どんな形でもいい。悪魔と縛りを結んでもいい。
だから・・・1度でいい。たった1度だけ・・・
娘に会いたい。
21時27分 金王八幡宮(帳内)
時は少し遡り、悠仁とマインが渋谷に到着した頃合い、金王八幡宮の帳に突入した
「うおおおおおお!!」
(
「ふっ・・・俺も気張らねぇと、
既にインクルシオを纏っているブラートは兄貴分として負けられまいと意気込むブラートは槍を構え、改造人間に向かって投擲する。槍は改造人間を貫き、さらに後ろにいた改造人間を5体貫く。そこからブラートは改造人間から槍を引っこ抜き、他の改造人間を何体も斬り払う。他の改造人間はブラートを押し倒し、そこからさらに改造人間が押し寄せる。だがどれだけ改造人間に覆われても、ブラートは物ともせず、改造人間をぶっ刺し、お寄せる改造人間を全て吹っ飛ばして圧倒する。
「すげぇ!さすがは兄貴だぜ!」
「おう!まだまだ行くぜ!」
ナナミ~~~~~~~~ン!!!
ナナミンいる~~~~~!!??
「!今の・・・悠仁?」
「虎杖?冥のところにいたんじゃなかったのか?」
渋谷全体に悠仁の大声が響きわたる。その声は
五条先生があ!!!封印されたんだけど~~~~!!!
「!!?」
「封印⁉五条先生が⁉」
んでぇ!!!
「なんだとぉ!!?」
悟が封印、
「何の冗談だよそれ・・・あの2人に限ってありえねぇだろ・・・」
「
「お、おう!」
悠仁の言葉は真実であるという前提を踏まえた上でブラートは
「もし今の話がマジなら、この日本は間違いなく終わる!そうならないために、今俺たちができることをやるぞ!」
日本の終わり。その最悪のシナリオが起こらないためにもブラートたちも即座に行動を始める。
●
22時4分 首都高速3号渋谷線セルリアンタワー前
粟坂を倒した悠仁、恵、マインは彼が持っていた帳の元を2つ破壊した。すると渋谷駅を覆っていた術師を入れない帳が上がり始めた。だが未だに覆っている悟を閉じ込める帳、
「あれ?今上がったのって術師を入れない帳だけだよな?猪野さんのと合わせて3つ壊したはずなのに」
「3つで1つの帳を降ろしてたか。2つはダミーだったんだろう」
「でもこれで術師は渋谷を自由に動けるわね。残りは悟を閉じ込める帳と、
全部の帳を上げればよかったのだが、術師が渋谷を自由に動けるようになっただけでも大きな進歩と言えるだろう。
「このジジイにいろいろ聞きたかったが、起きそうにねぇし、猪野さんと合流して・・・」
恵がこの次にやるべきことを話そうとした時、マインはセルリアンタワーを見て目を見開き、いち早く走り出した。
「!!!シェーレ!!!猪野!!!」
マインが見たのは、セルリアンタワーから落ちていくシェーレと猪野の姿であった。
「!!シェーレさん!!猪野さん!!」
「あっ!!」
恵と悠仁もそれに気づいて走り出す。恵は鵺を召喚し、鵺はシェーレと猪野に向かって突進して弾くことで落下予測地点を大きくずらした。そうすることでマインはシェーレを、悠仁は猪野をキャッチすることに成功する。
「シェーレ!!大丈夫⁉」
「う・・・私のことより・・・猪野君を・・・」
シェーレは至る所に傷を負っているが、致命傷というわけではない。だが猪野の傷の方がひどく、彼はぐったり気を失っている。2人が落ちてきたということは、未だにセルリアンタワーの屋上にいるダニエルとオガミ婆にやられたことを意味している。
●
セルリアンタワー屋上
ダニエル(甚爾)とオガミ婆は術師を入れない帳が上がっていく光景を目の当たりにした。
「・・・粟坂さんはしくじったようですな。帳が上がっていく。さて、これからどうしますかな?私は今からババラの仇を討ちに行きたいところなのですが・・・」
ダニエルの想い人であるババラを殺したのは高専の術師であると思い込んでいる彼は敵討ちに向かうことを提案しようとしている。
「・・・!う・・・おぁ・・・こ・・・これは・・・!な・・・なにご・・・」
するとダニエル(甚爾)は自身の身体に異変が起こったことに気付き、呂律が回らなくなってしまっている。その様子をオガミ婆は気付いていない。
