ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
なんかすっごく遅れた気がする割にいつもより短め…
あと今年中にvs黒森峰編くらいは終わらせたいって言ってましたがコレもう無理ですな
来年中完結を目標にテレビ放送版→剣部隊編→劇場版→なにか挟む→最終章の順で考えてます
…終わるかな?終わるよな??
『それでは、サンダース付属高校と大洗女子学園の試合を開始する───』
遂に試合開始まで秒読みという状態まで来た
この直前の思わず唾を飲み込むような緊張を孕んだ空気感は何年経っても慣れやしないが嫌いではない
(…そういやなんで今回西住は控えてんだ??)
砲塔に腰を降ろしながら会場の超大型モニターの方へ目を向けると両校の代表が挨拶を交えて握手をしている
片方はサンダース大附属高のケイ──いや年上だからケイさんか*1
そしてもう片方は我らが大洗女子学園の誇るちみっ子生徒会長、角谷杏である
…ちなみにちみっ子とは言いつつ背丈は余裕で負けている、ふざけやがってチクショウめ
(──お、あれは───)
ふと観客席の方から視線を感じ、目を向けるとまばらに応援に来ている生徒の中に五十鈴の母ちゃんと新三郎さんが日傘を刺して観戦に来ていることに気づく
…一応こないだ連絡は入れた物の最終調整の時までには姿が見えてなかったので間に合ったようで安心した
(と、もう始まるな…退避退避)
肩に掛けていた紫のマフラーを首元に巻き直してキューポラから車内へするりと潜り込み通信席へ
ヘッドホンを着けてから片側は耳から外し、もう片側を片手で抑えて試合が始まるのを今か今かと待つ
…先程笑わせたこともあり1年の皆は特に緊張している様子は無いが普段とは違い真剣な眼差しをしている
『──説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです
サンダース付属の戦車は攻守共に私達より上ですが、落ち着いて戦いましょう』
(…ま、そうなぁ…現状M4を貫通できるのって言ったら4号とⅢ突
当たりどころが良ければM3でも抜けるだろうがあまり現実的ではないな)
公式戦は基本的にフラッグ戦な為まだ救いはある、参加車両が少なかったとしても敵のフラッグ車さえ討ち取ってしまえば勝ちなのだから
…しかし大洗の火力を鑑みると少し心もとない、変わりに全車両M4より最高速が10〜20km/h程勝っているので速力の面ではこちらが圧勝
基本的には同クラスの火力と防御で速度差が10km/h違えばそれだけで相当優位に立てる
それこそ練度が均衡してるなら良い勝負になる筈なんだけどなぁ…
『機動性を生かして敵を撹乱し、Ⅲ突の前に引きずり込んで下さい───』
『『『おー!』』』
「うわっ!?」
西住が作戦の復唱を終えたと同時にヘッドホン越しに皆が気合を入れ直すために呼応するのが聞こえた
…調整ミスって爆音でヘッドホンに音声が流れ込み思わず顔を顰めてしまい反応ができなかったがまぁしょうがないだろ、もっと出力を下げておこう
「…杉野先輩、前に講習でサンダース大付属の戦い方について語ってましたけど
サンダースのシャーマンって戦車はそんなに凄いんですか?」
「んー…」
放課後自主練にてサンダースの得意な戦い方や強み等について触れた事がある、まぁもっぱら練習時間が勿体ないのであまり深くは話していなかったが
西住の攻守共に向こうの戦車のが上という言葉に澤が不安そうに聞いてくる…さてなんて説明したものか───
「強いと言うか、全体的なバランスが取れてるすごく優秀な戦車って言ったほうが良いかな?
