ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
皆様のお陰で当面目標として掲げておりましたUA10000、お気に入り100件と言う目標を無事達成することが出来ましたことをお礼申し上げます
これにより今年の新たな目標が決まりました
新目標はUA20000、お気に入り200件で行きます
ゆくゆくは夢の大台である赤い評価バーを目指して頑張らせていただきます
月明かりのみが照らすドス黒い海の上を地図とコンパスを頼りに自身の現在位置に当たりをつけ、出発前に確認した大洗の学園艦と黒森峰の学園艦の位置や航路差を推測しながら飛行を続ける
もう暫くで視認できる頃だと確認が取れればほっと安堵のため息が漏れた
(事前に向こうの管制塔に連絡は入れたが…)
日中ならともかく現在は夜
こちらの機種は下からでは判別はつきにくいとは思うものの、事前連絡は入れたし後ろに乗ってるのは黒森峰の姉住さんな為に前回のようにいきなり撃たれる事は無いとは思う
(…お、あれは───)
少しして眼下の海上に巨大な航跡を残しながら航行中の学園艦を見つける、辺りは暗闇でも甲板上の街は深夜でもない限り各家庭の明かりが漏れ出ているので見つけるのは簡単だ
更に近づけばその学園艦は周囲の空を探照灯で照らし始め、こちらを捉えたと同時にチカチカと発光信号を送って来た為バンク*1を振って返す
「何機か上がってくる…あれは───」
「…この時間はビュルガー*2が警備にあたっている」
バンクは振ったし事前に連絡も入れているが今の時間帯は中々機体の詳細までは地上確認は難しいのだろう、幾つかの飛行体がこちらへ向かって飛んでくるのが見え
その正体を探ろうと目を凝らすと後ろの席にいる姉住さんから飛行体の正体を教えてもらった
「早いな、もう着いたのか…」
「そりゃ戦闘機ですから、ヘリみたいに立ち上がれるスペースがあるほど広くは無いですが」
それにしてもと後ろの席から少し驚いたように姉住さんが呟いた、それもその筈で姉住さん達が乗ってきたヘリはドラッヘ*3と言うとんでもなく古い機体だ
ただでさえヘリコプターはその特性上速度を出すことに不向きだがドラッヘは巡航速度121km/h、最高速度は170〜180km/hと赤トンボ*4にも劣る
反面こちらは腐っても戦闘機な為、燃費重視の巡航で約3倍の380km/h程度で飛んでるわけだから驚きもするだろう
「…私もメッサー*5くらい乗るべきだろうか」
「増槽着けなきゃどこ行くにも厳しくないですか?」
目的地に早く着くのならそれだけやれることの幅が広がる、ポツリと姉住さんがそんな事を言うがそもそもドイツの飛行機は総じて足が短い
ドラッヘですら700kmしか飛べないしメッサーはそれ以下の660kmだ、しかもドラッヘと違って飛行機だから滑走路が必要だったりと勝手はかなり違ってくる
「…シュトゥーカ何てどうです?二人乗りですし」
「前向きに検討してみよう」
と言うわけでドイツ軍機の中でも足が長い部類に入りドラッヘよりかは幾分速いシュトゥーカを勧めると少し楽しげな声色で返答がある
因みに全く余談だがドイツ軍機の中で俺が一番好きなのはシュトゥーカだったりする、何故か初めて写真を見たときから惹かれてるんだよな…
特に
機会があれば是非乗りたい、何なら欲しい
(…ついて来いって事かね)
会話を挟んでる内に上昇中のフォッケウルフ隊の先頭がバンクを振ってきた為こちらも再度バンクを振り返す
するとその内の何機かがこちらの前後を挟むように位置を取り、先頭の機体がゆっくりと学園艦側に向かって降下していく
流石にこの暗闇では全部で何機いるかまでは数えられなかった
フラップを降ろして減速しながら緩く降下し、極力衝撃を与えないように着陸すると後ろから「おぉ…」と感嘆の声が上がった
こっちはこっちで慣れない夜間、しかも離陸時よりはマシとはいえ着陸というこれはこれで神経を使う状況だった為この一瞬でもドッと疲れが押し寄せてきた
何だか教官を乗せてる時並に気を張った気がする
「…上手いものだな」
「元々は飛行機乗り志望でしたから」
そのまま惰性で滑走路を滑走していき邪魔にならない端っこの方へ停止させてから風防を開けて一足先に主翼側へと降りる
躓いたりしたら危ないためにエンジンは既に停止させていた
「降りれます?」
「あぁ、問題ない」
少しばかり出るのに手こずっていたようなので手を差し伸べればそう言って握り返し、後部座席からこちら側まで体をスライドさせて何とかと言った様子で姉住さんは移動をする
