呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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霹靂

甚爾によって渋谷の外に放り出された恵はゆっくりと歩いている彼に底知れないプレッシャーを感じている。警戒を続けていると、視界から一瞬で消え、気づけば後ろに回り込まれていた。あまりの速さに恵は驚愕している。

 

(呪力なしでこのスピード・・・おそらくこいつ、真希さんと和倉の完成系だ)

 

甚爾がフィジカルギフテッドの完成型であると気づいた恵はいつでも式神を召喚できるように両手を合わせる。

 

(集中しろ・・・狗巻先輩のおかげで一般人も改造人間もはけてる。イメージするんだ・・・こいつに勝つイメージ・・・勝つ・・・イメージ・・・!)

 

甚爾は片手に持っていた鋭く尖った游雲を持ち直し、突きの構えをとる。

 

「・・・っ!!脱兎!!」

 

凄まじい殺気を感じ取った瞬間、恵はウサギの手影絵で脱兎を召喚する。直後・・・

 

ゴォォ・・・

 

「!!!!」

 

宿儺の指の強烈な気配を感じ取った。

 

(今の気配、宿儺の指!何がどうなってんだよ⁉渋谷は!!)

 

何が何だかわからない状況の中、恵は召喚した大量の脱兎の群れの中に隠れ、この場を離れようとする。しかし・・・

 

ドオオオオンッ!

 

甚爾はピンポイントで恵の位置を特定して突っ込んできた。恵は脱兎の群れから飛び出し、ギリギリで甚爾の突きを躱した。

 

(勘で突っ込んできやがった!!)

 

攻撃を躱した恵は走って甚爾から距離を取り、脱兎に指示を出す。指示を受けた脱兎の群れは甚爾を覆い尽くす。その隙に恵は近くのビルの工事跡地に入り込み、うまくやり過ごそうとする。だが走っていく先で脱兎の群れからもう脱出した甚爾が待ち構えていた。

 

(くそっ!もう領域展開できる呪力はないってのに!)

 

甚爾に近づいた恵は拳の連撃を放つが、甚爾は恵に目を合わせずにその連撃を全て片手でいなし、その間際で裏拳で恵を殴り飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

恵が仰け反った直後、1匹の脱兎が突っ込んできた。しかし甚爾はその1匹の脱兎の耳を掴みとり、そのまま脱兎を振り回して突っ込んでくる他の脱兎を叩き落とす。そこへ恵がスライディングで足払いを仕掛けるが、それは游雲で止められてしまう。そこから甚爾は殴りかかる恵の拳を受け止め、彼に拳を叩き込む。

 

「ぐっ・・・うぅ!」

 

仰け反る恵によじ登った1匹の脱兎は蹴りを放つが、甚爾はそれを避ける。脱兎はさらに蹴りを放つが、それを甚爾は口で受け止め、恵と共に脱兎を放り投げる。

 

「ぐあっ!」

 

大量の脱兎が甚爾に襲い掛かる。それに対して甚爾は游雲を上に放り投げて、片足を上げて地を踏み上げる。

 

ドォォン!!

 

その瞬間、甚爾の周りに衝撃が走り、辺りに地割れが起き、小石が宙を舞う。

 

トンッ

 

宙を舞う小石を甚爾は軽く小突いて弾き、1匹の脱兎に放つ。小石に直撃した脱兎は一瞬で破裂する。甚爾はさらに他の小石を小突き、飛ばすことで襲って来る全ての脱兎を破壊してみせた。

 

「・・・っ!!」

 

甚爾は落ちてくる游雲を手に取り、再び恵に向かって襲い掛かってきた。

 

 

渋谷ストリーム  23時1分

 

一方その頃、ブラート班と別れた後、日下部班は渋谷の街に残っている一般人の避難活動を行っている。ただ、棘のおかげで一般人も改造人間もだいぶはけているのでそろそろ切り上げてもいい頃合いだ。だが日下部はそれをよしとはせず、屋内にまで一般人を捜索している。

 

「日下部~、もう屋内はよくないか?帳内ではあるけど、棘のおかげであらかた避難は済んだし、悟と赤女(あかめ)んとこ行こうぜ。地下5階ってどう行けばいいんだ?棘も封印はマジって言ってるし、急ごうぜ。もたもたしてると赤女(あかめ)もやべぇかも」

 

パンダももういいと判断しているからか日下部に地下5階に向かうことを提案している。

 

「・・・五条禪院五条禪院・・・!世の中の人間五条と禪院だけじゃないでしょうが!!!」

 

パンダの提案に日下部は逆ギレ気味にそう叫んだ。

 

ピシャーーーン!!!

 

「はっ!!!」

 

日下部のその叫びにパンダは衝撃が走る。

 

「今まさにこの瞬間、渋谷の片隅で震えてる命があるかもわからん。具体的には小学校低学年女児で想像してくれ。それを見落としてでもしてみろ。はかない未来を摘み取るのに俺たちが加担したと言っても過言じゃないっちゅう話よ!」

 

「そ・・・そうかも・・・」

 

「わかったら、各建物各階便座の裏まで調べろ、バカ野郎」

 

日下部の力説に強く納得したパンダは言われた通りに一般人が他に残っていないか探し回る。だが日下部自身ももう探し回る必要がないことくらいはわかっているのだ。ただそれでも日下部は、渋谷駅には是が非でも行きたくないのだ。

 

(まずいな・・・そろそろ言い訳も苦しくなってきた。ブラートには悪いが、俺は絶対に地下5階に行きたくない!このままだらだらと時間を潰していたい!なぜなら、死にたくないから!!)

