呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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揺蕩ー弐ー

蕩蘊平線内

 

恵の領域、嵌合暗翳庭に開けた穴を通って陀艮の領域、蕩蘊平線から脱出を図ろうとした七海、直毘人、レオーネ、真希の4人であったが、その穴より術師殺し、伏黒甚爾が乱入してきてその機会を失ってしまった。

 

(あっ・・・誰だ・・・?)

 

(人間?術師か?いや、それにしたってこいつ、呪力が・・・)

 

甚爾の乱入によって、5人の注目は彼に集まっている。

 

「むっ・・・脱出ではなく、新たに術師を招き入れたのか」

 

恵に迫ろうとした陀艮も甚爾に注目を向けている。全員が甚爾に視線を向けていると・・・

 

ビュンッ!ガッ!

 

「なっ⁉」

 

宙に浮かんでいた甚爾が一瞬で真希の懐に入り、彼女が持っている游雲を掴み上げる。

 

(速っ⁉今空中にいたろ⁉それだけじゃねぇ・・・なんだ、この力は⁉)

 

真希は游雲を奪われまいと力を込めているが、込められた力は甚爾の方が強く、彼女は振り上げられてしまう。

 

「うわっ!」

 

「真希さん!」

 

游雲を手放してしまった真希はバク転し、影の上に着地する。

 

(呪力をまるで感じなかった・・・力比べで負けたのか?この私が!)

 

呪力なしの力比べで自分がまけてしまったことに真希は驚愕している。そうしている間にも恵が開けた領域の穴が塞がってしまった。

 

「伏黒君」

 

「ダメです・・・穴塞がれました。しかも今のでこっちの狙いもバレた。もう簡単には開けさせてもらえない」

 

穴が塞がれ、陀艮に自分たちの狙いがバレてしまった以上、残る手段は恵が領域を展開しているうちに陀艮を祓う以外脱出の方法はない。だがそれよりも気になるのは甚爾の方だ。甚爾は游雲を振り回し、ゆっくりと歩いている。

 

「・・・!甚爾か?」

 

直毘人は甚爾の口元の傷跡を見て、彼に気が付いた。甚爾は直毘人にも気に留めず、影から飛び降りて海の中に入り、ゆっくりと陀艮に近づく。

 

オガミ婆の降霊術は死後も継続する。器であるダニエルの呪力が尽きた時点で降霊も終わるはずだった。禪院甚爾の肉体に上書きされたダニエルの魂に呪力はなく、その上肉体は呪力を消費しない。術式は終了する契機を失った。重なったイレギュラーによる術式の暴走。

 

今、禪院甚爾は器が壊れるまで本能のまま戦い続ける殺戮人形と化した。

 

(この男・・・呪力がない。言うに及ばん・・・いや待て・・・呪力がない?)

 

甚爾に呪力がないことに気付いた陀艮は大した敵ではないと踏んでいたが、その考えは以前聞いた偽夏油の報告によって思い留まった。

 

『斬鬼を祓ったのは呪力のない男・・・フィジカルギフテッドだよ』

 

「・・・!!貴様が・・・!!!貴様が斬鬼を殺したのかぁ!!!!!」

 

甚爾が斬鬼を、自分たちの仲間を殺したのだと勘違いをした陀艮は彼に殺意を抱き、腹からヤツメウナギの式神を3体召喚した。召喚されたヤツメウナギの式神は甚爾を食らおうと迫る。ところが・・・

 

ブンッ!!ヒュンッ!!グシャア!!

 

「何っ⁉」

 

甚爾が振り上げた游雲の風圧だけで式神の肉体が粉々に潰れ、海も風圧で割れてしまった。そして・・・

 

ヒュンッ!!ドゴォ!!

 

「ぐおっ!!」

 

甚爾は一瞬で陀艮の間合いに入り込み、游雲の一撃を陀艮に叩き込み、海に向けて吹っ飛ばした。その衝撃で海に強い水飛沫が走る。その力は、真希のものと(たつみ)のものと比べても段違いだ。

 

その牙は常に・・・強者へと向かう。

 

陀艮を海に吹っ飛ばした甚爾は海の上を走り陀艮を追撃。甚爾は左手で陀艮の顔の触手を掴みとり、游雲を持った右手で顔を抑えて陀艮を投げ飛ばす。吹っ飛ばされた陀艮は水飛沫を上げながらも海の上で体勢を立て直すが、既に目の前には甚爾が迫っている。甚爾は游雲を振るい、陀艮はその打撃を躱す。が、さらに続く一撃は避けられずに顔に直撃して仰け反る。追撃する甚爾は蹴りを放ち、陀艮を蹴とばす。さらに甚爾は水飛沫を払い除け、游雲を振るって陀艮に一撃を与えて吹っ飛ばした。

 

「ぬおぉっ!」

 

