新宿の商店街。そこの看板には、数人の補助監督が縄で吊るされて、窒息死している。この現場にいる伊地知はこの状況を作った原因である術師たちと対面している。
「君たち、年は?」
「15~」
「まだ子供じゃないですか。今ならまだ引き返せます。善悪の区別もついていないでしょう」
伊地知は術師たちに向けて呪詛師から足を洗うように説得を試みている。だがその術師たちは説得に対し、逆に腹を立ている。
「カッチ~ン。美々子ぉ、あいつゲロムカつかねぇ?」
「吊るす?菜々子?」
伊地知に腹を立てている術師とは、夏油一派の美々子と菜々子の双子の姉妹だ。
「あんたらは知らねぇだろ。地図にも載ってねぇクソ田舎で、呪術師がどういう扱いを受けてるのか」
美々子と菜々子は地図にも載らない田舎の村で生まれ育ったが、呪術は田舎の村の非術師にとっては村を脅かす災厄でしかないという思想の者が多い。ゆえに美々子と菜々子は生まれた時から人としての扱いを受けられず、化け物と呼ばれ、毎日手ひどい目にあっていた。それが結果的に傑と
「善悪?そんなんあんたらで勝手にやってろし。夏油様と
「私たちはあの人たちが見据える世界を信じてる」
「邪魔する奴は・・・」
「吊るしてやる」
菜々子はスマホのカメラに呪力を乗せ、美々子は持っていた縄を構えて、伊地知を他の補助監督と同じ目に合わせようとした時・・・
ドオオオオオン!!!!
「!!?はあ!!?」
美々子と菜々子の背後から凄まじい衝撃音が発せられた。2人が衝撃があった方角に視線を向けて見ると、悟を足止めしていたはずの
「く、
「見て察して!!」
「しぶといな」
「!」
「ぐあ・・・!」
(
とはいえ、
(用意した骸人形がもう3体・・・半分以下に・・・!)
「私が骸人形を8体揃えるのに、どれだけの時間と苦労を有したと思ってるんだ・・・!」
「知るか。お前の有した時間が僕の方が1秒勝ってる。それだけだろ」
『はーい、俺の勝ち~。お前さ、本当に
『何度来たって勝てねぇよ。だって俺最強だし』
悟に苦汁をなめさせられた日を、
「・・・いつもそうだ。そうやって舐めてかかって・・・決まって自分は最強って自己自慢・・・人をおちょくるのもいい加減にしろ!!!五条悟!!!!!」
ドォン!!
ドカアアアアアン!!!
弾丸がミサイルに直撃したことによって爆発し、悟は無傷で爆風から脱出する。そのタイミングを狙って薙刀を持った骸人形と刀を持った骸人形が一斉に攻撃を仕掛けてきた。しかしその攻撃も当たる直前で止められる。悟が2体の骸人形を吹っ飛ばそうとした時、無傷で爆風から脱出した
「!ちっ・・・!」
それに気づいた悟は術式で骸人形ごと
【ばあああぁぁぁ・・・】
そこへ毛むくじゃらな巨人呪霊が悟の行く手を阻む。
「邪魔だって言ってるだろ」
悟は巨人呪霊に向けて手を翳す。すると、掌より赤いエネルギーが凝縮される。悟はそれを弾いて衝撃波を放った。これによって巨人呪霊の顔に巨大な穴が出来上がり、それだけでなく当たりのビルに衝撃が入った。
「「・・・っ!!」」
(ヤバい、五条さんキレてる!!)
凄まじい力に美々子と菜々子は驚愕し、悟がキレてると気づいた伊地知は冷や汗をかきながら委縮している。
(悔しいけど、やっぱり強いな・・・五条悟の無下限呪術・・・。原子レベルに干渉する緻密な呪力操作で時空間を支配する・・・。それを可能にさせてるのがあの目・・・六眼・・・)
骸人形から回収した天逆鉾を受け取った
(残り時間は後12分強・・・それまで何としてでも、五条悟を止める!!)
「ぐぁっ・・・!」
悟が
ズゥゥゥゥン!!!!!
これによって骸人形の顔は潰れ、頭の骨は砕け散った。しかし骸人形はすでに死んでるため頭を壊された程度では止まらない。顔が潰れた骸人形は刀を振るおうとするが、悟は無下限呪術で骸人形を地面にめり込ませ、身体中の骨を全て砕けさせた。
「ちぃ・・・!」
その隙に
「ぐ・・・うぅ・・・うああ!!」
ヒュッ!!バシィ!!
ザンザンザン!!
呪霊が悟に迫ろうとした時、
「悟!」
「
「傑の狙いは・・・」
「わかってる。今
「!
