呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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彼女に正義も悪もない。正しいも悪いもない。

信ずるものは己の価値観のみ。言うなれば自己中心的。

殺そうが殺されようが、全ては己の自己肯定に準ずるのみ。

例えそれが、愛する者の意にそぐわなくとも。

愛ほど歪んだ呪いはない。


懐玉ー肆ー

「五条悟は俺が」

 

[禪院赤女(あかめ)は私が]

 

「[殺した]」

 

「・・・そうか。死ね」

 

悟と赤女(あかめ)が殺された事実を聞いた傑は激昂し、殺した張本人である甚爾に龍型の呪霊、虹龍を、マクスウェルはゴリラ型の呪霊、エイプマンをぶつけさせた。マクスウェルはエイプマンに殴り飛ばされ、甚爾は虹龍に食われる。

 

[十王の裁き、4番。五官鞭]

 

だがマクスウェルは左手をウィンチに変形してアンカーを伸ばし、建物にひっかける。マクスウェルはアンカーに引っ張られるようにゴリラ型の呪霊から距離を取り、さらに右手に小型ミサイルを展開して、そのまま傑に向けて撃ち放つ。傑は向かってくるミサイルをイカ型の呪霊を撃ち放ち、全て相殺させる。そこへ甚爾は虹龍の口より手をのぞかせ、拳銃を傑に向け、発砲した。向かってくる弾を傑は呪霊を使って防御する。傑は飛び降り、虹龍が損壊させた建物内部に入り、虹龍を消した。虹龍によって立ち込めた土煙の中より、甚爾が現れた。

 

「焦んなよ」

 

甚爾は傷を負った様子は全くなくピンピンしており、余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「薨星宮と忌庫は隠す結界。入り口に見張りはおけない。扉の位置さえわかっちまえば、後はザル。この時期から術師は忙しくなるし、今高専には蠅頭が溢れている。外はてんやわんやさ。呪力のない俺は、透明人間みたいなもんさ」

 

甚爾は上階の廊下を歩いていくことにより、傑の視界から天井によって隠れていく。傑は足跡を頼りに上階を歩く甚爾に狙いを定めている。

 

「でも1つ問題があってな。俺が呪具を持つと、呪具の呪力で透明人間じゃなくなっちまう」

 

足跡が聞こえなくなり、傑は甚爾が立ち止まったであろう天井に狙いをつけ、イカ型の呪霊を撃ち放つ。イカ型の呪霊は天井にヒット。だが手ごたえは感じない。

 

「話の続きだ」

 

隣の建物に甚爾の声が聞こえてきた。傑がそちらを向くと、いつの間にかそこに甚爾が立っていた。

 

「俺は物を格納できる呪霊を飼っていてな。呪具はそっちに入れて持ち歩いてる」

 

廊下を歩く甚爾を傑は後を追うように廊下を歩き、彼を睨みつける。

 

「皆まで言うな。それじゃあ今度は呪霊の呪力で透明じゃなくなっちまうって言うんだろ?」

 

甚爾は自分の口に指を入れ、わざと胃の中のものを逆流させ、あるものを吐き出した。それが、先ほど甚爾が言っていた物を格納できる呪霊である。

 

「呪霊に自らの身体を格納させて、サイズを落とす。それを腹の中に落とす。透明人間は臓物まで透明だろ?これで俺は、あらゆる呪具を携帯したまま結界を素通りできる。初めに呪具を使わなかったのは、そういうことだ」

 

甚爾が話している間に、傑の背後よりマクスウェルが迫ってきた。その足跡が聞こえた傑はすぐに背後にいるマクスウェルに向けてイカ型の呪霊を弾丸のように撃ち放つ。マクスウェルは迫ってきたイカ型の呪霊を跳躍して躱した。

 

「一方で俺の相方はその逆。呪力が溢れ出ちまっている。でも今は呪力が消えてるんで不思議に思うだろ?」

 

マリーが甚爾とは逆の天与呪縛の持ち主ならば、本体である彼女が高専に入るわけにはいかない。マクスウェルも同様だ。呪力によって動く人形であるため、入った時点で結界が反応するのだ。ではなぜ結界が機能しなかったのか。その答えを甚爾が話す。

 

「あいつの背後には優秀なマッドサイエンティストがいてな。人形に纏った呪力を隠す装置を作ることなんざ朝飯前よ。そいつをオンにしてるから相方は透明人間ならぬ透明人形になれて、結界を素通りできる。でもこれも1つだけ問題があってな。呪具を使う際、その装置をオフにしなきゃいけなくて、透明人形じゃなくなる。だから相方はあらかじめ高専に入って、お前らが校舎に現れるそのタイミングまで、装置をオンにしていたんだ。どっちがやるにしても、六眼相手の奇襲は透明のままじゃないと意味ないからな」

 

屋上を歩くマクスウェルは左手を変形させ、刀の呪具へと変わる。その瞬間、吹っ飛ばされた際に消えていた呪力が一気に溢れ出てきた。

 

「星漿体から先にやってもよかったんだが、俺は禪院にいた時からあの女を知ってる。あの女と六眼の視界に回るにはリスクが・・・」

 

「もういい。天与呪縛だろ?術師同様に、情報の開示が術師の能力の底上げになることは知っている。私が聞きたいのはそこじゃない」

 

マクスウェルの呪力を感じ取った途端、傑は手に自身の呪力を纏わせ、甚爾は刃の呪具をちらつかせた。

 

「なぜ薨星宮へ続く扉がわかった?私たちは毛ほども残穢を残さなかった」

 

