ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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やっと、やっとここまで書けた
私的にはようやくここがスタートラインみたいなもんです



再会

 

 

大洗の学園艦に戻り、乗って帰ってきた紫電改の収容や車に乗り換えて家に戻ってシャワーを浴びたり着替えたり洗濯をしたりとしている内にいつの間にやら約束の時間付近になった事で慌てて家を飛び出る事となった

 

(…思ったより時間食っちったな)

 

自身の身体から普段遣いしているものとは違う石鹸の匂いがするというのは中々落ち着かない、普段でさえ学園備え付けの大浴場で風呂に入った時も家に戻ったら即入り直しているくらい違う匂いがするのは何やら気持ちがすっきりといかないのだ

 

____チュィイイイ…キョカッゴォッゴゴォッゴォッ

 

(あー…落ち着く)

 

車内という密閉空間には愛用している甘めのベリー系の芳香剤が充満しており鼻腔をくすぐる、いつもの石鹸、いつもの洗濯洗剤の香り、そしていつもの匂いの一端である芳香剤

全てがいつも通りで初めてどこか安心できる

ほんの30分程前まで暖気をしてからこちらに乗って返ってくると手順だったので始動させた車のエンジンはそこそこ暖まっておりそのまま発進出来そうだ

 

(油圧、水温、油温、異常なし)

 

中央のエアコン吹出口の上部に並べた3つのメーターと運転席側ピラーに取り付けられた残り3つ、計6つの追加メーターが一斉に動き出し『ピッ』と言う電子音と共に一定の位置で針が収まり安定しているのを目視で確認

現状は特に異常の発生していない事を確認してからクラッチペダルを奥まで踏み込みシフトレバーを1速の位置へ入れてゆっくりと敷地から出ていく、いつもと変わらない風景や甲板上の町並みを眺めながら暫く車を走らせれば10分としない内に目的地周辺へと着き

ウィンカーを炊いて積み込み甲板のある地下の方へと潜って行き、空いていた駐車スペースに目星をつける

 

「杉野さ〜ん!」

 

「…もう皆来てんのか」

 

何度か切り返しながらバックをしてスペース内に車を収めてエンジンを切り、外へ出ると少し離れた待合室から西住がこちらへ手を振っているのが見えた

その近くには秋山とお見舞い用だと思われる花束を抱えた五十鈴もいた為に俺がドンケツである

 

「おはようさん、早いなぁお前ら」

 

「あ、いえ…」

 

「私達も先程ついたばかりです」

 

んだら(それなら)いがった(良かった)きっと(けど)さぁ」

 

車の鍵をかけて待合室に到着すると、まだ大洗本土へ向かう小型船の到着する10分程前である

一番乗りは無理でも流石に最後ということはないだろうと踏んでいたのだが秋山や五十鈴から聞く限りでは来たばかりらしいし深く考えないようにしようか

 

「…ところで杉野さん」

 

「ん?」

 

あと少ししたら船が来るとはいえ立って待つのも中々にしんどいので座り直した3人の近くに腰を掛け、足を組んだところで西住から質問するように声を掛けられた

 

「毎度私服の様子が悪いような」

 

「…おぅ、わかってる

わかってるけどここに至るまでの長い道のりでこの格好が一番面倒事を避けれる事に気付いたわけだから触れないでくれ」

 

当然俺の私服といえば普通の女の子のしない格好である、それでも今日なんかは他所様のお見舞いに行くわけだし飾り物は無しで黒無地のフーディ(オーバーサイズ)とワイドデニムに白いスニーカーを履き

まだ完全には消えていない隈を隠すのに目の周囲全体に薄っすらと黒のアイシャドウを引いて、普段の俺からしたらかなり大人しめの見た目にしてる

 

「ただ、前に見たときよりは落ち着いた見た目ですね」

 

「流石に友達のばあちゃんの印象は悪くしたくねぇっしょ」

 

以前もっと普段の格好に近い格好を間近で見せた秋山なんかはこれでもマシだとわかっているのだろう、いや俺も流石に友達の親族に見せる格好は多少考えるよ

 

「前もズボンだったよね」

 

「動きやすいし楽だからな、それに制服とPJの物以外スカート持ってねぇのよ」

 

「…女の子としてそれはどうかと」

 

サンダースの帰りに秋山の家で西住達にあったときもズボン、というか私服のスカートなど持ち合わせていない為に小首を傾げながら聞いてきた西住にそう答えると俺以外の3人がピタリと止まり

言いにくそうにズボンを履いてる秋山がそう言った、裏切り者め

 

「秋山だってズボンじゃん」

 

「…確かに動きやすいってことには同意できますし、どちらかと言えば私もズボン派ですけど

流石に私服用のスカートだって結構持ってますよ」

 

集中砲火を受けて思わず押し黙る、秋山こういう所ちゃんと女の子してるものな

俺なんか楽で実用的な格好なら絶対そっちのが良いとしか思わんものね…え?女の子としては終わってる?ほっとけ

 

「まぁ適材適所だな、お前らは可愛いから似合って良いだろうけど俺にゃ似合わんべ」

 

許されるなら制服もPJもスカートの下にジャージ履きたいくらいだ、多分許可が降りないからスパッツで我慢してるけどさ

…あれ?なんか3人共黙ったままでどうしたんだろ

 

「杉野さん中々大胆ですね…」

「おそらく他意もなしに本心から言ってるよねあれ…」

「一番たちが悪いじゃないですか」

 

何やら3人は耳打ちするようにコソコソと話始め、頷きあってから代表するように西住が口を開く

 

「杉野さんだって可愛いよ」

 

「…ありがとな、そう言われるのお世辞でも嬉しいわ」

 

少し気を使わせてしまっただろうか、まぁ背丈もあって変なのおびき寄せないって意味も込めてるが西住や五十鈴のような典型的な可愛らしいファッションは似合わない事は自分がよく理解してる

とはいえそれでも年頃の女だからな、友達に言われるのはお世辞だろうが嬉しいものだ

 

「…いやお世辞なんかじゃないんだけど」

 

「気を使ってくれるのは有り難いけど、初対面の奴とかには圧倒的に怖がられる事のが多いからな?

