ふたりはプリキュア!! LEPUS☆GALAXY's 作:きゅー。
きっかけ
光とともに地球へと降りたった、輝ける美兎…キュアシュプリームとキュアプーカ。
何故、彼女たちがこの星を訪れたのか。
物語は、3日ほど前に遡る─────。
***
太陽系から約10万光年離れた所に位置する、惑星センド=ロパニヨン。
そこには老若男女問わず、出身も、容姿も、種族すらも様々な宇宙の旅人たちが、往々にして羽を休める、いわば休息地点として栄える惑星である。
多くの人手で賑わう中心街を拠点として、酒場や飲食店、はたまたリゾート地が設けられているほどの盛況ぶりだった。
そんな星の東部に位置する、繁華街『デイアープ=ラニーノ』。
そこは他の天体で手に入れたらしき怪しげな品を披露する露天商や、珍しい商品を売り歩く骨董屋が連なる、どこかアンダーグラウンドな雰囲気が漂っていた。
そんな街の片隅に、ウサギを思わせる形のパーカーを着込んだプリムがいた。
その隣には、小さな妖精プーカの姿もある。
「ん…これ、いいね」
「ぷかっ?!」
「食べすぎ?…まだ2個しか食べてないよ」
「…ぷか〜っ」
「…欲しいの?」
「ぷか!」
『大規模な宇宙旅行の必需品』と宣伝される、完全栄養食品・コスモグミを頬張る。
これは以前の人助けのお礼として受け取った、宇宙共通通貨を使って購入したものだ。
まるで地球の果実を何倍にも濃縮したかのようなフルーティな味わいを2人で楽しむ。
そうしているうちに、ふと、道を行く住人たちの声が聞こえてきた。
「…おい、そういえば、"星喰い"がまた出たそうだぞ」
「うわっ、それは物騒だな…こっちに来なきゃいいけどさ」
「ツキが落ちるような事言うんじゃねえよ」
"星喰い"。
その言葉の響きが妙に引っかかった。
それだけでも、人智を超えたただならぬ存在が、宇宙に蔓延っているであろう事は確かだった。
「星喰い……どんな奴なんだ?」
「ぷかぷか!ぷーかぷか!」
「うん…ひとまずは調べよう」
***
今滞在している場所が繁華惑星だった事が幸いしてか、情報は比較的集めやすかった。
"星喰い"。
それは、星そのものが蝕まれる大規模な厄災現象を表す言葉である。
宇宙を旅行する者たちの間では、様々な証言や噂がまことしやかに囁かれていた。
断片的なそれらを繋ぎ合わせていくと、1つの筋書きが浮かび上がっていく。
"星喰い"の源。
それは宇宙を無軌道に、まるで生きているかのように航行する、光の球である。
それが降り立った惑星には、例外なく破滅の未来が待ち構えている、という。
"星喰い"が降り立ったが最後、星を循環するエネルギー…エレメントが次第に枯渇し、自然や環境が次第に悪化。
最終的に生物が生存できる環境ではなくなって、星そのものが死に絶えてしまうというのだ。
さらには厄介な事に、抽出されたエレメントは"星喰い"自身が持つ負のエネルギーと結びつき、巨大な身の丈を誇る、凶暴な怪物と化して湧き出し、破壊活動を行い、滅びをさらに加速させる…との事だった。
"星喰い"をこのまま放っておけば、遅かれ早かれ、宇宙の星々は滅びの運命を否応なく辿ることになる…プリムは結論づけた。
そうなれば、取るべき選択肢は1つだ。
「…決めたよ。僕たちで"星喰い"を止める。それがプリキュアとして、僕たちが今やるべき事だ」
「ぷか!」
プーカも勇気を振り絞り、プリムの言葉に強く応えた。
***
プリキュア。
それはかつてプリム…宇宙生命体シュプリームが観測し、そして無意識のうちに憧れを抱く事となった『強き力を持つ戦士たち』の総称でもある。
別次元の地球で起こった、シュプリームとプリキュアたちとの、壮烈な戦い。
その果てに、プリムは力の大部分を失う代わりに、人間と近似した肉体を得るに至った。
異なる価値観を抱くものたちが、互いに手を取り、思いを束ねる。だからこそ、強く、そして眩しい────
それがプリキュアの強さなのかもしれない、とプリムは思っている。
あの時の自分にはないものを、プリキュアたちは確実に持っていたのだ。
プリムはいつしか自分も、プリキュアたちのようにありたいと願うようになった。
それと同時に、輝く光の奔流の中で浄化され、消滅してもおかしくなかった自分が、今なお生きている理由を見つけたい…とも思っていた。
あの時、プーカから差し出された手をとり、2人で世界へと歩み出したその日から、その理由をプリムはずっと探していた。
プリキュアとは何か。
それをより深く探求するかように、プリムとプーカの旅は、誰にとも言わず始まった。
