「我を倒す方法を教えてやる・・・じゃと?」
身構える灰原の言葉を聞いてウェネグは鼻で笑う。
「はっ・・・おもしろい。『教えてやる』なんてセリフ、久々に聞いたわ。やってもらおうけぇのう!!!」
先に動いたのはウェネグの方だ。これから来るウェネグの攻撃に対し、灰原はあえて動くことはせず、防御の姿勢をとる。
(動きを見切る必要はない!呪力をグランシャリオに集中して、受けて立つ!)
腕を交差して身を丸める灰原に対し、ウェネグは拳を振るって連撃を繰り出す。
「どうしたどうしたぁ!我を倒すんじゃなかったんかぁ!」
そして、強烈な拳を叩き込まれて灰原は後退る。だがいくら攻撃しても、グランシャリオに対した損傷はなかった。それどころか・・・
ブシュッ!
「⁉なっ、なんじゃあ、こりゃあ⁉我の手が⁉」
硬度が以前より増しており、逆に連撃を繰り出したウェネグの手があまりの硬さで傷を負っている。驚いている間にも七海が懐に入り、鉈を振るってウェネグの腹部に斬撃を与えた。だが咄嗟に避けたため、攻撃はかすり傷程度にとどまっている。
「おのれ!あまり調子に乗らんけ!!」
ウェネグは息を軽く吸い、七海に向けて炎を吐いた。七海に迫りくる炎を灰原は前に出て、両手で割れた顔面フェイスを覆って、グランシャリオで受け止める。
(鎧事丸焼きにしてやるけぇの!!)
吐き出す炎の火力が上がり、勢いはさらに上がっていく。
「灰原ぁ!!七海ぃ!!負けるなぁ!!!!」
上階で墓守の相手をしている
「せぇい!!」
ドンッ!!
「ぬぐぅ!!」
炎を突破した灰原はその勢いでウェネグに頭突きを放つ。頭突きをまともにくらったウェネグは後退る。灰原のおかげで炎を切り抜けた七海はウェネグの後に回り込み、攻撃の体制に入る。ウェネグは攻撃を防御しようと片腕に呪力を込める。七海はその腕の線分を7対3に引き、鉈を振るってウィークポイントに当てる。
グパァ!
「ぬっ⁉」
鉈の斬撃を受け止めたウェネグの片手はスパッと斬れる。呪力で防御したにも関わらず腕が斬られ、ウェネグは後退する。
「防御したはずなのにこのダメージ・・・そういう術式け?」
「そういうとは?私は抽象的な言葉は嫌いです」
七海はウェネグの胴体に線分し、さらなる追撃を放とうとする。
「それも若さよの。ならばこれよ!!」
「!これがそうか・・・!」
ウェネグはこれからの攻撃を想定して王家の呪いを発動させ、胴体に古代文字を浮かび上がらせる。それを見た七海は咄嗟に勢いを殺し、あえてウィークポイントではない線分に斬撃を与える。鉈の斬撃は多少なりともウェネグに傷を負った。
ブシュッ!!
「ぐ・・・!」
だがそのダメージは王家の呪いによってそのまま七海に返ってきてダメージを負う。だが浅く斬ったためそこまでのダメージではない。
「自滅せぇや!!」
「くっ・・・ぬぅああ!!」
七海は負けじと先ほどと同じ要領でウェネグの腕や足に鉈を振るって攻撃する。
「・・・地道に斬ってなます斬りにする気か。地道な真似をしおって!また返してやるわ!!」
ウェネグは腕や足にも王家の呪いを使用する。これによって七海が振るった攻撃はウェネグに直撃し、それが七海に返ってくる。
「うぐぅ・・・!」
「もらったあ!!」
七海が返ってきたダメージで膝をついた。その瞬間を狙い、ウェネグは腕を伸ばして七海の胴体を貫こうとする。
「うおおおおおお!!」
バキィ!!
