百鬼夜行が開幕し、1000もの呪霊が行進し、新宿内は混沌と化している。やってきた呪霊を迎え撃つため、夜蛾はエリア内にいる呪術師たちに指示を与える。
「建物、インフラの破壊は可能な限り避けろ!逃げ遅れた一般人がいる可能性もある!見つけ次第避難させろ!」
夜蛾が的確な指示を出しているのとは別に、
「聞いているのか
「すみません。1人、面倒そうな奴を見つけまして」
「ナルホド。アレガ
「ええ。他は私たちが引き受けます。何度も言いますが・・・」
「ワカッテル。俺ラハ足止メデショ。ノラリクラリ夏油ノ仕事ガ終ワルマデ、遊ビマショ」
傑からミゲルに与えられた役目。それは、最強の呪詛師殺しである
●
一方の高専では、憂太を殺し、里香を手に入れようとする傑が先を進んでいる。そこへ、傑に立ちふさがる者がいる。その者を見た傑は鬱陶しそうな表情をして、首を鳴らしている。
「・・・君がいたか」
「いちゃ悪ぃかよ」
傑の前に立ちふさがっているのは、薙刀を持った真希であった。
「てめぇこそ、なんでここにいる?」
「悪いが、猿と話す時間はない」
真希が薙刀を構えると同時に、傑はムカデ型の呪霊を3体召喚し、戦闘態勢に入った。
●
新宿の別エリア。ここのエリアは悟が受け持っている。そしてその場にはマイン、棘、パンダもおり、呪霊を迎え撃とうとしている。そんな中悟の目の前には数人の術師たちが立ちふさがっている。だがこの術師たちは全員、普通とは違う。その違和感は全て、悟の六眼で判明する。
(こいつら・・・全員死んでる・・・。しかもよく見たら・・・行方不明になってた術師じゃないか。・・・骸人形か)
そう、この術師たちは行方不明になっていた術師たちで、全員がすでに命を落としている。死体を操ることができる術式・・・それを扱える術師は悟が知る人物の中でたった1人しかいない。
「まったく・・・久々に顔を出したと思ったら・・・マジで何やってんの」
悟の視線の先にある建物の屋上にて、骸人形を操っている術師が立っていた。
「どお?五条悟。この10年間で集めた私の骸人形たちは。中々に壮観でしょ?」
そう、禪院
「こういう得物は得意じゃないんだけど・・・まぁ、何とかなるか」
特級呪具、天逆鉾。その効果は、発動中の術式を強制解除させるもの。自分を死の淵に追いやった苦き思い出のある呪具である。これが
中々に練られた策。それでも悟はこの策に妙な違和感を抱いており、手を顎に添えている。
「五条さん!!報告が!!」
そこへ伊地知がやってきて悟に近寄ってきた。
「・・・どうか、されました?」
「いや・・・」
悟がずっと感じている違和感。それは、これほどの大規模な呪術テロを引き起こした本人である傑が戦線に現れない点にある。
(あの目立ちたがりが前線に出てこない・・・?
今は考えても仕方ないとし、悟は伊地知からの報告に耳を傾ける。
「何でもない。どうした?」
「こんな時にと思いますが、早い方がいいかと。以前調査を依頼された、乙骨君の件です」
伊地知からの調査報告を聞いて、悟は勘づいた。傑の本当の狙いを。そうと決まれば行動は早い。
「マイン!!パンダ!!棘!!」
「?どうした・・・あああ!!?」
「ちょ・・・何すんのよ!!?」
悟はマイン、パンダ、棘の首根っこを掴み、3人の周りに陣を書いて転送の準備に取り掛かる。
「質問禁止!!今から3人を呪術高専に送る!!」
「「はあ!!??」」
「夏油は今、高専にいる!絶体!多分!間違いない!」
「どっちよ!!(怒)」
「勘が当たれば、最悪憂太と真希、2人死ぬ!」
「「「!!」」」
憂太と真希が今危険な状況下におかれてると聞き、3人は真剣な顔になった。
「僕もあの女を片付けたらすぐに行く!2人を守れ!悪いが
3人はお互いに顔を見合わせ、憂太と真希を守るために、首を縦に頷く。
「おう!!」
「了解!!」
「シャケ!!」
3人の了承と共に、悟は両手を合わせて、転送の術を発動させた。その瞬間、小さなクレーターが出来上がり、さっきまでいた3人の姿が消えた。
(!!まさか・・・五条悟に作戦がバレた!!?)
