ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
道中に傍受し続けていた無線により試合は更に過酷な様相を極め始めていることを知る、わざと偽情報で相手を誘き寄せⅢ突が1輌撃破したようだ
一度に大量の電波が入り乱れて聞き取りづらいが、予想外の反撃にサンダースの無線は阿鼻叫喚になっている
こちらも現場へ急がねば…
(…とは言え、それでも9対5
戦力的に考えればいずれにせよサンダース有利か)
戦局はいまだサンダース有利、しかし急ぎたい反面それをある程度で抑えて置かなければならない問題もある
それは…
(初っ端から飛ばしまくったからな…燃料の消費が思ったよりも早い)
何度も言うようではあるがレギュレーションに収まる範囲でM3リーを含めた大洗の全車輌にはもう手を加えられる所が無いほど弄り倒されたエンジンが搭載されている
その御蔭で本来重い中戦車であっても軽戦車も真っ青な高速性を得られてはいるが燃費というネックな部分もある
…一応、排気量を上げてキャブレターの調整も完璧にこなしているため中速域で巡航するのなら返って低速から太くなったトルクのおかけで純正エンジンよりも燃費が良かったりするのだが撤退時のように全開での戦闘起動をこなすような場合だと本来の航続距離の3/4程度の燃費に落ち込む
それでも敵車輌を寄せ付けない高速性は作戦の幅が広がるために採用したわけだが今回は初手から想定外の事が起きたので少し心許ない状態になってる
(ま、巡航速度も上がってるからやっぱメリットのがデカいんだけどな)
先程サンダースから奪取した地図と澤が教えてくれたチームの現在地を照らし合わせる
…結構離れてるな、距離にして10kmくらいか?
まぁお互いになりふり構わず逃げてりゃこうもなるか
(アリサの乗るフラッグ車がまだ出てきてないのが不気味だな
それに今チームで囲ってるのもフラッグを除いた全車輌とも言い切れない、もしかしたら合流までに一戦あるかもな)
秋山の撮った事前情報で得たフラッグ車の車種といまだ姿を見せないのはアリサが乗った車輌であることを考えればフラッグ車はアリサの搭乗戦車
それも単独で隠れ潜んでいるものと思われる、また一度スカった為に今一度こちらのチームのいる場所にもう一度フラッグ以外の全車輌を投入するのは無いのではないか
そう考えるとこちらもチームと合流するまでに会敵がいつあってもおかしくない
…まぁそうなれば無線音声に流れるノイズが物凄くクリアになるからその点で言えばわかりやすいっちゃわかりやすいんだけど
『全車、128高地に集合してください──』
10分程が経ち、そろそろチームと合流できそうだというところでもう一つの方の無線に西住からブラフの情報が流される
しかし前もって澤を通し武部から本物の情報が流れてきているため実際の位置を地図とにらめっこをしながら向かっていく
『─ガッ──128高地へ向かってください』
『ザーッ──どういうこと?』
『ガガッ──敵の全車輌が集まる模様です』
一方こちらは傍受している方の無線
相変わらずバレてないと思っているアリサは自信満々にこちらの無線内容を隊長車へ伝えているようだが…
流石にケイさんは怪しんでいる様子だ、というよりもしかして無線傍受はアリサの独断か…?
じゃないとケイさんも疑わずにアリサの情報に飛びつくだろうし
(…おかしいと思った点は確かにあった)
確かに、ちょっと前の無線ではアリサが傍受した内容を伝えた時になんでそこまでわかるのかと疑い混じりの言い方をしていた
それに対してアリサは女の勘だとはぐらかしていたが…
『──OK─ザッザッ──全車、Go Aheadッ』
しかし、いかんせんケイさんは性格が真っ直ぐ過ぎるというか
最終的にはアリサを信じて言われた場所へ向かったようだ、そこには何も無いというのに…
ところでアリサ…
コレで君を守る邪魔者はいなくなったね?
