呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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今宵は祭りだ。

さあ・・・始めよう


血肉に塗れる狂乱の戦を




陸章『渋谷事変』
宵祭り


2018年10月19日

 

雨という優れない天候のとある駐車場。そこで車を止め、その場で待機しているのは京都校の教師、歌姫とチェルシーだ。彼女たちの脳裏に浮かび上がるのは交流会の際に悟たちから持ち掛けられた高専内通者の話だ。

 

『ありえない!!呪詛師ならまだしも、呪霊と!!?』

 

『そういうレベルの奴が近年現れるようになったんだ。人語を介し、徒党を組み、計画的に動いている。本人的には呪詛師とだけ通じてるかもしれないが』

 

『そういうこと。京都側の調査を、歌姫とチェルシーに頼みたい』

 

高専内部に呪詛師、あるいは呪霊と通じてるかもしれない。その話に2人は最初はそんなバカなと思っていたが、呪霊と呪詛師による高専襲撃の件もある。起こってしまった以上、ただの笑い話ではないことを重々理解している。しかし、その内通者の正体を考えると、少し憂鬱になる。しばらく待っていると、こちらに近いてくる複数の足跡が聞こえてきた。

 

「あ・・・おーい、こっちだよー」

 

2人の元にやってきたのは悠仁、(たつみ)、恵、野薔薇の1年生コンビであった。待ち人である彼らが来たことで、2人はさっそく本題に入る。

 

「悟君から内通者の話は聞いてるよね?」

 

「「「「はい」」」」

 

「多分呪詛師と通じてるのは2人以上だと私たちは予想してるんだよ。1人は学長以上の上層部。こっちは私たちじゃどうしようもない」

 

「でももう1人、その上層部に情報を流してる奴がいる。それが今回のターゲット。まだ容疑の段階だから、捕縛後尋問します」

 

歌姫の言い方からして、彼女たちは上層部に情報を流している内通者の正体はもうわかっているとも見て取れる。だからこそ(たつみ)は2人に質問する。

 

「それで、京都の誰なんだ?」

 

「おおっ?」

 

「俺たち東京側に頼むってことはそういうことだろ?」

 

(たつみ)すげぇな!」

 

内通者が京都側の誰かであるとわかった(たつみ)に悠仁は驚いている。尤も、理解していないのは悠仁だけで恵も野薔薇も理解している。

 

「・・・内通者は・・・」

 

歌姫は表情を暗くして、京都に潜んでいる内通者の名を口にした。

 

 

京都校の教室の一室。そこのソファに1人・・・いや1機の傀儡が静かに座っている。

 

「メカ丸~?」

 

そこへ三輪が扉からひょっこりと現れた。

 

「あ、いたいた。ノートの提出今日までですよ?」

 

三輪が傀儡、究極(アルティメット)メカ丸に声をかけるが、彼はピクリとも動かず、声も発しない。

 

「メカ丸?」

 

[・・・すまん、三輪。少し寝ル。ノートは机から勝手に取ってくレ]

 

「寝るって・・・まだ夕方ですよ?」

 

メカ丸は首をうなだれと、再び動かなくなる。おそらく本当に睡眠・・・もといスリープモードに入ったのだろう。

 

「もう~」

 

三輪は本当に寝たのか確認のため、メカ丸の額をツンっとつつく。

 

(・・・本当に寝た。メカ丸本人って、どこにいるんだろう?)

 

三輪はメカ丸を操っている術師本体が気になっているようで、疑問符を浮かべているのだった。

 

 

同時刻、どこかの施設。歌姫とチェルシー、東京1年ズの4人は内通者であるメカ丸本体の術師の元に向かっている最中である。

 

「この地下にメカ丸本体・・・『与幸吉』がいます」

 

「先に言っておくけど、あの子が怪しいんじゃないの。他の誰も怪しくない。消去法でメカ丸なの」

 

容疑の段階とはいえ、2人はメカ丸の本体、与幸吉が内通者であることは確信している。その根拠たる理由もある。

 

「メカ丸の術式は傀儡操術。傀儡の捜査範囲は日本全土に及ぶ。登録してない傀儡があれば内通者としての仕事はいくらでもこなせるからね」

 

「そう?あの人結構目立つと思うけど」

 

「あの見た目ならね。でも傀儡がハエや蚊のようなサイズだとしたらどうかな?」

 

「そっか。そういうのもありか」

 

