ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

48 / 49

本編を楽しみに待ってくださってる方々には申し訳ないんですが、今回と次回は閑話です
…書きたいことがいっぱいあるんですよね、だから見ても見なくてもって感じです

多分本編にはほぼ関係ないです

※この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。※




閑話 Smoky(上) ★ 【挿絵有り】

 

週末は試合前週と言うこともあり土日の練習は無し

ついで寄港日ともなれば否応なしに心が踊る

さてどう過ごそうかとみほ達を送り一緒に帰ろうかとしていたところ、ツチヤに話しかけられた

 

「スギノ~、今夜首都高上がるんだけど来ない?」

 

「ん、了解…帰ったら準備しとくわ」

 

どうやらツチヤ達自動車部のメンツは首都高に走りに行くらしく、一緒にどうだという事だったのでこれを了承する

帰ってまたオイル交換しなきゃ…と考え込んでいたところで後ろの5人がこちらをジッと見つめている事に気づいた

 

「首都高…?高速道路に何の用事が??」

 

「なんかツチヤ達が走りたいんだって、それの付き添い」

 

「ふーん…危なくないの?」

 

「車運転してる以上は危なくない事なんて無いよ

まぁ危ないことが起こらないようにこれから準備はするけどな…」

 

5人の中から武部は、自動車部の4人と合わさって少女が5人も集まって高速道路に何をしに行く気なのかと切り出し

俺の用事では無いために「自動車部が」というところを強調しながら伝えると今度は危なくないのかと聞かれるがそもそもハンドルを握って公道に出た以上絶対の安全など存在しないし、それを言ってしまえば常日頃から実弾をぶっ放してる我々はどうなるのだろうか等思いながらそう伝えると「あー」と唸るような歯切れの悪い返事がかえってきた

 

「杉野殿なら安全運転なので安心ですね!」

 

「安全…運転?そうかな?そうかも??」

 

一方で常日頃、彼女たちを送っている際は法令遵守で絶対に交通ルールを守って走行している為

俺の運転なら大丈夫だろうと秋山が声を上げるが、みほと冷泉が無言で目を見合わせて互いに頷きあってからみほが続ける

 

みほと冷泉がファーストコンタクトだった日に遅刻スレスレだった為に短い距離ながらもほぼ全開走行に近いところを見られてしまっているからだろう

いつも皆を乗せるときは安全運転を意識してしてるわけだが、それはそれとして毎度みほに「安全運転でお願いします」と念押しされるのはそこが原因だと思われる

 

「ナオさんは今週末はずっと都内?」

 

「いや?日曜はこっちに友達が来る予定だから明日の日中には帰ってくるつもり」

 

「へぇ…お友達と?そっか」

 

先日寄港日が決まった際いつなら都合がつくかと愛里寿から連絡が来ており、寄港日で確実に空いてる日曜日を伝えたところ是非会いたいとのことだった

直前になってからバタバタと忙しなくするのは精神衛生上よろしくない為、明日(土曜日)の日中…おそらく午前中には帰ってくると伝えたところ

なぜかみほはスゥー…と目を細めて「ふぅん?へぇ?」と不機嫌そうに続けた

 

ここ最近、みほはこうなることがちょくちょくある

今みたいに態度に出ることは稀だが誰かと話してるときにあからさまに不機嫌になることがあるのだ

しかしその不機嫌になるのも俺に対してのみで、相手に対してはいつも通りに接してる

…遂に嫌われてしまったのだろうか?だとするとちょっと嫌だけどな

 

「…私の知ってる人?」

 

「いや、この間言ってたボコミュージアムであった女の子だよ

そんなに気になるなら来るか?」

 

「いえ…今はまだいいかな、()は」 

 

そんなに言うならついてくるか?と聞いてみてもみほはまだいいと言っていた、なぜか今はと強調しながら

そして何かを考えるようにしてからみほは続ける

 

「…ナオさん、明日暇してますか?」

 

「明日?まぁ予定は無いけど…」

 

「お昼頃に行きたいところがあるので付き合って貰えませんか?」

 

「あー…それくらいの時間なら帰ってきてるかな」

 

どうやら明日行きたい場所がありそれに付き添いをお願いしたいらしいが、わざわざ俺を呼ぶと言うことは内地()だろうか?