自分の顔くらい自分が一番わかってるよ」

 

否定してくれる西住には悪いが悲しい現実である、振り返れば澤からは悲鳴をあげられ愛里寿には顔を青くされた

あとすぐに打ち解けられたとはいえ西住にも一番最初は怖がられてた気がする、同じ吊り目でも優しい顔立ちをした姉や目が丸くて大きい妹のように何故なれなかったのかは永遠の議題である

 

「──杉野さん」

 

「ん?」

 

「今度皆と一緒にお洋服買いに行かない?」

 

等と考えていれば西住から皆との買い物に誘われる

服──服かぁ、そう言えば友達等と服なんて買いに行くのは一体何年ぶりだろうか

まったく無かった訳では無いが相当昔に片手で収まる程度しかない気がする

 

「…別にいいけど」

 

「本当!?」

 

「おぅ、同年代の流行に触れるいい機会だな」

 

結局色々な面倒事を避けるためのファッションであって別に絶対これじゃなきゃ表に出ないだとかそこまでこだわりのあるわけではない、一着くらい年相応の物は持っておくべきだろう

決して不安そうな西住に負けたとかそういうわけでは断じてない

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな会話も続けている内に時間となった為乗船予定だった船に乗り、遠路…というほど遠路でもないのだが遥々陸の大洗へ

前に来たときと特に何かが変わってるでもなし、そのまま電車とバスを乗り継ぎ目的地である病院までは特に何事もなく辿り着いた

 

「1029室だって」

 

「おぉ、ずいぶん遠いね」

 

西住が冷泉家の病室を聞きに行った為3人で邪魔にならない近場の隅に陣取っていると聞き終えた西住が戻って来て開口一番に病室番号を伝えてくれた

数字から察するに10階、ずいぶん遠いなと思いながら通路に書かれた案内板に沿って移動を開始しエレベーターへと乗り込む

文明の利器サマサマだ、階段移動だったら行きだけで気落ちしちゃうもんね

 

「…ここですね」

 

そんなこんなで花を持った五十鈴を先頭に10階までエレベーターでひとっ飛びして通路を少し歩けば目的の病室へたどり着く、病室の札に冷泉と書いてあるので間違いは無いはず

しかし戸を開こうと伸ばした五十鈴の手は戸に触れる直前にピタリと止まる、いったい何事かと視線を向けた直後

 

「もういいから帰りな!!」

 

病室の壁を貫通するほどの怒声が上がった

…いや、これは中々───

 

「強烈だな」

 

「言ってる場合です?」

 

どこか幼き日の自身を叱りつける母を思い出すような扉の向こうの知らない声にポツリと呟けば横では気圧されたのか怖気付いた様子の秋山がそんな事を言った

 

「…なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてんのかい!?

──全くお前はいつも返事も愛想もなさすぎなんだよ!!」

 

「そんなに怒鳴ってるとまた血圧上がるから…」

 

再度怒声が聞こえるとワンテンポ遅れて冷泉の声が聞こえる、スゲェなタジタジになってる冷泉なんて珍しい

まあそれだけ頭が上がらないって事だろうし、ここまで言われても反論という反論はない時点で厳しくても慕う何かがあるんだろうな

 

「か、帰ります…?」

 

「いくら何でもそれは早ぇーべ」

 

部屋の前まで来ただけで顔すら見てないのに帰宅を提案する秋山に思わず吹き出してしまう、確かに秋山って変なところで気が弱くて見るからに荒事慣れしてなさそうだもんな

俺なんてもう物心ついた頃から怒られまくったせいか他人の怒鳴り声聞いた所で当事者が自分で無い限りは特に何とも思わない、ただその怒鳴り声で周囲にいる人が「わぁ…」ってなるのが嫌いなのでそれを見ない為に俺自身よっぽどの事がない限りは怒らないようにしてるし、身内で怒ってるのがいるなら冗談で済む内に徹底的に茶化してなぁなぁにしてる

根本は解決しないのであんまり良くは無いかもしれないけどね

 

「いえ、せっかく来たんですしここは突撃です」

 

「五十鈴殿も案外肝座ってますよね」

 

「いいじゃん頼もしくて」

 

一切引かずに突入しようとする五十鈴とそれを苦笑いで見つめる秋山、そうは言っても仲間として見るなら心強いじゃんか

反面本人の偏った反社知識だけはどうにかした方が良いんじゃないかとは思うけど…

 

「──失礼します」

 

ドアを3回ノックした後に五十鈴が病室の戸を開ける、中には冷泉と武部

そしてベッドで座っている冷泉のおばあちゃんと思われる高齢の女性の3人がいた

 

「あ、華!」

 

「失礼します」

 

「みぽりんとゆかりん、それにナオも…入って入って!」

 

戸を開けた事で3人の視線はこちらに向き、武部が真っ先に先頭の五十鈴に気づいたようで

五十鈴はペコリと一度会釈してから入室する、後続の西住も会釈と共に室内へ

少し遅れて秋山、俺の順で続く

 

「なんだい?あんた達は?」

 

訝しんだ様子でジロリとこちらを一瞥し、冷泉が戦車道仲間であり友達だと答えれば少しだけ驚いたように聞き返していた

まぁ多分肉親なだけあって俺等よりももっと深く冷泉自身の性格を知っているのだろうし、そんなアクティブな事をするのが意外だったのだろう

 

「あ、西住みほです」

 

「五十鈴華です」

 

「秋山優花里です」

 

「杉野直緒、乗ってる車輌は違いますが友人としてお世話になってます」

 

再度視線がこちらへ向いた為に西住を筆頭に次々自己紹介をしていく、こういう時皆同じ車輌だから良いよな〜

俺だけ別個だからちょっと疎外感…あれ?なんか冷泉のおばあちゃんめっちゃこっち見てない?