悠仁の疑問に答えつつも廊下を歩いていくと、2人は扉の前に立ち止まる。目的の部屋に着いたのだ。

 

「ここよ」

 

「準備はいい?開けるよ」

 

チェルシーが扉を開け、全員が中に入る。だが、扉を開けた先には何もなく、1人の気配が全く感じられないもぬけの殻の状態だ。

 

「・・・え~っと・・・」

 

「ここであってるよな・・・?」

 

「・・・やられたわね・・・」

 

「もうすでに逃げた後・・・てところかな・・・」

 

どうやら与は調査に入ることをあらかじめに予想し、施設から離れたしまったようだ。

 

「でも逆に・・・」

 

「これでメカ丸確定かしら」

 

わかっていたこととはいえ、内通者の正体が自分たちの生徒であったことに対し、2人は何とも言えぬ物悲し気な表情を浮かべた。

 

 

一方、どこかの別の施設の一室。そこには医療薬品の風呂に浸かり、医療器具に繋がれた包帯で身も顔も包んだ痛々しい姿の男がいた。

 

その男こそが高専内部に潜み、情報を流した内通者、究極(アルティメット)メカ丸の本体、与幸吉である。

 

「・・・来たか」

 

与はこの部屋に誰かが入ってきたことに気付き、目を開いてその相手と目を合わせる。

 

「遅かったな。忘れられたかと思ったぞ」

 

「そんなヘマをするものか。呪縛の恐ろしさは貴様が身をもって知っているだろう?」

 

その相手とは特級呪術師の1人、エスデスであった。彼女の後には協力関係にある傑と真人もいた。

 

「相変わらずかび臭くてやんなるね。もう敵なんだからちゃっちゃと殺しちゃおうよ」

 

3人からすれば与はもうすでに敵として認識しているため真人が手早く殺すことを勧める。だがすぐに殺すことはできない。それには理由がある。

 

「真人、まだ殺すなよ。私たちに協力し、情報を提供するその対価として真人の無為転変で身体を治す。そういう縛りをこいつと結んでいるからな。殺すのは治した後だ」

 

そう、彼らは与と縛りを結んでおり、彼から課した縛りを果たさなければいけない状況にあるため、それを無視して彼を殺すということは、縛りを破るということに他ならない。

 

「私としては、彼にも渋谷で働いてほしかったんだけど・・・仕方ないね」

 

「『京都校の人間には手を出さない』・・・先に縛りを破ったのは貴様らの方だろう」

 

どうやら与は傑たちに情報を送るのとは他に、京都校の人間には手を出さないようにするための縛りも課していたようで、それが縛りの続行が決裂となってしまったようだ。

 

「やったのは花御だも~ん。八つ当たりはやめてほしいなぁ~」

 

真人は全ての責任は花御にあると主張しつつ与を煽るようなしぐさを取る。

 

「呪霊と議論する気はない。さっさと治せ、ゲス」

 

与の暴言に触発された真人は視線をぎょろりと彼に向ける。

 

「・・・勢いあまって芋虫にしちゃいそう」

 

故意的に与を殺しかねない発言をする真人に傑が他者間との縛りの説明をして咎める。

 

「真人。他者間との縛りは自らが自らに科す縛りとはわけが違う。その違いにペナルティの不確定さがある。自分の中の縛りは破ったところで得た物、向上した能力などを失うだけだが・・・今回はダメだ。縛りを破った時、私たちにいつ、どんな災いが降りかかるかわからない」

 

「はぁ・・・はいは~い。・・・感謝してよね、ゲス以下」

 

説明を聞いた真人は面倒と思いながらも、一応は縛りには従い、彼の頭に手で触れる。

 

「無為転変」

 

真人が無為転変を発動すると、与の魂の形が変わり、身体が変化する。包帯が外れ、天与呪縛によって皮膚や欠損していた彼の肉体は魂が変わるのと連動するかのように治っていき、矯正された元の顔が露になる。彼は治った自身の手足、そして掌や足の感覚が戻ったことを確認し、内心驚きを隠せないでいる。17年、天与呪縛に失われた肉体がこうして戻ったのだから無理はない。だが、今は喜べるような状況でないことはわかっている。彼の身体が治ったということは、課された縛りが果たされた。となればその後は彼がどんな目に遭おうと、咎める者は誰もいない。

 

「かわいくないなぁ。もっとはしゃげよ」

 

「それは事が済んだ後だろう」

 

