ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
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速力に勝る改造エンジンを乗せたM3リー、その全速力を持ってすればM4シャーマンを視界から消し去るのにさほど時間は掛からなかった
(ようやく向こうも諦めてくれたか)
流石に1輌を相手にいつまでも追いかけっこを繰り広げるのは得策じゃないと踏んだのか、一度振り切ってから停車指示を出したのち双眼鏡にて索敵しても追ってきている様子はなかった
「なんとかなったか」
「なんとかなりましたね」
ひとまずは一難が去って澤とお互いに顔を見合わせながらホッと一息つく…が、そろそろもう一つの現実を直視しなければならない
「…ここはいったいどこなんだろうな」
地図もなく味方も近くにいない現状は残念ながら打つ手なし、合流できるかどうか勘に任せてもう一度森に戻るか…
しかし西住もそろそろ本格的に動き始める気もするのでそうなったら入れ違いになる可能性もある
「しょうがねぇ、こうなったらなりふり構ってられねぇもんな」
実は先程逃げてる途中に一つ考えていた事がある、というのも今回すぐに気づいたとは言えサンダースの副隊長アリサにまんまと踊らされる形となってしまった
それも自分の得意としていたやり方でだ
幸いにもすぐ気づけた為現在西住が無線では偽の情報を流しているのでしばらくは向こうを翻弄できるだろうがそれだけでは弱い
目には目を、歯には歯を、毒には毒をである
「澤、ちょっと通信席の無線借りるぞ」
「あ…はい」
と言うわけでこちらも無線傍受やっちゃいますか
やり方は簡単、無線機の周波数・出力・チャンネル等を総当りして現在サンダースの戦車隊が扱っている物を探し出すだけ
本来であればココまでやっても砂嵐の中に電波ノイズが走るだけで内容までは中々聞き取れない
っていうのも使ってる無線機の規格が各校の戦車ごと、つまり国別で異なるため
本当に特定の状況下ならそれらが違っても音声まですっぱ抜くことは可能だが基本的にはノイズまでしか読み取れないのでそのノイズの強弱などで敵戦車との遠近を図ったりするわけなのだが…
「……お」
いくつかのパターンで合わせてみると数分としない内にうっすらヘッドホンに複数の声が出力され始める
…さて、先程中々音声まですっぱ抜くことは難しいという話をしたが
今回はこの大前提から異なる、というのも我らがM3リーの製造国はアメリカでM4シャーマンの製造国も同じくアメリカである
同じ国の戦車で製造年数もそこまで違いがない為、当然無線の規格は一緒だよね?って話だ
『─ジッ──M3には逃げられちゃったけど、今日のアリサは絶好調ね』
『ガガッ──えぇ、ですが向こうも思っていたよりやるようですし──ここで潰せなかったのは惜しいですね』
『ガッ──ドンマイ、深追いNGよ
相手の手の内が見えない間は尚更ね』
徐々に音声出力を上げていくと聞き覚えのある2つの声が響き渡る、片方はよく知ったアリサの声
もう片方は秋山の潜入映像で知ったサンダースの隊長、ケイさんの物だ
そして澤からしては覚えのない声が急に聞こえ始めた事でこちらを二度見し、通信内容からそれが敵の無線であることを悟ってか信じられないといったような表情へ変わった
「…杉野先輩、コレって」
「同じ国で似た年式の戦車なら無線の規格も同じだろ?
あとは大体向こうの使いそうなチャンネルやら周波数やらを読んで総当りしてやりゃこんなことも出来るのよ」
とても簡単な種明かしをすると澤の表情が盛大に引き攣った、すぐにとは言わないけど便利だし後々覚えて欲しいから慣れてね?
