呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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変身ー弐ー

渋谷ストリーム前 23時28分

 

「日下部~!お~い!日下部~!」

 

ゴリラモードに切り替えることで何とか隕の爆発から生き長らえたパンダは崩壊した街を歩き回り、日下部を探し回る。

 

「ん?」

 

するとパンダは瓦礫から日下部が持っていた刀を見つけ、瓦礫をどかす。そこには怪我は負っているものの生きている日下部を発見する。

 

「おっ、見~っけ!」

 

「・・・・・・」

 

瓦礫がどかれたことで日下部はゆっくりと体を起こし、パンダに苦言を申す。

 

「・・・パンダよ。随分と話が違ぇじゃねぇかよ」

 

「えっ?」

 

「虎杖だよ」

 

「いや、あれは宿儺・・・」

 

「肉体の主導権は虎杖にある。そういう話だったろ」

 

「うぅ・・・」

 

なぜ宿儺が表立ったのか。その事情を日下部とパンダは知らない。だが肉体の主導権が悠仁にあるという前提で話が進んでいため、いざ蓋を開けてみればこのような事態に巻き込まれてしまった。日下部が苦言を言うのは無理もない。

 

「先に言っとくぞ。五条が消えて、今後禪院や虎杖にどんな処分が下ろうと、俺がお前らに付くことはない」

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

「俺は虎杖悠仁の死刑に賛成だ」

 

事が事であるがゆえに、悠仁の処刑に賛同する日下部に対し、パンダは何も言い返せなかった。

 

 

マレーシアクアラルンプール 22時36分(現地時間)

 

エスデスとの戦闘で逃げることに成功した冥冥と憂憂は海外、マレーシアクアラルンプールのホテルに泊まり、ベッドで横になっている。

 

「すまなかったね。疲れたろう、憂憂?今日はこのまま、一緒のベッドで寝ようか」

 

「そんな・・・はしたないですよ・・・///」

 

「うふふふ、はしたない私は嫌いかい?」

 

「そんなわ・・・」

 

ヴゥー、ヴゥー・・・

 

憂憂の言葉を遮るように冥冥のスマホに着信がなり、冥冥は即座にスマホを手に取り、ベッドから起き上がり、電話に出る。

 

「すまない、折り返しが入った」

 

「もう!姉様ったら!」

 

自分よりも電話を優先する姉に憂憂は拗ねたように頬を膨らませている。

 

「夜分にすまないね。・・・あ~、そっちは朝か。・・・私?KL。・・・そう、憂憂の術式だ。相手があのエスデスだったんだ。2人まとめて殺されてもおかしくなかった。運がよかったんだよ」

 

冥冥がエスデスを相手に逃げ延びることができたのは憂憂の術式のおかげである。彼がいなければ殺されてもおかしくはなかった。いや、逃げ延びられただけでも奇跡に近い。少なくとも冥冥はそう考えている。

 

「日本の株と東京の不動産は全て売り払った方がいいよ。私はもう円も替えた。・・・そう、今すぐにだ。主要先進国への負の連鎖も免れないだろう。腐っても日本は世界第3位の経済大国だからね。まああんばいは任せるさ。・・・いいよお礼なんて。いつもどおりインサイドにいてくれたら。うふふ・・・今後ともよろしく」

 

マレーシアの夜の景色を眺める冥冥は世界のどこかにいるビジネスパートナーとの話がまとまり、笑みを浮かべた。

 

 

道玄坂 23時30分

 

街が崩壊し、辺りは静寂のみが支配している。そんな物静かな空間の崩壊した建物に大きな鏡が出現する。出現した鏡の中から、(たつみ)から放れて現時間まで行方がわからなかったアマテラスとツクヨミが出てくる。

 

「・・・姉様・・・私・・・」

 

「言わずともわかっています」

 

鏡から出てきた2人の表情は、明らかに怒りが隠しきれていない。

 

「和倉(たつみ)・・・いえ、高専の術師は敵ではない。(わたくし)たちの、真の敵は・・・」

 

自分たちにとって、本当に戦わねばならない敵に気が付いた2人は急ぎ、その憎き敵の元へと向かって行く。

 

 

渋谷駅地下3階 田園都心線ホーム 23時28分

 

悠仁から離れた後、ずっと身を隠していた脹相はまたも存在しない記憶を見て涙を流していた。

 

「・・・行かなければ・・・虎杖悠仁・・・お前は何者だ・・・?」

 

全ての真相を知るために、脹相は起き上がり、いくべき場所へと歩みを進める。

 

「知らなければ・・・俺は・・・なんだ・・・?」

 

 

渋谷警察署宇田川交番跡 23時36分

 

「助けてあげようか、真人」

 

悠仁と(たつみ)に敗れ、命からがら逃げようとする真人の前に偽夏油が現れた。

 

(あいつが夏油傑・・・五条先生を封印した黒幕か!)

