呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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両面宿儺

両面宿儺。1000年以上前に実在した呪いの王とも呼ばれる生きた災厄。呪術全盛の時代、数多の呪術師が総力をあげて、宿儺に挑んだ。だが結果は全敗・・・当時代の呪術師は宿儺に敗れ、命を落とした。しかし、いかに宿儺が呪いの王とも呼ばれる強力な存在であったとしても、人間だ。人間である以上、寿命からは逃れることは叶わなかった。ゆえに宿儺は、自らの指を斬り落とし、呪物化することによって、その存在を1000以上も保ってきた。ところが、呪物と化したその死蝋はあまりにも強大。悟を含め、如何なる術師の力を持ってしても、存在を消すことは叶わなかった。そして施された封印も長い年月が経ち、緩んでしまい、日々強力になっていく呪力が溢れ出てしまっている。このまま放置すれば辺りに呪いが集まり、やがては収拾がつかなくなってしまう。

 

それを防ぐために悟から回収任務を言い渡された(たつみ)と恵は、これからその宿儺の死蝋があるとされる、宮城県仙台市にある杉沢第三高校に向かうのである。

 

「いきなり実戦か・・・よし・・・やってやる・・・!」

 

呪術師としての初任務に(たつみ)は気合を入れている。

 

「気負いすぎるなよ。それで無駄死にする可能性もある」

 

「ぐぬぬ・・・ドライな忠告ありがとよ・・・!!」

 

気合を入れる(たつみ)とは逆で恵は経験者故なのか落ち着いている。余裕がある恵に(たつみ)は拳を握りしめ、唸っている。

 

(たつみ)、ちょっといいか?」

 

「!なんだよ赤女(あかめ)

 

2人がこれから車に乗ろうとしたところで赤女(あかめ)(たつみ)を呼び止めた。

 

「呪いは呪いでしか祓えないというのは悟から聞いてるとは思うが、お前は恵と違って呪術を持たないから呪いを祓う術がない。だからこれを持って行け」

 

赤女(あかめ)(たつみ)は布地に包まれた何かを渡した。布地を開いてみると、中には初心者でも扱いやすそうな剣が入っていた。

 

「呪具怨念刈り。呪力が籠った武器だ。それさえあれば、呪力がないお前でも呪いを祓うことができる」

 

「おお!かっこいい!扱いやすい!」

 

(たつみ)は手に持った剣、怨念刈りの握りしめた際の扱いやすさ、そして鮮やかな作りによってこれを気に入った様子。

 

「・・・ハッキリ言って、お前や恵にはまだ早い任務だと思ってる。だが悟は言っても聞かない。だからせめて、恵の言うことはしっかり聞け。それがお前の命を守ることに繋がる」

 

「・・・わかったよ」

 

正直に言えば恵にいろいろ聞くのは気が引けるが、自分より経験者なのは間違いないため、(たつみ)は素直に首を縦に頷いた。

 

「私も任務を終え次第、そちらに向かうつもりだ。何かあれば連絡はくれ」

 

「そういえば・・・五条先生は?」

 

「面倒くさがって行く気がないらしい」

 

(あの人本当に教師なのか・・・?)

 

本来この回収任務は悟が1人で行く任務だ。それを生徒に・・・それもまだ経験が浅い1年に任せるだけでなく、面倒くさいから行きたくないというわがまま。これだけで(たつみ)は悟が本当に教師なのかという疑いが出始める。

 

 

2人を乗せた車は宮城県仙台市に向かって走っている。車の後ろ座席に座っている(たつみ)と恵の間には、絶妙なくらいの沈黙が流れている。

 

(き・・・気まずい・・・!)

 

それゆえに(たつみ)はこの空気が非常に気まずく、居心地が悪い。

 

(こいつすまし顔で何考えてるのかまったくわかんねぇし・・・正直苦手だ・・・)

 

初対面の時のドライな対応の件もあり、何を考えてるのか全く分からないため、(たつみ)は恵に対して、苦手意識を持っている。

 

「おい、聞いてもいいか?」

 

「・・・あっ⁉俺に言ってる⁉」

 

「お前以外誰がいんだよ」

 

気まずい空気をどうしようと考えていた時、恵の方から(たつみ)に話しかけてきた。

 

「お前、なんで呪術師になったんだ?」

 

「なんでって・・・」

 

「この業界のことは聞いてんだろ?それを聞いたうえでお前は呪術師になった。この呪いが蔓延る世界で、お前は何がしたいんだ?俺はそれが知りたい」

 

(たつみ)は自分みたいに呪いに触れてきたわけではない。つい最近まで普通の高校生として過ごしてきた少年だ。それなのに異形といえど生き物の形をした呪いに立ち向かう決断をした。その根本となったものが何なのか。何を求めて呪いの世界に足を踏み入れたのか。恵はそれが知りたいのだ。

 

「・・・きっかけになったのは友達と親父の死だ。目の前で呪いに殺されて・・・もしかしたら、身近の人が同じ目に合うのかもって考えて・・・それを放っておけるのか?少なくとも、俺はそんなのはごめんだ」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、親父たちの敵討ちってのもあるけど・・・1番はやっぱ・・・親父の遺言・・・立派な刃になれって奴だな」

 

「なんだそりゃ?」

 

「俺だって知らねぇよ。こっちが聞きたいくらいだ。でも・・・何となくだけどわかる。それは聞いちゃいけないんだって。聞いちまったら・・・学長の言うとおり、誰かの指図で行動したってことになる。だからこの答えは俺自身の手で見つけないといけないんだ。呪術師をやってれば、いつかその答えが見つけられるかもしれない・・・そう感じたんだ。だから俺は・・・この道を選んだんだ」

