ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
「も〜!心配したんだからね!!」
「あ、あはは…」
教室に戻ってきてからクラスメイトの武部と五十鈴が近寄ってくる
生徒会の3人と話してた時に教室からチラチラと様子を伺ってたようで開口一番口を開いたのは武部の方
西住の元へ駆け寄りしきりに大丈夫だったかと聞いていたが当の西住は苦笑いを返していた
おい俺の心配は?とも思ったがある程度お互いの素性がわかってる手前の優先順位なのだろう
「杉野さん、素晴らしい啖呵でした」
「君の発言は色々とおかしい」
五十鈴の方がうっとりとするような表情で言ってきたのですかさずそう返した俺は悪く無い筈だ
なんだろうこの子は、時折斜め上に発言がぶっ飛んでいくのは武部と負けず劣らずだが内容は武部より酷い気がする
「……」
ふと武部と会話する西住を見ると先程の会話前と比べて明らかに気分が落ち込んでるのが端から見てわかった
っつーか最初名前聞いた時から薄々思ってた事だがさっき3人組との会話で確定した
西住みほは西住流の妹の方だ
どこかで見たことあるけど会った覚えが無いのも納得だ
全国大会の放送で西住を見ただけだもん
「…俺、午後保健室でちっとフケるわ
──西住も来いよ顔色が悪いぜ」
「え?あ…」
声を掛けてから遠慮がちに後ろを着いてくる西住の顔色は先程の生徒会長との会話以降ずっと悪いままだ
西住の事情を鑑みたら今戦車道関連を振られるのは最悪なタイミングであることこの上ないだろう
(何でこの時期に転校してきたかようやく合点が行ったな…
しっかしまぁ、家元の娘がわざわざ戦車道もない学園に左遷して来たって事は本気で嫌になったって事だろうに復活するとか間が悪過ぎやしないか)
あんな事が目の前で起こり、その上優勝を逃したのでは暫くトラウマだろうにな等と考えながら歩き続け
保健室の扉が見えてくるとノックをして入室
西住が入ったことまでを確認する、保健室の先生には適当に理由をでっち上げて与えられたベッドにどかりと腰を降ろしてから靴を脱いで後ろ手で結ってる髪を解くとサイドテールに結び直す
「杉野さんって髪長いね」
「うん、だからダリィけどいつもかなり上で束ねてる
そうじゃないと邪魔くさくてさぁ」
さて一眠りしようか、といった時に西住から声がかかって視線を向ける
表情は先ほどと変わらず優れないままだが二言三言喋っただけで微笑みを浮かべるくらいには回復出来たようだ
「…ねぇ杉野さん」
「んお…?」
「聞かないんだね、前の学校での私のこと」
「…あぁ」
先程の3人との会話に呼ばれたのは俺と西住の二人
呼ばれた共通点は名指しで戦車道を取るよう強要されたこと
その事に頭が回る西住はきっと気づいているのだろう
「西住、俺はお前を知ってる」
「…うん」
「だけど、大洗でのお前のことのほうが知ってる
前の学校でのことはお前が話せるようになってからお前が話してくれ、そしたら聞くから」
「…うん!」
話は終わりだ、と掛け布団を首元まで被って寝転がる
せっかくサボったんだから身体はしっかり休めておくのに越したことはない
◆
隣のベッドから聞こえてくる微かな寝息に、思わず自身の頬が緩むのを抑えられなかった
(…本当に優しい人なんだなぁ)
思えば自身の名前を名乗った際
怪訝そうな顔をしていたこと、また戦車道関連で生徒会に一緒に呼ばれた事を考えれば
かつて杉野さんが戦車道に勤しんでいたというのは想像出来る
それはつまり私が去年の戦車道大会で何をしたかまで知っていると考えるのも妥当だろう
…だがその上で杉野さんは何も聞かなかった、自身が話せるようになるまで待つとも言った
それが打ちひしがれて全てから逃げ出して来た私にはとても嬉しかった
「……あれ?」
ふと、寝息を立てる杉野さんの顔を自身のベッドから覗き込む
普段の怖いほどの目つきは瞼が降りて見る影もなく、隠れていた美貌が顕になる
あの眼力が無くなるだけで印象が大違いだと思いながらその顔立ちに強烈な既視感を覚えた
(この顔…何処かで…
いやここに以前に杉野さんに会ったこと…あったっけ??)