 

「実はアンツィオの秘密兵器がP40だと言うことがわかったけど、情報があまりにも少ないの

カバさんチームのカエサルさんが資料を持ってるみたいだからそれの付き添いをお願いしたくて」

 

「あー…」

 

聞く前にみほ自ら教えてくれたがアンツィオ対策にカバさんチームのカエサルこと鈴木に用があるらしい

しかし俺は全然良いが、だとすればいつもチームとして一緒にいる武部とかのが良いんじゃないかとは思う

 

「その…ナオさん最近忙しくて一緒にいられる時間も少ないし、…ダメかな?」

 

「わかった、一緒に行こうか」

 

なんて思っていたことが表情に出ていたのか、みほは伏し目がちにそんなことを言ってきた

単にいつも一緒にいる奴等と出掛けた方が良いのではないかと思っただけで、断る気は元から無い

 

「じゃあ明日、お昼に電話しますね!」

 

「了解、なるべくそれまでに準備しとくわ」

 

そんなこんなで車まで来て、5人を乗せて家まで

明日は特に予定も無かったし、ここで用事が出来るのはちょうど良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人をそれぞれの家に送り届けて一度家へと帰宅する、時刻は午後17時手前

自動車部との約束の時間にはまだだいぶ余裕があった

 

「──というわけで、俺今夜いないからそのつもりで」

 

「はーい、了解です」

 

「走り行くんスか?ええッスねぇ」

 

「あんま無茶せんで下さいよ~?」

 

みほ達5人を送ってる間に居候中の3人は帰ってきていた用で、夜は各々勝手にと伝えたところ小高、葛西、ミヤブンからそのそれぞれの言葉に「おう」と短く返して

さて準備しようかと再び家から出ようとしたところを葛西に呼び止められる

 

「杉野さん、都内の方いくならウチんこと途中で捨ててってくれんッスか?」

 

「別に良いけど、なんかあるのか?」

 

「こっちで使う足を取りに実家帰ろうか思っとるんッスわ」

 

どうやらこの休みの間にこっちで使う移動手段を取りに行きたいようだ、この間も取ってこようか悩んでいたし

大洗のは小さいとはいえ、それでも学園艦の端から端までは8キロくらいある

体力のある葛西と言えど辛いものがあるのだろう

 

「千鳥のインター越えたらずっと首都高乗りっぱだから、市川辺りでいいなら」

 

「充分ッス、アザッス」

 

いつも首都高へのアクセスは51号をひたすら南下し、357号へ合流

千葉市から続く新幹道路をひたすら進み、幕張・船橋を超えて千鳥町ICへ向かう

そこからは折り返しとなる大黒JCTまで首都高から降りることは無い、都内へのアクセスを考えれば行けて市川辺りがギリギリだろう

 

「じゃあ俺は準備があるから少し工場に行くけど…」

 

「ウチも行くッスよ、終わりしな洗車くらいなら手伝えるッス」

 

「お~助かるね」

 

留守番はミヤブン・小高の二人に任せて葛西と一緒に家を出る、駐車場へ止めていた車に乗り込んで工場へと向かう

 

「車高ペタペタな割に、意外と乗り心地は悪く無いんッスね」

 

「バネはそんなに固いの入れてる訳じゃねぇからな、フロント14kg/fでリアが12kg/fだ」

 

「え?そんなんでイケんッスか?

このスカG、300km/h以上出るッスよね?」

 

「逆だよ逆、300km /h以上出るからある程度はキチンとストロークさせてやらなきゃダメなんだよ

多分これでも首都高走ってるGT-Rの中なら足も固い方だと思うけどな…」

 

「そんなけ柔い足なんにこんな車高落としとってエエんッスか?」

 

「まぁ300km /h 以上出す時フルバンプでたまにマフラー当たるな

でもやっぱりこれくらい車高下がってた方がカッコ良く見えてさ、田舎者だから俺」

 

工場に向かう道すがら助手席の葛西とそんな他愛も無い話をする

葛西の個人所有のシビックは主戦場が山や都心環状だから足はガチガチに締め上げてるようだが、こちらは300km/h以上を棲み処とする湾岸最高速

あまり足を固くしては轍やギャップでとッ散らかってコントロール不能になる

 

それでも意地で定石より硬めの足と地を這うようなシャコタン、デュアル出しの直管マフラーにしてる

ほら、俺は田舎者だから車高は低ければ低いほどカッコいいし

マフラーの音はデカければデカいほど偉いと思ってるから

 

「わかるッスよ~

まぁウチのはもう車高調もろくに出回っとらんッスから、下げたくてもあんま下げれんのですが」

 

「ダブルウィッシュになる前だもんな~

EFより前だと下げるだけで一苦労だろうな」

 

古い車と言うのはよっぽどの人気車輌でない限りカスタム品を含めて部品が中々見つからない物だが

葛西の車の場合は俺よりも更に古く、当時こそ超が着くほど人気があったが今やただの古い車

パーツがほとんど残って無いらしく、色々と苦労があるようだ

 

 

 


 

 

 

 

