呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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理非ー弐ー

自身を呪術師として導いたかつての上司・・・加茂改めリヴァと思わぬ形で再会を果たしたブラートは少なからず驚愕していた。

 

「清孝からいろいろ聞いちゃいたが・・・まさか黒幕と通じていたとはな」

 

「あの愚息に何を聞かされたかは知らんが、1つ誤解を解いておこう。私が仕えているのはあくまでエスデス様だ。夏油に従っているつもりは初めからない。それでもお前たちの敵であることには変わらんがな」

 

ブラートの言葉にリヴァは表情を変えることなく淡々と答える。その中で野薔薇は高専の京都校に属している加茂清孝の名前を聞いて、思わずリヴァに顔を向ける。その髪型や顔つきは確かにどことなく彼に似通っている。そしてリヴァが発言した愚息という単語で、ある結論が出た。

 

(清孝って・・・京都校のブチギレ男の?あいつの父親が・・・こいつ?何の悪い冗談よ?)

 

そうリヴァは清孝の父親であり、今の彼のキレ癖のある性格を決定づけさせた根本的な原因である。思わぬ人物の父親が敵として現れたことに野薔薇は多少なりとも驚いている。尊敬してかつての上司が敵として現れた事態にブラートは鎧の下で一瞬だけ憂いた表情を浮かべていた。

 

「・・・味方として現れたなら、再会を祝して酒を交わしただろうが・・・敵として現れたなら・・・斬るのみ!俺たちの邪魔はさせない!」

 

が、すぐに気を引き締め直して槍を回し、構えて戦闘態勢を整える。

 

「それはこちらのセリフだ。何人たりとも我々の・・・エスデス様の進む覇道を邪魔させん」

 

対して同じく敵意を向けるリヴァは懐よりあるものを取り出した。それは小さなカプセルだ。リヴァは指を弾いてそのカプセルを上空に放り投げた。上空に放り出されたカプセルは割れ、中よりカプセルの要領以上の雨が大量に降り注いだ。

 

カプセルには天候の特級呪霊、斬鬼の雨を降らせる術式が込められている。降りすさぶ雨をリヴァの術式で収束、加圧することで限界まで凝縮させ、封印を施すことによってその術式を携帯することが可能だ。そして、呪力を送り込み、封印を解くことで込められた術式を、解き放つことが可能だ。限定的とはいえ、それを可能にできる術式こそが・・・

 

「水分子操術」

 

降りすさぶ雨は一滴一滴が収束し、生き物のように動いてリヴァの周りを囲み、とぐろを巻いている。

 

「やはりお前と戦うことを想定して、水の備蓄を蓄えていたのは正解だったようだ」

 

「水分子操術・・・その術式のことはよぉーく知ってるぜ!あんたの息子と同じ術式だ!」

 

「・・・言っておくが、見苦しく暴れるあの愚息と私が同じレベルだと考えぬことだ。水分子操術の真価を、その胸に刻むがいい!」

 

リヴァの周りを囲む水は散開し、複数の水柱ができあがる。

 

「水塊弾!」

 

水柱はリヴァの意思に従い、ブラートに攻撃を仕掛けてくる。

 

「しゃらくせぇ!」

 

ブラートは槍を回転させて迫ってきた水柱を弾いて防いでいく。すると、ブラートに殴り飛ばされていたニャウがゆっくりと起き上がる。

 

(いたた・・・あいつエスデスに敵わないとはいえ強い・・・。でも、雨の備蓄がたくさんあるからリヴァが倒せる。僕も援護を・・・)

 

ニャウは術式を使用するために笛の呪具を口に咥え、無気力化の演奏を再び奏でようとする。

 

「させねぇよ!!」

 

それに勘づいた野薔薇は演奏を阻止するためにトンカチを振るって釘を打ち飛ばした。

 

「うわっ⁉危なっ!」

 

野薔薇の攻撃に気付いたニャウは迫ってきた釘を体を捻ってギリギリで回避する。

 

「しょぼい演奏を聞かせてくれた礼だ。今度は私の音楽を、たっぷり聞かせてやんよぉ!」

 

野薔薇は続けざまに釘を連発で打ち飛ばしていく。

 

「こいつ・・・邪魔!」

 

ニャウは迫ってきた釘を1つ1つ見極めて躱し、野薔薇にまっすぐ突っ込んでいく。野薔薇は突っ込んできたニャウに向けて釘を打ち飛ばす。ニャウは飛んできた釘を屈んで躱し、そこから跳躍して野薔薇に接近して笛に呪力を送り込んでメイスのように振り下ろした。野薔薇は転がってニャウの攻撃を躱し、釘を打ち飛ばす。ニャウは飛んできた釘を難なく躱す。そこを狙って野薔薇はニャウに接近して、トンカチを振るって攻撃を仕掛けた。しかしその攻撃は高く跳躍して躱し、野薔薇の背後に回り込んで蹴りを3回入れて彼女を蹴とばす。

 

「ぐあ!」

 

蹴りを入れられた野薔薇は倒れそうになる。

 

(くそっ、このガキ、速ぇ!なら!)

