呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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まずは謝罪を。不定期投稿とはいえ、2ヶ月ちょいもなんの音沙汰もなく、申し訳ございませんでした。

今回は今日と明日で2日の2連続、3話目が完成すれば月曜日と3連続投稿をする予定でございます。月曜に間に合わなくても、3話目は早いうちに投稿できると思います。

やりたいネタも思いついたし、早く渋谷事変にも進みたいですし、少しずつペースを上げれたらいいなと思っております。


攻略開始

「もう1回言うぞ・・・捕虜の人と黒女(くろめ)はどこだ?」

 

黒女(くろめ)のおかげでプトラから脱出できた灰原だったが、あろうことかたった1人で再びプトラに足を踏み入れ、立ちふさがった数人の墓守をグランシャリオを纏って一撃で倒した。残るは1人のみだ。

 

「・・・なるほど。どうやら貴様の力を少々見誤っていたようだ」

 

「捕虜を返せって言ってるのが聞こえないのか!!」

 

問いに答えていない墓守に灰原は怒りを込めた拳を叩き込もうと正拳突きを放った。しかし、墓守は一瞬にして姿を消して、灰原の正拳突きは空振りで終わった。

 

「⁉消えた⁉」

 

バサッ・・・

 

驚く灰原は翼が羽ばたく音が聞こえてきて、上を見上げる。そこには術式によって鳥類の半獣化した墓守の姿があった。

 

「その鎧を纏っている間、戦闘能力が大幅に上がるようだな。ならば長引かせはしない。すぐに肩を付ける!」

 

長期戦は不利だと判断した墓守は急降下で勢いをつけ、灰原に突進を仕掛ける。灰原は突っ込んできたところを呪力の纏った拳を放つ。その瞬間、墓守は鳥類の目のように目を見開いて灰原の動きを見切り、しなやかな動きで拳を躱して灰原の背後に回り込み、鳥の足で蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

背中に蹴りを入れられた灰原は前のめり、倒れそうになるも踏ん張る。

 

(くっ・・・グランシャリオを纏っているのに、蹴りが響く!持続時間も長くないし、そう何回も受けられない!)

 

半獣化したことで墓守の力は獣の如く増している。そのためグランシャリオの防御力を持ってしても、多少なりともダメージが通る。戦闘を長引かせないように灰原は速攻で蹴りを付けようと考える。しかし、攻撃を仕掛けようにも、空を飛ぶ墓守の素早い動きに翻弄され、何度も蹴りを入れられてダメージが蓄積されていく。

 

(全然動きが掴めない・・・!このままじゃやられる・・・!でも、負けるわけには・・・!)

 

灰原はなんとか打開策を考えようとするが、1人でできることなどたかが知れている。そして何より、灰原は冷静さを欠いている状態だ。相手の動きを見る観察眼が損なわれている。

 

「終わりだ!」

 

墓守は空を高く上昇し、効果を利用した蹴りを放つ。しかも、呪力も纏っている分、威力も最初とは違う。ふらつく灰原に蹴りが貫こうとした時・・・

 

ガキンッ!

 

第三者が間に入り、墓守の蹴りを鉈で防御し、灰原を守った。その第三者とは七海であった。

 

「ぬっ⁉」

 

「七海⁉」

 

両者が驚いている間にも、七海は防御に使った鉈で墓守を押し退ける。押し退けられた墓守は翼を広げて上昇し、七海から距離を取る。

 

「ぬぅ!」

 

「ナイスだ七海!」

 

すると岩陰より長い鞭が伸びてきて、墓守の鳥の足に巻き付いた。

 

「何っ⁉」

 

「そぉ、れ!」

 

「おおっ⁉」

 

岩陰に隠れていた人物は鞭を強く引っ張り、墓守を地面に引きずり下ろす。バランス悪く降下する墓守に七海は高く跳躍し、彼の腹部の7対3を線分する。

 

「ぬぅぅん!!」

 

ドゴォ!!

 

「ぐおああああああああ!!」

 

クリティカルをもろに受けた墓守は勢いよく地面に叩きつけられ、気を失った。

 

「まったく、1人で無茶をするね、灰原」

 

岩陰より出てきたのは、高専京都校に属するグリーンであった。

 

「グリーンさん⁉なんで・・・」

 

「説教は後。まずはここから脱出するよ。長居はできない」

 

「待ってください!黒女(くろめ)たちがまだ・・・」

 

いきなり出てきて撤退を勧めるグリーンに灰原は異を唱えるが、七海が抑える。

 

「灰原、気持ちは理解できます。ですがここは指示に従ってください。本気で黒女(くろめ)さんたちを救いたいのならね」

 

「くっ・・・」

 

口数は少ないが、七海に諭された灰原は苦渋な顔を浮かべながら渋々ながら指示に従う。

 

「彼らは捕まえておこう。貴重な情報源だ」

 

「了解です」

 

グリーンの指示で七海たちは気絶している墓守を抱え、プトラから脱出を急いだ。

 

(・・・中の情報は頼んだよ、(がい)

 

 

同時刻、ピラミッド内部に潜入し、調査を行おうとしている者がいる。その人物はレイアースーツを身に纏った(がい)だ。(がい)は地面を掘り進んでピラミッド内部に入り込もうとしている。

 

(随分掘り進んだな・・・そろそろ墓内部に出てもいいはずだが・・・)

 

手応えがないことに内心愚痴りながらも掘り進んでいく。そうして進んでいくと、ガキンッと土とは違う手応えを感じた。

 

(この手応え・・・この先が墓の中か。行ってみるしかねぇな!)

 

ドォォン!!

