呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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初めてのクロスオーバー作品でございます。
投稿は不定期ですが、月に1回は投稿したいという願望はあります。


序章『懐玉・玉折』
懐玉


人間が記憶する辛酸、後悔、恥辱・・・様々な負の感情より生まれる呪い・・・それが形となって顕現した存在・・・呪霊。

 

私にはそれがただ視える。私にはそれを葬れる。一目見た時からわかっていた。あれは邪であると。この世には必要ない。だから顕現した力で祓った。だから葬った。

 

だが両親はその力を気味悪がった。あの家には金がなく、食べるものにも困っていた。だから両親は呪霊を葬れる私と妹を売った。それもよりにもよって、御三家の1つ、禪院家に。

 

男尊女卑。禪院家にはそういった思想があり、禪院となった私たちへの態度はひどかった。心底見下され、苦汁をなめさせられ続けて私たちは心身共に疲弊していた。奴らを見て私は思った。このまま終われるものかと。

 

才能至上主義。禪院家は呪術の才能や実力さえあれば女でも多少の評価を与えてくれる。だからこそ私は呪術師として、自身を磨いた。妹を守るために、今の立ち位置を変えるために。スタートラインすら立たせないなどといった禪院家の連中の妨害は幾度もあったものの、私はめげることはなかった。

 

呪術師としての経験を幾度も重ねていくうちに、呪術界は私の術式を脅威であると見なし、私の等級を、一気に特級にまでのし上げた。これによって、私への態度ががらりと変わった。対抗意識を燃やす者、胡麻をする者、私を上辺だけで尊敬する者・・・とんだ掌返しだ。だがその態度は私だけで・・・妹にまで向けられることはなかった。

 

禪院は腐りきっている。禪院家の現当主、禪院直毘人はマシではあるが、他が下衆ばかりだ。1度リセットしなければ未来永劫、禪院は変わることはない。

 

ゆえに私は、禪院家の次期当主となる。禪院家の生まれでない私には相伝の術式はない。だが幸いにも禪院の名を与えられ、特級になったことによって私にもその資格が与えられた。

 

ゆえに私は術式を・・・刀を振り続ける。私の決意は何も変わらない。立ちふさがる者は全て葬る。斬り続けていれば、いずれ幸せが訪れると信じて。

 

だが今にして思えば・・・それは単なる独りよがりなのかもしれない。

 

あの日・・・大切な友と・・・大切な妹が去ったあの日から。もう戻ってくることはない二度とない・・・あの青い青春。

 

全てはあの日から始まったんだ。10年前のあの日から。

 

 

 

 

呪術廻戦ー呪いを斬るー

 

序章

懐玉・玉折

 

 

 

 

この3人問題児、だけど最強

 

 

2006年9月

 

この日は曇り空が覆う雨の日。降り続ける雨に打たれ続ける黒い車はとある場所へと向かっている。

 

そこは元々は地元の焼肉チェーン店を経営する運営会社の社長一家が住んでいた屋敷。しかし昨年の7月、BSE問題が露見されたことによって、焼き肉店は壊滅的な打撃を受け、多額の借金を組みして一家心中。以来社長宅は心霊スポットとして噂となり、地元の中高生、県外の大学生、フリーターなどが肝試しと評して屋敷に訪れ、相次いで行方不明になっていった。噂が噂を呼び、被害は現在進行形で拡大している模様。これ以外にも、行方不明になった学校帰りの小学生3人、その親族、警官、その同僚、友人・・・行方不明者の行方を辿っていくと、心霊スポットの屋敷に行きつくのだ。

 

心霊スポットの類は噂が流れるのは早い。特にインターネットが流通しているこの時代では、情報が流れるのが異常なほどに早い。その結果、呪術師が赴かねばならぬ状況にまで追い込まれている。そのため、呪術師が事件収束のため、現場に向かっているのだ。

 

車は例の屋敷にたどり着いた。車から出てきたのは3人呪術師。

 

1人は巫女装束を着込んだ黒髪の女性。

 

1人は黒い服を着込んだ銀髪のポニーテールの女性。

 

1人は赤いリボンとヘッドギアを着けたルージュ色の長髪の女性。

 

3人とも、連続失踪事件収束のために派遣された呪術師だ。

 

「闇より出でて闇より黒く・・・その穢れを・・・」

 

巫女装束の女性は屋敷に帳を下ろそうと詠唱を唱える。

 

帳・・・それは外から中の状況を視認できないようにするための呪術界において最も簡単な結界術である。

 

そしてこの帳を下ろそうとしている巫女装束の女性の名は庵歌姫。等級は2級。

 

「帳は必要ないよ」

 

歌姫にそう言い放ったのは銀髪のポニーテールの女性。彼女の名は冥冥。フリーの呪術師で等級は1級。ちなみに、冥冥という名は偽名である。

 

「え?」

 

「呪いの気配が感じられない。十中八九、原因は建物の中にある。外から叩くとなった時に、改めて降ろせばいい」

 

「・・・確かに」

 

