呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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死神 無常の光

タエコの繰り出した斬撃で粉砕王ごと腕を斬り落とされ、さらに追撃の斬撃と突きをまともにくらい、コルネリアは倒れ、うずくまる。

 

「あぁ・・・ぁ・・・」

 

(先制の一撃がなければ、死んでたのは私の方だったな・・・)

 

とはいえ、不意打ちの一撃がなければ先にやられていたのはタエコの方だったため、彼女の方が運がよかったともいえる。

 

「・・・熱い・・・痛い・・・痛いよぉ・・・パパ・・・パパァ!!」

 

腕や身体中に走る強烈な痛みによってコルネリアは涙を流し、悲痛な泣き言を叫ぶ。そんな彼女にタエコは冷たい視線を彼女に送り、刀の刃を向ける。

 

「・・・ごめん。今、楽にしてあげる」

 

「!あ・・・ああ・・・!」

 

殺されると思ったコルネリアは逃げようと立ち上がろうとしたが、片手が斬り落とされていたため、バランスが取れず、転んでしまう。

 

「お・・・お願い・・・や・・・やめて・・・いや・・・いやぁ・・・!」

 

ズンッ!

 

コルネリアは必死で命乞いをしてきたが、タエコは容赦なく刀を首に突き刺し、彼女の命を奪い取った。

 

「・・・今度逢う時は・・・味方同士がいいね・・・」

 

タエコに心からの本心を口にし、ゆっくりと刀を引き抜く。

 

「・・・さて・・・次はお前の番だ」

 

タエコが顔を振り向き、鋭い眼光を光らせる。彼女の視線の先には、ようやくこの場に到着した傑の姿があった。彼の目はタエコの鋭い眼光に負け劣らず、なかなかに冷たい。

 

「・・・お前は・・・彼女に何をしたんだ」

 

傑の問いかけに対し、タエコは淡々と冷静に答える。

 

「・・・見ての通りだ。コルネリアは・・・私が殺した」

 

「・・・そうか」

 

答えを聞いた傑はすぐに巨大な芋虫型の呪霊を召喚する。

 

「・・・死ね」

 

芋虫呪霊は傑の指示を受けて大きな口を開けてタエコに迫る。対してタエコは刀を構え、自身の周りに風を纏わせてゆらりと動く。

 

「我こそ死神オールベルグの息吹。無常の風。汝を冥府へと導かん」

 

芋虫呪霊はまっすぐ突っ込んでいき、そのまま壁と激突する。風のように素早く動き、難なく躱したタエコは速さを緩めずに傑の間合いに入ろうと接近する。傑は間合いを取らせえまいとムカデ呪霊を数体召喚し、攻撃を仕掛ける。タエコは向かってきたムカデ呪霊を風の流れに乗るように今のスピードで動き、1体ずつ躱していく。

 

「プッ!」

 

躱す過程でタエコは口の含み針を放った。傑はイカ呪霊を召喚し、伸ばすことで含み針を防御する。その隙を突くのようにタエコは傑の間合いに入り込み、刀を振るおうとする。殺気に感づいた傑はミミズ呪霊を足元に召喚し、タエコに放つ。タエコが放った斬撃はミミズ呪霊を斬り裂いたが、これが功を制し、傑には届かなかった。傑は即座に蛇呪霊を放つ。タエコはすぐに後退して蛇呪霊を躱し、傑から距離を取る。

 

(くっ・・・連戦でキツイとはいえ、夏油傑・・・臨機応変に呪霊を使い分けて私の攻撃をいなしている・・・。下手に手を抜いたらこっちがやられる・・・。とにかく、うまく対応して殺さないことを悟られないようにしなくては・・・)

 

傑を殺さないようとの依頼だが、手を抜いてどうにかなる相手ではないため、タエコは殺気を殺すことなく、気を緩めずに息を整える。一方傑はコルネリアの遺体のそばにあった粉砕王を手に取る。

 

「・・・コルさん。すまない。使わせてもらう」

 

少し壊れてしまっているが、使えないわけではないと判断した傑は粉砕王を装備する。

 

「・・・京都に来る時から、お前たちがずっと私たちをつけていたのは知っている。私たちの誰かを狙っていたのだろう?だが、私が聞きたいのはそこじゃない」

 

傑はタエコをギロリと睨みつけ、もっとも聞きたい質問を問いかける。

 

「なぜ京都のみんなを巻き込んだ?狙いが私たちならば、彼女らは関係ないはずだ」

 

傑の問いかけに対し、タエコは歯ぎしりを立てる。その顔は怒りや悲しみ、様々な感情をごちゃまぜにしたような表情であった。

 

「・・・私が好きでコルネリアを殺したと思うか?」

 

「何?」

 

タエコの予想外の回答に傑は若干ながら目を細める。

 

「私だってコルネリアと友達になれるかもと思って、嬉しかった・・・。だが・・・敵と知ったからには・・・今後邪魔になる・・・だから!!」

 

刀に風を纏わせたタエコは素早い動きで傑に接近する。

 

「旋風!」

 

タエコが斬撃を放つと風の斬撃が追撃として放たれる。この二度の斬撃を連続で繰り出す。刃と風の二度の斬撃の嵐を傑は粉砕王で防御する。

 

(くっ・・・怪我をしているとはいえ、これだけやってなお一撃を与えられないなんて・・・!これが・・・特級呪術師のポテンシャル・・・!)

 

自身の得意技をことごとくいなされ続け、タエコは次第に焦りを生じ始める。そんな中で彼女が思い浮かべるのは、子供の頃の教育訓練でのババラの言葉だ。

 

『おお、これは筋がいいねぇ』

 

『見事だ!教育係のワシの鼻も高いよ。若いもんでタエコより強い奴はいないさね』

 

(・・・特級だろうが何だろうが・・・負けてたまるか!!)

 

ババラより認めてもらった己の力。その誇りと矜持にかけて、絶対に負けられないタエコはリミッター技、竜巻を使用する。

 

「竜巻!!」

 

竜巻が発動し、タエコの頬に緑の紋様が浮き出ると同時に一瞬で消え、傑の背後に回り込む。

 

(!さらに速度が増した!)

