ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
お ま た せ
「──なぁ、そろそろ足崩しても良い?」
「…それを聞く時点で反省が感じ取れないね、もうちょっとそこで正座してよっか」
現在午後の授業時間へ突入し30分程経ったのだが他の履修生達は訓練に勤しむ中で俺一人だけ格納庫前の硬い地面の上で正座をさせられていた、いや俺一人と言ったが正確には現在格納庫前で正座する俺の眼の前に腕を組みながら我等が生徒会長サマがいい笑顔で額に青筋を浮かべて仁王立ちをしているため二人というのが正解か
昼休み後半から午後の授業開始直後辺りまで行っていたウサギさんチームとの模擬戦で監督責任者がいない状況で戦車を動かし挙げ句砲撃を行った件についてそれはそれは物凄い勢いでお叱りを受けた
「反省は勿論してる、そもそも反論の余地がねぇド正論だしな」
「出来れば模擬戦する前に気づいてほしかったかなぁ」
角谷はそう言って頭痛でも抑えるように苦い顔をして額を指で揉み込み項垂れては溜息を吐く、勿論当初は俺も万が一があったらどうするかと詰め寄られ多少の反論はしていたのだが技量云々経験云々の問題ではなく
生徒会という責任を取れる立場の人間が見てる中で行われた模擬戦ならまだしもどれだけ経験があろうがただの一生徒が独断で行った模擬戦で何かあったのでは責任問題が発生するのだと個人で責任の取り切れない所まで出されてしまっては反論等出来るはずも無くひたすら謝り倒す事になっていた
「自前で戦車持ってきてくれたり、杉野ちゃんが色々チームに貢献してくれようとしてるのはわかってるんだけどさ
もしもがあるくらいなら2輌とも無い方が良いから、次同じような事起こるなら持って帰らせるからね?」
「わかった」
無論大前提として、生徒間で模擬戦をやる場合生徒会の誰かしらが見ているのならば技量向上が期待できる為やっても良いと言われた、つまり重要なのは責任を取れる立場の人間の有無である
現状1輌でも戦力が欲しい筈だろうが、先程の模擬戦は俺の持ちこんだチハ改が原因の一端となった為
次また同じことをしでかせば戦車を持って帰れとまで言われてしまった、逆にここに来て安全第一をとって生徒を優先する姿勢は彼女を生徒会長たらしめる所以だろう
叱られる原因が何を偉そうにと言う話だがそろそろ角谷達の認識を改めざるを得ないのかも知れない
「それじゃ──堅苦しい話はこの辺で終わりにするけど」
「いや、改めてすまなかったな」
「…もうちょっと考えて行動さえしてくれれば言うこと無いんだけどなぁ」
長く続いたお説教も済んで角谷は眼の前で訓練中の各車に「おぉーい」と声を上げて一時訓練を中断させる、その様子を横目に俺は立ち上がって地面に正座した際についた砂汚れを手ではたき落としながら様子を見る
この後はすぐに俺も訓練へ合流かと思ったのだが、どうやらもうそろそろ午後の授業が始まって1時間程になる為に小休憩を挟むようだった
「杉野、ちょっといいか?」
「──松本か」
小休憩と言うことで各チームごとの搭乗員達で固まって駄弁っているのを見ながら、俺はチハ改の横で訓練内容のすり合わせを行っていたミヤブン達の元へ戻ろうとした所で声を掛けられる
振り返るとそこにいたのはカバさんチームの車長兼通信手の松本がいた、ちなみにカバさんチームは車長は松本が務めているがチームのリーダーは鈴木が担当しているらしい
「…エルヴィンだ」
「お、おう」
カバさんチームは確かソウルネームと言ってそれぞれが歴史上で一番の推しの名前を自身の愛称のように使っていた、そのため本名を呼ばれた事が不服なのか松本ことエルヴィンは少しムッとした表情でドイツチックな軍帽を目深く被り直して訂正をする
偉人に陶酔して自己投影したくなる気持ちはわからんでも無いがな
「で、何か用か?」
「あぁ、聞きたい事があってな」
ちなみに松本を含めカバさんチームの皆と俺は仲が悪いと言う訳では無いものの同じ履修生の中では一番接点の無いチームと言える、あんこうの皆とは戦車道チーム発足以来の仲だしウサギさんチームの1年生たちも同じく
