呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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渋谷事変

20時38分 渋谷ヒカリエ・B3F

 

駅の中は張られた帳によって吸い込まれた一般人が敷き詰められた異様な光景が広がっていた。何が起こったのかわからず、一般人はみんなざわめいている。そんな中で現場に到着した悟と赤女(あかめ)は高所の足場に立ち、異様な光景を見下ろしている。

 

「・・・こりゃひどい」

 

「この下を中心に、外と同じ一般非術師を閉じ込める帳が降りてるな。急ごう」

 

「待った」

 

赤女(あかめ)は事態解決のためにさっそく先へ進もうとした時、いつになく真剣な声質で彼女を止める。

 

「どうした?」

 

「なんとなく、敵の狙いが見えてきた。赤女(あかめ)、お前は来た道を引き返して上で待機してろ」

 

上からの命令は2人でこの事態を平定しろというものだ。それを何を思ったのか悟は1人で解決すると言い出した。わけがわからず赤女(あかめ)は怪訝な顔をする。

 

「今さら何を言っている?」

 

「いいから」

 

「上は2人で向かえと言ったはずだが?」

 

「『俺』1人でやる。問題ない」

 

普段おちゃらけた態度とは全く違った声質。さらには鳴りを潜めていた本来の一人称。珍しく真剣なもの言いをする悟に赤女(あかめ)は怪訝から一変して真剣な顔になる。

 

「・・・この下に何があるかわからないぞ?」

 

「だからこそだ。万が一俺の身に何かあったら、キーマンになるのはお前だ。そん時はみんなのことを任せる」

 

万が一。悟とは長い付き合いだが、そんなセリフをはいたことなどこれまでで1度だってなかったために、赤女(あかめ)は驚きつつも、固唾を飲んでいる。

 

「お前・・・」

 

「頼んだぞ、赤女(あかめ)。俺はお前を1番信頼してる」

 

1番信頼されて、頼りにしている。そんなことを言われては、もうどうこう言えなくなってしまう。赤女(あかめ)はずるいなと思いながらも、呆れたように口を開く。

 

「・・・万が一なんて、そんなこと考えてもいないだろう」

 

「・・・まぁね!僕、最強だし!万が一なんて起きないさ!」

 

いつも通りのおちゃらけた言動をする悟。だがいつものようにふざけてはいない。珍しくも真剣だ。

 

「・・・悟」

 

「んー?」

 

「無事でいろよ」

 

赤女(あかめ)は悟に一言を残して高台に飛び移りながら来た道を引き返す。

 

「大丈夫、何とかなるさ」

 

悟は笑みを浮かべながら不穏な空気が漂う駅のさらに地下に向かって進んでいくのであった。

 

 

20時39分

 

「五条先生と赤女(あかめ)先生2人だけにやらせるぅ!!?」

 

上層部からの指示の内容を聞いた悠仁は驚くように声を荒げた。

 

「虎杖うっさい!ちょっとは落ち着きなさい!」

 

「いやだって!理屈はわかるっすよ?俺たちにもできることあるでしょ!バックアップとか!」

 

「だーかーらー!今からそれをするために渋谷に行くんでしょ!」

 

「あ?そうなの?」

 

悠仁と一緒のチームになったマインは怒鳴りながら彼を落ち着かせる。説明を聞いて納得した悠仁は冷静になる。そんな中、小学生くらいの子供が墓石にシーツを敷く。そこにこのチームの班長である1級術師、冥冥が腰かける。

 

「姉様にバックアップさせるなんて・・・五条悟に禪院赤女(あかめ)、贅沢な2人ですね」

 

冥冥が悟たちのバックアップさせるということに憂いている小学生の名前は憂憂。冥冥の弟である。

 

「あの2人をその辺の男女と同レベルで考えてはいけないよ」

 

「姉様だって!その辺の女とは違います!」

 

「あぁ、憂憂・・・お前は本当に愛い奴♡」

 

「また思ってもないことを・・・姉様が愛でているのは家族ではなく、家族という雇用関係でしょう?」

 

「フフッ、よくわかってるじゃないか。そういうところも、好きだよ♡」

 

「まっ・・・♡」

 

姉が弟を愛おしそうに抱きしめ、弟が歓喜の声を上げる。そんな光景を傍目で見せつけられている悠仁とマインは呆れ顔になっている。ちなみに冥冥の言うその辺の男女とは悠仁とマインを指していたりする。

 

「・・・先輩・・・」

 

「この2人、イカれてるのよ・・・いろんな意味で・・・」

 