 

(たつみ)が呪術師になると決断したきっかけに思うところがあるのか、恵は彼を見つめている。

 

「て言ってもわかんねぇだろ?笑いたきゃ笑えよ」

 

「・・・笑うかよ」

 

恵の視線に気づいた(たつみ)は不貞腐れたようにそっぽを向き、自虐的な発言をする。対して恵は表情を変えることなく、視界を正面に戻す。

 

「・・・見つかるといいな。その立派な刃って奴」

 

「・・・見つけてやるよ・・・絶対に」

 

(たつみ)の決意は固く、それを表すかのように彼は両拳をぎゅっと握りしめる。

 

「ほら!俺は話したぞ!今度はお前が話せよ!なんで呪術師やってんだ?」

 

「別に言う必要がないだろ」

 

「あ!てめ!俺には言わせといて自分は言わねぇのかよ!」

 

呪術師になった理由を進んで言う気がなかった恵だが、(たつみ)の発言を聞いて、フェアじゃないとと思い、少しだけ話す。

 

「・・・別にお前みたいに大層な考えは持っちゃいねぇよ。強いてあげるとすれば・・・少しでも多くの善人に平等を享受させたいってくらいだ」

 

呪術師になった理由を語る恵の瞳には、心なしか哀愁が込められているように感じ取った(たつみ)

 

「・・・それってどういう・・・」

 

(たつみ)がもう少し追及しようとした時、車が停車した。目の前には目的地である杉沢第三高校が見えている。

 

「着きました。杉沢第三高校です」

 

「行くぞ」

 

「お、おい待てよ!」

 

恵は車から降り、学校の中へ入ろうとする。(たつみ)は慌ててシートベルトを外し、車から降りて恵を追いかけ、学校の中へ入る。

 

 

車が学校に到着した頃にはもうすでに深夜になっており、生徒は誰1人としていない。そんな誰もいない学校の校舎裏を恵と(たつみ)は歩いている。

 

「どこにあるんだよ?その特級呪物ってのは」

 

「保管場所の目星はついてる。今向かってんのはそこだ」

 

「その保管場所ってのは・・・?」

 

特級呪物の保管場所について尋ねる(たつみ)に対し、恵は少し呆れたような顔つきになっている。ただそれは彼に呆れてるのではなく、特級呪物の保管場所に呆れているのだ。

 

「・・・百葉箱」

 

「は?」

 

「だから百葉箱。そこに特級呪物が入ってるって言ってんだ」

 

「はあああ!!?」

 

まさかの百葉箱に特級呪物が保管されていると聞いて、(たつみ)は驚いている。

 

「そんなとこに危ねぇもんを保管するとかバカすぎるだろ!!?」

 

「俺もそう思う」

 

誰でも手が伸ばせる場所に危険物を入れるという誰かの愚行に対し、恵だけでなく、(たつみ)も呆れている。その間にも2人は特級呪物が保管されているという百葉箱を見つけた。

 

「はぁ・・・なんか拍子抜けだな・・・呆気なさすぎる・・・」

 

「さっさと回収するぞ」

 

恵は百葉箱に近づき、中にあるものを回収しようと近づく。と、ここで恵は百葉箱に鍵がかかっていないことに気付き、嫌な予感がして中を開けた。恵の嫌な予感は的中した。百葉箱の中には何も入っていなかった。

 

「あったか?」

 

「・・・ない」

 

「はあ!!?」

 

何も入っていないと聞かされ、(たつみ)も中を覗く。どこかに落ちたと思い、2人は百葉箱の周りを探すが、いくら探せども目的の物はどこにもなかった。

 

「どうなってんだよ!!?百葉箱に入ってるんじゃなかったのかよ!!?」

 

状況がわからなくなってしまっている(たつみ)をよそに、恵は冷静にスピーカーモードで赤女(あかめ)に電話を入れる。

 

『もしもし恵か?どうした?特級呪物は見つかったか?』

 

「ないですよ」

 

『え?』

 

「百葉箱空っぽですよ」

 

『それは本当か?』

 

「はい」

 

百葉箱が空っぽだという知らせを聞き、赤女(あかめ)は電話越しで唸り声をあげる。

 

『う~ん・・・おそらく学校関係者が持って行った可能性があるな。わかった。明日そちらの学校の制服を送るから、今日は手配した宿に泊まるといい』

 

「わかりました」

 

『ああ、それから・・・悟から伝言を預かってる』

 

悟からの伝言ということで、恵は訝し気な顔になっている。

 

「・・・なんですか?伝言って」

 

『その特級呪物を回収するまで帰って来るなだそうだ』

 

(鬼!!)

 

(帰ったらマジでぶん殴ろう・・・)

 

赤女(あかめ)を通しての悟の伝言を聞いて、(たつみ)は彼の伝言は鬼の所業だと感じ取り、恵は静かに怒り、彼を殴ろうと誓うのであった。

 

 

翌日昼頃、(たつみ)と恵は高専から届いた第三高校の制服に着替えて、昼間の学校に潜入している。制服が届いた時間帯は放課後くらいなので、学校中にはすでにここの生徒たちが何人もいる。

 

「それで、どうやって特級呪物を見つけるんだ?やっぱ1人1人声をかけるのか?」

 

「それだと時間がかかりすぎる。呪力の気配を辿るんだ」

 

「呪力の気配で?そんなことできるのか?封印されてるんだろ?」

 

(たつみ)の疑問に恵は淡々と答える。

 