 

死にたくない。ただそれだけで、如何にも人間らしい理由で渋谷駅に行きたがらない日下部。腐っても彼も1級術師なのだから1人で行動しても問題ないのだが彼はそれもしたがらない。

 

(パンダは場所さえわかっちまえば1人でも地下5階に向かっちまう。それも避けたい!今ここで1人になりたくないから!)

 

どこまでも小心的な考えを持つ日下部。しかし現在進行形で混沌と化している渋谷で1人で行動するなど、例え1級術師でも危険なのだ。ゆえに彼の考え方もあながち間違いでもないのだ。

 

(あいつはパンダのくせに俺以上に人の心があるからな。だが、パンダゆえに渋谷の土地勘はない。地下5階が激近だということに気付いていない!)

 

「俺あっち見てくる!」

 

「おう、しっかりやれ」

 

パンダに土地勘がないことをうまく利用している日下部は次にどのように時間を潰すか真剣に考える。

 

(次は駅で迷ったふりだな。五条を封じた連中に禪院を追い込ませるほどの連中・・・さらにさっきからでかい呪力が出たり消えたり・・・)

 

当初は悟と赤女(あかめ)が逃した呪霊や改造人間を狩るだけの楽な仕事のはずがいつの間にかどんどん悪い方向へ向かっている事態に日下部は心底面倒そうに肩を鳴らす。

 

「やってられるか、アホらしい」

 

危険な仕事は自分より強い人間に任せればいい。その思想が根強い日下部はそう呟いた。

 

「「・・・!」」

 

ものすごいスピードでこちらに向かってくる大きな呪力に日下部とパンダは気付いた。呪力の出所である夜空を見上げてみると、1体の傀儡がこちらに向かってきている。

 

「日下部」

 

「ああ・・・来るぞ!」

 

ドォォォン!!

 

パンダと日下部が相づちを打った瞬間、飛んでいた傀儡が彼らに向かって突っ込んできた。パンダと日下部は後退して傀儡の突進を躱した。地面と衝突して発した土煙が晴れると、マリーが使役する傀儡、マクスウェルが姿を現した。マクスウェルの目のカメラは機械音を鳴らしながらパンダと日下部を捉える。

 

「こいつ・・・傀儡だな。メカ丸と同じ傀儡操術か」

 

「だが、こいつはそんじょそこらの傀儡とは違うようだぞ」

 

パンダと日下部が考察をしている間にもマクスウェルは問答無用で襲い掛かってくる。

 

キィン・・・ザンッ!!

 

日下部は手に持っている刀を抜刀し、マクスウェルを一刀両断する。だがマクスウェルは両断された状態でも問題なく動き、後ろ向きのまま両手をパンダと日下部に向け、ロケットパンチを放った。

 

「うおおっ⁉」

 

「おいおいおい、マジか」

 

パンダと日下部は驚愕しつつもロケットパンチを跳躍して躱した。マクスウェルは機械音を立てながら自身の体をくっつけて、両腕も新しく生成して元の状態に戻る。

 

「遠隔操作で修復・・・しかもすげぇ早くて的確。確かに普通の傀儡じゃねぇな」

 

「パンダ、こいつの本体がどこにいるかわかるか?」

 

「そんなに言うほど遠くはない。けど妙だ。すぐ近くに本体と似たような気配を感じる。これ多分向こうも戦闘の最中だと思う」

 

パンダの言葉に日下部は眉をひそめる。傀儡使いが遠隔操作を行うこと自体は何もおかしな話ではない。ただ問題は、それが戦闘の最中に行われているという点にある。

 

(おいおいおい・・・冗談だろ?戦闘の中で遠隔操作って・・・あまりにもリスキーすぎる。てかそれ以前にそんな技術、夜蛾さんでも無理だぞ。そんなやべぇ奴が渋谷に来てるってのかよ?・・・この任務、受けるんじゃなかった・・・)

 

マクスウェルを操る術師の底知れなさを実感する日下部は上からの命令とはいえこの任務を受けてしまったことを激しく後悔している。

 

 

ドガアアアン!!

 

「くっ!」

 

甚爾の一撃を受けた恵はビルの壁をぶち破って吹っ飛ばされつつも、急ぎ体勢を立て直し、甚爾の攻撃を躱した。

 

ゲシィ!ドカァ!!

 

「ぐはっ!ぐあ!」

 

だが直後に蹴りを叩き込まれ、トラックと激突し、さらに追撃で殴り飛ばされ、車と激突する。さらに甚爾は恵に向けてトラックを蹴とばした。恵は迫ってきたトラックを避けて路地裏に入り、建物の階段を上がって上に向かう。

 

「はぁはぁ・・・はっ!」

 

隣の建物に上り移ろうとした時、甚爾はマンホールの蓋を蓋をブーメランのように放ってきた。恵は急ぎ建物に上り移り、マンホールの蓋を避けた。マンホールの蓋は軌道を変え、甚爾の元へ返って来る。甚爾は游雲を突き刺し、回転をさらに勢いづかせてまた恵に放つ。恵は建物の垂直面を走り、迫るマンホールの蓋を避ける。だが避けた先で甚爾はトラックを放り投げた。

 

ドカアアアアン!!