 

(たつみ)が偽夏油が悟封印、そしてこれまでの全ての一連の黒幕であると理解したと同時に、悠仁は偽夏油が持っているであろう獄門疆を手にするために彼に向かってかけ走る。

 

「返せ・・・五条先生を返せ!!」

 

「ナマズが地震と結び付けられ、怪異として語られたのは江戸中期。地中の大ナマズが動くことで地震が起こると信じられていたんだ」

 

偽夏油は手元にナマズ型の呪霊を召喚し、それを地面に落とした。ナマズ呪霊は地面の中にスーッと潜っていき、そして・・・

 

グパァ・・・

 

「うあっ!!」

 

「!!悠仁!!」

 

地面と同化して大きな口を開けて悠仁を丸呑みにしようとする。

 

ドサッ!

 

「うっ!」

 

だが一瞬でナマズ呪霊の召喚が解かれ、悠仁は尻もちをついた。

 

「な・・・なんだ今の?何が起きたんだ・・・?」

 

(たつみ)は確かにナマズ呪霊が現れ、悠仁はそれの口中に落ちる瞬間を見た。だが次の瞬間には消えて、悠仁が転んでしまう。突然のことでわけがわからなくなる2人。

 

「落ちたと思っただろう?傍から見れば、君が勝手にひっくり返っただけなんだがね」

 

「野郎!!」

 

余裕を見せている偽夏油に今度は(たつみ)が駆けだし、彼に近づこうとする。

 

「呪霊操術の強みは手数の多さだ。準1級以上の呪霊を複数使役し、術式を解明、攻略されようとまた新しい呪霊を放てばいい。もちろんその間を与えずに畳みかけるのもいいだろう」

 

偽夏油はまたナマズ呪霊を召喚し、先ほどと同じ一手を繰り出した。だが一目見て攻略法を見抜いた(たつみ)は高く跳躍して、同化したナマズ呪霊の口を飛び越えた。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

ナマズ呪霊の口を飛び越えた(たつみ)は偽夏油に向けて力を込めた拳を放とうとする。だがそれを想定していた偽夏油は新たにムカデ型呪霊を複数召喚し、(たつみ)を押していく。

 

「ぐっ・・・こんなもん・・・!!」

 

ムカデ呪霊に押され、巻きつかれた(たつみ)はナマズ呪霊の口の中に落ちていった。そして、ナマズ呪霊が消えたことで重力に落ちたかのように(たつみ)は地面に叩きつけられる。

 

(たつみ)!!」

 

「去年の百鬼夜行。新宿と京都に戦力を分散させなければ、勝っていたのは乙骨ではなく、彼だっただろう。君たちには関係のない話だったかな?」

 

ムカデ呪霊の攻撃もあっただろうが、インクルシオを纏っていることもあり、(たつみ)には傷1つついていなかった。

 

「五条先生を・・・返せ!!」

 

インクルシオの性能を見た偽夏油は嬉々とした表情を浮かべている。

 

「いやはや・・・やはり固いねぇ・・・インクルシオは。わかってたとはいえノーダメージだ。今までそれの封印を解くことができた術師は私を含め誰1人いなかった。いったい何がきっかけで封印が解かれたのか・・・今もわからない。だが君はそれの封印を解いた。素晴らしい・・・素晴らしいよ。和倉(たつみ)・・・君はまさに進化の可能性を秘めている。今まで見くびってて悪かったね」

 

偽夏油は今まで見向きもしなかった(たつみ)に対し、新たな可能性を見出したとして彼に謝罪の言葉を述べている。

 

バッ!

 

そこへ真人が不意打ちに偽夏油に触れようとしたが、彼はそれを躱した。そして、真人に手を翳し、術を発動しようとしている。

 

「・・・知ってたさ・・・だって俺は・・・お前らから、生まれたんだから」

 

真人が偽夏油に術式を使うとした理由。それは、これから自分を利用しようとしているのがわかっていたからだ。だがその抵抗ももはや、意味を成さない。

 

「あっ・・・ああ・・・あああああああああああああああ!!!」

 

偽夏油が術を発動させると、真人は彼の掌に吸い込まれるように、収束されようとしている。

 

「ううっ!!ううううう!!うあああああああああああああああああ!!!!」

 

だが真人の抵抗虚しく、彼の身体は粉々に砕け散り、偽夏油の掌にできた球・・・呪霊球に封じ込められてしまった。これを取りこむことで、偽夏油は真人を召喚し、その力を使うことができる。だが偽夏油は真人を再び召喚する気はさらさらない。

 

「続けようか。これからの世界の話を」

 

偽夏油は真人を封じ込めた呪霊球を持って、話の続きを語り始める。

 

「極ノ番というものを知っているかい?領域を除いたそれぞれの術式の奥義のようなものだ」

 

各術式に備わっている奥義、極ノ番。壊相の翅王。斬鬼の伍龍。そして漏瑚の隕も極ノ番に当てはまる。そして当然、偽夏油・・・傑の呪霊操術にも極ノ番は備わっている。

 