 

倒れそうになった野薔薇は片手で自身の体を支え、ポケットから呪力が籠った1本の釘を投擲する。ニャウは飛んできた1本の釘を笛で弾き、地に着地する。だがそれと同時に1本の釘に紛れて放たれた釘が彼の足元にばら撒かれる。そこから野薔薇は1本の釘をニャウの足元に向けて打ち飛ばす。

 

「簪!」

 

ドンッ!

 

野薔薇が簪を発動させると、呪力が弾け、ばら撒かれた釘が宙に浮く。

 

「もういっちょ、簪!」

 

ズシャア!

 

「うぁ⁉」

 

野薔薇が簪を発動させると同時にばら撒かれた釘の呪力は膨張し、ニャウの足を突き刺した。野薔薇はそこを狙ってトンカチを振るって釘を打ち飛ばす。

 

「くっ!」

 

ニャウは体を捻ることで飛んできた釘を回避する。同時に野薔薇がニャウの懐に入り込み、トンカチを振るって彼の頭に打撃を与えた。

 

「うっ⁉」

 

そこから野薔薇はニャウを蹴とばす。そして野薔薇はそこからトンカチを振るい、釘を打ち飛ばした。ニャウは笛を使って飛んできた釘を防御する。

 

「簪!」

 

ドォン!

 

三度目の簪を使い、笛に突き刺さる釘の呪力は膨張して爆発する。土煙が晴れると、そこには多少なりともダメージを負っているニャウが立っていた。笛の方はよほど頑丈なのか壊れていない。

 

(うぅ~!さっきの攻撃が効いてなきゃこんな奴に手こずることはないのに・・・!)

 

ニャウが唸っていると、トンカチで殴られた個所から血が垂れてきた。それに気づいたニャウは目を見開き、血に触れる。自分の頭に怪我を負っていると認識した彼は野薔薇に憎悪を向ける。

 

「お・・・お前・・・!よくも僕の頭に・・・!」

 

「へぇ~、赤がよく似合おう事。もっと染めてきれいにしてあげるわ」

 

ニャウの怒りに対して野薔薇は彼を煽っていく。

 

「・・・決めた。お前だけは絶対にぐちゃぐちゃに殺す!」

 

(だいぶ体が動けるようになったけど、このガキ思ったより強いな。手負いであの動きだし。ちまちま叩くより、強烈な一撃をぶち込まないと無理っぽいわね)

 

煽って余裕は見せているものの、野薔薇はニャウの実力を認めてはいるようで内心ではどう攻略しすればいいのか真剣に考えている。

 

一方その傍らでリヴァの攻撃を凌ぎきったブラートは顔を見上げる。そこには降りすさぶ雨が結集し、水の巨大な蛇がブラートを睨んでおり、蛇の頭にはリヴァが立っている。

 

「水圧で潰れろ、ブラート!!水分子操術―――深淵の蛇!!」

 

リヴァは自身が作り上げた巨大な水蛇をブラートに向けて放った。水蛇は大きな口を開けてブラートを食らおうとする。ブラートは迫って来る水蛇を避けることなく、槍を構えて真っ直ぐ突っ込む。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ブラートは滝登りのように高く飛び、水蛇の口から胴体を貫き、水蛇を一刀両断する。水蛇に乗っていたリヴァは高く跳躍する。

 

「避けずに蛇を潰しに来ると信じていたよ。避ければあの少女を巻き込まれてしまうからな。だが!身動きがとれぬ空中ではこれは避けられまい!」

 

リヴァが術を発動させると、雨はさらに降りすさび、滝のように流れる雨は濁流の槍を作った。

 

「濁流槍!」

 

空中では避けられないブラートは放たれた水の槍の水圧に突き飛ばされる。あまりの水圧にインクルシオは顔の部位が一部砕け、ブラートの顔が少し露になる。

 

「水かけられたぐらいで・・・俺の情熱は消えねぇ!!」

 

「・・・そう、あれではお前を倒せない。わかっていることだ」

 

そう言ってリヴァは雨を収束させ、辺りに水でできた龍を何体も作り上げる。

 

「お前とは数多くの任務を共にしてきた。その強さも、勇猛さも、私が1番知っている。だからこそ・・・最大最強の奥義を馳走してやる!!」

 

呪力を強く練り上げたリヴァは術を発動させ、作り上げた数多の龍でブラートを襲わせる。

 

「水龍天征!!」

 

襲い掛かる水龍にブラートは飲みこまれ、怒涛に押し寄せてくる水圧に押し潰されそうになる。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

リヴァの水龍天征が放れたと同時に、降りすさぶ雨がようやく止んだ。

 

「やったか?」

 

リヴァはしっかりと仕留められたかを確認するため、顔を見上げる。

 

「そういうセリフを吐くって時はなぁ!!たいていやってねぇんだよおおおおおお!!」

 

すると槍で水龍を引き裂き、危機を脱したブラートが槍を構えてリヴァに迫る。

 

「っ!!耐え抜いたのか!!」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「くっ・・・!水刃!」

 

リヴァは咄嗟に濡れた両手で合わせて水を圧縮して水の刃を作り上げ、ブラートが振るう槍の一撃を受け止め、ドーピング技、水鱗躍動を発動させて彼を押し退ける。

 

「・・・へっ。さすがは俺の元上司だな。腕が鈍ってねぇどころか、さらに強くなってやがる」

 

リヴァの強さに感心していると、身に纏っていたインクルシオの顕現が解除される。鎧を覆っていたブラートの身体は押し寄せる水圧によって多大なダメージを負っており、ところどころに傷ができており、自慢のリーゼントも解けている。

 

「一定以上のダメージで解除されるようだな。勝負は見えた」

 

「強がんなよ。そろそろ術式が解ける頃合いだろ」

 

パァンッ!

