私がまだ禪院家の人間になる前・・・4歳の頃・・・あの日の出来事は絶対に忘れないと思う。忘れたくても忘れられないあの失望を。
『ほら!お望みのガキ共だ!もういいだろ!さっさと金出してどこへなり行っちまえ!正直、迷惑なんだよ!』
家に知らない男がやってきて私たちを買いたいって言いだしてきたんだ。私たちの生みの親はそいつに私たちに向けられたものと同じ嫌悪感を出しながら私たちを差し出した。当時はまだ子供だったから詳しいことはよくわからなかったけど、これだけはわかった。生みの親は私たちを売ったんだと。
『・・・ひっでぇ奴だなぁ。お前ら、こいつらと離れて正解だぜ。が、安心しな。俺はこのクズ共とは違う。きっちり面倒見てやるさ』
『『・・・っ』』
『俺がお前の新しい家族だ』
こいつが・・・私たちの親?冗談じゃない・・・!そう思った時・・・
『ぶわぁっはっはっはっは!家族だぁ?小僧のくせして笑わせてくれるわ』
『『!』』
『な、なんだお前⁉』
『まぁ、俺も人のことは言えんがな。ん・・・ん・・・ぷはぁー』
『おいおい・・・あんたが来るとは聞いてねぇぞ・・・ジジィ』
いつの間にか机の上に着物を着込んでお酒を飲んでいる直角髭を生やしたおじいさんが座り込んで話に割り込んできた。
『おいそこの。小僧が出した金額の10倍・・・いや50倍はくれてやる。その子娘2人を俺によこせ』
『ご、50倍!!?』
『あ、あなた・・・!』
『はっ!男尊女卑の禪院家の当主様がどういう風の吹き回しだい?』
『そのガキ共は俺が最初に目を付けたんだ。それを横からかっさらうのはちと、無粋だと思わんか?』
『へいへい。あんたとやり合う気はねぇ。ここは大人しく引き下がるさ』
さっきまで私たちを引き取る気満々だった奴は手のひらを返して私たちをおじいさんの元に引き渡した。
『なぁに、悪いようにはせんよ』
おじいさんは意地の悪い笑みを浮かべながら、髭をいじっている。どっちにしても私たちは売られたという結果には変わりはなかった。そこからだ。私にとっての生き地獄は。
男尊女卑。まさに言葉の通りだった。女である私たちは禪院家の男たちにいいように雑用を押し付けられて、下手に逆らえば訓練場という名の禪院家が飼っている呪霊部屋に放り込まれたりもした。その時もずっとお姉ちゃんがいたからまだかわいいレベルだ。でも問題は当主有力候補の当主の息子。私たちが呪霊部屋に送り込まれる最大の原因。
躾と表して殴ったり蹴ったりと、好き放題に弄ばれた。その中でも同年代である私は執拗的にやられていた。その度にお姉ちゃんがそいつを殴り飛ばして、一緒に罰を受けたりして・・・そんな日々を繰り返し繰り返しに続いた。
私にはその時の痛みが今も残り続けている。高専に行くことになった時だって・・・
『聞いたで、
『・・・・・・』
『
寂しいなんてそんなこと微塵も思ってないくせに、いちいち突っかかってきて・・・
ガシッ
『・・・今に見とけ・・・ドブネズミが』
ギュウウウ・・・!!