冥冥の説明に帳を降ろさない理由に納得がいった歌姫。

 

「歌姫ってばそんなことも気づかないんだね、アハハ!」

 

「うるさい!相っ変わらずムカつくわねあんた!」

 

歌姫をからかって笑っているのは赤いリボンのルージュ色の長髪の女性だ。彼女の名はチェルシー。歌姫の同期で海外出身の呪術師。等級は2級。

 

チェルシーにからかわれた歌姫はイラつきながらも屋敷の扉を開けようとする。扉には鍵はかかっておらず、普通に開くことができた。ただ何かがドアの前に詰まってるため、開きにくいようだ。

 

「開いてる・・・何か詰まってるみたいです」

 

扉が開きにくいため、仕方なく扉を半開きにして屋敷に侵入する歌姫。足元を見て見るとゴミが乱雑していた。これのせいでドアが開きにくくなっていたようだ。中はゴミ抜きでも老朽化が目立っており、ボロボロでひどいものだ。

 

「なんだこれ・・・」

 

歌姫が恐る恐る一歩ずつ足を歩めていると、禍々しい気配に気がついた。その存在は2人も気づいている。

 

「・・・冥さん・・・」

 

「いるね。それもそこら中に」

 

呪術師を生業としているからこそわかる。この屋敷の中に漂う禍々しき存在・・・人間の負より生まれた呪いが形と成した存在・・・呪霊が。チェルシーは近くに落ちていた懐中電灯を拾い、それを歌姫に放り投げ、歌姫はそれをキャッチする。

 

「早く行くよ。私はいらないけど・・・歌姫はいるでしょ?」

 

「よ・・・余計なお世話よ!」

 

「あれ?いらなかった?じゃ捨てといてよそれ」

 

「つ、使わないなんて言ってないでしょ!」

 

なんだかんだ言いつつも歌姫は受け取った懐中電灯のスイッチを入れ、明かりをつけた。まだまだ使える代物で、これのおかげで暗かった屋敷が少しは明るくなる。だんだんと先へ進んでいく3人。奥へ進んでいくと、2階へ続く階段が見えてきた。ここボロボロでひどいものだが、階段の間でも広いのがよくわかる。

 

「すごいですね・・・」

 

あまりに広い屋敷に歌姫は感嘆の声を上げる。冥冥がレバーのスイッチを引くと、頭上にあるシャンデリアのライトに光が灯った。

 

「あ、生きてるんですね」

 

「とりあえず、建物内を一通り見てみよう。私とチェルシーはこのフロア、歌姫は2階を」

 

「え・・・?1人でですか?」

 

「何か問題でも?」

 

「あ、わかった。歌姫ってば・・・怖いんでしょ?」

 

「こ・・・怖かないわよ!1人でも余裕よ!」

 

「じゃ、よろしく」

 

「頑張ってね~♪」

 

冥冥とチェルシーは手分けして1階のフロアの探索を開始する。

 

「・・・よし・・・」

 

1人取り残された歌姫は気を引き締め直し、2階のフロアを探索をする。ただ、いかにもなこの洋館の中で1人で探索するのはやはり心細く、それは顔に出ている。見栄を張りまくっている歌姫は手当たり次第に部屋を探索するが、それらしいものは何1つ見当たらなかった。残るは後1部屋。

 

「ここで最後・・・」

 

恐怖心を振り払い、歌姫は勢いよく扉を開ける。が、この部屋も何もない。何もないことに対し、歌姫がほっと一息ついた時・・・

 

コトッ・・・

 

「ん・・・?」

 

何かの音が聞こえてきて、歌姫は恐る恐る部屋の中に入り、ベッドの下をそーっと、そーーっと覗き込む。ベッドの下には・・・いた。3匹の鼠が。

 

「チュー、チューー!」

 

「~~~~~!!!」

 

光に照らされた鼠は光目掛けて走ってきた。それを見た歌姫はおぞましさから鼠から逃げるように部屋を出て扉を閉めた。もうすすり泣きのような声を上げている歌姫。

 

ポンッ

 

「うああああああああああああ!!!???」

 

誰かに肩をポンと掴まれ、大きな悲鳴を上げる歌姫。

 

「にゃはは。実は私でーした」

 

「次のスクリーンクイーンになれるよ」

 

彼女の肩を掴んだのはチェルシーであった。その後ろに冥冥もついてきている。

 

「あ・・・あんたねぇ~!驚かせないでよ!紛らわしい!!」

 

「え~?だって今の歌姫隙が多すぎだもの。・・・今の驚いた顔、素敵だったよ♡」

 

「む・・・ムカつくーーー!!」

 

「アハハハハハ!」

 

驚かせたことにまったく悪びれないチェルシーに歌姫は彼女に怒りを覚える。当の本人は歌姫の反応に笑っている。

 

「ていうか2人とも、1階の探索終わったの?」

 

「ん?ここは1階だよ?」

 

「・・・・・・え?」

 

「私たちは1階の廊下を歩いてきたんだよ」

 

