ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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ワレ、訓練戦闘ニ参加セントス(上)

 

「──寝過ごしたッ」

 

目が覚めてベッドの近くに置いた時計の時刻を確認して心臓がキュ〜と縮んだような思いがする

昨日は武部さん達と私の家で夕飯を食べてすっかり浮かれていた私は、いつもより少し夜ふかしをして…それが仇となり完璧に寝過ごしてしまった

 

「い、今なら走れば間に合うよね!?」

 

一人暮らしの特権であり、服の脱ぎっぱなし、布団も捲れてそのままだが仕方ない

実家の時絶対にそのままには出来なかったがこういう時は一人暮らしの自分に感謝したい

 

「─はぁ…!─はぁ…!」

 

息を切らせながら身支度を整えて急いでマンションを出て扉に鍵をかける

もはや一分一秒を争う勢いで急がねば間に合いそうもない

 

そんな時

 

____ウゲーッゲーッゲーッ!_バシュシューンッ!!

 

どこか聞き覚えのある高音の、それでいて記憶のものとは全く異なる爆音が後ろから迫って来た

 

「あ…!す、杉野さん!?」

 

振り返り確認するとその爆音の正体はこちらへ向かっておそらく法定速度の何倍にもなるであろう速度でかっ飛んでくる見慣れた杉野さんのツードアクーペ車であった

 

____ズギャァアアアアッ!!

 

そしてこちらとのすれ違いざまにフルブレーキをかけた杉野さんの車は甲高いスキール音と膨大な白煙を四輪から撒き散らして急停車した

 

「西住!早く乗れ!遅刻するぞ!!」

 

「は、はい!ありがとう!」

 

時間が時間だからか乗るよう急かす杉野さんを横目に助手席へ乗り込む

時計を確認して車なら間に合う時間であることを確認するとホッと一息ついた

 

「学校ついたらちょっと予定あるから少し急ぐわ!」

 

「は、はい!」

 

そんな言葉と共にいつもより少し雑にシフトノブを1速へ叩き込んだ

 

(っ…!?)

 

途端に感じたことのない音と加速Gで体がシートに押し付けられジワリと背筋に嫌な汗が流れる感覚がする

しかしそれも一分と続かない間に突如アクセルが抜かれた事で終わりを告げた

 

それと同時に視界の端にフラフラと歩く一人の女子生徒の姿を発見、あの加速の中瞬時に見かねて杉野さんはアクセルを抜いたのだろう

 

その生徒の横に車を着けると杉野さんクラクションを短く鳴らした

 

「おーいイケるぅ?」

 

「──ツラい…」

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

「…生きてるのが、ツラい───」

 

「へ?」「んははははっ!!」

 

 

声をかける杉野さんに彼女の返答があまりにも弱々しかった為に思わず私も声をかける

しかしそこに斜め上の回答が返ってきて呆然とする私と対象に杉野さんはお腹を抱えて爆笑していた

 

「朝は何故来るのだろう…

これが夢の中なら、いいのに───」

 

「…え?」「あーははははっ!!」

 

何か哲学的な事を呟く彼女はそのままガクリと膝をつく、再度呆気に取られた私の横では杉野さんがハンドルをバシバシと叩きながらさっきより大笑いしている

 

「だが…行く、行かねば…寝坊……」

 

「ははっ、い、いいよ冷泉

乗っけてってやるから乗れよ」

 

そして決意を新たに立ち上がるもまたも一気にフラリと足取りが朧げになる彼女に、ようやく爆笑から復活した杉野さんが目尻の涙を拭きながらそう提案した

というか…

 

「知り合いだったんですか…?」

 

「いや?話したこと無いけど…まぁアイツは有名人だから」

 

杉野さんの話だと一方的に彼女の事を知ってるだけのようだ

そして件の彼女が助手席側へ回り込んで来た為私は一度ドアを開けてシートを倒して前に出す

 

「後ろ、乗れますか?」

 

「ん、」

 

「すぐ着くだろうけど、それまで寝てるか?」

 

「…あぁ、すまんな杉野さん」

 

彼女が取り込み無事に私も乗り込む

杉野さんが寝てるかと聞くがその返答にピクッと動きが止まった

 

「…驚いた、俺の名前知ってんだ」

 

「色んな意味で有名だからな、顔と名前ぐらいは知ってる」

 

