呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

7 / 73
10年の時が流れ・・・


零章『東京都立呪術高等専門学校』
呪いの子


記録 2016年11月東京

 

同級生による執拗な嫌がらせが誘因となり、首謀者含む4名の男子生徒が重傷を負う。

 

呪術規定9条に基づき、乙骨憂太を秘匿処刑に処す。

 

 

2017年 6月

 

呪術総監部。それは日本国政府内に設置されている全呪術師を統制する最高機関。呪術高専各学長への指揮権を有し、緊急時には全ての呪術師に対して直接指揮監督を担う、文字通りに、最大の権力を有する機関である。

 

そんな総監部のとある部屋。総監部のトップたちに呼び出された1人の女性。女性の周りには障子扉のようなもので囲まれており、ここに集まっている老人たちはこれで意図的に姿を隠している。

 

「完全秘匿での死刑執行・・・時期尚早では?」

 

美しい赤い瞳を持った黒髪の長髪女性は四方八方で老人からの突き刺さる視線を向けられながら口を開いた。

 

「しかし本人が了承した」

 

「未成年・・・16歳の子供ですよ?逆に何人呪い殺されるかわかりません。現に2級呪術師が3人、1級呪術師が1人返り討ちにあってるんです。だから呪詛師殺しの異名がある私にお鉢を回した。それを忘れたわけではないでしょう」

 

「・・・ではやはり・・・」

 

「ええ。最強の呪術師、五条悟の代理として、乙骨憂太を呪術高専で預かることを進言します」

 

突き刺さる視線に臆することなく、現代最強の呪術師、五条悟と肩を並べる女性、禪院赤女(あかめ)は上層部の決定を覆した。

 

 

同月日。東京都立授受高等専門学校・・・通称呪術高専。そこに備わっている名もなき部屋。この部屋の壁には至る所に札が張られており、秘匿死刑を命じられた術師は大抵はこの場所で処刑されている。この何もない部屋で1人の黒髪の少年は体育座りで顔を俯かせている。

 

この少年こそが、上層部の命によって秘匿処刑される予定であった乙骨憂太だ。そんな彼は今日から高専に通うことになったのだが、彼はここから動こうとはしなかった。そんな彼の目の前には、銀髪で包帯で目隠しをしている大柄な男がいる。

 

「これは何かな?乙骨憂太君」

 

目隠し男はポケットからあるものを取り出して優太に問いかけた。

 

目隠し男の名は五条悟。最強の呪詛師殺しの異名を持つ禪院赤女(あかめ)と同等の実力を持つ呪術師だ。悟が取り出したそれとは、刃が肩結びされて使い物にならなくなったナイフであった。

 

「・・・ナイフ・・・だったものです・・・。・・・死のうとしました・・・。でも・・・『里香ちゃん』に邪魔されました・・・」

 

どうやら憂太はナイフだったもので自殺を図ろうとしたが、里香なるものの存在によって邪魔され、ナイフはあのようになったというわけだ。

 

「・・・暗いね。今日から新しい学校だよ」

 

「・・・行きません」

 

憂太は高専に行くことを拒んでいる。その理由はやはり男子生徒4名を重症にさせた事件が原因だろう。いや、それだけじゃない。おそらく過去にも似たようなことが起きたからだろう。そして何より最大の理由は、その里香なるものの存在だろう。

 

「もう誰も傷つけたくありません・・・。だからもう、外には出ません・・・」

 

里香なるものの存在によって誰かを傷つけたくない。外に出なければ誰も傷つかない。自分が死ねば誰も・・・。だから自殺を図ったのだろう。

 

「でも・・・1人は寂しいよ?」

 

悟の言葉に憂太は袖を強く握りしめる。

 

「君にかかった呪いは、使い方次第で人を助けることができる。力の使い方を学びなさい。全てを投げ出すのは、それからでも遅くはないだろう」

 

時間はかかったが、憂太は悟の説得により、渋々ながらも、高専に行く選択を決めた。

 

 

高専への通学路。高専に通う3人と1匹の生徒がその道を歩いている。そんな中、1匹が口を開き、人語で今日来る転校生の噂を口にする。

 

「聞いたか?今日来る転校生、同級生4人をロッカーに詰めたんだと」

 

「はぁ?何それ?殺したわけ?」

 

「ツナマヨ?」

 

「いや、重症らしい」

 

「ふぅん。ま、生意気ならシメるまでよ」

 

「おかか」

 

3人と1匹の生徒の中でメガネをかけた女子は転校生に対し、あまり好印象を持っていないようだ。

 

 

高専の教室に辿り着いた3人と1匹の生徒は各々の座席に座った。ホームルームの時間となったところで、この学年の担任である悟と副担任(正確には違うが)である赤女(あかめ)が入室してきた。