…まぁその頃コレをやるのは宇津木になるだろうけど
「無理です」
「判断が早い」
そんな事をそれとなく宇津木に言ってみるととてもいい笑顔で即否定された、しかもいつもみたいに間延びしたトーンじゃなくてマジなトーンである
あまりにも早い、コレには某赤い天狗のお面を付けた爺さんもニッコリ──って待てよ誰だコイツ
「…やっぱり杉野先輩ってどこかおかしいですって」
「はいはい!私知ってます、こういうのニュータイプって言うんですよね?桂利奈ちゃんがこの前教えてくれました」
「揃いも揃って失礼な奴らだなぁ、君たち」
そんなこんなで話をしていると停車中のため山郷や大野もこちらへ来て言いたい放題言ってくれる
君たち随分とまぁ酷い物言いじゃない?拗ねるぞ?
「──ま、話は戻すけどこれで向こうがこっちの思惑通り動いてくれるって裏付けが出来た
澤は傍受した内容をメールで西住に送ってくれ」
「わかりました」
一応こちらにも聞こえてはくるだろうが車長としての仕事がある為に西住達とやり取りする時間はない
もう一個後付で積んだ方の無線機で操縦席とのやり取り等しなきゃいけない事が結構あり忙しいのだ
◆
「チッ…」
所変わって森の中のとある一角、そこに潜んでいた1輌のM4シャーマンの中でサンダースの副隊長であるアリサは小さく舌打ちをした
その理由は敵の大洗の戦車を2輌も捕捉していながら取り逃がしてしまった事に対してだ
まだ試合は始まったばかり、無理に追わない判断を取ったケイ隊長は正しいと言うことはわかっていながら
それでも尚、こちらの包囲網を無傷で突破したという並々ならぬ敵を見送った事で言いしれない不安に駆られていた
(…いや、相手の無線がこちらに筒抜けになっている以上こちらの勝ちは決まっているも同然)
しかし…であるならばこの焦燥感はなんだろうか?
自分は一体何に対してそんなに焦りを感じているのか、なにか見落としてしまってる物でもあるのではないだろうか
(そういえば、結局侵入者のもう一人は会えず仕舞いだったわね
…マム曰くサムライがどうって話だったけど)
試合前にケイ隊長達と大洗の陣地に訪れた際、ブリーフィングに参加してきたオッドボールを名乗る方の侵入者とは話をすることはできたが彼女の付き添いで来ていたと言うもう一人の方は少し前に席を外したと言われ結局会うことは叶わなかった
(まぁ──会えたにして、私がどうこうするわけでもないけれど───)
仮に会えてもきっとアリサは初対面の相手を前にいつもみたいに傲慢な態度を取ってしまうのだろうと心の中でため息を吐いた、それが悪手とわかっていても染み付いた性分と言うのは中々変えられる物ではない
少なくとも以前に比べてそれを自分でわかっているだけマシだとは思いたいが…
(試合が終わったら会えるかしら)
聞きたいことは沢山あるし、話してみたいこともある
何より学園から逃げる際に披露してくれた50輌超のシャーマンから逃げ果せる操縦技術は圧巻の一言であったし、他にできる人物は自分の記憶の限りただ一人なのでその関係者なのかも聞きたいところではある
それに──
(あの操縦がただの偶然じゃないなら今のうちに唾つけておきたいわよね──なにせ)
今年度いっぱいで大洗の学園は廃校になるのだから、そう思ったところでアリサは些か無神経かと考えを改める
アリサは元来勝負事に置いて驕りということはしない、確かに売り言葉に買い言葉で余計な揉め事を起こすことはあるとはいえ
性根はどこまでも勝ちにこだわる性質だ
そのため対戦相手になる学校の事はかなり深堀りして調査をする、そこにかなり信用出来る筋の情報から文科省の学園艦統廃合による廃校の対象に上がっていると情報を得た
当初は何故廃校になる学園が今になって戦車道を再開したのか、それがわからなかった
きっと最後に思い出を作りに来たのだろうかとも考えたがそれは先日のスパイ騒動と先程の一幕で跡形もなく消え去った
(とても素人には思えない練度を積んでるし、放って置くには惜しいわよね)
5輌を仕向けて逃げられたM3もさることながら、似た状況下で同じく無傷で逃げ切ったⅣ号戦車の腕前も相当なものだ