あまりにも意外だったのだろう、続く彼女の返答に杉野さんはヒューッと口笛を吹く

流石学年主席等と軽口を叩きながらステアリングコラムの上に設置された【BC Messenger】と書かれた機械のボタンを押す

 

『ピロン♪…チャンネル3番だね!』

 

「──ま、積もる話はまた後でだなそろそろ余裕もない時間だし」

 

そんなこんなで話を強制的に切り上げた杉野さんは再度ニュートラルからシフトノブを1速の位置に入れる

微妙にさっきと車の音が変わった気がするのは気のせいだろうか

 

『…さぁ♪ぶっ飛ばすよ〜ッ!』

____ドッギャァアアアッゲーッゲーゲーッ!パパパパパンッ!!

 

機械から発せられた声と共に発進した瞬間先程とは比べ物にならない聞いたこともないような爆音と勢いでシートに押し付けられた

仄かに鼻をつく焼けたゴムの匂いがパワーに負けて滑ったタイヤの物であることに気づく

 

「ぅっ…ぇっ…」

 

身体に走る色んな意味での衝撃に私の三半規管は簡単にその役目を放棄してしまい、一気にグロッギー状態に陥り声にならない悲鳴が口からこぼれた

2速、3速とギアが変わりその度にタイヤが滑って短いスキール音と車内の景色が右へ左へとブレ続ける

そんな中慣れきっているのか杉野さんは冷静に車を走らせものの数分で学園にたどり着く

 

この数分で僅かに残っていた朝特有の微かな眠気も吹き飛んでしまった

 

 

「っと…うるせぇ奴がいるから戻しとかねぇとな」

 

学園の校門付近で一度停車した杉野さんは中央パネル(コンソール)に設置されたダイヤルを回した

すると先程までの爆音とは打って変わって聞き慣れたうるさくない程度の排気音に変わる

 

「えっ、何ですかそれ」

 

「いつもは登校に余裕あるから排気音を開閉式のバルブで絞ってるの、今日は時間がないから全開にしててさ」

 

「そんなのあるんですか…」

 

「うん、簡単に言うとバルブを絞ると音は静かになるけどエンジンの回転数と比例して高回転域でパワーが落ちるし最悪排圧の吹き返しでエンジンを痛める、バルブを開けた場合はその逆かな」

 

何だか良くわからないがすごいなと思う、杉野さんの車は私の知ってる車にはない特殊なギミックが沢山あった

 

「…」

 

「…なんか見られてますよ」

 

「しっ、目を合わせるな」

 

車で校門を通ると門のすぐ脇で待機している風紀委員の園さんが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てくる

ここまではいつもそうだが今日は飛び抜けて表情が引きつっていた

その事を含めて聞いて見ても杉野さんからはいつもどおり冗談が飛んでくる

 

「ついたぞ」

 

そしていつもどおり車を職員用駐車場に駐車して車を降りる、その様子を見てから私もシートベルトを外して車を降りた

 

「…あ」

 

「……」

 

助手席をずらそうと後部座席へ視線を向けた時、寝てると思っていた冷泉さんと呼ばれていた彼女が起きておりしっかりと目線が合ってしまい少し気まずい

 

「…起きてたんですね」

 

「…流石にあそこまで揺れちゃ眠れん」

 

ふと口にでた言葉に彼女はため息を吐く、しかしその表情はすぐに小さな笑みに変わった

 

「だが、おかげで久しぶりに遅刻せずにすんだ」

 

バッグを手で抑えながら、私がずらした助手席の隙間から車を降りた彼女はそう言いながら杉野さんへ向き直ってペコリと頭を下げた

 

「手間かけて悪かった、助かったよ

杉野さんと、西住さんと言ったな…?いつか借りは返す」

 

そして律儀に私の方へもお礼を述べてから、一足先に校舎へ向かっていった

 

「…西住は忘れもんとか大丈夫か?」

 

「…あ、はい、大丈夫です」

 

「ん、そしたらまた後で」

 

ついで杉野さんが私に忘れ物がないか聞いてから車に鍵をかけると校舎へ向かって歩いていく、私はその少し後ろをついていき

校舎の中へ入ってから別れた

今日は一限目から必修科目の授業なので鞄だけ置きに教室へ向かった

 

 

 

「…随分珍しいお客さんだねぇ」

 