「こんなところにあったんッスね~」

 

「ちと遠回りだけどな」

 

工場の敷地に入り車を止め、シャッターを開ける

中に入ってるのはこの間学園に持っていった戦車2輌が減り

普段使いしてる俺の車がなければオートバイ一台に紫電改のみ、ここもだいぶ広くなってしまった

 

「…そう言えば源田司令が倉庫のゼロをさっさと持ってって欲しいってボヤいとったッスよ?」

 

「──やっべ、すっかり忘れてたわ」

 

紫電改を見つめながら思い出したように呟く葛西に思わず「あっ」と声が出る

ここで葛西が言ったゼロは、その昔俺が移動用の足として乗ってた零式艦上戦闘機(零戦)(五二型)の事で

 

秋山にサンダースへ潜入する際過去に所有していたことを知られていたアレである、ついでに何故か秋山は俺の黒歴史(直したばかりでひっくり返して大破させたこと)も知っていたし、彼女の言ってることが本当なら俺の黒歴史は俺のファンには筒抜けになってるらしい

ドウシテ…

 

「後で取りに行かねぇとなぁ」

 

「どうするんッスか?」

 

「直して予備の足にする」

 

結局大破してから直すのが面倒で、剣部隊の整備庫の隅に放置となっていた

そしてそのまま俺が剣部隊を引退してすっかり存在を忘れてしまっていたのだ、後で源田司令に謝りに行かなければ…

 

「んでこっちはカミナリマッハ…ッスか?

こりゃまた古いの持ってきたッスね」

 

「昔250のやつ乗ってたろ?順当にステップアップしてこうと思って不動車引っ張ってきて起こしたんだけどさ」

 

「…の割には動かした形跡無いッスよね

所々埃被っとりますし」

 

次に葛西が目を向けたのは車庫に一緒に保管しているオートバイ、KAWASAKI 500SS 通称マッハⅢである

これは元々、俺が飛行機や車を移動手段にする前に限定解除で取得した二輪車を足にしていた時期があり

その当時はKAWASAKI 250SS 通称マッハⅠを乗ってた

 

車を買ったのは高校に上がる際だが、その少し前にこのマッハⅢを購入し直してる

なんなら本来、通学はこのバイクで行く予定だったのだが

まぁなんとも…「そりゃそうだよな」となる、ある理由により断念したのだ

 

「タッパが足りなくてさ、どれだけ車高下げても際までシートをアンコ抜きしても流石に大型は足が着かなかったんだよ」

 

「…なんで買う前に気づかんかったんッスか?」

 

「250の方乗ってたからイケると思ったんだよなぁ」

 

しかし直した後に気づいたのが車高調組んで限界まで車高を下げても、シートを極限までアンコ抜きしてもはや台座の板しか残って無い状態までしてもつま先さえ地面着かないというどうしようもない事実だった

 

「しっかしここまで直したんに勿体ないッスね~」

 

「お前乗るか?」

 

「いや、要らないッス

もはや骨董品の域やないッスか、金食い虫は車だけで充分ッスよ」

 

乗らないのにあっても勿体ないと思ってた所なので、同じく勿体ないと呟いた葛西に押し付けようと思ったが拒否されてしまった

まぁどれだけ修理してもこの年代の物はいつまた壊れるかわからないからな…

その代わり構造が単純だから簡単に直るけどさ

 

「葛西だったら足長いし似合うと思うけどなぁ」

 

「二輪も好きッスけど、流石に学生の内に車と両方は無理ッスわ

大型も取らないといかんくなるやないッスか」

 

葛西はまだ14歳だがめちゃくちゃ背が高い、前に聞いたときで既に170cmを超えていたのでおそらく高身長な葛西には大型のバイクはめちゃくちゃ似合うだろう

…ほんと、少しはその身長を分けて欲しいものである

 

「お前見てると小学生もビックリなスーパー低身長ボディが我が身ながら恨めしく思うよ」

 

「…剣部隊いた頃からサイズ感変わっとらんッスもんね」

 

「あの頃から1~2㎝くらいしか伸びてねぇんだよな…

このままじゃ成長期終わっちまうっての」

 

誠に遺憾であるが俺の背は現状、大洗の生徒を中高全て引っくるめても俺が一番低身長だ

そうであるのに俺は今高2な為、背を伸ばすには後1年半程度しか猶予が無い

まさかこのまま背が伸びずに終わるというのは無いだろうが、それにしても130㎝前半のこの身は本当に不便でしかたがない

 

「全国の高校見ても杉野さんは下から数えた方が早いんちゃいます?」

 

「言うなよお前そういうの、気にしてんだからさあ」

 

「杉野さんより低い人っておるんッスかね」

 