 

背後に回り込まれた傑は咄嗟にぬりかべ呪霊を召喚し、タエコの放つ風が纏った斬撃を防御する。その直後にタエコはさらに傑の正面に回り込み斬撃を放つ。傑は今度は粉砕王で防御。スピードで翻弄するタエコに傑は防御に徹し続けた。攻防が続き、次第にタエコの速さに慣れてきた傑は次に来るタエコの攻撃を予測し、イカ呪霊をピンポイントで弾丸のように撃ち放つ。見事予測が当たり、タエコが迫ってきたイカ呪霊を斬り祓う。そこから傑の影から伸びてきた影呪霊の手から後退し、距離を取る。

 

(くっ・・・竜巻を使ってもなお互角レベルとは・・・)

 

リミッターを解除しているにも関わらず食らいつけている傑のポテンシャルにタエコは冷や汗をかいている。対して傑は防御に使っている粉砕王をじっと見つめる。

 

(・・・先の戦闘で壊れたからか脆くなっている。この調子じゃ一撃を打てるかどうかも怪しいな)

 

粉砕王は先の戦闘で砕かれたせいか呪具としての機能が格段に落ちている。そのため現在粉砕王の装甲は脆くなっており、ところどころにひびが入っている。次に一撃を放つか攻撃を受ければ完全に壊れてしまうことだろう。

 

(ならばそれを、あえて利用するだけだ)

 

何か別の策を考えたのか傑は壊れることを覚悟のうえで粉砕王に呪力を込め、強烈な一撃を放たれるように構える。対しタエコは刀を鞘に納め、自身の呪力を刀に集中させる。

 

「オールベルグの抜刀術・・・これで決着をつける」

 

「・・・来い」

 

睨みあいが均衡する中、先に動いたのはタエコの方だ。タエコは抜刀状態を維持したまま、素早い動きで傑に迫る。するとその瞬間、辺りの空間が一変する。そう、口裂け女の簡易領域だ。いつの間にかタエコの背後に立つ口裂け女は例の如く、あの質問をする。

 

【ねぇ・・・私・・・きれい・・・?】

 

(仮想怨霊!つまりこれは質問に答えるまでお互い攻撃できない簡易領域!あの呪具を使うための時間稼ぎか?なら・・・)

 

口裂け女の繰り出す簡易領域は粉砕王を放つための時間稼ぎと推察するタエコはあえて口裂け女の意にそぐわない回答を返す。

 

「・・・いや。お前は・・・醜い」

 

間違った答えを聞いた口裂け女は手に持っている糸切りバサミを力強く握りしめる。その瞬間、一瞬で巨大糸切りばさみが出現し、それが全てタエコに向けられている。タエコは慌てることなく抜刀状態を維持したままこの問題を対処する。

 

(シン・陰流―――簡易領域)

 

タエコが今まで殺してきた術師の中にはシン・陰流の門下生もおり、シン・陰流の技術を奪い取っていた。その奪い取った技術、シン・陰流簡易領域を使い、口裂け女の術式を中和させた状態でタエコは刀を抜かず、身に纏う風を荒くさせる。

 

「寒風!」

 

荒々しく吹く風は四方面に風の刃を放ち、口裂け女の巨大糸切りばさみを全て粉々に砕いた。口裂け女の脅威を対処すると、荒んだ風は緩やかになる。その瞬間、傑はタエコの背後に回り込み、粉砕王の最後の一撃を放とうと迫る。

 

(来た!その腕、斬り落とす!!)

 

タエコはその攻撃を待っていたかのように振り返り、刀を抜刀し、一閃の斬撃を放つ。だが傑はその振り向いた瞬間を狙い、その場で屈んで斬撃を躱し、地面に最後の一撃を放ち、土煙を発する。

 

(なっ・・・直前で狙いを・・・⁉)

 

想定していなかった行動で抜刀術を避けられたことでタエコは驚愕する。そして、発せられた土煙より虹龍が現れ、タエコに食らいつき、天井を破って空高く打ちあがる。

 

「ぐ・・・あああああああああ!!」

 

空高く舞う虹龍は顔を振り下ろし、タエコを地面に向かって放り投げた。宙に放り出されたこのタイミングで地蔵型呪霊が降下し、タエコは押しつぶされるように地面に叩きつけられる。

 

「が・・・あ・・・!」

 

コルネリアとの戦闘のダメージの積み重ねもあり、タエコの身体はもう限界に達しており、立つこともままならない。そんな彼女に傑は近づく。

 

「君、粉砕王の一撃をずっと警戒してただろ?あれももう限界だったし、次の一撃で確実に壊しにかかるだろうと思っていたよ」

 

(・・・全て・・・読まれていたのか・・・!)

 

策略を完全に読まれたタエコは悟った。自分の力では倒せる相手ではないということを。そんな時に視線に映ったのはコルネリアの遺体だった。

 

「・・・あ・・・て・・・き・・・」

 

「?」

 

「て・・・きとわかったのは・・・昼間の時だ・・・」

 

(団体戦後のことか・・・)

 

本当に辛そうな顔から察するに、彼女は嘘を言っているわけではないと傑は察してる。

 

「・・・君は本当に、彼女とは友人同士だったんだね」

 

タエコの本音を聞いた傑はしゃがみこみ、彼女に手を差し伸べるように手を伸ばす。それを見たタエコはその手に向けて手を伸ばし・・・

 

ガシッ!!

 

差し伸べた手首を強く掴みとり、彼の腹部目がけて刀の突きを放った。

 

バキィ!!ズシャア!!

 

本音の裏に隠された殺意を見逃してなかった傑は情けをかけることなく、蛇呪霊を召喚して刀をへし折り、タエコの腹部を内蔵ごと貫いた。内臓を潰されたタエコは目に光を失い、息を引き取った。力なく倒れる彼女に傑は哀れんだ表情を見せる。

 

「・・・次に逢う時は、最初から味方同士の方がいいね」

 

戦闘が終わり、傑はゆっくりと歩き、コルネリアの遺体に近づく。確認しなくてもわかっている。彼女ももう、息を引き取っていることくらいは。

 

「・・・コルさん・・・帰ろう・・・高専に」

 

傑はコルネリアの遺体を抱え、廃墟から去るのであった。

 

 

一方その頃、伊根町の帳を担当していたナハシュ班は現れた敵との戦闘を開始していた。しかし、その相手は相当な手練れでなかなか押しきることができないでいる。

 

「おやおや・・・思ったよりしぶといのう」

 

(呪詛師との戦闘は避けられないとは思っていたが・・・これほどとは・・・)

 

ナハシュは敵である老婆から漂う呪力量からしても、ただならないとわかってはいたが、想像以上の実力のため、冷や汗をかいている。

 

「すまんのぉ、一瞬で殺せなくて。次でとどめを刺してやるからな」

 

老婆・・・ババラは短刀を構え、並々ならぬ殺気を放つ。

 

「我こそは死神オールベルグの双眸。無常の光。汝の冥府までの旅、看取らん」

 