頑丈で壊れにくくて火力もあって防御も硬い」
何てったって生産数5万輌超えの戦車である、それだけ数が作られると言うことは相応に優秀な戦車なのだ
速力もそこそこにあり攻めて良し、守って良しの汎用性
そして何より壊れにくいと言う信頼性は大きな強みとなる
…しかしそこがM4シャーマンの長所であり、同時に短所でもあるのだった
「火力・防御・速力…どれを取っても優秀止まりで飛び抜けて凄いものは無い
──まぁ足りないところは派生型で補ってはいるものの、M4シャーマンと言う戦車自体はそこまで恐れるものでもない」
硬さに重視を置くことの多いイギリス戦車(ただしクソほど遅い)や火力重視のソ連戦車(ただし防御弱め)、いい感じに両方を兼ね備えたドイツ戦車(ただし目茶苦茶壊れやすい)とかに比べると特出したものはないよね
何なら短砲身のⅣ号でも抜けるし、ってかぶっちゃけサンダース大付属と戦ってた時も稀に飛んでくるナオミの砲撃こそ警戒してたものの…
個人的にはサンダースの一軍より二軍、三軍のタンカスロンチームの方がおっかなかった
というのも公式戦ルールをバカ真面目に捉えて一切の改造を施していないまんま吊るし状態のM4シャーマンの一軍と技術や火力・防御面で劣るとは言え数多の改造を施された軽戦車軍団の果たしてどっちが怖い?って話
俺は完璧に後者である
「簡単に纏めると、楽に勝てる相手ではないけど
冷静に戦えば簡単に負ける相手でもない」
「な、なるほど?」
あ、勝てるとは言わないよ?勿論
ただ結局M4シャーマンの良さを活かしたいならそれこそサンダースみたいな頭のおかしい懐事情でもない限りは発揮が難しいためシャーマン
…ゼロ距離で砲撃すればチハで抜けた*2からペロりと喰えるM4シャーマンで略して《ペロヨン》なんて呼び方をしてた世代の人間なので優秀ではあってもそこまで強力な戦車でないことはわかってる、ほんとサンダースがおかしいだけよ
『試合開始ッ』
遂に会場に試合開始のアナウンスとともに音花火が鳴り響き八九式から順々に各車両発進をしていく、さてこっからは裏方仕事に戻りますかねぇ
『ウサギさんチーム、右方向の捜索をお願いします
アヒルさんチームは左方向を──』
「了解しました」
隊長の西住からの指示を受けて隣の澤が通信を切る
現在場所は打って変わって森の中、というのもナオミの乗ったファイアフライがいる以上平地では些か無謀であるためだ
ちょっと前なら森の中でも素敵カラーリングのせいで一発でバレただろうが今回はちゃんとした迷彩色
そうそうバレることもあるまいが───
…しかしあの勝ちに貪欲なアリサがいる以上は何をしてくるかわからないという所もある為、気は引き締めなければいけない
『Panzer Vorッ!!』
何故か拭いきれない一抹の不安を感じながらも、我らが隊長の力強い言葉で再度各車両は指示通りに発進
この不安が当たっているか、考えすぎか──わかるのはすぐ後のことだ
「むしむしするぅ〜…」
「あつぃ〜…」
単独行動になって僅かに数分、車内からは早くもグロッキーに片足を突っ込んだ弱々しい声が響く
「──静かに」
その中で静かにそう言い放ち、双眼鏡を片手に索敵を開始するのは車長の澤
…ほんと、よくここまで成長したものだ
時折気弱な一面が顔を除くのは生来として仕方ないとして、それでも初の公式戦をここまで冷静に動けるのは素直に称賛に値する
(…お、こっちに3輌来てるな)
こちらもこちらで何やら得も言われぬ気配を感じた為に横のハッチを開けて目を凝らすと遠くに揺れ動く影を発見し、徐々にそれが3輌のM4シャーマンの小隊であることに気づく
うーん…勘はあまり衰えてないから安心な反面、元々戦車乗りとしてはそこまで視力が良くない*3ため索敵はほぼ勘頼りになってしまう
本当はこう言うのもあんまり良くはないんだろうけどな、まぁ外れたことはほぼ無いけど
「……」
「…!」
ふと上を見上げるとキューポラから双眼鏡を片手にした澤と目が合い、彼女も向こうの存在に気づいたのかゆっくりと頷いた
さぁ、距離的にはいつ砲撃戦が始まるかわからないため車内に退避してハッチを閉めようか
「──こちらシャーマン3輌発見」
「ん?」
即座に無線で共有をするが澤の言葉に一つ違和感を覚える
…あれ?どこで発見したか地点をいうの忘れてない?
