2007年8月
星漿体天内理子護衛任務失敗から1年の時が経った。七海、
「いっくよー」
硝子は尖った鉛筆を、
「うん、いけるね」
「げぇ。何今の?」
「術式対象の自動選択か?」
「そ!正確に言うと、術式対象は俺だけど。今までマニュアルにやってたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく、質量、速度、形状からも、物体の危険度を選別できる。
「出しっぱなんて脳が焼き切れるよ」
強力な術式ゆえにデメリットも大きい無下限呪術の出しっぱなしに対し、硝子は心配の声をあげるが、問題ない。なぜなら悟には
「自己保管の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ。前からやってた掌印の省略は完璧。赫と蒼、それぞれ複数同時発動もボチボチ。後の課題は領域と長距離の瞬間移動かなー。高専を起点に障害物のないコースをあらかじめ引いておけば可能だと思うんだ。硝子、実験用のラット貸してよ」
「えぇ~・・・」
呑気に話し込んでいる悟とは対照的に、傑の表情はどこか陰ができていた。ぼんやりもしているし、目には隈もできている。
「傑、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
傑の様子がおかしいことに気付いた
「ただの夏バテさ。大丈夫」
「ソーメン食いすぎた?」
「あまり無理するな。保健室行くか?」
「本当に大丈夫さ。心配してくれてありがとう」
呑気な悟は置いておいて、心配している
●
悟は最強になった。
任務も1人で全てこなす。
結果、呪詛師殺しの異名を手にし、彼女も1人で任務をこなすように。
硝子は元々危険任務で外に出ることはない。
必然的に私も1人になることが増えた。
その日の夏は忙しかった。
昨年頻発した災害の影響もあったのだろう。蛆のように呪霊が湧いた。
祓う、取り込む。その繰り返し。
祓う、取り込む。
みんなは知らない。呪霊の味。吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みしているような。
・・・・・・・・・・・・誰の為に?
祓う、取り込む。あの日から自分に言い聞かせている。私が見たものは何も珍しくない周知の醜悪。知ったうえで、私は術師として、人々を救う選択をしてきたはずだ。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ブレるな。術師としての責任を果たせ。
私を滴るシャワーの音が、非術師たちの拍手が重なるようにも聞こえた。
あの拍手が・・・頭の中にこびりつき、嫌に耳に残っている。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「・・・猿め」
●
「夏油先輩の様子がおかしい?」
傑の異変にいち早く気づいた
「・・・いつもあんな感じじゃない?仮になんかあったとしても灰原がすぐ気づくよ」
「私の思い過ごしならそれでいいんだ。ただ・・・時々見せる傑の顔が・・・なんといえばいいか・・・心ここにあらずというか・・・心にぽっかり穴が開いてるような・・・そんな気がしてならないんだ」
今朝の悟の術式の練習に関してもそうだ。あの時傑は夏バテと言っていたが嘘だ。そうでなければ、この1年間で似たような状況に遭遇することの説明がつかない。
「う~ん・・・一応気にかけてみるよ」
「すまないな・・・」
いまいち実感が湧かない
「それよりちょっと聞きたいんだけど・・・」
「なんだ?」
「お姉ちゃんって、夏油先輩のこと好きなの?」
「?好きだぞ?お互いに背中を預けられる仲間だからな」
「いや私が聞きたいのはそういうのじゃなくて・・・まぁいいや」
「???」
質問の意図を全く理解できていない
「・・・
「うーん・・・呪術師として・・・なら・・・まだわかんないや。禪院のこともあるし、私の術式、かなり特殊だし。でも、ここには七海と灰原がいる。2人が一緒にいるから、毎日楽しくやっていけてるよ。もちろん、禪院にいた頃よりも」
「・・・そうか・・・」
「ありがとう、お姉ちゃん。私を高専に入れてくれて」
「ああ」
姉妹2人で楽しく話し込んでいると、
「あ、灰原ー!」
「あ!