 

一方、京都府内最後の帳。そこを担当する銀髪のポニーテールの女性はババラに情報を流し、帳を降ろした呪詛師を発見し、巨大な斧を振るって調教した呪霊ごと薙ぎ払った。

 

「ぐああああああ!」

 

「ふむ、こんなものか。今までいろんな呪詛師とやり合ってきたけど・・・君、弱すぎるね。それも1番」

 

銀髪の女性は怪しく、妖艶な微笑みを浮かべている。

 

1級術師 冥冥

 

舞鶴市

 

冥冥班

 

冥冥(1級術師)

六道ポニィ(2級術師)

七海健人(3級術師)

灰原雄(3級術師)

 

「じゃ、殺すね?」

 

「ひっ!!ま、待って!!俺はただ命令されて動いただけなんだ!!頼む!!命だけは!!金なら払う!!」

 

呪詛師は命惜しさから必死の命乞いを乞うている。だが冥冥には全く響かない。例えお金を払われてもだ。

 

「・・・いくら?」

 

「へ?も、もちろん、全財産を・・・」

 

「ああ、そうじゃなくて。君は私にとって、どれだけの価値があり、どれだけ長く、どれだけ多くの利益をもたらしてくれるのかって話だよ。君の命の価値はいくらかな?」

 

「え?え?」

 

冥冥の質問の意味を理解できない呪詛師は困惑するばかりだ。

 

「命の重さの価値も即答できないようじゃ、君の価値もたかが知れてるね。ちなみに私の見立てでは、君の価値は・・・0円だ」

 

冥冥は斧の柄を振り下ろし、呪詛師に強打を与えて気絶させた。目的はあくまでも捕縛。やむ得ない場合は除くとして、わざわざ殺す必要はない。

 

「冥さんは相変わらず容赦ないわね・・・」

 

「すごいなぁ、冥さん。尊敬しちゃうよ!」

 

(・・・この業界にはまともな人はいないのか・・・)

 

冥冥の強さを目の当たりにし、ポニィはちょっと引き気味、灰原は素直に感動、七海は冥冥の人格面に関してで引いている。その間にも帳が上がっていく。

 

「帳が上がったからには、もう保護は必要ないよね?これ任務完了だ」

 

元を絶ったおかげで一般人を保護する必要がなくなり、冥冥の班の任務は完了だ。

 

 

ズドオオオオン!!!

 

「おおおお!!」

 

同時刻、南丹市。帳を降ろし、連続爆破の原因である呪詛師を発見した悟は圧倒的な力を見せつけたうえでボコボコにした。

 

「触れた物質を爆弾に変える術式か。爆弾にする道具の制限はないみたいだし、いいもん持ってんじゃん。それで何でこんな弱いのか意味わからんけど」

 

六眼で自分の術式を見抜かれている呪詛師はよろよろと起き上がる。

 

「クソ!クソ!絶頂の最中だってーのに・・・何でこんな・・・。やりたいことをやりたいようにやって、何が悪いっつーーんだぁ!!!」

 

ドカアアアン

 

呪詛師はポケットから1枚のコインを取り出し、悟に投擲する。コインはその瞬間で爆発する。爆発の硝煙が立ち込める中、悟は瞬時に呪詛師の前に立ち、人差し指と中指を向けて掌印を作る。

 

「なっ!!」

 

「術式反転―――"赫"」

 

悟が術を使うと、辺りの空気が赤く染まる。呪詛師はこれから来る衝撃を和らげようと腕を交差して守りを固める。が、空気は元に戻り、いつまでも来ない衝撃に呪詛師は恐る恐る目を開ける。

 

バキィ!

 

「しっぱーーーい!!」

 

「ぐああああああああ!!」

 

呑気に口を開く悟のパンチをくらい、呪詛師は気を失った。

 

「うーん、いけると思ったんだけどなー」

 

呪詛師が気を失ったことで帳が上がった。これで南丹市の任務も完了だ。

 

 

同時刻の福知山市。生気もなく襲い掛かってくる一般人を赤女(あかめ)は刀で切り裂き、筑紫(つくし)はリボルバーで眉間を撃ち抜く。その瞬間、一般人は形を変え、何の装飾もない傀儡へと変わり、粉々に砕け散る。そう、襲っていたのは人間ではなく、何らかの術式で人間の皮をかぶせた傀儡だったのだ。

 

「ふざけた呪詛師だ。人形で一般人を装って神経を揺さぶるとは」

 

「本当にリアルだったよね。一目じゃ気付かないほどだもん。でもこれで、後は呪詛師を捕まえるだけだね」

 

襲ってくる傀儡を全て片付け終え、呪詛師を探そうとした時、突然帳が上がり、元の空へと戻っていく。

 

「えっ⁉帳が⁉まだ呪詛師見つけてないのに⁉」

 

「!まさか、逃げる気か!」

 

帳が上がっていく光景を見て、赤女(あかめ)は呪詛師が逃げる気ではないかと勘づく。すると筑紫(つくし)は建物に隠れながら逃げようとする人影を目撃する。

 

「!赤女(あかめ)ちゃん!今逃げようとした人がいる!追いかけよう!」

 

「いや・・・そう言うわけにもいかないようだ」

 

「え?・・・あ!」

 

赤女(あかめ)の指摘で筑紫(つくし)は建物から得物を持った一般人が何人も現れ、街の方へ向かって行く光景を見た。おそらくあれも一般人ではなく、皮を被った傀儡だろう。そして街にはまだ、状況を何も知らない一般人がゴロゴロといる。

 

「私が傀儡を対処する!筑紫(つくし)は逃げた奴を追いかけてくれ!」

 

「うん!気をつけてね!」

 

赤女(あかめ)は街に向かった傀儡の対処、筑紫(つくし)は逃げた人物を捕まえにそれぞれ分かれた。誰もいなくなったその場の一軒家から、1人の男が出てきた。

 

「ふい~、くわばらくわばら。てめぇらみてぇに強い奴の相手なんかしてられるか」

 

この男が傀儡をけしかけた呪詛師であり、帳を上げさせたのも、逃げた人間も、街に向かう傀儡も、全部この男の策略である。

 

「考えなしに暴れまわるのはバカのすることだ。呪詛師なんざなぁ、頭使ってなんぼだ。頭さえありゃあ、術師を掻い潜るなんて朝飯前なんだよバーカ」

 

頭が切れる呪詛師はまんまと策略に嵌まったこの場にいない2人を煽る。

 

「さて、戻ってくる前に逃げるか。せいぜい『未練』の海で泳いでろ、クソ呪術師共」

 

