呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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「何で俺が死刑なんだ?って思ってるよ」

「お前のせいだ」

「生き様で後悔したくない!」

「だが自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする⁉」

「お前は大勢に囲まれて死ね」

「虎杖悠仁。お前を・・・秘匿処刑に処す」

「てめぇの死に様は、もう決まってんだ」

「母さんも僕も・・・人の心に呪われたっていうのか⁉」

「正しい死って何?」

「命の価値があいまいになって大切な人の価値までわからなくなるのが・・・俺は怖い」

「お前のせいだ」

「お前は大勢に囲まれて死ね」

「人を助けろ」

「死ぬわけにはいかねえな」

「だからお前を助けたことを一度だって後悔したことない」

「共犯ね、私たち」

「もう俺は、負けない」

「勝つよ、俺」

「あの世で弟たちに詫びろ!」

「お前は強いから人を助けろ」

「覚悟はいいですか?虎杖君」

「人は死ぬ。それは仕方ない。ならせめて正しく死んでほしい」

「自分が呪いに殺された時も、そうやって祖父のせいにするのか?」

「俺が死ぬ時、大勢に看取ってほしいんすよ」

「俺が殺した命の中に、涙はあったんだなって・・・」

「お前がいるから人は死ぬんだよ!」



「後は頼みます」



俺は・・・いっぱい人を殺した。もう元には戻れないところまで来ている。そんな俺に・・・何を頼むっていうんだ・・・?

わからない・・・わからねぇよ・・・教えてくれよ・・・

シェーレ・・・


理非

渋谷駅構内地下2階  23時15分

 

コツ・・・コツ・・・

 

静まり返った渋谷駅構内に革靴の音が床を鳴らす。自分以外は何もない異様な光景が広がる中、その男は立ち止まることなく、構内を彷徨う。

 

「・・・・・・ふー・・・」

 

構内を彷徨う男・・・七海健人は重苦しい息を吐きだした。強い疲労が感じられるほどの息だ。彼の身体は半分以上は焼け、片目も失っているほどの重傷だ。彼の身体は凄まじいほどの熱や痛み・・・重くのしかかる疲労に覆われている。生気が感じられないほどに、七海は弱り切っている。

 

「マレーシア・・・」

 

駅のホームまで辿り着いた七海の視界には、大量の改造人間が待ち構えていた。ただ、七海は目の前が美しい砂浜が広がっているような不思議な感覚にも包まれている。

 

「そうだな・・・マレーシア・・・クアンタンがいい・・・。何でもない海辺に家を建てよう・・・。買うだけ買って手を付けてない本が山ほどある・・・。1ページずつ・・・今までの時間を取り戻すようにめくるんだ・・・」

 

青い空、照り付ける太陽の光、心地いい潮の香り、鳥たちの鳴き声、清々しい風・・・その全てにつつまれるような清々しい感覚に覆われながらも七海は今自分がやらなければいけないことを思い返す。

 

(違う・・・私は今・・・伏黒君を助けに・・・。真希さん・・・レオーネさん・・・直毘人さんは?3人はどうなったんだ・・・?)

 

七海は恵や真希、レオーネや直毘人が無事かどうか気にはなっている。しかし、それらのことや今改造人間に囲まれている状況・・・何もかもが放り出したくなるほどに、彼の身体は悲鳴を上げている。

 

(・・・疲れた~・・・疲れたな・・・そう・・・疲れたんだ・・・もう十分やったさ・・・)

 

もう流れに身を任せて、このまま眠ってしまおうと・・・七海が目を閉じた時・・・

 

『もう疲れたの?ペースが落ちているよ、七海』

 

(・・・甘えるな!)

 

学生時代の楽しかった青春・・・そして、唯一生き残った同期にして、絶対に止めなければいけない友の姿が浮かび上がり、七海は目を見開き、襲い掛かる改造人間を鉈で斬り落とした。

 

黒女(くろめ)さん・・・彼女は未だ、憎しみに呪われたままだ!彼女の呪いを祓わなければ・・・!それまで私は・・・歩みを止めないと誓った!)

 

灰原が亡くなったことで見せたあの絶望した顔・・・非術師を心底見下したような恨み籠った顔・・・彼女のその全てを取り除くまで、七海は止まらない。否、止まるわけにはいかない。黒女(くろめ)を救う。その一心だけで全てを投げ出したくなるような重みにも、清々しく砂浜で踊るような感覚にも負けず、一心不乱に改造人間を次々と斬り捨てていく。

 

ドカァ!!

 

だが疲労困憊の状態ゆえに動きが鈍くなっている。そのせいで改造人間の突進を躱すことができず、ダメージを受けてしまう。七海は突進してきた改造人間に鉈を鉈を突き刺す。そこから倒れそうになる七海は他の改造人間の攻撃をもろに受けてしまう。倒れそうになる七海はさらに別の改造人間の攻撃を受けてしまう。もう体はとっくに限界を迎えている。

 

『筆記試験自信あったのに・・・七海に負けた~!』

 

『聞いてよ七海~。灰原がさ~・・・』

 

『七海。アイス食べたい』

 

『頼りにしてるよ、七海』

 

「うっ・・・くっ・・・うあああああああああああ!!」

 

それでも、頭に黒女(くろめ)と過ごした大切な思い出が浮かび上がるたびに立ち上がり、体に鞭を打って改造人間をバッタバッタと斬り捨てていく。

 

ここで立ち止まるわけにはいかない。彼女を止めなくては。私はそのために戻ったんだ。

 

止まるな。

 

止まるな止まるな。

 

止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな止まるな!

