ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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ピーク4日に一回位の感覚で投稿してたのも今や遠い昔の話
月刊ガールズ&パンツァー 〜大洗のデストロイヤー〜を今後ともよしなに(戻れるなら週刊に戻りてぇなぁ…)




模擬格闘戦(ドッグファイト)

 

 

午前の授業も終わり、一時的に昼休憩の時間として解散の号令が掛かった事で俺はキューポラから乗り出した身を車外へ曝け出してそのままどかりと砲塔に腰を降ろす

 

「お疲れさんッス」

 

「おう」

 

「いや〜ここの娘達は皆元気じゃのう、ウチえらく(疲れ)て大変じゃよ」

 

「…その割に腕が一切鈍ってねぇのミヤブンらしいやな」

 

ゾロゾロと降りてきたミヤブン達が横に腰を掛けて一言二言他愛のない雑談をしながら、つい先程までの訓練を思い出す

実に2年ぶり、しかも俺よりもぶっつけで戦車に乗った割には皆記憶通りに動くから思わず舌を巻いた

3人の近況は知らないがわりかし最近まで戦車に乗っていたのか、それとも当時の癖が抜けていないのか…

 

「ウチらこれから飯ッスけど杉野さんどうします?」

 

「あぁ?──あー…」

 

そんな事を考えていれば葛西から昼食の誘いが来るが、ふと視線を動かすと会話終わりを待ってるあんこうチームの姿が目に映った為に首を振った

 

「わりぃ、今日はやめとくわ」

 

「あ…そういう事ッスね、了解ッス」

 

同じく俺と同じ方へ視線を向けて察してくれた葛西はミヤブン達を引き連れてチハ改から降りて食堂へ向かっていき、それと入れ替わるように5人が近づいてくる

 

「おぅ、お疲れ」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です、ナオさんお昼暇してる?」

 

一段落ついて労いの言葉を一言掛ければ武部とみほからそれぞれ返ってくるので首を振って肯定した

 

「今日はフリーだな」

 

「宜しければお昼ご一緒しませんか?」

 

「わかった、ちょっと待ってろ」

 

特に予定もないと言うことで五十鈴に昼食の誘いを受ける、おそらく5人はその為に来たのだろう

了承してから一度キューポラハッチから車内を覗き込んで忘れ物が無いか軽く確認してから地へ降り立つ

 

「いつでも行けるぞ」

 

準備を終えたことを告げ、5人の間に混ざって購買へ足を向ける

本日は弁当持参組が秋山だけのようなので各自で各々の食料を調達する事となる

 

「ふぁ…」

 

歩いている道中、不意に欠伸が出て口元を隠し

ついでに多少しょぼつく瞳を指で拭っているとふと視線を感じ、下がった視界を持ち上げれば全員が先頭の5人全員がこちらを見ていることに気づいた

 

「…なした?」

 

「あ、いえ…だいぶお疲れのようだなと」

 

「ナオ、ちゃんと寢れてる?」

 

視線にいたたまれなくなって聞き返せば秋山と武部からそう聞かれる、まさかバカ正直に夜ふかしの理由等言えるわけもないのでさてどう言ったものかと唸ってしまう

 

「──まぁ多少考えなきゃいかん事もあるからな…が、訓練には引きずらんから安心しろ」

 

勿論、優勝に向けてどう動いていくかだとか

次戦に選ばれるであろう敵チームの予想を立てて一回戦の分析をするだとか、当面の大洗戦車道チームの課題をあぶり出すだとか

放課後整備に勉学と、それらは平時を疎かにならない程度に収めなければいけない

全てやりきったつもりでも日中にそのしわ寄せが来るのならば本末転倒だからな

 

「…そういう意味で言ったんじゃ、ないんだけどなぁ…」

 

しかしこちらが裏で動いてる事を正直に話すことなど出来やしない、だからぼかしておちゃらけたように伝えてみれば聞きたいことはそうではないと痛いところを突かれるが聞かなかった事とした

 

 

 

 

 

 

 

 

購買にて各自食べたいものを買い込み、再度格納庫へ戻って来る

昨日に引き続き何やらあんこうの面々は格納庫で戦車と一緒に昼食を取ることが存外気に入ってしまったらしい

 