 

「転校生を!!紹介!!します!!テンション上げて!!みんなーー!!」

 

テンション上がりまくりな悟とは正反対に、赤女(あかめ)は無言で拍手を送っている。対して3人と1匹の生徒は・・・

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

歓迎ムードという感じではなく、むしろ白けているような雰囲気を醸し出している。

 

「上げてよ・・・」

 

「ずいぶん尖った奴らしいじゃん。そんな奴のために空気づくりなんてごめんだね」

 

「シャケ」

 

「ていうか、その転校生自体にも興味ないし」

 

「・・・・・・」

 

1人の男子生徒や1匹の生徒はともかく、2人の女子生徒はそもそも歓迎すらしていない様子だ。その様子に悟は少しため息をこぼす。

 

「・・・まいっか!入っといで―!」

 

が、すぐにのほほんとしたお気楽な態度に戻り、転校生の入室を許可した。冷めた空気が漂う中、扉が開かれ、転校生が入ってくる。

 

(シカトこいとこ)

 

桃色の髪のツインテールの女子生徒は興味なさげにスマホをいじっている。だが・・・

 

ゾゾゾゾゾゾッ!!!!

 

転校生が教室に足を踏み入れた瞬間、無視することなど到底できないほどの禍々しさを感じ取った。それは他の2人と1匹も感じ取ったようで、全員が強張った表情を見せている。転校生・・・憂太に視線を向けてみると、彼の背後に異様に黒く、歪な存在が憑りつかれていた。

 

【あ"ぁ"?】

 

歪な存在は生徒たちの視線に気づき、メンチを切っている。

 

「乙骨憂太・・・」

 

ガンッ!!!

 

憂太が教壇に立ち、自己紹介しようとする前に、3人と1匹の生徒が動き出した。メガネをかけたポニーテールの女子生徒は竹刀袋より薙刀を取り出し、憂太の頬を掠るように黒板に薙刀を突き刺す。ツインテールの女子生徒はアタッシュケースからライフルガンを取り出して憂太の顔に突きつけ、パンダのような生物はパンダの柄が入ったガントレットを装備して拳を突きつけ、銀髪の男子生徒は制服で覆っていた口を露にし、攻撃態勢に入っている。

 

「ねぇ、これなんかの試験?」

 

ツインテールの女子が疑問を口にしていたところに、ポニーテールのメガネ女子が憂太に向けて口を開く。

 

「おい、お前、呪われてるぞ」

 

何が起こったのかわけがわからない様子の憂太はビクビクしながら目が泳いでいる。

 

「ここは呪いを学ぶ場だ。呪われてる奴が来るところじゃねーよ」

 

「えっ・・・⁉」

 

ポニーテールのメガネ女子の言った言葉に憂太は今初めて聞いたというような反応をしている。どういうことか困り果てている憂太に副担任である赤女(あかめ)が説明する。

 

「日本国内での怪死者、行方不明者は年平均10000人を超える。そのほとんどが人の肉体から抜け出した負の感情・・・呪いの被害だ。中には呪詛師による悪質なものもある。呪いに対抗できるのは、同じ呪いだけ。ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ、都立呪術高等専門学校だ」

 

憂太に打ち明けられたことは、たった今全て初めて聞かされた内容である。本来このことは悟が事前に話しておくべきことなのだが・・・その全てがはしょられて、今に至る。

 

(事前に言ってよ・・・)

 

憂太は今初めて聞いたため、困った顔をしている。

 

(((え?今教えたの?)))

 

今教えられたと知った4人の生徒は悟に呆れたような顔をしている。

 

(悟?)

 

なぜ事前に教えなかったと赤女(あかめ)は悟に批難の顔を見せている。

 

(メンゴ!)

 

悟は特に悪びれた様子もなく、軽い気持ちで心の中で謝罪している。

 

「・・・あ、お前たち、そろそろ離れた方がいいぞ」

 

「「「「?」」」」

 

赤女(あかめ)の忠告に対し、生徒たちは疑問符を浮かべたその時だった・・・

 

ズズズズズ・・・

 

憂太の背後から歪な存在の手が出現し、ポニーテールの女子生徒から薙刀を奪い取り、ツインテールの女子生徒からライフルを取り上げ、その場に放り投げた。

 

「「「「!!!」」」」

 

突然現れた歪な存在を前に、生徒たちは憂太から距離を取った。

 

【ゆう"たを"ををををを・・・】

 

「待って!!里香ちゃん!!」

 

【いじめるなあああああああああ!!!】

 