「灰原、お疲れ」
「お疲れ様です!」
「お前もポテチ食べるか?まだ開けてない袋があるんだ」
「え~?悪いですよ~。コンソメで!」
「食べるんじゃん」
「ふふ」
「それでどうだ?任務の方は。ここ最近働きづめだっただろ?」
「はい!順調にこなしてますよ!」
「でもやっぱ疲れが溜まっちゃってやんなっちゃうよ。明日も任務だし」
「近場か?」
「いやー、それが明日の任務、結構遠出なんですよ」
「そうか。まぁ、もうすぐでシーズンが明ける。それまでの辛抱だ」
「はい!あ、そうだ!夏油さんからお土産を頼まれてまして・・・夏油さんは甘いものだったんですけど、
「うーん・・・私はしょっぱいのがいいのだが・・・悟も食べることを考えると・・・あえて両方はどうだ?」
「あ、そっか・・・甘じょっぱい・・・その手があったか」
「両方ですね!了解です!」
どこの任務かまでは知らないが、
「灰原、呪術師やっていけそうか?辛くないか?」
「実はそれ、夏油さんにも聞かれました」
「え?傑が?」
「自分はあまり物事を深く考えない質なので・・・。自分にできることを精いっぱい頑張るのは、気持ちがいいです!」
「・・・そうか。灰原らしい答えだな」
灰原の回答に
「あ、あのぅ・・・
話し込んでいると、怯えたような大人しい声が聞こえてきた。教室の扉を見てみると、細身で頬が痩けていて、実年齢より上に見えてしまう男子高校生がいた。
彼の名は伊地知潔高。今年入ってきた1年生で
「ん?伊地知か。どうした?」
「夜蛾先生が呼んでました。今日の任務の話とかで・・・」
「そうか。もうそんな時間か。わざわざすまないな」
「い、いえ・・・」
伊地知の言葉で今日の任務を思い出した
「じゃあ
「はい!お疲れさまでした!」
「任務頑張ってね、お姉ちゃん」
「ああ」
●
夜、都内にある普通科の学校。誰もいない真っ暗の廊下に、それはいた。この学校に蔓延る・・・女の呪霊が。
【か・・・紙・・・紙はああああああああああああ・・・】
呪霊は向かってくる敵、
「葬る」
ザンッ!!
一殺呪毒によって斬られた呪霊はその場に倒れ、黒い塵となって消えていく。無事祓うことに成功したのだ。刀を鞘に納め、
学校の入り口では補助監督が持っていた。
「
「・・・・・・」
「ど、どうしましたか?」
「・・・以前から思っていたんだが、等級とは合わない任務が多くないか?」
「と、言いますと?」
「今日の任務は大量の呪霊を祓う二級案件だったはずだ。だが蓋を開けてみればあれは一級相当の任務だった。これは偶然か?」
本来
「い、いえ・・・それは・・・」
「偶然なわけないな。大方また上層部の嫌がらせだろう。いくら人手不足とはいえ、あの老人たちがその辺りの采配を見誤るわけがない」
そう、これは上層部による嫌がらせによって割り当てられた任務なのだ。下手に特級を処分するわけにはいかない。かと言って好き勝手されるのも面白くない。なればこその嫌がらせだ。こういった案件は
「す、すみません・・・こればっかりは私どもではどうすることも・・・」
「いや、愚痴ってすまない・・・。戻ろう」
補助監督の申し訳なさそうにしている顔を見て、
「お前が禪院
その時、突然1人の女性が現れ、
「誰だ?」
「あ、あなたは・・・!」
突然現れた女性に
「少し話がしたい。時間は大丈夫か?」
女性からの突然の誘いに
「時間にはまだ余裕がありますから、問題ありません」
補助監督の許可も得て、
「お前たちの活躍は私の国でも耳にする。一度会って話がしたいと常々思っていた。会うことができてとても光栄だよ」
「・・・もう1度聞くぞ。誰だお前は?」
「ああ、すまない。自己紹介が遅れたな。私の名はナジェンダ。一応は高専のOGだよ」
銀髪の女性、ナジェンダの名を聞き、
「!お前があの・・・?卒業と同時に呪術師を引退し、特級術師、九十九由貴と共に海外をプラプラとするろくでなし共の」
自分たちの嫌な噂に対し、ナジェンダはかなり不貞腐れた。