悟の様子を見て、自分たちの作戦がバレたと判断した
「邪魔だ」
ドォン!!
悟が右手を振ると、攻撃を仕掛けていた骸人形が全員吹っ飛ばされる。そのタイミングを見計らうかのように
「久々に会ったんだから・・・手合わせをしようよ。あの頃みたいにさぁ」
「・・・悪いけど・・・今忙しいんだ」
悟は今キレているのか、放った声質はとても冷たかった。
●
一方、
『真奈美さん、ミゲル』
「
『ごめん、五条悟に作戦がバレた。今生徒が高専に向かってる』
「何ですって?」
予想より早く自分たちの作戦がバレたことに真奈美は驚きの声をあげた。
「ダカラ影武者ノ1人デモ用意シテオケバト・・・」
「下手なダミーは逆効果、夏油様が言ってたでしょ?」
『今五条悟の足止めをしてる。そっちもお姉ちゃんの足止めをお願い』
「わかってるわ」
作戦がバレたことを見越して、真奈美はこの新宿に来ている夏油一派の家族に計画を早める通達を送る。
「美々子、菜々子」
『なーにー?』
「予定を繰り上げます。開戦よ」
『待ってましたぁ!』
真奈美の通達によって、空の呪霊たちに紛れていた美々子と菜々子の姉妹が動き出した。戦いは始まった。そんな状況の中で
(開戦されても傑の姿が見当たらない?悟の方か?それとも京都か?だったら何かしらの連絡が来るはずだ。ということはどちらにも傑がいないのか?いや・・・あいつが前線に出ないなんてありえない・・・。だとするなら、他に狙いがあるはず・・・)
(まさか・・・傑の狙いは憂太か!!)
里香は特級過呪怨霊。呪霊操術の使い手である傑が情報を知らないわけがないし、手を出さないわけがない。傑の狙いがわかった
ヒュンッ!!バシィ!!
突然縄のようなものが迫ってきて、それに勘づいた
「アンタノ相手ハ俺ダヨ・・・特級!」
ミゲルは
「こっちは急いでるんだ。そこをどかなければ・・・葬る」
●
悟の転移術によってマイン、パンダ、棘が飛ばされたのは高専の真上だった。だが高専には帳が降りていて、中の状況は2人と1匹には見えない。
「帳が降りてる!悟の勘が当たったのか⁉」
「あたしが帳にヒビを入れる!その後はパンダ!帳を破って最短で突っ込みなさい!棘は援護を!」
「おう!!」
「明太子!!」
マインは帳に向けてライフルガンを構える。銃口に溜めた無限のエネルギーを凝縮させる。帳が降ろされた。中の様子がわからない以上、これしかピンチがないため、精度は低い。しかし帳にヒビを入れるなら十分だ。
「いっけええええええ!!」
ドオオオオオン!!
マインが引き金を引き、強大な呪力砲が放たれ、帳と均衡しあう。もっと威力があれば帳を破ることはできたかもしれないが、今はピンチが少ないため威力が弱い。ゆえに呪力砲が晴れても、帳にはヒビが入るだけで手一杯だ。だがこれでいい。
「今よ、パンダ!!」
「おう!!うおおおおおおおおお!!!」
降下するパンダは入った帳のヒビに呪力が籠った拳を叩きつけた。
パリィィン!!
