呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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鈍刀

都心メトロ渋谷駅13番出口(帳外) 21時44分

 

1級でしか通らない申請を済ませるために伊地知の元へ向かう七海は思いふけっている。

 

(己の不甲斐なさに腹が立つなどということは、今までも、そしてこれからも、私の人生ではありえない)

 

そんな彼が目にしたのは、血を流して倒れている伊地知の姿であった。

 

(ただひたすらに、この現実を突きつけてくる諸悪を・・・ただひたすらに・・・)

 

彼の倒れている姿を見た七海の脳裏に、亡くなった灰原の遺体が思い浮かび、その直後にそれが原因の1つとなり、呪詛師となった黒女(くろめ)のやつれた顔が思い浮かび、こめかみが浮かびあがる。

 

「・・・なめやがって」

 

 

都心メトロ明治神宮前駅B5F渋谷駅線路上  22時 2分

 

悠仁とマインを外に出して、憂憂と共に残った冥冥は呪詛師、蝦名と戦っていたのだが、結論を言えば冥冥の圧勝。使役していた呪霊は祓われ、蝦名自身も片足を斬り落とされている。蝦名は冥冥から逃げるように地面を這いずる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「知ってるよね?私の術式。鴉を操る。それだけだよ。弱いよね。だから若い頃はわざわざ高い金を出してまで皇拳寺に入門して自分を必死に鍛えたよ。術式なしで戦えるようにね」

 

それに対し冥冥は斧の呪具を片手で軽々と持ち上げ、自分の身の上話をしながらゆっくりと歩いて蝦名に近づく。

 

「無駄じゃなかった。こうして君を圧倒しているとそう思える」

 

「やめろ!俺はもうこの件から手を引く!だから、助けてくれ!」

 

「静かに!」

 

蝦名が命乞いをしようとした時、憂憂に咎められる。

 

「まだ姉様の話の途中です」

 

「あっ・・・」

 

蝦名が黙ると、冥冥は続けて語る。

 

「自分に言い聞かせた。術師の真価は術式ではないと。でもね、限界が来たんだ。身体能力も呪力による肉体強化も延々と向上するわけじゃない。そんなことができるのは『羅刹四鬼』と呼ばれるイカレ集団だけさ。私の同期も元はその羅刹四鬼でね。術式なしで己の身体能力だけで化け物になり、私を差し置いて1級術師にまで上り詰めた。挫けたさ!挫けたからこそ再び自らの術式と向き合うことで、私は1級術師として、花開いたのさ!」

 

パチパチパチパチ!

 

冥冥が1級術師になった経緯を語り終え、憂憂は感動の拍手を彼女に送っている。蝦名は何の話かよくわからずポカンとしている。

 

「・・・拍手を」

 

「あっ・・・」

 

パチ、パチ、パチ・・・

 

憂憂に拍手を強要され、蝦名は戸惑いながらも拍手を送る。

 

「・・・じゃあ、殺すね」

 

「えっ⁉」

 

「話して時間潰したかっただけだし」

 

「すいませんでした!!!」

 

自分を殺しにかかろうとする冥冥に蝦名は土下座をしてまでの必死の命乞いをする。

 

「もう悪さはしません!!だから命・・・命だけは!!」

 

蝦名の必死の命乞いに冥冥は立ち止まり、憂憂に1つの質問をする。

 

「憂憂。命の価値・・・命の重さは何に比例すると思う?」

 

「もちろん!どれだけ姉様にとって利用価値があるかです!」

 

「うふふ・・・ありがとう」

 

上出来と言わんばかりの笑みを浮かべて、今度は蝦名に顔を向ける。

 

「君は?」

 

「え?お・・・俺は・・・えっと・・・」

 

意味を全く理解できていないのか、それとも意味を理解して考えているのか。どっちでもいい。即答できない時点で、冥冥の答えは決まっている。

 

「命を狩る者がその天秤を即答できない。そんなだから負けるんだよ」

 

冥冥は蝦名に近づき、斧を大きく持ち上げる。

 

「ちなみに私にとっては、用益潜在能力そのものが、命」

 

そう言って冥冥は悠々と斧を蝦名に向けて振り下ろした。

 

 

同時刻、渋谷の街のビルの中。翔琉が長い時間をかけて呪詛師、マリー・ユビキタスの未練の降霊に成功したことにより、傀儡に宿った未練が彼女の生前の姿を構築し、(たつみ)とブラートの前に姿を現した。マリーの登場に2人は冷や汗をかく。

 

(なんだこいつ・・・すげぇプレッシャーを感じる・・・。ていうか・・・ユビキタス?どこかで聞いたような・・・?)

 

(たつみ)はユビキタスという名に対して最近どこかで聞いたことがあるかのように思案する。

 

(あの呪詛師・・・逃げるのをやめてこの傀儡に勝負をかけたか・・・。いや、それよりも・・・なんなんだこいつは・・・?こいつから溢れ出る呪力・・・常人のものじゃねぇ!)

 

ブラートが冷や汗をかいてプレッシャーを感じている理由。それはマリーから溢れ出る呪力そのものだ。どんな人間でも少なからず呪力は備わっているもの。自分が相手をした玄静(げんせい)たちの傀儡だって呪力が宿っていた。その呪力が、術師のものと比べても、建物を覆い尽くすほどに大きいのだ。しかも恐ろしいことに、これで3分の1のものだというのだ。

 

(これほどの呪力・・・乙骨レベル・・・いや、これで3分の1なら生前はもっと・・・!呪力、立ち姿からしてわかる!こいつは・・・特級レベルだ・・・!)