 

「ぐあ!!」

 

恵はトラックの爆発に巻き込まれる前に飛び、建物の垂直面を滑って高く飛び、前の建物に飛び移ろうとする。だが甚爾は恵に向けて游雲を投げ放つ。迫ってきた游雲を恵はスレスレながらも避け、建物に不時着して転がる。そして体制を立て直し、鵺を召喚して飛び立つ。

 

(長引くほど不利!短期決戦!それしかない!俺の唯一のアドバンテージ・・・)

 

恵は短期決戦を仕掛けるために今自分にできることを真剣に考える。

 

 

首都高速3号渋谷線 渋谷料金所  22時 51分

 

この首都高速3号渋谷線の渋谷料金所では硝子と夜蛾が待機しており、渋谷駅から出てきたブラートは負傷した(たつみ)をここへ連れてきていた。

 

「和倉の生死を分けたのは肉体。しばらく安静にすりゃ、目を覚ますよ」

 

「助かったぜ家入。お前がいなきゃ今頃(たつみ)は・・・」

 

ブラートは(たつみ)の治療を終えた硝子に感謝を述べている。

 

「いや、それはいいんだけどさ・・・お前も学長に言ってやってくんない?呪骸があるんだから1人でもいいって」

 

「そう言うわけにもいかないだろ」

 

「その通りだ。ここがバレれば真っ先に狙われる。反転術式で他人を治せるのは赤女(あかめ)や悟にもできないことだ。和倉だけじゃない。お前がいなければ猪野も伊地知も死んでいた」

 

反転術式は赤女(あかめ)も悟も使うことができるが他人を治すことができない。できるのは今この場では硝子しかいない。ゆえにこの場所を狙われればひとたまりもない。だからこうして夜蛾が硝子の護衛に回っているのだ。

 

「それは学長の判断のおかげですよ。七海に呼ばれてからじゃ間に合わなかった。その七海をフリーにできたのは大きい」

 

自身の見解を述べ、硝子は煙草を吸う。

 

「・・・煙草、辞めたんじゃなかったのか?」

 

「・・・少し、学生時代を思い出しまして」

 

煙草をあらかた吸い終わった硝子は煙草の火を消した。

 

 

一方その頃、渋谷の街のビル内部。獲物を求めて渋谷中を彷徨っているマリーは辺りを見回して探りを入れている。マリーが彷徨っているオフィスの机の下に両腕を失ったセリューが隠れている。セリューはこっそりと顔を出して様子を伺うが、その瞬間マリーが瓦礫を放り投げてきてすぐに顔を引っ込めた。

 

(あれがママなのは間違いない・・・。でも・・・どうして?あれじゃあ・・・)

 

マリーは近くのロッカーの前に立ち、拳を叩き込んだ。何度も何度も・・・原型が留められないほどにロッカーに穴を開け、ボロボロにしていく。

 

(・・・ありじゃあまるで・・・大悪党になったみたい・・・)

 

マリーが見境なく暴れまわっているのは、既に亡くなった翔琉の術式のせいだ。

 

翔琉の術式、傀儡怨念は使用者が死亡した時点で解ける・・・そのはずだった。マリーの未練が宿った傀儡にはマリーの魂が定着している。降ろされた未練とマリーの魂は惹かれ合い、同化したことによって術式終了の契機を失ってしまった。イレギュラー中のイレギュラーが発生したことで術式は暴走。

 

未練がマリーの魂を黒く塗りつぶしたことで、彼女の中の本来願いは歪み切り、飢えを満たすためだけの殺戮人形と化した。歪み切った彼女の本能は目に映る全てを破壊する。満たされることのない飢えを満たすその時まで。

 

(悪に染まった者は全員殺す!今までもそうしたし、これからも変える気はない。だけど・・・だからってこれは・・・あまりにも残酷すぎる・・・)

 

悪に落ちた者は例外なく殺す。一切の例外は許さない。そうすることで己の正義を貫いてきた。そしてそれはこれからも変える気はない。だがそのためには自分に愛情を注いでくれた母を、殺さなければならない。その現実を突きつけられ、セリューは初めて己の正義に迷いが生じてしまう。

 

(私はどうしたらいいの・・・?パパ・・・)

 

悪を殺す。母を殺したくない。その二面性に苦しむセリューは涙を流す。

 

だが・・・彼女にはその苦しむ機会すら与えてくれない。

 

ガッ!!

 

「ひっ・・・!」

 

マリーがセリューが隠れていた机を持ち上げた。セリューが視界に入ったマリーは持ち上げた机をへし折り、ぐしゃぐしゃに丸め込んだ。そして、丸め込んだ机の塊を力いっぱい振り下ろした。

 

ドオオオン!!

 

「あああ!!」

 

セリューは間一髪で避けたが、振り下ろした衝撃が強く、風圧で吹っ飛ばされ、倒れ伏す。マリーは机の塊を持ち、ゆらり、ゆらりとセリューに近づく。セリューは何とか起き上がろうとするも、両腕を失ってしまっているせいでうまく立ち上がることができない。

 

「やだ・・・やめて・・・ママ・・・」

 

セリューは命乞いをするが、無意味だ。殺戮人形と化したマリーに娘の声は届かないのだから。マリーが机の塊を放り投げようとする。

 

「キュウーーーーー!!」

 

すると、狂化のオーバーヒートで動けないはずのコロが現れ、マリーの足を噛んで彼女を止めようとする。

 

「!コロ!なんで・・・」

 

セリューが疑問を浮かべるが、その暇は与えられない。マリーは強く足を振り払い、コロを吹っ飛ばす。そしてコロに目掛けて机の塊を放り投げた。

 

「コロ!!!」

 

ドオオオオオオオン!!!