急いでいたとはいえ、傑たちは残穢を残さずにこの薨星宮までたどり着いた。それなのに甚爾とマクスウェルは薨星宮の扉を位置を把握し、侵入してきた。甚爾とマクスウェルはその答えを明かす。

 

「人間が残す痕跡は残穢だけじゃねぇ。臭跡、足跡・・・五感も呪縛で底上げされてんだよ」

 

[・・・私は伏黒みたいに鋭い五感はない。それどころか何も感じない。辿れるのは呪力だけ。あなたの考えてる通り、確かに残穢は消えてた。でも痕跡ってのは消したつもりでも限りなく残ってるもの。だからこそ呪具を使った]

 

マクスウェルの右手は変形し、何かの探知機へと変形した。

 

[ドクターが作り上げた10の呪具、十王の裁き。そのうちの9番、都市探知機。その効果は、生体と呪力・・・そして残穢の探知。これによって消えた残穢を辿ることが可能。呪縛の代償で五感がない私には必需品と言っても過言じゃない]

 

つまり甚爾は五感をフル活用して足跡や臭いで追跡、マクスウェルは探知機を使って消えた残穢を辿って薨星宮まで入ってきたのだ。

 

「途中に女性が1人いたはずだ。彼女はどうした?」

 

「ん?ああ、あのメイドか。多分死んでる。生かす気も殺す気もなかったけどな。運が良きゃ生きてんじゃね?」

 

甚爾が黒井にまで手にかけた。その事実を聞いた途端傑の湧き出ていた殺意がさらに強まった。

 

「そうか・・・やはりお前らは・・・死ね!」

 

傑は虹龍を召喚させ、甚爾に向けて突進させた。またも喰われそうになった甚爾は大剣の呪具で虹龍の口を塞いだが、そのまま上空に持ち上げられる。傑は上空に投げ出された甚爾に狙いを定め、イカ型の呪霊をガトリング砲のように撃ち放つ。甚爾は向かってきたイカ型の呪霊をバッタバッタと斬り倒していく。傑が甚爾にイカ型の呪霊を撃ち続けているところに左手の刀を構えたマクスウェルが接近する。傑はエイプマンを使役して、マクスウェルを殴り飛ばした。殴り飛ばされたマクスウェルは、右手を鉄球の呪具に変形させ、向かってくるエイプマンを迎え撃つ。

 

[十王の裁き、1番。秦広球]

 

マクスウェルが鉄球を放つ。迫ってきた鉄球をエイプマンはジャンプで躱し、拳を振るおうとする。しかマクスウェルが足の裏のブースターを点火し、拳を振るうより先に、素早くエイプマンに接近し、左手の刀で胴体を斬り裂いて祓った。マクスウェルが屋根に着地した瞬間に甚爾も屋根に着地する。その瞬間を狙い、傑は新たな呪霊を召喚し、屋根を揺らした。甚爾は跳躍して大樹を登り、マクスウェルはブースターで飛行して、建物の中から現れた1つ目の巨人の呪霊の攻撃を躱した。巨人の呪霊が消えた瞬間、マクスウェルに虹龍が迫る。

 

[十王の裁き、5番。閻魔槍]

 

マクスウェルは右手を巨大なドリルに変形し、そのまま虹龍の口の中に突っ込む。虹龍はマクスウェルのドリルによって身体を内側から貫かれていき、最終的に尻尾を貫かれて脱出したマクスウェルに刀で胴体を斬り裂かれ、地に落ちて祓われる。

 

(最高硬度の虹龍だぞ⁉)

 

[・・・呪力が至る所から出現してくることを察するに・・・呪霊操術使いか・・・]

 

見ることができないマクスウェルの本体のマリーは呪力を通じて傑が呪霊操術を操る術師だと推測する。虹龍が簡単にやられてしまったことに驚きつつも、傑はイカ型の呪霊を連射する。甚爾は大樹を伝ってイカ型呪霊を避け、飛んでいるマクスウェルは向かってきたイカ型の呪霊を刀で切り裂いていく。すると、マクスウェルは遠方より強力な呪力を感じ取り、さらに上空へ移動する。その瞬間・・・

 

ゴオオオオオオオ!!!ドカアアアアアン!!

 

凄まじい威力の破壊光線が通り過ぎ、天井を破壊する。甚爾が破壊光線が放たれた場所に視線を向けると、そこにはいた。ティラノサウルスのような姿をした骨だけで構成された巨大な呪霊が。この呪霊は傑が取り込んだ呪霊の中で1番の破壊力を誇る呪霊、デスタグール。

 

[十王の裁き、6番。変成弾道弾]

 

マクスウェルは両手を合わせ、両腕を大型ミサイル砲へと変形させた。狙いをデスタグールに合わせ、マクスウェルは大型ミサイルを撃ち放ち、ミサイルの上に甚爾が大樹より飛び移った。デスタグールは大型ミサイルに顔を向け、口より先ほどと同じ破壊光線を放った。破壊光線によって大型ミサイルは撃ち落とされたが、直撃寸前で跳躍した甚爾はデスタグールの懐に入り、大剣の呪具で身体全体を斬り裂いて祓った。

 

(バカなっ⁉最高の破壊力を持つデスタグールまでも⁉)

 

デスタグールまでもやられたことで傑は驚愕する。その間にも甚爾は傑がいた建物の中に侵入してきた。

 

「烏合だな」

 

甚爾が傑に近づこうとした時、甚爾の周りの空気が変わった。それに気がついた甚爾はちらっと遠くを見てみると、傑が事前に召喚していた人型の呪霊が立っていた。人型の呪霊は口を開き、甚爾にこう質問した。

 

【ねぇ・・・わた・・・私・・・きれい・・・?】

 