もし大洗が本当に廃校になるとすれば、その類稀な技量を持つ搭乗員たちもいなくなる
ならば試合が終了した後にそれとなく唾をつけておくのも悪く無いだろう
勿論、強豪校としてきっちり彼女たちに勝利をしてからという大前提があるが…
『全車、0985の道路を南進、ジャンクションへ移動して』
数分の後ジャックしていた無線に敵チームの隊長車からどう動くか各隊へ指示を飛ばすのを確認した
「目標はジャンクション、左右に伏せてるわ──」
気を取り直して早速仕入れた情報を無線越しに各隊へ共有していく、本来禁止されていないとはいえ通信傍受はかなりのグレーゾーン
明確にルールに書かれていないとはいえモラル違反と呼べるだろう、特にこういった卑怯と言われそうな戦い方はアリサ自身が隊長の望まないことであるというのはわかっている
(マムを否定する訳じゃないけど、正々堂々過ぎて強い戦車道とは言い難いのよね)
実際、これだけの練度を誇るサンダースでこれだけの保有戦車があるのなら
どこまでも勝ちにこだわって泥臭く、ねちっこくやれば怖い敵チームもそういない
しかしケイが隊長を務めている現在は違っている、確かに本人のカリスマ掛かった素での人心掌握によって部隊の雰囲気は最高潮ではあるが…本来もっとやれる筈のサンダースはあまり思うように戦績が振るっていない
勿論ある程度は緩く、引き締めるところはきっちりと締めるケイに対して文句があるわけではないし
このやり方はこのやり方で一つの正解ではないだろうかと言うのもわかってはいる
『OKOK!でもなんでそんなことまでわかっちゃうわけ?』
隊長車輌からの無線、つまりはケイから聞かれたことに対して一瞬ピタリとアリサの動きが止まる
だがいつまでも固まっていることも出来ない
「──女の勘です」
ついで無線機越しに響く無邪気な笑い声により一層罪悪感が深まるが、やってしまった以上はここで引き返せる筈もない
(すいません隊長、全てが終わったらお叱りは甘んじて受けますから)
バレてもバレなくても事が済めば素直に謝罪は入れよう、流石にやったことがやったことだ
…幻滅されるだろうか?だけれど───
(…あの日からそろそろ2年、私も今は2年生で隊長に至っては3年生──もう隊長に来年は無い)
アリサと言う少女は元々はもっと嫌味な人間だった
それも当時目の敵と言っていいほど一方的にライバル視していたチームも無くなり、一番背中を追いかけていた子も引退という形でいなくなって
後に彼女のもとに残ったのは虚しさだけだった
そんな折、彼女を見つけ出して半ば自棄になっていた彼女を拾い上げたのはほかでもないケイであり、アリサは心からケイの人間性を尊敬していた
だからこそどうしても、ケイが隊長でいられる今年こそは勝ちたいのである
◆
「女の勘です(キリッ)じゃねぇんだわ」
サンダース側の通信も筒抜けにしたことでアリサ含め向こうのやり取りを武部からメールの返信が来る*1のを待っている間に聞いていたわけだがどうにも聞いてる感じ話が噛み合っていない
「あ、返信きましたよ」
「おー…ちょい見せて?」
抱いた違和感にはてと思考を巡らせるものの、その途中に澤のケータイに武部から返信が届き考えることを一時中断して見せてもらうことに
コレで書き起こせれば良いんだけど…
「…うっわぁ超ガビガビ」
「流石に読めないですね」
しかし現実というのは非常である、ケータイ*2の画質じゃ細かいところは見えないし拡大すれば文字が潰れて地点の数字すら読み取れない
…どうするか
(時間は掛かるが…4等分くらいに区切って写真取ってもらうしかねぇか)
と言うわけで澤にお願いして今度はそのように送ってもらえるよう武部に折り返しを入れてもらう
…さてさて、それが済めばいつまでも止まって車内でわちゃわちゃしてるわけにも行かない
ただでさえうちのチームは車輌が少ないのにその中でも希少なM4を撃破できる火力持ちでもある
腹を括って慎重にでも来た道を引き返さなくてはならない
「そしたら俺は周囲の警戒に戻るから、澤は返信が返ってきたら教えてくれるか?