生徒会達カメさんチームは入学以来色んな意味で…主に俺が河嶋から呼び出しを受けて叱られていたので関わりを持たざるを得ず
バレー部の4人ことアヒルさんチームは自主練の時などにわからないことや疑問点等を聞かれてそれに答えたりはしている、彼女達は元々体育会系だから出来ないを後回しにしておけないようで結構な頻度で質問攻めにあったりしてる
唯一カバさんチームは本当に必要そうな事以外はあまり聞かれない為に本当に接点が無かった、ぶっちゃけ歴史は好きな科目だから話そうと思えば話題には事欠かないと思うが
話を1振れば100で返ってきそうなのでやめておいた、好きなだけであまり専門知識は無いので本職の彼女達に知識でついていける気がしないしな
「へぇ、珍しい
んで?何が聞きたいんだ?」
「さっき杉野がやってた必殺技の事なんだが───」
さて聞きたい事があると言われれば一体なんの事だろうかと頭の中である程度聞かれそうな事をピックアップしていれば、再度口を開いた松本が聞いてきたのはさっき俺のやった必殺技…つまり模擬戦で俺が使った捻り込みについての事らしく
あれだけ覚えても意味の無い使えない技と言った手前どこが松本の琴線に触れたのだろうかと思わず苦笑いで返してしまった
「勘違いしないでほしいんだが、杉野が使えない技と言っていたのは私もちゃんと理解したさ」
「…その上で聞きたい事ってあんの?」
「私が聞きたいのは別のことだ、捻り込みのような一撃必殺に近く──かつ大技じゃなく実戦に使える物
そういうのが無いかと思ってな」
誤解のないようにと前置きしたうえで松本の聞いてきた事に思わず唸る、なるほど実戦で使える必殺技のようなものか
大技じゃないとなると旋回技法や戦闘技法じゃない物のがいいか、そこまで思った所で一つ心当たりのあるものを思い出した
そもそもこれは俺がここでⅢ突を見た時から思っていたやつで、昔の俺の得意技にして車輌に刻む桜のマークを増やす事に一役買っていた物だ
「あるにはある、が…難しいぞ?」
「構わないさ、どれほど技量を求められようがものにして見せる」
「技量だけじゃねぇよ、これは…相応に肝が座ってねぇと扱いきれねぇんだ」
まぁ実際にやってみせた方が早いだろうと言う事で、そろそろ小休憩も終わりと訓練の続きをどこからやるかと悩んでいるみほに近づき声を掛ける
「みほ、悪いんだがカバさんから技術指南頼まれてな
手伝ってくれねぇか?」
「あ、はい…良いですけど」
こればっかりは誰か相手がいないと教えることも不可能なので、全体練度の高いあんこうと…出来ればその他全員に敵戦車役をお願いしたいものだ
「俺とチハ改の搭乗員が一度Ⅲ突で見本を見せるから、少々狭いがカバさんの皆は同乗で見学しててくれ」
「あぁわかった」
「狙いはあんこうチームのⅣ号のみだが他の皆は隊列組んでⅣ号を守って貰いたい
遭遇戦闘を考慮して適当なタイミングで仕掛けるから、本気で撃破する気で撃ってきてくれねぇか?」
「えぇ…また何企んでるんですか」
定員オーバーにはなるが定員4名のⅢ号突撃砲にはカバさんチームの4人と我等4人の計8人が乗り込み、先行して編隊を組んで走行しているみほ達を適当なタイミングで強襲する
先程の件もあってか呆れたような視線が痛く突き刺さるが監督者が3名もいるのだからゴリ押しさせてもらおう
◆
車長用のキューポラハッチから顔を覗かせ、肉眼で校内のグラウンドから訓練時や校内模擬戦時に使った演習場を見渡し索敵する杉野に後ろの天板を開けてカバさんチームの他4人はある意味での特等席からの観戦へ移っていた
「…で、一体何をするつもりなんだ?」
「まぁ見てろって」
せっかくなので実戦に近い演習とするべく他4チームを先行させ、10分ほどが経ってからようやく動き始めたのだが
これから何をやるのか一切事前に聞かされていない為にそろそろ教えて欲しいとばかりにカバさんチームのエルヴィンはそう聞くのだが後のお楽しみだとばかりに杉野ははぐらかした
「なーんか嫌な予感するぜよ」