『当主になるんは俺や!!俺だけだったんや!!それを・・・どこの馬の糞ともわからんような女がでしゃばりおってからに・・・!!』
ミシミシ・・・ブシュッ
『当主の座は誰にも渡さん!!どんな手を使ってでも!!あのクソ
●
「・・・はぁ!!」
2006年4月
入学初日の実習演習を終え、高専へ帰還する車に乗っている
「はぁ・・・はぁ・・・」
目を覚ました
「・・・大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
「!」
隣に座る七海の声に反応し、
「・・・平気。ちょっと嫌な夢を見ただけ」
「・・・ならいいのですが」
素っ気ない返答を聞いた七海は彼女を気遣い、事情は聞かずに予習を再開する。平常になった
(・・・本当に・・・嫌な夢。早く忘れてしまいたいのに・・・)
忘れてしまいたいほどの嫌な思い出。だが、どれだけ否定し、忘れようとしても・・・身体に刻まれた痛みは正直で、決して忘れることはない。それを理解している
●
2006年6月
1年生が入学を果たしてからあっという間に2か月の時が流れた。暖かい季節の高専の校舎を七海と灰原が歩いている。
「はぁ~・・・来週からテストかぁ・・・。どうしよう・・・」
「どうしようも何も、テストに向けて予習復習する以外にないと思いますが」
「それはわかってるんだけどさ・・・数式?とか、因数分解?とかいろいろ複雑で頭がこんがらがっちゃうんだ・・・」
「灰原は難しく考えすぎです」
「はぁ・・・どうして七海も
灰原は来週から行われる予定の中間テストに頭を抱えて悩んでいる。お世辞にも灰原は勉学が得意ではない。それどころか3人の中で1番出来が悪いと本人も考えているくらいだ。考えるのが苦手な灰原にとってテストという時間は苦痛以外の何ものでもない。
「はぁ~あ~・・・・・・あっ」
「どうしました?」
「
項垂れる灰原は廊下の窓から運動場にあるベンチに座って何かを話している
「あの2人、やっぱり仲がいいなー。羨ましいよ」
「ええ、そうですね」
「う~ん・・・どうしたらあんな風に仲良くできるんだろう?何か秘訣でもあるのかなぁ?」
「・・・・・・」
実践演習からというもの、2人と
(・・・あれは姉に依存しているだけなのか・・・?私には、どうもそれだけではないように見えるが・・・)
ただ七海は依存だけが壁になっている全ての原因ではないと考えているようだが、それがなんであるかまではわからない。いや・・・わかったところでどうしろというのか。
「そうだ!
「あ!ちょっと灰原!」
●
運動場にて、
「そうだ。喉渇いてないか?飲み物を買ってきてたんだが・・・」
「あ!コーラだ!うわぁ~、懐かしい~!飲んでもいいの?」
「もちろんだ」
「それで、どうだ
「・・・正直、まだ戸惑ってるよ。今までずっと我慢してきたから・・・」
「だがもう我慢する必要はないんだ。ここでは禪院家が直接関わってくることはまずない。もう痛みに脅える必要はない。何をするにしても自由だ。もちろん、学校のルールは守らないといけないが」
「・・・うん・・・」
コーラを半分ほど飲み干した
「いいところだろう?高専は。過度な雑用を押し付けられることはない。大人げない陰口もない。寮の部屋もとても広い。ご飯もうまい。いいことずくめだ。それから、ここの校舎の屋上から見える景色もまたよくてな。暇さえあれば、ずっとあそこでボーっとしてる」
「へぇー。お姉ちゃんがいいって言うんだからきっときれいなんだろうなー」
「後で行ってみるといい。私のお気に入りの1つだ。それから・・・」
高専について楽しそうに語る
「お姉ちゃん、すっごく楽しそうだね」
「ああ。すごく楽しいぞ。私の狭かった世界が大きく広げられた。そして何より・・・傑や硝子・・・夜蛾先生・・・それから京都校のみんな・・・かけがえのない仲間ができたんだ」
「・・・仲間?」
「まだ1年しかたっていないが、その1年が私にとって生涯の宝物だとハッキリ言える。だから
「お姉ちゃん・・・」
「でももうすでに信用の欠片もない生ゴミがいるんだけど・・・」
「ああ、確かにあれは粗大ゴミだな。あれは数えなくていい」
「おい、俺の存在全否定かよ。俺泣くよ?大声であることないこと叫んで泣いちゃうよ?」
「勝手に泣けば?」
2人の目の前にはいつの間にか現れた悟がいた。2人の発言にこめかみを引くつかせる悟の隣には傑もいた。
「たく・・・お前は相変わらずクソ生意気なガキンチョだな。イミフな会食の時からちっとも変わってねぇ」
「そういうあなたはさらにムカつく男になったね」
「かーっ!かわいくねぇーなー!このグッドルッキングガイに向かって!俺先輩だよ?ちゃんと先輩ってつけろや」
「絶対嫌。近寄らないでキモメン。臭い」
「ぷっ・・・」
「そこまで言う?」
実を言うと悟と
「日頃の行いの結果だね。悟、これを機に少しは自分を見直したらどうだい?」
「言っておくけど五条悟と一緒にいるあなたも同類だから」
「えー・・・一緒にいるだけで?」
「後胡散臭い」
「付け足さないで?」
まさか自分にまで飛び火が来るとは思わなかった傑は
「仕方ない。傑も悟と似たり寄ったりだからな」
「やっぱり!」
「何自分は違うみたいに言ってるんだい?