「ごぉ・・・!!」
そこへ灰原が前に出てウェネグの顔を殴りつける。殴られたウェネグはその勢いで後退する。
「この・・・小僧がぁ!!!」
ウェネグが声を荒げる。灰原はウェネグの顔に拳を叩き込み続け、連撃を放つ。
(鎧を壊しにかかっても、逆に余計なダメージを受けるだけか・・・。ならば!あえてダメージを受け、そのまま返しちゃる!!自分の拳で自滅せぇ!!)
ウェネグは体だけでなく、顔にも王家の呪いを使い、灰原の攻撃を受け止める。これによってダメージがそのまま返ってきて、灰原にダメージを負う。
「ぐっ・・・うぅ・・・うおおおおおおおお!!」
「ごぉ!!こいつぅ!!」
返ってくるダメージに構わず、灰原は何度も何度も拳を叩き込み続ける。対してウェネグも負けじと攻撃を受け、ダメージを灰原に返していく。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「おりゃああああああああああああああ!!!!!」
攻めと受け。両者一歩も譲らないぶつかり合い。この激闘に、誰1人の干渉も許されない。
長い攻防戦の末、灰原もウェネグも、両者ともにボロボロの状態で、お互い同時に膝をつく。
「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・」
「ぬ・・・ぐぐ・・・」
お互いがフラフラな状況の中で、先に立ち上がったのはウェネグの方だ。
「思った以上に・・・しぶとい奴じゃのう・・・だが・・・それも終わり・・・」
自分の勝利だと確信したウェネグだったが、灰原の姿を見て驚愕で目を見開く。グランシャリオで外傷は見えないが、ダメージを返されている以上は中身はボロボロのはずだ。それでも灰原はふらつく身体に踏ん張りを入れて立ち上がる。
「・・・なんなんじゃお前は・・・なぜまだ立っていられるんじゃ!!?」
「・・・当たり・・・前だろ・・・。負けられない理由が・・・あるんだ・・・。そうだろ・・・?七海・・・」
驚いているウェネグの背後に七海が突っ走り、7対3の線分を引き始めている。
(!!我が弱るタイミングを狙ったんか!!無駄じゃ!!王家の呪いでダメージを返しちゃる!!)
七海が鉈を振るう前に、ウェネグは王家の呪いを使い、ダメージを返そうとする。狙い通りに七海は鉈を振るった。だがその鉈は直撃寸前で止めた。
(!!?寸止め!!?)
「・・・今の攻防で体力と呪力を大幅に削られた。ならばそのカウンター術式も、今ので限界のはず」
七海の指摘通り、ウェネグの体力も呪力もすでに限界に達している。これによって王家の呪いに必要な呪力が枯渇してしまい、王家の呪いの効果が消え、古代文字も消えていく。それを見逃さなかった灰原はブースターを起動させ、猛スピードでウェネグに突進する。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「!!しまっ・・・!!」
気付いたところでもう遅い。ウェネグの目の前に迫った灰原は全呪力を込めた拳を叩き込もうとする。そしてその瞬間、灰原の呪力が歪み、黒く輝く。
「黒閃!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオン!!!!
灰原が放った黒閃が見事炸裂し、ウェネグは左腕が吹っ飛ばされ、それに続くように自身も吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
(まさか・・・この我が・・・こんな小僧に敗けるとは・・・!抜かった・・・わ・・・!)