 

コロが塊を押し退けるより早く、マリーは突っ込んで塊ごとコロに拳を叩き込んだ。その後もマリーはコロに何度も何度も・・・壊れるまで何度も拳を叩き込み続ける。

 

「やめて・・・もうやめて・・・」

 

セリューはやめるように呼び掛けるが、マリーは止まらない。その様子にセリューは唇を強く噛みしめ、声を大きく張り上げる。

 

 

「もうやめて!!!!ママぁ!!!!!」

 

 

渋谷全体に響き渡りそうなほどの張り上げた声。その声にマリーはピタリと止まり、顔をセリューに向ける。その顔は驚愕で目を見開いている。娘の姿を視認したマリーの魂に、記憶が溢れだす。

 

『・・・ママ。パパは?』

 

『・・・パパは・・・ちょっとお仕事が長引いてるみたいでね。まだ帰れないみたいなの』

 

『・・・ママ、泣いてるの?』

 

『え・・・?・・・や・・・やだ、私ったら・・・目にゴミが入ったみたいね・・・』

 

『・・・ママ。泣かないで。私が付いてるからね』

 

『セリュー・・・。・・・うん。ありがとう、セリュー。私のかわいい娘』

 

夫を失ったあの日、五感がないばかりに感じることのなかった涙を拭き、慰めようとしてくれた幼き娘。呪力を通じて知った娘の思いやりと暖かさ。その記憶が溢れだしたマリーは顔を俯き、動きを止めた。直後・・・

 

ドゴオオオオン!!

 

渋谷中を飛び回る数多のマクスウェルの1機が天上を突き破って降りてきた。

 

「マクスウェル・・・」

 

マクスウェルの目のカメラがセリューを捉えた時、一歩歩み出し・・・

 

ヒュンッ!ドゴォ!!

 

「うっ・・・」

 

セリューの鳩尾を殴りこみ、彼女を気絶させる。倒れそうになったセリューをマクスウェルはしっかりと支える。そして、彼女を抱きかかえて足のブースターを起動して、空へと飛び去って行った。

 

「・・・・・・これでいい。あの子に、悪党の母親なんて、必要ないから」

 

口を開いたそう呟いたのは瞳に光が戻ったマリーだった。セリューの必死の呼びかけによって溢れ出た記憶によって、彼女は正気を取り戻したのだ。だがこれは一時的なものであり、すぐにまた理性を失ってしまうだろう。それはマリー自身が1番わかっている。

 

「キュー・・・」

 

「・・・セリューを守る。その使命を果たすために無理して動いたのね。やっぱりあなたは最高傑作だわ、コロ」

 

マリーは塊をどかし、倒れ伏すコロの頭に手をポンッと置く。

 

「・・・私の呪力を送り込んだ。その力で私を・・・壊せ」

 

「・・・キュー・・・」

 

自分を壊せ。その命令にコロは躊躇いを生じている。コロにとってマリーは自身を生み出した創造主だ。その創造主を壊せなど、いくら命令でも躊躇うのは無理もない。

 

「いいのよ、これで。何の因果か知らないけど、娘を一目見ることができた。死人にとってこれ以上の幸せはないじゃない」

 

「キュー・・・」

 

「お願いよコロ。もうすぐ私はまた私でなくなる。私に・・・娘を殺させないでちょうだい」

 

「・・・・・・」

 

コロは葛藤し、最終的には巨大化し大きな口を開けてマリーを食らおうとする。セリューを殺させないために、命令に従うことを選んだのだ。

 

「・・・ありがとう。引き続き、セリューをよろしくね」

 

ゴシャア!!!!

 

 

スパァ!!

 

同時刻、マクスウェルと相対する日下部とパンダ。日下部が振り下ろした刀がマクスウェルを真っ二つにする。真っ二つになったマクスウェルは機能が停止し、倒れる。

 

「お?なんだ?再生しなくなったぞ?」

 

「呪力が消えている・・・どうやら、術師本人が死んだみたいだな」

 

ツンツンと突っついてもマクスウェルは動かない。呪力も消えていることから、操っている術師が死んだと日下部は判断した。もう動くこともないだろう。

 

「いったい何だったんだ?こいつ」

 

疑問は多々あるものの、ひとまずの危機は脱却した。だが、日下部とパンダはまだ気を緩めていない。この場にまた違う呪力が現れたからだ。日下部とパンダはそちらに視線を向ける。

 

「高専の術師だな。投降しろ。できれば術師は殺したくない」

 

パンダと日下部の前に現れたのは、夏油一派の幹部、眼帯で片目を覆った黒髪の男性、祢木利久と艶やかな美しさを持った女性、菅田真奈美であった。

 

「パンダ」

 

「後ろに3人。多分もっと隠れてる」

 

2人の他に呪詛師が隠れていると判明し、日下部は口を開く。

 

「俺も殺されたくはないが、はいそうですかってわけにもいかんのよ。話を聞かせてくれ。長~い奴を」

 

なるべく時間を稼ぐために、日下部は2人に話を促そうとしている。

 

 

渋谷のオフィスビル。恵を追ってきた甚爾は窓を蹴破ってビルの中に侵入する。辺りを見回すと、1台のデスクがガタッと動いた。甚爾がそれをどかすと、数匹の脱兎がいた。

 

ジジジ・・・プシャーーー!!