…秋山のときも結構狭そうだったけど姉住さんはその秋山よりも背が高い為かなり辛そうだ
「今日はこれから帰るのか?」
「まぁ、まだ連絡はないですが
あの様子じゃ見舞い位は行くでしょうから」
思いの外盛り上がり話し込んでしまった為もう夜も遅い時間だ、当然学園艦から一度離れれば月明かり以外の照明は存在しない暗闇を勘頼りに飛ぶ以外方法はない
というのも地図とコンパスを見てその通りに飛んだ所で必ずしも目的地に辿り着けると言うわけでは無いからだ、まずどうしてもズレが生じるため実際には地図とコンパスを見ながら周囲に目印になるものを見つけて航路を修正する必要がある
これが日中ならまだしも夜の飛行が難しい理由である
「…そうか」
とは言え今日の出来事の手前、皆かなり冷泉を心配していたし明日の朝にでもお見舞いに行こうと言い出し始めるかも知れない
それを考えると今日の内に学園艦には戻っておきたい、まぁ夜間飛行が出来なきゃ飛行機の限定解除も出来ないし平気平気
「…君さえ良ければ泊まっていくと良い」
「へ?」
と思っていたのだが、続く姉住さんの一言で思わず呆気にとられたような返事しかできなかった
いや有り難い話ではあるのだ、行きに出来て帰りに出来ない事は無いためこのまま飛んだとしても無事大洗まで帰れる自信は勿論ある
しかし出来るからと言って嬉々としてやりたいかと問われればそうではない、正直なところ出来るがやりたくはない
「…一応は敵同士ですが、良いんですか?」
「構わない」
確認するように聞けば大丈夫と返ってきた、なるほどそれならば素直に受け取るとしよう
どうせここから大洗の学園艦まで1時間もあれば帰れる、それならばわざわざ危険の伴う夜間飛行をする必要もない
しかし黒森峰の学園艦に来たのは初めてなので当然宿泊施設が何処にあるか等は知る由もない
「…何をしてる?行くぞ」
「あ、待ってもらえます?今じ○らんでホテル取るところなので」
ひとまず宿を確保し、上空警備隊の屯所で紫電改を一晩預かってもらうよう段取りを組もうとしていた所で姉住さんから肩を叩かれて急かすように言われる
旅の基本と言えば飯よりも何よりも宿の確保、そうしなければ最悪道端でテントを張って野宿になるためホテルの予約をしてから動きたいと姉住さんに伝えればキョトンとした様子でこう続けた
「…私の部屋に泊まればいいだろう」
「…それマジで言ってます?」
「なにか問題でもあるのか?」
「大アリでしょう」
まるでこちらがおかしな事を言っているかの如く小首を傾げる姉住さんは一体何が問題なのだと言いたげな視線をこちらに送ってくる、いや色んな意味で問題だろ
なんなのこのお姉ちゃん、天然…?天然なの?
「…嫌だろうか」
「嫌ではないですけど」
やめて…西住と同じ顔でシュンとした顔しないでくれ、その技は俺に効く───
…いや我ながら西住に甘すぎやしないか?変える気無いから良いけどさ別に
「なら問題ないな」
「う、うーん…」
そもそも姉住さんと会ったのって本日を含めまだ二度目である、加えて俺は他校生だ
やっぱりどう考えても不味いだろコレ
「知らない人にはついて行くなと母から言われていますので」
「みほの姉なら問題ない筈だ、私もみほの友達なら心配ない」
無いのか、そうですか
普通であればいくら何でも妹の友達を自身の部屋に招き入れて泊める等は無いと思う、加えて本日妹談義に花を咲かせて多少は打ち解けれたとは思うが本来の俺の印象はあまりよろしく無いとは思うのだが
(…待てよ?コレついてって無事に済むのか俺は───)
客観的に見て自分が姉住さんの前でやった事を鑑みて、それを自分の妹と言う立場に置き換えてみる
…うん、こんな妹の教育に悪そうな奴無事じゃ済まさねぇな
俺ならあんまり目に余れば車の後ろに縄で吊るして学園艦一周引き摺り回して半殺しくらいにはするかも知れん
(五体満足で帰れるかね…)
会話の節々で西住を心配していることの垣間見える姉住さんだ
多分無いとは思うが、最悪の場合も覚悟するかと心の中で十字架を切る
無宗教でどちらかと言えば仏教寄りの俺だが気分的に、だ
「…行くぞ」
「うぃっす」
さて急かされた為に考えている時間はこれで終わり、まぁなにかあっても死にはしないはずだと重い腰を上げて姉住さんの後をついていく
あ、忘れずに警備隊の屯所寄らないとな…
◆
場所を移動し寮へと到着した所で後ろを確認すると依然少しばかりの警戒を含んだ様子でついてくる彼女の姿を確認し、同時に自分は何か失敗をしただろうかと思索する
(…少々強引だっただろうか?)