歪なる存在は憂太の静止を聞かず、憂太に手を出そうとして3人と1匹の生徒に襲い掛かろうする。

 

 

特級被呪者 乙骨憂太

 

特級過呪怨霊 折本里香

 

記録  6年前 宮城県仙台市

 

『憂太、誕生日おめでとう』

 

『やったぁ!開けていい?』

 

『いいよ』

 

『開けていい⁉』

 

『いいってば』

 

『・・・ゆびわ?』

 

『婚約指輪』

 

『こんにゃく?』

 

『約束だよ。里香と憂太は大人になったら結婚するの』

 

●月●日 ●●時●●分  事故現場

 

『きゃああああ!!』

 

『マジか・・・救急車!!』

 

『バカ!!よく見ろ!!助かるわけねーだろ!!頭潰れてんだぞ!!』

 

『そんなん言ったって・・・!子供が車に轢かれて・・・そうです!早く!!』

 

『・・・・・・・・・里香ちゃん?』

 

ピクッ

 

【ゆ"ぅたぁ・・・】

 

『えっ?』

 

ガシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

【憂太】

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・っ!!!???』

 

【大人にな"ぁたら"ぁぁぁ・・・結婚する"るるるるるるん"】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(約束だよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・てな感じで、彼のことがだーい好きな里香ちゃんに呪われた乙骨憂太君でーーーす!!みんな!よろしくーーー!!」

 

憂太に憑りついている過呪怨霊、折本里香の説明をざっくりしたところで悟は改めて憂太を3人と1匹の生徒に紹介した。その一方で3人と1匹の生徒はまぁ事なきを得たが、ちょっとボコられたためにたんこぶやら何やらが出来上がっている。

 

「憂太に攻撃すると里香ちゃんの呪いが発動したりしなかったり・・・。なんにせよ、みんな気を付けてねー」

 

「・・・早く言えよ」

 

何に対しても説明が遅い悟に対し、ポニーテールのメガネ女子は愚痴をこぼしている。

 

「憂太。こいつらはいわゆる反抗期という奴らしくてな、私が紹介しておく」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

(あの先生が悪い気がする・・・)

 

「そんなに見つめないでよ、照れるでしょ?」

 

生徒たちが反抗的な態度をとっているのは悟に原因があるとし、憂太は彼を見つめる。悟は優太の視線に対し、たいしてかわいくもない茶目っ気を見せている。気を取り直して、赤女(あかめ)がこの学校に在籍する同級生を紹介する。

 

「呪具使い、禪院真希。呪いを祓う特別な武具を扱う」

 

「・・・・・・」

 

薙刀を扱っていたポニーテールのメガネ女子生徒が禪院真希。

 

「銃使い、三好マイン。こいつは呪術界でも特に珍しい日本人と外国人のハーフだ」

 

「ふんっ!」

 

ライフルを扱っていたツインテールの女子生徒が三好マイン。

 

「呪言師、狗巻棘。おにぎりの具しか語彙ないから、まぁ、会話頑張ってくれ」

 

「昆布」

 

制服で口元を覆っていた銀髪の生徒が狗巻棘。

 

「パンダ。見ての通りパンダだ」

 

「パンダだ。よろしく頼む」

 

見た目通りのパンダがパンダである。

 

「以上が、この学年に在籍する1年生だ。仲良くな」

 

(1番欲しい説明がなかった・・・!)

 

なぜパンダがしゃべっているのか、なぜパンダがここにいるのか・・・1番欲しい説明がなかったことに対し、憂太は困惑している。

 

「で、この1年を統率するのが、担任の五条悟だ」

 

「改めまして!僕がグッドルッキングガイ!みんなのティーチャー!五条悟先生だよ!よろしくね、乙骨憂太君?」

 

紹介された悟はテンション爆上げで、最後にはニヒルな笑みを浮かべた。

 

「ちなみに私は3年の担任・・・なんだが3年生は今遠征中で1人もいなくてな。実質この学年の副担任だ。禪院赤女(あかめ)。よろしく頼む」

 

「は、はぁ・・・」

 

赤女(あかめ)は特に感情を表に出すことなく、軽くお辞儀をして挨拶をした。

 

「さあ、これで1年も5人になったね!」

 

「悟、この場合だと4人と1匹だ」

 

「細かいことは気にしない気にしない。午後の呪術実習は2-3のペアでやるよ」

 

「では、組み合わせを発表する」

 

赤女(あかめ)は1枚の用紙を取り出し、午後の呪術実習授業の組み合わせを発表する。

 

「A班。棘・パンダペア」

 

「頑張ろう」

 

「B班。真希・マイン・憂太ペア」

 

「「げっ」」

 

(げって言った・・・)

 