「──それにしても、やっぱり杉野殿のところは見事な動きでしたね」

 

「…なッ、俺もビックリ」

 

「なんで杉野さんがビックリするんだ??」

 

車座になってその場に座り込み数分、各々が他愛のない世間話に花を咲かせているとふと切り出したように秋山がポツリと呟く

文脈的に午前中の、それこそ久々に集まったメンバーでぶっつけで戦車に乗ったのにまるで全盛期さながらの全体練度を誇っていたことについてだろうと辺りをつけ、自分でも驚きだと素直な感想を添えれば冷泉から珍しく困惑したような言葉が返ってきた

 

「いや、あいつ等マジのサプライズでこっちに来たから俺何も知らされてなかったのよ

久々に会ったし流石に結構酷い動きになるかなと思ったが…」

 

冷泉の困惑に答えるように自分でも本当に予想外な出来事だったとは伝える、そもそも俺等の元いた部隊は搭乗員全員の適性を緻密に図り

万が一試合中に役職変更があっても対応出来るように全ての技術において一定以上の腕を持つもの達の集まり

その全ての役職をきちんとこなせる上で、それでも車長の方が成績の良いと言う者だけが晴れて車長になれる所謂花形だ

俺は隊長だったから勿論だけれど、他3人も別車輌にて車長の座に選ばれる練度があり

その中でも特に当時小学生だった葛西以外の二人はさらに格上の小隊長格となっている

 

「実に見事な腕前でした」

 

「後でアイツ等に言ってやりな、喜ぶぞ」

 

訓練光景を思い出してか秋山が感嘆の声を上げたので直接伝えてやるように言っておいた

久々会ってぶっつけ本番で動かした筈なのに葛西は10分としない内に乱れず隊列走行に加わるし小高は停止射撃も行進間射撃でも全ての的に百発百中、ミヤブンはミヤブンで撃ち切ってからのカートリッジ交換も手慣れた物だ

 

「逆に指摘するとこなさ過ぎて俺のやることがあんまりねぇんだよな、優秀な搭乗員に囲まれて傀儡車長だからさぁ」

 

「それってひょっとしてギャグで言ってます??」

 

何だかんだ3人揃って優秀、そして各車練習形式での撃ち合いで無ければ軽く無線で流れた指示を各人員に伝えるだけで車長の俺は本当にやることがない

余裕が無いのが非常時と言えどもそれが他の車輌のメンバーに伝わらないように余裕があるふりをしなければならないので大変もどかしい為、少々おどけたように言えば秋山が苦笑いしていた

 

「──ナオさん、午後からの訓練でちょっと相談なんだけど」

 

「お?なんだなんだ」

 

話もそこそこ、先程購買で買った大きめのおにぎりを頬張っているとみほから訓練内容について相談を受け

しばしあーでもないこーでもないと話し合い、そこに秋山が乗っかり残る3人も案を出してくる

全く持って和気藹々とした面白いメンツである

 

 

 

 

 

昼の時間も残り半分を切った頃、午後の方針も固まったようで

そのまま世間話に興じるあんこうチームを置いて一人風を浴びに外へ出る

 

「…阪口?」

 

「あ、先輩おつかれさまです!」

 

格納庫の敷地から出て色々と考え込む事もありさてどうしようかとため息を吐き出しそうになった時、こちらへ阪口がとてとてと駆け足気味に近寄って来た

そのかなり後方には歩きながらついてくる他のウサギさんチームの5人が目に入る、まだまだ昼の時間だというのに格納庫に用事だろうか

 

「まだ午後には幾分か早いだろ、どうかしたのか?」

 

「先輩の戦車を見に来たんです!」

 

「…俺の?」

 

何かあったのかと訪ねてみれば阪口の目的はチハ改を見に来たと言う、流石にそんな事で来たなど予測できなかったので思わず鳩が豆鉄砲を食らったような顔を披露してしまった

 

「──まぁ別に良いけどさ」

 

「やった!朝はあまり見られなかったのでゆっくり見たくて」

 