「・・・それもそうだね」

 

もう邪魔する障害は存在しない。自由に暴れていいと判断した真人は呪力を練り上げ、戦闘態勢に入る。

 

「じゃあ、始めようか!」

 

構えをとる真人に対し、与は自身の術式、傀儡操術で数多のメカ丸を作り上げ、迎え撃とうとする。

 

「手を貸してやろうか?」

 

「やめて。俺のおもちゃだよ」

 

エスデスは加勢を提案しようとするが、真人はこれを拒んだ。尤も、彼女は手を貸すという気持ちは微塵も持ち合わせていなかったが。

 

まず先手を取ろうとするのは与のメカ丸たち。何体かのメカ丸は真人に襲い掛かるが、真人は拳や蹴りを放ち、さらに自身の手をメイスに変えて殴りつけて次々と破壊していく。まだまだ数があるメカ丸が真人に迫ろうとした時、破壊しきれていない1機のメカ丸が真人の足を掴み上げる。しかし、真人は足を振るってメカ丸を放り投げ、迫るメカ丸の群れを倒していく。さらに真人は自身の腕を巨大化させて、倒しきれなかったメカ丸を薙ぎ払って全て破壊する。

 

「あ」

 

全てのメカ丸を薙ぎ払って前方を確認して見ると、標的である与はどこにもいなかった。

 

「逃げたか。まぁ、あいつは俺たち殺す必要もないしね。つまんなっ。今は狩りじゃなくて勝負がしたいんだよね・・・」

 

ドオオオオオン!!!!

 

真人がだるそうな反応を示すと同時に、足元に強い衝撃が入り、彼は強い水飛沫と共に施設の外に放り出される。外に出た真人は楽しそうに笑いながら地に着地し、湖に視線を向ける。すると、湖の中より、巨大な何かが出現する。

 

「あっは!いいんじゃない!」

 

現れた巨大な何かの正体は、通常のメカ丸よりもさらに巨大で機械装甲を身に纏ったような傀儡であった。これこそはかつて10数年前に猛威を振るった呪詛師、同じ傀儡操術の使い手、マリー・ユビキタスが作った最強傀儡、マクスウェル・エルダーのデータを基にして造り上げた傀儡だ。その名も・・・

 

究極(アルティメット)メカ丸絶対形態装甲傀儡(モード・アブソリュート)究極(アルティメット)メカ丸試作0号

 

「こんなものコソコソ作ってるとはね!引きこもりも伊達じゃないってわけだ!」

 

メカ丸試作0号の登場に真人は興奮しつつも、試作0号に与が乗り込んでいると冷静に分析する。

 

(中にいるだろ?俺に触れられたくないもんな。操縦席・・・魂の座は・・・頭部!)

 

魂を見ることができる真人の思ったとおり、与は試作0号の頭部のコックピットの中に乗り込んでいた。彼が周囲を見回すと、施設周辺に帳が降ろされていくのが確認できた。

 

「ちっ・・・帳が降りてる・・・夏油かエスデスだな。俺を閉じ込めるだけでない。電波も断たれている。五条悟のようにはいかないな」

 

この状況下は与の方が圧倒的に不利だが、勝算がないわけではない。

 

(そう、俺の勝利条件は五条悟と禪院赤女(あかめ)だ。どちらでもいい。どんな手段でも構わない。あの2人と連絡を取り、渋谷の計画を伝える。そして保護してもらう。だが夏油とエスデス・・・どちらが帳を降ろしたかわからない。加えて、帳とそれを降ろした奴らに集中するには、真人は危険すぎる。まずはこいつを祓う)

 

傑やエスデスをどうにかする前に真人を祓わなければ何も始まらないと判断し、先に彼の相手をすると決める。崖をちらりと見てみると、そこには静かに諦観しているエスデスの姿があった。

 

「私のことは気にせず、存分に()りあえ」

 

「くっ・・・」

 

余裕を見せているエスデスに与は歯ぎしりを立てている。

 

(依然劣勢・・・だが、勝算はある。全て見てきた)

 

試作0号のモニターには17年間、小さな傀儡を通して見てきた他の術師の戦闘の数々・・・そして天与呪縛によって縛り続けた年月が表示されている。

 

(俺を縛った年月・・・それで得た呪力・・・出し惜しみはしない)

 

生きて必ず帰ると決意する与の脳裏に浮かび上がるのは、メカ丸を通して仲良くなった三輪の笑顔だ。

 

「チャージ1年!!焼き払え、メカ丸!!大祓砲(ウルトラキャノン)!!!!」

 

ドオオオオオオオオン!!!!