「・・・五条悟と禪院
オガミ婆はダニエル(甚爾)に下にいる悠仁たちを殺すように指示を出した。だが彼女の指示にダニエル(甚爾)は反応しない。そこに違和感を抱いたオガミ婆は彼に顔を向ける。
「・・・?どうした、ダニエル?」
オガミ婆はどうしたのかと思い、ダニエル(甚爾)に声をかけた。すると、彼は口を開いた。
「・・・誰に命令してんだよ・・・ババア」
だがその口調は明らかにダニエルのものではなかった。この口調は、降ろされた肉体の持ち主である甚爾のものであった。オガミ婆はすぐに理解し、彼から距離を取る。目の前の男はダニエルではない。今目の前にいるのは自分が降ろした肉体、伏黒甚爾であると。
「どういうことだ⁉わしはまだ肉体の情報しか降ろしておらん!」
前代未聞の事態が発生したことにオガミ婆は激しく動揺して困惑している。
(そう・・・こういう事態を未然に防ぐため、魂の情報は降ろさんと決めている)
降霊術は霊魂の情報を降ろす際、肉体の情報と魂の情報が分けられており、オガミ婆は暴走する事態を防ぐために肉体の情報しか降ろしていない。それなのに目の前の甚爾は肉体が降ろされただけでなく、自我が宿っており、その自我が表立っている。こんなことは普通はありえないなのだ。・・・『普通』なら。
「・・・降ろす?・・・ああ~、そういう・・・」
オガミ婆の言葉の意味をすぐに理解した甚爾はなぜ自分がここにいるのかということをすぐに理解した。
「よくわかんねぇけど、俺の肉体は特別だからな。このジジイの魂が俺の肉体に勝てなかったんだろ」
つまり、ダニエルの魂は甚爾の超人の肉体に打ち勝つことができず、肉体に宿っていた甚爾の自我が彼の魂をすり潰したのだ。そう、今目の前にいるのは正真正銘、本物の伏黒甚爾なのだ。
「魂が肉体に負ける⁉そんな・・・ありえん!!」
ありえないと言われても、実際に起こってしまっているのだから認めざるを得ない。現にオガミ婆は口では否定していても、体は正直で恐怖で震えあがっている。
「・・・術師は殺せか・・・」
甚爾が一歩を踏み出すと、一瞬でオガミ婆のすぐそばまで辿り着いた。目で追うことができなかったオガミ婆は目を見開きながら、甚爾に顔を合わせる。
「てめぇも術師だろ」
ドグシャア!!!
甚爾は命令に従うわけでも、理由があるわけでもなく目の前のオガミ婆を撲殺した。
●
再び時は遡り、悠仁が大声で叫んだ後のこと。ブラートと
「おーーい!!パンダ先輩!!」
「
「わからねぇ。でも悠仁が嘘つく理由もねぇし、マジだと思う」
「五条だけじゃなく禪院までやべぇって言ってたな。たくっ、どこから信じればいいかわかんねぇよ・・・」
悠仁のあの大声は渋谷全体に響き渡っていたためにパンダや日下部の耳にもしっかりと届いていたようだ。話を聞いた日下部は心底面倒そうな顔で首を鳴らす。
「だが、あの2人が中に入ってもう1時間は経ってるんだ。そのタイミングで降ろされた術師を入れない帳。状況は思った以上に深刻かもしれないぜ。早急に動かねぇと」
「・・・かと言って、外が手薄になんのも違うだろ。見ての通り一般人が何人も逃げ遅れてる。建物の中にも何人かいるかもしれん。一般人を見殺しにするわけにもいかんでしょ」
「うっ・・・確かに、その通りだな」
「ただ、渋谷の状況が変わっていく中で単独行動は危険だ。だからここは1つ、やっぱり別々で行動しないか?俺とパンダは引き続き、一般人の避難誘導を取り仕切る。もちろん一般人は帳から出られねぇが、戦域から逃がしちまえば何とかなる。で、お前らは五条封印の件と禪院の危機を禪院の爺さんに伝えに行ってくれ。事は一刻を争うんだろ?」
「おう!任せてくれ!えっと・・・日下部・・・先生?」
「・・・・・・」
迅速な行動を提案するブラートに対し、日下部は一般人の救出を優先することを主張したうえで別々で行動することを提案する。日下部の言葉に納得する
(な・・・なんだよ・・・その目は・・・。地下に特級呪霊が何体もいるんだぞ?そういう危険なことはお前がやればいいでしょうがよ。俺は絶対に嫌だ。絶対に駅に入りたくない!)