「奇遇だな、私もだ」
「そりゃ
眉を顰めて好き勝手言い始めたおりょうと左衛門佐の二人に苦笑いを返しながら、杉野は視線を一度車内へと向ける
車内では現在葛西が操縦をし、砲手席には小高が座り、装填手用の席には既に装填を終えた宮崎の姿があるのだが
使う予定の砲弾は距離の測定用と照準のズレの修正用、そして実際にⅣ号を仕留めるための3発を予定しているので随分と暇そうにしている
(…ま、高々10分程度の時間じゃこんなものか)
人工の小川を渡り、雑木林を抜け、平原へ出る頃には視界の端にゴマ粒程度の大きさで先行で出発した4チームの隊列が見えた
その先頭は西住達あんこうチームで右先梯形陣を組んでいる、思っていたよりかは追いつくのが早かったが平原なら仕掛けるポイントとしてはこれ以上無いくらいに絶好の場所である為、杉野はこのまま続行を決意した
「敵戦車隊発見ッ総員戦闘配置!」
『はいッ』
杉野が声を張り上げて車内へアナウンスすると残る3人から元気よく返事がある、3人からしたら杉野と言えばコレというレベルで多用していたのを知ってる技であるので何をやるかわかっているのだろう
現にⅢ号突撃砲の操縦手となった葛西は言わずとも速力を上げ、向こうに気づかれないように同航で近づいていく
「はっ?もう追いついたのか?」
「…全く見えんぜよ」
「あの豆粒みたいなのそうか?」
「よく見えるなあんなの…」
徐々に隊列の姿が視認できるようになってから後ろから見ているカバさんチームの4名も視認できたようで各々驚いたような声を上げる
「今日は晴れてるし開けた平原ならすぐ見つけられる」
「あれはすぐ見つからんだろ、杉野ってよっぽど目が良いんだな」
「視力は別にそこまで良いわけじゃねぇよ、でもほら迷彩塗装を施してるとは言え戦車は鉄製だろ
太陽の下ならどうしても遠くから見た時に光を反射しちまう所があるから、それで相手を判別したりはする」
種明かしをしてしまえばそれだけのことなのだが普通は出来ないとエルヴィンは困ったように笑う、その様子を見てキョトンとした表情を浮かべた杉野は再度車内へと顔を覗かせ口を開いた
「なぁ〜ッあれくらいの距離なら普通わかるよな!?」
「…距離2500くらいですかね、まぁ平原ならわかりますよ」
「
杉野の発言に対して答えるのは現在暇を謳歌している小高と宮崎でそれぞれどこか含んだように言ったことから一体どういうことだと言わんばかりにカバさんチームの4人は小首を傾げる
その様子見て小高は小さく溜息を吐いた
「…だってこの人、私達より目が悪い筈なのに敵が森の中で待ち構えてようが山頂で太陽を背に陣取ってようがいつも最初に敵の存在を発見するんですもん」
「挙げ句夜間戦闘でも昼間みたいに敵を見つけ出すけぇの、流石に自信なくすわい」
「「いや、おかしいおかしい」」
そうして小高と宮崎の2名がどんよりとした顔で何故かいつも目の悪い筈の杉野が一番に敵を発見するのだと告げるとエルヴィンとカエサルが声を揃えてそう言った
「前から思ってたけど杉野って人間辞めてるぜよ…」
「現に敵チームからは人間扱いされてませんでしたからね、魔王とかあだ名つけられてましたし」
「魔王…ハッ!つまりは第六天魔王!織田信長かッ!?」
「「「それだッ!」」」
「いやどれだ??」
続いておりょうが呆れたように呟き、小高がそれを肯定した事で少し考えるような素振りを見せた後に左衛門佐が魔王繋がりで織田信長と言って杉野を指差し他の3人もそれに乗っかった
言われた当人の杉野は全く意味がわからず困惑したように首を傾げるのみである
「良いじゃないか織田信長、敵に容赦の無い所や戦に強い所とか杉野にピッタリだと思うぞ」
「…そりゃ俺もね?性根はうつけ者寄りな自覚はあるけど
かと言って信長か、どっちかって言うとホトトギスを鳴くまで待つタイプなんだがな」
うんうんと頷きながら続けるエルヴィンに喜んで良いのかわからないと杉野は苦笑いを浮かべる、何と言っても日本一有名な戦国武将である
歴史オタクの集まりであるカバさんチームの中で戦国時代担当は左衛門佐ではあるが、わかりやすい伝説を残してる分担当外の他3名もある程度は知っている
