プトラの地のピラミッドの最深部。捕虜となってしまった
「捕虜共、お前らは子を産んでもらうぞ。偉大なるプトラ王の墓を守り続けられる強い子を」
一方的な言葉を綴る長に反感するのは銀髪のポニーテールの少女だ。
「ふん・・・長ってどんな奴かと思えば・・・ただのスケベジジイか」
呪術高専福岡分校 不知火
「いやいや、嬉しいんじゃよ。我ら墓守の跡継ぎ問題は深刻。できるだけ強い母体を探しとったとこじゃけぇ」
長の言葉に疑問符を浮かべるのは、銀色の短髪の少年だ。
「・・・地上に出て探せばいいんじゃないのか?」
呪術高専福岡分校 北条
「古くから伝わる王の縛りによって普通の人間・・・非術師は巻き込めん。例えば、盤星教とかな。じゃから攻めてきよったお前らには感謝しとるよ」
(非術師を巻き込まない縛りだって?そんなものを結んでいたのか?)
何のメリットもなさそうな縛り。そんな縛りを結んで墓守たちに何のメリットがあるのかとさらに疑問符を浮かべる
「・・・うむ。我はお前がええの。強さもこの中じゃ1番じゃろ。残りは部下にくれてやる」
「我の本名はウェネグ。趣味は保存食の開発。とにかく健康を気にしようるタイプでな。年ではあるが身体は元気そのものじゃ。好きな色は青。見ていると落ち着くけぇのぉ」
「?・・・?」
いきなりの自己紹介に何のことかさっぱりな
「自己紹介じゃ。嫁さんに我っちゅう人間を知ってもらわんとな。ほいで、次に雄としてのアピールじゃ」
そう言って墓守の長、ウェネグはギョロリと目線をずらす。
「我の強いところを見とれや。手始めに・・・今地面の下に隠れて機会を伺っとる奴を始末するけぇのぉ」
「⁉」
ウェネグの視線の先は何もないただの地面だが、誰かが隠れていると断言する。そして、その勘は的中している。
「・・・こいつは驚いた。気づいてやがったとは」
ボコッ、ボココンッ!!
「さしずめ、お前も鼻がいい動物か何かに変化する術式か?」
地面の中より現れたのはレイア―スーツを身に纏っている
「先輩・・・」
「我は長・・・墓守のナンバー1。そこらへんの動植物に変化しようると思っとったら瞬殺じゃけぇ」
「・・・・・・ぅ・・・」
とここで気を失っていた
「!
「おう、待ってろ
「お前らもな」
「!」
「所属は違うけど、仲間だろ」
「・・・本校の術師か」
話している間にも、ウェネグの変化が完了する。
「かっこええのぉ、若造・・・引き裂き甲斐があるけぇのぉ!!」
変化したウェネグの姿はこれまでに見てきた動物とは全く異なっていた。爪や牙、角は生えてきてはいるが、見た目が動物になるのとはわけが違う。どちらかと言えば、呪霊に近い。
「なんだ⁉そんな生き物知らねぇぞ⁉」
「ヌビス!この地で恐れ、崇められておる呪霊であり、我らの守り神!破壊力も回復力も桁違いじゃけぇ!我らが守り神に変化する術式!これこそが、長のみが使える禁忌!!」
ドカァ!!
そう言い放つや否や、ウェネグは
「くっ・・・!」
「もう後ろに回り込んどるけぇ」
「なっ⁉」
ドガァ!!
体制を整えようとする
「もろに直撃・・・」
「ダメ・・・か・・・」
「まだまだだよ!
長というだけあって、ウェネグの実力は確かなものだ。だが幼少期から
「・・・驚いた・・・他の墓守とは・・・マジで桁外れだぜ」
「長じゃからな」
ガシッ!
「ぬおっ⁉」
ウェネグの実力の高さを肌で実感した
「燃えてきたぜ!!」
「こいつ!なんっちゅう怪力じゃ!」
グルッ!ガコォ!!
「腕力は俺様の方が強ぇ!!」
「すげっ!」
「ふん・・・燃えたいというなら、望み通り燃やしてやるけぇのぉ!!」
手痛い投げ技をくらったウェネグは距離を取り、口から炎を吐き出した。起き上がろうとする
「ぐっはっはっは!勝負あり・・・」
ドゴォ!!