「澤、あとちょっとで合流できると伝えといてくれ」
「は、はい!」
交互に耳に当てていたヘッドフォンを外すと遠くから風に載せられてこのM3以外の戦車の排気音が聞こえてくる
おそらくはもう数分もしない内に落ち合える事だろう
しばし遅れを取ったが、今や巻き返しの時だ
◆
杉野達が本隊に合流できたのはそれからわずかな事であり
キューポラから上半身を曝け出した彼女はこちらへ視線を送ってくる各隊の車長に軽く手を振る
「悪ぃ、遅れた」
「…いえ、それは良いんですが地図が無いのによく合流出来ましたね」
「あぁ、それはな──」
距離が縮まり隊長車あんこうチームの車長、西住と会話ができるほどの距離になる、合流までに色々手こずった事を謝る杉野に西住はふと疑問に思ったように小首を傾げて
その疑問に答えるように杉野は再度口を開いた
「地図がねぇって事情を話したらサンダースの子が快く差し出してくれたのよ」
「…えぇ」
あまりにも胡散臭い過剰なまでの笑みを浮かべてそう宣う杉野に思わず西住は絶対嘘だ何かやったよこの人、と引き攣った笑みを返す
まぁ何にせよコレでようやく全員揃ったと一息をついた所で杉野が片耳にヘッドフォンを当てながら何かを真剣な表情で聞き取っていることに気づく
「…どうやら奴さんらは西住の思惑通り動いてくれたみたいだぞ」
「なんで分かるんですか?」
「そりゃサンダースの無線を傍受してるからな」
何故か敵の動きを知っている杉野にそう西住が聞き返すと何やら聞き捨てならないことを目の前で平然と言ってのけた為に一瞬考えることを放棄してしまい
二人の間に気不味い沈黙が流れた
「あの杉野さん、なんて?」
「サンダースの無線を傍受してる」
「…ちょっと言葉の意図が読めないというか…」
いや、流石に言葉の意味がわからないわけでは無いのだが
わかりたくないというか…そう言って今にも頭を抱えそうな西住にポンと手を打って杉野は言う
「ほら、ブラフ情報流して本当に向こうがその通りに動いてくれるかとか把握しておきてぇじゃん?」
「…そうですけど」
やけに具体的な内容で澤から向こうの動きが送られてきたと思えば種を明かしてみるとコレである
良いのかなぁと苦笑いを浮かべる西住であるがまぁ杉野のやることに一々突っ込んでいてはツッコミが追いつかないか、等と考えてふと小首を傾げる
もしかして自分はこの杉野直緒という少女に段々と毒されてきているのではないかと西住は訝しんだ
「…杉野さん、もしかしてなんだけど
それって他の戦車でも出来たりする?」
「他国のだと規格が違うから電波ノイズ受信するだけにはなると思うけど、できない事はねぇだろ」
その気持ちを誤魔化すかのように、西住は似たようなことを他の車輌でも出来ないかと杉野へ問いかけた
勿論できない事はないためにそう答えると西住が再度口を開く
「杉野さん、お願いがあるんだけど───」
それから少ししてM3の無線にサンダースのケイ隊長による『なにもないよー!』という叫び声を受診した
「サンダース本隊がブラフで流した場所に到着したのを確認した、やるなら多分今だぞ」
「うん、…そうだね」
あらかじめ西住はサンダースのフラッグ車がどの辺りに潜んでいるかという予測は立てていた
というのもコレまで一度もフラッグ車が戦場に出てきていないことからフラッグ車は最初から隠れ潜んでおり、他の全車輌に戦闘を任せっきりになっていたと考えるべきである
そんな中他の車輌のいなくなった今は絶好のチャンスでもあり、IV号の真横につけたM3から身を乗り出した杉野と頷きあってコレを撃破せんと策略を練る
(あと1輌あれば囮にも出せるんだけど、今は1輌でも撃破されるのは惜しい…どうすれば)
元より車輌の少ないこちらは1輌失うだけで簡単に劣勢へとなるだろう、消耗はなるべく抑えたいが時間が経てば今の優位性も失われるかも知れない
そう考えつつそれでもこの戦局に一石を投じる決断を西住は迫られていた
「武部さん、このあたりを付けたところにフラッグ車がいると予想を立てたから各車両にメールを打ってくれる?」
