渋谷駅地下2階 23時16分
悠仁との戦闘を繰り広げていた本物の真人は彼の心を折るためにまだ地下に残っていた一般人に手を伸ばして、数人まとめて貫いて殺害した。
(もうちょい陀艮に人間残してもらえばよかったかな)
ただ真人の想定していた以上に人が少なかったため、思うような戦略が取れないでいる様子だ。
「ま、十分か!」
それでも悠仁を追い詰めるには事足りると判断した真人は腕を伸ばし、自分を追ってきた悠仁に打撃を放つと同時に貫いた一般人を放り投げた。
(くそ・・・!)
打撃を受けた悠仁は飛ばされつつも、1人の一般人を受け止めた。
「ああ・・・」
「大丈夫か⁉」
「う・・・うん!」
ブクゥ!パァァァン!!!
だが、一般人が悠仁に顔を向けた瞬間、無為転変によって顔が膨れ上がり、粉々に破裂して血飛沫が舞う。飛んできた血が悠仁の目を覆う。
(しまった・・・!)
虚を突かれた悠仁に右手を棍棒に変えた真人が迫る。真人は悠仁の背後に回り、棍棒の右手を悠仁に振り下ろそうとする。
●
道玄坂小路
同時刻、
「ははっ!いいんじゃない⁉」
真人(分身)は胴体にできた傷口から複数のトゲを生やして
「だーから無理だって言ってるでしょ」
「無理だとわかってても、やらなきゃいけねぇ時はあんだよ!!」
「げぇ~~~・・・アホクサ」
ザンッ!!
そこへ
「今だ、釘崎!」
「でかしたぁ!」
「簪!」
そしてそのまま簪を発動させ、膨張した呪力で真人(分身)を拘束する。さらにそこへ野薔薇は真人(分身)に飛び乗った。
「ずっと考えてたんだ。あんたの術式聞いた時から・・・こいつは効くんじゃないかって」
「あ?」
野薔薇は真人(分身)の額に釘を添えて藁人形を突き刺す。
「共鳴りぃ!!」
カァン!!
野薔薇はトンカチを振るって真人(分身)の額の藁人形の釘を打ち込んだ。
●
ズシャア!!
「ぶはあ!!!」
真人が悠仁に棍棒の右手を振るおうとした時、突如として棘の物体が体内から貫かれた。
「なっ・・・⁉」
「・・・釘崎?」
何の前ぶれもなく真人にダメージが入った。その理由が遠くで野薔薇の術式が発動したのだと悠仁は理解した。
●
(まさか・・・まさかだ!俺の天敵は・・・虎杖悠仁だけではなかった!!)
共鳴りをまともにくらった真人(分身)は血を吐き、膝をつく。
「・・・妙だな。少し離れたところで私の呪力が爆ぜる感じがした」
野薔薇の発言によって、
「そういうことかよ。妙だと思ってたんだ。前に戦った時より呪力が中途半端だし、手数も少ねぇ。さっきだって手を生やしてがっつり触ればよかっただけなのによ」
「お前、分身かなんかで術式使えねぇんだろ」
「・・・正解」
分身であるとバレた真人(分身)は額の釘を抜き、ニヤリと笑う。
(和倉、あいつに共鳴りが効く以上、もうさっきまでのようにドカドカ攻撃は入んない。釘を打ち込めるようにしっかり援護しろ)
(おう!)
共鳴りが効くとわかり、2人はやるべき方針を固め互いに構える。
「おい真人。こっからが本番だぜ。覚悟しろ!」
「・・・いや」
真人(分身)は身構えた後・・・
バッ!
「逃げま~~す!」
「「はあ!!?」」
逃げる選択肢を選んだ。
「待て!!」
(こいつを逃したら後々ろくなことにならねぇ。今ここで、確実に殺す!!)
「おっと危ね!」
真人(分身)は足の形を馬の足に変えてスピードを上げ、2人の距離を取る。そして真人(分身)は渋谷駅に通じる階段を下りる。
「地下!ちょうどいい!和倉!このまま下りて地下に向かうわよ!」
「おう!」
2人は真人(分身)を追って地下へと降りていった。・・・それが真人の狙いだとも知らずに。
●
「ぐっ・・・がはっ!」
悠仁はさらにラッシュをかけて真人に着実にダメージを与え、壁まで追い込む。
(術式の余韻が長い!まだ体が思うように動かない!)