 

ブラートは呪力からだけでなく、マリーの佇まいから彼女がただものじゃないとすぐに理解した。

 

「び・・・ビビってられるか!何かされる前に先手を・・・」

 

ヒュンッ!

 

「「っ⁉」」

 

(たつみ)が牽制として先に動こうとした時、マリーは一瞬で(たつみ)の背後に回り込んだ。

 

バキッ!!

 

「ぐは・・・!」

 

(たつみ)が振り返った瞬間にマリーは彼の顔面に拳を叩き込み、胸倉を掴み上げた。

 

ブンッ!!ヴォン!!ドガアアアアアン!!

 

「うあああああああああ!!!」

 

そして、軽々と(たつみ)を持ち上げ、力を込めて彼をオフィステーブルに投げ飛ばした。

 

(たつみ)ぃ!!」

 

ヒュンッ!ドンッ!

 

ブラートが声を上げたと同時に、マリーは彼の懐に入り、呪力を纏った拳を叩き込んだ。インクルシオは打撃を確かに抑え込んだ。だが・・・

 

「ごはっ!!」

 

どういうわけか鎧の下のブラート自身に血反吐を吐くほどのダメージを与えている。

 

(打撃は確かに抑えたが・・・奴の呪力が内部に響く!!奴の呪力が、インクルシオの防御力を完全に無視してやがる!!)

 

その原因はマリーの呪力が凄まじいせいでインクルシオの防御力が意味を成さなかったことにある。つまりマリーの攻撃は、インクルシオでは防御不可能ということだ。

 

ドガガガガガガガ!!

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

マリーは手を休めることなくブラートに拳の連撃を放ち、彼にダメージを蓄積させていく。そして・・・

 

ドゴオン!!!

 

「ぐあああああ!!!」

 

最後の強力な打撃をもらい、ブラートは大きく吹っ飛ばされて壁にめり込まれる。

 

「ははははははは!!これがマリー・ユビキタスか!!すげぇ、すげぇぜ!!五条が封印された今!マリーこそが最強だぁ!!!」

 

ブラートでさえも圧倒するほどのマリーの力を目にした翔琉は勝利を確信したかのように大きな笑い声をあげている。

 

 

一方その頃、セルリアンタワー前。悠仁、恵、マインの3人はダニエルとオガミ婆に敗れたシェーレと猪野の怪我を診ている。

 

「シェーレ・・・あんた大丈夫なの?」

 

「私は大丈夫です。そこまで重傷というわけではありません」

 

シェーレの方はダメージこそあるものの、動けないほどの怪我は負っていない。

 

「それより猪野君の方は・・・」

 

「大丈夫・・・じゃないですけど、死んではいません」

 

「よかった・・・」

 

猪野は死んだわけではないとわかって、シェーレは少し安心した顔を浮かべている。だが誰が見ても彼の怪我はひどい。こんなズタボロの身体では動けるわけがない。シェーレに怪我を負わせ、猪野を重症負わせたことに怒り、悠仁はまだダニエルとオガミ婆がいるセルリアンタワー屋上を見上げる。

 

「ちょっと殴ってくる!」

 

「虎杖!気持ちはわかるけど抑えなさい!あたしたちの最優先事項は何⁉」

 

「・・・五条先生と赤女(あかめ)先生」

 

「帳は上がった。上の敵はもう逃げた後かもしれないでしょ」

 

マインに諭された悠仁は冷静を取り戻すために軽く息を吸い込む。これで少しは気分が落ち着いた。応急処置を済ませたシェーレは立ち上がり、すぐに指示を出す。

 

「恵、あなたは1度外に出て猪野君を家入さんの元へお願いします。悠仁とマインはこのまま私と一緒に渋谷駅まで向かいましょう」

 

このシェーレの指示には悟、赤女(あかめ)の救出の他にも別の意味があった。それは、降霊術によって蘇った甚爾との鉢合わせを避けることだ。

 

(あの男は危険すぎる。あれを3人に会わせるわけにはいきません・・・!)

 

「シェーレ、けどその怪我で・・・」

 

「猪野君の分まで、やるべきことを最後までやり遂げたいんです。でなければ、七海さんに格好がつきません」

 

シェーレを心配するマインだが、彼女は七海の指示を最後までやり遂げると主張して意見を曲げる気はなかった。

 

「・・・わかった。けど、無理はしないでくれよ。俺が守るから」

 

「悠仁・・・ありがとうございます」

 

悠仁の気遣いにシェーレは優しい微笑みを見せている。

 

「伏黒。猪野さんを頼む」

 

「ああ。でも・・・」

 

「死んだら殺す・・・だろ?」

 

悠仁を気遣う恵だったが、悠仁は問題ないと言わんばかりの笑みを浮かべて、以前恵言われたことを口に出す。

 

「心配すんなって。シェーレやマイン先輩もいるし、メカ丸だっている」

 

「ああ、そういえばいたわねこいつ。ずっと無言だったから忘れてたわ」

 

(まぁ、メカ丸はもうずっと反応がないんだけど・・・)

 

ずっと悠仁のポケットの中にしまわれていたメカ丸は戦闘中から今もずっと反応がなく口も開かない。

 

「わかってるならいい。後でな」

 

「応!」

 

恵は鵺に乗せた猪野と共に帳の外へと向かい、悠仁、マイン、シェーレは目的地である渋谷駅へと先へ急ぐのであった。セルリアンタワーの屋上でオガミ婆の降霊術の問題が発生しているとは知らずに。

 

 

一方その頃、渋谷の街のビルの中。マリーに吹っ飛ばされた(たつみ)はゆっくりと立ち上がり、彼女を見据える。

 

(あ・・・あの兄貴までぶっ飛ばしちまうなんて・・・!いったい何者なんだ・・・⁉力の差がありすぎなんてレベルじゃねぇ・・・!早く離れないと・・・殺されちまう!!)