「澤、地点を伝え忘れてるぞ」
「あ、あれ?すいません、すぐ訂正を入れます!」
そうして澤は地図を仕舞っているであろう車長席の後ろに手を伸ばし──
その手は何故か盛大にスカった
「え?あれ??」
「──澤?君、もしかして───」
不意にものすごーく嫌な予感がして頬に汗が伝い落ちていくのを感じた、まさかと思うけど澤───
「…地図、どこやっちゃったの?」
「──ど、どどどどどうしましょう!!?」
澤、地図紛失───
なんてふざけてる場合じゃないね、洒落にならんもんコレ
「最終調整の後に集まった時は持ってなかった!?」
「持って、ました」
確か紅茶を振る舞った後、積み忘れた砲弾を車内に運びがてらテントの方を見たら地図を広げて色々と話し合ってた筈だ
だからその時まではあったわけなんだけど
──もしかしなくてもコレ、テントに置き去りにしてない?
「テントか、もしかして…」
「すいません…」
今にも泣き出しそうな顔で頭を下げる澤に流石に注意する気になれず頭を抱えるだけになってしまう
あ〜…俺もそのあと移動ギリギリまで行方くらませてたし強く言えないよなぁ、最後の最後に確認してなかったわけだし
それにさっきの地点までの移動は他の車両の後着いて行けば良いだけだから、気付けねぇか〜…
「…もう試合始まっちゃってるからどうしようもねぇしこのまま行くしかねぇだろ」
「ほんとすいません…」
「人である以上どうしても失敗はする、もう繰り返さないようにすればいいよ
…ごめん、次やったらちょっと怒るかも」
あんまり怒りたく無いのだがこれはやりようがない、流石の俺も地点名は全部暗記してるわけでも無いし本当にお手上げ状態だ
…よくよく考えると結構
──ほんとこれどうしようね??
「ひとまず、包み隠さず西住には報告するしか無いだろ
隠した所で絶対途中でボロが出るから」
「そ、そうですよね」
まだ試合も始まったばかりだと言うのにしわしわのピカ◯ュウみたいな表情で無線に電源を入れる澤に見ていてとても心が痛むがやってしまった事はしょうがない
地図がない状態でも精一杯足掻いてこの失敗をもみ消すしか無いだろう
『──わかりました』
さて、索敵から通信席に戻った段階でヘッドホンを片耳につけていたわけだが
結構長めの沈黙の後西住から無線が返ってくる、…この声色は多分相当に表情が引きつってるな
それでも初心者だからそこまで強めに怒れないって感じだ
…まぁそうね、結局のところまだ始めてすぐだからこういう失敗もあるよな
危険な事以外はあんまり強く言えないよ、わかるわかる
「んじゃ、切り替えていこっか」
「は、はい──」
その瞬間、複数の砲撃音と共に車体が激しく揺さぶられた
な、なんだ!?3輌にしてはちょっと多いぞ!!?
「──!?杉野先輩!囲まれてます!!」
「はっ!!?」
あ、ヤバいコレ詰んだかも
◆
「ヤッバイ、めっちゃ撃たれてる!!」
現在俺達の乗るM3リーはシャーマン6輌に追い立てられており、ジグザグに回避運動を取る阪口の操縦を持ってしても至近弾が何発か出てる
…速力で勝ってるとは言えど一度囲まれてしまえば突き放すのにまだ時間は掛かりそうだ
「ついてこないでよ!」
「エッチ!」
「ストーカー!!」
うーん語彙力、ついてくるなって言ったって敵相手にはちょっと無理があるだろ
…しかしちょっと変だな、随分とこっちに車輌を割いてる
数にして参加車両の半数以上だろ?サンダースがそんな博打を打つだろうか…
それに砲撃がされたのは西住に地図がなく孤立無援になった事を伝えた直後だ
そんな上手いこと…本当にあるのだろうか?いや偶然か??
