呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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八咫鏡

都心メトロ渋谷駅B2F

 

パリィィィィン!!

 

時は少し遡り、悟が特級呪霊たちの相手をしている時間帯。地下2階の探索をしていた赤女(あかめ)は鏡を割って、破片から距離を取る。後退して着地する赤女(あかめ)の背後に突然として鏡が出現する。出現した鏡にはその場にはいない人影が映っており、人影は赤女(あかめ)に向けて手を伸ばす。

 

パリィィン!!

 

勘づいた赤女(あかめ)は振り向きざまに呪力を帯びた回し蹴りを放ち、鏡を粉々に砕く。粉々に砕け散った破片の一部には先ほどの人影が映っており、またも彼女に手を伸ばす。赤女(あかめ)はその場で転がり、バク転することで破片から離れる。着地しようとすると、今度は着地地点に鏡が出現し、人影はまたも赤女(あかめ)に手を伸ばす。対し赤女(あかめ)は刀を鞘から抜き、鞘と刀に一殺呪毒の呪力を流し込む。

 

「シン・陰流我流奥義―――『双月』」

 

ズドオオオオン!!

 

赤女(あかめ)が呪力を帯びた刀と鞘を鏡に向けて突きを放つと、強い衝撃が起こり、土煙が発する。土埃が晴れると、赤女(あかめ)が立っている場所にクレーターが出来上がっており、鏡も視認できないほどに粉々になっている。しかし、いくら壊しても、鏡は新たな場所に出現し、キリがない。

 

(どんな攻撃を仕掛けても、本体には届いていない・・・。領域展延ならば届くだろうが、生得術式が使えない以上、その場凌ぎにしかならないな。まずは奴の術式の法則を読み解かなければ・・・)

 

鏡を壊しても意味を成さないと理解した赤女(あかめ)は鏡の術式の法則性を考え始める。そうしている間にも鏡は周囲に現れ、彼女を囲む。囲む鏡の内1つには、人影が映っており、ゆっくりと近づいてるのがわかる。

 

『さすがに、特級呪術師の相手は骨が折れますね』

 

鏡に映る人影の正体とは、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の1番、アマテラスであった。赤女(あかめ)はこの場にはいないアマテラスが写る鏡を見据える。

 

「お前、受肉した禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)だな。これがお前の術式か」

 

『鏡はあらゆるものを映し出す。目に見える物質だけでない。過去、未来、事象、幻影、真実。あなたの心は何を映すのでしょうね?』

 

鏡のアマテラスはざっと走り出し、赤女(あかめ)に近づいて手を伸ばす。赤女(あかめ)は目を閉じて刀を鞘に戻し、構えて自身の呪力を練る。

 

「シン・陰流―――抜刀!」

 

赤女(あかめ)は元来のシン・陰流の技、抜刀を放って自身を囲む鏡を真っ二つに両断する。それだけではない。抜刀の際に発した風圧で鏡は破片ごと粉々に砕け散った。しかし、いくら攻撃しても鏡のアマテラスを引きずり出す、あるいは術式を理解しなければ彼女にダメージを与えることは叶わない。その証拠として、鏡は再び赤女(あかめ)の背後に現れ、そこにノーダメージのアマテラスが映し出されている。

 

(創る鏡自体はどこにでもあるただの鏡のようだな。無限に鏡を作って私の体力を削る気か?だが私の術式を知ってる者がそんな策で来るとは考えにくい)

 

思案する赤女(あかめ)をよそに、アマテラスは何かを感じ取るかのように目を閉じる。

 

『・・・ええ。わかっていますよ、ツクヨミ』

 

何かを了承するアマテラスは目を開け、赤女(あかめ)に視線を向ける。

 

『ところであなたが探しているのは・・・この方たちですか?』

 

アマテラスを映す鏡はキランと輝くと、別のものを映し出す。それはこの渋谷駅の地下5階の光景。悟が特級呪霊と戦っている最中に天井が割れ、宙に浮かぶ鏡が割れ、一般人が一斉に落ちていく光景であった。

 

「貴様・・・やはり一般人を・・・」

 

(わたくし)の術式は鏡を創るだけではありません。対象を鏡に閉じ込めることで、鏡が映す風景と同じ場所に転移させることが可能なのです。今映した風景はいったいどこなのでしょうね?』

 

(一般人を地下5階に落とすことで悟の動きを封じる気か?いや、そんな狙いがあるとは到底思えない。鏡に映す光景だけでは判別できないな。やはり直接捕まえて問い詰めるほかあるまい)

 

アマテラスが何の狙いがあって一般人を捕まえ、地下5階に落とすのか。なぜ自分のその光景を見せるのか。わからないことだらけだが、それは彼女を引きずりだして捕まえればいいとして、赤女(あかめ)は刀を構え直す。

 

『あなたの実力は理解できました。やはりあなたを相手にするには少々分が悪いようです。ですので・・・少し趣向を変えましょう』

 

アマテラスがそう言うと、自分を映す鏡の周りに新たな鏡を3つ作り上げ、光を収束させる。

 

「反射鏡」

 

収束された光は光線となって反射するが如く、レーザーのように発射される。赤女(あかめ)は迫った光を一筋ずつ見抜いて躱し、アマテラスに接近する。アマテラスの鏡を守る3つの鏡は一か所に集まり、より強大な光線を同時に放った。放たれた強力な光線が目の前に迫った瞬間、赤女(あかめ)は一瞬で姿を消し、アマテラスを映す鏡の後に回る。

 

「葬る!」

 

赤女(あかめ)は突きを放ち、鏡を粉々に砕こうとする。するとその瞬間、アマテラスを映す鏡が光を帯びる。

 

「友鏡」

 

鏡に帯びた光に輝きが放つと、アマテラスを映す鏡に彼女ではなく、別の人物が映し出される。それを一瞬ながらでも見逃さなかった赤女(あかめ)は立ち止まり・・・

 

パリィン!!ガキィィン!!