阪口は反転して微速で引き返すようにしてくれ」
「了解です」
『あいっ、わかりました!』
それぞれ澤と阪口に口頭、及び内線で指示を出して双眼鏡を片手にキューポラから上半身をさらけ出して索敵体制に移ると車輌がゆっくりと動き出して回頭
指示通りに少し前に皆とはぐれた森へ向かって引き返し始めた
現在森の中をゆっくりと走りながら澤のケータイを借りて送られてきた4分割の地図の画像と随時にらめっこしながら宇津木がもしもの時用に持ち込んだノートに書き起こしていた
こんな早く宇津木自身ももしもが起こるとは思わなかっただろうが正直目茶苦茶助かる、後でパフェでも奢ってやろう
…ただまぁ流石に筆記用具も鉛筆は無かったのでボールペン一発書きである、失敗できねぇ…*3
『囲まれた!全車後退───』
『──38tはC1024R地点に隠れてください』
『…38t、敵のフラッグ車ね』
(…結構わかり易くないかそれ)
ついでに澤は完全に索敵に集中させる為、傍受した敵の無線もこっちの無線も両方俺が聞きながら並行して地図を書き起こしてる
大変ではあるがまぁ出来なくはない、時間はちょっと掛かるけどな
しっかし他のチームは今まで通り動物モチーフの名前で呼んでるのにフラッグの38tだけ車種呼びなのはちょっと露骨な気もする
更にこちらは完全に出遅れていた為に焦りがかなり募ってきており、試合開始からの数多のゴタゴタをひっくるめて落ち着こうにもイライラゲージがかなりの速度で溜まってきてる
(あぁ〜イライラするぅ…でも後輩たちには当たりたくねぇし、あー…マジでアリサ泣かそ)
地図さえ完成してしまえば全速力を持ってチームの元へ駆けつけられるのだが、澤に車長の座を返すにしろ俺が継続するにしろ急ぎながらでもある程度のクオリティを確保しなければならない
他人が見る可能性があるのなら自分以外が見ても読み取れるようにしなきゃいけないためかなりペースを上げて書いている筈なのにまだ先は長そうだ
(あと15…いや10分は欲しい)
そういうことなのでどれだけ急いでも最低限かかるものはかかる時間を考えると否が応でも急かされてるようで本当に色んな意味でイラつくし疲れる
もう今日はこの試合が終わったら直帰してさっさと寝ようそうしよう*4
等と思っていると突如索敵をしていた澤がガタッと大きく動いた
「て、敵しゅ───」
その直後ドォオオンッと大きな音と共に車体が揺さぶられる
衝撃の強さ的に直撃ではなさそうだが───
「あ…」
ふと視線をノートに戻すと先程の衝撃で書いていた途中の地図にビーッと大きな黒線が余計に入り込んでいる
それが目に入った瞬間、頭の中でブチッと何かが弾け飛んだのを感じた
◆
場所は変わって会場のある一角、1輌の10式戦車の前に二人の女性が陣取って話をしていた
片方はこの10式を会場に持ち込んだ張本人の蝶野亜美、もう一人は大洗女子学園戦車道チームの整備長の近藤若菜である
「チョクの面倒見てる子達が地図を忘れてった時はどうなるかと思ったが…」
「窮地は脱出したみたいですね」
二人の視線の先のモニターには群れから外れて何とか撃破されずにサンダースを巻き、変わりに完全に孤立してしまったM3リーの姿が映っていた
「…随分、やりにくそうですよね」
「そりゃ、アイツは普段通信手だからな
少なくともあのチームで車長を務めてた事は見たことねぇし、ぶっつけ本番…しかも2年ぶりともなればああもなるだろ」
傍目から見れば順調に振り切ったように見える車長としての杉野ではあるが、その動きは彼女が現役で活動していた頃を知っている二人に取ってはちょっと見ていられないレベルの物だった
というのも、戦車は一人で動かすわけでは無いからだ
車長がいて、通信手がいて、装填手がいて砲手がいて、操縦手がいる
