呪詛師集団Qとの戦いはあっという間に終わった。その証拠に爆発によって半壊された部屋に
「や、
「こっちは終わった。弱かったぞ」
「お疲れ。今紅茶を入れているんだ。飲むかい?」
「飲む。ついでにお菓子も食べよう」
「頼む!!話を聞いてくれ!!俺が悪かった!!ごめんって!!マジでごめん!!」
【チューしよう?】
「えっ!!???」
【チューしようよおおおおおおおお】
「うわああああああ!!!???」
複数の顔を持つ呪霊がコークンを押さえつけ、キスしようと迫っている。キスを迫られているコークンは何とか踏ん張ってキスを拒んでいる。
「はい、
「ありがとう」
それとは余所に
「この件から手を引く!!呪詛師もやめる!!」
【チューしようよ】
「もちろんQもだ!!そうだ!田舎に帰って米を作ろう!!」
呪霊からのキスが迫りつつもコークンは必死に訴えかけている。必死さが滲み出ているコークンの声に傑と
「「・・・?」」
「聞こえてるだろぉ!!??」
耳を澄ませて渾身の聞こえないふりをした。その姿にコークンはツッコミを入れる。
「呪詛師に農家が務まるかよ」
「仮に米を作ったとしてもまずそうだ」
「聞こえてんじゃん!!!」
【ねぇチュううううううう】
「学生風情が舐めやがって!だがここにはバイエルさんが来てる!Qの最高戦力だ!お前らもそいつらも・・・」
「おい。バイエルってこいつのことか?」
「え?」
「・・・・・・この人・・・ですね・・・」
呪詛師集団Q・・・最高戦力バイエル
●
場所は変わってボートレース競艇場。ここではボートレースに出場する選手とレースを観戦し、賭けを行う者が集まっている。そこの観客席には星漿体暗殺を受けたはずの甚爾が座っていた。今から始まろうとしているレース。甚爾は依頼受注の際に手に入れた手付金でこのレースに出場している有能選手に賭けている。
「急にいなくなったと思ったら・・・何やってんのよ?」
そこへスタイリッシュと
「金を増やしてんのさ」
「お前が勝ってんの見たことねぇよ。仕事はどうした?」
「うっぜぇなぁ。人を無職みてぇに言いやがって」
「無職でしょ」
スタイリッシュと
「
「ふーん」
「それに、仲介役として、クライアントに仕事ぶりを報告しなきゃならんのだよ」
「相手は五条家のボンに、禪院家の当主候補だぞ?のこのこ出て行った所でなんもできねぇさ。まずはバカ共を使って削る。てめぇらこそ仕事しろよ」
「したわボケ」
「あんたみたいなヒモニートに言われたかないわよ」
特大ブーメランともいえる甚爾の発言にスタイリッシュも
「ていうか何考えてんのよ?手付金を全額手放すなんて」
「だから削りだよ。心配しなくても全額返ってくるさ。このレースみたいにな」
甚爾がそう言い放つと同時に、レースが終わった。結果の方はというと、甚爾の敗けである。
「ちっ・・・!」
「おめぇは楽して稼ぐの向いてねぇよ。頼むぜ、術師殺し」
用が済んだことで
「ああ、そうだ。恵は元気か?」
恵という名前が出た時、甚爾は思い出してみるかのようなしぐさをする。
「・・・誰だっけ?」
ただ甚爾は思い出せず、そう返したのであった。
●
場所は戻りホテル。傑と
「目を覚まさないね」
「とりあえずは生きてはいるが・・・」
「一応医者見せる?」
「硝子みたいに反転術式を使えたらよかったんだけどねぇ」
「いや絶対無理だ」
「同感。あいつも何言ってるかサッパリだし」
反転術式・・・それは負のエネルギーである呪術を掛け合わせることで生のエネルギーを生み出す術式のことである。これは人間を治癒することに特化したものであるが、その習得は非常に困難である。その証拠に、現時点で反転術式を使える呪術師は硝子しか知らない。前に悟たち3人は硝子にコツを教わりに来たのだが・・・本人曰く・・・
『ひゅーっとやってひょいっだよ。ひゅーひょい。わかんない?センスねー』
とのことらしい。その時点で3人は反転術式の取得を半分諦めたほどである。どうしようかと頭を悩ませていると、気を失っていた理子が目を覚まそうとする。
「う・・・ん・・・」
「お、起きた」
目を覚ました理子の視線に映ったのは、自分をお姫様抱っこしている悟であった。少しの沈黙が流れ・・・
「オラアアアアアアアアア!!!!」
バチーーーン!!!