壁が壊れると同時にウェネグは倒れ、瓦礫に埋もれてしまう。
「!!!??長!!!!」
自分たちの長が敗れるとは思わず、墓守は驚愕する。そんな墓守を
「は・・・はは・・・やった・・・やったぞ・・・」
グランシャリオは維持に限界が来て強制的に顕現を解いて黒い剣に戻ってしまう。やはり身体中怪我だらけになっていた灰原はふらっと倒れそうになる。そんな彼を支えたのは、駆けつけた
「く・・・
「バカ!!!!」
灰原を支える手に力を込め、
「なんで来たんだよ!!誰も助けに来いなんて頼んでないのに!!・・・こうなると思ったから逃がしてやったのに・・・私の気も・・・知らないで・・・」
「
灰原の怒鳴る声が途端に弱々しくなり、
「・・・灰原と七海が死んじゃうって・・・何度思ったことか・・・」
「・・・うん・・・ごめん・・・本当にごめん・・・ごめんなさい」
滴り落ちる涙と
「・・・でも、もしこのまま行動を起こさなかったら、もう二度と君に会えないんじゃないかって思って・・・。そしたらもう、謝ることも、また喧嘩することもできなくなっちゃう。僕はそれが嫌なんだ」
「・・・・・・」
「僕の周りで人が死んでほしくないなんて、ただの自己満足だ。僕はただ・・・嫌なことが何1つなく、君がいつまでも笑っていてほしいだけなんだ」
「・・・っ」
「こんな状況でこんなことを言うのは変かもしれないけど・・・あえて言わせてもらうね」
灰原はにっこりと笑い、彼女に伝えたい一言を告げる。
「君の笑顔を見せてくれないかい?」
灰原の言葉を聞いて、
「・・・やっぱり灰原はバカだ。そんなつまんないことのために・・・」
「そんなつまんないことだけで、僕は元気をもらえるんだ」
屈託のない笑みを浮かべる灰原に
「・・・ありがとう、灰原・・・助けに来てくれて」
「・・・一件落着・・・かな?」
「そういうことは帰ってからにしてほしいのですが」
「・・・よかったな・・・」
灰原と
「うぬぅ・・・小僧・・・嫁の友達だったんかい・・・。どおりで強いわけじゃ」
そこへ瓦礫に埋もれたウェネグが顔だけを出して口を開く。彼の言葉に灰原は怪訝な顔をする。
「・・・嫁?」
「えっと・・・なんか知らないけど告白されて・・・」
「なんだって!!?そんなの許さないぞ僕は!!」
事情を聞いた灰原は痛みに構わずすっと立ち上がる。
「だいたいおじさんと結婚したら
「そこですか」
「あのー、灰原君だったか?
灰原の発言が気に入らないのか
「・・・許さんはこっちの台詞じゃけぇ・・・!」
だが灰原以上に怒っているのはウェネグの方だ。彼にではなく、プトラに侵入してきた全員に対してだ。
「我ら墓守は墓に手を出してきたモンは殺す。じゃがそれ以外はひっそり暮らしておったのに・・・。貴様ら呪術師が墓に眠る財宝欲しさに乗り込んで来よって・・・!」
ウェネグの発言に灰原は反発の声を上げる。
「何言ってんだ!そっちだって一般人を殺してるじゃないか!」
「非術師には手出しは許さん。その縛りを知らんお前らは皆そう言うんじゃ。我らはただ、荒されただけじゃけぇ」
「でたらめだよそんなの!」
ウェネグの言葉に真っ向から否定したのは
「騙されちゃダメだよ!お父さんが言ってたよ!『敵の言葉に耳を貸すな』って!お父さんが嘘をつくはずない!悪いのはこいつらだよ!」
「ですがその話が本当ならば、話がだいぶ変わってきます。縛りが関わっているのならばなおさらです」
「七海君~~!」
上層部から聞かされた話では報復として侵入者の家族、ひいては非術師も殺しているというものだ。だが縛りが関わってるとなれば話が全く違ってくる。どちらが正しいのか頭を悩ませる七海。すると戻ってきた
「イカの奴も同じこと言ってた。先に荒してきたのはこっちだって。口裏合わせでもしてんのかね」
だいたいの話は聞いてはいたようだが、
「誰がお前らの言葉を信用するかよ。あたしらひどい目に遭ってんだぞ」
「・・・まぁ・・・調べてみればええ。お前らの上層部の嘘がすぐにわかる。・・・万が一生き残ることができれば・・・の」
『!!』
「まだここにはぎょうさん墓守がおるけぇ。数で叩き潰してくれるわ。間もなく押し寄せてくるぞ」
例え自分がやられても部下の墓守が100人以上いる。自分たちの勝利に揺るぎがないと考え、ウェネグは不敵な笑みを浮かべている。
「長っ・・・」
話している間にも、数名の墓守がこの広間に集まってきた。
「来たかお前ら・・・こいつらを・・・」
ドサッ!