 

マリーの圧倒的実力差を前にして、(たつみ)はすぐに逃げなければという思想に駆られる。だが、下手に動いてしまえば、確実に殺されてしまう。どうすればいいのかと頭を悩ませる。すると、ブラートが起き上がり、(たつみ)に指示を出す。

 

(たつみ)。ここは俺が奴を引き付ける。お前は隙を見て逃げて、急いで禪院の爺さんたちと合流してくれ」

 

「兄貴⁉」

 

「これしか方法がねぇんだ。奴はあまりにも強すぎる。2人同時に逃げ出すのは無理だ」

 

「だ、だけど・・・」

 

ブラートを圧倒するほどの実力を持つマリー。それを相手に1人で挑もうとするブラートに(たつみ)は心配する。

 

「なぁーに、さっきは油断しただけだ。俺の強さは、お前が知っているだろ?俺を信じろ、(たつみ)!」

 

「兄貴・・・!」

 

自信たっぷりに胸を張るブラートの力強さに(たつみ)の不安は一気に晴れ、頼もしい笑みを浮かべる。

 

「わかった!けど、危なくなったらちゃんと逃げてくれよ!」

 

「おう!そっちこそ、タイミングは逃すなよ!チャンスは1度だけだと思え!」

 

「おう!」

 

方針が固まり、ブラートは槍を回転させて構える。

 

「熱苦しいなぁ!もううんざりだ!マリー、さっさととどめ刺しちまえ!」

 

翔琉はいい加減ウザそうにしながらマリーにとどめの指示を出した。その声と同時にマリーはゆらりと動く。その瞬間、ブラートが槍を構えて突きを放った。マリーは両手で槍を受け止めて、突きを止めてみせた。だが止められることは想定していたブラートは呪力を纏った蹴りをマリーに放った。蹴りをくらったマリーは後退る。

 

「おおおおおおおお!!」

 

そこからブラートはマリーに反撃の隙を与えないように接近し、突きの連撃を放つ。マリーは後退しながら突きを全て躱していく。

 

バアン!

 

そしてマリーは最後の突きを掌底で地面に叩きつける。だがブラートはそこから逆立ちをして蹴りを放つ。蹴りをまともに受けたマリーは体が仰け反る。そこを好機と見て(たつみ)はビルの外へと向かって走っていく。

 

「!!ガキが逃げるぞ!!マリー、奴を逃がすな!!」

 

それに気づいた翔琉はすぐさまマリーに指示を出した。

 

ガシッ!

 

しかしマリーが動こうとした時、ブラートは逆立ちのまま両足で彼女の首を掴み上げる。

 

「よそ見をするなよ。俺がたっぷりと、胸を貸してやるからよぉ!!」

 

ドォォォン!!

 

ブラートは倒れ込むようにマリーを持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。ブラートがマリーを抑え込んだおかげで(たつみ)はビルの脱出に成功する。そしてブラートはマリーを地面に叩きつけた後、でんぐり返りからの後回転でマリーから距離を取る。

 

ヒュンッ!

 

「は!!」

 

だがマリーは一瞬でブラートの背後を取った。

 

ドゴォ!

 

「ぐお!!」

 

ブラートが振り返るより先にマリーは呪力を纏った裏拳を放つ。打撃をくらったブラートは仰け反る。そしてマリーは振り返った瞬間に呪力を纏った拳をブラートの顔に向けて放った。

 

ドオオオオオン!!!

 

「ぐあああああああああああああ!!!」

 

打撃を受けたブラートは強く吹っ飛ばされ、壁に激突する。そしてその衝撃で壁が崩壊し、瓦礫の雪崩がブラートに降り注ぐ。

 

「ちっ!ガキは逃げたか・・・。まぁいいや。先に100人斬りを殺してその死体を持って行きゃ、嫌でも顔を出すだろ。いや?あえて100人斬りの未練を降ろして、ぶつけさせる方がいい絵になるなぁ。くくく、次の作品のテーマが決まりそうだ」

 

翔琉はあくどいことを思い浮かべて、憎たらしく笑っている。だが崩壊した壁を見て、その笑いはすぐに止まった。なぜなら瓦礫に埋もれたはずのブラートの姿がどこにもなかったからだ。

 

「!いねぇ!埋もれたのか?いや、鎧を着込んでんだ。それはありえねぇ。あの野郎、逃げやがったな!」

 

翔琉は壁の崩壊を利用してブラートが逃げたと判断した。

 

「マリー!!100人斬りを追え!!あいつから殺してガキを追い詰めるぞ!!」

 

歯ぎしりを立てる翔琉はすぐにマリーに指示を出した。だがマリーは翔琉の指示を聞いても全く動こうとはしなかった。

 

「おいどうした!!?命令だ!!今すぐ追え!!俺の命令から抗うことなんてできねぇんだよ!!」

 