是が非でも特級呪霊が渦巻いている渋谷駅には行きたくない日下部は表でこそ平常を装っているが、内心では無理やり連れていかれないかドギマギしている。
「・・・今戦力を分けるのはどうかと思うが・・・もたもたしてたら
「わかった!」
「言われんでもそうするつもりだ」
ここで言い争っていても何も解決しないため、ここはブラートの方が折れて日下部の提案に妥協する。その姿勢に日下部は内心ではかなり安心しきっている。
「
「おう!パンダ先輩、また後でな!」
「お~」
一般人の保護を日下部とパンダに任せ、
●
渋谷マークシティ
一方その頃、渋谷マークシティ。ここでも改造人間が蔓延っており、レオーネは半獣化した拳で殴り飛ばし、真希は蹴り上げて薙刀で斬りおろして次々と改造人間を蹴散らしていく。そこに伊地知と連絡を取っていた明が帳に入ってきて、野薔薇と共有した情報を告げた。
「伊地知が?」
「新田ちゃんと通話中に襲われたっぽくて・・・多分伏黒たちと別れた後だから、今1人でヤバいかも」
伊地知が襲われたという報告を聞いたレオーネは考えた素振りを見せて、すぐに指示を出す。
「野薔薇は新田と一緒に伊地知のところへ行け!中じゃ携帯使えねぇんだ。補助監督がいないと話になんねぇ!」
外で補助監督が襲われているという状況の中で、真希は嫌な予感がだんだんと込み上げてきている。
(あのバカ2人が負けることはまずないが・・・状況がどんどんきな臭くなってる・・・)
「私と真希はここに残ってこいつらを片付けておく」
「別に私1人でも十分ですよ。てゆーか・・・」
真希はすぐ後ろにいる直毘人に対して冷めた視線を送っている。この班のリーダーである直毘人は戦闘に加わることなく、呑気に胡坐をかいてあくびをしている。
「ふぁ~あ~・・・」
「あのジジイがやる気なさすぎる・・・」
「ああ、確かに・・・」
「おーい、酒!」
「無視しろ」
とことんやる気がない直毘人は酒を持ってくるように言うが、この場の全員が無視する。
「行け!」
「「はい!」」
指示を受け取った野薔薇と明は帳の外へと向かって走っていく。ただこの指示は伊地知の安否を確認するのとは別の思惑もあった。
(・・・帳の外の方がいざという時逃げようがあるからな)
野薔薇をこの戦いの前線から逃がす。そういう意味も込められていることを野薔薇自身は気付いていない。
●
同時刻、禪院班との合流を急ぐ
ドオオオオン!!
