呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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もう一度

東京の車道に残ったアマテラスは直哉に攻撃を仕掛けようとするが、それより速い直哉は彼女に拳を叩き込んだ。

 

「ごあ・・・!」

 

彼女を壁に叩きつけ、直哉は速さを生かしたラッシュを叩き込んでいく。反撃を仕掛けようにもあまりの速さに意味もなさず、一方的にラッシュを叩き込まれる。

 

(速い・・・術式の種がわからない・・・ここまで圧倒されれば、あちらから開示もあり得ないでしょう・・・鏡の生成が、追いつかない・・・!)

 

最後の強力な一撃を食らったアマテラスは壁をぶち破って吹っ飛ばされる。しかし、どれだけの猛攻を受けても、相当タフなのか彼女は立ち上がる。

 

「しぶと。マジで何なん君?」

 

直哉の問いかけに、アマテラスは構えながら答える。

 

「・・・姉です。5人姉弟のね」

 

「答えになってへんねん。俺は術式と、そのしぶとさのことを聞いとんねん」

 

直哉はまたも素早い動きでこの場にいなくなったように見せ、アマテラスの視界を錯乱させる。アマテラスは目を閉じ、目で追わず耳を澄ませて直哉の出所を掴もうとする。

 

タタタタタッ!

 

「!」

 

足音が聞こえたところでアマテラスはそこに向かって掌底を放つ。位置は正解だったが、直哉は術式で素早くアマテラスの背後に回り込んだ。

 

シュルルルッ!!

 

そうくると予想したアマテラスは後ろ髪を束ね、髪の槍を作り上げ、そのまま直哉を突き刺そうとする。

 

(合わせてきよった。しかもこいつ・・・)

 

直哉は迫ってきた髪の槍を屈んで躱し、懐にしまった懐刀を抜いて髪ごと背中に斬撃を放った。

 

「ぐっ・・・!」

 

背中に傷を負ったアマテラスは前方に転がって態勢を整え、直哉に視線を向ける。

 

「知っとるで、それ。羅刹四鬼が使うとる皇拳寺の身体操作って奴やろ。なんで君がそれ使えんのか知らんけど、残念やったな。こっちはカウンター前提で動き作っとるんや。君しつこいから使わせてもろうたで、得物」

 

直哉は懐刀についた血を拭き取り、それを鞘に納める。

 

「その身体操作でどこまでやるか試してみよか?」

 

「意外に用意周到なんですね」

 

「内緒やで?ぶっちゃけダサい思うとんねん。術師が得物持ち歩くんは。それがないと勝たれへんってことやし。意外とおんで?同じ考えの奴。俺の兄さん方もぶらぶらとみっともないねん。よおあれで甚爾君のことやいやい言えたもんや」

 

「お嫌いなんですね。兄弟が」

 

「嫌いやね。弟より出来の悪い兄おる意味ないやろ。首くくって死んだらええねん」

 

アマテラスは呪具のことに対してはとやかく言うつもりはない。だが兄弟の話となれば話は別だ。

 

「その兄上のおかげで今のあなたがあるのかもしれませんよ?」

 

「は?今、めっっっっちゃキショいこと言うたぁ?ドン引きやわ」

 

「出来がよかろうと悪かろうと、兄や姉はお手本なのです。(わたくし)が道を踏み外したのならば、下の姉弟はその道を避ければいい。(わたくし)が正道を歩むのならば、下の姉弟は後をついて来ればいい。あなたが強いのは、兄上が弱かったおかげだったとしたら、どうします?」

 

アマテラスの指摘に癪が触るのか直哉は少し睨んだ表情を浮かべる。

 

「あなたはなぜ(わたくし)がしぶといのか聞きましたね」

 

「!」

 

「その答えは簡単です」

 

軽い風が吹くと、斬られたアマテラスの髪が風に流される。その拍子によって髪に隠れていた割れた鏡が露になる。直哉はそれに勘づき、素早い動きでその場を離れる。

 

(わたくし)は自分の過去や未来を鏡で見通せない。つまりお手本となるものが何1つない。完璧であろうとしても何度も間違える。この世に完璧など存在しないのだから。それでも、完璧でないなりにも、妹や弟の前を歩き続けなければならない。だから(わたくし)も、脹相も強いのです!!」

 

ビカァ!!!

 

「うっ・・・!」

 

割れた鏡は強烈な光を放ち、辺り一帯を白く輝かせた。あまりに強い光に直哉は思わず目を閉じた。光を直視しないように目を半分開けると、アマテラスの髪で束ねた槍が複数迫ってきた。直哉は視界が安定しない状況下の中で術式で速い動きを作って迫りくる槍を1つずつ避けていく。

 

(なんやねんこいつ・・・!ほんまに人間なんか・・・⁉)

 

ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!

 

直哉が全ての髪の槍を避けきり、光が収まった直後、槍が突き刺さった個所に仕込まれた鏡が光線を放ち、直哉に迫る。直哉は咄嗟に新しい動きを作り上げ、素早く光線を躱す。走っていくたびに光線は撃ち放たれ、直哉は素早い動きで光線を躱しきることに成功した。だが光線に気をとられ、アマテラスを見失ってしまう。

 

(あの女・・・どこにいきよった・・・?)