この一撃によって帳に穴が開き、入れるようになった。帳の穴が修復される前に、2人と1匹は帳の穴に入り、高専へと侵入した。
●
帳が破られ、何者かが侵入してきた気配に傑はすぐさま感じ取った。
「おっと・・・誰かが帳に穴を開けたな?何事もそう思い通りにはいかないもんだねぇ」
こちらに向かってくる侵入者に対し、傑はニヤリと楽しそうに笑っている。彼のすぐそばには、重傷を負い、血を流して倒れている真希がいる。
「侵入地点からここまで5分といったところか・・・。無視するべきか・・・片付けておくべきか・・・迷うねぇ・・・」
傑は顎に手を添えて、不敵な笑みを浮かべながら迷う素振りを見せる。だが迷っている余地はなさそうだ。
ドオオオオオオオン!!!!
なぜなら幾度もあった高専の壁を全てぶち壊し、既にパンダが迫っていたからだ。
(全ての壁をぶち破って最短で来たか・・・!)
荒っぽいやり方でここまで辿り着いたパンダに対し、傑は不敵に笑いながら、パンダを称賛する。
「やるね!」
「オラオラオラぁ!!!」
パンダは傑の懐に入り、拳を振るって攻撃を仕掛ける。しかし傑はその拳を全てを躱し、距離を取る。連撃を繰り出すパンダはその際に負傷した真希を発見する。
(真希!!)
よそ見をしていたパンダに傑が攻撃を仕掛けようと動いた。
ドォン!!
「おっと」
そこへ呪力の弾丸が迫ってきて、傑は攻撃をやめ、呪霊を召喚して防御に徹した。この弾丸は壁の穴に隠れているマインの狙撃弾である。
「よそ見すんなパンダ!!」
「すまん、マイン!」
パンダは再び傑に拳による連撃を傑に放つ。距離を取ろうとする傑にマインによる狙撃弾が何発も迫ってくる。迫ってきた狙撃弾に対し傑は片手を振るい、イカ型の呪霊を召喚し、迎え撃つ。狙撃弾はイカ型の呪霊によって何発も相殺されていく。パンダの連撃を躱し、マインの狙撃弾を防御し続ける傑はパンダとマインに気付かれないように何かの呪霊を召喚し、地面に潜らせる。地面を潜った呪霊は最奥の壁穴に隠れているマインに迫り、飛び上がる。
「ああ!!」
飛び上がった呪霊によってマインはダメージを負う。飛び出してきたイルカ型の呪霊は役目を終え、姿を消して傑の元に戻る。
「マイン!!」
ドカッ!!
「隙あり」
パンダの注意がマインに逸れたタイミングで傑はパンダの顔に蹴りを放ち、さらに拳を振るってパンダを地面に叩きつけた。
(こいつ・・・!体術もイケる口か!)
さらに傑が追撃で攻撃して来ようとした時、パンダは起き上がり、傑の身体を掴みとり、自分の重心を乗っけて地面に叩きつけた。衝撃によって生じた煙より傑が飛び出してきた。そのタイミングでマインは壁を飛び越え、ライフルガンのギアをシフトチェンジし、傑に向けて銃弾をマシンガンのように撃ち放つ。傑は一反木綿の呪霊を召喚し、数多の弾丸を全て呪霊に受け止めさせた。傑が着地したと同時に、砂埃より、ゴリラのような姿へと変わったパンダが現れた。
「むううううううううん!!!!」
「ほう・・・」
姿が変わったパンダに対し、傑は感嘆の声をあげた。
パンダはパンダであって、パンダじゃない。
パンダは東京都立呪術高等専門学校の学長であり、傀儡呪術学の第一人者である夜蛾が作り上げた呪骸であるが、普通の呪骸とは全く異なる、感情を持って生まれた呪骸、突然変異呪骸である。
呪骸とは内側に呪いを宿し自立可能の人形で人工的な呪骸には心臓部である核が存在する。だがこのパンダには3つの核が存在する。
1つは普段通りの姿、バランス重視のパンダ核。
2つは照れ屋なお姉ちゃん核。
そして3つが今の姿・・・短期決戦パワー重視のお兄ちゃんであるゴリラ核である。
何度でも言おう。パンダはパンダであってパンダじゃない!!