「まかせてよ!」
武部へ地図を渡して車長席へ座り直し、西住は小さく深呼吸をして気合を入れ直す
自身にやれることは全てやった、あとは予想通りであるのならば敵のフラッグ車を見つけるだけ
メールが各隊に行き渡ると車列はそれぞれ別のところへとバラけていく
そんな中で───
「…キャプテン、通信機に反応ありです」
「え、本当…?」
単独にて森の方角へ向かうアヒルさんチームこと八九式、その通信手である近藤の放った言葉に車長の磯辺は表情を強張らせた
「あっ、こっちの方だと少し反応が弱くなりました
一度戻って森を突っ切るように出来ませんか?」
「わかった、佐々木に言ってみる」
ヘッドフォンをつけながら難しそうな表情をしたまま、おそらく敵から離れたと判断した近藤とそれを聞いた磯辺はすぐに操縦手の佐々木へ指示を出し
言われた通りに探索ルートを微調整する、各車両がバラける少し前に隊長の西住による指示で全車輌の通信手は杉野経由でサンダースの使っているものに合わせた無線設定に切り替えていた
当然通信手が使っている無線は使えなくなるがそこは車長同士がやり取りすることで敵に怪しまれずに相手の位置を探るというやり方を取っている
…当然、いくら向こうの設定に合わせたからと言ってそれで敵戦車との遠近を図れると豪語する杉野に一同半信半疑であったわけだが───
「キャプテン、どんどん無線に走るノイズが強くなってます」
「えぇ…」
そんな思いとは裏腹に近藤の無線に入るノイズ音はどんどん大きくなっていく、少し引き気味の磯辺はもしかして自分のチームメイトはとんでもない人なのでは無いかと思い始めていた
「…ん、少し車影のようなものが一瞬だけど確認できた
方角は正面のままだけど、合ってる?」
「…大丈夫です、反応が弱くなるどころか更に強くなってます」
そろそろ結構近づいたのではないかとキューポラから顔を覗かせて肉眼にて索敵を開始する磯辺だったが割とすぐに正面方向に戦車と思われる物体が停車しているのを確認し
確認を取るように近藤へ聞き返すもそう帰ってきた為に進路の変更はなしにそのまま突っ込んでいく形になった
◆
「…大洗の車輌はいったいどこに」
時は少し遡り、サンダースの無線にケイの叫び声が木霊したすぐ後のこと
まさかのまさかで大洗チームが無線で向かうと言っていた場所がスカった為にアリサはキューポラから身を乗り出して最低限周囲への警戒はしつつも地図とにらめっこを始めていた
(間違いなく無線では本隊を向かわせた場所で集結すると言っていた筈──まさか嵌められた?
…いや、だとしたらウチ以外の通信傍受機が打ち上げられていないのはおかしい)
うんうんと唸りつつ、アリサは大洗の本隊がどこへ移動したのかを予測するために思考の海へ飛び込むが
それは少しして周囲に微かな物音がしたことで一度打ち切られた
(え…何の音??)
目を凝らし前後左右を注意深く見てみると高速で揺れ動く影のようなものを発見し、その正体を特定しようとした瞬間
それは藪を突き破って現れた
「「え?」」
現れたのは敵の大洗チームの八九式であり、思わずお互いの声が被さる
それはまさか無線の裏技で本当にフラッグ車へたどり着くとは思わなかった車長の磯辺とまさか見つかるとは思わなかったアリサの両名の物だった
「……」
「……」
そしてそんな思いがけないことが重なった為にお互いに攻撃を忘れ、ポカンと見つめ合う
辺りには気不味い空気とともに一陣の風が吹く
「──右に転換、急げッ」
「蹂躙してやりなさぁいッ」
最初に正気に戻ったのは大洗アヒルさんチーム車長の磯辺、試合前までの熱心な放課後自主練によりシャーマンクラスの装甲はどうあがいても八九式では抜けないことを教えられていた彼女は即座に操縦手の佐々木に指示
動き始めた八九式に我に返ったアリサも場所を知られた以上ここに留まることも不可能な為に邪魔な八九式を撃破するべくこちらも操縦手へと指示を出した
(──バカなッ八九式でしょう!?
それがなんであんなに速いのよッ!!)