理子は悟の頬に強烈なビンタを繰り出した。術式も解いているからクリティカルヒットである。
「下衆め!!妾を殺したくば、貴様から死んでみせよ!!」
悟たちから距離を取る理子は構えながら無茶苦茶なことを言いだした。警戒している理子に傑が話しかける。
「理子ちゃん落ち着いて。私は君たちを襲った連中とは違うよ」
「嘘じゃ!!嘘つきの顔じゃ!!前髪も変じゃ!!」
理子の言葉に傑の笑顔に影が入った。ひとまず理子を落ち着かせようと、今度は
「落ち着け理子。私たちは敵じゃない。味方だ。ほら、お菓子あげるぞ」
「信じられんのじゃ!!菓子で釣られると思うたかこのマヌケめ!!」
パシッ!
理子にお菓子を持った手を跳ね除けられ、お菓子が床に落ちた。
ブチッ!!(怒)
お菓子を粗末に扱われた
「いいいやーーーーーーー!!!!不敬ぞーーーーーー!!!!!」
悟が右手を、傑が左手を、そして
「お、おやめください!!」
3人のクズ行為を呼び止めるのは理子の使用人の女性、黒井美里であった。彼女たちは傑の呪霊に乗っている。
「黒井!!うぎゃ!!」
クズトリオは黒井の言葉に従うように手を離した。これには当然理子は落ちて床と衝突する。
「お嬢様、その方たちは味方です」
「黒井・・・何に乗っておるのじゃ?」
「これは・・・前髪の方の術式です」
「その言い方やめてもらえます?」
特徴的な前髪をしている傑は黒井の言い方に若干ショックを受けている。
「『呪霊操術』。文字通り、取り込んだ呪霊を操れるのさ」
「思ってたよりアグレッシブなガキンチョだな。同化でおセンチになってんだろうから、どう気を遣うか考えてたのに」
「え?悟、気を遣うなんて人の心、お前にもあったんだな」
「あ?」
悟の発言に
「ふんっ、如何にも下賤な者の考えじゃ」
「ああ?」
「いいか?天元様は妾で、妾は天元様なのだ!」
理子は呪霊の身体の上に乗り、誇るように語りだす。
「貴様のように同化と死を混同している輩がいるが、それは大きな間違いじゃ。同化により妾は天元様となるが、天元様も妾となる!魂は同化後も生き続け・・・」
「待ち受け変えた?」
「井上◯香」
「私の待ち受けは最近行ったスイーツカフェのスイーツだ。うまかったぞ」
「え?どこだよそこ?今度俺も連れてけよ~」
「聞けぇ!!!」
が、3人は待ち受けの話で盛り上がっており、話をまったく聞いていなかった。
「あのしゃべり方だと友達もいないじゃろ」
「それは返って都合がよいのじゃ」
「快く送り出せるのじゃ」
「学校じゃ普通にしゃべってるもん!!」
とことんまで理子をいじり倒すクズトリオ。恥ずかしそうに頬を赤らめていた理子は急に思い出したような表情に変わる。
「あ・・・。学校!!黒井、今何時じゃ⁉」
「まだ昼前・・・ですが、やはり学校は・・・」
「うるさい!!行くったら行くのじゃ!!」
「「「?」」」
事情をよく呑み込めていない3人は疑問符を浮かべながらお互いに顔を合わせている。
●
廉直女学院。そこが理子が通う学校の名前であり、彼女はそこの中等部の学生である。学校に向かうと言って聞かない理子は現在は学校に、悟、傑、
「はあ!!??さっさと高専戻った方が安全でしょ!!??」
『そうしたいのは山々だが、天元様のご命令だ。天内理子の要望には全て答えよ』
夜蛾は悟に指示を出した後に通話を切った。悟からすれば面倒な指令に彼は苛立ち、舌打ちをする。
「ちっ・・・ゆとり極まれりだな」
「そう言うな悟。ああは言ってはいたが、同化後彼女は天元様として、高専最下層で結界の元となる。友人、家族、大切な人たちとは、もう会えなくなるんだ」
「それが星漿体に選ばれた者の末路だ。ならば彼女の好きにさせてやれ。それが私たちの任務でもあるのだから」