そのため杉野がポツリと放った一言に4人は少し目を丸くし、徐々に輝いた物へと変貌していった
「まさか杉野は
「歓迎しようじゃないか!」
「得意分野は何ぜよ!?」
「推しは誰なんだ??」
「ちょっと待て一斉に聞いてくるな聖徳太子か俺は!」
カバさんチームのキラキラした視線は概ね仲間を見つけたと言った具合の物であったが杉野にしてみれば彼女達との考え方には乖離がある為に複雑そうな表情をしている
「…得意分野は江戸時代だな」
「いい趣味してるぜよ〜!」
そして小さな溜息を一つ吐きながら、観念したように杉野が呟くと同じく江戸時代(後期)を得意分野とするおりょうが仲間だと言わんばかりに笑みを浮かべてサムズアップをする
ちなみに杉野は小学生の頃文学を通して仲が良かった友達に「徳川の時代に生まれれば良かった」と言っては自分がいかに江戸時代の文化・風習等を愛しているか熱く語った事もあるのだが「そんな事は絶対にあり得ないから考えるだけ損」だとあしらわれて疎外感を感じた事があるらしい
「好きな偉人はどうだ?誰が推しなんだ」
「石川啄木ッ」
「なんかごちゃごちゃしてるぜよ!?」
杉野の得意分野は江戸時代であるというところまではわかったが好きな偉人に関してはそうではないかも知れないと考えたカエサルはでは好きな偉人は誰なのかと聞いた所である意味ではその読みが当たり、得意な時代とは全く無関係な人物の名前を即答した杉野におりょうは肩を落とす羽目になった
「はて石川啄木とは…誰だったか?」
「確か昭和初期の詩人だったと思うが…」
尚啄木は啄木で昭和初期を代表する詩人の一人である為にうろ覚えながら名前は聞いたことがあると首を傾げる左衛門佐にエルヴィンが助け舟を出すように教授する
「啄木は良いぞッ彼を語るにはその言葉以外は不要だ」
「うわッ杉野がめちゃくちゃイキイキしてる…」
「こんな子供のように輝いた目の杉野初めて見たぜよ…」
「しかし詩人とは中々意外だな」
元々カバさんチームはそれぞれ英雄と言うべき偉人たちをモチーフにしている中で杉野が好きな偉人として詩人を上げた事がよほど奇異に映った様子で小首を傾げたが、杉野の啄木愛は本物でありいわば啄木ガチ勢であり
杉野が過去に1度目の夢であった航空の道を破れた後、2度目の夢として焦がれたのは詩人の道だった
その当時スクールの学部修了直後から中学受験や剣部隊配属等で慌ただしくなる辺りまでの1年10ヶ月の間に書かれた日記帳が存在しており、その中は自身の日常の出来事や彼女の早熟な感性から来る人生観や友情論が書かれている一方で本気で詩人として活動していた事が伺える10ページの詩と124首の短歌、そして敬愛する啄木への熱烈なラブコールが綴られていたりする
「その点で野上と話が合うのはミヤブンの方かもな」
「おりょうぜよ…」
本名の方で呼ばれた事でやはりムッとした表情のおりょうこと野上に杉野はまたかと内心で苦笑いしつつも、どういう事かと言葉の続きを促していそうな様子のおりょうに対して続けた
「俺がここに来る前にいた戦車隊は3つの戦闘用の戦車隊で構成されてたんだが、俺はその内の一つの隊長だったんだ
それぞれ3つの部隊は隊員達が愛称をつけてたんだがウチの隊は【新選組】って愛称でな
んでミヤブンって下の名前が勇ましいって漢字で読みがいさみだから「我こそは近藤勇也!」ってしょっちゅう息巻いてたよ」
「杉野さん恥ずかしいけぇそんなこと思い出さんでつかぁさいよッ!!」
本人にとっては少しばかり痛い黒歴史をほじくり返した所で装填席から物凄い勢いですっ飛んできた宮崎は羞恥に顔を赤くしながら杉野に抗議の声を上げるが当人は悪びれもなく笑みを浮かべるのみだった
話もそこそこ、巡航速度で編隊走行中の4輌に杉野は目を向ける
編隊のその先頭、お目当てのⅣ号とⅢ突とは横並び状態で1000m程度の間があいていた
「向きは別に同航*1反航*2どっちでもいい、間に開ける距離は目安としては今みたいに1000mくらい開けておくのがベストかな?