反撃しようにも共鳴りの余韻が長く、呪力を練ることができず、真人はただ一方的に悠仁に殴られ続ける。
「うらぁ!」
悠仁は真人の髪を掴みとり、引き寄せて壁に叩きつけてさらに蹴りを放つ。蹴りを受けた真人は柱に叩きつけられる。そして、悠仁は両拳に呪力を乗せ、真人の腹部に叩き込んだ。
(釘崎・・・ありがとう。俺には誰も救えなかった。みんなの苦労も台無しにしてしまった。それでも・・・俺は1人じゃないと、そう思わせてくれて!)
悠仁はさらに呪力を込めた拳をもう一撃叩き込む。そしてさらに反撃を与えないようにラッシュをかける。
(だから!お前は!!ここで!!)
殺す!!!!!
悠仁の放った拳が真人に直撃した。その瞬間、真人は一頭身台サイズの個体に複数分裂した。
(分裂した!どれだ?どれか1つには、潰せば致命傷になる魂の部位があるはずだ!)
どれが本体が探りを入れていると、1体の個体から強い呪力が放たれる。悠仁はその個体に向けて蹴りを放って潰した。
「引っ掛かった!」
だが今の個体はただ呪力が宿っただけの分身で、本体は他の個体を回収して逃げ出した。
(くそ!呪力につられた!)
悠仁は真人を追いかけて走り出す。曲がり角を曲がると、上に通じる階段が見えてきた。するとそこへ、真人(分身)が降りてきた光景を目撃する。
(真人が2人⁉分身を作って別行動していた⁉1つに戻って修復する気か!)
真人が分身体と1つとなって、自身の回復を狙っていると悠仁は踏んだ。
しかし真人は分身とは1つにならず、互いにすれ違った。
(なんっ・・・はっ!!)
悠仁がその先を見据えていると、たった今階段から降りてきた
「!悠仁⁉」
「やめろおおおおおおおおおおお!!!」
「ヒヒヒッ!!」
悠仁は声を張り上げる。真人は
ザンッ!!
インクルシオの鍵を振り下ろし、真人を一刀両断する。
「・・・ヒヒッ!!」
だが両断された真人はニヤリと笑い、左面を捨て、右面を再生させて元の姿に戻る。そして、そのまま跳躍して、高く飛び、階段を降りようとする野薔薇に迫る。
「なっ⁉」
「ハハハハハハ!!」
「逃げろおおおおおおおお!!釘崎いいいいいいいいいいい!!」
バッ!
野薔薇に近づいた真人は片手を伸ばし、彼女の顔に触った。
「ブハハハハハ!!鼻からお前は狙ってねーよバーッカ!!」
グシャア!!
「邪魔だ!!」
「おい!大丈夫か⁉」
悠仁は
「・・・釘・・・崎・・・?」
(さて、七三術師は一度触れただけでは仕留めきれなかったけど・・・どうなる?)