髪で隠れていた大量の目は開かれていた。この人型呪霊の名は口裂け女である。

 

(仮想怨霊・・・質問に答えるまで、お互いに不可侵を強要する簡易領域か・・・)

 

つまり、今のこの空間で口裂け女の質問を答えない限り、お互いに攻撃を繰り出すことはできないのだ。それに感づいた甚爾は質問の答えを返す。

 

「・・・あー・・・そうだな・・・ここはあえて・・・趣味じゃねぇ」

 

甚爾が質問に答えた瞬間、甚爾の髪の一部が切れ、耳も何かに切られたかのように血が流れる。よく見てみると口裂け女の手には糸切りばさみが握られており、甚爾の周りには巨大な糸切りばさみの刃が向けられていた。どうやら口裂け女の質問の答えを間違えると、問答無用で切りかかるようだ。

 

「・・・そういう感じね」

 

要領を理解できた甚爾は身体に巻き付けた呪霊から短刀の呪具を取り出し、素早い斬撃で周りの巨大な糸切りばさみを粉々に砕いた。

 

特級呪具、天逆鉾。その効果は、発動中の術式を強制解除させる。

 

「・・・バカが・・・」

 

一言呟いた甚爾の背後には傑が右手を翳して間合いに入っていた。だが間合いは完全に甚爾の攻撃範囲。分が悪すぎる。

 

「終わりだな」

 

「お前がな」

 

甚爾に巻き付いていた呪霊は吸収されるかのように、傑が翳した手に収束されようとしていた。

 

呪霊操術。降伏した呪霊を取り込み、自在に操る術式。階級換算で2級以上の差があれば、降伏を省き、ほぼ無条件で取り込むことが可能。降伏し、1つの玉となった呪霊を自ら飲み込むことによって、その呪霊を操ることができる。吸収されている呪霊は今、その呪霊玉となる段階に入っているのだ。

 

(能力は特殊だが、呪霊自体は強くない。取り込める。武器庫は抑えた。後は人形に警戒しつつ、物量で・・・)

 

呪霊が傑の手に収まろうとしていた時、予想外な出来事が起きた。呪霊玉になろうとしていた呪霊が、なんとそれを拒み、傑の手を弾いたのだ。

 

(なっ・・・!弾かれた・・・⁉)

 

パァン!

 

呪霊が降伏を拒否した例に驚愕する傑の背後から、一発の弾丸が彼の肩を撃ち抜いた。傑が弾丸が放たれた方角に視線を向けると、そこには口裂け女をドリルで貫き祓ったマクスウェルが立っており、この人形の口に銃が装備されており、銃口には煙が上がっている。先ほどの弾丸はマクスウェルが撃ち放ったものだったのだ。そして甚爾は天逆鉾を宙に放り投げ・・・

 

ザンッザンッ!!!

 

呪霊から刀を抜刀し、傑の胴体をクロス状に斬った。刀を呪霊に収め、天逆鉾を手に取り、傑を蹴り飛ばした。重症の傷を負い、気を失っているが、まだ死んではいない。あえて傑を生かしたのだ。マクスウェルが甚爾の目の前に降りてきた。戦闘が終わったのだと傑の呪力でわかったマクスウェルはしゅんしゅんと小さくなり、マリーが腕に付けていた着せ替え人形に戻った。着せ替え人形となったマクスウェルは呪霊の呪力を頼りに甚爾の腕にしがみつく。

 

[・・・まだ死んでない。でも懸命な判断]

 

「まぁな。術師が死なねぇ程度に斬りつければ十分だろ。式神使いなら殺したが、呪霊操術となるとな。死後、取り込んでた呪霊がどうなるかわからん。ここで面倒ごとは避けたい」

 

[・・・・・・]

 

「・・・?・・・あー、そうか。呪力がねぇから俺の考えも聞こえねぇか」

 

マリーが自分と会話する際、誰かと一緒にいないといけない理由がわかった甚爾は呪力がないのも考えものだと思い、頭をかく。

 

「・・・親に恵まれたな」

 

甚爾は傑に近づき、彼の顔を蹴り上げ、天逆鉾を呪霊に収める。

 

「だが、その恵まれたお前らが、呪術も使えねぇ俺みたいな猿に負けたってこと。長生きしたきゃ忘れんな」

 

気を失っている傑にそう言葉をかけていると、脳裏に小学生くらいの黒髪の少年の姿が浮かび上がり、呆然とした表情に変わった。

 

「・・・ああ・・・恵って・・・そうだったそうだった・・・俺が名付けたんだった」

 

甚爾は自分の息子の姿と名を思い出して笑みを浮かべ、理子の遺体の回収に向かった。

 

 

遺体を回収し終えた甚爾は高専から出て、時雨(シウ)たちが待っているであろう駐車場に戻ってきた。すると、着せ替え人形のマクスウェルは甚爾の腕から降り、とことこと時雨(シウ)の車まで向かって行く。

 

「星漿体は回収できたか?」

 

「ああ。呪霊(こいつ)の中に収めてある」

 

「お疲れ様。こっちも無事終わったわよ」

 

スタイリッシュの後に続き、マリーが車から出てくる。マクスウェルはマリーの腕に引っ付き、彼女は目を覆っていた包帯を外し、素顔を露にした。橙色の瞳を持っており、とても美しい顔つきだ。

 

「へぇ・・・なかなか別嬪じゃねぇの。金があったら是非同棲したいものだね」

 

時雨(シウ)やスタイリッシュの呪力を通じ、甚爾が発言した言葉に嫌悪感を抱いた。が、それも笑い飛ばせるほどにマリーは今、清々しい気分だ。

 

