呪術全盛期終結から500年後の時代。腹に三つ子の子を宿した女がいた。呪術師にとって双子の存在は負の凶兆とされるらしい。それが三つ子というのだ。どのような災いが起きるかわかったものではない。それでも女は、三つ子の子を産み、育てる決意は揺るがなかった。
だがその時点で女の命運は尽きている。
特級呪霊禍津神。その呪霊は人間に寄生し、呪いをばらまく象徴とされている。禍津神は彼女を殺害し、寄生体から離れて彼女に寄生した。
しかし、禍津神にとって予想外な事態が起きた。
腹に宿っていた三つ子は母が死してなお生きており、三つ子たちは侵入してきた禍津神を食らい尽くした。禍津神は成す術もなく、三つ子に食われ、その血肉が三つ子に宿った。
思えば、生まれる前より強大な呪力を宿したその三つ子はすでに人間ではないのかもしれない。禍津神の血肉を宿した子は、肉体の組成が変化し、かの
それこそが・・・
●
渋谷駅 地下1階
八咫鏡が通用せず、なおかつ術式そのものを斬り裂いた
「鏡の中のアマさんに・・・傷を負わせるなんて・・・」
「なんで・・・?姉様の八咫鏡は無敵なのに・・・」
戸惑うツクヨミとウサギとは対照的に、アマテラスは常に冷静で、腕にできた傷をなぞる。
「フィジカルギフテッド・・・その中でも呪力から脱却した存在・・・ですか。なるほど。であれば鏡の
アマテラスは自身の周りに小さな鏡を作り上げ、光を凝縮させる。
「しかし。天敵などという存在は、完璧な世界にあってはならないもの。不要な殺生は好まないのですが・・・彼が完璧な存在となる前に・・・この世から排除します」
八咫鏡の強みは無限の手段にある。未来視、幻、転移、結界術。これらの数多の手段のみならず、戦闘においても数多くの応用がある。鏡に光を凝縮させ、一点に撃ち放つ奥義の1つ。名を・・・
「反射鏡」
アマテラスが手をかざすと、周囲の1つ1つの鏡が光のレーザーを連鎖的に撃ち放たれる。
「ぐっ!」
打撃を受けて後退する
「ガウアアアア!!」
「何っ⁉ぐぅ・・・!!」
ツクヨミの術式、八尺瓊勾玉は願いを具現化する術式。即ち、想像力を糧にする。自らの式神や呪具を想像力の受け皿にし、自らが望んだ形へと変える。そのため呪具には生命力が与えられ、1つの生物として動き出し、式神もまた、術師を守る武具と化す。そして、召喚された式神や生物と化した呪具は、呪具の能力を引き出すことができる。
「月光蝶・流星」
撃ち放たれた蝶は青白い光を纏い、流れ星のような素早さで
(くそ・・・あいつら連携がうますぎる・・・!あの光のレーザーを掻い潜っても、妹が前に出てきやがる。なら、こっちも一点集中を仕掛ける!全ての一撃を、剣に込める!)
バッ!!
「うおおおおおおお!!」
その瞬間を狙って
ズンッ!
パリィィン!!
だがその直後、アマテラスの身体は鏡が割れたように粉々に崩れ去った。
「なっ・・・」
動揺する
「月光蝶・流星」
撃ち放たれた2匹の蝶。
「顕微鏡的」
ドカンッ!ドカンッ!ドカンッ!
「ぐぁあ!!」
「ゥモオオオオオオオオオ!!!」
ドゴッ!
「うっ!!」
さらにそこへ闘牛へと姿を変えたウサギが突っ込んできて、
「凸面鏡」
ビカァ!!
小さくも激しく輝く光の衝撃が
「さすが姉様・・・」
「・・・フィジカルギフテッドを破るには、光の圧縮が足りなかったようですね」
アマテラスの攻撃を耐えた
(こいつら・・・強ぇ・・・。ただでさえ1人でも厄介なのに・・・。このままじゃ・・・やられる・・・!)
