呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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俺は・・・

もうみんなと一緒にはいられない


漆章『死滅回游』
執行


ここは京都に建てられている由緒ある屋敷。その屋敷の廊下を金髪の青年が歩いている。その後ろには着物を纏い視線を僅かに伏せて3歩後ろの距離を保ってついてきている。

 

「・・・で?死んだん?真衣ちゃん」

 

青年の問いかけに対して女性は静かに答える。

 

「今は当主の心配を。それに死にかけているのは真希です」

 

「そうなん?ほなええわ。別嬪さんやけど、真希ちゃんはアカン。あれは男を立てられへん。3歩後ろ歩かれへん女は背中刺されて死んだらええ」

 

青年の名は禪院直哉。呪術界の由緒ある家系、御三家の一角、禪院家に生まれた27代目禪院家当主候補の1人であり、今死の淵を彷徨っている禪院家当主、禪院直毘人の実の息子である。その後ろを歩いているのは今話しに上がっている真希と真衣の実母である。彼女は口ごたえすることなく、ただ黙ってついていくだけ。

 

「その点、真衣ちゃんは立派やね。真希ちゃんと同じ顔、同じ乳。強がっとるけど、自分が女やと心底理解しとる。黒女(くろめ)ちゃんも赤女(あかめ)ちゃんも真衣ちゃん見習っとったら呪詛師に堕ちんで済んだのになぁ。自業自得や」

 

話し込んでいる間にも直哉は目的の部屋に辿り着き、女性が障子を開ける。そこには自分と同じ血をひく男2人がそこにいた。

 

「遅いぞ。何をしていた。実の父親が峠を彷徨ってる時に」

 

「・・・・・・」

 

ポニーテールをした黒髪の男の名は禪院扇。直毘人の実の弟であり、直哉の叔父に当たる。

 

着物をはだけ、額に大きな傷跡がある強面の髭の男の名は禪院甚壱。先代禪院家当主の息子であり、今は亡き禪院甚爾の兄にあたる。

 

「ごめんちゃい。でも別にええやろ。俺が来ても来やんでも。次の禪院家当主は俺に決まるんやから」

 

扇の言葉に対し直哉は余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「俺の兄さん方はみんなポンコツやし。叔父・・・弟のあんたもパッとせぇへん。その上娘は論外。1番の有力候補やった赤女(あかめ)ちゃんも、妹と同じ呪詛師になって永久追放。甚壱君はなー・・・顔がアカンわ。甚爾君と逆やったらよかったのになぁ」

 

 

ドォォン!!!

 

 

直哉の見下すような発言に扇は刀を抜き、甚壱は拳を彼の喉元を狙う。だがその寸前で扇は刀を止め、甚壱は拳を壁に叩き込んで貫く。彼らとてわかっているのだ。今ここで彼を殺すわけにはいかないと。

 

「パパが峠を彷徨ってんねんで?堪忍したってや」

 

呪術界においても禪院家においても、赤女(あかめ)は当主候補の中で1番の有力者だった。その彼女が去った今、1番の候補となったのはこの直哉だ。であるならば、ふつふつと沸き上がる怒りをぶつけるわけにはいかない。対して直哉は念願であった禪院家当主になれるという確信によって余裕の笑みを浮かべている。

 

「皆さんお揃いで」

 

そこへ、小柄な老人が部屋を開けて入ってきた。3人は老人に視線を向ける。

 

「たった今、禪院家当主、禪院直毘人様がお亡くなりになられました」

 

禪院家当主が亡くなった。その言葉を聞いても3人は一切の動揺はない。当然だ。3人にとって重要なのは直毘人の生死ではなく、その後のことだ。

 

「ご遺言状はこの古舘がお預かり致しております。ご遺言状は直毘人様の御意志によって禪院扇様、禪院甚壱様、禪院直哉様・・・3名が揃われた時、私からお伝えすることになっております。・・・相違なければ、ご遺言状を読み上げます」

 

3人が静かに注目する中、老人は遺言状を取り出し、その内容を読み上げる。3人はその内容を一句一句聞き漏らさずに静聴する。

 

「ひとつ。禪院家27代目当主を禪院直哉とする。

ひとつ。高専器庫及び禪院家器庫に保管されている呪具を含めた全財産を直哉が相続し、禪院扇 禪院甚壱のいずれかの承認を得た上で直哉が運用することとする」

 

「・・・ちっ。まあええか」

 

全ての権限を与えず、ある程度の縛りを課した父親に対し、直哉は不満はあれど納得する。何よりも重要なのは自分が禪院家当主になった。その事実だけなのだから。

 

「ただし、禪院赤女(あかめ)と双方の同意の下、禪院赤女(あかめ)、五条悟。何らかの理由で両名の死亡、または意思能力を喪失した場合、伏黒甚爾との制約上を履行し、伏黒恵を禪院家に迎え、同人を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」

 

「・・・・・・・・・・ハァ?」

 

絶対だと思っていた当主の座がどことも知らない術師に奪われた。その事実を突きつけられた直哉は表情を強張らせた。

 

その後の話が終わり、直哉はイライラした表情を浮かべたまま部屋を出た。

 

「やっぱアカンわ。玉無しやあの2人。よお知らんガキが当主になっても、俺や赤女(あかめ)ちゃんよりはマシや言うてなんもせん気や」

 

