そもそも1年がなぜ沖縄に行くことになったのか。それは1日前に遡る。
「星漿体?」
「そ。天元様と唯一同化できる人間。天元様のことは素人でもわかるよね?」
「えっと・・・どなた?」
「はあ・・・」
「不死の術式を持った術師ですよね?」
1年生は事の発端となっている星漿体について学生寮の灰原の部屋で話している。ちなみに灰原はポケモンコロシアムをやっており、
「不死ってことは死なないってこと⁉そんな術式があるの⁉」
「あるみたいだよ?でも死なないってだけで、不老ってわけじゃないんだよね。普通に年をとるだけならいいんだけど、一定の老化を終えると、術式が肉体を創り換えるみたいなの」
「つまり?」
「進化。人でなくなり、より高次の存在と成る」
「それって悪いこと?」
「天元様曰く、その段階には意思というものが存在しないようなのです。天元様が天元様でなくなってしまう。高専各校。呪術界の拠点となる結界。多くの補助監督の結界術。それら全てが天元様によって強度が底上げされている。あの方の力添えがないと、セキュリティや任務の消化もままならない。最悪、天元様が人類の敵となる可能性もある」
「そこで星漿体の出番。500年に1回、天元様と適合する人間と同化して肉体を書き換えるんだ。肉体が新しくなれば、術式効果も初期状態になるから、進化も起こらない」
「てことは、ヒトカゲがリザードになるのはいいけど、リザードンになると困っちゃう。だから変わらずの石で進化を止めるって感じかな?」
「えぇ・・・なんか違うけど・・・まぁいいや、それで」
「ポケモンで例えるのやめてください」
解釈が違うが、面倒だし進化を止めるという点は間違っていないため
「で、その星漿体の護衛に抜擢されたのが、五条さんたちというわけですか」
「うん。だから今日お姉ちゃんたちが帰ってくるかどうかはわからない。そこはわかるよ?でもだからって3人集まってゲームパーティは違うと思うの」
「同感です」
「だって
「余計なお世話。それにお姉ちゃんがいない時なんてザラじゃん」
どうやら3人でのゲームパーティは星漿体護衛任務に向かった
「まぁそう言わずに・・・あ、やったー!エンテイゲットだあああ!!」
「結構長かったね。敗戦分を合わせてモンスターボール100個は使ったんじゃない?」
「だってほしいんだもん!」
(・・・早く終わりたい・・・)
ただなんだかんだ言いつつも、
「夏油先輩?何か用ですか?」
『いきなりの電話ですまないね。それより、灰原と七海もいるかい?』
「?ええ、いますけど」
『突然だけど、沖縄に行きたくないかい?』
「え?」
いきなり沖縄に行く?と聞かれても何のことかわからない
●
そして3人はその後、任務として本当に沖縄に行くこととなったのだ。詳細としては星漿体、天内理子の大事な人間、黒井美里が盤星教信者に攫われたことで、悟たちが沖縄に出向き、黒井を救出。その後は悟たちは海で海水浴。その間1年たちは盤星教が空港を占拠しないように見張る。それだけで終わるはずだった。ところが滞在期間を1日伸ばしたことにより、3人にも時間の余裕ができた。
『せっかくの沖縄なんだ。後は傑の呪霊が見張るから、お前たちも楽しんでいくといい』
という、
「見てみて
「ちょっと触んない方がいいって。絶対かぶれる」
「1匹だけだから大丈夫だよ!」
「数の問題じゃなくて」
先輩たちの計らいでできた沖縄のバカンスを灰原と
「はあ・・・いいのでしょうかこんなことをしてて・・・」
そんな中で唯一真面目で気分が乗らない七海はこのまま遊んでいていいのかと少し頭を抱えている。
ピューッ、パッシャーン!