 

(がい)は力を込めて拳を叩きつけて壁を破壊する。これによってピラミッド内部に侵入することができた。

 

(!こ・・・これが王の墓・・・⁉)

 

ピラミッド内部は地下1階だけでも高専の建築物以上の広さを誇っており、その規格外さに(がい)は驚く。

 

(なんつーだだっ広さだ・・・地下でこれかよ・・・。1級相当任務ってのも納得できるぜ。どうしたもんかな・・・)

 

あまりの規格外の広さにどう調査をすればいいか頭を悩ませる(がい)。すると・・・

 

ズドンッ!!

 

突如として(がい)の背後に龍のような骨の頭をした屈強な体格をした獣型の呪霊が降りてきた。

 

「!呪霊⁉こいつらもいいのかよ⁉番犬って奴か⁉)

 

墓守が飼い慣らしたと思われる呪霊は(がい)に向かって拳を振り下ろす。

 

【ガウッ!】

 

「何がガウッだ、この野郎!!」

 

呪霊が放った拳を(がい)は横跳びで躱し、逆に呪霊の腹部に拳を叩き込んだ。拳を叩き込まれた呪霊はギロリと(がい)を睨みつける。

 

ガッ!

 

「お」

 

呪霊は尻尾で(がい)を掴み上げ、勢いよく壁に叩きつけた。そしてそのまま(がい)に向かって突進して壁に激突する。突進によって立ち込める土埃が晴れると、そこには(がい)の姿はなく、代わりに小さな穴がポッコリと開いていた。

 

【????】

 

獲物を見失い、戸惑いを見せる呪霊。

 

ボコォ!!

 

困惑する呪霊の頭上から、レイア―スーツで地面に潜り、天井まで掘り進んで飛び出した(がい)が現れ、脳天に強烈な蹴りを叩き込んで、呪霊の頭蓋骨を叩き割った。

 

「思い知ったか、この野郎」

 

脳天を蹴り砕かれた呪霊は倒れ、黒い塵となって消滅した。

 

「しかしこう広いとあっちゃどこから探すか・・・」

 

ガコッ

 

戦闘を終えて調査を再開しようとすると、(がい)は足元にあった瓦礫のスイッチを踏んでしまう。

 

パカッ!

 

すると罠が作動し、(がい)の足元が開かれる。(がい)はレイア―スーツの爪で壁を引っ掛けて何とか落ちないように踏ん張る。穴の真下には人を串刺しにするような鋭利なトゲがびっしりと供えられていた。

 

「歩き回るのもやべぇな、これ・・・」

 

調査をするにしても罠が張り巡らされているので歩くのは危険と判断し、慎重に調査を進めるのだった。

 

 

広島の隠れ家に無事戻ってきた七海たちはプトラ攻略のための話を進めている。

 

「もうすぐみんなと親父が来る。(がい)の帰りと尋問の時間を合わせると、本格的な攻略は深夜になるだろうね」

 

「ええ。それで問題ないかと」

 

戦力を整えた上で深夜にもう一度プトラを攻める方針に七海は了承する。そして、彼は不貞腐れて顔を俯いている灰原に顔を向ける。

 

「・・・待機するように伝えたはずですが?」

 

「・・・・・・」

 

「先輩がたまたま近くの任務だったからよかったものの、あのままだと間違いなく、時間切れでやられていたでしょう」

 

「・・・ごめん・・・」

 

「私は謝ってほしいわけではありません。無茶と無謀は違うと言いたいのです」

 

「わかってるよ!」

 

七海の言葉に灰原は声を上げた。

 

「・・・わかってるんだ、そんなこと。これが自己満足だってことも。でも・・・僕は黒女(くろめ)にひどい態度をとった・・・。それなのに黒女(くろめ)は・・・。もし彼女の身に何かあったら・・・僕は・・・僕が許せないんだ」

 

悔しさが滲み出ている灰原はぐっと強く拳を握りしめる。

 

「・・・君の気持ちはわからなくもない。でも、だからこそ冷静になるべきだ」

 

そんな灰原にグリーンは諭すように語り掛ける。

 

「七海の話だと、墓守は殺さず、生かして捕らえると言ったんだろう?わざわざ捕まえるわけだから、殺される可能性は少ないんだ。特に女性はね」

 

「!それって・・・まだ助け出せる希望はあるってことですか?」

 

「もちろん、早いに越したことはないけどさ・・・焦らないで。君に何かあったら、黒女(くろめ)もいい顔しないだろう?」

 

グリーンの励ましによって灰原は憑き物が落ちたかのように、気を引き締めた顔つきになる。

 

「・・・七海」

 

「・・・またプトラに行くということは、常に己の命を晒しだすことを意味します。もう捕らえるなどと生易しい考えは相手にはないでしょう。私はお勧めできません」

 

「そうだね。だけど、今度は・・・」

 

「・・・などと言っても、君は行くのでしょう?ならせめて応急処置は済ませてください。彼女を確実に救うためにも」

 

「!・・・うん」

 

七海の言葉に灰原は笑みを浮かべて顔を頷き、自分の部屋に戻っていった。リビングで2人になった七海とグリーンは少し安堵する。

 

「・・・すみません。先輩も気が気ではないでしょう。・・・赤女(あかめ)さんのことで」

 

七海はグリーンたちに連絡を入れる際、赤女(あかめ)や悟のこと、傑の状況について話していた。それなのに自分たちの方を優先して動いてくれたことに七海は申し訳ない気持ちになっている。ちなみに灰原に伝えると余計に混乱するため、彼にだけはまだ伝えていない。

 

「はは・・・一応僕も先輩だからね。ちょっとはカッコつけたいんだよ。それに・・・僕は赤女(あかめ)たちは無事だってを信じてる。何も心配なんてないさ」

 

赤女(あかめ)・・・ついでに悟の無事を信じて疑わないグリーンは頼もしい笑みを浮かべている。その様子に七海は少し呆れるように息を吐いた。

 