遺言状通りになれば、直哉は当主になることができない。その事実だけでも直哉にとっては不愉快極まりないものなのだから当然と言えば当然だ。

 

「クソジジイもクソジジイや。たかだか余所者の女に絆されおってからに」

 

直哉は赤女(あかめ)のことが非常に気に入らなかった。よく知らない女が禪院家に招かれ、自分の義姉になると聞かされた時は冗談じゃないと思った。女が男の上に立つなんて、あってはならない。だから自分の立場をよくわからせてやろうとあらゆる手段を使った。

 

だが全部不発で終わってしまった。彼女は術師としての才能がずば抜けて高い。これまでも何度も殺そうともしたが、彼女に勝てた試しは1度もない。それどころか、自分の憧れの存在に手解きをしてもらえ、挙句の果てには特級呪術師となり、特例として禪院家の当主候補にまで成りあがった。

 

何もかもが気に入らない。あの女さえいなければ、当主候補の座は自分が安泰するはずだったのだ。それがどことも知らないぽっと出のせいでそれが危ぶまれた。それだけでなく、今でさえ追放されてもその爪痕を残して行った。不愉快極まりない。

 

「あのネズミの糞が・・・!!どんだけ俺の邪魔をすれば気が済むねん・・・!!」

 

今すぐにでも殺してやりたい気持ちは沸き上がるが、今は赤女(あかめ)に構ってる余裕はない。問題なのは遺言状にも名が挙がっている伏黒恵だ。彼がいる限り、自分は当主になれない。何とかしなければならない。

 

「・・・恵君は今どこで何しとるん?」

 

「詳しくは。ただ、東京で虎杖悠仁捜索の任に当たってるそうで・・・」

 

「誰やねん」

 

「例の宿儺の器です」

 

「あー、例の甚爾君の偽物とおるっちゅうガキか」

 

直哉の言う甚爾の偽物というのは、彼と同じ天与呪縛を持つ(たつみ)のことを指している。

 

「じゃあ上の人に伝えとき。禪院直哉が宿儺の器殺したるて」

 

「・・・・・・」

 

「恵君は宿儺の器んとこおるんやろ?後ついでに甚爾君の偽物も。3人まとめて殺したる」

 

屋敷の玄関口に辿り着くと直哉は腰かける。すぐに真希の母親は跪き、手慣れた手つきで草履を履かせていく。

 

「今の東京は魔境や。人がいつどう死んでも関係あらへん。殺してしまえば後のことはどうとでもなる」

 

パチンッと草履の紐を切ると、直哉はすっと立ち上がる。

 

「禪院家当主は俺や」

 

 

 

 

 

呪術廻戦ー呪いを斬るー

 

漆章

死滅回游

 

 

 

 

 

 

渋谷事変から数日後。悠仁はどこかの協会に身を潜め、渋谷事変で負った傷を癒し、ものふけっていた。

 

渋谷事変の後、悠仁は高専には戻らず、東京に蔓延る呪霊を刈り取ることを決断をしている。戻りたくないと言えば嘘になる。だが自分は渋谷事変で人をたくさん殺した。罪深い自分が、あの場所に戻ることは許されない。許しては、いけないのだ。

 

「虎杖君。怪我の具合はどうですか?」

 

そこへ悠仁と一緒についてきた禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の1番、アマテラスと呪胎九相図の1番、脹相が降りてきて、彼の怪我の具合を問いかけている。ちなみにツクヨミは現在別行動している赤女(あかめ)と行動を共にしている。

 

「黒閃をくらったとこ以外は・・・まぁ平気。多分宿儺の影響だ。あいつの力が大きくなってるのを感じる」

 

渋谷事変で負った悠仁の怪我は本来であれば完治に至るには程遠いものだ。だがその傷は宿儺の影響で完治とまではいかないが、五体満足に動かせるほどに回復していた。

 

「悠仁。俺たちに気を遣うな。高専に戻っていいんだぞ。俺も焼相たちの亡骸を回収したいしな」

 

脹相は悠仁を気遣って高専に戻るように言うが、悠仁はこれを拒む。

 

「・・・遣ってねぇよ。俺が戻りたいかどうかの問題じゃねぇんだ。宿儺が伏黒を使って何か企んでる。それに俺は・・・人をいっぱい殺した」

 

悠仁の脳裏に浮かんでくるのは、少年院で伏黒に言われた言葉だ。

 

『自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする⁉』

 

「・・・俺は、もうみんなと一緒にはいられない」

 

初めて宿儺を取り込み、自分が処刑を言い渡された時、自分は恵に助けられたと聞いた。だが結局、自分は助けてもらっておきながら、渋谷事変で人を数えきれないほどに殺した。宿儺が暴れた結果だとしても、悠仁はそれが許せない。自分のせいでみんなに迷惑をかけてしまうくらいなら・・・高専から離れた方がいい。悠仁はそう考えている。例えそれが孤独な道だったとしても。

 

「お前らこそいいのか?特に脹相。俺はお前の弟も殺したんだぞ」

 

「いい。あれは事故だ。壊相も血塗も俺の立場なら同じようにしたはずだ。許す許さないじゃない。兄弟とはそういうものだ」

 

悠仁は八十八橋で脹相の弟、壊相と血塗を殺している。だから一度は脹相は悠仁を殺しにかかった。だが、悠仁が血の繋がった弟であるとわかった以上、脹相はもうすでに気持ちを切り替えているのだ。