ともなれば軽戦車でもない限り最低でも5人は必要であり、その中で一人だけ飛び抜けていたところでそれは上手くいくはずがない
なにせ才能は高いとはいえ周りが始めて1ヶ月程度なのだから尚更だ
「しかし通信傍受機まで引っ張ってくるとはなぁ」
「まぁ確かにルールブックには書いてないですけどねぇ」
二人はフィールド上に打ち上げられた白い物体に目をやってなんとも言えないような表情をした
確かにルールには載っていないが暗黙の了解のようなものが今まではあったわけで、載ってないから何やっても良いと言っているようなこの1件によりおそらく来年からはルールに新しく付け足されるのではないだろうかと考えた
「その点で言えば真っ先に気づいたっぽいチョクも流石だが、それを逆手に取った西住の嬢ちゃんもかなりやるな」
「あのお嬢さんは他の西住流と違って奇策や搦め手を扱うのが得意ですから、流派からすれば邪道は邪道ですが───」
しかし、一度ハマってしまえばかなり強固であり
また今回に関して言えば相手が先に仕掛けた側でもある為、ここからひっくり返すことも簡単ではないだろう
「あとは…チョク達も地図さえ何とかなればなぁ」
「知恵は回りますからね、とはいえ今のナオちゃんではちょっと厳しい所もありそうですけど」
ポツリと呟く蝶野に近藤は思わず苦笑いを浮かべる、お互い杉野との付き合いもそれなりに長い為に気づいた事であるが
二人からすれば彼女の性格は全盛期のそれとは変わり過ぎていた…というよりもう試合に取り組む目つきからして全く違う
見てるだけの筈のこちらが気圧されるような熱量や闘志、それが今ではかなり希薄になってしまっているのだ
「…けど、あの子の生まれ持った攻撃性が高々2年で消える筈がありません」
「きっかけがあれば目覚めるだろうな」
無気力で少々ぼんやり気味な性格である彼女に今でも残る当時の面影、それは身内以外にはかなり短気で好戦的であるというもの
一番付き合いの長い蝶野は一番彼女がイカれていた時を知っている、近藤の場合は剣部隊からの付き合いな為に部下も増えてある程度自制が効くようになってからしか知らなかった*5
「初めてあの子に会った時の事、近藤さんに話したことありましたっけ?」
「大まかにはな、スクールの教官として呼ばれてそこで初めてあったんだろ?」
当時まだ20代も前半だった蝶野は一番イケイケな時期であり、言い換えれば一番好戦的で性悪な時期であった
そんな折に教官として呼ばれた蝶野がやっていた事と言えば、ある程度戦車というものに慣れた新入りのスクール生をコテンパンに打ち負かしてから指導をする脳筋ここに極まりなやり方であった
そしてそのことについておそらく日本一ヤバい女、略してヤバ女の杉野がノーアクションなわけが無かった
「他の子達との試合をいくつかやったあとにナオちゃんとの試合だったんですが、始まる前に言われましたよ
『初心者いじめて遊んでるアンタのやり方、スゲェムカつく』って」
「──あははははっ!!」
当然イケイケで通っていた蝶野がその発言を見逃せる筈もなく、柄にも無く熱の入ったまま試合へと挑むことになったのだが
「結果は知っての通り私の負けでした」
「でもその一回だったんだろ?」
「一回でも現役自衛官が負けたんですよ?悔しくないわけ無いじゃないですか」
他の子達が教本通りな戦いをする中一人だけ衝突上等の超接近戦、確かにそれは効果があって身の危険を感じて回避した隙をついて蝶野は撃破された
勿論それ以降は意地でも勝ったが一度でも負けたと言う事実は蝶野の中から消えることは無かった
「まぁ、自分を見つめ直すいい機会ではありましたけどね」
肩を竦めてそういった蝶野に再度近藤はブハッと吹き出し、ある程度笑いが収まってから口を開く