一方、自分の部屋に戻った灰原は窓を開けて部屋の空気を喚起する。その際に、彼は外の景色を眺め、決心を胸に固める。

 

黒女(くろめ)・・・待ってて。必ず助けてみせるからね)

 

 

2011年10月

 

呪詛師となった夏油傑が支配する元盤星教教団本部。教団には術師たちが気を休めるように各々の寝室が用意されてある。傑と共に呪詛師となった禪院黒女(くろめ)にも当然、その部屋が与えられている。そんな彼女の部屋に2人の少女が入り込む。

 

黒女(くろめ)姉~、いる~?」

 

「菜々子、ノックくらいしないと」

 

「細かいことはいいじゃ~ん」

 

その2人とはお互いに黒女(くろめ)を姉として慕っている柳場菜々子と柳場美々子の双子の呪詛師であった。金髪の少女が菜々子で、黒髪の少女が美々子である。

 

「てあれっ、いねぇじゃん」

 

「きっと夏油様との話が長引いてるんだよ」

 

「ま、そのうち戻って来るっしょ。なんか面白いものないかな~?」

 

黒女(くろめ)がいないことをいいことに菜々子は部屋を物色し始めた。美々子もあまり彼女の部屋に入ったことがなかったのか興味本位で菜々子に付き合っている。

 

「お菓子の作り方の本ばっかりだね」

 

「こっちは映画のDVDがあるよ。駄作から名作まで・・・あ!超名作映画まである!黒女(くろめ)姉ずりぃ~!これ私が見たいもんなのにぃ!」

 

遠慮なしにずかずかと物を漁る姉妹。すると美々子は棚の中に大事そうに飾られている写真立てを見つける。そこそこ古いものなのか少し色褪せている。美々子はその写真立ての写真に写っている3人組に視線が釘付けだ。

 

「ん?どうしたの美々子?」

 

「・・・これ、黒女(くろめ)姉様の昔の写真」

 

「マジで⁉見して見して!」

 

そこへ菜々子も交わり、一緒に写真を見る。

 

「うっわ、これマジで学生時代の黒女(くろめ)姉?今と全然変わってないんだけど」

 

「そんなことない。身長が少し小さい」

 

「マジ?よくわかんね」

 

「それで・・・この2人が姉様が言ってた・・・」

 

姉妹が写真に夢中になっていると・・・

 

「・・・人の部屋で何やってるの?」

 

扉が開くと同時に部屋の主である黒女(くろめ)が入ってきた。

 

「あ・・・姉様・・・ごめんなさい・・・」

 

「ああ、いい、いい。別に怒ってないから」

 

「ねーねー、黒女(くろめ)姉、これいつの写真?」

 

勝手に部屋を漁ったことに対して申し訳なさそうに謝る美々子とは対照的に図々しくも謝りもしない菜々子。そんな彼女から見せられた写真を見て黒女(くろめ)は多少なりとも目を見開き、懐かしそうに頬を緩ませて笑みを浮かべる。

 

「あー、それね。私が高専に追放される前の写真だよ。今からだと・・・5年くらい前かな?」

 

「やっぱり!じゃあこの2人が黒女(くろめ)姉の彼氏の!」

 

「彼氏じゃないから」

 

ませている菜々子の食い気味の問いに黒女(くろめ)はドライに返答する。

 

「姉様。私、姉様の昔話、聞きたい」

 

「私も私も!」

 

「はは。いいよ。私のつまんない話でよければいくらでも」

 

自分の過去について聞きたがる姉妹に黒女(くろめ)は当時の思い出を振り返り、自身の体験談を語り始めた。

 

「じゃあ・・・1番印象に残った話から始めようか」

 

 

2006年9月

 

深夜。(がい)が戻り、残りの選抜メンバーが集まり、牛頭鬼(ごずき)が尋問を終えて情報を整えた頃合いに、全員は再びプトラの地のピラミッド前に集まっている。

 

「墓内部の地図は頭に叩き込んだな」

 

「バッチリ!」

 

「その上で俺が何を言いたいかわかるか?」

 

「地図があるからって気を抜くな・・・だよね?」

 

「そうだ。捕虜にした奴らから得たネタは潜入した(がい)が持ち帰った情報とも一致してるから間違いないだろうが・・・同胞が戻らないことで墓守たちがどういう対応をしてくるかわからん。罠の種類を変える・・・とかな」

 

「え~っと・・・」

 

「つまりどういうことですか?」

 

牛頭鬼(ごずき)の説明にいまいち理解できていないポニィと灰原は頭に?を浮かべる。

 

「情報も大切だが、五感を研ぎ澄ませるのを忘れるなということだ」

 

「なんだ!いつもやってるわ!」

 

「それならご心配なく!毎日やってますので!」

 

ナハシュの補足によって楽観的ながらも理解するポニィと灰原。

 

「そうだな。学んだことをフルに出せばそれでいい」

 

腕などを伸ばして体をほぐす牛頭鬼(ごずき)にナハシュは耳打ちする。

 

(本当に灰原と七海を連れていく気か?やはり引継ぎした方が・・・)

 

(その引継ぎ前に灰原君は1人で乗り込んだんだ。意味ねぇよ。同じことの繰り返しだ。だから無茶やらかさねぇための監視役の七海君がいるんだ)

 

もっともらしいことを言っているが、牛頭鬼(ごずき)の思惑は別にある。

 

(正直、灰原がどうなろうが知ったこっちゃねぇが、あいつのグランシャリオは貴重だからな・・・最悪グランシャリオが奪われるってことだけは何とか避けてぇ)

 

そんな思惑があるとも知らず、灰原は呑気にふんふんと準備運動をしている。

 

(がい)、お前だけはこっから別行動だ。地中からひっかき回せ」

 

「任せときな・・・コルネリアの分まで暴れてやるぜ!」

 