真人に顔を触られた野薔薇は片手で顔を覆い、思い馳せる。
当時の私は、村の人間は全員頭がおかしくて、自分だけが正気だと・・・そう思い込んでいた。
●
野薔薇の小学校の頃からの友達、ふみは語る。
「6年生まで使うんだよ?本当にいいの?」
お母さんにはそう言われたけど、私は水色のランドセルを選んだ。小学校に上がると同時に、村に引っ越してきた。両親は田舎の不便を心配していたが、私は友達に離れ離れになるのが嫌だった。
全校生徒19人。一クラスじゃないよ。みんな、赤か黒のランドセル。私は赤も黒も好きだけど、みんなは水色が嫌いだったみたい。高いロッカーに積み上げられたりした。私は椅子に乗ってランドセルを取ろうとした時、ランドセルを落としそうになって転びそうになった。その時だ。野薔薇ちゃんと会ったのは。
「あ・・・ありがとう」
「ねえ!ふみのランドセルさ!交換しよ!」
「へっ?」
「交換!しよ!」
「え・・・」
勢いに流れるがまま、私たちはランドセルを交換した。やんちゃというべきかなんというか・・・野薔薇ちゃんはランドセルを背負ってランドセルをロッカーに乗せた子たちを蹴り倒した。もちろん、先生には怒られてたけど。
ランドセルはその日に返ってきた。
「そもそもランドセルきら~い」
「えぇ・・・」
その日から野薔薇ちゃんはウチに入り浸ってよくお父さんとゲームをしていた。野薔薇ちゃんは村の人たちが嫌いだった。
「狭ぇ村だからさ、友達になるより他人になる方が難しいんだよ」
いいことじゃないか、と私は思った。けど数年たって、近所のおばあちゃんが赤飯を炊いて持ってきた時、野薔薇ちゃんの言ってたこと、その気色悪さを理解できた気がする。
ある日のこと・・・
「ふみ!秘密基地見つけたの!」
野薔薇ちゃんは子供らしからぬことを言ったと思えば、急にこんなことも口にする。
「今日からそこに住むんだ~!」
今思えば、あれは誰かの受け売りだったと思う。例えばお母さんとか。野薔薇ちゃんの言う秘密基地は、人ん家だった。
「あ、本当に来てくれた。いらっしゃい、寒かったでしょ」
その子は沙織ちゃんといって、私より後に村に引っ越してきた。いつも突然訪ねてくる私たちを、嫌な顔1つせず迎え入れてくれた。・・・そうだ、沙織ちゃん、いつも家にいたな。
沙織ちゃんに会って野薔薇ちゃんは変わった。口調も柔らかくなって、なんというか、品のようなものが身についていったんだと思う。私と同じよそ者だけど、私と沙織ちゃんは何もかも違いすぎた。
それから少しして、沙織ちゃんの家の様子がおかしくなった。ゴミとか落書きとか、明らかに人為的に積まれた雪とか。立派なお家が、不気味に見えるくらい。
それから少したって、沙織ちゃんが引っ越した。野薔薇ちゃんと2人で見送ったけど、その時、誰が何と言ったとか、どんな天気だったとか、思い出すことができない。でも・・・とにかく野薔薇ちゃんが顔をべちゃべちゃにして泣いていた。この子も泣くんだと、その衝撃で他のことが頭に入ってこなかったんだと思う。
そして、今年の6月。野薔薇ちゃんが東京の高校に通うことが決まった。おばあちゃんと揉めて時期が中途半端になってしまったらしい。
「じゃあ、二度とここには戻ってこねぇから!ふみ、あんたもそのうちこの村出なさいよ!」
「・・・うん・・・」
私の時は泣かないんだ。なんて最低なセリフがよぎったせいで、何も言えなくなってしまった。
あれから私たちは沙織ちゃんの話をしていない。
「ふみ」
「!」
「次会う時は3人で」
そう言った野薔薇ちゃんの顔は・・・涙ぐんでた。私と別れるのが寂しくて泣いてるんだ。そう思ったら私自身も・・・涙がポロポロと溢れ出ていた。
「・・・うん!」
私も、いつかこの村を出て、野薔薇ちゃんと沙織ちゃんに会うんだ。そう、誓ったんだ。
野薔薇ちゃん、元気かなぁ。
●
「沙織~、ちょっと休んだら?」
「ダメですよ。校了日今日・・・ていうか昨日ですよ?」
「ふっ、朝までは今日よ」
「ふふ・・・ん・・・んん~!あっ!ニキビできてる~・・・」
「渋谷やばいよ。テロかな?」
「・・・先輩って結婚願望ありましたっけ?」
「ん?何?急に」
「あ、いや、こんなはずじゃなかったなあって。中2の時、ド田舎に引っ越したんですよ」
「転勤?」
「あ、いや、うちの母オーガニックでスピリチュアルなヤバい女なんで」
「なんとなく察したわ」
「そこで2人の女の子・・・えっと7個下か。特に野薔薇ちゃんって子がすごい懐いてくれて・・・あ、私1人っ子だから、もう野薔薇ちゃんがかわいくってかわいくって・・・慕ってほしくてお姉さんぶって・・・紅茶なんて出しちゃってりして・・・ふふふ、小1相手にですよ?」
「ふふ、かわいいじゃん」
「連絡先は交換しなかったんです。徐々に疎遠になるのが怖くて・・・村を離れる時わんわん泣かれたなぁ・・・」
元気かな?野薔薇ちゃん。今どこで何してるんだろう?