「・・・私、やっぱり高専は嫌いだ。由貴と同じなんて冗談じゃない」
(拗ねた・・・)
「冗談だよ。でも入学当初から高専と方針が合わないのは本当だ。あそこがやってるのは対症療法。私たちは原因療法がしたい」
「原因療法?」
「呪霊を狩るんじゃなくて、呪霊の生まれない世界を創ろうよってことだ」
「!!」
呪霊の生まれない世界を創る・・・そんな突拍子もない話に
「呪霊が生まれない・・・そんなことが可能なのか?」
「少し授業をしようか。そもそも、呪霊とは何だ?」
「人間から漏出した呪力が折のように積み重なり、形を成したもの」
「エクセレント。すると呪霊の生まれない世界の作り方は大きく分けて2つ。1、全人類から呪力をなくす。2、全人類の呪力のコントロールを可能にさせる。私が勧めている1の線はな、いい線行くと思うんだ。モデルケースもいたからな」
「モデルケース?」
「お前もよく知ってる人間さ。禪院甚爾」
「!!?」
ここで甚爾の名前が出てきたことに
「天与呪縛によって呪力が一般人並みになるケースはいくつか見てきたが、呪力が完全に0なのは、世界中探しても彼1人だけだった。でも彼のおもしろいところはそこじゃない。禪院甚爾は呪力0にも関わらず、五感で呪霊を認識できた。呪力を完全に消し去ることで肉体は一線を画し、逆に呪いの耐性を得たんだよ。まさに超人。手加減してたとはいえ、奴から1本取れただけでもすごいことだぞこれは。誇ってもいい」
「・・・・・・」
一殺呪毒はフィジカルがものをいう術式だ。当たらなくては意味を成さない。だから幼い頃に特訓相手に甚爾を選んだ。禪院家にいた頃から甚爾はただものではないとは思っていたが、まさかそれほどまでとは思わなかったため、
「彼にも協力を仰ごうとしたんだが、断られてしまってね。惜しい人物を亡くしたよ。天与呪縛はサンプルも少ないし、由貴が今心血を注いでいるのは2の方だな」
「全人類の呪力のコントロールを可能にさせる・・・だったか?それと呪霊が生まれないことにどう関係が?」
「・・・知ってるか?術師からは呪霊は生まれないんだよ」
「!!?」
術師からは呪霊は生まれない・・・授業では習わなかった事実に
「もちろん、術師本人が死後呪いに転ずるという点を除いてだがな。術師は呪力の漏出が非術師に比べ極端に少ない。術式行使による呪力の消費量がキャパの差もあるが、1番は流れだ。術師の呪力は本人の中をよく回る。大雑把に言ってしまえば、全人類が術師になれば、呪いは生まれない」
ナジェンダの話を聞き、
「・・・全人類が呪術師になったとしても、根本的な解決にはならない」
「・・・ほう?」
「禪院家にいたからこそわかる。呪術師は最悪だ。術式のあるなしで優劣をつけたがり、おこぼれに縋ろうとする輩もいる。だから非術師こそが普通の人間だと思っていた。だが最近では、非術師も私たちと何も変わらないのだと気づいた。強者故の醜悪、弱者故の醜悪・・・。呪霊が全て消え失せたとしても、人から生まれる醜悪の根本が人の心ならば・・・結局は何も変わらない」
禪院家で知った呪術師の醜さ、盤星教で知った非術師の醜さ。それらを照らし合わせて見たところ、どちらのプランに転んでも、人の心が醜いならば、別の争いを生むだけであるだろう。
「・・・同じなのは当然だ」
「え?」
ナジェンダの言葉に
「醜さは人の心から生まれるもの。術師だろうが非術師だろうが、人間なのだから根っこは変わらないさ。だがな、人間は必ずしも醜悪とは限らない。下衆な人間もいれば、いい人間もいる。お前は今までいい人間に会ってこなかったのか?」
「・・・・・・」
ナジェンダの言うとおり、術師でも非術師でもいい人間は必ずいる。非術師であるならば、これまで呪霊から救ってきた一部人間、1年前では黒井や星漿体ではあるが理子が該当する。術師であるならば、先輩である歌姫やチェルシー、後輩の七海や灰原、担任である夜蛾。さらには頼れる同期である悟、最高の親友である硝子、最愛の妹である