「敵もモグラみたいなのがいるかも・・・気をつけてね」

 

「おう!」

 

唯一地面に潜れることができる(がい)は1人でも・・・いや、1人だからこそやる気は誰よりも凄まじい。

 

「よし・・・攻略開始だ!」

 

牛頭鬼(ごずき)の合図でプトラ攻略戦の幕が上がった。

 

 

同時刻、ピラミッド内部、(がい)が侵入した階層・・・

 

「・・・ここでメレトセゲルが祓われたのか」

 

「しかし信じられねぇぜ。こんな奥まで侵入を許しちまうなんて」

 

「ああ。大事件だ」

 

(がい)が祓った呪霊、メレトセゲルが倒されたうえ、自分たちの領地に深く侵入されたという大事件の知らせを受け、大幹部3人が直々に調査を行っている。3人はメレトセゲルが祓われた階層を調べ上げる。

 

「・・・この穴・・・打撃系の技を使って・・・土の中を潜れる敵がいるな」

 

「トラップも力技で抜け出してやがる」

 

「土の中ならあいつの出番だろ?」

 

「すでに待機済みだ」

 

3人が問題解決のために尽力していると、下っ端の墓守が慌ててやってきた。

 

「キマツ様!大変です!侵入者です!例の高専のガキも一緒です!」

 

「・・・今日はやけに高専と縁があるな。入り口で罠に引っ掛からねぇってことは、情報が漏れたな」

 

「ならば非常事態用の罠にシフトしろ。下っ端には伝えていないトラップがどんどん発動する」

 

「そ・・・それが・・・すでにシフト済みなのですが、罠には一向にかからず・・・!」

 

「・・・何⁉」

 

非常事態用の罠も用意されている周到性。にもかかわらず罠で仕留めるどころか引っ掛からない事態に多少なりともカショックは動揺している。しかしキマツは慌てることなく、冷静だ。

 

「・・・俺たちが出るぞ。それと、『ヌビス』にも準備させておけ」

 

「!!?は、はい!!」

 

ヌビスという名が出た時、下っ端墓守は畏怖も混じった驚愕を見せている。

 

「二度と墓を荒す奴が現れないよう、凄惨な死を与えてやる。考えられる限り、惨い死をな・・・!」

 

なりふりなどに構ってなどいられない。王の墓を荒す者には罰を。その理念の下、墓守たちはいっせいに動き始めた。

 

 

ついに内部に侵入した灰原たち一行を出迎えたのは数多くの罠たち。床から飛び出すトゲの串刺し地獄や瓦礫10トンの罠、さらにはギロチン。数えだしたらキリがないほどの罠が襲い掛かるが、全員自らの五感を研ぎ澄まして、これらの罠を回避している。

 

「ちょっとちょっと!なんか罠の数、情報より増えてない⁉」

 

「当然です。牛頭鬼(ごずき)さんの話を聞いてなかったのですか?」

 

「あはは、でもなんか面白い!」

 

罠を避けることで必死で青ざめている灰原とは対照的に七海や他のメンバーは冷静、ポニィに至ってはこの状況を楽しんでいる。

 

「あれを見てもおもしろいと言えるか?」

 

カサカサカサッ!

 

「ぎゃあ!!気持ち悪いわ!!」

 

先へ進んで一同を出迎えるのは何匹ものさそり型の呪霊であった。

 

「下がってろ雑魚」

 

ズバババババ!

 

とはいえ、呪霊のレベルはそこまで高くなく、先行したナハシュが剣を素早く振るうことで呪霊は斬り刻まれて消滅する。遮る呪霊が排除し、一同は先へと進んでいく。すると一同が通り過ぎたところを見計らい、壁と一体化していた墓守が姿を現す。

 

(甘いな、侵入者たちよ。1人ずつ消してやる。くらえ!舌ピストル!)

 

墓守はカメレオンのように長い舌を伸ばし、灰原の頭を貫こうとする。

 

ギュルッ!

 

しかしそれを予想していたグリーンがサイドワインダーで舌を絡ませ、攻撃を阻止した。

 

「うげっ⁉」

 

「保護色タイプ絶対いると思ったね。僕はそれの警戒係」

 

パァンッ!

 

思うように動けなくなった墓守に筑紫(つくし)は容赦なくプロメテウスの弾丸を脳天に撃ち込んだ。

 

「熱いもてなしの数々だな。気を抜くなよ」

 

「・・・・・・」

 

「灰原」

 

「っ、わかってる!」

 

墓守も一応は人間であることには変わらない。敵とはいえ簡単に命を奪う行為に躊躇いを見せるものの、今は黒女(くろめ)たちの救出を最優先に動く。

 

ゴゴゴゴ・・・

 

とここでこの階層で大きな地鳴りが響いてきた。

 

「うわっ、地鳴り⁉」

 

「まさか・・・」

 

嫌な予感を感じた一同は前方に視線を向ける。視界に見えたのは通路を遮るほどの大きさを誇る鉄球である。ゴロゴロと転がってきてこちらに迫ってきている。

 

『わあああああああああ!!??』

 

「こりゃ逃げるしかねぇな」

 

「チーフ、あれ斬れないの⁉ズバって!」

 

「あれに何も仕掛けがなければな」

 

「こういう時、力自慢の(がい)がいないのは痛いね」

 

鉄球に二段構えの罠がないとも限らないため、両断することはせず、一同は逃げることを徹するのであった。

 

 

一方、単独で行動する(がい)は地中を奥深く潜っていき、ピラミッドの最深部まで目指している。しかし、地下世界を拠点にしているだけあって、最深部はまだまだ深い。

 

(今どのへんだ?かなり墓の中心部まで潜ってきたと思うが・・・。五条ってわけじゃねぇが、どうせなら大将の首を取ってきてやるぜ)

 

ゴ・・・ゴゴ・・・

 

大物を狙う気でいる(がい)だが、先に進んでる最中、土の中の音に勘づいて歩みを止めた。

 

(!この音・・・俺以外にも土の中に誰かいやがる。近づいてくる・・・)

 

この勘のよさは呪力云々の話ではない。(がい)自身の野生の勘である。

 

(モグラ系とは土の中でやりたくねぇ・・・一旦浮上するか)

 

土の中では戦いにくいと判断し、(がい)は現階層の地上に浮上した。

 

ボコッ!