「出発する前にも言ったが、日々呪物の呪力が大きくなって、封印が緩んできている。そのせいで呪力が封印から漏れ出てるんだ。その気配を辿る」

 

「なるほどな・・・」

 

恵の説明を理解し、納得する(たつみ)

 

「ただ気配がデカすぎ絞りきれねぇ。すぐ隣にあるようで、はるか遠くにあってもおかしくない。多分呪いも混じってるから見つけるのは困難だ」

 

「でもやるしかねぇんだろ?」

 

「ああ。お前はまだ高専に来て間もないから呪力感知とかわかんねぇだろ。ついてこい」

 

「お前何でそんなに偉そうなの?」

 

偉そうな態度が引っ掛かるが、恵の言ってることは何も間違っていないため、(たつみ)は大人しく彼の指示に従い、彼についていく。呪力の気配を辿りながら歩いていった先に、ラグビー場があった。ただ、ここは封鎖されているため、誰もいない。

 

「すげぇ。ラグビー場とかあんのかよ」

 

「入るぞ」

 

「えっ⁉でも立ち入り禁止って・・・」

 

「知るか」

 

封鎖されているにも関わらず、恵はずかずかとラグビー場に入っていく。気は引けるが、(たつみ)も仕方なくラグビー場に入っていく。ラグビー場を探っていると・・・

 

ズズズズ・・・

 

ラグビー場の地面を泳いでいる何かが現れる。地面を泳いでいる何かは姿を現し、ラグビーボールを登っていく。その姿は、4本の人に近い腕、人に近い足を持った虫のような顔をした呪霊であった。

 

「!!呪い!」

 

「待て和倉!この時間じゃ目立ちすぎる!騒ぎで人が集まる可能性がある!最悪の場合、そいつらが巻き込まれるぞ!」

 

「けどよぉ!」

 

「幸い、誰かを襲おうっていう気配はない。生徒全員が帰った時に祓えばいい」

 

「・・・わかったよ」

 

(たつみ)は呪霊を見てすぐに祓おうと戦闘態勢に入ろうとしたが、恵に止められる。すぐに冷静な説明を受け、(たつみ)は渋々ながら戦闘態勢を解き、歩き始めた恵についていく。

 

(にしても、なんだこのラグビー場?死体でも埋まってんのか?このレベルがウロつくなんて・・・。おそらく2級の呪い・・・これも呪物の影響か?)

 

恵はあの呪霊の強さを分析して、受けた任務が一筋縄ではいかないと改めて実感する。

 

(特級呪物・・・厄介すぎだ・・・誰が持ちだした・・・?今どこにある・・・?)

 

行方がわからなくなっている特級呪物が今どこにあるのか、だれが持ちだしたのか考える恵。

 

「こっちこっち!!陸部の高木と西中の虎杖が勝負するってよ!!」

 

「えっ⁉何勝負⁉」

 

「砲丸投げ!」

 

2人がラグビー場から出て運動場に入ると、運動部の生徒たちが何やら盛り上がりを見せている。見たところ、たった今教師、高木が砲丸を投げ終えたところだ。記録は14メートル。日本記録の18メートル85センチとかなり近い。

 

「呑気なもんだなぁ。呪いが近くにいるってのに」

 

「仕方ねぇだろ。普通は呪いは見えねぇんだから」

 

2人が話している間にも次は高木の対戦相手である虎杖と呼ばれる少年の番だ。宍色のツーブロックの短髪が特徴だ。少年は位置に立ち、それなりの重さがある砲丸をピッチャー投げで投げた。

 

バビュンッ!!ゴィィィィン!!!

 

投げられた砲丸の速度はまるで野球選手がボールを投球したかのような速さで、その速度のまま、サッカーゴールのパイプと衝突する。あまりの威力だったからか、ゴールのパイプはへこんでいる。記録は・・・だいたい30メートル。世界記録の23メートル12センチを軽く超えている。重い砲丸を軽々と投げ、しかも世界記録を出した瞬間を見て、(たつみ)は驚愕のあまり、口をあんぐりと開けたまま放心している。隣にいる恵も多少なりとも驚きを見せている。

 

「すごいなあいつ・・・呪力なし・・・素の力であれか。禪院先輩と同じタイプかな?」

 

恵は少年の素の力を非常に感心しており、一学年上の先輩の姿を思い浮かべた。

 

「と、見てる場合じゃねぇ。行くぞ、和倉」

 

「・・・・・・あっ!お、おい!」

 

恵は目的である特級呪物探しを再開しようとする。その際恵と(たつみ)は先ほど砲丸を投げた少年とすれ違った。その瞬間・・・

 

チリッ!!ゴオオオオ・・・!!

 

「「!!!」」

 

少年から異常ともいえるほどの呪力を感じ取った。まだ呪いのことを全然知らない(たつみ)ですら感じ取れるほどの異常さだ。

 

「伏黒!今の!」

 

「呪物の気配!明らかに強くなった!」

 

呪物の気配を感じ取った恵と(たつみ)はすぐさま帰ろうとする少年に声をかけようとする。

 

「おいお前・・・!!」

 

「ほっほっほっほ・・・」

 

「ちょ・・・速すぎんだろ!!?」

 

だが少年の走るスピードが速く、あっという間に彼の背中が見えなくなる。

 

「あいつ50メートル3秒で走るらしいぞ」

 

「車かよ」

 

「「!!??」」

 

50メートルの世界記録は5秒47+である。それすらも軽く超える少年の身体能力に2人はぎょっと驚くのであった。

 

 