「…志賀副司令覚えてるか?」
「日帝学園62期生の【青鬼*6】ですね」
続く蝶野の言葉に思わず「本人の前では言うなよ?」と苦笑いを浮かべる
ちなみに近藤は同じく62期*7の整備科で蝶野に至っては63期生で戦車道を取ってるので直接の先輩後輩、当時はよくゲンコツを貰ったなと心の中で苦い記憶を思い出した
「その志賀副司令が、初代の三大将が健在だった時に言ってたんだよ
『知将赤淵・仁将林・猛将杉野』ってな」
「あぁ、言えてますね」
杉野と言えば猪突猛進で勇猛果敢、そして大胆不敵な戦い方を好むためにそれを踏まえれば確かに猛将と言えるだけはあると蝶野は一人納得し
同時にやはりここまで獰猛な野生獣のような娘なのだからそれを解放する機会があればこんな状況もなんとかなるかも知れないとも思った
…そうたとえば今のように2輌のシャーマンに捕捉されたような状態でも───
◆
「なンだァッ!?バカヤロウッ
クソックソッ───!」
杉野は限界であった、既に精神的にボロボロ
態度にも顔にも何とか出ないように抑えつけていた苛ついた感情はサンダースの砲撃で書きかけの地図を台無しにされた事で遂にブチギレた
「なァにが起きやがった!?
あ゛ぁ゛ッ!!?」
もはや余裕のある先輩ムーブなど何処へとも無く消え去り感情の赴くままに吠え散らかす、それは一度試合中に降車しようとして怒られた澤達から見ても初めて見る純粋な怒りである
「せ、先輩…その、敵襲です」
「よォし、変わりやがれェッ!」
初めて見る杉野の一面に気が気では無くなった他の1年生が見守る中、顔を青ざめた澤が申し訳無さそうにそう呟いた事でとんでもなく怒り狂っていた杉野はそれでも先輩としての矜持がそうさせるのか
あくまでも後輩たちに当たることは無く澤と交代してキューポラから外を見渡す
その際に「野郎ぶち殺してやる」と呟いていたことが偶然澤の耳に入ってしまい
澤は見ず知らずのシャーマンに対して心の中で十字架を切った
「おいおいおい、敵陣かここはバカヤロウッ」
杉野がキューポラから顔を覗かせれば更に距離を詰められていたのか既に500mを切る距離に2輌のM4シャーマンがこちらへ砲塔を向けているのが見え、そしてそれと同時に丁度良く?一時的に森を抜けて広場へと出た事で杉野は口角を歪に釣り上げる*8
「阪口、距離があったら危険だ
全速力でとことん寄せろ、相手の表情全て、ソバカスの数が一つ残らず数えられるような距離までな」
『い、良いんですか?そんなことして…』
「良い、やれ」
渋る阪口に構わん、行けと指示を出して杉野は急激にかかる車輌の横Gに耐えるように全身に力を入れる
急に反転し向かってくるこちらに対して驚いた様子の向こうの2輌は絶え間なく砲弾を撃ってくるが通常の戦車(出て40km/h程度が最高)を相手にすることに慣れた彼女たちには時速60km/hで回避行動を交えながら肉薄してくるこちらを照準に収める事が出来ないようだった
そうして遂に互いの距離は100を切り50を切り、10を切る
お互いの表情が確認できるこの距離まで近づいた事で2輌のシャーマンのキューポラから身を乗り出した二人の表情が強張ったものであることに気づきながら杉野は口を開いた
「んだァ?テメェッ!何見てんだコラァ!!」
「why!?──い、いや…あの」
「Nooo!?見てないですぅ!?」
そりゃ敵が近づいてくれば向こうからしたら見るしか無いわけではあるが、どこまでも理不尽にキレる杉野に対し二人はそのあまりの剣幕と本気でこちらを殺しに来そうな目つきに思わず尻込みしてしまった
「阪口、もっとだもっと寄せろ
ぶつかる勢いで寄せて良い」
『…も〜、知らないですよ?』
そして当の杉野は杉野で更に肉薄するように指示を出し、敵チームの車輌に対して砲撃では無く幅寄せをしろというあまりにも無謀な指示にさすがの阪口も呆れながら従い