呪詛師は最後に悪態をついてバイクに乗り、福知山市を去った。この男の術式が、後に起こる大事件でさらなる混沌を呼び起こすことになろうとは、まだ誰も知らない。

 

 

同時刻の伊根町。ナハシュはババラが繰り出す攻撃を水龍の剣でいなしながら距離を取っていく。

 

「ヒャアアアア!!!」

 

しかしババラは年寄りとは思えないほどに軽快な動きで一気にナハシュの間合いに入り、短刀による連撃を繰り出していく。

 

「ちっ・・・!」

 

ナハシュはババラの連撃を一撃一撃を水龍の剣で受け流していく。最後の一撃が弾かれた時、ババラはその流れを乗るかのようにゴロゴロと転がり、ナハシュの背後を取る。そこから繰り出されるババラの斬撃をナハシュは跳躍して躱す。

 

(・・・ワシの攻撃をその若さでここまで躱すか・・・。例外は除くとして、タエコ以上の逸材がいるとはのう・・・)

 

予想以上に立ち回るナハシュの強さに多少なりとも驚いている。そんな時、ババラに0.0何秒の映像が流れる。その映像とは、地面に潜っている(がい)が側面から飛び出し、攻撃を仕掛けてくるというものだ。ババラが着地すると、その映像の通りに側面から(がい)が地面から飛び出し、腕を伸ばしてきた。ババラは(がい)の攻撃を軽い身のこなしで跳躍して躱す。

 

「避けるなババア!!!」

 

攻撃を避けたババラはさらにそこから自来也が召喚したカエルの式神が舌を伸ばしてくるという映像を見た。その映像の通りに、黒女(くろめ)が召喚した自来也がカエルの式神を召喚し、ババラに向けて舌を伸ばした。

 

ガシッ!ギュウウウ!

 

ババラは自来也に視線を向けることなくカエルの式神が伸ばした舌を片手で受け止め、握りつぶす。

 

「げっ・・・!」

 

「ババアじゃないよ・・・ババラさね」

 

ババラはその場で短刀を振り下ろして斬撃波を放ち、自来也をカエルの式神ごと一刀両断に斬り裂いた。すぐ後ろにいた黒女(くろめ)は転がって、何とか斬撃波を躱した。さらにババラは先ほどの斬撃波を(がい)にも放った。(がい)地面に潜ってギリギリながらも斬撃を躱した。

 

「・・・致命傷の手ごたえじゃなかったの。小娘も避けていたし、しぶといしぶとい・・・ん?」

 

ナハシュたちの思いの他のしぶとさにババラは辟易するかのように愚痴をこぼすと、ナハシュの呪力の流れが変わったことに気付いた。

 

「ほう、その呪具はそんなこともできるのかい」

 

水龍の剣を使かったことでナハシュは肉体の超強化を果たした状態となっている。

 

(能力発動時の激痛からくるわずかな隙をこの婆さんが見逃すはずがない。だが2人が婆さんの目を引いたおかげで発動できた)

 

水龍の剣を発動する際、激痛が伴うわけなのだが、そこを突かれてしまえば強化を中断されてしまうどころか、下手をすれば相手に殺されかねないデメリットも存在する。だがそのデメリットは(がい)黒女(くろめ)が気を引いたおかげで解消されたというわけだ。

 

「ヒャアァァ!!」

 

ババラは素早く動ごいてナハシュの背後に回り込み、短刀を振るって斬撃を放つ。

 

「・・・感謝するぞ」

 

ナハシュは2人のサポートに感謝しつつ、ババラの放つ斬撃をステップを踏んで躱す。先ほどまでの動きと違うことに少し驚くババラはその直後にナハシュが水龍の剣を振り下ろし、斬撃を放つ映像を見た。ババラは体を彼に向き直し、即座に後退して映像通りに動くナハシュの斬撃を躱した。

 

「どうした。逃げるのか雑魚」

 

「ああ、逃げるとも。呪具に染み込んだ強化系の術式は長くは続かんと相場が決まっておる」

 

「・・・っ!」

 

図星を突かれてしまったナハシュは一瞬ながらも苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「何分持つんじゃ?1分?3分?効き目が切れた後に刺身にしてくれるわ」

 

「貴様!!」

 

水龍の剣の能力を言い当てられたナハシュはババラに斬りかかろうと突っ込んでくる。ババラは制限時間を適当に言っただけだが、これでは墓穴を掘っているようなものだ。そしてババラはナハシュが突きを放つ映像を見た。

 

(そして焦って攻め込んできて墓穴を掘る。若いのう)

 

この0.0何秒後に起きる敵の攻撃の映像は、ババラの術式によるものだ。相手の次の攻撃を見る。ただそれだけの術式だが、3人を追い詰めていることでババラの実力の高さがうかがい知れるというものだ。

 

(そのおかげで・・・仕事も果たしやすい)

 

ババラは突っ込んできたナハシュの突きを跳躍して躱した。それだけでなく、その勢いで彼を踏み台にしてさらに跳躍し、短刀を構えて黒女(くろめ)に突っ込んでいく。

 

「なっ・・・!!?」

 

「しまった!!」

 

咄嗟のことなので対処が間に合わない黒女(くろめ)。ナハシュと(がい)も駆けつけようとするがもう遅い。ババラはすでに攻撃の届く範囲に迫ろうとしている。

 

「ヒャア!!」

 

「・・・っ!」

 

ババラが放つ突きの前に黒女(くろめ)はやられると思い、目を瞑った。

 

ガキンッ!

 

その瞬間に鳴ったのは金属音。いつまでたっても来ることのない痛みに怪訝に思った黒女(くろめ)は怪訝に思い、目を開ける。目を開けた瞬間に目に映ったのは、ババラの放った攻撃を刀で受け止めたガタイのいい肉体を持った黒髪の男の姿であった。

 

「ぬぅ・・・!」

 

「弱いもんいじめはよくねぇよなぁ・・・ババア」

 

男は力を込めてババラを押し退けた。押し返され後退するババラは1回転して地に着地する。

 

「だ・・・誰だあいつ・・・?」

 

「わからん・・・俺がここまでの接近に気がつかなったとは・・・」

 

いきなりこの戦闘に介入してきた男にナハシュと(がい)は怪訝に思うが、黒女(くろめ)はその男に強い印象があった。それは禪院家にいた時、姉が特訓相手に選ぶほどの男。

 

「・・・甚爾君?」

 

「小せぇガキがよくでかくなったもんだ。後2、3年すりゃ、いい女になってんじゃねぇか?」

 