ここが1階であると聞かされた歌姫はわけがわからないといった表情を見せた。それもそのはずだ。彼女は間違いなく階段を登って2階にたどり着いたはずなのだから。

 

「え・・・?だって私・・・突き当りの部屋から入った・・・は・・・ず・・・?」

 

混乱する歌姫に冥冥は辺りに散らばっているお菓子の袋や服などに傘を指をさすように差し向ける。

 

「お菓子の箱、ポテトチップスの袋、缶、リュックサック、トレーナー・・・私はもう3回も見ている」

 

「私はもう5回目くらいかな?4回目辺りからここに1か所・・・印をつけていた冥さんと合流したんだよ」

 

印と言っても印らしいものはどこにもない。歌姫が目を凝らしてよく見て見ると・・・そこにはあった。冥冥が着けたと思われる印が。これは残穢。呪術師が術式を行使した際に残る痕跡である。呪術師にとって呪霊、残穢が見えるのは普通であるが、残穢は呪霊と比べ薄いので見え辛い。歌姫が最初に残穢が見えなかったのはそのためである。1か所しかつけていない残穢の印がここにあるということは、考えられる可能性は1つしかない。

 

「どうやら・・・私たちはすでに腹の中みたいだね」

 

「え~~・・・マジっすか・・・」

 

3人はすでに呪霊の術中にはまってしまっている。それはループし続ける廊下が物語っている。

 

 

行動しないことには何も始まらないため、ひとまず3人はループし続ける廊下を歩きながら、状況を整理し、打開策を話し合う。

 

「どこまで続くのよ・・・この廊下・・・」

 

「う~ん・・・多分30分・・・およそ4キロくらい進んだかな?これって、生得領域じゃないんですよね?」

 

「違うね。あれは心象風景が具現化する。となると・・・?」

 

「「結界術」」

 

「正解。被害者たちもおそらく閉じ込められたまま、呪霊に捕り殺されたんだろう。でも術式から考えると、呪霊そのものはひ弱なはず。この結界さえぬけることさえできれば・・・。そこで課題だ。歌姫なら・・・どう突破する?」

 

冥冥からこの状況に関する課題を出された歌姫は歩みを止め、立ち止まる。

 

「・・・この廊下はループしています。初めは・・・」

 

歌姫はこの状況をわかりやすく説明するために辺りに落ちていたお菓子の箱を集め、それを円状に並べる。

 

「こんな感じで・・・」

 

「うへ~・・・そんな古いもの、よく触れるね」

 

「ドーナツのような構造を想像しました。でも冥さんのつけた印を4回通りましたよね?その感覚を歩数で計算したところ、122歩、203歩、157歩、270歩・・・と、印と印の間隔はランダムでした」

 

「・・・なるほど」

 

歌姫の説明に冥冥は興味深そうに聞いている。

 

「ループする範囲が定まっていない。とすると・・・おそらくこんな感じで・・・ツギハギ状に結界を構成している」

 

歌姫はさらにお菓子の箱を大きいものから小さいもの、小さいものから大きいものといった感じに直線状に並べる。

 

「なので、廊下を3人で全速力で走り抜ければ、どこかで・・・崩れる」

 

さらにお菓子の箱を順番に並べ、最後には崩れるような形に並べていった。自身が述べたわかりやすい推測に歌姫はドヤ顔を浮かべる。

 

「おしい。90点」

 

だがしかしどこか欠点があるようで、一歩届かずな点数を出した冥冥に歌姫はがっくりする。

 

「ガクッ・・・!後の10点は・・・?」

 

「・・・チェルシー。残り10点・・・答えられるかな?」

 

冥冥の問いかけられたチェルシーは手に持っていた飴を口に咥え直し、指を自分の視線とは反対方向に指す。

 

「歌姫の説はいい線行くけど後一押し足りない。どうせ走るなら・・・左右同時に・・・ですね」

 

チェルシーの言葉に歌姫は何が足りないのかがはっきりと理解できた。

 

「なるほど!ツギハギ説が正しいとすると、2人で別の方向に素早く進んだ方が、呪霊の結界の構成に綻びが生じやすい!隙ができれば外に出られるかも!」

 

「100点」

 

「そうと決まれば!」

 

打開策を見出し、歌姫は真正面に、チェルシーは反対方向に身体を向け、いつでも走れる体制に入る。

 

「もし成功したら・・・昇級・・・お願いします」

 

「可能なら・・・私も昇級・・・お願いできますか?」

 

「貯金・・・いくらある?」

 

「「はい?」」

 

「まぁいいや。考えておくよ」

 

「はい!じゃあ・・・よーい・・・ドン!!」

 

歌姫の合図で、彼女とチェルシーは同時に走り出した。全力で走っていると、屋敷の廊下の景色がぐらついている。呪霊の結界に綻びが生じたのだ」

 

「やった!!」

 

策が成功した瞬間・・・

 

グラグラグラ!!

 

突然廊下の床がぐらつき、崩れ始める。結界が壊れるにしても、綻びが生じた程度でここまでの破壊はありえない。

 

「ちょ・・・⁉う、うわ・・・うわあああああああああ!!??」

 

ドッシャアアアアアアアアン!!!!