出遅れた形となったアリサではあるが、従来八九式は古すぎるあまりに速度が重戦車並に遅い
その為発見されて尚アリサにはまだ幾分心の余裕があったのだがそれはすぐに消え失せる事になった
「どうして全速力のシャーマンが追いつかないのよぉおおッ!!」
シャーマンM4、本来の最高速度は39km/h
通常の八九式の最高速度25km/hとは14km/hの差がある、しかしすぐに捉えられる筈の目の前の八九式は回避運動をこなして尚ジリジリとこちらのシャーマンを引き剥がす程速力が出ているようだった
(いったいどうなってる!?目の前のアレは八九式でしょう!!?何が起こってるっていうのよ!!)
アリサの知った話では無いが、目の前の八九式は確かな腕を持った
その為に古い筈の八九式は最高速度が約50km/hと軽戦車も真っ青な速力を誇っている
砲撃を当てない限りはM4では追いつくことは叶わないのだ
「敵フラッグ車!0765地点にて発見しましたッ
でもこちらも見つかりました!!」
一方大洗のアヒルさんチームこと八九式の車長である磯辺も内心で焦りが出ていた、というのも半信半疑の無線逆探が成功するとは思っていなかった為である
向こうにもこちらの存在がバレた以上はメールも無意味と無線機にて各車両へ発見地点を通達し
また追われている身であることを伝えた
『──0765地点ですね?』
『割と近いな、回れそうなら後ろへ回ってみるか??』
そしてその通信に反応したのは大洗チーム隊長車、あんこうチームが車長の西住と
ウサギさんチームの臨時車長、絶賛アリサへのヘイトが積もりに積もっている杉野であった
◆
端的に言えばアリサは物凄くイライラしていた、それは途中から少し考えを上方修正したとはいえ素人集団な事には変わりない大洗チームに良いようにしてやられ続けていたのもそうだが──
「…何をやっているッ!相手は八九式だぞ!?」
何より目の前の八九式、もとい彼女からすれば
更に言えばスクラップ待ちの鉄屑とも言えようどうあがいても戦車道に使い道のなさそうな戦車に一発の砲弾も当てることは叶わず
更に言えば相手の車長に投擲された発煙筒は正確無比にこちらの視界を塞ぎ、決定打を与えることができない
それは長く戦車道に身を置き、血の滲むような努力を積み重ねる日々と文字通り命を削るような戦いに身を投じて現在があるアリサに取っては耐え難い屈辱であった
「すいません!視界がッ」
「御託は良いから早く撃てッ」
あぁイライラする、と部下へ砲撃指示を返した所でふと
アリサは以前も似たようなことがなかっただろうかと考えるも、苛立って判断が極端になっている彼女はその考えを否定するように小さく首を横に振った
「…なんで機銃を使わないわけ?」
「機銃で撃つなんて格好悪いじゃないですか!!」
それはそれとして、相手に発煙筒で視界を食らわされているなら
一度連射性に劣る主砲での攻撃ではなく副武装の機関銃を撃てば流石に相手の車長も車内に身を隠すのに発煙筒の投擲は無くなるはずであり、運が良ければ八九式なら装甲も抜けるはず
自分でも気づくのだから仮にも優秀なサンダース一軍の砲手が気づかない筈もないだろう、そう思って疑問をぶつけてみれば何ともまぁ現金な回答が帰ってきたことでアリサのイライラがピークに達した
「戦いにカッコ良いも悪いもあるかッ」
思わず手段を選ぶなと怒鳴り散らした所でようやく砲手も重い腰を上げたのか機銃で対応し始める
その時──
『──よォ、俺も混ぜろよ』
ヘッドホンに入ったその音声にアリサはピタリと身体が硬直した
背筋からは冷たい汗が止まらずに流れていくのを感じる、ギギギと壊れたブリキのオモチャのような擬音がつきそうな動きで通信機の方へ向く
今のは傍受している方の音声の筈、しかしアリサはその声にどこか聞き覚えがあり
同時に本能が嫌な予感がすると警鐘を鳴らしていた
…しかし確かめなければならない、その言葉の意味とその主を
「──ヒュッ」