妹と同い年だと言う彼女は一見してそうには見えない、例えるならプラウダの現隊長程度の背丈しか無いのだが
彼女の纏う雰囲気が身長のハンデを一切感じさせない
それこそ自分が戦車を降りれば性格が変わると感じ取ったように、短い時間ではあるものの互いに会話を重ねればその本質はどちらかと言えば物静かなものである事がわかる
しかし一転して先日の喫茶店での出来事のように仲間の為、または一度戦車に乗って戦いに身を投じれば見てるだけのこちらが手に汗握る程の強い殺気を放つ
「ここだ、入るといい」
「…お邪魔します」
私の言葉に先程の自分と打って変わって居心地の悪そうに一度お辞儀してから入室する彼女を見ればこういう所は年齢相応なのかと思わず笑ってしまいそうになる
「…そう気を使うな、妹の友達なのだからゆっくりしていってくれ」
「はぁ、そういう事でしたら
お言葉に甘えて四尺四寸ばかり借り受けましょう」
部屋に入り、二人きりではあるが彼女は硬い
みほの友達ともあらばもう少し砕けてくれても良い、ここは気の利いたジョークの一つでも言うべきかと思ったが如何せん自分が口下手であることは自覚している
最悪もっと酷く拗れる事が容易に想像できるため辞めておいた
…本当はもっと大洗でのみほの事や彼女自身の事も聞いてみたかったのだが
(…何せあれほどの殺気と指揮を取れる人間はそういない
確実に素人ではない筈だが───)
今年復活したばかりの大洗戦車道チームは見ていて一生懸命なのは伝わってくるし事実強豪校の一つであるサンダース付属を打ち破ってはいるものの、動きを見てれば節々のツメが甘く本物の素人の集まりであることは明らかだった
しかしその中でもみほの乗るIV号と彼女の乗っていたM3リーの動きは思わず目を見張る物があり、特に彼女の場合は平然と単騎で多数を相手取っていた事から明らかにそう言った絶体絶命の状況に慣れている
なら有名どころの選手だろうかと言えばそうではなく、少なくとも選手登録されている名前を見て記憶に該当するものはない
手持ちの情報からすれば素人であることは間違いないのだが、事実として見た彼女の姿はあまりにも戦車戦というものを熟知している
故に彼女が何者なのか、その事が気になってしまう
「…なにか?」
「──すまない、気にしないでくれ」
そんな事を思っていれば自然と彼女を見ていて、視線に気づいた様子の彼女は居心地が悪そうに抗議の声を上げた為視線を切るが変わらず怪訝そうな顔でこちらを見ていた
「…そう言えば名前を聞いていなかった、そう思ってな」
「あ、そういう…」
その視線に耐えられなくなり誤魔化すように言えば、確かにお互いに名乗りまではしていなかったかと彼女は少し考えるような素振りで言った後にこちらへ向き直った
「──改めまして、杉野直緒と言います
妹さんにはいつもお世話になってます」
「西住まほ、知っての通りみほの姉だ」
仕切り直すように互いに名乗り合い彼女──杉野はこちらへ右手を差し出し私はそれを握り返す
年齢が一つ下とは思えない小さな手、昔のみほもこんな時代があったなとふと思った
「着替えは置いておくぞ」
「…いや、すいません色々と」
時間を開けて一言二言、特に取り留めもない会話を交わしてから今日は試合もあったことだし風呂を勧める
当然着替えは無いとの事なのでこちらの部屋着を着るように指示を出したのだが「それは申し訳無いです」やら「帰ってからまた風呂に入り直して着替えるから必要ないです」と言ってきたので返すのはいつでも良いからと無理矢理押し付ける形で脱衣所へ置いた
(──しかし、何故だろうか)
着替えも置いたことで脱衣所から出てふと立ち止まり考える、いくらみほの友達とはいえ些かお節介が過ぎる気は自分でもしている
まぁ何分こちらが深く把握していない範囲での友達などそれこそ小学生以来な為に色々と距離感を掴みかねていると言うのも勿論ある、しかしそれは大前提として何処か放っておけないと思う気持ちも存在していた
(…何故私はそんな風に思った?)