●
あの村の連中は全員頭がおかしい。
そんなことはない。
でもおかしい奴の声は大きくて、自分以外の全てに思えて、土足で他人の人生を踏みにじるもんなんだ。
「・・・っていうわけでもなかったかなぁ」
私がそう思えるのは多分、私の周りに椅子を持ってきて笑って来る連中のせいかもね。
虎杖に和倉に伏黒・・・それから五条先生に
他にも、真希さんやマインさん・・・狗巻先輩にパンダ先輩。
それから絶対に外せないのが・・・親友のふみ。
「ごめんね、ふみ」
約束、守れなくて
●
「・・・虎杖、みんなに伝えて」
野薔薇は悠仁に顔を向けて、誇らしい顔で告げる。
「悪くなかった!」
そう伝えた後、野薔薇は
「和倉。あんたにはこれだけは伝えとく」
野薔薇は
「熱かったよ!あんたの兄貴!」
ビキッ!パァン!!
伝えることを伝えた瞬間、片目が破裂して、階段から倒れようとする。
「!!釘崎ぃ!!!」
「おい・・・嘘だろ・・・釘崎・・・。俺約束したよな・・・?兄貴のこと・・・ちゃんと教えろって・・・。なのに・・・!なぁ・・・返事してくれよ釘崎・・・なぁ、おい!!」
「・・・・・・・・・釘・・・崎・・・」
一方悠仁は、野薔薇を見て呆然とし、瀕死のシェーレを置いていってしまったこと、無関係の人間を殺した時の出来事、七海が破裂した時の光景がフラッシュバックし、動悸が激しくなり、息遣いが荒くなる。
「・・・だ・・・ダメダ・・・ふぅ・・・ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・く・・・釘・・・」
これまで自分のやってしまった罪が掘り起こされ、そして、今野薔薇が倒れ・・・悠仁の心が・・・折れた。
ドォン!!
野薔薇に声をかけ続ける
「がっ・・・!てめぇ・・・真人ぉ!!!!!!!」
怒号を飛ばす
(ゾクゾクする!自分の才能に!あぁ~・・・俺って・・・)
俺こそが!!!!呪いだああああああ!!!!!
真人は悠仁に向けて、呪力を纏った拳を打ち放とうとする。その瞬間・・・真人の呪力が・・・
黒く輝く
ドオオオオオオオン!!!!!
黒閃!!!!!
興奮して放たれたれた真人の黒閃は悠仁の腹部に直撃する。黒閃をまともにくらった悠仁は吹っ飛ばされていく。
「悠仁ぃ!!!こ・・・この野郎ぉ・・・!!」
「・・・お前は・・・後だ。言ったろ?肉も、骨も、魂も・・・お前の大事なものも・・・友達も親友も恋人も師匠も・・・何もかも全部壊すってなぁ!まずはぁ・・・お前からだぁ!!虎杖悠仁ぃ!!!!」
真人は右手を伸ばして吹っ飛ばされる悠仁を引き寄せ、拳を叩きこみ、放り投げて壁に叩きつける。
「ハハハ!!どうせお前は!!害虫駆除とか!!昔話の妖怪退治とか!!その程度の認識でここまで来たんだろ?甘ぇんだよクソガキが!!!」
ゲシィ!!
「ごは・・・」
「悠仁ぃ!!くそぉ!!」
真人は悠仁を蹴り飛ばし、襟首をつかんで地面に叩きつけたり、一方的に悠仁を痛めつける。
「これはな!!戦争なんだよ!!!間違いを正す戦いじゃねぇ!!正しさの押し付け合いさぁ!!ぺらっぺらな正義のなぁ~!!!!」
壁に叩きつけられた悠仁に真人は近づく。
「お前は俺だ。虎杖悠仁。俺が何も考えずに人を殺すように、お前も何も考えずに人を助ける!!!」
真人は悠仁の襟首を掴み上げ、彼を殴りつける。何度も何度も。
「俺たちの本能と!!お前らの理性が獲得した尊厳!!100年後に残るのはどっちかっつぅそういう戦いだあ~!!!」
「やめろ!!!やめてくれぇ!!!」
「お前も同じだよ、和倉
饒舌に語る真人とは対照的に、心が折れた悠仁は顔を項垂れ、虚無を映している。
「・・・なあ、虎杖悠仁。殺した呪いを数えたことはあるかい?」
「・・・・・・・」
「ないよなあ。俺も俺も。殺した人間の数とか、マジでどうでもいいもん。お前のことも、そのうち忘れるさ」
真人は悠仁にとどめを刺そうと、右手を鎌のような刃へと変化する。
「やめろって言ってんだろおおおおおおおおお!!!!」
・・・グルルルルル・・・!!