ふと考えてしまう、流石に全国の高校で俺が最下位の身長だとは思いたくない

考えて考えて───

 

「…あ、そういやいたわ」

 

「え?マジッスか?」

 

「いや、でもどうなんだろうな…最後にあった時はまだ中学の時だったし」

 

一人だけ思い当たる人物がいた、俺の1個歳上で

確かプラウダに行った筈だ

 

「葛西も会った時無かったっけかな?」

 

「えぇ?どんな人ッスか?」

 

「ほら、よく試合の休憩中に屯所まで押し掛けてきてた金髪の子」

 

「あぁー!おったッスね!」

 

そこまで特徴を言ってやれば葛西も合点がいったように頷く、その子との出会いも結構前の話で

俺がまだ戦車スクールにいた頃まで遡る、出会いはなんてこともない

親と試合観戦に来たその子が迷子になってるところを俺が発見し、親が見つかるまで一緒に探したのが出会った切っ掛けであった

 

そのときは俺が試合の直前だったこともあり、親元までつれていってからはろくに会話も挟むこともなく引き上げたのだが

以降気に入られてしまい、結構な頻度で試合前や休憩中の部隊屯所まで押し掛けてくるようになったのだ

 

「…確かにあの子、杉野さんより低かったッスね

ってか杉野さんより歳上なんも今知ったッスけど」

 

「歳上なのは間違いねぇよ、いつだかの時制服来てきたからな」

 

ちなみに出会いの切っ掛けが戦車道の試合を見に来ていただけあり、戦車道をやっている子らしく

戦車道をやるためにプラウダに進学していった、最後に会ったときもプラウダの中等部の制服を来ており

顔を会わせる度に「中学を卒業したらプラウダに来なさい!」と勧誘されていた

 

その時は日帝学園の推薦狙いだったために毎度丁重にお断りしていたのだが、中学生活も後半になると向こうが学園艦生活で時間が合わないから徐々に会うことも少なくなり

 

ついでに俺が引退した年には剣部隊も拠点を転々とするようになったのでそこからはなんとなくフェードアウトしてしまったのだ

 

「久々に会いたいけどなぁ」

 

「去年優勝しただけあって、最近のプラウダは波に乗っとうッスからね

上手く行きゃ試合で会えるんちゃいます?」

 

「だと良いけどな」

 

向こうもやめていないなら、きっと試合で再び会える筈だ

負けん気の強かった彼女の事である、きっと平の隊員ではなく小隊長くらいにはなっているだろう

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後19時、走りに行く前のメンテナンスを終え

ついでに今しがた葛西が洗車を終えたのを見届けて車に乗り込む

 

「シャワー浴びときたい…」

 

「ええッスね、ウチも出発前に忘れもん無いかもっぺん確認したいッス」

 

アイドリングにて暖気運転をしながら、水温が上がってくるまで葛西と再度雑談に勤しむ

オイル交換と軽いメンテナンスのみだが、初夏ともなればじっとりと汗が滲んでくる季節となり思わず辟易とする

 

「今逃したらド深夜まで浴びれないからさ~

ひどい匂いだと思いたくないけど、朝からちょくちょく汗かいてるしさっぱりしたいよ」

 

「帰る前に学校の浴場使えばええやないッスか」

 

「人数多い日は使いたくねぇーの」

 

そんなことを言えば葛西からは校内の、皆が訓練後に使ってる大浴場を使えば良いと言われるのだが

これは前に無理やり秋山やみほに拉致られて人のいる時間に入ったほぼ唯一のものだ

それ以降も人数が少ない時は入るが、人が多ければ行かないようにしてる

 

何てったってあの時も澤に絶句されちゃったからね

たまに履修生各員とはそれぞれ、時折入る浴場で顔を合わせるが初見だとほぼ皆古傷を見たと同時に絶句した表情になる為

やはり人が多い時は入らないに越したことはないと判断をしたのだった

 

「まぁ──気持ちはわからんでもないッスけどね」

 

「勲章だから、この傷がなければなんて言うつもりねぇけどもな、お前らみたいに分かりにくい位置のはたまに羨ましくなるよ」

 

古傷関連で言えば、あるのは俺だけでは無く

大洗に来たミヤブンや小高・葛西も同様だ

あの頃文字通り死線を潜り抜けたメンツは怪我なんて日常茶飯事、特に葛西は身体が大きいから撃破された際に車内の至るところにぶつけることが多く

剣部隊所属時だけで足の骨折を二回経験していたりする

 

「特に杉野さんは脇腹ッスもんね」

 

「目立つよ、まぁ怪我で済んでるだけ御の字だけれどもな」

 