 

試作0号が右手を翳すと掌の砲台が輝き、元来のメカ丸と同じように、大祓砲(ウルトラキャノン)を撃ち放つ。その威力は1年分の呪力を使っただけあり、強大なものだ。硝煙が立ち込める爆風の中より足を獣の形に変えた真人が飛び出てきた。怪我を負っているようだが、魂の形を変えられる真人にとっては無傷にも等しい。

 

「俺の呪力が尽きるまで焼き続ける気か?イッヒ!まずはそこから!引きずりだしてやる!!」

 

走り出す真人に試作0号は拳を叩きつける。真人はこれを避けるが、この攻撃では例え当たったとしてもノーダメージだろう。

 

(メカ丸の攻撃では奴の魂まで傷つけられない!奴も今ので確信したはずだ!)

 

与はそれでも構わず試作0号を操作して攻撃を続ける。繰り出される連撃に真人は躱し続け、塀を飛び出して湖に向かって落ちていく。試作0号は塀を破壊して真人を掴まえようとするが、その前に真人は魂の形を魚に変えて湖の中へと入っていく。

 

「チャージ2年!!二重大祓砲(ミラクルキャノン)!!!!」

 

ズドオオオオオオオオン!!!!

 

試作0号は両手を翳し、二重の大祓砲(ウルトラキャノン)を湖の中にいる真人目がけて撃ち放った。だがその際に打ちあがった水飛沫の中より、元の形に戻った真人が現れ、腕を巨大化させて攻撃を仕掛けようとする。だがそれは想定範囲内だ。

 

(お前は攻めの姿勢を崩さない。俺の攻撃など意に介していない。そこに、これをぶち込む!!)

 

与の手には何かカプセルのようなものが握られている。外からそれが見えない真人は試作0号に拳を叩きつける。大したダメージはなかったが、仰け反るには十分なほどの力は有していた。

 

「なんてパワーだ!グダグダしてると装甲を破られるな!」

 

長期決戦は命取りであると判断した与は持っていたカプセルを試作0号に装填し、狙いを腕を鳥の翼に変えて飛んでいる真人に定める。

 

「チャンスは5回・・・一気に片をつける!」

 

真人に狙いを向けた試作0号の指先が開き、銃口が露になる。標準もバッチリと真人に固定する。

 

「撃て!!メカ丸!!」

 

ドンッ!!

 

試作0号の指先の銃口に装填されたカプセルは弾丸のように撃ち放たれ、真人の左肩に直撃し、しっかりとめり込んだ。

 

「意味ないって。何見てきたの?」

 

余裕を見せている真人だったが・・・

 

メリメリメリ・・・ゴシャア!!

 

めり込んだカプセルはさらに食い込んでいき、真人の左腕ごと木端微塵に粉砕した。

 

「・・・あれ・・・?」

 

いつもとは違った感覚に真人は疑問符を浮かべているが、直後に試作0号が蹴りを放ってきたことで彼は吹っ飛ばされる。

 

(・・・どういうことだ・・・?魂ごと破壊された・・・?)

 

魂を操れる真人にダメージを与える手段は、魂の輪郭を叩く以外に方法はない。しかし先ほど試作0号が撃ち放ったものは完全に真人の魂にダメージを与えられるほどのものであった。原理を理解していない真人は困惑している。その隙を突くように試作0号は高く跳躍し、真人に飛び蹴りを放つ。だが真人はギリギリで魂の形の半分を鴉に変えて飛び立って躱した。

 

「ちぃ!また鳥か!芸のない!!」

 

真人に毒づく与はモニターで抉れた真人の腕が治っている姿を確認できた。

 

(飛ばして左腕が再生している・・・いや・・・魂の形をこねくり回して再生したかのように見せかけているだけだ。これ見よがしにしているのがいい証拠!大丈夫・・・俺のこの手は・・・)

 

真人の腕は形を無理やり作っているだけでダメージはちゃんと与えられていると確信した与は試作0号を動かし、真人を追いかける。

 

「・・・効いている。一時的だが、特級クラスの呪力出力・・・真人対策もしっかりしてきている。奴め、なかなかやるな」

 

戦いの一部始終を見ているエスデスは楽しそうにほくそ笑んでいる。

 