 

 

止まってはいけない!!!

 

 

止まっ・・・ては・・・いけ・・・

 

懸命に動き、改造人間を全て一掃した七海だったが、途端に諦めたかのように脱力する。どれだけ進もうとしても・・・もう詰んでいるのだ。

 

「・・・いたんですか・・・」

 

 

 

 

 

「いたよ。ずっとね」

 

 

 

 

 

なぜなら、七海の背後にはツギハギが特徴の人型呪霊がそこに立っており、その呪いの掌が七海の背中を触れているのだから。どれだけ抵抗しても、七海は死ぬ。そう決定づけられてしまったのだから。

 

「ちょっとお話しするかい?君やお姉さんには何度かつきあってもらったし」

 

呑気におしゃべりをするその呪いとは対照的に、七海の視界はぐらついている。

 

(灰原・・・私は結局・・・何がしたかったんだろうな・・・?逃げて・・・逃げたくせに・・・黒女(くろめ)さんを止めたいという一心で戻ってきて・・・それも中途半端に終わって・・・)

 

七海の脳裏には、悲し気な表情でちらっとこちらを見て、自分を置いて去ってしまう黒女(くろめ)の姿が浮かんできた。

 

(やはり私では・・・彼女を・・・救えない・・・)

 

自身を悲観する七海の前に、ある人物が現れ、彼の目の前に立った。

 

その人物とは・・・今は亡き自分と黒女(くろめ)の同期にして大切だった友人・・・灰原雄であった。死期を悟った七海は彼の姿を走馬灯のように映し出しているのだ。灰原は何かを訴えるように七海をまっすぐ見つめている。

 

(・・・ダメだ・・・それは違う・・・)

 

灰原が何を伝えたいのか。それに気づいている七海はそれを自分の口で言わないように否定している。

 

(ダメだ、灰原・・・言ってはいけない・・・それは彼にとって呪いになる・・・)

 

否定している七海とは裏腹に、灰原は真剣な眼差しでまっすぐ見つめ、七海の後に向かって指を指した。灰原が指す方角には、彼がいた。

 

「な・・・ナナミン・・・」

 

灰原が指していたのは、悲痛な表情を浮かべている悠仁であった。

 

「おっ!」

 

悠仁の存在に気付いた呪いは不敵な笑みを浮かべている。

 

(ダメだ・・・)

 

必死に否定する七海だったが、灰原の真っ直ぐな眼差しを見て、やがて決心に変わった。自分のこの無念を、渇望を、悲願を・・・そして・・・呪いを・・・全て・・・

 

「虎杖君」

 

ゆっくりと近づく悠仁に七海は振り返り、優しい笑みを浮かべる。

 

「後は頼みます」

 

七海は悠仁に託した。自分の胸の内に秘めた願いを・・・呪いに変えて。散りゆく彼の脳裏に浮かんだ最後の光景は・・・最愛の人の・・・心からの満面の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

さようなら・・・黒女さん

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアン!!!!!!

 

 

その呪いが術式を発動させた瞬間、七海の身体はバラバラに破裂した。唯一残った七海の下半身は膝をつき、倒れる。七海が破裂した死んだ。その光景を目の当たりにした悠仁とは目を見開き、呆然と立ち尽くす。

 

「・・・・・・・何なんだ・・・」

 

七海を殺した呪いに対し、悠仁は形容しがたい激しい憎悪を燃やし、激昂する。

 

 

 

「お前は!!!何なんだ!!!真人ぉ!!!!!!」

 

 

 

「でけぇ声出さなくても聞こえてるよ!!!虎杖悠仁ぃ!!!!!!」

 

 

 

バッ!

 

「うあああああああああああああああああ!!!」

 

悠仁は憎悪を燃え上がらせ、真人に近づこうとする。対して真人はポケットから小さくした改造人間を取り出し、指を弾いて悠仁に放つ。

 

【おたすけぇ・・・】

 

放たれた改造人間は形を変え、悠仁を阻む壁となった。悠仁は形を変えられた改造人間の目にして、助けを求める声を聞いて放とうとした拳を直前で止めた。

 

【おたすけ・・・おたすけぇ・・・】

 

悠仁の動きが止まった瞬間、壁となった改造人間に数多のトゲが現れ、それが悠仁に襲い掛かる。腕を交差してトゲを防御する悠仁は力を込めてトゲを破壊する。

 

「多重魂・撥体!」

 

改造人間の壁に隠れている真人は2つ以上の魂を練り込み、壁の改造人間を破り、拒絶反応で膨張した改造人間を放った。大口を開けて迫る改造人間に悠仁は両手で受け止めるが、押し出される。

 

「ばあっ!!」

 

バキィ!!

 

すると改造人間の大口の中より真人が現れ、悠仁の顔面を殴りつけた。真人の拳を受けた悠仁は先にある柱に着地し、態勢を整える。真人の拳を受けた悠仁の顔には一筋の切り傷ができあがっていた。

 

「くっ!」

 

悠仁は迫ってきた巨大改造人間を跳躍して躱した。

 

パァン!!