特級クラスが2人。生半可で勝てるほど甘い相手ではない。このまま手をこまねいていては、待っているのは・・・死のみだ。
●
一方の渋谷駅の別エリア。脹相と戦っていた悠仁は今劣勢に陥っている。悠仁は脹相の攻撃を掻い潜り、持ち味である近接戦闘に持ち込むが、脹相の赤血操術、超新星、さらに血刃でダメージを負ってしまう。極めつけは百斂からくる穿血。あれらの音速が悠仁を翻弄していくのだ。そして今、穿血をくらった悠仁は吹っ飛ばされる。
「ちっ・・・焦ったな・・・圧縮が足りなかった」
脹相は顔の模様の血を噴き出し、凝縮させた血をチャクラムへと変える。
(くそ・・・こいつ・・・強い!)
腹部の傷を抑える悠仁は脹相の実力を前に次第に焦りが生じている。
[おイ・・・おイ、どういう状況ダ?]
すると、悠仁のポケットの中でずっと無反応だったメカ丸が悠仁に語り掛けてきた。
「!メカ丸!お前、今までなんで・・・」
[省エネダ。俺にはまだやることが・・・]
ピコンッ!
[!脹相!赤血操術カ!]
メカ丸がレーダーで脹相に気付いたと同時に、脹相は宙に浮かせた血のチャクラムを悠仁に放つ。悠仁は転がってチャクラムを躱し、近くの柱に隠れる。
「知ってんのか?」
[加茂・・・憲紀の方が同じ術式を使ウ]
「あの糸目の3年生か!ってことは!」
[弱点は知らんゾ]
「げっ!」
メカ丸が赤血操術を知ってることで弱点を期待した悠仁だったが、その言葉で打ち砕かれる。
[赤血操術は加茂家相伝の術式の1つとして重宝されていル。血液を加圧シ、圧縮する百斂。それによる穿血や血刃で近・中・遠、全てに対応できるバランス力がその理由ダ。失血しない脹相に隙はなイ]
「有益な情報どう・・・もぉ⁉」
柱から顔を覗いて隙を伺う悠仁だったが、すぐに飛んできた血のチャクラムが迫り、すぐに顔をひっこめた。
[弱点は知らんガ、1つアイデアがあル]
「なんだよ?」
[まずトイレに逃げ込メ]
「トイレ?なんで?」
[説明は後ですル。成功率は1割ってとこダ。すまんが失敗したら潔く死ネ]
「ひっでぇなぁ」
[このままでもジリ貧で殺されル]
作戦会議をしている間にも脹相は血のチャクラムを放ち、その後穿血を撃ち放って柱を破壊する。柱から飛び出し、ギリギリで穿血を回避した悠仁はメカ丸の言われた通りにトイレを目指す。脹相は穿血を放ったまま悠仁を追跡し、床と天井を壊す。
「おわっ!」
悠仁は体勢を崩しそうになるも、何とか足場を飛び越え、そのままトイレへと移動する。
(バカが。そこにあるのはトイレとエレベーターのみ。どこに逃げても袋の鼠だ)
脹相はゆっくりと歩きながら、悠仁が逃げたトイレへと向かって行く。
バキィ!パリィィン!
すると、トイレから何かが壊れる音が立て続けに鳴り響いてくる。その音に脹相は疑問符を浮かべる。
(?何の音だ?あいつは弟たちに勝っている。バカではあの2人には勝てん。そして突然現れたもう1つの声。何かあると考えるのが普通だ。油断するな)
脹相は警戒して宙に浮かぶ血液を握り、トイレに近づかないようにする。
[なんダ?来ないのカ?弱虫なんだナ。弟と同じデ]
するとメカ丸は弟を引き合いに出して脹相を煽る。自分のことならまだいい。だが弟たちをバカにすることは、腹が煮えくり返るほどに我慢ならない。
「・・・殺す!」
まんまとメカ丸の煽りに乗せられた脹相はトイレに入って構える。中に入ってみるとそこには洗面器やスプリンクラーが壊れ、大量の水が溢れだしている。そのトイレの中で脹相が目にしたのは、壁に付けられたメカ丸の端末だ。
[本当にそっくりダ。3人とも兄弟想いデ、扱いやすイ]
ピュンッ!パキィ!!