翔琉は必死に命令を言い放つが、マリーは翔琉の指示には従わず、自身のアイマスクをゆっくりと外した。

 

「・・・ワンワンワンワンと・・・やかましいのよ・・・クソガキ!!」

 

「!!!???」

 

マリーは翔琉に顔を向けて、輝く橙色の瞳で鋭く睨みつけた。自分の命令に反発するどころか逆に殺気を感じ取って、翔琉は自身の術式の異常事態に気付いて彼女から距離を取る。

 

「おい・・・どういうことだよこれ・・・?俺は魂まで降ろした覚えはねぇぞ!!?」

 

あってはならない事態が起こって翔琉は激しく困惑している。

 

(そうだ・・・俺が降ろせるのは未練だけだ・・・。肉体は情報で構築してるだけ、例え自我が宿っても、魂が宿ることはねぇ・・・。なのになんで・・・こいつに魂が宿ってるんだよ!!?)

 

自分の術式の制御が効かなくなるのは魂が宿る時だけだ。だがそもそも翔琉の術式は未練を降ろすことだけしかできない。それがなぜかマリーの傀儡に彼女の魂が宿っている。ありえない事態に翔琉は動揺を隠せない。

 

「・・・降ろす?ああ、なるほど。この身体はそういうことね」

 

マリーは翔琉の様子を見て自分がなぜ生き返ったのか、なぜ傀儡の体を手に入れたのかを理解した。

 

「死んだ人間の未練は言ってみれば負の感情、呪力の源ね。私自身もわかってないのだけど、私の呪力は特別でね。この身体に宿った私の呪力が私の魂を引き寄せたのよ」

 

要約すればマリーの呪力と魂は一心同体。傀儡に宿った彼女の呪力が、彷徨う彼女の魂を引っ張り上げ、傀儡の身体に定着したのだ。

 

「呪力が魂を引っ張った・・・?それこそ降霊術じゃねぇか・・・。そんなのありえねぇ・・・いや・・・あっちゃならねぇ!!」

 

あってはならない事態に翔琉は叫びをあげる。彼の表情は恐怖で引き攣っており、体もガタガタと震えている。

 

「・・・術師共を殺せ、ねぇ。それは私の望みだから、聞いてあげないこともないわ」

 

ガシィ!!

 

「んん!!?」

 

「ただし」と言い放った直後、マリーは一瞬で翔琉の前に立ち、彼の口元を鷲掴みにする。そして、マリーは凶悪な笑みを浮かべて・・・

 

 

「望み通りの結果になるかは、保証しかねるけど」

 

 

ドグシャア!!!!

 

マリーは呪力を纏った拳を放ち、翔琉の頭蓋骨をかち割って彼の命を奪い取っていった。

 

 

都心メトロ明治神宮前駅B5F渋谷駅線路上

 

同時刻、冥冥は宣言通り、蝦名の命を奪い取っていった。すると憂憂はこの先に張られている術師を入れない帳が上がった気配を感じ取っていた。それは冥冥も同じだ。

 

「姉様」

 

「帳が上がったようだね。五条悟と禪院赤女(あかめ)・・・あの2人に貸しを作るなんて、一体いくらになるのやら・・・胸が躍るね」

 

冥冥は悟と赤女(あかめ)に貸しを作った際に得られる利益がどれくらいの価格になるのかと想像すると、気分が上がるように笑みを浮かべている。

 

 

都心メトロ渋谷駅B5F新都心線ホーム

 

一方その頃、1人残って獄門疆を見張っているエスデスはさすがに暇なのか氷のチェスを作り上げ、駒を動かして今の渋谷の戦況の予想を立てている。すると、術師を入れない帳が上がった気配を感じ取った。

 

「・・・思っていたより早かったな」

 

エスデスは相手陣営の駒を動かし、その後に自分陣営の駒を手に取り、動かした駒の前に置いた。

 

「・・・やれやれ・・・どこまでも趣味の悪い奴だ」

 

こちらに向かってくる気配と、その気配に向かっている気配も感じ取っているエスデスはふっと笑みを浮かべ、自分陣営の駒を新たに追加し、盤面に置いた。

 

 

21時 40分 松濤文化村ストリート(帳外)

 

レオーネの指示によって伊地知の様子を確認しに向かっている野薔薇と明は渋谷駅13番出口へと目指して走っている。

 

「新田ちゃんストップ!」

 

「!」

 

曲がり角を曲がった時、その先にある呪力を感じ取って明にストップをかけた。

 

「ああ~!スーツの女の子だ~!」

 

すると、建物の影の中より、1つの人影がこちらに近づいてきた。

 

「嬉しいなぁ。男ばっかで飽き飽きしてたの」

 

姿を現したのは呪詛師、重面春太であった。

 

「新田ちゃん隠れてて。すぐ終わるから」

 

野薔薇は明を守るように前に出て、トンカチを構える。すると野薔薇は春太に聞こえないように小声で明に指示を出す。

 

Bunkamura(ブンカムラ)に隠れるフリをしてそのまま東急を通り抜けて。口ぶりからして伊地知さんはあいつにやられたのかな。だとしたら急がないと)

 

(っす。釘崎さんも無理しないで)

 

「コソコソ話?気になるじゃん!」

 

春太は持っていた手の柄の剣を野薔薇たちに放り投げる。野薔薇は迫ってきた剣をトンカチを振るって弾き落とす。そのタイミングで明はBunkamura(ブンカムラ)へと走っていき、野薔薇は春太に接近する。

 

「あ~あ、隠れちゃった」

 

野薔薇は走りながら釘を取り出し、呪力を纏わせてトンカチで打ち放つ。春太は迫ってきた釘を難なく躱す。春太の懐まで近づいた野薔薇はトンカチを振るって殴ろうとしたが、これも躱されてしまう。

 

「危なっ!」

 

「自ら丸腰とか舐めプかよ!」

 

野薔薇は追撃でトンカチを振るって殴りかかるが、春太はこれも躱して逃げるように動く。

 

「あっ、君前会ったね」

 

(呪具頼りの奴は中長距離タイプが多い。攻めろ、私!)