 

「…じゃああんたも高校生だって言うのかい」

 

「まぁ、一応は16歳でお孫さんと同じく2年ですね」

 

目を丸くして聞き返す冷泉のおばあちゃんに何だいつものことかと合点が行く、ふと視線を冷泉の方へ向けてみたら表情が引き攣っていた

冷泉も冷泉であんこうチームの中では一番背は低いとは言え俺からすれば全然高いからなぁ…羨ましい、ちょっとで良いから分けてくんね?

 

「──ま、ウチの孫も年の割には背丈がないし

そういう事もあるかね」

 

「はぁ、出来れば成長期の止まる前に伸びて欲しいもんですがね」

 

少し考え込んでから冷泉のおばあちゃんは自己完結したように一人で納得してそう言う、俺からしたらもっと背は伸びてくれなきゃ困るからそういうものでは済ませたくはないと反論だけしておいた

 

「そういえば私達、全国大会一回戦勝ったんだよ!」

 

「んな一回戦ぐらい勝てなくてどうするんだい」

 

皆の事から俺の事へと話が逸れたので武部が昨日の試合の事についてそれは嬉しそうに報告しているのだが一瞬でバッサリと切り捨てられていた、うーんドライだなぁ

 

「んで、その戦車さん達がどうしたんだい?」

 

「試合の後おばぁが倒れたって連絡が、それで心配になってお見舞いに…」

 

「あたしじゃなくてあんたを心配してくれたんだろッ!」

 

「…わかってるよ」

 

あ、いや違うな

コレ言葉強く言ってるけど冷泉のこと凄い心配してるだけだ

スゲェ、昨日無口で基本読み辛い姉住さんといたおかげかすんなり言葉の裏が理解できる

 

「だったらちゃんとお礼言いな…」

 

「わざわざ、ありがとう」

 

「少しは愛想よく言いなッ!」

 

「…ありがとう」

 

「さっきと同じだよッ!!」

 

…コントかな?

しかし弱点なのはわかってたけどおばあちゃん相手だとこうも冷泉がやられっぱなしとはなぁ、もうプロレスだって事も理解出来たから安心してみてられるけども

何なら笑っちゃいけないんだろうけどちょっと吹き出しそう

 

「お婆ちゃん、今朝まで意識が無かったんだけど

目が覚めるなりこれなんだもん───」

 

「寝てなんかいられないよッ!明日には退院するからね」

 

武部曰く結構ヤバそうな状態だった割にはパワフルなばあちゃんである、もしくは冷泉に無駄な心配を掛けたくなくて無理して大丈夫なように振る舞っているのだろう…ははぁん、ツンデレ?

 

「──あの、花瓶あります?」

 

「無いけど、ナースセンターで借りられると思うよ?」

 

再度始まった冷泉と冷泉のばあちゃんのプロレスもとい口論を差し置き、五十鈴は持ってきた花を飾ろうと花瓶の有無を武部に聞いていた

どうやら二人は花瓶を借りにナースセンターまで行くようだ、こっちはこっちでブレないねホント

 

「…あんたらもこんな所で油売ってないで戦車に注油したらどうだい?」

 

「上手いッ」

 

「「「…杉野さん(殿)??」」」

 

五十鈴と武部がいなくなり、冷泉との口論も一段落ついたのか

冷泉のおばあちゃんがそんな事を言った為つい条件反射で反応してしまい残る西住・秋山・冷泉から困惑したような呆れたような何とも言えない感情のこもった一言をいただいた

しょうがないやん上手いと思ったんだから、冷泉のおばあちゃん半端ないって、普通できひんやんあんな切り出し方

 

「──お前もさっさと帰りな

…どうせ皆さんの足引っ張ってるだけだろうけどさ」

 

「そんな、麻子さん…試合の時いつも冷静で助かってます」

 

「それに戦車の操縦がとても上手で、憧れてます!」

 

頬を搔きつつ何故か言った本人が恥ずかしそうに──まって何であんたがそんな反応するんだよ

そして話題を変えるためか冷泉へ帰るように促し、ついでに余計な心配をかけないようにもするためか口調を荒げて敢えて卑下するように言う

それに即座に反応、否定するのは西住と秋山だがそれを一蹴するようにフンッと一度鼻を鳴らして続ける

 

「戦車が操縦出来たって、おまんま食べらんないだろう?」

 

「食えますよ?」

 

「えっ」

 

どうやら戦車道を続けた先のことを考えていたようなので、当然戦車道で飯が食えると反論すると予想外だったのかきょとんとした様子で冷泉のおばあちゃんが聞き返すようにこちらに視線を向けてくる

 

「確かに戦車道は近年日本では競技人口は減ってきてましたが、これまででもプロへ進む人間やそのまま自衛隊に流れる人間は多くいました

それが近い将来世界リーグなんて物を設立するらしくて競技人口を増やそう増やそうと躍起になってるみたいで、まぁ冷泉程の腕ならこのまま行けば本人が嫌がらない限りプロ入り出来るでしょうね」