悟と
「・・・前にあいつのこと弱いっつったけど、撤回するわ。やっぱお前の妹だよ、あいつ」
「?」
悟が何のことを言っているのかわからない
一方、いったん身を隠して態勢を整えている
「大丈夫カ?」
「助かったよミゲル。後10分弱・・・何としてでもあの2人の猛攻を死ぬ気で耐えるよ」
「無茶ヲ言ッテクレル・・・。全ク・・・死ンダラ祟ルゾ、夏油!」
例え最強が揃ったとしてもやることは変わらない。制限時間までに何としてでも、最強の猛攻を耐える。2人の意思は決してブレないのであった。
●
一方の高専、傑が召喚した呪霊を一掃した憂太は柱から降り立つ。
「生まれて初めての激情。呪力が身体に満ち満ちているね。身体能力の向上、万能感、五感が研ぎ澄まされているだろう」
傑は物を格納できる呪霊を召喚し、呪霊に格納してある三節棍の特級呪具、游雲を取り出す。
「烏合共では相手にならないねぇ。直に叩くとしようか」
「合わせろ、里香」
憂太は刀を構え、傑は游雲を構えて、臨戦態勢を整える。
「人は食物連鎖の上に立ち、さらに高位の存在を夢想し、神と呼んだ。おかしいと思わないか?夢想せずとも、我々呪術師がいるというのに」
抗弁を垂れる傑。それには構わず憂太は息を吸い、吐くと同時に傑に猛接近し、刀を振るう。傑は斬撃を游雲で防ぐ。そこに里香が攻撃を仕掛け、傑は跳躍で躱す。さらに続く憂太の猛攻を傑は游雲で凌ぎつつ、攻撃に転じる。傑の攻撃を憂太は避け、里香が傑の前に現れ、彼を掴もうとするがこれも避ける。傑が游雲を振るおうとした時、里香が拳を振るって傑を吹っ飛ばす。追撃に憂太が刀を振るうが、避けられる。里香が追撃に攻撃を振るうが、避けられてすぐに固い甲殻に覆われた二足歩行の竜型呪霊、土竜を召喚され、押さえつけられる。
【邪魔ああああ"あ"あ"!】
里香はすぐにすり抜け、土竜を引き裂こうと手を振るう。しかし土竜は里香の両手を掴み、押し合いになる。だが力の押し合いで里香が勝ち、土竜を押し倒した。押し倒された土竜は里香に背中を貫かれ、内臓を抉られる。その間に傑は游雲を憂太に振るった。憂太は游雲の攻撃を凌ぎ、傑に刀を振るうも、これも游雲で防ぐ。憂太は游雲で凌ぐ傑を押し退け、刀を振るって背後から攻撃を仕掛ける里香と連携を取る。だが傑は憂太と里香の攻撃を高く跳躍して躱し、游雲を振るう。憂太はその攻撃を防ぐしかしその後に傑が振るった攻撃で刀を抑えられ、そのまま壁に叩きつけられる。
「ぐっ・・・!」
傑はさらに攻撃を仕掛けるが、憂太はその攻撃を躱し、刀を振るって連撃を放つ。だがその攻撃を全て防がれる。追撃に里香の攻撃と共に憂太は刀を振るうも、両方とも游雲で防がれる。
「結局猿共は、自分より秀でた存在から目を背けたいだけなのさ」
「神になりたいなんて、子供じみたことを言うなよ!」
「論点がズレてるよ、乙骨」
傑は足元にタコのような呪霊を召喚し、触手を憂太に巻き付かせ、彼の身動きを封じる。触手は里香にも襲い掛かるが、里香はそれを両手で引きちぎる。憂太も完全に動きを封じられたわけではなく、なんとか腕を動かし、刀で触手を切断した。だがその隙を突かれ、傑の振るった游雲に直撃し、軽く吹っ飛ばされる。さらに傑は追撃で游雲を振るった。この一撃は里香が憂太に駆けつけ、彼を抱きかかえてその場を離れたため直撃は免れた。
「私が望むのは『啓蒙』ではない。『選民』だよ。数が多いというだけで強者が弱者に埋もれ、虐げられることもある。そういう猿共の厚顔ぶりが吐き気を催すほど不快だと、私は言ってるんだ」
【憂太憂太ぁ・・・】
「大丈夫・・・慣れてきた」
「問答は終わりかい?」
憂太は里香から降りて、刀を構え直し、神経を研ぎ澄ませる。神経が高ぶり、動き出した時にはすでに傑の懐に入った。
(さっきより速い!)