その男とは、呪術界では術師殺しという異名を持つ男・・・禪院甚爾こと伏黒甚爾であった。

 

「お前・・・術師殺しの禪院甚爾だね?てっきりこの道から足を洗ったとばかり思っていたが・・・」

 

「もう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな。今は伏黒だ」

 

ババラの問いかけに対して甚爾は飄々とした態度を崩さない。

 

「甚爾君、なんでここに・・・」

 

「仕事帰り」

 

「いやそうじゃなくって・・・」

 

黒女(くろめ)の問いかけに対し、甚爾は簡潔に答えるが、それは黒女(くろめ)の求める回答ではない。

 

「術師殺し。何でワシの邪魔をするんじゃ?」

 

「あー・・・邪魔だから?」

 

「なぬ?」

 

「てめぇだろ、この帳下ろしてんの。一定の呪力が必要な以上、透明人間の俺は論外。帳が降りた以上、こいつらが出張るから別にほっといてもよかったんだが、俺も1秒でも早く帰りたいんでな。ま、早い話・・・てめぇぶっ殺した方が早いんだわ」

 

「随分舐められたもんじゃの」

 

甚爾から滲み出る殺気に対し、ババラも負けじと殺気で返した。

 

「甚爾君、そいつオールベルグだよ」

 

「・・・マジか」

 

「マジじゃよ。ゆーても小僧共瞬殺できとらんでいまいち説得力がないがのう」

 

ババラがオールベルグの一員であると知ると甚爾は多少なりとも驚き、身に纏う殺気がさらに強くなる。

 

(俺の知る限りじゃ安い仕事はしねぇはずだが・・・よく金が足りたもんだな。余裕をかましてる場合じゃねぇか)

 

甚爾は刀を巻きついている呪霊に収納し、代わりに大剣の呪具を取り出した。

 

「おい、奴は何者だ?」

 

「彼は・・・」

 

バッ!

 

「怪物だよ」

 

ナハシュの問いかけに黒女(くろめ)が答えると同時に甚爾は目に見えない速さで間合いに入り、ババラに大剣を振るう。術式でその映像を見ていたババラは甚爾が振るう斬撃を後退して躱し、素早く動きまわって甚爾を翻弄しようとする。当の甚爾は目で追うことはなく、気配を辿ってババラの攻撃を予測する。

 

「ヒャアッ!!」

 

間合いに入ったババラは短刀を振り下ろして斬撃を放つ。が、甚爾は彼女を見ることなく大剣で難なく防御する。そして振り向いた瞬間に甚爾は大剣を振るって斬撃を放つ。が、この攻撃も見ていたババラは屈むことで難なく回避している。

 

「ほい、隙あり」

 

大ぶりの一撃を狙っていたババラは甚爾の腹部目がけて短剣の突きを放つ。しかし甚爾は左手を呪霊の口の中に突っ込み、素早く鎖の呪具を取り出し、その突きを鎖で受け止めた。

 

「ぬぅ!!?」

 

瞬時に鎖を出して防御するという早業にババラは驚愕する。甚爾は鎖をさらに引っ張り出し、そのままババラに放って攻撃を仕掛ける。ババラは向かってきた鎖を横跳びに跳躍して躱す。

 

「ちぃ!化け物め!」

 

悪態をつくババラの間合いに甚爾は一瞬で入り込み、大剣による斬撃を放とうとする。ババラはその攻撃がただの一振りではなく、連続で斬りかかってくるものであることを見て、瞬時に対応する。

 

「ヒャアアアアアアア!!!!」

 

甚爾が繰り出す連撃をババラは目にも止まらぬ速さで短剣を振るい、全て受け流す。

 

「なんておばあちゃんなの・・・甚爾君の動きに、ここまでついてこれるなんて・・・」

 

攻撃を受け流し続けたババラは攻撃を掻い潜り、甚爾の首筋を狙って突きを放つ。甚爾は後退することでこの攻撃を躱した。

 

(なんて奴らだ・・・何が起きてんのか全然わからねぇ・・・)

 

「・・・参ったな・・・。こうも粘るとは・・・鈍ったかな」

 

「激しい攻撃だね。でも見切ったよ。次で終わりさね」

 

「・・・終わり、ねぇ。そうだな。次で終わりだ」

 

攻撃は見切ったと挑発するババラに対し、甚爾はニヤリと挑発的な笑みを浮かべながら大剣を呪霊に収納し、小回りが利く短剣を取り出す。そして甚爾は一瞬でババラの間合いに入り込み、短刀による攻撃を仕掛けようとする。

 

(小回りが利く呪具に変えたって同じじゃ。お前の攻撃なぞ、手に取るようにわかるわ)

 

術式で甚爾の繰り出す攻撃が見えているババラは彼の斬撃を短剣で受け流す。甚爾は一撃で止まらず、連撃を繰り出してババラを追い詰めようとする。

 

「ヒャアアアアアアア!!!!」

 

それでもババラはこの連撃を全て弾いている。そして、ババラは最後の斬撃を屈んで躱し、素早く転がって甚爾の背後に回り込む。

 

「ほれ、これで終わりじゃ」

 

ババラは甚爾の心臓に目掛けて短剣による突きを放った。

 

ゲシィ!

 

だが甚爾は振り向き、回し蹴りでババラの短刀を弾き飛ばした。さらに甚爾は左手を伸ばしてババラの手首を掴みとり、動きを止める。

 

「な・・・!!?」

 

「てめぇが言ったんだろ・・・終わりだってな」

 

ズンッ!!

 

「がっ・・・!!!」

 

甚爾は驚愕するババラの首筋を短刀で刺し貫いた。いくら術式で攻撃が見えていても、攻撃の最中に攻撃を仕掛けられたり、こうして身動きが取れなくなってしまえば、攻撃予測などなんの役にも立たない。

 

「ご・・・あ・・・!」

 

ズシャアアアア!!!

 

ババラは何とか反撃に出ようと左手を動かそうとした瞬間、甚爾は首筋で刺した状態で短刀を卸し、ババラの身体を引き裂いた。さらに甚爾はババラの手を放し、呪霊からもう1つの短刀を取り出し、彼女の右足をズタズタにするように何度も何度もめった刺しにする。

 

(まだ速く・・・!バカな・・・!オールベルグのワシが・・・こんなところで・・・!)

 

さらに甚爾はババラに容赦なく足払いをして体勢を崩し、脳天目掛けて短刀を突き刺そうとする。

 

(じゃが、ただではやられん!禪院甚爾!貴様も道連れじゃ!!!)

 

カチッ!

 

ドカアアアアアアアアアアン!!!!