 

歌姫は崩壊する屋敷から飛び出し、脱出に成功し、外に出た。だが崩れた屋敷の瓦礫が落ちてきて、歌姫はそれに埋もれてしまう。歌姫は自力で何とか脱出しようとした時・・・

 

「助けに来たよ~。歌姫」

 

あの生意気な後輩の声が聞こえてきた。顔を上げて見てみると、そこには1人の男子高校生がいた。美しい銀髪にモデル並みの長身。そして極めつけは矯正された顔とサングラスの下に隠された綺麗な青の瞳。

 

「泣いてる?」

 

彼の名は五条悟。呪術高専2年生で、等級は特級呪術師。

 

「泣いてねぇよ!!!!敬語!!!!」

 

悟の生意気な態度に歌姫は瓦礫に埋もれたまま怒鳴り声を上げた。歌姫と悟は先輩後輩の関係ではあるが、見ての通り悟は歌姫のことを完全に舐め腐っているのだ。

 

「泣いたら慰めてくれるかな?ぜひお願いしたいね」

 

微妙にズレたやり取りをしていると、無傷で屋敷から脱出できた冥冥がやってきた。

 

「冥さんは泣かないでしょ。強いもん」

 

「ふふふ、そう?」

 

自分のことを完全に下に見ている悟に歌姫は怒りゲージが上昇していく。

 

「じゃあ、私が泣いてたら慰めてくれるのかな?悟君かっこいいもの。慰めてもらいたいな♪」

 

そこに歌姫と同じく先輩であるチェルシーがニコニコしながらやってきた。彼女も無傷で済んでいる。

 

「絶対嫌だね。だってチェルシー、騙すのうますぎだもん」

 

「え~?ざ~んねん。あ、飴ちゃん食べる?」

 

「食う」

 

チェルシーは持ってきていた飴を投げ渡し、悟は片手で飴を受け取る。自分だけ見下されている歌姫は瓦礫をどかして悟に物申そうとする。

 

「~~~~!!五条!!!私はねぇ!!!あんたの助けなんていら・・・」

 

ドオオオオオオオン!!!!

 

しかしそのタイミングで彼女の背後より、巨大な異形な存在と、小さな異形の存在がいくつも地面の下から現れた。そう、この異形の化け物共が呪いが具現化した存在呪霊。結界を張っていたのも呪霊であるのは間違いない。呪霊たちが歌姫を襲おうとすると・・・

 

「葬る」

 

ザシュザシュザシュ!!ドオオオオオン!!!

 

1人の女子高生が飛び出し、抱えていた刀を抜刀し、小型の呪霊を全て斬り捨てた。そして同時に、現れた呪霊とは別の大型呪霊が大型の呪霊を喰らった。

 

「飲み込むなよ。後で取り込む」

 

呪霊を喰らう呪霊に指示を出したのは、悟とは別の男子高校生だ。その男子高校生は黒い髪を結んでおり、ボンタンを履き、耳には大きめなピアスをつけている。一方の女子高生はストレートロングの黒髪を持ち、美しい赤い瞳を持っている。

 

「悟~、弱いものいじめはよくないよ?」

 

やってきた男子高校生の名は夏油傑。呪術高専2年生で、等級は特級呪術師。

 

「傑の言うとおりだ。歌姫はそんなに強くないからな」

 

女子高生の名は禪院赤女(あかめ)。呪術高専2年生で、等級は特級呪術師。

 

「強い奴いじめるバカがどこにいんだよ」

 

「ふふ、君の方がナチュラルに煽ってるよ夏油君」

 

赤女(あかめ)に至ってはストレートで煽っちゃってるよ」

 

「「あ」」

 

自分をとことんまで舐めている後輩3人組に歌姫は歯をギリギリと噛みしめている。

 

「歌姫せんぱ~い、無事ですか~?」

 

だがそこで歌姫にとって癒し的存在の声が聞こえ、頬を緩ませている。悟の隣まで歩んできたのは赤女(あかめ)とは別の女子高生だ。髪型は栗毛のボブヘア。学生なら吸うべきではない煙草を口に咥えている。

 

「硝子!!」

 

「心配したんですよー。2日も連絡なかったから」

 

女子高生の名は家入硝子。呪術高専2年生で3人の同級生。

 

「硝子~~~~~~!!!!」

 

歌姫は涙を流しながら硝子に駆け寄り、彼女に思いっきり抱き着いた。

 

「硝子!あんたもあの3人みたいになっちゃダメよ~~!」

 

「はは。なりませんよ。あんなクズ共」

 

硝子の言うクズ共とはこの3人のこと。

 

「歌姫が通ったとこ崩れるぞ~」

 

五条悟。真性のクズ。

 

「うるせー」

 

夏油傑。真面目クズ。

 

「そうなのか?ならそこは通らないでおこう」

 

禪院赤女(あかめ)。天然クズ。

 

3人のクズが合わさってクズトリオともいう。

 

「・・・あれ?2日?」

 