「奴のことだ。場合によっては今この場で・・・なんてこともあり得る。それはそれで・・・悪くない」

 

エスデスは傑の思想とは別に、自らの思惑があるようでどっちに転ぼうと関係ないようだが、先の未来を想像し、口元はニヤリと歪んだ笑みを浮かべている。

 

「チャージ5年!!追尾弾(ヴィジョン)五重奏(ヴィオラ)!!」

 

試作0号が排熱すると同時に赤い呪力弾が放たれ、それが追尾弾となって飛んでいる真人を追撃する。真人は森の中に急降下し、猫やウサギ、ネズミ、ゴリラなど姿を変えたり、腕を数本生やして高く跳躍しながら追尾弾を回避するが、追尾弾は追撃をやめない。

 

「ちぃ・・・!」

 

真人は追尾弾を躱しつつ試作0号に迫り、それが放った拳を躱しつつ腕に乗る。試作0号は腕に乗った真人を振り払うが、真人はそれが狙いだったようで、腕の形を大剣に変える。

 

(どの攻撃が魂に作用するのか・・・まずはそこをはっきりさせないとな!)

 

真人が大剣の腕を振るうことで、試作0号についていたワイヤーが真っ二つに切り裂かれ、試作0号はバランスを崩れる。これによって追尾弾の操作が乱れ、すぐ後ろの塀に直撃し、追撃が途切れた。だが試作0号は拳を握りしめ、宙に浮く真人に叩き込ませて吹き飛ばした。

 

(いける・・・!勝てる・・・!会うんだ・・・みんなに・・・!!)

 

生きて必ず、京都校の仲間たちと会う。その思いを高鳴らせ、もう1度カプセルを装填し、魂を抉る一撃を真人に与えようとする与。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

魂を抉る一撃が真人に迫ろうとしていたが・・・

 

 

領域展開―――自閉円頓裹

 

 

真人は口に小さな手を作り上げ、印を結んで領域展開、自閉円頓裹を繰り出した。一帯の空間は変化し、数多くの人の手を繋ぎ合わせた格子が試作0号を・・・与を閉じ込める。

 

「はい、おしまい」

 

自閉円頓裹に閉じ込められた試作0号は一撃を与えられることなくあえなく地に落ち、左腕が壊れてしまう。

 

「無為転変」

 

真人が無為転変を発動したことで、試作0号の目の光は完全に消え去った。

 

「直接触れなくたって、領域に入れちゃえば関係ない。それはお前もわかっていたことだろう?ハロウィンまで後10日。俺が呪力をケチって領域まで使わないと思ったか?10日もあれば全快するよ。作戦に夢と希望を詰め込むなよ。気の毒すぎて表情に困るんだよね」

 

戦闘が終わったと思い、与に興味をなくした真人は試作0号に背中を向けた。だが真人は完全油断している。試作0号は、動きを止めただけであって、中にいる与がどうなったかまでは確認していない。

 

与が使用したあのカプセルには、あの呪術が封じられている。彼ではこのようなやり方でしか術を成立することができなかった。

 

それは平安時代、呪術全盛期の時代に凶悪な呪詛師や呪霊から門弟を守るために蘆屋貞綱によって考案されたものだ。一門相伝。その技術を故意に門外へ伝えることは縛りで禁じられている。それは領域から身を守るための・・・

 

弱者の領域!!

 

ズンッ!!!

 

「・・・はあ?」

 

機能を停止したと思われていた試作0号は再び動き出し、不意を突く形で真人の胴体にある呪術が込められたカプセルを叩き込ませた。ある呪術のおかげもあって、試作0号の中にいる与は、無為転変の影響を受けておらず、五体満足に身体を動かせていた。領域の中で呪術を無効化させた呪術。その名も・・・

 

「シン・陰流―――簡易領域!」

 

シン・陰流簡易領域は元来、門下生の者にしか故意に呪術を教えることは許されない呪術。それを与カプセルに封じ込めるという方法で習得できたのは、その門下生である三輪の技を、シン・陰流の技を盗み見して習得した赤女(あかめ)の技を、傀儡を通して全て見てきたからだ。

 

(全て・・・見てきた!)