「呪霊操術極ノ番、うずまき。取り込んだ呪霊を1つにまとめ、超高密度の呪力を相手へぶつける」

 

呪霊操術極ノ番、うずまきの話をした時、偽夏油は突然笑い出す。

 

「ふ・・・ふふふふ・・・ふふははははは・・・」

 

「何笑ってんだよ」

 

「ははっ・・・いや、すまない。急にらしいことを始めてしまったなと思って。うずまきの話だったね」

 

一通りの話を終えた偽夏油はうずまきの話を続ける。

 

「うずまきは強力だが、呪霊操術の強みである手数の多さを捨てることになる。だから初めはそそられなかったんだ。ただの低級呪霊のリサイクルだと思っていたからね」

 

「「・・・・・・」」

 

「でも違った。その真価は準1級以上の呪霊をうずまきに使用した時に起こる・・・術式の抽出だ」

 

偽夏油は真人の呪霊球を口の中に入れ、それを一気に飲みこみ、上を見上げる。

 

「・・・バカだな。君たちが感じた気配に、私が気づかないと思ったのかい?」

 

偽夏油が見上げた空には、箒の呪具に跨って飛んでいる西宮の姿があった。悠仁と(たつみ)が感じた気配。それはこの場に駆けつけてきた京都校の術師たちだ。箒の呪具についている青い炎のカンテラが淡く輝いた。

 

(合図!標的は・・・西宮の真下!!)

 

西宮の合図で先手を打ったのは憲紀を弓を構え、上空に向かって複数の矢を放った。矢は赤血操術で軌道を変え、偽夏油に向かって雨のように降り注いだ。偽夏油は絶え間なく降り注ぐ矢の雨を軽い身のこなしで全て躱しきり、一本は受け止めてみせた。憲紀は偽夏油に向けてさらに矢を放つ。偽夏油は迫ってきた矢を跳躍して躱し、さらに続く矢を躱していく。偽夏油が避けた先でラバックが先回りし、グローブに収納してある糸を鞭のように放つ。

 

「らぁ!」

 

「ふふ」

 

伸ばしてきた糸を偽夏油は目の前にカマキリ呪霊を召喚して切り裂いた。

 

「ちっ・・・!」

 

ラバックはさらに糸を伸ばして張り巡らせ、地面に突き刺さった矢を弾いて、そのまま偽夏油に放つ。偽夏油は高く跳躍して迫ってきた矢を躱す。

 

「オラァ!!」

 

そこへ清孝が投擲した2つの白虎斧が迫る。偽夏油は両手を交差させて呪霊を召喚し、わざと呪霊を引き裂かせて白虎斧の軌道をずらした。

 

パァン!

 

偽夏油が着地した瞬間を狙い、真衣は遠くから狙撃銃の弾丸を1発撃ち放った。だが真衣が撃った弾丸は偽夏油が召喚したイカ型呪霊によって止められる・

 

「ちっ・・・!」

 

「狙撃銃か・・・いいね。私も術師相手であれば通常兵器は積極的に取り入れるべきだと思うよ」

 

偽夏油は真衣がいる狙撃ポイントに視線を向けて正直な感想を述べている。そんな彼の背後に、三輪が回り込んでいた。

 

 

ミニバスでキャプテンをやっていたあの頃は、よくお母さんが髪を黒く染めてくれてたっけ。

 

中学で師範と出会って刀どころか、木刀も竹刀も握ったことないくせに、呪術師になることを選んだ。

 

ひたすら刀を振るった。お母さんの負担になりたくなかったから。

 

ひたすら刀を振るった。

 

死にたくなかったから。

 

 

(乗せる!今までの全てと、これからの未来を!もう二度と、刀を振るえなくなっても!!)

 

偽夏油の背後に回り込んだ三輪は持てる呪力の全てを刀を込め、刀を抜刀する。

 

「シン・陰流―――抜刀!!!」

 

ガキンッ!!

 

だが三輪が放った渾身の一撃は容易くも偽夏油に片手で止められてしまう。

 

バキンッ!!

 

偽夏油は受け止めた刀を握りしめ、三輪の刀を真っ二つにへし折った。そして偽夏油は自身が取り込んだ真人を使用する。召喚ではなく・・・呪力の塊として。

 

「極ノ番―――うずまき」

 

「待て!!」

 

「くっ!」

 

「ダメだ!間に合わねぇ!!」

 

西宮が三輪を助けに入ろうと下降するが、間に合わない。

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!