 

逃げる春太を追いかけ、野薔薇はトンカチを振るい続ける。

 

「どちら様ですか~?ふん!」

 

野薔薇の振るうトンカチを春太は避け、彼女から距離を取る。距離を取られた野薔薇は釘を取り出し、トンカチを振るって釘を打ち放つ。春太は迫る釘を広告版やガラスを盾にしながらやり過ごす。

 

「釘飛ばすとか危ないでしょ」

 

「もっと危なくしてやるよ!」

 

逃げる春太を野薔薇は追いかける。

 

しかしその間、放り投げられた剣は動き出した。剣は野薔薇が気づいていない隙にぴょんぴょんと跳ねながらBunkamura(ブンカムラ)に入っていった明を追いかける。十分な距離まで追い詰めた瞬間、剣は明の足を狙い、助走をつけて跳んだ。

 

ザシュッ!

 

「痛っ!」

 

剣の切っ先が足に直撃。足を切られた明は転んでしまう。最悪なことに、その瞬間を春太に目撃されてしまった。

 

「あっ!なんだ!隠れてたんじゃなかったの?」

 

春太は野薔薇を相手にせず、まっすぐに明の元へと向かって行く。春太の狙いに気付いた野薔薇はすぐに彼を追いかける。

 

「新田ちゃん!」

 

「ニヒヒヒヒッ!」

 

ドガァ!!

 

「シュート!」

 

「ぐっ!」

 

春太は蹲る明の腹部目がけて蹴りを放ち、彼女を蹴とばした。

 

「てめぇ!!!」

 

激昂する野薔薇は攻撃を仕掛けようとする。すると春太は振り向き、下りてきた剣の取っ手を握りしめる。

 

(はあ?さっき落とした剣?なんで上から?)

 

野薔薇はようやく剣の存在に気付き、咄嗟に立ち止まって春太が振るう斬撃を躱す。

 

「ふんっ!」

 

春太から距離を取った野薔薇はトンカチを振るって釘を打ち放つ。春太は向かってきた釘を剣を振るって弾いた。弾いた釘は天井に突き刺さる。

 

「残念!」

 

「『簪』!」

 

ドガアアアン!!

 

野薔薇は芻霊(すうれい)呪法、簪を発動。天井に突き刺さった釘が呪力を通して衝撃が走り、崩壊。天井の瓦礫が春太に向かって降り注ぐ。これに対し春太は避ける行動は起こさず、清々しい表情で両手を広げる。そして・・・

 

ドオオオン!!

 

何も起こることなく、春太はあえなく瓦礫に埋もれてしまった。

 

「新田ちゃん!」

 

野薔薇が明に駆け寄ろうとした時・・・

 

ドカァ!!

 

春太が持っていた剣が飛んできて、取っ手の手が拳を作り上げ、野薔薇の顔を強く殴りつけた。この衝撃によって野薔薇は顎が外れるだけでなく、脳が揺さぶってしまい、地に膝をついてトンカチを落としてしまう。

 

「いや~、君ほんと危ないことするよね~」

 

土煙の中から出てきたのはほとんど無傷の状態の春太であった。

 

「おっ?顎入った?立てない?ねぇ、立てない?ねぇってばぁ~」

 

春太は野薔薇を煽りつつ、彼女の顔を覗き込もうとする。

 

「・・・君さ、前に会った時よりすごく強くなったでしょ?俺最初気付かなかったもん。でもさ~、ただ強いだけで勝てる世界じゃないんだよ~?特に俺の術式が絡むとね。つっても、俺も俺の術式のことよくわかってないんだけど」

 

剣の取っ手は春太に近づき、彼はその剣を手に取る。

 

「さて・・・どっちから殺そうかな?」

 

「・・・て・・・てめぇらは・・・」

 

「ん?」

 

(回れ口!少しでも時間を稼げ!)

 

野薔薇は顎が痛みながらも少しでも時間を稼ごうと口を開く。

 

「何がしてぇんだよ」

 

「ああ~、なんか、五条悟封印して~、禪院赤女(あかめ)を殺したいんだって」

 

「ん・・・てめぇに聞いてんだよ」

 

「あっ・・・俺?う~ん・・・サッカーが大好きで大得意の人がさ、サッカーのない世界に生まれたら、どうするかな?・・・はは、ダメだ、うまく言えないなぁ・・・」

 

春太がしゃべっている間に明は這いずりながらもこの場を離れようとし、野薔薇は彼に気付かれないようにトンカチを手に取る。

 

「ていうか、理由ってそんなに大事?いいじゃんいいじゃん!楽しいじゃん!俺が楽しければそれでいいじゃん!」

 

ザシュッ!!