 

鏡の割れる音と共に放たれた斬撃を刀で防御し、受け止めた。鏡から出てきたのはアマテラスではなく、コートを着込んだ男であった。

 

「んんー?おかしいねぇ。俺は確か渋谷でいろんな奴の首を斬ってたはずなんだがねぇ・・・どうして渋谷駅にいるんだ?」

 

コートの男はなぜ渋谷駅2階に来ているのかわけがわからず、指で頭をかいている。

 

「貴様は・・・」

 

「まぁいいや。おいしいものは先に食べた方がうまいからねぇ」

 

男は愉快そうに笑い、自身のコートを脱ぎ捨てて両腕に備えてある刃を露にさせた。

 

「辻斬りに加え、特級呪術師と来たもんだ。今年のハロウィンは物騒だねぇ。愉快愉快」

 

現れた男とは、巷で話題になっている殺人鬼であり、交流会を強襲した呪詛師の1人、首切りザンクであった。

 

「首切りザンク・・・」

 

「ほぉ、俺を知っててくれていたとは光栄だねぇ。愉快愉快。会いたかったぞ、特級呪術師殿」

 

赤女(あかめ)は驚かず、アマテラスの呪力を探る。しかし彼女の呪力はなかった。いや、正確には残穢が残っている・・・ザンクの身の回りに。

 

(瞬間移動・・・というよりは転移の方が正しいな。でなければ奴の残穢がザンクの身体に染みついている説明がつかない)

 

「なるほど、そういうことだったのか。いつの間にマークされたんだろうねぇ?まったく、鏡使いは面白いねぇ。愉快愉快」

 

自身の術式、五視万能(スペクテッド)によって赤女(あかめ)の心の内を見たザンクは納得したと同時に愉快に笑っている。同時に、自身の考えを見抜かれた赤女(あかめ)もそれがザンクの術式であると見抜いた。

 

「そうか。それがお前の術式というわけか」

 

(透視!)

 

ザンクは五視万能(スペクテッド)の能力の1つ、透視を使って赤女(あかめ)の体を探り、隠し武器がないか探りを入れる。

 

(結果、隠し武器、特になし)

 

(・・・禍津神(まがつがみ)は趣向を変えると言った。何か企んでいるのは明白。だが、そのためには目の前のこいつは邪魔だ。まずは・・・)

 

「俺を殺して鏡使いを追いかけるって?無理無理。お前の心視えてるから」

 

赤女(あかめ)の考えを見透かしたザンクは煽ってきたが、彼女は冷静だ。

 

「確かに心が読まれてるのは厄介だな。だが、動きに対応できていなければ、意味がない」

 

赤女(あかめ)は刀に呪力を流し込んで刀身を赤黒く染める。そして刀を構えてザンクに接近して斬撃を放つ。対しザンクは五視万能(スペクテッド)の洞視によって赤女(あかめ)の動きを見て両腕の刃で斬撃を受け止めつつ、連撃を放つ。赤女(あかめ)は連撃を刀で振るって弾きつつ、こちらも連撃を繰り出す。

 

刃と刃の攻防の中、ザンクは刀に押し返されて背中から壁に衝突する。そこへ赤女(あかめ)が突きを放つ。ザンクはその突きを躱し、側面に跳躍することでさらに続く斬撃を回避した。

 

(手練れだ・・・相当の実戦を積んでいる。少なくとも・・・あの呪詛師よりは強い)

 

この時彼女の頭に浮かんでくるのは交流会に襲撃してきた呪詛師、組屋鞣造だ。ザンクは彼よりも断然強いと赤女(あかめ)は判断する。

 

(速度だけではない・・・腕力もあるな。そしてそこからの・・・)

 

「シン・陰流我流奥義―――『一閃・暗夜』!」

 

(威力を最大に落としたオリジナル技!)

 

赤女(あかめ)が鞘を戻して、即座に抜刀による斬撃波を放つ。ザンクは向かってきた斬撃波を両腕の刃で受け止め、斬り払うように打ち消した。

 

(ここは狭すぎる。あまり広範囲の斬撃は放てない。とはいえ、威力を弱くしすぎても打ち消されるだけか。ならば・・・)

 

打開策を熟慮した赤女(あかめ)は刀を構え直し、心を無心の状態にする。

 

「ほぉ・・・無心になったか。すごいな。大掛かりな技や、小細工はやめてコンパクトな攻めに回ったか。確かにそれなら、洞視は意味を成さない」

 

赤女(あかめ)が無心になったことで彼女の心の中が視えなくなっても、ザンクの余裕は崩さない。そんなザンクに赤女(あかめ)は力を込めた斬撃を放つ。

 

「だが五視万能(スペクテッド)には『未来視』がある!筋肉の機微で、お前の次の行動が・・・」

 

ガキンッ!!