チェルシーはふと気になったワードに疑問符を浮かべている。

 

「あ~、やっぱ呪霊の結界で時間ズレてた系?珍しいけどたまにあるよね~」

 

「確かにそうだな。冥さんがいながらおかしいとは思っていた」

 

「そのようだね。・・・ん?」

 

「何か?」

 

「いや、ということは実働2日というわけだ。その分のギャランティを上乗せしてもらわないといけないなと思ってね」

 

「まだ吹っ掛ける気なんだ・・・」

 

報酬の金目当てで動いている守銭奴、冥冥の発言にチェルシーは少し引き気味である。

 

「それはそうと君たち・・・帳は?」

 

「「「「あ・・・」」」」

 

冥冥の指摘に学生4人は目が点になった。

 

 

呪術高等専門学校・・・通称呪術高専。

 

表向きには私立の宗教系学校とされているが、本質は日本に2校しかない呪術教育機関である。多くの呪術師が卒業後も高専を起点に活動しており、教育だけでなく、任務の斡旋、サポートも行っている呪術界の要である。悟たちはその呪術高専の東京都立に属している学生である。

 

そんな高専の教室。悟、傑、赤女(あかめ)、硝子の4人はそろって正座させられている。テレビには例の屋敷が崩壊したニュースが流れている。彼らの目の前には、厳つい見た目をした大柄な男性が教壇の段差に座っている。

 

この厳つい大男の名は夜蛾正道。この呪術高専の教師であり、悟たちの担任である。

 

「この中に帳は自分で降ろすからと、補助監督を置き去りにした奴がいるな。そして帳を忘れた・・・名乗り出ろ」

 

夜蛾の問いかけに傑、赤女(あかめ)、硝子の3人は悟に指をさした。指さされた悟は縮こまり、手を上げて宣言する。

 

「先生!!犯人探しはやめませんか!!?」

 

「悟だな」

 

ゴチーンッ!

 

鉄拳指導!!

 

 

夜蛾にこってりと絞られた4人(主に悟)は放課後、体育館に集まっていた。呪術師関連の施設とはいえ、ここは学校。学生らしいことはもちろんやっている。

 

「そもそもさぁ・・・帳ってそこまで必要?別にパンピーに見られたってよくね?目に見えねぇんだし」

 

悟は帳の必要性に疑問を口にしながら座った状態でバスケットボールをゴールに目掛けてシュートする。そもそも呪霊は呪術が使えない一般人・・・いわゆる非術師には殺されそうになった時などの例外ケースは除くとして、基本的に視認することは叶わない。だからこそ一般人は呪霊の存在に気付かないし、仮に被害に遭ったとしてもどうにもならない。呪いは呪いでしか祓えないのだから。悟の解釈を否定する傑はシュートされたボールを受け止め、ゴールインを阻止した。

 

「ダメに決まってるだろ。呪霊の発生を抑制するのは、何より、人々の心の平穏だ。そのためにも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ。それだけじゃない・・・」

 

「わかったわかった」

 

ボールをドリブルしながらしゃべる傑の話を遮るように悟は彼からボールを奪い取り、ドリブルしながらゴールに接近し、レイアップシュートを決める。ボールは見事にゴールにゴールインした。

 

「弱い奴らに気を遣うのは疲れるよ、ホント。なぁ?赤女(あかめ)

 

悟はバウンドするボールを手に取り、赤女(あかめ)にパスを放つ。赤女(あかめ)はボールを受け止めた。

 

「仕方ない。非術師は呪霊を葬る力も視る力もない。だからこそ私たち呪術師がいるんだ」

 

ボールを受け取った赤女(あかめ)はドリブルをしながらゴールまで向かって行き、悟のブロックを躱していき、最後にはゴール目掛けてダンクを放つ。ボールは見事にゴールイン。

 

「が、悟の言い分もわからなくもない。非術師にも面倒な奴はいる」

 

赤女(あかめ)はボールを手に取り、傑にパスを放つ。傑はボールを受け止め、話を続ける。

 

「それを含めてもだ。弱者生存。それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け、強きを挫く。いいかい悟、赤女(あかめ)。呪術は非術師を守るためにある」

 

傑はボールをゴールに目掛けてシュートする。だがボールはゴールに当たって落下する。

 

「それ正論?俺、正論嫌いなんだよね」

 

「何?」

 

悟の言葉に傑は反応し、彼を睨みつける。

 

呪術(ちから)に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ」

 

悟はゴールに向けてボールを放り投げる。ボールは放物線の軌道に乗り、最後にはきれいにゴールインした。悟と傑の間に一触即発の雰囲気が流れ出ている。

 

「ポジショントークで気持ちよくなってんじゃねぇよ。オッェーーー」

 

悟は誰が見てもわかりやすいようにバカにするように傑を煽っていく。

 

外で話そうか、悟

 

寂しんぼか?1人で行けよ

 

巨大な目玉の呪霊を呼び出す傑に対し、悟は余裕な表情を浮かべたまま煽り続けている。これはさすがにまずいと思い、赤女(あかめ)が止めに入る。

 