そう、なんだかんだ俺を含めて怪我だけで済んでるだけまだマシなのだ

部隊を去った中には少なからず、死んでしまった人間もいまだに病室で目を覚まさない者さえいる

 

「杉野さんが初代隊長唯一の生き残りなんッスから

ほんま死なんでくださいよ?」

 

「善処する」

 

少し間を置いてやけに真剣な声色で葛西がそう言うが、こればっかりはなんとも言えない

もちろん死にたがりなわけでは無いため善処はさせて貰うが、とはいえちょっとのミスが大怪我に繋がる可能性があるのが戦車道

砲撃からは守ってくれるが車内に走る衝撃までは緩和出来ないし、身体を外にさらけ出す車長は言わずもがな

カーボンの特性上対応衝撃を超えたりしたら(フラッグが上がってからも執拗に砲撃を打ち込まれたり)割と簡単に特殊カーボンは割れてしまったりする

 

死なないに越したことは勿論無いが

ある程度の覚悟は初めからしておく位がちょうど良い

だからこその「善処する」なのだ

 

 

 

 

 


 

 

 

 

一度家に帰ったものの、俺も葛西もすぐに済む用事であった為に早々に用事が済んでやることはなくなってしまう

特に何時に、とは約束していたわけでは無いが

どうせ港への乗り降り場辺りにいれば自動車部の4人とも落ち合えるだろうと踏んでいたのだが

 

 

「──冷泉?あにしてった(なにしてんだ)?こんなところで?」

 

「…杉野さんか」

 

車に乗って移動中に私服だと思われるラフな格好で歩く隊長車のあんこうチーム操縦手の冷泉を見かけて軽くクラクションを鳴らして横につける

時刻は20時を回ったばかりで、こんな時間に会うと思わなかったのか少し驚いたように目を見開いていた

 

「…寄港日だからおばあに顔見せに行かないと殺される」

 

「こんな時間に一人で?」

 

「女の子が一人で歩いとったら危ないッスよ?」

 

まぁ、おばあちゃん子な冷泉だしそんな事だろうとは思ったのだが

とは言え夜に一人で出歩くのは学園艦とはいえ褒められたものではない、ましてやこれから陸へ向かうと言うのならば尚更だ

 

ただでさえ何故かうちのチーム…というか戦車道に勤しむ物は顔は良い人間が多い

戦車道は美人しかできないとかそういうジンクスがあるかはわからんが、御多分に漏れず冷泉も顔が良く人目を引く容姿をしている

今まで大丈夫だったからとこれから先も大丈夫であるかはまた別の話だ

 

「──よし、どうせついでだ

乗れよ送ってくぜ?」

 

「…恩に着る」

 

「ほんならウチ後ろ行くッスわ~」

 

と言うことでこのままそっとしておいても後味が悪いので物のついで

どうせこちらも陸に上がるのは一緒なので冷泉も乗せていくこととなり、今まで助手席にいた葛西が後ろの席へと移って助手席には冷泉が座る

 

「…なにも見えん」

 

「慣れだ慣れ」

 

普段のメンツで冷泉が前に座ることはなく、いつも後ろの席で眠そうに船を漕いでるため今回助手席は初めてだ

目を丸くしてそう呟いた冷泉に慣れれば大丈夫だと返して車を走らせていく

ちなみに全くの余談だがいつものメンツだと助手席は必ずみほが座ってる

 

 

 

 

 

 

 

「おぉーい!こっちこっち」

 

乗り降り場まで着くと、既に自動車部の4人は先に着いていたようで

自動車部所有のトヨタソアラ(二代目)の周りに集まっていた中から音でこちらの到着に気づいたナカジマが手を振ってきた

 

 

──ボォオオ…キィイイッ

 

4人の前、正確には自動車部のソアラの横に車を着けると冷えた社外のブレーキパット特有の甲高い鳴き音を轟かせて止まる

当初の予定だと俺一人だけの話だったので、同乗で葛西と冷泉の二人がいることに4人は少し驚いたように目を見開いた

 

「すんません、待たせたっすか?」

 

「…待ってはないけど」

 

「葛西ちゃんと冷泉ちゃん乗せて走る気?」

 

「んなわけないっしょ?