「そうだそうだ!お前去年の桃鉄パーティの罰ゲームのこと、忘れたとは言わせねぇぞ!」
そう言って悟は去年起きた小さな争いの種の原因を語る。
●
去年の高専の寮、悟の部屋。
『いぇーい!俺が大株主だー!つーわけで最下位のアカ貧乏社長、罰ゲームな。期間限定のスイーツパン買って来いよ。コーヒー牛乳も添えてな』
『おい、今からだと店やってないだろ。どうやって買えと言うんだ』
『んなもん寝ずに並んでに決まってるでしょ。罰ゲームになんだから』
『くそ・・・』
『私の分も頼むよ。後硝子の分も』
『お前もか』
『命令権が悟だけだと誰が言ったんだい?』
『・・・お前たち覚えてろ』
翌日
『
『ご苦労様、
『おっせーよ。後、買ってきましただろ』
『
『たく・・・ん?』
紙袋の中身➡半分食べかけの限定パン+半分飲みかけのコーヒー牛乳
『・・・ねぇ。これ半分食べたでしょ?』
『
『こいつリスみてぇな顔しやがって・・・!』
●
悟の口より語られた罰ゲームに
「・・・1つ弁解させてくれ。私も必死で我慢したさ。だが・・・あまりにもおいしそうだったからつい・・・というかむしろ、半分だけ無事だっただけでも褒めてくれ」
「開き直んじゃねーよ!」
「褒めてくれってむしろ図々しいにもほどがある」
弁解という名の開き直りに2人のその時に静まった怒りが蒸し返り、今にも呪術を放とうとしている。
「言っておくけど
「つーか許すつもりもねぇよ。楽しみにしてたパンを半分食われた虚しさがわかるか?え?」
「昔のことを掘り返すなんて、器が小さいぞ、お前たち」
対する
「うるせー!そもそも原因はお前にあんだよボケ!」
「罰ゲームで頼んだものを勝手に食べるなんて話聞いたことないよ?」
「お前たちはあの時の寒い夜を経験してないからそんなことが言える」
「パン1つで本当にやる奴がいるか!」
「・・・・・・」
大人げなく呪力を用いた大喧嘩を始めてしまった3人に対し、
「あ!いた!先輩!ちょっと聞きたいことが・・・」
「ちょ・・・灰原!今あれに声をかけては・・・」
そこへタイミング悪く灰原がやってきて声をかけてきた。七海が灰原を止めようとしたが・・・
【チューしようよおお】
「邪魔だ!」
バキッ!
【チューううううううう】
ぶっちゅううううううう
「ぎゃああああああああ!!!」
「「「「あ・・・」」」」
傑が召喚した呪霊を
●
「・・・なるほど。それで灰原に怪我を負ってしまったと」
その後、騒動を聞きつけた夜蛾が現れ、正座をしている元凶3人に指導という名のげんこつを与えて、3人の言い分を聞こうとする。彼らから離れた場所では七海と
「ほい、治ったぞ」
「ありがとうございます!いやぁ、ひどい目にあったね、あはは」
「何で笑ってるんですか」
「同感」
ひどい目に遭ったというのに笑っている灰原に七海と
「何か弁明があるのならば聞いておこうか」
「・・・この2人が悪いです」
「「・・・こいつが悪いです」」
「おい、この期に及んでまだ言うか」
「そりゃこっちのセリフだ。小学生かよ」
「先生、反省してますので私だけは許してください」
「あ、ずるいぞ傑」
「てめぇなに1人だけ助かろうとしてんだ!」
3人の責任の押し付け合いに夜蛾は聞くに堪えなかった。
「もういい、口を開くな・・・」
バキャァ!!
