黒井が攫われたという事実。それを知った悟たちは学院内に戻り、傑に事の詳細を聞く。傑が外に出る前に、黒井はこう言っていた。
『万が一ということがあります!夏油様の方が速い・・・先にお嬢様のところへ!』
刺客たちが狙っているのはあくまでも理子。黒井ではない。ならば悟たちと合流した方が合理的と判断した傑は黒井の言葉に了承した。しかしそれがミスだった。理子を狙う資格の中には、彼女の価値を理解している者がいたのだ。
「すまない・・・私のミスだ・・・」
「そうか?ミスってほどのミスでもねぇだろ」
「敵側にとっての彼女の価値を見誤っていた・・・」
「過ぎてしまったことは仕方ない。それよりも、今は黒井さんを救出する方法を考えよう」
過ぎてしまったことを悔やんでばかりもいられず、3人はこの後どうするべきかを話し合う。
「相手は次、人質交換的な出方で来るだろう。天内と黒井さんのトレードとか、天内を殺さないと黒井さんを殺すとか」
「だが交渉の主導権は理子がいるこっち側になる。取引の場さえ設けられれば、私たちでどうにかなるだろう」
「だな。天内はこのまま高専に連れていく。で、チェルシーに頼んで影武者として出れば万事解決だ」
「ああ。この状況であの人の術式ほど役立つものはないからね」
「私がチェルシーに連絡を・・・」
「ま、待て!!」
悟たちが作戦を考えている時、理子からストップがかかる。
「取引には妾も行くぞ!お前らはまだ信用できん!」
「ああ?このガキこの期に及んでまだ・・・」
「助けられたとしても!!私が天元様と同化するまでに黒井が帰ってこなかったら・・・?まだ・・・お別れも言ってないのに・・・」
理子はスカートを強く握りしめながら、涙を流しながら訴えかけてくる。事故で両親を亡くしてから、面倒を見てもらってくれた黒井。理子にとって黒井は本当の家族のような存在だ。そんな彼女だからこそ、彼女の存在がどれほど大きいかは理子の顔を見ればよくわかる。長い沈黙の中、悟が口を開く。
「・・・そのうち拉致犯から連絡が来る。もしあっちの頭が予想より回って天内を連れて行く事で黒井さんの生存率が下がる様なら・・・お前を置いていく」
悟の言葉を聞いた理子は目に溜まった涙を拭い、覚悟を決めた表情で頷く。
「わかった・・・それでいい」
「逆に言えば、途中でビビッて帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」
方針を固めた4人は黒井の救出のために行動に出るのであった。
●
そして今、目の前には青く澄んだ海、白い砂浜が広がっており、鮮やかなハイビスカスの花が咲いている。そして、関東よりも強い日差しが照らしている。そう、悟たちは今・・・
「「めんそーーーれーーーーー!!!!」」
沖縄を観光しているのであった。しかもすでに黒井は救出されており、ついでに言えば現在護衛は2日目となっている。混乱することを避けるため、ここまでに至るまでの説明をさせていただく。
まず昨日、21時に拉致犯から取引場所を沖縄に指定した。次に悟たちは空港に向かって、飛行機に乗り、翌朝に沖縄に到着。次に11時頃、拉致犯である盤星教信者から黒井を救助し、悟と
以上、状況説明終わり。今に至るというわけだ。
「まさか盤星教信者・・・非術師にやられるとは・・・自分が情けない・・・」
「不意打ちなら仕方ないですよ。私の責任でもある」
