呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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住古来今ー参ー

廃小学校の廊下。襲い掛かってきた呪霊の群れに阻まれて黒女(くろめ)とはぐれてしまった灰原と七海は互いに立ちふさがる呪霊を次々と祓っていく。呪霊の攻撃を鉈で防ぐ七海は次々現れる呪霊に対して疑問符を浮かべている。

 

(弱い個体によって群れを成すというのはよくある。しかし、いくら何でも数が多すぎる。これだけの数の呪霊がなぜ今まで報告に上がらなかった?それにこれほどまでの統率された動き・・・どう考えても低級呪霊の成せるものじゃない)

 

いくら低級呪霊が知恵をつけて群れを成すと言っても、ここまで洗練された統率力を発揮できる個体は存在しない。こういった例は上級個体が低級個体に指示を出すというのが大抵である。そう考えれば、怨霊は自分たちの等級より格上である可能性が高いと七海は考えている。

 

「倒しても倒しても出てくる・・・キリがないよ・・・」

 

祓っては増え、祓っては増えの繰り返しで2人に疲労が募っている。

 

(・・・今はこの場を切り抜けるのが先決か・・・。だがこのままやっても押し切られる・・・やむを得ない)

 

狭い廊下の中である方法を使いたくなかったが、致し方ないとして七海は手に包帯をぐるぐるに巻きつけ、実行に移す。

 

「私の術式は対象に7対3の比率の点を線分した時、強制的に弱点にするというものです。この点に攻撃を当てることができればクリティカルヒット。そしてこの術式の対象は、生物以外にも選ぶことが可能です」

 

「え?何?どういうこと?」

 

術式の内容を開示すればその術師の能力を強化することに繋がるのだが、それを知らない灰原は困惑している。

 

「今は説明している余裕がありません。私が道を切り開きますので、灰原はそれをまっすぐに進んでください。振り返らずに、まっすぐ」

 

「・・・わかった!」

 

七海の顔を見て、きっと何か策があるのだろうと思い、灰原は首を縦に頷き了承する。その間にも呪霊の群れが襲い掛かる。襲い来る呪霊に七海は前に出て、鉈を振るって1体、2体と薙ぎ払う。さらに1体の呪霊が突っ込んできたタイミングで七海は右拳による正拳突きで呪霊を吹っ飛ばし、背後の呪霊ごとなぎ倒して一本道を作り上げた。

 

「今です!」

 

「うん!」

 

七海の合図で灰原は走り出し、一本道を通っていく。これによって灰原は無事呪霊の群れを突破できたが、その直後に呪霊が現れて一本道を塞ぎ、七海は群れに取り残される。尤も、これは七海の想定範囲内。むしろ、ここからが本番だ。呪霊が灰原を追いかけてこないように、七海は先手を取る。七海は跳躍して呪霊に乗り、さらに呪霊を足場にしてさらに飛んで、天井に狙いを定め、拳に強い呪力を込める。

 

「十劃呪法『瓦落瓦落』!!」

 

ドオオオオオオオオン!!!!

 

七海の術式、十劃呪法の拡張術式瓦落瓦落。その一撃が天上に叩き込まれた瞬間、天井の隙間を通るように七海の呪力が走り出し、ヒビが入る。そして・・・

 

ゴオオオオン!!!!

 

天井が走った呪力によって粉々になり、粉々になった瓦礫は呪力を纏って七海や呪霊の群れに向かって崩れ落ちようとしていた。

 

「!七海!!」

 

それに気がついた灰原は振り返り、助けに戻ろうとした時、七海が声を上げる。

 

「振り返るな!!私のことは気にせず、あなたは黒女(くろめ)を・・・」

 

ドオオオオオオオオン!!!!!

 

七海が言い切る前に呪力が込められた瓦礫は呪霊の群れと七海に降り注ぎ、廊下に強い衝撃が走った。立ち込めた土埃が晴れると、そこには天井の瓦礫の山が出来上がっていた。これで呪霊は一掃できただろうが、七海が無事かどうかもわからない。

 

「七海・・・」

 

果たして七海は無事だろうか。その心配もあるが、先に先行していった黒女(くろめ)のことも心配だ。

 

「いや!七海がこれくらいのことで倒れるもんか!ここは七海を信じて、黒女(くろめ)と合流だ!」

 

灰原は七海ならば無事であると強く信じ、今は怨霊と戦っているかもしれない黒女(くろめ)の元へ急ぐのであった。

 

 

「・・・ん・・・うんん・・・」

 

一方、怨霊と戦い、不意を突かれて気を失っていた黒女(くろめ)は目を覚ました。

 

「・・・うぅ・・・油断した・・・まさか呪霊に食べられるなんて・・・」

 

自分が真の姿を現した怨霊に丸呑みにされたことをと覚えていた黒女(くろめ)はくらくらする頭を抑えつつ、辺りを見回す。その空間は現実ではありえないものだ。床や壁はビスケットでできており、壁には装飾品なのかクッキーやらチョコレートやらが飾られている。ここが呪霊の腹の中とは思えないほどに、この空間は全てお菓子でできていた。

 

「不思議・・・ここ本当に怨霊のお腹の中?まるでお菓子の国みたい・・・」

 