だが捉えられていないわけではなく、傑は游雲を振るい、憂太に攻撃を仕掛けた。しかし憂太はさらに動きが速くなり、游雲の攻撃を躱し、傑の背後に立つ。
シュルルル!!ガシィ!!
だがその直後、憂太の身体にロープのように長いものが巻き付かれる。長いものの正体は、傑が召喚したカエル型呪霊、カイザーフロッグの舌だ。カイザーフロッグは長い舌を引き戻し、大きな口を開けて憂太を丸呑みにしようとする。里香が助けに入ろうとした時・・・
ドゴォォン!!
地面の下から重傷を負った土竜が現れ、巨大な手で里香を壁に叩きつけ、押さえつける。
【お前、しづごいいいいいい!!!】
里香は激昂し、土竜の傷口に手を突っ込んだ。その間にもカイザーフロッグに引き寄せられる憂太は口の中に入る直前で呪いが籠った刀を振るい、カイザーフロッグの口を引き裂いて頭部ごと斬り祓い、難を逃れた。そのタイミングを狙うかのように傑が憂太の背後から游雲を振るい、地面に叩きつける。この攻撃も憂太は素早く動き、再び傑の背後に立つ。そして、そのまま呪いが維持した刀を振るった。
バキイイイイン!!!
だが振るった刀は傑が避けたと同時に、粉々に砕け散った。器である刀が呪いの負担に耐え切れなくなったのだ。
「ダメじゃないか、急にそんな呪いを込めちゃ。器が持たない。悟か
傑は憂太の呪力の変化に気付き、咄嗟に呪霊で防御を試みる。
ドオオオオン!!!
だが憂太の振るった呪力が籠った拳。呪力が黒く輝き、呪霊の防御を容易く破り、そのまま傑の頬にヒットさせ、吹っ飛ばす。そう・・・黒くなった呪力の打撃・・・
黒閃!!
傑が吹っ飛ばされたと同時に、里香は土竜の肉体を開くように引き裂いて、今度こそ完全に祓った。
「・・・やるじゃないか」
傑は憂太に称賛を称えている。
「わかんないよ!!!!」
対して憂太は傑に向けて大きな声で叫んだ。
「高専以外の呪術師のことなんか知らないし、お前が正しいかどうかなんて、僕にはわからない!!でも僕が、みんなの友達でいるために、僕が・・・僕を生きてていいって思えるように!!お前は・・・殺さなきゃいけないんだ!!!!」
憂太が脳裏に浮かび上がるのは、この高専でできた友達、真希、マイン、パンダ、棘の姿。そして、4人と一緒に笑う、自分自身の姿だ。
「・・・自己中心的だね。だが、自己肯定か。生きていくうえで、これ以上大事なこともないだろう」
傑は鼻から出た血を拭い、ゆっくりと起き上がる。
「ならばこちらも、全霊をもって君を殺す。もう質も量も妥協しない」
傑は憂太に敬意を表し、全力を出すために呪力を高めていく。
「知っているかい?特級を冠する人間は6人。呪いだと24体存在する。これはそのうちの1体、特級仮想怨霊、『化身玉藻前』」
傑は着物を着込んだ女性型の特級仮想怨霊、化身玉藻前を召喚する。それだけではない。
「さらに、私が今所持している4461体の呪いを1つにして、君にぶつける」
傑が人差し指を真上に掲げると、傑が取りこんだ呪いが黒く蠢き、渦巻きのように集まっていき、まるでブラックホールのようなエネルギーとなる。
「呪霊操術、極ノ番。『うずまき』」
これこそが呪霊操術の極ノ番、うずまき。取り込んだ呪霊を呪力の塊にして1つにし、相手にぶつける奥義。1体でも強力だが、4461体分となると、その威力は段違いだ。
●
一方その頃京都。京都に放たれた1000の呪霊は東京よりも強力だ。特に特級呪霊の数も東京より多い。そのうちの1体、空飛ぶエアマンタも特級の1体だ。
「もうダメだ・・・」
「ここで終わるのか・・・?」
現れた特級呪霊の前に、戦意を喪失する術師が続々現れていく。諦めかけたその時、筋骨隆々のリーゼントの大男が1人の術師の肩を掴む。
「ブラートさん・・・」
「男が簡単に諦めるんじゃねぇ」
ブラートと呼ばれる漢は剣のような呪具を取り出し、手に取る。
「俺の戦いぶり、よぉーっく見てろ」
ブラートは剣を地面に突き刺し、高らかに叫ぶ。
「インクルシオオオオオオオオオ!!!!!!!」
ブラートの大声に答えるように、白銀の鎧が現れ、ブラートの顔と身体に纏っていく。鎧を纏い終えたブラートは地上の呪霊の群れを出現した槍で薙ぎ払う。さらに襲い掛かる呪霊を軽くいなしながら、次々と槍で祓っていく。
「おおおおおおおお!!!!」
ブラートは空飛ぶエアマンタに向けて呪力を乗せた槍を投擲する。槍はエアマンタを突き刺さったが特級ゆえにこの程度では貫かれない。まだまだ襲い来る呪霊をブラートは足場にしながら、空飛ぶ呪霊を呪力が籠った拳を振るって祓いながら、エアマンタに近づいていく。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
エアマンタに近づいたブラートは突き刺さった槍に向けて、黒く輝いた拳、黒閃を放った。
ドオオオオオオン!!!