放っておけないなど彼女のどこを見てそう思ったのだろうか、自分自身に疑問を感じてはここに来るまでの道中に何処か違和感を感じるような部分は無かったかと考えてはたと気づくことがある
例えば彼女の工場での長話、例えば寮につくまでの他愛のない会話
恐らく流派の次期当主として人の一挙手一投足に無意識に過敏となっていた今の自分だから引っかかりを覚えた違和感の正体は───
(随分、寂しそうな笑顔を浮かべていた…気がする)
会話の折に杉野が見せていた笑った表情、それが自分には何処となく寂しげで
吹けば飛んでいって消えてしまう枯れ葉のような笑顔に見えた
(…わからない、何故そう感じ取った?)
部屋に戻りがてら、どうせ当の杉野本人は暫くいない為に何故自分がそう感じたのかを思案する
普通に会話する分には恐らく気づくことは無かっただろう、それほどまでに彼女は自然な笑顔の中にそう言った感情を隠していたのだと振り返ればそう思う
きっとそれは意図したものではなく、染み付いた物だからでは無いのだろうか───
(わからない…)
だがそうして考えれば考えるほど、杉野直緒と言う少女がわからなくなる…
これはまともに話したのが今日が初めてと言うことは大いにあるのだろうが、一度戦車に乗ればあれだけの指揮能力と殺気を放つ人間がどうしてあんな表情をしていたのか
考えれば考えるほど謎が深まっていく一方だった
◆
「…近日中に返しますね」
「気にしなくていい」
半ば強引に姉住さんに風呂を進められ、現在は上がって姉住さんの服に袖を通しているが
目測でも30㎝くらい背丈が違うために見事にダボダボ、オーバーサイズなんてものでは無い
そのままなら色々と見えそうになってはいたがPJのポケットにさらしが入っていた事を思い出して何とか見えないように細工が出来た
「少し席を外す…」
「ごゆっくり」
そして入れ替わるように今度は姉住さんが風呂へ向かった、ほんと色々と借りっぱなしで申し訳ないくらいだ
服は今度の休みにでも飛んできて返そう──まぁ、それはそれとして
(…気不味ッ)
無事では済まないかもと決めた覚悟とは裏腹に何故かめちゃくちゃこちらを構ってくる姉住さんには申し訳ないが、あの人元々口数少ないのもあってか西住関連以外だと非常に読みにくい
なんでこちらをここまで面倒見てくれてるかも一切不明、姉住さんに言わせれば妹の友達だからとの事だがこれは明らかに世話を焼きすぎな気がする
普通妹の友達だからって部屋に泊めるか?衛生面を考えたら風呂は貸すかも知れないが服まで貸すか?
(ダメだわからん…)
そもそも姉住さんと関わりが無かったのだから当然のごとく考えた所でその真意を読むことは出来ない、まぁ引き続き警戒はしておくものとして
あまり疑いすぎても良くないよな…悪い人でないことは確かなんだから
「待たせた」
そうこうしてる内に風呂から上がった姉住さんが戻ってきた
分かりづらいだけで悪い人じゃないんだよな、…周りからは結構誤解されてそうだけど
さっきも泊まりだからと使い捨ての歯磨きセットを一式くれたがそれを閉まっていた棚の中は未使用の同じ物でいっぱいになっていた
それとなく聞いてみたところ友達を誘ってお泊り会等してみたかったが機会がないのだと少し悲しげな表情をしていたっけ
「ベッドは君が使うと良い」
「いや、どこの世界に部屋の主より良い寝床を使う客がいますか?」
さて時間も遅いためにそろそろ寝支度を整えようといった所でまたも問題発生、そう寝床である
姉住さんの借りてるこの学生寮は一人部屋な為ベッドは一つしか無い
別に俺は床に直寝で充分なのだが姉住さんからベッドを使うように言われた、いやそれだと姉住さん寝るとこねぇじゃん
「しかし寝床が───」
「床で良いっす」
「…いや流石にそれは」
「じゃあ向こうのソファーでも貸してくださいよ」
と言うわけで床で良いと言ったのだが案の定姉住さんには渋られる、客を床で寝させる事は気が引けるのだろうか
最近周りの俺に対する扱いがぞんざいな気がしないでもないのでちょっと新鮮な気分だ、けど泊めて貰ってる身なのだからもっと雑でも良いのに
「高々一晩、足伸ばして寝れりゃ問題ねぇっす」
「…そうか」
語気を少し強めて言えば仕方ないといったような表情でソファーを借りれた、後は服に変な皺つけないようにだけ気をつければ良いか