 

「・・・視える」

 

ドオオオン!!

 

五視万能(スペクテッド)の未来視によって赤女(あかめ)の動きを予測で来ていたザンクは彼女の斬撃を両腕の刃で受け止め、そこからさらに右腕の刃を振り下ろした。赤女(あかめ)は咄嗟に反応し、後退して攻撃を躱した。だが対応が少し遅れてしまったのか彼女の足にかすり傷ができていた。

 

「・・・くらってしまったか。これでは悟に笑われてしまうな」

 

「・・・やれやれ・・・一殺呪毒って、刀で斬りつけられたらアウトなんだろう?かすり傷1つ許されないってのはずるいねぇ」

 

「私も心も動きを視られている。お互い様だ」

 

ザンクの文句に対し、赤女(あかめ)は表情を変えずに返す。そんな彼女にザンクは妙な質問を投げかける。

 

「なぁ赤女(あかめ)・・・お前『声』はどうしている?」

 

「?声?」

 

声と言われても何のことかさっぱり理解できない赤女(あかめ)は疑問符を浮かべる。だがザンクには聞こえている。彼にしか聞こえない・・・怨嗟の声が。

 

「ほら・・・黙ってると聞こえてくるコレだよ。今まで殺してきた人間たちの地獄の呻き声だ。俺を恨んで・・・呪って・・・こっちへ来い・・・早く地獄(こっち)へ来いと言い続けてる。呪術連の刑場で斬ってた時から聞こえたが、最近は特にひでぇ。全く、呪霊より質が悪いよなぁ」

 

呪術師は呪詛師を含めて、いい意味でも悪い意味でもイカれた者が数多い。だがこのザンクは日々の死人の怨嗟の声に頭を悩ませていても首切りの快感には勝てなかった。それほどまでに彼はイカレきっており、救いがない。

 

「俺はしゃべって誤魔化してるが、お前はどう対処・・・」

 

「聞こえない」

 

「!」

 

「私には・・・そんな声は聞こえない」

 

ザンクの問いかけを遮るように赤女(あかめ)は自身の答えをハッキリと答えた。

 

「・・・なんと。お前、御三家の養子だろ?お前なら人をたくさん殺してきただろうに。それならこの悩みも分かち合えると思ったんだが・・・」

 

少し憂いた様子のザンクが口を開くと、額にある目の装飾が見開かれる。同時にザンクは五視万能(スペクテッド)の最後の能力を発動させる。

 

「・・・悲しいねぇ!!」

 

目の装飾が完全に見開かれると、そこから眩い閃光が放たれた。あまりの眩しさに赤女(あかめ)は思わず目を閉じた。光が収まり、目を開けてみると、そこには赤女(あかめ)にとって信じがたい人物が立っていた。

 

「・・・黒女(くろめ)・・・?」

 

その人物とは赤女(あかめ)の唯一の家族にして妹、そして忌まわしき事件の犯人である呪詛師、禪院黒女(くろめ)であった。だがこの黒女(くろめ)は本物の黒女(くろめ)ではない。

 

(『幻視』。その者にとって1番大切な者が目の前に浮かび上がる。奴は今、俺の姿がその最愛の人間に視えているはずだ)

 

そう、赤女(あかめ)五視万能(スペクテッド)の幻視によって、ザンクの姿が黒女(くろめ)に見えているのだ。

 

(これで動きは封じたも同然。やりやすいことこのうえないなぁ。愉快愉快♪)

 

自身の勝利を確信したザンクは幻影に紛れてニヤリと口角をつり上げて歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

都心メトロ渋谷駅B5F新都心線ホーム

 

偽夏油の策略にまんまと嵌まり、獄門疆に捕まってしまった悟は今まさに、封印されようとしていた。

 

「おやすみ、五条悟。新しい世界でまた会おう」

 

「僕はな。お前はそろそろ起きろよ」

 

抵抗することもできず、もうじき封印されるというのに悟は笑みを浮かべて口を開く。ただし、偽夏油にはなく、肉体に残された残滓に向けてだ。

 

「・・・いつまでいいようにされてんだ・・・傑」

 

悟が言い終えると、偽夏油にとって不可思議なことが起きた。

 

グググ・・・

 

「ん?」

 

バッ!ガシィ!!ギュウウウゥゥ・・・!!

 

「ぐっ⁉が・・・がっがっ・・・!」

 

なんと偽夏油は本人の意思とは関係なく右手が勝手に動き、自らの首を強く締めあげている。傑の肉体にはまだ魂の残滓が残っており、悟の言葉でそれが目覚めて偽夏油に反発したのだ。

 

「ぐっ・・・くっ・・・くふふふ・・・はは・・・はははははは!すごいな!初めてだよ、こんなの!」

 

偽夏油は苦しそうにしながらも愉快に笑い声を上げて、初めて経験する現象にはしゃいでいる。すると、真人があくび交じりに無量空処の影響からいち早く目覚めた

 

「ふわぁ~・・・・・・。・・・あっ、夏油~・・・」

 

「真人、見てくれ。君は魂は肉体の先にあると述べたが、やはり肉体は魂であり、魂は肉体なんだよ。でなければこの現象にも、入れ替え後の私の脳に肉体の記憶が流れてくるのにも説明がつかない」

 