黒閃によって勢いがついた槍はエアマンタの胴体をぶち抜いた。ブラートはエアマンタの胴体から飛び出し、槍を回収をしてエアマンタの頭目掛けて槍を投擲する。投擲した槍はエアマンタの頭を貫き、頭上にいた呪霊も一斉に祓った。エアマンタを祓ったブラートは地に着地し、槍を回収して構え直した。
一級呪術師ブラート。元軍人である彼は術式は使えないが、鎧の特級呪具、インクルシオ1つだけで一級にまで上り詰めるほどの強者である。
●
京都の別エリア。ここにも特級呪霊はおり、術師たちは大勢でこの特級呪霊に挑む。だが力の差は歴然で多くの術師たちを潰し、食らっていく。次々と命を落としていく術師たちを目の当たりにした術師は震えながらも、立ち向かおうとする。するとそこへ、サラリーマンが着るシャツを着込み、七三分けの金髪を持つグラサンの男性が術師の肩を掴み、止める。
「七海さん・・・」
この男の名は七海健人。呪術高専に所属していたが、同期である
「ここは私が」
七海は背負っていた包帯を巻いた切れ味の悪い鉈を持って特級呪霊に向かっていく。七海に気付いた特級呪霊は首を伸ばして襲い掛かる。特級呪霊が仕掛けるより先に七海は跳躍し、特級呪霊の首筋に鉈を振るう。
ザシュッ!!!!
ボロイ鉈の切れ味は七海の術式によって増しており、特級呪霊の首筋は容易く切り傷がつく。さらに七海は特級呪霊の足を鉈で斬り、態勢を崩させた。
パリーンッ!!
同時に、建物の中より蝶型の呪霊が現れた。
ズシャア!!!
蝶型呪霊のうち1体は背後から何者かに真っ二つに斬られ、祓われていく。蝶型呪霊を祓ったのは、大きな鋏の呪具を持った女性だ。女性は赤渕メガネをかけており、ロングヘアの薄紫の髪でチャイナ服のような服を着込んでいる。女性は大きな鋏を片手で振るい、刃を開かずに蝶型の呪霊を次々祓っていき、最後には特級呪霊の背中を鋏で。
「援護します!七海さん!」
この女性の名はシェーレ。かつて七海が勤めていた会社で働いていた元OLである。七海は当時の彼女の上司を務めていたことがある。階級は二級呪術師だが、実力は一級相当のものである。
ガッシャーーン!!
建物の中よりさらに人面虫の呪霊が現れ、七海とシェーレを襲う。シェーレは襲ってくる人面虫呪霊を鋏を振るって薙ぎ払い、七海は跳躍して人面虫呪霊の背中に乗り、ネクタイを外し、腕に巻き付ける。すると呪力が拳に纏わり、七海は鉈で人面虫呪霊を薙ぎ払い、拳を振るって黒閃を放つ。しかし1回だけではない。
「ふん!ぬぅん!!」
2回、3回と黒閃を放って人面虫呪霊を祓っていく。七海とシェーレが互いに背中を合わせた時、まだ動けた特級呪霊が2人を襲う。襲ってくる特級呪霊にシェーレは大きな鋏を開き、刃を露にさせ、七海は鉈を持った手に呪力を帯びさせ、4回目の黒閃を放とうとする。
ザシュッザシュウ!!!!