この異様な光景に不思議がっていると、黒女(くろめ)は周囲に複数の呪力を感じ取った。後ろを振り返ってみると、ビスケットの床からまたも呪霊の群れが現れた。呪霊の中には、黒女(くろめ)が祓ったはずの個体がいたり、初見の呪霊もいたりした。無尽蔵に湧く呪霊に黒女(くろめ)は何となく察しがついた。

 

(なるほど・・・怨霊は怨霊でも、こいつは無意識集合体。目の前のこいつらも、怨霊の一部。どうりでうじゃうじゃと湧くはずだ。てことは、本体を祓わない限り、永遠に増え続けるってわけか)

 

増え続ける呪霊も怨霊の一部であると理解した黒女(くろめ)に呪霊たちは突進してきた。突進してきた呪霊を黒女(くろめ)は華麗な身のこなしで1体ずつ躱していく。反撃に呈したいところではあるが、彼女は武器である刀を外に落としてしまっている。一応は呪力を纏った体術の心得はあるが、姉ほど素早く祓うことができない。ゆえに黒女(くろめ)は自分の術式を使用することを決めた。

 

「こいつら・・・邪魔!」

 

黒女(くろめ)は術式の使用のために自身の呪力を練り込んだ。すると彼女の影が蠢き、大きく肥大していく。肥大した影より人影を形作り、立体化する。

 

「自来也」

 

立体化した影は色づけられ、その全貌を露にした。その姿は忍者甲冑を身に着け、鉄仮面で素顔を隠した男である。自来也と呼ばれる男は腰から2つのクナイを取り出し、構える。同時に、黒女(くろめ)の影よりもう1体、自来也と同じく姿を現した。だがそれは人型ではない。

 

「鷹丸」

 

姿を現したのはイヌワシと呼ばれるタカ科に属する鷲であった。もちろんこのイヌワシ、ただのイヌワシではない。鷹丸の足には小型のガトリングガンが装備されている。これこそが黒女(くろめ)の術式であり、自来也と鷹丸は術式によって使役されている存在である。

 

「いいよ・・・やっちゃって」

 

黒女(くろめ)の攻撃許可が下され、自来也と鷹丸が動き出す。まず先手を打つのは鷹丸。鷹丸が空高く飛び、呪霊の群れに降下しながら足のガトリングガンを連射する。呪霊は弾丸で次々と祓われつつも数で圧倒し、統制された動きで黒女(くろめ)を襲おうとする。迫りくる呪霊を前に自来也は黒女(くろめ)を守るように前に出てクナイを投擲する。呪霊の群れはクナイに突き刺さって2体祓われ、さらに追撃で鷹丸のガトリングガンで一掃したことで陣形が崩れた。

 

「畳みかけて!」

 

黒女(くろめ)の指示で自来也は印を結んで術を発動する。

 

ドロンッ!

 

術が発動と同時に煙が発し、立ち込める。煙が晴れるとそこには自来也が召喚した巨大ガマガエルの式神がいた。巨大ガマガエルの頭には自来也が乗っている。巨大ガマガエルは舌を伸ばし、呪霊の群れを薙ぎ倒す。だが呪霊は黒女(くろめ)の予想通り、次々と現れキリがない。

 

「本当、今日はツイてないなぁ・・・」

 

黒女(くろめ)は少し愚痴をこぼし、現状を打破するために抵抗を続けるのであった。

 

 

ちょうどその頃、1人になってしまった灰原は黒女(くろめ)と合流するべく、階段を登って上へと駆けあがっていく。

 

黒女(くろめ)・・・どこに行ったんだろう・・・?」

 

今のところ呪霊に邪魔されずに上へと上がっているのだが、いつまた現れるかわからない。ゆえに灰原は急いで駆けあがり、勘を頼りに廊下を走っていく。すると、灰原は現在の階の廊下でギラギラと輝くものを見つけた。それは黒女(くろめ)がいつも使っていた刀であった。刀は抜身の状態で刃の輝きが辺りをほんの少し照らしている。

 

「これ・・・黒女(くろめ)の刀だ・・・。ここでいったい何が・・・?黒女(くろめ)はどこ・・・?」

 

刀だけがここにあるということは、黒女(くろめ)の身に何かあったのでないかと灰原は焦燥感に駆られている。彼が辺りを警戒していると・・・

 

クスクス・・・クスクス・・・

 

「!」

 

またも不気味な笑い声が聞こえてきた。灰原はまた囲まれたらまずいと思い、咄嗟に隣にあった教室に入り、身を隠した。

 

「・・・っ!」

 

しかし、教室に入った途端、目の前の信じがたい光景を目の当たりにし、絶句する。

 

教室の至るにはパーティの装飾が施されているのだが、その全てがズタズタに引き裂かれ、床や壁には古いものではあるが、大量の血痕が染みついている。悲惨な現場を目撃した灰原は込み上げてくる吐き気を抑えるために片手で口元を抑える。その時に思い浮かべるのは夜蛾と黒女(くろめ)の言葉だ。

 

『ある時、小学校に現れた1人の男が数名の教員と児童大多数を虐殺したらしい。言葉では言い表せない惨状だそうだ。児童に至っては口で表すのも恐ろしい』

 

『もし殺さなくてはいけない相手が虐殺犯みたいな悪人だったら?その悪人を見過ごして大事な人が殺されてしまったらどうするわけ?』

 

呪術師が一種の汚れ仕事。この仕事をする以上は凄惨な現場を目撃することや、時には自分が汚れ役を買って出なければならない。灰原もそれはわかっているつもりだ。しかしいざこうもその現場に直面すると気分が害するし、いかに自分が甘く、浮いているのかが痛感させられる。

 

(・・・ダメだダメだ!僕はこの道を進むって決めたんだ!しっかりしろ!)