偽夏油は反発する傑の魂の残滓を無理やり抑え込み、締め上げてくる右手を左手を抑え込む。偽夏油の問いかけに対し、真人はきょとんとしながらもさも当然のように答える。

 

「それって一貫してないといけないこと?俺と夏油の術式では世界が違うんじゃない?」

 

「・・・術式は世界か・・・ははは・・・いいね。素敵だ」

 

「ん?」

 

真人の主張に偽夏油は共感を抱く。そんな彼に真人は少しばかり怪訝な顔になる。

 

「お~い、やるならさっさとしてくれ。むさっ苦しいうえ眺めも悪い」

 

「こちらとしてはもう少し眺めていたいが・・・そうだね。何かあっても嫌だし」

 

うんざり気味な表情を浮かべる悟の言葉に同意するように、偽夏油はにっこりと微笑み・・・

 

「閉門」

 

獄門疆の閉門を宣言する。すると獄門疆の無数の目は見開き、悟を覆いつくすように閉じていった。悟を閉じ込めた獄門疆は元の小さな箱へとサイズを落としていき、偽夏油の手元にわたる。

 

「・・・これ、もう使えないんだっけ?」

 

「ああ。定員1名、中の人間が自死しない限り、使用不可だ。だから立て続けに禪院赤女(あかめ)を封印することはできないんだ」

 

「ふーん。つまんなっ。ま、何はともあれ・・・」

 

「封印完了」

 

偽夏油の策略によって、現代最強の呪術師が封印されてしまうというあってはならない事態が起きてしまった。

 

「・・・さて、禪院赤女(あかめ)といえば、そろそろ彼女の『フルコース』が出来上がった頃合いかな」

 

上階を見上げる偽夏油はいったん手元の獄門疆を置き、真人に指示を出しつつ移動を始める。

 

「私は少しだけ席を外させてもらうよ。後のことはエスデスに任せておくから、彼女の指示に従って行動してくれ」

 

「あれ?もう行くわけ?」

 

「ああ。早くしないと・・・せっかくの同窓会に遅れてしまうからね」

 

首を傾げる真人に偽夏油は振り返り、口角を上げて笑みを浮かべるのであった。

 

 

都心メトロ渋谷駅B2F

 

五視万能(スペクテッド)の幻視によって黒女(くろめ)の幻影を見ている赤女(あかめ)の呆然としている表情を見て、ザンクは幻影の中に隠れて口角を吊り上げる。

 

「いい顔だなぁ。我ながらいいものを見せてあげてるようだ。この幻視は1人にしか利かないが催眠効果は絶大。そして・・・どんな手練れだろうと、最愛の者を手にかけることなど不可能」

 

ザンクは両腕の刃を再び展開して、赤女(あかめ)に迫ろうとする。それと同時に、幻影の黒女(くろめ)もまた、刀を構えて赤女(あかめ)に迫る。

 

「愛しき者の幻影を見ながら死ね!禪院赤女(あかめ)!!」

 

黒女(くろめ)の幻影が刀を振るうと同時に、ザンクも幻影に紛れて刃を振り下ろさんとしている。そんな中、赤女(あかめ)の頭によぎるのは、先日の硝子との話だ。

 

『お前、黒女(くろめ)と会ったらどうすんの?』

 

『・・・正直に言えば、殺したくはない。だが、話し合いではどうにもならないのもわかっている。・・・だからこそ・・・』

 

ズドッ!!!

 

ガキンッ!!!

 

自分自身の言葉がよぎった赤女(あかめ)は何の躊躇いもなく黒女(くろめ)の幻影に斬撃を放った。同時に幻影は消え、幻影に紛れていたザンクは両腕の刃を交差して斬撃を防御した。

 

「なっ・・・⁉こいつ・・・容赦なく・・・」

 

最愛の人物を視たにも関わらず攻撃してきた赤女(あかめ)にザンクは激しく動揺している。

 

「何故だ!!?1番愛する者が視えたはずだ!!!」

 

ザンクの疑問に、赤女(あかめ)は冷静に答える。

 

「最愛だからこそ、早く止めなければいけないんだ。例え・・・殺すことになったとしても」

 

ゾッ・・・

 

(こいつ・・・何を・・・⁉)

 

赤女(あかめ)の事情を全く知らないザンクは彼女に対して得体のしれない寒気を感じ取る。

 

「・・・今ので勝負はついた」

 

ピシッ!

 

ザンクの両腕の刃は今の一撃が堪えたのかヒビが入った。

 

(いかん・・・折れる!)

 

「まずは武器を葬る」

 

「ぬああああああああああ!!!死んでたまるかあああああああ!!!」

 

ザンクは意地を見せるかのように近づいてきた赤女(あかめ)に刃の連撃を放つ。対する赤女(あかめ)は一撃一撃を冷静に刀でいなしていく。

 

(先に殺す!未来の動きが視える俺が有利!)

 

ザンクは未来視で事を有利に運ぼうとするが、赤女(あかめ)はかすり傷覚悟で素早く動き、少し傷を負いながらもザンクの懐に入った。

 

(ぐっ・・・即座に対応できん!なます斬りにする前に俺の剣が・・・!)

 

ギャリィ!!!

 

赤女(あかめ)が刃を狙って刀を振り上げたことによって、ザンクの両腕の刃が真っ二つに折れた。そして・・・

 

「葬る」

 

ズドッ!!