自身の座る椅子へ腰掛け、小山が入れてくれたコーヒーに手を伸ばして一口含む

視線は目の前の少女に向けたまま、本人には感づかれぬよう一挙手一投足見逃さないように観察する

 

「どうぞ」

 

「…どーも」

 

近くに備えられた椅子に腰を据えた来客____、杉野ちゃんは小山から出されたコーヒーに一瞥するもすぐに視線を私の方へ戻した

その眼差しがあまりにも真剣味を帯びており、緊張で思わず喉がゴクリと鳴ったのを自覚する

やはり彼女の前は緊張する、おくびにも出さないよう努めてはいるがその眼光、纏う気迫や凄みには少しでも気を抜けば呑まれてしまいそうだ

 

「…さて、何から話したもんかね」

 

長い沈黙のあと先に口火を切ったのは杉野ちゃんだった

と言うのも元々用があって来たのは彼女自身である、彼女から話を始めてくれないとこちらとしてもやりようというものが無いのが本音だ

 

「…あまり長くなるようならこちらも時間が無いのだが?」 

 

「わー待って待って、言うから───」

 

横で待機していたかーしまが痺れを切らして話を打ち切ろうとするがそれを杉野ちゃんが待ったをかける

今朝急に相談があると電話を掛けてきた杉野ちゃんが指定した時間は一限目の始まる時間ギリギリな為、わりと本当に時間が無い

 

「ふぅ…」

 

ため息を一つ吐き、観念したようにようやく口を開く

 

「…雇ってもらいたい整備士が一人いる」

 

「へぇ…」

 

今朝自動車部に会った時、彼女達は昨夜の整備で杉野ちゃんが手伝いに来てくれたと言っていた

自動車部4人に戦車5輌を一晩で直させるのは確かに無茶があるとは私自身もわかっていた事だ

仮に今回出来たとしても長い目で見てもそのままと言うのは現実的じゃない

それに毎回杉野ちゃんに手伝わせるのも気が引けるところがある

 

打つ手がないのであれば無理矢理にでも突っ走るしかないが、使える手があるのならば協力は惜しまない

 

「オッケー、詳しく聞こうか?」

 

「あぁ」

 

まず1つに否定ではなく肯定的に返したのは正解だった

彼女の警戒が少し緩まったのを感じる、そこから語られた彼女の話は私にとってはまさしく理のあるものだった

 

「多分、聞いてるとは思うけど昨晩の戦車の整備に俺も手伝いに行った」

 

「聞いたよ、自動車部の子達が腕も良いし要所を素早く抑えて直すから大助かりだったって、人気者だね〜杉野ちゃん」

 

「それはアイツら(自動車部)も同じだろうに…

が、このまま自動車部だけで整備を回すのは些か現実的じゃないのはわかってるだろ?」

 

「それは、まぁねぇ…」

 

私と同じく心のどこがでそう感じていたのだろう、小山が息を飲む音が聞こえる

反面かーしまは良く理解出来てない様子だ、あの子はなんだかんだ自動車部への信頼が強いから大丈夫だと信じてやまないのだろう

 

「どうせお前らの事だ、まだ情報隠してるよな

粗方今回見つかった戦車の他にまだ見つかってないのもあるんだろ?」

 

「杉野貴様、どこでそれを…」

 

「いやあのラインナップで勝てるわけねぇからちょっとカマかけただけ…で?実際は何輌だ?」

 

「確定では言えないけれど、少なくとも保管車両から途中で抜け落ちて不明扱いになってるのは今回発見したのとは別にあと4輌かな」

 

揺さぶりに弱いかーしまが暴露してくれた為、隠す必要は無いと感じたのか小山があるかもしれない残りの戦車の数を杉野ちゃんに教える

杉野ちゃんは何かを考えるように頬杖を付きながらうんと唸った

 

「9輌か、人材の確保も必要だし何が出土するかわからねぇから一概には言えねぇが

まぁあるのと無いのとじゃ大違いだし案外なんとかなるかもな」

 

「私らとしてはどーにかなってくんないと困るんだけどね〜」

 

それこそ難しい話だろと苦笑いでいう杉野ちゃんにまぁそうだねと私も同意せざるを得ない

だがこちらももう引けないところまで来ている、彼女たちにはまだ言えないが───

例え恨まれたとしても私は立ち止まることなんて出来ない

 

 

「で、まぁそうなると直す人手も全く足りなくなるし───

ちょっと昨日深夜テンションでむかーし世話になってた人に電話かけたわけ」

 