こうして杉野さんの顔をまじまじと見たのは初めてだった
思考の海に飛び込み考え込んでみても該当はない
そもそも私自身、物覚えが良いとは決していえないけど
一度会った人の顔を忘れるようなことも無いと断言できる
(…もう少しで思い出せそうな気もするけど)
自然と目を瞑ってベッドで座りながら腕を組みうーんと唸る
一体どこで見かけたものだったか、思い出せそうで思い出せない事がとてももどかしかった
「みほ」
「ひゃぁ!?」
「心配でしたので来てしまいました…大丈夫ですか?」
「…あ、武部さん五十鈴さん」
唸っていたところにポンと肩に手を置かれて
自分のことながら情けない声を上げて振り返るとそこには武部沙織さんと五十鈴華さんがいた
心配してくれて申し訳ない気持ちになりながら視線を向けるとそれぞれ近くの空いたベッドに入っていく
「何だか気が気じゃなくて仮病使ってきちゃった」
「お友達なのですから、こういった時は一緒に居させてください」
「二人とも…ありがとう」
杉野さんだけじゃない
気遣ってこうして授業を抜け出して私のために来てくれた二人に心がポカポカとした
その後は3人で長話になった
生徒会の3人との話、今なら言えるかもと前の学校のこと
戦車道が嫌になりここまで逃げてきたこと
話を続けて、武部さんも五十鈴さんも私を元気づけてくれた
そういえば…
「そういえば、杉野さんってお二人とは前から仲が良かったんですか?」
「いや、実は世間話程度であんまり話したことなかったんだよね〜、一年の頃とかは誰かとつるむような娘じゃない感じだったし」
「実は私もなんです、何度か声はかけようとしたんですが
授業の時間以外は基本寝ていらしてるか本を読んでいるかで声をかけづらくて…」
気になって杉野さんとは前から仲が良かったのか聞いてみたが返ってきた答えは意外なものだった
「え?…でも3人で話してた姿、そうは思えないくらい自然だったような…」
「ねー、あんな話やすい子だったかなって私もびっくりしたよ
でもあの子、大洗は高校からだから絡みは本当になかったんだよね」
「他の方々は普段の素行不良で話すのを躊躇っていたようでしたね」
「そ、そうだったんだ…」
納得できるような、できないような
彼女らしいと思う反面、そう思う私がいた
「中学校までは違う学校だったのかな…
それにしても素行不良?普段の杉野さんってそこまでかな…?」
「中学校の頃までは西の方に居たんだって、あんまり詳しく聞いた事はなかったからそれ以上はわからないんだよね
…素行に関しては一年の頃のあの子を知らないとそうなるかも?」
「え、そんなに…?」
「入学して直ぐに船舶科の生徒たちと揉めたようでして
全員殴り倒してしまったと風紀委員の方々が頭抱えていらしてましたね」
思ったより酷かった、とは口にしないが
なるほど、あの一歩間違えれば視線だけで人が殺せそうと形容できそうな眼力はその為かと納得した
とは言えいくらそんな暴れん坊だと言われても実際の杉野さんは口ぶりが粗暴なだけのいい人には変わりはなかった
そんな時、授業の終了を告げるチャイムが保健室にも響き渡った
「授業、終わってしまいましたね」
「あとはホームルームだけだね」
笑い合う五十鈴さんと武部さんの言葉の後、保健室に備え付けられたスピーカーにノイズ音が響いた
そして聞き覚えのある声で体育館に全校生徒に集合するよう声を掛けていた
◆
「くぁ…」
体育館で体育座りしながらあくびを噛み殺す
つい先程まで眠っていた為にまだ頭が僅かにボーッとする
どうやら寝てる間に生徒会が全校集会をかけたようで、西住、武部、五十鈴の三人に起こされてしまった