 

「っ!」

 

ブラートが指摘すると同時に、リヴァの耳から血が出てきて、手に持っていた水刃が弾け飛んだ。

 

「水分子操術は大技を出せばその反動でダメージが来る。あんだけポンポン大技を出したんだ。体の中はボロボロ、術式を使えるコンディションじゃねぇだろ」

 

「・・・バレては仕方ない。交渉を有利に進めたかったのだが・・・」

 

ブラートに水分子操術の難点を指摘されたリヴァは肩を竦め、交渉を持ちかけてくる。

 

「問おう。ブラート・・・エスデス様の軍勢に下る気はないか?お前の実力ならエスデス様の右腕になれるだろう」

 

かつてブラートを呪術師としてスカウトしてきた時と同じような勧誘に対し、ブラートは肩を竦める。

 

「俺は呪術連の門をくぐる気はねぇよ」

 

「呪術連にではなく、エスデス様に仕えると考えろ。私もそれで救われた。思うがままに暴れられ、他者から恐れられる・・・そう・・・いつも我々分家を下に見る加茂の本家ですら、媚びを売ってくるほどの力・・・!!」

 

見下され、いいようにこき使って来る加茂の本家の人間を思い浮かべたリヴァは憎悪に満ちた表情を浮かべ、拳を強く握りしめる。形容しがたいリヴァは憎悪を見たブラートは哀れに思う。同時に、御三家事情の被害者でもあるリヴァに同情も抱いている。自分も呪術師になる前に妬みを買われ、迫害された経験があるがゆえに。

 

「私と来いブラート!あの方ならどんな罪でも消せるぞ!」

 

「断る」

 

ブラートは解かれたリーゼントを整えながら、リヴァの勧誘を蹴った。

 

「加茂の全てに絶望したあんたは今のポジションは心地いいだろうが・・・俺は非術師の味方のつもりだぜ。夏油と手を組んで裏で暴れてるエスデスとじゃあ・・・そいつは気取れねぇな」

 

リーゼントをしっかりと整えたブラートはハッキリと言い切った。

 

「非術師の味方、か・・・。呪術師が吐いていいセリフとは思えんな」

 

「だから謙虚に言ってやったんだ。呪術師はイカレ商売だからな」

 

交渉は決裂した。ここから先は・・・本気の殺意のぶつかり合いだ。

 

 

一方、ブラートの戦闘の邪魔にならないよう、ニャウの殺意を自分に向けさせた野薔薇はこちらに向かって来るニャウに釘を打ち飛ばす。ニャウは飛んできた釘を躱しながら野薔薇に接近し、呪力が籠った笛を振るって攻撃する。その攻撃を躱した野薔薇は後退してニャウから距離を取り、笛を吹かせないように釘を打ち飛ばす。

 

「芸がないなぁ。それしかできないの?」

 

ニャウは飛んできた釘を難なく躱す。野薔薇はそこから彼の真上にあった看板に釘を飛ばし、打ち付けて支えを破壊する。それに気づいていたニャウは後退し、落ちてきた看板を躱す。直後、落ちてきた看板に釘が貫き、ニャウの手前まで迫る。

 

「くっ⁉」

 

ニャウは飛んできた釘をしゃがんでギリギリで回避し、看板を払い除ける。野薔薇は釘を飛ばしつつ、崩壊寸前のビルの中へ入っていく。

 

「あは、鬼ごっこでもしたいのかな?」

 

ニャウは飛んできた釘を避けつつ、ビルの中に入って野薔薇を追いかける。野薔薇は釘を飛ばしながら上へ、さらに上へと上がっていく。

 

「いい加減飽きてきたよ!」

 

最上階まで辿り着いた頃合いでニャウは飛んできた釘を躱し、スピードを上げて野薔薇に接近する。野薔薇は突っ込んできたニャウに釘を打ち飛ばす。だがニャウは飛んできた釘を躱し、さらに速くなって野薔薇の背後に回り込み、足で彼女の首を掴み、そのまま倒し抑え込む。

 

「はい、捕まえた」

 

「ぐっ・・・!」

 

野薔薇は必死で逃れようとするが、抑え込む力が強く、ニャウはビクともしない。

 

「お姉さんさぁ、超強いよね。手負いとはいえ、僕がここまで手こずるのは中々ないもん。でもさぁ・・・喧嘩を売る相手はもうちょっと選んだ方がいいよ」

 

そう言ってニャウは恍惚とした表情を浮かべながらナイフを取り出した。

 

「僕、キレイな人の顔の皮を集めるのが趣味なんだぁ。お姉さんは顔だけはいいからね。僕のコレクションに加えてあげるよ」

 

「悪趣味ね。私の顔がかわいいのは認めるけど」

 

「あんまり動かないでね。剥ぎ取りにくいから。ま、大抵はショック死するからその心配もないけどね」

 

ニャウは野薔薇の顔の皮を剥ぎ取ろうとナイフを近づける。すると、野薔薇はふっと笑う。

 

「・・・何笑ってんの?」

 

「そうね。確かに剥ぎ取られたら死ぬかもね。けどなぁ・・・私が死ぬ時は・・・てめぇも道連れだ!!」

 

パチンッ!