 

「虎杖君。あなたは弟・・・(たつみ)の友達です。弟の友達を救わずして自分たちだけ逃げるなど、姉としてどうしてできましょうか?弟の恩人である赤女(あかめ)も同様です」

 

理屈はともかくとして、脹相ともアマテラスも悠仁と行動を共にすることは断固として譲れないようだ。誰1人として味方がいないのであればなおさらだ。

 

「・・・行こう。今はとにかく呪霊を減らさないと」

 

何かと思うところはあるが、今はとにかく東京の呪霊を祓わなければならない。悠仁は脹相とアマテラスと共に外に出るのであった。

 

 

翌日の東京の車道橋。そこで1人佇む悠仁はスーッと息を吸って深呼吸をして、両手を上げて手を叩く。

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

バッシャアアアアアアアアン!!

 

悠仁の手の叩く音に惹かれ、川の中に潜んでいた2体の呪霊が姿を現した。悠仁は呪霊が出てきたタイミングで車道橋を走り出す。呪霊は各々が競り合うように悠仁を追いかける。競り合いをする呪霊は高く飛び上がり、両手を合わせてダブルスレッジハンマーを放って車道橋を盛り上げた。

 

「ふっ!」

 

盛り上がっていく車道橋を悠仁は全速力で走って登り、高く飛び上がる。するとムササビ型の呪霊が現れ、悠仁を襲おうとする。悠仁は現れたムササビ呪霊の腹部に向けて蹴りを放つ。

 

ズシャアアアアア!!

 

悠仁の蹴りによってムササビ呪霊は腹部を貫かれ、祓われる。蹴りを放った悠仁は重力に従うように落ちていく。そこへ、競り合っていた胴体の長い呪霊が悠仁に向かって突進してくる。

 

「アマさん!!」

 

悠仁が上げた声が合図となり、近くで待機していたアマテラスは呪霊の目の前に巨大な鏡を作り上げ、突っ込んできた呪霊はそのまま鏡の中に入る。

 

バシャアアアアアアアン!!

 

鏡の中に入った呪霊は川のど真ん中に出現した鏡に転移され、川の中に突っ込んでしまう。呪霊が川から這い上がろうとした時、待機していたアマテラスが動き出し、出現した鏡から飛び出して呪霊の頭に拳を叩き込む。

 

バッ!ビカァ!!パアアアアアアアアン!!!

 

拳を叩き込んだアマテラスはすかさず鏡を備えた左掌を呪霊に翳し、鏡の光線を放った。光線を受けた呪霊は数多を貫かれ、体は膨張する光によって破裂した。

 

【おおおおおおおおおお・・・】

 

直後、川の中より一際巨大な呪霊が現れ、両手を広げてアマテラスを襲う。アマテラスは高く跳躍して後退し、巨人呪霊の両腕から回避する。巨人呪霊はバタフライで泳ぎながら後退するアマテラスを追う。後退するアマテラスは慌てることなく自分の背後に巨人呪霊が入るほどの巨大な鏡を出現し、中に入る。巨人呪霊はアマテラスに続いて中に入っていく。

 

鏡に入ったアマテラスは車道線に巨大な鏡を作り上げて転移し、車道線トンネルに向かって走り、中に入っていく。後に巨人呪霊も転移し、転びつつも立ち上がり、アマテラスを追いかける。そしてアマテラスを見つけた数多の呪霊たちも一斉にアマテラスを追いかけ始めた。

 

「脹相!」

 

アマテラスはトンネルの先にいる脹相に合図の声を上げ、自分の目の前に鏡を作り、入り込む。

 

ビュンッ!!ズンッ!!

 

直後、トンネルの先にいた脹相は穿血を撃ち放ち、アマテラスを追いかけていた数多の呪霊を1体残らず貫いて祓っていく。だがその後、頭部がない6本腕を持った巨人呪霊が脹相の背後に現れ、殴りかかろうとしている。

 

「悠仁」

 

脹相の声と同時に彼の背後に鏡が出現し、その中から悠仁が転移で飛び出し、殴りかかって来る巨人呪霊を拳を叩き込んで貫いた。3人のコンビネーションは初めて組んだとは思えないほどに息が合っていた。

 

(なかなかに凄まじいですね。虎杖君の過去の戦いぶりは鏡を通して見ましたが、パワフルな印象が大きい。ですが今はそこに繊細さが加わってる。淀みない呪力操作、桁違いの余力。彼はまさしく鬼神。これでまだ全快ではないというのですから末恐ろしい。これが宿儺の器・・・いえ、虎杖君のポテンシャルですか)

 

鏡で転移して悠仁たちと合流したアマテラスは悠仁と共闘してみて彼のポテンシャルを高く評価して感心している。

 

「さすが、俺の弟だ」

 

「まだ言ってんの?」

 

脹相が自分のことを弟呼びに対して、なぜ弟と呼ばれるのかわかっていない悠仁は若干ながらイラついてる様子が見られる。イラついているのは弟と呼ばれることではなく、自分が脹相の弟を殺したことを水に流していることに対してだ。それでも脹相の意見は変わることはない。

 

「何度でも言うぞ。思い出せ。あったはずだ。お前の父の額にも縫い目が」

 

「それは(わたくし)も聞きたいところでした」

 

脹相の言葉にアマテラスが割って入ってきて悠仁に問いかける。

 

「奴は(わたくし)たち姉弟にとっても因縁深い相手。思い出せる範囲で結構です。その縫い目の男・・・虎杖君の親について教えてください」

 

「・・・・・・」

 

教えてと言われても悠仁自身は自分の親のことはほとんど覚えていない。だから教えられることは何もないため、悠仁は黙秘している。すると・・・

 

「恵君おらんやん」

 

「「「!」」」

 

突然車道トンネルの真上から第三者の声が割って入ってきた。3人がそこに視線を向けると、そこにはいつの間にか金髪の男・・・禪院直哉がそこに立っていた。

 

「俺が1番乗り?そんなことあんの?トロすぎへん?」

 

(誰だこいつ・・・?今伏黒の話したか?)