別にスルーして寝続けても良かったのだが、よく朝の起きれない幼馴染を起こすのに慣れ人を起こす能力が高い武部に強制的に叩き起こされた
おのれ許すまじ生徒会、この俺様の眠りを妨げるとはいい度胸だと思ったが起きてしまったのは仕方ない
最悪全校集会で寝てやろうと小さな反抗心で体育館へ来たのだった
「えっと…何が」
「さぁ?」
「うちの生徒会のやることですから」
俺の左側二人目の西住が心配そうに口にすると、俺の左隣の武部が疑問符を浮かべ、五十鈴に至っては捉えようによっては軽くディスっている
慣れっこなんだと苦笑いを浮かべる西住だが君は間違っていないのでどうかその感性を大事にしてほしい
生徒会は職権濫用の鬼だがそれに慣れてしまうのは本来おかしいのだから
「皆、静かに」
体育館のステージに立つ生徒会の3人の内、モノクルをかけた広報の河嶋がこれから必修選択科目のオリエンテーションを始めると言い始めた
(やっぱサボればよかったなぁ)
さてこの学園にはいい感じに古臭い必修選択科目ばかりだ
去年は香道を選んだが結局3日程度真面目にやったがあとは寝てた記憶しかない…まぁ単位取れる程度には授業内容は頭に入れてた
今年は何をやろうかな、弓道や長刀道、合気道は子どもの頃齧ったからやったこと無いやつをやってみたいものだ
仙道忍道はパス、てか去年も思った何だこれふざけてんのか
香道は去年やった為選択肢には存在しない
必然的に残りは華道、書道、茶道だが華道は確か五十鈴の実家が家元だったのでパス
なんとなく選びたくない、仮に別々になったにしてもあいつ花の扱いとかすごい厳しく言って来そうだし
よって消去方的に残るは書道と茶道だ、オリエンテーションが終わる頃にはどちらか決めておかないとな
戦車道?知らない子ですね
そんな事を考えているとこれから各々説明が始まるのだろう
体育館の照明が落ちて備え付けられたプロジェクターから映像が映し出される
『戦車道入門』
「うっわぁ…」
映し出された文字と共に生徒会副会長の小山がナレーションを務めているが初っ端からこれかよと思わずげんなりしてしまい割と大きな声で口に出てしまった為か生徒会3人の鋭い視線を感じたがスルー
結構ひどい顔をしているのか横の西住は苦笑いである
『礼節のある、淑やかで慎ましk───』
「嘘を付くな嘘を…」
『女子としての道を極める事でもありまs───』
「ないない、ありえないから」
信じられないほど綺麗事だけを並べた文字通りのプロパガンダ放送に思わず反論が漏れた
戦車乗りと言うのは大体血の気が多く、短気で礼節など最低限わきまえているかどうかレベルがざらであり
もし本当に女子としての道を極める事が出来るのなら世間一般的な理想の女子というのはその辺のチンピラと変わりがないと思う
そんな綺麗事でも刺さるものがあるのだろう、武部と五十鈴は乗せられて目をキラキラとさせているし文句を言う俺に批難する視線まで浴びせてくるが事実は事実だ
実際元いた場所ではそこそこ問題児だったと自覚のある俺自身ですら可愛く思えるほどの問題児が蔓延っていた
優秀な戦車乗りは大概そんなもんである
そして最後に必修選択科目の履修届けが大々的に映し出された
「…は?これだけ??」
しかしそこには従来の科目と用紙の半分ほどを使ってる大々的に【戦車道】と書かれた用紙だけだ
オリエンテーションとは名ばかり、どうにかして戦車道の人員をかき集めたいのか戦車道の紹介だけだ
「はぁ〜…」
「素敵ねぇ…」
「君たちは正気か??」
いっそ清々しい程に露骨すぎる人数集めを敢行している生徒会に対しこんなものに引っかかるのは武部くらいだと思っていたのだが五十鈴も好意的に捉えており
西住はいたたまれなくなったのかさっきから無言でうつむいている
ナニコレ地獄??