憂太と一緒に行動することになった真希とマインは露骨に嫌そうな顔をした。初日でこれでは先が思いやられる。この呪術高専でうまくやっていけるか不安になる憂太であった。

 

 

午前の授業が終わり、昼休憩の時間。憂太を含んだ1年生5人は高専の廊下を歩いている。

 

「・・・あ・・・あの・・・よろしくお願いします」

 

午後の実習授業で一緒に行動する真希とマインに憂太は緊張気味に挨拶する。その挨拶を前に、マインは立ち止まり、じーーっと不機嫌そうに憂太を見つめる。

 

「・・・あ、あの・・・」

 

「・・・・・・不合格ね。とてもあたしの仕事についてこれる感じがしないわ、顔立ちからして」

 

「えっ・・・」

 

とてつもなく失礼な言動をとるマインに憂太は唖然となる。

 

「・・・あんた、イジメられてたでしょ」

 

「うっ・・・」

 

核心を突くようなマインの問いかけに憂太は押し黙っている。

 

「ほら、図星じゃない」

 

「わかるわぁ。私でもイジメる」

 

図星を突いたマインに真希が便乗して声を挟んだ。

 

「呪いのせいか?善人ですってセルフプロデュースが顔に出てんぞ。気持ち悪ぃ」

 

「・・・っ」

 

「なんで守られてるくせに被害者ヅラしてんのよ?ずっと受け身で生きてきたんでしょ、どうせ」

 

「何の目的もなくやってけるほど、呪術高専は甘くねぇぞ」

 

「・・・・・・」

 

きつい言動にきつい指摘に憂太は何も言えないでいる。

 

「黙ってないでなんか言ったら・・・」

 

「マイン!真希!それくらいにしろ!」

 

「おかか!」

 

マインが追及しようとした時、パンダと棘に咎められる。

 

「わぁーったよ。うるせぇなぁ」

 

「ふん!情けない!」

 

咎められて真希は鬱陶しそうにし、マインは憂太に悪態をつきながら廊下を歩いていく。

 

「すまんな。あいつらは少々他人を理解した気になるところがある」

 

「・・・いや・・・本当のことだから・・・」

 

パンダのフォローに憂太は自嘲気味に笑ってみせた。

 

 

呪術実習授業の時間となり、A班のパンダと棘は補助監督の同伴の元に実習先に向かった。一方、B班である真希とマインと憂太は実習先である小学校に悟同伴の元に辿り着いた。もちろん、呪いに関する実習であるため、この小学校には曰く付きな話がある。

 

「ここは・・・」

 

「ただの小学校だよ」

 

「え?」

 

「ただの・・・校内で児童が失踪する小学校」

 

「失踪!!?」

 

失踪と悟は軽く言っているが、大事であるために憂太は驚いた反応を見せている。

 

「場所が場所だからね。おそらく自然発生した呪いによるものだろう」

 

「子供が呪いに攫われたってことですか?」

 

「そ。今んとこ2人」

 

呪いについていまいちわかっていない憂太に真希が軽く説明する。

 

「大勢の思い出になる場所はな、呪いが吹き溜まるんだよ。学校、病院・・・何度も思い出され、その度に負の感情が受け皿となる。それが積み重なると、今回みたいに呪いが発生するんだ」

 

「今回の実習はその呪いを祓って子供を救出、死んでたら回収・・・でしょ?」

 

「そ!」

 

「え・・・死・・・?」

 

今回の実習の目的を確認するマインに悟は肯定する。死という物騒なワードに憂太はおどおどと反応する。その間にも悟は結界術の1つである帳を降ろす準備に入る。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

悟が術を唱えると、空の空間が歪み、夜の空間が小学校全体を覆い尽くしていく。

 

「!夜になってく・・・」

 

「帳。君たちを外から見えなくし、呪いをあぶりだす結界だ。内側から簡単に解けるよ」

 

悟は帳の簡単な説明をしてから、帳が完全に降りる前に範囲外である小学校の外に出る。

 

「そんじゃあ、くれぐれも・・・死なないように」

 

悟がそれだけを言い残すと、帳は完全に小学校を覆い尽くし、小学校の外に出た悟の姿が見えなくなる。

 

「死って・・・先生!!」

 

「転校生。よそ見してんじゃないわよ」

 

憂太がよそ見している間にも、真希は竹刀袋から薙刀を取り出して構え、マインはアタッシュケースからライフルガンを取り出し、戦闘態勢に入る。正面を見てみると、さっそく現れた。一つ目が飛び出し、藁の包みに似た姿をした異形の化け物。そう・・・呪いが形となった存在・・・呪霊が。

 

【は・・・い・・・る・・・】

 