キューポラから顔を覗ぞかせ双眼鏡越しにあたりを見渡して、それを見つけると同時にアリサの喉奥から空気が強制的に抜けていくような変な声が漏れ出た
自車のM4、その後方約1500〜1800mの位置にそれはいた
コレほどの距離があっても感じるほどに場違いなまでな小柄な体躯、視線だけで人を殺せそうなほど鋭いその眼光
首元に揺れる紫色のマフラー、そして低いがよく通る聞き馴染のあるその声の持ち主はアリサの記憶の中に一人しか存在しなかった
「な…なんで…ッ」
震えた声に自身で驚き、同時に身体も小刻みに震えていた事に気づく
──確かに今思えば、彼女が向こうにいるのならば
通信傍受機を使って尚ここまで良いようにやられた説明はつく、しかしアリサはそんな思いをかなぐり捨ててでも叫ばずにはいられなかった
「なんでアイツがここにいるのよぉおおおおおッ!!」
彼女の記憶上、二度と戦いたく無いのに何度も戦わされたトラウマ各筆頭選手
日本最強の破壊神、杉野直緒がそこにいた
「──ちぇ、まだ距離が離れすぎか」
M4の後方に陣取ったM3は全速力で肉薄しながら砲撃を放つ、しかしまだ距離が離れていることもあり主砲と副砲の斉射でも至近弾すら入らず、杉野は思わずと言った様子で唇を噛み
コレでも初期と比べ物にならない練度になってきた我らがウサギさんチームではあるが、まだまだ煮詰めるところはありそうだなと思いながら杉野は逸る気持ちを抑えるようにふうと一息いた
「隊長車及び各車輌も近くまで来てるみたいです」
「そうか、んじゃ無理にここで決めなくても良くなったな」
M4との距離も徐々に縮まってくるが全速力にて走りながらの行間射撃は車体が激しく揺れ動くこともありほぼゼロ距離でも無い限りは当たらないことが前提だ
距離が詰まれば現在囮となっている八九式を守るべく一度M4を追い越しをかける事となる
こちらがフラッグを撃破できるチャンスがあるのならその時にすれ違いざま砲撃を浴びせるやり方になるだろうがただでさえ車輌数で劣っているので無理に欲を出して撃破されるようなことは避けたい
各車輌が揃っているのならば待ち伏せているであろう3突に手柄を譲るでも良いし、そこで失敗しても全車輌で血祭りに上げてやれば良い
「距離おおよそ1000を切った
大野、山郷…肩の力を抜いてよく狙って撃て
最悪は今仕留めなくてもまだやりようあるしな」
「はい!」
「ここで決めますって言えればカッコいいんですけどね!」
必ずしも当てる必要はないと伝えた所で大野・山郷共にそんな言葉と共に気合いを入れ直す、どこか切実な山郷に「まぁ確かにここで決めれればカッコつくだろうが」等呟きながら
しかしまだ全体練度がそこまで高くない今は難しいだろうと杉野は厳しい現実にため息をつきたくなる
(あーあ、せめて背の高いM3じゃなくて背の低い3突なら
俺の必殺技も使えたんだけどな───)
しかし出来ないものをいつまでも悔やんでいても仕方がない
それに相手がある程度こちらの出方を知ってるアリサが相手であれば尚の事、こちらが車高の低い戦車で接近戦を仕掛ければ感づいて大いに抵抗されてしまうだろう
試合開始から杉野はひしひしと感じていたことではあるが、経験の差で何とかなってしまっているだけで連携と言う面ではこのメンバーに限っての場合ぶっつけ本番の杉野より普段から車長を努めてる澤のほうが上手く立ち回れてる始末だ
そんな状況下で同レベルの搭乗員でやったにせよハイリスク・ハイリターンな必殺技をやるには明らかに1年生たちには荷が重い
「距離500───」
牽制や相手の照準が定まりきらないよう撃ちっぱなしな手を停めることは出来ない、とはいえ更に距離が300、100と縮まっても一向に当たる気配がない
ちゃんと狙って撃ちたいところだが一瞬でも停車すればほぼ間違いなくこちらが返り討ちに会うだろうからどんなに焦れったく感じても動き続けるしか無かった
「距離10───」
お互い衝突はしない程度に距離を開け、すれ違いざまに再度砲撃
するとガンッと言う大きな音と共にM4が一瞬ぐらりと傾いた
「「当たった!?」」
「あぁ、…けどあれは」