そしてそのまま広報河嶋からの説明と生徒会長の角谷から戦車道を復活させる旨
また副会長の小山からは特典として色々なメリットの説明をされるがどうにもきな臭い
普通そこまでやるか?レベルの至れり尽くせりだ
少しは疑問に思わない周りも周りである
職権濫用の権化である生徒会が言うのだから本当に特典はあるのだろうがあんまりにも怪しすぎる
「私やる!最近の男子は強くて頼れる女の子が好きなんだって
それに戦車道やればモテモテなんでしょ?
みほもやろうよ!家元でしょ?」
「私は…やっぱり……。」
さて所変わって教室への帰り道
爆弾を投下してくれたのは武部だった
西住を誘うがその表情までは見ていないのだろうか
さっきのオリエンテーションからずっとテンションが低い
コミュ力の化け物である武部なら普段は絶対地雷だと気づくであろう話題でも本人のテンションが振り切ってしまってる為に気づけていないようだ
「私、西住さんの気持ち
よくわかります」
いたたまれない空気に割って入ったのは五十鈴だった
「うちも華道の家元なので」
「そうだったんだ」
「でも、戦車道って素晴らしいじゃありませんか」
「──え?」
おっと流れが変わったぞ
おいブルータスお前もか?
「私も戦車道やります!」
「えぇ!?」
「西住さんもやりましょうよ
色々とご指導ください」
「オメェらいったいどっちの味方だよ」
なるべく傍観のが良いとは思っていたがこの流れは不味い
つい語気も強くなってしまったがしょうがないだろう
本人たちがやるのは勝手だ、そこは止める気はまったくない
しかしやりたくないと言ってるものを無理に誘うのは全くもって別
「杉野さんもどうでしょう?ご一緒にご指導いただければ」
「やだよ、俺はもう二度と戦車道はやらねぇの!
ほら行くぞ西住」
五十鈴からのスカウトがこちらまで飛んでくるが軽くいなす
そして西住の手を引いて一足先に教室まで戻る
「このまま教室に帰ったら流れ解散らしいから荷物取ったら言ってくれ送ってってやっから」
「あ…うん、ありがとう」
机から今日の勉強分のみ教科書を鞄に詰め込みながら言うとそんな礼の言葉が返って来たため気にするなという意味を込めて片手をひらひらと振っておく
(…うん、教科書とノート、ルーズリーフと課題プリントもOK
家と車のキーも持った)
鞄の用意が終わり、別口から家の鍵を取り出して制服のポケットへ
車の鍵は人差し指に引っ掛けてくるくると回して遊んでいると準備OKと西住が来たため二人で一緒に教室から出た
◆
杉野さんの車まで二人で歩きながらその背中を見つめた
彼女はとても小さくて、その背中も同い年と思えないほど小さい
だけれども彼女の後ろ姿は誰よりも大きく見えて心強かった
『オメェらいったいどっちの味方だよ』
武部さんと五十鈴さんには悪いけど、二人が私を戦車道に誘ってくれた時
どうしょうもなく怖かった
そんな時に掬い上げてくれたのは彼女だった
二人に全く悪気が無く、善意で声をかけてくれてるのはわかっていた
それでもどうしょうもなく辛かった
「……」
ジッと彼女の背中を眺める
彼女は何も言わない、いつもさり気なく助けてそれを一切誇らず当然のようにやってのける
(カッコいいなぁ…)
どこまでも自分の気持ちに正直に振る舞っていると見せかけて
その実、場の雰囲気を読むのがとても上手いのだと感じさせられた
「ん?どした?」
「ふぇ?」
杉野さんの車の前まできて、彼女の後ろ姿をボーッと眺めていたせいか
一向に乗ってこない私を不審に思ってか声がかかった
少し恥ずかしい、赤くなった顔の熱を感じながらそそくさと杉野さんの緑色の愛車に乗り込む
____チュィイイイ…フュィッヒヒヒンッゴォッ
こちらが乗り込んだのを確認すると杉野さんは車のエンジンを始動させる
多少のうるささも慣れてしまった
『ピピッ…ピーーッ』
始動させて直ぐに車内真ん中に置いてあるいくつもの小さなメーターが振り切れながら照明が落ちて、針が元に戻る頃にまた照明が光る