盤星教信者の非術師に捕まったことに自身を責めている黒井に傑がフォローを入れている。
「不意打ち・・・だったんですかね・・・。Qの一件で気を付けてたつもりだったんですけど・・・いまいち襲われてた時の記憶が・・・」
不意打ちで気を失ったと思われるが、黒井はその時の記憶があいまいでハッキリと思い出せないでいる。
「というか、飛行機で来たんですね?大丈夫だったんですか?襲撃とか・・・」
「悟は目がいい。あいつが離陸前に乗客乗員、機内外をチェックして、飛行中は私の呪霊で外を張りました。もし万が一があっても、機内でも素早く動ける
刺客たちが飛行機に乗っていないか確認し、飛行中が傑の呪霊が護衛したことにより、何の問題なく沖縄に到着できたが、傑が気にしてるところはそこではない。
「それより私は、沖縄を指定してきたことが気になります」
「時間稼ぎじゃないんですか?理子様を殺められなくても、明日の満月に間に合わないように」
「それなら、交通インフラが整っていない地方を選びます」
傑の言葉を聞いて、黒井はある可能性が頭に浮かんだ。
「まさか奴ら、空港を占拠するつもりじゃ・・・!」
「かもしれません。でも大丈夫」
万が一推察通りになったとしても心配はしていない。
「ここに来たのは、私たちだけじゃない」
なぜなら、不安要素の1つである空港の占拠を回避するために、高専の生徒が見張りをしているからだ。
●
沖縄の那覇空港内。人が集まっている広場には、高専の生徒が3人来ている。1人は金髪の男子生徒。1人は黒髪の男子生徒。1人は黒い短髪の女子生徒だ。この3人が怪しい者が来ないか見張りを行っているのだ。
「どう考えても、1年に務まる任務じゃない」
金髪の男子生徒の名は七海健人。東京都立呪術高専1年生で悟たちの後輩である。
「いまいちやる気が出ないなぁ。せっかくの沖縄なのに」
黒い短髪の女子生徒の名は禪院
「僕は燃えているよ!夏油さんにいいとこ見せたいからね!」
黒髪の男子生徒の名は灰原雄。東京都立呪術高専1年生で悟たちの後輩である。傑を尊敬している人物でもある。
「それに、いたいけな少女のために、先輩たちが身を粉にして頑張ってるんだ!僕たちが頑張らないわけにはいかないよ!」
「台風が来て空港が閉鎖されたら頑張り損でしょ」
「もしそうなったらここの名物お菓子買い漁ろうかな」
1年生3人組はいろいろな思いを抱えながら、自分たちの与えられた役目を全うするのであった。
●
そしてその身を粉にして頑張っているという先輩はというと・・・
「ぷははははは!!ナマコナマコーーー!!」
「キモッ!!キモなのじゃーー!!」
理子と共にナマコをぐにぐに触って大爆笑をしている。
「浮かれすぎだぞ、悟、理子。今回は盤星教信者だけだからよかったが、この先何が起こるのかわからない。常に警戒を怠るなよ」
あまりに浮かれすぎている悟と理子を注意するように
「お前も十分浮かれておるのじゃーー!!」
「つーかなに食ってんだよ?俺にも食わせろー!!」
「これは私のだ。やらんぞ。欲しいなら自分で買え」
「んなケチケチすんなよー」
「食わせるのじゃー!」
「やらん」
浮かれた格好をしている
「いいんでしょうか観光なんて・・・」
「言い出したのは悟ですよ。あいつなりに理子ちゃんのことを考えてのことでしょう。でもそろそろ・・・」
時間的にもそろそろ戻った方がいいと考える傑は悟たちに声をかけてきた。
「悟ー!