M3はM4の真横についた状態で更に距離を詰め5m、いや2mと詰めていく
そろそろお互いの車輌がいつぶつかってもおかしくない距離、更に言えば当初杉野の言っていたソバカスの数まで数えられそうな距離でもあった
「シャーマンとか乗ってんじゃねぇよバカヤロウッ
何処だここはバカヤロウッ!やんのかコラぁバカヤロウッ!!」
「ヒィッ…なんでキレられてるのよ私達…」
「り、理不尽すぎる…」
あんまりにもあんまりな物言いをする杉野に完全に呑まれた二人は暴風のような目の前の彼女がさっさといなくなることを願ったがそうは問屋が卸さない
杉野は走行中のM3から1番手前のM4の装甲へ飛び移り(勿論こちらも走行中)目の前の少女へと詰め寄った
「地図寄越せコノヤロウッ」
「わ、What!?」
「早くしろブッとばすぞアメ公かぶれコノヤロウッ!!」
「は、はぃいい」
もはや涙目すら浮かべた少女は車長席の後ろからそそくさと地図を取り出して杉野へと差し出した
「ありがとうバカヤロウッ武運を祈るぞコノヤロウッ」
そうしてお礼もそこそこ…お礼??
してM4から再度M3へと戻っていく背中を見つめ、やっと嵐が去ったかと一つ息をつく
「──
「逃げろ阪口ぃいい!」
『やっぱりこうなるじゃないですかぁああッ!!』
散々良いようにやられた怒りが一気に来たのか少女の叫び声で我に返った2輌のシャーマンの搭乗員は一斉に動き出す
ただ幸運だったのは2輌共装填すらしていなかったが為に砲撃までのタイムロスで回避運動が取れたこと
そして相手のM4シャーマンよりこちらのM3リーのが断然速いと言う事だった
◆
杉野の地図強奪事件をモニター越しに見ていた反応は様々である
なんと言っても杉野の声はよく通る、そんな中大きな怒鳴り声と共にこんな事をしでかしたが為に各所に散りばめられた集音マイクが一部始終の音声を拾っていた
「…蛮族じゃない」
「…?…??」
苦々しく呟く黒森峰の逸見エリカの横で何が起きていたのか、何を見せられていたのか理解できずに宇宙猫顔になる西住まほや
「やっぱり面白いわねあの子」
「ハハハッ若いですね」
また、別の場所では目に涙を浮かべながら笑いと崩れ落ちそうになる身体を必死に堪える五十鈴の母、百合と若い子はやはり元気があって良いと笑みを浮かべる新三郎
「っ!──っ!!」
「…笑いすぎですよダージリン様」
更にまた別の場所では紅茶を吹き出しながら声だけは漏らさないように崩れ落ちて地面へと沈んだ聖グロのダージリンとそれを苦笑いで見つめるオレンジペコ
「あーははははッやっぱりアイツ最高だわ!
何かやらかしてくれるってアタシは信じてたよ!!」
「けどコレでようやくナオちゃんにも火が入ったかしら!」
そして会場から少し離れた場所、10式戦車の置かれたその場所では腹を抱えて爆笑する近藤若菜と同じく笑いすぎて目に涙を浮かべつつも少しは本気の杉野が見れるかと蝶野亜美が呟く
まだ試合は始まったばかり、さてさてこのあとはいったいどんな物を見せてくれるのかと
大体いつも予想外の事をやらかしてくれる小さな魔王様に期待の眼差しを向けるのだった
◆
再度サンダースのシャーマン2輌を振り切って緊張の糸が解けた後、我に返った俺は先程までの行動・言動を振り返って羞恥に顔を赤く染め
車内で膝をついて崩れ落ちた後にボソリとこう呟いた
「…死にてぇ」
「先輩情緒やばく無いですか??」
完全に引いたような目で澤に見られてる…
さよなら頼りになるお姉さんな先輩像、こんにちわ関わりたくない系変な先輩像
そんな事を思いながら指で床にのの字を書いているとはぁ…と澤が小さくため息を吐いたのが聞こえた
…澤にココまでな態度取られるって相当じゃね?