 

脱兎が逃げ出したと同時に警報音と共にスプリンクラーが壊れ、水が放射される。そのタイミングで鵺が現れ、甚爾に雷撃を放つ。この一撃でオフィスビルは爆発し、外にいた恵は飛び降りる。

 

(すぐそこに家入さんがいる!今無理を利かすのは自分自身!)

 

恵は落下地点に数多の脱兎を召喚し、落下衝撃を和らげる。同時に、オフィスビルから甚爾が飛び出して恵を追って来る。

 

(即復帰できる怪我でこの場を納める!)

 

落下する甚爾は恵に向けて游雲を突き刺そうとする。恵は蝦蟇し、蝦蟇の舌を巻きつかせ、引き寄せられることで攻撃を回避する。恵は次に仕掛ける甚爾の攻撃に備え、構える。

 

(コースは絞った!スピードはあの時の宿儺並み!目で追うな!後はタイミング!タイミングを外せば死ぬ・・・タイミングを外せば・・・死ぬ!)

 

甚爾がゆらりと動いた瞬間、一瞬で恵の間合いに入り、游雲を突き刺す。

 

ズンッ!ガシッ!

 

恵は何とか直撃を腹部に抑え、甚爾の腕を掴んで逃げられないようにする。そして、恵は影から出した剣を甚爾に突き刺そうとする。その時、甚爾は恵の顔を見て目を見開き、掴まれてる恵の腕を振り払って距離を取った。

 

(くそっ・・・!)

 

仕留めきれなかったことに毒づく恵。そんな時、はるか遠く、空を彷徨っていた数多のマクスウェルが2人の姿を捉え、まっすぐ突っ込んできた。恵はそのことにまだ気づいてない。その間にも、甚爾は恵の姿を見て、ある時の記憶が溢れだす。

 

 

『俺のガキだが、ありゃ完全に持ってる側だ。5、6歳・・・術式の有無がハッキリしたらお前らにやらんこともない。もちろん金次第だがな。相伝の術式なら8、それ以外でも7はもらう』

 

『ハッ・・・相伝なら10やろう』

 

俺にとってはゴミ溜めでも、才能があれば幾分マシだろう。

 

もうどうでもいい・・・

 

どうでもいいんだ・・・

 

 

 

 

『恵をお願いね』

 

 

 

 

 

恵の母・・・自分の妻の言葉を思い出した甚爾は足を上げて、小石を迫って来るマクスウェルに向けて蹴とばした。小石が直撃した瞬間、マクスウェルは粉々に粉砕する。小石は直撃の際にバウンドし、他のマクスウェルを次々と粉砕し、全滅した。

 

(⁉な、なんだ・・・?)

 

遠くにマクスウェルがいたことに今も気づいていない恵は甚爾の行動に困惑している。すると、ずっとしゃべらなかった甚爾が口を開く。

 

「・・・お前・・・名前は・・・?」

 

「あっ・・・伏黒・・・」

 

突然名前を聞かれ、恵は呆気にとられ、思わず苗字を名乗った。苗字を聞いた甚爾はふっと笑みを浮かべる。

 

「禪院じゃねぇのか」

 

ズンッ!!

 

そして手に持っていた游雲を自分の頭に突き刺した。この時の甚爾の目には光が戻っていた。

 

「よかったな」

 

自ら自殺を図った甚爾はゆっくりと倒れ伏した。目の前で死んだ甚爾に恵は彼に駆け寄り、顔を確認する。だがその顔はすでに甚爾のものではなく、依り代であったダニエルものだ。甚爾が自殺したことによって、降霊術が解けて依り代であるダニエルもまた死んだのだ。

 

(なんだったんだ・・・こいつは・・・?)

 

何が何だかわからない状況だが、今はそれどころではない。今は自分が今何を成すべきかが重要だ。

 

(うっ・・・考えるのはよそう・・・早く、家入さんの元へ・・・いや・・・その前に真希さんたちの無事を・・・)

 

ズシャア!!

 

「あ・・・!」

 

恵がフラフラと歩いていると、背後からの斬撃を受けて、ゆっくり倒れる。倒れる間際で、恵は後ろを振り向き、自分を斬ってきた相手を視認する。

 

「くく・・・これこれ、こういうのよ!こういうのが向いてんのよ!」

 

恵を斬った人物とは、七海にやられたはずの重面春太であった。弱いものいじめを悦とする春太は愉快に笑っている。

 

 

時は遡り、偽夏油の作戦が決行される前日のこと。1年前の百鬼夜行から音沙汰がなかった夏油一派の幹部たちは黒女(くろめ)とミゲルを除いて集まっている。しかし、何やら揉めあっている様子だ。

 

「あいつに協力する?それは黒女(くろめ)姉を支えて夏油様の肉体を取り戻すためにって意味っしょ?」

 

「違う。あの偽物の目的も正体も定かではない。が、世に混沌が満ちれば割を食うのは非術師の猿共だ。強者であることが生存の必要条件。猿は淘汰され、術師は増え、呪霊は消えていく。それは夏油様や黒女(くろめ)が望んだ世界だ。だから協力する。肉体に関してはこの際関知しない。それが意思を継ぐということだ」