「お前たちが全く反省していないということがよくわかった!!」
夜蛾は鉄拳で醜い争いをする3人を吹っ飛ばして黙らせた。
「お前たち3人は指導室に!逃げるんじゃないぞ!いいな!」
3人に制裁を与え指導室送りを宣言した夜蛾は平静になり、1年生3人に顔を向ける。
「それから・・・1年。お前たちに新しい任務だ」
「「「!」」」
任務の話になった途端に1年生3人は気を引きしまった顔つきになる。
「正直、今回の任務はお前たちには少々重いものになるやもしれん」
「重い?」
「依頼は1つ。廃小学校校舎に蔓延る呪霊の討伐だ」
「いつもと変わらないように思いますが?」
任務目標だけを聞けばいつもの呪霊退治と変わらないように思えるが、夜蛾は
「・・・お前たちは・・・人を殺したことがあるか?」
「!」
夜蛾の問いかけに対し、
「ありません」
「同じく」
灰原は七海は問いかけに答えるが、内容が内容ゆえにひどく淡々と答える。
「・・・その問いかけをするということは、怨霊の類ですか?」
対して
「そうだ」
「怨霊?」
「人間の負の感情によって呪霊が誕生するのは知っての通り。その呪霊にも等級とは別に、生まれ方によって種類が分類される。例えば、特定の病に対する負の感情で生まれる特定疾病呪霊。実在しないものへの負の感情で生まれる仮想怨霊。そして今回の任務の討伐対象は怨霊。人が呪いへと転じた元人間だ」
「人が・・・呪いに・・・?」
人間が呪いに転じ、呪霊と成ることもあり得る。それを聞かされた灰原は固唾を飲んでいる。
「ある時、小学校に現れた1人の男が数名の教員と児童大多数を虐殺したらしい。言葉では言い表せない惨状だそうだ。児童に至っては口で表すのも恐ろしい」
「んっ・・・」ゴク・・・
「・・・七海、敵対する術師にとどめを刺す際、注意しなければならないこととは何だ?」
廃小学校でなぜ怨霊が誕生したのか。その過程を語る前提として人が呪いに転じない方法を夜蛾は七海に問いかける。七海は表情を変えることなく淡々と答える。
「人が呪いに転じぬように、必ず呪力を用いて仕留めることです」
「その通りだ。呪霊が同じく呪いでしか祓えぬのと同じように、呪いでとどめを刺せば呪霊には転じない。それは非術師でも同じことだ。だがその犯人の男も非術師。呪術を持っていない。その結果、被害者の恨み辛みが募り、怨霊が誕生した。幸い姿を目撃しただけで被害はまだ出ていないようだが、時間の問題。放置すれば一個人に取り憑き、一般社会に影響を及ぼすだろう。そうなる前に、廃小学校の怨霊を取り除くのだ!」
改めて夜蛾より任務を託された1年生3人は気を引き絞めた表情になる。
●
任務へ向かう準備を整えた3人は高専敷地内の車道で補助監督の車が来るのを待っている。その間、灰原は廃小学校で起こった虐殺事件について非常に嘆いている。
「やっぱり許せないよ僕は!虐殺事件の犯人を!」
「いつまで言ってるんですか」
「だって、人が人を殺すなんて・・・そんなの、人が1番やっちゃいけないことなのに・・・。お父さんやお母さんだって、子供の帰りを待ってるはずなのに・・・それを・・・」
「・・・・・・」
人のために嘆き、怒る灰原の主張に
「気持ちは理解できなくもないです。しかし、わかっているのでしょう?呪術師をやる以上、早いにしろ遅いにしろ、人を殺さねばならないことを」
「・・・それはわかってるけど・・・」
「いざ自分の番が回ってきたら、その言い分は通用しなくなります。そうなる前に、腹はくくっておいてください。でなければ、この業界でやっていくことはできませんよ」
呪術師を続けるならば人を殺すことを躊躇ってはいけない。それができないなら呪術師は続けられない。七海のその主張に灰原は顔を俯かせる。七海の言うことは間違っていないし、自分が甘いことを言ってるのもわかっている。それでも灰原は殺したくないという気持ちが強かった。
「それでも僕は嫌だな・・・」
「灰原」