高笑いするウェネグだが、炎に包まれたはずの
(土の鎧じゃと・・・⁉)
そう、レイア―スーツは土に通ずる術式が込められている。これによって土に潜るだけでなく、土の傀儡を創ることも、土の鎧を身に纏うこともできるのだ。
「こいつもくらっとけ!!」
「調子に乗りすぎると危ないと・・・釘ならぬ杖を刺したるわ!!」
ウェネグは杖の切っ先を
ズンッ!!
呪力が籠った杖の切っ先は
ボロ・・・ボロ・・・
「!!」
その直後、
「!こ、コイツ・・・!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
ドゴォ!!!!
「ぬおおおっ!!」
「やったぁ!」
「これが・・・京都校の術師の実力・・・」
「やっぱり・・・強い・・・!」
ウェネグを追い詰めたことに歓喜する
「・・・その若さでなんちゅう腕前。強敵だわ」
壁にたたこまれ、へたり込んでいたウェネグは言葉を紡ぎながらゆっくりと起き上がる。
「このプトラ王の墓には呪術全盛期より続く長い歴史があるんじゃ。過去にお前のような手練れの術師もおった。だがそやつらも例外なく、絶対の死を迎えておる。侵入者には『王家の呪い』がかかるけぇのぉ」
「ただの術式だろ。そんなもんで俺は死なねぇぞ」
「いや死ぬわ。強いからこそ王家の呪いは効く」
不敵に笑うウェネグの断言に対し、
「はんっ、さてはお前、反転術式を持ってるな?そんなもん使わせるかよぉ!!」
「年寄りの話は聞くべきじゃけぇのぉ!」
ウェネグは
(スピードはやはりこちらが上手よ。動き回って始末する)
スピードで翻弄しようと考えるウェネグだったが、
(こいつ!こげなこともできるんか!!)
(土を隆起させてもこいつは仕留めきれねぇ。俺様のパワーでぶん殴らねぇと!!)
身動きを取れなくなったところを
「ご・・・!!」
「男らしく、足を止めて殴り合おうぜ!!」
手痛いダメージを受けたウェネグは隠していた鋭利な尻尾を出し、
「だから隠し武器は男らしく・・・ねぇって!!!」
ブチィ!!
「ぬぐっ!」
「これで決めてやる!!」
「・・・このまま投げる気か。やめておいた方がええ。死ぬぞ」
「そりゃ殺す気でやるからな!!覚悟しろ!!!」
ウェネグは何やら忠告を告げているようだが、
「・・・別れを言っておこうか」
ウェネグがそう言うと、顔に何かの古代文字が浮かび上がる。その直後・・・
「オラアアアアアアアア!!!!」
ドオオオオオオオン!!!
「・・・フィニッシュだ」
「ボスを倒しちゃった・・・」
墓守の長を倒したことに
「さすが
「おう!これでまた一歩、五条に近づいたぜ!お前たちも今助けて・・・」
ズズズ・・・
彼の顔に先ほどウェネグの顔に刻まれたものと同様の古代文字が浮かび上がり、そして・・・
ぶしゃあ!!!