青山霊園

 

冥冥班

 

冥冥(1級術師)

憂憂

三好マイン(準2級術師)(昇級査定中)

虎杖悠仁(3級術師)(昇級査定中)

 

ピピピピピッ・・・

 

2人が呆れてるところに冥冥の携帯が鳴り、彼女は通話に出る。

 

「はい、冥冥。・・・へぇ~・・・」

 

補助監督との連絡を終えた冥冥は未だ呆れ顔の2人に顔を向ける。

 

「虎杖君、マインちゃん。行き先変更だ」

 

「えっ?」

 

「明治神宮前駅に渋谷と同様の帳が降りた。私たちはそちらに向かう。走るよ、ついておいで」

 

「上等!」

 

「押忍!」

 

冥冥班は新たな帳が降ろされた明治神宮前駅に向かった。その先で待っているのは、天国か、地獄か・・・

 

 

20時40分 都心メトロ渋谷駅B5F新都心線ホーム

 

1人でさらに地下へと降りていく悟は電車の線路上に降り立つ。

 

「・・・くく、準備バッチリってわけだ」

 

「そっちが来たか」

 

そこで待っていたのは事を引き起こした一味、特級呪霊の漏瑚と花御、呪胎九相図の1番、脹相。そして、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の2番、ツクヨミであった。

 

「これで負けたら言い訳できないよ~?」

 

「貴様こそ初めての言い訳を考えてきたか?」

 

赤女(あかめ)に負けたくせして何言っちゃってんのー。彼女に慈悲かけられたこと、忘れてない?」

 

「その減らず口がいつまで持つか、見物だな」

 

共に煽り合い、両者の間に一触即発の空気が流れている。

 

 

20時51分 都心メトロ明治神宮前駅2番出口側

 

第2の帳が降ろされた都心メトロ明治神宮前駅まで辿り着いた冥冥班は駅のチケット売り場で補助監督からの状況報告を聞く。

 

「地下鉄の駅全体を覆う一般人を閉じ込める帳。その内側、地下5階のホームを中心に『術師を入れない帳』が降りています。2つの帳の間にこれらの帳を降ろしている呪霊か呪詛師がいます」

 

「間?中心のホームじゃなくて?」

 

「おそらくですが、自分も外に出るデメリットを抱えて結界強度を上げてるのだと思います。既に2名の補助監督がやられています。それから・・・帳の間に・・・その・・・まだ断言はできないのですが・・・」

 

補助監督は何か言いにくいことでもあるのか、かなり言い淀んでいて歯切れが悪い。

 

「構わないよ。言ってごらん」

 

冥冥の催促もあり、補助監督は帳の間にいる存在について報告する。

 

「・・・帳の間に・・・改造された人間がいます」

 

「!」

 

「改造人間って・・・あんたとシェーレが言ってた・・・」

 

改造人間がいる。それ即ち、真人がこの駅にいる可能性があるということ。報告を聞いた悠仁は目を見開き、表情を強張らせた。

 

 

補助監督からの報告を聞いた後、まずは術師を入れない帳をどうにかするために冥冥班は駅の奥に入っていく。ところが地下へと向かう階段に辿り着いた矢先に、冥冥は3人にストップをかける。彼女が何をしているのかわかっていない悠仁はもどかしい気持ちになる。

 

「何してんの?急がねぇと・・・」

 

「しっ!姉様は今、鴉たちと視覚を共有しています」

 

「黒鳥操術ね・・・確か、視覚共有は疲れるとかどうとか」

 

「その通りです。集中力のいる作業です。静粛に」

 

どうやら冥冥は自身の術式、黒鳥操術で鴉を操り、視覚共有で地下の様子を探っている最中のようだ。なので不用意に話す悠仁に憂憂が咎めているわけだ。

 

「別にいいよ、しゃべっても」

 

「いいって」

 

「もう!姉様ったら!」

 

ただ彼女にとってはその気づかいは不要のようだ。

 

「・・・うん・・・大体わかった」

 

しばらく待っていると、冥冥はある程度中の様子を理解し、悠仁に1つの質問を取る。

 

「虎杖君、弱い改造人間をたくさん殺すのと、強い呪霊1体祓うの、どっちがいい?」

 

「あっ・・・」

 

後者の方はともかく前者の方の改造人間を殺さなくてはいけないという事実を突きつけられた悠仁は言い淀んでいる。もう助かる見込みはないにしても、元は人間だ。できることならもう二度としたくないことだ。

 