脹相は視界に入ったメカ丸の端末を穿血を放って破壊する。その瞬間、脹相の背後に悠仁が回り込んだ。
[ここまではうまくいったナ。後は賭けダ、虎杖悠仁]
「ふんっ!」
悠仁は呪力を纏った拳で脹相を殴る。だが咄嗟に腕で防御したため大したダメージは入っていない。脹相は後退して水が溢れるトイレの中に入る。
「残念だったな」
脹相は手に持った半壊のメカ丸の端末を握りつぶし、粉々に砕いた。
(今のが最後のチャンス。逃げ場がなくなったのはお前の方だ!)
脹相は構えて、宙に浮かぶ血液を悠仁に放とうとした時だった・・・
パァン!!
宙に浮かんでいた血液が破裂し、百斂が解除された。
(なっ・・・!百斂が解けた⁉)
赤血操術は術式効果をあげるため常時血液の凝固反応をオフにしている。そのため脹相の血液は他の者より水に溶けやすい。加えて、水にさらされた血液の中では、浸透圧により赤血球が膨れ、細胞膜が破れてゆく。血液45%を占める血球成分がコントロールできなくなり、百斂は解かれた。
メカ丸の狙いは正しかった。今この状況下において、脹相は体外での血液操作が不可能となった。
「・・・赤燐躍動・戴」
戦闘経験の浅い脹相は自身に何が起こったのか理解していない。冷静に現実を受け止め、血液操作を体内で完結させる。
(理屈はわからねぇ。そんなん聞く余裕なかったからな。だが、これだけはわかる。俺の土俵に持ち込んだ!)
トイレ中に水が滴る中、悠仁と脹相は構え、お互いの出方を窺う。水が溢れに溢れ、排水溝の蓋が浮かび上がった瞬間、悠仁が先に動く。悠仁は拳を放ち、排水溝の蓋を脹相に飛ばす。脹相はそれを弾き、後に続く悠仁の蹴りを防御し、拳を放つ。拳を受けた悠仁は後退る。続く脹相の打撃を悠仁は受け流す。最後の一撃も防御するも、力が強くそのまま便器に叩きつけられてしまう。
「うおおおお!」
次に来る脹相の打撃を悠仁は躱し、天井に踏み込みを入れて飛び出し、脹相を殴りかかろうとする。だが脹相は悠仁の顔を鷲掴み、壁に叩きつける。
「うっ!」
脹相の追撃の拳を悠仁は躱し、バク転して距離を取って、脹相の繰り出す連撃を受け流す。拳を払いのけた悠仁に脹相は彼の首根っこを掴み上げ、引き寄せようとする。
ガブッ!
「うっ!」
悠仁は掴んできた脹相の手に噛みついた。その痛みで手を放した脹相に悠仁は彼の首根っこを掴みとり、頭突きを放つ。頭突きを受けた脹相は体勢を整え、拳を放つ。その拳を躱し、悠仁は足に呪力を纏わせて蹴りを放って脹相にダメージを与える。手ごたえを感じた時、悠仁は勝利を確信する。
(勝てる!)
ズンッ!!