「うまくは言えないんだけど・・・それをやっちゃうと僕は僕じゃなくなってしまうような気がするんだ。命の価値がわからなくなって、本当に大事な人の価値までなくなって・・・自分は何のために戦ってるんだろうって・・・そう考えるのが・・・僕は怖い」
「灰原・・・」
「そんなのただのわがままだよ」
灰原の主張に対し、思うところがある七海は複雑な心境を抱えるが、
「もし殺さなくてはいけない相手が虐殺犯みたいな悪人だったら?その悪人を見過ごして大事な人が殺されてしまったらどうするわけ?」
「うっ・・・」
「・・・本当に甘すぎるよ。あなたは呪術師に向いてない」
「
「私は事実を言っただけだけど?」
七海は
「いいんだよ七海」
「ですが・・・」
「
口喧嘩に発展しそうになるところを灰原は止める。苦笑ではあるが、灰原はキツイことを言われても笑みを絶やさなかった。ギスギスした雰囲気の中、補助監督の車が到着する。
「すみません、おまたせ・・・どうかしましたか?」
「何でもない。行こう」
補助監督が戸惑う中、
●
指導室。1年生を乗せた車が発車したところを2年の問題児3人と少しだけ顔を見せている硝子が目撃する。
「・・・ギスギスしてんなー、1年ズ」
「言わなくてもいいことを
「あ?あいつと一緒にすんじゃねーよ。俺の方が親し気あんだろ」
「どっこいどっこいだよ」
実の妹である
「・・・すまない・・・」
「いや、
「いや、謝らなければいけないことだ。
「原因?」
「本当ならば
「条件?」
「私が高専に在籍している1年の間、どんな理由や事情があろうとも、互いの接触を禁ずる。それが条件だ」
「それだけ?」
「ああ。だが禪院家にはある男がいる。そいつは禪院家の腐敗を体現させたような奴で、私や
「俺もクソつまんねぇ会食で見たけど、ひでぇもんだぜ、あいつの怪我。あのパチンカスのクソさ加減がよくわかるもん」
2人の言う男が誰のことかはよくわからないが、証言を照らし合わせることで傑は話の詳細が理解できた。
「なるほど。話が見えてきたよ。ひどい目に遭うと理解していながら、条件を呑んだんだね」
「私は抗議しようと思ったんだ。だが
「条件に勝ってここに来ることができた代わりに得たのが・・・痛みと共に得た心の傷、か」
「禪院家で何が起きたのかは私にはわからない。だが、想像に難しくないことであるのは確かだ」
「そりゃ大変だろうな。体に受けた傷は治せても、心の傷は反転術式でも治せない」
禪院家でできた
「まぁー、考えてもしょうがないでしょ。それよりも課題終わった後のことを考えよーぜ」
「あのなぁ、悟・・・」
「だってどうしようもねーだろ。変にでしゃばったところで余計に傷口が開くだけだぜ」
「お前は言わなくてもでしゃばるだろ。引っ込め」
「いや~ん、ひどぅ~い」
「「キッショ」」
「とはいえ、悟の言うことも間違ってるとも言いがたい。これは禪院家・・・もとい
「・・・
禪院家で受けた傷によって仲間と寄り添おうことができない妹に
●
目的地である廃小学校に辿り着いた1年生3人は今回の討伐対象である怨霊を探しに廊下を歩いている。廊下を歩くたびにギシギシと軋む音が聞こえてきていかにもな雰囲気が出ている。
「・・・灰原、大丈夫ですか?」
「大丈夫!むしろお化け屋敷を探検してるみたいでワクワクしているよ!」
「そうではありません。
「・・・呪術師に向いていないって話?」
灰原の問いかけに七海は首を縦に頷く。対して灰原は苦笑する。
「あれは本当に大丈夫だよ。高専でも言ったけど、
「・・・・・・」
「だから、僕の筋を通すためにも、今よりももっと強くなるよ!」
屈託のない笑みで答える灰原に七海は多少なりとも目を見開いている。
「・・・十分強いじゃないですか。そんなこと言えるなんて」
「そんなことないよ。僕は難しいことを考えるのは得意じゃないから、ただがむしゃらに前に進んでるだけだよ」
「・・・私も見習わないとな・・・」
灰原の答えに考えさせられるものがあるのか七海は一言呟いた。
「ん?何か言った?」
「いえ。別に」
しばらく歩いていると、先行していた
「?