どういうわけか頭から大量の血が噴き出してきた。あまりにも突然の事態に、
「ほうら、始まった」
倒したと思われていたウェネグは何ともなかったかのように土から抜け出し、肩を鳴らす。
「これこそが王家の呪い。お前は死ぬんじゃ」
「・・・ふざ・・・けんなよ・・・てめぇ・・・。まだ・・・立つなら・・・俺様が・・・もう1度・・・」
「・・・が・・・
生得術式というものは生まれた時から身体に刻まれるものである。だが1人の術師が2つの術式を持ち合わせることはまずない。だが不可能というわけではない。呪物を取り込むなどの何らかの方法で術式を身体に刻み込めば、術式を会得すること自体は可能だ。しかし呪物は毒物にも等しい。それを体に取り込むなど自殺行為に他ならない。だが墓守は全員この方法で術式を会得している。
その中でもウェネグはこれだけでなく、生まれ持ってからの生得術式を得ている。自身が受けたダメージをそのまま相手に返すカウンター術式。術師本人がタフであればあるほど、術式能力が活かされる。これまで数多の術師が葬られてきた術式。強ければ強いほど、己の術式で自滅する。それこそが・・・
王家の呪い
「墓守が何人か倒れたようじゃが、戦える同胞はま~だまだ100人はおるけぇのぉ。お前ら、詰んどるよ」
「
●
一方その頃、逃げ出したジャモを追いかけていた灰原は狭い廊下を抜け出し、広々とした広間に辿り着いた。
「ここは・・・広間?」
「はぁ・・・はぁ・・・ジャモおじさんはなぁ、逃げると見せかけてお前をここに誘い出したんだよ!見ろ!こいつがおじさんの頼もしーい仲間だ!」
広間の祭壇にいるジャモのそばには身体中に鎖をかけられて身動きが取れなくなっている墓守がいる。仲間なのに拘束されていることに灰原は疑問を抱く。
「仲間なのにどうしてがんじがらめを・・・」
「おっと勘違いするなよ?おじさんの趣味で拘束してるんじゃないぞ。こいつ、すげぇ怪物に変身できるんだけどよ、その分自我が壊れてっからその分危ないってことだ」
ジャモの説明を聞いた灰原は警戒心を強めて黒い剣を構える。
「よし、目の前の男は敵だ。仲間でも判別できないぐらいに引き裂いちまいな」
「グゥ・・・ウゥ・・・オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ジャモの指示を聞いた墓守はがんじがらめから解き放たれ、獣のように雄たけびを上げてその姿を変化させた。その姿はウェネグが変化できるヌビスと同等のものだ。
(こいつ・・・ヤバそうだな・・・。ピンチになったら逃げることも考えないと・・・)
1人と暴走していた時とは違い、とにかく冷静な灰原は一目見て危険だと判断し、逃げの判断も視野に入れて戦う選択をする。
(はは、そいつを倒そうなんて無理無理!そいつは長の一族!長と同じ呪霊に変化できるんだぜ!すぐにお前の顔は恐怖でひきつる!)
絶対の自信を持っているジャモは戦いに巻き込まれないように、すぐそこの曲がり角に隠れて高みの見物に決め込むのだった。
●
最深部。
(さて・・・術式を開示した方がよいとされるが、王家の呪いは隠した方がアドバンテージが大きい。見られた以上、嫁以外は殺しといた方がよいな)
自身のアドバンテージをより大きいものとするためにウェネグは王家の呪いを見た
ボコッ!ゴオオン!!
突然土が隆起し、ウェネグの目の前に分厚い壁が出来上がる。これは
「!!あいつ、まだ息があったんか⁉」
ウェネグは出来上がった壁に拳を叩き込んで破壊しようとする。だが壁はあまりにも固く分厚いため、1発や2発では壊れない。
「なんちゅう体力!死の定めは決定しとるっちゅうのに!」
ウェネグは毒づきながらも何度も拳を叩き込んで壁を破壊しようとする。
「・・・はぁー・・・はぁー・・・ざまぁ・・・みやがれ・・・」
もう瀕死寸前の
「
「待って・・・ろ・・・」
ブシュッ!
頭に受けたダメージは相当に深く、無理に動かそうとすると出血がひどくなる。それでも
「
「・・・どうやら・・・勝つ・・・のは、無理らしい・・・。せめて助けるって・・・約束だけでも守らねぇと・・・さすがに男として・・・イケてないだろ・・・」
「
「
「俺が出てきた穴から逃げろ。で、傷口から考えてくれ・・・何で俺がやられたかを・・・。突然だったんだダメージが・・・それをナハシュたちに伝えるんだ・・・」
「・・・・・・」
今にも死に絶えそうな声に
ドゴン!!ドゴォン!!
だが悲しみに嘆いている暇はない。壁にひびが入り、今にも壊れてしまいそうだ。
「時間がねぇ!!いけぇ!!!!」
「・・・っ!」
「・・・それでいい」
全員が意思を汲み取った行動に
ドゴオオオオン!!!