ゾワッ・・・
「!!?」
その瞬間、怒号を放つ
(な・・・なんだ・・・?)
巨大な何かが姿を形どった。その姿は・・・星のように鋭い眼光を放つ巨大な龍だ。
ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!
「いぃ!!?」
龍が耳を塞ぎたくなるほどの咆哮を上げた。真人が両手を塞ぐと、その龍は何もなかったかのように消え、元の空間に戻る。
(なんだ今のは・・・?今和倉
真人が困惑していると・・・
パァン!パァン!
突如として手を叩く音が2回鳴り響いた。その瞬間、悠仁と
「!い、今のは・・・」
手を叩く。その行為に思い当たる節があった
「祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理を表す」
手を叩いたその大漢は平家物語の一節を述べながら歩く。
「ただし・・・俺たちを除いてな」
その大漢とは・・・京都校最強の1級術師として名高い変人、東堂葵その人である。
●
都心メトロ渋谷駅地下5階新都心線ホーム 23時9分
時は遡り、立ったまま気を失っている一般人が蔓延る地下5階。ここで待機していた偽夏油の姿はもうそこにはいなかった。そこに東堂と一緒についてきた金髪の高専生が到着した。
この金髪の少年の名は新田
「・・・この人らは・・・生きてますよね・・・?」
「・・・・・・」
東堂は一般人には気を止めず、クレーターができあがった場所に近づく。
「どうやら夏油傑はすでに獄門疆を持ち去った後のようだな」
「そんな・・・」
「ただ。ここに禪院
「てことは、
パチンッ!
「切り替えろ。俺たちの介入は、禪院
状況を見て東堂は今自分が何をするべきなのかを冷静に判断し、決断する。
「急ごう。ブラザーなら近くに来ているはずだ」
そう言って東堂は上へと続く階段を上がっていく。
(兄弟おったんや。絶対1人っ子やと思ってたわ)
●
ドオオオオオン!!!
【おおおおおおおおお・・・】
渋谷の地上の地面が割れ、そこから大量の呪霊が溢れだしてきた。それと同時に現れたのは、獄門疆を持っている偽夏油と、蛇型特級呪霊を祓ってきた
「本当に祓って来るとはね。私の計画がめちゃくちゃになりそうで怖いよ」
「悟は返してもらうぞ」
溢れ出す呪霊は宙に浮く
「シン・陰流我流奥義―――『一閃・暗夜』!」
ドオオオオオオオオン!!!!!
「ちっ・・・」
「一殺呪毒の弱点は無機物系の物質には呪毒を流し込めない点にある。例えば呪骸とか機械とかね。それでも脅威であることには変わらないけどね」
距離を取った
「くっ!」
「うずまき」
ドオオオオオン!!
仰け反ったタイミングで偽夏油は下級呪霊を呪力の塊にして、砲撃のように放った。砲撃が止むと、そこには彼女の姿はなく、代わりに彼女の刀のみが残った。
「!」
ガッ!グググググ・・・!
「ぐっ・・・がっ・・・!」
偽夏油が目を見開くと、一瞬で背後に回った
「ちぃ・・・!」
起き上がった偽夏油の前に、距離を取った
「はは、やるね。私が怪我を負うなんて何年ぶりだろうね」
まだまだ余裕を見せる偽夏油に対して、
「・・・お前のその額の縫い目」
「ん?」
「お前が傑じゃないなら、おそらくお前は脳を入れ替えて体を転々とする術式の持つ術師だろう。であるならば、お前はこの時代の術師じゃない。少なくとも100年や200年は生きている。もしくはそれ以上の可能性も。傑の肉体を利用するお前は何者だ?」
「・・・・・・・・・そこまで勘が鋭いと、気色悪さを通り越して不気味だよ」
自身の正体に勘ぐりを入れる
●
渋谷駅地下2階
「と・・・東堂⁉」
自分たちの窮地を救った漢、東堂の登場に
(何が起こった?)