「むん!!!!うおおおおお!!!!」
ゴリラモードとなったパンダは傑に接近し、呪力を纏った拳を振るい、連撃を放っていく。傑はパンダの連撃を躱していき、跳躍して壁を飛び越えていく。パンダは傑を追い、拳を叩きつけるがこれも躱される。傑が着地すると同時に足元からミミズ型の呪霊が複数召喚され、パンダに襲い掛かる。
「ぬおおおおおおおおおおお!!!!」
パンダは襲い掛かってくるミミズ型呪霊をゴリラの手で薙ぎ払っていく。全てのミミズ型呪霊を祓い終えたパンダの背後に、いつの間にかそこにいた傑が迫ってくる。
「ワンパターンだよ」
「・・・フェイントだからな」
「!」
だがパンダは背後に迫る傑にとっくに気づいており、ゴリラの手に強大な呪力を纏って、強力な必殺技を傑に放つ。
「
ゴリラモードの必殺技、
「はっ」
躱す最中に傑はミミズ型呪霊を召喚し、マインとパンダに攻撃を仕掛ける。マインはライフルガンのギアを再びチェンジし、弾丸を1発ずつ撃ってミミズ型呪霊を祓っていく。それでも残ってるミミズ型呪霊の攻撃をマインは跳躍して後ろに下がり、弾丸を撃ってさらに祓っていく。パンダの方は向かってくるミミズ型呪霊を拳で祓い、嚙まれても引きちぎって祓っていき、また拳で祓っていく。
シュッ!ズンッ!!
「おふ・・・ぐっ・・・!」
しかし傑は真希が落としたであろう薙刀を拾い上げ、槍投げの要領でパンダに投擲し、胴体を貫いた。
「!パンダ!!」
マインの注意がパンダに逸れた。その隙をつく傑はマインの懐に入り、肘打ちで彼女の顎に打撃を与え、さらに掌底で彼女を吹っ飛ばし、壁に衝突させる。
「がっ・・・!」
「おしかったね」
「・・・お前もな・・・!」
「最後に油断したわね・・・!」
ただではやられないと言わんばかりにパンダとマインは不敵な笑みを浮かべたその瞬間、マインが叩きつけられた壁の奥より棘が飛び出してきた。棘はすでに口を露にしており、呪言を放てる。
「堕ちろ!!!!!」
ズドオオオオオン!!!!!
棘の呪言によって重力に押し潰されるかのような衝撃を受け、抉れていった地面と共に落ちていった。そのタイミングを狙い、マインは傷む身体を動かして飛び、傑が落ちた穴に向けてライフルガンを構える。
「ダメ押しの一発!受け止めなさい!!」
ギュゥゥン・・・ドオオオオオオオオオオオン!!!!
特級の侵入、自分たちの多大なダメージというピンチが消えないうちにマインは強大な呪力砲を傑がいる穴に撃ち放った。
「ごぼ・・・!」
強力な呪言を放った棘は声帯を痛め、口から血を吐いた。
「棘!」
「真希!」
地に着地したマインは真希の元に駆けより、パンダは喉を傷めている棘に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「いくら・・・」
「マイン!真希は?」
「ひどい重症だわ・・・」
「高菜・・・」
「そうね。さっさと憂太を連れてここを離れましょう」
「ああ。長居は無用だ」
3人は憂太を連れて高専から離れるという方針を固め、行動に入る。マインは真希の腕を自分の肩に組ませ、棘がフォローに入る。
「・・・~~~・・・」
「?真希?どうしたの?」
「どうした?」
3人が真希を連れて移動しようとした時、真希が小さな声を出して何かを喋っている。3人は何を伝えようとしているのか、耳を傾ける。
「・・・まだ・・・だ・・・」
「え?」
「「!!」」
ズズズズズズ・・・!!
真希の言葉を聞きとったその瞬間、穴の底より、歪な姿を包帯で隠したような呪霊と共に、傑が這い上がってきた。這い上がってきた傑はニヤリと笑い・・・
●
ドオオオオオン!!