時には次元を越え、そしてまたある時には星々を渡り歩く。
同時にそれは、他者を救う旅でもあった。
道すがら、訪れた星ごとに困りごとがあれば、2人はプリキュアの力を使って解決してきたのである。
***
センド=ロからさらに5万光年離れた銀河系に位置する惑星イーフ。
近年、急速に環境が悪化したという噂のあるその惑星に目星をつけ、プリムとプーカは降着した。
既に2人とも変身を済ませ、キュアシュプリームとキュアプーカとなっている。
宇宙空間を旅する為には、プリキュアの力が必要不可欠なのだ。
降り立ってすぐ、プーカがぽつりと言う。
「何も、ないぷか…」
目に映るは、見渡す限りの辺り一面に広がる、砂漠と荒涼たる大地だった。
ただ一陣の風だけが、大地に吹き下ろしていく。
そこにある…いや、"あった"筈の命の息吹は最早どこにも感じられない。
辛うじて、かつてこの惑星に文明があり、生命体が住んでいたという事実を示す物体があった。
それは痩せ細り、朽ち果てた木々だったモノと、大地にただ突き刺さるようにして配置された、円柱状の石碑であった。
それを見たシュプリームは……固く拳を握った。
強く、強く、握ることしかできなかった。
生気が抜け落ち、腐り、枯れ落ちた木々が、ただ風に吹かれていくのを見るたび、心がどうしようもなくざわめいた。
『理由なく、星そのものを破滅へと理不尽に追いやる』という、その現象の果てを目の当たりにしたシュプリームの胸の中は、次第に重く苦しくなっていった。
過去の自分が犯した、大きな過ち。
その過程を、目に見える形で、まざまざと見せつけられたかのようだった。
シュプリームは、土埃に塗れた石碑に書かれているメッセージを読み解いていく。
「《我らはより善き明日を求め、この愛しき星を去る事ととする。この碑は我らが古より生命を紡ぎ暮らしたこの星への、せめてもの手向けである》…か…住民たちは、侵食されたこの星を脱出せざるを得なかったようだね」
「"星喰い"が来なければ、みんな幸せだったに違いないぷか…」
プーカはかつて、この星の住人だった者たちに想いを馳せ、感傷を抱いていた。
彼女は、淋しさや孤独、そして恐れといった感情を、生まれて間もない頃、幾度となく痛烈に感じた事があった。
しかし、そんな惑いの中にいたプーカを支えてくれた存在がいた。
迷わず手をとり、差し伸べてくれた人たちがいた。
その記憶が、今のプーカの骨子となって、今も生き続けている。
誰かの抱く思いに共感しようとし、それを受け止めようとする優しさと勇気を、心に宿すに至ったのだ。
「プリム」
プーカがシュプリームを"変身前"の名前で、静かに呼んだ。
プリキュアたちのルールでは、主に正体が他者にバレる事態を防ぐ為、変身後の名前で呼ぶのが暗黙の了解である。
それを解ってまで、あえて。
プーカは自らの言葉を、真正面から伝える。
「僕はもう誰にも、辛い思いはしてほしくないぷか」
「プリム、君にも────」
プーカの瞳には、プリムと向き合おうとする強い意志があった。
その光を宿したかのような双眸に真っ直ぐに見つめられると、自分の中の本音も隠せなくなるような気がしてしまう。
まるで胸の奥底に仕舞い込んでいたものさえ、余さず照らされるような。
「プーカ、僕は…」
ただ目を伏せ言葉を紡ごうとした、その時だった。
背後から音もなく出現した巨大な影のようなモノに、シュプリームは────
「…シュプリームッ!」
一閃。
プーカの掌から放たれた速射性の光弾が、影に命中した。
大きな爆発音と衝撃とともに、影はたちどころに浄化され、霧散していった。
恐らく、"星喰い"によって奪われたエレメントの残滓にあたる存在なのだろう。
それにしても、とプーカは思う。
普段なら、冷静なシュプリームは敵襲や気配に気づいてもおかしくなかった。
それなのに。
上手くは言えないが、プリムの心の中にもつかえのようなモノがあり、それが平静さを乱しているのではないかと、プーカは察する事ができた。
「…ありがとう」
シュプリームから、小さな声が聞こえた。
恐らく本人も、自分の様子がいつもと違うのは重々承知なのだろう。
自分の事をよく知るのは、いつだって自分自身と、相場は決まっている。
だからこそ、向き合いたかった。
旅をしてきた仲間として。同じプリキュアとして。
そして何よりも、誰よりも他者に憧れた、大切な君のために。
プーカはシュプリームにそっと寄り添い、穏やかな声を掛けた。
「さっきの話の続き、聞きたいプカ」