対して真人は舌を出して東堂に視線を向ける。
(顔面の傷・・・今のは位置の入れ替え!花御を追い込んだ術師か!)
「東堂さん!あっちの子の処置終わりました!でも、多分死んでますよ。後で俺のせいにせんといてくださいね」
「御託はいい。和倉とブラザーにも頼む」
東堂は悠仁に近づき、声をかける。
「起きろブラザー!俺たちの戦いはこれからだ!」
((縁起悪!))
ずっと虚無を視線に移していた悠仁の視界は東堂を捉えた。
「・・・東・・・堂・・・」
しかし悠仁は横たわったまま蹲り、涙を流して起き上がろうとしない。
「俺は・・・もう・・・戦えない・・・。釘崎だけじゃない・・・ナナミンも死んだ・・・!」
「!」
「七海さんが⁉」
「宿儺が・・・いっぱい殺したんだ・・・!俺は・・・死に間際のシェーレも置いてった・・・!」
「シェーレまで⁉」
「だから・・・俺はもっといっぱい・・・人を助けなきゃって・・・!だけどできなかった!!俺はただの人殺しだ!!俺が・・・信念だと思っていたものは・・・俺のための言い訳だったんだよ!!!」
自身の信念が打ち砕かれ、後悔と罪悪感に飲まれている悠仁は泣き叫ぶ。
「・・・俺は・・・もう・・・俺を許せない・・・」
「声が小さくて聞こえねぇよぉ~~!!!!」
だがそんな蹲る彼に、真人は容赦なく襲い掛かろうとする。
パンッ!
真人が刃の腕を振るおうとした瞬間、東堂は手を叩き、
パンッ!ゲシィ!
「ぶお!!」
しかし東堂は再び手を叩いて自分と真人の位置を入れ替え、真人に強烈な蹴りを叩き込んだ。その際蹴り飛ばした真人が
パンッ!
再び手を叩いて
(ハハハ!面白い!わかっていてもここまで混乱するものなのか!!)
位置の入れ替えトリックがわかっていても混乱する真人はこの戦闘を純粋に楽しんでいる。
「・・・悠仁」
そんな中、
「・・・歯ぁくいしばれぇえええ!!!!」
バキィ!!
「・・・た・・・つみ・・・?」
「・・・痛ぇか?痛ぇだろ?俺だって痛ぇよ。けどな・・・これまで犠牲になってきた人たちや、今を戦ってる術師たちは、これ以上の痛みを抱えて戦ってんだ!!!」
「それを、人を殺したって簡単に認めて、もう戦えないって勝手にいじけて・・・お前何様のつもりだよ!!!。ここで逃げちまったら、お前が今まで助けてきた人たちの思いや、今まで犠牲になってきた人たちに対する裏切りになるんだぞ!!!」
「
「ギャンギャンギャンギャンうるっせぇんだよぉ!!!和倉
パンッ!
だがそれを東堂が手を叩き、自分と真人の位置を入れ替えることでそれを阻止する。その間にも
「俺は・・・戦う。これまで犠牲になってきた人たちの十字架を背負って・・・前に進む!それが・・・俺の・・・和倉
生き様だあああああああああああ!!!!
ザンッ!!
「インクルシオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
(!鎧⁉あれは剣の呪具じゃなかったのか⁉)
真人がインクルシオが剣ではなく、鎧の呪具であったことに気付いた。だがその時、真人は目を見開いて驚愕する。
ベキベキベキ・・・
ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!
突如としてインクルシオの形が変わり、まるで生きた生物のように大きな咆哮を上げた。その様を真人は・・・インクルシオに1つの魂が宿ったように見えた。
(がっ⁉こいつは・・・さっきの龍か⁉まさか・・・!!あの鎧、生きてるってのか!!?)