高専の教室で1人でみんなを待っていた憂太は校舎全体の震動を感じ取り、身体がビクッとなる。
「また地震・・・?何が起きてるんだろう・・・?」
何回も続く揺れに不審に思った憂太は外の状況が気になり、様子を見に教室から飛び出した。
●
一方その頃、新宿では数多の呪術師と1000体もの呪霊との戦闘が始まった。呪術師たちは各々、襲い掛かってくる呪霊と戦っている。その中で黒いニット帽子を顔深くまで覆い、目以外顔を隠している青年は巨人の姿をしたナメクジのような呪霊との戦闘に入っていた。ニット帽子の青年が別の呪霊を払いのけたと同時に、巨人ナメクジの呪霊が拳を振るった。ニット帽子の青年はその攻撃を避けて腕を登り、腕から現れた影を軽くあしらって跳躍する。
「でええい!!」
ニット帽子の青年は呪力を纏った腕を振るい、ドリルのようなホーミング弾を巨人ナメクジの呪霊の頭に放った。ドリルホーミング弾をまともに喰らった巨人ナメクジの呪霊は頭から貫かれ、体液をまき散らしながら破裂していき、祓われた。
「ふぅ・・・七海さん、なんで京都なんですか?俺の活躍見てほしかったのに・・・。シェーレさんも京都とかずるいっすよー」
青年は顔を覆っていたニット帽を捲き上げ、顔を露にさせて、憧れの先輩たちが京都に行ったことに対して愚痴をこぼしている。
この青年の名は猪野琢真。顔を覆い隠すことによって使うことができる術式、『来訪瑞獣』の使い手で、今名が上がった七海とシェーレを深く尊敬している青年である。等級は2級呪術師。
「うるせー!愚痴ったりしてねぇで戦え!まだまだ来るぞ!」
猪野の愚痴に対し、注意を施したのはコートを着込み、刀を持った中年男性である。
この中年男性の名は日下部篤也。結界術と同じく、後天的に習得できる呪術、シン陰流の使い手で、東京都立呪術高等専門学校の2年の教師を務めている。等級は1級呪術師。
猪野に注意した日下部は攻撃を仕掛けてきた呪霊を刀で斬り払い、さらに奥にいる呪霊を祓いに向かって行く。
「・・・あー、めんどくせー・・・」
猪野は七海とシェーレがいないせいか、露骨にやる気のない姿勢を見せている。
●
新宿の別エリアの大型ビルの屋上。ここにも大量の呪霊がおり、1人の女性術師に襲い掛かろうとしている。
「オラオラオラオラァ!!」
獣のような耳がついた長い金髪を持った女性は獣のような両腕に呪力を纏い、襲ってくる呪霊を次々と殴り飛ばしていく。金髪の女性は上空に吹っ飛ばした呪霊を踏み台にして、襲ってきた虫型の呪霊の胴体を牙で食い破って巨大で牛のような呪霊に向かって行く。牛巨人の呪霊の振るった拳を呪霊を足場にして跳躍で躱す金髪女性。牛巨人の呪霊の腕に着地した金髪女性は食い破った虫型呪霊の肉片を吐き捨て、肩まで走っていき、高く飛ぶ。
「オオオオオリャアアアアア!!!!」
金髪女性は両腕を合わせ、牛巨人の呪霊の頭に向けて両腕を振り下ろし、降下の勢いを乗せた強力な一撃を放った。強烈な一撃を喰らった牛巨人の呪霊は顔が潰れ、倒れる。牛巨人の呪霊を祓った金髪女性は地に着地する。
「たくー、次から次へと・・・キリがねぇなぁ。きっもちわりぃのがうじゃうじゃと」
この金髪の女性の名はレオーネ。どこにも所属せず、フリーで活躍している呪術師で、
「ま、
レオーネは両方の拳を叩きつけて気合を入れ直し、向かってくる呪霊討伐を再開させる。
●