 

「…そ、そうかい」

 

それこそ流派とか作ればもう凄い金額が動くことになるよね、横にいる西住は流派に今現在に至るまで苦しめられてるから言わないけどさ

そんでもって冷泉のばあちゃんは考え込むように目を見開いたまま下を見て少しボーっとしていたが、考えがまとまったのか顔を上げると冷泉の方をキッと睨みつけた

 

「──食い扶持を稼げる折角のチャンスなんだ、しっかりやりなッ」

 

「お、おばぁ…変わり身が早い」

 

「ちゃんとおまんま食べられるなら話は別だよッ」

 

打って変わって冷泉にそう言う姿に当の冷泉は呆れ顔だし西住も秋山も苦笑いだ

…だけどこのおばあちゃんの気持ちもわからなくもない、どうしたって歳を考えれば冷泉より先におばあちゃんの方が逝ってしまう

そんな時に残された冷泉がしっかり安定した基盤のもとで食っていけるかどうか、そこが心配なんだろ───

…あれ?そういや冷泉の両親の話ってここに至るまで一切聞かないってどういうことなんだ??

 

(どうにも引っかかるな…)

 

まぁ、本人から聞いてない以上いくら考えたところで分かるはずがないのだが…

そうこうしている内に花を花瓶に生けた五十鈴と武部が戻ってきたのでそのモヤモヤを追い払うように考えることをやめた

 

「…じゃあおばぁ、また来るよ」

 

病室の窓際に五十鈴が生けた花瓶の花を飾って少ししてから冷泉はやっと安心できたのかそう切り出して病室を後にする、それに続くように武部・五十鈴・秋山・俺・西住と部屋を出ていき

最後尾の西住が丁度病室を出る辺りのこと

 

「…あんな愛想のない子だけどね、よろしく」

 

そんな少しだけ不安げな、それでいて託すような冷泉のおばあちゃんの声が微かに聞こえてきて

即答するように西住が返事をしていた、やっぱりあのおばあちゃん冷泉のこと大好きじゃん

…ちょっとツンが多いけど

 

 

 

 

 

 

帰りの電車の中、緊張が解れたからか寝てしまった冷泉に膝枕をしつつ武部は優しく手櫛で髪をとかすように膝の上の冷泉を撫でていた

 

「麻子さんのおばあさん、元気そうで良かったね───」

 

ひとまずは容態に問題がなさそうと言うこともあり、安心したように切り出して話す西住・五十鈴・秋山・武部の四人とは別に窓から空と景色を眺めていた

もうすっかり夕暮れ時で周囲の景色は濃いオレンジ色に染まっている、ほんの24時間前は慌て果てていた冷泉も今では幸せそうな顔で夢の中だ

 

「──卒業して早く一緒に居てあげたいみたい」

 

所々の会話を拾いながらゆっくりと流れる景色を楽しんでいれば大洗駅についたようだ、ここから学園艦へ戻る小型船が出る乗り場まではバスに乗り換え

…それにしても冷泉も冷泉のおばあちゃんも思いは違えどその本質は同じなわけね

 

「──マコ、昨日あまり寝てないんだ

お婆ちゃん、もう何度も倒れてて……」

 

もうすっかり日の暮れた大洗の街を背にバスに乗り込み、途中冷泉を背負っていた五十鈴に皆で手を貸して武部曰く心配で寝れなかった冷泉を起こさないようにバスへと運び入れていく

船に乗っちゃえば足伸ばして寝させてやれるんだけど流石にバスみたいな公共の乗り物は中々厳しいものがあるな

 

「お婆さまがご無事で安心したのかも」

 

「でも、昨日は凄く動揺してましたね…

あんな冷泉殿を見たのは初めてです…」

 

「前に武部が言ってたので片鱗は見えてたけどな」

 

五十鈴が寝ている冷泉に視線を向けながら呟き、秋山は未だ心配そうに続ける

まぁ武部が冷泉が戦車道辞めるって言い出した時におばあちゃんのこと口走った時も酷く動揺してたからあのおばあちゃんが冷泉にとっての弁慶の泣き所なんだろう

 

「たった一人の家族だから」

 

「っ…」

 

武部の放った予想外の───いや、予想は出来てもどこか見ないふりをしていた事実に思わず自分の表情が強張ったのを自覚する

そうだ…予想は出来てたんだ

だって今まで冷泉の両親の話、一度も出てきた事なんて無かったんだから

 

「え…ご両親は…」

 

「マコが小学生の頃に事故で」

 

思わずと言った様子で聞き返す西住に、武部は冷泉の両親がいない理由を語る

人とは見かけによらず様々な事情を抱えているものであり、西住や五十鈴や冷泉しかりそこに例外はない

…だが叶うのであれば、その悲しみという重い荷物を少しでも良いから共に背負ってやりたいと思うことは傲慢だろうか

結局俺は皆の家庭の事情もよく知らないし、友達と言えどたかが他人が何を知った口をと言われれば返す言葉も持ち合わせていない

 

(だけどやっぱり、友達の悲しそうな顔だけは見たくねぇな)

 

俺は身勝手な人間だから、仲間や友達と思える人にはいつまでも周りで笑っていてほしい

例えそれが自惚れや傲慢であるならそれで構わない、悲しみに寄り添い少しでも心を慰めてやれるなら充分だ

きっと人間性とはそういう物ではないのかと、俺は思うから

 

 

 

 

 

 

 

 

フェリーの乗り場から小型船で学園艦へ戻る道すがら、席を外して自販機にて何本か飲み物を見繕い

ついでに軽く散歩でもしようかと外に出る、完全に日も落ちて甲板から見える海は行きは青々して見えたのに今では重油のように真っ黒だ

 