 

真人の呪力を使い、打ち放たれた強力なうずまきは大きな爆発を引き起こし、辺りに強い衝撃が走る。衝撃が収まり、辺りに土煙が舞う。土煙が晴れると、偽夏油はそこにいた人物を見て少しウンザリ気味な表情を浮かべる。

 

「・・・はぁ・・・しつこいなぁ、君も。もしかして君は私の追っかけなのかい?キショいよ」

 

三輪を庇い立っているのは、日下部と、悠仁たちの目的となっていた人物の1人・・・禪院赤女(あかめ)であった。

 

「日下部さんに・・・赤女(あかめ)さん⁉」

 

日下部はまだわかるとして、自分たちが助けようとしていた赤女(あかめ)が逆に自分たちを助けに駆けつけて、三輪は目を見開いて驚く。

 

「先生たちが前に出てきちゃ意味ないでしょ!」

 

「仕方ねぇでしょぉ!」

 

後ろの方で西宮と歌姫が揉めているようだがそこは割愛する。

 

「ヤバい状況だって聞いてたが・・・全然元気そうじゃねぇか」

 

「そんなことはない。身体中ボロボロで、呪力も尽きそうだ」

 

「今の一撃を受け止めておいてよく言うよ。けどま・・・無事で何よりかな」

 

日下部が苦言を呈しているが、歌姫と一緒に駆けつけたチェルシーは赤女(あかめ)が無事であったことに安堵している。

 

赤女(あかめ)先生!!」

 

「無事だったのか!!」

 

「悠仁。それとその声・・・(たつみ)か?今まで何があったかは知らないが・・・どうやら迷惑をかけたようだな。すまなかった」

 

「全くだぜ・・・ちくしょう」

 

「けどいいじゃん。先生が無事ならそれで」

 

自分たちが助けるべき相手だった赤女(あかめ)を一目見て、悠仁と(たつみ)は頬を緩ませて彼女の無事を喜んでいる。そこへ(たつみ)の元にラバックと清孝が近寄る。

 

「兄弟・・・だよな?」

 

「兄弟!!それにラバも!」

 

「なんでおめぇがインクルシオ(それ)着てんのか知らねぇが・・・よかったぜ、無事でよ」

 

清孝は(たつみ)の背中を叩きつつ、肩を貸して彼を立たせる。さらに悠仁の元に憲紀とゴリラモードのパンダが歩み寄ってきた。

 

「虎杖・・・で、いいんだよな?」

 

「パンダ先輩!と、京都の人!」

 

「よかった。戻ったんだな」

 

悠仁が宿儺との入れ替わりから戻ったのだとわかり、パンダは安堵する。

 

「あの男が五条悟を・・・獄門疆を持っているのか?」

 

「らしいぜ。あんな公害持ち歩いて何が楽しいんだか」

 

「で?誰なんだ?あの変な前髪の奴」

 

(がわ)は夏油傑。中身は知らねぇよ」

 

一同が偽夏油の正体について勘ぐっていると・・・

 

「見つけましたよ・・・夏油・・・!」

 

そこへ、怒りの形相で偽夏油を睨んでいるアマテラスとツクヨミ・・・そして怒りで息を荒くして震えている脹相が現れる。

 

「・・・やあ、脹相。アマテラスもツクヨミも、生きていたんだね」

 

「白々しい!紛い物の名を名乗るのもおこがましい!」

 

3人の存在に気付いた偽夏油はふっと笑みを浮かべるが、アマテラスは彼に反発した態度をとる。

 

「あいつは・・・!」

 

「あいつら・・・!」

 

「待て!様子がおかしい」

 

脹相に殺されかけた悠仁とアマテラスとツクヨミに殺されかけた(たつみ)は警戒するが、4人の間に不穏な気配を感じ取り、赤女(あかめ)が止める。

 

 

(わたくし)たちの母様は(わたくし)たちを生む前から死んでいた。

 

しかし、死して禍津神を身に宿して(わたくし)たちを生んだ母様に興味を持った者がいた。

 

その者は自身の脳みそと母様の脳みそを入れ替えることによって、母様の体を奪った。

 

そして母様の体を奪ったその者は呪霊を使って・・・母様の体を弄んだ。

 

死してなお(わたくし)たちを守り、生んだ母様を弄ぶ、その憎き仇敵・・・!

 

 

俺には3人の親がいる。

 

母。

 

母を孕ませた呪霊。

 

そしてその間に血を混ぜた・・・

 

母を弄んだ・・・憎き・・・!

 

 

アマテラスたちの母親の体を奪った者。そして、脹相を生み出した3人の親の1人。そのどちらも、今の偽夏油と同じように、額に縫い目があった。

 

「・・・気付いたようだね」

 

「・・・そういうことか・・・!!」

 

全ての真相に気付いた脹相は仇敵を見つけたように、怒りで拳を握りしめる。そして・・・ずっと黙っていたツクヨミが我慢の限界を迎えたように、その者の名を叫ぶ。

 

 

「加茂憲倫(のりとし)ぃ!!!!!」

 

 

「加茂!!!??」

 

加茂憲倫(のりとし)。その名を聞いた教師陣は全員驚愕の表情を浮かべる。

 

「「憲倫(のりとし)ぃ⁉」」

 

「私⁉」

 

パンダや清孝たちは憲倫(のりとし)の名を聞いて、憲紀に視線を向ける。憲紀自身も同じ名で呼ばれて驚いている。明らかにのりとし違いである。

 

「何っ⁉どういうこと⁉」

 

「加茂家の汚点・・・史上最悪の術師!」

 