後退する陀艮は両手を翳してピラニアの式神を召喚して弾丸のように撃ち放った。甚爾は游雲で防御して、直撃を回避した。だがその直後に別のピラニアの式神が飛んできて、甚爾は顔を仰け反る。しかし仰け反ったのは直撃したからではなく、飛んできたピラニアの式神を歯でキャッチしたからだ。甚爾はピラニアの式神をペッと捨てて、陀艮に近づいて游雲の一撃で吹っ飛ばした。

 

「うっ・・・!」

 

後退る陀艮は大量のピラニアの式神を召喚し、それを全て甚爾に放つ。海を走って追撃する甚爾は迫ってきた大量のピラニアの式神を游雲による連撃を放って全て叩き落とす。

 

「ぬぅ・・・!」

 

ピラニアの式神だけでは決定打にはならないと判断した陀艮は腹部からウツボの式神を召喚して放とうとする。しかし放つよりも先に甚爾の接近を許してしまい、游雲の一撃がウツボの式神ごと腹部に直撃する。だが打撃を受けたウツボの式神は形を変えてヤツメウナギの式神に変化して游雲と甚爾の身体に巻き付いた。

 

バシャアアアアン!!

 

陀艮は腹部に式神を連結させたまま甚爾を海の中へと引きずり込んだ。海に引きずり込まれた甚爾に大量のピラニアの式神が群がり、一斉に噛みついて甚爾を覆い尽くした。それを確認した陀艮は甚爾から距離を取る。

 

バッシャアアアアアン!!

 

陀艮が距離を取ったタイミングを見計らい巨大なダイオウグソクムシの式神が現れて大量のピラニアの式神に覆われている甚爾を海の外へと打ち上げた。さらにそこにもう1体、ダイオウグソクムシの式神が現れて甚爾を食らおうとする。

 

ズシャアア!!ドオオオオン!!

 

しかし甚爾は游雲を振るってピラニアの式神を全て払い除けて、そのままダイオウグソクムシの式神の頭に游雲を振り下ろして打撃を与え、ダイオウグソクムシの式神同士をぶつけ合わせる。その強い衝撃に海は大きな波が生じ、陀艮を飲みこんで島に打ち出される。

 

「んっ・・・」

 

起き上がる陀艮は甚爾の姿を視界にとらえる。が、次の瞬間、甚爾は一瞬で目の前に現れ、游雲を振るおうとしている。

 

「ぬぅああああ!!」

 

陀艮は自身の目の前に水の防御壁を張ってその一撃を防御した。

 

グシャア!!

 

「ぐおっ!!」

 

しかしさらに続く一撃は対処しきれず、陀艮は游雲の一撃を受けて肉が抉れる。さらに甚爾は立て続けに游雲を振るい、陀艮に打撃を与えた。

 

「ぐあっ!!」

 

自分たちが苦戦を強いられてきた特級呪霊が突然乱入してきた1人の男によって押されている異常すぎる光景を見て、直毘人を除いた全員が驚いている。

 

「やべぇ・・・なんなんだあいつ・・・ムチャクチャだ・・・」

 

「・・・ジジイ・・・誰だあれは?」

 

陀艮は甚爾にピラニアの式神を放つが、甚爾は一瞬で陀艮の背後に回り込んだ。そして、陀艮の背中を滑り込むよう游雲を陀艮の首に引っかけた。游雲で顔を固定された陀艮は甚爾のドロップキックをもろに顔に直撃する。

 

「ふんっ・・・亡霊だ」

 

「「!」」

 

真希の問いかけに対して、直毘人は答えた。その答えに思い当たる節があるのか真希とレオーネは目を見開いて驚愕する。

 

「伏黒君、もう少し持ちますか?」

 

「くっ・・・はい」

 

「申し訳ない。彼に賭けます」

 

七海は冷静に甚爾の戦闘能力は利用できると判断し、恵に領域の維持の指示を出した。今この状況下を打破できるのは、甚爾以外にいないがゆえに。

 

ドゴォ!!

 

「ぐあぁ!!」

 

その間にも甚爾は游雲を振るい、陀艮を殴り飛ばした。すると・・・

 

ガッ・・・キィィィィン・・・!

 

甚爾は游雲同士を何度もこすり合って、形を研ぎ始めた。

 

(游雲同士をぶつけて・・・)

 

(形を・・・研いでいるのか・・・?)

 

研ぎ終わった頃には游雲は最初の形の面影はなくし、連結されている2つの棍は槍のように鋭い形となった。これだけ鋭利なものならば人や呪霊を簡単に突き刺すことができるだろう。

 

(負けるのか・・・私が・・・?斬鬼の仇も討てずに・・・!)

 

劣勢に立たされた陀艮はゆっくりと起き上がり、領域を張っている恵に注目する。

 

(いや、少年の領域が弱まるのを感じる。必中効果さえ取り戻せば全員殺せる!時間を稼ぐ!)

 

陀艮は自身の領域の必中効果を取り戻すために、時間稼ぎが必要と判断し、まずは空高く跳躍した。

 

「滞空できるんだもんなぁ」

 

「!!」

 

「もう1度言おうか?」

 

だが陀艮の考えを見透かしたように直毘人が陀艮の背後に回り込み、甚爾目掛けて蹴とばした。甚爾は游雲同士で重ね合わせて棒高跳びの要領で高く飛び、陀艮の頭に游雲を突き刺した。

 

「まだ・・・終わって・・・!」

 

ズシャアア!!!