(…あれ?西住───)

 

買った内の一本、紙パックのおいしい牛乳にストローを刺して喉を潤しながら探索していると甲板の一角で遠くを見つめる西住の姿を見つけた為近寄っていく

 

「西住、あにしてっだ?こんなとこで」

 

「杉野さん──」

 

声を掛け、振り返る西住はどこか悩んでいるような表情をしていたのでそのまま右隣へと移動する

 

「どこか行ってたの?いつの間にかいなくなってたから」

 

「自販機、ついでに今は散歩中だ」

 

特に何も言わず出てきたが別に隠すものでもないので聞かれた手前飲み物を買いに行っていた事を伝え、ついでに余分に買っておいた缶の飲み物を二本ポケットから取り出す

 

「ココアとカフェオレあるけどどっちがいい?」

 

「…じゃあココアで」

 

「ん」

 

二本の内の一本、西住の選んだココアを渡せば彼女はありがとうと一言お礼を言って表情を綻ばせた

 

「──あ、二人ともこんな所いたんだ」

 

次いでこちらを探していたと思われる様子の武部が時間を置かずにやって来た

…そう言えば俺、武部、西住という3人メンツも中々珍しい気がするな

二人だけなのもよくあるけど普段は五十鈴だとか秋山のどちらかが追加でいる、冷泉は気分屋だからいる時いない時で半々くらいか

 

「みんなは?」

 

「寝てる」

 

「流石にお疲れかね」

 

来たのが武部一人だったので他のみんなはどうしたのかと西住が聞けば武部曰く寝てしまってるとの事だった

昨日試合が終わってから一晩程度の休息、しかも今日は今日で予定が朝からだったし若いと言えど色々疲労も溜まっていたのだろう

 

「コーヒーでいいか?」

 

「くれるの?ありがと」

 

「余りモンで悪いけどな」

 

「ううん、充分嬉しいよ」

 

ポケットに残っていたカフェオレの缶を武部に差し出し、一言二言言葉を交わして武部は受け取った缶のプルタブを開けながら西住の左隣に位置取るように移動し口を開く

 

「それにしても二人してこんな所でどうしたの?」

 

「俺ァ散歩してた時に西住見つけたから来ただけ」

 

「…私はちょっと考え事、かなぁ」

 

西住同様少しだけ前のめりに手摺へ身を預けながら武部が言い缶の中身を一口含む、別に何かあるわけでもないため西住を見つけたから来たことを言って甲板の手摺に背を預け星が見える頃合いの空を眺める

隣の西住は悩んでいると言う読みが半分当たっていたようで考え事をしていたと答えた

 

「考え事?」

 

「大したことじゃないの

…ただ、みんな色々あるんだなぁって」

 

反応するように言った武部に西住はそう続け、その口調がいつもよりも弱々しかった為に空を見つめることをやめて西住の方へ視線を移すとどこか不安げな表情をしている

 

「…マコの事?」

 

「──うん」

 

こういった会話から考えてる事を読む事に長けているコミュ力オバケな武部はすぐに勘付いたのか、船に乗り込む前に話題に出していた冷泉の事かと確認を取るように聞けば西住は肯定して頷く

 

「…マコね、前にみぽりんのこと心配してたよ?」

 

「えっ」

 

かなりデリケートな話題であるため、ある程度は聞くだけに留めようと片手に持った紙パックの牛乳に口をつける

 

「みぽりん、一人で大洗に来たじゃない?家族と離れて

マコのお母さんってさ、お婆ちゃんにそっくりで」

 

少し意外…と言っては失礼かもしれないが、いっとき西住達と帰りの被らない時があったのでその時にでも多少転校してきた理由は話していたのだろう

しかしあの冷泉も心配するほどなのだから、やっぱり俺以外にも西住が最初の頃は切羽詰まったような表情をしていたのに気付いた者がいたのかと自分のことではないがどこか嬉しく感じた

 

「──亡くなる前に喧嘩しちゃったんだって、謝れなかったってずっと後悔してるの」

 

次いで放たれた武部のその一言で瞬時に鼓動が脈打つのが早くなって、思わず手に持っていた紙パックを甲板に取り落としてしまう

 

「…ナオ?」

 

「…悪ィ、なんでもねぇ」

 

ふぅ…と小さく、それでいて深く息を吐き出せばひとまず乱れそうになった呼吸も荒く脈打つ鼓動も冷静を保てる範囲に落ち着いたためこちらへ視線を向けてくる二人に一言謝って甲板に落ちた紙パックを拾い上げる

視線を戻せば心配そうにこちらを見つめる二人と目が合った為誤魔化すように空いた手で頭を掻きながら口を開く

 

「…なんでもないけど、それは辛かったろうな」

 

どこか納得は行ってなさそうではあったけど、二人はそっかと呟いて視線を落とす

俺は再度手摺に背を預けて中身のだいぶ減った牛乳を喉が訴える乾きを潤すために飲み干した

頭を過ぎるのは、三度目の取り返しのつかない後悔をしたあの日の事だ

 

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今から2年前の4月20日、鹿屋から国分へ部隊の本拠地を移して3日目を迎えた日の晩

初めて俺は戦407(天誅組)の林重子隊長と真っ向から意見が対立することになった

その日の議題は新たに敵チームが投入するようになった新しい戦車や、バラけた戦闘は不利になると密集隊列を組むようになった敵編隊への攻略法について

俺は高い技量と危険も伴うが高確率で撃破が可能になる策を、林隊長は練度が低くても出来るが撃破できる可能性もまた低い策を出してお互いの考えの違いで次第に口論へと発展していく事ととなった