 

「ごちゃごちゃややこしくすんなし。大好きな人たちをゾンビや奴隷みてぇに弄ばれて黙ってられるかって言ってんだよ」

 

自分たちの前に現れた偽夏油。黒女(くろめ)と同じように彼の計画に協力するか否か。祢木と真奈美は黒女(くろめ)とは別の立場で協力を選び、菜々子と美々子は傑の肉体を取り戻すために行動する。意見が分かれてしまったことで揉めあいが起きてしまったのだ。

 

「夏油様の物語は終わったんだ。もう誰にも汚させない!例え黒女(くろめ)姉の意思に背いても!」

 

「いい加減大人になりなさい、菜々子」

 

「はっ・・・大人だの子供だの・・・それを言い出したら終わりだろうが!!」

 

真奈美の言葉に癇に障った菜々子はスマホを取り出し、術式を発動させようとする。

 

 

「ええ~~い!!!」

 

 

唯一諦観の姿勢を保ってきた金髪でハートのニプレスを付けた筋肉質な上半身裸のオカマ、ラルゥの一喝で争いを止めた。その一喝で地面はひび割れ、ハエも弱って落ちてきた。

 

「双方、収めなさい。傑ちゃんと黒女(くろめ)ちゃんが1番望んでいないのは、私たちが傷つけあうことよ」

 

ラルゥの言葉が正しいと判断した菜々子はスマホを下ろした。

 

「あなたたちはどちらも間違っていない。ここでお別れしましょう。各々やりたいようにやりなさい」

 

「ラルゥはどうすんのよ?」

 

「どちらにも付かないわ。ミゲルちゃんとおんなじ。私はただ、傑ちゃんを王にしたかっただけだもの。でも、みんな忘れないでね。私たちは家族。いつかまたどこかで一緒にご飯を食べるのよ」

 

そうして夏油一派は分かれた。いつかまた家族同士で集まり、共に食事をする約束を交わして。だがその約束は、呪いの王の手によって、叶うことはなくなってしまった。永遠に。

 

 

渋谷ストリーム

 

「私たちは夏油様の遺志を継ぐ者。高専関係者なら、これ以上語る必要ないでしょ。投降するの?しないの?はっきりしない男は嫌いよ」

 

「俺はパンダだから関係ないな」

 

パンダと日下部と対峙する真奈美は日下部の話を取りつく気はないようだ。

 

(話が短ぇんだよ、くそっ!でもまぁ、このレベルの集団だろ?この人形の相手をするよりよっぽどうますぎる。時間いっぱい適当にいなしてのらりくらりといこう)

 

祢木と真奈美と合わせても格下であると判断した日下部は時間稼ぎには持って来いと言わんばかりの笑みを浮かべ、両膝を屈んで居合の体制に入る。

 

「シン・陰流居合―――『夕月』」

 

「それが答えか」

 

日下部の構えを見て、敵意ありと見做した祢木は部下たちに合図を送ろうとした時だった・・・

 

バンッ!ドカアアアアアアアアン!!!!

 

『!!?』

 

辺りの電気が全て消えたと同時に、遠くで大きな爆発音が鳴り響いた。そう・・・呪いの王の蹂躙の始まりだ。

 

 

結論から言ってしまえば、宿儺と漏瑚の戦いは勝負にすらならなかった。それほどまでに漏瑚と宿儺との力の差は大きくかけ離れているのだ。

 

「そんなものか?呪霊!」

 

「まだまだぁ!!!」

 

宿儺の一撃によって吹っ飛ばされた漏瑚は迫って来る宿儺に向けて炎を放とうとする。しかしそれよりも速い宿儺は漏瑚とすれ違い、術式で漏瑚の両腕を斬り落とし、大きな瓦礫を投げ放った。

 

「くっ・・・!」

 

漏瑚は火礫蟲を利用して瓦礫を躱し、両腕を再生させる。そして宿儺に片手を翳して火炎弾をマシンガンのように連射する。宿儺は空中でその火炎弾を全て避けきり、ビルの中に入る。余裕を見せて廊下を歩く宿儺の目の前に炎が迫る。宿儺はオフィスに入って炎を躱したが、その先で漏瑚が窓を蹴破って侵入し、宿儺に攻撃を仕掛ける。漏瑚は宿儺に打撃を仕掛けるが、両腕を掴まれてしまう。だが漏瑚は両手を掴まれたまま炎を放とうとする。

 

スパァ!!

 

しかし宿儺の術式によって両腕を切断されてそれを阻止される。だが漏瑚は宿儺に頭の火山を向けて噴火した。だが宿儺は噴火に飲まれず、一瞬で漏瑚の背後に回り込み、襟首を掴み上げて地面に放り投げる。

 

「ぐあああああああ!!」

 

ビルや標記と激突しながらも漏瑚は体勢を立て直すも、一瞬で宿儺に間合いを取られ、地面を抉るように叩き込まれる。一方的にやられている漏瑚の脳裏にはかつてエスデスに問いた質問が思い浮かんだ。

 

『エスデス・・・儂は宿儺の指何本分の強さだ?』

 

『甘く見積もっても、8、9本分くらいだな』

 

エスデスは漏瑚の強さを指8、9本だと示した。だが今の宿儺の力は・・・指15本分だ。

 

(わかっていた・・・わかっていたことだ)

 

漏瑚は辺りの気温を限界まで高め、溶岩の川を作り上げ、噴火と共に飛び上がる。溶岩は渋谷の道路を飲みこんでいく。だが宿儺がいる場所だけは溶岩に飲まれることはなかった。漏瑚は看板をサーフボードのように利用して移動し、溶岩を操作して宿儺に攻撃を仕掛ける。しかし宿儺はその攻撃も噴火も全て躱し、建物の屋上に立つ。だが建物は溶岩の熱気で溶けていく。

 

ドオオオオン!!