別エリアでは長い前髪を三つ編みにした銀髪の女性が襲い掛かってくる呪霊を巨大な斧のような呪具を軽々と振るい、次々と呪霊を斬り落として祓っていく。呪霊の攻撃を銀髪の女性は呪霊を踏み台にしながら躱していくと同時に、踏み台にした呪霊と襲ってくる呪霊を斧で薙ぎ払っていく。そして、一斉に襲ってくる呪霊を銀髪の女性は降下の勢いに乗せて斧を振るい、集まった呪霊を全て斬り払った。
彼女の名は冥冥。『黒鳥操術』という術式の使い手で、お金目当てでフリーの呪術師をやっている女性である。悟や
「これで50体。撃破数のインセンティブはクリア。満額ボーナス目指して・・・もう少し働こっかな」
冥冥は呪霊討伐数による報酬金額を増やすために、まだまだ向かってくる呪霊を祓いに向かうのであった。
●
次々と呪霊の数を減らしていっているのだが、やはり一筋縄ではいかず、負傷した呪術師が何人も存在する。この百鬼夜行での補助監督の役目は逃げ遅れた一般人の避難だけでなく、負傷した術師たちを安静する場に運び、彼らを治療の補助である。
「家入さん!この子もお願いします!」
「ん。そこ寝かせておいて」
「はいっス!」
「あなたたち、何をしてるの!」
負傷した術師たちの治療を担当する白衣を着た茶髪の女性は明を含め、多くの補助監督に指示を出していく。
この女性の名は家入硝子。習得が困難とされる反転術式を使える呪術高専の医師で
「大丈夫っス。家入さんが治してくれるっスから。・・・よろしくお願いします!」
明は負傷した術師たちを気にかけつつ、後の治療を硝子に任せ、次の行動に入る。
「・・・たくっ・・・本当面倒なことをかましてくれたね・・・夏油・・・」
まだまだ運び込まれてくる負傷者。治療に専念している硝子はかつての友人である傑に悪態をつけるのであった。
●
新宿の別エリア、高専に向かおうとしたところ、ミゲルの足止めをくらっている
(あの縄・・・強力な呪いが編み込まれているな・・・。刀に込めた術式が乱される・・・)
縄の名は黒縄。その効果はあらゆる術式効果を乱し、相殺させる。この効果があるせいで刀に込められた呪力が乱れ、斬るのが難しいのだ。しかし、それでも
(モウ半分モ残ッテイナイ・・・!)
「コレ1本編ムノニ、俺ノ国ノ術師ガ、何十年カケルト思ッテル!!」
「そんなもの知らん。私の方が1枚上手だった・・・それだけの話だろう」
「邪魔だ。葬る」
ザンッ!!
だが伸びてきた触手は全て、
ドクンッ!!ズズズズズ・・・
触手の切り傷から呪いの文字が浸食し、イカタコの呪霊はズシーンと倒れて、ピクリとも動かず、黒い塵となって祓われていく。呪毒が身体に浸食し、呪霊の命が絶たれたのだ。
(特級呪霊ガタッタ一振リデ・・・!アレガ夏油ノ言ッテイタ一殺呪毒カ・・・!切リ傷ヲ与エルコトデ呪毒ヲ流シ込ミ、一瞬ニシテ死ヲ齎ス・・・!刀ヲ媒介二シナケレバナラナイ欠点ハアルガ・・・奴ノ刀・・・オソラク特級呪具・・・アンナモノ、夏油ノ情報ニハナカッタ・・・)
今
(ノルママデ後20分弱・・・死ヌ気デ・・・逃ゲ切ル!!!)
ミゲルは黒縄を伸ばして
(好機!)
ミゲルは黒縄を放ち、
(取ッタ!コレデ一殺呪毒ヲ封ジ・・・WHAT!!?)
ミゲルが刀を取って、反撃に転じようとしたが、彼の目の前にはすでに
(ハ・・・速イ・・・!)
特級である
その縛りとは、刀が失われたその時、自身の呪力、身体能力を底上げするものだ。その能力は極ノ番、
「ラァッ!!」
ミゲルは黒縄を伸ばし、電線を斬って追いかけてくる
「WOW!!??」
「ふっ!!」
シュッ!!ズシャア!!!
「WHAT!!??」
「OH!!!」
(サッキノハヤバカッタ・・・ヒット&アウェイニ徹シテ、後18分強ヲ全力デ耐エル・・・!)