 

(がい)が地上に浮上したと数秒後に、土の中に潜んでいた墓守も浮上してきた。

 

「墓の土中で好き勝手やりやがって!ラグー様の爪で引き裂いてやる!」

 

地面に出たはいいが墓守、ラグーに気付いていないのか(がい)は立ったままだ。

 

(バカめ!いきなり隙だらけだぜ!)

 

あまりに隙だらけの(がい)はラグーは自身の鋭い爪による突きを放つ。

 

「ラグードリル!!」

 

ラグーが放った爪ドリルは(がい)の背中を貫き、そこからさらに爪で突き続ける。

 

「フハハハハ!!やったぜぇ、長!このラグー様の出世よろしくぅ!!」

 

ガシッ!!

 

「きゃっ⁉」

 

調子に乗って攻撃し続けるラグーを何者かが背後から掴みかかり、拘束する。その何者かとは、先ほどラグーにずたずたに引き裂かれたはずの(がい)だった。

 

「お前が調子に乗って攻撃してんのは土で作った像だぜ」

 

そう、今粉々になって砕け散った(がい)はレイア―スーツの力で作り上げた本人そっくりの土塊の偽物だったのだ。

 

「こっちは潜るだけが能じゃねぇんだ!!」

 

ドシャッ!!

 

(がい)はラグーを持ち上げ、そのままバックドロップをかまして頭から地面に叩きつけた。と、そこへすでに半獣化した墓守が2人迫ってきた。

 

「侵入者発見!」

 

「2人同時に仕掛けるぞ!」

 

「新手か・・・迷わず戦うぜ!」

 

ドンッ!グラグラ!

 

(がい)が片足を強く地に叩きつけることで自身と錯覚するほどの地響きが鳴る。それによって墓守の体制が崩れる。

 

「なっ⁉地震⁉」

 

「オラァ!!!」

 

一瞬の隙を逃さず、(がい)は強烈な呪力の拳を叩き込み、墓守を1人倒す。

 

「おのれ!」

 

もう1人の墓守は蜘蛛と化した下半身で糸を吐いて(がい)を捕まえようとする。しかし(がい)はまた足を地に叩きつけることで目の前に土柱を作り、それで防御する。それだけではない。その土柱で墓守の視界を遮ることで、気付かれることなく地面に潜って墓守の背後に立つことに成功する。

 

「!しまっ・・・」

 

(がい)は墓守の首をしっかり締め上げ、その勢いで墓守の首をへし折る。

 

「いずれ最強になる俺を舐めるなよ」

 

交流会でこそ成果が伴わなかったものの、彼は準1級。一介の兵士レベルでは彼を止めることはできない。

 

 

同時刻。張り巡らされた罠によって一同は散り散りになってしまい、1人になってしまった灰原は辺りを見回している。

 

「あ、あれ?もしかして・・・はぐれちゃったかな・・・?」

 

灰原が辺りを見回していると・・・

 

「1人とは上出来!罠を総動員して分断した甲斐があったってもんだぜ!」

 

彼の目の前にモジャモジャ頭の墓守が現れる。その正体は墓守の幹部の1人、ジャモだ。黒女(くろめ)を捕らえたであろう墓守と出会い、灰原は強く睨みを利かせる。

 

「お前・・・!」

 

「お前ら固まってるとヤバそうだからな。これで各個撃破できる」

 

黒女(くろめ)はどこだ?」

 

「人の心配より自分の心配をした方がいいんじゃなイカ?少年はこれから殺されるんだからな!」

 

草刈り鎌のような呪具を持ったジャモが灰原に斬りかかってくる。

 

(わかってるよ七海、黒女(くろめ)・・・こういう時こそ冷静に、だよね?)

 

灰原は取り乱すことなく冷静に黒い剣を抜き取り、斬撃を受け止める。ジャモは呪具の形状を利用し、黒い剣を絡め取ろうとする。灰原は焦ることなく、この一手を対処する。

 

「グランシャリオ!!!」

 

「うおっ!!?」

 

灰原が叫ぶと同時に、グランシャリオを呼び出して一瞬で纏う。その反動で一気に後退されるジャモは灰原に一瞬で間合いを取られ、拳の追撃でさらに後退る。

 

「おりゃあ!!」

 

「ぐお⁉」

 

「まだまだぁ!」

 

(嘘だろ⁉こいつ強ぇ!!こりゃ真剣勝負なんてやってられねぇよ!!)

 

灰原の戦闘能力が急に上がって戸惑うジャモは頬を膨らませ、近づいてくる灰原にイカ墨を吐いた。咄嗟のことで対処できなかった灰原は顔からイカ墨がかかってしまう。

 

「うわっ!またこれか!けど!」

 

前が見えなくなった灰原はグランシャリオに備わっているブースターを利用し、全身に呪力を纏って突進する。

 

「うおわぁ!!?マジか⁉」

 

ギリギリで突進を躱されてしまったが、灰原はブースターを反転させて、軌道を変える。ブースターの反動を利用して一瞬でグランシャリオを脱ぎ、良好した視界でジャモを捉え、黒い剣で斬撃を放つ。

 

「はあっ!!」

 

「くっ!!」

 

ぬるんっ!