更に時間が経過し、現在部屋の電気は消灯
時計の秒針が刻むチッチッチと言う音以外存在しない静寂の中で寝姿勢を変える
(──寝れん)
眠くはなるし欠伸も出る、しかしほぼ初対面の友達の姉と同じ部屋
しかもいつもの寝床でも無いためになんか落ち着かず、寝れたものではない
(…明日の飛行に響きそうだから早く寝てぇんだけどなぁ)
チラリと壁掛け時計へ目を向ければ電気を消してから30分程経った程度、出来れば一睡も出来ないという状況は避けたいが───
「…はぁ」
小さく溜め息を一つついてソファーから抜け出し、姉住さんを起こさないように窓のロックを解除してバルコニーへと出る
本土ではそろそろ梅雨入りではあるものの、気候の悪い地域はなるべく避けながら航行する学園艦にはあまりそう言った概念は存在しない
故にバルコニーからの景色は満天の星と眩しい程の月明かりが眠りについた甲板上の街を照らしていた
「…あ、流れ星」
見上げた空にツーッと一つ、空を切り裂くように落ちていく光を見つける
少しばかり感じるもの悲しさを誤魔化すようにポツリと、無意識の内に口をついて出たのは自分にとっては忘れてしまいたい黒歴史の一つ
「人生はこれ 欄干たる星辰の明滅の間*6、…か」
全くこんな時に出てくるのが自作の詩なのだからセンスがない、そして今改めて振り返れば我ながらクサい言葉を考えたものだ
途端に気恥ずかしくなって顔が熱くなったのを感じたので多少マシになればとパタパタと顔を扇いでみる
(あーあ、恥ずかしい恥ずかしい)
当時は自信を持って活動はしていたものの、このあとすぐに松山へ向かい地元を離れるのとそもそも有名どころの詩人と比べるとどうしても見劣りする為に諦めた夢の一つ
そう言えばあの頃出した友達への手紙には少し嫌味ったらしく「君のように趣味に勤しめる人生が羨ましい、こちらも落ち着けばそう言う生き方を歩んでみたい」と出してしまったが元気にしているだろうか
「…久々に皆に会いてぇな、シゲ*7やカズ*8とも会って話てぇし」
はぁ…と小さく溜め息を吐き、こんなことなら春休み中電話で済まさずに家に帰れば良かった等と考えてもう一度
今度はわざとらしく大きく溜め息を吐いた
(…電話するか、明日)
年齢にしてみれば俺はまだ16の若輩者ではあるが、それでも高々16年の人生でも心底痛感した事がある
それは人生とはどれだけ無限を求めた所で有限であり、永遠というものは存在しないということ
ましてや生きながらにして訪れる別れというものはある日突然、何の前ぶりもなしにやってくるということだ
…会いたい人には会える内に会っておくに越したことはない、それこそ夜空に煌めく星の点滅する間に終わってしまうのが人の一生なのだから
(そうと決まればそろそろ戻るか、今なら寝れそうだし)
春も暮れ、月的にはあと数日としない内に初夏と言えど夜はまだ冷える
涼しいを通り越して少し肌寒く、しかしそれが逆に寝れずに火照った身体を冷やして落ち着くことが出来た
「…起きてたのか」
「うわビックリした…
寝れなかったもんで夜風浴びてたんすよ」
部屋へ戻るために窓を開け、なるべく音を立てないように足を踏み入れた瞬間
姉住さんの寝ているはずのベッドの方から声を掛けられる
「なにか考え事か?」
「はぁ、まぁこっちの事で色々」
立ったままも疲れるので窓を閉めてソファーへ腰を降ろす、そのタイミングを見計らってか一尺置いて姉住さんが続けた
「…まだ時間はあるか?」
「あるにはありますよ、どうせすぐには寝れんでしょうし」
「…なら少し話がしたい」
寝転がった体勢でこちらへ背を向けていた姉住さんがゴロンと転がり姿勢を変え、向き直るようにこちらへ視線を向けてくる
…ま、流石に目を閉じて即寝落ち出来るわけでもない
寝るまで会話に付き合うのも良いだろう
「良いっすよ」
「じゃあ聞く、君のことを教えてくれ」
「これまたスゲー唐突…」
てっきりまた姉住さん主導での妹談義になると思ったが、今度はこちらの話を主導にしたいらしい
いったいどんな風の吹き回しかと思って姉住さんの方を見やれば気恥ずかしそうに視線を逸らした
「…私が一方的に喋ってばかりだったからな」
「あー…」
思えば西住の事を振ってやれば無口な印象の姉住さんが饒舌になるのでそれが面白く、姉住さんが喋りやすいように適度に相槌を打ったり時にしっかりこちらの思った事を伝えたりで聞きに徹していた