その道中、すぐ近くの建物から衝撃が走り、土埃が立ち込めていく。その土埃の中から小から大の様々な大きさを誇る改造人間の軍勢が現れる。
「また改造人間かよ・・・!」
「胸くそ悪いぜ。いったい何人の人間が犠牲になったんだか」
(けど、こんなに大量の改造人間がいるってことは・・・いるんだよな・・・この先に、あいつが)
改造人間を見て
「先を急ぎたいが、こいつらを無視するわけにもいかねぇ。速攻で片付けるぞ!」
改造人間を放置するわけにもいかないため、ブラートは改造人間の群れに突っ込んでいく。それと同時に窓を突き破って現れた改造人間がブラートを襲うように降ってきた。それを感じ取ったブラートは高く跳躍し、自分を襲ってくる改造人間を呪力が込められた拳で殴り倒し、すぐに槍を振るってすぐ近くの改造人間を薙ぎ払う。そして、降下するタイミングを狙って、巨大な改造人間を槍を振り下ろして斬り倒していく。その直後も改造人間は襲い掛かるが、ブラートの前には手も足も出せず、次々となぎ倒されていく。
(何度見てもやっぱすげぇな・・・。よし、俺も兄貴に続くぜ!)
「きゃああああああああああ!!」
後ろで一般人が悲鳴を上げて現れた。恐怖に歪んだ一般人は、数体の改造人間に襲われそうになっている。
「くっ!そうはさせるか!」
それを見た
「ふぅ・・・大丈夫っすか⁉怪我は・・・」
ガッ!!ギュウウゥゥ・・・!!
「ぐっ⁉が・・・あ・・・!」
なんと一般人は
「な・・・なに・・・を・・・!」
何が起きたのかわからず、
(くそ・・・こいつ・・・普通じゃねぇ・・・!やべぇ・・・息が・・・!)
もがくにつれだんだんと強く締め付けられ、呼吸ができなくなり
ズバァ!!!
いよいよ窒息しようとした時、改造人間を片付け終えたブラートが槍で一般人を一刀両断する。真っ二つにされた一般人は『血飛沫をあげず』に左右に分かれて倒れる。
「大丈夫か、
「くっ・・・ゲホッ、ゲホッ!はあ・・・はあ・・・あ、兄貴・・・」
締めつけが緩んだことで咳き込む巽は大きく息を吸って息を整える。
「よく見てみろ、
ブラートに言われるがまま巽は一般人に視線を向ける。一般人は真っ二つにされたも関わらず血が一滴も流れてない。それだけなく、一般人の身体からは何かしらの機械のパーツが溢れていた。つまりこの時点で真っ二つになったこれは人間ではないことを示している。
「あ・・・!」
「よくできちゃいるが、こいつは傀儡。人間じゃねぇ」
「コソコソと高みの見物か?男なら正々堂々、出てきたらどうだ?」
しばらくの沈黙が流れる。すると、ビルの影から「ちっ」という舌打ちが聞こえてきた。
「・・・へいへい、降参降参。たくっ、強い奴とはできれば戦いたくねぇんだけどなぁ・・・」
観念したかのようにビルの影から姿を現したのは、高そうな白い羽コートを着込んでメガネをかけた端正な顔立ちを持った男だ。
(呪詛師・・・!)
「改造人間をうまく利用すりゃ、
「なるほど。傀儡を一般人に模してわざと改造人間に襲わせて気を引く作戦か。よくできた作戦だが、俺には通用しねぇぜ」
「あぁ?」
「俺の熱いハートに、そんなまやかしは効かないってこった」
ブラートの自信満々に言い切ったその発言に呪詛師は心底ウザそうな表情を見せる。
「・・・うっぜ。そういう暑っ苦しいのは大衆には響かねぇよ。必要なのはリアリティ。心臓に釘を刺されるような絶対的な恐怖・・・それを植え付けるリアルな死!それこそが大衆の求める最高の芸術!熱いハート?そんなもん、氷水をかけて消えちまうだろうがよ」
呪詛師、衛宮
「兄貴!」
「呪詛師自体はそこまで強くはねぇ。だが傀儡を使って感情を揺さぶる奴だ。何するかわからねぇ。警戒しろ」
「・・・やれ」
翔琉が傀儡に指示を出したと同時に、傀儡は全員呪具を携え、一斉にブラートに突撃する。
「しゃらくせぇ!」
ブラートは槍を一回転して構え直し、襲い来る傀儡を何体も薙ぎ払い、さらに1体の傀儡の頭を鷲掴みにする。同時に建物内にいた傀儡も現れ、ブラートを挟み撃ちするように突っ込んできた。それに気づいていたブラートは高く跳躍して躱した。数多の傀儡は傀儡同士でぶつかり合い、ブラートはそこから掴んでいた傀儡をぶつかり合いをした傀儡の群れに放り投げて全て破壊する。
スタッ、ガシィ!