見たいという阪口に別に減るものでも無いため許可を出すと普段からテンションの高い彼女は見た目相応の──と言ってもそれでもこないだの健康診断の結果を見る限り俺より10cm以上背が高いのだが

子供のように喜ぶ彼女を見ると自然と頬が緩む

 

「…で?君等は付き添いか?」

 

「まぁ…はい」

 

「私達もまだ見たかったですし」

 

遅れて目の前までやってきた他5人に聞いてみれば澤や山郷が付き添いがてら見に来たと申し訳無さそうに笑いながら言った、気にしなくて良いのにね

 

「あ、西住隊長達もいたんですか」

 

「センパイ、お疲れ様です」

 

「うん、お疲れさま」

 

格納庫の中に入ったウサギさんチーム6人は中に俺以外にもあんこうチームの面々がいたのは少し予想外だったのか、ちょっと驚きながらも互いに挨拶を交わしてチハ改の方へ向かって歩いていく

 

「…やっぱカッコいいですコレ」

 

「そう?ありがと」

 

チハ改の前で立ち止まって目を輝かせながら呟く阪口へそう返して隣へ並び立つ、自前の戦車なので褒められて悪気はしないが本来の姿とは異なるためそこは少しだけ複雑なところでもある

口には出さないが阪口以外の他の5人も割と真剣な表情で各部を眺めている為、何がそこまで惹きつけるかまではわからないがウサギさんチームの6人全員には割と好意的に見られているようだ

 

「…乗ってみるか?」

 

「え?良いんですか!?」

 

キラキラした目で眺めている阪口へ実際に乗ってみるかと提案してみれば物凄い勢いで食いついた

M3リーとは見た目も作りもまるで違うし、何より公式戦基準という制限の取り払われたある意味で言えば本物の改造戦車と呼べるので面白い経験にはなると思う

 

「今エンジンかけてやるからちょっと待ってろ」

 

嬉しそうにちょっと落ち着きのない様子の阪口へそう言ってから車輌の前側へ回り込んで履帯にチョーク(輪止め)がしっかり掛かっているか確認してから慣性始動へ移る

先程は正しい形を見せるために複数人での慣性始動を行ったが別に一人でも出来ない訳では無い

要はイナーシャー棒を回して起動器が始動可能段階まで回ってる内に車内へ乗り込んでクラッチを入れれば良い、人がいた方が楽で確実というだけである

 

「何かやるんですか?」

 

「ちょっと阪口にチハ運転させてくる」

 

始動準備をするのに格納庫の奥からイナーシャー棒を持ってきた俺に一体何を始めるのかと聞いてきた秋山は動かすという一言でクビを傾げた

 

「動かす…え?動かすんですか?

まだ昼中なのに??」

 

「午後始まったら乗せてやる時間もねぇしな」

 

いやまぁ調整すれば午後でも時間はあるんだろうが勿体ない、大会の期間中というこの短い時間で少しでも皆の腕を上げるにはあまり合間になる時間を作らず訓練中はひたすら反復練習させた方が良いだろう

なに、阪口が乗りたいなら別に俺の昼がここで終わろうが別に大したことではない

興味があるなら触れさせてやるのもモチベを維持するのに大切だろうしな

 

(…お、やっぱ重ぇなコイツ)

 

イナーシャー棒を起動器に突っ込んでゆっくりと回し始める、俺自身が回すのは前のとこでもほぼ無かったとは言え久々に回してみるとこんなに重かったかなと少し疑問に思う

 

「…ナオさん一人でも回せるんだ」

 

「そりゃ回せるよ、鍛えてたからな」

 

戦車を動かすということで格納庫にいた全員が周りで何故か見守るような変な状況下でそれでもなんとも無しに回していれば先程近藤さんが顔を真赤にしながら回しているのを見ていたみほが少し引き攣ったような表情で呟いた、いやそりゃね?チハ改のイナーシャーくらい一人で回せますよ

勿論重機の整備をやってる近藤さんが非力だとかそういう話じゃなくて俺が剣部隊よりはるか昔、それこそ戦車スクールにいた時の初期の初期に徹底して鍛え上げられたから出来る技である