結局こちらについてはほぼ喋ってなかった事に今更ながら気がつく
「…全部が全部じゃなくて良い、さっき考えてた事とかでも良いんだが」
「いや特に大したことじゃないですけどね」
「良い、私が聞きたい」
お、なんかやけにグイグイ来るな
つってもまぁ別に面白い話でもなんでもないけど、隠すことでもねぇしなぁ
「妹が二人いるって言うのは言いましたよね」
「…あぁ、聞いた」
「久々に会いてぇなって思った、ただそれだけですよ」
ほんと、言葉にすればなんの面白みもない悩みにすらならない話である
だが姉住さんは少し考える素振りを見せてから口火を切った
「…会えないのか?」
「地元宮城なんで、西住や姉住さん達ほどじゃないですが遠いんすよ」
「…そうか」
黒森峰の母港は熊本、その点で言えば姉住さんや西住達と比べれば凄い遠いと言うわけではない
それでも普通の休日に行こうと思える距離ではない、長期休みになればその限りでは無いのだが…
「いつも後回しにしちゃって結局高校上がってから実家帰れてないんですよね…」
「…そうか」
なんだかんだ帰ろう帰ろうとは思っても色々あって気が向かなかったり、悪い癖だとはわかっているのだけど…
「…てか、話変わりますけど姉住さん西住とちゃんと仲直りしないんすか?」
「いや、それは───」
妹と言えば、散々心配してたりする姉住さんの方も西住とお互いに気不味い雰囲気を出してたな
いやその理由は聞いたけどさ
「別に嫌いなわけじゃないんでしょう?」
「それは無いッ」
「じゃあしてくださいよ、多分西住は西住で勘違いしてますよ?」
「…うっ」
西住と姉住さんの状態は起きたことが起きたことなのですごく複雑な関係で、多分互いに嫌われてるんじゃないかと勘違いしているのだろう
本来であればそれでも良いのだろうけど───
「いつでも会えるって思ってたら、知らない内に手の届かない場所に行って二度と会えなくなるかも知れませんよ」
「──何を」
「そんな時に姉住さんが納得できるならそれでも良いかもしれませんが」
まぁ、だからこそ俺も暫く会っていない妹たちに会いたいわけだが…
そんな事を思いながら姉住さんの方を見るとやけに真剣に、それでいてどこか苦しそうに思い悩んでいる表情をしていた
「…良いわけない、良いわけがないだろう」
当たり前だと思っていた事の概念が崩れたからか、なにかに怯えるように小さく縮こまりながら姉住さんは続けた
「──だけど…私は」
「じゃあこうしましょう、公式戦も決勝まで行けば嫌でも姉住さん達と当たりますし
途中で俺等が負けたり、黒森峰に勝てなければ微力ながら仲直りの手伝いをさせていただきます」
しかし次第に言い淀む姉住さんに仕方無しに助け舟を出す、全く姉の苦労と言うものがわからなくも無いから見てるだけというのは辛いものだ
「その代わりウチが勝ったら姉住さんは自力で仲直りしてくださいよ?」
「…良いのか?」
姉住さんからしたら破格の条件だからか本当にそれで良いのかと確認するように聞かれるが、言った事は曲げない主義だから安心して欲しい…
それにもう勝ったと思うのも早計な話だ
「良いですよ?だって負ける気ありませんし」
「…中々言うな」
そう負ける気は無い、どこが相手だろうが
勝てるかどうかギリギリの試合は今後も経験するだろうが、まず気持ちで負けていてはお話にならない為気持ちの上ではどこまでも勝つ所存である──安全な範囲でな
「…しかし、問題が一つあってな
実はお母様がみほがまだ戦車道を続けていることを知らないんだ」
「あー…」
お母様、つまりそれは西住流師範と言うことだろう
…なるほど事情を知らずに西住が今も戦車道を続け、あまつさえ勝ち進んでいけば十連覇を逃すきっかけとなった存在が今度は母校に弓を引こうとしてるように映っちまうな
絶対に一悶着あるわコレ
「お母様に知られたら何と言うか…」
「──大丈夫ですよ、もし何か問題が起これば俺がその師範のケツを蹴飛ばしてやりますから」
不安そうにつぶやく姉住さんを安心させるためにそう言って見ると一瞬で真顔になってピタリと動かなくなった
…なんだ?コレはどっちだ?流石に師範をけなすように言われて怒ってるのか?それとも大丈夫な方なのか??