着地した時、壊れた傀儡の1体がブラートの足を掴み上げる。そこを狙ってさらに現れる傀儡が出てきて突撃する。ブラートは足を振り上げて傀儡を放り投げて、突っ込んできた傀儡を吹っ飛ばした。
(ちぃ!さすがにこのレベルじゃ足止めにすらならねぇか。なら次の一手だ!こいつらを殺せるような強力な奴を・・・)
「させるかぁ!!」
普通の傀儡では太刀打ちできないと判断した翔琉は次の一手を打とうとコートから小さな人形を取り出す。そのタイミングで傀儡から切り抜けた
「うおっ!危ねぇ!くそっ!」
翔琉はギリギリで青龍刀の攻撃を躱し、
「ぐぁ・・・!!」
強く吹き飛ばされた翔琉は柱に叩きつけられる。
「・・・へっ、へへへ・・・そう殺気立つなよ
だが追い詰められてるにも関わらず翔琉は余裕があるようにニヤついた笑みを浮かべている。
「何が話し合いだ。最初っから話し合う気なんかねぇだろ。話ならお前をとっ捕まえた後でたっぷり聞いてやるよ!!」
当然、話し合いの提案を
「おいおいおい、待て待て待てって!そんなに急かしちまったら・・・」
翔琉はわざとらしさが隠せていないような慌てっぷりを見せている。
ガキンッ!
そこへ、翔琉の前に1体の傀儡が現れ、青龍刀を槍の呪具で受け止めた。目の前に現れた傀儡を目にして、
「・・・おい・・・嘘だろ・・・?」
「・・・そんな急かしちまったらよぉ・・・お友達を殺しちまうだろ?」
「・・・
それもそのはずだ。なぜなら
「いったいどうなってんだ⁉なんで
死んだはずの
「
その傀儡は同じく今は亡き
「・・・っ!」
これがただの傀儡なら抵抗もないが、よりにもよって最愛の友とそっくりなため強い躊躇いを抱いた
「!
「よそ見は禁物だぜ、100人斬りさんよぉ!!」
その様子に気付いたブラートは援護に回ろうとしたが、そんな彼に新たに傀儡が3人対現れる。しかしこの3体は他の傀儡と比べても桁違いの強さを誇る。まず巨漢の傀儡は大剣を片手で振り下ろす。ブラートはその大剣を槍で受け止め、巨漢の傀儡を蹴り飛ばす。そのタイミングで忍者の傀儡と侍の傀儡がブラートを挟み撃ちして刀を振るう。ブラートはその斬撃を器用に逆立ちで躱し、両足を広げて2体の傀儡を蹴り飛ばし、そのまま1回転して翔琉に向かって駆け走る。
「この程度じゃ俺は止まらねぇぞ!」
翔琉まで迫り、ブラートは槍を振るう。
ガキンッ!