「ひっ・・・!」

 

【は・・・い・・・る?】

 

呪霊は意味不明な言葉を喋りながら、包装口のような口をぱっくりと開けて襲い掛かってくる。

 

「こっちに来る!!どどど、どうしよう!!」

 

「わめくな」

 

「どうするもこうするも・・・」

 

マインは向かってくる呪霊に慌てることなく、ライフルガンを構え、狙いを3体の呪霊に定める。

 

「呪いが現れたのなら・・・祓う一択よ!」

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

マインは呪力でできた弾丸を呪霊に向けて撃ち放った。呪力の弾丸は呪霊の急所を貫いた。急所を撃ち抜かれた呪霊は倒れ、消滅する。

 

「す・・・すごい・・・一発で・・・」

 

憂太が感嘆していると、3人の背後よりさっきの呪霊と同じ個体がまた3体襲い掛かろうとしている。

 

ザンッ!!

 

「!」

 

呪霊が伸ばしてきた手を真希は薙刀で薙ぎ払った。呪霊に気がつかなかった憂太は驚愕で目を見開いている。マインは背後に呪霊がいたことに気がついていたのか、驚いた素振りはない。真希は薙刀を構え直し、1体の呪霊を斬り払い、残りの2体の呪霊の懐に入る。

 

「覚えとけ。呪いってのはな、弱い奴ほどよく群れる」

 

懐に入った真希は薙刀を振るい、呪霊を纏めて斬り、薙ぎ払った。

 

「まぁそりゃ、人間と同じか」

 

(こっちは一振りで・・・禪院さんも三好さんも・・・すごい・・・)

 

憂太が驚いている間にも、マインはライフルガンを肩に担ぎ、彼に声をかける。

 

「ほら、とっとと行くわよ」

 

「え?行くってどこに?」

 

校内(なか)に決まってるでしょ」

 

マインと真希はずかずかと小学校の校内へと入っていく。憂太は小学校を見上げ、おどおどとした様子で2人についていき、校内へと入っていく。

 

校内は帳が降りて夜になっているせいか、中々におどろおどろしい雰囲気が醸し出している。そんな不気味な雰囲気に憂太はだらだらと冷や汗をかきながらびくびくしている。それとは反対に真希とマインは堂々と廊下を歩いていく。

 

「ぜ、禪院さん、三好さん・・・怖くないの・・・?」

 

「苗字で呼ぶな。あいつと被んだろ」

 

どうも真希は赤女(あかめ)と被ることから禪院という苗字で呼ばれることを嫌がっているようだ。だが真希が禪院の苗字を嫌っているのはそれだけではないが今は置いておく。

 

「ご、ごめん・・・でも・・・めちゃくちゃ出そうだよ?・・・もう出てるけど・・・」

 

憂太の言うとおり、校内には至る所に呪霊が出ている・・・のだが、普段の行動よりかなり違う点がある。その様子にマインが真希で耳打ちで話しかける。

 

(真希、気づいてる?)

 

(ったりめぇだろ。帳が降りてるのに数が少ない・・・いや、いるのに襲ってこない)

 

(まさか・・・乙骨(こいつ)がいるから?)

 

呪霊は人間を見れば問答無用で襲ってくるものが多い。だが目に見えている呪霊はどの個体も襲ってくる様子がない。その原因が憂太にあると2人は考える。

 

「!!?今なんか動いた!!」

 

「「・・・・・・」」イラァ・・・

 

呪霊に対しあまりにオーバーなリアクションをする憂太に真希とマインはイラっとする。

 

「・・・ねぇ!」

 

「はい⁉」ビクッ!

 

「・・・あんた、何級よ?」

 

「え?英検・・・?」

 

呪術師の等級に関してわかっていない憂太にマインが軽く説明する。

 

「呪術師には一から四の階級があんのよ」

 

「でも僕・・・呪術高専に来たばっかだし・・・そんなんないんじゃ・・・」

 

「あー、もういい!学生証見せなさいよ!あのアホ目隠しからもらったでしょ?」

 

「アホ目隠し・・・」

 

ディスられている悟はよっぽど人望がないんだなと思いながら憂太は自分の生徒手帳を出した。

 

「はい、どうぞ・・・」

 

マインは憂太の学生証を奪い取るように手に取った。

 

「まぁ・・・前歴なしの入学なら四級・・・」

 

マインと真希は憂太の等級を予想しながら学生証に記されている等級を確認する。

 

「・・・はあ!!!??特級!!??」

 

「⁉」ビクッ!