その直後、いよいよ壁が破壊され、ウェネグが進入してきた。それを見た
「あれだけ太い壁を出してまだ立っとる元気があるんか。バケモンじゃな」
「なーに、地上に出りゃ俺以上の化け物がうじゃうじゃいるぜ」
「・・・おもしろい男じゃのう。名前はなんという?お前のような勇者の頭蓋骨は漆塗って部屋に飾っておくわい」
「名乗る必要はねぇ。なぜなら俺の仲間たちにお前たちはもれなくぶっ殺されるからだ」
●
一方その頃、散り散りとなり、同じく1人なっている
「参ったぜ。分断されたと思ったら敵すら出てきやしねぇ。かなり奥の部分に来ちまったようだな。こりゃ俺がヤバい相手とヤるのは無理そうだな」
先へと進んでいく
(・・・嫌な予感がしやがる。殺されんじゃねぇぞ、ガキ共)
●
ドスッ!!!!
場は再び最深部。ウェネグに向けて放った
「これがかの呪いの王であれば死なんだろうが・・・お前はそうはいかんじゃろう」
そう言ってウェネグは
「・・・あー、しぶとかった」
ウェネグは
●
一方その頃、上階の広間。ヌビスと化して凶暴化した墓守・・・以降ヌビスは獣は如く爪を振るい、灰原に猛攻を仕掛ける。手は抜けないと判断し、グランシャリオに換装済みの灰原は猛攻をさばいていくが、どことなく動きが鈍く、なかなか攻撃を仕掛けられないでいた。動きが鈍くなっているのには原因がある。
(3回目の使用はキツイ・・・受け流すのに精一杯だ・・・!)
グランシャリオは身に纏うことで呪力だけでなく、体力を大量に消費する。ただでさえ保持時間が短いのにそれを1日で3回も使ったのだ。灰原の身体にがたがきはじめているのだ。
「グルゥアアア!!!」
「うわぁ⁉」
次に放ったヌビスの拳は非常に重く、がたがきてる灰原は簡単に突き飛ばされて壁に叩きつけられる。直後、ヌビスは炎を吐いて、灰原は炎に包まれる。グランシャリオの装甲のおかげでダメージが響く程度で済んでいるが、打開策は見つからない。
(いいぞぉ~、そのまま鎧ごと壊しちまえ!)
(くっ・・・やっぱり使いどころを間違えたかな・・・せめて後1人いれば・・・)
そろそろ撤退することを考えた灰原だが、それを許さないかのようにヌビスは猛突進して拳を叩き込もうとする。
(ヤバッ!)
灰原は目を閉じ、腕を交差して防御の姿勢をとったその瞬間・・・
ガキンッ!!両者の間に第三者が入り、ヌビスの攻撃を鉈で受け止めた。第三者の正体は七海であり、彼の登場で灰原は歓喜する。
「七海!」
「・・・それ、3回目ですよね?無茶をしないように言っておいたはずですが」
「ごめん・・・そうも言ってられなくて・・・」
灰原の状況を見て、グランシャリオの使用回数を察した七海は小言を言いながらヌビスを押し返し、彼の様子をじっくり観察する。
(アタック、スピードは高く、変身の術式でディフェンスもそこそこ。だが、肉体がやせ細っていて、ヒットポイントが極端に低い。おまけに理性が飛んでいる。この手の相手ならば、私でもやりようがある)
ヌビスを見て状況を脱せると判断した七海は右手に包帯を巻きつける。
「灰原は下がって。私がやります」
「で、でもそいつ、強いよ?」
「問題ありません」
包帯を巻き終えた七海は鉈を構え、自身の呪力を大きく練り始める。その間にもヌビスはバッと駆けだし、自身の爪をぎらつかせる。対し七海は迫ってきたヌビスの両腕の7対3の線分を引き始め、攻撃を仕掛けてきたタイミングを狙い・・・
ズバァ!!!
クリティカルポイントに向けて鉈を振るい、ヌビスの両腕を斬り落とした。
「グギャアアアアアアアアアア!!!!」
ヌビスの両腕が落とされた光景を隠れて見ていたジャモは驚愕の表情を浮かべ、危機感を抱く。
(嘘だろ!!?あの乱入者・・・あんなボロイ鉈一振りでヌビスの両腕を斬りやがった!!?何もんだこいつ!!?まずい!!やられたら次の矛先がおじさんになっちまう!!こうなれば触手で奇襲してイカブームを巻き起こしてやる!!)