 

陀艮が大きな口を開けた瞬間、甚爾は研いだもう1つの棍を陀艮の目玉に突き刺した。

 

バキンッ!バキンッ!

 

そして甚爾は力を入れて游雲の連結部位を壊し、唯一研いでいない棍を左手に持ち・・・

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

「ぐ・・・うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

目にも止まらない速さで陀艮を何度も何度も殴り、そして右手の棍を何度も突き刺してめった刺しにする。要領を超えたダメージを受けたことで陀艮は倒れ、領域が解除されて元の空間に戻った。

 

(領域が・・・マジであのタコを1人で祓っちまった・・・!)

 

たった1人で陀艮を祓ったその事実に真希は驚きを隠せなかった。

 

「ぐおっ・・・はぁ・・・ああ・・・」

 

領域の押し合いで体力の限界が来たのか恵は大量の汗をかき、鼻血を出して地に膝をついた。

 

(伏黒が来てくれなきゃ私たちは間違いなく全滅してた・・・。けど・・・まだ問題は残ってる・・・)

 

陀艮は倒すことはできた。だがまだ安心している場合ではない。まだ乱入してきた甚爾の問題が残っている。

 

(彼は味方なのか・・・?)

 

陀艮が黒い塵となって消えようとしている中、甚爾は片手に研いだ游雲を1つ持ち、ゆっくりと5人に近づいてくる。一歩、また一歩と甚爾は歩みを勧めていき、そして・・・

 

パキィィィィィン!!

 

「・・・・・・は?」

 

いつの間にか恵は甚爾の手によって外に放り出された。

 

(いつの間にか外に放り出されていた・・・速いなんてもんじゃない・・・下手したら宿儺より・・・!)

 

甚爾の目にも止まらない速さに動揺している恵は外に出てきた甚爾に視線を移す。

 

(なんなんだこいつは・・・!)

 

甚爾の規格外の運動能力に恵は汗をかいて戦慄を覚える。

 

 

「恵!!」

 

外に放り出された恵に真希は声を上げた。すると、この場で陀艮以上の強力な呪力を4人は感じ取った。

 

「・・・逝ったか・・・陀艮・・・」

 

その正体とは特級呪霊の中でも上位の実力を持つ漏瑚であった。漏瑚は塵となっていく陀艮の手を拾い上げ、憂いた表情を見せている。

 

(おいおいおい・・・冗談だろ・・・)

 

(この呪力・・・さっきのタコ野郎より半端ねぇ・・・!)

 

(陀艮という呪霊より・・・格段に強い・・・!)

 

3人は一目見ただけで漏瑚が陀艮よりも格上の呪霊であると理解し、戦慄する。

 

「後は任せろ・・・人間などによらずとも我々の魂は廻る。100年後の荒野でまた会おう」

 

漏瑚は完全に塵となった陀艮を手向け、視線を4人に移した。

 

「・・・さて・・・」

 

ヒュンッ!

 

4人が身構えるより速く漏瑚は七海の間合いに入り込み、手を翳す。

 

「1人目」

 

ゴオオオオオオオオ!!!

 

漏瑚が翳した手より高火力の炎を放ち、七海はその炎に飲み込まれる。

 

「七・・・」

 

ゴオオオオッ!!!

 

真希が声を上げたと同時に漏瑚は一瞬で真希の背後に回り、彼女に炎を放った。炎に包まれた真希は倒れる。

 

「2人目」

 

「この野郎ぉ!!!」

 

仲間がやられて激昂するレオーネは高く跳躍して攻撃を仕掛けようとする。だがその瞬間、レオーネの周りには火礫蟲が飛び回っている。そして・・・

 

【ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!】

 

ドカアアアアアアアアン!!!

 

火礫蟲が奇声を上げ、自爆した。レオーネはその自爆に巻き込まれる。

 

「3人目」

 

ビュンビュンビュンビュンビュンッ!

 

そこへ直毘人が投射呪法による素早い動きで漏瑚の周りを動き、攻撃を仕掛けようとする。しかし・・・

 

ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

柱より出現した火山の突起物が噴火して、直毘人は成す術もなく炎に包まれて焼き尽くされる。炎が晴れ、漏瑚は真っ黒に焼かれた直毘人に近づき、彼の身体に触れる。

 

「4人目」

 

漏瑚が直毘人にとどめの炎を放とうとした時だった。

 

ゴォォ・・・

 

「!!」

 

突如として宿儺の強烈な呪力の気配を感じ取り、動きを止めた。

 

(宿儺・・・いや違う・・・指だ!宿儺の指が渋谷のどこかで解放されたのだ!)