この位置からなら少し追い越して左後方45°あたりに敵戦車が来るようにすると頃合いだな」
「近くなったと言えどまだまだ小さいな…」
空いている距離が距離なのでまだ西住を含めた向こうの4チームは気づいている様子はない、それもそのはずで近づいてるこちら側からしてもまだまだ小さくしか視認は出来ていないのだ
特にこれと言った指定は無いが今回は追い上げた形となっている為同航戦の状態で進めていくことを決めた杉野は操縦手の葛西に内線で指示を出す
「距離良し、速度差は15km/h前後ってところだ」
『了解ッス…アレ、やるんッスよね?』
これからやる攻撃法は杉野が全盛期の頃、いかに敵の反撃を受けず
かつ確実に仕留めるかと言う考えのもとに考案したいわば彼女の
それと同じくらい技量と肝の座った操縦手
そして冷静に射撃を行う砲手の3人が揃ってようやく可能となる技であり、杉野はこの技を持ってして多くの戦車を撃破してきたのだ
「Ⅲ突は固定砲塔だから難しいとは思うが
葛西、一発ハデにやってくれ」
『合点、承知の助ッ!』
言葉と共に一度通信が切れ、90°旋回し
つまり西住の乗ったⅣ号へ向けて一直線に突っ込んでいき、速力が最高速度域に達したあたりで狙われていた西住本人も向かって来るⅢ突の存在に気づく
「Ⅲ突が来ます!皆さん砲撃を開始してください
固定砲塔のⅢ突なら正面に入らない限り大丈夫です!」
西住は喉元につけた無線マイクにスイッチを入れて各車に指示を飛ばす、一斉に4輌の咆哮が真っ赤な火を吹いてⅢ突へ襲いかかるが実際に着弾すれば砲手席からは五十鈴の思わずといった様子で息を呑むような声が響いた
(当たらない──いや、アレはッ)
互いに走りながらであるためにすぐに当たらないと言う事までは理解出来る、しかし実際には照準を
(ありえません──アレではまるで、砲弾が戦車を避けているような!?)
まるで砲弾が自ら意思を持ってⅢ突を避けたように見えてしまい思わず五十鈴の表情は引きつったものとなった、とは言えいくら仲間内での訓練と言えどこのまま状況に飲まれて負けるのでは面白くない為意気込みを新たに深く深呼吸をする
「五十鈴殿、装填完了しましたッ」
「──ありがとうございます」
それと同時に装填席の方で立ち上がって作業をしていた秋山から装填完了の報せを受けてもう一度撃発レバーを引く、先程は照準正面に捉えたⅢ突の右後方に着弾した為あえて正面より左側に合わせて見越し射撃に入るが今度は数十m左側に土煙が上がるのみに終わる
「──ッ、当らない…」
思わず五十鈴の表情が苦々しい物に変わり普段の冷静さに小さな陰りが出始めてきた事に車長の西住は気づいて状況を打開するためにはどうするべきかと思案する
Ⅲ突がこちらに狙いを定めて突っ込んで来たのが1000m前後であった為、もう30秒もしないうちに0距離
接近戦に持ち込みたいだけであるならあと15秒前後と言ったところだろうか
悩んで悩んで答えを出しあぐねた時、先に答えにたどり着いたのはやはりと言うべきか杉野を一番間近で見ていたウサギさんチームで澤からの無線が入った
『西住隊長!おそらくですがⅢ突は横滑りしてるんだと思います!!』
「横滑り…?」
聞き馴染みのない言葉に思わず聞き返すと一寸遅れて澤が続ける
「桂利奈が言ってたんですが、『まっすぐ進んでいるように見えるのに実際には右に左に動かす方法』だって杉野先輩から教わってたみたいです…」
「──そういうことだったんだ」
簡潔ながらも言葉を交わして西住はその走法の意図に気づく、端から見てまっすぐ進んでいるから軸線もそれに合わせるが実際には左右に動いているのだから狙った通りに弾が飛ぶことはない
それはおそらく砲手からしてみれば悪夢のような走法になるだろう、現に種がわかっていない五十鈴が徐々に普段の冷静さが失われ始めるくらいにはのっぴきならない事態となっている