「…その人が来てくれることになったって訳か」

 

なんとなく話は読めた、それにしても杉野ちゃんがお世話になったってことはどれの時だろうか

 

「で、もしかしてその人って剣部隊の人?」

 

「…筒抜けかよ、そーだよ」

 

マジか、と頭を抱えたくなった

杉野ちゃんと西住ちゃんを戦車道に引き込もうとした際に、事前にかーしまに二人の素性を調べ上げさせた為

彼女たちがどんなことをしてどんな流れでここに来たのか、大体のことは把握してる

 

表の戦車道の花形西住流次女と非公式な裏の戦車道(タンカスロン)を暴れまわった破壊神が揃って大洗にいたことにガッツポーズをしたのは内緒だ

 

特に杉野ちゃんに関しては1年の頃からその存在は知ってはいたものの、彼女自身は通り名と戦術が有名であって容姿の情報はなかった為

今回調べて初めて彼女がそうだと知って驚愕し、同時にいくつかある彼女の試合映像を見ては昔に風の噂で聞いた宮城の戦車乗りの話は本当だったのだと年甲斐もなくワクワクしてしまった

 

とは言え───

 

「…その人、素行とか大丈夫だよね?」

 

「ちょっと待て、そりゃどういう意味だ」

 

私の言葉に喧嘩でも売られてるとおもったのか中腰の状態で睨みつけてる彼女を手で制してごめんごめんと謝りながら席に座らせる

 

うん、本当に心配になってきた

杉野ちゃんを始め彼女達のいた部隊はタンカスロンチームにしては珍しくかなり本格的な戦車隊だった

徹底した集団戦闘を重視し、とんでもなく弄り倒されたチハに日本中から集められた選りすぐりの搭乗員達で構成されたまさにタンカスロン限定で言えば最強と呼べるチームだった

 

──けど、それと同時にとんでもねぇ問題児達の集まりだった

 

「いや、ねぇ?剣部隊って血の気の多い子達ばっかりだったって聞くし───」

 

「否定はできねぇな、けどそれ言ったら戦車道って武芸自体割と短気なやつ多いぞ」

 

「それはそうなんだけど…」

 

これに関しても否定は出来ない、昔嗜む程度に戦車道に手を出した際にそういう子も多くいた

だが剣部隊のように実際に新聞やニュースで取り上げられる程の事件を起こすような子は見たことがない

 

「深夜の無断外出や無断外泊でほぼ全員補導歴あるんでしょ?」

 

「捕まらないで上手くやった奴らもいるけどな」

 

「未成年の飲酒喫煙率の高さでも問題になってた」

 

「血の気が多いのが集まるとそういう方向に流れる奴らもいたね」

 

「他校の風紀委員と良く揉めてたんでしょ?暴力沙汰起こして警察のお世話になったのもいなかった?」

 

「他部隊の話でウチ(戦闘301)からは出してないよ」

 

「酔った勢いで駅員を引きずり降ろして隣駅まで電車を走らせたのは?」

 

「それこそウチの隊じゃない」

 

どうしてだろう、全く安心できない

 

「…ちなみにこれ、ネットで囁かれてる噂話何だけど」

 

「あ…」

 

カマをかけて見たが彼女のおかげで事実だという事がわかった

もしもその当事者たちが来るのならいくらなんでも話をなかったことにするのが吉だろう

問題を起こされて大会出場中止になっては敵わない

 

「大丈夫、来るのは整備の人だから」

 

「今までの話聞いててどこに安心する要素あんの?

それに杉野ちゃん、一年の頃散々暴れまわってくれたの忘れた訳じゃないよね?」

 

「それはまぁ…けど会ってもないのに話を決める必要もないだろ」

 

「む…」

 

そう言われてしまうと確かにそうだ、実際に会ってみないことには何とも言えないというのは本当なのだから

全くつくづく話しの上手い娘だと感心させられる

 

「まぁ、話はわかったよ

あとは会ってみないと何ともだけど」

 

「あぁ、それだけで充分だ」

 

私の返事に納得行ったのか、すっかりぬるくなったコーヒーを飲み干した杉野ちゃんはのっそりと立ち上がった

 

「…授業、遅れないようにねー」

 

「わかってらい」

 

そりゃ当然と言いたげにニッと笑みを浮かべて部屋から退出する杉野ちゃん、まったくそういう仕草が様になってるのが一々腹ただしい

 

「あ〜…疲ッれた〜」

 

本当、あの子の前は緊張する

椅子に深く座り直して冷めたコーヒーを一口啜った私はそう思いながら彼女の出ていった扉をジッと見つめる

 

(…昔の知り合いが手を貸してくれるくらい信頼されてた子が、なんで剣部隊からいなくなるような真似したんだろうねぇ?)

