはわからないが次にまだ見つかっていない分の戦車が発掘されればそっちに移るつもりである

…短い期間だったとは言え、この賑やかな妹分達を自分の持てる全力で指導してきたつもりだ

少しばかり寂しさも感じる

 

「…そう、ですね」

 

そんな事をすっかり忘れていたのか、俺の間違いでなければ寂しそうにしてくれる澤のその顔に

先輩として後輩にこんな顔をさせるようではいけないと気を持ち直すことが出来た

 

「なに、たとえその時が来ても同じチームなのは変わらんよ

何か困った事があったらいつでも聞きに来い」

 

「…はいッ」

 

先程とは打って変わって嬉しそうに微笑む澤に心が和む

やはりかわいい後輩達にはいつまでも笑顔でいて貰いたいものである

 

 

 

 

 

 

それからさらに日数が過ぎ、遂に第63回戦車道全国大会

その一回戦の試合当日となった

公式戦もかれこれ5〜6年ぶりであり、やはり非公式なタンカスロンとは違って公式戦は運営の資金が潤沢なのか出店などが所狭しと立ち並んでいた

 

「チョク、言われてたやつ持ってきたぞ」

 

「あ、すんません…今降ろします」

 

そしてそれはサンダース高も同じようで大洗に割り振られた観客席とは違いほぼ満席な程に応援が来ていることに加えてチアガールまで来ている

金のある学校はこうも違うかと思わず苦笑いしながら、俺は大会に向けて購入していた全チーム分の折りたたみ椅子と机、そしてタープテントを近藤さんと二人がかりで搬入し各車両の後ろでそれぞれを組み立てていた

 

「こんなの用意してたんだ…」

 

「ま、流石に常連連中みたいに立派なものは無理だったけど

こうして人数分揃ってれば結構見栄えも悪くねぇだろ?」

 

次々に組み立てをしていく中で呆れたような表情の武部がそんな風に聞いてくる

まぁ大洗に金があればお隣さんのサンダースみたいに色んな機能のついた運搬車輌とかも用意できるんだろうが…

話をつけた段階では乗り気だった角谷も全チーム分となると総額が結構痛手だったようで領収書を渡した際に乾いた笑みを浮かべていたのを覚えている

 

「よし、そしたらあとはコレだな」

 

「看板まであるの?しかも全チーム分…」

 

すべて組み立て終えたらこないだ陸の方の大洗の看板メーカーで作ってもらった全チームの名前入り木彫り看板をそれぞれ立てかけていく

看板には各々「一号車 鮟鱇チーム 屯所」〜「五号車 亀チーム 屯所」と書かれており

流石にここまでやれば無骨ではあるもののそこそこ見れる仕上がりとなっていた

 

「うわ、なんか凄いことになってますね」

 

近藤さんが乗り付けた戦車(トヨタ・ハイエース)からバッテリー電源を失敬してケトルにてお湯を沸かし

持参したティーセット(聖グロからの戴き物)に紅茶を淹れているとある程度準備が済んだであろう澤がこちらに気づき、それを境に他の子達もゾロゾロと集まってきた為それぞれに淹れたての紅茶を振舞ってやった

 

「あ、美味しい」

 

「試合前なのにこんなことしてて良いんでしょうか?」

 

「聖グロはいつもやってるんだろうし多分大丈夫だろ」

 

淹れた紅茶は形から入りたいがためだけに茶卸総本舗のネット販売にて高い順に検索して一番上にでてきた奴を購入したものであり

皆口々に美味しいと言ってくれる、流石にこんな物を何度も用意してたら破産してしまうのでもう二度と買わないから味わって飲んでね…

 

「ありゃ?皆砲弾って積んだ??」

 

「積み…ましたっけ??」

 

さてこちらも一段落しようかと思った時、M3のすぐ近くに砲弾を入れておく用の木箱らしき物がいくつか積まれて放置されていることに気づく

流石に嫌な予感がしたために皆に聞いてみると山郷からなんとも不安になる答えが返ってきた

 

「…多分積んでないだろ、お前らそこで茶ァシバいてろ

俺やっとくから」

 

「あ、すいません」

 

何にせよ試合が始まってから気づいたわけでは無いので危なかったと思いつつ木箱に近づいていき、一番上に詰まっていた物の中身を一応確認の為に開けておく

中には副砲の37㎜の砲弾が入っていた

 

「…何やってるんですか先輩?」

 

「んー?」

 

少し出来心で37㎜砲弾を3本ずつ指の間に装着し、テントの中で紅茶を飲んでいる1年たちに視線を向けると阪口がこちらに気づいて小首を傾げ

それに合わせて皆の視線もこちらへ向いたため俺はそのまま腕を胸元まで引き絞ってポーズを取った

 

「…ウル◯ァリン」

 