そして最も恐ろしいところは、かつてウサギさんチームの前で実演してみせた杉野が他の3人の搭乗員から比べれば操縦が下手だと言う点である
一番下手な杉野に出来て他の3人が出来ない道理がない、そのため現在Ⅲ突を操縦している葛西を始め
宮崎も小高も出来るものだと思っていたほうが良いだろうと西住は考えては頭を抱えたくなった
「みぽりん…どうする?」
車長席の横、通信手の席から武部が難しそうな表情でどうするのかと問いかける
まだ試合中という追い詰められるような状況でも無いため焦りは無いが、それでも本気で抵抗して欲しいと言われている手前
少しばかり闘志に火がついてしまうと言うのもあってうんと唸る西住の表情は真剣そのものだ
「Ⅲ突は固定砲塔だから目の前に出なければ良いって言うのは間違いじゃないの、でも相手がナオさん
「あ〜…確かに、ナオっていつも想像の斜め上なことばかりやってるかも」
ポツリと呟いた西住へ反応するように武部が肯定するように声を上げる、今までの杉野の戦い方を鑑みればそれを逆手に取った戦い方をしてくるかもしれないと言う読みは武部をしても納得できるものだからったから
「ッ回避!!」
そうこうしているうちに距離が200m程までに詰まる
直後Ⅲ突が急激に旋回し、こちらへ頭を向けたかと思うと一発、二発と立て続けに砲口が火を吹いてⅣ号の前後に着弾する
回避運動を取っていなければ直撃コースであった
(回避は出来た…いや、回避は出来たのに拭えないこの不安は一体なんなんだろう
私…何か見落としているんじゃ…)
車両後部を流しながらの急激な旋回、おそらくは横滑りの応用で極力速度を殺さず
車輌前部を旋回方向へ巻き込むように動く事で固定砲塔のⅢ突であっても横方向への砲撃を多少なりとも可能にしたのだろう
しかし撃たれる前の予備動作で本能で感じ取って回避する辺り西住も西住で
(…まさか、距離を測ってる…?)
西住の不安を後押しするように、以降Ⅲ突は砲撃を行うこと無くほとんど一直線にこちらに近づいてくる
その距離が100mを切ったとき、ふと西住の頭に不意にそんな事がよぎる
200前後の近距離であったが、実際には目測であり詳しい距離まで脳内で算出するのは少々骨である
そのため杉野はⅢ突の砲撃で上がった土煙で自車とこちらの距離を補正したのでは無いかと考えた所で、西住の背筋にゾクリと冷たいものが走った
(じゃあ一体何のために…?ナオさんは多分無駄になるような事をする人じゃない…
ここまで近づかなくても照準に捉えることは可能なはずじゃ…)
更に距離は詰まって50mを切り、それでも4輌の砲弾はⅢ突とは別のあらぬ方向へすっ飛んでいき当らない
避けるような素振りを一切見せずに30m、20mと依然距離を詰めてくるⅢ突に装填席から思わず立ち上がった秋山が「あっ!」と口にした
「ぶつかる!?」
「いえ、あれは…!杉野殿の狙いは最初から──!!」
あまりの近さに各搭乗員への指示を尻込みした西住の声と、杉野の狙いがわかった様子の秋山の声が重なる
一方Ⅲ突の方もこっちはこっちで阿鼻叫喚の様相を呈していた
「うぉおおおっ!?近い近い近いッ!!?」
「杉野ッぶつかるぜよ!?」
キューポラハッチより上半身を乗り出して不敵な笑みを浮かべたままⅣ号へ吶喊していく杉野とは裏腹、それを後ろで見ているカバさんチームの各搭乗員は顔を真っ青にして慌てふためいている
「お、おい!こんな距離で身を乗り出して危なくないのか!!?」
「と言うかぶつかるぞ!本当にこれで大丈夫なのか!?」
回避運動も交えていると言えどほぼ最高速度域、しかもエンジンの高出力化に伴いⅢ突の最高速度も1.5倍程に伸びている
更に着弾するのは自車より遥か彼方と言えどひっきりなしに砲弾が飛び交ってる中で表情一つ変えずの杉野に思わず4人は化け物でも見ているような気分になった
(いや…しかし、まさか!?)