「あたしなら前者でも構わないけど、こいつの場合、後者を選ぶでしょうね。1人で突っ走って潰れても迷惑だから、あたしがサポートするわ」

 

「ふむ・・・」

 

悠仁の考えを汲み取ったマインの発言に冥冥はスマホを操作して、この駅のマップを2人に見せる。

 

「これ、ここの駅地下ね。改造人間がうろついて一般人を襲ってるのが地下4階。一般人はほとんど地下5階のホームにいると思う」

 

「思う?」

 

「私が遣った鴉は呪力を帯びているからね。地下5階には入れなかった。地下に逃げるしかない一般人を追いやって出来上がった状況ってとこかな。そして私の鴉が狩られたのが地下1階と地下2階の間。ここに帳を降ろしてる呪霊か呪詛師がいる。再び上がってきた一般人を狩るつもりなのか。帳の条件の問題か。位置取りの理由も、そもそも地下5階の隔離の目的も不明だが」

 

「・・・いるんだな?このすぐ下に、あいつが」

 

「どうかな?ツギハギ顔を確認する前に鴉がやられてしまったからね。だが改造人間がいるということはそういうことなんだろう」

 

冥冥はこの階のマップを出して悠仁とマインに指示を出す。

 

「戦力を分けるのはどうかと思ったが、ぐずぐずしていては地下4階の一般人が全滅する。私たちは地下4階直通の7番出口から下りて、一般人を救出する。ヤバくなったら君たちも地下4階まで下りておいで。だが欲を言えば、君たちが私たちと合流する頃には、帳が上がり、一般人は解放され、地下5階での相手方の目的を判明していてほしい」

 

「大丈夫だよ、冥さん。俺はもう・・・負けないから」

 

かくして、冥冥と憂憂は7番出口の階段へ、悠仁とマインは地下2階に続く階段へと向かうのであった。

 

 

21時3分 都心メトロ明治神宮前駅B2F

 

地下2階までやってきた悠仁とマイン。そこで待ち構えていた存在に対し、悠仁は目を見開き、マインは目を細めてその存在を睨みつける。その存在とは、見るからにバッタのような呪霊で、バッタの呪霊は一般人を頭から喰らっていた。

 

「おン?何見てんだヨ?」

 

バッタの呪霊は2人の存在に気がつき、人の言葉を話した。頭を食われて絶命した一般人を見た悠仁はバッタ呪霊を睨みつける。

 

「オッ・・・オマエラ・・・ジュジュチュ・・・じゅじゅちゅ・・・じゅっ、じゅっ、呪術師だろ。呪術師だろ?ナァ?俺は、賢いンダ」

 

バッタ呪霊は話す言葉はかなりカタゴトながらも、自分の賢さをアピールしている。

 

「ツギハギ顔の呪霊が来てるだろ。どこにいる?」

 

「つぎ・・・はぎ・・・?ツギハギ・・・?」

 

バッタ呪霊はツギハギの意味が理解できていないようで疑問符を浮かべている。そんなバッタ呪霊に探りを入れるようにマインがツギハギについて説明する。

 

「顔や腕とかに縫い目のある奴のことよ」

 

「ぐっ・・・バカにスルな!それぐらい知っテる!俺は、賢い!」

 

バッタ呪霊はマインの指摘に憤慨する。

 

(こいつバカではあるけど、コミュニケーションが取れてる・・・。つまり知性はある。なるほど、確かに強い呪霊ではあるわね)

 

呪霊とは元来しゃべることができない、あるいは片言のような言葉を口にする程度の個体ばかりなのでコミュニケーションを取ることは不可能。だがこのバッタ呪霊は人の言葉を理解できて、カタコトながらもしゃべれている。そういった個体は相応の呪力を秘めているため、バッタ呪霊は強い個体であるとマインは理解した。

 

「真人は下。俺はここで帳ヲ守ってるンだ」

 

(真人・・・順平もそう呼んでたような・・・。いや今は名前なんてどうでもいい)

 

悠仁は真人の名前について後回しにして、悟の結界術についての言葉を思い出す。

 

『結界術は難しいからね~。強くてもできない奴は結構いるよ~?僕は両方できるけどね』

 

(こいつが帳を?2枚も?なんだかな・・・)

 

(虎杖)

 

バッタ呪霊が帳を降ろしたと考えるには納得がいっていない悠仁にマインは耳打ちして、バッタ呪霊の後にあるものを指さした。そこには札が貼られた小さな釘が突き刺さっていた。

 

(あいつ帳を守ってるって言ってたわよね?だとしたらあれが1番怪しい。こいつ片付けてぶっ壊すわよ)

 

(了解)

 

バッタ呪霊を祓って釘を壊す方針に悠仁は首を縦に頷き了承する。

 

「真人のじゅじゅちゅはヨくない。知ってるカ?形を変えラレタ人間は味が落ちるんだ。俺は賢いから!違いガ分かル!!」

 

バンッ!!