七海が考え込んでいると、灰原は水鉄砲の水を七海に顔に目掛けて放った。水を被り、ビショビショになる七海はこめかみを引くつく。
「へへへ、七海も早く来なよ!楽しいよー!」
「・・・あのですね・・・」
いい加減異を唱えようとする七海に
「心配なのはわかるけど、問題ないって。一応は空港に骸人形も置いといたから。何かあったら対処するよ」
「しかし・・・」
「それに・・・お姉ちゃんたち、灰原と七海がいる。大丈夫だよきっと」
当初は自分たちに頼らず、1人で突っ走ることが多かった
●
その後、1年生たちも沖縄のバカンスを満喫していく。海で遊んだ後は美食を堪能したり、ソフトクリームを食べながら街を観光して回ったり、3人でカヌーを体験したりと、青春の1ページを刻んでいった。
そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、今日はリゾートホテルで宿泊することに。七海が部屋で任務の経過報告をしている間、灰原と
「はー、遊んだ遊んだ。今日は楽しかったね、
「なんか羽目を外しすぎな気がするけど・・・まぁ、こういう日があってもいいよね」
満面な笑みを浮かべる灰原に呆れつつも、
「空港の方も問題ないみたいだし、朝一に出発すれば帰れそうだね」
「・・・うん、そうだね・・・」
満面な笑みを浮かべる灰原だったが、途端にどこか切なそうな表情を浮かべている。
「・・・何その顔?名残惜しい?」
「それもあるけど・・・空港にいる骸人形について考えてた」
「?」
「あれって・・・元は
「うん、そうだよ?」
「・・・辛くないの?」
「辛いかどうかは置いといて・・・思うところはあったよ。私も最初は吐きっぱなしだったし」
「何考えてるかわかるけど、無理な話だから。私の術式がそういうものである以上、
「・・・でも僕は、
「余計なお世話だよ。私が決めた生き方を灰原が否定する権利はない」
灰原の心情を察してか、
「私はね、この力を大切な人を守るために使いたいんだよ。そのためならどんな辛酸を受けたって構わない。そしてその中には、灰原や七海だって含まれてる」
「!」
「どれだけ突っぱねても灰原は私に手を差し伸べてくれた。そういうバカなお人好しのおかげで、私は救われたんだ。灰原は恩人なんだ。恩人を助けたいって思うのは、そんなおかしいことでもないでしょ?」
「・・・僕は・・・」
「はい、この話終わりー。このままじゃ平行線でしょ」
「でも・・・」
「私、もう部屋に戻るよ。明日の任務も速いし、灰原も早く戻りなよ」
話の有無を言わせないように
「・・・でも、それじゃあ辛いのは
自分たちのために損な役回りをこなそうとする
●
翌日、悟たちは朝一で理子と黒井と共に東京行の飛行機に乗り、高専へと戻る。1年生たちも悟たちを見送った後、次の飛行機に乗り込み、今日の任務先へと向かうのであった。
「目的地に着く前に、任務のおさらいをするね。今回の任務は前任の術師の救助、死んでたら目的の呪物と一緒に回収。目的地は広島にある地下遺跡。古墳が目印だからまず迷うことはないね。その地下遺跡はプトラ民族の根城でね、そこには呪術全盛期から歴史が長いプトラ王のお墓があって、危険な呪物が収められてるって話だよ。もしかしたら特級呪物両面宿儺があるかもしれないね」
「でもそういう呪物って、呪霊とかが寄り付くんじゃなかったっけ?被害は出なかったの?」
「プトラ民族・・・墓守がいるんだよ」
「墓守?」
墓守なる存在を聞いたことがなく、首を傾げている灰原に
「王の墓に近づく奴は死を・・・ってことでそう名乗ってるプトラの術師のことだよ。そいつらは高専各校、呪術連、呪詛師。どの勢力にも支配されず、独特の文化を今も築いてるみたいだよ。高専はその墓守たちが持ってる特級呪物を悪用しないために回収したいらしいんだけど、こいつらは想像よりもヤバい奴らなんだ。呪物を狙いに来た呪霊や呪詛師がいたんだけど・・・惨たらしく殺されてたんだ。『墓に近づくな』ってメッセージ付きで。これだけならまだマシな方。でも問題は・・・数週間後、その呪詛師の家族、一家全員皆殺しにされてたんだ。街の中で堂々とね」
「報復・・・ですか」
「・・・っ。ひどいよ・・・それ・・・」
手を出してきた呪詛師ならまだわかる。だが呪詛師といえど、何の関係もない家族までも手にかける墓守に灰原は嫌悪感を抱いている。