 

気落ちしていた気分を自身の頬を叩いて気を引き締め直す灰原。するとこの汚れきった教室の中で1つだけ、新品のようにきれいを保っている黒板を発見する。黒板には色とりどりのチョークでこのようなメッセージが書かれている。

 

『来栖先生!いつもありがとう!!』

 

「これ・・・先生へ送るメッセージかな・・・?」

 

これを見た灰原は黒板に近づき、触れようとして手を伸ばす。すると、彼の背後にぬいぐるみ状態で不気味な笑みを浮かべている怨霊が音もなく現れた。

 

【そぉ~れぇ~にににににぃ・・・】

 

「はっ!!」

 

ニュル!グパアアアアアア!!

 

【触るナアアアアアアアア!!!!】

 

バクンッ!!

 

気付いた時にはすでに遅し。大声で叫ぶ怨霊の本体がぬいぐるみの口から現れ、大きな口を開けて灰原を丸呑みに飲み込んだ。胃の中に通ったことを理解した怨霊は感慨深そうに黒板のメッセージをじっと見つめている。

 

【クスクス、クスクス】

 

怨霊は不気味な笑みとは打って変わって愉快そうな笑い声をあげて本体をぬいぐるみの口の中にすっぽりと納まる。そして怨霊は機嫌がよさそうにしながら教室を出て廊下を徘徊するのであった。

 

 

怨霊の腹の中。黒女(くろめ)は自来也と鷹丸にうまく指示を出して湧いてくる呪霊の群れを蹴散らしていく。しかし、いくら祓っても本体をどうにかしない限りは堂々巡り。外での戦闘で体力を削り、今こうして呪力を消費しているため、黒女(くろめ)の顔色には疲れが出始めて、自来也と鷹丸の操作がだんだん鈍くなってきている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・キッツ・・・。でも・・・倒れるわけには・・・!」

 

それでも黒女(くろめ)は根気強く粘り、懸命に呪力を練って自来也と鷹丸に呪力を送り続ける。

 

「わああああああああああああ!!!」

 

「⁉灰原⁉」

 

そこへ、怨霊に飲み込まれた灰原が上から落ちてくる。呪霊の群れは彼の存在に気付き、何体かは灰原に向かって行く。鷹丸はそうはさせまいと灰原を襲おうとする呪霊をガトリングガンで蹴散らしていく。そうして邪魔がなくなり、灰原は地面に尻もちをついてお尻を痛がる。

 

「だぁ!!いっ・・・たたたた・・・」

 

「はぁ・・・どんな時でもうるさいね、あなた」

 

「あっ!黒女(くろめ)!無事だったんだね!よかったぁ・・・」

 

「この状況見てよく無事だと言えたよね」

 

黒女(くろめ)を見て笑顔を向ける灰原に、彼女は彼の的外れな発言を聞いて呆れ気味である。

 

「君も呪霊に食われちゃったのかぁ・・・。はい、刀」

 

灰原はちゃっかり拾ってきていた黒女(くろめ)の刀を彼女に返す。

 

「ありがと。・・・七海は?」

 

「わけあってはぐれちゃった。でもきっと無事だよ」

 

「そう」

 

「それで、あの大きいカエルに乗ってる人は?あの人も食われた人?」

 

「・・・あれは私の式神みたいなもの。あの鷲もそう」

 

「そうなんだ」

 

自来也について尋ねる灰原の問いかけに黒女(くろめ)は答えるが、どこか誤魔化しているようにも見て取れる。だがそんなことは彼は一切気にしない。

 

「とにかく、今は目の前の呪霊を祓うことだけに集中して。外のことは七海・・・もしくは他の術師に任せればいいから」

 

「?ここから出ないの?」

 

「出ないじゃなくて、出られないの」

 

「え?」

 

呪霊の猛攻を耐えるということに対し灰原は疑念を抱いたが、黒女(くろめ)はここから出られないと言い張る。

 

「戦いながら一通り見たけど、ここには出口がない。つまりは一方通行。一度でも入ってしまったらこの怨霊をどうにかしない限り、私たちは出られない」

 

辺りを見てみると、確かに出口と思われるような穴はどこにもない。灰原が入ってきたと思われる天井の穴ももう塞がれてしまっている。即ち、ここに入ってしまった2人に突き付けられている選択肢は、助けが来るまで呪霊を祓い続けるか、ここで死ぬかの2つ。もちろん、後者はありえないので実質的に選択肢は一択しかない。

 

「外の本体さえ祓えば私たちは出られる。七海か他の術師があいつを祓うまでは耐えるしかないの」

 

「・・・もし・・・誰も来なかったら?」

 

「・・・その時は・・・ここでずっと呪霊の相手をするしかない」

 

問いかけに淡々と答える黒女(くろめ)に灰原は反論する。

 