勝利を確信した時、水にさらさぬよう、水に溶けださぬよう限界まで凝固圧縮し、呪力で強化した血の塊が、悠仁はの肝臓を貫いた。
「赤血操術―――『血星磊』」
肝臓を貫かれた悠仁は意識が遠くなり、ゆっくりと倒れようとする。
(油断した!もう飛び道具はないと!なんだ?どこをやられた?前に穴を開けられた時とは違う!壊れちゃいけないところが壊れた!負ける・・・死・・・)
己の死が頭によぎった時、シェーレの最期の言葉がよぎる。
『後は頼みます』
その言葉がよぎった悠仁は踏ん張り、意識をはっきりさせて何とか体制を整え直す。
(理解した。俺の役割。伏黒が、
体制を整える悠仁は構えを取り直し、自身に呪力を纏わせる。
(3発だ。たったの3発。ガードしたものを除いて、俺がくらった虎杖の打撃。それがここまで・・・)
悠仁の打撃を受けた脹相は血反吐を吐くと同時に、打撃によって抜けた1本の歯を吐き出す。
(血星磊は硬度だけ。穿血ほどの速度も威力もない。不意打ちでなければ貫通させることなどできなかっただろう)
脹相は吐き出した血を自身の腕に纏わせ、凝固させることで腕に硬度を高めた。
赤血操術は通常、血星磊のように血を凝固させない。血刃も輪郭を定め、血液を高速で回すことで殺傷力を高める。赤血操術の術師と言えど、全ての血管に意識が届くわけではない。血液を強く凝固させると突発的な血栓症のリスクを抱えることになる。虎杖悠仁というリスクの方がはるかに大きいと脹相は判断した。
「来い」
悠仁と脹相の戦いは、最終局面へと持ち込まれる。
●
一方その頃、渋谷駅の別エリア。アマテラスとツクヨミに苦戦させられている
(くそ・・・考えろ・・・考えろ・・・!こいつらを倒す方法・・・何かあるはずだ・・・!)
作戦を考える
「ガウッ!!」
その背後で待機していたウサギが再び狼化して襲い掛かる。
「げっ・・・」
ウサギが蹴とばされた直後に
(何か・・・何かないか・・・?あの姉妹の連携を崩すような何か・・・)
必死に突破口を考える
(あいつらの連携、もしかしたら・・・。一か八か、賭けに出てみるか)
(あの男は式神の少年の手を借りたとはいえ、特級呪霊に勝っている。ただの脳筋ではあれに勝つことはまず不可能。であれば何か策を考えているに違いない。慢心せず、慎重に事を勧めなければ)
(呪具を納めた?何を企んでいる?)
アマテラスは武器を納めた
ズンッ!
「ごふ・・・!」
迫ってきた突きを
(⁉躱さなかった⁉)
ガシッ!
「なっ⁉」
「捕・・・まえたぞ!!オラァ!!」
「ぐっ・・・!」
「ツクヨミ!!」
頭突きを受けたことでツクヨミはよろめき、槍を手放してしまう。槍は粒子となって消滅する。
「お前ぇ!!!ツーちゃんを放せえ!!!」
ウサギは
「はぁっ!」
「うぁっ⁉」
ツクヨミを押し倒したことで
「たぁ!」
「ぐぅ!」
蹴りを受けたアマテラスは仰け反り、地に足を付けた
(また距離を取られた・・・!けどやっぱりそうだ。あの光のレーザー・・・妹が近くにいる時は撃ってこねぇ。お互いがお互いを守り合って戦ってるんだ)
(あの光のレーザーさえ撃ってこなければ、やりようがある!何とか撃たせないようにして、俺の距離に持ち込めば、勝つ見込みは十分にある!)
勝利の方程式を見出した
「グルルルル・・・!!」
「邪魔だぁ!!」
ザンッ!
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
ウサギに突っ込んだ
「ウー!!よくも!月光蝶・五月雨!」
ウサギがやられたことに怒るツクヨミは
「たぁあ!!」
跳躍した勢いに乗って
「っつぅ・・・!」
「うおおおおおお!」
ドンッ!
「ぐぁ・・・⁉」
「八咫鏡―――『鏡肌』」
光の弾丸は反射鏡ほどの威力はないが、
「呪槍術―――『月閃』」
ズンッ!!
ツクヨミが放った槍の突きは
(油断した・・・!もう光は撃ってこないと踏んでた・・・!やべぇ・・・死ぬ・・・!)
意識が飛びそうになった
「うおらあああああ!!」
「あぁ!!」
タックルを受けたツクヨミは後退る。
(こんなところで死んでたまるか!悠仁、伏黒、釘崎、兄貴、七海さん・・・先輩たちがここを通るんだ!俺の役目は・・・死ぬ気でこいつらを倒して、進行ルートを確保する!)