ジャモは半獣化で触手を出し、奇襲を仕掛けようと動き出す。
ギュルルルッ!
「!!?」
「せっかく後輩が頑張ってるんだ。横槍なんて無粋なことしないでよね」
「仲間か・・・!」
だがここでグリーンが現れ、サイドワインダーでジャモを拘束することで奇襲を阻止される。
ドォォォン!!
その間にも七海はよろめくヌビスの腹部に7対3の線分を引き、クリティカルポイントを狙って呪力を纏った拳を叩き込んだ。クリティカルが乗った拳を受けたヌビスは吹っ飛ばされ、壁に強く叩きつけられた。
「ガ・・・ア・・・ァ・・・」
「・・・・・・っ!!」
クリティカルの連続をくらったヌビスは限界が来て、気を失ってしまう。ヌビスがあっさりやられたことでジャモは絶句する。
「すごい・・・!やっぱり七海は最高だよ!」
「お見事。強者相手に大したもんだよ」
「あ、先輩!」
「やあ。やっと合流できた」
「いえ、術式と相性がよかった・・・運がよかっただけです」
「謙遜を。君の実力は間違いなく、2級でも通用するよ」
灰原たちと合流できたグリーンはジャモを拘束したまま引き連れて、七海に称賛を称える。
「それより先輩!そいつ
「オーケー。なら尋問で情報を引き出そう」
3人はジャモに尋問をかけて情報を得ようと動く。
「・・・う・・・うぅ・・・おっ・・・俺は待ってた!待ってたんだ!!あんたらのような解放者が来ることを・・・!」
すると突然ジャモは涙を流して意味不明なことを話し始めた。
「実は俺もこの墓には嫌気がさしてたんだ!!ぜひ協力させてくれええええ!!」
灰原たちに協力するようなことを言っているが、言っていることは全部・・・
(嘘だけどな!所詮はガキ!こういうのには弱いだろ!)
バキィ!!
「ぶへ!!」
「そんなことどうでもいいから
「あなたはいい加減
「さすがに僕たちをバカにしすぎだよね」
誰が見てもあからさまだったため誰1人(灰原は眼中になし)騙されることはなかった。
「情けないの、ジャモ。それでも墓守の幹部け?」
「「「!!」」」
すると、この広間に膨大な呪力を持った男が現れた。墓守たちの長、ウェネグだ。ウェネグは壁に叩きつけられた身内に視線を向ける。
「・・・力を御せぬ身内であったが、ああなってはのう・・・我が戦う必要がありそうじゃ」
「お、長ぁ!!!」
「なっ⁉ヌルヌルと脱出した⁉」
ウェネグの登場にジャモは涙を流し、イカの粘液を利用してヌルヌルと拘束をすり抜けた。
「あの男の桁外れの呪力・・・長と言っていましたね」
「大丈夫!五条さんより全然低いよ!」
「あれと比べてもね・・・」
3人は各々に身構えて、態勢を整える。
「ジャモ、少しは役に立て」
「もちろんですとも!」
(普通に勝てればそれでよし。相手が強ければ消耗はしようるが王家の呪いを使えばええだけよ。受けたダメージをそのまま返したる)
「ボスさえ倒せば全部が終わる!」
「灰原、油断はしないように」
「頼りにしてるよ、2人とも!」
呪術師対墓守。このプトラの地での最後の呪い合いが、今幕を開けようとしている。
●
同時刻、人気のない廊下。何とかウェネグの追跡を逃れた
「灰原が来てる!!??どういうこと!!?なんで止めなかったの!!?」
「わ、私たちだって止めたよ~・・・。でも・・・止めたって自分で来るから無駄だって、お父さんや七海君が・・・」
「なんだよそれ・・・助けた意味全然ないじゃん・・・。しかも七海まで・・・。何考えてるんだよ・・・」
ほとぼりが冷めるまで高専に身を潜めてほしい。そんな意図があったと知らず乗り込んできた灰原と七海に
「おい、頭抱えてる場合じゃねぇぞ。術式が使えるようになったんだ。これからどうする?引き返してあいつとやるか?」
「いや、やめた方がいい。他の墓守も動いているだろうしな」
「うん。仲間にさっきの技のことを教えないと」
「・・・あいつら、高専に戻ったら絶対にぶん殴ってやる」
墓守に見つからないように移動する中、
(優勢になった時の
●
場は再び広間。ジャモを相手取ることになったグリーンはサイドワインダーは振るって連撃を放つ。対してジャモは数本の触手で連撃を捌きつつ、接近戦に持ちかけようとする。
「ジャモおじさんだって気合入れればこれぐらい!このまま捌きつつお前に近づいてぇ・・・触手の餌食にしてやるよ!!」
(くっ、七海と灰原じゃ長を相手に荷が重すぎる!早く援護してやらないと!)