「それじゃあ君の体が持たないよ!そりゃ・・・七海を信じてないわけじゃないけど・・・でもあんな大きいのを1人でだなんて無茶だよ!きっとまだ何か方法が・・・」

 

「あったらとっくの昔にやってるよ。洞窟の遭難とはわけが違うんだ。呪霊の腹の中じゃ常識は通じない」

 

「でもこのままじゃ・・・」

 

「私は呪術師をやってるんだ・・・死ぬ覚悟はできてる。ならどうせ死ぬなら、戦って死んだ方がいい」

 

死ぬ。その言葉を聞いた灰原は先ほど外で見た大量の血痕が染みついた教室と、きれいに残っている生徒が教師に向けたメッセージが頭によぎる。その瞬間に彼は拳をギュッと握りしめ、黒女(くろめ)に向けて声を上げる。

 

「死ぬなんて言葉、簡単に言うな!!!」

 

「!」

 

黒女(くろめ)が死んだりしたら、僕は悲しい!!僕だけじゃない!七海だって・・・!赤女(あかめ)なら、きっともっと悲しむ!!だから死ぬなんて言わないで!!」

 

「・・・っ、私たちのこと、何も知らないくせに・・・!」

 

赤の他人に自分たち姉妹のことをどうこう言われたくない黒女(くろめ)は彼の言葉に怒りが浮かび、歯ぎしりをたてる。

 

「じゃあどうしろっていうの?どうせ何もできないんだからわかったようなことを・・・」

 

「あるよ!1つだけどうにかする方法!」

 

「え?」

 

この場を脱出する方法がある。それを聞いた黒女(くろめ)は反応を示し、灰原は黒い剣の呪具を手に取る。

 

「この呪霊の腹を、突き破る!!」

 

何の捻りもない単純明快な回答。元より期待していなかったが、その答えに黒女(くろめ)は少し落胆する。

 

「何を言い出すかと思えば・・・。それなら私だって試したよ。でもこいつは私の持ってる式神の最大火力でも通用しなかった。七海の術式があればまだどうにかなっただろうけど、こいつは特級クラスでない限りぶち破ることなんて・・・」

 

黒女(くろめ)

 

戦闘の合間に怨霊の腹をぶち破ろうとして失敗したから無駄であると灰原に告げようとする黒女(くろめ)だが、こちらに振り向いた彼の顔には自信が満ち溢れていた。

 

「ここは僕を信じて」

 

その自信たっぷりの顔つきに黒女(くろめ)は多少なりとも驚いて目を丸くしていた。そうしている間にも灰原は怨霊のビスケットの壁に近づく。自来也と鷹丸の相手をしていた呪霊たちはそんな彼に気付き、顔を向けた。ビスケットの壁の前に立った灰原は黒い剣の呪具を見て、かつて自分をスカウトした人物の最期の言葉を思い返す。

 

『いいか・・・これは・・・ここぞって時に・・・使うんだ・・・。そいつは・・・お前の気持ちに・・・きっと・・・答え・・・て・・・』

 

「・・・きっと、今がその時だよね」

 

灰原は平常心を保つために深呼吸をする。それと同時に呪霊たちは標的を灰原だけに定め、彼の行動を阻止しようと一斉に襲い掛かろうとする。それを見た黒女(くろめ)自来也と鷹丸に指示を出し、灰原の前に立ち、自来也が巨大ガマガエルで呪霊を薙ぎ払い、鷹丸がガトリングガンで祓っていく。

 

(呪霊の標的が灰原に変わった?いったい、何をするつもりなの・・・?)

 

灰原が何をするつもりなのかわからない黒女(くろめ)は彼に注目する。深呼吸をして落ち着いた灰原は真剣みな顔つきになり、黒い剣の呪具を突き刺し、大きな声で高らかに叫んだ。

 

 

 

「グランシャリオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 

 

 

同時刻、廃小学校の廊下をふわふわと浮いて移動している怨霊。すると・・・

 

【・・・!!?ぐ・・・げ・・・!!】

 

突然怨霊は苦しみだし、空中でのたうち回っている。

 

【げ・・・が・・・おえ・・・!!】

 

あまりの苦しさに怨霊は本体まで姿を現し、廊下中を暴れまわる。やがて、怨霊の腹にあたる箇所が出っ張りだし、そして・・・

 

 

ドオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

【ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!】

 

 

怨霊の腹が内側から突き破られる。突き破られた腹から出てきたのは、顔と体に漆黒の鎧を纏った男と、男に抱きかかえられている黒女(くろめ)であった。黒女(くろめ)の後に、自来也と鷹丸が続いて出てくる。

 

「なっ・・・な・・・」

 

「ねっ!うまくいったでしょ!」

 

漆黒の鎧から発せられたのは灰原の声であった。つまりこの鎧の男は灰原雄その人である。

 

「・・・特級呪具・・・グランシャリオ・・・」

 

驚愕している黒女(くろめ)は灰原が着込んでいる鎧の名を口にする。

 

特級呪具、修羅化身グランシャリオ。特級に分類されるほどの力を持つ鎧の呪具。普段灰原が持っている黒い剣がグランシャリオの鍵であり、大きい声で名を叫ぶことで顕現される。諸説によると、同じ鎧の特級呪具、インクルシオはこのグランシャリオのプロトタイプとされており、その力はインクルシオを凌ぐとされているらしい。

 