だが辿り着いた墓守たちはすぐに倒れてしまう。彼らをよく見てみれば、至る所に深手を負っている。
「敵の増援が強すぎる・・・我々は・・・」
深手の墓守はありのままの事実を伝える。
「・・・壊・・・滅・・・」
「・・・なん・・・じゃと・・・」
墓守が壊滅した。知らされた情報にウェネグは驚愕で目を見開いた。
●
一方その頃、ピラミッドの上階。このフロアは異様な光景が満ちている。辺りの空間温度は異常に下がっており、通路の至る所に巨大な氷がある。その氷の中には、何人もの墓守がいた。
「なかなか面白い戦いだったぞ」
そんな氷にまみれた空間の中でただ1人、畏怖堂々の立ち振る舞いで腕を組んでいる女性がいる。胸元には何かの紋様が刻まれ、それを見せた白い軍服のような衣装を着た、水色の長髪を持った女性だ。
「任務から乗り継いで単身急行した甲斐があったというもの」
アイヌ呪術連所属、特級呪術師 エスデス
ガランッ・・・ガランッ・・・
「残るはワシだけか・・・現役は引退したんじゃがのう」
そこへ、数多くの髑髏を首にかけた老人の墓守がエスデスの前に現れる。墓守は己の姿を熊に半獣化する。
「戦う以上は、五体を引き裂くぞ、女」
「今度は熊か。子供の頃よく獲ったものだ」
「ワシは接近戦では不敗よ。挑んでみるか?」
「面白い・・・乗ってやる」
「後悔するがいい!!」
墓守はバッと駆けだし、両腕に呪力を纏って接近戦を仕掛けようとする。
ガキッ!
「ぐばっ⁉」
だが接近戦を仕掛ける前にエスデスは一瞬にして懐に入り、墓守の顔を蹴り上げる。そして、体を反らす墓守の身体にエスデスはとんっと手を乗せる。
「私の前では全てが凍る」
氷凝呪法
ビキビキビキビキビキ!!
「ぐっ・・・おおおおおおおお⁉」
エスデスが術式を発動させた瞬間、墓守は一瞬にして氷に飲まれていく。
「どうした?接近戦では不敗なのだろう?あっさりすぎるぞ」
「こ・・・こんな氷・・・中から砕いてやるわ・・・!」
墓守は氷を砕こうと全身を力ませるが、氷は砕けるどころか逆に覆い尽くさんと氷結が進んでいく。
「・・・無駄な足搔きのようだな」
どうあがいても墓守が脱出できないと悟ったエスデスは彼の興味が完全に薄れていく。
「氷凝呪法・・・素晴らしい力だ。血筋には感謝だな」
「お・・・おのれぇええええ・・・!!我らが何をしたというのだ!!」
恨みが込められた墓守の問いかけにエスデスは呆気からんと答える。
「弱者のくせに部不相応な呪物を持っていた。それだけだ。弱さを自覚して、さっさと明け渡せばよかったものを」
(我らが・・・弱・・・い?そんなバカ・・・な・・・)
墓守は氷に完全に飲み込まれ、完全に身動きが取れなくなってしまった。
「・・・最後に残っていた敵としてはあっさりだったな」
エスデスは目線を他の墓守に移す。その墓守は顔以外は氷漬けにされており、指1つ動かせない。
「おい、もっと強い奴はいないのか?」
「ひっ⁉お・・・長がいますが・・・あ・・・あなたほど強くはないかと・・・」
ガッシャアアアアン!!