この僅か5日前に343戦車隊(剣部隊)で初めての死亡事故が発生したにも関わらず弔いの意味も込めてか士気は全く衰えることは無かった、しかし4月に入って思った以上に戦果が上がらず

また出撃を重ねる程毎度のように脱退者がでてしまっていた現状に人一倍責任感の強かった林隊長は重圧を感じていたのだろう

 

「──明日、1輌の撃破も出来なければもう私は帰ってこない覚悟でいます」

 

口論の折、そんな事を言い出した林隊長に底知れない不安は感じていたが隊を取り巻く状況がお互いになぁなぁで収めることを許さなかった

 

「…そこまでする必要は無いでしょう、運が悪く撃破出来ない日だってあるじゃないですか

そういう時はまた次の機会に───」

 

「──いや、杉野隊長

貴女はそれで済むかも知れませんが私には納得できません

明日撃破出来なければ帰ってこない」

 

と言うのもこの頃には無理な改造を重ねた戦闘隊配備のチハは多くの不具合を起こしてまともに稼働できる戦車の数は部隊結成当初の半分を切っており、現に死亡事故のあった翌16日には試合中に後付で追加された着脱式の増槽燃料タンクが外れないトラブルが林隊長車で発生

それを庇いながら戦った直率区隊の他3輌は林隊長以外全滅

試合の事故で大怪我を負い部隊を脱退する者は生身を外にさらけ出す車長に集中しており、同時にそれは343戦車隊(剣部隊)において全ての役職をこなせる前提の上で車長に選ばれるほど技量優秀な搭乗員を失うと言うことでもあった

特にこの日の全体脱退者9名は全て車長、そして内6名を戦407から出すという痛ましい結果となり

徐々に林隊長はふさぎ込むようになってしまっていた

 

「…そこまで言うのならばどうぞ好きにしてください

それなら俺も、明日1輌の撃破も出来なければ帰ってこないことにします」

 

隊長として下の人間を引っ張っていく苦悩や葛藤、林隊長の言っている事はそれだけ強い責任感を持って取り組んでいる事の表れであることはわかっていた

数が減り、出撃すれば高確率でトラブルを起こす戦車に入れ替えで入ってきた部隊結成当初では考えられない技量未熟な搭乗員

その未熟な搭乗員でもこなせる攻撃方法を模索するという事、自身の提唱する策で撃破することが可能であることを確認出来るまで帰ってこないという覚悟も理解できた

けれど15日、亡くなったのは俺の戦車道の初期からずっと副隊長として支えてくれていた菅田だった事もあり

何よりも結果を出さなければ部隊の存在意義を証明できないと俺も躍起になっていて、売り言葉に買い言葉のままその日は別れ───

 

結局それが、俺が林隊長を見た最期の姿となった

 

 

 

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武部も西住も、会話の節に見せた杉野の様子がどこかおかしいと言うことに気が付いた

何でもないと誤魔化すように言った彼女に一度は二人とも納得はしたものの、明らかに何かあるという事だけは感じ取っていたのだが…

 

(…何だかんだ、ナオのこと知らないな)

 

問いただそうにも厄介な事にこの杉野と言う少女は弁が立つ、加えて明らかに様子が違った事を指摘しようにも

思い返せば普段から決して多くを語らず、皆でいる時はあまり我を出さない彼女を相手には難しいであろうことを武部は悟っていた

そしてそれを自覚すればするほど思っていたよりも自分は杉野と言う友達の事情を知らない事に気付かされる

 

(…と言うよりそれは、皆にも言えることかも)

 

記憶を探るように今までの事を思い出してみれば、実の所彼女の事は同じクラスという事もあっていつメンの中では幼馴染の冷泉や元々仲の良かった五十鈴に次いで3番目と言うかなり早い段階で面識があったにも関わらず皆の中では彼女の事を一番知らないと言うことに気づく

それはきっと自身のことを自ら語る事をせず、聞かれても最低限しか答えない事から他の皆も同じであろうことが簡単に想像がついた

 

(…ナオ、あなたいったい───)

 

そうして考えれば考えるほど武部は杉野に少し恐怖を感じた、自らを殺すように語らず

こちらの事で何かあれば先頭に立って悪意を自身へと向けて、自分を顧みず

必要とあれば平気で自身を傷つける事を厭わない

いったいどんな環境でどんな生き方をすればそんな考えに至るのか、所謂普通の女の子である武部は理解が出来ないのだ

 

(みぽりんとかに聞いても同じなのかな…)

 

おそらくは皆の中で杉野と一緒にいる時間が一番多いのは転校初日から一緒にいて、今でも通学の送り迎えをしている仲の西住である事に当たりをつけるが

それでも隣の西住の様子から杉野の言葉の核心までに至っていないと想像がつく

 

(──あれ?)