砲丸投げ、50メートル走の世界記録を軽く超える記録を叩きだす少年、虎杖悠仁が下校し、花屋で花を買って向かった先は杉沢病院。実は彼の祖父はこの病院に入院しており、祖父の見舞いのために毎日5時くらいには下校しているのだ。そんな杉沢病院の悠仁の祖父、虎杖倭助の病室。彼の見舞いに来た悠仁は買ってきた花を広げる。

 

「来んなっつったろう?いちいち花なんか買ってくるんじゃねぇ」

 

倭助は頑固おやじで有名らしく、今みたいに見舞いに来た孫の悠仁に対してもこれである。

 

「いつも通りじゃん。てゆーか、爺ちゃんにじゃねぇし。看護師さんにだよ」

 

「なおさらだバカ!!つーか部活はどうしたよ?部活しろ部活!」

 

杉沢第三高校は全生徒部活入部制で必ずどこかの部活に入らなければならない。そんな彼が所属してる部はオカルト研究部だ。入部理由は『何もしなくていい、ユウレイでいい、オカ研だけに』という売り文句につられたからである。おかげでこうして5時には下校し、見舞いに来ることができるのだ。だが彼自身の性格もあり、部活動にはちゃんと顔を出しており、彼自身もオカ研を気に入っている。

 

「うるっせぇなぁ・・・5時前には終わんの。俺だって暇じゃなきゃ見舞いになんて来ねぇよ」

 

「よぉし。じゃあ、暇な俺の話を聞け」

 

「興味ねぇし」

 

ある程度納得した倭助は悠仁にあることを語ろうとするが、本人は興味がないようで花瓶に買ってきた花を生けようと動いている。

 

「いいかよく聞け。最期に言っておきたいことがある」

 

それでも倭助は悠仁に話を続けようとする。

 

「お前の両親のことだが・・・」

 

「だーから興味ねーって。爺ちゃんさぁ・・・死ぬ前にカッコつけんのやめてくんない?」

 

でもやっぱり悠仁は興味がなく、聞くつもりがないらしい。

 

「男はな、カッコつけて死にてぇんだ!空気読め、クソ孫が!」

 

「いちいちキレんなよ。いつも通りでいいって」

 

「・・・ケッ、ゆとりがよ」

 

花瓶に水を入れ、花を入れる悠仁の言葉を聞き、倭助はふて寝を決め込む。

 

「・・・・・・悠仁」

 

「ん?」

 

「お前は人を助けろ。手の届く範囲でいい。救える奴は救っとけ。迷ってもいい。感謝されなくても気にするな。とにかく1人でも多く助けてやれ」

 

悠仁は倭助の話に耳を傾け、彼に視線を向けた。

 

「お前は、大勢に囲まれて死ね。俺みたいに、なるなよ」

 

倭助はその言葉を悠仁に伝え、一切しゃべらなくなった。

 

「・・・爺ちゃん?」

 

悠仁が呼び掛けても、倭助は返事をしない。それどころか、指ですら動くことはなかった。彼の様子を見て、悠仁はあることに察し、ナースコールをかけた。

 

『はい、どうされました?』

 

ナースコールをかけた悠仁は流れそうな涙を堪えている。

 

『・・・虎杖さん?』

 

「・・・・・・爺ちゃん・・・死にました」

 

悠仁は今日この日、唯一の家族であった祖父、虎杖倭助を、失ったのであった。

 

 

夜、(たつみ)は白金高校名残りの制服に、恵は高専の制服に着替え、呪物を持って行った可能性がある悠仁を追いかけに杉沢病院までやってきた。病院に入る2人は悠仁がどこにいるのか探す。

 

「本当にここであってんのかよ⁉」

 

「残穢はここまで続いてる。間違いねぇ」

 

病院内を歩いていると、コールセンターで手続きを行っている悠仁を発見した。

 

「いた!あいつだ!」

 

「虎杖悠仁だな?」

 

「ん?」

 

恵は悠仁を見つけるや否や、彼に話しかけた。

 

「呪術高専の伏黒だ。話がしたい。今」

 

悠仁は何の用かと思いながら、場所を変えて一応話に応じようとする。

 

「あの・・・喪中なんですけど・・・」

 

「あ、ごめん・・・」

 

「いちいち反応するな。悪いが時間がない」

 

恵は(たつみ)を制しつつ、本題に入ろうとする。

 

「お前が持ってる呪物はとても危険なものだ。今すぐ俺たちに渡せ」

 

「呪物?」

 

「ほらこれ。お前これ見たことない?」

 

(たつみ)は自分のスマホに写っている特級呪物の写真を悠仁に見せる。

 

「ああ、はいはい。拾ったわ」

 

ビンゴだ。やはり特級呪物を拾ったのは悠仁で間違いない。

 

「俺は別にいいけどさ、先輩らが気に入ってんだよね。危険ってどういうことよ?」

 

何も理解していない悠仁に恵が説明する。その内容は、(たつみ)がレオーネから聞いた者とほぼ同じものだ。

 

「日本国内の不可解な死者、行方不明者は年平均10000人を超える。そのほとんどの原因が呪いだ」

 

「呪いぃ?」

 

「お前が信じるかはどうでもいい。それが事実だ。続けるぞ」

 

ベンチに寝っ転がる悠仁をよそに、恵は話を続ける。

 

「特に学校や病院には膨大な怨念が溜まりやすい。辛酸、後悔、恥辱。人間の負の感情が呪いの源となる。だから多くの学校などに、魔除けとしての呪物が密かに置いていた。お前が持っているのもそれだ」

 

「魔除けなら、むしろありがたいんじゃないの?」

 

「俺もそう思ってたんだよ。最初はな」

 