 

直哉が辺りを見回し、アマテラスを探っていると、彼の背後に数多の鏡を作ったアマテラスがそこに立っていた。

 

「この言葉、そっくりそのままあなたに返しましょう・・・詰みです」

 

「・・・どうやろうなぁ?」

 

彼女の宣言に対して、直哉は不遜な態度を崩さず、術式を発動させて素早くアマテラスに接近する。アマテラスは作った鏡に光線を直哉に向けて撃ち放つ。だが直哉はその光線を躱す動きを作って、難なく光線を素早く躱していく。

 

(俺の術式は事前に24fpsで作った動きをトレースする。そんな光線、足止めにすらならへんねん!)

 

ヒュンッ!ドゴォ!!

 

直哉は直毘人と同じ術式、投射呪法で全ての光線を躱しきり、アマテラスの腹部に強烈な拳を叩き込んだ。

 

ピキ・・・ピキ・・・パリィィィン!!!

 

直後、アマテラスの体にヒビが入り、鏡のように粉々に砕け散った。

 

(なんやと・・・偽物・・・⁉)

 

直哉が驚いていると、本物のアマテラスは直哉の背後に回り込み、術式を使わせる暇を与えずに拳をぐっと握りしめる。

 

「顕微鏡的」

 

ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!

 

周りに浮いていた鏡は彼女の意思と連動するように爆発し、飛び散った破片も爆発を引き起こす。

 

「ごは・・・!」

 

度重なる爆発に飲まれた直哉はよろめく。アマテラスはそのタイミングで直哉の目の前まで一瞬で転移し、彼の腹部に両手からなる掌底を放つ。一瞬のことで直哉は術式を発動できず、まともに掌底を受ける。

 

「万華鏡」

 

両手の掌の鏡から大きな光が放たれ、直哉はそれに飲みこまれて吹っ飛ばされ、柱に強く叩きつけられる。直哉が倒れると同時に、柱が崩れ、彼は瓦礫に埋もれてしまう。

 

「ごほっ・・・!クソがぁ・・・!!」

 

「・・・兄弟を愛することができないあなたの気持ちは理解できませんし、したくもありません」

 

アマテラスは反撃される前に、直哉にとどめを刺そうと鏡の光線を撃ち放とうとした時だった・・・

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

「!!」

 

バキィ!!

 

背後から強烈な気配を感じ取り、振り返った瞬間アマテラスは殴り飛ばされ、気を失った。彼女を殴り飛ばしたのは悠仁の相手をしていた憂太だった。憂太は悠仁の遺体を引きずってゆっくり近づき、瓦礫に埋もれてる直哉を見下ろす。

 

「・・・ずいぶんボロボロですね、直哉さん」

 

(・・・見下ろすなや・・・!!)

 

感情が読めず、自分を見下すような視線で見下ろしてくる憂太に対し、直哉は憎々し気に彼を睨みつける。そんな彼に対し、憂太は右手にある提案をしてくる。

 

「治しましょうか?」

 

「!」

 

「僕の反転術式、人も治せますよ」

 

反転術式。それは負のエネルギーとは違う生のエネルギー。この力があればどんな致命傷でも治すことができる。しかしこれは膨大な呪力量が必要とするため、習得は困難である。そして他人を治すという技術は反転術式を習得するよりも困難であるため、悟や赤女(あかめ)ですら会得できていない。だが憂太はその両方を兼ね備えている。

 

「その代わり・・・虎杖君の死はあなたの口からも上から報告してください」

 

下手に逆らっても今の状況では憂太には敵わないことはわかっている直哉は、渋々ながらも、その提案を了承するしかなかった。

 

 

一方その頃車道トンネル内部で黒女(くろめ)と対峙する脹相は両手に圧縮した血液からなる穿血を彼女に撃ち放つ。そこへサングラスをかけたスキンヘッドの骸人形、ウォールが前に出て透明の盾を構え、穿血を反射する。反射された穿血は脹相に目掛けて迫って来る。脹相は反射された穿血を咄嗟に横跳びで躱す。が、躱した先で仮面をつけたフードの骸人形、ヘンターが回り込み、脹相にバタフライナイフを振るった。

 

「ちっ・・・!」

 

振り返りざまに脹相はヘンターに拳を振るったが、ヘンターは拳を素早く躱し、変則的な動きで脹相の視界を惑わせる。脹相がヘンターに気を取られてる隙に女性の骸人形、ドーヤが二丁拳銃の弾丸を撃ち出した。

 

(こいつら・・・強い!おそらく生前は名の知れた術師に違いない!それぞれの特徴を生かした猛攻・・・反撃する機会が見えない・・・!)

 

考察する脹相は顔の模様から血液を放ち、それを破裂させて飛び散らせることで迫ってきた弾丸を弾いた。そのタイミングを狙って、鞭を携えた骸人形、緑郷(ろくごう)が脹相の足元に鞭を放って、彼の足場を陥落させた。

 

「ぬぉ・・・!」

 

落下していく脹相に向けて、緑郷(ろくごう)は目にも止まらない鞭さばきで彼にダメージを与える。陥落した影響で土埃が発せられている。

 

ビュンッ!