俺、走るとき横は誰も乗せないって決めてんすから」

 

葛西はまぁあれだけど、流石に冷泉を乗せて進んで法令違反をするつもりは無い

では何故一緒にいるのかと疑問の表情を浮かべている4人に二人を乗せてる理由を話した

 

「…確かに女の子一人夜道で歩いてたら心配だよね」

 

「放っておけんでしょう?」

 

4人の中から納得いったようにスズキさんが苦笑いを浮かべて呟く、当の冷泉は少し居心地が悪そうに視線を反らした

 

「それにしてもカサ(葛西)ちゃんも車持ってたんだ」

 

「ボロッスけどね」

 

助手席の窓から後ろの席の葛西とツチヤがそんな雑談を始めていたためそちらへと意識を向ける

 

「なに乗ってるの?」

 

エーティー(AT)のシビックッスね」

 

「あー…オートマ(AT)のシビックか~」

 

なにやら盛大な勘違いをしてしまったようで、ツチヤはせっかく走り仲間が出来ると思ったのになぁと肩を落とし

スズキさんとホシノさんはやや神妙な面持ちで頷き合い

 

「…話が噛み合っているような、ないような??」

 

苦笑いを浮かべたナカジマさんがまぁ字面だけならどっちもあってるし良いか…と呟いた

 

 

 

 


 

 

 

 

「あざっした、お気をつけて」

 

「お前もな~」

 

陸に上がってからも、特に特出するような点は無し、冷泉の祖母が一人で暮らしているという陸の大洗の、元は冷泉の生家となる実家へ冷泉を送り届けてから

俺と葛西・自動車部の4人の各々2台は51号を南下して千葉市を経由し東京方面へ

 

そして現在はその途中にある市川塩浜駅の裏手にあるローソンの駐車場にて葛西を下ろしたところだ

 

「来週頭には試合なんだし、それまでには戻ってこいよ?」

 

「勿論ッスよ!日夜までには帰るッスから」

 

そうして葛西は手をブンブンと振りながら駅の方へ走っていった、時刻は午後23時過ぎ

電車で一度東京駅へ向かうらしいので本日は一泊していくのかと思ったが大洗を出るときに最終の夜行バスを予約していたらしいので明日の朝には地元についている頃だろう

 

「…やっかーしいの居なくなったから一気に静かになったな」

 

「カサちゃんの扱いが雑…」

 

葛西は元々俺の下にいた時は一番の若手であった、それは飛び級して大洗に来てからも変わらない訳だが

癖でハキハキ喋るどころか声が大きくて少々うるさい時がある、ボソボソ喋られるよりかは全然良いのだが冗談めかしてそんなことを呟けばツチヤが苦笑いしていた

 

「で、ここからはどーすんだ?」

 

「とりあえず予定どおり湾岸走って一旦大黒pa行きたい」

 

「そしたら千鳥が近いけど」

 

「市川pa行ってみたいだけど、ちょっと戻っていい?」

 

さて、肝心のルートは未だ決まってない

ここからどう首都高へ上がって、どこを走りにいくのか聞いてみればナカジマさんが湾岸経由で一度大黒へ行きたいと言う

それなら市川塩浜駅からの最寄りインター、かつ俺が普段首都高へ上がる際いつも使ってる千鳥町のインターでどうだろうかと聞いてみれば

今度はツチヤが市川paも言ってみたいと言い出した

 

「…市川paは週末の夜入れないぞ?」

 

「そーなのっ!?」

 

驚愕の声をあげるツチヤと、その他ナカジマさん・ホシノさん・スズキさんの3名も驚いたように目を見開いたので4人全員入れないことを知らなかったようだ

 

「市川paって昔は湾岸全開族のたまり場だったからな、その対策で週末夜間は完全閉鎖だ」

 

「そんなぁ~」

 

ちなみに前回もツチヤが行きたくて4人で市川paを通りかかったが、例のごとく閉鎖されており

封鎖されていなければ今週こそはと意気込んでいたようだ

 

「千鳥から上がったら間になんかあったっけ?」

 

「大井のPAあるっすけどトイレと自販機くらいしか無いもんですから

小腹すいてるなら今のうちに、この時間は大黒もコンビニしかやってないっすよ」

 

ついでホシノさんからそう聞かれる、残念ながら市川paを逃すと湾岸を経由して行けるPAはここから大黒までの間は大井しか無いのだが

大井は最低限の施設しか無いためここを逃せば小一時間食べ物にありつけなくなる

 

「うーん…前回そこまで見てなかったけど大井ってそれくらいしかないのか」

 

悩むようにしてうんうんと唸るホシノさんと、他三人はひとまず買い物でコンビニの店内へと入っていく

 

「…俺もとりあえず買い物行くっすけどホシノさんは?」

 

「あー…いいや私は、待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで買い物を済ませ、コンビニから出てくるとホシノさん以外の3人は片手におにぎりやらサンドイッチやら菓子パンを持っていた

 

「…一応いつでも出れるけど」

 

「どうする?大井寄る?」

 

「金曜だから一度20時くらいに大黒閉鎖されてると思うんで、大井で解除されてるか確認取ればいいんじゃないっすか?」

 