楽観的に考える悠仁に(たつみ)は自分の経験談からそれを否定する。

 

「より邪悪な呪物を置くことで他の呪いを寄せ付けない劇毒。魔除けとは名ばかりの悪習だ。年月と共に封印が緩み、今や呪いを招き、肥えさせる餌に転じた。お前が持っているのは、特級に分類される危険なものだ」

 

「現に俺がいた岩見沢でもそれのせいで呪いが出た。人死が出ないうちに渡してくれ」

 

「いや、だから俺はいいんだって。先輩に言えよ」

 

2人が探していた箱を悠仁はポケットから取り出し、あっさりと渡した。中身を確認して見ると、中には何も入っていなかった。

 

「えっ⁉空⁉なんで⁉」

 

「・・・やられた・・・」

 

中身が入っていないことに対して(たつみ)は困惑しており、恵もやられたと言わんばかりの顔をしている。

 

「俺たちが追っていたのは、箱にこびりついた残穢だったんだ」

 

そう、恵たちが追っていたのは呪物が漏れ出ている呪力が張り付いた呪穢だったのだ。話が終わったと思った悠仁は帰ろうとする。(たつみ)はそれを止める。

 

「ちょ、待て!お前、これの中身は⁉」

 

「だから先輩が持ってるって・・・」

 

止められた悠仁は何か思い出したかのような顔をする。

 

「どうした?」

 

「そういや、学校であれの札剥がすって言ってた」

 

「「!!」」

 

呪物の札を剥がすと聞いた途端、2人は緊迫した顔になり、お互いに顔を見合わせる。その様子を見た悠仁はもしかしてという気持ちで尋ねる。

 

「え?もしかしてヤバい?」

 

「・・・ヤバいなんてもんじゃねぇ。そいつ、死ぬぞ」

 

 

一方その頃、夜の杉沢第三高校。夜なので学校全体は静かだ。そんな暗く静かな学校の一室。オカルト研究会の部室にほんのりと明かりがついている。中を見てみると、机の真ん中に蝋燭の明かりが灯っており、1人の大柄な男子高校生とメガネをかけた1人の女子高校生が何かを剥がそうとしている。この2人が悠仁が所属するオカルト研究会の部員で今女子高生が持っているのが、恵たちが探している呪物である。

 

「取れないわねぇ・・・」

 

「わざわざ忍び込んでやることか?電気着けようぜ」

 

「ダメ!雰囲気重視よ!スリルを楽しむのがオカ研魂じゃん」

 

男子高校生、井口が電気をつけようと立つが、女子高生、佐々木がストップをかけた。オカルト研究会らしく、雰囲気を大事にしたいらしい。

 

「どうせ何も起こりはしないんだから・・・お、取れた!」

 

そう言っている間にも、呪物に巻かれていた札の切れ目がペリッと剥がれた。佐々木は巻かれた札を剥がしていくと、中身が露になった。中から出てきたのは、死蝋となった人の指だった。

 

「う・・・うわぁ・・・」

 

「人間の・・・指・・・?」

 

「本物・・・?」

 

札から出てきた指を不気味に思いながら見つめる2人。すると、ふっと蝋燭の火が消えた。

 

「・・・これ・・・」

 

ドォォォン!!

 

「「うわ!!??」」

 

それ続いて、部室が揺れ出した。不可解な現象が起き始めて、2人の顔には恐怖が出始めている。

 

「・・・なんなの・・・?」

 

だんだんと恐怖が込み上げてくる2人の背後に・・・数多の呪いが現れ、迫ろうとしていた。

 

 

呪物がオカ研究の2人が持っており、学校にいると聞いて、恵と(たつみ)は急いで学校に向かう。2人のそばには、先輩たちを助けようと思い、悠仁もついてきている。

 

「お札って、そんな簡単に取れんの?」

 

「いや!呪力のない人間にはまず無理だ!普通はな!」

 

「!右!近道だ!」

 

学校に通い慣れてる悠仁の言葉に従い、恵と(たつみ)は近道のルートを通る。

 

「今回のものは中のものが強すぎる!封印も年代物!紙切れ同然だ!」

 

「つってもなぁ・・・呪いなんて、いまいちピンとこねぇや」

 

「その先輩はどこにいるんだ!」

 

「4階」

 

近道を通ったおかげで思ったより早く学校に辿り着くことができた。門の前に立った途端、呪いの気配を感じ取った恵と(たつみ)。悠仁もそのプレッシャーを感じ取った。

 

「なんだこのプレッシャーは⁉」

 

「お前はここにいろ。行くぞ和倉」

 

「おう!」

 

恵と(たつみ)は悠仁をここに残し、学校の中に入ろうとする。すると、悠仁も中に入ろうとしている。

 

「俺も行く!ヤバいんだろ⁉一月かそこらの付き合いだけど・・・放っとけねぇよ!」

 

「ここにいろ」

 

恵は圧を放って、悠仁を黙らせ、(たつみ)と共に学校に進入する。目指すはオカルト研究会の部室だ。

 

「何もあんな睨むことねぇだろ?」

 

「だったらあいつを連れて行けってのかよ」

 

「そうは言わねぇけどよ・・・」

 

「遊びじゃねぇんだ。連れて行けるか」

 

校内に進入し、先へ進んでいくと、妙に伸びた黒い塊の呪霊が2人の前に立ちふさがる。

 

【ちゅーるちゅーるちゅる】

 

「!呪い!」

 

「邪魔だ!」

 

立ちふさがる呪霊の前に、恵は両手を合わせ、犬の手影絵を作った

 

「玉犬!」

 

すると、恵の影が動き出し、蠢く影の中より、白い犬と黒い犬が現れた。

 