「・・・呪霊のいない世界が生まれて終わりってわけじゃない。むしろそこからがスタートなんだ。悪人が蔓延る世界になるか、善人が安心できる平等な世界になるか・・・どっちの世界になるかは、全ては私たち人間次第だ」
「平等な・・・世界・・・」
人々が呪いに怯える必要もなく、なおかつ善人が安心できる平等な世界を創ること・・・それはまさに、
●
話が終わり、ナジェンダは車に乗り込み、学校から去ろうとする。
「じゃあな。話が聞けてよかったよ。本当は五条悟や夏油傑とも会いたかったんだが、間が悪いようでな。もし由貴と会う機会があったら、特級同士、仲良くしてやってくれ」
「悟や傑には私から言っておく」
「あ、最後に・・・星漿体のことは気にしなくていい。あの時、もう1人別の星漿体がいたか、既に新しい星漿体が生まれたのか・・・どちらにせよ、天元様は安定しているよ」
ナジェンダは最後に天元の状況を話した後に、今度こそ学校から去るのであった。
「・・・だろうな・・・」
理子を守ることができなかった罪悪感、理子が死んだにもかかわらず天元が安定している。様々な感情がごちゃごちゃになり、複雑な心境を抱く
●
数日後の夜・・・遠出の任務に出ていた七海と
「
「・・・どうということはない、二級呪霊の討伐任務のはずだったのに・・・。なのに・・・こんな・・・」
「・・・・・・クソッ!!!」
目の前の信じがたい光景に
「・・・生土神信仰・・・あれは土地神でした・・・一級案件だ・・・!」
七海たちに言い渡された任務とは、現れた二級案件の呪霊を討伐すること・・・そのはずだった。だが実際に蓋を開けてみれば、現れた呪霊、生土神信仰神・・・土地神の呪霊だったのだ。土地神に関する呪霊は二級などで収まるわけがない。本当の階級は一級・・・下手をすれば特級にだって成りえる。まだまだ実力不足である七海たちが相手になるわけもない。その結果は・・・目の前のそれを見れば一目瞭然だ。
目の前に広がっている光景とは・・・下半身がなくなってしまった灰原雄の亡骸であった。
「土地神は非術師の信仰によって具現化された呪霊・・・こんなの・・・非術師に殺されたも同然だよ・・・!」
「・・・・・・」
「・・・今はとにかく休め、
「・・・もうあの人1人でよくないですか・・・」
「・・・何が天上天下唯我独尊だ・・・!ふざけるな・・・!」
「「・・・・・・」」
七海は悟に対し、最大級の皮肉の言葉を呟き、
(・・・術師という名の・・・マラソンゲーム・・・その果てにあるのが・・・仲間の屍の山だとしたら・・・)
後輩・・・仲間の死・・・それを直面する傑の心は、さらに闇を増すのだった。
●
さらに数日後の朝、高専の学生寮。
「
「心配性だなぁ、お姉ちゃんは。私は見ての通り、大丈夫だよ」
そう言って
「やはり今日の任務、私が・・・」
「だから大丈夫だって。街外れの旧村の呪霊退治くらい余裕だよ。だから心配しないで」
「
「それに・・・今回の任務、夏油先輩もついててくれるから」
「!・・・そう・・・だな・・・。傑が一緒なら・・・安心・・・だな・・・」
傑が任務に同行してくれるなら大丈夫だろうと思い、
・・・だが・・・この時に自分が無理にでも止めておけばよかったと後悔することになる。
●
任務先である村にたどり着いた
「・・・これは何ですか?」
「何とは?この2人が一連の事件の原因ですよ!」
2人が見たものとは、怪我でボロボロになっている双子の女の子が檻の中に閉じ込められている光景だった。どうも村人たちはこの双子が事件の犯人だと思い込んでいるようだ。
「・・・違います」
「この2人は頭がおかしい!!不思議な力で、村人を度々襲うのです!!」
「事件の原因はもう私たちが取り除きました」
「私の孫もこの2人に殺されかけたこともあるんです!!」
「それはちが・・・」
「黙りなさいこの化け物め!!!あなたたちの親もそうだった!!!やはり赤子の内に殺しておくべきだった!!!」