 

通り抜ける巨大改造人間の体から真人が飛び出し、悠仁に攻撃を仕掛けてきた。悠仁は真人の攻撃を屈んで躱した。巨大改造人間の進行は壁と激突したことでようやく止まった。

 

「・・・もっと踏ん張りがきけば顔面を貫けたかな?」

 

真人の拳には折れた刃が生成されていた。おそらく悠仁の顔にできた傷はこの刃によるものなのだろう。

 

「・・・どうしてお前は何度も・・・何人も・・・人の命を弄ぶことができるんだ・・・!」

 

「くふふふふ・・・指折り数えて困り顔で殺せば満足か?次からそうするね」

 

問いかけに対して煽る真人に対して悠仁は冷たい視線で睨みつける。

 

「ペラッペラのお前にはペラッペラの答えを授けよう。虎杖悠仁・・・」

 

真人は自身の左手の形を人の顔の形に変えた。その顔とは、悠仁と(たつみ)が神奈川で出会い、救うことが叶わなかった少年、吉野順平の顔であった。

 

「たすけてぇ~」

 

ズンッ!!

 

真人はペラッペラな三文芝居の直後に順平の顔を刃で突き刺した。そして、悠仁に対してこう言い放つ。

 

「お前は俺だ」

 

「・・・あ"あ"?」

 

真人と同格にされたくない悠仁は真人の答えに目を見開いてガンぎまる。

 

「いちいちキレんなよ。呪いの戯言だろ?・・・だがな、そいつを認めない限り・・・お前は俺に勝てないよ」

 

「・・・べらべらと・・・よくしゃべるなぁ・・・。遺言か?」

 

真人の言動にいちいち癇に障る悠仁だが、七海に託された言葉を思い出す。

 

『後は頼みます』

 

(ナナミンなら怒りで我を忘れるなんてヘマはしなかった。証明しろ・・・)

 

『君は』

 

(俺は)

 

(『呪術師だ』)

 

悠仁は冷静を保つために自身は呪術師であると心の中で言い聞かせて構えをとる。真人は自身の掌を巨大改造人間の体に触って魂の形を変える。すると巨大改造人間の体から複数の手が現れ、壁を押して自身の身体を悠仁と真人に押し寄せる。巨大改造人間の体が押し寄せてくる中、悠仁と真人はお互いに面と向き合い、歩みを進める。巨大改造人間の体が押しつぶされそうなほどの距離まで近づいた時、真人は呪力を纏った拳を悠仁に放つ。だがその瞬間、悠仁は跳躍し、真人に蹴りを入れた。

 

「ぐおっ!」

 

悠仁は真人にさらに蹴りを入れて軽く距離を取らせる。そして、巨大改造人間に蹴りを叩き込むことで狭くなったスペースが少しだけ広くなる。しかしそれを利用して真人は巨大改造人間に触り、刃を形作ってそれを悠仁に放つ。悠仁は足を上げて巨大改造人間の体を押し広げ、態勢を整えることで迫った刃の間を掻い潜って回避する。

 

「ふんっ!!」

 

悠仁は巨大改造人間の体に拳を叩き込んでまた狭くなったスペースを開ける。真人は自身の魂の形を変えて、両手に複数のトゲを生やし、これを投擲武器のように放つ。悠仁は狭い隙間を掻い潜って迫ってきたトゲを躱して真人に近づく。

 

「え~~い!!」

 

真人は近づいてくる悠仁に接近し、右手の形を遂げ棍棒に変え、悠仁に向けて振り下ろした。悠仁はその攻撃を跳躍し、真人を踏みつけようとする。しかし形を変えた改造人間の手に片足を掴まれ、さらに巨大改造人間の拳を叩き込まれる。しかし悠仁はもう片方の足を下ろして真人を地面に叩きつけた。

 

「ぶはっ!」

 

悠仁は呪力を込めたチョップを足を掴んでいる手に放って切り落とした。すると改造人間の体が先ほどよりの早く押し寄せてきて、悠仁と真人を押しつぶそうとする。

 

ドンッ!ブシャアア!!

 

しかし悠仁と真人は巨大改造人間の体に穴を開け、そこを通って脱出する。

 

「いいね、続けよう。ラウンド2だ!」

 

真人は自身の左手を銃火器に変え、内蔵された小型改造人間を弾丸として撃ち放つ。悠仁は改造人間の弾丸を走って1発1発を躱していく。バウンドする小型改造人間の弾丸はエレベーターの下降ボタンを押した。

 

「え~~い!!」

 

さらに真人は片手を伸ばし、それを足の形に変えて悠仁に攻撃を仕掛ける。悠仁は走るペースを崩さないまま進んで真人の攻撃を躱す。すると、エレベーターが到着した。それと同時に真人は改札機を悠仁に投げ飛ばした。ギリギリで止まり、直撃を免れた悠仁は放たれた改札機を持ち上げ、真人に投げ返した。

 

ザンッ!スパァ!

 

だが真人は自身の両手を鋭利な刃物に変え、改札機を斬り捨て、斬撃波を放った。悠仁は斬撃波を躱し、到着したエレベーターに乗り込んで地下へと降りる。そして、これから来るであろう真人の攻撃に備え、拳に呪力を込める。

 

パキィィィン!!ドオオオオオン!!