この状況で砲撃をお見舞いできた事に撃った本人たちが一番驚いている
しかし被弾したはずのM4は悠々と回避運動を続けていた、この距離であれば短砲身と言えど75㎜砲ならM4の装甲を抜くことが出来るはずだが向こうのダメージを鑑みると副砲の37㎜が当たったのだと理解できる
「まぁ、この条件下なら当たっただけ儲けものだ
早く本隊と合流しよう」
追い抜かして徐々に後ろへと離れていく敵フラッグ車のM4、前には500mほど離れてアヒルさんチームの八九式が見える
彼女達の八九式の性能を考えればとっくにぶっちぎることも可能だろうが西住の指定した合流ポイントへ敵フラッグ車を引きずり込む為にわざと速力を調整しつかず離れずの位置で逃げ回っており
その練度は中々の物だと杉野は思わず舌を巻く
一方のアリサもアリサで機動力で優れる2輌を相手にするのでは中々にやりにくそうで、こちらからの反撃をほぼないものだと思っていい現状においても至近弾一つなしと中々に苦戦を強いられているようだ
「杉野先輩!西住隊長達は既に合流地点に到着したみたいです」
「遂にか」
通信席から澤の声が聞こえ、杉野はキューポラから身を乗り出す体勢から車内へと潜り込む
そしてあらかじめ決めていた合流ポイントと現在地、移動速度から大まかな距離を計算し5分もあれば到着するなと独り言ちた
「──さぁ、盤上をひっくり返しに行こうか」
続く言葉に呼応するように澤が頷く
待ち伏せが決まっても決まらなくてもアリサが現状本隊から切り離されている以上はいくらでもやりようはある
徐々に戦局は大洗有利に傾き始めていた
◆
「…マムに現在地のポイントを落としてくれる?」
「わかりました」
当初大洗の八九式に居場所がバレた際、アリサはサンダース本隊への連絡を見送っていた
しかしいつまでも無報告でいるのは状況が許さない、目の前のM3から今尚注がれる鋭い殺気を孕んだような視線を受ける度にたじろいでしまうのを自覚する
2年近く戦車道から離れていたとは思えないその姿はまさしくあの頃アリサが必死で追いかけてついぞ叶わなかった杉野の姿に他ならない
(SHIT…ッ、弱気になるな
この2年の間、私がどれだけ血反吐を吐くような思いをしてきたと思ってるのよ)
故に報告は入れ、その上で出来れば本隊が合流する前に目の前の2輌を叩き潰す
杉野がいなくなってからもアリサは変わらず戦車道、それもサンダースの戦車隊の最前線で戦い続けた誇りがある
とは言え目の前の彼女達がなにも無しに逃げ回ってるのもまた違うだろうと考え、それらを加味して念には念を入れて通信手にケイへ現状を伝えるように指示を出し
──その返答は当然車長のアリサの持つヘッドホンにも流れた
『OKOK、その場所なら10分もあれば行けるわッ』
元々128高地が肝心の敵がいないという失敗で終わった時点でサンダース本隊が元々アリサの隠れ潜んでいた場所を目指して集結途中であった為そこまで距離も離れているわけではなく
その力強いケイからの言葉に弱気になっていたアリサの心は少し楽になるのを実感した、たった一言でここまで心強いと思えるなんてやはりマムは凄いのだとアリサは実感し
本隊との合流までに何とか現状を打破しようと決意を新たにする
…のだが、そうは問屋が卸さ無かった
「──ッ!?Stop!Stopッ!!」
ケイとの通信を切って僅かに数分後、開けた平原へ出た瞬間言いしれない不快感を感じたアリサが操縦手に指示を出して車輌を急停車させると耳を劈くような砲撃音が木霊し
車輌の僅か数m先を空気を切り裂くもの──砲弾が横切ったのを感じ取った
(待ち伏せッ!?──いや、コレは…)
顔をのみキューポラから出して辺り周囲を見渡すと少し先の方からⅣ号と38tがこちらへ向かって走ってきており前を行く八九式とM3がコレに合流
そして自車の左側には先程こちらへ砲撃を加えた下手人であろうⅢ突がいまだこちらへ砲身を向けて睨みを効かせていた
「か、完全に囲まれた…!」
