呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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そういうこと

呪術師には個人の実力に応じ、特級を含めて1から4の等級が必ず割り振られている。しかし特級は名誉ある等級ではなく、不名誉の等級であるため、外枠から外れている。何せ特級になる条件というのが、『単独で国家転覆が可能』というものだ。つまり特級呪術師とは、『呪術界を脅かす脅威』ということに他ならない。楽厳寺が一般の呪術師の斜めに外れた存在と評しているのはそのためである。それゆえに、呪術界にとって最も最上位に立っている格付けというのが1級術師である。

 

呪術師の等級の昇格に必要なものは、自身の等級以上の等級の術師2名以上からの推薦。つまり1級術師に昇格するためには1術師からの推薦が最低でも2名以上必要なのだ。もちろん、それで無事昇級というわけではない。

 

「2名以上の1級術師から推挙された者は現役の1級、または1級相当の術師と共に幾度か任務をこなす。そこで適正ありと判断されれば、準1級へと昇級し、続いて単独での1級任務にアサインされる。その任務の結果いかんによって正式に1級術師になるか否かが決まるわけだ」

 

1級術師になるための条件を口にする東堂はブラートと共に卓球場にやってきた。2人はそれぞれマイラケットを取り出し、1ゲームをプレイする。

 

「ブラザーは絶対に推薦を受ける。宿儺が協力的でない以上、指との遭遇率を上げるため任務の危険度もあげねばならんからな。これが何を意味するかわかるかな?ミスターブラート」

 

東堂が打ち放つ投球をブラートは打ち返す。お互いに投球を打ち返し合い、ラリーを続ける。

 

「意味も何もそれが全てだろう?ミスター東堂」

 

続くラリーの中で、東堂はブラートが打ち返した投球をスマッシュで打ち返した。

 

「青い未来・・・つまりは東堂葵と虎杖悠仁が共に任務へ立ち向かう青い未来が存在している・・・ということ」

 

スマッシュが決まり、東堂は決まったと言わんばかりのキメ顔をしている。

 

「・・・いや・・・」

 

「皆まで言うな。同行する1級術師が俺とは限らない。そう言いたいんだろう?だがこれは確信だ。もげたりんごが地に落ちるがごとく、俺たちは惹かれ合う。そう、まさに・・・ディスティニー!」

 

東堂は悠仁と共に任務に赴けると信じ切っているようだが、ここでブラートは重大な事実を打ち明ける。

 

「ミスター東堂、お前は初の推薦だから知らないだろう?被推薦者が同行するのは推薦者以外の術師だ」

 

被推薦者が任務に同行できるのは推薦した者以外の術師であると聞いた東堂は虚無の表情を浮かべた。

 

「虎杖たちを推薦したは俺たちだからあいつらが同行するのは俺たち以外の術師というわけだ」

 

事実を聞かされた後はまさにゲームにすらならず、ブラートが11点を獲得し、卓球勝負はブラートの勝利だ。

 

「お疲れさん。先に上がらせてもらうぜ、ミスター東堂」

 

ブラートはマイラケットをしまい、先に卓球場から退室する。その後も東堂はショックで呆然と立ち尽くすばかりであった。

 

 

別日の東京の街。割り振られた任務を終えた高専1年ズは街中を歩いてる。4人は現在暇を持て余している様子である。

 

「俺映画行こっかなぁ。釘崎は?」

 

「まだ早いし、買い物でもするわ」

 

(たつみ)はどう?」

 

「学ラン修理出してから街プラプラするわ」

 

「お前ら元気だな。じゃ、俺は帰る」

 

「お疲れ~」

 

特に街を回る理由がない恵は伊地知の車に乗り、直で帰宅していく。

 

「はぁ~、終わった終わったぁ~」

 

「俺、映画行くけど、お前らどうする?」

 

「何の映画見るんだ?」

 

「ミミズ人間4」

 

「まだ続きあったのかよあのクソ映画!!」

 

つまらないの代名詞と言える映画、ミミズ人間に続きがあると知った(たつみ)は驚愕している。

 

「誰が見るか!!1、2、3も見てないし」

 

「いきなり4からでもいけると思うけど」

 

乗り気でない様子の野薔薇に悠仁はスマホを操作してミミズ人間4のPV動画を見せてあらすじを語る。

 

「今回は1作目で登場したマッドサイエンティスト、リヒター博士が待望の再登場するんだぜ!そんで博士の実験で生まれたミミズと人間の融合体、強化ミミズ人間が生まれちゃうんだって!」

 

「なんだそれ気持ち悪ぃ」

 

「初っ端からえぐいじゃねぇか」

 

「リヒター博士から命からがら逃げたかわいそうなミミズ人間が流れ流れて辿り着いたキャンプ場に大学生グループが来たところから物語が大きく動き出すらしくてさ!で、そのグループに1人動物の保護活動をしてる心優しい女の子がいて、その子とミミズ人間が恋に落ちる・・・。テーマはずばり・・・『愛』!!!!」

 

まるで映画評論家のように熱く語る悠仁に対し、(たつみ)は引き、野薔薇はさらにドン引きしている。

 

「・・・お前はどっかの映画評論家か」

 

「何がテーマでもミミズ男なんて見たくねぇ」

 

「・・・ミミズ人間なんだけど・・・」

 

「どっちでもいいわ。じゃ、私買い物してくから。あんたらも来る?」

 

「いや、だから、俺映画行くんだって!」

 

「俺はさっさと学ランを修理に出したいの!」

 

「あっそ」

 

結局、悠仁は1人で映画、(たつみ)は学ランの修理を出しに、野薔薇は買い物をしに街をぶらぶらとそれぞれ別々に行動することになった。

 

野薔薇が1人タピオカを飲みながら東京の街を歩き満喫していると・・・

 

「あの・・・すみません!」

 

「ん?・・・んっ⁉」

 