 

エレベーターの蛍光灯が割れたと同時に、天井より巨大な真人の拳が迫ってきた。悠仁は拳を叩き込んで真人の拳を受け止めた。真人は拳を引っ込め、エレベーターのワイヤーを斬った。これによってエレベーターは急速に下降していく。真人は両腕を刃に変えて悠仁に向けて振り下ろした。悠仁は真人の攻撃を躱してエレベーターの天井裏に回り込み、真人に拳を叩き込もうとする。

 

「ヒヒッ!」

 

真人は悠仁の放つ拳を魂の形を変えて首を捻って躱し、彼に拳を放つ。悠仁はこの拳を躱すが、目の前には真人が迫っている。

 

「んん~!」

 

真人は唇を鋭利なトゲに変えて悠仁の顔目掛けて放つ。悠仁はその攻撃を躱し、真人に拳を叩き込む。悠仁はそこからさらに強烈な一撃を叩き込もうとする。だがその一撃を真人は体の形を変え、胴体に大穴を開けることで回避する。

 

「んにぃ~~~!!」

 

真人は腕を振るって斬撃を放つ。悠仁は高く跳躍して回避し、ぶら下がるワイヤーに掴まる。真人を乗せたエレベーターはさらに加速し急降下していく。

 

ドオオオオオン!!

 

真人はストックしていた改造人間の形を変えて放つ、ワイヤーにぶら下がる悠仁に攻撃を放つ。悠仁はワイヤーから手を放ち、エレベーター出口に飛び移って攻撃を回避する。改造人間はエレベーターが上昇するように伸び続ける。

 

ピコーンッ

 

エレベーターの到着音と共にエレベーター出口から改造人間の顔が現れ、大きな口を開けると真人が姿を現す。真人は待ち構える悠仁に向けて改造人間の弾丸を放つ。悠仁は迫ってきた改造人間を拳を放って弾き返した。吹っ飛ばされる改造人間はさらに形を変え、悠仁を襲う。悠仁は階段に飛び降りて迫りくる改造人間を躱す。悠仁に迫った改造人間は巨大な手へと形を変え、悠仁を押しつぶす。

 

ドォォォン!!

 

悠仁は呪力を込めた拳を放ち、巨大な手をぶち抜いた。

 

「やばっ!」

 

その間にも真人は悠仁から距離を放していく。

 

(リスクの冒しどころをとちると死ぬな。しばらくは改造人間主体で攻めるか)

 

リスク削減を考慮した真人は改造人間を身体に収納させながら改札口を通り移動する。

 

「怖い怖い」

 

(前より手数が増えてるな)

 

真人の攻撃の手数が増えてることを考察する悠仁は真人を追いかけて曲がり角を曲がる。するとそこには真人の姿はなく、2人の一般人がそこにいた。

 

「ガキ?」

 

「おい!こっち来いよ!そっち化け物だらけで危ねぇぞ!」

 

一般人は悠仁に呼び掛けて注意を促している。

 

(あいつは・・・上か!)

 

悠仁は一般人に近づき、渋谷は危険であることを注意し、避難するように呼び掛ける。

 

「ごめん。今渋谷に安全なところはないから、できるだけ離れ・・・」

 

バキィ!!

 

「ぐぅっ⁉」

 

すると、帽子をかぶっていた一般人の口から拳が出現し、悠仁を殴り飛ばした。

 

(くっそ!こいつ・・・!)

 

そう、これらの一般人はすでに真人の手によって改造されていたのだ。一般人に模した真人は服を脱ぐように一般人の口から姿を現す。

 

「ちょっとさ・・・想像力足りてないんじゃない?」

 

姿を現した真人はもう1人の一般人に触れて、剣の形へと姿を変えてその切っ先を悠仁に向ける。

 

「やめろ!」

 

「バカか。それはお前次第だろ」

 

一般人を利用して悠仁の精神に揺さぶりをかける真人。だが真人の狙いはもっと別にある。

 

(虎杖のメンタルにはこっちの方が効く。そして、『俺たち』はもう1枚、ダメ押しのカードを手に入れる)

 

悠仁を殺すための計画。その計画は戦いが始まる前よりすでに、始まっているのだ。

 

 

渋谷駅地下4階  21時30分

 

ザバアアアアアン!!!

 

「うわっ⁉」

 

「何⁉」

 

時は遡り、真人たちが地下5階から上に上がった直後のこと。陀艮は辺り一帯に大波を発生させて、一般人を巻き込ませる。そして、大波に飲み込まれた一般人を水を飲むように1人、1人、また1人と次々と飲みこんでいく。

 

「はい、飲~んで飲んで飲んで飲~んで飲んで飲んで飲んで♪」

 

真人はノリに乗って手拍子をしている。陀艮は大波に巻き込ませた人間を全て飲みほした。

 

「ごくんっ」

 

「いぇ~い♪俺はもう十分ストックしたし、下以外の人間は好きにしていいよ。じゃ、虎杖殺しまSHOW(ショー)再開ね」

 

「げぇ~っぷ」

 

「ならん!」

 

悠仁を殺すことに否定的な漏瑚は真人を止めようとする。

 

「漏瑚」

 