 

すると、土埃の中より噴射された血液と共に脹相が飛び出し、地に着地する。耐え忍ぶ脹相に黒女(くろめ)はウンザリした表情を見せる。

 

「しつこ。なんでそうまで虎杖悠仁を庇うの?」

 

「愚問だな」

 

脹相は黒女(くろめ)に視線を向け、問いかけに答える。

 

「俺が、お兄ちゃんだからだ」

 

脹相が答えると同時に、顔の模様が広がっていく。

 

(赤燐躍動・戴)

 

「答えになってないんだよ。君の弟を殺した虎杖悠仁を、なんで弟って呼んでるだって聞いてるんだよ」

 

黒女(くろめ)は術式で緑郷(ろくごう)を操り、緑郷(ろくごう)は目にも止まらない鞭さばきを脹相に放つ。だが脹相は拳をぐっと握りしめ、地面から血液を噴射させて緑郷(ろくごう)の鞭さばきを防御する。そこへヘンターが脹相の背後に回り込んだ。

 

ドカァ!

 

だが赤燐躍動・戴で動体視力が強化された脹相はヘンターの動きを見抜き、拳を放って殴り飛ばす。そこへ、ドーヤが弾丸を撃ち放つ。走り出した脹相は模様から血を噴き出し、弾丸に放って相殺させる。走り出す脹相にウォールが立ちふさがり、ウォールは盾に搭載された仕込み銛を放つ。だが脹相は仕込み銛を躱し、ウォールを通り抜け、拳を構えて黒女(くろめ)に迫る。

 

ザンッ!!

 

「シン・陰流―――抜刀!!」

 

「ぐぉ!!」

 

だが黒女(くろめ)は事前にシン・陰流の技、抜刀を放てるように構えていたため、脹相が拳を放つより先に抜刀し、脹相の腹部を斬りつけた。

 

「なるほど。赤燐躍動か。それを外眼筋に集中させて動体視力あげて、骸人形の攻撃に対処したのか。けど残念。こっちはカウンター前提にシン・陰流を覚えてるんだよ」

 

黒女(くろめ)は刀を振るって刀身についた血を払い除ける。

 

「あ、そうだ。ちょうどよかった。実は渋谷で骸人形を半分くらい減ってるんだぁ。あなたを殺して、骸人形の仲間に入れてあげるよ。私、まだ受肉体を殺したことがないんだぁ」

 

脹相は腹部にできた傷を抑えて口を開く。

 

「・・・お前に聞きたいことがある」

 

「?」

 

「お前は禪院赤女(あかめ)の妹だな。なぜ姉の元を離れ敵対している?お前は姉を愛してないのか?」

 

「なんでそんなことをあなたに教えなくちゃいけないんだよ?こっちの事情に首を突っ込むな」

 

「お前に1つ教えてやる。兄は弟たちの道しるべだ。兄が間違っているのならば、弟はその道を避ければいい。だが弟が間違った道を歩んでしまったのならば、兄は全力で止めなくてはならない。お前の姉も、同じ気持ちを抱いているのではないか?」

 

知った風な口ぶりをする脹相に黒女(くろめ)は腹を立て、彼を睨みつける。

 

「お前は先ほど、悠仁が俺の弟を殺したと言ったな。それは大きな間違いだ」

 

ピチャンッ・・・

 

「!!」

 

脹相から滴る血液を見て、何かを察した黒女(くろめ)は咄嗟に彼から離れる。

 

「俺は間違った決断を出してしまった。それが間違いだと気づかず、弟たちを巻き込ませてしまった。壊相と血塗が死んだのは、俺の決断が間違っていたからだ。断じて・・・悠仁のせいではない!!」

 

バッシャアアアアアン!!!

 

黒女(くろめ)が離れた途端、脹相の傷から大量の血液が溢れだし、車道トンネルを覆い尽くそうとする。

 

(しまった・・・!これほどの出血量・・・ウォールの盾も意味を成さない・・・!)

 

黒女(くろめ)はすぐに召喚した骸人形の召喚を解除し、別の骸人形を召喚し、骸人形が召喚するサメの式神の背に乗って、サーフボードの要領で血液の海の波に乗る。

 

九相図は呪霊と人間の混血。呪力を血液へと転換できる特異体質。呪力が枯渇しない限り失血死することもない。

 

ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!

 

血液が溢れてる中でも脹相は黒女(くろめ)に向けて穿血を撃ち放つ。黒女(くろめ)はサメの式神をうまく利用して連発でくる穿血を躱し続ける。だがその最中で、血液の海が大きな水飛沫を上げ、黒女(くろめ)を飲みこもうとする。

 

(!!マズい・・・!)

 

バッシャアアアアアアン!!

 

咄嗟に対応しようとするが、間に合わず黒女(くろめ)は血液に飲まれる。直後、血液の海は引いてきたが、地面一帯は血液でぬかるんでいる。

 

(足が重い・・・靴や服に染みてる血がもう固定してる・・・!)

 

血液によって動きが鈍くなった黒女(くろめ)の前に、穿血の構えをとる脹相が現れる。

 

「これで終わりだ」

 

「・・・どうかな?」

 

黒女(くろめ)は再びウォールを召喚し、これから来るであろう穿血に迎え撃とうとする。

 

(このウォールは防御に徹した術式を持ってる。素早く動けなくたって、穿血さえ止めてしまえばどうとでもなる)

 

ウォールが現れても、脹相は辺りに染みてる血液を両手に収束させて、穿血の構えを解かない。だがそれでも、撃ってくる気配がない。

 

(・・・何で撃ってこないの?)