 

溶岩はさらに噴火するが、宿儺は跳躍して回避する。さらにそこに数多の火礫蟲が迫って来る。宿儺は突っ込んできた火礫蟲を避け、術式で全て両断する。

 

ドカアアアアアン!!!

 

両断された火礫蟲は爆発する。だが宿儺はすでに爆発の範囲外に移動していた。すると、溶岩は両手の形へと変化し、両サイドのビルを持ち上げる。

 

「んん・・・ぬああああああああ!!」

 

漏瑚の合図で溶岩の両手とビルは宿儺を押しつぶす。

 

キィン!スパァ!!

 

「ぐああ!」

 

だがこの攻撃も宿儺の術式で両断したことで攻撃は当たらない。ついでと言わんばかりに漏瑚の片手と足場も両断される。そして、宿儺は一瞬で漏瑚の間合いに入り、殴り飛ばす。吹っ飛ばされる漏瑚に宿儺は素早く追跡し、空高く蹴り上げた。

 

(力の差などわかっていた。だがここまで・・・!)

 

さらに宿儺は漏瑚の顔を掴み、高層ビルを貫きながら地下に届く勢いで地に叩きつけた。

 

「あが・・・!」

 

「月明かりが通っているな。おかげで、お前の痴態もよく見える」

 

血反吐を吐く漏瑚を宿儺は首根っこを掴んで持ち上げる。

 

「ほら、がんばれがんばれ。俺が飽きるまで、何度でも付き合うぞ?」

 

力の差は一目瞭然。だがそれでも引くわけにはいかず、漏瑚は領域以外の切り札を使用する。

 

 

渋谷ストリーム

 

「ここらはもうやばい!逃げるぞ!」

 

宿儺と漏瑚が戦っていることを肌で感じ取っている日下部は危機を感じ取ってパンダと共にこの場を離れようとする。だがそれを祢木の部下が立ちふさがる。

 

「どこへ行く?」

 

「くっ・・・聞け!!」

 

ドカアアアアン!!

 

そうこうしている間にもすぐ近くのビルが爆発が引き起った。2人の争いがここまで広がっているのだ。急いで逃げなければ命はないだろう。

 

「くっ!聞け、呪詛師共!なんでか知らねぇが、特級同士で()りあってる!ありんこの上で象がタップダンス踊ってんの!一応言っておくけど、俺たちがありな!!」

 

「早く早く!!」

 

説得している間にも上空にいる漏瑚は片手を翳し、地面やビル、車などを吸い込み、燃え上がる大質量弾を作り上げる。その大きさと熱量がどんどんと増していく。その光景はこの場にいる全員が目撃している。

 

「極ノ番―――『隕』!!」

 

迫りくる大質量弾、隕を目にして祢木たちは目を見開いて驚愕している。

 

「シン・陰流―――抜刀!」

 

驚いている間にも日下部はシン・陰流抜刀を放ち、祢木の部下を斬って押し退ける。

 

「パンダ!さっさと逃げるぞ・・・」

 

「ならん」

 

パンダと一緒にこの場を離れようとした時、漏瑚の標的である宿儺とすれ違った。宿儺とすれ違ったパンダと日下部は宿儺の圧倒的存在感に立ち止まり、祢木と真奈美も恐怖で立ち尽くす。

 

「これより四方一町の人間全員、俺がよしと言うまで動くのを禁ずる。禁を破ればもちろん殺す」

 

隕が迫りくる中で宿儺は横暴なことを言い出した。だが相手は呪いの王。この場を動きたくても、その圧倒的な存在感と恐怖によって、逆らえない。

 

「ヒヒッ・・・ヒヒッ・・・まだ・・・まだまだ」

 

まだ許可が出ない。その間にも隕はもう目の前まで迫ってきており、今離れてもその爆発から逃れることは叶わないだろう。

 

パンッ!

 

「よし」

 

バッ!

 

ようやく許可が出たことでこの場の全員はすぐにここを離れた。が、もう遅い。

 

 

 

ドカアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!

 

 

 

隕が衝突し、ビル数棟をまとめて巻き込んだ大爆発を引き起こした。爆発が収まっても、その熱量は収まっておらず辺りの地面は燃え滾っており、辺りの空気も高温を帯びている。

 

「ふぅ~・・・ふぅ~・・・宿儺と言えども、無傷で済むまい」

 

「当たればな」

 

「!!」

 

だがこれだけの大技を出しても、宿儺は難なく爆発から逃れており、無傷だ。

 

「なぜ領域を使わない?」

 

確かに領域さえ使うことができれば少なくとも隕が宿儺に当てることは可能だっただろう。だがそれは無意味なことだと漏瑚は理解している。

 

「領域の押し合いでは勝てないことはわかっている」

 

「禪院赤女(あかめ)がそうだったからか?くくく・・・負け犬根性極まれりだな」

 

「くっ・・・!」

 

「だが、せっかく興が乗ってきたところだ。お前の得意でやってやろう」

 

そう言って宿儺は術式発動の言葉を唱える。

 

(フーガ)

 

次に続く言葉を唱えた時、宿儺の左手に炎が宿った。

 

「それは・・・炎か?」

 

宿儺が炎を出したことで漏瑚は単眼を見開いて驚愕する。

 

(宿儺の術式は切断や斬撃では・・・?)