すると真人は自身の体の形を変え、体の一部を伸ばして分離する。すると分離した体の一部が真人と同じ姿を模った。その姿は本物と遜色ない。

 

「なっ⁉」

 

「捕まえてごらん♪」

 

2人の真人は漏瑚から逃げるように走っていく。

 

「俺は地下。お前は地上を適当に。呼んだら戻って来いよ」

 

「言わなくてもわかってるって」

 

「そりゃそうか♪」

 

二手に分かれた2人の真人の片方はストックした改造人間を1体放り投げた。

 

「バイバーイ♪」

 

その瞬間、改造人間の形が変わり、柔らかい壁となって漏瑚たちの行く手を阻んだ。

 

「逃げられたな」

 

「ぶぅ~」

 

「くっ・・・ぐぬぬぬ・・・真人ぉ~~~~~!!!!!」

 

自由気ままに行動する真人に漏瑚は憤慨し、頭の火山が噴火するのであった。

 

 

時は戻って渋谷駅に通じる入り口前。渋谷料金所からここまで歩いてきた(たつみ)は立ち止まり、冷静になるように深呼吸をする。

 

「・・・やっぱ呪具がねぇのは心許ないな・・・。けど、あいつらが戦ってんのに、俺だけ寝てるわけにはいかねぇんだ。漢を見せろ、和倉(たつみ)!」

 

(たつみ)は気合を注入するように自身の頬を叩く。決心がつき、渋谷駅に足を踏み入れようとすると・・・

 

「あぁ~!久しぶりじゃ~~ん」

 

「!!」

 

自身の背後から憎々しい仇敵の声が聞こえてきた。その声に反応して振り返ると・・・

 

ヒュンッ!

 

鋭い刃が迫り、(たつみ)はギリギリでブリッジで躱し、バク転して後退する。(たつみ)は攻撃してきた相手を見て、強く睨みつける。

 

「ツギハギ・・・お前・・・確か真人っていったな」

 

「お?覚えてた?君意外と記憶力いいんだね?和倉(たつみ)・・・だったかな?名前」

 

そう、現れたのは里桜高校で順平を欺き、殺した因縁深き呪い、真人であった。だがこの真人は本物ではなく、本物の真人が作り上げた分身である。

 

「てかお前ボロボロじゃん。誰かにやられでもしたか?そんな風に無理せず楽になったらどう?なんだったら俺が介抱してやろうか?」

 

「お気遣いどうも。けど後生憎様・・・てめぇをぶっ殺すくらいの余力は残ってんだよ」

 

真人の挑発にたいして(たつみ)は殺気で返答を返した。その答えに真人(分身)はにっこりと微笑む。

 

「・・・いいね。その強がり、嫌いじゃないよ。けどさぁ・・・わかってる?お前手ぶらじゃん?俺は基本何でも効かないけど、そもそも呪いを祓う道具もないんじゃ、話にもなんないっしょ。そんなんで、どうやって俺を殺すってんだ?」

 

「ごちゃごちゃうっせぇんだよ。来るならさっさとかかって来いってんだ」

 

(たつみ)は真人(分身)の攻撃に備えて、構えの体制をとる。対して真人(分身)は走って(たつみ)に近づき、手の形をトゲ棍棒に変えて振り下ろす。

 

「え~~い!!」

 

真人(分身)の振り下ろしたトゲ棍棒を(たつみ)は跳躍して躱し、横断歩道橋の上に立つ。真人(分身)は左手を上げ、5本の指を刃に変えてそれを全て(たつみ)に向けて伸ばす。(たつみ)は迫ってきた刃を走って躱す。真人(分身)は右手を槍に変えて(たつみ)が走り抜ける先を狙って伸ばす。勘づいた(たつみ)はその場で立ち止まって後退し、伸びてきた槍の手を躱す。

 

「んんんんえ~~い!!!」

 

真人(分身)は槍の切っ先をフックに変えて柵に引っかけ、フックに引き寄せられるように腕を縮ませて(たつみ)に接近し、自身をハリネズミのように身体中にトゲを生やし、それを(たつみ)に放つ。トゲの一部は(たつみ)の右肩に突き刺さる。

 

「ぐっ・・・!」

 

(たつみ)は痛みをこらえ、左手でトゲを掴みとり、右拳で真人(分身)を殴り飛ばす。だが(たつみ)の拳は呪力を纏わないただの拳。呪いの纏っていない攻撃は呪いには通じない。分身とはいえ、相手が真人であればなおさらのことだ。

 

「だ~から効かないんだって。何べん同じこと言わせんだ?」

 

(たつみ)は煽る真人(分身)に向けて(たつみ)は先ほどの衝撃で壊れた柵の破片を放り投げ、改めて渋谷駅に向かって走り出す。

 

(今の俺じゃこいつに敵わねぇことくらいわかってる!けど悠仁なら、こいつにダメージを与えられる!今俺が成すべきことは、悠仁と合流することだ!)

 

(たつみ)が渋谷駅に入ろうとした時・・・

 

ヒュュュンッ!ドォォォン!!