「あ、もうそんな時間か」
「なら観光はここまでだな」
帰ると聞いて理子は少し寂しそうな表情を浮かべた。悟はその様子を見て・・・
「・・・傑ー、
バカンスの延長を提案した。それを聞いた理子はさっきと打って変わってパーッと明るい表情になった。
「だが・・・」
「いいのか?」
「天気も安定してんだろ。それに、東京より沖縄の方が
「「もう少し真面目に話して(くれ)、悟」」
悟のふざけた呼び方に傑と
「
「確かにそうだが、問題はそこじゃない。問題はお前の方だ悟」
「ああ?俺?」
「
そう、今ここで問題となっているのは理子の方ではなく悟の身体の方だ。無下限呪術は非常に強力な術式だがデメリットもある。下手をすれば脳が壊れて死ぬこともありうる。そうならないための六眼だ。その力を昼夜問わず使い続けるのはいくら悟でも疲れが生じる。しかも睡眠をとらないから余計にだ。コンディションを整えるためにもここに留まるのは得策ではない。悟は傑の胸を叩く。
「問題ねぇよ。桃鉄99年やってた方がしんどかったわ」
「だが・・・」
「それに、お前らもいるしな」
自信満々に答える悟に傑と
●
那覇空港で警備をしている
「七海、灰原。滞在期間1日伸ばすって」
「本当だね!何かあったのかな?」
「・・・・・・」ビキッ!(怒)
●
5人はせっかくやってきた沖縄観光をめいいっぱい楽しんだ。カヌー体験をしたり、沖縄の観光スポットを回ったり、昼食の際には悟が悪ふざけをしてみんなで笑ったり、水族館に行ったりと・・・たった1日の観光を楽しんだ。これが護衛任務であるということも踏まえても、この思い出は、3人の青春の1ページとなり、記憶に残り続けるであろう。
●
護衛3日目、沖縄の観光を終えた3人は理子と黒井を連れて、高専内部である筵山麓を歩いていた。時刻は15時・・・闇サイトで掲載されていた懸賞金のタイムリミットは11時。つまり、懸賞金は取り下げられ、高専にまでやってきたことによって、安全は確保されたも同然だ。後は理子を高専最下層まで送り届ければ、3人の任務は完了だ。
「みんなー、お疲れ様。高専の結界内だ」
「ふぅ・・・これで一安心じゃな」
「ですね」
理子と黒井が息を整えている中、悟はぶすっとした表情をしている。この任務に置いて最高の貢献者は悟るであろう。なぜなら本当に昼夜問わず術式を解かないで理子を守っていたのだ。3人の中で1番疲れているはずだ。
「悟、本当にお疲れ」
「任務が終わったら、悟の好きなものを食べに行こう。私の奢りだ」
今もまだ術式を使っている悟に傑と
「・・・ふぅー・・・二度と御免だ、ガキのお守りは」
「あ?」
悟は安心して術式を解き、悪態をついたその時・・・
ザシュッ!!!
「「「「!!???」」」」
突如として、悟の胸から刃が突き出た。背後を見てみると、口元に傷がついた大男が刀で悟の背中を刺していた。
(バカな・・・!!ここは・・・高専結界の内側だぞ!!?)
高専には常に結界を張り巡らせている。何者かが高専に入ればすぐに結界が反応するはずなのだ。だが結界には何の反応もなかった。傑はそのことに驚いているが、
「なぜ・・・お前がここにいるんだ・・・甚爾!!」
悟を刺し貫いた男とは・・・理子の命を狙いに来た伏黒甚爾であった。この展開こそ、甚爾が狙っていた計画そのものだったのだ。
伏黒甚爾・・・旧姓、禪院甚爾がまだ禪院家に籍を置いていた時、同じく御三家の1つ、五条家の跡取りである悟を面白半分で見に行ったことがある。当時、悟の背後に立った甚爾が後にも先にも気取られたのは、彼と一瞬だけ目が合った時だった。まだ子供だったにもかかわらず、凄まじい凄みだったからこそ、甚爾は悟がどれほど危険な存在であるかを理解していた。
だからこそ削った。悟の神経が鈍るまで。そして、悟が術式をその瞬間を狙い、甚爾は刀で悟を刺し貫いたのだ。背中から胸を刺し貫かれた悟は身体に走る激痛に耐えながら、甚爾に顔を向ける。
「
「気にすんな、俺も苦手だ・・・男の名前を覚えんのは」
悟はすぐさま術式を使って甚爾を吹き飛ばす。そして傑が巨大芋虫の呪霊を召喚し、畳みかけるように甚爾を丸のみにする。だがまだこれで終わったわけではない。特に、同じ禪院家で過ごしてきた
「「悟!!」」
「問題ない。術式は間に合わなかったけど、内臓は避けたし、その後呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった。ニットのセーターに安全ピンを通したようなもんだよ。マジで問題ない」
胸は刺し貫かれたものの、内臓には直撃しておらず、術式で刃を引かせなかったため、大した致命傷にはならなかったようだ。
「それより天内優先。あいつの相手は俺がする。傑たちは先に天元様の元まで行ってくれ」
ここで3人で戦った方が甚爾に勝てる可能性はある。だが今優先すべきは理子の命だ。安全を考慮するならば、ここは分断した方が得策だ。
「油断はするなよ!行きましょう!」