「灰原・・・あなた・・・いったい何者なの・・・?」

 

禪院家の書物で姿を見たことがある黒女(くろめ)は素人同然の男が特級に分類する呪具を持っていたとは思わず、何者であるのかと尋ねる。

 

「人助けが趣味の、ただの男子高校生さ!」

 

問いかけに対して灰原は元気な声でさも当然のように答えた。

 

【ぐ・・・ぎ・・・!】

 

腹を突き破られた怨霊は起き上がり、灰原に向けて怒りが籠った顔で睨みつけ、クッキーの刃を作り出して灰原に放った。

 

「それがどうしたぁ!!」

 

灰原は迫るクッキー刃を恐れることなく拳を振るい、全て粉々に砕いて見せた。さらにポッキーの槍が出現し、灰原を突き刺そうとする。しかし、グランシャリオは非常に固く、直撃してもポッキーの方が簡単にへし折られてしまう。

 

「すご・・・」

 

【ムキィーーーー!!!】

 

自分の武器が簡単に無効化され、さらに怒る怨霊はすり抜けるように床に潜っていった。どこから攻撃してくるのか。そう考えつつ、灰原は辺りを警戒する。するとまたも呪霊の群れが隊列に並び、灰原を襲い掛かる。

 

「何度来たって、何度でも倒してやる!」

 

グランシャリオを纏ったことによって戦闘能力が飛躍的に向上している灰原の前では相手にならず、1体の呪霊は回し蹴りをくらい、残りの群れもその風圧によって一気に祓われる。その直後、灰原の足元が盛り上がった。危機を察知し、灰原は跳躍する。その瞬間に床から怨霊が大きな口を開けて現れ、彼を再び丸呑みにしようとする。

 

「自来也!」

 

自来也は黒女(くろめ)の指示を受け、巨大ガマガエルを操る。巨大ガマガエルは舌を伸ばして怨霊の身体に打撃を与え、軌道を逸らしてみせた。

 

【死ね!死ね!死ねぇ!!】

 

思うとおりにいかず怨霊はさらに怒り、体を伸ばして黒女(くろめ)を食らおうと迫る。

 

黒女(くろめ)!」

 

迫りくる怨霊を前に、黒女(くろめ)は刀を構え、迎え撃とうとする。その直後・・・

 

ドオオオオオオオン!!!

 

【ごあ・・・!!】

 

突如床が下の階より突き破り、そこから現れた男が放った呪力の拳によって怨霊はダメージを受けて血を吐く。下の階を突き破って現れたのは、ボロボロの姿になった七海であった。

 

「!七海!」

 

「七海ぃー!!信じてたよーーー!!」

 

怨霊に打撃を与えた七海は次の一手を与えさせないように、怨霊の身体の7対3の比率を測り、ウィークポイントに向けて鉈による斬撃を放った。これにより、怨霊に大ダメージが入る。

 

【ギィィィィィ!!】

 

(ディフェンスが高く、仕留めきれなかったか・・・。だがヒットポイントは残り僅か!)

 

自分の一撃では仕留められなかったが、あと一押しあれば祓える。そう判断した七海は2人に指示を出す。

 

「今です!奴に一太刀を!」

 

七海の指示を受け、黒女(くろめ)は怨霊に向かって走りだして助走をつけ跳躍する。そして・・・

 

ザンッ!!

 

【アアアアアアアアア!!】

 

七海がつけた傷を狙って刀を振るい、体を真っ二つに両断する。だがこれでもまだ祓うことができず、怨霊は3人に睨みを利かせる。

 

「灰原!!」

 

 

「任せて!!必殺!グランフォーーーーール!!!!

 

灰原は怨霊にとどめを刺そうと走り出し、さらに背中のブースターを起動させて勢いをつけて、強力な飛び蹴りを怨霊の脳天に目掛けて放った。

 

ズウウウウウウン!!!!

 

 

【イギャアアアアアアアア!!!!!】

 

 

灰原が放った飛び蹴りは怨霊の脳天をぶち破り、貫いた。断末魔を上げる怨霊は自分が怨霊となる前の、楽しかった思い出が浮かび上がる。

 

『先生。私、大きくなったら先生のお嫁さんにしてあげるー』

 

『それは嬉しいですね。でも、大きくなったら私などよりも素敵な相手がきっと見つかりますよ。だから気持ちだけ受け取ります。ありがとう』

 

『むぅ・・・本気なのに』

 

『それはそれで私が困りますね』

 

『はははは!』

 

【痛い・・・ヨぉ・・・。ラン・・・セン・・・せ・・・】

 

怨霊は愛すべき教師を浮かべ、涙を浮かべながら塵となって祓われいった。全てが終わった。その直後にグランシャリオは元の黒い剣に戻り、灰原はあまりの疲れに倒れる。

 

「「灰原!」」

 

倒れた灰原に黒女(くろめ)と七海が駆け寄る。

 

「ははは・・・はぁー、疲れた!」

 

「ほっ・・・」

 

「やれやれ・・・」

 

灰原は元気がいい返答する。その様子に黒女(くろめ)は安堵し、七海は呆れる。

 

「それより、僕は黒女(くろめ)と七海が無事で安心したよ!」

 

「おかげさまでね」

 

「運がよかっただけです」

 

「おっと!忘れちゃいけない!」

 