 

いつの間にか現れ、恵を探している直哉に視線を向けている悠仁は疑問符を浮かべている。直哉は悠仁たちに顔を向けて口を開く。

 

「君らも何してん?目立ちすぎやで。逃げる気ないん?」

 

「・・・逃げる?」

 

「なんや知らんのか?君、死刑やって。悟君の後ろ盾がのうなったから」

 

「あ"あ"ん?」

 

「脹相、落ち着いてください」

 

悠仁の死刑。その言葉に脹相は直哉にメンチを切り、アマテラスが彼を制する。ただ、死刑は言い渡された悠仁は心当たりがあった。それは赤女(あかめ)と別れた直後の言葉だ。

 

『悟が封印された今、上は次に邪魔な私を事件の犯人に仕立て上げるだろう。そして同時に、悠仁。お前の死刑執行の猶予が消される可能性が高い。私がお前と通じてると思われると返って都合が悪い。だから・・・ここで分かれよう』

 

そうして赤女(あかめ)はツクヨミと共に由貴とナジェンダに匿ってもらうこととなったのだ。今まさにこの状況は赤女(あかめ)の言葉通りになった。直哉は自分を殺しにやってきた。悠仁はそう思っていたが、当の直哉には別の思惑がある。

 

「俺が用があんのは恵君の方やから、ぶっちゃけ君の生死はどーでもええねん。でもちょこまかされんのもあれやし、とりあえず足でも折っといたろかな」

 

自分ではなく恵に用があるという直哉の目的はわかっていないが、おそらくよくないことであると予想する悠仁は彼に問いかける。

 

「伏黒に何の用だよ?」

 

「死んでもらお思て。その前に一筆書いてくれると助かるねんけどな」

 

直哉が質問に答えた直後・・・

 

「恵君、君を捜しとるんやって」

 

「⁉」

 

直哉は瞬間移動したかのように一瞬で悠仁の背後に回り込んだ。

 

バキィ!

 

悠仁が振り返ると同時に直哉は彼の顔に拳を叩き込み、足払いで体制を崩させた。悠仁がやられたことで脹相が直哉に近づき、拳を叩き込もうとする。直哉はその拳を難なく受け止め、蹴りを放って蹴とばした。そのタイミングでアマテラスが掌を翳し、掌の鏡を作り出そうとする。が、それよりも速く直哉はアマテラスの背後に回り込んだ。

 

「なっ・・・ぐっ!!」

 

アマテラスが振り返ると、直哉は余裕があるように左手で前髪を掻き上げてキメ顔をキメながら右拳でラッシュを叩き込んでいく。絶え間なく続くラッシュを受けつつも耐えるアマテラスはラッシュの合間を掻い潜って掌底を放つ。直哉は放たれたラッシュを顔を逸らして躱した。そこへ悠仁がその辺の石ころを手に持って直哉に投擲する。しかしその投擲も直哉の素早い動きで回避されてしまう。

 

「速いっちゃ速いんだけど・・・なんか変だな」

 

「術式だろうな・・・」

 

「でしょうね。でなければ(わたくし)が鏡を作るのが間に合わなかった説明がつかない」

 

直哉のスピードは術式と関係していると睨んでいるが、その正体を考えている余裕はない。

 

「思うたよりやるんやね。正直舐めとったわ」

 

攻撃を躱し、着地する直哉は悠仁の隣にいる脹相とアマテラスを見据える。

 

(器はまぁわかるとして・・・隣の2人は何者や?もうちょい速うしてみるか)

 

自分の予想より強者であると判断した直哉が術式でさらに速く動こうとした時・・・この場の全員が感じ取った。こちらに接近してくる、憎悪に満ちた呪力を。

 

「・・・へぇ・・・意外だなぁ。1人じゃなかったんだ」

 

「「「「!」」」」

 

呪力の出所に視線を向けてみると、街灯の上に刀を携えて悠仁に憎悪に満ちた視線を向けている黒髪の女性が立っていた。その女性を見た瞬間、脹相とアマテラスは身構え、悠仁は目を見開いて彼女に顔を向ける。

 

「あ・・・」

 

「・・・禪院・・・黒女(くろめ)・・・」

 

介入してきた女性・・・禪院黒女(くろめ)のことは悠仁は知っている。いや・・・ハッキリ覚えているの方が正しいだろうか。自分が渋谷駅で宿儺に身体を乗っ取られていた時、双子の呪詛師、柳場菜々子と柳場美々子を殺した直後に、彼女は現れ、刃を向けてきた。悠仁にはその時の宿儺の記憶が共有されている。あの時に向けられた彼女の怒り、恨み、憎しみ、そして殺意は今も忘れらない。否・・・忘れてはいけないのだ。

 

「・・・で、なんで直哉もここにいんの?」

 

黒女(くろめ)は渋谷事変と何の関わりもない直哉に冷たい視線を送っている。対して直哉は気に止めず飄々としている。

 

「ご無沙汰やねぇ、黒女(くろめ)ちゃん。しばらく見ぃひんうちに別嬪さんになったやん」

 

バンッ!