凝ったギミックな為初めて見た時はつい昔の血が騒いで年甲斐もなくワクワクしてしまった
『ポロ〜ン♪レーダーヲッ受信シマシタ』
『デレンッ♪OGS、ブーストコントロールメッセンジャー!』
至るところから聞こえてくる機械質な声にあいも変わらず賑やかな車だと思いながらシートベルトを締める
「ちょっと待ってらっせ〜?」
そう言いながら車内のオーディオをピッピッと弄りながら目的の曲を選択すると彼女自身もシートベルトを身に着けた
「うわぁ!懐かしいこの歌!」
「いいだろ〜」
「私達が小学校の入りたてくらいの時流行ってたよね〜」
車の音にかき消されないように設定されたオーディオはわりかし大音量だけど不思議と耳は全く痛くならない
それと車に備え付けられたオーディオの割には今まで聞いたことのないレベルで音質もいい
まぁそれ以外の機能はあまり快適と呼べないけど、好意で乗せて貰えてるのだし充分有り難かった
「…杉野さん」
「んぁ?」
「向こうの方でオレンジのつなぎ着た人たちがすごい笑顔で見てますけど…」
「あー…」
知り合いですか?と聞いてみるも「いや知らん」と即答で返ってくる
しかし心当たりはあるのかそのオレンジ色のつなぎを着た四人組に手を振っていた
「多分
この学園あるって聞いてたし、俺も実際見るの初めてだけど」
「自動車部をそんな略し方する人初めて見た」
随分と物騒な略し方に思わず笑ってしまう
凄いくだらないことな筈なのに彼女といると面白おかしくて仕方がない
「水温も上がったし行くか」
ギアを入れてボンボンと軽くアクセルを吹かしながらクラッチペダルを踏み込む杉野さんを横目に見てこの辺は戦車と変わらないなんてふと思った
クラッチペダルを踏んだ直後に響き渡るわりかし大きなシャラシャラ音は流石に戦車では聞いたこと無かったけど
当初異音かと思って聞いてみたが杉野さんにはこれはそういうもんだと言われてるので気にしないことにした
ふと校門の方へ視線を向けると見覚えのある風紀委員の人が苦い顔をしてこちらを見ていた
「…こないだの人凄い顔して見てるけど…」
「気にすんな、大方不正改造なら文句言おうとしてた所
弄ってはいてもちゃんと許可取った車だから怒るに怒れず悶々としてるんだろ」
徐行で校門を通り抜けて車を大通りまで走らせる
歩きだと結構掛かる時間も車だったら一瞬だ
「……」
特に話題も無いためお互いに無言、だけれどもそれが別に気にならないから不思議だ
前なら何とか会話しようと躍起になっていた所だけど、杉野さんとだったら無言が気にならない
と、そんな事を考えていた時、ふと一つだけ気になった事があった
「そういえば、杉野さんは決まったんですか…?
必修選択科目…」
「ん?…あー、俺は茶道かなぁ…茶飲めるしタダで菓子食えるし」
何とも現金な答えと共に返って来た言葉がおかしくて少し笑ってしまう
それでも彼女は嫌そうな表情一つ見せない
…私と一緒に生徒会の三人に詰め寄られていた筈なのに杉野さんは自由と言うかとても強いと思った
まだ怖くて戦車道を選ぶ気はないけど
それでもそれ以外の科目を選ぶのもまた怖い
知らないうちにスカートの上に置いていた手に力が入って、うつ向いていた
しかしポンと肩に手を置かれてハッとする
杉野さんが穏やかな表情でもう片方の手でハンドルを握りながら不安な私を元気づけようとしてくれていた
「生徒会の事ァ気にすんなよ
西住、君の思うように選びたいもんを選べばいい」
「でも…武部さんも五十鈴さんも乗り気だったし」
「あいつらみたいな能天気が選択科目違うだけで関係が切れる訳ねぇっしょ」
カラカラと笑う彼女に釣られて笑いながら
少し心が軽くなった
それから少しして私の借りているマンションについた
敷地の前で車を止めた彼女は「忘れ物無いか?」とだけ聞いて来た
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか」