「キモクズが。でもまぁ・・・初めて青空も人の顔も見ることができたんだ。いい気分」

 

マリー・ユビキタス。天与呪縛によって失われてしまった五感。そのうちの1つである視覚を、スタイリッシュの手によって取り戻したのであった。

 

 

盤星教本部星の子の家。ここの応接室にやってきた甚爾はでこにコブが付いた男性、盤星教代表役員である園田茂に回収した理子の遺体を呪霊から出して差し出す。

 

「ほらよ。星漿体、天内理子の遺体。五体フルセットだ」

 

園田は理子の遺体を確認し、本当に死んでいるかどうかを確認する。

 

「ふむ・・・確かに。金の受け渡しは手筈通りに。多少色を付けよう」

 

「私はいらない。金は全部こいつにやってやってほしい。暗殺に成功できたのは、こいつの策あってのこと」

 

「お前さんも教祖様も、太っ腹だね」

 

「教祖じゃねぇよ」

 

「?」

 

園田を教祖と勘違いしている甚爾はともかく、散々金を渡してもらったにもかかわらず、さらに成功報酬まで払うという園田の姿勢に時雨(シウ)とスタイリッシュは驚いている。

 

「スタイリッシュに大盤振る舞いね。手付金だけじゃなく、必要経費まで協力してもらったのに」

 

「全くだ。むしろゴネられると思ったぜ」

 

「私たちはダメもとで君たちに暗殺を依頼した」

 

園田は盤星教が設立した経緯や非術師に徹する理由を語りだす。

 

「盤星教は奈良時代、天元様が日本仏教の広がりと共に、術師というマイノリティに道徳基盤を説いたのが始まりだ。呪術界と宗教法人の相性は最悪。その歪から生まれたのが、現在の盤星教時の器の会。だから我々は非術師の立場を徹している。様々な越権を許されてる術師も原則非術師には手を出せないからね。だが時が来てしまった。教典に示された禁忌(タブー)!!絶対的一神教へと成り果てた盤星教!!その対象である天元様と星漿体(けがれ)の同化!!」

 

マリーは相変わらず声は聞こえないが、僅かな呪力を通じて園田に・・・いや盤星教に纏わりついている狂気を感じ取った。

 

「教徒の手前、同化を見過ごせば会が立ち行かなくなる。かと言って行動が過ぎれば術師に潰される。もうヤケクソだったのだよ我々は。それがどうだ?失うはずだった全てが今や手中にある。財布の紐も緩むというもの」

 

園田は理子の遺体に布をかぶせ、どこかへ持って行こうとしている。

 

「天元が暴走して、人間社会が立ち行かなくなったとしてもかしら?」

 

「星と共に堕ちるなら止む無し」

 

理子の遺体を持って部屋を退室した園田に甚爾たちはやれやれと言った表情を浮かべている。

 

 

用が済んだ甚爾たちは盤星教本部の外に出た。この場にはもうすでにマリーの姿はどこにもなかった。

 

「あいつはどうした?」

 

「マリーなら先に帰ったわ。あたしたちと違って暇じゃないって吐き捨てたわよ」

 

「ひっでぇな」

 

悪態をつかれた甚爾は肩をすくめている。

 

「あ、そういや盤星教の協力って、沖縄の件か?」

 

「ええ、そうよ?それがどうしたの?」

 

「なんであの時、メイド殺さなかった?俺言ったよな?」

 

黒井が攫われ、悟たちが沖縄に出向くことになった要因。それは甚爾が1枚絡んでいたようで、本当ならば黒井は攫った後で始末する予定だったのだ。その時に甚爾が言ったことがこれだ。

 

『適当に遠く連れてって、適当に殺せ』

 

それで結局は殺されずに、薨星宮で始末することになった。そうなったのには理由がある。

 

「あの時、お前のプランがなんとなく理解できたからな。メイド救出失敗の緊張より、成功した時の緩みの方がでかいと判断した。上意下達をブラして、こっちの狙いをぼかすのは、散々やってきたことだろ」

 

「どのみち結果オーライだからいいじゃない。つか、仲介人と医者をこき使ってんじゃないわよ」

 

「いや、なんで沖縄なんだよ」

 

「それは俺たちも笑った。捕らえた人間運ぶなら普通車だよな。公共交通機関はリスク高いし」

 

「しかもなんとプライベートジョット。会長の私物なんだと」

 

「だとしてもだろ」

 

「金持ちは考えることのスケールが違う」

 

プライベートジョットとはいえ、公共交通機関を使っての沖縄移動。盤星教の協力のスケールが大きさ、なおかつ計画性のずさんさ加減に甚爾は呆れている。

 

「その金で飯食おう。接待に使ってる店、連れてけよ」

 

「へっ、やだよ。お前男に奢んねぇじゃん」

 

甚爾の食事の誘いを時雨(シウ)は笑って断った。

 

「お前らと関わるのはな、仕事と地獄でだけって決めてんだよ」

 

時雨(シウ)は吸い終わった煙草の火を靴で踏み消して、甚爾たちと別れた。

 

「じゃ、あたしも失礼するわ。うまく連携すれば実験材料が手に入るかもしれないし、盤星教にはもっと恩を売っときたいのよ」

 

スタイリッシュが盤星教に協力している理由は実験を行う際の実験材料を確保するためなのである。それも人体実験。そのためにうまくぼかして盤星教に恩を売り、実験材料である人間を手に入れようとしているのだ。

 

「じゃあね、術師殺しさん。運がよければ、また会いましょう」

 

スタイリッシュも甚爾に別れの挨拶を交わし、盤星教本部を後にした。1人残った甚爾ももうここには用がないため、さっさと帰ろうとする。出口に辿り着こうとした時、雲の切れ目から日光が降り注ぎ、甚爾の視界を一瞬塞いだ。視界が晴れると・・・

 

「よぉ。久しぶり」

 

「・・・・・・マジか」

 

自分が殺したはずの五条悟がそこにいた。

 

 

盤星教本部を後にしたマリーはマクスウェルに車の運転を任せ、自分の家に向かう道路を走っている。最愛の娘が待っている我が家に。

 

(・・・旦那の写真・・・家にあるかな?)