 

野薔薇は抵抗することをやめて、腕を下ろして指を鳴らした。すると・・・

 

ドォン!!ビキビキビキ・・・ドッシャアアアアアン!!!

 

「なっ・・・⁉」

 

「簪」

 

あらかじめ各階の天井に突き刺した釘の呪力が爆発し、各階が崩れ、2人がいる最上階も崩れ、2人は瓦礫と共に1階に向かって落下していく。

 

(こいつ・・・!最初っから道連れ覚悟で・・・!)

 

ズンッ!

 

「が・・・ああああああああ!!!」

 

落ちていく中、野薔薇は懐から1本の釘を取り出し、今も放さないニャウの足に直に釘を突き刺した。足に来た激痛にニャウは野薔薇の拘束を外してしまう。ニャウから離れた野薔薇はビルを支えを狙って釘を打ち飛ばす。

 

「喧嘩売る相手を選べって?そりゃこっちのセリフだよ!てめぇらこそ、喧嘩売る相手間違えたなぁ!!」

 

パチンッ!ドォン!!ガラガラガラ!!

 

野薔薇が再び簪を発動させると、ニャウの足の釘は呪力が膨れ上がってもう片足を突き刺す。続けてビルの柱に突き刺さっていた釘の呪力が爆発し、ビルを支えていた柱が壊れる。これによってビルが倒壊し、中にいるニャウを巻き込んで崩壊した。野薔薇は落下する瓦礫を足場にして、何とかギリギリで脱出できた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