 

穿血を撃とうとしない脹相に黒女(くろめ)は疑問を浮かべている。その最中、天井に染みついている血液が滴り落ちてくる。その滴り落ちてきた血液を見て、黒女(くろめ)は目を見開く。なぜなら滴り落ちる血は、空中の中で圧縮しているからだ。

 

これは150年、自らの術式と向き合い続けた脹相のオリジナル。その拡張術式の名を・・・

 

「超新星」

 

パァン!!パパパパパパパパパパァン!!!!

 

滴り落ちるいくつもの血液は空中の中で散弾銃の発破のように連鎖的に爆発する。超新星には対応できなかった黒女(くろめ)は目の前の血液の破裂をもろにくらい、吹っ飛ばされる。これによって、ウォールの操作が疎かになる。

 

ビュンッ!!

 

それを狙い、脹相はここで穿血を撃ち放ち、ウォールの胴体を貫き、真っ二つに引き裂いた。これで仮に動いたとしても、まともな戦力にはならないだろう。

 

「ぐっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

倒れ伏す黒女(くろめ)は起き上がろうとするが、血液によって体が重く、ダメージも相まってうまく起き上がれない。

 

「・・・悪いが、弟を狙うお前を、このまま野放しにはできない」

 

脹相は彼女にとどめを刺そうと歩みを進める。すると・・・

 

ピチャ・・・ピチャ・・・

 

「!」

 

背後から圧倒的な存在感を感じ取り、脹相は振り向く。

 

ドカァ!!

 

「ぐっ⁉」

 

殴り飛ばされた脹相は壁に叩き込まれる。この場に現れた圧倒的存在・・・憂太は倒れている黒女(くろめ)に近づく。

 

「・・・辛そうですね、黒女(くろめ)さん」

 

「・・・乙骨・・・!!」

 

憂太を見た黒女(くろめ)は彼が引きずっている者を見て、目を見開く。それは、気を失っているアマテラスと、悠仁の遺体であった。

 

「虎杖・・・悠仁・・・」

 

悠仁の遺体を見て、黒女(くろめ)は憂太を睨みつける。それもそうだ。悠仁が死んでしまっては、胸にくすぶるどす黒い憎悪を向ける相手がいなくなる。本当の意味で、恨みを晴らすことができなくなるからだ。

 

(ふざけんな・・・!こいつが死んだら・・・このどす黒い感情をどう発散すればいいんだ・・・!!)

 

恨めしく睨む黒女(くろめ)だったが、彼女の身体に異常が走る。

 

「⁉うぉえぇ!!」

 

体に異常が走った黒女(くろめ)は血反吐を吐き出した。これは・・・毒による症状だ。

 

(くっ・・・毒がもう体に・・・!受肉体の血は毒物・・・人外の血が入って、体がそれを拒絶してるんだ・・・!)

 

超新星によって黒女(くろめ)は脹相の血を取り込んでしまったのだ。その結果が、今の症状だ。

 

「治しますよ、あなたの怪我」

 

「!」

 

敵であるはずの自分を治す。憂太の口からそう聞いた黒女(くろめ)は驚き、彼に顔を向ける。

 

「立場上では、あなたを殺さないといけない。でも僕はミゲルさんにあなたを頼まれましてね。僕はあなたを殺すことができない」

 

(ミゲルが・・・?)

 

「それに、あなたと話をしたい人が、別にいまして」

 

「?」

 

「だから、取引をしませんか?条件を呑むのでしたらここは見逃します。ただ・・・断れば、少し手荒なことをするかもしれません。どうしますか?」

 

憂太の狙いが何なのかわからない。ただ、こんな手負いでは結果は目に見えているため、黒女(くろめ)はこれから話す憂太の条件に耳を傾けるのであった。

 

 

彼が目を開き、ぼやけた視界に映るのは、1人の青年と、1人の老人であった。

 

老人は祖父、虎杖倭助。そしてメガネをかけた青年は虎杖仁。彼の父だ。2人は何か言いあっている様子だ。

 

『仁!』

 

『何ですか、父さん。彼女の話をするなら帰りますよ』

 

『仁・・・お前がどう生きようとお前の勝手だ。だが・・・あの女だけはやめとけ!死ぬぞ!』

 

『悠仁の前で変な話はやめてください。案外覚えてるそうですよ、赤ん坊の記憶』

 

『お前が子供を欲しがっていたことも、『香織』との間にそれが叶わなかったことも知ってる。だが香織が『死んだ』のは・・・』

 

『お義父さん』

 

倭助が仁に何かを訴えるような声を上げている。だが話は1人の女性が入ってきたことで遮られた。

 

『何の話ですか?』

 

その女性・・・虎杖香織の額には・・・『縫い目』があったのだ。死人と思えるような彼女の浮かべる笑みは・・・不気味さしか浮かばなかった。

 

 

「!!」

 

焚火の音が鳴る何もないどこかで、悠仁は目を覚ました。

 

「・・・あれ・・・?俺・・・?」

 

ゆっくりと起き上がった悠仁は何が何だかわからず、困惑している様子だ。それはそうだ。自分は確かに憂太の折れた刀によって心臓を貫かれたはずだ。生きているのはおかしい。そう思って顔を振り返ってみると・・・そこには段差に腰かけた憂太の姿があった。