「もし今の話が本当なら、傑君の中身は150歳を超えてることになるよ!」

 

偽夏油の正体が史上最悪の術師、加茂家の最大の汚点、加茂憲倫(のりとし)であると知った教師たちは驚きを隠せないでいる。

 

(バカげた結界術・・・バカげた術具の所持・・・肉体を乗り換える術式を持つ黒幕の人選としては・・・)

 

「なるほど・・・確かに人選としては妥当と言えるな。私を怒らせる点を除けばな」

 

日下部は偽夏油が選ぶ人選に納得はしている。赤女(あかめ)自身も人選は納得しているが、友の肉体を弄ぶ所業に静かに怒りを示している。だがそれ以上に怒りを示しているのは脹相たちだ。

 

「加茂憲倫(のりとし)も数多くある名の1つにすぎない。好きに呼びなよ」

 

偽夏油は特に否定はしていない。

 

「・・・よくも・・・よくも俺に!虎杖を!弟を!殺させようとしたな!!」

 

怒りの形相を浮かべる脹相は一歩ずつ偽夏油の元へと歩んでいく。するとそこへ、暗躍していたおかっぱ術師、裏梅が立ちはだかる。

 

「引っこめ三下。これ以上私を待たせるな」

 

立ちはだかる裏梅に対し、脹相は怒りに任せて叫ぶ。

 

 

「どけ!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!」

 

 

 

俺の術式の影響なんだ。

 

血の繋がった弟たちの異変はどんなに遠くにいようと感じ取れる。

 

死・・・それは生物にとって最期にして最大の異変。

 

俺はあの時眼前で虎杖悠仁の死を強烈に感じ取ってしまったのだ。

 

それが起こったということは・・・

 

 

つまり悠仁も血の繋がった俺の弟

 

 

 

(加茂憲倫(のりとし)が体を転々とし、生き長らえているならば、何もありえない話じゃない)

 

自身の術式の特性を思い出し、悠仁が自分の弟だとハッキリ理解した脹相は自身のやるべきことを見出し、自らの血液を両手に強く圧縮させる。

 

(ならば俺は・・・)

 

 

全力でお兄ちゃんを遂行する!!

 

 

「!!?赤血操術だとぉ!!??」

 

加茂家相伝の術式である赤血操術を脹相が使用していることに加茂家生まれの清孝と憲紀は驚愕している。その間にも脹相は自身の血液を百斂で限界まで圧縮し続ける。

 

「なんて圧力だ・・・!」

 

百斂は憲紀も使用する技だが、自分と比べても並外れており、その圧縮率に憲紀は目を見開いて驚いている。

 

ビュンッ!!

 

「!!」

 

血液を限界まで圧縮し終えた脹相は高速で撃ち放つ血のレーザー、穿血を裏梅に撃ち放った。直撃しそうになったタイミングで裏梅は咄嗟に手で受け止めて防御する。とはいえ、予想を上回る速さで撃ち放たれたため、裏梅は目を見開いて驚愕している。

 

(速い!これが穿血!)

 

脹相は穿血をいったん止め、今度は裏梅と偽夏油がいる足場を狙って穿血を撃ち放ち、円を描いた。

 

ガコンッ!!

 

すると、偽夏油がいた足場は大きく突起し、空高く持ち上がる。高く跳躍した脹相は突起した岩に張り付き、仕込ませた血液を膨張させる。

 

ドゴオオオン!!

 

これによって偽夏油がいた足場が血液によって崩壊する。高く跳躍して躱した偽夏油を狙って脹相は穿血を撃ち放つ。偽夏油はマンタ型の呪霊を召喚し、迫ってきた穿血を躱す。

 

「キェアアアアアアアア!!!」

 

そこへツクヨミが抱きかかえていたウサギが鳥獣の姿となって空飛んで突っ込んできて、ウサギに乗っていたツクヨミが偽夏油に向かって槍の突きを放つ。偽夏油はマンタ呪霊を操り、難なく突きを躱してみせた。

 

「ふんっ!」

 

偽夏油を通り過ぎたツクヨミは空高くより偽夏油を狙い、槍を構えて投擲する。偽夏油は迫ってきた槍を難なく避ける。そこへ降下する槍の真下にアマテラスが作り上げた鏡が出現し、さらに偽夏油の真上に鏡が出現する。ツクヨミが両手を合わせると、槍は複数に分裂し、鏡の中に入る。そして、偽夏油の真上の鏡に数多の槍が転移し、偽夏油に向かって降り注ぐ。偽夏油はマンタ呪霊を利用して降り注ぐ槍の雨を掻い潜る。

 

「月光蝶・五月雨!」

 

「反射鏡!」

 