突然背の高い茶髪の女の子に声をかけられた。野薔薇は自分より背が高い女の子に驚いた反応を見せている。

 

「さっき・・・虎杖君と一緒にいませんでした?」

 

「・・・へ?」

 

背の高い女の子にいきなりずずいっと顔を近づいてきて悠仁と一緒にいたことを尋ねられた野薔薇は困惑している様子である。

 

 

その後、野薔薇はひとまず背の高い女の子、小沢優子の話を聞くためにファミレスに来ている。優子は話をする前に、自分の中学卒業時の写真を野薔薇に見せる。

 

「これ、中学卒業式の時の私です」

 

写真に写っていた中学生の優子の姿は今とは見る影もなく、黒髪のおかっぱ、体型は結構太っていた。

 

「えっ⁉マジ⁉半年前でしょ⁉何がどうしたの?」

 

半年間で激ヤセを果たしてみせた優子に野薔薇は今と写真を見比べて非常に驚いている。

 

「いや~、その時から身長だけ15センチくらい伸びまして・・・それと東京に来て環境の変化のストレスでみるみる・・・」

 

「へぇ~・・・佐〇黒〇かよ・・・」

 

野薔薇が驚きで写真を見ていると、中学時代の優子の隣に写っていた人物に目に入った。そこに写っていたのは中学時代の悠仁であった。

 

「虎杖じゃん」

 

「卒業式の日、勇気を出して一緒に撮ってもらったんです。本当は連絡先とかも聞きたかったけど・・・私、東京越すの決まってたし・・・。でもさっき虎杖君を見かけて・・・今の私ならもしかしたら・・・って思って・・・」

 

「え・・・優子・・・それって・・・」

 

優子の話を聞いてなぜ自分に声をかけてきたのか。その理由を野薔薇は完全に理解できた。

 

 

「つまりそういうことね!」

 

 

「はい、そういうことです」

 

 

状況を全て把握した野薔薇はスマホを取り出し、真顔で伊地知に電話をする。

 

「・・・あっ、伊地知さん?伏黒まだ乗ってます~?お店のURL送るんで、そこまで引き返してもらっていいですか?・・・アザッス!シクヨロで~す!」

 

伊地知を使って恵を呼び戻しを終えた野薔薇は今度は(たつみ)に電話を入れる。

 

「・・・おー、和倉―、今どこいんの~?・・・お、割と近くじゃん。ファミレスのURL送っから今すぐ来い。・・・何で?じゃねぇよ!!!いいからはよ来いや!!!来なかったら目ん玉潰すわよ!!!」

 

野薔薇は一方的に(たつみ)を脅しをかけてまでの呼びかけを終え、電話を切って話を戻す。

 

「今から私より虎杖に詳しい奴らが来るわ」

 

「あの・・・」

 

「まずはそいつらから話を聞きましょう」

 

「あの!」

 

「ん?」

 

「もし、釘崎さんも虎杖君のこと・・・」

 

「ない。天地がランバダを踊ってもない」

 

頬を赤らめる優子の質問に野薔薇は全部言い切る前にキッパリと真顔で返答する。

 

モヤァ・・・

 

(ん・・・?)

 

キッパリと言い切った野薔薇の胸の内が一瞬だけモヤッとなった。

 

(何か今胸がモヤッとした・・・不整脈?)

 

「?」

 

モヤモヤの原因がわからない野薔薇は疑問符を浮かべている。そうしているうちに彼女に呼び出された恵と(たつみ)がやってきた。

 

「おい、何なんだよ・・・!」

 

「人脅してまで何の用だよ・・・!」

 

「おっす、伏黒、和倉。虎杖って彼女いる?」

 

「「はあ?」」

 

「この子小沢優子。実はこの子がかくかくしかじかで・・・」

 

野薔薇は2人に優子を紹介し、これまでの経緯を全て話した。全てを聞いた2人はなぜ呼び出されたのか完全に理解できた。

 

 

「「つまりそういうことか?」」

 

 

「ええ、そういうことよ」

 

 

事情を全て理解した2人は野薔薇の席に座り、悠仁に彼女がいるか否かを答える。

 

「彼女はまずいないだろ」

 

「おう、俺もそう思う」

 

「根拠は?」

 

「急に東京来るってなって特に困った様子なかったから」

 

「後、部屋にグラビアポスター貼ってある。彼女いる奴ってそういうの貼らねぇんじゃねぇか?相手嫌がるだろ」

 

根拠を述べた恵は注文したコーヒーを一口飲む。

 

「・・・伏黒って・・・女子の前だけカッコつけてブラック飲むタイプ・・・?そういうのやめな?」

 

「俺らの話聞きたくて呼んだんだよな?いつも飲んでんだよ」

 

野薔薇に茶々を入れられた恵はこめかみを引くつかせている

 

「あの・・・ちなみに好きなタイプとかは・・・」

 

「あー・・・東堂情報になるけど・・・あいつ背が高い女の子が好きとか言ってたな」

 

「「!!!」」

 

背の高い女の子が好み。それ即ち今の優子にはその条件がバッチリ当てはまっている。(たつみ)の情報を聞いた野薔薇と優子は衝撃が走り、乾杯する。

 

「勝算あり!!虎杖を召喚するわ!!いいわね、優子!!」

 

「はい!」

 

充分に脈ありの可能性があるとして野薔薇はさっそくラインで悠仁を呼び出す。

 

釘『おい』

 

釘『ファミレスのURL』

 

釘『来い』

 

虎『?なんで?』

 

釘『来い』

 

虎『了解』

 

「・・・淡泊ですね・・・」

 

「そう?」

 

あまりに淡泊なライン会話に優子は率直な感想を述べる。ちなみに野薔薇の隣に座ってる恵はコーヒーを飲み終えて読書、(たつみ)は注文したポテトを黙々と食べている。

 

「あれ?(たつみ)と伏黒もいんじゃん」

 

「速!!?」

 

ラインで呼び出して数秒も経たないうちに悠仁がやってきた。まさか秒でやって来るとは思わなかった野薔薇は驚愕している。と、ここで野薔薇はあるミスに気付いた。

 

(あっ・・・!しまった・・・!虎杖に優子のこと言ってない!これだけの変化・・・絶対誰だかわかんない!)