 

「・・・・・・」

 

悠仁を見ている憂太は彼が起きたところを見て、がくりと顔を項垂れる。そして・・・

 

「・・・よかったぁ~・・・」

 

顔を上げてへなへなと頼りなさそうな笑みを浮かべて、安堵の表情を浮かべている。

 

「・・・え・・・?」

 

今でも困惑している悠仁だが、これにはさらに困惑している。冷めた顔つきで自分を殺そうとしていた相手が急に態度を変えて笑っているのだ。無理もない話だ。

 

「・・・9月頃かな?先生たちがわざわざ会いに来てね。君のことを頼まれたんだ。それで・・・やむを得ず芝居を打たせてもらった」

 

「・・・芝居・・・?」

 

状況が読みこめていない悠仁に、憂太は詳しいことを説明する。始まりは・・・9月頃に遡る。

 

 

9月、アフリカ

 

『ちょ~~っと嫌な予感がしてさ。僕たちになんかあったら、今の1、2年を憂太に頼みたくて』

 

『秤の方は心配しなくてもいい。停学中だが、私のかわいい教え子だからな』

 

『何かって・・・恋愛関係ですか?』

 

『・・・違う』

 

『憂太も冗談言うようになったんだね・・・』

 

『いや・・・先生たちの間に何かって想像つかなくて・・・』

 

『・・・特に1年の虎杖悠仁。あいつは憂太と同じで1度秘匿死刑が決まった身だ。注意を払ってもらえると助かる』

 

『・・・あ、ミゲルは?』

 

『先生たちには会いたくないそうです』

 

『『・・・・・・』』

 

 

そして、悟の嫌な予感は的中し、悟は封印、赤女(あかめ)は濡れ衣を着せられて呪詛師の汚名を受けてしまった。それを知った憂太はすぐに行動に移すこととなった。その1つが、悠仁の処刑だ。

 

「他に執行人を立てられたり、虎杖君の情報が断たれるよりはこう立ち回ることがベストだと判断した。あっちもバカじゃないから総監部とは執行人として認めてもらう代わりに虎杖君を殺すっていう縛りを結んだんだ。だから1度殺した。ごめんね」

 

「・・・いや・・・じゃあなんで俺は生きてんだ・・・?」

 

悠仁は血が染み込んだシャツを握りしめ、当然の疑問を口にした。その疑問に憂太は答える。

 

「反転術式だよ」

 

「!」

 

「君の心臓は止まると同時に反転術式で一気に治癒した。以前の君の話を聞いていたから、いけると思って。僕が生のエネルギーをそのままアウトプットできる人を知ってる人は少ないしね」

 

つまり憂太は悠仁の心臓を貫いたと同時に、反転術式を使って心臓を治したのだ。原理としては宿儺が悠仁が心臓を治したものと同じだ。

 

「そう・・・君の死を偽装するのはこれで2度目だ。すぐばれるかもしれないけど・・・状況が状況だしね。虎杖君の死刑はとりあえずは執行済みで処理されるはずだ」

 

確かに憂太の証言だけならともかく、とりあえずは直哉の証言も合わされば総監部も渋々ながら納得はするだろう。だが悠仁にはわからなかった。自分の死の偽装が総監部にバレたら処分されてしまうリスクを冒してまで自分を助ける理由が。

 

「・・・どうして・・・そこまでして・・・」

 

「僕が大切にしている人たちが君を大切にしているからだよ」

 

理由を答えた憂太は自分の身の内を悠仁に話す。

 

「僕も1度身に余る大きな力を背負ったんだ。でも、背負わされたと思っていた力は、僕自身が招いたものだった。君とは違う。君の背負った力は君の力じゃない」

 

憂太は渋谷事変での出来事を知っている。悠仁が宿儺と入れ代わり、残虐限りを尽くしたことも。人を殺したのが彼だとしても、それは彼が望んだことではないことも。

 

「君は悪くない」

 

自分には罪がない。そう言われても、悠仁は納得できず、顔を俯かせる。

 

「・・・違うんだ・・・。俺のせいとかそういう問題じゃなくて・・・俺は・・・人を・・・」

 

「悠仁!」

 

「虎杖」

 

「!!」

 

悠仁が胸の内を明かそうとすると、タイミングよく話に割って入ってきた声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に悠仁は振り返る。そこには悠仁のクラスメイトである和倉(たつみ)と伏黒恵がいた。

 

(たつみ)・・・伏黒・・・」

 

「お前何してんだ!早く戻るぞ!今高専の結界が緩んでる!直接顔を見られなかったらお前が戻っても大丈夫だ!先輩たちが待ってる。1回戻って・・・」

 

「やめろ!!」

 

(たつみ)が悠仁の腕を掴んで無理にでも立ち上がらせようとしたが、悠仁はその手を振り払い、彼らを拒んだ。

 

「当たり前のように受け入れるな!なかったことにするんじゃねぇ!俺は人を殺した・・・俺のせいで大勢死んだんだぞ⁉」

 

「俺たちのせいだ!」

 

「っ!」

 

悠仁の主張に恵が遮る。

 

「お前1人で勝手に諦めるな」

 

(・・・そりゃ・・・お前はそう言うさ・・・)

 

顔を俯かせる悠仁に恵は頭をかき、言葉を続ける。

 

「・・・俺たちはヒーローじゃない。呪術師だ。俺たちを本当の意味で裁ける人間はいない。だからこそ・・・俺たちは存在意義を示し続けなくちゃならない」

 

(・・・違うんだ・・・伏黒・・・)

 

「もう俺たちに自分のことを考えてる余裕はねぇんだ。ただひたすらに、人を助けるんだ!これはそもそも、お前の行動原理だったはずだ!」

 

(それじゃあお前らは・・・俺が隣にいる限り・・・ずっと苦しむことになるんだぞ・・・!)