傑と
「お嬢様にご家族はおりません。幼い頃事故で・・・。それ以来私がお世話してまいりました。ですからせめて、ご友人とは少しでも・・・」
3人に頭を下げて嘆願する黒井に傑はにっこりととても優しい笑顔を向ける。
「それじゃあ、あなたが家族だ」
「・・・はい」
傑の優しい言葉に黒井は涙ぐんでいる。
「・・・家族・・・か・・・」
家族と聞いて、
「傑、監視に出してる呪霊は?」
「ああ。冥さんみたいに視覚共有ができればいいんだけどねぇ・・・それでも異常があればすぐに・・・」
「?どうした、傑」
傑の雰囲気が変わったことに
「悟、急いで理子ちゃんのところへ。
「ああ?」
「何があった?」
「2体祓われた」
傑の呪霊が2体祓われた。それ即ち、校内に刺客が現れたことを意味する。
●
4人は廉直女学院の校内に入り、校舎内を走っていく。
「天内は?」
「この時間は音楽なので、音楽室か礼拝堂ですね」
「レーハイドゥ⁉」
「音楽教師の都合で変わるんです。あとここはミッションスクールです」
「悟は礼拝堂、黒井さんは音楽室。私と
「承知いたしました」
役割分担が決まり、悟と黒井は礼拝堂と音楽室がある方角に、傑と
『ついてくるでない!!友達に見られたらどうするのじゃ!!』
「申し訳ありません・・・移動の度にメールするよう言ったのですが・・・」
「だから目の届く範囲で護衛させろってつったのに!あのガキ!」
愚痴を言っても始まらないので悟は礼拝堂に、黒井は音楽室へと急いで向かうのであった。だが皆は気づいていない。この様子を飛んでいる鳥形の人形が見ていたことを。
●
一方その頃ボートレース場の食堂。甚爾はここでテレビ中継のレースを見ながら昼食をとっている。マリーの注釈者としてこの場に残っているスタイリッシュはノートパソコンの画面を見て指をトントンと叩いている。ノートパソコンの画面には呪詛師御用達の闇サイトが開いており、その上に悟たちの様子が鳥形の人形を通して映し出されている。
「結構面白いことになってるわよ」
スタイリッシュは悟たちが写ってる画面を拡大させ、それを甚爾に見せる。
「なんだあいつら、高専に戻んなかったのか。ラッキーだな。これで賞金につられるのが、バカからまともなバカになる」
「・・・てか、本当にいいの?」
「何が?」
「賞金があんたに支払われる手付金3000万。星漿体がやられちゃったら、手付金はパー。下手したら、成功報酬もなし。あんたに依頼せずとも、初めから賞金を・・・という話になっちゃうわよ」
「あっちには五条悟がいるんだぞ?うん百年ぶりの六眼と『無下限呪術』の抱き合わせ。あいつが近くにいる限り、星漿体はまず殺せない」
「あんたでも?」
スタイリッシュの問いかけに甚爾は黙り込む。甚爾はたこ焼きを食し、周りが歓声を上げたことでテレビのレースに注目する。
「さあ、どうかな。それに面倒なのは五条悟だけじゃねぇ」
「・・・禪院
「あいつが厄介なガキなのは俺が1番知ってる。1本取られたこともあるしな」
「・・・へぇ?あんたが?意外ね」
甚爾がまだ呪術界の御三家の1つ、禪院家にいた頃に
「それに加えてあいつの術式。1本だろうがかすり傷だろうが、一発喰らえばお陀仏だ。できれば相手にしたくねぇな」
「・・・なるほど。それで
「五条悟と禪院
甚爾はお茶を取りに席を外そうとした時、一般男性とぶつかった。その際に彼が頼んだラーメンを落としてしまう。甚爾は謝罪せず、そのまま歩こうとする。
「おい・・・ちょっと待て・・・」
一般男性は物申そうとしたが、自分を見つめてきた甚爾の中に隠れた凄みに腰を抜かし、黙り込んだ。その様子を見ていたスタイリッシュはクスリと笑っている。