 

「ああっ!!」

 

明が逃げようとしているのに気づいているのか春太は彼女の足を剣で突き刺した。

 

「君もそう思わない?」

 

「やめろ!!うっ・・・」

 

野薔薇は声を上げるが、顎が外れてるせいで痛みが走る。

 

ザシュッ!!ザシュッ!!

 

「あああ!!」

 

「ええ~~?やめさせてよ~。俺にこれ以上、罪をきゃさ・・・嚙んじゃった!」

 

彼女の声もどこ吹く風、春太は舌を嚙みはしたが煽りながら明の足を刺し続ける。

 

「んっんん・・・たんが絡んで・・・」

 

「ふん!」

 

「うおっと!」

 

野薔薇は立ち上がり、手に取ったトンカチで殴りかかったが、春太は避ける。それでも野薔薇は春太に殴りかかろうとする。

 

ガッ!

 

「あっ!」

 

「フラッフラじゃん」

 

だがあまりにもフラフラな動きだったため少し足を引っ掛けただけで野薔薇は転んでしまう。それでも彼女は立ち上がり、攻撃を続けようとする。

 

「うおおおおお!」

 

「はいはい」

 

もう避ける必要もないと判断した春太は向かってくる野薔薇に向けて剣を振り下ろそうとする。

 

ガッシャアアアアアアン!!

 

すると突然大きなガラスの割れる音が鳴り響いた。野薔薇と春太は音の方に視線を向ける。そこにはガラスを壊して中に入ってきた人物がいた。

 

「ふんっ!」

 

「うっ・・・!」

 

春太は野薔薇を蹴り飛ばし、ガラスを割って入ってきた人物に視線を向ける。

 

「・・・いいんだっけ?黒じゃないスーツも殺して」

 

ガラスを割って入ってきた人物は無表情ながらもどこか怒りを浮かべている七海であった。七海は自身のネクタイを外して自分の拳に巻き付ける。

 

(確か伏黒と渋谷に来てた・・・七海さん?)

 

ネクタイを拳に巻き付け終えた七海はゆっくりと歩み、春太に近づく。

 

「いやいや状況見てよ。何勝手に動いてんの?女の子が人質になってるでしょ?」

 

春太が剣の切っ先を明に向けようとしたが、当の本人は引きずりながらもエスカレーターに乗って難を逃れている。

 

「あ?ああ~~!逃げちゃった・・・」

 

春太がそれに気づいて振り返った時、彼の背後にはすでに七海が立っていた。

 

「仲間の数と配置は?」

 

七海は静かな口調で春太に問いかける。春太はすぐに振り返り、剣を振り上げて七海に斬撃を与える。

 

「知らない」

 

春太はさらに七海を蹴り上げる。が、七海は蹴られても全く微動だにしない。いや、それどころか先ほど受けた斬撃も効いておらず、切り傷が全くない。

 

(えっ?壁?ていうか・・・斬れてない?)

 

「仲間の数と配置は?」

 

七海は語気を少しずつ荒くして同じ質問を繰り返す。剣も効かない、打撃も効かない。そんな相手を前にして春太は震え始める。

 

「・・・知らな・・・」

 

バキィ!!!!ガッシャアアアアアン!!!!

 

同じ答えを返した瞬間、七海は術式を使った拳を春太に叩き込んだ。拳を受けた春太は吹っ飛ばされ、ショーケースに叩きつけられる。拳を受けた春太は気づいた。今の攻撃は、自分の術式がなければ死ぬ一撃だったと。しかもよくてみれば、春太の目元のペイントがどういうわけか減っているようにも見える。

 

(えっ⁉死んでた・・・俺の術式がなければ死んでた!に・・・逃げなきゃ・・・)

 

春太は七海が敵わない相手だとわかり、すぐに逃げようとしたが、あまりのダメージで機敏に動けない。その間にも七海は春太に近づき、彼の髪を掴んで引っ張り上げ、サングラス越しで睨みつける。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

 

「仲間の・・・数と配置は?」

 

 

「だ・・・だから知らない・・・」

 

 

ドオオン!!!!

 

 

「がはっ・・・!!」

 

同じ答えしか返さない春太に七海はまた術式を使った強力な拳を叩き込んだ。春太は血反吐を吐き、倒れる。しかもペイントがまた1つ消えていた。

 

「・・・ニヒッ」

 

直後、春太は意地の悪い笑みを浮かべている。すると、七海の背後から彼の剣が迫ってくる。

 

カァン!!

 

だが迫った剣は野薔薇が打ち放った釘で弾かれ、さらに取っ手の手が天井に釘が撃ち込まれる。

 

「させねぇよ!」

 

「空気読めよ!!」

 

攻撃を妨害された春太は憤慨する。尤も、野薔薇の援護がなくても七海は気付いていたようだが。

 

ガッ!

 

「ぐっ・・・あ・・・」

 

七海は春太の首を掴み、持ち上げる。

 

「・・・ここに来るまで何人もの補助監督が殺されていました」

 

 

あなたですね?

 

 

七海から放たれる圧倒的な威圧感に、春太はついに耐え切れず、恐怖で涙を流している。

 

「う・・・うう・・・ご・・・ごめんなさい・・・」

 

 

ドゴオオオオン!!!!!

 

 

七海は手を放した瞬間、もう片方の拳で春太を殴り飛ばした。春太はいくつもの建物を突き破り、最後には大きな看板に押し潰された。

 

(レベルが違う・・・!これが・・・1級術師!)