 

ザンクの首筋に刀を振るって、一筋の傷を与えた。

 

「カハッ・・・!」

 

喉元を斬られたことでザンクは倒れた。その瞬間・・・

 

ギュイン!

 

「!」

 

一筋の閃光が走り、赤女(あかめ)に迫ろうとしていた。それに気づいた赤女(あかめ)は咄嗟に鞘を手に取り、迫ってきた閃光を受け止めて防御した。閃光の放たれた方角を見てみると、そこにはアマテラスが小さな鏡を掲げていた。今の閃光は彼女の鏡が放ったものだ。

 

(!禍津神(まがつがみ)!姿を現したが」

 

赤女(あかめ)がアマテラスの姿を見かけると、彼女は自分の背後に新たな鏡を作り出し、またも鏡に入ろうとする。

 

「逃がすか!!」

 

アマテラスが鏡に入る前に赤女(あかめ)はバッと素早く駆けだし、刀を振るって斬撃を放つ。だが一足遅く、アマテラスは完全に鏡の中に入り、斬撃を回避してみせた。

 

(また転移か!だが呪力からしてそう遠くはない!場所は・・・地下3階!)

 

赤女(あかめ)はアマテラスの残穢を頼りに地下3階へと移動を始める。

 

赤女(あかめ)が去り、1人死に絶えようとしていたザンク。すると、ザンクのヘッドギアが粉々に砕けた。

 

(・・・音が・・・止んだ・・・)

 

自分に付き纏う怨嗟の声が聞こえなくなり、ザンクはにっと笑う。

 

「ゆ・・・愉快・・・愉快・・・。ありがとうよ・・・赤女(あかめ)・・・」

 

ザンクは赤女(あかめ)に感謝の言葉を述べて、呪毒が回って息を引き取った。

 

 

都心メトロ渋谷駅B3F

 

アマテラスを追って地下3階に辿り着いた赤女(あかめ)はこの先の曲がり角を曲がった。

 

ぐにゃり・・・

 

「う・・・」

 

すると一瞬、赤女(あかめ)は視界がぐにゃりと回るような不快感に覆われる。しかしその不快感は何事もなかったようにすぐに消え去る。しかしその直後、彼女は阿鼻叫喚な光景を目の当たりにする。

 

『きゃあああああああああ!!!』

 

【ろ・・・ろ・・・ろろろろろ・・・】

 

【み・・・かかか・・・ん・・・はは・・・い~かが~?】

 

「・・・なんだこれは・・・」

 

それは大量の改造人間が一般人を襲い掛かっている光景だ。一般人は改造人間から悲鳴を上げて逃げたり、殺されて非飛沫をあげたり、改造人間に食われたりとまさに混沌と化している。

 

(あれが改造人間・・・。ということは、下にいるのか・・・七海が言っていた人型呪霊が)

 

悟が真人に負けることはないだろうと赤女(あかめ)は考えてはいるが、妙に嫌な予感ばかりが募っていく。その間にも張られている鏡から次々と改造人間や非術師が現れ、生者も死者も増え続ける。

 

「助けて!!誰か助けてくれぇ!!」

 

「!おい!下がれ!死ぬぞ!!」

 

恐怖で顔を引きつっている1人の一般人が改造人間から逃げるように赤女(あかめ)の前を横切った。その瞬間・・・

 

ボオオオオ!!!

 

何の前ぶれもなく青い炎が灯り、彼を焼き尽くした。そして炎は広がり、赤女(あかめ)や一般人を逃がさないように円を描いた。目を澄まして炎の先を見つめてみると、炎を放った存在が入ってきた。炎に焼かれることがなかったそれは九本の尻尾に白く神々しい毛並みを持った狐型の呪霊であった。そしてその呪霊は、呪術界おいて特級に登録されていた呪霊であった。

 

特級仮想仮想怨霊  九尾

 

「うわあああああ!!化け物が増えたぁ!!」

 

「ひいいいいいいいい!!」

 

(ちっ、仮想怨霊か!いや、それよりも・・・非術師は今、見えているのか?目の前の呪霊が)

 

死に追いやるほどの恐怖によって非術師が呪霊の姿が見えるというケースは少なからず存在する。だがそれでも呪霊の姿が見えない事例の方が大きい。だが非術師は全員九尾の姿を視認できている。赤女(あかめ)はその謎を考えようとする。

 

ギュンッ!

 

するとその隙を与えないかのように一筋の閃光が迫ってきた。赤女(あかめ)はそれに感づき体を捻りながら回って、ギリギリで躱す。この閃光を放ったのはやはりアマテラスだ。

 

(!禍津神(まがつがみ)!)

 

赤女(あかめ)はアマテラスを確認して、刀を構えて大技を放とうとしたが、思い留まる。なぜならここには非術師もいる。下手に大技を出せば改造人間や九尾だけでなく、彼らも巻き込みかねないからだ。下手に犠牲者を増やすわけにもいかないため、必然的に攻めが限られてくる。

 

【オーーーーン!!】

 

赤女(あかめ)が思い留まっている間にも、九尾は炎の球体を無差別に放つ。一般人や改造人間が何人も炎に包まれる中、赤女(あかめ)は跳躍して後退して炎を躱す。

 

ギュンッ!ギュンッ!