野薔薇は息を整えながら、粉々に崩壊したビルの残骸を見つめる。すると・・・

 

~~~♪

 

「・・・まだやろうっての?しぶといわね」

 

崩壊したビルの中から僅かながらに笛の音が聞こえてきた。これだけやってまだニャウが生きているその事実に野薔薇は冷や汗をかく。

 

(極ノ番―――『鬼人招来』)

 

ドオオオオオン!!!

 

笛の音色が収まると、崩壊したビルに強い衝撃が轟いた。この衝撃によって土煙が発する。

 

(失態だ・・・こんな奴にここまで追い詰められるなんて。だけど・・・エスデス様に仕える者の意地として・・・敗北は絶対許されない!!)

 

土煙の中から出てきたのは、身長が少し伸び、筋骨隆々な肉体となり、呪力も大幅に強化されたニャウであった。

 

「ふうぅ・・・久しぶりだなぁ・・・この姿になるのは」

 

鬼人招来。ニャウの術式の極ノ番。その能力は自身の呪力を活性化させ、限界を超えた肉体強化を施す。

 

「何?イメチェン?言っとくけどダサいわよ。それなら、うちのバカ共の方がまだマシだわ」

 

プレッシャーを感じている野薔薇はそれを悟られまいと強がり交じりでニャウを煽る。

 

「ふふ、イメチェンだけで済むか、試してみるかい?」

 

ニャウは煽りに異を介さず、足元の瓦礫を手に取り、呪力を大きく練り上げて野薔薇に投げ放つ。野薔薇は迫ってきた瓦礫を転がって躱し、釘を打ち込もうとする。

 

「ふっ!」

 

だがそれよりも速くニャウが野薔薇の間合いに入り、彼女に拳を叩き込んだ。野薔薇は何とか腕を交差して防御するも、一撃が重く腕に痺れが入る。

 

(重っ!)

 

ニャウはそこから野薔薇の腹部に膝蹴りを打ち込んだ。

 

「あっ・・・!」

 

さらにニャウはアッパーを繰り出して野薔薇を叩き上げ、高く跳躍し、両手を合わせてダブルスレッジハンマーを叩き込み、野薔薇を地面に叩きつけた。

 

「おっと、少しやりすぎたかな?」

 

土煙が立ち込める中、ニャウはニヤリと笑うが、すぐにその笑みも冷めた。土煙が晴れるとそこには、ボロボロながらも闘志を燃やす野薔薇の姿があった。

 

「まだやる気?僕がこうなった以上、優しくはないんだからさぁ・・・さっさと降参した方が身のためじゃない?」

 

ニャウは肩を済めて野薔薇に降参を勧めようとする。もっとも、降参したところでろくなことにならないのは目に見えているが。

 

「だとしても・・・やんなきゃなんねぇ時があんだよ」

 

そう言って野薔薇は痛みをこらえて、集中して呪力を練り上げる。彼女の脳裏に浮かんだのは、偶然にも八十八橋で打ち放つことができた黒閃だ。

 

(思い出せ・・・あの時掴んだ呪力の核心を!)

 

「あ、そう。なら・・・お望み通りぐちゃぐちゃにしてあげるよ!!」

 

想像通りの答えが返ってきてニャウはニヤリと笑い、野薔薇に突っ込む。

 

「簪!」

 

野薔薇は指を鳴らして簪を発動させ、今まで打ち込んで放置してきた釘の呪力がニャウの目の前で次々と爆発する。だがニャウは持ち前のスピードで爆発から逃れ、野薔薇に迫る。

 

「終わりだぁ!!」

 

ニャウは野薔薇の脳天に目掛けて呪力を纏った拳を打ち放とうとしている。野薔薇は構わず、彼が放たれた拳を狙って釘を打ち飛ばす。

 

鬼人招来によって強化された一撃は重い。だがその重く響く痛みによって、野薔薇は思い出すことができた。あの日掴んだ呪力の核心・・・黒く輝く火花を。

 

カァン!!

 

 

ドオオオオオン!!!!

 

 

黒閃!!!!!

 

 

野薔薇の打ち放った黒閃によって、釘はニャウの拳を貫き、彼の肩腕を吹き飛ばした。

 

(なっ・・・⁉今のは・・・黒閃⁉こいつ・・・黒閃を打てるほどの術師だったのか⁉)

 

野薔薇が黒閃を放てる術師だったとは思っていなかったニャウは驚愕する。

 

「だけど・・・この程度で・・・倒せるなんて思うなぁ!!!」

 

「いいや!もう詰みだよ!」

 

苦痛の中で戦意を燃やすニャウだが、野薔薇は彼に詰みを宣告し、吹っ飛ばしたニャウの腕に藁人形を置く。

 

(藁人形?・・・釘・・・!!まさか!!!)

 

野薔薇のやろうとしていることに気付いたニャウは事の深刻さに気付き、阻止しようと動く。

 

「させるかぁあああ!!!!」

 

「地獄で私の名前を刻みな!!私は・・・釘崎野薔薇だぁ!!!」

 

野薔薇はニャウより早く、呪力を纏った釘を藁人形に打ち込んだ。

 

芻霊(すうれい)呪法―――共鳴り!!!」

 

ズシャアア!!!

 

藁人形と連動したニャウの胸に棘の物体が体の内側から貫いた。

 

「が・・・あ・・・」

 

体を貫かれたニャウは血反吐を吐き、元の姿に戻って倒れ、息を引き取った。

 

「・・・ざまぁみろってんだ・・・クソガキ」

 

何とか勝利を収めることができた野薔薇は先立ったニャウに悪態をついた。

 

 

交渉が決裂したブラートとリヴァはお互いに殺意を募らせ、面と向き合っている。

 

「こっからは剣同士のぶつかり合いだな」

 

「果たしてそうかな?」

 

リヴァは袖口から血液が入った注射器を取り出した。

 

「ふんっ!」

 

「!」

 

リヴァはその注射器を自身の左腕に刺し、中の血液を注入した。

 

「赤燐躍動」

 

血液の注入を終えると、リヴァの目元に血の紋様が浮かび上がる。そう、赤血操術の赤燐躍動だ。リヴァが赤血操術を扱ったその事実にブラートは驚愕する。

 

(赤血操術⁉)

 