「…先輩にはいつも助けられてばかりですね」
「え?」
いや、と一度区切って少し視線を泳がせてから澤は再度口を開いた
あれなんか思ってたのとは違うような??
「私達がもう駄目かもって思った時、いつも助けてくれるのは杉野先輩です」
「…まぁ、可愛い後輩達だし」
そう、ほんと可愛らしいのよこの子たち
それに皆一生懸命に取り組んではくれるから教え甲斐があるし、そんな子たちだから何かやらかしそうな雰囲気が出たりしたらすぐフォローに回ってきたわけだけど
「…」
「な、なに?」
ふとジーっと澤から無言で見つめられて思わず何かあるのかと聞き返す、不思議なことに他からも視線を感じる
この後に及んで頼りになる先輩ムーブの俺に呆れているのだろうか?染み付いてる物だから見逃して欲しいけど
「…はぁ、他意がないことはわかってるんですけどね」
「何の話?」
「こっちの話です」
再度ため息交じりに呟く澤に聞き返すとなんでもないと返された、不思議と感じていた他複数の視線も無くなっていた
「まぁ、ちょっとビックリはしましたけど
杉野先輩が今回爆発した原因の一端を担ってるとは思いますし」
「いや、地図忘れたことはもう気にしなくて良いんだよ?
またやりさえしなければ…」
確かに、確かに今回澤が地図を忘れた事がイライラの原因だった可能性は1%もないとは正直言えない
流石に俺も聖人じゃなくてただの人間だし、それでも後輩相手に当たり散らすような人間にはなりたくないので態度にも言葉にも表情にもなるべく出さないようにしているのである
けっこう大変なんだよ俺も…
その上通信傍受だの追いかけっこだの色々あるしさぁ
「というか向こうから地図強奪しちゃって良かったんですか…?」
「一応ルールブックには試合中相手の戦車に乗り移っちゃダメだとか、装備を取っちゃダメだとかは書いてないから通信傍受機みたいにグレーだけどOKだと思う
流石に乗員に危害を与えたりしたらアウトだろうけども」
まぁあんまりにも目に余るようなことしでかしたらルールブックに載って無くてもアウトだろうけど
え?敵チームから地図奪うのは充分目に余るだろうって?
敵チームの情報盗める通信傍受機がOKなら地図ぐらい大丈夫でしょ、多分、きっと、メイビー
「…もう地図のありがたみは身にしみましたよ」
「入手経路はどうあれとりあえず一番の懸念点はコレで何とかなったからな、早くチームと合流しようぜ」
何はともあれこれでようやく戦いの土俵に上がれる
さぁ──ここからは第二ラウンドの開始だ───
余談だが別のクラスに【赤鬼】もいた
と言うわけでヒラコー魂インストール、今後も稀に出るかも知れません
あと多分サンダース編は次回決着…になればいいなぁ
はい、話を変えまして皆さん
前回の更新からお気に入り9件増えて更に評価も増えました
久々純粋に震えるほど嬉しかったです
執筆活動して行く上でお気に入り登録、感想、評価って言うのは大変活力になります
おぉじゃあやってやろうじゃねぇの、書いてやろうじゃねぇのって方がいましたら是非よろしくお願いします
何ならしおり数増えるだけでも嬉しいもんですよ
それと当面目標でUA10000件お気に入り登録100件を目標に頑張って来ていましたが、おかげさまでコレを書いている現在凡そ75%達成という状況になりました
年内中に達成できたら良いなぁ…難しいかなぁ?
誤字脱字多いかも知れませんが、発見次第直して行く所存です
以上です