槍の雨を掻い潜るも、直後にツクヨミの放つ月光蝶・五月雨とアマテラスの反射鏡の板挟みが偽夏油を襲う。偽夏油はマンタ呪霊の飛ぶ速度を上げて月光蝶・五月雨と反射鏡を躱しきる。2人の猛攻を切り抜けた直後、脹相は偽夏油に穿血を撃ち放つ。偽夏油はマンタ呪霊の召喚を解除して跳躍して穿血を躱す。そのタイミングでウサギが突っ込んできて、ツクヨミが突きを放つ。偽夏油は呪霊を召喚して突きを防御して後退し、再びマンタ呪霊に乗ってツクヨミから距離を取る。ウサギはツクヨミを乗せて偽夏油を追う。

 

「そんなに怖い顔をして・・・何を怒っているんだい?」

 

偽夏油は事情を知りながらもツクヨミを煽っていく。

 

「・・・お前は最初から全部知ってて・・・私たちに・・・(たつみ)を・・・弟を・・・殺させようとしたのか・・・!」

 

「おいおい、はき違えないでくれ。殺そうとしていたのは、君たち・・・」

 

「それはただの結果論!遅かれ早かれお前はそういう指示を出すつもりでいたんだろ⁉絶対に許せない・・・!!」

 

ツクヨミは跳躍し、偽夏油に向けて呪力を纏った槍の突きを放とうとする。偽夏油は慌てることなく巨大な鬼仮面の呪霊を召喚し、攻撃を仕掛ける。

 

(たつみ)・・・見ていてね・・・これがあなたの・・・」

 

 

ズバァ!!!

 

 

お姉ちゃんだよ!!!!

 

 

ツクヨミは(たつみ)に向けてかなりぶっ飛んだセリフを口にしながら鬼仮面の呪霊を槍の一突きだけで真っ二つに切り裂いた。

 

 

(わたくし)たちの胸にある勾玉には禍津神の魂が宿っている。

 

禍津神の魂は惹かれ合う。ゆえにどれだけ離れていようと、受肉さえ果たしていれば姉弟たちがどこにいるのかがわかる。そして、姉弟たちの異変にもすぐに気が付けるようになっている。それは当然、死にだって敏感に感じ取ることができる。

 

あの時(わたくし)たちに宿る禍津神は(たつみ)の死を強烈に感じ取っていた。

 

ではなぜあの時それを感じ取れたのか。その答えは全て母様の体を奪った加茂憲倫(のりとし)にあった。

 

どのような方法を使ったのかは知りませんが・・・加茂憲倫(のりとし)は母様の体を使って、子を成した。それはつまり、(わたくし)たちの血の繋がった姉弟。

 

(わたくし)たちの新たな姉弟は親元から離れ、自分だけの家庭を築き上げ・・・子供を成した。生まれた子供もまた、母と同じように家庭を築き、子を成す。その連鎖が延々と続き・・・この時代まで届いた。

 

 

つまり(たつみ)(わたくし)たちの血が繋がった新たな姉弟が残した遠き子孫!!

 

 

 

(禍津神は人に寄生する呪霊。母様の身体には分けられた微弱の禍津神の魂の残滓が残っていた。その微弱な残滓は子を成すたびに移ろい、ほんのわずかながらも今、(たつみ)に宿っている。そうでなければ存在しない記憶を見た説明がつかない)

 

(たつみ)が自分たちの新たな姉弟が残した遠き子孫であったことに気付いたアマテラスとツクヨミは、自分たちが本当にやらなければならないことを見出した。

 

(ならば(わたくし)たちは・・・(たつみ)を新たな弟として迎え入れ・・・)

 

 

全力で!弟の未来を光り照らす!!

 

 

関係性は厳密に言えば遠き叔母に当たるわけなのだが、アマテラスたちはその段階を大きくすっ飛ばして(たつみ)を弟と認識し、彼を仇敵から守るため、果敢に攻撃を仕掛けていく。

 

パンッ!

 

アマテラスが両手を合わせると偽夏油の左右上下に鏡が出現する。偽夏油は真上の鏡に向けてイカ呪霊をマシンガンのように撃ち放ち、鏡を破壊する。同時に壊れていない3つの鏡から強烈な光の光線を撃ち放った。偽夏油はマンタ呪霊で飛び上がり、鏡の光線から逃れる。

 

「ふんっ!」

 

脹相は拳を握りしめ、撃ち放った穿血を破裂させ、血の刃の雨を降らせる。血の雨のど真ん中にいた偽夏油はマンタ呪霊を使って雨を掻い潜り、脹相に向かって突進した。着地と同時に衝撃が走り、土埃が舞う。脹相は偽夏油を迎え撃とうと血刃を両手に取る。

 

バッ!バキィ!

 

「ぐっ・・・!」

 

だが偽夏油は脹相の背後に回り込み、拳を叩きつけた。脹相は防御するもその力が強く、吹っ飛ばされる。偽夏油はさらに追い打ちをかけるように呪霊を召喚する。呪霊は脹相に拳を叩き込み、彼を足場から突き落とす。

 

代わりに、ツクヨミが降りてきて偽夏油に向けて槍を投擲する。偽夏油は迫ってきた槍を躱し、背後に鏡型の呪霊を召喚して、彼女が投擲した槍を反射させた。ツクヨミは返ってきた槍を屈んで躱し、両手にクローを装備して、偽夏油に攻撃を仕掛ける。偽夏油はツクヨミの爪を躱していく。ツクヨミは足を振り上げて偽夏油にかかと落としを叩き込もうとする。偽夏油はツクヨミのかかと落としを後退して躱す。直後、偽夏油の背後に鏡が現れ、そこからアマテラスが現れて拳を放つ。

 

バシッ!ギュウウウウ!