 

宿儺の指が渋谷のどこかにある。それを理解した漏瑚は指の呪力を頼りにして急ぎ呪力の出所へ向かって走り出した。

 

 

渋谷駅 地下1階

 

脹相に負け、気を失ってる悠仁の前に2人の呪詛師が現れた。その呪詛師とは、菜々子と美々子であった。菜々子はポケットの中よりあるものを取り出した。それは宿儺の指だった。

 

「急ごう、菜々子。指で呪霊が寄るかも」

 

「わかってる」

 

菜々子は悠仁の口を開けさせて宿儺の指を食べさせる。

 

「お願い・・・出てきて・・・宿儺様」

 

悠仁が宿儺の指を飲みこんだ直後・・・

 

タタタタタタタタタッ!!

 

「「!!」」

 

宿儺の指の気配を辿ってきた漏瑚が駆けつけてきた。悠仁の姿を目撃した漏瑚は彼の顔に宿儺の紋様が浮き出ていることに気付いた。だがそれもすぐに消えようとしている。

 

「ちっ・・・貴様ら!指を何本食わせた?」

 

「言わない!」

 

「美々子!」

 

漏瑚の問いかけを黙秘した美々子に対し、菜々子はこれから来る漏瑚の攻撃に備えてスマホを取り出して術式を使おうとする。

 

「そうか。死ね」

 

ボオオオオオオオ!!!

 

「「きゃああああああああ!!」」

 

漏瑚は菜々子と美々子に向けて炎を放つ。2人は呆気なく炎に包まれてしまう。2人を始末し終えた漏瑚は悠仁に近づき、宿儺の紋様を確認する。紋様は消えようとしているが、まだ辛うじて残っている。

 

(よし、まだ紋様は消えていない。不測の事態だが、最大限利用させてもらおう)

 

紋様がまだ残っているうちに漏瑚は肉体の主導権を宿儺に移すために急ぎ行動を始める。詳細は事前に偽夏油より教わっている。

 

『虎杖悠仁は指を20本全て取り込んでも肉体の主導権を宿儺に譲らないだろう。だがそれは・・・例えば1日1本20日間かけて取り込んだ場合だ。一度に10本も取り込めば、適応が追い付かず、一時的だが、肉体の主導権は宿儺に移る』

 

漏瑚は自身の懐から封をした包みを取り出した。そして封を外し、包みを広げた。広げた包みには、たくさんの宿儺の指が収められていた。その数、ツクヨミが持ち帰った物と合わせて11本。

 

「起きろ・・・宿儺」

 

 

幻魔鏡内部

 

黒女(くろめ)との戦いを1時間も繰り広げてきた赤女(あかめ)は彼女が操る8体の骸人形の一斉攻撃を掻い潜る。一斉攻撃を抜けた直後、黒女(くろめ)は駆けだし、赤女(あかめ)に向けて刀を振るう。対し、赤女(あかめ)も刀を振るい、黒女(くろめ)の斬撃を止めた。鍔迫り合いが膠着しあうと、2人はお互いに後退する。

 

「1時間も粘るなんて・・・やっぱりお姉ちゃんはすごいな。でも、そろそろ限界じゃない?」

 

黒女(くろめ)は姉を称賛しつつも、限界が近づいてきていることを指摘してきた。この幻魔鏡内部では術式を封じられているだけでなく、術師の本来の呪力、身体能力を4分の1まで落ちてしまうのだ。そんな状態で1時間も戦わせれば、いくら特級といえどもさすがに疲れが出てしまう。

 

「・・・しばらく見ないうちに見る目がなくなったか、黒女(くろめ)?私はまだやれるぞ」

 

疲れが生じている赤女(あかめ)はそれを悟られぬように、なんともないように強がって見せた。黒女(くろめ)はその強がりを見て微笑む。

 

「その強がりを含めてさすがだね。やっぱりお姉ちゃんはそうでないとね。でも、そろそろケリを付けなくちゃ」

 

これ以上時間はかけていられないと判断した黒女(くろめ)は早期決着のために刀を構える。

 

「・・・高専から離れて12年。長かった。お姉ちゃんと一緒に過ごせなかったこの時間は、あまりにも長かった。でも、それももう終わり。私がお姉ちゃんを殺せば・・・ずっと・・・ずぅーっと・・・お姉ちゃんと一緒にいられる。私の術式は、それを可能にさせるんだ。ゾクゾクするよ」

 

死骸操術は術師本人が対象を殺害することで骸人形に仕立て上げる術式。今回の渋谷の計画に乗じれば赤女(あかめ)を殺して骸人形にできると考えた黒女(くろめ)赤女(あかめ)と一緒にいられる未来を想像し、恍惚とした表情を浮かべている。

 

「私を殺して骸人形にする・・・だからあの偽物と手を組んだのか?」

 

「あんな奴なんて今はどうでもいいじゃない。私に殺されて・・・私とずっと一緒にいよう、お姉ちゃん?菜々子と美々子・・・私の家族たちと一緒に、改めて猿共のいない世界を作ろう。五条悟がいない今、お姉ちゃんさえいればそれが叶うよ」

 

未だに非術師が存在しない世界を求めてやまない黒女(くろめ)赤女(あかめ)は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに冷静になって刀を構え直す。

 

「・・・悪いが、私には待っている生徒がいる。今ここで殺されるわけにはいかないな」

 

「悪いんだけど・・・お姉ちゃんの意見は聞いてないんだよね!」

 

黒女(くろめ)はバッと駆けだし、赤女(あかめ)に向かって突きを放とうとする。と、次の瞬間・・・

 

ピキ、ピキピキピキ・・・パリーーーン!!!