「来たよ」
【あそ・・・び・・・ましょ・・・】
「出たな呪霊!やっつけてやる!」
「また迂闊に・・・!」
呪霊を見るや否や、灰原は剣の呪具を構え、三つ目の呪霊に向かって突っ込んでいく。七海が止めに入ろうとすると、廊下の壁をすり抜けてきた数体の小鬼のような呪霊が灰原に襲い掛かる。
「灰原!」
ザンッ!
小鬼の呪霊が攻撃を仕掛けようとした瞬間、
「よし!」
「ふぅ・・・」
呪霊を倒し、ガッツポーズを取る灰原とは別に、七海は安堵から一息つく。
「これが例の怨霊かな?」
「うんん。今のは普通の呪霊。本命はまだ別にいる」
「そっか。じゃあ早く探し出して倒しちゃおう!」
「灰原・・・もう少し緊張感をもって・・・」
無鉄砲な灰原に注意を促そうとする七海は途中で口を止める。
「?七海?」
「何か聞こえませんか?」
七海に言われて2人は耳を澄ましてみる。
クスクス・・・クスクス・・・
すると、どこからともなく不気味な笑い声が聞こえてきた。
「!笑い声・・・」
「呪霊は知恵をつけた時、狡猾な罠を貼ることもあります。十分な警戒を・・・」
七海が2人に警戒を促すと、
「!
「ちんたらやってたら早く終わるものも終わらない。私が先行する」
そう言って
「
七海が
「ちぃ!」
呪霊の放った蹴りに七海は咄嗟に転がって躱し、腰の鉈を抜き取り、呪霊の胴体を切り裂いた。しかしそれと同時に天井より呪霊が何体も現れ、2人を覆い囲む。
「うわ・・・囲まれちゃった・・・」
「・・・クソ・・・今日は厄日か・・・」
連帯感がない行動をする
●
一方、1人でサクサクと先へと進んでいく
(・・・集団で組むっていう知恵はついてるみたいだけど・・・)
目の前の呪霊の集団を見て
「・・・邪魔!」
●
私の味方はお姉ちゃんだけ。
『
『いいの。私のことは心配しないで。お姉ちゃんは高専に行ってきて』
『だが直哉は・・・』
『お姉ちゃんはいつか絶対に禪院家の当主になる。こんなことに耐えられないようじゃ、お姉ちゃんの隣には立てない。だから・・・ね?』
『
『うん・・・いつまでも待ってる』
私は、お姉ちゃんと一緒にいられればそれでいい。
『言ってもうたな、
『・・・・・・』
『で、さっきおもろい話してたなぁ。当主が・・・なんやって?』
そのためなら、痛いのも辛いのも我慢できる。
『聞いたか?あの呪詛師の話』
『ああ。処刑だのなんだのという話だろ』
『まったくもって不気味なことだ』
『好き好んで近づく奴など、直哉くらいだろう』
誰も私を見ようとしない。誰も私を助けてはくれない。
お姉ちゃんだけが私を見てくれる。お姉ちゃんだけが私を助けてくれる。そんな優しいお姉ちゃんだから、私はお姉ちゃんの力になりたい。
他の奴なんて・・・どうだっていい。
仲間なんて・・・いらない。
●
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
クスクス・・・クスクス・・・
「!」
【クスクス・・・クスクス・・・】
(この呪力量・・・間違いない・・・こいつだ)
「あんなお菓子、食べられそうにないや」
【クスクス・・・】
怨霊が軽くジャンプすると床から槍のように鋭いポッキーが出現し、
ザンッ!!
怨霊は斬撃をまともにくらい、地面に転がる。
「食べれないお菓子なんてお菓子じゃない」
そう言って
「また雑魚呪霊・・・何体いるんだよ・・・」
【ここは先生にとってぇ・・・大事な場所ぉ~・・・。先生の居場所をぉ~・・・】
怨霊は言葉を紡いでいき、口を開いた。すると・・・
ニュッ・・・ズオオオオオオオオオ!!!
「!!」
【踏みにじるななななななああああああああ!!!!!】
怨霊の口より蛇や鰻のようにとてつもなく長く、巨大な体を持ったメルヘンチックに寄せた顔を持った恐ろしい生物が現れた。驚愕する