 

だが憂太の学生証に記された等級は予想を大きく外れた特級。それを見たマインは驚愕で声をあげる。真希も声は出していないが驚いている。

 

(ちょっと・・・特級って、一級よりさらに上の階級じゃない!こんなの冗談しか聞かないレベルだっていうのに・・・)

 

「・・・!!・・・!!三好さん!!」

 

「!!」

 

驚愕しているマインは憂太の何度目かの呼びかけにようやく反応した。

 

「後ろ・・・」

 

後ろを振り返ってみると、廊下に入りきらないほどの巨大な呪霊が顔を覗かせている。真希とマインが臨戦態勢を整えようとした時・・・

 

ドッシャアアアアアアアアン!!!!!!

 

巨大な呪霊は身体を起こして校舎を破壊し、3人を外に放り投げた。

 

「うわあああああああああ!!??」

 

「ちっ・・・!無駄にでかいわね!」

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

マインはライフルガンを巨大呪霊に向けて呪力の弾丸を何発も撃ち放つ。弾は巨大呪霊に直撃するが、図体がでかすぎるせいか、効いている様子はない。これでは意味がないとし、真希が前進し、薙刀で脳天に突き刺そうとする。

 

「このおおおおおおお!!!」

 

【いたいたいた・・・いたぁぁぁああぁぁい】

 

巨大な呪霊は不気味にしゃべりながら大きな口を開けた。3人を飲み込むつもりだ。

 

「げっ・・・!!」

 

3人の落ちる軌道は今まさに、まっすぐと巨大呪霊の口に向かっている。真希は食われないように薙刀構え直し、斬撃を振るったが、思った以上に歯が頑丈で弾かれてしまい、薙刀を落としてしまう。マインは何とか抵抗して弾丸を撃ち続けるが、効いておらず、成す術なく3人は巨大呪霊に食べられてしまう。

 

【ごちごち・・・ごちそぉさまああぁぁああん】

 

 

巨大呪霊に喰われ、気を失っていた憂太は真希の怒声で目を覚ました。

 

「クソ!!呪具落とした!!出せゴラァ!!」

 

「あー、もう、うっさい!!少しは落ち着いてられないの!!?」

 

「るせぇ!!」

 

目を覚ました憂太は辺りを見回す。

 

「ここは・・・」

 

「あの呪いの腹の中だよ!このくらいで気絶してんじゃねぇ!」

 

「てことは食べられたの!!?」

 

「そうだよ!!」

 

ここが呪霊の腹の中だと知り、食べられたことにようやく気付いた憂太は驚愕する。落ち着いてはいるが、やっぱり怒っているマインはその矛先を憂太に向ける。

 

「ちょっとあんた!!あんた呪いに守られてたんじゃなかったの!!?あたしまで食べられたんですけど!!?」

 

「里香ちゃんがいつ出てくるかなんて、僕にもわからないんだ!それより、どうするの!!?」

 

「どうするも何も・・・この呪いの腹をぶち破るしかないわよ!」

 

呪霊の腹をぶち破るなどと大規模なことを言いだしたマインに憂太は驚愕する。

 

「ぶち破るって・・・そんなことできるの⁉」

 

「できるんだよこいつなら。マインの術式の『条件』もピッタリ合って・・・」

 

「助けて!!!」

 

「あん?」

 

この場に憂太たちではない別の誰かの声が聞こえてきて、3人は声のした方向に視線を向ける。そこには息を荒くして倒れている男の子と彼を支えている男の子がいた。

 

「お願い・・・こいつ死にそうなんだ!」

 

2人の小学生を見て、憂太はここに来る前の話を思い出す。

 

『子供が呪いに攫われたってことですか?』

 

『そ。今んとこ2人』

 

『今回の実習はその呪いを祓って子供を救出、死んでたら回収・・・でしょ?』

 

『そ!』

 

あの話からして、行方不明になった児童2人は彼らで間違いないようだ。児童が生きていたという事実に憂太は安堵している。

 

「よかった・・・生きてた・・・」

 

「全然よくないわよ」

 

「え?」

 

「ちゃんと見ろ」

 

真希に促され、よく見てみると、息が絶え絶えな男の子を支えている男の子を見てみると、彼の顔の一部が赤く腫れており、片目も呪いの影響で黒くなっている。よく観察してみると、彼も息が絶えており、いつ倒れてもおかしくはない。

 

「でかい方も完全に呪いにあてられてる。2人ともいつ死んでもおかしくねぇ」

 

「そんな!!どうすれば!!」

 

「だからこいつをぶち破るんでしょ!!」

 

早いところこの呪霊の腹の中から脱出するためにマインはライフルガンを構え、呪力を練り上げていく。その精度は、今までの弾丸とはまるで違う。

 