「「「ブッ!?」」」

 

そして皆に聞こえる程度にボソリと呟くと阪口、大野、山郷が一斉に紅茶を吹き出し、澤と宇津木も吹き出しはしないまでも肩を小刻みに震わせながら視線を下に落としていた

唯一全くのノーリアクションなのは丸山くらいか──いや、違うな

丸山も僅かにではあるが口角が上がってる、慣れてくるとこの子結構感情豊かよね

 

「もー!笑わせないでくださいよ〜」

 

「絶対に笑ってはいけない戦車道24時」

 

「そんな訳のわからないこと始まったら帰りますよ!?」

 

紅茶を吹いてしまった3人から批難の声が上がるがそのままボケ倒してると澤からお怒り半分困惑半分の声が上がった為にこの辺で止めておくことにする

さて砲弾の搬入しよっと

 

 

 

 

 

 

 

砲弾も搬入し終えた頃、河嶋から準備が出来たか確認する点呼が呼びかけられた為

砲塔の装甲へ腰を掛けた状態であたりを見渡した時、それを見つけた

 

(げぇッナオミにアリサ!?

あの二人がなんでこんな所に…!!?)

 

何故か大洗の陣地内の筈がサンダースの副隊長組が来ていた

マズい、特に一番因縁のあるアリサなんかに見つかった日には絶対に面倒なことになる

何てったってこないだの潜入で2年経ってもこちらのことを忘れていなかったのだから

 

「澤、俺ちょっとぽんぽんぺいんでマジつらたんだからちょっと花摘んでくるわ」

 

「え?ぽん…?えぇ??」

 

こちらに気づかれないよう素早く、それでいて音を立てずに装甲から地面へ降りると澤へそれだけ言い残して駆け足でその場を後にする

澤にはこの人何言ってるんだろうと言うような顔をされてしまったが仕方がない

 

…あ、ちなみに二人が帰ったかどうかが分からず結局試合の始まるギリギリに帰る事になってしまって河嶋に物凄い勢いで怒られるわ西住達の方から刺すような厳しい視線が飛んでくるわで散々なことになった

まぁほぼ私情だから必要経費と割り切ろう

 

 

 

 

 

*1
日中とは逆に俺が全体指導で西住が補佐で基礎のおさらい、一応は自由参加なのだがよっぽどな事がない限り全員参加してくれている

*2
普段から多忙すぎるためすぐ帰されてしまうが…

*3
一撃離脱戦法

文字通り標的を見つけたら急接近で一気に襲いかかって砲撃を一方的に浴びせ、反撃を受ける前にさっさと逃げていく方法

*4
サッチウィーブ

2輌1組で行う戦闘起動、実際には囮の車輌と仕留める車輌がそれぞれ逆方向にクロスするようにS字旋回を繰り返す

動きが糸を織る様に似ていることから「ウィーブ」と呼ばれる

*5
送り狼戦法

作戦行動を終了し本隊へ帰投する敵車輌をつけねらい襲い掛かって撃破するもの

敵車輌をより多く撃破する上では非常に効果的と言えるが、しかし敵が作戦行動を終えた後と言うことは自陣に何らかの被害が出た後な為、つまり「送り狼」は自陣の被害をとめる編隊としての任務を放棄している

また帰投する敵は一通りの任務を終えた者にせよ、被弾し戦線離脱した者にせよ、本隊へ帰投中は戦闘域から離れる安堵感と車輌のダメージコントロールに意識が向くことから周囲への警戒が緩くなっており、こんな状態の敵を襲うのは卑怯だとする人もいる






そういえば気づいたら当作品、30万文字越えてました
…それでこの進み具合、いったい完結までには何十万文字必要になるやら
100万文字くらい必要なのかな…
あとこの作品書くにあたり大体こんな感じで進めて行こうと超絶大雑把なプロットしか作ってないのでちょっと前とか最初の方の話とかで矛盾点が出ていないかとか確認するのもこの文字数になると結構大変になってきました

中々書くスペースが無いので未だに書けてないですけど、河嶋先輩視点で杉野の過去に迫るお話だとか
おまけでサンダースの格納庫から警備隊事務所まで逃げる時の杉野と秋山殿の奮闘とかも書きたいんですよねぇ
…どこで書くかが思いつかないっすけどね

はい、話を変えまして
前からお気に入り登録、感想、評価お願いしますと後書きに載せてますが、やっぱり書いとけば優しい方がしてくれるものですね
もうこの後書き見飽きてるかも知れませんけど、モチベや心の支えとなりますので改めましてよろしくお願いします
今のところ書かれた感想とか1日一回は見に行ってますからね
そろそろ暗記できるかも知れませんよ(笑)

そんでもって誤字脱字多いかも知れませんが、発見次第直して行こうと思います

以上です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。