 

斬撃は直撃したが、ジャモの身体がぬるりとぬめったことで傷を与えられなかった。

 

「斬りそこなった⁉でも、次の一撃で!」

 

「甘く見てたぜ、少年・・・だが!攻撃がまっすぐすぎる辺り、やっぱりガキだぜ!」

 

追撃を仕掛ける灰原にそれを阻止しようとジャモは一部半獣化し、両手、横腹からイカの触手を出す。触手は灰原の両手両足、首に絡めとり、身動きを取れなくする。

 

「!イカ・・・?」

 

「はっはっは!形勢逆転!ジャモおじさんの勝・・・」

 

がぶっ!もっちゃもっちゃ・・・

 

「・・・え?」

 

不自然に聞こえる咀嚼音。その発信源は灰原にあった。

 

「うまい!白いご飯が欲しくなるね!」

 

(ぐあああああああ!!??俺をモリモリ食ってるうううううううう!!??)

 

なんと灰原は絡めとった触手をモリモリと食していた。普通のイカならおかしくないのだが、これはジャモの半獣化した体の一部なのだ。ドン引きしないわけがない。

 

(くそっ!この少年、俺と相性最悪だ!食うつもりが食われちまう!)

 

相性が悪すぎると判断したジャモは灰原を解放し、せっせと逃げようと動く。決して食べられると身震いしたわけではない(強調)。

 

「あ!待て!逃げるのか!」

 

「戦略的撤退だ!ついてくんな!!」

 

逃げに徹するジャモだが、これも考えあっての行動だ。

 

(ヌビスのところまで連れて行けば返り討ちだぜ・・・)

 

(あいつなら黒女(くろめ)の居場所を知ってるはず!絶対に逃がすもんか!)

 

策があるとも知らず、灰原は彼を追いかけるのであった。

 

 

一方その頃、同じく1人になってしまった筑紫(つくし)は不安を抱えながらも、バラバラになってしまった仲間を探している。

 

「お父さーん・・・みんなー・・・うぅ・・・はぐれちゃった・・・」

 

心細く涙目になっている筑紫(つくし)

 

「俺の相手はお前か」

 

「!墓守・・・!」

 

そこへ、墓守の幹部の1人、キマツが現れる。筑紫(つくし)はすぐさまプロメテウスとリボルバーの呪具を構える。キマツはそんな彼女の身体つきを見て不敵な笑みを浮かべる。

 

「捕虜にすればいろいろ使えそうだな。お前、ツイてるな」

 

筑紫(つくし)は有無を言わさずに弾丸を撃ち放つ。だが、キマツは己の姿を変えて跳躍して弾丸を躱し、狭い廊下の壁や天井を蹴って一瞬で筑紫(つくし)の間合いに入って腹部を蹴り上げる。

 

「かは・・・!」

 

「お前は殺さずにおいてやる。もっとも、死んだ方がマシだと思うがな」

 

まともに急所をくらった筑紫(つくし)は意識を失い気絶してしまった。

 

「次行くか」

 

 

また別エリア、ここではすでに戦闘が始まっていた。同じく1人になってしまったポニィは墓守の幹部の1人、カショックに蹴りのラッシュを繰り出し、カショックは攻撃を素手で次々受け流していく。

 

「素手であたしに勝とうとか、身の程知らず!!」

 

「こちらの台詞だ」

 

カショックは半獣化し、両腕両足が軟体動物のようにうねり次に放つポニィの蹴りを絡めとり、彼女の両足と首を拘束し、締め上げる。

 

「んぐ・・・!」

 

「ジワジワと殺してやる。この状態になった蛇から脱出できた者はいない」

 

「上等!なら最初の1人になってやろうじゃないの・・・!」

 

強がるポニィだが、締め上げる力が徐々に強くなっており、簡単に振りほどくことができない。それどころか体の骨がミシミシと軋む音が聞こえるほどだ。

 

「ほら、お前の体が軋む音が聞こえるだろ?ミシミシって。私の3番目に好きな音だ。2番がゴキッで、1番がブチッ」

 

「んぎぎ・・・何のこれしき・・・!」

 

「私は蛇だと言わなかったか?」

 

ガブッ!

 

カショックはポニィを拘束したまま彼女の首筋に噛みついた。

 

「神経に利く呪毒を注入した。どんな術師でも、これを注がれたら抵抗できない」

 

「くっ・・・」

 

「さあ、少しずつボキボキと折ってやる。いい声で鳴けよ」

 

己の娯楽を長く楽しむために神経毒で弱っているポニィの首の拘束を緩めた。

 

「!!隙アリ!!」

 

その一瞬の隙を突いたポニィは毒にやられたとは思えないほどの身のこなしで拘束を振り払った。

 

「何っ⁉」

 

「アタシたちにそんじょそこらの呪毒が効くかっての!訓練してるわ!」

 

実際には毒は効いているのだが、そのことを悟られまいとポニィは背筋を柔らかく曲げて気丈に振る舞って強がっている。その様子にカショックは睨みを利かせる。

 

「さっさと折ればよかったのにいたぶろうと業を甘くするから。おかげで抜けられたわ」

 

「ならば次はさっさと折る!!」

 

カショックは蛇の柔軟性を活かして腕を伸ばし、もう1度ポニィを掴まえようとする。しかし、うねうねした変則的な動きに慣れたのかポニィは素早い動きで全て躱しきる。

 

「ウネウネした動きだってわかれば・・・!ついてこれるわ!」

 

(ちっ・・・立ち技ではダメだ・・・!また寝技に引き込まなくては!)

 

「せい!」

 

「・・・っ!」

 

カショックはもう1度寝技にかけようと態勢を整えようとするが、その前にポニィは強烈な蹴りを放って顎を蹴り上げる。これによってカショックはふらつく。

 

「もう1度言うわ!素手であたしに勝とうとか・・・身の程知らずめ!!」

 

バチィ!!!