 

戦車道歴のある生徒を割り出そうとかーしまの纏めた全校生徒を対象にした第一次報告では杉野ちゃんの航跡を探るには不十分で、調べようにもその理由として該当しそうな項目は削除されていた

まとめサイト等でもいくつかそれっぽいのは見つけたがリンク先は既に無かった

彼女が一度戦車道をやめたのはいくつかの事故が関わってると噂されているが、その真相は謎が多い

きっとリアルタイムで試合を見てたような人じゃないとその理由までにたどり着くことは難しいのだろう

 

「かーしま!」

 

「──はい」

 

「もう一度杉野ちゃんの過去を調べられる?今度はなるべく洗いざらい」

 

「…承知しました」

 

 

さて、彼女に隠された真実を明かして鬼が出るか蛇が出るか

今の私にはまだわからなかった

 

 

 

一限目の授業開始時刻、戦車道履修生の22人は格納庫の前に集合していた

言わずもがな教官がこれからやってくるためである、ちなみにではあるがみんな各々のチームで固まってはいるが俺は西住達と固まっていた

というのもまだ授業が始まってないため、ギリギリまで話しに付き合うよう頼まれた為なのだが

 

「教官遅い〜、焦らすなんて大人のテクニックだよね〜」

 

相変わらず素っ頓狂なことを言う武部にまた始まったと言わんばかりに五十鈴が何とも言えない表情をしていた

 

____キィイイン

 

そんな時、突如辺りにジェット推進式エンジン特有の甲高い音が響き渡った

 

「…げ、自衛隊機かイヤな予感するな───」

 

視界に入ったそれは自衛隊所属であることを物語る日の丸を背負った真っ白な大型輸送機だ

徐々に高度を下げて近づいてきたその機体は校舎の屋上程まで高度を下げると1輌のパラシュート付きの戦車を投下した

 

「うっわ無茶しやがる!」

 

パラシュートで降下速度は減速された物の、着地した瞬間に駐車場のアスファルトにヒビが入ったのがこちらからでも確認できる

つーかこんな無茶するような人、俺は自衛隊で一人くらいしか知らない

ますます強くなるイヤな予感を肯定するかのように、投下された10式戦車は俺の車の近くに止めてあった学園長のフェラーリに全速力で体当たりをかました

 

「学園長の車がッ!?」

 

「あ〜やっちったねぇ〜」

 

その後10式は体当たりしたフェラーリへ向かって後退からの乗り上げで完璧にトドメをさしてからこちらへ向かってくると、フェンス越しに我々の前で停車する

 

「こんにちわ〜!」

 

「げっ」

 

そしてキューポラから顔を覗かせた教官はまさしく心当たりしかない人物、蝶野亜美さんだ

…確かにいい人だけどあの人クッッッソ大雑把な性格よ?ガチの初心者の教官には向いてないと思うんだけどな

 

 

 

 

場所を移動し、格納庫の前へ全員が集合すると生徒会の3人の他に蝶野さんともう一人

黒いツナギ姿の見覚えしかない女性を含めた5人が俺たちに向き直るように立った

 

(何でもういるんだよ!?)

 

蝶野さんと並んで立ってる女性に対してあの角谷が顔が引きつらせてる、そりゃそうか呼んでもない知らない人がいたら普通は困惑するだろう

俺だってまさか電話して次の日に来るとは思わなかったもんね

 

眼の前で蝶野さんが自己紹介してるけどまったく頭に入ってこない…あ、目が合った、めっちゃ笑ってるし

 

「西住師範のお嬢様じゃありません?」

 

「あっ…」

 

ちょうどその時、こちらの列へ蝶野さんが近づいてきた

そう言えばあの人今は戦車道連盟でもかなりのお偉いさんだったっけ

 

「あら…?」

 

一年達を始めざわついていた周囲に対して西住流について簡単に説明を交えていた蝶野さんがこちらを見てピタリと動きを止める

 

「もしかしてナオちゃん?久しぶりね!」

 