色んな無茶させられたからねホント、校舎が海軍兵学校の物をそのまま利用してたから陸軍式が基本の戦車道の筈が海軍式で所作教わったんだが

全身を鍛え上げるのにトレーニングメニューの中にカッター漕ぎまであった、戦車乗りを目指してる筈なのに真夏だろうが真冬だろうが9mのカッターを漕がされ

オールは沢山の鉛が埋め込まれた4m超えの物を使ってたから冬でも汗が吹き出すし、霜焼けが起こってもやらなきゃいけないから色んな意味で手の皮膚がグズグズになる

訓練期間中は両手はマメだらけで皮膚が破れるわ座席とよく擦れる尻も皮が向けて爛れるし間違って前に座る人にオールをぶつけようものなら当たった箇所の皮膚が裂けて血が吹き出す

地獄のようなトレーニングだった

 

「多分持ち方次第で君ら片手で抱えられるぞ」

 

「えぇ…」

 

ちなみに前にふざけて試したらブローニングM2くらいなら片手で振り回せたから持ち方次第で本当に大洗戦車道チームの大半は片手でも上げられると思う

…まぁ、コレに関しては俺だけに限った話じゃないし何なら体格差がある分純粋な力なら葛西とかには逆立ちしても勝てないけどな

 

 

 

 

 

 

 

 

チハ改を始動させ、試しにとウサギさんチームの面々に貸し出して見ると外から動きを見ていてわかるほどに阪口は浮かれているのが見て取れた

 

「…あれ本当に同じ戦車?」

 

「基準が違うんだから一緒に考えないほうが良いって言ったろ?」 

 

激しい土煙を巻き上げ、排気管からは夥しい黒煙と炎を蒔き散らし目測で時速100km/hを超えてるであろう速度で爆走している戦車という普通ならあり得ない状況に武部が表情を引きつらせて呟いた

しかし一方で時折キューポラから顔を覗かせる澤は強烈な動きに顔を苦悶に歪めたりする場面もあるが何だか楽しそうに笑っていた、乗り込む前の恐る恐るといった様子だったのとは偉い違いである

 

「たしかにあれはゴーグルないとヤバそうだな」

 

「おう、割とシャレにならん自体になる」

 

阪口に試運転させるべく、他の乗員はあえて慣れているウサギさんチームの全員にしたが当然普通の戦車とは扱いが異なる部分が多数ある*1

そのため正しい扱い方や装備、特殊装置の用途等を懇切丁寧に説明してから貸し出したのだがその中でシャレにならないのが二つある

それが冷泉の上げたゴーグル着用の有無と車長は必ず安全帯を着用することという点だ

ゴーグルについては出る速度が速度な為巻き上げた砂やゴミ、果てに石ころなどが目などに直撃すれば悲惨なことになるため操縦手と車長は着けなければならないのだが本日俺は持ってくるのを忘れてしまった

そこで今車長の澤と阪口は格納庫に置いてあった防塵メガネを代用でつけてる

安全帯に関しては特に澤になんでこんなものが必要になるのか聞かれたが万が一車外放出された際に脳味噌ぶちまけて死にたくなければつけた方が良いと言った所途端に顔を真っ青にして黙ってつけていた

 

「あの音で車内で会話聞こえるんですか?」

 

「無線は内線と外線で2種類積んでるからな

操縦手はヘッドホンつけっぱなしで今は内線直通に繋ぎ直してある」

 

格納庫の前で待機してる俺達にはグラウンドを爆走するチハ改の直管サウンドをモロに受けている、勿論車内にいるウサギさんチームは更に耳に負担となっているだろうから

ヘッドホンをつける阪口と澤以外には耳栓を貸してやった

ちなみに本来なら操縦席とのやり取りをする内線はモールス信号器、他車とやり取りする外線が無線なのだが当然澤がモールス信号を打てるはずもないので内線側の配線に無線の配線を割り込ませて直接言葉でやり取りできるようにしてある

 

「あ、帰ってきた」

 

20分程度みっちり使ってあと少しで午後の時間、もうそろそろ他の履修生達も集まってくる頃合いだろうというところでそう呟いたみほの言葉に反応し視線を向ければチハ改はこちら側へ向かって方向転換しゆっくりと戻ってきた

 

「──満足した?」

 