だがその攻撃はまたも翔琉を守る老人の傀儡の刀によって阻まれる。その顔を見てブラートは驚愕する。
「!あんたは・・・!」
ブラートは傀儡からいったん距離を取る。
「・・・これは夢か?いや、その顔・・・さっきの太刀筋、俺が1番知っている」
ブラートは目の前の知人そっくりの傀儡を見つめ、ごくりと固唾を飲んで冷や汗をかく。
「・・・
その老人の傀儡はかつてブラートに武術を叩き込んだ師匠であり、後に呪詛師となってブラートに殺された武芸の師範代、
「衝撃的再会だな。こいつはいい絵になるぜ」
因縁深い相手との歪な再会を作った翔琉はニヤニヤした表情を浮かべる。対し、ブラートは冷や汗をかきつつも冷静な笑みを浮かべる。
「・・・なるほどな。わかったぜ、お前の術式」
「ん?」
「お前の術式は人形を依り代にした降霊術だろ?それならこうして死んだ人間が俺たちの前に現れたのにも説明がつく」
「ただ」と、ブラートは続ける。
「わからねぇ点が1つある。なんでお前が俺たちの人間関係まで知ってるんだ?」
ブラートの疑問に対し翔琉はふっと笑みを浮かべてある質問をする。
「・・・なぁ、人間が死んだら最後、何を遺すと思う?」
「?」
「ほら、よくあるだろ?最後にあいつを殺したかったとか、遺された彼女はどうしてるとかそういうの。人はそういうのをなんて呼ぶかわかるか?」
よくわからない質問だが、ブラートは術式と関係あると思い、素直に答える。
「・・・遺言」
「ノンノンノン。答えは『未練』さ。人は誰しも、死んだ時に未練を遺すものさ。死ぬ間際に本音が出るならなおさらだ」
答えを言いながら翔琉は手に取った人形をバッと放り投げる。すると人形に呪力が宿り、人形はぐにゃぐにゃと形を変えていく。そして、最終的には今まで見た一般人そっくりの傀儡が出来上がる。
「さっきのあんたの答えはいい線いってたぜ?俺の術式は死んだ人間が残した彷徨う未練を降ろし、その情報を構築して操る降霊術の一種だ。そいつらも今までの奴らも、さっきみたいに降ろした未練の元の情報で肉体を再現してるにすぎねぇ。で、この術式は俺自身にも降ろすことができる。その場合は構築は起きず、情報だけが俺の頭に流れるのさ」
「!!」
情報だけ読み取れる。その言葉に巽とブラートは目を見開く。その様子に翔琉はニィと歪んだ笑みを浮かべる。
「気づいたようだな?そう、筒抜けなんだよ!何もかも全部!愛したあの人に会いたい、抱きしめたい。あいつが憎い、殺してやりたい。誰もが抱くやり残した未練が世界中を満たしている!なら俺がそれをぶち壊してやるのさ!仲良しこよしの甘ったるい人間関係の中で真の芸術は生まれやしねぇ!愛情がドロドロになるような破壊!憎悪を爆発させるような衝撃!歪みに歪み切った呪いの後にこそ、至高の絵、即ちアートが出来上がるんだ!そうとも、破壊こそが究極の芸術だ!!」
築き上げた人間関係の破壊を喜びとし、それを絵に描くことが芸術だと考える翔琉は高らかに笑っている。
「・・・呪詛師らしい、清々しいねじ曲がりっぷりだな」
「ん?」
ブラートは翔琉の主張を一蹴し、槍を構え直す。
「そう言う腐った性根を叩き直してやるのも、大人の務めってもんだ」
ブラートの言葉に翔琉ははっと鼻で笑う。
「俺をガキみてぇに見て余裕こいてんじゃねぇよ。そのジジイ共の強さは、殺したあんたが1番知ってんだろ?」
「・・・ハッタリが下手くそだな」
「あ?」
ブラートの言葉に翔琉は眉を細める。同時に、巨漢の傀儡がブラートに迫り、大剣を振り下ろす。
ブンッ!バキィン!!
だがブラートは槍を振り上げて大剣を真っ二つにへし折った。そしてそのまま呪力を纏った拳を叩き込み、巨漢の傀儡を粉々に砕いた。そこへ侍の傀儡が刀を構えて接近し、抜刀しようとしている。ブラートはそれよりも早く槍を振るって薙ぎ払い、侍の傀儡を一閃して破壊する。最後に忍者の傀儡が素早く動き、刀の連撃を放つ。ブラートはその全てを躱しきり、突きを放って忍者の傀儡を風穴を開けて破壊した。強者の傀儡が一瞬で破壊された光景を見て、翔琉は絶句した表情を浮かべる。
「・・・っ!!」
「これがあのジジイ共の力か?少なくとも、生前の方が断然強かったぜ」
「くっ・・・
翔琉は自分の護衛に回した
「ちっ・・・!」
ブラートは咄嗟の判断で投擲をやめ、
(くっ、さすがは師匠ってところか。3分の1の力でも、刃物系に強いインクルシオに傷を付けやがった。だが・・・)
ドォォォン!!