 

野薔薇は悠仁に優子と一緒にいることを全く伝えていなかった。おそらく悠仁は中学時代の優子しか知らない。となれば今の優子を悠仁が見れば・・・

 

『誰?』

 

(それは久しぶりに再会した憧れの人に言われたくないセリフナンバー1なんじゃない?)

 

自身のミスに気がついた野薔薇は悠仁が変なことを言わないが内心ドギマギしている。

 

「何それ?」

 

「換金所探すのめんどいから景品交換しちゃった」

 

「お前はいったいどこまで行ってたんだ?」

 

「虎杖!!この子は・・・」

 

野薔薇が優子について話そうとしたが、時にすでに遅し、悠仁は優子の存在に気がついた。

 

「あれ?小沢じゃん!何してんの?」

 

中学と今とでは全く違うのに悠仁は目の前の彼女のことを優子であると認識していた。覚えていてくれたこともそうだが、激的な変化をしても自分であると気づいてくれていて中学と変わらなく接してくれる悠仁に対し、優子は感極まる表情を浮かべている。悠仁の対応に対し、恵、(たつみ)、野薔薇は彼に10点満点中10点のプラカードを出した。

 

 

中学の時、クラスの男子と虎杖君の話をこっそり聞いたことがある。

 

『じゃあさ!虎杖はクラスの女子で誰が好き?』

 

『別に誰も?』

 

『強いて強いて!』

 

『ええ~?強いて言うなら・・・小沢?』

 

『えええええええ!!???いやいやいやいや、デブじゃん!』

 

『そう?でもさ、あいつ食い方とか字の書き方とかいろいろすげぇきれいなんだよ。魚って食べるの難しくない?』

 

『っていうか、背と尻のでかい女子が好きって言ってたじゃん』

 

『それはそれ!』

 

女の子は太りやすいんだよ。私は初めっから太ってたけど。私だって、私を選ばない人を選ぶ気なんてさらさらない。

 

虎杖君は私が知らない私を見てくれる。虎杖君以外の男の子なんて嫌い。

 

でも・・・『今の私なら、もしかしたら・・・』なんて・・・。

 

私は、私が嫌いな人たちと同じ尺度で生きている。

 

そんな私はきっと・・・虎杖君に相応しくない。

 

「またな!」

 

誰とでも分け隔てなく接することができる虎杖君の笑顔が・・・私には・・・眩しすぎる・・・。

 

 

しばらく優子と過ごした後、悠仁は彼女を駅まで見送る。2人きりの邪魔をしないように、野薔薇、(たつみ)、恵は先に行って東京の街を歩く。

 

「ほんとにいいのか?」

 

「そうだぜ。せっかくの再会なのに。せめて連絡先だけでも・・・」

 

「私とは交換したし、まぁ大丈夫でしょ」

 

結局優子と悠仁の関係は何の進展もなかったようだが、野薔薇は彼女の連絡先を交換したので問題ないと主張する。

 

「それより伏黒、和倉、私ようやく自分の気持ちに気付いたわ」

 

「あ?」

 

「なんだよ?」

 

「私が彼氏つくるより先に虎杖に彼女ができるのがなんかムカつく」

 

「あっそ」

 

「しょうもな」

 

何とも言えない理由で悠仁をひがむ野薔薇の主張に2人は興味なさそうだ。話してるうちに優子を送り終えた悠仁が戻ってきた。

 

「お待た~!」

 

「私の後ろを歩けよ」

 

「え?何々?何の話?」

 

「こっちの話だよ。それよりほれ、景品」

 

「ん?おお~、サンキュー」

 

(たつみ)は悠仁から預かっていた景品を彼に返す。

 

「おらっ」

 

ついでに野薔薇は彼に自分が買った物を悠仁に預ける。

 

「え?え?なにこれ?」

 

「ついでよついで」

 

「ついで?」

 

「レディーに持たせたままじゃあんたも気分悪いでしょー?」

 

「え?・・・あ・・・うっす・・・」

 

「てか悠仁、お前映画見るんじゃなかったっけ?ミミズ人間4」

 

「おお~、やべ!そうだったそうだった!映画始まっちゃう!おい、行こうぜ!ほれほれほれ!」

 

「はあ?待てこら!私の持ってくな!ミミズ男なんて絶対見ないからな!」

 

「あっ、伏黒もポップコーン食うか?キャラメル味でいいよな?」

 

「ミミズ男見る前提で話進めるんじゃねぇ」

 

「だから!!ミミズ人間4だって!!」

 

4人はワイワイと話しながら映画館に目指してまっすぐ走りだすのであった。

 

 

翌日の早朝、高専東京校の運動場。(たつみ)は今よりもっと強くなるために、自分と同じフィジカルギフテッドの持ち主である真希に模擬戦を挑んでいる。パンダと棘は遠くで見学。

 

(たつみ)は木刀で真希に連撃を仕掛けていくが、真希は薙刀の木刀で迫る連撃を受け止め、最後の一撃を抑えて(たつみ)に蹴りを叩き込んだ。蹴りで後退る(たつみ)に今度は真希は近づき、薙刀の木刀による連撃を放つ。真希の連撃を(たつみ)は一撃一撃を見極め、的確に木刀で受け流す。

 

(真希先輩やっぱ強ぇ・・・!けど、俺だって・・・負けねぇ!)