「…澤、ちょっと場所変わってくれるか?」
「はい」
俺は澤と場所を変わって車長席、その真上のキューポラから顔を出して周囲を見渡す
後ろからは相変わらずM4シャーマン6輌が追いかけてきている、偶然の線だって勿論あった
だけど脳裏に高笑いするアリサの顔が何故か思い浮かんで消えないのだ、あいつは勝つためならどんな汚い手段だって使う(偏見)*4
「──あれは」
そしてなんということでしょう、感じていた不安を肯定するかのように
遠くの空に白い物体が飛ばされているのを発見したではありませんか───
もしかしなくても通信傍受機だなあれ
「──くく、くくく…あっははははは!!」
してやられたとはまさにこのことだ
…いや、通信傍受自体俺も考えた事が無いでもないし
何なら似たような事はやってた、無線の出力や周波を調整して敵チームの使っている無線のものと合わせるって手段だけど
大体向こうの無線ノイズが拾えるためそれの強弱で遠近がわかるのだ
しっかしほぼルール無用なタンカスロンじゃなく公式戦で、それも限りなく黒に近いグレーな通信傍受機を使ってまでやるか
いや確かに公式戦のルールには書いてなかったとは思うけどさ
(…いや、そっかそうだったな)
俺がそれをやってた時に散々パラ泣かしてやってた一人がアリサなんだ
似たような事で誰もやってないであろう上位互換の存在にあいつが飛びつかない筈は無い
…しかし、それはそれとして───
「あ~あ…ムカつくな」
いや、自分の事を棚に上げるようで悪いけど腹立つわ本当
あの野郎マジでもっぺん泣かしてやらねぇと気が済まねぇや
…と言うわけで
「…澤、ちょっと車長変わってくれねぇか?」
「えぇ!?」
流石にこの状況下で澤が車長のままは気が重いだろうし、何より向こうがその気なら出し惜しみ無くぶつかってやるのが礼儀というもの
本当は澤の成長を阻害してしまう可能性もあって交代なんて考えてもやろうと思わなかったが仕方がない
徹底的に叩き潰してやる
(…ひとまずコレを伝えにゃならねぇが、無線が使えねぇんだよな)
当然だが通信傍受機が打ち上げられてる以上、それを無線を通して共有すれば向こうにもバレる
けどまぁこちらもルールの穴を突けば良い、例えばケータイは試合中
外部の連絡を取ってはいけないとルールブックに記載はされているが、内々の通信で使ってはいけないとは書いていない
向こうがその気なのだからこちらもこっすい抜け道を多用してやろう
◆
「ウサギチーム、シャーマン6輌に囲まれてるって!」
通信席から武部さんの悲痛な声が響いて、思わず私はスカートの裾を強く握りしめた
その前に澤さんから送られてきた内容的に地図を持たないM3は現在地がわからない
完全に孤立してしまったM3の元にシャーマン6輌が群がったこの状況は、M3がそう遠くない内に撃破されてしまうだろうというネガティブなことを否が応でも連想させる
「…あ、あれ?メール…?こんな時に??」
そんな中で武部さんのケータイが鳴り響く、それを試合中な為に良いのかなぁと送り人の名前を確認して一気に表情が強張った
「…?ナオから??」
「え?」
思わず聞き返した私に武部さんはメールの本文を開き、目を見開いて食い入るように本文を見た後に私に向けて端末を差し出した
「ね、ねぇみぽりん!これ…」
そこに書かれていたのは───
────────
送信者:ナオ
件名:【重要】
本文:上空に通信傍受機と思われるものを発見
直ちに確認、共有のほどを要有りと認む
即刻西住へと伝えるべし
尚、以降のやり取りは澤と行うこと
────────
「っ!」
メールを確認しすぐさまキューポラから身を乗り出して上空を探す、すると遠くの方に木々の隙間から僅かに見える程度の大きさで何かが飛んでいることに気づく
「本当にあった…通信傍受機」
片手の双眼鏡越しに見てみるとそれは白いアンテナのような物体であることに気づき、すぐさま私は武部さんに無線の使用を一時取り止めるように指示を出した