 

「!!」

 

何の前触れもなく幻魔鏡にヒビが入り、直後割れる音と共に結界が壊れ、元の世界に戻る。途端に、赤女(あかめ)の失われた呪力と身体能力が戻った。

 

カキィィィン!!

 

自身に力が戻ったとすぐに感じ取った赤女(あかめ)は刀を振り上げて、黒女(くろめ)の刀を弾いた。

 

「なっ・・・幻魔鏡が・・・!」

 

刀を弾かれた黒女(くろめ)はすぐに後退して赤女(あかめ)から距離を取った。

 

「どういうこと・・・?禍津神(まがつがみ)がしくじったってこと?」

 

まだ指定された時間が経っていないのに幻魔鏡が崩壊した事態に黒女(くろめ)は困惑している。

 

「やれやれ・・・どうやら彼女たちは真相に気付いたようだね」

 

するとそこに2人の間に入ってくるように、偽夏油が姿を現した。偽夏油を見た赤女(あかめ)は恨むような視線を向ける。

 

「貴様・・・!」

 

「やあ。まだ生きていたんだね。しぶといのも考えものだよ?」

 

偽夏油は赤女(あかめ)の睨みにも諸共せず、飄々とした態度をとる。

 

「・・・手出しはいらないって言ったでしょ?」

 

「そうだね。でも、そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな?」

 

「それってどういう・・・」

 

ゴォォォォォ・・・

 

「「!!」」

 

黒女(くろめ)が偽夏油に問いかけようとした時、宿儺の大きな気配を感じ取り、強張った表情を見せる。それは赤女(あかめ)も同じだ。

 

(宿儺・・・?いや、違う!指だ!それも1本じゃない!11本だと⁉)

 

「宿儺の指・・・!!まさか!!」

 

宿儺の指について心当たりがあった黒女(くろめ)は驚愕に満ちた顔で目を見開き、偽夏油に顔を向ける。

 

「こんなところで暇を打ってていいのかな?あの2人、この身体を取り戻そうとしてたらしいからね」

 

偽夏油の言葉に黒女(くろめ)は焦ったように声を上げる。

 

「話が違う!!私があなたに手を貸している間、家族には手は出さない!!そう言う縛りを結んだはずでしょ!!?」

 

黒女(くろめ)の言葉に偽夏油はふっと笑みを浮かべる。

 

「ああ、確かにそんな縛りを結んだね。もちろん、私は手を出していないよ?・・・私は(・・)、ね」

 

「・・・っ!!」

 

黒女(くろめ)が偽夏油と手を組むと決めた最大の理由は、家族を・・・菜々子と美々子が万が一殺されないようにするためだ。そのために縛りを結んだ。だがその縛りには落とし穴があった。それに気づいた黒女(くろめ)は苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

「縛りを科すまではよかったよ。けど、縛り内容はもう少し明確にしておくことをお勧めするよ」

 

黒女(くろめ)が偽夏油に科した縛り内容はこうだ。偽夏油の計画に手を貸す代わりに、夏油一派の仲間たちには危害を加えない。だがこの縛りには人物の指名がない。仮に第三者が割り込んでしまっても、偽夏油が手を下さない限り、縛りを破ることにはならない。ついでに言えば、特級呪霊たちもどちらかといえば協力関係というだけであって、仲間というわけではない。人物の指名がされていない以上、特級呪霊もまた、第三者扱いになる。

 

「・・・っ、菜々子!美々子!」

 

黒女(くろめ)は優先事項を菜々子と美々子に変え、急ぎ2人の元へ駆けだす。

 

「待て、黒女(くろめ)!」

 

去っていく黒女(くろめ)を追いかけようとする赤女(あかめ)だったが、行く手を阻むように低級呪霊が現れる。赤女(あかめ)は現れた呪霊を刀を振るって斬り祓った。

 

「呪霊操術・・・!貴様・・・傑の術式まで・・・!」

 

「驚くほどでもないだろう?夏油傑の肉体を使ってるんだ。呪霊操術が使えても、何もおかしいことはないさ」

 

赤女(あかめ)の睨みにも意を解さず、偽夏油は飄々としている。

 

「それよりもだ・・・私が1番懸念しているのはね、君が真人と鉢合わせすることだよ。君の術式で斬られてしまえば無為転変は意味を成さず、真人は祓われる。そうなって困るのは私なんだ。だから君が渋谷内をうろちょろされると、大迷惑なんだよ」

 

偽夏油がそこまで言い切ると手持ちの呪霊をこの場に召喚した。その姿はナーガ神を彷彿とさせた両手と翼を生やした蛇型の呪霊だ。その呪力は疱瘡婆と負け劣らぬほどに高い。

 