 

杉野が動揺したように飲み物を落としたのは自身が丁度冷泉の事について話していた時だったと武部は振り返って、そこに何か引っかかりを覚えた

 

(そう言えば…)

 

その引っ掛かりとは何だったのか、そう思った時に杉野が動揺した様子を見せたのは冷泉と母親が亡くなる前に喧嘩をしてしまったと言った直後だった事に気付く

そして誤魔化すように続けた時も彼女は「それは辛かったろうな」とまるで自らその痛みを知っているような素振りを見せていた

 

「…うーん」

 

「どうかしたの?」

 

「ううん、なんでもない」

 

喉元まで出かかっているのだが、しかしその真相はあと少しと言う所で靄がかかって思い出せず思わず唸るような声が出る

横の西住では何かあるのかと聞いてくるが結局、答えたどり着くことが出来なかった為なんでもないと誤魔化す他なかった

 

「──ねぇ、ナオ」

 

「あん?」

 

答えにたどり着く事は出来なかったが、一つ聞いておきたい事が出来た為に武部は杉野へ声をかける

不機嫌そうに粗暴な口調で答える彼女はそれがデフォルトで、今の彼女に先ほど生じた違和感は感じない

 

「いや、そう言えばナオってさ

──なんで戦車道辞めたのかなー…って」

 

「…あー」

 

武部の知らない杉野の事、その一つが何故彼女が一度戦車道を離れたのか

彼女自身が語った事はなかったが選択科目を選ぶ時に五十鈴が誘った時は二度とやらないと言うほど嫌悪感を顕にしていた

その反面、戦車フリークの秋山曰くかつては日本最強と呼ばれた戦車隊を率いる程の腕があり

付け加えて大会直前まで杉野の開いていた放課後の講習会に参加していた武部はわかりやすくもありその上圧倒的な理論で展開される杉野の講習には物凄い説得力を感じていた

ではそこまでの知識や技量があって何故、一度は二度とやらないと言う程までに至ったのかが気になった

 

「…飽きたんだよ」

 

「っ…」

 

大したことじゃないと前置きをしてから、手摺に背を預け寄りかかった状態でそう言った杉野の表情は辺りの暗さも相まって深く読み取ることは出来なかったが

そう語った彼女の姿はどこか寂しげでいつにもまして小さく見えた

 

 

 

 

 

 

 

お見舞いの日から日が経ち、無事に一回戦は全校終了

サンダース以外の4強と言われる他3校、黒森峰・聖グロリアーナ・プラウダが順当に2回戦へ進出

そして大洗の2回戦の相手は1回戦でマジノ女学院を下したアンツィオ高校に決まる

 

…そして1回戦後最初の登校日の朝を迎えた

 

「みぽり〜ん…」

 

「うん?」

 

いつもの通学路を歩き、ふと後ろから掛かった声に振り返る西住の視線の先には寝たままの冷泉を背中に背負って既にヘトヘトな状態の武部の姿が映った

 

「おはよぅ…」

 

「沙織さん!?」

 

反射的に武部の方へと駆け寄って、肩を貸して運ぶのを手伝う

 

「大丈夫?」

 

「なんとか…」

 

起きる様子のまったくない冷泉に思わず西住は苦笑いを浮かべるが額に汗をかいて息を切らせている武部へと大丈夫かと確認を取るもののその返答は弱々しいものだった

 

「…でもこの時間ならもうそろそろ」

 

一人だけであるなら冷泉を担いで移動するのはかなり厳しい物はあるだろう、しかし二人でならそれほど苦ではないし

西住の読みが正しければそろそろ頃合いだとつぶやいた時、徐々に聞き慣れた車の排気音が聞こえた

 

_____ボオオオォォォ_パシシーッ

 

道を挟んで反対側の車線で音の正体はハザードを炊いて停まる、それはもちろん見慣れた青みがかった緑色が特徴的な杉野の車で2回短くクラクションを鳴らして窓が開く

 

「…お前らまた大変だね、乗ってけよ」

 

「ありがとう、ナオほんと助かるよ…!」

 

完全に窓が開き、運転席から少し身を乗り出してこちらへ視線を送る杉野は何とも言えない表情をしながら乗車を勧めるとここまで一人で冷泉を背負い疲労困憊の武部は感情の乗った感謝と共に西住と共同で冷泉を車まで運んでいく

 

「にしてもここまで武部が冷泉の世話焼くのも珍しいな」

 

「今日から毎日起こしに行こうって思ったんだけど、やっぱりいくらマコが軽くても人一人運ぶのは辛いね」

 

「…わかった明日から俺、朝イチ冷泉の家向かうようにするわ」

 

1回戦も終え、更に本腰を入れて戦車道に取り組んでいかなければならない反面

隊長車あんこうチームは操縦手が朝起きれないと言う大爆弾を抱えている、もはや自力で起きることを期待するよりも寝てる間に学校へ運んだほうが早いと武部は判断したようだ

しかし大変そうなので手伝おうと杉野が申し出ると物凄く喜んでた辺り今日のたった一回で相当参ってしまったのだろう

 

「あ、いつもありがとうございます…──ナオさん」

 

「おぅ…ん??」

 

冷泉を後部座席へと詰め込み、その隣に武部が座り西住は助手席へ

全員乗ったためさて出発するかとゆっくり車を発進させた所で改まったようにお礼を言う西住にいつも通りの返答をして

杉野は小さな違和感を覚えた

 

(…今もしかして、名前で呼ばれた?)

 

そしてその違和感の正体を見つけるのは簡単で、今まで西住から名字で呼ばれていた杉野が名前で呼ばれるようになったという小さいと言えば小さな変化だ

しかし普段内気な彼女が友達を名前呼びすると言うだけでどれほど勇気を出したのだろうか、そう思えば自身の隊長様の成長に涙が禁じ得ないのと同時に

杉野には小さなイタズラ心が芽生えた

 

「──おぅ、気にすんなよ西住(・・)

 

は?