 

真人(分身)の巨大化した右手が伸びてきて、渋谷駅の入り口を叩き潰した。これによって入り口が崩壊し、中へ入れなくなる。

 

「なっ・・・!」

 

「逃げるなんてつれないな~。もっと楽しもうぜ」

 

「くっ・・・!」

 

この場の入り口が使えなくなり、(たつみ)は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

(虎杖を殺すダメ押しのカードはこいつでもいいけど・・・こいつの身体能力は半端ないからな。余力もまだ有り余ってそうだし、失敗のリスクを考慮して、まずは削るところから始めるとするか)

 

今のまま悠仁の元へ連れていっても作戦は失敗すると考える真人(分身)はまずは(たつみ)の神経や体力を削るべきであると判断し、地下へ移動しようとする(たつみ)を引き留めるのであった。

 

 

松濤文化村ストリート(帳外) 23時10分

 

その頃、七海の指示で帳の外で待機していた野薔薇と明の元にようやく救護隊が駆けつけてきた。救護隊員は負傷して立つこともままならない明を支える。そんな中で野薔薇は1人、帳の中に入ろうとする。そんな彼女に明は静止の声を上げる。

 

「ダメっすよ釘崎さん!七海さんも言ってたでしょ!それに、家入さんのこと黙ってたのは・・・」

 

「私がこういう無茶に出るのを防ぐためでしょ。この人たちの到着が遅かったのも多分そのため」

 

野薔薇自身わかっているのだ。硝子が渋谷に来ていることを知らされなかったこと。救護隊の到着が遅れたこと。それらは全て自分が無理をさせないための、七海の気遣いなのであると。

 

「それでも・・・あいつらが戦ってるのに1人だけ帰るなんて、私にはできない」

 

「ちょ、ちょっと!釘崎さん!」

 

野薔薇は明の静止を振り切り、先へと進んで帳の中へと入っていく。帳の中に入って野薔薇の目に映ったのは、崩壊した渋谷の街であった。

 

「何よ・・・これ・・・いったい、何があったってのよ・・・」

 