 

気さくに話しかけてくる直哉に1発の弾丸が迫ってきた。直哉は術式による素早い動きで1発の弾丸を容易く躱す。黒女(くろめ)の隣の街灯には、2丁拳銃を構えた女性・・・いや、骸人形が立っていた。

 

「こっちは世間話に来たんじゃないんだよ。私が用があるのは虎杖悠仁だけ。邪魔するならお前も殺す」

 

黒女(くろめ)の殺気が込められた視線に対し、直哉は態度を崩さず、肩を竦めている。

 

「怖いなぁ。邪魔も何も、俺が用があんのは恵君だけやねん。君が何しようと邪魔する気ぃはあらへん。堪忍したってぇな」

 

黒女(くろめ)が呪詛師になって、彼女が死刑を言い渡されていることは直哉も知っている。だが彼にとって自分が領主になること以外は心底どうでもいいのだ。その過程で彼女が何をしようと、直哉の目にはただありんこが餌を運んでいる程度の認識でしかない。ゆえに彼女の目的には興味がない。恵を釣るための餌である悠仁を徹底的に痛めつけてくれるなら、むしろ好都合でもある。

 

「ふん・・・まぁいいや。それより・・・君とは初めまして・・・っていうべきかな?私は黒女(くろめ)。君、七海のお気に入りだったらしいね」

 

「ナナミンを知ってんのか?」

 

「知ってるも何も、七海とは高専時代の同期だよ」

 

「!」

 

自分にとって尊敬していた大人の1人である七海健人。その彼の同期が黒女(くろめ)だとは知らなかった悠仁は驚いたように目を見開いている。対して黒女(くろめ)は敵意向きだしで彼に悪態をつく。

 

「こんな魔境で呪霊狩り?七海の意思でも引き継いだつもりなの?大層ご立派なことだね。菜々子と美々子は殺したくせに」

 

「・・・っ」

 

痛いところを突かれた悠仁は言葉を詰まらせ、渋い顔つきになる。そんな彼を庇うように脹相が前に出て眼光を光らせる。

 

「世間話に来たのではないのだろう。貴様はここに何しに来た?」

 

脹相の問いかけに対し、黒女(くろめ)は忌々し気に歯ぎしりを立てる。

 

「・・・何し来た?そこまで・・・言わないとわからないのか!!」

 

ヒュンッ!

 

「!」

 

黒女(くろめ)の怒号と共に悠仁の背後に仮面をつけたフードの骸人形が現れる。フードの骸人形は短剣に黒女(くろめ)から送られた呪力を纏い、悠仁に斬撃を放つ。悠仁は咄嗟に振り返り、後ろに後退して斬撃を躱す。しかし躱しきることができず、右腕にかすり傷ができてしまう。

 

「虎杖君!」

 

ヒュルルル!ガシィ!

 

「!」

 

アマテラスが悠仁を援護しようとすると、片手を翳すが、鞭を携えたもう1体の骸人形が鞭を伸ばし、アマテラスの片手を抑えた。そのタイミングで女性の骸人形が2発の弾丸を撃ち放つ。アマテラスは鏡を即座に作り上げ、自分を抑える鞭に落として鞭を切り、そのまま弾丸を防御する。

 

パンッ!ビュンッ!!

 

そこへ脹相が百斂で血液を圧縮し、黒女(くろめ)に向けて穿血を撃ち放つ。だが彼女の前にサングラスをかけたスキンヘッドの骸人形が現れ、呪力を纏った透明の盾で穿血を弾いて防御した。

 

「ちっ・・・!」

 

「あいつ・・・あんなに仲間を・・・!」

 

「違います。禪院黒女(くろめ)は死骸操術という術式を使います。つまりあれらは人ではなく死体です」

 

「!!」

 

ここまで現れた骸人形が死骸操術で操る死体であるとわかった悠仁は黒女(くろめ)に視線を向ける。

 

「その目は何?人殺しがどうこう言える立場だと思ってんの?」

 

「・・・・・・」

 

「菜々子と美々子だけじゃない。真奈美さんや祢木・・・私の家族はお前と特級呪霊の戦いに巻き込まれて死んだ。お前が・・・私の家族を殺したんだ!」

 

黒女(くろめ)の憎悪に満ちた声に対し、悠仁はスンとした表情で淡々と口を開く。

 

「・・・否定はしないよ。俺が殺した」

 

「・・・っ!!」

 

悠仁の言葉に開き直りと解釈した黒女(くろめ)はさらに憎悪を膨らませ、歯ぎしりを立てる。

 

「・・・私はお前を許さない。家族が受けた苦しみを・・・そっくりそのままお前に返してやる・・・!」

 

改めて相容れられないと断定した黒女(くろめ)は悠仁に敵意を燃やし、刀を構える。

 

(なんやよぉわからんけど、おもろいことになってきたな。もうちょい様子を見とこうか)

 

事情をわかっていない直哉はこの状況を面白がって諦観の姿勢で戦いの様子を眺めようとする。すると・・・

 

ズォォォォ・・・

 

「「「「「!!」」」」」

 

尋常ではないほどの強大な呪力がこちらに接近していることにこの場の全員が気づいた。

 

(五条先生⁉いや・・・もっと不気味な・・・!)