 

シン・陰流簡易領域のカプセルを叩き込まれた真人は体が膨張して破裂し、血を噴き出して倒れる。真人が倒れたことにより、領域が維持できなくなり、辺りが元の空間に戻る。

 

「簡易領域・・・領域はあらゆる術式を中和する。領域内では禪院赤女(あかめ)の一殺呪毒も無効化できるし、五条悟にですら攻撃が当たる。簡易とはいえ、内側から領域を発生させられたら、真人でも術式関係なくダメージを負う」

 

呪霊とは言ってみれば呪力の塊。それを直に体内に領域を発動されてしまえばひとたまりもない。だから真人の魂にも直接ダメージを与えることが可能なのだ。

 

「高みの見物もここまでだな、エスデス!!」

 

真人の相手を終えた試作0号は未だ諦観の姿勢を崩さないエスデスに狙いを定める。

 

(嬉しい誤算だ。簡易領域2本、呪力9年分を残して、エスデスと闘れる!)

 

試作0号は残った右腕を翳し、彼女に向けて大祓砲(ウルトラキャノン)を放とうとする。片腕は失っても、呪力9年分もある試作0号の力は衰えていない。さらには領域対策のカプセルもまだ2本ある。

 

(勝てる・・・!みんなに・・・会える!!)

 

試作0号は一撃で倒せるように、呪力を込めて大祓砲(ウルトラキャノン)をエスデスに撃ち放とうとする。ところが、不可思議なことが起きた。撃ち放とうとしたタイミングで突然前ぶれもなく彼女が消え、狙いを固めていた標準がロストする。

 

(何!!?消えた!!?)

 

レーダーで確認して見ると、試作0号の右肩には先ほどまでいたはずのエスデスが呑気に座り込んでいた。

 

(なっ!!?いつの間にメカ丸の右肩に・・・⁉)

 

「お前みたいな奴は屈服し甲斐がありそうだが・・・惜しいな。手を下すと真人がうるさい」

 

ドガアアア!!!

 

「がっ・・・!!!」

 

与が驚愕していると、突然試作0号の頭部がドリルに貫かれ、彼自身にもダメージを負った。試作0号の頭部を破壊したのは、もはや人の原型をとどまってない身体をした真人であった。

 

「仕留め損なった・・・⁉来い、メカ丸---!!!」

 

ドリルが目の前まで迫ろうとした時、通常のメカ丸が現れ、ドリルを払いのけて彼を守った。

 

(領域はまだ2本残っている!!出し惜しまず、直にぶち込む!!)

 

領域を残そうなどという甘い考えは捨て、与は完全に真人を祓うつもりでカプセルを2本ぶち込もうと意気込む。

 

「行くぞ、メカ丸!!」

 

「アハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

真人は狂った笑い声をあげながら胴体から無数の手を放った。メカ丸は前進し、与を守ろうと数えきれないほどの手を蹴散らしていく。さらに口元に砲台を展開し、真人に向けて撃ち放ったが、彼はこの程度では倒れない。

 

「イッヒ!」

 

真人はさらに手を増やし、迫りくるメカ丸を粉々砕いた。メカ丸が壊れたと同時に与は真人の懐に入り、2本の領域カプセルを打ち込もうとする。

 

 

「うおあああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

領域のカプセルと真人の手が、同時に交差する。

 

 

ねぇ、メカ丸。今度お見舞いに行っていい?

 

交流会、野球した後からみんなとの距離がぐっと縮まった気がするの。呪術師って職業柄なのかな?それまでお互い仲良しでも、どこか一線引いてた。仲良くなりすぎると、いなくなった時つらいもんね。

 

でも私は、今のみんなとの関係が好き。ほら、メカ丸は野球参加できなかったでしょ?ピッチングマシンが代理だったんだよ?

 

私は、メカ丸とももっと仲良くなりたい。だから・・・

 

いつか会いに行くからね!

 

 

あの戦闘の結果は、一歩及ばず与が敗れた。それ即ち、彼の命は絶たれてしまったのだ。戦闘が終わった後、エスデスと真人は帳のテストをしている傑の元へ向かう。

 

「あの状況から、よく危機を脱したものだな」

 

「術が発動するタイミングで自ら弾けた。後は領域を解けば死んだと思うだろ?全て計算。危ないことなんてないさ」

 

術を受けて簡易領域を学んだ真人は自ら危機を脱する術を編み出したために、どう転んだとしても自分の価値は揺るがないと主張している。

 

「あれも簡易領域か。本番前にいいもん見れたんじゃない?」

 

「ふっそうだな」

 

一通り歩くと、傑が何か小さな釘のようなものを外す姿が見えてきた。

 

「やあ、お疲れ。どうだった?彼は」

 