 

ババラは短刀が突き刺される前に隠し持っていたスイッチを押し、自爆爆弾を起動させ、甚爾を道連れにするように自爆した。

 

「ごほ・・・ごほ・・・なんてババアだ!自爆しやがった!」

 

「そ・・・それより、甚爾君は⁉」

 

3人が硝煙に注目していると、人影がゆっくりとこちらに近づいてくる姿が見えてきた。晴れる硝煙から出てきたのは、ババラの遺体を呪霊に収納している甚爾であった。

 

「ふー・・・少し、勘が戻ったかな」

 

甚爾はあの状況からババラが自爆することを察し、標的を光る爆弾にかえ、呪具を振るってババラから爆弾を切り放す。そしてババラを盾にすることで爆発の衝撃を最小限に和らげたのだ。ババラが死亡したことにより、伊根町の帳が上がっていく。

 

(帳が上がった・・・。危機は一時脱したが・・・問題は・・・この男は敵なのか?味方なのか?)

 

ババラの脅威は去ったはいいが、まだ甚爾が敵なのかどうかという問題が残っている以上、3人は警戒を解くことは決してない。3人は臨戦態勢を整えるが、当の甚爾はやる気がないように肩を竦める。

 

「やめときな。お前らみたいなガキが束になったって俺には勝てねぇよ。それはお前が1番わかってるだろ?」

 

「・・・っ」

 

悔しいが甚爾が言っていることは間違っていないとわかってるのか黒女(くろめ)は素直に刀を鞘に戻して卸す。それに合わせてナハシュと(がい)も臨戦態勢を解くが、警戒は強めたままだ。

 

「懸命だな。この世には手を出しちゃならねぇ奴がいるってこと、長生きしたいなら肝に銘じときな」

 

戦闘が終わったことで甚爾は持っていた呪具を全て呪霊にしまい込む。

 

「今回はババアが報酬ってことでいいぜ。オールベルグの首となるとお釣りが来るからな」

 

「あ・・・甚爾君、まっ・・・」

 

「次会った時俺の邪魔になるようならそん時は殺す」

 

甚爾は3人に向けて警告を言い放ってこの場から去っていった。

 

「何だったんだ・・・あの野郎・・・?」

 

「でも・・・何とか終わったね・・・」

 

「だな・・・」

 

何が何だかわからない状況だが、とにかく危機は脱したため、黒女(くろめ)(がい)安堵する。警戒を解いたナハシュは自身の掌を確認して見ると、手汗がびっしりとかいていた。

 

(手汗がこんなに・・・。あんな奴が世にいたとは・・・)

 

甚爾の強さを目の当たりにしたナハシュは自身はまだまだ弱いと実感し、拳を再び握りしめ、強くなりたいという気持ちが強まる。

 

こうして全ての帳が上がったことにより、一夜の事件は幕を閉じたのであった。

 

 

違和感。

 

結果的に利益になったが、タダ働きはごめんだと、いつもの俺ならトンズラこいた。

 

けど、たまたまあいつ(黒女)を見かけた時、あの姉貴の姿が真っ先に思い浮かんだ。禪院家のあり方を全て否定し、禪院家の頂点になろうとする次代当主有力候補となったあの女の姿を。

 

俺じゃ成し得なかったことをやりやがったあいつ。生意気にも俺みてぇな猿と対等に見ているあいつ。本当に禪院家を変えちまうような期待を知らず知らずに抱いちまったあいつの姿を。

 

・・・・・・

 

もうどうでもいいことだろ。俺はもう禪院じゃねぇ。いつまでもいらねぇ期待なんか抱いてんな。俺とあいつらは赤の他人だ。あいつらがどうなろうと知ったことじゃねぇ。なのに・・・

 

「・・・くそ」

 

ヴゥー、ヴゥー・・・ピッ

 

『お前、今どこにいんだ。電話くらい入れろよ』

 

「どこだっていいだろ」

 

『・・・まぁいい。それより、お前宛てに盤星教からの依頼がある。しかも手付金付きだ。話だけでも聞いてみる気はねぇか?』

 

「・・・あー・・・そうだなぁ。金額次第なら、聞いてやらんこともない」

 

どうやらてめぇとは、もう少しの付き合いになるかもしれねぇな。

 

 

翌日の高専の京都校では、昨夜に亡くなったコルネリアの追悼が行われていた。彼女の関係者である選抜メンバーはもちろんのこと、悟を除いて東京校のメンバーも参加していた。全員、彼女が亡くなったことを悲しんでいる。特に、彼女に思いを寄せていた(がい)の悲しみは計り知れないだろう。

 

(がい)・・・すまない・・・私の責任だ」

 

コルネリアが亡くなった原因は自分の判断ミスだと考える傑は(がい)に謝罪する。

 

バキィ!!

 

だがそんな彼の謝罪が癪に触ったのか(がい)は傑を殴りつけ、彼の胸倉を掴みかかる。

 

「傑!」

 

「夏油さん!」

 

「夏油!!!!てめぇがついていながら!!!なんでこんな結果になるんだよ!!!」

 

(がい)!」

 

「やめなって!」

 

ポニィたちが止めに入ろうとする中、(がい)は八つ当たりをするかのように傑を責め立てる。誰よりも強く責任を感じている傑は甘んじて暴言を受け入れている。

 

ポンッ

 

「夏油に八つ当たりはよせ。見苦しいぞ」

 

肩を叩いて(がい)を止めたのは、この件を知らされて駆けつけた彼らの養父である。首元にスカーフを撒き、髭を生やした長髪の見た目だ。

 

1級術師  六道牛頭鬼(ごずき)

 

「父」

 

「お父さん・・・」

 

「親父・・・けどよぉ・・・」

 

「コルネリアを殺したのは暗殺結社のオールベルグだ。怒りはそこにぶつけろ」

 

「~~~~~!!!だからそいつは何なんだ!!!!」

 

オールベルグの名が出た途端、(がい)は怒り任せに傑を押し退ける。彼の疑問にナハシュが答える。

 

「神話に出てくる死神オールベルグの名を持つ呪詛師集団だ。歴史にある暗殺事件の多くはオールベルグが関与してると言われる」

 

「・・・オールベルグ・・・!!」

 

コルネリアを殺した組織、オールベルグに対して憎悪を抱く(がい)の顔は今まさに誰かを殺しそうな勢いで凄んでいる。そんな彼に赤女(あかめ)が声をかける。

 

(がい)・・・あまり傑を責めないでやってくれ。こんなことで喧嘩をしたら、きっとコル姉は悲しんでしまう。自分のせいで大変・・・と・・・」

 