「・・・成ったな」
驚愕する真人に対し、東堂はふっと笑みを浮かべる。
特級呪霊タイラント、登録済み。タイラントは得物を見つけるために常に徘徊しており、生物と出くわせば根こそぎ喰らってゆく災厄の化身と言われていた。この呪霊の術式は、あらゆる環境に適応する進化。時には灼熱の砂漠に適合し、時には極寒の凍土でも適合する。術師の討伐隊が赴いた時にも防衛本能から透明化するという進化も果たした。
タイラントが祓われても、その魂と術式は消えておらず、それらは1つの鎧に宿ったという。それこそが、インクルシオである。
そして今、インクルシオに封印されていた魂が解かれ・・・敵を滅ぼすために進化を続けようとしている。
(ミスターブラートはこの極致に辿り着くことはできなかった。だがミスターブラートが見込んだお前なら)
インクルシオは
「なんだ・・・いったいなんだってんだ!!?」
(熱く燃え滾れ、和倉。お前のその熱い魂こそが、インクルシオを・・・)
進化させる!!
「・・・鎧を通じて伝わってくる・・・。兄貴は・・・死んだんだな。いや、なんとなく察してはいたんだ。でもそれを認めたくなくて・・・気付かないフリをしてた。でも・・・目を背けてちゃダメなんだよな。そうしちまったら、兄貴にぶん殴られちまう。兄貴・・・俺、強くなるよ。インクルシオを使いこなしてみせる。だから・・・」
しっかり見守っていてくれ!
「人の命を散々弄んできたその所業・・・報いを受ける時が来たぜ、真人!!」
インクルシオを身に纏い終えた
「はっ!!鎧纏った程度で調子づいてんじゃあ・・・」
ドゴォ!!!
真人が動くより先に
「だからてめぇの攻撃なんざ効かねぇって・・・」
グチャア!!!
「・・・ああ⁉」
真人が
(まさか・・・まさかこいつ!!俺の魂を直接叩いてやがる!!)
真人にダメージを与える方法。それは直に魂に攻撃を当てる。だが魂は目で見えず、直に触れられないもの。魂の繋がりを辿る野薔薇の共鳴りや、宿儺を宿し、魂の輪郭を叩ける悠仁でしか基本的にはダメージを与えられない。だがインクルシオは常に進化する。進化の過程で、直に魂を叩くことなど、造作もないこと。つまり、インクルシオは真人にとっての・・・
天敵!!
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキがぁ!!」
分裂して
バキンッ!!
「なっ⁉」
だが真人の振るった刃はインクルシオの硬度によってあっさりへし折られる。
「ぐうううううううううう!!!」
「
「ブラザー。お前ほどの男が小さくまとまるなよ」
すると東堂は悠仁に背を向けたまま口を開く。
「俺たちは呪術師だ。俺と、お前と、和倉。釘崎、ミスター七海、ミスシェーレ。あらゆる仲間・・・俺たち全員で呪術師なんだ。俺たちが生きている限り、死んでいった仲間たちが、真に敗北することはない!罪と罰の話ではないんだ。呪術師という道を選んだ時点で、俺たちの人生がその因果の内に収まりきることはない。ちりばめられた死に意味や理由を見出すことは、時に死者への冒涜となる。それでも!」
東堂は自身の学ランを脱ぎ捨て、話を続ける。
「お前は何を託された?」
「あっ・・・」
東堂の言葉に、悠仁は散り間際に思いを託した野薔薇、七海、シェーレの姿が思い浮かび、目に光が戻る。
「今すぐ答えを出す必要はない。だが、答えが出るまで、決して足を止めるな。それが呪術師として生きる者たちへのせめてもの罰だ」
伝えることを伝え終えた東堂はゆっくりと歩き、戦いに介入しようとする。
(あのことを今のブラザーに言う必要はないな)
東堂は他にも何か伝えたいことがあったようだが、悠仁を考えてそれは胸の内にとどめることにした。東堂が戦いに参加しようとしている間にも、
「俺の術式を施しました。いいですか、虎杖君。君が今まで受けた傷はこれ以上悪化しません。治ってはいませんが、出血も止まり、痛みも和らぐでしょう。でも、今ある傷だけです。また攻撃をくらえば傷は増えるし、その傷に関しては俺の術式の対象外です」
施した術式を開示する
(東堂さんの弟、あんま似てへんな)
兄弟の意味を盛大に勘違いしている
「あっちの子にも、同じ処置をしました」
「!!」
「呼吸も脈も止まっていましたが、時間はそんなに立ってないんで、助かる可能性は0じゃない」
つまり野薔薇は
「俺は彼女を連れて離脱します。0じゃないだけですからね!あんま期待せんといてくださいよ!」
「うん・・・うん・・・!」
野薔薇が助かる可能性が1%でも上がり、希望を見出した悠仁は涙がこぼれそうになりながら首を縦に頷く。
「んんんんん!!!」
真人は右腕をトゲ棍棒に変えて
「効くかぁ!!」
ドゴォ!!