 

強大な呪力に冷や汗をかいている悠仁はその出所に向けて顔を向ける。視界の先の建物の上に、高専の特注の白い制服を着込み、刀を持っている少年の姿があった。

 

「あれ?1人じゃないんだ」

 

そう・・・特級呪術師の1人・・・乙骨憂太である。

 

(誰だ・・・?)

 

(誰であろうと、目的は言わずとも・・・)

 

「誰が虎杖君の・・・何?」

 

(やはり悠仁の死刑執行人か)

 

乱入してきた憂太に対し、3人は警戒を露にしている。

 

バッ!

 

ドオオオオオオオオオン!!!

 

刀を抜いた憂太は建物から飛び降り、車道に着地する。その際に車道は強い衝撃によってところどころに砕ける。

 

「・・・乙骨憂太・・・!」

 

(!乙骨⁉伏黒が言ってた2年の・・・五条先生と赤女(あかめ)先生と同じ、特級呪術師!)

 

憂太の名前だけは知っていた悠仁はその本人の登場に驚いている。

 

「お久しぶりです、黒女(くろめ)さん。百鬼夜行の宣戦布告ぶりですね。あなたも虎杖君を狙ってるんですか?」

 

「・・・っ!」

 

憂太から滲み出る呪力の凄味に黒女(くろめ)は怖気、一歩後ろに引いている。

 

「で・・・あなたは?」

 

憂太は直哉にも視線を向けている。直哉は飄々とした態度を崩さず、自身は味方であるとアピールする。

 

「ちょい待って。味方やで。禪院直哉。真希ちゃんの従兄で・・・そこの黒女(くろめ)ちゃんの・・・まぁ義兄妹や。君と同じで虎杖君殺せ言われとんねん。安心しぃ、君の邪魔はせぇへん。そこの2人と黒女(くろめ)ちゃんは俺がまとめて始末しといたる」

 

「結局そうなるわけね。鼻から期待してなかったけど」

 

手は出さないと言ったくせに憂太が来た途端に掌返しをする直哉に黒女(くろめ)は嘆息する。

 

「その代わり、虎杖君を殺してもそのことをしばらく上に黙っててくれへん?彼を餌に、会いたい人がおんねん」

 

直哉の発言に憂太はじろりと彼に視線を合わせている。

 

(恵君のこと黙っといた方がよかったな。肝冷えるわ)

 

飄々としているが、自分の目的がバレないか直哉は内心ながらドギマギしている。

 

「・・・いいですよ。じゃそっちは任せましたよ」

 

最優先事項は悠仁の処刑であると判断している憂太は脹相たちの相手を直哉に任せることにした。

 

「逃げるぞ、悠仁」

 

「ああ?」

 

2人が話している間に脹相は悠仁は逃げるように語り掛ける。

 

「金髪は種のあるスピードタイプ。あいつと追いかけっこはうまくない。対して女は使役タイプ。骸人形に囲まれたら逃げ場はない。俺とアマテラスが足止めをする」

 

「大丈夫かよ?」

 

(わたくし)たちより自分の心配をしてください。狙われてるのはあなたですよ、虎杖君。あの少年・・・乙骨憂太から逃げ切ることだけを考えてください。おそらく彼は五条悟と同タイプと見ました。戦ったら死にますよ」

 

(悠仁と人間を戦わせず、かつ俺たちに引け目を感じさせない提案・・・ふっ、世話の焼ける)

 

悠仁に気遣い、なおかつ彼に罪悪感を与えさせないその提案に手間はかかるものの、弟のためなら安いものだと考える脹相はふっと笑みを浮かべる。

 

「昨日の地点で落ち合いますよ」

 

「おう」

 

両者の話し合いが終わった頃合いで、先に動いたのは脹相だ。脹相は百斂で血液を圧縮し、憂太に穿血を撃ち放つ。同時にアマテラスは両手を広げ、悠仁のすぐ近くに転移の鏡を作り上げ、悠仁は鏡に入って遠くへ転移する。だが素早く動いて穿血を回避した憂太も速く、アマテラスが鏡を消すより先に鏡の中に入ってしまい、転移を許してしまった。

 

(速い!抜身の刀を持ってこれかよ⁉)

 

憂太の素早い動きに悠仁は逃げつつも驚きを隠せないでいる。

 

(速いな。走り出して潰すつもりだったのに)

 

憂太はそう考えながら、逃げる悠仁を追いかけるのであった。

 

 

(ちっ・・・!乙骨の進路を妨害するつもりが、読まれていたか!)

 

(虎杖君だけを遠くへ飛ばすつもりだったのに・・・なんて素早い動き!)