一方で七海と灰原を同時に相手をするウェネグは素早い動きで七海に迫り、鋭い爪を振るう。
「引き裂いちゃるけぇのぉ!!」
ウェネグの攻撃に七海は腕で防御して受け流したり、躱したりしてその場をやり過ごす。しかし同じ姿でも自分が倒したヌビスより、素早さも攻撃も、ウェネグの方が圧倒的に上で躱しきれずところどころにかすり傷ができてしまう。
「ほれほれどうした!全部掠ってるけ!!」
(くっ、同じ姿形でも、あちらの方が明らかに全ステータスが上だ!)
激しい攻撃と素早さになかなか攻勢に出れない七海は後退する。その傍ら灰原はブースターを利用してウェネグの背後に回り込み、スピードと呪力を乗せた拳を叩き込もうとする。が、ウェネグは素早く振り返り、片手で拳を受け止める。ブースターでウェネグが後退るタイミングを狙い、七海は鉈を振るって攻撃を仕掛けようとする。
「これがパンチけ?軽い。軽すぎるのぉ!!」
ウェネグは受け止めた灰原の拳を強く握りしめ、迫ってくる七海に向けて灰原を力強く放り投げた。
「うわぁ!!」
「ぐっ・・・」
お互いに衝突しあった灰原と七海は揃って倒れてしまう。
「灰原!七海!」
それを見たグリーンはサイドワインダーをウェネグに向けて放った。しかしそれによってジャモの接近を許してしまう。
「バカが!目の前の敵を放置してどうする!」
「引っ掛かったね」
グリーンが不敵に笑うと、ウェネグに放ったサイドワインダーの軌道が急速に曲がり、迫りくるジャモに伸びて彼の身体に巻き付いた。
「なっ⁉鞭が横から⁉」
「元からあっちには攻撃してないよ。目的は・・・」
グイッ!ドゴオオン!!
「うがっ!!」
「イカ釣りだ!!」
ジャモを拘束したグリーンはサイドワインダーを引っ張り、そのまま壁に叩きつけた。そして、壁にめり込ませた後はサイドワインダーによる強烈な猛攻を振るう。避ける術がないジャモは何度も何度も叩き込まれる。
(やべぇ・・・壊れちまう!!かくなる上は一瞬しか使えないが奥の手・・・!)
まだ隠し玉を持っていたジャモの身体に変化が起きる。
(くらえ!必殺!!)
光るおじさん!!
ピカアッ!!