車から降りてドアを閉めようとした時ふと「西住」と杉野さんから声がかかったため一度動きを止める
「…後悔しない選択をしろよ?」
「…うん!」
車のドアを閉めると彼女はゆっくりと車を走らせて帰っていく
視線を動かして追っていたが次第に見えなくなった頃に2回吹かすリズムが聞こえる
途端に一人になった事を嫌でも実感してちょっぴり寂しい
「………」
無言でマンションの階段を上がり、カツンカツンと靴底が階段タイルを叩く音のみが響き渡る
部屋のある階層まで上がれば私の部屋は階段のすぐ隣
一人暮らしなので周りを一周ぐるりとだけ見渡して鍵を解錠する
「ふぅ…」
ドアを開けて部屋へ入ると裏手ですぐに施錠を施して玄関に落とすようにバックを置いた
一人でも自分の部屋は落ち着く、壁を一枚挟んで誰の目も届かないここは私のための世界と行っても過言ではない
「…もう少ししたら…ちゃんとよく考えよう」
靴を脱いで玄関を上がり
自分の居住スペースへ移るとベッドに必修選択科目の用紙を放り投げた
翌朝、最終的に香道を選んだ私は「ごめんなさい」と武部さんと五十鈴さんに告げるも二人共に「つらい思いをさせてごめんなさい」と逆に謝られてしまった
それどころか必修選択科目を同じ香道を選んでくれた
「……」
ふと窓際席の杉野さんの方を見た、杉野さんだけ選んだ科目は茶道だから選択科目が始まれば離れ離れになる
(一緒の科目にしたかったな〜…なんて)
なんてことは恥ずかしくて口が裂けても言えない
実際最終的に香道と茶道で物凄く迷った
しかし同じ茶道を選んだ事で、自意識過剰かもしれないが追いかけてきてウザいとか彼女の性格上多分無いとは思うがキモいとか思われたく無かった
と言うかここまで杉野さんと一緒に行動する事が圧倒的に多い中、そう言われでもした日には立ち直れないかもしれない
しかし不思議なもので提出の直前になると
やっぱり茶道にしておけば良かったかな、なんて軽く後悔するのだから私という人間はつくづく救いようのない
(…はぁ、結局選ぶ度胸が無いからヘタレは私か…)
席順に回収されていく必修選択科目用紙を見ながら
最後までそんな事を思ってかひたすら自己嫌悪に陥るのだった
◆
「…悪夢か?コレは」
所変わって昼休み、いつもの如く俺、西住、武部、五十鈴の四人で食堂のテーブルを囲み昼食を取っていた
のだが一つだけどうにも許容できないことがある
『どうなんだろうね〜!戦車!』
食堂のわりかし至るところから戦車道の話題が聞こえてくる所だ
おそらく話してる人数的にあのプロパガンダ放送を割とマジで捉えてしまったかわいそうな奴らが多数存在することが判明した
もはや思わず漏れてしまった呟きに3人とも苦笑いである
「あ、か、帰り!さつまいもアイス食べてく!?」
「大洗はさつまいもが名産なんですよ!」
あたりから一向に戦車の話題が途切れないため武部が半ば強引に話題を逸らす
それに補正をかけるように五十鈴からの助太刀が入る、よしここは俺も乗ることにしよう
「放課後行くなら乗っけていこうか?」
「本当に!?」
まだ西住が行くと返答する前に即答で飛びついたのは武部だった
おいお前から西住に話題振ったなら西住の返答する前に飛びつくんじゃねぇと思ったが黙っておく
嫌そうな顔はしてないから多分来るだろうと思ったから
「杉野さん、お願いできる?」
「任され、また放課後にどこの店行くかみんなで決めよう」
改まって西住の方からお願いされた為任せてほしいと告げる
彼女の心の傷が少しでも早く癒えるよう、沢山遊びに付き合ってやるかと思い直したところで
食堂に備え付けられた校内放送用のスピーカーにノイズが入った
『普通一科、2年A組西住みほ・杉野直緒、至急生徒会室まで来ること、以上』
どうやらまだ彼女の平穏は一筋縄ではいかないらしい
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