「確かに、通信傍受機を打ち上げちゃいけないなんてルールは書かれてないですけど…」
「酷い!いくらお金があるからって──」
「抗議しましょう!」
ルールブックを片手に通信傍受機の有無についての確認を取る秋山さんとサンダースに対して非難の声を上げる武部さんと五十鈴さん
(…いや、それなら逆手に取ってしまえば)
ひとまず、コレ以降の指示は武部さんから皆にメールしてもらい
通信傍受機の存在がバレたことを相手に悟られないようブラフの偽情報を通信機を使って垂れ流しにすることとして
(…問題は孤立してしまったウサギさんチーム
助けに行きたい、だけれど地図を持っていない以上は向こうの現在位置はわからない
…どうすれば───)
しばらくサンダースが偽情報を掴まされていることに気づく事はないだろうけど、それはそれとして孤立していて場所もわからないウサギさんチームをどうにかしなくてはいけない
(相手は6輌、こっちの戦力を全て集中させても心許ない…
でも交戦はなるべく避けて撤退の手助けくらいなら)
こちらの戦力が全部で5輌、内1輌がフラッグ車である以上は大きく動いて僚機を危険に晒す真似はしたくないし
まだ相手のフラッグ車の位置すらわかっていない中、戦力を減らすことは極力避けておきたい
だけどここでウサギさんチームを切り捨てることはそれこそ論外だった
「…私達はこれより単独にてウサギさんチームの救出へ向かいましょう、武部さん…皆へのメール指示をお願いします」
「わかったよ!」
心なしか嬉しそうに頷き、武部さんはケータイの操作を開始する
まだ作戦行動を開始してそこまで時間は開いていない、それなら今から大体の移動位置を推測してもあまり大きなズレは無い筈だ
「麻子さん、全速力を持ってM3のいると思われる位置まで走ってくださいッ!」
「了解」
続いて操縦手の麻子さんへ地図を片手に大まかな場所を伝え、燃料残高を気にせず全開走行で向かうよう告げると頼もしい落ち着いた声色で返答がある
ウサギさんチーム救出作戦が今始まった
作戦開始時M3の消えた方角へ現在Ⅳ号の出せる最高速度である時速65km/hで走らせて5分が経過した頃だろうか
耳をすませば遠くから幾重にも響く砲撃音が聞こ始めてきた
「戦闘域に近づいてきました、皆さんいつでも応戦できるように準備をしていてください」
私の一言に操縦を担っている麻子さん以外の全員が一度視線をこちらへ向けて深く頷いた、先程の情報では6輌であったがここまでウサギさんチームが撃破されていないためもう少し数が増えてるかもしれないと考えていた方が良さそうだ
「──見えた」
それから更に数分、双眼鏡を持って目を凝らしていると前方に砲撃を次々に浴びせかけるシャーマンと無茶苦茶な起動で逃げ回るM3リーの姿が飛び込んできた
(…凄い、まだ荒削りな部分はあるけど──この短期間でよくそこまで───)
森という立地上、速力で勝り逃げ回るM3には中々当てられないようでウサギさんチームの車輌には特に目立った外傷は見られず
至近弾以上のものはまだ受けていない事がわかる
「って、えぇ…」
しかし何よりも驚いたのはキューポラ、いわゆる車長席から身を乗り出しているのは本来通信手であるはずの杉野さんだったこと
地図を無くして孤軍奮闘せざるを得なくなった今、本来裏方に回るはずだった彼女が車長として指揮を取っているようだ
「五十鈴さん!牽制の為に一発撃ってください
当てなくても良いです、ウサギさんチームからこちらへ意識を向けさせてください」
「わかりました」
その返事から一尺置いて砲弾を撃った衝撃が車体に伝い身体をビリビリと震わせる
放った砲弾は6輌の内の先頭車両、その目の前の地面に着弾して土煙と共に片側の履帯を破損させて1輌落伍させた
流石五十鈴さんはこんな状況下でも良い腕をしている
「──!?」
1輌を撃退した所でひとまず追ってきているのは5輌、隣の細道に逃げ込んだM3の斜め後方に出ることでなんとかこちらも追いつけたものの───