「もう最高ですよッ」

 

目の前で停車し降りてきた面々に聞いてみればニッコニコの阪口が興奮したようにそういった、ある程度パワーがあって俊敏に動ける戦車に慣れたのか浮かれて振り回すようにチハ改を転がしていた反面

その挙動は安定しており他の面々も特に車酔いなど無くピンピンしていた

 

「ジェットコースターみたいな楽しさありますよね」

 

「ただこんな戦車持ってくるってなるとたしかに反則になるのもわかります、ズルですよズル」

 

特殊カーボンの外装は外した為防御力こそ心もとないが現状大洗で一番の機動力、旋回力、火力を誇るチハ改はタンカスロン基準で弄くり倒されてるだけあって公式戦基準で弄った戦車と比較しても余裕で上回る性能を持つ(火力に関しては重戦車相手だとほぼ0距離でもない限り抜けないが…)

言ってしまえばその存在自体が反則であり現に実際乗ってみたウサギさんチームは口々にズルだと言っていた

 

「いいなぁ…M3もこんな感じにならないですか?」

 

「チハは公式戦基準に戻すって言ったろ?なるべく性能低下しないように心がけるけど、どうしても公式戦基準なら今よりかは性能落ちるぞ」

 

すっかり楽しくなってしまったのか阪口にM3リーでも似たような感じに出来ないかと相談を受けるがそもそも重量が違うし同じ中戦車でも主要な用途が異なる造りとなってるためそんな単純にぽんぽんと似せれる訳では無い

しかもチハ改の現状に関しての話であるなら結局この後戻してしまうので比較など出来ないのだ

 

「でも杉野先輩の事ですから、どうせ他の車輌と違ってもっと過激に仕上げるんじゃないんですか?」

 

「…そりゃあね?」

 

「ズルいッ!!」

 

阪口にはズルいと言われたが、そもそもチハは元の形に近ければ近いほど性能が心もとなくなる為仕方ない部分がある

加えて他の車輌はかなり手を加えたと言えど初心者である大半の履修生が扱っても壊れないように充分なマージンを残している

公式戦基準でもっと過激な仕上がりにするならその残したマージンをどんどん削っていかなければならない

 

「そうは言うけど、それと引き換えに雑に扱えばすぐ壊れるようになるんだぞ?

阪口を含めて他全員、それをカバー出来る腕があるとは思えない」

 

「うぐっ」

 

チハ改ですら訓練時間を含めて合計使用時間が200時間でエンジンをオーバーホール等の重整備を厳命されるほど耐久性を削り取った仕上がりになってるし各部油種類は全部試合の前後で交換しなければならない

そこまで蝶よ花よと手を入れても試合当日に急に動かなくなったりする、そんなガラスの戦車にしたところで大洗戦車道チームの各小隊じゃまともに運用できないどころか試合の度にほとんどの車輌がリタイヤすることとなってまともな試合にならない気しかしない

 

「それに、M3リーは何も弄ってない純正の状態でも決して弱い戦車じゃねぇ」

 

他校の懐事情を鑑みれば感覚が麻痺しては来るが、目立った強さが無いだけでM3リーは別に元々から弱い戦車ではない

その上で改造を施しているため無改造のままの戦車で戦ってる他校と比べれば数は負けても車輌の個体でみれば劣るどころか上回る所がある筈だ

 

「車輌について高望みする前にまずは腕を磨きな、短い期間だから仕方ないと言っても今はまだ素の性能すら引き出し切れてないだろ」

 

「せ、正論すぎて反論出来ない…」

 

「…ナオさん、もうちょっとこう手心を───」

 

悔しそうに、それでいて心当たりがあるからか阪口だけじゃなく他の1年生たちも表情を歪めた

みほに言い方について咎められるが撤回する気はない、そもそも叱ってる訳ではないのだ

皆頑張ってることは一緒に戦ってきた俺が一番知ってるし、試合中に自分のミスで車輌が動かなくなってリタイヤにでもなろうものなら泣きを見る羽目になるのは彼女達なのだから

 

 

「──どうしてもM3リーの改良を進めたいなら」

 

正直この選択が正しいのかとか、こうすることがウサギさんチームの6人の為になるのかだとかもわからないが

それでもと言うのならば考えがないこともない

 