呪霊の背後に回り込んだミゲルは息を整え、態勢を整えようとする。
「刀ガアロウトナカロウト脅威トハ・・・コンナノ聞イテナイゾ、
自分の認識が甘かったミゲルは気を引き締め直しながら、
●
一方その頃、高専の戦闘区域。この場に立っているのは傑1人だけ。真希、マイン、パンダ、棘は傑の力の前に成す術なく、重傷を負って気を失っている。
「素晴らしい・・・!素晴らしいよ・・・!!私は今、猛烈に感動している!乙骨を助けに馳せ参じたのだろう⁉呪術師が呪術師を、自己を犠牲にしてまで、慈しみ!!!敬う!!!」
傑は憂太を助けるために危険を冒しに来たマイン、パンダ、棘を本当に感動をして、称賛を称えながら感動の涙を流している。
「私の望む世界が!!!今目の前にある!!!!」
感動で打ち震えている傑の前に、様子を見にやってきた憂太が現れた。憂太は今目の前で広がっている光景に、呆然と見ている。
「・・・真希さん・・・?」
「本当はね・・・君にも生きていてほしいんだ・・・乙骨」
真希に視線を向けていた憂太はマインに模視線を向ける。
「・・・マインちゃん・・・」
「でも全ては、呪術界の未来のためだ」
次に視線を向けるのはパンダ。
「・・・パンダ君・・・」
「・・・ゆ"ぅ"だ・・・」
「!」
憂太が呆然としていると、棘が辛うじて口を開いた。
「狗巻・・・君・・・」
「逃・・・げ・・・ろ・・・」
棘は憂太に逃げるように呪言を放とうとするが、重傷で呪いが籠っていないせいで、効果がない。大事な友達が目の前の男によってひどい目に合っている。・・・この男のせいで。憂太は傑に強烈な殺意を抱き、歯ぎしりを立てた。
「来い!!!!!里香!!!!!!!」
憂太は初めての激情と共に、里香の全貌を召喚させた。
「君を殺す」
「ぶっ殺してやる・・・!!!!」
●
記録
2017年 12月24日
特級過呪怨霊 折本里香
二度目の完全顕現
●
ドォン!!ドォォン!!!
大切な仲間を傷つけられ、傑に激情する憂太。刀を構える憂太と彼が召喚した里香の前に、傑が召喚した大量の赤ん坊のような呪霊が襲い掛かろうとしている。
「まずは質より量・・・どう出る?呪いの女王」
憂太は襲い掛かってきた赤ん坊の呪霊を数体刀で薙ぎ払っていき、距離を取る。まだ追いかけようとする赤ん坊の呪霊の群れの真ん中に里香が入り込み、十数体祓っていく。
「里香」
蔵の中に入り、憂太の元に戻ってきた里香は自身の呪力で守っていた真希、マイン、棘、パンダを表に出した。憂太は3人と1匹の怪我を確認する。
(4人ともひどい怪我だ・・・。特に真希さん・・・)
手ひどい重傷を負った3人と1匹の中でも、特に真希の怪我がひどく、彼女の息遣いもかなり洗い。
「死なせない!」
憂太は3人と1匹に負のエネルギーとは違うエネルギーを放った。このエネルギーに包まれた真希の息遣いが穏やかなものへと変わっていた。それだけじゃない。3人と1匹の容態がだいぶ良くなってきている。これこそが反転術式。負のエネルギーを生のエネルギーに変えることで対象を治療できる習得困難な力だ。
ヒュッ!