「弱者のことなどいい。それより、嘱託式の帳の方はどうだ?」

 

死んだことで弱者と見なし、完全に与に興味をなくしたエスデスは帳のテスト結果を尋ねる。

 

「ああ。この調整ならば十分機能できる。これならば呪力や言霊ごと他者に任せて問題ない」

 

全ての準備は整った。狂気の祭りの始まりは、もう間もなくだ。

 

 

 

 

呪術廻戦ー呪いを斬るー

 

陸章

渋谷事変

 

 

 

 

2018年10月31日19時ちょうど。東急百貨店東洋店を中心に半径400メートルの帳が降ろされる。

 

 

2018年10月31日19時に、渋谷の街に大規模な事件が発生した。ハロウィンで賑わっていたところに帳が降ろされ、渋谷にいた人間が外に出ることができなくなってしまった。それだけにとどまらない。渋谷駅前にいた一般人が帳の影響によって吸い込まれ、閉じ込められるという事態が発生した。事態を重く見た上層部は事件収束のため、5名の1級術師がそれぞれ各チームを編成して渋谷に派遣させた。その1級術師の1人である七海のチームは伊地知からの現状報告を聞く。

 

「一般人のみが閉じ込められる帳です。一般人は侵入のみ、窓には個人差が。術師は補助監督役含め、出入りが可能です」

 

「電波は?」

 

「断たれています。連絡は帳を出て行うか、我々補助監督の足を使ってください」

 

「随分と、面倒なことになっていますね」

 

都心メトロ渋谷駅 13番出口側(帳外)

 

七海班

 

七海健人(1級術師)

シェーレ(2級術師)(昇級査定中)

猪野拓真(2級術師)(昇級査定中)

伏黒恵(2級術師)(昇級査定中)

 

「伏黒、伏黒」

 

七海のチームに編成されている猪野は唯一の後輩である恵に先輩風を吹かせようと帳の補足について説明する。

 

「帳・・・結界の効力の差し引きに使える条件っていうのはな、基本呪力にまつわるものだけなんだ。ざっくり言うと、人間、呪霊、呪物だな。だから電波妨害とかは帳が降りたことによる副次的効果であって、帳の結界術式そのものには電波の要否は組み込めないんだぜ」

 

「あ、はい。知ってます」

 

しかし不発に終わってしまう。

 

「猪野君、恵は優秀な子です。気持ちはわかりますけど、先輩風を吹かせすぎないようにしてくださいね」

 

「どういう意味っすかシェーレさん!!??」

 

「・・・・・・」

 

非常事態だというのに緊張感がないシェーレと猪野に七海は少し呆れている。

 

「それで?五条さんと赤女(あかめ)さんは?」

 

 

同刻、別のエリア。別の1級術師のチームに編成されている野薔薇たちも明を通して状況報告を聞いている。

 

「人がいない?駅前のスクランブル交差点に?ハロウィンの渋谷よ?」

 

「そこで何かがあったみたいっス。みんな散り散りに帳のヘリまで逃げて、こう訴えています。『五条悟と禪院赤女(あかめ)を連れてこい』と」

 

「一般人が五条と赤女(あかめ)のことを知ってるはずがねぇ」

 

「ふっ・・・言わされておるな」

 

レオーネの言葉に同意しているのは、直角髭を生やした古風な着物を着込んだ老人、禪院家の現当主、禪院直毘人である。

 

渋谷マークシティ レストランアベニュー入り口(帳外)

 

禪院班

 

禪院直毘人(特別1級術師)

レオーネ(準1級術師)(昇級査定保留中)

禪院真希(4級術師)(昇級査定中)

釘崎野薔薇(3級術師)(昇級査定中)

 

「帳は壊せんのか?」

 

「難航してるっス。何せ帳自体は術師を両側から拒絶していない。力技でどうこうできそうにない。帳を降ろしてる呪詛師を探してとっちめた方が早そうっス」

 

「じゃあ私らはその手伝いだな?」

 

「いいえ!皆さんはまだここで待機っス!」

 

「ん?」

 

派遣されたにも関わらず待機を命じられて真希は怪訝な顔をしている。

 

 

同刻、別のエリア。同じく派遣されたブラートのチームにいる(たつみ)は納得がいかないかのようにブラートに突っかかる。

 

「待機ってどういうことだよ!!?非常事態なんだろ!!?呑気に待ってる場合じゃねぇだろ!!」

 