 

ポニィはヨクトボトムスの加速力と脚力、そして己の呪力を合わせた強烈な蹴りを放ち、カショックの首を撥ね飛ばした。

 

「ふふん!平和を乱す墓守、1人成敗したわ」

 

墓守を1人倒したことで得意げに笑うポニィだったが、それも束の間、一部始終を見ていた墓守、キマツが現れる。

 

「・・・驚きだな。カショックを倒すとは」

 

「!」

 

「メンタル面と言い、銃の奴より強そうだ」

 

「・・・筑紫(つくし)のこと?」

 

「捕虜にした。助けたければ投降しろ。そうすればお前の命も助けてやる」

 

「断るわ」

 

「・・・何?」

 

キマツは筑紫(つくし)の呪具を見せて動揺を誘い、投降するように命じたが、ポニィは即答で拒否する。

 

「まず本当に捕まってるかわからないし!こういう場合は断れってお父さんやチーフに言われてるの!」

 

「・・・想像力を働かせろ。全てお前次第なんだぞ?彼女がどうなることやら・・・。今は持ってた銃を全部没収する程度で済んでるんだぜ?そんなに不安なら縛りを設けても構わないんだぞ?」

 

「もちろん筑紫(つくし)は心配だけど・・・縛りなんて余計にダメだって言われてるんだから、断る!」

 

「・・・教育が行き届いているというわけか。やむを得ん」

 

頑なに投降する気がないポニィの姿勢を見て、どんな好条件を付けても無駄だと悟ったキマツは己の術式で半獣化し、両足がバッタの足となる。

 

「連戦になるが普通に殺すとしよう」

 

「ぬ、バッタ?」

 

バッタに半獣化したキマツにポニィは身構える。まず先に動いたのはキマツだ。彼はポニィの視界を翻弄するように壁や天井、柱などを蹴って素早く跳ね回る。

 

(この狭い墓内部では俺は無敵だ。バッタの脚力で縦横無尽に跳ねる俺を捉えられまい)

 

跳ね回るキマツに対し、ポニィはヨクトボトムスの能力をフル活用し、脚力を一気に跳ね上げる。それを利用し、彼女はキマツと同じ動きをして跳ね回り、先回りをする。

 

「何ぃ!!??」

 

「それぐらい、アタシにだってできるわよ!」

 

悟のような規格外は除くとして、ポニィは自分の速さに対して絶対の自信がある。いや、どちらかといえば執着の方が正しい。その執着は幼少期の頃よりずっと根付いている。

 

『かけっこやジャンプの競争じゃポニィは負け知らずだな』

 

『へへ~、もっと褒めてー♪』

 

『その分野を伸ばしていけば、いずれ二代目の『最速の呪術師』になれる。間違いねぇ』

 

『お父さん・・・!』

 

『強くなっても頭が悪いままでは意味がないぞ』

 

『うっ・・・』

 

「・・・得意分野で遅れを取ったら、アタシは役立たずだ・・・。だから!足の勝負じゃアタシは絶対に負けなーーーい!!!」

 

ポニィは壁を蹴って加速力をさらに伸ばし、キマツに強烈な蹴りのラッシュを繰り出す。キマツ腕を交差して身を固め、一撃一撃を防御する。

 

「ぐ・・・ぬぅ・・・!」

 

重い一撃の連続で少しずつ後退るキマツ。全てのラッシュを受け切ったタイミングで彼はまたも跳ね回り、曲がり角を曲がってポニィから離れる。

 

「逃がすかぁ!」

 

ポニィはキマツと全く同じ動き、しかしキマツより速い動きであっというまに距離を詰め、強烈な蹴りを放つ。キマツその蹴りをまた腕を交差して防御するが、一撃が重く、軽く吹っ飛ばされて穴に落ちていく。

 

(いける!いけるわ!このままとどめを・・・)

 

自分が押していると思い、ポニィはヨクトボトムスで加速力を上げ、一気に距離を詰めようとする。しかし、それがキマツの狙いだった。

 

「・・・俺が押されてるのではなく、ここに誘導しているとわからないか?」

 

キマツがそう言い放つと、穴に仕掛けられていた罠が発動し、トゲがキマツをすり抜けてそのままポニィに迫る。

 

「!ヤバ・・・!」

 

ポニィは加速力を利用して軌道を修正することで回転し、トゲを全て躱してみせた。

 

ズムッ!!!

 

「が・・・⁉」

 

だがそれによって隙が生じ、そこを狙ったキマツの蹴りがもろに直撃し、天井に叩きつけられて地に落ちる。。

 

「ぐぁ・・・ごふっ・・・!」

 

あまりに強烈すぎる蹴りによってポニィは大量の血反吐を吐く。しかも最悪なことに、体の神経毒が今になって回り切り、激痛も相まって体が動けなくなる。

 

「脚力は確かだが、頭が足りていないな。若すぎる」

 

「ぐ・・・ごほっ!ごほっ!」

 

「しかし俺の蹴りを喰らって生きているその頑丈さは、大したものだ。それに・・・若いってのは女としてみれば強みになる」

 

キマツは弱っているポニィに近づき、ポニーテールを掴んで持ち上げる。

 

「殺すのはやめだ。俺の女とする」

 

「!!??」

 

「俺は次の長となる男だ。ツイてるな、お前」

 

「やだ!!!」

 

ポニィを気に入ったキマツの言葉に、ポニィは力強く拒否の言葉を言い放つ。

 

「・・・何?」

 

「誰があんたなんかと・・・!ふざけるな!!」

 

「・・・お前の意志など関係ないがな・・・」

 

ドゴンッ!!