 

マリーの脳裏に浮かび上がったのは、警察官であった旦那にプロポーズされた時の出来事だ。正直、旦那が何を言っていたのかわからない。どんな顔をしていたのかもわからない。だが、呪力を通じて全て理解した。旦那は本気で自分を愛していたのだと。この人は自分を幸せにさせたいという気持ちが本気で伝わった。だから結婚した。だからマリーは殉職した旦那を、今も愛している。だからこそ、旦那の姿を見ることができなかったというのが悲しかった。生まれた娘の顔を見ることが叶わないというのが悲しかった。

 

だがそれも今日まで。ついに手に入れた視覚。ようやく、ようやくである。大好きな娘の顔を見ることができる。マリーは今、高揚感で溢れている。ただ早めに治しておけばよかったと若干ながら後悔の感情もあった。

 

(できれば旦那が生きてた時に、治したかったな・・・)

 

喜びもつかの間、マリーは途端にすっと引き締まった表情に変わった。呪力で殺気を感じ取ったのだ。

 

「マクスウェル」

 

マリーが指示を出したと同時に、マクスウェルは右手を刀に変形させ、その腕を天井に振るった。

 

ガキンッ!!

 

すると、天井に赤黒い刀が突き刺さり、マクスウェルの刀が突き刺さった刀を受け止めた。さらにマクスウェルは左手を変形し、車を切り裂いた。車の天井が開き、マリーとマクスウェルは車から脱出。

 

ドガアアアアアン!!!

 

車はガードレールに衝突し、爆発する。爆煙の中より、1つの人影が見えた。その人影を見て、マリーは驚愕で満ち溢れている。

 

「・・・お前がその人形の本体だな」

 

「・・・嘘でしょ」

 

爆煙の中から現れたのは、自分が殺したはずの赤女(あかめ)であった。

 

「あんた・・・なんで生きてる?」

 

「残念だったな。運がよかったんだ」

 

マリーが疑問を抱いていると、赤女(あかめ)の腕を見てさらに驚愕した。その腕はマクスウェルが斬り落としたはずだった。それが今、何事もなかったかのようにくっついている。マリーは気がついた。なぜ赤女(あかめ)が生きているのかを。

 

「反転術式!」

 

「その通りだ。腕を斬り落とされたあの瞬間、私は反撃することをやめ、反転術式の習得に全集中した。呪力は負のエネルギー。肉体は強化できても再生はできない。だから負のエネルギー同士を掛け合わせ、生のエネルギーを生み出す。それが反転術式。私も今までできたことはなかった。だが死に際で掴むことができたんだ・・・呪力の核心を。さすがに斬り落とされた腕を再生するまでの呪力がなかった。だが幸いにも腕は残っていたから反転術式でくっつけたんだ」

 

くっつけたと平然と言っているが、呪力で通してそれを聞いたマリーは驚愕しっぱなしである。反転術式は大量の呪力を消費する。それが欠損してしまったのならなおさらだ。それを復元ではなく接着だ。そんなことをした術師なんて今目の前にいる赤女(あかめ)以外いなかった。

 

「だが頭を狙われた時はまずかった。一撃で潰されてしまえば本当に死んでいたからな。本当に運がよかった。お前の唯一のミスは、私の首を斬り落とさなかったことだ」

 

脅威である赤女(あかめ)が反転術式で生き返った事実にマリーは冷や汗をかいていたが、不敵な笑みを浮かべている。

 

「・・・本当に驚いたけど・・・何も変わりはしない。あんた、マクスウェル『1体』で苦戦していたことを忘れてない?」

 

マリーがそう言うと、上空より違うドレスを着込んでいるマクスウェルが数体現れ、魚雷砲となっている両腕を赤女(あかめ)に向けている。

 

「十王の裁き8番!平等魚雷!てぇーー!!」

 

マリーの指示によって数多のマクスウェルは水陸両用魚雷を撃ち放った。向かってくる水陸両用魚雷を前に、刀を構える。すると、赤黒かった刀が、美しい白銀色へと変わっていく。

 

「反転術式によって得た生のエネルギー。それを私の一殺呪毒に流し込む。すると私の呪毒の性能が一気に変わる。順転が流す毒ならば、反転は逆流する毒。逆流した呪毒は人体ではなく・・・呪力に悪影響を及ぼす!」

 

ドカアアアアン!!!

 

魚雷は赤女(あかめ)の目の前で爆発を引き起こした。爆発によって立ち込める爆煙。すると・・・

 

バッ!!シュバババババ!!

 

爆煙より赤女(あかめ)が現れ、数多のマクスウェルを白銀の刀で次々と素早く斬り払った。

 

「術式反転―――"切一文字"」

 

赤女(あかめ)に斬られた数多のマクスウェルはバラバラに壊れていく。

 

(最初に戦った時よりも速い!術式能力を開示したことで能力を底上げしたのね。それだけじゃない・・・マクスウェルに送っている呪力が乱れて・・・斬られた個所が修復できない!これが・・・一殺呪毒の術式反転・・・!)