帳の中で何が起きたのか。その事情を知らない野薔薇は目の前の惨状を目にして困惑していると・・・

 

~~~♪

 

どこからともなく笛の音色が聞こえてきた。

 

「・・・?笛の音・・・?いったいどこから・・・」

 

聞こえてきた笛の音色に野薔薇は近くに敵がいるのではないかと辺りを見回す。すると・・・

 

ぐら・・・

 

「・・・っ⁉くっ・・・何・・・力が・・・抜けていく・・・」

 

突然体の力が一気に抜けていき、野薔薇はふらついた。

 

 

崩壊した渋谷の街で辛うじてそびえ立っているビルの屋上に、三獣士のリヴァとニャウが立っている。ニャウは笛の呪具を吹いて渋谷一帯に聞こえるように演奏している。

 

「相変わらず上品な音色だ。気を清めるにはちょうどいい」

 

ニャウの術式は音色。笛の音を聴いた者の感情を操作する催眠系の術式。戦場の士気高揚として知られている術式だが、操れる感情は数十種類に及ぶ。なおこの術式は何度も聴くことで耐性を作ることは可能だ。

 

「でもこんな事本当に意味ある~?宿儺が暴れたおかげで、一般人含めてほぼ全滅でしょ」

 

「笛の良さがわからぬケダモノや田舎者が入り込んだやもしれぬ。油断はするな」

 

「はーい。念のためにもうちょっと吹いておくね」

 

増援の可能性を考慮したリヴァに従い、ニャウは演奏を続ける。

 

 

笛の音色が響く中、野薔薇は今にも寝てしまいたいほどの脱力感に耐えながら先へと進んでいく。

 

「くそ・・・この笛の音のせいで・・・力が抜け続ける・・・」

 

野薔薇は音を遮断するために両耳を塞ぐ。だが、笛の音は両手をすり抜けるかのように、野薔薇の耳に流れ込んでくる。

 

(耳を塞いでも聞こえてくる・・・催眠系の術式?術師本人を潰さないとダメっぽいわね・・・)

 

耳を塞いでも無駄とわかった野薔薇は笛の音を止めるには術師本人をどうにかしないといけないと判断し、気力を振り絞って術者を探そうとする。が、ここで敵の気配を感じ取り、野薔薇は釘とトンカチを手に取って構える。

 

「あ~~・・・隠れてるのダルかった~・・・」

 

すると前方より、人間サイズの大きな斧を携えた巨漢の男が近づいてきた。大男は野薔薇の存在に気が付く。

 

「おっ!この状況で頑張ってる奴がいるじゃねーか!」

 

野薔薇に気付いた大男とは、三獣士の1人、ダイダラであった。

 

「催眠にかかりゃ記憶は曖昧。見逃してやったものを」

 

「おあいにく様。私はこんな子供の演奏会程度で、大人しくできないんでね!」

 

ダイダラと相対した野薔薇は先手必勝としてトンカチを振るい、呪力を纏った釘を打つ。飛ばした釘はダイダラの頭上を素通る。

 

「どこ狙ってやがんだ?」

 

パチンッ!バキィ!!

 

野薔薇が指を鳴らすと大きな看板に突き刺さった釘の呪力が弾ける。これによって看板が外れ、ダイダラに向かって落ちていく。それに気づいたダイダラは巨大な斧、ベルヴァーグを手に持って振り上げて、看板を真っ二つに両断する。そこを狙うように野薔薇はさらに釘を打ち付け、ダイダラに飛ばす。対してダイダラはベルヴァーグを振るい、迫ってきた釘を打ち返す。野薔薇は打ち返されて飛んできた釘を横跳びで躱す。

 

「ちっ・・・!」

 

「いいねぇ。やるじゃねぇか。お前なら、たっぷり経験値持ってそうだぜ」

 

「経験値?ゲームでもやってるつもり?ガキかよ」

 

「かもな」

 

野薔薇の皮肉に対して、ダイダラはにぃと笑いつつ肯定する。

 

「俺はよ・・・戦って経験値が欲しいんだよ。いずれ最強になるためにな」

 

「はっ、やめとけって。あんた五条先生の強さ知らねぇの?」

 

「五条悟か・・・。確かに奴は強ぇだろうさ。それは認めるぜ。だがなぁ、俺は知っているんだ。五条悟さえ超える、とんでもなく強ぇお方を」

 

ダイダラの脳裏に浮かんだのは、武者修行中に自身を圧倒的な力で打ちのめし、手を差し伸べたエスデスの姿が浮かんだ。

 

「あのお方にお仕えすれば、いずれ最強になれる。俺はそう確信してるんだ」

 

「あっそ。じゃあ勝手に夢見とけ。自分の墓石でも眺めてなぁ!!」

 

話にもならない会話を終えた野薔薇は釘を打ち続ける。ダイダラは迫る釘をベルヴァーグを振るい、難なく弾き返す。だが野薔薇は釘をさらに打ち飛ばしていく。だが今度はダイダラ本人ではなく、彼の周囲の足元に向けてだ。

 

「ああ?」

 

「簪!!」

 

「!」

 

パチンッ!

 

野薔薇が指を鳴らすと釘の呪力が弾け、ダイダラを突き刺そうとする。ギリギリで感づいたダイダラは呪力が自身に突き刺さる前に跳躍して躱し、ベルヴァーグを大きく振り上げる。

 

「いいぜぇ女!!気に入ったぜ、その威勢のよさ!!すっげぇぶっ壊し甲斐がある!!」

 

ダイダラは野薔薇に向けてベルヴァーグを振り下ろす。野薔薇は横跳びでベルヴァーグを躱し、距離を取る。

 

ドォォォォン!!!

 

ベルヴァーグの一撃はすさまじく、地面がひび割れていく。

 

(あの呪具・・・なんつー破壊力よ・・・!一発でもくらったらヤバいわね!)

 

「音にやられた体でよく動くじゃねぇか。だったら・・・」

 

ベルヴァーグの柄が短くなると、切れ目が入り、ダイダラはベルヴァーグをトマホークのように2つに分離させた。

 

「こいつはどうだ!!オラァ!!」

 

ダイダラは片方のベルヴァーグを力を込めてブーメランのように放った。野薔薇は迫ってきたベルヴァーグを躱した。だがベルヴァーグは軌道を変化させ、再び野薔薇に迫る。

 

「なっ⁉」

 

それに気づいた野薔薇は咄嗟に後退して迫ってきたベルヴァーグを躱した。だが避けきることができず、腹部に一筋の傷ができる。

 

(くそっ・・・下手な演奏のせいで思うように動けないってのに・・・!)

 

二挺大斧ベルヴァーグ。並みはずれた膂力を持つ人間しか扱えない分、攻撃時の破壊力は凄まじい。中心から二挺の斧に分離することも可能で、投擲すると勢いの続く限り、斧は敵を追撃する。

 

(もう一挺斧を持ってるし、あれを利用して自滅作戦は絶対に効かないわよね。だったら逃げつつじゃんじゃか釘をぶち込んでやる!)

 