「!犬?」

 

「喰っていいぞ」

 

白と黒の2匹の犬は恵の指示に従うように、呪霊に突撃し、鋭い牙で呪霊の肉を噛み千切った。

 

恵の術式は自分の影を媒介にして、動物を模した手影絵を作ることでその動物に応じた式神を召喚することができるというものだ。その数、およそ10種類。この術式の名を、『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』という。

 

(影から出てきた犬が呪いを食ってる⁉そういえば・・・あの時の姉さんも、姿が変わっていたな・・・。これが・・・術式って奴か・・・)

 

間近で術式が発動される瞬間を目の当たりにした(たつみ)はレオーネの使った術式を思い出しつつ、自分にはない力に驚いている。その間にも、虫のような小さな呪霊が天上から(たつみ)を頭から喰らおうと襲ってきた。

 

「!!和・・・」

 

それに気づいた恵が呼び掛ける前に、それに気づいた(たつみ)は腰の剣、怨念刈りを抜き、縦一閃で呪霊を斬り祓った。さらにまだ天井に張り付いていた呪霊が複数体襲ってきても、(たつみ)はその場で動くことなく、怨念刈りを振るい、全て呪霊を斬った。

 

「よし!やれるな、俺!」

 

自分の手で呪いを斬り祓ったことにより、自分も呪いと叩けると実感し、ガッツポーズを取る。

 

(こいつ・・・勘が鋭いな・・・。それに、小型と言えどもあの数の呪霊を動かずに・・・。もしかして、禪院先輩と同じタイプか・・・)

 

(たつみ)の戦闘スタイルを見て、恵は同じ戦闘スタイルの先輩を思い浮かべながら推察をする。だが今はそんなことをしている場合ではない。

 

「きゃああああああああああ!!!」

 

「!今の悲鳴!」

 

「クソ!もう部室を出たのかよ!」

 

「急ごう!」

 

部室とは違う場所から悲鳴が聞こえてきた。もう外に出たとわかった2人は急いで悲鳴が聞こえた場所に向かう。その道中で、先ほどの小型の呪霊が何体も何体も現れ、道を阻んでいる。

 

「お前ら邪魔だ!!」

 

向かってくる呪霊を(たつみ)は怨念刈りで斬り祓いながら、恵は犬の式神、玉犬に指示を出して呪いを祓いながら先へと急ぐ。

 

「呪いの数が増えてきた!近いぞ!」

 

2人が先を進んでいくと、曲がり角が見えてきた。曲がり角を曲がった先には、数多の顔、複数の目、大量の手を持った大きな呪霊がいた。呪霊には捕らえられたオカルト研究会の部員、佐々木と井口がいた。2人とも気を失っている。

 

「見つけた!」

 

呪霊は捕らえた佐々木と井口を取り込もうとしている。

 

「!人間ごと呪物を取り込む気か!!」

 

「させるかぁ!!!」

 

「!和倉!!」

 

(たつみ)はそうはさせまいと、呪霊に向かって走っていく。だがいくら彼が速くても、もう取り込む寸前・・・間に合わない。

 

(間に合わねぇ・・・!!)

 

2人を助けることは叶わないと思われていたその時・・・

 

パリィィィィン!!!!

 

「「!!虎杖!!」」

 

外で待っていたはずの悠仁が4階の窓を蹴り割って現れた。

 

 

俺は・・・あいつに言われたまま待つのか・・・?

 

俺は何にビビってる?

 

『そいつ・・・死ぬぞ』

 

そうだな・・・死の気配がここまでくる。死ぬのは怖い。

 

怖かったかな?全然そんな感じしなかったけど・・・。

 

泣いたのは怖かったからじゃない。少し寂しかったんだ。

 

爺ちゃんの死と、今目の前の死・・・何が違う?

 

『お前は強いから人を助けろ』

 

短期で頑固者。見舞いなんて、俺以外来やしねぇ。

 

俺みたいになるなって?確かにな。

 

爺ちゃんは・・・正しく死ねたと思うよ。

 

けど・・・こっちのは・・・間違った死だ。

 

 

4階の窓を蹴り破って現れた悠仁は呪霊の懐に入り、取り込もうとしていた佐々木と井口を引っ張り上げ、呪霊から救出した。

 

「これが呪い・・・思ってたのと違うな」

 

【・・・いまぁ・・・何時ですかぁ・・・。短い針はぁ・・・じゅういち・・・】

 

ザシュッ!!

 

呪霊は佐々木と井口・・・というより呪物を取り戻そうと動き出そうとしたが、その前に(たつみ)の怨念刈りによって真っ二つに斬られる。2人が無事であったことに対し、恵は安堵の息をはく。

 

「なんで来たって言いたいとこだけど・・・よくやった」

 

「なんで偉そうなの?」

 

恵の偉そうな発言が気になる悠仁だが、それ以上に気になっているのは呪霊の残骸を食い漁っている玉犬の方だ。

 

「ちなみにそっちで、呪いバクバク食ってるのは?」

 

「俺の式神だ。見えてんだな。呪いってのは普通見えねぇんだよ。死に際とかこういう特殊な場は別だがな」

 

「あー、確かに。俺今まで幽霊とか見たことないしなー」

 

(軽っ・・・)

 

呪いや式神を目の当たりにしているのに悠仁は軽く流している。それには心の中でツッコまずにはいられない(たつみ)

 

「・・・お前・・・怖くないんだな」

 

「いや、まぁ・・・怖かったんだけどさ・・・知ってた?人ってマジで死ぬんだよ」

 

「「は?」」

 