「模擬戦で俺に勝てればやってやる」

 

「…え」

 

俺に勝てるなら実力としては申し分ない、それに単に俺が彼女達の実力を見誤っていただけだと言う話にもなる

どうだ?と聞き返してみれば皆困惑したように顔を見合わせていた

 

「何なら公式戦基準に戻した後のチハを君らに譲ってやっても良いぞ」

 

「ほ、本気で言ってるんですか?」

 

実際に操縦して気に入ってしまったらしい阪口はまだ困惑を含みながらも確認するように聞いてくる、勿論俺に二言はないから負けて本人が望むなら搭乗戦車を変わってもいい

こんなところで負けるほど俺が鈍ってるならそもそもチハに乗ってても大した戦果は上げられなさそうだしな

 

「まぁ勿論、やるなら不公平だからチハ改に君らが乗って良いよ

俺はM3を借りるから」

 

「良いんですか?」

 

「何ならもう一つハンデやる、君らは俺の操縦するM3を後ろから3秒照準の軸線内に収められれば勝ちでいいよ

反対に俺は君らの操るチハ改に後ろから砲弾を当てれたら勝ちってことで」

 

使用戦車、勝利条件共にかなりの差があるハンデを提案すると阪口の表情がこちらを訝しむものに変わる

 

「あ、あの…なんでそんな条件を」

 

「そりゃ絶対負けないから」

 

おずおずと躊躇うように破格の条件について聞いてきた澤に即答すれば一気に表情が引き攣った、だがまだ彼女達と長い経験の差がある以上これでもハンデについては足りないかも知れないくらいだ

 

「いくら杉野先輩でもそれ以上はライン超えですよッ」

 

「1年ナメないでくださいッ」

 

「目にもの見せてやりますよッ」

 

流石にそこまで言われれば癪に障るのか戸惑ったままの澤と空を眺めている丸山を除き概ね模擬戦に対して積極的な姿勢となった

まぁいい機会だしM3という戦車がまだまだ扱い次第でどう立ち回れるのかを実践で勉強させてやれる良い機会だと割り切ろうか

 

「山郷、ちょっと来てくれ」

 

「…え?私ですか?」

 

さて模擬戦を始めるに辺り2輌の戦車の搭乗員を割り振るのだが、俺は普段M3リーで主砲の砲手をしている山郷を呼び寄せる

 

「操縦は俺だがその他砲を撃つ人間がいねぇからな、手伝ってくれ」

 

「あぁ…なるほど」

 

さてここで模擬戦における互いの勝利条件を振り返ろう、チハ改に乗る山郷以外のウサギさんチームが俺・山郷のM3リーの後ろを取り照準軸線内に3秒収めれば勝ち

逆に俺達はチハ改の後ろを取り弾を当てれたら勝ちだ

 

「でも私よりあやの方が良かったんじゃ…」

 

「主砲しか使わないから良いんだよこれで」

 

こちらは砲弾を当てねばならないため、だったら砲が回って狙いをつけやすい副砲で戦った方のが確実だろう

だけどまぁそれじゃつまらないので俺は今回主砲しか使うつもりは無い

 

「ムッキー!絶対ぎゃふんと言わせてみせますからね!!」

 

「おう楽しみにしとくわ」

 

当然M3の主砲は旋回出来ないのでそこもまたハンデ、完全にナメられてると感じたのか阪口が頬を膨らませながらぷりぷりと可愛らしく怒っていた

 

「というわけだからちょっと行ってくる」

 

「…言いたい事は色々あるけど終わってからにするね」

 

急遽始まる俺とウサギさんチームの模擬戦にあんこうチームの面々は苦笑いのようななんとも言えない表情をしていた

特にみほからは少し責めるように釘を刺されてしまったが、個人的に場数は踏んでいても雰囲気はチーム1緩いウサギさんチームを焚きつける事が出来れば彼女達の成長に繋がるかも知れないのでこういった経験も必要だと思う

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業が始まるまであと少しということで昼食から戻ってきた他の履修生達がまず感じ取ったのは異様な雰囲気だった

 