 

野薔薇は七海の力を目の当たりにして、1級術師の力がどういうものかを思い知り、驚いている。

 

「新田さんの所へ向かいましょう」

 

事を済ませた七海は冷静に、負傷した明の元へと向かって行った。

 

 

都心メトロ明治神宮前駅B5F渋谷駅線路上

 

一方その頃、冥冥と憂憂は先へと進んでいたが、その先で待っていた者を見て立ち止まる。

 

「いやはや・・・君か」

 

「・・・お久しぶりです、冥さん」

 

冥冥たちの前に立ち塞がるのは夏油傑・・・その皮を被った何者かである。

 

「刺客を放っておいてよく言うよ、夏油君」

 

目の前に現れた夏油傑を前に冥冥は思案する。

 

(なぜ生きている?去年五条君たちがしくじったか?そもそも、五条君と赤女(あかめ)ちゃんが夏油君と組んでいてこの騒ぎを?・・・それはないな。五条君は1人でこの国の人間を全員殺せる。誰かと組む意味も小細工を弄する必要もない。赤女(あかめ)ちゃんの方も良くも悪くも純粋だ。殺す必要があると判断すれば迷いなく殺す選択を選ぶ。例えそれが友や実の妹であろうともね。そんな彼女が夏油君を見逃すとは到底思えない。おそらく、この夏油君は偽物だ)

 

目の前にいる傑は偽物であり、悟と赤女(あかめ)が偽夏油と手を組んでいるわけではないと判断すると、冥冥は斧を構える。

 

「私は五条君よりも、赤女(あかめ)ちゃんよりも、君の方を買っていたんだよ?ニヒルな笑顔もチャーミングだった。そんな君を殺さなければいけないなんて・・・残念至極だ。本当に残念だ」

 

「冥さん・・・私も残念です。かつての先輩を手にかけるのは」

 

偽夏油は傑の術式、呪霊操術を使い、この場に1体の呪霊を召喚する。振り乱した髪で覆われ、下顎に牙を生やし、腕にはいくつもの膿疱が出ている呪霊だ。

 

特級特定疾病呪霊  疱瘡神(疱瘡婆)

 

(呪霊操術・・・読みが外れたかな?)

 

「特級特定疾病呪霊疱瘡神。去年手持ちの呪霊は使い果たしてしまいましたが、質は衰えていませんよ」

 

疱瘡婆を召喚した偽夏油はふっと笑みを浮かべる。

 

「念のため地下5階の人間は残しておきたいんです。線路で待ってますね。そいつを祓えたら私の相方を紹介します。彼女も暇を持て余してましてね」

 

(・・・相方?)

 

偽夏油は手をひらひら振りながらその場を去っていく。偽夏油の言う相方が気になりはしたが、今は目の前の疱瘡婆に集中する冥冥。

 

【おおおぉぉぉ・・・】

 

疱瘡婆が両手を広げると、線路上の空間が辺りは墓以外は何もない墓地へと一変した。そう、領域展開だ。

 

(領域展開?これは・・・少々厄介・・・)

 

ガコンッ!

 

考える暇もなく、冥冥は疱瘡婆の術式によって棺桶に閉じ込められる。すると疱瘡婆は両手を動かし、何かの呪術を使おうとしている。

 

(閉じ込められた・・・棺桶ってとこかな)

 

「姉様!」

 

ドォォン!!

 

冥冥が閉じ込められた棺桶の真上に巨大な降ってきて、彼女を棺桶ごと押し潰した。疱瘡婆はさらに両手を動かす。まるで詠唱を唱え、カウントダウンを行うように。

 

ビキッ!ドガアアアアン!!

 

だが疱瘡婆の術が完成する前に冥冥は斧を振るって岩も棺桶もまとめて粉々にする。

 

「幾とせぶりかな!私の命に指がかかるのは!」

 

「姉様~~!」

 

冥冥は斧を構え、領域展開を使う厄介な呪霊、疱瘡婆と対峙する。

 

 

松濤文化村ストリート(帳外)

 

Bunkamura(ブンカムラ)にて、明と合流した七海は彼女の負傷した怪我の応急処置を行い、今現在の状況をまとめて2人に報告する。

 

「じゃあ、伊地知さんは無事なんすね!」

 

「できる限りのことはしましたし、彼も元々は術師を志していましたから」

 

「ほっ・・・」

 

七海の最善策で伊地知は生きている。その吉報を聞いた明はほっと安堵している。

 

「でも、やはり五条さんと赤女(あかめ)さんのことは伝わっていなかったのですね」

 

「私たちはすぐに室内に入ったので、そのせいっすね」

 

「五条先生が封印されて、赤女(あかめ)先生が結界に閉じ込められても粘ってるあたり、ほんとぽいわね・・・」

 

やるべきことをやり終えた七海は立ち上がり、2人に指示を出す。

 

「2人はここで救護を待ってください。私は禪院さんたちと地下5階に向かいます」

 

「私も・・・」

 

「ダメです」

 

野薔薇も行こうとするが、七海は即座に却下する。

 

「ここからの戦いは私で最低レベルです。足手纏い・・・邪魔です。ここで待機を」

 

七海は野薔薇に戦力外通告を伝えたうえで待機を命じ、直毘人たちの元へと向かった。

 

 