 

「おグゥ!!?」

 

バッタ呪霊が話している間にマインはライフルガンで貫通弾を撃ち放った。不意を突かれたためにバッタ呪霊の胴体に貫通弾を直撃。

 

「うおおおお!!」

 

「どわぁっ!!?」

 

直後悠仁がバッタ呪霊を殴り飛ばし、壁を破壊する。

 

「お前らは・・・どいつもこいつも・・・」

 

「人様を舐めんのも、大概にしなさいよ、化け物が」

 

ダメージを負うバッタ呪霊だが、マインが強い呪霊と考えるだけあって、この程度では祓われず、立ち上がる。

 

「うぅ・・・さ、さてはオッ、オマエラ!賢くないナ⁉俺がなんの呪いカ、わかってないダロ!知っテいるか?コノ世界ハ・・・賢くないヤツから死ヌんダ」

 

ダメージを負ってもなおバッタ呪霊は自身の知性をアピールしつつ、悠仁とマインに敵意を向ける。

 

「は?あんたバッタの呪いでしょ?それもトノサマバッタの」

 

「うん。見たまんまじゃん」

 

しかしバッタ呪霊は自身がバッタの呪いであると言い当てられて非常に驚愕している。

 

(コイツラ・・・賢いゾ!!)

 

バッタの呪いであると言い当てられた悠仁とマインは頭がいいと認識し、バッタ呪霊は強い警戒心を露にした。

 

蝗害。バッタの大発生に伴う大規模な災害。農作物だけでなく紙や着物、小屋、植物性のものは全て食い尽くされる。バッタの成虫は1日で自分の体重と同じだけの量を食べ、総量1トンのバッタの群れは1日で2500人分の食料を消費する。異様な咀嚼音は昼夜問わず響き渡り、群れの去った後の荒れ果てた大地とそれを覆うバッタが分泌した黒い粘液は平穏とは程遠い光景を描く。人々はその悪魔のような昆虫を恐れ、憎み、呪った。それを象徴したバッタ呪霊の名を・・・蝗GUYという。

 

「がうっ!がうっ!がうっ!!」

 

蝗GUYは顔を伸ばして悠仁に嚙みついてくる。悠仁は蝗GUYの動きを冷静に見切り、的確に躱していく。

 

(すっげぇバネと顎・・・言葉がわかるってことはそれなりのレベルの呪いだよな)

 

蝗GUYの噛みつきは近くにあった照明を簡単に嚙み砕けるほどの力があり、悠仁は蝗GUYという呪いの強さを冷静に分析する。

 

「うらっ!!」

 

素早く動き、悠仁の側面に回り込んだ蝗GUYは拳を放つ。悠仁は体を柔軟に動かし、華麗に避ける。そこへ後方にいるマインがライフルガンの銃口を蝗GUYに向ける。それに気がついた蝗GUYは羽を広げ、マインに迫る。マインは弾丸を数発放つが、蝗GUYは1つ1つを的確に避け、マインに蹴りを放つ。

 

「ちぃ!」

 

マインはスライディングで悠仁が開けた壁の穴の中に入り、蹴りを躱した。蝗GUYはマインを追いかけるかのように飛び蹴りを放って壁を壊す。追いかける蝗GUYの攻撃を躱しつつ、マインは弾丸を撃ち放って壁を破壊して、入り込む。蝗GUYはマインが壊した壁に飛び蹴りを放って彼女を攻撃する。マインは攻撃を躱し、蝗GUYから距離を取って悠仁の背後に回る。

 

(さっきから単細胞な攻撃ばっかり。この様子だと術式も小細工もなさそうね。・・・多分、準1級のポテンシャルを持った2級ってところかしら)

 

術式を使っている様子がないことからマインは蝗GUYに術式は持っていないと考え、2級程度の強さと予想をする。

 

「女、逃げテバッカリ。オマエ、ドッチダ?」

 

「何が?」

 

「賢いノカ、賢くないノカ。俺は・・・賢い!!」

 

「賢い奴はあまり自分のことを賢いって言わないものよ。あたしは天才だけど」

 

「そーなの!!??」

 

(あ、こういうところ、五条先生に似てる・・・)

 