「・・・もちろん星漿体は殺せねぇから、ただ働きだ」
「時間制限を設けたのはよかったわね。ほら見て、呪詛師の集まりがスムーズよ」
「そんだけじゃねぇけどな」
「?」
「こっちの話」
テレビに映っているレースではどんでん返しが起こっており、周りが勝負の行方にどよめいている。
「ぼちぼち俺も向かう。思ったより展開が早そうだ。3000万、しっかり戻せよ?」
「ちょ・・・バカ言わないでちょうだい!その辺の匿名掲示板じゃないのよ⁉それにあたしは仲介人じゃなくて医者・・・」
「ここの代金、支払い頼むわ」
スタイリッシュの咎める声を聞かず、甚爾は1人でさっさと食堂を出ていった。
「んもう!やっぱりあいつ、好みじゃないわ!」
やり場のない怒りを抑えながら、スタイリッシュは開いたノートパソコンをそっと閉じるのであった。
●
廉直女学院の校舎内、傑と
「傑、アンノウンの正体はQの連中か?」
「もしくは、盤星教が送り込んだ呪詛師かもしれないね。もし後者なら、少し面倒なことになるな」
「非術師は下手に手を出せないからな」
話をしながら先へ進んでいると、眼鏡を掛けた作務衣姿の老人が待ち構えていた。
「おお、その制服は」
老人が札を取り出すと、札に呪力が溢れだし、呪力の一滴が滴り落ちる。呪力の一滴は形を成し、式神となる。その数2体。
「この老人、私たちの制服を見て多対二を想定した」
「そして自分の前後を式神で挟んだ。慣れてるね」
「媒介なし⁉呪力も術師のものとは異なる!まさか・・・呪霊操術か!」
「ご名答。さすが長生きしてるだけはあるね」
「いやあ、そう長生きするもんじゃないぞ。生きると生きるだけ金がかかる」
「だったら隠居して畑仕事でもしてろ」
「あいにく農家の才能はなくてのう。こういう仕事でなくては食っていけん」
傑と
(術式の格はあちらが上。だが思考は術式使いのそれだ。あの女の術式は不明だがあの佇まいからしておそらくは近接タイプだ。おまけに2人とも若い。考えてることが手に取るようにわかる)
老人が考察している間に
(やはりな。こういうタイプが前に出ることはまずない。男は近接戦闘が苦手。式神使いであるわしが近づいてくることはまずないと考えておる。近接嫌いが近接を警戒していない。この場で警戒するべきはあの女だ。それを見積もってもやりやすいことこのうえない)
「傑、あの老人、何かいろいろ考えてるらしいが・・・どう思う?」
「んー・・・そうだねぇ・・・意味ないね」
「同感だ」
余裕のある会話を交わし、まず前に出たのは
(やはりな。わしが今取るべき選択は、この女の隙を見て、あの男に・・・)
老人が召喚させた式神を前方に移動させ、これからの攻撃に備える・・・が、ここで
(なぬっ⁉)
まさかの敵前逃亡に驚く老人。そしてその隙をつくように傑が大きな口を開いた巨大な芋虫型の呪霊を召喚させ、老人に突っ込ませる。
(なっ!!初手の2体と女のフェイントはこれを想定させないためか・・・!)
ドオオオオオン!!!
芋虫型の呪霊はそのまま老人に突っ込んだ。あれだけの巨体だというのに、校舎の窓は傷1つついていない。
「さて、早く後1人を探しに行った
戦闘が終わり、傑が
ガッシャーーーン!!!!
先ほどの老人が窓をたたき割って傑の背後を取った。
「
老人がナイフで傑の首を掻っ切ろうとしたその時・・・老人の目の前には1匹の犬が視界に映った。
「あ・・・?太助・・・?お前太助か?」
この老人の両親は出来のいい弟にばかり金と時間を使い、呪いが見える老人を気味悪がった。その老人にも、屈託なく接してくれた友達というのがこの犬、太助である。だがこの犬はすでに死んでおり、もうこの世にはいないのだ。
(そうか・・・!)