3人と1匹の治療の最中、里香は真希とマインを掴み上げ、彼女たちを睨んでいる。
【ずるい・・・ずる"い"・・・!お"前らばっかり!!!オ"前ラ"ばっかり!!!!】
どうやら里香は真希とマインに嫉妬をしており、これまでの不満が爆発して彼女たちに突っかかってきたのだ。
「何をしている里香」
【!】ビクッ
憂太の凄みがかった声を聞いた里香は肩を震わせて、彼に視線を向けた。
「その人たちは僕の恩人だ。蝶よりも花よりも、丁重に扱え・・・!」
憂太の放つ声質は静かながらも、威圧を与えるほどに圧が強かった。
【あ・・・あ・・・ごめんなさい!ごめんなさい!!】
憂太の圧に怒られたと感じ取った里香は彼のそばに戻り、真希とマインをそっと寝かせた。
【怒らないで・・・】
「怒ってないよ」
【嫌いにならな"いで・・・】
「嫌いになんてならないよ」
涙を流しながら謝罪をする里香を憂太は優しい笑みを浮かべて許した。そう、彼は里香には本当に怒っていない。本当に怒っている相手は、大切な友達を傷つけた傑だけだ。
「僕らの敵はあいつだよ」
【・・・憂太、あいつ嫌い?】
「ああ、大嫌いだ」
【じゃあ、里香も嫌いいいいい"】
憂太の言葉に同意するように、里香はニタァッと笑う。3人と1匹の治療を済ませた憂太は蔵から降りて攻撃の手を止めていた傑の元へ向かう。
「おかえり」
「なんで攻撃をやめた?」
「呪力による治癒には、高度な反転術式を要する。君の意識を少しでもそちらに割かせた方が、得策だろう」
術式が負のエネルギーならば反転術式は生のエネルギー。負のエネルギーでできている呪霊にとっては毒でしかない。だから攻撃をやめ、憂太に治療の機会を与えたのであろう。
【グルルル・・・】
カサカサカサカサ・・・
にっこりと微笑む傑は複数の小型のTレックスのような呪霊と、ムカデ型の呪霊を召喚させた。
「続きを、始めようか」
傑の指示に従うように、Tレックス型の呪霊は左右に散開し、ムカデ型の呪霊はまっすぐと向かい、憂太に襲い掛かろうとする。
「里香、あれをやる」
里香が憂太の手を自身の手を翳すと、彼の手に突如としてメガホンが出現する。出現したメガホンには、棘の口と舌についていた紋章が刻まれている。
(!『蛇の目』と『牙』!あれは・・・狗巻家の呪印!!)
憂太の目の前にはムカデ型の呪霊、左右にはTレックス型の呪霊、さらに背後にはまだ残っていた赤ん坊の呪霊が迫ってきている。どれだけ向かおうと関係ない。憂太はメガホンを使い、自分に迫ってくる呪霊に向けて、言葉を放つ。
「死ね」
キィィィィン・・・ドドドドドドドン!!!!
メガホンを介して放った憂太の言葉が拡散し、襲い掛かってくる全ての呪霊は自ら破裂し、自滅した。そう・・・これは棘が使う術式、呪言である。
「・・・素晴らしい・・・!」
他者の術式を憂太が使ってみせた。傑は目の前のその現象に驚きつつ、憂太と里香に称賛の声をあげている。
(呪言は狗巻家相伝の高等術式・・・これを呪術を学んで1年未満の少年がやってのけた・・・!)
憂太の使ったメガホンは1回限りの使用なのか、役目を終えて塵と化し、宙を舞った。
「・・・やっぱり難しいや・・・呪力が拡散して狙いが定まらない・・・狗巻君はすごいなぁ・・・」
「やはり折本里香の正体は、変幻自在・・・底なしの呪力の塊!!」
「そう・・・僕の友達はすごいんだ・・・それをお前は・・・お前は・・・!!」
憂太は頭を抱え、ごちゃごちゃになっている感情を、怒りを、全て傑に向けさせる。そして傑は変幻自在に呪力を操れる里香にますます興味を持ち、自分の手ごまに加えたい欲求が強まる。
「ますます欲しいね・・・!」
「ぐちゃぐちゃにしてやる・・・!!!」
まさに一触即発の空気。憂太と傑の殺意は互いに交差しあっている。
今さらですが、こんなにも早く評価・・・それも赤ラインに到達するとは夢にも思っていないのでかなり驚いてます。なるとしてもオレンジか黄色ライン・・・最悪その下もあると考えていましたから・・・。
私の作品に高い評価をくださった皆様、お気に入り登録をしてくださった皆様、本当にありがとうございます!