賢いアピールをする蝗GUYにマインは主張しすぎると賢くないと指摘する。その指摘に蝗GUYはショックを受ける。そしてここぞとばかりに自分を立てるマインに悠仁は彼女は『やっぱり五条先生の親戚なんだな』と改めて思った。

 

賢い賢くないの主張は置いておいて、悠仁は蝗GUYのすぐ手前まで近づき、両拳に呪力を纏って打撃を叩き込もうとする。対し蝗GUYは迎え撃とうと4本の腕を活かして拳で応戦する。

 

「手数勝負だ。2本腕対4本腕」

 

悠仁は蝗GUYが放つ4つの拳を素早い動きで全ていなし、隙を見せたタイミングで拳を叩き込み、反撃を与える隙を与えずに連撃を繰り出していく。

 

(へぇ・・・)

 

マインは1人で蝗GUYを圧倒する悠仁の姿を見て、感心するような顔をしている。

 

(腕も顎モ目も、人間ヨリ俺の方が優れテいる・・・ナノになンで・・・なンで俺ダケ殴らレる・・・?)

 

たった1人の人間に自分がなんで負けているのか理解できない蝗GUYは悠仁の後にいるマインに目線を向け・・・

 

「・・・ペッ!!!」

 

黒い粘液を吐き飛ばした。そのタイミングで悠仁は動き出し、マインも黒い粘液を躱して悠仁の後に続く。

 

「デモやっパり、俺の方ガ賢い!」

 

蝗GUYは迫りくる悠仁に向けて腹部を伸ばし、先端の針で彼の顔を貫こうとする。バッタは地中に産卵する。そのため腹部は伸縮し、先端が固く通常時の3倍近く伸ばすことができる。蝗GUYがやっているのはそれと同じなのだ。

 

「俺の勝チ!」

 

蝗GUYが勝ちを確信した時、悠仁は伸びてきた蝗GUYの腹部を払いのけ、腹部を拳で叩き込み、貫いた。そこへマインが飛び蹴りを放ち、蝗GUYを蹴り倒した。

 

「ぐあっ!ごっ・・・!!?」

 

そして倒れた蝗GUYを馬乗りで身体を抑え、ライフルガンの銃口を蝗GUYの口にねじ込む。術式はなくとも小細工はあった。だがそれ以上に、小細工では埋まらない実力差が両者にはある。

 

「あんた・・・人様を食べたわけだし・・・()られる覚悟はできてるってことでいいのよね?」

 

「マっ・・・!」

 

ダダダダダダダ!!

 

命乞いをする隙を与えないようにマインは引き金を引き、何十発もの弾丸を蝗GUYを撃ち放った。喉元を抉られた蝗GUYは動かなくなり、ピクリとも動かなくなり、塵となって祓われていった。

 

「ふぅ・・・さ、あの釘ぶっ壊すわよ」

 

「うす!」

 

蝗GUYを祓った2人は元の場所に戻り、突き刺さっていた釘を真っ二つに叩き折った。これによって降ろされた帳が上がった気配をマインは感じ取った。

 

「帳が上がった・・・やっぱりこれが帳を降ろしてたってわけね。虎杖、冥さんたちと合流して地下5階に・・・」

 

マインは冥冥と合流を提案しようと提案しようとすると、悠仁が蝗GUYに食われた一般人の冥福を祈ってる姿を確認した。それを見たマインはしょうがないと言わんばかりに首をかき、彼女も犠牲になった一般人の冥福を祈り、手を合わせた。

 

 

21時14分 都心メトロ明治神宮前駅B5F新都心線ホーム

 

「・・・蝗GUYが()られたか。腕のいい術師が来てるね」

 

悠仁の予想通り、真人がここに来ており、蝗GUYが祓われたことを感じ取った真人はニヒルに笑っている。

 

「残念。俺も()りたかったなぁ・・・。でも仕方ないよね・・・仕事だもん」

 

真人は戦いたい、人を殺したいという衝動を抑えながらも、自分の仕事をこなすために、電車に乗り込むのであった。

 

 

21時15分都心メトロ明治神宮前駅B4F

 

地下4階まで下りて冥冥たちと合流した悠仁とマインは一般人がいるであろう地下5階まで走っている。

 

「・・・正直な話、あんたのこと、舐めてたわ。やるわね」

 

「何が?」

 

「ハッキリ言って、あいつにもう少し手こずると思ってたのよ。あんたたちが特級を祓ったって話、今なら納得がいく。あんた、もう十分に1級レベルよ」

 