 

瞬間、車内の空気が一気に冷え切ったのを杉野は実感し

後ろの武部からは「今のはない」と言われるが聞かなかったフリをする、心做しか助手席側から物凄く視線を感じた

 

「に、西住…?」

 

「…みほです、ナオさん」

 

「…西住」

 

徐々に左から圧力を感じながら、イタズラを継続するが

何だか背筋に冷たい汗が流れていく感覚が止まらない

 

「りぴーとあふたみー……みほ」

 

「み、みほ」

 

「はい、よく出来ました」

 

ついに圧に屈した杉野は西住の命じた通りに名前で呼び、ようやく呼んだことで当の西住はどこか満足げな声色だったものの

ちらりと助手席へ視線を移せば一瞬見えた西住は表情こそ笑っていたものの目がまったく笑っていない事に気づきこのイタズラは封印しようと杉野は心に決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

校門から車を乗り入れ、いつも通り風紀委員の園みどり子より苦虫を噛み潰したような表情と視線を浴びながら杉野は車を職員駐車場の方へと走らせる

その道中何かを見つけた武部が「あっ!」と声を上げた

 

「凄〜い!私達注目の的になっちゃうかな!?」

 

後部座席から運転席助手席の間に乗り出し、武部が指を指したのは校舎側に設置された我ら大洗戦車道チームが1回戦を突破したという垂れ幕とバルーンの存在だった

 

「…いや、意外と生徒会が勝手にやってるだけかもよ?」

 

はしゃぐ武部と裏腹に、やろうと思えば出来るだろうしと杉野が冷たい現実を突きつければあり得ると思ったのか唸るような声とともに後部座席に沈んでいった

 

「ほい、到着っと」

 

数ある職員駐車場の中で杉野はいつも止めているスペースへと車を止めてエンジンを切る、ベルトを外して車外へ出て椅子を前へ移動してやればいつから起きていたのか冷泉が眠そうな眼をこすりながらのそのそと出てきた

 

「あれ、起きてたんだ」

 

「学校についた辺りでな、また杉野さんに借りを作ってしまったか」

 

少し申し訳無さそうに言う冷泉に杉野は気にするなと声をかけ、そうこうしている内に助手席側の西住と武部も出てきた為にドアが閉められたのを確認してから運転席も閉めてロックをかける

 

「…あれ?ナオさんどこか行くの?」

 

「自販機寄ってから教室向かうわ、先行ってて」

 

最近は気温も高くなってきた事もあり少し時間を置くとすぐに喉が乾きを訴え始めてくる、今日は通常授業もある日なので行きに外の自販機で飲み物を買っていこうと杉野は他3人と別方向へ歩き出すと後方より西住からどこへ行くのかと質問が飛び

それを答えながら自販機のある方角へと歩いていく

 

(…お、あったあった)

 

少し歩けば見えてくるのは幾つか並んだ飲み物の自販機、その中の一つに目星をつけて近づいていく

 

「…甘いの行きてぇな」

 

因みにラインナップには牛乳も入っているが朝起きて一瓶、着替えて体操をしてから一瓶、朝食を食べて家を出る前に一瓶と既に3本飲んでいるために除外し

ティー類やカフェオレ系、いやいや炭酸も捨てがたいと唸りながら

結局選んだのは梅よろしだった

 

「…久々見たなコイツ」

 

取り出し口からペットボトル容器の梅よろしを取り出してポケットへしまい、さて教室へ戻ろうかと踵を返す

 

「──杉野隊長ッ」

 

「…は?」

 

教室へ向けて歩き出し、少しした所で背後から聞き覚えのある声で声を掛けられたのと同時に

その内容に思わず杉野はピタリと固まった、というのも隊長という呼び名は大洗に置いてのみ杉野に当てはまらないものであるが

どうにも聞き覚えのある声の主が想像通りの人物なら一応は的を得ているからだ

 

「──おい嘘だろうッ!?」

 

声の主を知るべく振り返った杉野はそこでもまた固まり、思わず叫ぶようにそう言った

そこにいたのは3人(・・)の少女、そして彼女達は杉野自身にとって思い出深くはあるものの

もう会うことはないと思っていた人物でもあったのだから驚愕するのも無理のない話しである

 

「お久しぶりです、杉野隊長」

 

「いや〜復帰しはったんな連絡くれはってもええやないッスか〜?

仲間外れだなんてシンドいわ〜」

 

「私用の連絡すら中々くれませんけぇ、水臭いやないですか」

 

「は、はは…マジぃ?これ夢かぁ??」

 

そこにいたのは大洗女子学園の制服を身に纏ったかつての仲間達、宮崎(みやざき)(いさみ)*1葛西(かさい)智美(ともみ)*2小高(こだか)登華(のりか)*3の3名の姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
戦301分隊長

*2
戦301

*3
戦407







戦車は一人じゃ動かないので仲間が必要ですねってお話でした

話変わりまして、7日に今年初大洗行ってきました
割と地元から近いんで行こうと思えば毎日でも行けるんですが、2月までもつれましたね…
あと今後のお話の展開として、今後は閑話と題した話を出す時は車を通して自動車部とわちゃわちゃする話にしようかと
自動車部と仲いいと色んなメリットあるんで話の辻褄を合わせていきたい無理矢理にでも…
本編進んできたらおまけ完全ギャグパートでラジオ回やら配信者になって大洗の看板背負った生配信でふざけ倒して桃ちゃんにはっ倒される杉野とか書きたいですね
あと需要があるかわからんですが章区切りで作品作る際の裏話とかも書きたい…いつになるやら

はい、皆さん
いつもながらお気に入り登録、感想、評価よろしくお願いします
多分これが就職前最後の投稿となりますので、次回結構遅れることが予測できます
書けそうだったら一気に書き上げますけどね…
書けない間とか皆さんからの評価や感想、お気に入り登録、しおり数を見てモチベ維持してますので是非よろしくお願いします

そして今回見直しの時間一切取れてないですが、寝不足なので一度寝て集中力を回復させてから誤字脱字を直して行きますので見つけたら温かい目で見逃してやってください

以上です
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