「そういう連中だから上もこの案件は1級相当と関連付けてる」
「しかしなおさらこれは1年で務まるものじゃないでしょう」
1級相当の任務だというのならばどう考えても自分たちの力量では釣り合うものではないのだが、任務である以上は問答は無意味だ。それだけ呪術師という世界は人材不足なのだ。
「残念ながら呪術界は常に人手不足。身に余る任務を請け負うのはほぼしょっちゅう。でも今回は相手が相手だからね。私の方から言えることは3つ。戦闘は極力避けること。墓守と遭遇したらすぐに逃げること。ヤバくなったらすぐに任務を放棄すること」
3番目の注意事項の任務の放棄に関してで灰原は異を唱える。
「ちょ、ちょっと待って!任務の放棄って・・・仲間を助けないの⁉」
「特級と遭遇した時、迫られるのは生きるか死ぬか。それと一緒。自分の恐怖には従えって言ってことだよ」
「僕は怖くなんかないよ!」
「まだわからない?私たちにできる範疇を越えてるって言ってんの。相手は報復してくる奴らだよ?天元様の結界がある以上、攻めてくる可能性は低いだろうけど、つつをついた以上、捕まったらどうなるかわからない。最悪、殺されるかもしれないよ」
「そんなの、返り討ちにすればいいじゃないか!怖いことなんて何も・・・」
任務の方針に反論し続ける灰原に
「いったい何なの?私に殺しはしてほしくないとか、仲間を助けたいとか。今の話全然聞いてないの?それとも何?灰原ならみーんな助けられるとでも?欲張りすぎだし、驕るにもほどがある」
「欲張って何が悪いんだよ!人の命には変わらないんだよ⁉
「現実的だって言ってほしいね。救える人間なんて限られてるんだよ」
「そんなのやってみないとわからないじゃないか!」
「短絡的だよ」
2人の口論が激しくなり、いがみ合いになってしまったところを七海が止める。
「ストップ。不毛な喧嘩をしてる場合ではないでしょう」
「でも・・・!」
「灰原、これに関しては
「・・・っ」
「理解してください。逃げることは決して薄情ではない。仲間を助ける、最善の策です」
納得したわけではないが、七海に諭されたことで灰原は大人くしくなる。
「・・・見えてきたよ」
口論が終わった頃には飛行機は目的地である広島を通っている。窓の外には、目的地の目印であろう古墳の光景が広がっていた。
●
広島空港に到着し、飛行機から降りた3人は古墳にある地下遺跡の入口へと足を踏み入れる。ただ、飛行機での喧嘩もあって、灰原と
「この先がプトラに通じてるはず」
「ここは私が先行します。灰原と
何があってもいいように、七海が先導するように前に出て、扉を開いた。扉を開けた先には、渓谷のように広大で地下なのに空は青く、岩ばかりで植物などの緑がない断崖絶壁のような風景が広がっていた。
「そ、外⁉なんで⁉僕たち地下にいたよね⁉」
「いえ・・・外に出たわけではありません。これは・・・」
(結界術・・・!これほど高度な結界は初めて見た!もしこれが墓守・・人が張ってるんだとすれば・・・想像のレベルを超えている・・・!)
これらの光景が結界で作られたものであると推測する七海と
「ねぇ、見て!あそこ!ピラミッドがある!」
「おそらく、あれがプトラ王の墓・・・墓守の拠点なのでしょう」
「となると、呪物はあそこにあるのは間違いないね。慎重に行こう」
「ええ」
「・・・ふんっ!」
「あっ!ちょっと灰原!なんなの、もう!」
「・・・・・・」
注意を無視する灰原に
●
ギスギスした空気を漂わせたまま3人は目的地であるピラミッドの手前までたどり着いた。
「うわぁ・・・改めて見てもすごいねぇ・・・」
日本では見ることが叶わないピラミッドをこうして間近で見て灰原は感嘆している。
「ここまでは何もなかったけど、どうやって中には入る?」
「補助監督では調べられないので仕方がないとはいえ、情報がないのは痛いですね。せめて中の構造がわかればよかったのですが・・・」
「もちろん!正面突破あるのみ!」
七海と
「~~~!!バカ!ホントにバカ!!どこまで脳筋なんだよ!!ちょっとは夜蛾先生みたいに物事を考えられないの⁉」
「薄情な
「薄情⁉それは私に言ってるの⁉」
「他に誰がいるんだよ!」
「言うに事欠いて生意気を・・・!」
敵地のど真ん中だというのにまた喧嘩を始めてしまう灰原と
「2人ともいい加減に・・・!!灰原!