「なんだコレ、一体どういう状況なんだ?」

 

「…なんか杉野さんとウサギさんチームの1年生たちで模擬戦やるらしいよ」

 

格納庫前で何やら2輌の戦車、新しく増えたチハ改と呼ばれる明るい銀色の戦車と戦車道の授業が始まってから見慣れた存在であるM3リーが横並びにエンジンが始動した状態で止まっており

開いた操縦席前のハッチからはそれぞれ阪口と杉野が顔を覗かせている

一体何が始まるのかとカバさんチームの中からエルヴィンが呟き、近くで見守っていたアヒルさんチームの中からは事前に周囲から状況を聞いていたらしい磯辺が言った

 

「模擬戦?その割には杉野の方は車長がいないように見えるが…」

 

「いないどころかM3リーには操縦手として杉野さん、砲手としてあゆみちゃんの二人しか乗ってないらしいですよ」

 

「いや、何やってるぜよ…」

 

磯辺の言葉にカエサルが反応し、訂正するように河西が反応する

実質的にはチームと言うよりかは操縦手同士の腕自慢の側面が強い今回の模擬戦ではあるが、方やそんな少人数でまともな戦いになるのかとおりょうが呆れたように呟いた

 

「──西住隊長はこの模擬戦をどう読む?」

 

「…私ですか?」

 

勿論彼女達とて杉野の実力を先のサンダース戦で目撃している為技量に関してピカイチであると疑う余地はない、しかしいくら何でもコレでは勝負にならないのではないかと怪訝な表情を浮かべるものが多数の中

エルヴィンは少し離れたところで見ていたあんこうチームの中から西住へと話しかける

 

「あぁ、無謀と思うかそうでないか

または1年生達がどう出てくるだろうかとかその辺を含めて聞いてみたい」

 

「──私は───」

 

うーんと唸りながら考え込むように首を傾げ、しばし逡巡した後に続けた

 

「実は全く読めなくて」

 

「隊長でも?」

 

「はい」

 

少し申し訳無さそうに西住が言って、仕方ないかとエルヴィンは肩を竦める

 

「ナオさんは確かに凄い人だけど、戦車は一人が凄ければなんとかなるという単純な話ではありません」

 

「それぞれ決められた役割があるからな、それはわかるんだが」

 

どの役割にも言えることではあるが、一人だけいかに優れていても他の搭乗員がついてこれなければ意味がない

その点で言えば現在、杉野の方には操縦手と砲手しかいない為そもそも人手が圧倒的に足りていないのだ

 

「──ですが、それで勝敗自体が決まるかと言うと」

 

「…確かに、決まらないだろうな」

 

だが西住は実際にM3を操縦している杉野を見ている為、簡単には勝ち負けは決まらないであろう事は感じていた

それに関しては同意するとエルヴィンもドイツチックな軍帽を目深く被って頷く

 

「予想が難しいもう一つの原因はウサギさんチームの他5人です」

 

「…?一応は私達と同じ全くの素人からのスタートなのだから、今の私達の練度を基準に考えれば良いんじゃないのか?」

 

勝負の行く末を読み辛い原因にウサギさんチームを上げた西住へ思案するように腕を組みながらエルヴィンはそう言うが、西住は黙ったまま首をゆっくりと横に振ってから続ける

 

大洗(ウチ)の戦車道チームで今一番勢いがあるのはウサギさんチームの皆さんですから」

 

「…あっ」

 

そこまで言われてエルヴィンはハッとしたように顔を上げる、校内模擬戦を含めたチーム結成からの撃破数こそ隊長の西住率いるあんこうチームに1輌差で2位に甘んじているが

それはあんこうチームが経験者の西住を始め、戦車の知識は学園随一の秋山といざという時の集中力の凄まじい五十鈴

そして天性の操縦センスを持つ冷泉とチームのムードメーカーである武部という奇跡の組み合わせによって生み出されたもの

ウサギさんチームは経験者の杉野が指南役として搭乗しているが西住のように率先している訳では無い、確かに窮地に陥った時に操縦を変わったり車長を変わったり等は見受けられるが