「だったら、自分の知ってる人くらいは正しく死んでほしいと思うんだ。ま、自分でもよくわからん」

 

「「・・・・・・」」

 

沙良(さよ)家康(いえやす)、そして武虎はあのサイボーグ・・・呪いに殺された。それはおそらく、悠仁の言う正しくない死に方なのだろう。それを目の当たりにしたからこそ、(たつみ)は悠仁の言った言葉にとても共感している。恵自身も思うところがあるのか、意を挟まなかった。悠仁が佐々木を抱きかかえて立ち上がった時、佐々木のポケットから何かが出てきた。それは、恵たちが探していた呪物の指だ。

 

「おっと・・・これが?」

 

「ああ。特級呪物、両面宿儺の指だ。諸共喰われなかったのは奇跡だな」

 

「食ってどうすんだ?うまいのか?」

 

「バカ言うな。どうしてそんな発想が出てくんだよ」

 

見るからに不気味なものに対し、場違いな発言をする悠仁に(たつみ)は呆れる。

 

「より強い呪力を得るためだ」

 

「そんなのはいいから早く渡せって」

 

「はいはい」

 

2人の言うことに従い、悠仁が指を渡し、(たつみ)が受け取ろうとした時だった。天井からすり抜けるように、新たな呪霊の手が現れる。それに気づいた恵は(たつみ)と佐々木ごと悠仁を突き飛ばし、玉犬は井口を銜え、呪霊から離れる。

 

「逃げろ!!」

 

ドォォォン!!!

 

恵のその一声と同時に、呪霊が降りてきて、恵を捕まえた。姿を現した呪霊は・・・昼間にラグビー場で見た個体であった。

 

「!あいつ昼間の!」

 

「伏黒!!」

 

呪霊に捕まえられた恵は自由が利く両手で鳥の形を模した手影絵を作る。

 

「鵺!」

 

恵が新たな式神を召喚しようとした時、そうはさせまいと呪霊は恵を投げ、壁に叩きつけた。

 

「がはっ・・・!」

 

恵が血を吐くほどのダメージを負うと、玉犬はドロドロに溶け、恵の影に戻る。さらに呪霊は恵に向かって突進し、壁をぶち抜いて彼を突き飛ばした。呪霊は外に放り出された恵を追いかける。

 

「くそ・・・頭回んねぇ・・・!」

 

呪霊が恵に攻撃を仕掛けようとした時、(たつみ)は呪霊の頭に乗り、怨念刈りを突き刺した。

 

【おおぉぉぉおぉ・・・】

 

(浅い!!つーか固ぇ!!)

 

しかし、呪霊の皮膚が余程に固いのか、怨念刈りの刃では、脳まで達することは叶わなかった。呪霊は(たつみ)を叩き潰そうと、自分の頭を叩いた。(たつみ)は呪霊にしがみつきながら、その打撃を躱し、その手に怨念刈りを突き刺す。呪霊は怨念刈りが突き刺さった手を振るい、(たつみ)を地面に叩きつける。

 

「ぐあ・・・!」

 

「和倉!!」

 

呪霊が(たつみ)にもう一撃喰らわせようとした時、悠仁が駆け付け、呪霊の胴体を殴った。

 

「虎杖!」

 

「バカ・・・!あいつら連れて逃げろってのがわかんねぇのか・・・!」

 

「お前だって、ヤベェじゃねぇか!」

 

呪霊は攻撃を避けて自分の腕を掴んできた悠仁を振り払う。その隙を狙って起き上がった(たつみ)が怨念刈りを振るうが、呪霊は4本ある腕の1つを使って、斬撃を受け止めた。追撃に悠仁が呪霊の身体を登り、蹴りを放って呪霊の目を潰した。

 

「呪いは呪いでしか祓えない!お前じゃ勝てないんだ!!」

 

恵の言うとおり、呪霊は呪いでしか祓えない。その証拠に、悠仁の蹴りは呪力が籠っていないためにすぐに復活する。さらに呪霊の皮膚は非常に固く、怨念刈りでは決定打のダメージが入らない。悪い状況は続く。

 

「和倉!早く虎杖たちを連れて逃げろ!今のお前じゃ無理だ!!」

 

「そしたらお前は死ぬだろ!!そんな指示聞いてられるか!!」

 

「えっと・・・名前わからんけど、そいつの言うとおりだよ!今帰ったら、夢見悪ぃんだよ!それにな・・・」

 

悠仁の頭に浮かび上がるのは、倭助の遺言だ。

 

『人を助けろ』

 

「こっちはこっちで、めんどくせぇ呪いにかかってんだわ!」

 

呪霊は悠仁と(たつみ)に向かって両拳を振るう。2人は躱すことに成功したが、呪霊の腕は4本。もう1つの右腕で悠仁を殴り飛ばし、宙に浮かばせる。その際に、彼が持っていた指が彼の手から離れ、上空を舞う。悠仁はそれを取ろうとしたが、呪霊の前右手に掴まる。

 

「!虎杖!!」

 

(たつみ)が気を取られた隙をついて、呪霊は後左拳で彼を地面に叩きつけ、彼を拘束する。

 

「ぐあ・・・!くそ・・・離せこの・・・!!」

 

呪霊は後左手で(たつみ)押さえつけながら、前左手で指を取ろうとする。悠仁は奪われまいと呪霊の顔を蹴り上げ、歯で指を受け止める。

 

「!!バカ!!俺によこせ!!お前も食われるぞ!!」

 