原因を取り除いたにも関わらず、村人は双子を犯人だと決めつけ、そしてあろうことか双子を化け物扱いし、暴言を浴びせた。非術師ゆえの醜悪。生土神信仰を生んだ原因である非術師。頭の中がぐるぐると回る
『呪術師に非ずんば人に非ず』
その家訓が浮かんだ
「
そんな時に傑が
●
『全人類が術師になれば、呪いは生まれない』
『・・・じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか』
『・・・夏油君・・・それはありだ』
『え・・・いや・・・』
『というか多分、それが1番イージーだ。非術師を間引き続け、生存戦略として術師に適応してもらう。要は進化を促すの。鳥たちが翼を得たように。だが残念ながら、私はそこまでイカレてない』
『・・・・・・』
『非術師は嫌いかい?夏油君』
『・・・わからないんです。術師は非術師を守るためにあると考えていました。でも最近は私の中の非術師の・・・価値のようなものが揺らいでいます。弱者故の尊さ、弱者故の醜さ、その分別と受容ができなくなってしまっている。非術師を見下す自分・・・それを否定する自分・・・術師というマラソンゲーム・・・その果てのビジョンがあまりに曖昧で・・・何が本音かわからない・・・』
『どちらも本音じゃないよ。まだその段階じゃない。非術師を見下す君、それを否定する君。これらはただの思考された可能性だ。どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するのだよ』
●
今日というこの日まで、様々な考えが積み重なり・・・そして目の前の惨状を目にしたことにより・・・傑の非術師に対する価値観が・・・崩れ落ちた。
「・・・皆さん。いったん外に出ましょうか」
傑はにこやかな笑顔を浮かべているが・・・目は全く笑っていなかった。そして・・・
ボオオオオオオオオオ!!!
「あっ・・・!!」
「何!!??」
「なんで・・・ぇ・・・ぇ・・・」
「いああああああああああ!!!」
「もうやめて・・・」
呪霊の炎で村全体を焼き尽くし、村人たちを焼き殺していった。村中では何が起こったのかわからず、混乱で悲鳴を上げるばかりであった。その惨状を目の当たりにした
非術師を見下す自分・・・それを否定する自分・・・。
傑は自身の答えを見出した。
●
記録 2007年 9月
■■県■■市(旧■■村)
任務概要
村落内での神隠し、変死
その原因と思われる呪霊の祓除
・担当者(高専2年 禪院
・全て呪霊による被害と思われたが、残穢から夏油傑の呪霊操術と断定。禪院
・夏油傑は禪院
呪術規定9条に基づき、夏油傑、及び禪院
●
村全体で起きた大規模な殺人事件。その犯人であるのが傑だという事実。その詳細を夜蛾は悟と
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「何度も言わせるな。傑が集落の人間を皆殺しに・・・」
「聞こえてますよ!だからは?っつったんだよ」
悟にとって傑は親友とも呼べる存在。その親友が村人を皆殺しにしたという事実が受け入れられないでいるのだ。だが、起きた事件はこれだけではない。
「・・・先生、何かの間違いでは?傑がそんな・・・」
「・・・傑の実家はすでにもぬけの殻だった。多分血痕と残穢から、恐らく両親も手に・・・」
「んなわけねぇだろぉ!!!!!」
一連の事件の犯人が傑だと認めたくない悟は大声を荒げて否定した。
「・・・
「そうだよ!!あの任務、元々あいつが請け負ったんだろ!!?あいつは何やってんだ!!!」
2人の問いかけに夜蛾は重苦しい空気を纏い、さらに告げる。
「・・・
「そんなわけがない!!!!!」
淡々と告げられる事実に
「悟・・・
「あ・・・」
「くっ・・・!」
生徒の前では見せない気難しい表情をして頭を抱える夜蛾を見て、2人は全てが事実であると悟った。悟は自身の拳を血が流れるほどに握りしめた。
●
夜蛾の話を聞いてから、
「傑・・・
「や、お姉ちゃん」
「!