 

悠仁を説き伏せようとする恵だが、悠仁自身は誰も傷つけたくない思いから、彼の主張を聞き入れようとせず、苦悩する表情を見せている。

 

「まずは俺を助けろ!虎杖!」

 

「・・・・・・え・・・?」

 

だが、恵の助けを求めるという思いがけない言葉を聞いて、悠仁は顔を上げた。どういうことなのか、(たつみ)が説明する。

 

「悠仁。お前は覚えてるよな。加茂憲倫(のりとし)が言ってた呪術を与えられた人同士の殺し合いを。名前は『死滅回游』。その死滅回游に伏黒の姉ちゃん・・・津美紀さんが巻き込まれた」

 

10月31日に偽夏油がマーキングした1000人の非術師が呪術を覚醒した。津美紀もその中に含まれている。その時点で彼女はその殺し合いの場・・・死滅回游に巻き込まれてしまったのだ。

 

「俺たちは死滅回游の平定のために動いてる。けど、俺たちだけの力じゃ足りねぇ」

 

「・・・頼む・・・虎杖・・・お前の力が必要だ」

 

恵は悠仁に向けて頭を下げ、協力を申し出ている。その彼の表情は・・・怒り、焦燥、悔恨など様々な感情が入り混じって歪めていた。そんな彼の表情を見て、(たつみ)も自分のことのように悔やんだ顔をしている。2人の顔を見て悠仁は唖然としていたが・・・すぐに決意を固め、表情を引き締める。

 

「・・・乙骨先輩。宿儺が伏黒で何か企んでる。渋谷であいつに身体を取られたのは、多分一度に指を10本以上食わされたからだ。俺の中に、今指は15本。残り5本1度に全部食わされても、体は乗っ取られないと思う。それでも・・・もし次俺と宿儺が代わったら、迷わず殺してくれ。赤女(あかめ)先生や先輩ならできると思う」

 

宿儺の目的がなんなのかわからないが、少なくとも恵を利用することだけはわかっている。宿儺の暴挙を止める意味も込めて、悠仁は憂太に縛りを持ちかけた。

 

「・・・わかった。ベストを尽くすよ」

 

憂太は了承して、悠仁との縛りを結んだ。保険はこれでいい。次はこれから何をするべきなのか・・・それを知る必要がある。

 

(たつみ)、伏黒、俺は何をすればいい?」

 

4人は焚火の周りに座り、これからするべきことを話し合う。

 

「まず高専に戻って天元様と接触する。獄門疆の封印の解き方、加茂憲倫(のりとし)の具体的な目的と、今後の出方・・・死滅回游は未曽有の呪術テロ。事態を収拾するにはこの2つ回答がマストだ。この問いに答えられるのは天元様しかいない」

 

「あの人たち・・・九十九さんとナジェンダさんは知らねぇか?」

 

「あの人たちにはもう話したよ。これは九十九さんの案なんだ。あの人たちは今、赤女(あかめ)とツクヨミと一緒に高専に潜伏してるよ」

 

「潜伏?」

 

「渋谷の事件の後、赤女(あかめ)は処刑を言い渡されたんだ。それを逃れるために九十九さんのとこに」

 

赤女(あかめ)が処刑を言い渡されたことは知らなかった悠仁はその事実に驚き、目を見開く。

 

「九十九さんたちも九十九さんで上層部と関わりたくないらしい」

 

「問題は、天元様を隠す結界なんだ」

 

天元に会いに行くための問題点を憂太は話す。

 

「シャッフルが繰り返される1000の扉の内、1つだけが天元様のいる薨星宮へと繋がってる」

 

「それを引き当てなきゃ天元・・・様に会いにいけねぇわけか・・・」

 

ゆっくりと起き上がった悠仁は恵と(たつみ)に顔を向け、気になってることを聞こうとするが、言い淀んでいる。

 

「・・・ごめん、(たつみ)、伏黒・・・」

 

今聞くべきではないと思い、口を慎んだが、どうしても気になることであるし、何より決心を付けたい意味もこめて、意を決して訪ねる。

 

「・・・やっぱ今聞くわ。釘崎はどうなっ・・・」

 

「「・・・っ」」

 

しかし、恵と(たつみ)の悔やんだ顔を見て、野薔薇がどうなったのか・・・悠仁は察してしまった。

 

「・・・そうか・・・わかった・・・わかった・・・!」

 

悠仁は悲しみを堪えるようにぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばる。今は悲しんでいる場合ではない。一刻も早く天元に会って、死滅回游を終わらせないといけないのだから。

 

「その隠す結界についてですが・・・何とかなるかもしれませんよ」

 

「!!?」

 

「うおっ!!?アマさん!!脹相!!」

 

「聞いてたんですね・・・」

 