 

「がはっ!!」

 

「ハッキリ拒否されるのも腹が立つ」

 

ポニィの返答で気が障ったキマツは彼女の腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「俺の気が変わればお前は死ぬ。もう1度聞く。俺の女になるな?」

 

「ふざ・・・けるな・・・誰が・・・」

 

意識が飛びそうになりながらも、ポニィは拒否を続ける。だがその返答によって、キマツの目は冷たくなる。

 

「・・・やっぱ殺すか」

 

完全に興味をなくしたことにより、キマツは何度も何度も、ポニィに蹴りを叩き込む。

 

「ぐあ・・・うあ・・・!!」

 

「お前もバカな奴だ。素直に従っていればいいものを」

 

ただでさえ意識が飛びそうな蹴りを何度も喰らわされ、ポニィにひどい痣ができ、視界も朦朧としてきた。

 

「そういえば、呪力なしで殺せば呪霊となるという説があるが、本当かね?」

 

「う・・・あ・・・」

 

「・・・ちょうどいい。試してみるか」

 

キマツは人間が呪霊になるという説に興味を持ち、半獣化を解いて普通の蹴りをポニィの頭に叩き込もうとする。そして、蹴りを放とうとした瞬間・・・

 

ゾワッ!!

 

強大な呪力と強烈な殺気を感じ取り、動きを止めて後ろを振りむく。

 

「大きな声を辿ってみれば・・・ずいぶん粋がってる奴がいるな」

 

振り向いた先には、既に水龍の剣で変身を完了させたナハシュがこちらに近づいてくる姿があった。表情にも怒気が淀っているのがわかる。

 

「仲間か」

 

「チーフだ・・・おしまいだよ、あんた」

 

「何?」

 

「なんたって・・・京都校最強なんだから・・・!」

 

「・・・そこまで強さを信頼しているのか。ならば、お前の目の前で奴を殺すとしよう」

 

ポニィの断言を聞いたキマツは半獣化する。今度は足だけでなく羽も生やしたことでよりバッタに近い姿になる。

 

「バッタか」

 

「確かに凄まじい呪力だな。だが」

 

キマツは飛び跳ねる戦術で加速力を引き上げる。その速さは前とは違いすぎる。

 

(フルパワーだ!この攻撃、見切れるはずがない!!)

 

速い動きで翻弄するキマツに対し、ナハシュは立ち止まり、一歩も先に進まない。

 

「死ねぃ!!!」

 

充分に加速した勢いでキマツは呪力を帯びた蹴りを放つ。全く動きを見せないナハシュの前に強力な蹴りが、迫る。そして・・・

 

ギンッ!!ズパァ!!!

 

ナハシュは水龍の剣を振り下ろし、キマツの体を両断する。

 

「なっ・・・」

 

「バッタが龍に勝てるか。雑魚が」

 

必殺の一撃が届かなかったどころか、剣一振りのみで倒されたキマツは動揺するが、それ以上に彼の言葉に怒りが込み上げる。

 

(こ・・・この俺が・・・雑魚呼ばわり・・・?ふざけるな!俺は次の長だ!俺は・・・お・・・れ・・・は・・・)

 

キマツは呪いの言葉を吐き捨てることも叶わず、その場で息を引き取った。それと同時に、ポニィの命の灯が今、消えようとしていた。

 

 

(はは・・・チーフ・・・。チーフならこれからも・・・アタシの分まで・・・)

 

視界がぐらつき、いよいよ暗転しようとしたその時、朦朧とする視界の中で、ナハシュ以外の人影を捉えた。

 

(あ・・・れ・・・?誰か・・・いる・・・の・・・?)

 

ポニィが捉えた人影は自分を見つめ、首を横に振る。まだ来てはならないと言わんばかりに。

 

(・・・コル・・・姉・・・?)

 

ポニィが人影の正体が判明したと同時に、彼女の視界は・・・反転。

 

 

・・・ドクンッ

 

「かはっ!」

 

意識が飛んでいたポニィは血反吐を吐きつつ、反転した視界がハッキリする。そばにはナハシュがいて、彼女に心臓マッサージをしていた。。

 

「ち・・・チーフ・・・。な・・・コル姉がこっち来たらダメって言ってた!」

 

「そうか。かなりギリギリだったな。だが俺の近くにいたのが運の尽きだったな。貴様にはまだまだ働いてもらうぞ」

 

ギュウウウウッ

 

「いたたたたたた!!」

 

ナハシュはポニィに巻いていた包帯をさらに強く巻きつける。状況から察するに、彼が息を引き取ろうとしていた彼女を救い出したようだ。

 

「・・・ありがとう!」

 

命が助かったポニィは満面の笑みでナハシュにお礼の言葉をかけた。

 

(・・・とはいえ、今のバッタは水龍の剣を発動していなければ危険な相手だった。まだこいつらの上に『長』というのがいるはず・・・厄介だな)

 

ナハシュは水龍の剣で一撃で倒したキマツの上である長という存在がいると想定して、心ながらに毒づく。

 

 

「・・・ん、んん・・・」

 

一方その頃。気を失っていた黒女(くろめ)が目を覚まし、辺りを見回す。見慣れない内装や天井。両手は呪術が使えなくなる札が貼られた手錠。両隣には自分と同じような状況になっている見知らぬ呪術師2人、そして気を失っている筑紫(つくし)

 

「なるほどぉ・・・若い女の捕虜と聞いて来てみれば・・・」

 

そして目の前には天秤のような杖を携えた長髪の初老の男がいた。この男も墓守であろうが、呪力相当からして、一介の墓守たちとは一線を画しているのは、言うまでもない。

 

「これはまた、粒揃いじゃけぇのぉ・・・」

 

困惑することも許されぬ状況だが、この男を見て黒女(くろめ)は察した。自分たちは墓守に捕まってしまったのだと。そして目の前の男こそが、このプトラの地を統べる墓守の長である。

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