ずっと探していた最愛の妹、
「本当なのか・・・?傑が村民を皆殺しにしたこと・・・お前が、私たちの両親を殺したことを・・・」
お願いだ、嘘だと言ってくれ・・・
「うん。本当だよ」
「・・・っ!なぜだ!!?」
「お姉ちゃん。私、気づいたんだ。非術師は人じゃない。人の形をした呪いなんだってさ」
「何を・・・?」
「だから決めたんだ。私は夏油先輩と一緒に術師だけの世界を創るんだ」
術師だけの世界を創る・・・それは即ち、非術師の存在全てを否定することを意味する。自分の妹からそんなことを言いだしたがため、
「なんだそれは・・・本気で言っているのか!!?」
「ああ、やっぱりわかってもらえないか。でもいいんだ。私も子供じゃないからね。万人に理解してもらおうとは思ってないよ」
どうやら冗談で言っているわけではなく、
「だから・・・お姉ちゃんとはしばらくのお別れ。今日はそれを言いに来たんだ」
「待て!それはもう・・・高専には戻らないのか?」
「戻っても死刑なんでしょ?だったら戻る意味なくない?」
「高専に入った時、お前は言ったはずだ!!これからは、ずっと一緒だって!!」
「私だってお姉ちゃんと離れるのは嫌だよ。でも少しの辛抱だよ。理想世界が実現したその時に、お姉ちゃんを迎えに行くから」
「じゃあね。七海にもよろしく伝えといてね」
「ま、待て!
●
硝子と話を終えた傑は人込みに歩く人たちとは反対方向を歩んでいく。
「「説明しろ、傑!」」
そこへ、後ろから悟と
「硝子と
「だから術師以外殺すってか⁉親も⁉」
「親だけ特別ってわけにもいかないだろ。それに私の家族はあの人たちだけじゃない」
「そんなことは聞いてない!