喧嘩を止めようとした時、複数の殺気に気付いた七海は灰原と
ドスンッ!
「ぐっ・・・!」
「「!七海!!」」
太くて鋭利な針のようなものが七海の肩に突き刺さった。
「ちっ。仕留め損なったか」
「見苦しいものだな。仲間割れなどと」
「どうでもいいよ。こいつらはこれから死ぬんだから」
針が放たれた方角を見てみると、ピラミッドの上に民族衣装を着た何人もの人間が現れる。特徴は全員褐色肌で首や腰などに本物の髑髏をかけている。彼らこそが、このプトラの地に住む民族・・・墓守だ。
(墓守・・・!こんな時に・・・!)
「・・・その制服・・・貴様ら、高専の人間だな。何しにここに来たのかは知らんが、王の墓を荒しに来て、ただで帰れるなどと思わないことだ」
「荒らすなんてそんな!僕らはただ呪物の回収と捕虜の人を返してほしいだけで・・・」
「バカ・・・!」
敵にあっさりと自分たち目的を告げる灰原に
「同じことだ。我らは墓守。如何なる理由があろうとも、何人たりとも王の御膳には近づけさせぬ」
墓守たちは各々自分たちの呪具や呪力を用いて戦闘態勢に入る。
『墓を荒らす者に死を!!』
そう言って墓守たちは3人に向かって一斉に襲い掛かってきた。灰原と七海は攻撃を躱し、
「この状況はまずい!2人とも、ここは逃げるよ!」
「何言ってるの⁉まだ中にも入ってないのに!」
「今のこの戦力差を考えて言いなよ!こっちが圧倒的に不利すぎる!」
「くっ・・・!」
目的を果たさずに逃げることに消極的な灰原だが、不利なのはわかっているのか
「逃がすか!!」
墓守の1人は逃げようとする2人を追いかけ、槍の突きを放った。両者の間に七海が間に入り、鉈で突きを受け止めた。
「七海!」
「ここは私が」
七海は槍に7対3の線分を作り、鉈を振るって槍を真っ二つに切り裂き、さらに拳を叩き込んで墓守を殴り飛ばす。そこへ他の墓守が攻めてきたが、七海は鉈で1人を押し返し、さらに何人かの攻撃は後退して躱し、跳躍する。跳躍する七海は7対3の線分を引く。対象は墓守ではなく、着地地点。
「ぬううううん!!」
ドオオオオオン!!!
「ぬ・・・ぬうううう!!」
七海が着地地点に向かって呪力を纏った拳を叩き込むと、強い衝撃によって辺りに砂埃が生じる。砂埃によって墓守たちの視界が遮られる。砂埃が晴れると、3人の姿はどこもにもなかった。
「ちっ・・・逃げられたか!」
「まだ遠くには行っていないはずだ!探し出して殺せ!」
「誰だろうと関係ない!この地に足を踏み入れたことを後悔させてやる!」
逃げられたとすぐに理解した墓守たちは3人を探しに散開して捜索を開始した。その中の1人である長髪の男は不敵な笑みをこぼしている。
●
プトラの地内では墓守が灰原たち3人をあちこち探し回っている。そんな中で大地を走っているのは
「七海、大丈夫?」
「ごめんね・・・僕たちのせいで・・・」
「ええ、心配ありません。幸い傷は浅い」
「あんまり無理はしないで」
「手当が終わったらすぐにここを立ち去るよ。長居はできない」
「で、でも・・・」
「その意地のせいで七海が傷ついたんだ。意地を張って余裕はないよそれにさっきの墓守だってあれで全員とは思えない。もしかしたら、あいつらよりさらに上の奴もいるかも」
「・・・っ」
「戻って他の1級術師に任せよう。元々私たちの手におえる任務じゃなかったんだ」
「・・・わかったよ・・・」
灰原は捕まったかもしれない捕虜をまだ助ける気でいるようだが、先ほどの襲撃のこともあり、
(それにこの任務、上が意図的に絡んでるかもしれない)
思案する
『私たちは上に目を付けられている。
上層部が悟たち特級呪術師をよく思っていないことは