 

一殺呪毒の術式反転によってマリーの得意技である製造技術による修復能力が封じられたことによって、彼女はこう一言呟く。

 

「化け物め・・・!」

 

だが不思議と高揚感はある。命のやり取りをしているのはわかっている。だが今はそれが・・・心地がいい。

 

「・・・いいわ。だったらこっちも出し惜しみなんかしない!!完膚なきまでに、お前をぶち殺す!!!」

 

凄まじい殺気を晒しだしたマリーとさらに現れるマクスウェルは両手で印相を結んだ。出すつもりなのだ・・・呪術戦の極致を。

 

「領域展開―――"深淵舞劇"

 

マリーの術が発動すると同時に、周りの空間が真っ暗闇の演舞踏会会場へと変わった。

 

領域展開。術式の最終段階であり、呪術戦の極致。術師の生得領域・・・つまり心象風景を結界として具現化し、対象を閉じ込める。最終段階というだけあって、消費呪力も凄まじい。だがその分のメリットはある。

1つは『環境要因による術者のステータス上昇』。

もう1つは『領域内で発動した術者の術式の絶対命中』。

つまり・・・傀儡操術で動いているマクスウェルの攻撃は、絶対に必中する。

 

「踊れ・・・ダンス・マカブル(死の舞踏)!」

 

マリーがそう言い放つと同時に、赤女(あかめ)の間合いにいつの間にか2体のマクスウェルが入り、右が刀を、左がドリルで攻撃を仕掛けようとしている。普通なら回避するのだろうがここは領域内。攻撃は絶対必中、躱せない。ゆえに赤女(あかめ)は右のマクスウェルの刀を鞘で受け止め、左のマクスウェルは刀で突きを放ってドリルを破壊した。

 

(さすが特級・・・間合いに入っても簡単に防御できるか・・・。だけど有利なのは領域を展開しているこちらにある。必中の攻撃を叩き続けるまで!)

 

マリーの考えを汲み取り、左のマクスウェルは左手を速攻で鉄球に変形し、赤女(あかめ)を吹っ飛ばした。

 

「暗闇は光なき世界。闇はあらゆる光を真っ黒に塗りつぶす。私はそういう世界で今まで生きてきた。だから呪力を頼ってきた私には、この暗闇であんたがどこにいるのかがわかる!」

 

空中に放り投げられた赤女(あかめ)を数多のマクスウェルはさらに追撃。4体のマクスウェルは右手をウィンチに変形させ、放ったロープで赤女(あかめ)の両手両足を縛り付け、身動きを取れなくさせる。そして地上と空中に多くのマクスウェルが配置され、魚雷砲や大砲、ミサイル砲を赤女(あかめ)に向けた。

 

「一斉掃射ぁ!!!!」

 

バババババババン!!!ドカドカドカドカドカアアアアアアアア!!!!!

 

マリーの指示によって数多のマクスウェルは大砲、魚雷、ミサイルを全弾発射させた。全弾が全て爆発し、まともに爆発を喰らった赤女(あかめ)は爆煙から出てきて、地面に激突しようとしている。しかしそれさえも許さないように真下にマクスウェルが待ち構え、ドリルで貫こうとしている。と、ここで落ちていく赤女(あかめ)は驚くべき行動に出た。

 

ザンッ!!

 

なんと、自らの首筋に刀で切り傷をつけた。その行為にマリーは驚愕する。

 

(自分で自分を斬った⁉一殺呪毒の毒は自分にも流れ込む。やけになって自殺を図ったか・・・)

 

マリーは最初はただ自殺したと考えたが、その考えは間違いであるとすぐに気がついた。なぜなら赤女(あかめ)の身体から禍々しい気が膨れ上がったからだ。

 

「ぐあ・・・あああ・・・ああ・・・!」

 

(いや違う!!これは・・・まさか・・・!!)

 

強烈な苦痛から呻き声をあげる赤女(あかめ)だが、気力である程度の痛みを抑え込む。すると、身体から赤い紋様が浮かび上がってきて、開かれた赤女(あかめ)の白目が黒く染まり、赤い瞳が際立っている。

 

「一殺呪毒『極ノ番』。役小角(えんのおづの)

 

極ノ番。それは領域展開を除いたそれぞれの術式に備わった奥義。一殺呪毒の極ノ番である役小角(えんのおづの)の能力は、自分自身に瘴気を取り込み、強烈な激痛と引き換えに、超人離れした身体能力を得ることができるもの。その能力は・・・フィジカルギフテッド並み・・・いや、それ以上のものだ。

 

「全て葬る」

 

落ちていく赤女(あかめ)はドリルを構え、待ち構えているマクスウェルに真っ直ぐ向かって行き、そして・・・

 

ザンッ!!シュババババババ!!!

 

目の前のマクスウェルだけでなく、地上と空中にいる全てのマクスウェルを斬り払った。

 

(伏黒よりも・・・速い!マクスウェルが一瞬で・・・!いや、それよりも・・・)

 

これだけでも驚愕だが、重要なのはそこではない。周りのマクスウェルが攻撃したにも関わらず、攻撃が必中しなかった点だ。

 

(領域の必中効果が消えたわけじゃない・・・。あいつの周りにだけ当たらなくなっているんだ・・・!いうなれば・・・あいつ自身が、簡易領域!!)

 

通常領域に入ってしまえば攻撃は全て必中してしまう。だが領域内で、簡易領域を発動すると、領域の必中効果を中和することが可能なのだ。わかりやすく言えば簡易領域は・・・『弱者の領域』。領域を持たない者の唯一の領域対抗策なのだ。赤女(あかめ)は今、役小角(えんのおづの)を介して、簡易領域を発動しているのだ。だが役小角(えんのおづの)の発動時間は短く、長続きはしない。

 

(短期決戦・・・!ここで決めるつもりか・・・!)