「人聞きの悪いことを言うな。彼女は自らの意思で私についてきている」
悟と
「意味ねぇ殺しはしないんじゃなかったのか⁉」
「意味はある。意義もね。大儀ですらある」
「ねぇよ!!非術師殺して術師だけの世界を創る?無理に決まってんだろ!!!できもしねぇことをせこせこやんの、意味ねぇっつーんだよ!!!!」
「意味ないことをして何になるというんだ!!?目を覚ませ!!できない夢を見ているんじゃない!!!」
2人の否定の言葉に対し、傑は冷静に返す。
「・・・傲慢だな」
「ああ!!?」
「君たちならできるだろ。自分にできることを、人には、できやしないと言い聞かせるのか?」
「術師だけの世界を創るのも、傲慢だと思わないのか!!?」
「それを君が言うのか、
ずっと背を向け続けてきた傑は振り向き、距離が遠い2人に視線を合わせる。
「君は悟と唯一肩を並べられる存在となった。心底羨ましいよ」
「何を言っているんだ・・・?」
「私も君と対等になれたのなら、結果は違ってたのかもしれないな」
「・・・っ!」
「悟。君は五条悟だから最強なのか?最強だから五条悟なのか?」
「何が言いてぇんだよ?」
「もし私が君になれるのなら、このバカげた理想も地に足がつくとは思わないか?」
「・・・っ!」
今の傑には、何を言っても心には響かない。もう全てが遅すぎたのだ。
「生き方は決めた。後は自分にできることを精いっぱいやるさ」
言いたいことを言った傑はその場を去ろうとする。悟は構えを取り、
「殺したければ殺せ。それには意味がある」
傑はそれだけを言い残し、今度こそ、その場を去っていった。追いかけようと思えば追いかけることができる。だが・・・2人には・・・追いかけることは・・・できなかった。
●
高専に戻ってきた
「結局、追えなかったんだ」
「・・・・・・」
「意味わかんないよね、あいつ」
硝子は煙草を取り出し、火をつけずにそれを口に咥える。その後沈黙が続いたが、
「・・・硝子」
「んー?」
「この世から呪いが全て消えれば・・・人は変わるのかな?」
「そんなん知らんよ、赤の他人のことなんて」
「・・・そうか・・・」
またも流れる沈黙。短い沈黙の中、硝子が口を開く。
「不貞腐れてやんの」
「・・・・・・」
「・・・でも呪いのない世界かー。いいじゃん?目指しても。私の仕事減りそうだし」
「・・・否定はしないんだな」
「子供じみてるとは思ってる。まぁそれでも夏油よりはマシでしょ」
「確かに」
硝子と話をして、暗かった
「ありがとうな、硝子」
「相談料、禪院家秘蔵の酒な」
「現金な奴だ」
その後
禪院
●
硝子と別れた後、
「あ・・・悟・・・」
「・・・夜蛾先から伝言。近いうち傑と
「・・・そうか・・・」
「・・・なぁ
「・・・ああ。嫉妬するほどにな」
「・・・お前だって強いじゃん。・・・でも、俺たちだけ強くてもダメらしいよ。俺が救えるのは、他人に救われる準備がある奴だ」
「悟・・・」
「だからさ・・・俺、決めたんだ」
「?」
この後に悟の口から聞いた目標・・・それを聞いた
●
元盤星教協本部。本部の舞台には園田を含め、元盤星教の信者たちが集まっていた。壇上の舞台裏では、傑と呪詛師の医者、ドクター・スタイリッシュと裏稼業の仲介人、
「盤星教は解体されたはずだが?」
「別の団体でも根っこは同じさ」
「まぁ、表向きは居抜きみたいにしてるけどね。嫌かしら?」
「いや、呪いと金が集められれば何でもいいさ」
傑がここにやってきた理由は低級呪霊と活動資金を得るための拠点を手に入れるためだ。その際に
「夏油様!」
そこへ橙髪のポニーテールをした十代前半の少女が犬型の呪骸を持ってやってきた。
「演説の準備、全て整いました!」
「うん、ありがとうね、セリュー」
セリューと呼ばれた少女は傑に感謝され、笑みを浮かべている。
セリュー・ユビキタス。彼女こそが、今は亡きマリーが最も大切で最愛の娘なのである。その彼女は今、傑の元にいる。
「・・・それより、本当にその恰好で出るつもり?」
「いいだろう?ハッタリは大事だ」
現在傑が着ている服装は僧侶などが着込む袈裟である。それもよりにもよって五条袈裟である。
「はぁ・・・お前さんもなんか言ったらどうだ?」
「君から見てこの格好、どう思う?