あまりの恐ろしさから墓守は正直に答えたが、エスデスは蹴りを放って墓守ごと氷を粉々に砕いた。
「心が脆いとつまらんな。すぐ屈服してしまう。やはり敵には、五条悟のようなふてぶてしさがなければな」
そう言ってエスデスは高専時代での出来事を思い出す。
彼女は興味本位でまだ幼い悟を見に行ったことがある。彼にバレないように、気配を完全に消した状態でだ。にもかかわらず、悟は彼女の存在を認識して一目見たのだ。青い瞳でハッキリと。相手を射抜くほどの強烈な視線。後にも先にも、彼女が身震いしたのは、あれが最初で最後だった。以降彼女は、悟と本気の殺し合いができる日を、戦いで勝利し、彼を屈服する日を、毎日夢見ている。
その当時を思い浮かべたエスデスはふっと笑みを浮かべる。
「戦場に戻るとするか。部下共においしいところを取られてしまう」
用は済んだと言わんばかりにエスデスはこの場から去り、呪術連より言い渡された本来の任務に戻るのであった。
●
場は再び広間。
「墓守が壊滅じゃと・・・我らが・・・負けたんか・・・」
墓守が壊滅してしまったとの知らせにウェネグはかなりのショックを受けて、のしかかる脱力感が一気に増していく。死期が近づいてきた証拠だ。
(・・・一気に意識が・・・遠のいてきよった・・・)
「さらに増援が来ていたんだね!」
「これで帰れるな」
「・・・バカ・・・めが・・・。生きて帰れるわけが・・・なか・・・ろう・・・。宝もやらんぞ・・・。我が・・・長が死ねば・・・この陵墓・・・は・・・」
ウェネグは何かを告げようとしていたが、最後まで言葉が続かず静かに息を引き取った。そして、その瞬間・・・
ズゥゥゥン!!!ゴゴゴゴゴゴゴ!!グラグラグラ・・・!
「なんだっ⁉」
「建物自体が・・・揺れてる⁉」
ピラミッド全体に地震のような揺れが起き始め、建物の崩壊が始まっていく。そう、このピラミッドは長であるウェネグが死んでしまえば、崩壊するようになっていたのだ。たとえ自分たちが死のうとも、墓守たちは是が非でも侵入者を生きて帰すつもりがないようだ。
●
同時刻の別フロア。ピラミッドの崩壊が進んでいく中、ナハシュは手負いのポニィを背負い、出口に向かって急ぎ走っている。
「これは大将がやられたことによる自爆か・・・。
走っているナハシュの頭上に巨大な瓦礫が落ちてくる。それを察したナハシュは素早く跳躍して躱し、直撃を避けた。
「一刻も早く脱出するぞ。他の雑魚もさすがにそう判断するだろう」
「・・・ねぇ、チーフ・・・これは足手纏いのあたしを置いていく流れじゃあ・・・」
「黙れ。お前ごとき背負っても俺の動きはいっさい変わらん」
ポニィはさりげなく自分を置いていくように提案するがナハシュは口にこそ出さないが断固として彼女を見捨てようとはしなかった。
「・・・ありがとう」
ナハシュの不器用な心遣いにポニィは笑みを浮かべている。
「・・・って、あたし今回チーフにお礼言ってばっかり!」
「今回だけじゃない。前からずっとそうだ。感謝しているなら次から成果で返せよ」
「・・・うん!」
話をしつつ脱出を急いでいると、前方からすでに半獣化した墓守が立ちはだかる。
「逃げさんぞ!!墓守の名にかけて、貴様らを道連れにしてやる!!」
彼らは墓守の名に恥じぬように、死なば諸共でナハシュたちを道連れにする覚悟でいるようだ。
「そのまま掴まっていろ。突破する」
ナハシュはポニィを背負ったまま水龍の剣を抜き、跳躍する。跳躍したナハシュはカニの墓守を踏み台にし、その後ろにいるクラゲの墓守に迫る。
「何っ⁉」
「どう見てもカニで防いでクラゲで刺す布陣だろう」
「くっ!」
自分たちの戦術をあっさり見抜かれたクラゲの墓守はすぐに触手を伸ばしてナハシュに攻撃を仕掛けるが・・・
ザンッ!!