想定外の出来事の連発、そして現状こちらに王手がかけられたような状況に一瞬アリサは固まるもののそれも一瞬のこと
すぐに我へと変えると操縦手へ指示を出すべく口を開く
「後退して転進!!」
敵の全車輌に単騎で囲まれるという最悪な状況を打破するべく何とか逃げの一手を打つが簡単に逃がしてくれる相手ではないことは試合が始まってからの流れでアリサはわかっている
「──大洗女子、残りの全車輌こちらへ向かってきます!!」
ひっきりなしに響く砲撃の音と至近弾で揺れ動く車内でアリサはそれでも車長用の無線で本隊へ連絡を取る
現状を伝えれば少しでも急いで向かってくれるだろうと判断したのだが、ここでケイからの鋭い指摘が刺さる
『──さっきから所々情報の食い違いがあるけど、何かあったの?』
「そ、それは…」
一見すると何気ないいつもどおりの優しい声色ではあるが、それは口外にこちらが何かをやらかしてしまっていると気づいているような言い草であり
痛いところを突かれる形となったアリサは思わず言い淀む
しかし同時にアリサは薄々と自分のしたことが裏目に出ているのではないかと勘づいており、隠す通すこともこれ以上は無理かと判断した
「おそらくは無線傍受を逆手に取られたのかと──」
途端にヘッドホンから普段ケイが中々見せない怒鳴り声が聞こえて無線越しにもかかわらずアリサは縮み上がるような思いがした
同時に仮に勝っても負けても今日はお説教だなと腹を括るのだった
「へぇ…」
そのサンダースの無線を傍受していた杉野はその後の隊長、ケイの判断に思わず感嘆の声を漏らす
フェアプレーに拘る選手は口先だけなら沢山いるが、車輌の数までこちらに合わせるとは筋金入りだ
それから更にアリサVS大洗全車との逃走劇が繰り広げられるのだが、双方被害という被害を特に出さない内に一方的な追いかけっこは唐突な終わりを迎える
__ズドオオオンッという落雷のような音と共に大洗の隊列のすぐ近くに大きな土煙が上がったからだ
「…チッ、タイムオーバーか」
「い、いますごい音がしましたけど…」
全車揃っていて仕留めきれなかった事で優位性が失われこれでまた振り出しに戻る
10分程度で落ち合えるという話だったが時間にはまだ少し早い、恐らくは燃料の残りを気にしないで全速力にてこちらへ向かってきたのだろう
全く儘ならんと杉野から舌打ちが溢れるがすぐに意識を話しかけてきた澤へと向けた
「ありゃファイアフライの砲撃音、サンダースの本隊が近くまで来てるってこった」
「えぇ!?」
火力強化の施されたファイアフライの砲撃音は従来のシャーマンの物より大きく響くため聞き分けることは簡単だ
問題は着弾位置が隊列からかなり近いために有効射程3000m前後まで既に近づかれているという事だろう
『ウサギさんとアヒルさんは後方をお願いします──
カバさんと我々あんこうは引き続きフラッグ車を攻撃します』
(あーあ、こりゃ決着はまたの機会かね)
隊長の西住からの無線によりウサギさんチーム、アヒルさんチームが後続4輌を相手取ることとなる
恐らくはこれで勝負が決まるのだろう、というかここで勝てなければアリサが本隊と集結して詰むと杉野は予測を立てていた
アリサとの決着はつけたかったが今の杉野は隊長ではなくただの平の隊員である、その辺りはしっかりと区別しなくてはならないのだ
「んで結局河嶋はまた外す、と…」
何をトチ狂ったのか後続を任されているのはM3と八九式のハズなのだがいの一番に38tの砲が火を吹きまったく素っ頓狂な場所に着弾した
外すのはまだ良いとしてフラッグ車なのだから砲を撃つより回避に専念した方が良いだろう、37㎜じゃどのみちシャーマンは抜けないのだし
杉野がそう思った所で今度は八九式が火を吹くが、悲しきかな八九式の主砲も当たらないし当たった所でシャーマンは抜けない
…ということは八九式主導で陽動を行って錯乱するために西住は指示を出したのだろうか
そう考えた所で事件はおきた
「──え?」
砲弾を撃った直後の八九式はシャーマンからの反撃を受けて被弾、そのまま目の前の岩にぶつかり停車