基本的に1年生達の成長を邪魔しないようにと最低限の手出しのみである

杉野以外の搭乗員は皆1年生で彼女達なりに頑張っているのはわかるし才能もある、しかし他チームと比べればアヒルさんチームのような熱量やカバさんチームのような凝り性さ等も無く

いわば一番純粋な意味での素人で一般的な女の子らしい女の子達のチームだった筈なのだ

 

「──車長がナオさんに変わっていたとはいえ、それ以外の搭乗員はそのままで先のサンダース戦では単騎で3輌を撃破してます」

 

「あの時は凄かったな」

 

見方を変えれば敵に挟み込まれたあの状況下、勝利するのは絶望的だと誰もがあきらめムードを纏っており本心から言えば西住でさえ肝を冷やしていた

しかし及び腰を蹴り飛ばされた内の一人であるエルヴィンにも、勝負を託された西住にも僅か1輌で他校のエースへ吶喊していくその後姿は鮮烈なまでに刻み込まれている

誰よりも小さい背中がやけに大きく頼もしく見えたものだ

 

「ナオさんを間近で見ているだけあってウサギさんチームの皆さんは全体士気が異様に高い、加えて車長や操縦手をナオさんがこなした時も他の搭乗員はついていけていた」

 

「そんな子たちを相手に杉野は二人だけしか乗っていない戦車で模擬戦をするわけだから…

──なるほど、読めないと言った理由はわかった」

 

コレが搭乗員が互いに同数であれば、車輌の差はあると言えど杉野に軍配が上がったのだろうが

今回は明らかにハンデを背負い過ぎである、簡単には勝負は決まらないまでも最終的な着地点はどう転んでもおかしくないというのが西住の予想であった

 

(この模擬戦は相手の後ろへ回り込むドッグファイト形式、普通なら車輌の性能差から勝負にはならないけど

ナオさんが操縦なら或いは───)

 

少し前に調べ上げた情報により西住は杉野が車長以外の一通りの事も一定水準以上の技量を有していることを知っている、本来なら勝負にならないであろう性能差もそれがあるからこそどう転んでもおかしくないくらいには模擬戦は縺れるだろうと予想したのだ

 

「──はじまりましたね」

 

操縦席のハッチから顔を覗かせる杉野と阪口の両名は互いに準備が出来たことを頷き合って確認し、逃げるように先行でM3リーが発進

一寸開けてチハ改がM3リーの後を追うように発進し、西住の隣に陣取っていた秋山は呟くように言った

 

(大会中の戦果で見ればウサギさんチームは間違いなく大洗最強、そのウサギさんチームにチハ改を明け渡して杉野殿はM3リー…

自信の現れかも知れませんが何が起こるかわからない所に期待が膨らんでしまいますね)

 

秋山は子供のように輝く視線を向ける、その先には低中速での加速性能の差で早くもM3リーに食らいついたチハ改がジグザグに逃げるM3リーを照準内に収めようと動きをトレースするように接近していくところだった

 

 

 

 

*1
エンジンからの動力を軌道輪に伝えるシャフトが左回転だから発進時にスロットルを開けすぎるとトルク反動で進路が左にそれるからカウンター動作が必要又は車体が異常振動を起こす・自動戦闘用補助ブレーキの使い方・etc…






M3リーのさらなる進化、またはチハ改の搭乗権をかけて唐突に始まった杉野vsウサギさんチームの模擬格闘戦

勝つのは東北が生んだ日本最強の破壊神か、破壊神の一番弟子にして大洗最強の一角たるウサギさんチームか
模擬格闘戦の結果は果たして───!?



…まぁ実質的には杉野vs阪口の操縦対決なんですが
はい、話変えまして
活動報告にも書きましたが今年の8月に投稿予定の当作主人公、杉野直緒の幼少期をメインにした短編を書いていたのですが
書いてて1話冒頭の時間軸が全く噛み合わない事に気づきました
なるべく合わせれるように話を書くつもりなんですが、もしダメなら1話冒頭を1行程度イジることとなります
ちゃんとしたプロットを作らず手抜きするとこうなるのです、バカな作者ですね

例のごとくお気に入り登録、感想、評価等励みになりますので是非ともよろしくお願いします

誤字脱字は発見次第直して行きます

以上です
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