 

連撃を防御し続ける中で、(たつみ)は真希の隙を作るチャンスを見出し、木刀を振り下ろして薙刀の木刀を地に叩きつけた。

 

「お」

 

「いくら」

 

「もらったぁ!!」

 

(たつみ)はここが好機と見て、素早く木刀を振るって真希に1本を取ろうとする。しかし真希は逆立ちすることによって(たつみ)の一撃を難なく躱す。

 

「マジか!!?」

 

ガシィ!!

 

予想外の方法で攻撃を躱されたことで驚愕する(たつみ)に真希は逆立ちの状態で彼の首を足で掴み、そのまま勢いよく地面に叩きつけ、抑え込む。

 

コツンッ!

 

「でっ!」

 

「はい、死んだ。また私の勝ちだな」

 

真希は(たつみ)を抑えたまま薙刀の木刀で軽く小突いて得意げに笑って勝利宣言する。

 

「・・・もう1回!次も実戦のノリでお願いします!」

 

「・・・はっ、いいねぇ。しごき甲斐がある。何度でもボコッてやんよ」

 

拘束が解かれた(たつみ)は真希にもう1度模擬戦を申し込み、真希は好戦的な笑みを浮かべてそれに応える。

 

(たつみ)の奴、真希といい勝負するなぁ」

 

「高菜」

 

「まぁな。真希の奴も楽しそうだ。呪具を使って戦う者同士、気が合うんだろうよ」

 

パンダと棘が2人の模擬戦を見て話していると、マインがやってきた。

 

「何?真希の奴1年と模擬戦やってんの?」

 

「シャケ」

 

「ようマイン。俺らが来た時にはもうすでにいてな。もう長い時間特訓してたんだと。で、訛りの解消も兼ねて真希が模擬戦を提案したってわけ」

 

「ふーん?」

 

「ぐあ!」

 

外野が話している間にも真希は薙刀の木刀を振るって(たつみ)を薙ぎ倒し、起き上がるタイミングで彼の頭に薙刀の木刀を当てて1本を取った。

 

「あでぇ!!」

 

「思ったより飲み込みが早ぇな。筋も悪くねぇ。これなら特級を祓ったってのも納得がいくな」

 

「いや・・・俺が特級を祓うことができたのは、伏黒のおかげだ。あいつがいなきゃ俺はとっくに死んでた。今度はちゃんと1人で特級とやれるように、もっと強くなりたい。強くならねぇと、大切な人も守れねぇからな」

 

今よりもっと強くなりたいという(たつみ)の真摯な言葉に見学しているマインは少しだけ頬を赤らめている。

 

「言うじゃねぇか。んじゃ、もっとギアを上げていくとするか。次、これ使ってみろよ」

 

真希は(たつみ)の思いを組み込み、模擬戦のハードルを上げるべく、自分が使っていた薙刀の木刀を彼に投げ渡す。(たつみ)は薙刀の木刀を受け取り、慣らしに受け取ったそれを振り回す。

 

「・・・結構しっくりくるな」

 

「休んでる暇はねぇ。さっさと始めんぞ」

 

「おう!」

 

真希の一声で今度はお互いの得物を交換した状態で模擬戦が開始された。真剣に特訓に励む2人をマインはじーっと見つめる。

 

「やけに熱心に見るなぁ」

 

「・・・別に」

 

パンダに声をかけられ、マインは何でもないようにそっぽを向く。

 

「昆布」

 

「まー、マインも負けず嫌いだしな。(たつみ)に対して思うところが・・・」

 

パンダが話していると、彼に衝撃が走った。

 

(はぁ!!!天啓パート2!!!!)

 

再び天啓が降りてきたと思い、パンダは(たつみ)に声をかける。

 

(たつみ)ぃ!!特訓中断!!ちょっとこっち来い!!カマン!!!」

 

「え?急になんだよ?パンダ先輩」

 

「超重大な話だ。心して聞け!」

 

特訓を中断してやってきた(たつみ)にパンダはある質問をする。

 

「お前って、ロリ派?熟女派?」

 

(何すかその質問!!!???)

 

特訓を止めてまで聞くことでもないしょうもない質問に(たつみ)はツッコミつつも答える。

 

「いや・・・まぁ・・・年上の人は好みっすけど・・・」

 

「うんうんうん」

 

「身長は割と小さめの方がいいっていうか・・・」

 

「ほうほほうほ~~~う?」

 

(たつみ)の答えにパンダはニヤニヤ笑い、マインに声をかける。

 

「マイン!」

 

「ん?」

 

「相性バッチリ!デス!!」デス、デス、デス・・・

 

ビキッ!

 

非情にふざけた笑みとグッドサインを出したパンダの発言にマインはキレる。

 

「何勘違いしてんのよケダモノ!!!殺すわよ!!!!」

 

「わかったわかった。それがツンデレって奴だろ?」

 

「すじこ」

 

「よーし、あんたら2人ぶっ殺す!!!動物保護団体とか関係ないわ!!!」

 

パンダと悪ノリする棘にキレたマインは2人に襲い掛かる。

 

「えっと・・・どういうこと?」

 

「ほっとけ」

 

質問の意図を理解できてない(たつみ)と辛辣な真希は3人を無視して特訓を再開しようとする。

 

「あ、いた。(たつみ)、真希、ちょっといいか?後、マインとパンダも」

 

そこへ赤女(あかめ)がやってきて(たつみ)、真希を呼ぶ。一応マインとパンダも声をかけられたが喧嘩は止まらない。

 

赤女(あかめ)?」

 

「んだよこれからって時に」

 

「お前たちに渡すものがあってな」

 

そう言って赤女(あかめ)(たつみ)たちの名前が書かれた封筒を各個人に渡す。

 

「なんだよこれ?」

 

「1級術師昇格の推薦状だ」

 

「1級術師の推薦!!?」

 

「それだけお前たちの実力が認められたということだ。マインとパンダ、悠仁たちの分もあるぞ」

 