 

またも不利な状況に陥ったマリー。だが彼女はこの状況でも、笑っている。

 

「元より出し惜しみなんかしないっつーの!!」

 

赤女(あかめ)が猛接近しようとした時、地面が揺れ始め、そこから巨大な何かが出現する。その何かとは・・・これまでに登場した十王の裁きをフル装備させた3つの両腕を持つ巨大なマクスウェルであった。その名もマクスウェル・エルダー。

 

「ぶっ殺せ!!!!!マクスウェル!!!!!!」

 

マクスウェル・エルダーに乗り込んだマリーはエルダーを操作し始める。まずエルダーは右中腕の大砲を接近する赤女(あかめ)に発射。赤女(あかめ)が砲弾を避けたタイミングで右下腕から発射された小型ミサイルが複数迫る。赤女(あかめ)は全ての小型ミサイルを斬り落とす。だがまだ終わりではない。エルダーは左中腕の鉄球を放つ。赤女(あかめ)は跳躍して鉄球を回避し、迫ってきた右上腕のドリルを真っ二つに斬り、鉄球の鎖を伝ってエルダーの核である頭部にいるマリーに向かって走り出す。

 

(すまない理子・・・お前を守り切れなかったのは、私たちの責任だ)

 

エルダーは登ってきた赤女(あかめ)を卸そうと、左上腕の刀を振り下ろした。赤女(あかめ)は高く跳躍することで刀の斬撃を躱した。エルダーはここが好機であるとし、空中にいる赤女(あかめ)に狙いを定め、小型ミサイル、大砲、左下腕の魚雷砲を発射する。赤女(あかめ)は向かってきた砲弾、ミサイル、魚雷を斬り払っていく。そのタイミング狙い、エルダーは胴体を開き、大型ミサイルを展開する。

 

(だからせめて・・・こいつを片付けて、お前の遺体を回収する!)

 

大型ミサイルは赤女(あかめ)向かって発射され・・・

 

ドカアアアアアン!!!!!

 

見事直撃した大爆発を起こす。だが赤女(あかめ)はこの爆発を利用し、爆風でエルダーの頭部へと急接近する。

 

「マクスウェル!!!」

 

エルダーは髪部位であるウィンチで赤女(あかめ)を捕まえようとする。赤女(あかめ)は刀を振るい、エルダーの顔ごと、ウィンチを斬り裂いた。エルダーの顔を斬ったことで、核であるマリーの姿が露見する。赤女(あかめ)は切り傷に入り、エルダーに侵入し・・・

 

「葬る」

 

ザンッ!!!

 

マリーの胸を赤黒くなった刀で刺し貫いた。

 

 

呪術師は不快な仕事だ。イカれた仕事だ。

 

うちの娘に、そんな嫌な仕事を見せたくなかった。関わらせたくなかった。

 

けどそれ以上に・・・呪術師として旦那と同じような死に追い込ませたくなかった。

 

娘には術師としての才能がある。正義感も強い。もし呪術界に娘の存在を知られれば、否が応でも関わることになる。

 

だから私は呪詛師に転じた。娘に関わる存在である術師は私にとっては全員敵だ。だからこれまでに術師を数えきれないほどに殺してきた。

 

目の前にいるこいつ(赤女)も同じだ。術師だから殺す。娘に術師を近づけさせないためにも。

 

・・・その時点で・・・私は負けてしまったんだ。

 

バカな考えは起こさず、呪術のない国を探しに行けばこんな事にはならなかった。

 

だけど・・・永遠に愛する娘の顔を見ることなく、何も行動しなかったら・・・私は一生後悔することになる。

 

そんなのは・・・絶対に御免だ。

 

 

胸を刀で貫かれたことによって、マリーは血を流し、口からも血が出てきた。一殺呪毒の毒だけじゃない。内臓も貫かれてるため、即死ではないにしろ、もう助からないのは明らかだ。

 

「・・・お前、最後に何か言い残したいことはあるか?」

 

赤女(あかめ)は最後の情けをと思い、マリーに遺言を聞こうとする。対するマリーはマクスウェルを通して話す。

 

[・・・ないよ、そんなもの。仮にあったとしても・・・あんた禪院でしょ。話したらどうなるかなんて・・・わかりきってる]

 

だからさと、マリーは最後の気力でマクスウェルを動かし、赤女(あかめ)をエルダーから押し返した。押し返された赤女(あかめ)の背後には、外に出るための領域の穴が開いている。

 

[敗者なんかに気を遣ってんじゃないよ]

 

「なっ・・・!!」

 

[敗者は消えて然り・・・あんたまで巻き込まれる必要は・・・ない]

 

マリーのその言葉と同時に、赤女(あかめ)は無理やり穴に入って領域から脱出された。赤女(あかめ)が領域の外の出たことを確認したマリーは背中をコックピットに持たれる。

 

(十王の裁き10番・・・五道転輪炉。その全貌は、自爆用爆弾・・・。これでいい・・・。私は十分やった・・・それで満足よ・・・)

 

その気になればマリーは赤女(あかめ)を閉じ込めたままにし、エルダーの自爆に巻き込ませることを可能だった。だがマリーはあえてそれをしない。なぜなら、彼女の価値観によって自分に課した縛り。それを破ることは、自分自身を否定することと同然だからだ。

 

(ああ・・・でもやっぱり・・・悔しいなぁ・・・後ちょっとだったのに・・・)

 

薄れゆくマリーの意識。命の灯が消えようとしている彼女が想像したのは・・・生まれた娘を抱きかかえて微笑ましい笑顔を浮かべる自分自身だった。

 

(ひどいお母さんでごめんね・・・。でも・・・あなたに向ける愛・・・それだけは本物よ。愛してるわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のかわいい娘、セリュー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリー・ユビキタス。最後の最後まで自分の娘を思い、潔くその命を散らせたのであった。

 

 

ドカアアアアアン!!!