「ウー、大丈夫?」
「いやはや、あの剣ヤバいわ。僕1回消えちゃったもん」
「うん。呪力で肉体強化をしていなかったら、この程度の怪我じゃすまなかったもん」
「やはりあの呪具は厄介ですね。あれがある限り、友鏡の転移もままなりません」
「じゃあやるべきことはただ1つ・・・」
「あの少年ごと、跡形もなく呪具を破壊します」
アマテラスがバッと両手を広げると、
「八咫鏡―――『鏡板』」
アマテラスが両手をパンッと合わせると同時に、2つの鏡の光が
「ありゃ・・・逃げちゃった」
「姉様」
「彼が
「うん」
アマテラスとツクヨミは
「つまらない小細工です」
「ウー」
「はいはいりょーかーい♪」
ツクヨミの指示を聞いてウサギは狼化し、
「なっ⁉くっ・・・!」
アマテラスは驚愕して、咄嗟に屈んで躱す。アマテラスが起き上がった瞬間、
「が・・・!」
「姉様!」
ツクヨミが加勢に向かう前に
ツルッ!
「あっ・・・きゃっ!」
後退した勢いで床の消火薬剤によって滑って転んでしまう。
「あら?あらららら?」
「これは・・・うまく立てない・・・!」
消火薬剤のせいでつるつる滑ってツクヨミもウサギも体勢を立て直せない。
「ツクヨミ!」
ツクヨミとウサギから離れてしまったアマテラスは彼女らを助けようと動き出すが、それを阻むように
「がはっ!」
アマテラスはすかさず手を翳し、掌に鏡を出して光線を
「ぐっ・・・!」
打撃を与えられた
「くは・・・!」
「が・・・!ちぃ・・・!」
アマテラスは両手を翳し、鏡を作り上げる。作った鏡に光を凝縮させて一筋の斬撃を撃ち放つ。
「これで・・・終わりだああああああああ!!」
「姉様ぁ!!!」
ツクヨミが声を上げた次の瞬間・・・
ズンッ!!
「・・・は?」
ズシャア!!
「ごは・・・」
「八咫鏡―――『万華鏡』」
両手の掌の鏡から大きな光が放たれる。光の衝撃によって、青龍刀は粉々に砕け散り、
「ひゅ~♪さっすが~♪」
「姉様・・・すごい・・・」
「皇拳寺では、武を極めた者の中に自身の肉体を操作できる業を会得したそうです。
受肉体の持つ肉体操作を利用して
●
渋谷駅のトイレの中。脹相と激闘を繰り広げていた悠仁は大きな傷を受け、壁に叩きつけられて気を失っている。
悠仁は脹相の繰り出される術式交じりの技をダメージを受けるものの、トイレ中に降り注ぐ水で血液を溶かしつつ何とかいなし、右手を囮にした左手の一撃を脹相に当てた。だがその一撃は体に血を纏わせて凝固させることで防がれ、強烈な一撃を受けて壁に叩きつけられて気を失ったのだ。
「・・・まだ息があるな」
ピクリとも動かないが、脹相は悠仁がまだ生きていることに気付いており、彼にとどめを刺そうと近づく。
「あの世で・・・弟たちに詫びろ!」
脹相は血を凝固させた腕で悠仁に向けて拳を放った。
●
「・・・くだらん。この程度の下奴に負けるとは」
一部始終を見ていた宿儺は心底つまらなさそうに呟き、そっと目を閉じる。
「・・・・・・・ん?」
が、宿儺はすぐに目を見開き、さらに続く光景を目にする。
●
脹相が放った拳は悠仁には直撃していない。いや・・・咄嗟に標準をずらして外した・・・の方が正しいだろうか。どういうわけか、脹相は激しく動揺している様子である。
「うっ・・・あっ・・・ああ・・・」
動揺する脹相はよろよろとよろめき、倒れる悠仁を置いてトイレを去っていった。なぜとどめを刺さなかったのか。それは、脹相自身に異変が起きたからだ。
「うっ・・・ぐっ・・・なん・・・だ・・・?」
突如、脹相の脳内に溢れだした・・・
存在しない記憶
●
その場所は食卓の場。テーブルに出されたスパゲッティを食卓に座る男がフォークで巻き取り、それを目の前に座る者に食べさせた。
その目の前に座っている者とは・・・呪胎九相図の血塗であった。
そしてその彼にスパゲッティを食べさせたのは・・・なんと悠仁であった。
この食卓に座っているのは悠仁と血塗だけではない。すぐそばには壊相と脹相もおり、テーブルには呪胎九相図の残り6つの呪物があった。
食卓に座る4人は笑顔で、仲睦まじく食事をとっている。
悠仁はスパゲッティを巻き取り、それを脹相にも上げようとする。
「ほら、
●
パキィィィン!!!