この話し合いにぬっと割って入ってきたのは目を覚ましたアマテラスと脹相であった。

 

「どういうことだ、アマさん?」

 

「詳しい話は脹相がします。彼が鍵なのは間違いありませんので」

 

「以前真人が宿儺の指と俺たちを盗み出したんだろう?それと同じことをする」

 

真人が宿儺の指とまだ呪物だった脹相たちを盗み出した日といえば、高専の交流会襲撃の時のことだ。それと同じこととはどういうことはわからないが、一同は脹相を信じて、1度高専に戻ることにした。

 

 

高専に戻ってきた悠仁たちは校舎には向かわず、一時期悠仁が特訓に使っていた地下に向かっている。この地下の存在を知っている者は限られているため、高専関係者や上層部にバレる心配は今のところはない。

 

「悠仁、無事だったか」

 

「久しぶり・・・てわけでもねぇか」

 

「どっちにしたって遅すぎなのよバカ後輩」

 

「先生?それに、真希先輩にマイン先輩」

 

地下に降りてきた悠仁たちを出迎えたのは先に地下に辿り着いていた赤女(あかめ)と、治療を終えたマインと長かった髪が短く切りそろえられた真希であった。

 

「よっ。元気そうだな」

 

「ああ、どうも・・・」

 

ソファに座っていたナジェンダは降りてきた悠仁に手を挙げて軽く会釈する。隣に座っていた由貴も軽く手を振って会釈する。

 

「真希さん⁉もう動いて平気なの⁉」

 

「おう、問題ねぇ」

 

「そこにいる根暗のおかげでね」

 

マインが指を指した地下の出入り口の隅っこにはウサギを抱きかかえて体育座りをしているツクヨミがいた。

 

「うおっ⁉ビックリした!そこにいたのかよ」

 

「・・・根暗なのは認めるけど、自意識過剰女には言われたくない」

 

ツクヨミの発言にマインはビキッとこめかみが浮かび上がる。

 

「はあ?それあたしの言ってんの?」

 

「他に誰がいんの?脳みそもピンク色なの?」

 

「殺す!!」

 

「お、落ち着いてマインちゃん!」

 

「下手すると俺よりウマが合わないんじゃねぇか・・・?」

 

マインに対して毒舌を吐くツクヨミにマインは殴りかかろうとするが、憂太に止められる。そんな彼女に対して悠仁は申し訳なさそうに声をかける。

 

「あの・・・マイン先輩・・・シェーレのことですけど・・・」

 

「自分のせいだって思ってんならどつくわよ」

 

「!」

 

「あの状況下の中じゃどうしようもなかった。あたしがあんたと同じ立場だったら同じ選択をしたわ。変にウジウジで悩んで下を向いてないで、これからどうすんのか考えなさい。本気でシェーレを想う気持ちがあるならね」

 

「・・・うす・・・」

 

渋谷で死してしまったシェーレ。彼女の死に思うところがあるのはマインの方がだし、彼女を想う気持ちはずっと強いはずだ。だが彼女は自分のことよりも、その件で責任を感じている悠仁を心配して気にかけている。それだけ気にかけられるのは、彼女が悠仁を気に入っている証拠でもある。

 

「話は戻すけどー、マキチーの怪我はちゃんと治ってるよ。けど火傷はさすがに・・・ねぇ」

 

ウサギの指摘通り、真希の顔や腕・・・体の至る所には火傷の跡がくっきりと残っている。

 

「・・・ごめん・・・できれば火傷も治したかったけど・・・」

 

「火傷ばかりはどうしようもないさ。反転術式でも跡は残るからな」

 

「でもさすがは天与呪縛のフィジカルギフテッド。最後の最後に呪いの耐性ではなく、生来の肉体の強度が生死を分けた」

 

申し訳なさそうにするツクヨミに対し、ナジェンダはフォローを入れ、由貴は真希のフィジカルギフテッドを称賛している。

 

「真希、それから赤女(あかめ)もだが、当主のことは残念だったな」

 

「・・・別に競ってたわけじゃないっすよ」

 

「私も、今となっては当主の座は必要ない」

 

禪院家の当主の座が恵に与えられてることは2人も知っている。ただ赤女(あかめ)はがっつりと関りがあったから知ってるどころの話ではない。だが今気にしているのは当主の話ではない。どうやって薨星宮に向かうかだ。

 

「それよりも、天元様の結界の話についてだが・・・」

 

「・・・それなんですが・・・」

 

「薨星宮に入る方法は簡単です」

 

「姉様」

 

話にアマテラスが割って入ってきた。

 

「真人が使った手段をこちらも使えばいいのです。そうですね?脹相」

 

「ああ。ここからは俺が話そう」

 

どうやって薨星宮に向かう方法。その手順を脹相が説明する。

 

「扉から薨星宮の途中には高専が呪具や呪物を保管している忌庫があるな。忌庫には俺の弟たち・・・膿爛相、青瘀相、噉相、散相、骨相、焼相の亡骸がある。亡骸でも6人揃えば、俺の術式の副次的効果で気配くらいわかるはずだ」

 

「グッド!」

 

脹相の赤血操術は血の分けた兄弟たちの気配を感じ取ることができる。その能力をレーダーとして利用することで、薨星宮に続く扉を引き当てることができるという算段だ。その便利さに由貴は称賛している。

 