新たに3輌のシャーマンが向かってくるのが見えた
「後方に5輌、新しく3輌が合流して8輌…さっきの1輌も撃破したわけではありませんから──すごいっ全10輌中9輌がこの森に投入されてます!!」
車内で呟く秋山さんの言葉に冷たい汗が頬を伝っていく、1輌1輌を数で囲って確実に仕留めるというこの方法は囲むことが出来るなら一番対処のしようが無い
まさかミイラ取りがミイラになるなんて、と歯噛みする思いでいると
不意に少し離れて前を走るM3から身を乗り出していた杉野さんと目が合った
『このまま行くと危険です、停止できますか?(※簡略意訳)』
おそらく杉野さん相手ならば伝わるだろうと身振り手振りの手話で一時停止を促すものの苦い顔で大きく腕をクロスさせて無理だと返ってくる
そしてそれと同時に横側から複数の砲撃音が響き渡りいくつかが至近弾としてM3の近くに着弾して土煙で柱を作った
「向こうは向こうで囲まれてる…!」
森の中での乱戦と言うこともありシャーマンからの決定打を受けない一方でこちらも思うように逃げられない為、手を伸ばせば届きそうな距離なのに合流することもままならない
(どっちかがやられるのは時間の問題かも…)
再度砲撃音と共にこちらの車輌のすぐ近くに土煙が巻き起こる、まだ現状をなんとか出来るような策も思い浮かばない今
フラッグ車以外の全車両対僅かに2輌の戦車ではジリ貧どころの話ではなかった
◆
「あぁ…クッソ、上手く行かねぇもんだな」
ジグザグに揺れ動く自車と先程までいた位置に叩き込まれる複数の砲弾にげんなりとしながら、苦い表情を1年の皆に悟られないように首元に巻いたマフラーを指で引き上げて口元まで覆い隠す
(どうにか一時合流、サンダースの隊列から逃げ果せたら地図を複写させてもらいたかったんだがな)
さて外部との通信はアウトだがそれ以外ならば割とケータイの使用に関しては試合中でも認められているため、地図がない現状助けに来てくれた西住たちから地図を借りてケータイのカメラ機能で撮影し複写しようと考えていた
…現実は息つく暇もなく放たれる砲弾のせいで全然振り切れないし5秒も停車すれば即撃破されるだろう
(厳しいな、どうすっか)
内線機で操縦席の阪口に指示を飛ばしながら、思考はなんとかこの場を切り抜けるように巡らせるが何度シミュレートしても結果が芳しくない
そもそもここまで逃げ切れてるのだって阪口が予想よりも操縦が上手くなっていたから思っていた以上に逃げ切れているだけで
当初は西住の援軍すら間に合わないのではないかと考えていた
「杉野先輩…」
横の通信席からは一時役割を交代してケータイを片手に持った澤が不安そうに呟く、いけないいけない
下の子達を不安にさせるなんて先輩失格だ、それに手は無いわけじゃない
成功する確率も低いし西住達ともまたはぐれる可能性高いけど
「大丈夫だ、心配すんな…俺を誰だと思ってる?」
澤を落ち着かせる為に柄じゃ無いが貼り付けたような自信を振りかざす、短い間とは言え多少彼女たちから信頼を勝ち取れていたからだろうか
その一言で澤は不安そうな表情から一転して小さく笑みを浮かべた
「…澤、武部にメール入れてくれ
──この森を抜けるぞ」
背の高い遮蔽物である木、獣道のように細い道のお陰で守りに転じて決定打を与えさせない一方
こちらもそのせいでいつまで立っても逃げ切れないし、攻撃に転じても当てられない
ならば一か八か森から抜け出てしまおうという考えだ
「阪口、左に転進!全速力でM4を視界から消し去ってやれ!!」
『あいーっ!』
内線越しに指示を出して阪口からも元気よく返ってくる、いい加減追われるだけの身もうんざりしてきただろう
目の前の分かれ道で我らM3は左へと曲がりそのまま突っ切る事で森の外を目指す
また孤立することを厭わず逃げに集中した為かジワリジワリとM4との距離が開けていく
幸いにも森を抜けるまでにさほど時間は掛からなかった
(いいねいいね、そういう表情見たかったよッ!)