高専に転入して約半年で1級術師の推薦をもらえるとは思わなかった(たつみ)は驚愕する。自分たちも推薦されている真希も驚いており、マインとパンダも喧嘩を止めるほどのものだ。ちなみに棘は去年にもうすでに推薦されているためにない。それは準1級という等級を見ればわかるが。

 

「これからの任務の結果次第では1級、最低でも準1級になれる絶好の機会だ。だが、1級になるということは、危険度が上がるのはもちろんのこと、これまで以上の実力や責任能力が問われてくる。これまでの任務とは比べ物にならない。それでも受けるか?」

 

赤女(あかめ)の問いかけに対し、(たつみ)たちの答えはとっくに決まっている。

 

「当然、受ける!!」

 

愚問と言わんばかりの返答に対し、赤女(あかめ)は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「愚問だったな。さっそくだが、お前たちそれぞれに任務を与える。これまでの任務と勝手は違うだろうが、これまで培ってきたものを活かせば何ら問題はない。既存の1級術師たちを驚かせてやれ」

 

1級術師昇格の推薦を受けた(たつみ)たちは各々の思いを抱え、さっそく割り振られた任務に全うするのであった。

 

 

日本国内のスラム街。この場所で呪霊の被害が出ている。呪霊の被害を止めるために派遣された(たつみ)は準1級術師であるレオーネと共にこの地に赴いてる。伊地知は任務の詳細を説明する。

 

「窓の報告によりますと、スラム街の奥にあるビルの工事跡地に何名かの女性が足を踏み入れ、消息不明になっております。親族やご家族、警察の方が捜索にあたったようですが、彼らも同様、工事跡地に足を踏み入れ消息が絶たれています」

 

「私たちの任務はその工事跡地に蔓延る呪いを祓って、行方不明者を救助、死んでたら回収しろってことだろ?」

 

「はい。工事跡地はこの先にあります。行きましょう」

 

任務の説明が終わり、3人は呪霊がいると思われるビルの工事跡地に向かうため、スラム街に足を踏み入れる。

 

「そういえば姉さんと組むのは、術師としてはこれが初めてだな」

 

「おお。ずっと楽しみにしてたんだぜ?頼りにしてっからな」

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

岩見沢で成り行きでコンビを組んではいたが、呪術師として共に任務に就くのは今日が初めてゆえにお互い嬉しく思い、笑みを浮かべている。すると、スラム街の住民が何人かがレオーネに声をかけてくる。

 

「こんにちは玲央奈」

 

「今度肩揉んどくれよ」

 

「今日もエロイな!今夜飲もうぜ!」

 

「玲央奈ー!遊んでよー!」

 

「・・・玲央奈?」

 

住民がレオーネに向けて聞き覚えのない名で呼んでいることに疑問符を浮かべる(たつみ)

 

「言ってなかったっけ?私の本名は獅子堂寺玲央奈っていうんだ。レオーネはコードネームみたいなもんさ」

 

「そうなの?伊地知さん」

 

「はい。書類の審査が通っていれば偽名で活動することが許されています」

 

「へぇー」

 

呪術界にある偽名に関するルールを聞いて(たつみ)はそう言うのもあるんだなと考える。

 

「にしても姉さん、すごい人気だな。なんか生き生きもしてるし」

 

「何せここは私の生まれ育った場所だからな!生まれた時からひどい貧乏なら逞しくもなる。いわゆる雑草魂だな」

 

どうやらこのスラム街はレオーネが生まれ育った場所らしく、住民が彼女を知っているのも、明るいのも納得がいく。

 

「これでもマッサージ屋として腕がいいと評判・・・」

 

「いたぞ!!!玲央奈だ!!!!」

 

レオーネが自身の自慢話をしようとした時、何人かのガラの悪い男たちがこちらに向かって走ってきた。

 

「溜まったツケを払ってくれ!!!」

 

「博打で負けた金清算しろ!!!」

 

「兄貴からちょろまかした金返せゴラァ!!!」

 

どうやら彼は全員レオーネが作った借金を取り立てに来た連中らしい。

 

「ひいいいいいい!!!」

 

「どーだ?面白いところだろ?」

 

「姉さんが殺しの標的にならないか心配だよ!!!」

 

鬼気迫る借金取りたちの気迫に3人(レオーネは面白がってる)は危機を感じ取り、必死に逃げるのであった。

 

 

(たつみ)はスラム街の建物をうまく利用することによって、なんとか借金取りを撒くことに成功した。

 

「ここまで来れば撒いたろ。なぁ、姉さ・・・あれ?」

 

(たつみ)が後ろを振り返ってみると、一緒に逃げていたはずのレオーネと伊地知の姿がなかった。

 

(しまった!!はぐれた!!しかも道がわからない!!任務があるってのに!!ひ、ひとまず伊地知さんに連絡・・・)

 

逃げてる最中で2人とはぐれてしまった(たつみ)はひとまず伊地知に連絡を取ろうと電話しようと試みる。

 

『おかけになった電話は現在出ることができません』

 

「出ろや!!」

 

しかしまだ逃げてる最中なのかまたも連絡が取れないようだ。

 

(やべぇ、どうしよう・・・姉さんの連絡先知らないし・・・)

 

連絡手段が断たれてしまい、(たつみ)は本当に困った様子で首をひねっている。

 

「ややっ!私の正義センサーに反応アリ!そこな君!何かお困りですかな?」

 

するとそこへ1人の女性が(たつみ)に声をかけてきた。橙色の瞳を持ち、緑のコートを着た橙色のポニーテールが特徴の女性だ。

 

「えっと・・・あなたは?」

 

「セリュー・ユビキタス!通りすがりの正義の味方です!」

 

ポニーテールの女性、セリュー・ユビキタスは戦隊もののかっこいいポーズを決めて堂々と名乗った。

 

「キュウウン、キュウーン・・・」

 

「⁉」

 

セリューの隣にいた犬のような生物はお腹を空かせているのか鳴いている。

 