灰原はさっと起き上がり、自来也と鷹丸に顔を向けてニカッと笑う。

 

「式神さんも、ありがとうね!」

 

「・・・式神?」

 

自来也と鷹丸が式神と聞いて七海は彼らに顔を向けて、目を細めている。

 

「そう!黒女(くろめ)の式神さん!すごいよねぇ、人型だなんて・・・初めて見た!」

 

「・・・違いますよ」

 

「?」

 

自来也と鷹丸が式神ではないという七海の発言に灰原は疑問符を浮かべる。対して黒女(くろめ)は何とも言えなさそうな顔で軽く俯く。

 

「自来也。3年前、彼は己の私利私欲のために呪術犯罪を引き起こした呪詛師です。そこのイヌワシも同様、かつては呪詛師が使役していたものです。そして彼らの共通点は、1人の術師によって処刑されている。つまりは・・・もう死んでいるんですよ」

 

「?・・・??」

 

自来也が呪詛師、鷹丸が呪詛師の使役していた獣、さらには彼らはすでに死んでいる。そんなことを聞かされても灰原は理解が追い付いていない。

 

「それがあなたの術式なんですね」

 

七海は確信めいたような顔で、黒女(くろめ)に顔を向け、彼女の術式の名を口にする。

 

「死骸操術。使用者本人が対象を殺害し、骸人形にして操る術式。彼らがこうして動いているのは、彼女の術式によって操っているにすぎません。違いますか?」

 

「・・・当たり」

 

七海に自身の術式を言い当てられた黒女(くろめ)は自分が人を殺したという遠回しな事実を特に否定することなく、袋から飴を取り出し、口の中に入れる。

 

「灰原はさ、呪術師になれば人を助けられるって考えてるみたいだけど、そんないいものじゃないよ。死骸操術でわかったと思うけど、呪術は、その逆、人の尊厳さえも奪えるんだよ。呪術師やってていいことなんて、何1つとしてない」

 

幼少期から今日に至るまでの出来事を振り返り、黒女(くろめ)はしかめたような顔になる。

 

「私は4歳の時に目覚めたこの力のせいで、散々な目に遭った。生みの親からはぶたれて、禪院家に売られてからも捨て駒扱い。生き残っていくには、人を殺してでも力を取り込んでいかなくちゃいけなかった。まさに弱肉強食の世界だよ、呪術師は」

 

話を真剣に聞いている灰原に対し、黒女(くろめ)はこれが最後の通告のように言葉を紡ぐ。

 

「人を助けたいみたいな考え方でやっていけるほど、呪術師は甘くない。これからも呪術師としてやっていきたいなら、甘い考えは捨てなよ。じゃないといつか重荷になって押しつぶされるよ」

 

甘い考えを捨てないなら呪術師をやめろと遠回しに言う黒女(くろめ)の発言に灰原だけでなく七海も沈黙する。それだけ彼女の言葉には深い重みがあるからだ。この業界は嫌悪と恐怖に打ち勝てなかった者から心が病んでいく。これは彼女なりの慈悲でもあるのだろう。しばらく沈黙が続くと、灰原が口を開く。

 

黒女(くろめ)。この学校で起きた虐殺事件のこと、先生が言ってたよね」

 

「?」

 

「僕今日嫌なものを見たんだ。教室が血で塗れたひどい惨状だったよ。それをやった犯人が非術師だって聞いた時は信じられなかったよ。でも、それが事実なんだよね。現代社会のどこにでも嫌なことは人の手で起きる厳しい世界。それが呪術界となるともっと厳しいんだってことが、今回のことでわかったよ」

 

「「・・・・・・」」

 

でもね、と灰原は続ける。

 

「あの惨状で1つだけきれいなものがあったんだ。それは子供たちが先生に送るメッセージだよ。あの呪霊はメッセージを懸命に守ってた。怨霊が呪霊に成る前の人間だとしたら、僕はこう考えるんだ。あの呪霊は先生の帰りを待ってたんじゃないかって。それを呪いとなって歪められるなんて・・・あんまりじゃないか」

 

だから!と灰原は決心が籠ったような表情で宣言する。

 

「だから僕は悲しい思いをする人を少しでも減らすために、平等に人を助ける!!難しく考えるなんて性に合わない!例え悪人だとしても、その人がまた人を殺すとしてもかまわない!その時は何度だって捕まえて、法律で報いを受けさせる!感謝なんていらない。偽善って言いたいなら言えばいい。呪い、呪われていこうじゃないか!僕たちは、呪術師なんだから!」

 

灰原の決意ともいえる熱い思いに七海は彼らしいと笑みを浮かべ、黒女(くろめ)はその解釈に目を見開いて驚く。

 

「・・・そんな解釈する奴、初めて見た。それ、殺すよりもよっぽど辛いことだよ?」

 

黒女(くろめ)の辛さに比べたら、こんなのどうってことないよ!」

 

灰原の言葉に黒女(くろめ)は反応する。

 

「・・・辛い?私が?」

 

「だって、泣きたいほどにつらい経験をして、ずっとそれを吐き出さずに背負い込んだまま今日まで生きてきたんでしょ?なかなかできることじゃないよ。僕は君を尊敬するよ」

 

「私が人殺しだったとしても?」

 

「それはダメなことだから反省しようね!」

 