「私もそう思うよ。素直じゃない彼女がここまで褒めるなんてそうないことだし。術式なしでここまでやるのは、牛頭鬼(ごずき)の子供たち以来じゃないかな」

 

「ツギハギじゃなかった。もしあいつが相手だったらこうはいかなかったよ」

 

マインと冥冥に高く評価されている悠仁は心から思っていることを口にする。

 

「姉様からの褒誉です素直に受け取りなさい!!」

 

「あざっす!!光栄です!!」

 

しかし直後表情を強張らせている憂憂に凄まれて手のひらを返すように褒誉を受け取った。

 

地下に続く階段を発見し、冥冥班は階段を下りて地下5階まで辿り着いた。しかし、そこにいたのは一般女性1人だけ。ほとんどもぬけの殻に近い状態であった。

 

「遅かったかな」

 

「おい!そこの人!大丈夫か?他の人たちは・・・」

 

「虎杖。こいつ・・・なんか変よ」

 

一般女性は悠仁の声にまったく反応せず、ただ呆然と座り込んでいるだけ。様子がおかしいと考え、マインは慎重になり、彼女の様子を伺う。

 

 

一方その頃、都心メトロ渋谷駅B5F新都心線ホーム。特級呪霊たちと対面する悟。

 

「・・・禪院赤女(あかめ)はどうした?」

 

「彼女の出る幕はないよ。僕だけで十分だもん」

 

「ふん・・・」

 

悟が漏瑚の問いかけに答えたその直後、花御は出入り口を樹木で覆い尽くし、彼を逃がさないようにする。元より逃げるつもりがない悟はため息をこぼす。

 

「はぁ・・・んなことしなくたって逃げないよ。僕が逃げたら、お前らここの人間全員殺すだろ?」

 

「・・・・・・」

 

「おっ?だから来てやったんですけど?」

 

特級呪霊を相手に、余裕のペースを崩さない悟。

 

「あの3人何しゃべってんだ?」

 

「いや5人だろ」

 

ホームドアの近くにいる一般人は悟と特級呪霊たちに対して怪訝な反応を示している。一般人には呪霊の姿は見えない。傍から見れば悟は電車の射線上で脹相とツクヨミに話しかけている変人にしか見えないので無理もない。ただ一般人の中には漏瑚たち呪霊の姿が見えている者もいる様子である。

 

「逃げたらか・・・回答は・・・」

 

不敵に笑う漏瑚が持っていた杖を掲げ、それを燃やすとホームドアが一斉に開いた。

 

「おわっ!!?やめろよ!!」

 

「うわー!!」

 

「ちょっ・・・なっ・・・!!」

 

「きゃああああああああああ!!」

 

「回答は!!逃げずともだ!!」

 

ホームドアの近くにいた一般人は急に開いたホームドアの支えがなくなり、車線上になだれ込んできた。

 

「下がって、死ぬよ」

 

悟はなだれ込んできた一般人に下がるように言い放つ。同時に、この仕組みの構造を理解した。

 

(あ~、さっきの出口塞いだのは向こう側に人間がいるかわからなくするためのブラインドみたいなもんか)

 

仕組みを理解したはいいが、この構造は悟にとっては鬱陶しいことこのうえないものである。これが狙いであった特級呪霊たちは行動に入る。

 

「しぇあああああああああ!!!」

 

漏瑚は近くにいた一般人を何人も炎で焼き殺しながら悟に迫る。

 

「きゃあああああああああああ!!!!」

 

いきなり人間がわけもわからず何人も燃え死んでいく光景を目撃した一般人は悲鳴を上げる。混乱が広がっていく中、花御は両拳に呪力を纏って悟に迫る。

 

「赤血操術―――『刈祓』」

 

脹相は顔の紋様から自身の血を出し、それをレーザーのように悟に放つ。迫ってきた血は悟にあたる直前に反射する。

 

「ウー」

 

「ニヒッ!暴れてもいいんだよね?」

 

「うん。行って」

 

ツクヨミはずっと抱きかかえていたウサギを悟に向けて投げ放つ。

 

「あん?」

 

ウサギの存在に気がつき、悟は振り向く。すると、ウサギのぬいぐるみの身体に変化が起きる。ぬいぐるみの身体はふさふさの毛に変わり、身体は大きく屈強なものへと変化し、両手両足に強靭な爪が生えていく。頭も大きく出っ張り、ボタンのような目も鋭くなり、鋭い牙も生えた凶暴な獣へと変貌した。

 