「誰に言ってんだよ」
傑は2人の身の安全を優先し、この場を悟に託し、2人を連れて先へと進む。
「悟!甚爾は『天与呪縛』・・・『フィジカルギフテッド』だ!決して隙を見せるな!じゃないと死ぬぞ!!」
天与呪縛・・・それはこの世に生を受けた者の中に、生まれながら強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にするという縛りを持って生まれた者たちに課された縛りの総称のことである。その天与呪縛の中でフィジカルギフテッドと呼ばれるものは呪力を全く持たない代わりに人間離れした身体能力を手にした者たちのことである。甚爾はこのフィジカルギフテッドに当てはまっている。
「なんかおかしいと思ったらやっぱそういうことかよ。けど問題ねぇよ。俺・・・最強だから」
悟はサングラスを外し、芋虫型の呪霊を内部から切り裂き祓った甚爾と対峙するのであった。
●
最下層へ向かう昇降口へと走って向かって行く
「このまま天元様がいる薨星宮へ向かいます!急いで・・・!!?」
「!!」
高専へ向かって行くと、突如として背後に膨大な呪力を感じ取り、立ち止まる傑と
「ど、どうしたの・・・」
「伏せろ!!!!」
ひゅんっ!!ドオオオオン!!
何かが4人の真上を通り抜け、飛んできた何かは爆発を引き起こした。4人は何かが放たれた先に視線を向ける。すると、木陰より人影が見えた。人影はこちらに近づいてきて、その姿を現した。
[十王の裁き、6番。泰山砲]
現れたのは、フリフリな青いドレスを着込んだ金髪の女性であった。しかしこの女性を人間と呼ぶにはどこか違和感があり、声も機械音で左腕には呪具らしき大砲が装備されている。
(こいつ・・・どこから入ってきた!!?結界はどうなっている!!?)
目の前の女性が結界に反応させずにどうやって高専に入ってきたのか驚愕しながら疑問を浮かべる傑。4人は女性を見ながら起き上がる。
「・・・傑、ここは私に任せて、お前は理子を薨星宮へ」
「しかし・・・」
「ここには黒井さんもいることを忘れるな!!」
「・・・っ!」
「・・・
「死ぬつもりはない」
傑の言葉を聞き、
[十王の裁き、3番。宋帝刀]
(大砲とは違う呪具・・・いったいどこから・・・?見れば見るほど不気味な奴だ・・・)
「!!」
[十王の裁き、2番。初江飛翔体]
女性を斬ったことで違和感の正体に気付いた
ドオオオオオン!!
「ぐあ!!」
ミサイルの爆発でダメージを負った
(違和感があると思っていたがやはりそうか!こいつは傀儡!『傀儡操術』によって動く人形!)
そう、この女性は人間ではなく、傀儡操術という術式で動いている傀儡人形である。名をマクスウェルといい、操っている者こそが、
「・・・この傀儡の本体!聞こえているのだろ⁉お前も理子の命を狙っているのか⁉もう懸賞金は取り下げられたぞ!なのになぜ命を狙う⁉」
マクスウェルを操っている本体であるマリーに向けて、
[・・・私には何も見えない。何も聞こえない。だからあんたが何を喋っているのかもわからない]
「何?」
[だけど、私は呪力を通して、あんたが何を考えているのか、どんな感情を抱いているのかがわかる。大方、懸賞金は取り下げられたのになぜ星漿体を狙うのか、そう考えているのでしょう?答えは簡単。盤星教の依頼だから]
「盤星教・・・!」
マクスウェル、もといマリーが盤星教が雇った呪詛師だと知り、
[それから、懸賞金だけど・・・あれ、私たちがあえて取り下げさせたんだよ。あんたたちみたいに隙のない奴らには緩急付けて偽物のゴールをいくつも作っておく必要があるんだよ。盤星教の連中、沖縄行ったときは笑ったけど、周りの術師を殺せなかったのはクソだね。けど思惑通り、五条のお坊ちゃまは懸賞金を取り下げられるまで術式を解かなかったでしょ?つまり・・・あんたらは私たちの掌の上で踊らされてたってわけ]
「ならばそちらの有利をこちらが巻き返せばいいだけだ!」
[学習能力ないね。傀儡に毒は効かないって知ってるでしょ]
「お前の本体はおそらく結界の外だ。本体を探しに戻れば、お前はフリーになる。ならば操る傀儡を壊してしまった方が、理子を守ることにもなる」
刀を受け止められた
[・・・あながちバカってわけでもないか。でもそれは、絶対に叶わない]
マクスウェルは動揺せず左腕を大砲に変形させ、動き回る
「葬る!」
そして、
それは、0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪。その威力は平均で通常の2.5乗。これを狙って出せる呪術師はまずいない。だがそれを経験した者とそうでない者とでは呪力の核心との距離に天と地ほどの差がある。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間、空間は歪み、呪力は黒く光る。その名も・・・
「黒閃!!」
ドオオオオン!!!