「心配をおかけしてすみません。もう大丈夫です」
「無理はしないでね」
「牙狼が残穢を残している間に、急いでここを脱出するよ」
七海の手当てを終え、急いでここを離れようとするが・・・
「逃がしはしない。私の手柄になってもらう」
「「「!!」」」
「残穢を残して分散させようとしたそうだが無駄だ。隠れてもすぐにわかるぞ。血なまぐさい匂いでな」
この洞窟の中に長髪の墓守が入ってきた。墓守が入ってきたことで3人は警戒を露にする。
「くっ・・・見つかった・・・!」
「まずいよ!仲間を呼ばれる!」
「仲間?」
慌てる灰原の発言に長髪の墓守は小ばかにするようにほくそ笑む。
「呼ぶ必要などない。私1人で十分だ。お前たちを仕留めれば私の階級も上がるだろう」
「階級?」
「あの髑髏のことだよ」
墓守の階級に疑問を浮かべる灰原に
「話によると仲間内でも階級があって階級が高い奴ほど髑髏を多く付けてるみたい。私たちで言うところの等級って奴だね。あいつの髑髏の数は2・・・3級ってところかな?つまり私たちだけでもいけるかもしれない」
「てことは、正面突破だね!」
「しかし増援が来るのも時間の問題・・・急がねば」
墓守の階級の話、目の前の墓守の髑髏の数で1人だけなら何とかなると思い、3人は戦闘態勢に入る。
「大した自信だな。我々墓守を甘く見ていると痛い目を見るぞ」
そう言う墓守・・・アラシは墓守に共通する術式を発動させると、自身の身体に変化が起きる。両手両足が獣のものへと変化し、長髪も毛先1本1本が針のように鋭く鋭利なものになる。変身を終えたと同時に、
(この獣のような剛力と瞬発力・・・半獣人化する術式か・・・!)
半獣人化する術式。それ即ち体の一部を獣と化するというシンプルなもの。半獣化する動物によって得られる力にバラつきはあるが、その中でも猛獣や逸話などに存在する生物は半獣化の中でも群を抜く。目の前のアラシも、ナハシュの持つ水龍の剣に付与されている術式もこれに該当している。
「おお!今までの中で1番手強いな!」
3人の猛攻に対し、アラシは片手で逆立ちで回転し、回し蹴りを放つ。3人は後退して攻撃を躱し、距離を取る。
「つ、強い・・・!」
「ですが、あちらも反撃するだけで手一杯のようですね」
「うん・・・2人とも、呼吸を合わせて。それで勝てる」
「果たしてそうかな」
自身の勝利を疑わないアラシは挑発的な笑みを浮かべる。それと同時に3人は素早く動き、アラシの間合いに入る。先手を打つ灰原が剣を振り、その直後に七海が鉈で追撃、さらに
「ぬぅ・・・!」
アラシもこの猛攻についてこれず、防御に徹するだけで精いっぱいの様子だ。
(勝てる・・・このまま押し切れば・・・)
ドスンッ!
「っ!ぐ・・・ぁ・・・!」
押し切ることができれば勝利できると想定した時、自身が傷負った肩と同じ場所に最初に刺さった針と同じものが突き刺さっていた。
(これは・・・2人を庇った時の・・・!これが奴の奥の手か・・・!)
そう、この針のようなものは硬質化したアラシの髪の毛である。灰原と
「七海!!」
バババッ!ドスンッ!
「うぁ!」
七海がダメージを受けて立ち止まった灰原にアラシは再び硬質化した針髪を放つ。七海に気を取られ、灰原は避けられず肩に針が突き刺さる。
「仲間が被弾して隙ができた。甘いよ、お前が1番!」
大きく隙ができた灰原にアラシは間合いに入り、獣化した足で彼を蹴り上げ、岩に叩きつける。
「がは・・・!」
「後はお前だけ」
アラシは残った
「!」
「間近で2回も見た攻撃だ」
(ちっ・・・!ならば普通に斬るのみ!)
針髪がもう
「お前の斬撃もただの力任せだとわかった。ならそれも見切った」
ザンッ!