「血液もある一種の水分子だ。血そのものは操れなくとも、その水分子を取り込むことはできる。1分だ。凝縮された水分子を取り込むことで、1分間だけ、水分子に含まれた術式を扱うことができる。それこそが、水分子操術の真価!」

 

(ここぞとばかりの術式開示!)

 

「失血のリスクなど気にしてられん。お前が相手だからな」

 

「鼻から手を抜く気なんてさらさらねぇよ」

 

一時的だが赤血操術を使い、術式開示で自らを強化したとしても、ブラートのやることは変わらない。ブラートは肩パッドのボタンを押し、背中装甲からあるものを取り出した。それはどこかインクルシオの面影がある片手剣の呪具だ。

 

「行くぞ!!」

 

ブラートが剣を手に取った瞬間、リヴァは動く。リヴァは耳に出た血に触れ、その血液を手裏剣の形に形作る。

 

「赤血操術―――苅祓!」

 

リヴァは作り上げた血液の手裏剣をブラートに投げ放つ。その精度は憲紀や脹相のものと比べれば弱いが、威力は申し分ない。迫ってきた血の手裏剣をブラートは横跳びで躱し、まっすぐにリヴァに突っ込む。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「血刃!」

 

剣を振るうブラートに対し、リヴァは両手に血の刃を作り上げ、斬撃を受け止めた。斬撃を防御したリヴァは血刃による連撃を繰り出す。ブラートはリヴァの連撃を剣で防御しつつ、負けじと斬撃を返す。リヴァもまた、攻撃しつつブラートの斬撃を防御する。攻防戦は互いに一歩も引かない。

 

「ブラートさん!!」

 

そこへニャウとの戦闘を終えた野薔薇が戻ってきて、ブラートの加勢に入ろうとする。だがレベルの高い攻防戦を見て、野薔薇は目を見開き、立ち入る隙がないと理解する。

 

(あれ・・・どっちも手負いの状態・・・よね・・・?迫力が違いすぎる・・・!援護に入り込める場所が見当たらない・・・!)

 

右手の血刃でブラートの斬撃を受け止めたリヴァは左手の血刃を彼の心臓目掛けて突きを放つ。勘づいたブラートは後退して突きを躱し、一旦リヴァから距離を取る。その瞬間、リヴァは血刃を解除し、両手を合わせて血液を圧縮する。

 

「百斂・穿血!」

 

限界まで圧縮後、リヴァは血のレーザーをブラートに向けて撃ち放った。走り出すブラートは血のレーザーを掻い潜り、リヴァの間合いまで詰めた。そして・・・

 

ザンッ!!!

 

「ぐはっ・・・!」

 

一振りの斬撃を放ち、リヴァの身体に手痛い一撃を与えた。同時に・・・

 

パァンッ!

 

1分が経過し、術式効果が終えたことで両手に圧縮した血液が破裂する。

 

「やった!!」

 

野薔薇はブラートの勝利を確信する。だが次の瞬間、ブラートはリヴァがニヤリと笑ったその瞬間を見逃さなかった。

 

「水分子操術極ノ番―――『血刀殺』!!」

 

リヴァが水分子操術の極ノ番を発動させた時、彼が受けた傷の血が複数の鋭い槍となり、ブラートに迫りくる。

 

(!!赤血操術じゃねぇ!やっぱりまだ奥の手を隠してたか!)

 

虚を突かれたブラートは迅速な対応で迫りくる血の槍を対処する。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ブラートは迫ってきた槍を剣で弾き返した。だが全てを対処することはできず、数か所程度がブラートの身体を貫いた。それでも致命傷には至らないが、ダメージを受けたブラートは膝をつく。

 

「ブラートさん!」

 

「致命傷は受けてねぇ。安心しな」

 

野薔薇はすぐにブラートに駆けつけ、肩を貸して彼を支える。

 

「命を振り絞った攻撃・・・対応するとは・・・見事・・・」

 

リヴァはカウンターを対処したブラートに称賛し、倒れる。

 

「血液もある一種の水分子。あんたが言ったことだぜ。それに、水分子操術も加茂家相伝の術式だから、血に関係するとも考えた」

 

(あのでかいのもガキも、あいつも強敵だった。それでも勝つことができたのは、この人の存在が大きい。和倉・・・あんたの兄貴、すごすぎでしょ)

 

この場にブラートが駆け付けて来なければ自分はニャウに負けていたどころか、ダイダラに殺されていたかもしれない。そう考えると野薔薇はブラートの存在に感心を向けている。すると倒れ伏すリヴァが口を開く。

 

「・・・・・・ブラート。1つだけ言っておく・・・私がエスデス様の軍勢にいる真の理由は・・・」

 

リヴァは語る。自分がエスデスに忠誠を誓ったあの日を・・・

 

 

時は遡り、彼がリヴァと名乗る前・・・加茂として振る舞っていた時のこと。加茂のあり方に絶望している彼の前に、特級術師として名高い彼女が現れた。

 

『お前はたいそう戦上手の術師だと聞く。加茂でくすぶっているのはもったいない。ちょうど副官を探していたところだ。私の部下になれ』

 

『・・・仮になったとしても、加茂の人間は私が前に立つことを嫌っている。そう簡単には・・・』

 

『ウジウジするな』

 

『うっ⁉』

 

自傷気味に項垂れる彼に彼女は容赦なく彼の頭を踏みつける。

 

『私が欲しているのだ。誰にも反対などさせん』

 

『・・・当主殿が何と言うか・・・』

 

『保守派の連中も加茂家当主も私の武力のおかげで助かっている。武力が増すのならば・・・歓迎すべきことだろう?』

 

そう言って彼女は彼に手を差し伸べる。

 

『私の元へ来い。まだ何か懸念点があれば全て取り祓ってやる』

 

『・・・っ』

 

 

「・・・ただ・・・あのお方を慕っていた。それだけだ」

 

エスデスを慕うその心。例え呪いであったとしても、その気持ちに嘘偽りはない。

 

「リヴァ・・・」

 

「だから・・・エスデス様に仕える者の意地として・・・お前の命だけはもらって逝く!」

 