赤女(あかめ)の顔を見て、(がい)はハッとした表情を浮かべる。なぜなら彼女は微笑んではいるものの、悲しみで涙を流しているからだ。

 

「こ・・・コル姉は・・・責任感強いから・・・。あれ・・・何を言ってるんだ私は・・・」

 

赤女(あかめ)・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

赤女(あかめ)ちゃん・・・」

 

「大丈夫か?」

 

涙を流す赤女(あかめ)黒女(くろめ)筑紫(つくし)、硝子に励まされている。その光景に傑は唇を強く噛みしめる。悔しい気持ちは彼女たちも同じだ。それに気づいた(がい)はバツが悪そうな顔を浮かべる。

 

「・・・とにかく今は休め。オールベルグは自分たちの面子にかけてまた刺客を送り込んでくるはずだ。迎え撃つまではキッチリ気持ちを切り替えとけよ」

 

しんみりとした空気の中、牛頭鬼(ごずき)は全員にそう言い聞かせ、その場を後にした。

 

 

最低限の追悼を済ませた牛頭鬼(ごずき)は京都校の裏庭で空を眺めている。

 

(・・・ちっ。コルネリアめ、使えねぇガキだったな)

 

牛頭鬼(ごずき)はコルネリアの死に対して何とも思っていないかのように考えている。が、その直後に脳裏に浮かんでくるのは、家族として共に過ごした幼い頃のコルネリアの姿であった。

 

(・・・なんて、割り切れねぇな、やっぱり・・・。コルネリアはいい子だったからな・・・辛いわ)

 

牛頭鬼(ごずき)は当初、コルネリアを含めた養子全員を自分の道具のように思っていたようだが、今は共に過ごすうちに情が芽生えてしまっており、父として少なからず悲しみの感情がふつふつと湧いてきている。

 

「・・・なんか用か?」

 

思いふけっていると、牛頭鬼(ごずき)の隣に同期の冥冥が立っていた。

 

「いや。君、変わったなと思ってね」

 

「は?俺が?」

 

「だって、今父親らしい顔をしていたじゃないか」

 

「!」

 

冥冥の指摘に牛頭鬼(ごずき)は多少の驚きで目を見開く。

 

「何か心境の変化でもあったのかな?ぜひ教え願いたいね」

 

「・・・はっ。気のせいじゃねぇか?俺はそんな人間じゃねぇ」

 

「ふふ、そう?でも今の君は、嫌いじゃないよ?私は」

 

「金にがめつい守銭奴に好かれても嬉しかねぇな」

 

「つれないね」

 

同期2人はそれ以上の会話は続かず、ただただ目の前の景色を見つめるだけであった。

 

 

同時刻、京都校の運動場。追悼を終えた選抜メンバーは思いふけっている。気持ちを切り替えると言っても簡単なことではないからだ。

 

「・・・気持ちを切り替えろって言われても無理だよね・・・」

 

「うん・・・」

 

「切り替える努力はしろ。そうでないと死ぬぞ」

 

そんな中でもうすでに先を見据えているナハシュはどこかへ向かおうとしている。

 

「どこ行くのよ?」

 

「剣を振ってくる。まだまだ修行が必要だ」

 

彼の脳裏に浮かんでくるのは甚爾の圧倒的な強さだ。悲しい気持ちがないわけではないが、いつまでも塞ぎ込んでいては彼のような強さは手に入らない。気持ちを切り替えるという意味を込めても必要なことだ。

 

(そっか・・・体動かしてる方がまだマシかも・・・)

 

ナハシュの考えを理解したポニィは彼に習って自分も一緒に修行に行こうとする。

 

「それあたしも・・・」

 

「雑魚は来なくていい」

 

「ひどくない!!?」

 

が、ついてくることを拒否られてポニィはショックを受ける。

 

「・・・俺はそんな気にはならねーや」

 

気分が乗らない(がい)は不貞腐れるかのようにその場で寝そべる。彼を気にかける筑紫(つくし)はおずおずと声をかける。

 

「だ・・・大丈夫?」

 

「いや多分無理。涙でそう」

 

(がい)君・・・。え・・・ええと、何か食べたいものとかある?」

 

「ない。泣くから赤女(あかめ)のところでも行っててくれ」

 

「はぅっ・・・」

 

厄介者払いをするかのようなしぐさに筑紫(つくし)は少なからずショックを受ける。

 

「一晩思いっきり泣けばもう大丈夫だ。いつまでもウジウジすんのは俺のキャラじゃねぇし。赤女(あかめ)の言ったとおり、怒られそうでさ。コルネリアに」

 

「・・・うん」

 

(がい)も自分なりに気持ちを整理してる最中であるとわかった筑紫(つくし)赤女(あかめ)の元へと向かって行った。選抜メンバーはみんなそれぞれのやり方で、コルネリアの死を乗り越えようと、精いっぱい頑張っているのだ。

 

「・・・夏油にも謝らないとな」

 

 

一方その頃、唯一追悼に参加しなかった悟はブッスーとつまらなさそうな顔を浮かべながら京都校門前の階段に座り込んでいる。

 

「こんなところにいたのか、悟」

 

そこへ傑がやってきて彼の隣に座り込んだ。

 

「お前その頬どしたの?」

 

「いやぁ・・・(がい)に殴られてね」

 

「かー!八つ当たりかよ!ダッセー!」

 

「言ってやるな。彼がコルさんに思いを寄せてたのは知ってるだろう?後は察しな」

 

悪態をつく悟に対し、傑は咎めるように彼の発言を制する。

 

「それに、こうなったのは私の責任でもある。今回のことは重く受け止めるつもりだ」

 

「それこそ今さらだろ。術師やってりゃ死ぬ時は死ぬんだからよ。コル姉は運が悪かった。それだけだ」

 

呆気からんと発言する悟に傑は呆れるように頭を抱える。

 

「はあ・・・それ、みんなの前では言うなよ?彼らはコルさんの家族同然なんだから」

 

「だから席外してやったんだろーが」

 

どうやら追悼に参加しなかったのは悟なりに選抜メンバーを気遣ってのことのようだ。彼らの前で余計なことを言わないように。

 

「・・・しかし、今日は暑いね」

 

「だな。アイス買いに行こうぜ。頭も冷えんだろ」

 

悟と傑は気持ちを切り替える意味も込めてアイスを買いに街に向かって降りていくのであった。

 

 

同時刻、赤女(あかめ)は硝子と筑紫(つくし)と共に京都校の領地を歩いている。

 

(がい)君、何とか大丈夫そう」

 

「そう」

 