かくいう俺もおにぎりを二つばかりとペットボトルのお茶を購入しているのだが、包装を剥がしている際にまずはどう動くかの話し合いが再度始まる

個人的にはついて入れませんでは良心がないので一時大井に入って状況をみたい

 

「じゃあ千鳥から上がって大井PA

そこで問題なさそうなら大黒目指そうか」

 

「C1かアクアライン走ってみたいんだけど…」

 

「まず向こうついてからじゃないとなんともじゃない??」

 

そう思ってルートの提案をすれば大井も寄ることを織り込んでナカジマさんが言う、ちなみに本日自動車部の運転手はナカジマさんらしい

ツチヤからは他にも走ってみたい場所をピックアップされるがとりあえず一旦、大黒についてから決めるように促した

 

「暖気始めちゃって良いかな?」

 

「こっちもそろそろやるから良いっすよ」

 

ある程度話も纏まったところでナカジマさんがソアラのエンジンを始動させる、出るまでにまだ5~10分掛かるのでみんなの準備が終わる頃には良い感じに暖まっている頃だろう

 

__キシュシュシュッブオンッ

 

軽快な音と共に火の灯るソアラのエンジンを尻目に、こちらもマフラーからサイレンサーを引っこ抜いてエンジンを掛ける

 

__チュィイイ…フュィッヒヒンッゴォッゴゴォッゴォゴォッ

 

「うわうるさっ」

 

「今直管?コレ…」

 

「中の排気バルブも全開にしてるからガチの直管」

 

エンジンが掛かると同時に4人はビクッと肩を震わせた、ガチの直管状態で乗ってるのこの距離で見るのは初めてだろうからその反応になるのも仕方無いだろう

 

「音の圧がヤバイな…」

 

「なんか、うるさいけど…

うるさいってより怖いんだよねこの音、怪獣の唸り声みたいな音してるじゃん?」

 

「やっぱ全開で走るってなるとピークパワー大事にしたいっすからね」

 

呆れたように各々好き勝手言う4人を尻目に、再度車体の後ろに回り込むと靴でリアのナンバーをグイッと120°ほどハネ上げる

 

「オービス対策?でもフロントのナンバーは着いてるよね?」

 

「フロントは風圧可倒のナンバーステー入れてるから」

 

「…手馴れてやがるなぁ」

 

「当たり前じゃないっすか、親が見たら泣きますよ」

 

ナンバー隠しについては最初、フロントはつけっぱなしなのに意味がないのではないかとツチヤから突っ込まれるがフロントはフロントできちんと対策しているという話をすればホシノさんから苦笑いを含めて手慣れてると言われてしまった

 

 

 

 


 

 

時刻は午前0時を少し過ぎた頃、場所は変わって現在地は大井pa下り

千鳥町インターへ乗る前にガソスタにて燃料を満タンにし直してから首都高へ入り

 

自動車部の4人は状況の確認に中に設置された電子案内板の確認へ向かい、杉野は一人残って愛車のフェンダーへ腰を掛けて待っていた

 

「閉鎖は解除されてるみたいだね~」

 

「お、じゃあ向かうか」

 

少しすると4人が帰ってきて、得た情報をツチヤが杉野へと伝える

やはり週末ということもあり一時閉鎖されていたようだが現在は開放となってるようだ

 

「行きは?少し走る?」

 

「…うーん、そうしよっかな

そっちは無理に着いてこないでくださいよ?」

 

「わかってるよ」

 

再度ツチヤより、今度はここ大井paから大黒paまでのルートはどう走るかと聞かれた杉野は

少し悩んだ後にいわゆる飛ばして走ると決め、自動車部側の本日の運転手のナカジマへ4人も乗った状態で無理に合わせて着いてくるなと釘を刺した

 

「そしたらさ~

スギノ、私横乗りたいんだけど」

 

「ダメ、走る時は人乗せないっつったろ?」

 

それぞれ車に戻ろうという時にツチヤから横乗りのお願いをされた杉野は即答で拒否した、理由は本人が言っているように走る時は人は絶対に横に乗せないと決めているからだ

軽く流すだけにしろ、車が車である

12秒もアクセルを全開にすればたちまちオーバー300km/h

何かあれば簡単に命に関わってしまう

 

「誰か巻き込むなんて御免だからな

くたばる時くらい独りで死ぬよ」

 

「…ごめん、気軽に頼んだ私が間違いだったね」

 

さて、時間も時間な為にそろそろ出ようかとお互いに車のエンジンをかけた時

思い出したように杉野は車から離れて真後ろの自動車部のソアラの運転席、運転手のナカジマへと近づく

 

「?どうしたの??」

 

「出るときちょっと離れといてくださいね?」

 

「うん?…まぁ良いけど」

 

それだけ言って車へ戻っていく杉野へナカジマは何だったのだろうと当然の疑問を浮かべて小首をかしげた

 

__チュィイイ…フュィッヒヒンッゴォッ!

 

「…にしてもうるさい車だな」

 

「でも凄いよね…1000馬力オーバーのGT-Rをまるでマーチ転がすみたいに普通に乗ってるんだもん」

 

ソアラの助手席ではホシノがその爆音に対して呆れたように呟き、その後ろの席ではスズキが感嘆の声を上げる

 

「ナカジマ~、追えるだけ追えない?」

 

「スギノにダメって言われたでしょ?