アラシが斬撃を繰り出すよりも先に
「こ・・・攻撃する順番を間違えた・・・か・・・!」
もろに斬撃をくらってしまったアラシは倒れる。しかし、手痛い一撃をくらっても、アラシは気絶していなかった。
(・・・並みの術師よりしぶといぞ、私たちは。仲間に駆け寄ったところに針を撃ち込んでや・・・)
ドスッ!
「るぅ!!??」
気絶したフリをして奇襲を狙っていたアラシだったが、生きていたことを勘づいていたのか
「やっぱり生きてた」
アラシを殺した
「ふぅ・・・これで邪魔はいなくなった。今のうちここから離れるよ」
「・・・
追手が来る前に洞窟から離れようと提案する
「あっ、なんだ。アラシやられてんじゃん」
「「「!!?」」」
突然
「手柄独り占めにしようとしてっからいつまでたっても雑魚なんだよ」
「ここで死んでくれてよかったな」
モヒカンの墓守の他に、もじゃもじゃ頭の墓守、金髪の女性の墓守もそこにいた。増援が来ただけでもまずいのだが、問題はそこではない。問題は実力差だ。相手の呪力量は大きく、身に着けている髑髏の数も3人とも4個ほどあった。
(増援・・・!しかも・・・髑髏が4つ・・・!)
(髑髏が4つあるということは、準1級か1級レベル・・・!それが3人も・・・!)
準1級、1級ほどの実力者が3人もいる。まだまだ実力不足の1年ではとても太刀打ちできない。それは2週間前の交流会で身に染みている。
「前に来た2人みたいに活きがいいようだし、こいつら連れて帰るぞ。いろいろと使い道がありそうだ」
3人の墓守は笑みを浮かべて当初の予定を変更し、
「・・・準1級、1級相当が3人いる以上、全員でここを切り抜けるのはきっと無理だと思う。私が隙を作るから、2人はその間に逃げて」
窮地の状況の中、
「そ、それはダメだ!そしたら
「人の心配をする前に、まず自分の心配をしろって言ってるんだよ!!」
意見が食い違う2人の言い合いを悠長に見ている気がない墓守は揉めている隙にも動き出す。
「悪いんだけどさ、漫才コントに付き合ってやるほど、ジャモおじさんは優しくないんだわ!!」
もじゃ頭の墓守、ジャモは大きく息を吸いあげ、口から黒い液体を3人に向けて吐き出した。七海と
「うわっ⁉なんだこれ⁉生臭い!イカ墨⁉」
どうやらこの黒い液体はイカ墨のようだ。イカ墨で視界を奪われた灰原にモヒカンの墓守、キマツは素早い動きで彼に近づき、腹部に膝蹴りを放った。
「う"・・・!げほ・・・ごほ・・・!」
「ほぉ、頑丈だな。俺の蹴りを受けて咳き込むだけとは」
鋭い蹴りで強烈な痛みを味わった灰原は咳き込み、腹部を抑えて蹲る。キマツはそのまま容赦なく彼の顔を踏みつける。
「灰原!」
「よそ見してる場合か?」
「!しま・・・ぐっ・・・!」
灰原に気を向けた隙を突くように女性墓守、カショックは七海の背後に回り、腕を組んで彼の首を締め上げる。
「ぁ・・・!」
「安心しろ、殺しはしない」
「2人とも!・・・きゃあ!」
「はっはー!1本釣り!!脱出不可能!」
「
ドゴォ!!
「がは!」
「何をする気かは知らんが、させんよ」
灰原は
(こいつらに捕まったら何されるかわからない・・・!せめて・・・せめて灰原と七海だけでも!)
全員が捕まるという最悪のシナリオを回避するために・・・いや、初めてできた友達を救うために、
「・・・こいつは非常に強力だから、今の私じゃ他の奴は呼び出すことはできない」
「んん?」
「!!そいつから離れろジャモ!!」
「来い!!阿修羅!!」
ズババババッ!
「ぐほぉあ!!」
「な、何だあいつは!!?」
「もしや・・・こいつは・・・!」
阿修羅はゆっくりと動き、両手の刀を構え直す。そのゆっくりと動く動作から、墓守の目には顔が3つ、腕が6本ある阿修羅神のように錯覚している。
ズバァ!!