「落ち着け(たつみ)。熱くなる場面じゃねぇだろ」

 

熱くなる(たつみ)を落ち着かせたところで、なぜ待機しなければならない理由をブラートが説明をする。

 

「高度な結界術に五条と赤女(あかめ)を指名したことを照らし合わせると、犯人は交流会を襲撃した連中と同一犯であるのは間違いねぇ。上は被害を最小限に抑えるために五条と赤女(あかめ)の2人で渋谷平定を決定したってわけだ」

 

金王八幡宮(帳外)

 

ブラート班

 

ブラート(1級術師)

和倉(たつみ)(4級術師)(昇級査定中)

 

「派遣されたチームは俺の他に七海に冥冥・・・それから禪院家の爺さん、後は日下部だな。全員帳の外で待機、2人が逃したこぼれ球を拾えっていうのが上の指示だ。帳に入っちまうと連絡がつかねぇからな」

 

「命令の内容はわかった。けど、1個納得できねぇ点がある」

 

「お前の想像通りだぜ。そういうのはどうでもいいって思ってんだよ、上の連中は」

 

上層部の考え方を軽蔑しているブラートは、訝し気な表情を浮かべている。

 

 

同刻、別エリア。現場の帳の外で待機しているパンダは共に行動する1級術師に苦言を呈している。

 

「被害を最小限って術師の被害のことだよな?一般人の被害はお構いなしか?」

 

「そう突っかかんなよ。去年の百鬼夜行と違って、もう事が起きちまってる。俺もこれが最善だと思う」

 

パンダの苦言に対しひらひらと窘めているのは飴を口に含んでいる中年男性、高専東京校2年の教師、日下部篤也だ。

 

「それにさっき帳の外を見てきたが平和なもんだったぜ?一般人がパニクっちゃいたが、呪霊や呪詛師が殺しまわってるわけでもない。現状閉じ込められてるだけだ」

 

JL渋谷駅新南口(帳外)

 

日下部班

 

日下部篤也(1級術師)

パンダ(準2級術師)(昇級査定保留中)

 

「ただ俺はもう中に入んのは正直御免だね」

 

「なんでだ?」

 

帳の中に入りたがらない日下部はだるそうにしながらその理由を話す。

 

「あれはヒカリエかな?おそらく地下に特級呪霊がごろごろいる」

 

 

同刻、文化村通り道玄坂2丁目東(帳内)、ハロウィンということもあって仮装している人たちが多く集まり、普段より人の集まりが多かったし、賑わいもあって活気があった。そんな時に帳・・・一般人からすれば見えない壁に阻まれ、外に出ることができないときたものだから次第に焦りが生じ始めている者が現れる。

 

「どうなってんだ!!」

 

「なんで出られないの?」

 

「早く五条悟と禪院赤女(あかめ)を連れてこい!!」

 

「五条と禪院って誰だよ?」

 

「知らねぇよ!!でもそいつらが来ねぇと出られねぇって言われたんだよ!!」

 

「誰に?」

 

「知らねぇよ、みんなだよ!!」

 

外に出ることができず、揉めあっている者が現れるほどに彼らは焦っている。

 

「こういう時クールじゃない男ってどうよ?」

 

「まぁ、通れないのはホラーではあるけど、そこまで困ってないよね。そのうち助け来るでしょ」

 

「あっ、でも圏外・・・」

 

個人差はあるものの、中にはそこまで焦っておらず非常に楽観的な考えている者も少なからずいる。

 

「お前ら、見てなかったのか?吸い込まれたんだよ・・・うじゃうじゃいた人間が駅ん中に!!栓を抜いた風呂の水みてぇによぉ!!じゃなきゃ俺らだって電車で帰るっつーの!!考えりゃわかるだろ、低学歴がよぉ!!!」

 

「はあ!!?じゃあ学歴でそこ通れるようにしろや!!!」

 

揉めあいがヒートアップして殴り合いに発展しそうになってもおかしくない混乱状態だ。

 

トプッ・・・

 

そこで、帳の外から2人の男女が侵入してしてきた。

 

「おわっ!いってぇ・・・」

 

口論していた男は帳の中に入ってきた男とぶつかり、その場でよろけて倒れてしまう。

 

「・・・あっ、ごめん」

 

「もたもたするな。行くぞ」

 

「わーかってるてー」

 

20時31分  五条悟、及び禪院赤女(あかめ)、到着。

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