「それはいいとして・・・こいつらは誰だ?」

 

「そこの根暗もね。何なのよこいつ?」

 

悠仁たちは渋谷で、恵は焚火の場で会ったからわかるが、真希とマインからすれば、これが初めましてになるのだ。ずっと治療していたツクヨミに対しても同様だ。疑問を抱くのも無理はないというもの。ただ説明している余裕はないため、(たつみ)は手っ取り早い紹介だけで済ませる。

 

「・・・とりあえず・・・そこの2人は・・・俺の姉貴ってことで・・・」

 

 

「はうっ!!!」ピッシャアアアアン

 

 

(たつみ)が自分たちのことを姉と呼んでくれた。その一言だけで、ツクヨミに雷を打たれるような衝撃が走る。

 

「ね、ねぇ、たっちゃん・・・今のもう1回言って・・・未来永劫脳に留めておきたいから・・・」

 

「いやそんな場合じゃないって・・・おい録音しようとすんな!アマさんもなんか・・・ってさりげなくあんたも録音しようとすんな!!」

 

余程もう1回姉と呼ばれたいのかツクヨミは録音機を持って(たつみ)にウザ絡みしてくる。アマテラスの方もウザ絡みこそしないがさりげなく録音機で録音しようとしている。

 

「・・・で、そっちは?」

 

一同は脹相の方にも注目を向ける。悠仁は(たつみ)に習って簡潔に紹介する。

 

「・・・とりあえず・・・俺の、兄貴ってことで」

 

悠仁のこの一言に、脹相は喜びの衝撃を受ける。

 

 

「悠仁ぃーーーーーーー!!!」

 

 

「行こ」

 

叫ぶ脹相のことは気にせず、一同は部屋を出て薨星宮に向かうのであった。

 

 

部屋を出た後、一同は脹相の案内の下に薨星宮へと向かっている。しばらく歩いていると、1つの扉が見えてきた。

 

「あれだ。間違いない。この先に弟たちが眠っている。開けるぞ」

 

一同は首を縦に頷き、扉を開ける。扉の先には、白い木々が生い茂っている空間が広がっている。どうやら本当に当たりのようだ。

 

「降りよう。奥に薨星宮に続く昇降機がある」

 

一同は扉から降りて中に入り、奥に続く昇降機へと向かう。その途中にある忌庫があり、脹相は途中で止まり、忌庫に向かって歩んでいく。

 

「脹相」

 

「わかってる」

 

脹相とて最優先すべきことはわかっている。今はあいさつ程度にとどめておくだけだ。

 

「・・・もう少し待っててくれ」

 

中にいる弟たちの亡骸にそう告げて、脹相は皆の後についていく。

 

一同は奥にあった昇降機に乗り込み、薨星宮へ続く地下へと降りていく。目的の階まで辿り着き、一同は降りて先へと向かう。ただ、下りてすぐにあった血痕の跡が気にはなっていたが。

 

「血痕?何かあったのかな?」

 

「12年も前も話さ。今思えば、全ての歪はあの時始まったのかもしれない」

 

「行くぞ。本殿はこの先だ」

 

血痕は気にはなったものの、一同は薨星宮へ向かって歩みを進んでいく。ただ、赤女(あかめ)だけは歩みを止め、血痕をじっとみて物悲しい表情を浮かべている。

 

「・・・赤女(あかめ)?」

 

「・・・何でもない。行こう」

 

赤女(あかめ)はすぐに表情を引き締め、薨星宮へと歩みを進めていく。先へと進んでいくと、奥の部屋で光が差している。薨星宮までもう間もなくだ。一同が通路を抜けると・・・そこは・・・

 

何もない真っ白な空間が広がっていた。

 

「くっ・・・!」

 

「なんもねぇ」

 

「ここが薨星宮なのか?」

 

疑問を抱く一同に由貴が答える。

 

「いや、私たちを拒絶しているのさ」

 

「天元様は基本的に現には干渉しない。六眼が封印された今なら接触が可能だと思っていたんだが、見通しが甘かったな・・・」

 

顎に手を添えて考えるナジェンダは由貴に顔を向ける。由貴の目は鋭く、表情もどこか不愉快そうに歪めている。

 

(拒絶されているのは私たちではなく・・・由貴なのか・・・?)

 

なぜ天元が自分たちを拒絶するのかわからないが、何にしても天元に会えないのならばここに用はない。

 

「戻ろうか。津美紀さんには時間がない」

 

せっかく正解の扉を引き当てたのに、会えないのは遺憾ではあるが、自分たちには時間がないのは確かだ。仕方なく一同が引き返そうとすると・・・

 

「帰るのか?」

 

『!!』

 

突如として何者かの声が聞こえてきた。一同が驚いて後ろを振り返ってみると、そこには白い布の装束を着込んだ真っ白な人間がいた。いや、人間と呼ぶには少し異形だ。その者は顔が変形して髪も耳もなく、対になった4つの目を持っており、人に近い姿だが明らかに人とかけ離れている。だがその者には神聖さがあった。

 

「初めまして九十九由貴の友、禪院の子、道真の血、呪胎九相図、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)、邪龍に魅入られし者、そして・・・宿儺の器」

 

そう・・・一同の目の前にいるこの者こそが、薨星宮の主にして、不死の術式を持つ術師・・・天元である。

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