傑たちの背後には
「いいんじゃないですか、それっぽくて。夏油先輩、ガタイがよくて背も高いからハッタリとしては十分ですよ」
「だ、そうだ」
「はぁ・・・」
舞台裏のすぐそばには、傑が任務先にて救い出した双子の少女、柳場美々子と柳場菜々子がいた。
「夏油様・・・」
「
「2人とも、よく見ててごらん」
「揃っているな?」
「各支部長、代表役員会長、その他太客お揃いで」
傑が
「あーあー・・・皆さん、お待たせしました。それでは手短に。今この瞬間から、この団体は私のものです。名前も改め、皆さんは今後、私に従ってください」
反対多数。
「困りましたねぇ。そうだぁ。園田さん、よろしければ壇上へ。そう!あなたです」
傑に指名され、何の疑いもなく壇上へ上がる園田。そして、その瞬間・・・
グシャァッ!!!!
傑が召喚したダルマの呪霊に押し潰され、園田は肉片を飛び散らせ、その命を散らせた。
「さて・・・改めて・・・」
―
「私に従え」
―それが私の選んだ本音―
「猿共」
夏油傑。彼が進む道は、全ての非術師を消し去り、呪術師の楽園を創り上げることだ。
●
一方その頃、東京にあるどこかの住宅街。そこには帰路を歩いているはね返った黒髪を持った小学生がいた。
「伏黒恵君だよね?」
伏黒恵と呼ばれた少年は男性の声に反応し、そちらに顔を振り向いた。
「あんたたち誰?・・・ていうか、何その顔?」
恵に声をかけた悟と付き添いで来た
「いや・・・そっくりだなと・・・」
「あいつに子供がいるなんて想像できるか・・・」
「?」
事情を全く知らない恵は疑問符を浮かべている。
「こっちの話だ。ところでお前のお父さんの話なんだが・・・」
2人は本題に戻り、恵の父親と禪院について話す。
「お前のお父さんは私と同じ禪院という呪術師の家系なんだが、私や隣にいるこいつが引くレベルのろくでなしなんだ」
「で、お家出てって君を作ったってわけ。君、見える側だし持ってる側でしょ?自分の
「禪院家は才能が大好きでな。術式を自覚するのがだいたい4から6歳くらいで売買のタイミングとしてはちょうどいい頃合いなんだ」
「恵君はさ、当主候補であるこの子を差し置いて君のお父さんが禪院家に対してとっておいた最高のカードだったんだよ。ムカつくでしょ?で、そのお父さんなんだけど僕がこ・・・」
「別に」
話をしている最中に恵は冷めた態度で遮った。
「あいつがどこで何をしてようが興味ない。何年も会ってないから顔も覚えてない。今ので話はだいたいわかった。津美紀の母親も少し前から帰ってない」
「あ!恵帰ってきた!」
話をしていると、恵の家から彼より年上と思われる少女が顔を出した。おそらくこの少女が津美紀なのだろう。
「もう俺たちは用済みで、2人でよろしくやってるってことだろ」
「・・・お前・・・本当に小学1年生か?」
小学生とは思えないほどに大人びている恵に
「まぁいいや。お父さんのこと知りたくなったらいつでもこの子に聞いて。同じ禪院だし、僕より詳しいと思うからさ」
「さて、前置きはここまでにして、本題に入るぞ。お前はどうしたいんだ?禪院家に来るか?」
2人がここに来た理由とは、甚爾の手によって売られた恵の意思を確認することなのだ。禪院家に来るのなら
「津美紀はどうなる?そこに行けば津美紀は幸せになれるのか?それ次第だ」
「ない。絶対にない。これは断言できる」
恵の問いかけに対し、
「・・・決まりだな。悟。後は任せたぞ」
恵の意思を理解した
「くっくっく・・・オッケー。後は任せなさい」
悟はニヒルに笑い、恵の頭を雑に撫でる。
「でも恵君には多少無理してもらうかも。頑張ってね」
そう言って悟は恵に背を向けて言葉を続ける。
「強くなってよ。僕に置いてかれないくらい」
五条悟。彼は自分の後継者を多く見出すために、教師になる道を選んだ。
序章『懐玉・玉折』 完
次回
零章『東京都立呪術高等専門学校』