シェーレが鋏の刃を閉じ、七海が鉈を振るった瞬間、七対三の比率線が十字に交差し、特級呪霊は十字に切り裂かれた。そう、七海とシェーレは『十劃呪法』という術式の使い手で相性もかなりいい。
「すみません」
シェーレは切り裂いた相手に対し、謝罪の言葉を述べた。これが彼女の口癖なのだろう。特級呪霊を祓った七海はかつての勤め先に現れた
『七海はいい術師なんだから猿に埋もれるのはもったいないよ。私と来なよ七海。一緒に呪術師だけの楽園を創ろう』
(・・・
七海が呪術界に戻ってきたのは・・・
●
京都で呪霊の対処をしているのはOBOGだけではない。呪術高専京都校の生徒も駆り出されている。その京都校の生徒である着物を着込んだ糸目の男は弓を構え、呪霊に矢を放つ。矢は変則的な動きをし、呪霊を射抜き祓う。残った呪霊は曲がり角を曲がり、奥にいたスーツを着込んだ水色髪の女性を襲おうとする。女性は刀を構え、呪霊が懐に入るのを待つ。
「シン陰流簡易領域―――抜刀!!」
女性は刀を抜刀し、間合いに入った呪霊を一閃した。
彼女の名は三輪霞。呪術高専京都校の1年生。
「ふぅ・・・」
三輪が刀を納め、一息つくと、建物から虫型の呪霊が現れる。
ゴオオオオ!!
その直後、火力が強い砲撃が呪霊を飲み込み、祓った。この砲撃を放ったのは、高専の制服を着込んだ傀儡人形であった。
[油断するナ。三輪]
傀儡人形から男の声が聞こえてくる。彼の名は
砲撃を放ったメカ丸の真上には残りの虫型呪霊が現れ、彼を襲おうとする。
「メカ丸!上!」
パンッパンッパンッ!
三輪がメカ丸に注意を促すと、虫型呪霊は弾丸に貫かれて祓われた。今のはメカ丸が撃ったわけではない。撃ったのは建物の屋根の上にいた高専の制服を着た短い黒髪の女性だ。よく顔を見てみると、真希と顔がよく似ている。
「あんたもね」
彼女の名は禪院真衣。呪術高専京都校の1年生で真希の双子の妹であり、一応は
慢心している彼女の背後に河童型の呪霊が飛び出してきて、彼女を襲おうとする。
ザンッザンッ!!
そんな彼女を守ったのは高専の制服を着込んだ水色髪のポニーテールの男性だ。男性は両手の斧の呪具で河童型呪霊を祓った。
「てめぇもな、禪院」
彼の名は加茂清孝。呪術高専京都校の1年生で御三家の1つ、『加茂家』の分家の息子である。
「ちっ・・・苗字で呼ばないでくれる?」
真衣が清孝に悪態をつくと、着物を着込んだ糸目の男が合流してきた。
「みんな!警戒を緩めるな!」
一同を纏めている糸目の男の名は加茂憲紀。呪術高専京都校の2年生で御三家、加茂家本家の嫡男であり、当主候補である。そして、清孝の従兄である。
京都校の生徒たちは他にもいる。その1人が対応している戦域の上空を箒の呪具に乗って飛んで偵察している。黒ワンピースに俵のような金髪ツインテールが特徴だ。
「加茂君、二時の方向から呪霊7体よ」
「了解」
彼女の名は西宮桃。呪術高専京都校の2年生で、マインと同じ、呪術界で最も珍しいハーフ呪術師である。
他の戦域では緑髪でジャケットを着込んだ男が糸の術式で呪霊の群れの進行を防いだり、通り過ぎた呪霊を糸で絡めとって引きちぎって祓ったりしている。
「四時の方向に呪霊が進行!今こっちで食い止めてるけど、全部は無理っぽいよ」
彼の名はラバック。呪術高専京都校の2年生。
[了解しタ]
「おいラバ!!東堂はどうしたぁ!!?」
ドオオン!!
清孝のキレ気味な問いかけと同時に、近くで暴れまわっている音が聞こえてきた。
「あ~・・・多分すぐ会えると思うよ」
ドドオン!!
呆れ気味なラバックの答えと同時に、衝撃音が聞こえ、土煙の中より、ドレッドヘアの筋肉質の巨体を持つ大男が現れた。彼の顔には大きめな傷跡がある。
彼が先に言っていた呪術高専京都校の2年生で京都校最強の呪術師、東堂葵である。
「今までどこに行ってたんだ東堂!」
ズシィィィン!!