老人がそれに気づいた時には、もう遅い。傑はナイフを振るおうとした老人の手を手刀で止め、さらにその手を掴んで動きを止め、老人の顔に拳を叩きつけた。さらに追撃として連続で老人に打撃を叩き込み、最後にアッパーを放って老人を倒した。そう、先ほど老人が見たあの光景は・・・走馬灯であったのだ。
「誘ったな・・・!」
「まぁね。あんたずっと私に近づきたくてうずうずしてたろ。勝ち方が決まってる奴は、勝ち筋を見つけると簡単に乗ってくる」
老人の敗因は、狙いを傑に定めていたこと、そして傑を舐めきっていたこと。これにつきる。
「そんなことよりあんた・・・Q?盤星教?」
傑は老人に近づき、質問を投げかけた。
●
一方、老人の相手を傑に託した
「お前、Q・・・じゃなさそうだな。Qは全員意味不明な制服を着てるからな」
「ああ?」
大柄な男は
「なんだ同業か・・・。てことはお前もボディガードか?今3000万のガキを見つけたんだ。邪魔してくんな」
「3000万?」
男の言葉からして、どうやら理子には何かしらのサイトで懸賞金がかけられているらしい。
「女を金のように見てるとは、小さい男だな。そんなに金が欲しいなら普通に働け。お笑い芸人とかが性に合ってる方だろう」
「わかってねぇなぁ・・・。術師でもない中坊を殺して3000万。こんなおいしい話があるか?それにな・・・人を殺して食う飯はうまいんだよ。今夜は鰻かな」
「そうか。くたばれ」
男が下衆な発言をすると同時に、
「なっ⁉速・・・⁉」
男は咄嗟に腕を交差させ、
「ちぃ・・・!舐めるなガキがぁ!!」
男は態勢を立て直し、
(い、一撃が重すぎる・・・!それに動きが速すぎて・・まるでついていけてねぇ・・・!!)
それでも男は負けじと拳を振るった。
キーンッ!!
「ごっ・・・!!」
この一撃によって男に隙ができ、
(つ・・・強すぎる・・・!術式もなしに・・・!)
術式を使わずに自分を圧倒する
「
「さすがは
「黒井さん、理子は?」
「五条様と一緒に学校を出ました」
「じゃあ、私たちも向かいましょう。少し面倒なことになっています」
3人が話していると、男は不敵に笑う。
「くくく、やっぱさっきのが3000万か」
男がそう言うと、ドロドロになって溶けて潰れた。おそらくこれは男の術式なのだろう。いや、既に術式は発動している真最中・・・と言った方がいいだろう。
「式神⁉」
「いや、式神とは少し違う」
「まぁ悟なら必要ないとは思うが・・・理子もいるし、一応援護してやるか」
「頼んだよ。・・・悟?」
●
学校より離れた建物の屋上。悟は理子の襟首をつかんで目の前の刺客を見つめながら傑の情報を聞く。目の前の刺客とは、
「天内の首に3000万の懸賞金?」
『ああ。呪詛師御用達の闇サイトで期限付き。明後日の午前11時までだそうだ』
「なるほどね」
やはり闇サイトで理子の首に懸賞金がかけられていたようだ。男の言う3000万とはまさにこのことを言っていたのだ。
「2、3、4人・・・みんな同じ背格好じゃ!式神か⁉」
「たく、呪術師は年中人手不足だってのに。転職するなら歓迎するよ、おっさん」
「いや、職安も楽じゃねぇだろ。そのガキ譲ってくれりゃそれでいい」
男が片手を上げると、同じ姿形をした男が現れた。これだけなら式神と思われてもおかしくない。
「増えた!5人じゃ!」
「どこかいいんだよ、こんなガキ」
悟が右腕を振れ挙げたその時・・・
「⁉うおおおおおおお!!」
目の前の男が引っ張られるように引き寄せられ、その後ろにいた男も引き寄せ、体と体がぶつかり合った。
ゴシャア!!!
男2人は骨が折れた鈍い音を鳴らし、地面に強く打ち付けられる。
「な・・・なんだ今のは・・・?」
いったい何をしたのか理解が追い付いていない男はただ唖然とするしかなかった。倒れた男が式神なら倒された時点で消えるのだが、男2人は消えなかった。
「式神が消えん⁉どれが本体じゃ⁉」
「式神じゃねぇ。分身だ。全部本体のな」
分身という言葉に反応した男2人は悟に攻撃を仕掛けようとする。だが、男が振るった拳は、悟に直撃する寸前でピタッと止まる。
「んだこれ⁉」
「『無限』。アキレスと亀だよ」
「ああ⁉」
「勉強は大事って話」
悟がそう言い放つと何かが近づいてくることに気付いた。その正体に悟はにっと笑う。
「パース」
「「うおおおおおお!!??」」
悟の術式によって分身男2人は何かに弾かれるように飛ばされる。飛ばされた先には・・・悟を援護しにきた
「葬る」
ザシュッ!!
「「ぐあああああああ!!」」
ドクンッ!!