リヴァがブラートに指を指してそう言い放った時・・・

 

「ごはっ!!!」

 

「!!?ブラートさん!!」

 

突然ブラートは血反吐を吐いた。突然のことに野薔薇は目を見開いて驚愕する。

 

「さっきの注射は・・・ドーピングだけではなく血に猛毒を仕込んでいたのか・・・!」

 

そう、リヴァが自身を強化するために使ったあの血液は赤血操術を使うためのものだけではなく、猛毒まで混じっていたのだ。それでもリヴァが平然と動けていたのは、水分子操術によって耐性ができていたからだ。

 

「耐性のないお前には速攻で毒が回る。助かるまい・・・」

 

そう言い放つリヴァの身体はダメージによって耐性が消え、毒が回りだす。

 

「先に・・・逝っている・・・ぞ・・・」

 

視界がぐらついたリヴァの脳裏に浮かび上がったのは、自分の息子、清孝と揉めた時の光景だ。

 

 

『家を出るとはどういうことですか父上!!?』

 

『言葉通りの意味だ。私は加茂を捨てる』

 

『なぜです⁉加茂のために最善は尽くすとおっしゃったではありませんか!!?』

 

『それでは意味はなさぬ。必要なのは力だ。全てをねじ伏せる圧倒的な力・・・そう!力さえあれば全てが思うがままだ』

 

『規律を守ってこその力。あなたはこう言っていました。あれは噓なのですか?』

 

『嘘ではない。ただ・・・些末な力に一体何が変えられるというのだ?』

 

『・・・本当に・・・あんたは変わったんだな・・・。俺はあんたみたいにはならねぇ・・・。俺は・・・俺の手で加茂家を変えてやる。あんたのやってることは・・・全部間違いだったと、証明してやる!!』

 

 

(・・・清孝・・・お前は・・・この父のようには、なるなよ・・・)

 

リヴァは最期の最期で息子を想い、息を引き取ったのであった。

 

 

一方その頃、渋谷へ向かう電車の中。

 

「・・・親父?」

 

「どうした?清孝?」

 

「・・・いや。何でもねぇ」

 

 

「・・・さすがは元俺の上司・・・相討ちかよ・・・」

 

「ブラートさん!しっかり!今家入さんのところに・・・!」

 

「ブハッ!!」

 

野薔薇はブラートを硝子の元まで連れていこうと考えるが、彼の毒はもうすでに身体中を回っている。硝子の元に辿り着く頃には息絶えてしまうだろう。野薔薇は嫌でもそれが理解できてしまう。

 

(ダメだ・・・もうこの人は助からない・・・。くそ!私はあのバカに何て言えばいいのよ!)

 

自身の無力さを嘆く野薔薇。そんな彼女に向けてブラートは口を開く。

 

「・・・釘崎。頼みがある」

 

「・・・頼み?」

 

「こいつを・・・(たつみ)に届けてやってくれ」

 

ブラートはそう言って彼女に片手剣の呪具を預けようとする。

 

「・・・それは?」

 

「インクルシオの鍵だ。持ち主のところに鎧が来る」

 

「!」

 

ブラートが使用していたインクルシオの鍵を(たつみ)に届ける。それは即ち、彼に尊敬していた兄貴分が死んだことを証明させるのに十分なものだ。そんなあまりにも重い届け物を任されてしまう野薔薇は少し躊躇いが生じる。

 

「青龍刀が壊されて、あいつは今呪いを祓う術がねぇ」

 

「だからって、尊敬してる人が死んだってあいつに伝えろってのかよ」

 

「釘崎・・・頼む・・・!」

 

ブラートは真剣な眼差しを彼女に向けて、必死に訴えている。眼差しに込められた(たつみ)を想う熱い魂。それを感じ取った野薔薇は考え・・・やがて決心がついたようにインクルシオの鍵を手に取る。

 

「釘崎・・・(たつみ)にしっかり伝えてくれ・・・。お前は・・・どこまでも駆け抜けろ・・・俺は・・・お前を見守っている・・・てな・・・」

 

「ブラートさん・・・」

 

「頼ん・・・だ・・・ぜ・・・」

 

言いたいことを伝え終えたブラートはゆっくりと目を閉じ、インクルシオの鍵を手放し、垂れ下がった。野薔薇は目を見開き、悟った。毒が完全に回り切り、彼は息を引き取ったのであると。

 

「・・・・・・ブラートさん・・・確かに預かったわよ。あんたの魂」

 

息を引き取ったブラートをゆっくり下ろし、立ち上がった野薔薇は両手を合わせ、感謝の意を込めて黙祷を捧げた。

 

「あのバカにあったらちゃんと伝えるよ・・・あんたは熱い漢だってな」

 

黙祷を終えた野薔薇はインクルシオの鍵を手に持ち、この場を去って急ぎ(たつみ)の元へ向かうのであった。

 

 

道玄坂小路  23時16分

 

真人(分身)と対峙し、何の打開策も得られない(たつみ)は走ってここまで辿り着いた。走り続けていると、真人(分身)に先回りされて前方を立ち塞がれる。

 

「くっ!」

 

「んんん~~!!」

 

真人(分身)は自身の手を伸ばして(たつみ)に触れようとする。真人の術式を知っている(たつみ)は伸びてきた真人(分身)の掌を躱す。

 

「つれないね」

 

直後、真人(分身)は自身の全身にトゲを生やして丸まり、(たつみ)に突っ込む。(たつみ)は転がって真人(分身)の突進を躱す。

 

(俺の両手を警戒している。そりゃそうだ。お前は俺の術式を知ってるもんな)

 

真人(分身)は自身の手を増やし、周りにある看板や建築物を壊し、その破片を(たつみ)に放り投げる。(たつみ)はバク転で後退して躱す。だが後退した先で真人(分身)が回り込んでいた。

 

(だが俺は分身だ。自分の形は変えられても、改造人間をいじったり他者の魂に干渉はできない)

 