(理子はちゃんと薨星宮に辿り着けただろうか?悟の方も気になるが、今はとにかく、理子の安全を・・・)
「ぐああ!!」
地面に着地して態勢を立て直す
[言ったはず。壊すことは絶対に叶わないと]
「な・・・!破片まで動かせるのか⁉それに、なんて素早い修復機能なんだ・・・!」
破片を動かしたことと素早い修復機能に驚いている
(傀儡でこれほどの動作能力・・・!それに、あいつ・・・見えない、聞こえないと言っていた。まさか・・・奴の本体は、甚爾とは真逆の天与呪縛なのか⁉)
[・・・あんたの考えてるとおり、私は天与呪縛によって視覚、聴覚が失われてる。だけどそれだけじゃない。嗅覚、味覚、触覚・・・人間が持つ五感。私にはその全てが奪われてる。それによって私は、膨大な呪力と傀儡の精密操作、そして、職人技を越えた製造技術を手に入れた。破片を動かし、マクスウェルが素早く修復できたのは、そういうこと]
マクスウェルを通して話すマリーは自分の手の内を
縛りとは誓約・・・守らねばならない絶対の項目。縛りを破ってしまえば己に罰を受けることになる。例えば、自身の能力が低下するなど、縛りによっては様々。縛りは術師にとって尤も重要な因子だ。そしてマリーは今、自分の手の内を明かした。これによってマクスウェルの動作能力が・・・さらに底上げされる。その結果、マクスウェルの突きがさらに速くなり、
「くっ・・・!」
[そしてこのマクスウェルは呪具を装備することによってその性能を遺憾なく発揮できる。呪具があればあるほどマクスウェルは・・・強くなっていく]
弾き返したタイミングでマクスウェルはいつの間にか大砲に変形した左手を
ドンッ!ドカアアアアアン!!!
大砲が発射され、砲弾の爆発が
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・」
[遊びは終わり。そろそろ終わりにしようか]
マクスウェルは大砲の左手を変形させ、自前の掃除機の呪具に変化させた。その掃除機より、多種多様の小型の呪霊が放たれた。
「!蠅頭まで溜め込めるとは・・・」
蠅頭とは四級にも満たない基本的に無害な呪霊である。大量の蠅頭によって、マクスウェルの姿が隠される。
「こんなもの!全て葬る!」
[捕まえた]
ザシュッ!!!
左手を刀に変形させたマクスウェルが突きを放ち、
[いくらあんたが強くて隙がなくても、こうしてボロボロになってしまえば、蠅頭で動きを制限されただけでいくらでも隙を生むことができる]
「・・・っ!!」
ザンッ!!!