「『予想外の巨大呪霊の出現』、『全員丸呑み』、『瀕死状態の児童2人』・・・この状況はまさしく・・・『ピンチ』!だからこそ・・・あたしの術式は・・・」

 

ライフルガンの呪力が溜まり、強大な呪力を撃ち放とうとした時だった。ライフルガンに溜まっていた呪力が急に弱まり、呪力が霧散していく。

 

「あ・・・れ・・・?」

 

自分の身に何が起きたのかわからず、マインはフラフラし、その場に倒れてしまう。

 

「三好さん!!?」

 

「ちっ・・・こいつも牙に掠ったのかよ・・・!」

 

倒れたマインの左手をよく見てみると、何か鋭利なものに引っ掛かったような傷口ができていた。それだけではない。この傷口から、小さな目玉が複数ぎょろぎょろと浮き出ていた。

 

「なんだ・・・この傷・・・呪いがかかってるのか・・・?」

 

そう、この傷は巨大呪霊の口の周りに生えていた牙に掠ったことによってできたものだ。そのせいでマインの身体に呪いが回り、弱まってしまったのだ。

 

「こいつがダウンした以上、もうどうにもなんねぇ。時間がきて帳が上がれば助けがくる。それまで待つしかねぇよ」

 

「そんな・・・」

 

「誰もがお前みたいに呪いに耐性があるわけじゃねーんだよ・・・」

 

「・・・?禪院さん・・・?」

 

しゃべっていると、真希はフラフラとし、力なく倒れてしまう。

 

「禪院さん!!?」

 

憂太が倒れた真希に駆け寄る。すると憂太は真希の足にもマインと似た傷口ができていたことに気付いた。

 

「これ・・・三好さんの傷と同じだ・・・」

 

そう、真希も呪霊に喰われた際、足に牙が掠ってしまって、呪いが回ったのだ。

 

「お姉ちゃんたち・・・死んじゃうの・・・?」

 

一部始終を見ていた男の子はこの中で唯一まともに動ける憂太に助けを求める。

 

「ねぇ・・・助けてよお兄ちゃん・・・。ねぇ!!」

 

「・・・そんなこと言ったって・・・無理だよ・・・」

 

弱音をはいている憂太に真希は弱まっている身体を無理に動かし、優太の胸倉を掴む。

 

「乙骨!お前・・・マジで何しに来たんだ・・・呪術高専によぉ!!」

 

「・・・・・・」

 

「何がしたい!!?何が欲しい!!?何を叶えたい!!?」

 

「・・・僕は・・・」

 

真希の必死な問いかけに、憂太は弱々しくも口を開く。

 

「・・・もう誰も傷つけたくなくて・・・閉じこもって消えようとしたんだ・・・。でも・・・1人は寂しいって言われて・・・言い返せなかったんだ・・・」

 

名もなき部屋で悟に言われたあの言葉を思い返し・・・憂太は心からの本音を吐いた。

 

「誰かと関わりたい・・・!誰かに必要とされて・・・生きてていいって・・・自信が欲しいんだ・・・!」

 

「・・・・・・じゃあ、祓え」

 

「!」

 

「呪いを祓って祓って祓いまくれ!!自信も他人も・・・その後からついてくんだよ!!呪術高専は・・・そういう場所だ!!」

 

真希は憂太に喝の言葉をかけて倒れ、気を失った。真希からの喝を受けた憂太はしばらく放心し、後に露になった約束の指輪のネックレスの指輪を手に取った。

 

「・・・里香ちゃん」

 

 

 

 

ーなぁに?ー

 

 

 

 

「力を貸して」

 

憂太は約束の指輪を・・・自身の中指にはめ込んだ。

 

 

小学校にいる巨大呪霊は未だにその場に立ち尽くしている。すると・・・

 

【うごぉ・・・!!??】

 

突然巨大呪霊が苦しみだし、呪霊の腹が歪に蠢きだした。そして・・・

 

ボコォ!!ブシャアア!!!!

 

【ああああああああああああ!!!!】

 

呪霊の腹の中より、白くて禍々しい姿をした呪いが姿を現した。この呪いこそが・・・特級過呪怨霊、折本里香の全貌である。

 

【あぉおぉ・・・だぁれぇ・・・????】

 

里香は呪霊の頭を強く掴みとり、抉りとっていく。

 

【う"う"う"う"るさい!!!!】

 

呪霊の頭を抉った里香はぐしゃぐしゃになった呪霊の頭を放り投げた。

 

 

帳によって中の様子は見えない。だが外に待機している悟には中の全貌が見える。彼の・・・六眼によって。

 

「凄まじいねぇ。これが特級過呪怨霊、折本里香の全容か・・・」

 