「えぇ・・・」

 

「言ってることめちゃくちゃですよ」

 

あまりにも素直で正直者の灰原の言葉に黒女(くろめ)は少し引き、七海がツッコミを入れる。

 

「でも黒女(くろめ)は何度も僕を助けてくれたでしょ?今日だって何回も助けてもらったし、実習演習の時だって七海を助けてくれた。間違いなく、黒女(くろめ)は優しい女の子だよ!僕、人を見る目は自信があるんだ!」

 

優しいなんて言葉。黒女(くろめ)は今まで姉以外で聞いたことは今まで一度もなかった。その言葉を聞いた瞬間に黒女(くろめ)は目を見開き、灰原を見る。灰原はにこにこと笑っており、それを見た黒女(くろめ)はすぐにジト目になる。

 

「・・・灰原。私、灰原のことが嫌いになりそうだよ」

 

「えええええええええ!!??なんで!!??」

 

黒女(くろめ)から率直に嫌いと言われて灰原はショックを受けて驚愕する。

 

「さ、任務が終わったらならここに用はない。帰るよ」

 

「ちょちょちょ!待って待って!僕何か悪いこと言った⁉」

 

「うるさい」

 

「うるさい!!?」

 

任務が終わりせっせと廃小学校から出ようとする黒女(くろめ)の後を慌てて追いかける。そんな2人の背中を見つめ、七海は考える。

 

(・・・呪術師をやる理由と覚悟・・・か・・・。私だけ中途半端だな・・・)

 

七海は呪術師になっているが、これがしたい、あれを目指したいというような目標がない。ただ死にたくないから呪いを祓う術を身に着け、適当に稼いで悠々自適な生活を送る。そのためだけに呪術師をやっている。命を賭けてまで呪術師を続けるという覚悟もなければ、灰原のような茨道に進む目標も存在しない。ゆえに中途半端だと考えているようだ。

 

(・・・私は何を目標にやっているのだろうか・・・)

 

何のために呪術師をやるのか。七海は自問自答しながら、わいわいと騒ぐ2人の後を追って高専に戻るのであった。

 

 

夜、高専の学生寮、赤女(あかめ)の部屋。黒女(くろめ)は今日ここに泊まりに来て姉と仲睦まじい会話で華を咲かせている。

 

「それで、今日の任務はどうだった?うまくいったか」

 

「今日はちょっと危なかったけど、何とかなったよ」

 

「そうか。それはよかった」

 

「でも今日はおかげで疲れちゃった」

 

黒女(くろめ)は軽く寝っ転がり、赤女(あかめ)の顔を見つめる。

 

「お姉ちゃん。今日灰原がね、私のこと優しいんだって言ったんだ」

 

「!」

 

「私はそんな人間じゃないのにね。私を尊敬してるとも言ってた。・・・灰原って、変な奴だね」

 

赤女(あかめ)は妹が自分のクラスメイトのことについて自分から話してきたことに多少なりとも驚いていた。その表情も、少し嬉しそうに頬を赤くしている。

 

「・・・そうか・・・。そうか・・・!」

 

禪院家にいた頃は味方は自分以外いなかった。その妹に仲間ができて、嬉しそうに話している。そんな妹の成長に赤女(あかめ)はひどく感動を覚え、笑みを浮かべるのであった。

 

 

翌日の高専。七海が登校して、自分の教室へ向かっている。教室へ辿り着くとそこにはいつもとは違った光景が目に映った。

 

「だから違うって!何度教えたら理解するの⁉」

 

「あ、あれ・・・こうじゃなかったけ・・・?」

 

「そもそも計算の仕方が間違ってるよ!それじゃあ補修は免れないよ?」

 

「ひぃー!やだー!」

 

それは黒女(くろめ)が灰原の勉強を見て教えている様子であった。この2ヶ月前まで一度も見てこなかった光景ゆえに、七海は少し驚いている。

 

「珍しいですね。黒女(くろめ)さんと一緒に勉強会とは」

 

「あ!七海!そうなんだ!黒女(くろめ)が誘ってくれたんだよ!」

 

「あなたが?」

 

七海は勉強会は黒女(くろめ)が誘ったと聞いてさらに驚きを示す。

 

「七海助けて・・・こいつ全然覚えようとしない・・・」

 

「い、いや!今度は大丈夫!ほら!」

 

「・・・間違いだらけなのですが」

 

「あれ⁉」

 

「もうやだこいつ・・・」

 

とはいえ、勉強が苦手な灰原にかなり苦戦しているようで黒女(くろめ)の顔に疲れが出ている。一旦落ち着こうと思ってカップのコーヒー牛乳に手を伸ばそうとする。

 

コッ・・・

 

「あ・・・」

 

バシャー!