 

自分たちの作戦を読まれてしまい、憂太が悠仁を追いかけてしまうことを許してしまった2人は悔し気にしている。

 

「ちっ・・・逃がさない!」

 

出遅れてしまった黒女(くろめ)は舌打ちをし、悠仁を逃がすまいと走り出す。そこへアマテラスが掌に鏡を作り上げ、彼女に向けて光線を放った。それに気づいた黒女(くろめ)は跳躍して躱した。

 

「脹相!」

 

アマテラスの合図で脹相は頷き、赤燐躍動で自身を強化し、黒女(くろめ)の進路を妨害して彼女に拳を放つ。立ちはだかる脹相に黒女(くろめ)は彼が放つ拳をギリギリで躱す。そのタイミングでアマテラスは2人の真上に鏡を作り上げ、それを落とす。

 

「なっ⁉」

 

「俺と共に来てもらうぞ」

 

落ちる鏡は2人を覆い、どこかへ転移させる。そして、地に衝突すると同時に鏡が割れる。これによってこの場に残ったのはアマテラスと直哉のみだ。

 

「見とったで、さっきの。鏡の術式。珍しいもん持っとるんやね。初めて見たわ。でも攻撃に使った光線も、さっきの瞬間移動も、どれも鏡がないと使われへんもんや。君、鏡を作れるみたいやけど、そんなもんは俺の速さでどうとでもなる。ほんで、ここには鏡はあらへん。後は言わんでもわかるやろ。詰みや。降参するなら今の内やで。俺は健気な女には優しいんや」

 

余裕を見せている直哉に対して、アマテラスは呆れてる表情を見せている。

 

「・・・鏡を見ずとも、あなたの薄情な心が透けて見えます。女を舐めていると・・・痛い目を見ますよ」

 

構えをとるアマテラスは表情を真剣なものに切り替え、構えをとり、直哉と対峙するのであった。

 

 

一方、アマテラスの友鏡によって車道トンネルの中に転移した脹相と黒女(くろめ)は互いに距離を取る。

 

「・・・呪胎九相図。元々は加茂家にあった呪物だと聞いてるよ。で、あるなら受肉した後に得られる術式は当然、加茂家相伝の術式。さっきの赤血操術でしょ?それなら、穿血以外はそんなに怖くはない。そして、穿血を使うには百斂・・・大きな溜め技がいる。後は毒さえ気をつければいくらでも対処できる。あなたじゃ私には勝てない。これ以上邪魔をするなら、命の保証はできないよ」

 

警告の意味を込めて、黒女(くろめ)が刀を突きつける。それに対して脹相はブレることなく、両手を合わせて血液を圧縮する。

 

「貴様こそ・・・弟に手を出そうとして・・・生きて帰れると思っているのか」

 

表情を強張らせる脹相には殺意が込められている。その殺意に対して黒女(くろめ)はギロリと睨みつけ、同じく殺意で返すのであった。

 

 

脹相とアマテラスから離れ、憂太から逃げる悠仁はビルの中に身を潜め、彼からやり過ごそうとしている。しかし、ビルの外には大きな口の中に単眼が備わっている巨大な呪霊がビルの外から悠仁に手を伸ばそうとしている。忘れてはならないのだが、東京には呪霊が蔓延っている。攻撃を仕掛けてくるのは憂太だけではない。当然ながら呪霊も襲って来る。

 

悠仁は伸びてきた呪霊の手から距離を取り、走り出して窓を蹴破って外に出て、別の建物に飛び移り、廊下を歩く。そこへ、小型の蝙蝠型の呪霊が何体も建物を突き破って悠仁に突っ込んできた。蝙蝠呪霊の突進を掻い潜り、1体は羽を掴み上げてぐしゃりと握り潰した。そこから悠仁は窓から飛び降りて外に出る。

 

ガシィ!!

 

だがそこへ巨大呪霊に先回りをされ、悠仁は巨大呪霊に手に捕まってしまう。街中を飛び、ビルの上に高く飛ぶ呪霊を悠仁をビルの中に放り投げる。投げ飛ばされた悠仁は窓や壁を突き破り、外に出る。呪霊が空を飛び追い打ちをかけようとした時・・・

 

ザシュッ!!!

 

すると呪霊は刀によって斬られ、悠仁を巻き込む形で歌劇場に落ちていく。

 

ドオオオオオン!!!

 

呪霊の墜落によって歌劇場の天井は崩落し、舞台の上に不時着した悠仁は墜落に紛れて突き刺してきた憂太の刀を片手で受け止めた。

 

「くっ・・・!」

 

刀を受け止めた悠仁は憂太の顔に蹴りを放って、刀から手を放して飛び上がる。憂太は顔を逸らして悠仁の蹴りを躱し、彼に向けて刀を振るった。悠仁はその斬撃を顔を逸らして回避し、観客席に着地する。

 

(絶対斬ったと思ったのに・・・真希さんみたいだ)

 

憂太は刀を構え直し、悠仁に接近して刀の連撃を放つ。悠仁は繰り出される連撃を躱していく。そして最後の一撃を悠仁は高く跳躍して躱す。対して憂太は自身の呪力を足に纏わせ、悠仁に向かって突っ込んできた。

 

ドオオオオオン!!

 

憂太の呪力によって強い衝撃が走り、悠仁は吹っ飛ばされて歌劇場の外に転がる。

 

「驚いた?パワータイプに見えないもんね?実際非力だしね」

 

見た目に反して強い一撃を放つ憂太の攻撃。それらの一撃は全て、彼のみに纏う桁外れの呪力が関係している。

 

(パワーがなくても・・・とんでもねぇ呪力量だ・・・!パワー不足を呪力評価で補ってる!みんなやってることだけど、この人がやると・・・!)