「おい、落ち着け傑。悟も煽るのはやめろ」

 

「私は十分落ち着いているよ、赤女(あかめ)

 

「お前は引っ込んでろよ、ブース」

 

ブチッ!(怒)

 

だが逆に悟に煽られたことで、赤女(あかめ)は静かにキレた。

 

「にっげろー」

 

さらにまずい状況になると察した硝子は漫画のような走り方で逃げるように体育館を去った。

 

いい加減にしろ・・・お前たち・・・

 

キレたアカメは刀を取り出し、鞘に収まっていた刀身を抜き出そうとしている。赤く染まっている刀身からは禍々しい呪力が剝き出しになっている。今にも術式を解き放とうとしている3人。すると、体育館のドアが開き、夜蛾が入ってきた。

 

「!いつまで遊んでる!」

 

夜蛾の登場によって殺気立っていた3人はいつも通りの状態になり、その場で準備体操を行っている。

 

「硝子はどうした?」

 

「さあ?」

 

「知りません」

 

「便所でしょ」

 

夜蛾の問いかけに3人はまるで何もなかったかのように振る舞い、問いに答えている。

 

「・・・まぁいい。この任務はお前たち3人に行ってもらう」

 

夜蛾から与えられた任務に赤女(あかめ)は普段通りの表情だが、悟と傑は白けたような表情を見せている。

 

「なんだその(つら)は?」

 

「「いや別に」」

 

悟と傑は何か言いたげな様子だが、変に反論するとややこしくなるために黙った。

 

「正直荷が重いと思うが・・・天元様のご使命だ」

 

「「「!」」」

 

天元の名が出た途端、3人のふざけた態度は改まり、気を引き締め直す。夜蛾は任務の詳細を説明しながら校舎を移動する。

 

「依頼は2つ。『星漿体』・・・天元様との適合者。その少女の護衛と抹消だ」

 

「ガキンチョの護衛と抹消ぉ?」

 

「そうだ」

 

護衛と抹消・・・明らかに矛盾しまくっている依頼内容に悟は疑問符を浮かべるが、夜蛾はふざけておらず、真顔で頷いている。

 

「ついにボケたか」

 

「春だしねぇ。次期学長ってんで、浮かれてるのさ」

 

「ああ、だからあんなヤクザみたいな剃り込みをしてるのか」

 

ヒソヒソ話をしている3人の会話内容に夜蛾はキレそうになる。

 

「冗談はさておき」

 

「冗談で済ますかは俺が決めるからな」

 

「天元様の術式の初期化ですか?」

 

「そうか。今年がその時期だったのか」

 

「?何それ?」

 

傑の問いかけによって赤女(あかめ)は納得したが、悟だけが理解できていない様子のようだ。そんな悟に夜蛾と傑は呆れた様子だ。

 

「なんだよ?」

 

「悟。この件に関しては私とお前は知っていないといけないことだ。なぜ知らない?」

 

「興味ねぇから」

 

「・・・・・・」

 

「・・・んだよ、その哀れんだような顔は?」

 

赤女(あかめ)の問いかけにあっけからんとした態度で返答する悟。その答えに赤女(あかめ)は少しかわいそうな子を見るような顔になった。そうこうしてる間にも科学準備室に辿り着き、夜蛾は天元と今回の任務の詳細を説明する。

 

「天元様は不死の術式を持っているが、不老ではない。ただ老いる分には問題ないが、一定以上の老化を終えると、術式が肉体を創り変えようとする」

 

「ふむ」

 

「進化。人でなくなり、より高次の存在と成る」

 

「じゃあいいじゃん。かっくい~」

 

「悟。事はそう簡単な話じゃないんだ」

 

天元の進化についてのリスクを傑と赤女(あかめ)が説明をする。

 

「天元様曰く、その段階の存在には、意思というものがないらしい。天元様が天元様でなくなってしまう。高専各校。呪術界の拠点となる結界。多くの補助監督の結界術。それら全てが天元様によって強度が底上げされている。あの方の力添えがないと、セキュリティや任務の消化すらままならない。最悪の場合、天元様が人類の敵となる可能性もある」

 

「だから500年に1度、星漿体・・・わかりやすく言えば、天元様と適合する人間と同化し、肉体の情報を書き換える。肉体が一新すれば、術式効果も振り出しに戻る。進化は起こらない」

 

傑と赤女(あかめ)の説明に納得した悟は首をうんうんと縦に頷いている。

 

「なるほど。メタルグレイモンになる分にはいいけど、スカルグレイモンになると困る。だからコロモンからやり直すって話ね」

 

悟はなぜかデジモンで話で例えを上げた。赤女(あかめ)はその例えに異議を唱える。

 

「悟、その例えは私がわからない。デジモンはやらないんだ」

 

「え?マジで?じゃあ何ならわかるんだよ?」

 

デジモンの例えでは理解できない赤女(あかめ)はこれまたゲームで例える。

 