「・・・やっぱりあんたは傀儡、偽物だよ。本物の
バラバラになった
●
一方その頃、ブラートから離れてしまった
「
これが翔琉の術式であるのは理解している。死んだはずの友人が今目の前にいる。そう考えだすと楽しかった思い出が一気に蘇り、なかなか反撃することができないでいる。戸惑っている間にも
「が・・・!」
壁に叩きつけられた
(やべぇ・・・!早く反撃しないと・・・!でも・・・俺が
迷っていても傀儡には情けなど持ち合わせない。
が、いつまでたっても痛みが来ない。恐る恐る目を開いて見ると、
[
「!!
[
「・・・っ!」
自分たちを壊してくれ。最愛の友人からそんな言葉を聞いた時、
「バカ言うな・・・俺が・・・お前らに対して・・・そんなこと・・・」
[俺たち自身がもうわかってるんだよ。本当の俺たちはもう死んでいて、人形の俺たちはあいつに操られてることくらい。この自我も、すぐにあいつの命令で塗りつぶされちまう・・・!]
[だから・・・そうなる前に、私たちを壊して・・・]
術式で動いている以上、2人の言うとおり今破壊しなければ自我はすぐに潰されて
「俺には・・・無理だ・・・」
[
[だからさ・・・頼むよ・・・。俺たちに、こんなダセェことさせないでくれ・・・。あのクズ野郎の言いなりになってダチを殺すなんて・・・耐えられねぇ・・・]
「・・・っ!」
[だから・・・]
[頼む・・・]
●
ブラートから逃げた翔琉はビルの中に隠れ、周りに人形を並べて未練を降ろし、次々と傀儡を増やしていく。
「チクショウ・・・予想以上だ・・・あの鎧野郎・・・。だから前線に出たくなかったんだ・・・」
いろいろ愚痴をこぼしているが、翔琉はまだ笑みを浮かべる余裕はあった。
(まぁいい。おかげで術式の開示はできた。これでもっと強力な未練を降ろして・・・)
ドオオオオン!!
「うおあああああ⁉」
すると、衝撃と共に数多の傀儡がビルを突き破って飛ばされ、翔琉の傀儡が諸共吹っ飛ばされる。突き破った穴に視線を向けると、そこには怒りの形相を浮かべる
「・・・マジかよ・・・。お前マジで友達を殺したのか⁉イカレてやがる!!」
「殺しただと?そういう風に仕向けたのはお前だろ」
翔琉の言葉に
「人の痛みと弱さをつけ込んで嘲笑うクズ野郎が。その腐った性根、俺が叩き直してやる!」
「よく言った
そこへブラートが窓から入ってきて、
「ちょ・・・待て待て待てって!俺が悪かった!俺はこの件から降りる!あのおかっぱの目的も全部話す!だから・・・落ち着けって!な⁉な⁉」
「その話は!」
「おしおきの後だ!」
「うわああああああああああああああ!!!!」
翔琉の必死な投降も聞かず、
ピキッ、ドゴオオオオオオオン!!
すると、突然天井にひびが入り、天井が崩壊した。その瞬間、何かが降りてきて両者の間に入って
「「なっ⁉」」
「へ・・・へへへ・・・どうやら神様はまだ俺を見放さなかったみたいだな・・・!」
何かの登場に翔琉は冷静さを取り戻し、笑みを浮かべる。
「俺の術式はある程度時間が必要でな。強い術師であればあるほど、降霊に要する時間が求められてくる。けど、あんたに術式を開示したおかげで、それが短縮された!そしてたった今、最強の兵士が降臨したんだよ!もうお前らは終わりだ!」
自信満々に言い放った直後、下りたそれは今まで感じたことのない強大な呪力を放った。土煙から出てきたのは、耳にヘッドギアを身に着け、アイマスクで目を隠した橙色の短髪の女の傀儡だ。
「さあ、思う存分蹂躙しろ!!
その名はマリー・ユビキタス。生前では