「コロちゃん、お腹すいたの?我慢してね」

 

「あの・・・それは・・・」

 

「ああ、この子はコロっていいます。ママはこの子のことをヘカトンケイルって呼んでますけどね」

 

このコロという犬のような生物。(たつみ)は一目でコロの正体を見抜いた。

 

(こいつ・・・間違いねぇ・・・呪骸だ・・・)

 

そう、コロは体の内側に呪いを宿した人形、呪骸だ。それも、パンダとは違った特別なものだ。

 

「ところで何を困ってたんですか?」

 

「あ・・・いや・・・道に迷ってしまって・・・元いた店の名前はわかるんですが・・・」

 

「それは大変!そのお店までお送りしますよ!」

 

セリューは(たつみ)を最初に見たという店まで送るために彼の手をとる。

 

「こっちです!はぐれないでくださいね!」

 

なかなかの美人の手を繋いだことで(たつみ)は少し照れて頬を赤らめている。

 

「キュウー!キュウウー!」

 

するとコロはそれがおもしろくないのか怒って吠え始めた。

 

「えっと・・・この子感情豊かですね」

 

「えへへ、かわいいでしょう?実はこの子、私が10歳の誕生日にママから誕生日プレゼントにもらったんです。私にとても懐いてくれて・・・今では私の相棒なんですよ。ね、コロちゃん♪」

 

「キューッ♡」

 

「へ、へぇー・・・」

 

話し込んでいるうちに(たつみ)が見た店まで到着する。

 

「では、お店はこちらになりますので」

 

「ありがとうございました」

 

「なんの!悪を見つけたらご一報ください!私が消滅させにいきますので!」

 

「ははは、大袈裟な・・・」

 

道案内を終えたセリューはコロを引きずりながらスラム街を後にした。

 

「行くよコロちゃん。お腹すいたでしょ。早くごはんにしましょうねー」

 

「キュー♡」

 

スラム街を去っていくセリューを見送る(たつみ)は少し思案する。

 

(・・・あの人・・・はぐれの術師かな・・・?これ、先生たちに報告した方がよさそうだな・・・)

 

(たつみ)は彼女の報告を念頭に置いて、再び伊地知と連絡を入れようとするのであった。

 

 

(人助けも重要ですが・・・早くママの仇を見つけないと・・・!)

 

スラム街を去り、コロを引きずりながら走るセリューは愛する母の姿を思いふけっている。

 

 

セリューには心から尊敬し、愛する母がいた。

 

母の名はマリー・ユビキタス。呪術界の間では殺人人形(キラードール)と恐れられている呪詛師。

 

セリューは殉職した父と同じように、自分に愛情をたっぷり注いでくれた母を愛している。術師には容赦がないマリーもまた、娘であるセリューを愛していた。

 

「セリュー。マクスウェルは踊りが上手なの。見てごらん」

 

「わぁ!すごいすごい!」

 

「マクスウェルはね、セリューとお友達になりたいって言ってるの。仲良くしてくれるかな?」

 

「うん!私、マクスウェルとお友達になる!」

 

「わー、ありがとー。よかったねー、マクスウェル」

 

誕生日だっていつも祝ってくれた。

 

「セリュー、ハッピーバースデー」

 

「わー!ワンちゃんだー!」

 

「そうよー、ワンちゃんよー。ちゃんと世話をしてあげるのよ?ママとの約束」

 

「うん!約束!」

 

「うん、いい子ね。私のかわいいセリュー」

 

人形作りが得意でいけないことは厳しくりつけ、将来の夢を真剣に聞いてくれて、常に応援してくれる、優しい母。

 

そんな優しい母は・・・1人の術師によって殺された。

 

なぜ?どうして母が殺されなければいけなかった?母がいったい何をした?

 

許さない・・・許さない。

 

マリーが呪詛師として活動していたことを全く知らないセリューは愛する母を殺した術師を憎悪している。

 

母だけではない。自分に術師としての戦い方を教えてくれた恩人さえも、去年のクリスマスの日に別の術師に殺されている。

 

大事な人が次々と殺されていき、セリューは悔しい思いで胸が張り裂けそうになる。

 

 

ギリッ・・・!

 

(私を愛情をもって育ててくれた優しかったママ・・・私を術師としての道を示してくれた大恩人・・・。その2人を殺した悪・・・!!絶対に許さない・・・!!)

 

セリューは母や恩人を殺した術師に対する強い憎悪と復讐心を抱き、歯ぎしりを立てるのであった。

 

 

その後、何とかレオーネと伊地知と合流できた(たつみ)はようやく呪霊が蔓延るビルの工事跡地の前までやってきた。

 

「爺さんたちが子供時代の時くらい昔の話になるけどな、ここで高層ビル建築計画があったらしいんだよ。かなり強引な計画だったらしくてさ。街の連中からの猛反発がそりゃ激しかったらしいぜ。その怒りが蓄積されて呪霊が生まれて、建設計画に携わってた作業員を全員皆殺しにしたんだと。で、その結果ビル建設計画は中止、以来残ったこのビルも曰く付きとなってだーれも近づかなくなったってわけ」

 

「そんなやべぇ場所だったのか、ここ・・・」

 

「今回の呪霊はそれとは関係ねぇんだけどよ・・・私のホームで好き放題してるってのが気に入らねぇ。さっさと片付けんぞ」

 

「おお!やってやろうぜ!」

 

曰く付きだろうが何だろうが、このスラム街で好き勝手されることが我慢ならないレオーネは気合を入れている。(たつみ)はその気合に便乗する。

 

「では、帳を降ろします。ご武運を」

 

(たつみ)とレオーネがビルの中に入ったところで伊地知が術を唱えて帳を降ろした。

 

「うし・・・獣王降臨」

 

レオーネが獣王降臨を発動させることで、半獣と化する。それによって嗅覚が鋭くなり、甘い匂いを嗅ぎわけた。

 

(なんだ・・・?この甘い匂いは・・・?)