「…お久しぶりです、蝶野さん───」

 

「また復帰するのね戦車道、源田さんも心配していたわよ!」

 

「オフクロさんは相変わらずですねぇ、苦労かけて申し訳ないですが」

 

俺たちのやり取りを驚いたように見ていた周囲へ蝶野さんはニッコリと笑って俺から視線を外し向き直る

 

「昔、戦車スクールの特別講師として呼ばれた際に

生徒の中で唯一私を撃破したのがナオちゃんなの」

 

「…その後何回やっても勝てた試しがないんですが??」

 

現役の自衛隊員である蝶野さんを撃破したことがある、と言うところだけ聞いてえぇー!?と声を上げる周囲に申し訳ないが

当時の他の車長達と全く違った戦略がたまたま嵌って撃破出来ただけだ、あんまり期待されても困るのでしっかり訂正はさせてもらう

 

「…どう?久々に一試合───」

 

「絶対嫌です、数年ぶりの復帰戦が蝶野さんとか胃に穴が空きますよ」

 

あら残念、と肩をすくめる蝶野さんはまるで冗談めかして言うものの試合という単語を口にした際目が一切笑ってなかった事から割とマジで言って来たことが伺える

ちょっとでも口を滑らせたら強制的に試合が始まりそうなところが本当にこえーよこの人の場合

 

さて、そんなこんなで一段落つくと

一同の視線は未だ口を開かない黒いツナギの女性へと向けられた、それを感じ取ってかこちらに一同視線を送ってから当人はゆっくりと話し始める

 

「近藤若菜、チョクが少し前までいた部隊で整備長をしていた

ってもさっきの会話の様子じゃあチョクのこと知らねぇ奴のが殆だろうから、込み入った話は追々───

ひとまずは戦車の整備士だと思ってればいい」

 

ふと周りを見渡して見るも周囲の反応は乏しくない、…唯一秋山だけ目を輝かせてる辺り流石だ

多分近藤さんがどういう人なのかわかってるのはアイツぐらいだろう

ついで生徒会の3人は今朝の話もあり「あーあれが杉野(ちゃん)の言ってた人か〜」くらいだろう

それにしても…

 

「…近藤さん、多分その呼び方みんなに伝わんないっすよ?」

 

「はっはっはっ、アタシが呼びやすいんだから良いんだよ

…改めて久しぶりだなチョク」

 

「近藤さんの方こそ、お元気そうで何よりです」

 

俺の名をチョクなんて呼ぶのは人は今となっては近藤さんくらいのものだ

そのためそう呼ばれてるのを知ってる蝶野さん以外の全員が、誰のことを指してるのか頭に疑問符を浮かべてたのでこちらも訂正を入れるが変える気はないらしい

…うん、何年もそう呼ばれてたからわかってたけどね??

 

さてそんなこんなで自己紹介が済めばいよいよ実際に戦車に乗ろうかと行った具合だ

実に2年ぶりの戦車道になるわけだがここでも武部が教官はモテるのかと的はずれな質問をする

よせば良いのに蝶野さんも狙った的を外したことがないだの撃破率は120%等と良くわからない事を宣うので辺りからは歓声が上がるのだが割と長い付き合いの俺は蝶野さんのそんな話を一切聞いたことが無いため真相はお察しだ

 

「教官!本日はどのような練習を行うのでしょうか!」

 

本当の意味で真面目なのは多分秋山だけだろう

だが秋山、そんな聞き方してもあの人は…

 

「本格戦闘の練習試合、早速やってみましょう!」

 

「いきなりですか!?」

 

ほらこうなった、あの人の場合とにかく頭使って変な理屈を入れるよりまずは身体で覚えろタイプ

勿論あの人自身、色んな技法を会得してるんだがお利口さんっぽい見た目とは裏腹に完璧な感覚派だ

 

「戦車なんてバーっと動かしてダーっと操作してドーンっと撃てばいいんだから!」

 

これだよ…

うん、わかってたけどねぇ

俺の時もそうだったからなッ!!

 

しかし俺の時はスクールで単独での操縦練習を粗方経験してからの話だ

大洗みたく今日の今日いきなりではない

 

「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね」

 

「…本当に大丈夫かよこれ…」

 

拭いきれない不安と共につぶやく言葉は

おそらく誰にも届かないのだろうと思わず乾いた笑みがこぼれた

 

 

 

 




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