「この呪力量・・・特級呪霊か!」

 

「ああ。去年の手持ちは夏油傑が使い切ってしまったからね。けど、質は衰えないと自負しているよ」

 

蛇型の特級呪霊の出現に赤女(あかめ)は刀を構える。

 

「そいつを祓うことができたら今度こそ、私が相手をしよう。ま、せいぜい頑張るんだね」

 

この場を蛇型呪霊に任せ、偽夏油は下へと戻っていく。残った蛇型呪霊は両手で印相を結んだ。すると辺りの空間に深い霧が立ち込め、足元には湖ができあがる。そう、領域展開だ。

 

(領域展開⁉このような呪霊も持っているとは・・・)

 

赤女(あかめ)が内心驚いていると、彼女の周りに蛇型の式神が何体も現れる。そして、ここは領域内。式神の攻撃は確実に当たる。

 

「秘伝―――落花の情」

 

赤女(あかめ)は慌てることなく直毘人より教わった落花の情を使って式神を真っ二つに引き裂いた。

 

役小角(えんのおづの)は万が一のための切り札だ。今ここで使うわけにはいかない。領域を使ってしまった今、私にできることはただ1つ、落花の情と簡易領域を駆使して、特級呪霊を葬る!)

 

立て続けの連戦に疲労が隠せない。それでも赤女(あかめ)は立ち止まるわけにはいかないため、体に鞭を打ってでも気力を振り絞り、特級呪霊と相対するのであった。

 

 

一方その頃、漏瑚は宿儺の指を11本全て悠仁に食べさせた。偽夏油の言葉が正しいのならば、これで肉体の主導権は一時的に宿儺に変わるはずだ。

 

(11本全て食わせた。これで虎杖の中には最低でも15本の指がある)

 

「「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」」

 

「ん?」

 

指を取り込ませる作業を終えると、炎に包まれたはずの菜々子と美々子が消え、少し距離を取った場所に無傷の菜々子と美々子が立っており、2人は咳き込んでいる。

 

(生きておったか。どちらかの術式だろうな。だがこの脅えよう、そう何度も防げまい)

 

2人が無事であったのはどちらかの術式であると理解した漏瑚はもう1度炎を放とうと手を掲げる。

 

「手間をかけさせるな・・・え・・・?」

 

だが自分の右腕を見た瞬間、漏瑚は目を見開く。なぜなら右腕は気付かないうちに斬り落とされていたのだ。その様子を見ていた菜々子と美々子はひどく脅えている。その原因は・・・たった今、目を覚ました悠仁・・・いや、宿儺にあった。

 

「1秒やる・・・どけ」

 

「っ!!!」

 

宿儺の静かで強烈な圧に圧された漏瑚は宿儺から距離を取り、菜々子と美々子と並ぶ。宿儺から感じ取れる圧倒的な存在感。その重圧に漏瑚、菜々子と美々子は畏怖し、冷や汗をかいている。

 

(これが宿儺・・・!五条悟とも禪院赤女(あかめ)とも違う異質の強さ・・・圧倒的邪悪!互いの一挙手一投足が全て死因になりうる恐怖・・・!)

 

(息・・・息・・・息・・・息息息息息!)

 

(息・・・していいんだよね・・・?殺されないよね・・・?)

 

息をすることさえも忘れてしまいそうなほどの圧倒的な恐怖に菜々子と美々子、漏瑚は委縮している。

 

「・・・頭が高いな」

 

「「「!!」」」

 

宿儺が言葉を発した瞬間、菜々子と美々子は身を縮こませるほどの姿勢で頭を下げ、漏瑚は片足を地に付けて頭を下げた。その瞬間・・・

 

ヒュンッ!ズガアアアアア!!!

 

宿儺から凄まじい斬撃が放たれ、漏瑚の火山頭が撥ね飛ばされる。

 

「片膝で足りると思ったか?実るほどなんとやらだ。よほど頭が軽いと見える」

 

宿儺は縮こまったまま頭を下げている菜々子と美々子に視線を向ける。

 

「ガキ共。まずはお前らだ。俺に何か話があるのだろう?指1本分くらいは聞いてやる。言ってみろ」

 

話に耳を傾ける宿儺に、2人は恐る恐ると用件を述べる。

 

「・・・し・・・下に・・・額に縫い目のある袈裟の男がいます・・・。そ・・・そいつを・・・殺してください」

 

「夏油様を・・・解放してください」

 

2人の脳裏に浮かんだのは、まだ体を乗っ取られる前に過ごした傑との思い出・・・そして、彼の言葉である。

 

 

『ねぇ夏油様、五条悟と禪院赤女(あかめ)って何者?超強いんでしょ?』

 

『うん。悟とは親友で、赤女(あかめ)とは大事な友人だったんだ。2人ケンカしちゃって、それっきり』

 

大好き。

 

大好き。

 

大好き。

 

夏油様を殺した五条悟と禪院赤女(あかめ)を私たちは一生許さない。

 

でもね・・・これでいいとも思ったの。

 

だって・・・五条悟は夏油様のたった1人の親友で・・・

 

禪院赤女(あかめ)黒女(くろめ)姉様のたった1人のお姉ちゃんだから。

 

夏油様が死んでから、黒女(くろめ)姉は私たちを支えてくれた。

 

私たちを守ろうとしてくれている黒女(くろめ)姉様も、大好き。

 

その黒女(くろめ)姉が、私たちを守るために・・・夏油様の皮を被ったあいつと手を組んだ。

 

大好きな黒女(くろめ)姉様まで弄ぼうとするお前は違う。

 

地獄に落ちろ!!