「ほら、桃鉄に出てくる貧乏神。あれがキングボンビーになるのは嫌だろう?そうならないように、あれこれやりくりをしてミニボンビーにする。ゲームではそんなことはできないが、これ以上ないくらいわかりやすいだろう?」

 

「お・・・おお・・・確かに。めっちゃわかりやすい」

 

赤女(あかめ)、天元様を貧乏神と一緒にしないでくれ。失礼だよ」

 

赤女(あかめ)が出した桃鉄を介した例えによって、悟は納得がいった。天元を貧乏神に例えた赤女(あかめ)に傑がツッコミを入れる。

 

「その星漿体の少女の所在が漏れてしまった。今少女の命を狙っている輩は大きく分けて2つ。

天元様の暴走による現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団『Q』。

天元様を信仰崇拝する宗教集団体『盤星教時の器の会』。

天元様と星漿体の同化は2日後の満月!それまで少女を護衛し、天元様の元まで送り届けるのだ!失敗すればその影響は一般社会にまで及ぶ!心してかかれ!!」

 

責任重大ともいえる特級案件の任務は悟、傑、赤女(あかめ)の3人に託された。だがこの任務が3人の未来を大きく左右する分岐点になることになろうとは、この時の3人はまだ知らない。

 

 

任務を受けた悟、傑、赤女(あかめ)の3人は星漿体の少女の所在地へ向かっているのだが、その道中で悟と赤女(あかめ)は自動販売機で缶ジュースを買おうとしている。悟はコーラを選んだそうだが、その際にボタンを2つ同時に押した。

 

「悟、ボタンを同時に押しても2つ出ることはない。こういう場合、絶対に左の飲み物が出てくるんだ。試したことがあるからわかる」

 

「マジで?押し損じゃん。つまんねー」

 

「ジュース買ったんなら早く行くよ」

 

傑に急かされ、ジュースを買った悟と赤女(あかめ)は彼の隣を歩く。ちなみに赤女(あかめ)が買ったのはエナジードリンクだ。

 

「でもさー、呪詛師集団Qはわかるけど、盤星教の方はなんでガキンチョ殺したいわけ?」

 

「崇拝してるのは、純粋な天元様だ。星漿体・・・つまりは不純物が混ざるのは許せないのさ」

 

「だが天元様はもうすでに何人もの星漿体と同化してるのだろう?教祖がそれを理解してないとは思えないのだが・・・」

 

「これは憶測だが、天元様にこれ以上の不純物が混ざることが我慢ならないんだろうと思うよ」

 

3人が盤星教がなぜ星漿体を排除したいのかを話している間にも、星漿体の所在地であるホテルにたどり着いた。何かあってもいいように、悟は外に待機し、傑と赤女(あかめ)は中に入っていく。会話は悟の電話を通して続いている。使っているのは傑の携帯だ。

 

「・・・いずれにしても、盤星教は非術師の集団だ。警戒に越したことはないが、そこまで気にする必要性もないだろう。警戒すべきはやはりQだ」

 

『まぁ大丈夫でしょ。俺たち最強だし。だから天元様も俺たちを指名したんだろ』

 

「・・・はぁ~~・・・」

 

赤女(あかめ)の警戒とは別に悟はあっけからんと言っていいほど呑気だ。悟の言葉に傑はため息をこぼした。

 

『あ?何?』

 

「いやぁ・・・悟、前から言おうと思っていたんだが、一人称『俺』はやめた方がいい」

 

『あぁ?』

 

カシャッ

 

電話越しに缶が潰れる音が聞こえてきた。おそらくは傑の言葉に悟が少しキレて術式で缶を潰したのだろう。

 

「特に目上の人の前ではね。天元様に会うかもしれないわけだし。『私』・・・最低でも『僕』にしなよ。年下にも怖がられにくい」

 

『へんっ、やなこった』

 

傑の提案に悟は拒否った。

 

「諦めろ傑。言って聞く悟じゃない」

 

『そーそ、さすが赤女(あかめ)。わかってるぅ』

 

「あのなぁ・・・まぁいい。また今度話そう」

 

ひとまず目的の階に着いたところで悟との通話を切り、傑は星漿体の少女の部屋へ、赤女(あかめ)は何があってもいいように屋上へ向かう。目的の部屋にたどり着いた傑はドアのインターホンのスイッチを押す。

 

ピンポーン。ピィィーー!!

 

「は?」

 

ドカアアアアアン!!