真人(分身)は(たつみ)に触れようと手を伸ばすが、勘づいた(たつみ)は両足を開脚して真人(分身)の手を躱し、そのまま足払いをかける。それによって真人(分身)は体勢が崩れ、(たつみ)はその隙を突いて後退し、真人(分身)から距離を取る。倒れた真人(分身)は右手を1本増やし、(たつみ)に向けてその手を伸ばす。(たつみ)は伸びてきた手を躱す。

 

(勝手に神経をすり減らしてくれて助かるよ)

 

躱したところを真人(分身)は(たつみ)に近づき、両手の爪を鋭利な刃物へと形を変えて、クロス状に引っかく。(たつみ)は間髪入れてスライディングで真人(分身)の引っかきを躱し、彼の背後に掻い潜る。

 

「今のも避ける?まるでネズミだね」

 

「うっせぇ、化け物」

 

「ひっど」

 

真人(分身)の煽りに対して(たつみ)はシンプルに罵倒する。

 

「そうだ、お前に聞きたいことがあったんだけどさ、斬鬼を祓った時ってさ、どんな気分だった?嬉しかったりしたか?」

 

「斬鬼?」

 

「とぼけんなよ。八十八橋でお前が祓った呪いのことだろ」

 

「!」

 

真人(分身)の口から斬鬼の名が出た時、(たつみ)は疑問符を浮かべたが、指摘を受けた後に自分が祓ったあの忌々しい機械呪いの姿が思い浮かんだ。

 

「・・・だから何だ?敵討ちに来たのかよ」

 

「いや?漏瑚たちだったらそうだったかもしれないけど、俺は別にって感じだよ」

 

「随分薄情なんだな」

 

「お前なんか勘違いしてないか?漏瑚や斬鬼は確かに俺の自慢の仲間だけど、そもそも前提が間違ってるんだよ。俺たちは呪いだ。己の欲求の赴くままに、殺したい時に殺す。その欲求が情に勝ることなんてないんだよ」

 

(たつみ)の言葉に淡々と返答する真人(分身)はニヤリと笑う。

 

「俺はさ、斬鬼を祓って調子に乗りまくってるお前の全部を否定して壊してやりたいんだよ。肉も、骨も、魂も・・・お前の大事なものも何もかも全部!!」

 

真人(分身)は自身の右手を伸ばし、(たつみ)に触れようとする。(たつみ)は迫りくる右手に身構える。すると・・・

 

カァン!!ズンッ!!

 

「おっ?」

 

「!」

 

後方から釘が飛んできて、伸びてきた真人(分身)の右手に突き刺さる。そして・・・

 

「簪」

 

釘の呪力が膨張して、真人(分身)の右手が少し抉れ、血痕が飛び散る。

 

「呪具携帯せずに出歩くとかバカじゃねーの?これだから脳筋は困んのよね」

 

(たつみ)が後ろを振り向くと、そこにはトンカチと釘を携えた野薔薇の姿があった。

 

「釘崎⁉」

 

「ほらよ!お届けもんだよ!」

 

野薔薇は腰に抱えていたインクルシオの鍵を(たつみ)に放り投げた。インクルシオの鍵を受け取った(たつみ)はそれを見て、目を見開く。

 

「こ、これ・・・兄貴の⁉釘崎!お前何で・・・」

 

何故野薔薇がインクルシオの鍵を持っているのか。その事情を知らない(たつみ)は動揺して野薔薇に問いかけるが、彼女に諭される。

 

「んなこと聞いてる場合じゃないでしょ!!今は目の前の相手に集中しろ!!」

 

「・・・っ」

 

ブラートの身にいったい何があったのか。聞きたい気持ちは山ほどあるが、野薔薇の言うとおり、真人が相手なのだ。そんな余裕は与えられない。

 

「・・・終わったらちゃんと話せよな」

 

「互いに生きてたらね」

 

(たつみ)は己の感情をぐっと堪え、インクルシオの鍵を構える。

 

「相変わらず運がいいよねぇ、お前。お仲間の登場なんてさ」

 

「ツギハギ・・・お前か。うちのバカ共にちょっかい出したっていう特級呪霊は」

 

「参ったなぁ。俺って有名人?」

 

「ああ。尻尾捲いて逃げたってな。ハハッ」

 

野薔薇は真人(分身)に対してあくどい笑みを浮かべて煽っていく。

 

「・・・いいね。()りがいありそうじゃん」

 

笑みを浮かべて余裕を見せる真人(分身)に対して、(たつみ)と野薔薇は互いに耳打ちをする。

 

(和倉、私に合わせろ。いい策がある)

 

(勝算はあんのか?)

 

(ハーゲンダッツ賭けてもいいわ)

 

(はっ・・・いいぜ。お前の賭け、乗ってやる)

 

耳打ちを終えて先に動いたのは野薔薇の方だ。野薔薇はトンカチを振るって釘を打ち放つ。放たれた釘は真人(分身)の真上を素通りし、看板に直撃する。

 

「ノーコン」

 

釘が突き刺さった看板は支えが外れ、真人(分身)の手前に振ってくる。そのタイミングで(たつみ)はまっすぐ突っ込み、看板ごと真人(分身)に蹴りを入れ込む。

 

「簪!」

 

ズンッ!

 

看板に突き刺さった釘は呪力が膨張し、看板を貫いて真人(分身)の脳天に突き刺さる。

 

ザンッ!!ブシャアアア!!!

 

直後に(たつみ)はインクルシオの鍵を振るって看板ごと真人(分身)を頭から斬る。切り傷ができあがった真人(分身)だが、この程度では倒れない。

 

「ははっ、武器取った途端調子に乗るじゃん。だけど、手にしたところでなんだよねぇ」

 

何度でも言うが真人は基本はなんでも効かない。いくら(たつみ)が呪具を手にしたところで、それは同じことだ。だが、野薔薇の表情を見るに、彼女の策はまだお披露目していない様子である。

 

(口ぶりからしてあの女、虎杖悠仁とも仲いいんだろうな。体力お化けの和倉(たつみ)の死体を晒すより、こっちの方があいつに効きそうだ)

 

野薔薇に視線を向ける真人(分身)はニヤリと笑みを浮かべる。

 

(予定変更だ。この女の死体を晒して、虎杖悠仁の魂を折り、和倉(たつみ)の全てをぶち壊す!)

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