水龍の剣で触手を斬り降ろされ、さらに追撃の斬撃によってクラゲの墓守は倒される。
「貴様ぁ!!」
仲間がやられて憤慨するカニの墓守はハサミを飛ばして攻撃する。しかしナハシュは軽い身のこなしでハサミを躱し、カニの繋目を狙ってカニの墓守を斬り刻んだ。
「なまじ固いとこうして刻むしかなくなる。自分の防御力を恨め」
2人の墓守を倒し、急ぎ先へ進もうとするが・・・
「全てを壊した侵入者め!」
「せめて貴様らだけは冥府へ!」
他の墓守がやってきて、連戦を余儀なくされる。
(墓守め、ここに集まって来たか。上等だ。その分他の雑魚が脱出しやすい)
「チーフ!あたしも少しは動ける!」
「お前はバッタにやられてボロボロだろうが。いいから掴まってろ」
本調子のナハシュならば目の前の墓守を相手にするなど造作もないだろうが、今はポニィを抱えているうえにピラミッドの崩壊が進んでいる。あまり時間をかけてはいられない。
(連続使用は避けたいが、死んでは元の子もない。また水龍の剣を使う!)
ナハシュは水龍化の選択肢を迷うことなく選び、剣の柄にある牙を自分の腕に突き刺す。これによってナハシュは髪が伸びて半水龍と化する。だがこの時彼は気づいていない。剣の柄にある目玉がギョロリと睨んだことを。
「他に道はない。血路を開く」
そう言ってナハシュは立ちはだかる墓守を蹴散らそうと前に進んでいく。
●
一方その頃の広間。崩壊が始まったことでグリーンたちも急ぎこの場を脱出しようと動き出す。
「早く脱出しよう!」
「言われなくてもそうします!」
「みんな急いで!」
「さあ、灰原も早く!」
「灰原!!」
「おい!!何やってんだボンクラ!!」
ここで灰原はこの状況下で非情にまずいことを喋り出す。
「動きたいのは山々なんだけど・・・どうしようみんな・・・体が全然動かないんだ・・・!」
『!!??』
どうやらウェネグとの戦いで負った怪我が仇となり、灰原は身動き1つ取れないらしい。脱出を急がねばならない状況の中で、灰原は大ピンチを迎えていた。すると1番近くにいた
「
「うるさい!黙ってて!」
「でも・・・」
「動けないんでしょ⁉ならこうするしかないでしょ⁉」
「・・・ごめん」
「急いで!時間がない!」
一同は階段を駆け上がり、急いで出口へと向かう。遅れながらも
「!!灰原!!
「危ない!!」
それを見た
「七海!
「大丈夫ですか?」
「崩れてるんだから、上に注意しないと」
「あ、ありがとう。ごめん、七海、
ハプニングはあったものの、一同は問題なく先へと続く通路を通っていく。通った通路の先には、数多くの分かれ道があった。
「分かれ道か・・・」
「敵が来ないのが救いですが、時間をかけていられない」
「どの道に行けばいいんだ?」
「それが・・・頭に叩き込んだ地形と少し違くて・・・」
ボコッ!ドオオオン!ドオオオン!
「うわっ!!」
立ち止まっていると崩壊した瓦礫が落ちてきて先ほど来た通路が閉ざされた。それだけじゃない。先に進もうとした通路が次々と瓦礫で閉ざされていく。
「ああっ!道が!!」
「閉じ込められちゃった!」
「くそっ!ここまで来たってのに!」
「みんな!諦めないで!何か・・・何か手があるはずだ・・・!」
引き返す道も先に進む道も閉ざされ、もはや万事休すな状況。それでも一同は諦めずに知恵を振り絞って窮地を脱する方法を考える。すると・・・
ドオオオオンッ!