 

インターホンを押した瞬間に部屋が爆発を引き起こした。咄嗟に反応した傑は自身の術式で呪霊を召喚し、自身の身を守った。その瞬間に赤女(あかめ)からの着信が鳴り、傑は通話に出る。かなり余裕がある。

 

『傑、生きてるか?』

 

「私はな」

 

『これで星漿体の少女が死んでたら私たちのせいになるな・・・あ』

 

外をよく見てみると、人影が落下している。その正体はセーラー服を着込んだ中学生の少女だ。おそらくあの少女が星漿体なのだろう。

 

『私が行くか?』

 

「いや、私が行く」

 

傑は少女を助けようとイカのような呪霊を数体召喚し、窓に割れ目を入れて窓に突っ込んだ。そのまま外に放り込んだ傑はさらに呪霊を召喚しようとする。すると、爆発が起きた部屋から軍服のような服装を着込んだ男が現れた。

 

「悪く思うなよ。恨むなら天元を恨め」

 

現れた男の名はコークン。呪詛師集団Qの戦闘員である。硝煙を見ていると、硝煙からマンタのような呪霊が現れる。その上には、星漿体の少女を守るように傑が乗っていた。

 

「目立つのは勘弁してくれ。今朝怒られたばかりなんだ」

 

傑は星漿体の少女に視線を向ける。どうやら少女は気を失っているようだ。

 

(この子が星漿体・・・)

 

「その制服、高專の術師だな?ガキを渡せ。殺すぞ」

 

「聞こえないなぁ。もっと近くで話してくれ」

 

コークンの要求に傑は挑発で返した。

 

星漿体の少女の安否が確認できたのは屋上にいる赤女(あかめ)も確認できた。

 

「星漿体は無事か。これで、こっちに集中できるわけだ」

 

赤女(あかめ)は空になったエナジードリンクの缶を投げた。投げられた缶は現れた軍服の男が放つ鎖によって引き裂かれた。

現れた鎖を持つ軍服の男はビッツェ。呪詛師集団Qの戦闘員だ。

 

「禪院家炳所属の術師、禪院赤女(あかめ)とお見受けする」

 

「そうだが、それがどうした?」

 

「貴殿の命、ちょうだいする!」

 

ビッツェは鎖をジャラジャラと鳴らしながら、戦闘態勢に入る。その様子を見た赤女(あかめ)は腰に掛けていた刀の鞘を抜かずに構える。

 

「・・・騒ぎを起こして先生に怒られたくないからな。術式は使わないでやる。かかってこい」

 

「なめやがってクソガキ!」

 

術式を使わないという挑発行為にビッツェはキレ気味である。

 

一方、外で待機している悟は傑の少女救出劇を眺めていた。

 

「いやぁ、セーフセーフ」

 

呑気に喋る悟に数多のナイフが迫った・・・のだがナイフは悟に直撃寸前で空中に静止した。

 

パチパチパチ

 

「素晴らしい」

 

悟の視線の先には軍服の長髪の男が拍手している姿が映っている。ナイフを放ったのはこの男で間違いない。

ナイフを放った軍服の男はバイエル。呪詛師集団Qの戦闘員だ。

 

「君、五条悟だろ。有名人だ。強いんだってね?噂が本当かどうか確かめさせてくれよ」

 

「いいけど、ルールを決めよう」

 

「ルール?」

 

悟が一歩歩くたびに、空中に静止したナイフは悟を避けるようにどかされていく。

 

「やりすぎて怒られたくないからね。泣いて謝れば、殺さないでやるよ。これがルールね」

 

「クソガキが!」

 

挑発されたバイエルは怒りに染まる。

 

 

「始まったな」

 

騒動が起こったホテルを遠くで見ている者がいた。

 

1人はスーツの上にコートを着込んだちょび髭をはやした短髪の韓国人の男。

 

1人はくたびれたスエットを着込んだ口元に古傷がついている悪人顔の巨漢の男。

 

1人はスーツに白衣を着込んだ黒い髪に白メッシュが入ったメガネをかけた男。

 

1人は目隠しをし、耳にヘッドギアを身に着け、腕に着せ替え人形が引っ付いた橙色の短髪の女。

 

「盤星教には呪術師と戦う力がねぇ。でも金払いはいいぞ。それは保証する」

 

巨漢の男と目隠しの女に仕事を紹介している韓国人の男の名は(コン)時雨(シウ)。これでも元刑事である。

 

「どうだ禪院、マリー?星漿体暗殺、1枚噛まないか?」

 

時雨(シウ)の問いかけにマリーと呼ばれる女性は口を開く。

 

「・・・星漿体暗殺・・・。その案件に私は興味はない。金もいらない。私が殺したとしても金は禪院に渡す。ただ1つだけ、ドクターに確認」

 

マリーの問いかけにドクターと呼ばれる男性は逆に彼女に問いかける。

 

「それなんだけど・・・本当に目だけでよかったのかしら?遠慮しなくてもいいのよ?」

 

このオカマ口調の男性の名はドクター・スタイリッシュ。呪術師とは相反する術師、呪詛師の医者であり、マッドサイエンティストでもある。

 

「『視覚だけ』で十分」

 

マリーは口元を二ッと笑い、依頼の受注を決意する。

 

「OK。星漿体暗殺、受けましょう」

 

彼女の名はマリー・ユビキタス。呪術界では『殺人人形(キラードール)』と恐れられている呪詛師である。

 

「で、禪院。あんたはどうするの?」

 

「もう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな。今は伏黒だ」

 

禪院・・・もとい伏黒と名乗る男性は紹介された仕事にニヤリと笑う。

 

「いいぜ。その話受けてやる」

 

この大男の名は伏黒甚爾。『術師殺し』という異名を持つ男だ。

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