 

赤女(あかめ)が領域の外に出た瞬間、エルダーは自爆によって大爆発を引き起こした。爆発が迫ってきたが、領域の穴が閉ざされたために赤女(あかめ)に届くことはなかった。領域は・・・完全に消えた。

 

「あいつ・・・」

 

赤女(あかめ)はマリーに対して、複雑な心境を抱いた。これまで幾度もの呪詛師に会って来たが、彼女ほど潔い呪詛師は他にいなかったからだ。

 

「・・・ぐっ・・・!」

 

思いふけっていると、身体中に激痛が走った。これによってふらつき、倒れようとしたが、誰かに肩を掴まれ、支えられた。赤女(あかめ)を支えているのは、驚いた顔をしている傑だった。

 

「・・・赤女(あかめ)・・・なのか?」

 

「傑・・・硝子には会えたんだな・・・」

 

「あ、ああ・・・。治してもらった。私は問題ない。しかし・・・いったい何があったんだ?」

 

「詳しいことは・・・後で話す。それよりも今は・・・理子の回収の方が先だ」

 

「あ、ああ・・・」

 

何が起きたのかわからない傑は、赤女(あかめ)の言うとおりだと思い、呪霊を召喚する。召喚した呪霊に赤女(あかめ)を乗せたところで、自分も乗り込み、盤星教本部に向かうのだった。

 

 

盤星教本部に辿り着いた傑と赤女(あかめ)は入り口に向かって走っていく。その道中で、2人はあるものを見つけた。それは・・・甚爾に巻き付いていた物を格納できる呪霊だった。

 

【~~~・・・】

 

「これは・・・甚爾が飼っていた呪霊・・・」

 

なぜここに甚爾の呪霊だけがいるのか。飼い主の甚爾はどうなったのか。赤女(あかめ)はわけがわからなくなり、頭を抱える。

 

「いったい・・・何がどうなっている・・・?」

 

疑問符を浮かべている赤女(あかめ)に対し、傑は一言も発さず、ただただ険しい表情を見せた。

 

 

本部内部に侵入した傑と赤女(あかめ)は地下へと降りていき、とある部屋に続く扉に辿り着いた。傑がその扉を開けた。その先に広がっていた光景は・・・

 

パチパチパチパチパチパチ!!

 

盤星教信者の盛大なる拍手であった。拍手している信者の視線の先には・・・白い布に包まれた理子の遺体を抱えている悟がいた。

 

「遅かったな傑、赤女(あかめ)。いや、早い方か。都内にいくつ盤星教の施設があるって話だもんな・・・」

 

「・・・悟・・・だよな・・・?」

 

「い・・・いったい・・・何があった・・・?」

 

目の前にいるのは間違いなく悟ではあるが・・・昨日までとは明らかに異様な雰囲気を漂わせている。その姿に傑と赤女(あかめ)は思わず気圧されそうになる。

 

赤女(あかめ)、お前も反転術式使えるようになったんだな」

 

「あ、ああ・・・。おかげで腕もくっついた。問題ない・・・」

 

力なくだらんと垂れている理子の遺体を見て、顔を俯かせる。

 

「・・・いや・・・全ては私の判断ミスだ・・・すまない・・・」

 

「いや・・・それを言うなら、私に問題がなくても仕方ないことだ・・・。赤女(あかめ)は悪くない」

 

「俺がしくった。お前らは悪くない」

 

「・・・戻ろう・・・」

 

目的は果たせた。もうこれ以上ここに用はないとし、傑は冷静さを何とか保ちつつ、戻ろうとする。

 

「傑・・・赤女(あかめ)・・・こいつら・・・殺すか?今の俺なら多分何も感じない」

 

自然と出た悟の言葉。その要因となっているのが周りの信者の拍手だ。これが何か喜ぶ行事であるならば何もおかしいことはない。ただその対象が、理子の死に向けられたものならば相当醜いものだ。1人の人間の死に対しての祝福。これほどまでに醜悪なものは見たことがない。赤女(あかめ)は醜悪な信者たちを見て、強い殺意を芽生えた。だが・・・『呪術師に非ずんば人に非ず』という禪院の家訓を思い出し、今ここで非術師を殺せば、今の禪院と同じになってしまう。それだけは避けたい赤女(あかめ)は拒否する。

 

「・・・やめておけ。やるだけ無駄だ」

 

「・・・赤女(あかめ)の言うとおりだ。意味がない」

 

赤女(あかめ)の反対に賛成するのは傑だった。

 

「見たところここには一般教徒しかいない。呪術界を知る主犯の人間はもう逃げた後だろう。懸賞金と違って、もうこの状況は言い逃れできない。元々問題のあった団体だ。じき解体される」

 

傑は冷静に論理的な根拠で悟を説得する。

 

「意味ね・・・。それ、本当に必要か?」

 

悟のその言葉と、周りの信者の拍手に傑は拳を強く握りしめる。

 

「・・・大事なことだ。特に・・・術師にはな」

 

傑の言葉と裏腹に、彼の心の中には・・・大きな闇が渦巻こうとしているのだった。




今回出た術式反転や極ノ番、領域展開の詳しい詳細は、次の話の投稿の後、設定に書く予定です。
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