…まぁ、危なくない範囲でやれるだけやってみるけど」

 

一方ツチヤは前走する杉野を極力追いかける形で走れないかとナカジマへ聞く

そもそもの仕様用途が異なるため、杉野のR32と自動車部所有のソアラは実に2.5倍近くのパワー差があり

ほぼ直線でしかない湾岸線ではその差は腕でどうにかできるものではない、そのため杉野は無理に着いてくるなと言ったわけであるが

充分マージンを残しながらで良いなら追えるだけ追ってみるよとナカジマが返した

 

__ゴォオオッ

 

「あ、杉野が出た」

 

「追え、追え」

 

少しして前の杉野の車が爆音と共にゆっくりと動き始めそれにナカジマとスズキが反応を示し自動車部側も車を発進させるが…

 

__キィッ

 

「あれ?止まったよ?」

 

「…トラブル?」

 

「なんか嫌な予感するな

ナカジマ、スギノに言われた通り離れときなよ?」

 

「…うん、そのつもりではあるけど…」

 

ちょっと走ってPAから本線へ戻る合流地点で、本線から来る車もいないのに杉野の車がピタリと止まる

これにはスズキとツチヤはトラブルか?と心配そうに小首を傾げるが

逆にホシノとナカジマは嫌な予感がすると少し苦い表情を浮かべた

 

次の瞬間、パキーンッと何やら金属音が聞こえたかと思うと一瞬だけガクンッと杉野の車が前へとつんのめる

 

「…ね、ねぇ…まさかスギノ」

 

「…マジ?本気??」

 

「おいおい、高速道路上だぞ!?ここはッ!!」

 

その様子を見て何かを察したスズキはひきつった表情になり、ナカジマとホシノは今から杉野がやるであろうことをこんなところで??と呟く

ツチヤは小首を傾げたままだが「今にわかるよ」とホシノが言った次の瞬間

 

_ウギャァアアアアアアアアアアッパパパパパパンッ!!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

停止状態だった杉野の車の後輪が勢いよく回り始め

辺りにはけたたましい爆音とタイヤが空転した事による夥しい白煙が撒き散らされ

高回転域で無理やりリミッター制御を掛けている為にマフラーからは生ガスを含んだ排気と共にアサルトライフルを乱射させたような炸裂音と炎が放出される

 

 

「高速道路上でバーンナウト!?」

 

「ガチでやりやがったぞアイツ!!」

 

「バカだ!バカだ~!!」

 

スズキとホシノは信じられないと言うように唖然とした表情で、ツチヤは言葉が出ないのかぽかんとしており

ナカジマは涙が出るほど爆笑しながらハンドルをバシバシと叩く

 

ゲーーーーッバシュシューンッ 

 

1分くらいそれが続いただろうか、タイヤが冷えていた為にすぐに走れるよう暖める目的だったのだろう

かなり長めにバーンナウトの時間を取った杉野は合流地点が煙に包まれて視界不良になるまで白煙を撒き散らしたあと

ウエストゲートを轟かせて全開のまま飛び出していく

 

「向こう出たっぽいよ」

 

「全ッッッ然前見えないんだけど!?」

 

音で杉野が出たことをスズキがナカジマに伝えるが、杉野の後ろにいたために視界は煙に巻かれてほぼゼロの状態だった

 

そのため煙を抜ける頃には…

 

「…うわ、もういないし」

 

「初っ端から飛ばしすぎじゃない?」

 

「クラゲとか言ってた頃のスギノを殴りたい、速すぎだろアイツ」

 

杉野の車、スカイランGT-R 特有の丸目4灯のテールランプは視界から完全に消え去っていたのだった

 

 

 

 

 

 






閑話ですし、本編にほぼ関係なく
見ても見なくてもというスタンスですので
この話を見て好き嫌いつけるのは難しいと思うんですが

しおり・評価・お気に入り登録・感想
随時お待ちしておりますのでよろしくお願いします

また次回、閑話の下を書いてから本編に戻します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。