憲紀が東堂に問いかけようとした時、巨大な足跡と共に、巨大な夜叉型の呪霊が現れた。
「な、何だあの呪力は⁉」
呪力量の相当数から察するに、あの夜叉型の呪霊はおそらく特級呪霊だろう。特級呪霊を前にし、東堂は1人で戦おうとする。
「そいつは危険だ東堂!1人で突っ込むな!お前も・・・」
「8時からのトーク番組、クリスマス特別生スペシャルに・・・高田ちゃんが、出る!!!!!」
『・・・・・・』
東堂の意味不明な主張に京都校の生徒全員唖然としている。ちなみに高田ちゃんとは、東堂が最も・・・というより唯一推している高身長アイドルである。
「こんなところで、もたついてられるかぁ!!!」
お目当てのアイドルが出る番組を見たいがために東堂は1人で夜叉型呪霊に向かって行く。
「東堂!!」
「10時の方向の糸の結界が破られた!こっちに迫ってるぜ!」
「まだ来んのかよ!!チキショオオオ!!!」
「ま、待て清孝!!」
ラバックからの報告に清孝はキレて1人で10時方向の呪霊討伐に向かった。憲紀は何とか全員を纏めようとするが、それを許さないがように、呪霊進行の報告が来る。
「加茂君!6時の方向からさらに10体以上の呪霊が接近!」
「くっ・・・!全員迎撃態勢を敷け!」
京都校の生徒たちは向かってくる呪霊の迎撃のために動いた。
「たくっ・・・キリがないわねぇ・・・いつになったら終わるのよ」
まだまだ続く戦に真衣は愚痴をこぼしている。
●
一方、東京の呪術高専。傑は4461体分のうずまきを憂太に放とうとする。こんなものを喰らえば、ひとたまりもないだろう。
「乙骨。君が折本里香を使いこなす前に殺しに来て、本当によかった」
今から迫りに来るであろううずまきを前に、憂太は里香との思い出、約束を振り返る。
『約束だよ。里香と憂太は大人になったら結婚するの』
『いいよ。じゃあ僕らは・・・ずーっと、ずーっと・・・一緒だね!』
里香と過ごした楽しかった思い出が鮮明に溢れてくる。覚悟はもうとっくに決まっている。憂太にそっと触れる。
「里香」
【なぁに?】
「いつも守ってくれてありがとう。僕を好きになってくれてありがとう。最後に、もう1度力を貸して。あいつを止めたいんだ。その後は、もう何もいらないから。僕の未来も、心も体も、全部里香にあげる。これからは、本当にずっと一緒だよ。愛してるよ、里香。
一緒に逝こう?」
チュッ
【あ"・・・あ"ぁ・・・あああ"ああああ"あ"あ"ああ・・・】
里香は憂太からの口づけによって身を震わせ・・・
【憂太!!!!憂太あぁ!!!!!!大大大大好きだよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!】
閉ざされていた一つ目が開眼し、呪力が莫大に膨れ上がった。呪力総数はおそらく、うずまきをさえも上回るだろう。
(自らを生贄とした呪力の制限解除!)
膨大な呪力を前に、傑は全身をゾワゾワした感覚に陥る。
「そう来るか!女誑しめ!」
「失礼だな・・・純愛だよ」
「ならばこちらは・・・大儀だ!!」
里香は制限が解除された膨大な呪力を傑に放ち、傑は4461体分のうずまきを憂太に放った。強大な呪力のぶつかり合いによって、周辺には大きな衝撃が走った。
●
凄まじい衝撃が収まった頃、建物の間を縫うように歩く男がいる。
「・・・素晴らしい・・・本当に素晴らしいよ・・・まさに、世界を変える力だ」
そう、夏油傑だ。里香の膨大な呪力によって負けた彼は片腕を欠損し、血が滴り落ち、冷や汗をかいている。このままいけば死ぬこともあり得るほどの重傷。
「里香さえあれば、せこせこ呪いを集める必要もない・・・」
それでも傑は里香の力を目の当たりにして、興奮しており、活力がみなぎっている。野望は、まだ潰えていないかのように。
「次だ・・・!次こそ手に入れる・・・!」
興奮していた傑は何者かの気配を感じ取り、一気に興奮が冷めて、冷静さを取り戻し、歩みを止め、諦めたかのように嘲笑する。
「ふ・・・遅かったじゃないか・・・悟、
傑の前に現れたのは、唯一無二の親友、悟と最愛の友人、
「君たちで詰むとはな。私の家族たちは無事かい?」
「
「まぁね。君と違って、私は優しいんだ」
「全くだ。憂太の起爆剤として3人の生徒をやられる前提で送り込むなんて・・・前代未聞だ」
傑の言葉に
