ふたりはプリキュア!! LEPUS☆GALAXY's   作:きゅー。

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きらめき

いつだって物事の予兆となる出来事は突然に起こりうるものだ。

おおよそ、それは目に見える形ではっきりと捉えられるか、静かな形として徐々に迫るかのどちらかであろう。

この世界にも、その"予兆"が現れ始めた。

少しずつ。しかして確実に。

 

夜空に光が閃いたあの夜から、この青き星への侵蝕は人知れず、静かに始まっていた。

 

***

 

都心部から遠く離れた、東北地方の農村。

そこでは、野菜をはじめとする農作物の収穫が最盛期を迎えていた。

山々に囲まれ、空気や日照に恵まれた環境の良い広大な農地。

 

そこに暮らす農家の老爺が、丁寧に野菜を収穫していた。

特に今年はキャベツがなかなかに豊作らしく、どれも青々と、大きく育っている。

期待以上の出来具合で、嬉しくてたまらない…とばかりに、老爺の収穫作業にもより一層の熱がこもっていく。

 

と、その作業の手が唐突に止まった。

 

「…え?…ど、どうなってんだ!?」

 

老爺は瞬時に自分の目を疑わざるを得なくなる状況に追い込まれた。

 

先程まで青々とした葉を茂らせていたキャベツたちが、一瞬のうちに全て茶色く染まり、全て枯れ腐っていたからだ。

 

ぐちゃ、ぱき。ぱき。

葉が急速に水分を失い、萎びて朽ち果て、ぐずぐずに崩れていく音が辺りに響いていくと同時に、枯れ草に似た匂いが辺り一面に広がる。

 

「え、な、なんだ!?…おい!どうなってんだぁ!?」

 

目に映るあまりの惨状に混乱した老爺は腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。

 

先程収穫したばかりの採れたての野菜も、例外なくすぐに腐り落ち、萎びていく。

いや、それだけではない。

辺りに生えていた雑草や、しっかりと大地に根付いていたはずの木も、瞬く間にバキバキと音を立てながら、いずれも乾燥し、枯れ落ちていった。

籠の中の貯まっていた大量のキャベツさえ、土塊になって消え、籠の隙間から地へと流れ落ちていく。

 

老爺はただ恐れ慄き、叫び声を上げることしかできなかった。

 

***

 

全国の至る所で、同時多発的に異変は起こっていた。

 

中部地方。多くの人手が賑わう観光地。

様々な花が咲き乱れるガーデンが、その目玉でもあった。

しかし、ある日突然その花全てが萎びて崩れ、一瞬のうちにガーデンの鮮やかな色は、茶色く、燻んだ色に染まってしまったのだ。

 

市の観光協会はすぐさま原因の究明にあたったが、土壌検査の結果に異常はなく、監視カメラの映像にも不審な点も見られない。

最早、迷宮入りの様相を呈していたのであった。

 

山陰地方の山中では、トレッキング中の人々が突然発生した木々の崩落に巻き込まれた。

現場を目撃した者の証言では「山の木々の一部が大きな轟音を立てながら崩落していったのが見えた」「木々が崩れた」との事だった。

民間からの通報を受けたレスキュー隊が現地で救護活動を行い、8名のうち軽傷者は6名、重傷かつ意識不明が2名。

この事象は現地メディアの目に留まって騒動となり、現場付近の立ち入りは固く禁じられることとなる。

 

実はこの異変こそ、滅びの前兆であった。

崩壊のはじまりはすぐそこまで迫っていたのだ。

 

誰も知らない深い地の底で、禍々しいオーラを纏った巨大な"何か"が鳴動し、邪なる眼を開いた────

 

***

 

同じ頃、東京────薙町中学校。

 

「…羽奈日ぃ…ったく、授業中に寝るなよ!…みんなも気をつけるようにな」

「す、すいません」

 

亜希は結局、睡魔に負けてしまった。

忸怩たる感情で、覚醒したての頭がいっぱいになる。よりにもよって、ルックス的に少し苦手な数学担当の教師に、皆の目前で釘を刺されてしまったのだ。

 