「──ぷっ」
時間にしては数秒だろうが、体感的に長く続いた沈黙を打ち破ったのは吹き出しながら枕に顔を埋める姉住さんだった
「く、くくく…あはははッ
そ、そうか!お母様の尻を蹴飛ばすか…ッ」
「…そんなツボります?それ」
悶えるように身体をバタバタと動かして苦しそうに笑う姉住さんは多分初めて見る素の笑い方だろう
…いや、良いの?一応お母さん蹴るって公言しちゃってるんだけど
「す、すまない…あまりにも面白くてな
だが良いなそれは、ぜひ見てみたい」
「いや、良いんですか?」
まだ笑いのツボから抜け出せないのか赤くなった顔でプルプルと震えながら、目尻の涙を指で拭いつつ凄く純粋な笑みを向けてくる
「あぁ、お金を払ってでも見たいくらいだ」
「いや別に取りませんけど、え?そこまでっすか?」
逆に家元の存在が些かぞんざいではないのかと俺は思わず心配になった
◆
夜が開けて朝になりソファーから立ち上がって身支度を開始、それが終わった頃には壁掛け時計の針は8時前を指していた
「おはようございます」
「…あぁおはよう」
キッチンの方で何やら調理する音が聞こえたので足を踏み入れてみれば姉住さんが朝食を作っていた、口数が少ないのは今まで通りだが何処となく表情が柔らかい気がする(当社比)
「パンを焼いたのだが」
「1枚貰えます?」
「コーヒーと紅茶は?」
「……紅茶ください」
なんと朝は姉住さんがごちそうしてくれるみたいなので眠気覚ましに洗面所に洗顔と歯を磨きに行く、それが終われば朝食前にやることが一つ───
「ちょっとバルコニー借りますよ」
「…あぁ」
というのもなんてことはない、日課になっている朝の体操である
流石に家の中では出来ないため姉住さんから許可を得ていつも通りの体操に勤しむ
…あー、やっぱり身体動かせば一気に目が覚めるな
「毎日やってるのか?」
「えぇ、やっぱり脳を起こすには身体を動かすのが一番っすから」
少しして体操を終え、中に戻ればいつから見ていたのか姉住さんからそんな事を聞かれる
勿論よっぽどの事がない限りは1年365日、雨が降ろうが雪が降ろうが室内に避難してでも継続している日課である
「朝食の用意は済んでる」
「御相伴に預かります」
先程まで寝るために使っていたソファーの前のテーブルには姉住さんの分の俺の分と思われる朝食を乗せた皿が置かれている
内容はトーストの上に焼いたベーコンと目玉焼き、シンプルではあるが美味しそうだ
横に置かれたマグカップにはそれぞれ紅茶とコーヒーが入れられていた
「「いただきます」」
互いに手を合わせてトーストに手を付ける、身体を動かして小腹が空いていた為に少しどっしりとしたこのメニューは嬉しい
そしてパンに持っていかれた口の中の水分は紅茶で潤す、無糖故に感じる甘みは茶葉本来のほんのりとした物だがそれが寝起きの身体には優しくしみていく
「ご馳走様です、美味しかったですよ」
「お粗末様」
黙々と食べ勧めて完食し、姉住さんに一言お礼を言ってからせめてもの使った食器だけは洗っておく
それが済めば帰りの時間だ
「お世話になりました」
「今度は学園の方にも来ると良い、歓迎しよう」
寮の玄関口で姉住さんと別れて帰路につく、結構打ち解けられたのではないだろうか…
服を返しにどのみち近い内にまた来なくてはならないが、社交辞令の言わなそうな姉住さんが歓迎するとまで言ってくれているのだ
もう流石にこの人口数が少なかったり色々端折ってるだけで割とストレートに伝えてる事がなんとなくわかったしな
(…あ、西住たちからメール来てる)
紫電改を預かってもらってる警備隊の敷地がある方に戻りがてら、歩きのままケータイを開けば幾つかのメールが届いていた
どうやら読み通り今日は冷泉のおばあちゃんのお見舞いに行くようだ、学園艦から小型船に乗り換えて大洗へ行くようだが記載されている時間的には少しだけ余裕がある
(──了解っと)
出来れば来て欲しいとの事で特にこれと言った予定も無いため了承の返信をしてフォルダを戻れば愛里寿からの定期メールが届いていた
────────
送信者:愛里寿
件名:また会えないかな?