 

「ぐっ・・・!」

 

しかし偽夏油は振り返ってアマテラスの放つ拳を受け止め、背後に回り込んで彼女の腕を強く捻る。アマテラスは捻られてる手を開いて掌に鏡を出現させ、光の光線を撃ち放った。だが偽夏油はその高専を躱し、彼女に膝蹴りを打ち込んだ。

 

「がっ・・・!はああああああああ!!」

 

よろめくアマテラスは負けまいと気力を奮い立たせ、偽夏油に拳と蹴りの格闘技を叩き込む。しかし偽夏油はアマテラスの攻撃を難なくいなし、彼女の腹部に蹴りを入れた。

 

「かはっ・・・!」

 

アマテラスに蹴りを入れた偽夏油は足場から降り、そのまま下に降りる。

 

「無理するなよ。疲れてるだろ」

 

「だから何だというのです?それが弟の前で!!命を張らない理由になるわけないでしょう!!!」

 

アマテラスは偽夏油を追いかけるように飛び降り、片手を翳して掌の鏡の光を偽夏油に撃ち放った。繰り広げられる激闘に、悠仁たちは何が何だかわからず様子で見ている。

 

「・・・お2人さん。一応聞くんだけどさ・・・あいつとあの別嬪2人・・・他人だよね?」

 

「他人どころか1回殺されかけてるよ」

 

「右に同じく」

 

「東堂のクソ野郎といい・・・なんかやべぇフェロモンでも出てんじゃあねぇかあ?」

 

一度は自分を殺しに来た敵が、どういうわけか悠仁の兄、(たつみ)の姉と名乗って仲間割れを始めたその行動には全員困惑している。悠仁と(たつみ)は特にそうだろう。

 

「だがおかげで場が乱れた。この機に乗じるぞ」

 

「っすね」

 

「まだ2機残ってる俺が前に出る。全員でかかれば隙くらいできるだろ。なんとしても獄門疆を奪い取るぞ!」

 

偽夏油が脹相とツクヨミ、アマテラスを相手をしている今が好機と見て、全員で偽夏油をたたみかけようとする。

 

激震(ドラミング)・・・」

 

パンダが先手として激震掌(ドラミングビート)を放とうとした時だった・・・

 

「氷凝呪法―――『霜凪』」

 

パキイイイイイイイイン!!!!

 

『なっ!!』

 

裏梅が冷たき氷の吐息を吐いた瞬間、偽夏油に襲い掛かる全員が凍り付き、身動きが取れなくなってしまう。

 

(氷の術式⁉しかもなんてハイレベルな!)

 

(下手に動けば身体が割れる・・・!)

 

「殺すなよ。伝達役(メッセンジャー)は必要だ」

 

偽夏油は術式を発動させた裏梅を制しようとするが、裏梅は憤怒の表情を浮かべており、止まる気配がない。

 

「全員生かす理由になるか?」

 

穿血を受けて穴が開いていた裏梅の手は再生されていき、何事もなかったかのように傷が塞がってしまう。そう、反転術式だ。

 

(反転術式・・・呪術のスケールが段違いだ・・・帰りてぇ~・・・)

 

ただでさえ偽夏油だけでも面倒なのにここにきて反転術式が使える裏梅。日下部は今本当にここに来たことに後悔している。

 

「・・・っ、ウー、お願い」

 

「舐めんなよ・・・!この程度の氷・・・!」

 

ツクヨミの指示を受けてウサギは自身の身体に炎を纏わせて、氷を解かそうとする。だがそれよりも先に裏梅はツクヨミの前に立っていた。

 

「どの程度だ?」

 

裏梅は指先の氷柱でツクヨミの頭を貫こうとする。

 

ガッシャアアアアアン!!!

 

そこへ、氷結から脱出した(たつみ)はツクヨミを、赤女(あかめ)はアマテラスを、悠仁は脹相に蹴りを入れて氷を砕き、3人を救い出す。

 

(危なかった・・・インクルシオを纏ってなかったら体が割れていたところだったぜ)

 

(玉砕を使わなければ凍り付いていた・・・こいつ、強い・・・!)