『!!』
このフロアに何か巨大な何かが壁を壊して侵入してきた。その巨大な何かとは、二足歩行の竜型呪霊だった。
「!呪霊!!」
「こんな時に!」
呪霊の出現でグリーンたちは呪具を構える。だがその呪霊に見覚えがあった七海はすぐに声を上げる。
「ストップ!皆さん攻撃はしないでください!」
「!何を言って・・・」
「!そうか・・・」
七海の声に
「助けて・・・くれてるのか・・・?」
「でも呪霊がなんで・・・」
「呪霊操術・・・夏油さんが来てくれたんだ!!」
自分が憧れている先輩、傑が自分たちを助けるために来てくれた。その事実に灰原は嬉々とした表情を浮かべている。
●
別フロア。立ちはだかる墓守を難なく蹴散らし、先へと急ぐナハシュはポニィを背負い、水龍の剣を維持したまま先へと進んでいく。
「時間をとられたが、そろそろ外に出られるはずだ」
「これであたしたち、ギリギリ助かるね」
怪我のせいで思うように動けない状況の中、ポニィは心配事を口にする。
「怪我、完璧に治るといいな・・・。みんなの足手まといになりたくない・・・」
「治るまで俺がお前の分まで働いてやる。雑魚のフォローなど簡単なことだ」
「・・・チーフ・・・!」
何から何まで自分のことを気遣ってくれるナハシュにポニィは涙が溢れそうになる。すると、ナハシュは目の前にある問題を前にして立ち止まる。その問題とは・・・出口に通じる通路が壊れて崖ができてしまい、先へ進めなくなってしまっているのだ。
「そ・・・そんな・・・ここまで来て・・・」
引き返して他の道へ進もうにも、来た道は瓦礫が落ちてきて塞がってしまい、行ける道がどこにもない八方塞がりの状態になってしまう。ナハシュは考え、ある決断をする。
「・・・覚悟を決めろ。ここを跳ぶ」
戻る道がない以上、勧める道はそれ以外にない。だが跳ぶにしても、出口までの距離は遠い。いくら水龍の剣を使っていても、届くかどうか怪しい。
「い、いくら水龍の剣が効いてるからってあそこまで跳べるの⁉」
「それしか手はない」
「・・・チーフ1人ならもしかしたらいけるんじゃ・・・」
「次同じこと言ったら殴るぞ」
何回もくどいことを言い続けるポニィにナハシュは彼女を制して、後ろに下がる。
「・・・行くぞ」
ナハシュは大きく助走をつけて出口へと続く道に目掛けて跳んだ。飛距離な中々に長いく、出口まであと一歩だ。
ガクッ・・・
「ちっ・・・!」
(届かない・・・っ)
だが一歩手前だというのに届かず、2人は奈落の底へ落ちようとしていた。その時・・・
ガシッ!ブンッ!
「・・・えっ?」
ナハシュはポニィの腕を掴みとり、彼女を出口に向かって放り投げた。
「なんで・・・⁉」
この行動によってポニィは何とか出口に通じる通路に辿り着いたが、ナハシュはただ1人、奈落の底へと真っ直ぐ落ちていく。その時の彼の顔に後悔はなく・・・ただ笑みを浮かべるだけだった。
「ナハシューーーーーーーーー!!!!」
ただ1人だけ落ちていく姿を見て、ポニィは涙を流して叫んだ。
底へ底へと落ちていくナハシュはポニィの姿を一目見た後、覚悟を決めたように目を閉じる。
ギョロ!ギョロギョロギョロ!