「うっ・・・ぐあ・・・!」
分身の切り傷から呪いの文字が広がるように刻まれ、倒れた時にはピクリとも動かなくなった。
「な・・・なんだ今のは・・・?いったい何をしやがった・・・?」
「毒」
最後に残った本体である男は今の光景に驚愕している。男の疑問を答えるように、
「それは人体に悪影響を及ぼし、身体の機能を破壊し、最後は死に至らしめるウィルス。私の術式はその毒よりさらに凶悪な毒を相手に流し込み、死を齎す。発動条件は、『刀で対象に切り傷をつけること』。一撃で葬り去ることができる一斬一殺の呪毒・・・私はこの術式を、『一殺呪毒』と呼んでいる」
「解毒できない即効性、かすり傷だけでもアウトってんだから、大概チートだよね~」
ついに露になった
「一撃喰らっただけで死ぬ毒だと・・・?んなのありかよ!!?」
「あまりにも強力な術式ゆえ、術師戦においては基本格闘戦を用いて、術式を使用しないようにしている。・・・式神やお前みたいに分身を生み出す相手ならば話は別だがな」
「こいつが分身なのはわかっていたが・・・メカニズムはなんだ?教えてくれ」
「本体を含めマックス5体の分身術式。どれが本体かは自由に選択できるのさ。本体が危なくなったら安全な分身を本体にするって仕組みさ」
「なるほどな。破壊したらしばらく分身は出せないようだし、術式を使って潰したのは正解だったな。本体はすでに安全なものに移ったようだからな」
「いいもん持ってるくせに、なんでこんな弱いのか意味わからんけどね」
自分の手の内を話していないにも関わらずすらすらと術式を言い当てる悟に男は疑問をぶつける。
「なぜ俺の術式を知ってる?」
「おあいにく様、目がいいもんで」
悟は自分のサングラスを外し、それを宙に浮かせる。これによって悟の美しい青の瞳が露見する。
「俺の術式はさ、収束する無限級数みたいなもんで、俺に近づくものはどんどん遅くなって結局俺にたどり着くことはなくなるの。それを強化すると無下限・・・マイナスの自然数ってとこかな。マイナス1個のリンゴみたいな虚構が生まれるんだ。そうするとさっきみたいな吸い込む反応が作れる・・・でも意外と不便なんだよね~。あまり大きな反応は自分の近くには作れないし、指向性にまで気を遣いだすと、呪力操作がまー面倒で・・・」
男は悟の説明中に瓦礫を放り投げて攻撃するが、その瓦礫は悟に直撃する寸前で止まり、力なく落ちていく。
「ちっ・・・!」
攻撃が当たらず、分が悪いと判断した男は逃げようとする。
「要するに、超疲れるということだろ?」
「そそ。でもそれは、全部順転の術式の話」
「・・・理子、頭を守っておけ」
「?」
ビルに視線を向けたことで、悟が何をしようとしてるのか察した
ガッシャーーーン!!!
「!!??うあああああああああああ!!??」
先ほどまで屋上までいたのに、悟と理子は手を翳したビルに瞬間移動していた。その際に建物が損壊し、悟の目の前には逃げた男が瞬間移動によって引き寄せられていた。
「なっ・・・!!?」
「こっちは無限の発散」
悟は男に右手を前に突き刺し、人差し指と中指を向け、掌印を作る。
「術式反転―――"赫"」
悟の放つ術式によって、辺りの空気が赤に染まっていく。とてつもない鋭い空気に男は目を閉じ、衝撃を少しでも抑えようと腕を交差させ、身体を丸める。しかし・・・すぐに元の空気に戻り、悟は笑みを浮かべ・・・
「しっぱーーーい!!」
呑気な言葉を述べて男に顔面パンチを繰り出した。
「ぐああああああああ!!」
勢いのある拳を叩き込まれ、男は吹っ飛び、倒れる。周囲に浮いていた瓦礫やデスクは悟が術式を解いたことにより、一斉に床に落ちる。無限を生み出すことができる術式・・・その名も・・・
無下限呪術
全てが片付き、2人の元に
「できないことを気安くやるものじゃないぞ、悟」
「あれー?なーんかできそうな気はしたんだけどなー」
(マジでなんだこいつら⁉)
死を齎す呪毒を使う
「黒井からじゃ」
携帯を開き、画面を確認すると、理子は焦った表情になる。
「ど・・・どうしよう!黒井が!黒井が!!」
理子の携帯に映し出されたのは1枚の画像。そこには捕縛された黒井の姿がはっきりと映し出されていた。