 

躱した瞬間、さらに別方向からも閃光が複数放たれてきた。赤女(あかめ)は刀を振るって閃光を弾き消した。閃光が放たれた先を見て、赤女(あかめ)は目を見開く。そこにいたのはアマテラス。だが問題は、その彼女が2人・・・いや最初の閃光を放った彼女も合わせると3人もいた。

 

(3人だと⁉分身か!いや、鏡の術式ならば何も不思議なことは・・・)

 

鏡。その単語が頭によぎり、はっとした表情を浮かべた。そしてその直後に浮かんだのはザンクが見せた黒女(くろめ)の幻影だ。

 

(鏡・・・幻覚・・・まさか、これは・・・)

 

底まで考えると赤女(あかめ)はようやく気付く。アマテラスの真の狙いが。

 

(これで禪院赤女(あかめ)はこの事象が幻影であると気づいたはず。しかし彼女はすでに(わたくし)の手中に嵌まってしまった。例え幻影だとわかっていても、それに逃れる術はない。唯一の手段を除いては)

 

アマテラスの狙いとは、この状況を打破する唯一の手段を使わせることだ。

 

 

『鏡花水月。その能力は絶対催眠』

 

ハロウィン前日。アマテラスはツクヨミとウサギに術式能力を説明しつつ、作戦の説明する。

 

『5分間、鏡を割られることなく張り続けることによって完成する結界術。これに入ったが最後、その者は絶対催眠に陥る。(わたくし)はこれをあえて禪院赤女(あかめ)自身が気付くように仕向けます』

 

『?そりゃなんで?』

 

『禪院赤女(あかめ)は五条悟と違って冷徹に成りきれない人物であることはわかっています。その心を最大限に利用するためです。例えば・・・呪霊や改造人間を前にした時、非術師は逃げるでしょう。それを目撃した術師は呪霊をどうすると思いますか?』

 

『そりゃぶっ潰すでしょ』

 

『・・・あ、そっか。鏡花水月は姉様の思うがままに設定できる。非術師は非術師のままに、改造人間は改造人間のままにすることだってできる。それで討伐対象と護衛対象をごちゃまぜにしちゃえば・・・』

 

『そう、下手に手を出すことはできない。絶対催眠の状態で攻撃してしまえば、討伐対象と勘違いして非術師を殺しかねないですからね。その逆も然り。何もしなければ非術師に扮した改造人間が裏で非術師を殺しかねない。しかしそれでは領域展開を使う決定打にはならない。ゆえに、特級呪霊を使って無差別に暴れさせる。特級呪霊が暴れる中で、生者も死者も増えてしまえば、彼女も諦めて領域を使わざるを得ない』

 

絶対催眠の結界、鏡花水月を打ち消すには使用者であるアマテラスを殺すか、領域展開で結界そのものを打ち消す以外に方法はない。アマテラスはこの作戦で赤女(あかめ)に領域を使わせることを狙っているのだ。その先にある思惑を実行するために。

 

『・・・でもそれだと非術師も巻き込むことになるんじゃあ・・・』

 

『神樂海紅の呪毒の強弱は禪院赤女(あかめ)の任意で決められます。しかし非術師にとって呪毒は猛毒。弱小の毒でも死に追いやるでしょう。ですがそれはあくまでも接種多量よって引き起こるもの。ほんの一瞬でも領域を閉じれば・・・』

 

 

アマテラスの読みは正しかった。これが罠だったとしても・・・赤女(あかめ)は非術師を見殺しにはできなかった。

 

 

「領域展開―――"神樂海紅"

 

 

赤女(あかめ)は鏡花水月を崩し、非術師を救うために、印を結んで領域展開、神樂海紅を発動させた。辺りの空間は夜になり、足場は水で覆い尽くし、赤い桜の木が成った。しかし、それら全ては一瞬で消し去り、元の空間に戻る。それでも、領域展開の能力は強大。九尾も改造人間も、一般人もみんな呪毒によって神経が麻痺して動けなくなる。領域を解除した途端、3人のアマテラスや一部の改造人間、非術師の姿がブレだし・・・

 

パリィィィン!!

 

鏡の割れる音と共に、その真の姿を現した。3人のアマテラスや一部の一般人は改造人間となり、一部の改造人間は一般人となった。鏡花水月の効果が完全に消えたのだ。

 

ザシュ!!ザシュザシュザシュ!!

 

それを確認した赤女(あかめ)は真っ先に九尾の頭を斬り落とし、その直後に素早く動き回り、改造人間を1体、2体と斬り捨てていく。

 

一か八かの賭けの0.2秒の領域展開。非術師が死亡せず、後遺症も残らないであろう最弱の呪毒。非術師は呪毒に蝕まれ、四肢の動きや全ての感覚が完全に遮断され、立ったまま気を失った。しかし半月後には全ての代謝機能が回復し、社会復帰を果たすそんなレベルの神樂海紅。九尾がいつまた動くかわからない。禪院赤女(あかめ)は反撃を視野に入れて真っ先に九尾を斬殺、その後の狙いは改造人間のみに絞った。

 

禪院赤女(あかめ)。九尾を含めた改造人間およそ600未満の改造人間を領域解除後、169秒で斬殺。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

赤女(あかめ)は領域解除後の激しい動きで疲れが見え始めている。それを整えるためにゆっくりと息を吐いている。

 

「お見事」

 

その直後、目の前に鏡が現れて、そこからアマテラスが姿を現した。

 