「・・・硝子は大丈夫か?」

 

「んー・・・コル姉の遺体解体すんの私だし・・・正直キツイわ」

 

硝子はいつも通りの口調だが、医療班としてコルネリアの遺体を解体しなくてはならないゆえに、今回の件は精神的にくるものがある。赤女(あかめ)は硝子の心中を察する。

 

「・・・だろうな。筑紫(つくし)はどうだ?」

 

「大丈夫じゃないけど・・・でも、怖いからしっかりしないと」

 

「「?」」

 

「コル姉ほど強くても、ああなったんだから・・・私なんかしっかりしないとすぐ死んじゃう・・・」

 

よく見てみると、筑紫(つくし)の手は震えていた。まだ気持ちの整理ができておらず、不安でいっぱいなのだ。そんな彼女を赤女(あかめ)は元気づけようとする。

 

「大丈夫だ。今はみんながすぐ近くにいるしな」

 

3人が辿り着いた場所は交流会団体戦にも使われた川だ。

 

「川・・・」

 

「涙も悲しみも・・・ここで全部洗い流す」

 

「!」

 

「川から上がったら、もう泣かない」

 

そう言って赤女(あかめ)は着ている制服を脱ぎ、入水の準備をする。

 

「あいつなりに気持ちを切り替えようとしてんだよ。禪院家にいるからかな?強いよ、あいつ」

 

赤女(あかめ)ちゃん・・・」

 

彼女なりに前に向こうという意志が伝わったのか、筑紫(つくし)は手の震えが止まり、彼女を見習おうという気持ちが強くなる。

 

「それ、私もする!」

 

「ははは、仲いいな、お前ら」

 

筑紫(つくし)は彼女に習い、同じ方法で気持ちを切り替えようと入水の準備をする。硝子はその様子を傍で笑っている。

「・・・私も踏ん切り付けないとね」

 

 

その後、3人が通った領地にグリーンが入ってきた。

 

赤女(あかめ)・・・確かこっちに行ってたような・・・」

 

赤女(あかめ)を探しているグリーンの脳裏に浮かび上がるのは追悼で彼女が涙を流した姿だった。

 

(・・・どういう言葉をかけるのが正解かわからないけど・・・何とかしてあげたい・・・!)

 

経緯がどうであれ赤女(あかめ)に惚れているグリーン。その赤女(あかめ)を元気づけたいと考えているようで彼女を探している最中のようだ。しばらく歩いていると、岩に腰かけ、煙草を口に咥えている硝子を見かける。

 

「あっ、家入さん」

 

「よお。赤女(あかめ)なら今入浴中だぞ」

 

「ぶっ!!??」

 

まさか赤女(あかめ)が入浴途中だったとは思わなかったグリーンは赤面して思わず吹いている。

 

「なんか用か?」

 

「ち、違う!!!僕にはそういう気持ちは一切ない!!なんか慌ててると本気で覗きみたいだけど、絶対違うから!!」

 

「まだ何も言ってねーよ。ウケる」

 

「ごめん!!元気がなかったから気になっただけなんだ!!じゃあ!!」

 

慌てるグリーンは何も言ってないのに覗き疑惑を否定し、その場から逃げるようにして去っていった。

 

(ああっ、もうダサいな!!なんなんだよ僕は!!)

 

元気づけようとしただけなのに思うようにいかなかったグリーンは頭を抱えるのだった。

 

「今のグリーンの声か?なんだったんだ?」

 

「いや、何でも?それより罪づくりだな、お前」

 

「???」

 

 

一方その頃、今回仲間の術師の死亡を初めて経験した(黒女(くろめ)は除く)1年はぼんやりと山の景色を眺めている。

 

「・・・昨日初めて会ったばかりだけど、もっと仲良くできると思ってたのに・・・」

 

「灰原・・・」

 

「呪術師の世界は厳しいっていってたけど・・・本当だね。これが・・・現実なんだ・・・」

 

「・・・・・・」

 

いつも元気いっぱいの灰原も今回の件はさすがに堪えたのか声のトーンが低い。七海も黒女(くろめ)もこういう時、どう声をかければいいかわからないでいる。

 

「・・・あの・・・灰原。私が言うのも何だけどさ・・・」

 

「・・・うおああああああああああ!!!!」

 

「「!」」

 

黒女(くろめ)が声をかけようとした時、灰原は感情を表に出し、声を高らかに張り上げる。いきなりのことで七海も黒女(くろめ)も驚く。

 

「うおああああああああああ!!!!」

 

「は、灰原?」

 

「どうしたんですかいきなり」

 

「どうって、僕の気持ちを全部大声で発散してるんだよ!」

 

「「?」」

 

灰原はいつもの口調でさも当然のように答える。それには2人は疑問符を浮かべる。

 

「・・・悲しくないの?」

 

「そりゃ悲しいよ。でもあの人も言ってたでしょ?気持ちを切り替えろって。でも僕はバカだからさ。こういう時、どうすればいいかわからないんだ。だから、こう考えるんだ。感情を抑えるのはやめて、ありったけぶつけて前に進もうって!赤女(あかめ)さんの言うとおり、ウジウジしてたら先輩に怒られそうだからね!」

 

「・・・そっか。それもそうだね」

 

灰原なりに気持ちを切り替える努力に黒女(くろめ)は目を見開いた後に、自然と笑みがこぼれる。

 

「そうだ!2人も一緒に叫ばない?きっとスッキリするよ!」

 

「え、やだよ恥ずかしい」

 

「お断りします」

 

「ええええええ!!?なんで!!?」

 

京都で起きた事件はそれぞれ大きな傷跡を残すこととなった。それでも彼らが歩みを止めることはない。なぜなら彼らは、呪術師なのだから。

 

 

コルネリアの死を乗り越えてから2週間後。灰原と黒女(くろめ)はさんさんと眩しく輝く太陽を見上げている。この場所では、青く澄んだ海、白い砂浜が広がり、鮮やかなハイビスカスの花が咲いている。高専1年生は・・・今・・・

 

 

 

「「めんそーーーれーーーーー!!!!」」

 

 

 

沖縄までやってきていた。沖縄の海に灰原と黒女(くろめ)は顔を輝かせているが、それとは対照的に七海は今にもキレそうな怒りの表情を浮かべていた。

 

2006年9月

 

星漿体護衛任務2日目




今週懐玉・玉折の総集編を見にいったおかげでモチベーションが上がりました。懐玉・玉折編を読み返したくなるほどに。

住古来今もようやく前半終了。この勢いで後半も書き上げ、今年中には渋谷事変に突入したいと思う今日この頃です。
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