そしてその4人の中でも今回の技術指南を依頼した張本人であるエルヴィンは、嫌な予感と共に杉野のやろうとしている事に薄々気がついた
「杉野、お前──ッ!?」
10m──5mと距離が近づき、後ろの天板側から顔を出していたエルヴィンの表情にも目を見開いてこちらをガン見している西住の表情がまじまじと見て取れた
「「車輌の真正面、砲身の真下を抜ける気か(です)ッ!」」
当人たちは知る由もない事だが、Ⅳ号の車内での秋山の言葉とⅢ突の車内でのエルヴィンの言葉が重なった
次の瞬間互いの距離は1mを切り、ぶつかると各員が衝撃に備えた瞬間グラリとⅢ突の車体が90°横に向く
そしてⅢ突特有の長砲身の先端がⅣ号の前部装甲…正確には車体と砲塔の隙間をなぞるように掠め、刹那砲口が火を吹いてⅣ号から白旗が上がる
Ⅲ突はそのまま車体を勢いのままに一回転させてから離脱していった
◆
「と、まぁこんな感じで相手の砲撃を躱しながら近づいて
ゼロ距離で仕留めてやるわけだ」
「「「「出来るかァッ!!」」」」
上手く行った事に安堵しながら、離脱するⅢ突の車内で先程の攻撃法についてそう締めくくった杉野にカバさんチーム4人の怒号が重なった
「あんなのを攻撃法と言って良いのか!?」
「何言ってんだ、度胸一番で衝突スレスレまで近付いてく
戦車を手足のように扱えるベテランにのみ許された攻撃法だろ」
「度が過ぎるわッ」
「寿命が縮まったぜよッ」
悪びれもなく歴とした戦法だと宣った事でカバさんチームから非難が飛ぶ、しかし一方でエルヴィン一人のみ何かをじっと考えるようにしてから口を開いた
「…衝突スレスレで相手の砲身の下をくぐる理由は、何かあるのか?」
「──あぁ、その事か」
エルヴィンの問いに対してその疑問も最もか…と独り言てから杉野は続ける
「あのやり方は唯一、砲撃の瞬間敵からの反撃を受けずに済む方法なんだよ」
「どういうことだ?」
ピクリと片眉を持ち上げ、意味がわからないと言いたげな表情のエルヴィンに杉野は小さく一つ頷いてから再度続けた
「要はさ、敵の砲撃をいなしながら近づいて
外しようのない距離で砲撃を行うことで一撃で相手を仕留めるやり方なんだが、隊列を組んだ敵戦車隊に対してキワまで近づく際に車輌の後部を抜けるのが従来のやり方なんだよ
そっちのが衝突の危険もないしな、だけどそれをわかってるのは相手も同じ
抜ける瞬間に狙い撃ちされて蜂の巣になる」
大洗は戦車の所持数が少ない為、今回敵役に回ってもらった戦車の数は僅かに4輌のみとなっている
しかし実際の試合で隊列を組んだ編隊に吶喊していくとなると相手が小隊ならまだしも中隊、もしくは大隊ともなれば10輌以上
下手すれば20輌に対して突っ込んでいく事になる
そんな数から1点狙いされれば仮に相手を撃破出来ても自分もやられてしまうことになるだろう
「そこで俺は考えた訳だ、一撃必殺で仕留めるならどうしてもゼロ距離まで近づきたい
しかし後部を抜けるのでは蜂の巣にされて相手を撃破できても自分もやられる──なら先頭車輌の前を抜ければ
後続からは前の車輌も照準に入るから誤射を恐れて反撃が出来ないってな」
「いや、理論的にはそうかも知れないが…」
確かに杉野の言ってることは理に適っているし、一見こうして聞いてみれば非常に高度な分析に基づくたゆまぬ鍛錬の結果可能にしたまさに杉野の
しかし逆を言えば合理性を求めすぎて自己の安全性だとかその他諸々の大事な何かを見失ってはいないかとエルヴィンは内心苦笑した
「んで相手の砲身の下をくぐれば唯一反撃を受ける可能性がある当の先頭車輌からの砲撃も受けないだろ?