 

ブゥーン・・・

 

レオーネにしかわからない甘い匂いに彼女は疑問符を浮かべていると、不快な羽音が聞こえてきた。上空を見てみると、蜂に似た容姿の呪霊たちが数体現れる。大きさは柴犬サイズくらいの大きさだ。

 

「さっそくおいでなすったな!蹴散らすぞ!」

 

「了解!」

 

襲い掛かってくる数匹の蜂呪霊はお尻の針を2人に向けて撃ち放った。2人は迫ってきた針を後退して躱し、(たつみ)は青龍刀を抜き、軍隊の突撃のように襲い掛かってくる蜂呪霊を斬り祓っていく。一方レオーネは自身を取り囲んで回って突撃の機械を伺っている数体の蜂呪霊の動きを観察する。回り続けていた蜂呪霊は1匹が動いたと同時に、1匹ずつレオーネに襲い掛かる。レオーネは慌てることなく拳を振るって1匹ずつ蜂呪霊の胴体に風穴を開け、最後の3匹を纏めて蹴り上げて壁に叩きつけて祓った。これで全て蹴散らしたかに見えたが、蜂呪霊はまだいるらしく、上空から何体も降りてきた。

 

「ちぃ!キリがねぇな!」

 

「こいつらは多分群れを成すタイプの呪霊だ。本体を叩かねぇと無限に出てくるぞ」

 

「そいつが今回のターゲットってことでいいのか?」

 

「あくまで多分な。場所は匂いでだいたい検討がついてる。つーわけでさっさとこいつら突っ切って本陣に突入するよ」

 

ガシッ

 

「え?」

 

レオーネはどういうわけか(たつみ)を片腕で担ぐ。そして、足に力を込めて助走をつけ・・・

 

ビュンッ!!!

 

高く跳躍し、建設途中の段差や蜂呪霊を足場にしながらまるで弾丸のように上へ上へ、さらに上へと昇っていく。高く昇り、ビルから飛び出ようとした時、辺りの空間が変化する。周りにハチミツのような黄色い岩壁が空間を覆い、2人を閉じ込める。

 

「ビンゴ。やっぱり本体は結界の中に引きこもってたな」

 

2人が入った結界の中央には、今回のターゲットである呪霊が鎮座していた。その呪霊はまるで巨大な要塞のようなハチの巣に下半身をはめ込んだ女王蜂のような姿だ。2人は目の前の呪霊よりも、目に映った光景に目を見開いている。その光景とは、ボロボロになった何人もの女性がまるで奴隷のようにハチミツ岩壁を運び、それを要塞ハチの巣に入れている。よく見れば全員、行方不明になっていた女性だ。

 

「あれ・・・全員行方不明者か・・・?」

 

周りをよく見回してみると岩壁の穴の中に、生気を吸われ、ミイラのように干からびたような遺体がいくつも転がっていた。その遺体は行方不明者の親族や家族、さらには警察ばかり。それも圧倒的に男が多かった。

 

「ひでぇ・・・ここで養分を作ってたってことかよ・・・」

 

「・・・今奴隷にされてる子の中に、スラムの顔なじみまでいた」

 

動ける女は働かせ、男や使えなくなった女は全て殺してきた女王蜂呪霊に2人は怒りを抱く。特にスラムで育ったレオーネの怒りは凄まじい。

 

「ムカつく・・・!こいつぜってぇに祓うぞ・・・!」

 

「当然!!」

 

2人の殺気に対し、女王蜂呪霊は毅然と構え、蜂呪霊たちに攻撃指示を出した。(たつみ)は襲い来る蜂呪霊を斬り祓いながら女王蜂呪霊に接近する。とここで予想外のことが起こる。なんと奴隷となっていた女性たちが女王蜂呪霊を守るように(たつみ)の前に立ち塞がる。予想外な展開に(たつみ)は追撃の手が止まる。

 

「!!?こいつ・・・人を操ってるのか!!?」

 

立ち止まった(たつみ)に蜂呪霊が突進を仕掛けてきた。動揺はしたものの、(たつみ)は迫る蜂呪霊の突進を何とか躱す。女性を操り、心理を揺さぶってきた女王蜂呪霊はニヤリと笑う。

 

「余裕こいてんじゃねぇぞ、この野郎!!」

 

レオーネは蜂呪霊の隊列と女性たちの隊列を掻い潜り、跳躍して女王蜂呪霊の目の前まで迫り、拳を放とうとする。しかし女王蜂呪霊は要塞ハチの巣の外壁を上に展開し、彼女の拳を受け止めた。

 

(固・・・!)

 

さらに女王蜂呪霊は要塞ハチの巣のハッチを開き、中にいた蜂呪霊を出撃させてレオーネを襲わせる。レオーネは蜂呪霊の群れに包まれたが、回転ラリアットで襲ってきた全ての蜂呪霊を一掃する。

 

「こいつ二重の意味でつえぇ!」

 

「けど本体そのものはひ弱だ。あのハチの巣さえどうにかできればゲームセットだ。雑魚の処理は頼むぜ、(たつみ)!」

 

「おう!」

 

(たつみ)とレオーネは同時に走り出し、女王蜂呪霊に接近する。女王蜂呪霊はハチの巣からさらに蜂呪霊を出撃させ、襲わせる。(たつみ)は先行し、襲い来る蜂呪霊をバッタバッタと斬り祓い、レオーネの進路を開ける。そのまま突き進んでいくと、女性たちがレオーネの前に立ち塞がり、阻もうとする。だがこれも想定範囲内だ。

 

「やり方が安直なんだよ!!!」

 

ズドォン!!ドッガアアアアアン!!!