全てがわかっている悟は愉快そうに笑っている。

 

「くくく・・・怖い怖い」

 

 

巨大呪霊を抉った里香の手は呪霊の血によって汚れていた。

 

【あ・・・きれい。里香、きれいなの・・・好きいいいいいいいいいいい!!!!!】

 

里香は呪霊の血を見て笑い、嬉々としてさらに呪霊の身体を抉っていく。里香が呪霊を引き付けている間に呪霊の腹の中から脱出した憂太は真希とマイン、児童2人を抱えて小学校の出入り口に向かって歩みを進めている。

 

「みんな・・・!もう少しだから・・・!」

 

女子高生2人に児童2人を抱えながら歩くのはやはり中々に負担が大きい。それでも憂太は歩みを止めない。

 

(早くみんなを先生に見せなきゃ・・・!呪いが里香ちゃんの気を引いている隙に・・・!)

 

歩みを進める憂太だが、4人を抱えているために負担が大きく、がくんと転びそうになる。だが憂太は何とか踏ん張って倒れないようにしている。

 

(まだ・・・倒れるな・・・まだ・・・!ここで変わるって・・・決めたじゃないか・・・!!)

 

 

 

 

ー頑張れ、憂太ー

 

 

 

 

「・・・うん・・・頑張るよ!」

 

生前の里香に応援されたような気がした憂太はさらに歩みを進め・・・ついに小学校から脱出できた。同時に、帳が解除され、呪霊も跡形もなく消滅し、里香も憂太の元に戻った。

 

「おかえり。頑張ったね」

 

外で待っていた悟はここまで頑張り、倒れた憂太に称賛の言葉を送った。

 

 

その後、真希たちは都内の病院に運ばれた。幸いにも真希たちは命に別状はなく、少し休めば退院できる。上層部に呼ばれた悟は面倒くさそうにしながらもすぐに総監部に向かったため、1人になった憂太は病院のチェアに座り込んでいる。

 

「憂太」

 

「!禪院先生」

 

そこへ真希たちの様子を見に来た赤女(あかめ)が憂太に声をかけ、彼の隣に座った。

 

「だいたいの事情は悟から聞いた。よくやったな」

 

「・・・はい・・・」

 

赤女(あかめ)は労いの言葉をかけるが、憂太は顔を俯かせたままである。

 

「・・・浮かない顔だな。どうした?」

 

「・・・初めて・・・自分から里香ちゃんを呼びました」

 

「・・・そうか」

 

悟ならば一歩前進だねと言っていたところだが、赤女(あかめ)は彼のように不用意な発言はしないために黙って憂太の話に耳を傾ける。話の途中で憂太は自分が幼かった頃を思い出す。

 

幼かった頃の憂太は少し病弱で、病院で入院していたことがあった。里香と初めて出会ったのはちょうどその時だった。病院で仲良くなった2人は退院と同時で外でよく遊ぶようになり、本当に仲睦まじかった。2人は成長していき、憂太の誕生日になったあの日に、里香が憂太に礼の約束の指輪を送ったのだ。

 

大人になったら結婚する。そんな里香の言葉に憂太は了承した。その時に、彼はこう言った。

 

『じゃあ僕らは・・・ずーっと、ずーっと・・・一緒だね!』

 

その後に里香が交通事故に遭い、憂太は里香に呪われ、今に至るというわけだ。

 

「どうした?」

 

「!いえ・・・」

 

自分がボーっとしていたことに赤女(あかめ)に声をかけられたことによって気づいた憂太。

 

「思い出したんです・・・里香ちゃんが僕に呪いをかけたんじゃなくて・・・僕が里香ちゃんに呪いをかけたのかもしれません・・・」

 

憂太が中指にはめた約束の指輪を見つめていた時、赤女(あかめ)は口を開いた。

 

「・・・これはあくまでも持論ではあるが・・・愛ほど歪んだ呪いはない」

 

赤女(あかめ)の言葉を聞き、憂太はぎゅっと拳を握りしめる。

 

「・・・先生。僕は・・・呪術高専で・・・里香ちゃんの呪いを解きます」

 

「・・・ああ。頑張れ・・・憂太」

 

憂太の決意表明を聞いた時、赤女(あかめ)は優しい笑みを浮かべた。

 

 

実習先の小学校跡地。屋上には呪霊の影響が残っており、辺りに巨大呪霊の血がこびりついており、屋上も壊れたままである。

 

そんな小学校の屋上に刀を持った1人の女性が入ってきた。辺りを見回してみると、何かが落ちていた。女性は落ちていた物を拾った。落ちていた物とは、憂太の学生証であった。

 

女性の背後には、五条袈裟を着込んだ男が立っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。