突然溢れ出た存在しない記憶を振り下ろすかのように、脹相は壁に拳を叩きつけた。
「・・・どういう・・・?お前が・・・」
脹相は存在しない記憶に激しく動揺して、その場を去っていった。
●
一方その頃、戦闘を終えたアマテラスとツクヨミは気を失っている
「2人とも~、こいつ、まだ生きてるよ」
「・・・しぶとい」
「やることは変わりません。ツクヨミ、あなたは心臓を突きなさい。
「うん」
アマテラスとツクヨミは
「・・・恨むなら、あなたをその体にした呪縛を恨みなさい」
その言葉と共に、アマテラスは拳を、ツクヨミは槍を降ろした。
ドォォン!!
「・・・あれ?」
だがその一撃は全て、
「あ・・・あ・・・」
「う・・・うぁ・・・」
よく見てみると、アマテラスとツクヨミは動揺しているかのように体を震わせている。さらに見てみれば、2人の胸に備わっている勾玉が共鳴しているように淡い光を放っている。
「
「「!!」」
とここで、ようやく渋谷駅に到着したブラートが駆け付けた。それに気づいたアマテラスは咄嗟に鏡を作り、ツクヨミと共に中に入り、この場を脱出する。
「えっ⁉ちょ・・・置いてかないでよ~!」
慌ててウサギが鏡の中に入ったところで鏡は割れる。
「!!
気を失っている
「おい!しっかりしろ
揺さぶって起きる気配がない
●
鏡の転移で渋谷駅の外に出たアマテラスとツクヨミは苦しそうに頭を抱えている。その様子にウサギはおろおろしている。
「ちょ・・・ちょっとぉ・・・2人ともどうしたのさぁ?」
「うっ・・・あぁぁ・・・頭が・・・痛い・・・」
「いったい・・・なんなのですか・・・これは・・・」
突如、アマテラスとツクヨミの脳内に溢れだした・・・
存在しない記憶
●
場所は北海道の札幌雪祭り。雪が降り積もる会場で、懸命に立派な雪像を作っている者がいた。着物を着込み、青い髪に2本の角と胸の赤い勾玉が特徴の男だ。
この男がアマテラスとツクヨミが探し求めている
そしてそのすぐそばには雪像づくりを手伝っている少年がいる。
その少年とは、2人が殺そうとしていたはずの
奇妙な光景はまだ続く。雪像づくりに頑張っている2人にツクヨミとウサギが必要な雪を持ってきた。雪像を見たウサギがこれにいちゃもんをつけて、
そんな微笑ましい光景を遠くで見ていたアマテラスはふっと楽しそうに笑っている。アマテラスがいることに気付いた
「ほら。アマさんも、こっちに来いよ」
差し伸べられたその手を、アマテラスはそっと手を伸ばし・・・
●
パキィ!!!
突然溢れ出た存在しない記憶を見てアマテラスは自身が作った鏡を拳で叩き割った。
「姉様・・・これ・・・この記憶・・・」
「・・・どういうことです・・・?なぜ・・・あの男が・・・?和倉
わけわからない記憶を見たアマテラスは心臓を抑えるように自身の勾玉を抑え、ゆっくり歩いていく。ツクヨミも同じ動作で姉についていき、ウサギはわけがわからない様子で2人についていった。