「そこは信用した。こいつのような主義の人間は、若い術師を理由もなく殺さないと。お前だってわかってただろ?」
「全く・・・せめて相談してほしかったものだ」
悟と
「ふっ・・・信用か・・・。君の妹を奪った私に、そんなものを、残していたのか」
「
「そうかい・・・。あ、これ、返しといてくれ」
傑が
「小学校もお前の仕業だったのか」
「まぁね」
「呆れた奴だ」
「・・・傑。最期に何か、言い残すことはあるか?」
彼女の問いかけに対し、傑は口を開く。
「・・・誰が何と言おうと、猿共は嫌いだ・・・。でも・・・別に高専の連中まで、憎かったわけじゃない。ただ、この世界では・・・私は心の底から笑えなかった・・・」
傑の言葉を聞き終えた悟は彼に近寄り、
「・・・傑」
彼の名を呼んだその時、悟は傑と
「・・・っ・・・」
悟が告げた言葉に
「・・・は・・・最期くらい、呪いの言葉を吐けよ」
悟の言葉に目を見開いた傑はすぐに呆れたような笑みを浮かべた。その笑い方は、2人がよく知っている、親友としての、夏油傑の笑みであった。
●
「おい・・・おい!!」
「憂太!憂太!」
「憂太!起きなさいってば!」
高専の戦闘跡地で倒れていた憂太が目を覚ました。
「おい憂太!大丈夫か⁉」
「高菜!」
「しっかりしろ、憂太!」
「いつまでも寝ぼけてんじゃないわよ!」
憂太の視界に入ったのは、自分を心配する真希、マイン、棘、パンダであった。
「お、しっかりした」
「!!みんな・・・怪我・・・真希さん、マインちゃん、狗巻君・・・ああ!!パンダ君腕がない!!」
意識が完全にハッキリした憂太は真っ先にみんなの怪我の心配をしている。
「落ち着け。全員今の憂太より元気だ」
「俺の腕は3人と違って、後でどうにでもなる」
「助けるつもりが助けられるなんてね。ありがとう、憂太」
「シャケ」
全員生きていて嬉しくなった憂太は涙を浮かべながらも笑みを浮かべた。
【憂太】
すると、まだ完全顕現していた里香に呼び掛けられる憂太。やることはわかっている憂太は立ち上がる。
「ごめんね里香ちゃん。待たせたね」
どういうことか理解してない3人と1匹は疑問符を浮かべている。
「どうした?憂太?」
パンダの問いかけに憂太はぎこちないながらもどういうことか説明する。
「あ・・・えっと・・・力を貸してもらう代わりに、里香ちゃんと一緒に逝く約束をですね・・・」
「「はあ!!???」」
憂太の答えに驚愕する真希とマインは彼に詰め寄る。
「あんたそれ、死ぬってことじゃない!!!!」
「何考えてんだバカ!!!!」
女子2人が憂太に怒鳴っていると・・・
ジワジワ・・・ザフッ・・・
里香の身体はドロドロに崩れていき、消滅した。代わりに残っているのは、小さな女の子1人だけだった。
「「「えっ・・・?」」」
「・・・里香ちゃん・・・?」
そう、この小さな女の子は里香が怨霊と化する前の姿なのである。どういうことかわけがわからなくなる4人と1匹。
パチパチパチッ
「おめでとう。解呪達成だね」
「よくやったな、憂太」
そこへ、
「「「「誰?」」」」
「グッドルッキングガイ五条悟先生ダヨー」
「そうか、お前たちは悟の顔を見るのは初めてか」
悟の素顔を知らなかった4人と1匹は本当に誰なのかわかっていなかった様子である。気を取り直して、今この状況がどういうことか説明する
「以前憂太がたてた仮設、ちょっと気になったのでな。家計の調査を依頼したんだ。里香の方はずいぶん昔に終了してたし、憂太の方はザルもいいところだったからな」
「で、それで判明したんだけど・・・君、『菅原道真』の子孫だった!超遠縁だけど僕とマインの親戚!」
「「「すがっ!!???」」」
満面な笑顔で言い放つ悟だが、菅原道真というまさかの名前を聞いた3人と1匹は驚愕の声をあげた。
「え?誰?」
「日本三大怨霊の1人」
「超大物呪術師だ」
「あたしのご先祖様・・・てか、親戚ってマジ?」
「ツナ」
憂太が超大物呪術師の子孫だと知った3人と1匹は本当に驚いてちょっと引き気味である。
「憂太が正しかった。里香がお前に呪いをかけたんじゃない。お前が里香に呪いをかけたんだ」
「!」
『里香ちゃん!どうしよう!死んじゃうの⁉助けなきゃ!死んじゃダメだ、死んじゃダメだ、死んじゃだめだ
死んじゃダメだ!!』