 

(たつみ)のインクルシオはすでに凍土に対して適応が完了していた。そのため凍り付いても強く力を込めて氷を砕いて脱出できたのだ。赤女(あかめ)の方はシン・陰流我流奥義『玉砕』を使用して霜凪を無効化させたがゆえに難を逃れている。では悠仁はなぜ氷から脱出できたのか。それは当然、宿儺関連だ。

 

「誰の身体だと・・・!」

 

(俺だけ氷結が甘かった。宿儺関連だな)

 

体は悠仁のものだが、裏梅にとって彼は宿儺の身体だという認識でいる。ゆえに悠仁だけ氷結が甘く、脱出ができたのだ。悠仁は肩を並べた脹相たちに確認の声を上げる。

 

「お前ら!味方でいいんだな⁉」

 

「違う!!」

 

「あっ?」

 

「俺は、お兄ちゃんだ」

 

「真面目にやってくんねぇかな⁉」

 

「とりあえず、1回呼んでみてくれないか?お兄ちゃんと」

 

シリアスな場面から一変して一瞬ながらコメディな空気が流れる。お兄ちゃんと呼ぶことを頼んでいる脹相に悠仁はツッコミを入れる。だが脹相は至って本気である。

 

「・・・よくわからないが、味方ということでいいんだな?禍津神」

 

「あなたたちが(たつみ)に危害を加えないのならばそれで結構です。(わたくし)たちは、お姉ちゃんですので」

 

「??????????」

 

(たつみ)の姉を主張・・・いや強調をするアマテラスに対して、赤女(あかめ)は何度聞いても疑問符ばかりが浮かび上がる。

 

「・・・(たつみ)。お前1人っ子だったよな?」

 

「俺に聞くなよ!!俺だって意味不明なんだから!!」

 

チョンッチョンッ

 

「え?」

 

「・・・あなたのこと、たっちゃんって呼んでいい?私のことは、お姉ちゃんって呼んでいいから」

 

「いやなんで⁉」

 

「とりあえず、私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて」

 

「ふざけんな!!」

 

非常時だというのに(たつみ)にお姉ちゃん呼びされてほしいツクヨミはそう頼み込む。当然それどころじゃない(たつみ)はこれを拒否。

 

「~~~~!!」

 

「呼んであげなよ~、弟君~♪」

 

「あ、できれば(わたくし)もお姉ちゃんと呼んでいただけると嬉しいのですが・・・」

 

「あー、もう!!真面目にやってくれねぇかなぁ!!?」

 

この拒否にツクヨミは頬を膨らませ、涙目ながらに(たつみ)を訴えている。ウサギはこれに便乗して(たつみ)をからかい、アマテラスもツクヨミに便乗している。あまりのコメディ展開に(たつみ)は声を荒げた。

 

付喪(つくも)操術―――『鎌異断』!」

 

空を飛んで唯一裏梅の技から逃れた西宮は箒の呪具に跨って風の斬撃を放った。だがその一撃は裏梅が片手1つで払いのけてしまった。

 

(クソッ!素手で払うとかへこむんだけど!)

 

西宮は地上に降り、悠仁たちの元へ向かう。

 

「虎杖君!今動けるのは私たちだけ!先生たちの準備ができるまで、時間を稼ぐよ!」

 

なかなか折れない術師を前にして、裏梅の怒りはついに限界まで迎えた。

 

伝達役(メッセンジャー)なんて・・・」

 

裏梅は手元から溢れる氷の呪力を地面につけた。

 

「虎杖悠仁1人で事足りるでしょう!!氷凝呪法―――『直瀑』!!」

 

パキィィィィィン!!!

 

『うっ・・・!!』

 

裏梅が放つ術式によって、悠仁たちは再び凍り付き、裏梅の周りの氷は砕け散り、氷の刃となって悠仁たちを襲う。そしてこのタイミングで(たつみ)の体に限界が来てインクルシオが解除されて元の剣に戻ってしまう。

 

(くそ・・・!こんな時に・・・!)

 

(やられ・・・!)

 

氷の刃が迫り、悠仁たちは痛みを覚悟して目を閉じた。

 

「「・・・・・・?」」

 

だがいつまでたっても痛みが来ない。何事かと思い、悠仁たちは目を開ける。

 

「・・・久しぶりだな、赤女(あかめ)。直接会うのは12年ぶりになるかな」

 

「私とは初めましてだね、赤女(あかめ)ちゃん。ナジェから君のことは聞いてたよ」

 

そこに立っていたのは、黒いスーツを着込み、眼帯を着けた大きめな義手が備わっている短髪の女性。もう1人はラフな服装をした金髪の女性だ。

 

「あ・・・あなたは・・・」

 

銀髪の女性を目にした赤女(あかめ)は目を見開いて驚愕する。

 

「さて・・・君が夏油傑か。初めまして・・・というべきかな?」

 

「久しぶりだね、夏油君。あの時の答えを聞かせてもらおうか。・・・どんな女がタイプだい?」

 

偽夏油はこの場に介入してきた2人の女性を見て、歪んだ笑みを浮かべてその名を口にした。

 

「ナジェンダ・・・九十九由貴・・・!」

 

銀髪の女性の名はナジェンダ。隣にいる金髪の女性、九十九由貴の友人にして、元1級術師。

 

そして九十九由貴は6人しかいない現役の特級呪術師の1人だ。

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