 

だがその際にカップを傾けてしまい、その際に近くに置いてあった白いシャツにコーヒー牛乳をこぼしてしまった。

 

「うわヤバ!!五条悟のシャツが!!」

 

「た、大変だ!!今すぐに拭かないと!!」

 

「待ってください、拭いたとしてもシミが伸びるだけ・・・」

 

黒女(くろめ)と灰原は急いでコーヒー牛乳を拭き取ろうとする。だが七海の言うとおり、拭いたところでもうどうにもできない。その証拠にシャツにコーヒー牛乳のシミがべったりとこびりつき、最悪匂いも残ってる。誤魔化すのは絶望的だ。

 

「・・・コーヒー牛乳をこぼした私とこれを私に預けたあの変な前髪の先輩、どっちが悪いと思う?」

 

黒女(くろめ)じゃないかな!」

 

「どう考えてもあなたです」

 

全ての責任を傑に押し付けようと考えた黒女(くろめ)だったが、同期2人が空気の読めない発言をして、逃げに失敗する。

 

「ま、どうせ五条悟のものだから安物でしょ。なら買い直せばいいじゃん。七海、タグのブランド調べて」

 

「なぜ私が・・・。クリーニングに出せば・・・」

 

「いいから早く!五条悟はねちっこいんだよ!ごまかしがきかない!」

 

いろいろ納得いかないものの、言われた通り七海は汚れたシャツと同じものをスマホで調べる。しかし、そのシャツの値段を見て、七海は言葉を失った。

 

「お、あった?」

 

「いくらだった?」

 

値段を尋ねてきた2人に七海は今見た画面を見せる。それを見た2人はギョッと目を見開く。

 

「「に・・・じゅ・・・!!?」」

 

表示されているのは高級ブランドのタグ。そこに表示されているのはコーヒー牛乳をかぶったシャツと元が同じもの。だがシャツ1つの値段はかなりぶっ飛んでいて2人は口をあんぐりと開けて驚愕する。

 

「ちょっと待って!ただのTシャツでこの値段!!?冗談でしょ!!?」

 

「ぼ、僕に言われても!」

 

どこにでもありそうなデザインのTシャツなのになぜここまでの値段になるのか2人には理解できなかった。

 

「どうするんですか、これ」

 

「・・・しょうがない。私1割で灰原4割、七海は5割」

 

「は?いやおかしいでしょう。なぜ事を起こしたあなたが1割なんですか」

 

「うるさいなぁ!買いたいお菓子があるんだよ!後五条悟のためにお金払うのは嫌!」

 

「私だって嫌ですよ。自分でやったことなのだから自分が責任を・・・」

 

「あー!!うるさいうるさいうるさーい!!」

 

「2人とも、今は争ってる場合じゃあ・・・」

 

新しい高級シャツを何割で買うかで喧嘩を始める黒女(くろめ)と七海を灰原が止めようとすると・・・

 

黒女(くろめ)ちゃーん、傑からTシャツ預かってるって聞いてんだけど・・・」

 

「「「!!!」」」

 

タイミング悪くTシャツの持ち主、五条悟が現れる。彼の登場に3人はビクつき、黒女(くろめ)は咄嗟に行動を起こしたが・・・。

 

「・・・それ、何かの遊び?」

 

「違います・・・!」

 

黒女(くろめ)の咄嗟の行動で七海の胸元は妙に膨らんでいる。まるで何かを入れられたかのような不自然な膨らみであった。

 

「ぷっ・・・」

 

「く・・・ふふ・・・」

 

灰原と黒女(くろめ)はその光景に笑いを耐えるのに必死な様子。

 

「「・・・あっ・・・はははははははは!!」」

 

ついには笑いが堪えきれず、声を出して笑う2人。この光景は友達がバカをやって共に笑いあうというどこにでもある学校での青春そのものであった。その光景を見て悟は、最初は喧嘩ばかりしていた傑と共に笑いあった光景と重なり、ふっと笑った。

 

「ま、ちったーマシになったんじゃねぇの?」

 

 

一方、どこかの秘境。そこの湖がよく見える木々にハンモックをかけて寝転がって読書しているのは黒髪の女性だ。どこにでもいそうだが、彼女には異質と思わせるものがある。それは、『額にある縫い目後』である。

 

「まったく、いい気なもんさね。自分はのんびりバカンス気分かい」

 

そこへ2つの人影が彼女の背後に現れる。片方は声からして老婆であるのがわかる。

 

「まぁそうカリカリせず。肩でも揉もうかい?おばあちゃん」

 

「年寄り扱いするんじゃないよ」

 

老婆をそれとなくからかった女性は本題に入る。

 

「それで、依頼を引き受ける気になってくれたかな?『彼女』は」

 

「そんなにヤバい奴が相手なのかい?」

 

「ヤバいのは周りにいる連中さ。私ではちょーーっと手に負えない。それに、あいにくながら私も表に立つわけにはいかなくてね。ここはぜひとも、君たちの力を貸してもらいたい」

 

「その薄ら笑いはやめな。見てて不愉快さね」

 

感情が読めず、不気味さが漂う女性の笑みに老婆は嫌悪感を抱いている。

 

「うちは安くないよ。報酬は弾むんだろうね?」

 

「ああ。働き次第では、考えなくもないよ」

 

「・・・先に言っとくけどね、ワシゃあんたを信用しちゃいないよ。いざとなれば切り捨てる。そのつもりでいな」

 

「ふふ、怖いねぇ。せいぜい死神の鎌にかけられないよう、気をつけるとしよう」

 

老婆の警告に対し、女性は不敵に笑うだけだ。すぐそばにあった組み立て式の机には何人かの顔写真があった。その顔写真には、高専に所属する生徒であった。その中で1つ、黒女(くろめ)の写真にチェックが入ってあった。

 

息を潜めている死神の魔の手が、高専に迫ろうとしていた。

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