(そうだ・・・僕はあの時、里香ちゃんの死を拒んだんだ・・・)
憂太が里香の死を拒んだ。その結果、里香は憂太に呪われ、憂太のそばに憑き、憂太を傷つけようとした者を傷つけた。そして、今に至る。
「呪いをかけた側が主従制約を破棄したんだ。かけられた側が罰を望んでいなければ、解呪は完了だ」
「ま、その姿を見ればわかりきったことだよね」
里香が怨霊と化した原因、これまで誰かを傷つけてしまった原因が自分にあると気づいた憂太は涙を流す。
「・・・全部、僕のせいじゃないか・・・!里香ちゃんをあんな姿にして・・・たくさん傷つけて・・・!僕が夏油に狙われたせいで皆が死にかけた・・・!全部・・・全部・・・!!」
罪悪感で頭を抱え、涙を流す憂太に里香は微笑みながら彼を抱きしめる。
「憂太。ありがとう。時間をくれて。ずっと側においてくれて。里香はこの6年が、生きてる時より幸せだったよ」
里香が憂太から離れ、彼の涙を拭きとると、彼女の身体が輝きだす。天に召されようとしているのだ。
「バイバイ、元気でね」
里香は憂太に向けて、にっこりと微笑む。
「あんまり早くこっちに来ちゃダメだよ?」
「・・・うん・・・!」
またね
里香は憂太に別れの挨拶を済ませ、憂太たちに見送られながら天へと召されていった。
●
翌日、平和な日常を取り戻した憂太は
「今さらだが、夏油の件はお前が気にする必要はない。お前が来なくても、あいつは必ずここに来る。そういう奴だ」
「ですかね」
「あ、それから・・・これ、返しておく」
「あ!学生証!先生が拾ってくれてたんだ」
「いや、私じゃない」
「初恋の相手だ。フラれてしまったがな」
「オラ、憂太!いつまで待たせんだ?」
「早く行くわよ、憂太!」
先の道で待っていたのは、憂太の大切な友達、真希、マイン、パンダ、棘であった。
「・・・うん!!」
乙骨憂太。当初の目的は果たされたが、彼は今日も、1人の呪術師として、呪いを学ぶのであった。
呪術廻戦ー呪いを斬るー
零章
東京都立呪術高等専門学校
●
百鬼夜行から月日が流れ、どこかの廃墟地・・・
ドォンドォォン!!
何もないこの場所は今戦場と化している。発せられる土煙から女性が現れ、女性は華麗に着地する。その瞬間、土煙から強靭な爪と牙を持った呪霊が現れ、女性を襲おうとする。
シュンシュン!!パキィィン!!
女性を襲おうとした呪霊は突如現れた氷柱に突き刺さり、一瞬にして氷漬けにされた。
「まだ続けるかい?」
その言葉と共に女性の前に現れたのは1人の男であった。
「この話はあなたにとっても、悪い話ではないのだがねぇ」
「いや・・・十分だ」
彼に確かめたいことを確かめた女性は納得し、戦闘態勢を解いた。
「願わくば、先の百鬼夜行以上の戦になることを願おう」
女性は呪霊と共に粉々に砕け散った氷柱を見て、不敵な笑みを浮かべるのであった。
●
ここはケニア。憂太はある任務で海外遠征でこの地で、とある目的でケニアにやってきた青年と地元民と共に昼食をとっている。
「・・・おぉ!これうまいっすよ!」
「本当だ、おいしい!」
青年と憂太はケニアの郷土料理を食べて、称賛している。
「ウマイダロウ?ロコイッテ調味料ヲ使ッテテナ、ソレガイイ味ヲ出シテル」
彼らと共に食事をとっている地元民は、夏油一派の1人であったミゲルであった。
「ロコイヲ入レレバ、何デモケニアノ味ニナル魔法ノ粉ダ」
郷土料理を食べている青年はここにやってきた本題に入る。
「それより、ミゲルさん。刀を持った短い髪の女の人・・・何か聞いてないっすか?」
「イイヤ。奴ハ何モ変ワッテナイヨ」
「・・・そうっすか」
何の情報も得られなかったようで、青年はちょっと落ち込んでいる。
「マァ、何カワカレバ連絡ハスル。ソレヨリ、奴等ハ本当ニ帰ッタンダナ?」
「うん」
「ナライイ」
食事をとっている彼らに近づく影が2人。
「これ本当にうまいな」
「うん。肉じゃがみたい」
「肉ジャガ?ビーフシチュート言エ、ビーフシチュート」
自分たちに近づく人物に気付いたミゲルは怪訝な顔をしている。
「?どうしたんすか?」
「・・・ナンデ、オ前ラガココニ?」
「そんなにうまいのか。私にもくれ」
聞き覚えのある声に憂太は後ろを振り返る。
「あれ?先生!」
「や、久しぶり」
3人に近づいてきたのは、
零章『東京都立呪術高等専門学校』 完
次回
壱章『呪胎戴天』