周囲のクラスメイトたちにも笑われたので、気分も落ちに落ちて、溜息が出そうになるが、そのまま起き抜けのボーッとした頭で、授業を聞こうと努める事にした。

頭に血がうまく昇らない。なんだかボーッとしてしまう…と、再び睡魔が襲ってこようとした、その時。

 

「────逃げろ!」

「早く!みんな、ここから逃げるプカ!」

 

朔と朝が突然、立ち上がり叫んだ。

 

2人の声と同時に、巨大な地鳴りの音が外から響き渡り、部屋全体を揺するような激しい揺れが、亜希たちの教室を襲った。

 

***

 

『えー、ここで速報です!東京都凪街市に先程、巨大な4本足の生物らしき物が現れました!!繰り返します!東京都薙町市に先程、巨大な生物が現れ、市は市民に対し、たった今、緊急避難行動を呼びかけており…』

『ご覧ください!アレは一体どういった生命体なのでしょうか!…依然として巨大生物は凪街市の中心部を進行しており…』

『みなさん、落ち着いて身の安全を確保し、避難してください!』

 

テレビのニュース速報が、世に緊急事態を伝えている。

"非日常"のはじまりの口火だ。

 

轟く地鳴りを伴い、凪街市のアスファルトの大地を割って街に出現したのは、60メートルもの体長を誇る、巨大な生物だった。

 

まるで大木の幹のように強靭な4本の獣脚。

胴は植物の蔦が幾重にも絡まったかのような構造をしており、頭部は長く、切れ長の瞳が周囲を睨みつける。

生物であれば亀を彷彿とさせるシルエットのその巨大生物…巨木獣ボラドスが現出した。

 

1歩歩みを進める毎に、その質量で衝撃と揺れ、もうもうと煙る土煙を伴いながら、辺り家屋や建造物をことごとく蹂躙していく。

電柱はまるで枝のように折れ曲がって、容赦なく家々を潰してゆく。

弾き飛ばされた車のガソリンが引火したか、はたまた送電がショートしたのか。

途端に火の手があちこちで上がっていく。

 

人々は突然、恐怖と混乱のドン底にまで叩き落とされる事になった。

自分たちの命を守るため、一目散に逃げていく。

遠くへ、なるべく、遠くへ。

 

「早く!!押さないで!!行って行って行って!!!」

「早く早く!!こっちだっておい!」

「逃げて逃げて逃げて!!」

 

非常時を知らせるサイレンが、けたたましく煙る青空の下に鳴っていた。

 

***

 

亜希たちも、目の前に起こった理不尽を前に、困惑を隠しきれないまま避難を続けている。

不幸中の幸い…というべきか、ボラドスが進行する方向とは指定避難所が真逆にあった。

 

実際問題、災害に対する避難訓練は教師や生徒たちも非常時に備えて行ってきたが、まさか巨大な生物が現れるとは、誰も想定などしているはずもなく。

 

その避難行動はパニックを伴い、冷静でいられる者は誰もいなかった。

生徒たちから、平静をなくした、悲鳴か怒号に似た声があちらこちらから聞こえて来る。

 

「あれ怪獣じゃん!夢なの!?これ夢!?」

「バカ夢じゃねえよ逃げんだよ!」

「どこに逃げりゃいいのよ先生!」

「大丈夫だみんな落ちつけ!」

「こんなの落ちついてられっか!!」

「嫌ぁぁ!」

 

そんな騒乱の最中、亜希はある事に気づいた。

 

「転校生の2人、どこ…?」

 

途中までいた筈の朔と朝の姿が、何処かへと消えている事に。

 

***

 

避難の波から姿を消した、朔と朝。

2人はいま、周りの人々にその存在を知られる訳にはいかなかった。

 

人気のなくなった高台の展望台からは、巨木が潰れていくような不快な音を立てて咆哮するボラドスの姿が見受けられる。

 

朔と朝は制服のポケットから、ウサギの耳に似たディスプレイを持った携帯電話型アイテム…シュプリームフォンを取り出し、それぞれ構えた。

「ヤツはここで食い止める、いくよ」

「プカ!」

 

フォンを持った手とは反対の手をしっかりと握りあい、2人は手と手を繋ぐ。

フォンの持ち手を互いに交差させた後、天に掲げ、叫ぶ。

 