 

後悔させてやる!!

 

 

「私たちはもう1本の指の在り処を知っています。そいつを殺してくれれば、それをお教えします。だから・・・どうか・・・」

 

指の在り処を使って宿儺に偽夏油を殺してもらおうと2人は頭を下げたまま懇願する。その2人に対し宿儺は静かに口を開く。

 

「面を上げろ」

 

宿儺に命じられたとおり、2人はゆっくりと顔を上げた。その瞬間・・・

 

スパァ!!!

 

「・・・え・・・?」

 

宿儺は自らの術式を使い、美々子の首を撥ね飛ばした。残った美々子の身体は地に倒れ伏す。

 

「美々子!!美々子!!美々子!!美々子!!美々子!!嫌あああああああああ!!!」

 

自分の唯一の肉親である美々子が殺されて菜々子は悲痛な声を上げる。

 

「たかだか指の1、2本で俺に指図できると思ったか?」

 

「嘘!!嘘!!美々子!!美々子ぉ!!」

 

「・・・不愉快だ」

 

菜々子を嘲笑う宿儺だったが、あまりの喚き具合によって機嫌を損ねた表情を見せる。

 

「宿儺!!!!死ねぇ!!!!!」

 

姉妹を殺した宿儺に憎悪を燃やした菜々子はスマホを向けて自分の術式を発動しようとする。

 

スパァァン!!ズシャアアアアア!!!!!

 

だがその瞬間、菜々子は顔を両断されただけでなく、体まで粉々に斬り刻まれた。宿儺は残った菜々子のスマホを手に取る。

 

「ふむ・・・携帯・・・いや、写真機の方か。大方、被写体の状態をどうこうするものだったのだろう。つまらん」

 

菜々子の術式に興味をなくした宿儺はスマホを握りつぶし、その場に放り投げた。

 

「・・・で?貴様も俺に用があるのか?女」

 

宿儺はこの場にやってきた1人の女性に顔を向けた。

 

「・・・・・・菜々子・・・美々子・・・」

 

菜々子が殺される一部始終を目の当たりにした女性、禪院黒女(くろめ)は飛び散った菜々子の血と、首がなくなった美々子の遺体を見て、目を見開いて呆然と立ち尽くす。

 

「・・・頭が高い。ひれ伏せ」

 

命令口調で話す宿儺の言葉が届いていないのか、黒女(くろめ)の視線はずっと2人の殺害現場を見てばかりだ。彼女の脳裏に、2人と過ごした記憶が溢れてくる。

 

 

『ねぇ黒女(くろめ)姉。禪院赤女(あかめ)って黒女(くろめ)姉のお姉ちゃんだよね?』

 

『うん、そうだよ』

 

『・・・どうして、喧嘩別れしたの?』

 

『うーん・・・価値観の相違だね。私の価値観がお姉ちゃんと合わないことは、わかってたけどね。でもやっぱり・・・離れ離れは辛いなぁ・・・』

 

『姉様・・・元気出して。私たちは・・・どんなことがあっても、姉様の味方だよ』

 

『そーそ。なんせうちらは・・・黒女(くろめ)姉が大好きだから。ね?』

 

『菜々子・・・美々子・・・。うん・・・ありがとう、2人とも。私も、2人のこと、大好きだよ』

 

あの子たちは・・・昔の私なんだ。周りの理不尽に苛まれてきた、かつての私。私は私と同じ痛みを抱える2人のことを・・・どうしても他人のようには思えなかった。

 

だから決めたんだ。私が、この子たちのお姉ちゃんになろうと。

 

どんなことがあっても、この子たちは私が守ろうと。そう誓った。

 

誓った・・・はず・・・なの・・・に・・・

 

 

「聞こえなかったか?頭が高い。ひれ伏せ」

 

宿儺の命令に対し、黒女(くろめ)は手に持つ刀を強く握りしめ、宿儺に激しい憎悪を向けた。

 

 

「宿儺ああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

声を荒げる黒女(くろめ)は刀を抜いてバッと駆けだし、宿儺に斬りかかろうとする。

 

「・・・バカが」

 

ヒュンッ!ブシャアア!!