「八尺瓊勾玉―――『月陰ノ白兎』」

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

ツクヨミの術式、『八尺瓊勾玉』によって凶暴な獣となったウサギは鋭い爪を振るって悟に攻撃を仕掛ける。しかし悟は無下限を張っているため、ウサギの攻撃は寸前で止まる。そのタイミングで漏瑚と花御が悟の背後に回り込む。

 

「〘うおおおおおおおおおおおお!!!〙」

 

漏瑚と花御は同じタイミングで悟に呪力を纏った拳を叩き込もうとする。しかし結果は目の前のウサギと同じだ。当たる直前で拳は止まってしまう。

 

「ふっ」

 

無駄な足搔きと踏んで鼻で笑う悟。しかし止められることなど、想定範囲内だ。ゆえに、漏瑚と花御は1つの無下限対策を放つ。

 

「〘領域展延!!!〙」

 

「!!」

 

漏瑚と花御が術を発動させると、無下限で止められていた拳が無下限を少しずつ打ち破り、ゆっくりながらも拳が悟に迫る。無下限が破られている現状に悟は少し考え、瞬間移動でその場から消える。

 

ドオオオオオン!!!

 

漏瑚と花御の拳とウサギの爪が衝突しあい、強い衝撃が発生し、土埃が舞う。

 

「なるほど・・・というか、呪詛師と組んでんだからそうくるか」

 

瞬間移動した悟はレール外の上に立ち、漏瑚たちが用意した無下限対策について考える。

 

(領域展延・・・シン・陰流の簡易領域と同じだな。領域で自分を包む。必中効果は薄まるが、確実に術式を中和してくる。これなら僕にも攻撃は当たる)

 

領域展延。それはシン・陰流の簡易領域と似た原理で領域特有の必中効果は薄くなってしまう代わりにあらゆる術式を中和する。それは無下限呪術も例外ではない。だから無下限を張っていようがいまいが、攻撃を当てることができる。

 

「きゃー!!きゃー!!きゃー!!」

 

「おい!立つんだ!ほら、しっかりしろ!大丈夫だ!ほら、こっちに掴まって・・・」

 

目の前で繰り広げている戦闘の状況を把握することができない一般人はパニックで悲鳴を上げる者、それをなだめる者で分かれていた。その声が鬱陶しく感じたのか漏瑚はその人間の胸を手で刺し貫いて殺害し、悲鳴を上げていた人間ごとまとめて燃やし尽くした。

 

「逃げるなと言ったはずだぞ。こうでもせんとわからんか?」

 

領域展延は確かに悟の無下限対策にはなるが、そこには必ず落とし穴が存在している。それをよく理解している悟は口を開く。

 

「・・・いやぁ~・・・正直驚いたよ」

 

「なんだ?言い訳か?」

 

「違ぇよハゲ」

 

悟は自分のアイマスクをゆっくりと下ろし、蒼の瞳を露にさせる。

 

 

「この程度で僕に勝てると思ってる脳みそに驚いたって言ってんだよ」

 

 

圧倒的な威圧感。そして強烈なまでの殺意。それらを肌で感じ取った漏瑚は冷や汗をかいて大きなプレッシャーに覆われる。

 

 

都心メトロ渋谷駅B2F

 

悟から上で待機するように言われた赤女(あかめ)は2階まで到着した。しかし奇妙なことが起きている。地下1階から地下3階まで下りるまで一般人はぎゅうぎゅうに詰められた状態だった。それがどういうわけか地下2階はまるで何事もなかったかのように人が消えており、辺りを見回しても影1つ見えなかった。

 

「・・・おかしい。地下3階に下りるまで、一般人は満員状態だったはず。なぜ誰もいないんだ?」

 

帳が降りている以上、一般人は外に出ることができない。かと言って、地下1階に上がるにしても、地下3階に降りるにしても、それ相応の混雑になるのは避けられない。それなのに何の騒ぎもなく人が消えたのだ。ここで何かが起きたのは考えるまでもない。

 

(・・・何かいるな・・・)

 

この地下2階に何かがいる。そう直観する赤女(あかめ)は放っておけないとし、地下2階の調査を始める。辺りを見回しながら歩くが、異様なくらいに静かということ以外は何も変化はない。赤女(あかめ)は気を緩めずに先に進み、『鏡』を通り過ぎる。赤女(あかめ)が通った場所に場所には何もない。しかし、赤女(あかめ)が通り過ぎた後、鏡にはハッキリと写っている。何の前ぶれもなく現れ、赤女(あかめ)の様子を伺っている人影が。

 

パリイイイイン!!!