だがマクスウェルは刀に変形させた右腕で
「がっ・・・!!」
血反吐を吐く
[若いうちに増長するのも悪くないけど、相手がよくなかった]
マクスウェルは両腕を振るうことで、刀にこびりついた血を振り払う。
[私はシュミレーションとかで試行錯誤するタイプの術師でね。最強相手にどう立ち回っていけるのかということを、常に考えているのよ・・・て、もう死んでるか]
マクスウェルは左腕を元の腕に戻し、右腕を何かの探知機のような呪具に変形するのであった。
●
高専の昇降機に乗った傑たちは地下深くまで下りていく。長い・・・長い降下が続ていき、やがて最下層に到着する。傑が先に進んでいき、理子がその後をついていく。
「理子様。私はここまでです」
理子を見送るという役目を終えた黒井の目元には涙が溜め込んでいる。
「理子様・・・どうか・・・どうか・・・!」
理子は黒井に近づき、涙を流しながら抱きしめた。
「黒井・・・大好きだよ・・・!ずっと・・・これからもずっと・・・!」
「・・・っ!私も・・・私も大好きです・・・!」
2人の涙ながらの別れの様子を、傑は憂いた表情で見ていた。
お別れを済ませ、理子は傑についていく。奥へと進んでいくと、数多くの建物が円状に並び、中心には巨大な大樹がそびえ立っていた。
「ここが・・・」
「ああ。天元様の膝元、国内主要結界の基底、薨星宮本殿」
そう、この場所こそが傑たちが目指した場所、天元の本拠地ともいえる日本国内主要結界の基底、薨星宮の本殿である。
「階段を下りたら、門をくぐってあの大樹の根元まで行くんだ。そこは高専を囲う結界とは別の、特別な結界の内側。招かれた者しか入ることができない。同化まで、天元様が守ってくれる」
「・・・・・・」
「・・・それか・・・引き返して黒井さんと一緒に家に帰ろう」
「・・・え?」
場合によっては任務放棄とも受け止められるような傑の発言に理子は反応し、思わず彼に顔を向けた。
「担任からこの任務の話を聞かされた時、あの人は、同化を抹消と言った。あれは、それだけ罪の意識を持てと言うことだ。うちの担任は脳筋のくせに、よく回りくどいことをする」
傑は優しい笑みを浮かべて、理子に顔を向けた。
「君と会う前に、悟と
傑は理子に出会う前に悟と
●
『星漿体のガキが同化を拒んだ時ぃ?そん時は・・・同化はなし』
『ああ。私も同意見だ。星漿体だって1人の人間だ。選択する権利はあちらにある』
『くく、いいのかい?』
『ああ?』
『何がだ?』
『天元様と戦うことになるかもしれないよ?』
『はっ、ビビってんの?』
『大丈夫。何とかなる。だって私たちは・・・3人で最強だからな』
●
「私たちは最強なんだ。理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私たちが保証する」
傑の言葉を聞いて、理子は目を閉じ、顔を俯かせて口を開く。
「・・・私は、生まれた時から
理子の脳裏にはこれまで過ごしてきた楽しい思い出、学校のみんなと過ごしてきた思い出・・・そして、大事な家族である黒井と共に過ごしてきた思い出が浮かび上がる。それが浮かび上がるたびに、理子は涙を流している。
「でも・・・でも・・・やっぱり・・・もっとみんなと、一緒にいたい・・・!もっとみんなと・・・いろんなところに行って・・・いろんなものを見て・・・もっと・・・!」
今まで偉そうに振る舞ってきた理子の心からの本心を聞き、傑は優しく微笑んで理子に手を伸ばす。
「帰ろう、理子ちゃん」
「・・・うん・・・!」
笑みを浮かべ、理子が傑の手を取ろうとしたその瞬間・・・
ドンッ!
出入り口の奥から弾丸が放たれ、理子は頭を撃ち抜かれた。目の前で死亡した理子に、傑は唖然となった。
「・・・理子ちゃん・・・?」
あまりの状況に理解が追い付いていない傑。すると出入口より
[星漿体死亡確認。これで私や伏黒の望みが叶う]
「はいお疲れー。解散解散」
さらにそこに、悟と戦っていたはずの甚爾までやってきた。やってきたマクスウェルと甚爾に傑は2人に交互に顔を向ける。
「・・・なんでお前らがここにいる?」
「ああ?なんでって・・・ああ、そういう意味ね」
[なんでここにいるのかって?・・・いや、それ以外のこともあるな。つまらないこと考えるね、あんた]
甚爾はニヤリと笑みを浮かべ、マクスウェルは淡々と、事実を告白する。
「五条悟は俺が」
[禪院
「[殺した]」
悟と
「・・・そうか。死ね」
今の傑は明らかに激昂しており、それが顔に表れ出ている。