ジャモ身体はホタルイカのように輝き始め、強い光が放たれる。突然の発光にグリーンは思わず目を閉じてしまう。
「くっ・・・ホタルイカだったのか・・・⁉てっ、あれ⁉に・・・逃げた・・・」
グリーンが目を開けてみると、ジャモはこの広場から姿を消してしまった。どうやら隙を突いて逃げ出したらしい。
「ジャモめ・・・どこまでも根性のない!」
「根性なら、僕の方が上だ!!」
ウェネグが逃げたジャモに毒づいている間に灰原間合いに入って彼の顔に蹴りを叩き込んだ。だがダメージは通っていない。
「はっ!軽い蹴りじゃのう!」
ウェネグは拳を振るって攻撃を仕掛けたが、灰原がブーストをかけて後退したことにより、空振った。後退したタイミングで七海が前に出て攻撃を仕掛けようとする。
「これで3対1です」
「そうかのう!」
迫りくる七海にウェネグは口から炎を吐き出して攻撃する。それに感づいた七海は咄嗟に転んで屈み、直撃を避けてみせた。直後、ウェネグの肩にグリーンが伸ばしたサイドワインダーの切っ先が肩に掠った。が、全く効いていない。
「・・・対して効かんな」
「長!ご無事で⁉」
すると上階から下っ端の墓守が数名駆けつけてきた。
「ここが我らの拠点だと忘れたか?なんぼでも集まってくるぞ」
「くっ・・・」
「まぁ、加勢はいらん。邪魔が入らんように、通路守ってりゃそれでええわ。我1人でなんとでもなるわ」
ウェネグは部下たちに敵の加勢が入らぬように通路の防衛を命じた。
(こいつらじゃ潰される可能性がたかいしのう)
「やっぱりボスというだけあって強い・・・!」
「・・・七海、あいつの動きどう?」
「まだまだ攻撃に手数がありそうです。まだ動きも見切れてませんし」
「そうか。じゃあ早く慣れてよね。長くは持たないよ」
「?何を・・・」
「いくけぇの!!」
ウェネグはバッと駆けだし、七海に向かって拳を振るおうとする。咄嗟のことで行動が間に合わなかった七海の前にグリーンが前に出てサイドワインダーを腕に巻き付けて防御する。
「グリーンさん!何を・・・」
「下がってください!盾役なら僕が・・・」
「それじゃダメなんだよ・・・!」
灰原が盾役に買って出たが、グリーンはその提案を拒否する。その間にもウェネグは連撃を繰り出し、グリーンを押している。グリーンはサイドワインダーを振るって防御し続ける。
「健気じゃのう、眼鏡君!」
(悔しいけど、鞭じゃ決定打にかける・・・。みんながいない今、攻撃の要は灰原と七海なんだ。この2人が見切るまで僕が盾になる・・・それくらいのことなら・・・!くそっ・・・こんな役割しかできないなんて・・・。これじゃあ
せめて自分に力があればと不甲斐なさを感じるグリーンは後退しつつも、ウェネグの攻撃を全て捌ききる。だが防御の一瞬の隙を突かれるように腹部に蹴りを叩き込まれた。
「うっ・・・」
「終わりじゃ、眼鏡君!」
ウェネグは尻尾を伸ばし、グリーンの脳天を貫こうとする。
「グリーンさん!危ない!!」
そこへ灰原がグリーンを突き飛ばし、鋭利な尻尾を装甲で弾き飛ばした。だがすぐにウェネグに間合いを取られ、顔面に拳を叩き込まれ、地面に叩きつけた。これによって、グランシャリオの顔面装甲が半分に割れ、灰原の顔が少し露になる。
「がはっ・・・!」
「アホじゃのう、小僧。我を観察するのがお前たちの仕事じゃろう」
ウェネグは灰原の首を強く掴みとり、鎧ごと絞め殺そうとしている。かなりの力が籠っているためか、鎧にミシミシとひびが入っていく。体力的に限界に達したのか、灰原は動く気力が残っていない。
「死ぬ前に1つ教えちゃる。お前の行為は眼鏡君の心意気を無駄にしちょるぞ」
籠める力がさらに強まった時、倒れていたグリーンはウェネグの足を掴み上げ、七海は助走をつけて鉈を振るって攻撃を仕掛けようとする。
「灰原!!」
「彼を放せ・・・!」
「・・・全ては若さよの」
ウェネグはグリーンに蹴りを放って突き放し、さらに尻尾を伸ばして七海の肩を貫き、攻撃を阻止した。その間にも、灰原の限界でグランシャリオの顕現が解かれようとしている。
「終わりじゃな。このまま絞め殺してやろう」
(ヤバい・・・意識が・・・)
灰原の視界が朦朧とし、意識が失われようとしていた。
●
一方その頃、戦線を離脱したジャモはふらつきながらも上階へと上がっていく。
「冗談じゃねぇぜ・・・あんな奴らと戦っていられるかってんだ。こうなったら地上にでも出て夜な夜な出現する触手魔人として都会の男女を襲いまくってやるぜ・・・!」
変なことを考え出してにやけているジャモだったが・・・
ゴッ!