白旗が上がるものの車内から夥しい量の黒煙が上がっていた、つまるところ車輌内部での火災である
そしてそんな普段は出さないような困惑を孕んだ声色の杉野に何があったのかと訪ねようとして澤は思わず固まった
「はぁ──ッ、はぁ──ッ」
よろけながら車内へ戻った杉野の表情が汗をびっしりかいて苦しげな物に変わっていた
大きく乱れた呼吸の音からそれが過呼吸によるものだとわかったが澤は何故そんな事が起こったのかと思いつつも杉野の元へと近寄った
「す、杉野先輩…?」
心配になって声を掛けるも声が届いていないのか、乱れた呼吸とどこか虚ろで揺れ動く瞳が戻ることはなく
自身ではどうすることもできない初めて見るようなその変わり果てた姿に澤は歯痒い気持ちで見ていることしか出来なかった
「はぁ──ッ、はぁ──ッ」
杉野は黒煙をまき散らす八九式を見た時、ドクリと嫌に鼓動が強くなり脳裏に過った記憶があった
車体が完全に破断しバラバラになった当時の副隊長が搭乗していた戦車、崖下にて砲塔を下にした状態で発見された戦407の初代隊長の搭乗していた戦車、そして多数の装甲パネルを失い、砲塔付近に大量の赤黒い液体がベッタリと付着した戦701の初代隊長が搭乗していた戦車
いや、それだけではなくその他多くの大きな傷を負い戦車道から去っていた数多な仲間達の姿が
撃破された八九式を見た時にフラッシュバックしていた
「はぁ──ッ!」
しかしそれらを思い出して杉野は辛く苦しい気持ちや無力感から来る絶望よりも怒りが勝った
「てめぇ…この野郎、この野郎手前ェ!!」
ギリッと歯ぎしりをして憤怒に表情を歪め、それでも目の前に怒りをぶつける相手がいる
自然と身体が動いた杉野は車長としての役目を全うするために再度キューポラから身を乗り出した
◆
「──ッ」
八九式が撃破されたという報告を受けた西住は不安からか無意識にスカートの端に置いた手をギュッと強く握り込んでいた
即座に安否確認をし、ひとまずは搭乗員に怪我のないことがわかったがただでさえこちらの数が少ない中
1輌撃破された事で車内は重い空気で静まり返っていた
『──戦果!シャーマン1輌撃破ッ』
その時、聞き慣れた頼もしい声がヘッドホン越しに響き渡り
言葉の意味を理解した西住が車長席から立ち上がってキューポラから顔を出し、後方を確認するとそこには目を疑うような光景が広がっていた
『ワレ突撃ス──目標シャーマン、目標シャーマンッ!!』
無線のスイッチを切り忘れているのか、普段よりも幾段と荒々しくなった口調の杉野の声がヘッドホンから流れる
そして眼の前にはサンダースの本隊へ向かって砲撃の回避運動を取りつつ肉薄していくM3の姿があり
既に一発当てたのか4輌の敵戦車の内1輌が煙と白旗を上げていた
『好き勝手バカスカ撃ちやがって、ムカつくんだよバカヤロウッ!さっさと撃破されろこの野郎バカヤロウッ!!』
普段であれば絶対に聞くことのないであろう罵倒の数々に思わず西住の表情が引き攣る
唯一の救いは通信手の無線が敵車輌との遠近測定をする設定のままで武部の元には流れていない事だろうか、もし彼女に聞かれていたら試合後に数時間単位のお説教は免れないだろう
うら若き乙女にあるまじき口の悪さである
そして再度双方の撃ち合いでまた1輌シャーマンから煙と白旗が上がる、この短い僅かな時間で実に2輌を撃破した杉野は車外に身を乗り出した体勢のまま声を張り上げて敵の隊列に潜り込み、引っ切り無しに降り注ぐ砲弾の中をほぼゼロ距離での接近戦へと持ち込んでいった
なんでこんなに遅れたんやろなぁ…
あと現在長期で自分探しの旅に出てる為、次回の更新も遅くなると思います
年内にもっかい投稿できれば御の字です
はい、話を変えまして
執筆活動して行く上でお気に入り登録、感想、評価って言うのは大変活力になります
言うなら作者のガソリンです、増える前と増えたあとではモチベが全然違いますので、是非よろしくお願いします
例の如く誤字脱字多いかも知れませんが発見次第直します
以上です