 

「が・・・あ・・・」

 

宿儺が呟いた瞬間、黒女(くろめ)は至る所に切り傷ができあがり、血反吐を吐いた。黒女(くろめ)を粉々に斬り刻むつもりだった宿儺は体が残っていることに対し、多少なりとも反応する。

 

(こいつ・・・俺の術式が見えている・・・だけではないな。咄嗟に展延を張って致命傷を避けたか・・・。・・・ん?待て、こいつ・・・)

 

とここでようやく黒女(くろめ)の顔に気付いた宿儺は彼女の顔をじっと見つめる。

 

「女・・・お前どこかで会ったか?」

 

黒女(くろめ)が誰かに似ていると感じた宿儺の脳裏に、赤女(あかめ)の姿が思い浮かんだ。

 

「・・・ケヒ!ヒヒヒ!なるほどそういうことか!お前・・・禪院赤女(あかめ)の肉親だな?」

 

黒女(くろめ)赤女(あかめ)の姉妹であると気づいた宿儺は愉快そうに笑みを浮かべている。

 

「ちょうどいい。俺は禪院赤女(あかめ)に少々借りがあってな。お前には奴をおびき寄せるための餌になってもらおう。断れば、その場で殺す」

 

宿儺は黒女(くろめ)に生か死かの選択肢を与えさせた。断ったら死ぬ。だが生を選んでも宿儺に利用される。その二択を迫られた黒女(くろめ)は口を開く。

 

「・・・地獄に・・・落ちろ・・・宿儺・・・!!」

 

ビュンッ!

 

黒女(くろめ)が言葉を発した瞬間、宿儺は術式の斬撃を放ち、彼女を殺しにかかった。

 

スパァ!グシャアアア!!

 

「ん?」

 

しかしその直後、1体の骸人形が間に入り、自身がバラバラになる代わりに黒女(くろめ)を守った。そして、フードと仮面で身を隠した骸人形が彼女を抱え、その場を去ろうとする。そこを追撃する宿儺の斬撃。どこへまたも骸人形が前に立ち、黒女(くろめ)を守る代わりに自身が真っ二つに両断される。

 

「菜々子・・・美々子・・・ごめん・・・ごめんね・・・!絶対に・・・あなたたちの仇は討ってあげる・・・!だから・・・私を・・・弱いお姉ちゃんを・・・どうか許して・・・!」

 

骸人形に抱えられる黒女(くろめ)は大量の涙を流し・・・復讐の誓いと謝罪の言葉を残し、この場を去っていった。

 

残った宿儺は骸人形を術式でバラバラに引き裂いた。

 

「死体を操る術式か。何とも言えんくだらん術式だ」

 

黒女(くろめ)の術式を理解した宿儺は心底つまらなさそうに吐き捨てた。

 

(まぁいい。あの女は何かしら使えそうだ。生かしておいてやるのもまた一興か・・・)

 

自身に向けられた憎悪の目は赤女(あかめ)への嫌がらせ・・・そして悠仁を追い詰めることに使えそうと判断した宿儺はあえて見逃すことに決めた。理由は面白そうだから。それ以外理由はない。

 

「さて・・・待たせたな。最後はお前だ、呪霊。何の用だ?」

 

宿儺はずっと黙って見ていた漏瑚に顔を向けた。

 

「・・・用は・・・ない」

 

「何?」

 

「我々の目的は宿儺、貴様の完全復活だ。今は虎杖の適応が追い付かず、一時的に自由を得ているにすぎない。それは自身が1番わかってるはずだ」

 

以前里桜高校で悠仁が順平を助けてくれとの懇願を宿儺が断ったことを真人から聞かされていた漏瑚。その原因はわかっている。

 

(宿儺の反転術式が他人の治癒が可能だとしても、真人の無為転変で変えられた魂の形はどうこうできるものではない。宿儺はあの時縛りを作らなかったのではない。作れなかったのだ)

 

反転術式でも魂の形を治せないから宿儺は縛りを作らなかった。そう考える漏瑚は今の自分たちの戦況ならば縛りを結べると考え、自身の提案を宿儺に告げる。

 

「虎杖悠仁が戻る前に奴との間に縛りを作れ。肉体の主導権を永劫得るための縛りを。虎杖の仲間がここに大勢来ている。やり方はいくらでもある」

 

漏瑚の提案を前にして宿儺は眉一つ動かさない。縛りを作る作らない以前に、宿儺にはもうすでに心に決めていることがあるのだから。

 

「必要ない」

 

「んんっ?」

 

「俺には俺の計画がある。だが・・・そうか。くくく・・・必死なのだな、お前らも」

 

「・・・っ」

 

漏瑚の提案を蹴った宿儺は薄ら笑いを浮かべ、今度は自分から提案を出す。

 

「指の礼だ。かかってこい。俺に一撃でも入れられたらお前らの下についてやる」

 

「っ」

 

宿儺の余裕に気押されながらも、引き下がるわけにもいかない漏瑚は宿儺を睨む。

 

「手始めに渋谷の人間を皆殺しにしてやろう。1人を除いてな」

 

「・・・二言はないな?」

 

漏瑚が口開いた瞬間、呪力同士がぶつかり合い、呪い同士の激闘が幕を開こうとしていた。

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