だから一方的な攻撃が出来る場所でもあるんだよ」
説明は続き何故狙った敵車輌の砲身の下をくぐるのかと言う話に杉野は移るがこれは至極簡単な話、誤射の危険性から後続車輌の攻撃手段を潰してやれば残る脅威は狙いをつけた先頭車輌からの反撃のみとなる
そこで衝突を恐れずにキワのキワ、それこそ1秒でもタイミングズレれば衝突必須な1m以下と言う超至近距離で砲身の下を抜ければそもそも砲身が下げられないのだから反撃が出来ないと言うなんとも単純明快な話なのだが、口で出来ると言えど実行できる人間がどれだけいて
どれだけの人数が成功させられるのか、その点で言えばこの攻撃法を得意技とし一切の躊躇も怯む様子も見せなかった杉野の姿はカバさんチームの4人の前には殊更異質に見えた
(前から高い技量と知識、そして相応に肝が据わっていると思ってはいた…いたがッ
一体何が杉野をここまで駆り立てたんだ───?)
特にエルヴィンは日常の訓練において杉野の異質性に気づかなかった、初めて彼女が杉野を目で追うようになったのは聖グロリアーナとの親善試合が終わってからだったが
今になって何故杉野が自分達の目に異質に映ったのかその理由の一端が先程ので少しわかった気がした
(…生まれる時代を間違えた英雄、もしかすれと杉野はそういう人間なんじゃないだろうか)
戦車道と言う武芸の中というよりは杉野の強さは
勝つために見てるだけの自分達が恐怖を感じるほどに自らの身の危険は顧みず、どこまでも苛烈なまでに好戦的なその様は生まれる時代が時代なら後世に語り継がれるような英雄になれた事だろうが…しかし今の平和な世の中では戦車道のような狭い箱庭が如く世界で行われる、誤解を恐れずに言うのならば
「──ま、最初に言った通りコレを扱い切るには練度だけじゃなく相当度胸もいる
指示を出す車長だけじゃなく、自分の意志で相手まで近づかなきゃならねぇ操縦手も冷静にタイミングを測らなきゃならねぇ砲手もな」
「いや、出来るかどうかは確かに別だが
良い勉強にはなった」
そんなエルヴィンの様子を知ってか知らずかそう言って締めくくる杉野に勉強にはなったから問題はないとだけエルヴィンは答える、実際危険はあるし自身達に足りない多くの要素を補わなければ扱いきれない高度な技ではあるが
確実に相手を一撃のもとに仕留められる有用な手段ではある
(…自主練の時に3人を誘ってこっそり練習してみるか)
格納庫前につき、杉野からの講習はこれで終わりではあるものの
取得できれば今後の戦略の幅が広がるのではないかと言う期待から、エルヴィンは同チームの3人を誘って後でしっかりコソ練しておこうと決意を固めるのだった
今回の技がどんなものか気になる方は【前方背面急降下直上方攻撃】で検索かければ元ネタが出てきます
コレを戦車でやったと思えばいいです、急降下は出来ないので真横から急接近して砲身の下を抜けるって形にはなりますが…
あと最近はキャラの立ち絵欲しいけど絵の才能皆無なのでAI絵師を導入するかどうかが悩みとなってます、文字数もいつの間にか50万文字超えました、当初の予定では20万文字でアニメ範囲→剣部隊編10万文字→劇場版10万文字→最終章10万文字の計50万文字を想定してましたがアンツィオ戦すら始まってません
どこで道間違えたかなぁ…でも妥協して書きたくは無いし書きたいもの書けてるから良しとするか…
はい、話変えましてお気に入り登録、感想、評価等励みになりますので是非ともよろしくお願いします
いつでもお待ちしておりますので
例の如く誤字脱字は発見次第直して行きます
以上です