「ゴホ・・・にぃぃぃ!」
パンッ!
そこへ東堂が手を叩き、
ドゴンッ!
瓦礫に埋もれた真人はその状態で腕を伸ばして手を刃に変え、東堂に向かって振り下ろす。
パンッ!
その瞬間、東堂はまた手を叩き、再び自分と
パンッ!
東堂は手を叩いて今度は自分と真人の位置を入れ替えて両社への攻撃を回避する。真人は伸ばした両腕を振るい、東堂に攻撃を仕掛ける。
パンッ!
東堂は自分と真人の位置を入れ替えて攻撃を回避し、真人を
「ゴブ・・・!!・・・にぃ」
地面に叩きつけられた真人はにぃと笑い、即座に起き上がり、両腕をトゲ棍棒へと形を変えて回転して攻撃を放つ。
「にいいいいいいい!!」
真人は腕を巨大化させて東堂に向けて振り下ろした。東堂は軽く後退して回避し、真人に拳を放とうとしたが、真人が自身の体の形をトゲ網に変えたタイミングで寸止めした。
パンッ!
東堂は即座に自分と
「がは・・・ヒヒ!」
だが真人は吹っ飛ばされた先にいる東堂に触れようと自身の形を変えて方向転換し、勢いに任せて東堂に触れようとする。
パンッ!
だが東堂は自身と真人の位置を入れ替えることでこれを阻止、真人は勢いに乗って壁に叩きつけられる。
「どうした?俺には触ってくれないのか?」
(あのチョンマゲゴリラ・・・やり手だな。和倉と協力しながらくたばりぞこないの虎杖と距離を取りながら俺をいなしてる)
自分と渡り合うことができている東堂の実力を認めている真人は笑みを浮かべる。
「それだけじゃないんだよね」
東堂の足元には、入れ替わり様に落としておいた小さな改造人間があった。改造人間は形を変え、東堂の脳天を貫こうとする。だが東堂は勘づき、体を反らして改造人間を躱す。
(躱すか!)
パンッ!
攻撃を回避直後、東堂は自身と
(来いよ!ダメージが入るようになったのは完全に想定外だが、対応できないわけじゃない!てめぇに
真人が
パンッ!
自分と、拳を構える悠仁の位置を入れ替えた。
(ごめん・・・シェーレ、ナナミン・・・楽になろうとした。罪すらも、逃げる言い訳にした)
悠仁の脳裏に浮かんだのは、シェーレと七海の姿だ。脳裏に浮かぶシェーレと七海は自分に向かって笑みを浮かべ、口を開く。
『『後は頼みます』』
ドオオオオオオオン!!!!
黒閃!!!!!
「ぎいいいいいいいいいいいいい!!!!」
(俺、ナナミンとシェーレの分まで、ちゃんと苦しむよ)
2つの強烈な拳を受けた真人は腕がへし折られ、吹っ飛ばされる。態勢を立て直す真人は折れた腕を再生させる。
「ちっ・・・死に体がぁ!!!」
生気を取り戻し、目に光が戻った悠仁の隣に
「おかえり」
「復帰したところで・・・あのクソ野郎ぶちのめすぞ!」
「応!」
東堂が自身のTシャツを破り、
多分後3話くらいで渋谷事変編が終了し、死滅回游編に突入します。どんな結末でも、最後まで見届けてくれたら嬉しいです。