「がぁ!」
「ぬ・・・ぅぅ!!」
墓守が気がついた頃には阿修羅はすでにキマツとカショックに斬撃を与えていた。ダメージを受けた墓守が後退り、灰原と七海から距離をとった。
「今だ!流兄弟!!」
「なっ!何するんだ!放せよ!」
「
流弟に担がれた灰原は必死に抵抗しようとするが、さっきのダメージで思うように動けない。流兄に担がれる七海は
「しまった!逃げられる!」
「逃がしてたまるか!」
ジャモやカショックは逃がすまいと動こうとした時、ずっと倒れていたアラシが起き上がり、針髪を放って墓守の足に撃ち込んだ。
「あ・・・!!」
「うげぇ!!」
針髪を撃ち込まれた墓守2人は転んでしまう。
「ダメだよ!それじゃあ君は・・・!
そして、1人残った
「・・・お前・・・死骸操術の使い手だったのか」
「マジか。見かけによらず物騒な女だな」
「だがなおさら都合がいいかもしれん。こいつは最優先に捕らえるぞ。逃げた奴は、その後でいい」
「・・・はっ。そううまいこといくかな?」
自分1人では敵わないとわかりつつも
●
流兄弟の手もあって、何とかプトラから脱出することに成功した七海は広島にある高専生の隠れ家で補助監督に連絡を入れ、救援要請を伝えている。
『事情は理解できました。ですが・・・今手が空いているのが数名の2級術師のみで・・・墓守と相手をするには、手に余るかと』
「・・・五条さんたちは?もうすでに高専に戻っているはずですが・・・」
七海の問いかけに対し、補助監督は非常に言いにくそうな声で答える。
『・・・大変申し上げにくいのですが・・・筵山麓に入り込んだ侵入者によって夏油さんは重傷。五条さんと
傑が重傷、悟と
『詳しい事情は私たちもわかりません。ただ、夏油さんが発見されたのが薨星宮手前でして・・・もしかすると・・・』
「・・・憶測の話をしても仕方ありません」
信じがたい話を聞いても仕方がない七海は冷静を装いつつ、救援の話を促そうとする。
『とにかく、今は事態の収拾のため、救援には少々時間が必要です。墓守に狙われ、皆さんは今危険な状況にあります。幸い校舎無事なので、個人的には撤退を勧めます』
撤退を勧められた七海は通話を切り、この後をどうするか考える。
(五条さんと
傑の怪我が治り次第、任務の引継ぎを決めた七海は別室で待機している灰原に今後の方針を話そうとして部屋に入る。
「灰原。任務について・・・灰原?」
だが部屋に入って見ると、そこに灰原の姿はどこにもなかった。
●
場所は再びプトラの地。岩ばかりの険しい道のりを走っている者が1人いる。それは1度は脱出したはずの灰原であった。灰原は隠れ場で七海と話していた時のことを思い出す。
『僕は行くよ、七海』
『ダメです。もうわかったでしょう。墓守はもはや一組織と変わりません。組織を相手に術師3人で立ち向かうなど、それは自殺行為に等しい』
(ごめん、七海。例え無理だとしても、僕は・・・)
思いふけながら走っていると、強い殺気を感じ取り、腰の剣の呪具を手に取って立ち止まる。灰原が構えると、彼の目の前に数人の墓守が現れる。
「またお前か。あの女に救われたというのに、わざわざ命を捧げに来るとはな。殊勝な心掛けだ」
「捕虜の人と
灰原の問いかけに対し、筆頭格を除いた墓守たちは小ばかにするように笑う。
「バカかお前。そんなこと、答えるわけないだろう!!」
「囲い込んで確実に殺せ!」
数人の墓守は自身を半獣化して、灰原の周りを囲んで一斉に襲い掛かる。一方の灰原は構えた剣を地面に突き刺す。
「グランシャリオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオン!!!
『ぐああああああああああ!!』
「・・・返せ」
グランシャリオを身に纏った灰原は墓守に拳を放ち、強烈な風圧によって迫って来る者全員を吹き飛ばす。唯一残った筆頭格は目を見開く。
「
グランシャリオを通して墓守を睨む灰原の視線は、今にも殺意が込められそうだ。
申し訳ございません。頭痛でダレてしまって予定よりずいぶん更新が遅れました。非常に暑いので熱中症には気をつけてください。水分補給や塩分補給を忘れずに。