「よく鏡花水月を見破られましたね」

 

「白々しい。わざとそう仕向けさせたのだろう。そのためにザンクを嗾けたんだ」

 

「・・・・・・」

 

「私の術式を知っている者が策を持たず挑んでくるわけがない。幻覚を作り出せるのならばなおさらだ。お前は私に領域を使わせるために、遠回しに自分の手の内を明かしたのだろう?違うか?」

 

赤女(あかめ)の考えに対し、アマテラスは目を閉じて沈黙。しばらくして口を開く。

 

「・・・(わたくし)は、1日に1回、その日の数秒程度の未来が見えるのです。その中で、あの首切り魔が幻視を使う姿が見えました。それでふと思いついたのです。あの男を使えば、より効率よく、鏡花水月の現象に気付くであろうと。その確定事項さえあれば、時間稼ぎも、鏡花水月に必要な手間も、全て整えられると。結果、あなたは(わたくし)の思惑通りに動いてくれた」

 

あっさりと自分の思惑を告白したアマテラスに赤女(あかめ)は彼女を睨みつける。

 

「もうお気づきですよね?過去、未来、事象、幻影、真実。(わたくし)の術式は鏡に纏わる万象を自在に支配できる。その名を・・・」

 

八咫鏡。

 

「・・・なぜ(わたくし)が領域展開を使わせることを仕向けたのか、わかりますか?」

 

「・・・もう貴様の遊戯に付き合ってられん。貴様はここで、葬る!」

 

自らの真意を話そうとするアマテラスに赤女(あかめ)は刀を構えて彼女に近づく。

 

「それはあなたと、あなたの一殺呪毒を封じるためですよ」

 

対しアマテラスは自身の目の前に鏡を作り上げ、転移の呪術を使う。

 

「そしてそのための仕掛けは・・・すでに動いています」

 

 

どんな形でもいい。必ず領域展開を使わせるんだ。その後は・・・

 

彼女と私の出番だ。

 

 

パリィィン!!ガキンッ!!

 

作り上げた鏡が割れると同時に、鏡より現れた人物は赤女(あかめ)に向かって刀を振り下ろした。対し赤女(あかめ)はその斬撃を刀で弾き、後退する。

 

「なっ・・・」

 

「・・・久しぶり。百鬼夜行以来かな?」

 

アマテラスによって転移させられた人物を見て、赤女(あかめ)は目を見開いた。幻影とは違う・・・声も、太刀筋も、幼き頃からずっと過ごしてきた最愛の人物を、間違えるはずがない。

 

「また会えて嬉しいよ、お姉ちゃん」

 

「・・・黒女(くろめ)

 

その人物とは禪院黒女(くろめ)だ。これまでに見せた幻影とは違う。正真正銘、本物の禪院黒女(くろめ)だ。探りを入れなくとも、赤女(あかめ)にはそれがわかっている。だが、再会したからといって、彼女は警戒を解いておらず、刀を構える。幻影を見た後ならなおさらだ。

 

「・・・お前がなぜここにいる?なぜ禍津神(まがつがみ)と手を組んでいる?全てはお前が仕組んだことなのか?」

 

「まさかでしょ。こんな大規模な作戦、私には思いつかないよ」

 

赤女(あかめ)の問いかけに黒女(くろめ)は笑いながら否定し、質問に答える。

 

「私はただ命令でここに来ているだけ。それ以上でも以下でもない」

 

「命令だと?誰の命令だ」

 

「お姉ちゃんもよーっく知ってる人だよ」

 

「何・・・?」

 

黒女(くろめ)の言っている意味がわからず、怪訝な顔になる赤女(あかめ)

 

「ほら・・・すぐ後ろにいるよ」

 

そう言って黒女(くろめ)赤女(あかめ)の後に指を指す。

 

「や、赤女(あかめ)

 

不意に背後からかけられた声。その声に赤女(あかめ)は自分の耳を疑い、驚愕で目を見開く。まさかと思い振り返れば、そこには・・・もう会うことが叶わないはずの友人の姿があった。

 

「・・・す・・・ぐる・・・?」

 

「久しいね」

 

そう、夏油傑だ。しかし、この男は夏油傑の皮を被った別の何かである。偽夏油は白々しくも友人と久しぶり会うような立ち振る舞いを演じている。もちろん、そんな事情を知らない赤女(あかめ)はひどく困惑している。

 

(なぜ・・・傑が・・・?いや・・・ありえない・・・だって・・・悟が・・・目の前で・・・)

 

困惑する思考とは別に、赤女(あかめ)の脳に高専時代の楽しかった思い出が溢れかえってくる。これが幻影の可能性があるかもしれないと、忘れてしまうほどに。

 

「八咫鏡―――幻魔鏡」

 

「!!しまっ・・・!」

 

その隙を突くようにアマテラスは赤女(あかめ)黒女(くろめ)を覆う陣を張った。気づいた時にはもう遅く、陣が光り輝いてこの空間を覆う。光が収まると、赤女(あかめ)黒女(くろめ)は箱型の鏡の中に閉じ込められる。

 

「どうしたんだい、赤女(あかめ)?戦闘中にボーッとするなんて」

 

赤女が鏡に閉じ込められた姿を見て、偽夏油は薄ら笑いを浮かべる。油断してまんまと罠にはまり、苦虫を噛み潰したような顔をする赤女。だが皮肉にもそのおかげで冷静になることができた。