野薔薇はダッシュして追跡してくるベルヴァーグから逃げる。その際に彼女は釘を取り出し、周りを走りながら釘を打ち飛ばしていく。ダイダラは連続で飛んでくる釘を見極めて、全て躱す。打ち放たれた釘は全て外れたが、全てダイダラの周囲の地に突き刺さり、呪力が溢れる。

 

「簪!」

 

パチンッ!ドォォォォン!!

 

野薔薇が指を鳴らすと、釘の呪力がダイダラを巻き込んで爆発する。硝煙が晴れると、ダイダラの姿はなく、代わりに爆発地点に穴ができていた。

 

「もういっちょぉ!」

 

穴に落ちたと想定する野薔薇は穴に向けて釘を打ち放とうとする。しかし・・・

 

ボコォ!ビュンッ!ズシャア!

 

「がっ・・・!」

 

地面の下よりもう一挺のベルヴァーグが突き破り、野薔薇の身体に切り傷ができあがる。

 

(しまった・・・!)

 

ダメージを受けた野薔薇は咄嗟に屈んで後ろから迫るベルヴァーグを避ける。しかし、もう一挺のベルヴァーグが軌道を変化させ、再び野薔薇に迫る。野薔薇は迫ってきたもう一挺のベルヴァーグを横跳びで躱した。だがその直後、ダイダラに間合いを入られた。

 

「オラァ!!」

 

「ぐあ!!」

 

ダイダラは力を込めた拳を野薔薇に打ち込んだ。強烈な打撃を受けた野薔薇は吹っ飛ばされ、倒れる。野薔薇は起き上がろうとするが、二挺のベルヴァーグが彼女の前後に迫ろうとしていた。

 

「ヤバ・・・!」

 

野薔薇は危機感を募らせるが、どう動いても間に合わない。二挺のベルヴァーグが野薔薇を斬り刻もうと迫りくる。

 

ブォン!ドォォン!

 

「「!!」」

 

その時、彼方より大きな瓦礫が飛んできて二挺のベルヴァーグに当てる。この衝撃で瓦礫は粉々になるが、ベルヴァーグの軌道が大きく逸れた。

 

「あんまり神経を尖らせすぎるなよ、釘崎。じゃねーと、思わぬところで手痛い一撃を受けちまうからな」

 

両者の間に1人のリーゼント男が入り込んできた。笛の演奏が響く中で堂々と元気そうに歩くその男にダイダラは怪訝な表情を見せる。

 

「・・・てめぇやけに元気だな。無気力化の演奏は渋谷一帯に響いていたはずだが・・・」

 

「そういう演奏だったのか。だったら効かないはずだぜ」

 

「あん?」

 

「俺の身体に流れる熱い血はよ・・・他人に鎮められるもんじゃねーんだよ」

 

両者の間に入り、野薔薇を救ったリーゼント男・・・ブラートは熱い闘志をたぎらせてダイダラと相対している。

 

(この人は確か・・・和倉が兄貴って呼び慕ってる1級術師の・・・ブラートさん?)

 

(!こいつ・・・)

 

ダイダラが勘ぐっていると、ブラートの両膝に傷ができあがっていることに気付いた。

 

「おもしれぇ奴だ・・・体抉って痛みで洗脳に対抗しやがったか」

 

そう、ブラートは自らの足をあえて傷つけさせて無気力化の演奏に対する耐性を作ったのだ。

 

「1級術師のブラートだ。ハンサムって呼んでもいいぜ」

 

「エスデス様の僕、三獣士ダイダラだ」

 

互いに名を名乗った後、ダイダラは戻ってきた二挺のベルヴァーグを手に取り、構える。

 

「釘崎」

 

「!」

 

「周囲に気を配るってどういうことか・・・俺の戦いをよく見ておけ」

 

ブラートが野薔薇にそう告げた後に、片手を地に付けて高らかに叫ぶ。

 

 

「インクルシオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 

ブラートが叫ぶと同時に、鎧の特級呪具、インクルシオが出現し、ブラートの身体に身に纏っていく。鎧をまとったブラートは同時に出現した槍を手に取る。

 

「こいつはたっぷり経験値持ってそうだぜぇ!!!」

 

ダイダラは両手のベルヴァーグを持ってブラートに突っ込んでいく。それと同時に、ずっと身を潜めていた他の三獣士、リヴァとニャウが現れ、ブラートに襲い掛かる。

 

(やはり帳の外に術師が残っていたか。迷わずダイダラを援護する)

 

(僕が決める!頭蓋骨ぱっくり!」

 

「!危・・・」

 

現れた2人を見て野薔薇は加勢しようと釘を飛ばそうとする。だが・・・

 

バッ!

 

「え?」

 

2人が来ることはわかっていたかのようにブラートは高く跳躍し、まずはニャウに呪力が籠った拳を叩き込む。そこからさらにリヴァに呪力を籠った蹴りをリヴァに入れる。強力な打撃を受けたニャウとリヴァは吹っ飛ばされる。そして・・・

 

ズシャアア!!!

 

最後に残ったダイダラに向けてブラートは槍を振り下ろし、彼の身体を縦一閃に切り裂く。攻撃をまともに受けたダイダラは血を流し、倒れ伏す。

 

「なっ・・・一撃・・・⁉」

 

「釘崎。これが周囲に気を配るってやつだぜ」

 

ブラートが2人を退け、ダイダラは確実に仕留めた。援護の必要がないブラートの圧倒的な力に野薔薇は目を見開いて驚愕する。

 

(2人を撃退しただけじゃなく、でかいのは確実に仕留めた・・・。七海さんと同じ1級術師でも・・・」

 

 

レベルが違いすぎる・・・!

 

 

(・・・和倉が兄貴って呼び慕うわけだわ)

 

(たつみ)がブラートを兄貴と呼び慕っているその理由の一端を垣間見た野薔薇は心の中で納得した。

 

「和倉からすげぇって聞かされてたけど・・・すげぇのレベルを超えてるわ・・・」

 

「おう!何せ俺のあだ名は、100人斬りのブラートだぜ!」

 

「正確には128人斬ったな」

 

「「!!」」

 

「あの時は呪詛師集団や特級呪霊を前にして、大活躍だった」

 

ブラートと野薔薇が話していると、吹っ飛ばされたリヴァが服装を整えながらゆっくりと2人に・・・いや、正確にはブラートに近づく。

 

「その呪具・・・その強さ・・・やはりブラートだったか」

 

自分のことを知っているリヴァの顔を見て、ブラートは少なからず驚愕している。

 

「・・・あんたは・・・加茂・・・」

 

「もう加茂ではない。その名は捨てたのでな。私の名はリヴァ。エスデス様に救われてからは、あの方の僕だ」

 

自身のかつての旧名、加茂を捨てた男、リヴァ。その男はかつて、ブラートをスカウトし、呪術師としての道を歩ませた。言うなればリヴァはブラートにとって、自身の人生を大きく変えた恩人と言える存在なのだ。

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