 

その気配を感じ取ったのか赤女(あかめ)すぐに引き返し、呪力を籠った拳で鏡を叩き割った。鏡を割った後、赤女(あかめ)はすぐに鏡の破片から離れる。

 

「鏡・・・もしや、鏡に何かあるのか?」

 

鏡から感じ取った不穏な気配。この不可思議な事態は鏡が関係しているのではないかと推測を立てる赤女(あかめ)

 

「・・・他にも鏡があるかもしれないな」

 

ひとまず鏡が怪しいと睨んでいる赤女(あかめ)は他にも鏡がないか探しに向かう。

 

 

 

「・・・鏡を壊したところでどうにもなりませんよ。ですが着眼点はいいですね。こんなにも早く鏡が怪しいと気づくとは。さすがは特級呪術師。とはいえ、逃がしませんよ。あなたはすでに、(わたくし)の狩場に入ってきたのですから」

 

 

 

 

時はハロウィン前日でのこと。子供たちが公園で賑やかに遊んでいる中、傑と漏瑚は五条悟の攻略について話している。

 

「五条悟が1番力を発揮するのはどんな時か、わかるかい?」

 

「もったいぶるな。話せ」

 

「それはね・・・1人の時だよ」

 

傑はシャボン玉を作りながら渋谷での作戦を説明する。

 

「どんな術師でも、彼の前では基本足手まとい。だからそのさらに下の非術師で周囲を固める」

 

「・・・・・・」

 

「術式反転の最低出力は順転のそれの2倍。非術師を巻き込まずに使うのはほぼ不可能だ。蒼も同様に有効な出力まで上げることはできないだろう。蒼を使った高速移動も難しいはずだ。非術師にとってはダンプみたいなものだからね。ぶつかったら即死。この状況では五条悟はただ、守りに徹するしかない」

 

傑の想定通りで行くならば、この作戦は非常に有効な手段といえる。だが1つ、問題となるものが存在する。それは領域展開だ。

 

「奴の領域・・・『無量空処』はどうする?」

 

無量空処。それは悟が持つ領域展開。その能力は知覚と伝達・・・生きるという行為に無限回の作業を強制するというもの。膨大な情報量を脳に流し込まれるが、知覚と伝達が無限に続くため思考が追い付かず、動くという行動ができなくなってしまうのだ。さらに言えば与えられる情報量によっては脳にダメージがいってしまうこともありえる。そんな領域を使われてしまえば漏瑚たちは何もできなくなってしまう。だからこそ先ほど述べた作戦は領域展開の対処にもなっている。

 

「無量空処の影響を受けないのは五条悟本人と彼が触れてる者だけだろう。仮に彼に雑踏の中から君たちだけを領域に閉じ込める技量があったとしても、かなりの数の非術師が無量空処と帳の間で圧死する。9割9分、五条悟は領域を展開しない。逆に君たちも領域を展開しちゃいけないよ。大量の非術師を領域に入れたら、彼も諦めて領域を展開せざるを得ない。領域の押し合いで勝ち目がないのは、禪院赤女(あかめ)の件でわかるだろう?」

 

傑の言うとおりだ。漏瑚は赤女(あかめ)に負けている。となれば、花御や真人、斬鬼が生きていたとしても、悟に勝てるわけがない。

 

「・・・その禪院赤女(あかめ)が共に行動していたらどうするつもりだ?」

 

「さっきも言ったとおり、五条悟が1番力を発揮するのは1人の時。いくら彼女を信頼してるからといって、過剰な戦力投入はしないはずだ。お互いがお互いの邪魔になるからね」

 

「だが奴の術式は危険だ。獄門疆で封印できるのは1人のみ。仮に封印が成功したとしても、その後に奴が来るのではないか?」

 

術式反転、切一文字を通して一殺呪毒の脅威を身を持って知っている漏瑚は赤女(あかめ)との連戦を危惧している。あの時は術式反転で苦しめられたが、今度は順転を使って確実に仕留めにかかるはず。そうなればせっかくの苦労が水の泡になってしまう。

 

「大丈夫。少なくとも、彼女は渋谷の計画に介入できない。そのための、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)なんだからね」

 

傑は赤女(あかめ)の介入の点に関しても手は打ってあるようで、余裕の笑みは崩していない。

 

「とにかく、五条悟を集中させるんだ。呪霊攻略、非術師救出・・・最低でも20分は欲しい。その後は・・・私と獄門疆の出番だ」

 

全ての準備はすでに完了している。後はそれを、実行に移すのみだ。

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