呪霊は呪物を喰らおうと、悠仁ごと口に運ぼうとする。悠仁は何とか足で踏ん張り、食われまいとするが、前両手も合わさり、食われるのは時間の問題だ。(たつみ)はそうはさせまいと脱出を試みようとするが、呪霊の拳はかなり力が込められており、脱出が困難だ。絶体絶命のピンチ。そんな時に、悠仁の脳裏に、ある恵が言った言葉を思い出す。

 

『食ってどうすんだ?うまいのか?』

 

『バカ言うな。どうしてそんな発想が出てくんだよ』

 

『より強い呪力を得るためだ』

 

呪力を得る。その言葉が頭によぎり、悠仁はとんでもない賭けに出る。

 

「あるじゃねぇか!!全員助かる方法!!俺に呪力があればいいんだろ!!」

 

悠仁は歯で掴んだ指を宙に放り投げ、それを自分の口の中に運ぼうとしている。そう・・・悠仁が出すとんでもない賭けとは・・・特級呪物を喰らい、呪力を得るというものだ。

 

「!!お前・・・まさか・・・それを食う気か!!?」

 

「!!やめろ・・・やめろぉ!!!!」

 

悠仁の賭けに気付いた(たつみ)はひどく驚愕する。恵は非常に焦った様子で悠仁を止めようと声を荒げるがもう遅い。悠仁は宙に浮かぶ呪物を口に入れ、それを飲み込んだ。

 

「ま、マジで食いやがった・・・!」

 

あんな不気味な代物を口に入れ、飲み込んだ悠仁に(たつみ)は驚かされっぱなしだ。それとは対照的に、恵の心境はかなり焦っている。恵が焦る理由・・・それは、あの指が人体に害を成すものだからだ。

 

(両面宿儺の指・・・特級呪物だぞ⁉猛毒だ!確実に死ぬ!!だが・・・万が一・・・万が一・・・!)

 

悠仁が死ぬ・・・それは恵の望むところではないが、もっと望まない万が一が存在する。そしてその・・・最悪の万が一が現れた。呪霊が悠仁を喰らおうとした時・・・

 

バァァン!!

 

悠仁は呪霊の前両手を両腕を振るって弾け飛ばした。さらに悠仁が呪霊を蹴り飛ばしたことで呪霊の体制が崩れ、(たつみ)も拘束から脱出できた。態勢が崩れた呪霊に悠仁は腕を振るった。

 

ザシュゥ!!!

 

振るった腕だけであれだけ苦労した呪霊があっけなく斬り裂かれる。その様子を見た(たつみ)は困惑し、恵も驚愕で目を見開く。

 

「・・・ケヒ・・・ケヒヒ・・・!」

 

呪霊を祓った悠仁は奇抜な笑い声をあげる。だが発せられている笑い声は、悠仁のものではなかった。彼をよく見てみると、顔や身体には不気味な文様が浮かび上がっており、両目の下には別の目が現れて、ギョロギョロと動いている。どう見ても普通ではない。

 

「くっくくくくく・・・あははははは・・・ギャハハハハハハハハハハ!!!!!!

 

悠仁?はゲラゲラと邪悪な笑い声をあげている。まるで別人のようだ。

 

「あああ!やはり!!光は生に感じるに限るなぁ!!」

 

邪悪な笑い声をあげた悠仁?は自身のパーカーをビリビリと破り捨てた。

 

「い・・・虎杖・・・?」

 

悠仁のあまりの様変わりに(たつみ)は理解できず、困惑している。だが、恵はこの状況下をよく理解している。最悪な状況だ。

 

(最悪だ・・・最悪の万が一が出た!特級呪物が受肉しやがった!!)

 

特級呪物、両面宿儺の真に恐ろしいのは、人体に取り込むと、その呪物が受肉し、宿主の意識を奪い取ってしまう点にある。そう、今の悠仁は悠仁ではない。1000年前に存在した生きた天災、呪いの王、両面宿儺なのである。

 

「呪霊の肉などつまらん!人は!女はどこだ⁉」

 

パーカーを破り捨てた宿儺はこの学校の屋上からよく見える仙台の景色を見て、ニヤリと笑っている。

 

「いい時代になったものだなぁ。女も子供も、蛆のように湧いている。素晴らしい!鏖殺だ!!」

 

ガシッ!

 

宿儺が愉快そうに笑っていると、奇妙なことが起きた。なんと宿儺が自らの頬を掴み上げ、彼は後ろに下がる。すると、宿儺の口から、肉体の主人核である悠仁の声が聞こえてきた。

 

「人の身体で何してんだよ。返せ」

 

「・・・お前、なんで動ける?」

 

「いや、俺の身体だし」

 

普通の人間が見ればこれは1人漫才をしているようにしか見えないが、明らかに普通ではない。足を踏み入れたばかりの(たつみ)でさえわかることだ。

 

(・・・抑え込まれる・・・)

 

表の出ていた宿儺の人格は悠仁の意思によって、抑え込まれていく。特級呪物が受肉した場合、普通は宿主の意識が出てくることはありえない。だが悠仁はあの宿儺を相手に軽々と意識を取り戻し、それどころか肉体の主導権を奪い返した。しかし、この変化を当事者以外が判別するのは非常に難しい。

 

「いったい・・・何がどうなって・・・」

 

現に何が何だかわからず、(たつみ)が困惑している。すると・・・

 

「動くな」

 

恵は悠仁に警戒を表し、戦闘態勢の構えを取っている。

 

「お前はもう人間じゃない」

 

「「は?」」

 

「呪術規定に基づき、虎杖悠仁・・・お前を呪いとして・・・祓う!!」

 

呪いとして祓う・・・それが意味するところは・・・悠仁を殺すということだ。

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