 

「そうか。知られているものと思っていたが・・・そもそも呪霊。知らぬはずだ。心配せずとも術式の開示などこすい真似はせん。構えろ」

 

「くっ・・・」

 

「火力勝負といこう」

 

そう言って宿儺は両手を合わせ、炎を矢の形に変えて構える。漏瑚もまた、両手を翳して炎を纏わせ、いつでも撃ち放てるように構える。そうして両者は・・・互いの炎を放った。

 

 

結果から先に言えば、漏瑚の敗北だ。祓われたことで死後の精神世界までやってきた漏瑚は同じ特級呪霊の斬鬼(機械鎧姿)、花御、陀艮(呪胎姿)と再会する。

 

「すまない・・・斬鬼、花御、陀艮」

 

〘まだ真人がいますよ〙

 

「ぶふぅ~、ぶふぅ~」

 

「おいジジィ。てめぇは言ったな。人が恐れ、忌む死・・・だがその向こうにも人は佇んでいる。人間にとって死は鏡・・・真人はその鏡そのものだとよぉ」

 

斬鬼は漏瑚を介して初めて真人と出会った時のことを思い出し、笑みを浮かべる。

 

「真人の力はまだまだガキレベルだ。だが野郎はまだまだ強くなるぜぇ。だからジジィは野郎を俺たちの頭領に据えたんだろうが」

 

「・・・再び生まれ落ちる時、我々はもう我々ではない。それでもまた会える日を心待ちにしているぞ」

 

漏瑚は例え別人の呪いに生まれ変わるのだとしても、3人とまた会える日を夢見て、笑みを浮かべる。

 

「我々こそ真の人間だ」

 

「なんだお前、人間になりたかったのか」

 

「!」

 

すると、精神世界にて、生きている宿儺が土足で足を踏み入ってきた。

 

「ああ~、わかっている。人間そのものではなく、人間の位地。そんなとこだろう?わかってなお、くだらんな」

 

漏瑚の望んでいたを言い当てた宿儺はつまらなさそうに吐き捨てた。

 

「群れとしての人間。群れとしての呪い。寄り合いで自らの価値を測るから皆弱く、矮小になっていく。お前は焼き尽くすべきだったのだ。打算も計画もなく、手あたり次第、禪院赤女(あかめ)や五条悟に行き着くまで、未来も種もかなぐり捨ててな。理想を掴みとる飢え。お前にはそれが足りていなかった」

 

「・・・・・・・・・そう・・・かもしれんな・・・」

 

普段ならば怒鳴り散らしていたところだっただろうが、負けたからか漏瑚は素直だった。

 

「・・・だがまぁ、多少は楽しめたぞ」

 

「!」

 

「人間、術師、呪霊・・・1000年前やった中ではマシな方だった」

 

宿儺は漏瑚に顔を向け、称賛の言葉を送る。

 

「誇れ。お前は強い」

 

かの呪いの王に自らの実力を認められた。それによって漏瑚は呪霊では決して理解できぬ感涙の涙を流している。

 

「・・・なんだ・・・これは・・・?」

 

「さあな。俺はそれを知らん」

 

そしてこの呪いの王もまた、涙の意味も知らない。なぜなら彼は、呪いそのものなのだから。

 

 

宿儺が放った炎によって漏瑚は焼き尽くされていく。宿儺はただその光景を眺めるだけ。

 

「・・・誰だ?」

 

すると宿儺の背後に偽夏油と協力していた性別不明の銀髪のおかっぱ呪詛師が彼にひれ伏している。

 

「お迎えに参りました・・・宿儺様」

 

宿儺はおかっぱ呪詛師の顔を見て、この者が何者なのか思い出す。

 

「裏梅か!」

 

「お久しうございます」

 

おかっぱ呪詛師・・・裏梅はただの呪詛師ではない。宿儺に仕えている1000年前の術師なのだ。

 

 

一方その頃、渋谷駅の入り口前。辺りの気温が急激に冷たくなり、入り口の周りに何の前触れもなく無から氷が生成されていく。そして、入り口から軍服を着込んだ1人の女性が現れる。

 

「私はつくづく運がいい。今日まで待ち続けてきた甲斐があるというもの」

 

女性が1歩踏み出した時、地面が一歩ずつ、凍り付いていく。

 

「ちょうど物足りないと思っていたところだ。せいぜい私を楽しませてくれよ、宿儺。そして・・・」

 

特級呪術師の1人、エスデスは宿儺が暴れまわった渋谷ストリームとは別の方角に視線を向けた。

 

 

ズシン・・・ズシン・・・

 

恵を襲っていた春太は目の前の存在を前に恐怖し、表情を歪ませていた。その存在とは、白い肌を持ち、人の身長を軽く超えた巨体を誇る人型の何かであった。

 

「ふざけんなよ!!うっ・・・くそ!うっ・・・うぅ・・・起きろよ!クソ術師!!」

 

彼のすぐ近くには・・・頭から血を流して気を失っている恵の姿があった。

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