 

呪力を纏わない憂太の一撃はひ弱な方だ。そのパワーを不足を巨大な呪力を纏わせることで火力を補っているのだ。これは術師ならば皆やっていることだが、強大な呪力を持つ憂太がやるととんでもない力を発揮する。呪力は低いが高い身体能力でそれを補う悠仁とは全く真逆に位置している。

 

「俺と真逆だな・・・!」

 

「気付いた?五条先生や赤女(あかめ)先生より多いんだよ、呪力量」

 

「いっ・・・⁉」

 

「でも五条先生には六眼があるから、術式を発動した時のエネルギーのロスが限りなく0なんだ。僕に呪力切れはあっても、五条先生にはないしね。対して赤女(あかめ)先生は、刀で斬られたら即死を招く呪毒の術式、一殺呪毒を使うんだ。かすり傷でも死んじゃうから、僕が赤女(あかめ)先生だったら刀を受け止めた時点で君は死んでたよ。殲滅力では五条先生を含めて、特級呪術師の中で赤女(あかめ)先生の方が圧倒的に上だし、パフォーマンスの1、2を争うのはやっぱりあの2人だよ」

 

自分が初めて宿儺を取り込んだ時、赤女(あかめ)は刀を外していた状態で宿儺を圧倒した。もしそこに刀が装備されていたら、宿儺も自分も死んでいたかもしれない。そう考えると、悠仁はぞっとする。

 

「話は終わり」

 

話を切り上げた憂太は刀を構え直し、再び悠仁に斬りかかる。

 

(くそ・・・!)

 

悠仁は憂太の斬撃を躱し続けながら、以前東堂が話していた話を思い返す。

 

『1人前の術師ほど、呪力の流れが読みづらいものだ。お前とは違う理由でな』

 

(あれは一流ほど、呪力操作の精度が高いから、直前まで攻撃が予測できないという意味だ!でもこの人は、刀を含め、全身から常に呪力が立ち上ってる!動きを読む読まない以前の問題!全ての攻撃が決定打になり得るし、全ての攻撃を最小限に抑えられる!)

 

常に呪力が立ち上っているため、動きを読もうが読むまいが、全ての一撃が致命傷になる。ゆえに呪力操作をしっかり練り合わせないと、即死にもなり得る。

 

憂太の斬撃を躱した悠仁だったが、拳を叩き込まれて後退する。そんな時に脳裏に浮かび上がるのは、今も記憶に残り続けている七海とシェーレの最期の言葉だ。

 

『『後は頼みます』』

 

「悪いけど、まだ死ぬわけにはいかねぇんだわ・・・!」

 

悠仁は憂太が振り下ろす刀を躱し、車を窓から飛び越え、座席にあったナイフを手に取り、呪力をナイフに込める。その時に悠仁は悟の言葉を思い出す。

 

『タイプによっては赤女(あかめ)みたいに得物の扱いを軸に修行を進めるんだけど・・・呪具頼りとかになって呪力操作が疎かになっても嫌だし・・・悠仁にこういうのはまだ先かな。屠坐魔は応急処置』

 

(習ってねぇんだよ!)

 

憂太は跳躍して悠仁に向けて刀を振り下ろし、悠仁は呪力を流したナイフで斬撃を受け止める。

 

「意識が刀に向きすぎ」

 

ドゴォ!!

 

「ごは・・・!」

 

だが刀に集中しすぎたせいで他が疎かになり、悠仁は憂太の膝蹴りをまともに受けてしまう。

 

「ぐ・・・うああああああ!」

 

悠仁は負けじとナイフを憂太に突きつけるが、憂太が振るった刀によってナイフは折られ、腹部に切り傷ができあがる。だが同時に、憂太の刀も折れる。悠仁は折れた刀を憂太に向けて蹴り上げる。憂太は後退して刀の切っ先を回避する。

 

「折られた・・・ま、そうだよね。五条先生の教え子だもん。一筋縄じゃいかないか」

 

悠仁は折られたナイフを捨て、まっすぐに憂太に突っ込んでいく。

 

(傷は深い!でも内臓は出てねぇ!これでお互い丸腰だ!いける!)

 

得物が失ったことにより、勝機を見出した悠仁は一気に畳みかけようとする。すると・・・

 

ズゥゥゥ・・・ギュウウウウウウ・・・

 

【何してるのぉぉぉぉ・・・?】

 

突然黒き渦が現れ、そこから巨大な両腕現れて、悠仁を掴んで抑えつける。さらに白い渦の中より、呪霊に似た姿をした白い何かが現れる。抑えられた悠仁は現れたそれに冷や汗をかいている。

 

「遊んでるだけだよ、リカちゃん」

 

(リカ⁉なんだこいつ⁉どこから出てきた⁉)

 

何の前ぶれもなく現れた存在・・・リカに押さえつけられている悠仁は脱出しようともがくが、ビクともしない。

 

「抑えててね」

 

(動けねぇ・・・!なんつー力だ!)

 

動けない悠仁に憂太はゆっくりと近づき、折れた刀を切っ先を・・・彼の心臓に目掛け・・・

 

ズンッ

 

「・・・ごめんね・・・虎杖君」

 

心臓を貫かれ・・・悠仁は二度目の死を迎えることとなってしまった。

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