「ツインクレセント=フォーティチュード!!」

 

シュプリームフォンからほとばしる、青と桃の閃光が、2人の身体を瞬く間に包みこんだ。

 

***

 

凪街市の人口は全体で約100万人ほどである。

それらが一斉に動く事態ともなれば、人だかりの波があちらこちらで発生する事となるのは必至だった。

 

亜希たちと同じ道で、避難を急ぐ母親と5歳ぐらいの歳の少女がいた。荷物は2人とも簡易的なリュックサックで、中には災害用の物資が入っている。

しかしそれは少女には重かったようで、途端に足がもつれ、転けてしまった。

 

母親が切磋に気づき、道を戻って助けようとするも、人だかりに容赦なく押し流されていく。

少女は混乱した状況と痛み、そして母親から離れてしまったという絶望感で、涙を流しながら母親を呼ぶ。

 

しかしその声は、民衆の怒号や悲鳴、ボラドスの咆哮と足音によって掻き消されていく。

 

都を蹂躙していくボラドス。

その背中が妖しく緑に光ると、内部から何本ものツタ状の触手が生み出され、周囲の道路や建造物を余さず、まるで高速で舐め尽くすがごとく、薙ぎ払っていった。

 

それはムチのようにしなり、柔軟性と硬度を持って、あらゆる物を破壊し、たちどころに吹き飛ばしていく。

 

偶然か、それとも必然か。

触手の先が、亜希たちの方向に向けられた。

 

数コンマ秒で伸縮する触手。

それを亜希の目が捉えたが、もう遅かった。

 

「……っ!」

息を呑み、声を出す隙もない。

ただ心に浮かぶ、"死"という文字。

 

太く剛きその凶器が、人々を大地ごと抉り取ろうとした、その時。

 

***

 

ばきん。

 

触手が、何か堅いものに阻まれたような音が遠く響いた。

 

亜希や、クラスメイト…教師陣や人々、あの親子も、恐る恐る顔を上げる。

泣き腫らしていたあの少女はふと、温かな何かに自分が抱き抱えられている事に気づいた。

 

見ると、白と桃色の華やかな衣装に身を包んだ戦士がいた。

左手で少女を庇い、右手を翳した先には、エネルギーで構築されたバリアがある。

少女を含む住民たちを触手の攻撃から守ってくれていたのだ。

 

その戦士…キュアプーカは、少女に優しい微笑みを浮かべる。

 

「もう、大丈夫プカ!」

 

***

 

「え…?私、生きてる…?…それに…誰?」

 

亜希は、自分を含めた人々が、光の壁のようなモノで守られている事に気づいた。

それは半透明で、中から外の様子をある程度知ることができた。

 

よく目を凝らして見てみると、自分たちの前にすっくと立っている、何者かがいる。

 

それは黒と水色を基調とした衣装に身を包んだ、ヒトだった。

 

いや、それはヒト離れした"何者か"だった。

 

何故なら、その者はボラドスの触手の先を、空中で浮遊しながら、同時に片手でしかと握りしめ、動きを止めていたからだ。

人間では決してあり得ない力。

 

すると、その触手にハイキックを見舞う!

その威力は絶大で、足の当たった箇所から触手が、ぶちり、と音を立てて破れて寸断していく程だった。

 

その戦士…キュアシュプリームは、隙を逃すはずはなかった。

細く華奢な印象を与える腕を前方に伸ばし、まるで"チョキ"のようなサインを立てる。

 

すると、指と指の間に発生したエネルギーの奔流が凄まじいまでの稲妻となり、行き場を失った触手目掛けて放たれた。

 

刹那、爆風とともに触手は跡形もなく消し飛ぶ。

否、消し飛ぶ…というよりも、煌めく粒子へと変換され、中空へと消えた…という方が正しいようだった。

 

亜希は、思わず呟いた。

「……誰?…一体、なんなの?」

 

抱き抱えられた少女は涙を拭い、言った。

「お姉ちゃん、もしかして…!」

 

眩い光とともにやってきた2人の戦士は、口元に微かな微笑みをたたえつつ、こう答えるのだった。

 

「僕たちは───プリキュアだ」

「僕たちは、プリキュアプカ!」

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