森から出て平原地帯に出ると文字通りの全速力で逃げに徹する、開けた場所に出たことで先程以上に砲弾の雨が降り注ぐが全部的外れの場所に着弾した
…そりゃ普通の戦車で考えられる速度で砲撃計算したところで当たるわけも無い
速力差は20km/h程あるため目に見えて距離が開くためM4の車長達はぽかんと口を開けて信じられないといった様子だ
「さぁそろそろデカいのが一発くるぞ、阪口は頭の中で2秒数えたら右に旋回!」
そして阪口が指示通り右に旋回した所で後方から__ズドオオオンッと落雷の様な音が鳴り響くと同時に先程までいた場所の地面が大きく抉られた
言わずもがなナオミのファイアフライだな、散々パラ逃げ延びて手を焼かせたからM3撃破の重要度合いが変わって彼女直々にこちらを狙ってきたのだろう
ちなみにナオミのファイアフライ以外だと5輌がこちらを追っかけてきており、途中で案の定はぐれたⅣ号の方に3輌が行ったと思われる
(向こうとの距離は多分2000m前後、もう少しでファイアフライの射程からも抜ける───)
再度後方との距離を目測で確認、距離はだいぶ開いてきたがナオミがこちらを狙ってきてる以上はあまり気は抜けないが
後3分もしない内にファイアフライの射程である3000mを超える為ここは我慢比べだ
「阪口、停車!3秒数えて右側に向かって走れ」
『あいっ』
再度指示を出し、完全停車のち目の前に砲撃が着弾する
その3秒後右に動き出したM3の左隣の地面に砲撃が2発叩き込まれた
「なんでココまで読めるんですかっ!?」
下からは通信席の澤から砲撃を完全に読み切ってる事に対して聞かれた
なんでって…そりゃあ、ねぇ?
「敵の存在、砲撃のタイミング、着弾位置
全部目で見てどうこうって物じゃねぇ、
「そんな筈ないでしょう!!?」
五感の全てを総動員させて、過去の経験や研ぎ澄ませて来た勘で相手がどこにいて何をしようとしているかを感じ取る
それだけな話ではあるけれど澤は全然納得いってないようだ
…まぁ、確かに胡散臭いか
自分がしていた事を相手にやられるとブチギレます、杉野直緒と言う戦車乙女は理不尽なのです
…文字に起こすと凄いな、気づいた理由も自分が散々似たような事をやって来たから一瞬で手口がわかっただけですし
あ、それとこないだの日曜日に人生初あんこう祭参加しました
皆熱意が凄かったな本当、ガルパンステージ見たかったのに時間把握して無くて痛車通り見に行って帰ってきたときには終わっていた絶望は…また来年リベンジですね
これが俺のリベンジだ…(ドンッ)
はい、話を変えまして
前から後書きに載せてたんですけど、お気に入りや感想ちゃんと両方増えて感激の極みです
嬉しくってあんこう踊り踊りそうになりました
反応してもらえるのは本当に執筆する上でのガソリンなのでよろしくお願いします
あとはねこの作品気に入ったってなったら評価も入れてくれると更に喜びます
いつもみたいに誤字脱字多いかも知れませんが、発見次第直して行きます
以上です