キーン!
いつの間にか背後に回っていた
「もしやと思い血の跡をつけてみれば・・・。お前には捕まってる間散々やられたからな。生きててくれてありがとよ、ボンクラ」
「き、貴様・・・!」
ゴンッ!!
ジャモは触手を出して
「悪党には相応しい最期だな」
「ふざ・・・けるな・・・よ・・・!!てめぇらが一方的に・・・荒らしに来たんじゃねぇかよ・・・!!」
「何?」
彼の発言に
「いつの時代も・・・てめぇら呪術師はみんなそうだ・・・!!俺らが悪党なら・・・てめぇら呪術師は・・・大悪党だ・・・!!」
ジャモはそんな恨み言を言い残し、ゆっくりと意識を手放した。
●
場は広間に戻り、ウェネグに首を絞められている灰原は、力を振るおうにも身体に限界がきており、指も動かせないでいる。
(僕・・・ここで死ぬのかな・・・?)
灰原が諦めかけようとしたその時・・・
「灰原ぁあああ!!!」
(!くろ・・・め・・・?)
薄れる視界の中から涙目の
(そうだ・・・何のためにここまでの来たんだ・・・!
「さあ・・・断末魔の響きを・・・」
「・・・泣いてた」
「あ?」
「僕は・・・
死んでも死にきれない
ゾワッ・・・!
自分を覗く灰原の視線は・・・恐ろしいほどに冷たいものだった。そんな視線で睨まれたウェネグは一瞬強い寒気に襲われる。
(何じゃ・・・⁉この寒気は・・・⁉)
ウェネグが得体のしれない寒気に疑問符を浮かべている間にも、灰原は呪力を纏った拳を放とうとする。すると、灰原の呪力の空間が歪み、黒く輝く。
ドゴオオオオオオオオン!!!!
「ぐおおあああああああああああああああ!!!!!」
黒く輝いた呪力の拳を顔から受けたウェネグは強く吹っ飛ばし、壁と衝突した。あまりの突然のでき事に、この場の全員が目を見開く。
「「「長!!!」」」
「・・・なんだ・・・あれは・・・?」
「今のは・・・まさか・・・!」
「ううん・・・間違いない・・・あれは・・・」
そう、今の一撃は0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪。その名を・・・
「・・・黒閃・・・!」
灰原が黒閃を放って見せた。それを目の当たりにした者は驚きを隠せないでいる。
「ぐ・・・ぬぅぅぅ・・・!バカな・・・小僧のどこにそんな力が・・・!それになんじゃ今のは・・・?そんな力、我は知らんぞ・・・!」
壁の瓦礫から出てきたウェネグは灰原の力と初めて目にした黒閃を前にして動揺を隠せないでいる。
「灰原君!!」
「
そこへ
「そいつ、ここぞって時に受けたダメージを相手にも流し込むことができるよ!!」
自分の王家の呪いが
(!!?1回見ただけで気づいたんか⁉)
「
「⁉
「今みたいな大技を狙う時は気をつけて!蓄積じゃなくて、その瞬間のダメージが来ると思うから!」
(あいつ・・・やはり殺しておくべきじゃったの・・・)
術式をバラされて、開示からのアドバンテージも失ったことでウェネグは毒づく。その間にも入場は七海に近づき、手を差し伸べる。
「七海・・・僕は、あいつを倒して
「・・・あまり過度な期待はしないでくださいよ」
この状況下で断る理由がない七海は灰原の手をかり、ゆっくりと立ち上がり、共にウェネグと対峙する。
「ふん、知ったところでガキ共に対応できるもんでもないわ」
「・・・確かに僕だけなら無理だ。だけど・・・七海と一緒なら、絶対に勝てる。そう確信してるんだ」
「強がりを」
灰原の言葉にウェネグは鼻で笑う。
(すぐ近くで
入学当初から築いてきたチーム。そのチームメイトたちがすぐそばにいることに灰原は心強さを感じている。七海は鉈を構え直し、灰原はグランシャリオを維持したまま構える。
「来い!僕たちがお前を倒す方法を、教えてやる!!」