一方、渋谷の街のビルの中。翔琉の死体のそばにいるマリーは辺りに散らばる傀儡を見回す。そして、手を翳すと傀儡が分解し始め、1つ1つのパーツが集まり組み立て始める。組み立て作業が終わると、ドレスを着込んだ1体の傀儡が出来上がる。マリーの主戦力、マクスウェルだ。そう、これらの作業はマリーの傀儡操術によるもので、マリーは辺りの傀儡を再利用してマクスウェルを組み立てたのだ。

 

「・・・・・・」

 

マリーは壁をじっと見つめた後、何もなかったかのようにビルを出ていった。誰もいなくなると、瓦礫の山からバチバチと音を立てながらブラートが姿を現した。インクルシオの透明化機能を生かし、気配も呪力も殺してうまくやり過ごしていたのだ。だがあの様子からすれば、マリーは知ったうえで見逃した可能性が高いかもしれない。

 

(あ・・・危なかった・・・。透明化していなけりゃマジで死んでいた!・・・にしてもなんだあれは?術式の暴走か?とてもそんな風には見えなかったが・・・)

 

傀儡を操る術者がその傀儡の反旗によって命を落とした。それを目の当たりにしたブラートはどういうことか思案するが、答えは出ない。

 

(とにかく、あれがいないうちに(たつみ)と合流しないとな)

 

ブラートは渋谷の街をうろつくマリーと鉢合わせにならないようにしつつ、先に向かった(たつみ)の元へと急ぐ。

 

 

渋谷駅構内

 

同刻、一足先に渋谷駅に辿り着いた(たつみ)は地下へと降りてマークシティへと向かって行く。そんな中で(たつみ)は一般人が1人もいないことに疑問を浮かべている。

 

(人が全然いねぇ!駅の中に大勢閉じ込められてたんじゃなかったのか⁉」

 

疑問を浮かべながらも(たつみ)は先へと進んでいく。

 

(たつみ)が進む先にて、構内を歩いている人影がいた。禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の2番、ツクヨミだ。ツクヨミが歩いていると、遠くで(たつみ)が走っている姿を目撃した。

 

「・・・ウー」

 

「ニヒッ、りょーかーい♪」

 

ツクヨミがウサギを床に置くと、ウサギは姿形を変え、狼のような姿へと変貌する。狼と化したウサギは(たつみ)に向かって素早くかけ走り、彼に噛みつこうとする。

 

「ガアアアアアアア!!」

 

「!!」

 

ウサギが迫ってきたことに気付いた(たつみ)は後退して、ウサギの噛みつきから躱す。

 

「なんだこいつ⁉」

 

(たつみ)が後退した瞬間、ツクヨミは槍を構えてそのまま真っ直ぐ突っ込んで彼に突きを放つ。それに気づいた(たつみ)は咄嗟に青龍刀を抜き、突きを防御した。防御した(たつみ)は衝撃で後退る。

 

(!こいつ、八十八橋の!)

 

ツクヨミは槍のリーチを生かし、そのまま斬撃を放つ。(たつみ)は青龍刀を振るい、斬撃を受け止める。斬撃を受け止めた瞬間、槍の切っ先は蛇へと変化し、(たつみ)の手に噛みつく。

 

「ぐあ!」

 

噛みつかれたことで(たつみ)に隙が生まれ、ツクヨミはすかさず蹴りを入れる。蹴りをくらった(たつみ)はさらに後退る。

 

「お前八十八橋で会ったよな?ここに何しに来たか知らねぇけど、急いでるんだ・・・どけ!」

 

「・・・あなたたちの目的は五条悟と禪院赤女(あかめ)を助けること。つまり姉様に危害を加える気なのは間違いない。そんなの許さない。姉様に手を出そうとする奴は・・・ここで殺す」

 

(たつみ)はその場を退かせるように声を上げるが、ツクヨミは聞く耳を持たず、槍を構えて殺意を膨れ上がらせる。後ろにいるウサギも唸り声を上げて殺意を高める。どうあっても戦闘は避けられないようだ。

 

 

その頃、恵と分かれた悠仁、マイン、シェーレは走って渋谷駅まで向かう。目的地まではもう間もなくだ。すると、上空から強力な呪力の気配を感じ取った。

 

「!!2人とも後退を!!」

 

「「!!」」

 

ドォォォン!!

 

3人が跳躍して後退すると、3人の目の前に何者かが降り立った。その者が着地すると、地面が抉れてクレーターが出来上がる。

 

「な・・・なんだ・・・?」

 

「・・・両面宿儺。呪術全盛期の大悪党。絶対的な悪。そんな悪の器である虎杖悠仁は、自らの意思でこれを取り込んだ。よって悪と断定。それを匿う呪術高専も共犯と、悪と断定。そこの2人も高専関係者と見なし、悪と認定」

 

3人の前に現れたのは、緑のコートを着こみ、橙色の瞳を持つ橙色のポニーテールの女性だ。

 

「12年。長い時間をかけて待った甲斐があった・・・。ようやく・・・ようやく絶好のチャンスが巡ってきた・・・!」

 

女性は3人の姿をしっかりと確認して、ニヤリと笑う。

 

「正義の使者!!セリュー・ユビキタス!!絶対正義の名の下に!!貴様ら悪を断罪する!!!」

 

女性、セリュー・ユビキタスは3人に指を指し、呪力を膨れ上がらせて敵意を見せる。

 

世界の正しさのために悪の殲滅を志す娘。たった1人の娘のために術師の殲滅を掲げる母。決して重なり合ってはならないこの2人が渋谷の地に降り立ってしまった。

 

死の運命が、加速する。

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