 

「・・・違う」

 

「ん?」

 

「お前は夏油傑ではない」

 

「・・・何を言うんだい?まさか私が偽物だと言いたいのかい?悲しいね」

 

「・・・その呪力、その姿・・・確かに見れば見るほど、私の知っている夏油傑だと思わせられる。・・・だが!私の本能が、お前は違うと叫び続けているんだ!!早く答えろ!!お前は何者だ!!?」

 

殺気が込められた赤い瞳で睨まれている偽夏油は変わらず笑みを浮かべたまま。しばらくの沈黙の後、偽夏油の薄ら笑いはさらに不気味さを増し、観念したかのように口を開く。

 

「・・・はっ・・・五条悟といい・・・なんでわかるかなぁ。気色悪すぎでしょ」

 

自分の本性を現した偽夏油と彼の発した発言に赤女(あかめ)は強く睨みを利かせた。

 

「お前・・・悟に何をした!!」

 

「そう睨むなよ。むしろ封印対象から外してやったんだ。生き地獄を味わう思いをしないだけありがたいと思わなきゃ。あ、でも、これから起こることを考えると、むしろ封印された方がよかったかもね?」

 

偽夏油は睨みを介さず、赤女(あかめ)を挑発するような言動をとる。

 

「封印だと・・・?」

 

「ああ、心配しなくても、それは封印術じゃないよ。時間が経てば術は解ける。でも、その間の命の保証はできないけどね。理由はわかるだろう?」

 

偽夏油の言葉に対し、赤女(あかめ)は間違いではないと考えている。その根拠は幻魔鏡の結界そのものにある。

 

(体に力や呪力が回らない・・・これでは術式が使えない・・・。それに対し、一緒に閉じ込められた黒女(くろめ)には強い呪力を感じられる。これが禍津神(まがつがみ)が言っていた、私と一殺呪毒を封じる手段か)

 

幻魔鏡の中にいる間、赤女(あかめ)には一切の呪力が感じられず、思うように術式が使えなくなってしまっているのだ。逆に同じ空間にいる黒女(くろめ)は普段の呪力より大きく膨れ上がっているのだ。幻魔鏡の中では、術式が使えない赤女(あかめ)が圧倒的に不利なのだ。

 

「・・・君の術式凶悪すぎるんだよ。私の目的には邪魔なの。でも用意できる封印手段が1つしかなくてね。こういう手段をとらざるを得なかったんだよ。ホント、笑っちゃうよね」

 

自傷気味に苦笑する偽夏油が悠長にしゃべっている間、赤女(あかめ)は彼をじっと見据え、口を開く。

 

「・・・おい、聞こえているのだろう。目が覚めているのならさっさと起きろ。・・・いつまで寝ぼけてるつもりだ、傑」

 

赤女(あかめ)は肉体にまだ残っている傑の魂の残滓に呼び掛けている。すると、傑の魂が反応し、偽夏油の左手が僅かながらに震わせている。この現象に偽夏油はため息をこぼし、ウンザリ気味に右手で左手を抑える。

 

「はぁ・・・余計な手間を取らせないでもらいたいものだね。この魂を抑えるのも疲れるんだ。お互い無駄な労力を使うのはやめにしないか?どうせ無駄なんだから」

 

しばらく封じ込めていると、左手の震えは封じ込められたように収まった。するとずっと黙っていた黒女(くろめ)が嫌悪感を隠さないままでしゃべり掛ける。

 

「お~い、やるならさっさとしてくれないかな?下手くそな演技を見せつけられて、こっちはムカついてんだよ」

 

黒女(くろめ)・・・お前・・・!」

 

「・・・ごめんね、お姉ちゃん。私には、優先したい子たちがいるから」

 

黒女(くろめ)は少し申し訳なさそうな表情をしながら刀の切っ先を赤女(あかめ)に向けた。

 

「ああ、すまないね。水を差すつもりはなかったんだ。後は姉妹水入らずで、ゆっくりと語ろうといい。アマテラス、もういいよ」

 

これ以上時間を先延ばす理由がない偽夏油はアマテラスに指示を出す。彼女はそれに従い、2人を閉じ込めている鏡に手を翳す。

 

「閉門」

 

アマテラスが宣言すると、鏡は強い光を放ち、辺りの空間を包み込む。光が収まると、鏡は手鏡のように薄っぺらく、小さいものへとサイズを落としている。中にいる赤女(あかめ)黒女(くろめ)の姿は、鏡には映っていない。

 

「以前にも説明しましたが、幻魔鏡はそう長く維持はできません。最低でも2時間が限界です」

 

「でもその間、禪院赤女(あかめ)は術式を使えないんだろう?ならそれで十分さ。後は、彼女の活躍に期待するさ」

 

偽夏油はふっと笑みを浮かべ、小さくなった鏡を手に取り、壁に放り投げて壊した。

 

「何はともあれ・・・作戦成功だ」

 

 

都心メトロ明治神宮前駅B5F渋谷駅線路上

 

時間は遡って、悟が封印された直後の時間。真人の向かった先が渋谷であると気付き、急ぎ渋谷へと急ぐ冥冥班。

 

そんな彼ら進む線路上の天井。何も見えない暗闇の中で、小さな起動音が人知れず鳴った。

 

希望の灯は、まだ完全に消えたわけではない。

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