 

レオーネは地面に向かって両拳を合わせて振り下ろし、叩きつけた。すると地面が崩落し、その場にいた女性全員が落ちていく。女王蜂呪霊はさらに蜂呪霊を出撃させてレオーネを襲わせる。迫ってきた蜂呪霊に対し、(たつみ)が間に入ってきて、青龍刀で斬り祓っていく。道が開けたタイミングでレオーネは高く跳躍し、要塞ハチの巣に目掛けて、全神経を集中させて込めた呪力を拳に乗せる。その瞬間、レオーネの呪力が黒く輝き、弾ける。

 

ズドォォン!!!!

 

黒閃!!!!

 

ドカアアアアアン!!!

 

レオーネの黒閃が要塞ハチの巣に炸裂し、要塞ハチの巣は風穴を開け、大爆発を引き起こした。そんな中で女王蜂呪霊は飛んで要塞ハチの巣から脱出し、逃げようと羽を広げ、さらに上昇しようとする。そこへ爆煙の中よりレオーネが飛び出し、呪力が籠った拳を女王蜂呪霊に向けて放とうとする。その拳も、黒く輝いている。

 

「1つ教えてやるよ。お前の敗因は・・・私を怒らせたことだ!」

 

ドォン!!!

 

黒閃!!!

 

レオーネの2連続目の黒閃を受けた女王蜂呪霊は胴体が吹っ飛び、黒い塵となって散っていった。女王蜂呪霊が祓われたことにより、残りの蜂呪霊も祓われ、結界も解除されて空間が元の廃ビルに戻った。

 

 

女王蜂呪霊を祓い、救出した行方不明者は補助監督に任せ、(たつみ)とレオーネはスラム街の道を歩いていく。

 

「あの甘い匂いには女にしか効かない催眠効果があってな。多分を子分を使ってマーキングしてた奴に嗅がせて奴隷を集めてたってとこだろうな」

 

「あの甘い匂いはそういうことだったのか・・・。姉さんはよく大丈夫だったな」

 

「あれは非術師専門の術式だからな。呪いに耐性のある奴なら大丈夫さ」

 

「そっか・・・」

 

女王蜂呪霊の術式の詳細を聞いて(たつみ)はレオーネの身を案じていたが、非術師にしか効かない術式であるとわかり、安堵の表情を浮かべる。

 

「後遺症は残るだろうけど、後は硝子に任せておけば元通りになんだろ・・・て、なんだよ」

 

「いや。前にろくでなし云々言ってた割に、優しいとこあんじゃん」

 

「私の顔なじみがいたからだよ」

 

「どんな理由でもいいよ。そこに少しでも希望があるなら」

 

初めて会った頃と比べて、だんだんと逞しくなっていく(たつみ)の顔を見て、レオーネは頬を少し赤らめる。

 

「・・・(たつみ)。前から思ってたけど・・・」

 

「ん?」

 

ペロ・・・

 

「お前のそういう顔・・・かわいいなぁ・・・」

 

レオーネはよほどに(たつみ)が気に入ったのか、彼の耳たぶを軽く舐めた。彼女のその行動に(たつみ)は顔を赤らめ、非情に動揺する。

 

「なっ・・・!なっ・・・!!?」

 

「ふふ・・・文字通りおねーさんがツバをつけておいたんだ。いい男に育てば、おねーさんのものだ」

 

「・・・///っ!か、からかうなよ・・・・。さ、先に伊地知さんとこに行ってるから!」

 

照れて動揺する(たつみ)はそそくさと逃げるように伊地知の元へ向かう。そんな彼を見てレオーネは笑みを浮かべる。

 

(たつみ)・・・お前、マジで強くなったよ。お前なら、1級術師になるもの夢じゃないさ。早く上に駆け上れ。私は首を長くして待ってるからな)

 

レオーネは(たつみ)に強い期待を抱きながら、彼を追うように伊地知の元へ向かうのであった。

 

 

後日。今日の任務を終えた1年ズは、東京の街で買い物をしている。とはいっても、ほとんど野薔薇に付き合わされているため、実質買い物をしているのは彼女だけ。悠仁と(たつみ)は荷物持ちだ。

 

「・・・いくら何でも買いすぎじゃない?」

 

「半分はあんたらのでしょ」

 

「俺らはそんな買ってねぇよ!」

 

「俺のはこれだけだよ!・・・うわっと!」

 

悠仁が異議を唱えようとすると、荷物を落としそうになるが、悠仁が踏ん張って何とか落とさずに済んだ。そんな彼に対し、野薔薇は凄みを入れて忠告をする。

 

「1個でも落としたら・・・殺すわよ」

 

「はっ・・・はい・・・」

 

野薔薇の凄みに肩を縮める悠仁。しかし油断しきっていたのか、買い物袋のセーターを1つ落としてしまう。

 

「あ・・・」

 

バキィ!!!!

 

「アーーー!!!」

 

野薔薇はセーターを落とした悠仁に顔面をぶん殴り、彼の胸倉を掴む。

 

「1個でも落としたら殺すって言ったろ!!!」

 

「ごめん!!わざとじゃないよー!!」

 

東京のど真ん中で騒ぐ2人に恵と(たつみ)は他人のふりのように振る舞う。すると、恵のスマホから悟からの着信が届く。恵はすぐに電話に出る。

 

「伏黒です。・・・はい・・・ええ。・・・わかりました。では」

 

用件を理解した恵はすぐに通話を切った。

 

「何?」

 

「五条先生から。来いってさ」

 

「はぁ?なんで?」

 

「任務だってよ。それも極秘の」

 

「えぇ~?さっき1個片付けたばっかじゃん!」

 

「いいじゃん。五条先生が極秘ってんだから、よっぽどだろ」

 

「割と言うだろ」

 

「信憑性ねぇしな」

 

「しょっちゅう言ってるぞ」

 

「うん。まぁー、いっか!」

 

彼ら呪術師は呪いの脅威から人々を影から守るため、今日も任務に赴くのであった。




肆章『起首雷同』  完

次回
伍章『????』
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