本文:今度こっち来れるときがあればまた会って話たいんだけど…
空いてるときっていつになりそう?
────────
(あー…)
一応メールは毎日欠かさずしてる為、愛里寿にこちらが学園艦住みなことは伝えてある
だから中々会えないと言うのは向こうもわかっているが、ウチの隊長様と似て少し人と関わるのが苦手そうな雰囲気のある愛里寿からのせっかくのお誘いなので無下には出来ない
(とりあえず寄港日確認しねぇとな)
とはいえ大会期間中は入り用な物が多いということもあり、去年に比べて寄港回数が増えるといつだかの練習時に生徒会からアナウンスがあった
それほど遠くなく近々寄港する日がある筈なのでその旨を含めて愛里寿への返信を返す
「…一応は休日だけど、出てくれるかね」
そしてそのまま電話帳へ飛んで目当ての人物の所で通話ボタンをタップする
休日ではあるもののまだ朝は早い、もしかしたらまだ寝ているかもと言う不安はあったが
数コールの内に回線の繋がった音がした
『…姉さまですか?』
「──おぅ、シゲ久しぶり」
掛けた相手は妹の一人、
春休み中に何度か電話で話して以来だからか電波越しでも嬉しそうな声を上げるシゲに自然と頬が緩んでいくのを自覚した
『珍しいですね!姉さまからかけてくれるなんて』
「…あぁ、大したことじゃない
ただ──そうだな───」
少し気恥ずかしくなり言葉に詰まる、だがたまにくらい自分の気持ちに正直になったって良いはずだ
「…無性に声が聞きたくなったんだよ」
『姉さま…』
「母さんたちやカズに変わりはないか?」
『はい!…和子はまだ寝てますけど、母さまか父さまに変わりましょうか?』
せっかくのシゲの申し出ではあるが電話を変わるのは断った、帰省したら顔を合わせなきゃならないのは変わらないが
散々好き放題してきて挙げ句高校に上がってからも一度も顔を出さない愚娘な為に電話越しで何を話せば良いかわからない、いやこれじゃただの親不孝者だな
『…姉さまは、いつ頃帰られるのですか?』
「…今年の夏休みにはなんとか」
『本当ですかッ!帰って来れるんですね!!』
よほど嬉しかったのか途端にスピーカーモードに入れたかのような大音量でシゲが騒ぎ始める
まだ先のことなのに帰るといっただけでコレだ、ここまで慕われている俺は姉として幸せものだと思う
絶対帰ろう今年は
「──元気な声を聞けて安心したよ」
『あッ!待ってください』
変わりが無いようで何よりと、そろそろ警備隊の敷地に入り為に通話を切ろうとした所で慌てたようなシゲに止められた
『──また近い内に電話ください、姉さまの事ですから忙しいんじゃないかと私からかけるのは抵抗があって』
「シゲからの電話なら必ず出るから安心しろ
…でもそうだな、また近々かけるよ」
『絶対ですよ!約束ですからねッ』
小さな約束事ではあるがそれでも心底嬉しそうにしているシゲとの通話を名残惜しいが終了して
警備隊の事務所の方へと歩みを勧める、心做しかいつもよりかは足取りが軽く感じた
前回に比べると難産でしたね…
苦手な日常パート、苦手な姉住さんのロールプレイ
…あと実は去年仕事辞めて日本全国を旅して回るのに職を日雇いに切り替えて旅費を貯めてたのですが、そろそろ就活しようと準備してたのもあって遅れました
多分就職したらまた投稿ペース落ちます
前回読者様のSAN値を削らせていただきましたが多分まだ気づかれていない伏線が幾つかあるので、そのカードを切ってどんな反応を貰えるか楽しみですね
あと姉住さんロールプレイしてるとコレは違うんじゃないかと雛見沢症候群ばりに疑心暗鬼になりますが個人的に天然で少しポンコツな姉住さんが好きなのでこうなりました、文句は認めます
はい、話を変えまして皆さん
大事なことなので何度も言わせていただきます
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またいつもの如く誤字脱字は発見次第直して行きます
以上です