すると彼が持っていた水龍の剣の柄の目が途端にギョロギョロと動き出し、ナハシュの姿をじっと捉える。そして・・・
●
ドオオオオン!!
灰原たちを抱えて掘り進んでいた呪霊、土竜は地下遺跡から脱出し、地上に姿を現した。地上ではもうすっかり朝を迎えていた様子で、太陽の光が一同を祝福しているように輝く。
『出れたーーー!!』
生きてプトラから脱出できたことで一同は喜びの声を上げる。
「
そんな喜ぶ一同に駆けつけてきたのは、ボロボロの制服を着込んだ
「お姉ちゃん!!」
「
「事情は聞いた。大丈夫だったか?」
「私は大丈夫。灰原と七海、みんなが来てくれたから」
「そうか・・・無事でよかった・・・!」
妹の無事に帰ってきたことに安堵し、
「
「
「ちょ・・・みんな待ってよー!僕動けないんだってばー!」
「無事だったのですね」
「心配をかけたね。すまなかった」
傑は全ての事情を知っている七海に謝罪の言葉を述べた。
「ガキ共が無事で何よりだが・・・ナハシュと
「
「!!」
すると
「・・・五条君・・・だよね・・・?いったい、何が・・・」
ナハシュとポニィが無事なのはよかったが、それ以上に悟の身に纏う異様な雰囲気に気が向いてしまっており、全員気圧されそうな気分になる。
(こいつらが請け負ったのは確か星漿体護衛任務だったな・・・。そこで何があった・・・?五条の奴・・・明らかに普通じゃねぇ・・・!)
「この2人、さっさと硝子に見せた方がいいよ。特に
「あ、ああ・・・」
悟の言葉に
「後の調査は俺らがやる。お前らは先帰っていいよ」
一同全員は悟の言葉に従い、この場から去るように動く。少しでも悟の威圧感から逃れたいかのように。
(五条君・・・どうしたのかな・・・?なんだかいつもより・・・怖い・・・)
悟の纏う雰囲気に
「・・・夏油。君、大丈夫かい?」
「・・・何がだい?」
「いや・・・気のせいならごめん。君の顔が・・・なんかやつれてるような気がして・・・」
グリーンの問いかけに対し、傑はよそよそしい愛想笑いを浮かべる。
「はは・・・ただの寝不足さ。任務を終えてすぐだからね。大丈夫、これが終わったらちゃんと休むさ」
「・・・ならいいけど」
グリーンは傑の様子を気にしつつ、この場を去っていった。だんだんと離れている彼らの姿を見て、傑は任務での出来事を思い出す。
『パチパチパチパチパチパチ!』
盤星教本部で見た非術師の醜悪さ。グリーンたちが彼らとは違うということくらいはわかっている。だが、どれだけ頑張って気を紛らわせようとしても・・・脳裏に浮かんでくる。そして・・・背中が見えなくなった頃に、傑は呟く。
「・・・猿共が」
こうして、プトラでの戦いは幕を閉じたのであった。
●
記録 2006年 10月
広島県■■市
任務概要
プトラの地に納められた呪物の回収
・担当者(高専福岡分校2年 北条
・後日、東京校に任務を引き継ぎ、高専1年3名が派遣。
・夕暮れ、七海健人からの要請により、六道
・翌日の早朝、墓守の長の死亡により、プトラは崩壊。墓守によって飼い慣らされた呪霊が騒動に乗じて逃亡。呪霊の祓除は禪院
・崩壊に巻き込まれた六道ナハシュは正体不明の呪いにより意識不明。これらの呪いは近年全国に報告されている被呪者と酷似している。
・その後の調査によってプトラの最深部にて、六道
・同様に最深部の奥地で墓守が守ってきた財宝が発見された。その中に目的とされていた特級呪物、両面宿儺(厳重に封印されている)と、同じく特級呪物、
・上記の他に目新しい呪物の存在は確認されていない。
以上のことを踏まえ、プトラの調査を終了とする。