呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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死滅回游について

「初めまして九十九由貴の友、禪院の子、道真の血、呪胎九相図、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)、邪龍に魅入られし者、そして・・・宿儺の器」

 

薨星宮の前で一同の前に現れた不死の術師、天元は初対面である一同に挨拶を交わす。

 

「私には挨拶もなしかい?天元」

 

唯一挨拶を交わされなかった由貴は私怨があるのか表情が冷たいものだった。

 

((こいつが⁉))

 

(これが⁉)

 

(この人が⁉)

 

((この方が⁉))

 

(人か?)

 

((呪霊?))

 

((天元!))

 

明らかに人とはかけ離れている天元の姿を初めて見る者は皆驚愕している。

 

「君は初対面じゃないだろう?九十九由貴」

 

「何故薨星宮を閉じた?」

 

由貴の問いかけに対し、天元は素直に答える。

 

「『羂索』に君が同調していることを警戒した。私には人の心まではわからないのでね」

 

「羂索?」

 

羂索というまったく聞き覚えのない名前が出てきて由貴は首を傾げる。

 

「かつて加茂憲倫(のりとし)・・・今は夏油傑の肉体に宿っている術師だ」

 

「羂索・・・そいつが傑の肉体を・・・!」

 

「慈悲の羂、救済の索か。まるっきり真逆だな」

 

「全くだよ。皮肉にもなってないね」

 

友である傑の肉体を奪った者の名を聞いた赤女(あかめ)は怒りから拳を握りしめ、ナジェンダは皮肉にもならない皮肉を飛ばし、由貴も同意する。

 

「天元様はなんでそんな感じなの?」

 

(おい!今それ聞くか⁉)

 

(こいつよくこのタイミングで割って入れるな)

 

険悪な空気が流れているにも関わらず呑気な質問をする悠仁に(たつみ)と恵は心の中で呆れている。

 

「私は不死であって不老ではない。君も500年老いればこうなるよ」

 

「マジでか」

 

天元は穏やかな笑みを浮かべながら悠仁の質問に答えた。

 

「12年前、星漿体との同化に失敗してから老化は加速し、私の個としての自我は消え、天地そのものが私の自我となったんだ」

 

「あの時星漿体がもう1人いたわけじゃなかったのか・・・」

 

「どおりで声が増えないわけだ」

 

12年前、ナジェンダと由貴はもう1人星漿体がいたのではないかと考えていたようだが、天元の答えによってそれはないことを理解した。するとここで恵と憂太がここに来た本題に入る。

 

「すみません」

 

「僕たちはその羂索の目的と獄門疆の解き方を聞きに来ました。知ってることを話してもらえませんか?」

 

2人が話している間、悠仁は自分たちが入ってきた出入り口が遠のき、徐々に消えていっていることに気がついた。

 

「もちろん・・・と言いたいところだが1つ条件を出させてもらう」

 

天元は羂索の目的と獄門疆の解き方を答えるために1つの条件を提示してきた。

 

「禪院赤女(あかめ)、乙骨憂太、九十九由貴、呪胎九相図、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)。6人のうち3人はここに残り、私の護衛をしてもらう」

 

天元の護衛。その条件を出された赤女(あかめ)はピクリと反応する。当然だ。自分にとって苦い思い出を残す羽目になったきっかけだ。やれと言われればやるが、正直に言えばやりたくはないと考えている。

 

「護衛ぃ~?必要ある~?」

 

「・・・天元は不死なんだよね?守ってもらう理由がわからない」

 

「もしや、封印などを危惧しているのですか?」

 

天元の護衛に対し、ウサギ、ツクヨミ、アマテラスは疑問を口にする。

 

「失礼ながら天元様、護衛の期間も理由も明かさないのはフェアではないかと思います」

 

「・・・・・・では・・・羂索について語ろうか」

 

ナジェンダの主張に天元は理にかなっていると判断し、なぜ護衛が必要なのか、まずは羂索の目的を話す。

 

「あの子の目的は日本全土を対象とした人類への進化の強制だ」

 

「それは聞きました。具体的に何をするつもりなんですか?羂索はなぜあの時に天元様の結界を利用し、無為転変で日本の人間を全員術師にしなかったんですか?」

 

恵の問いかけに天元は答える。

 

「それをやるには単純に呪力不足だ。うずまきで生成した呪力は術師に還元できない。術式で1人1人進化を促すのはあまりに効率が悪い。羂索が取る進化手段は・・・人類と私の同化だ」

 

人類が天元と同化する。それに対してあらかじめ天元との同化について聞かされていた(たつみ)は疑問を抱く。

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ天元様!その同化って・・・」

 

「そうだ。星漿体にしかできないんだ」

 

(たつみ)の疑問に対し、赤女(あかめ)が肯定する。天元は星漿体と同化することによって1000年以上も生き長らえている。そしてその同化は星漿体でしかできない。ではどうやって人類と同化するのか。天元は説明する。

 

「以前の私ならね。12年前に進化した今の私なら星漿体以外との同化もできなくもない」

 

「だがお前は1人だろう?どうやって複数の人間と同化するんだ?」

 

脹相の疑問にも天元は答える。

 

「今君たちの目の前にいる私ですら私ではない。進化した私の魂は至る所にある」

 

疑問を解消するように天地そのものとなっている天元は自らの魂を何体も出現させる。

 

「言っただろう?天地そのものが私の自我なんだ。私と同化した人間は術師という壁すら越える。そこにいてそこにいない新しい存在の形さ。私には結界術があったから進化後もこうして形と理性を保てている。だがもし人類が進化し、そのうちの1人でも暴走したら世界は・・・終わりだ」

 

「なぜ?」

 

「個としての境界がないんだ。悪意の伝播は一瞬さ。1億人分の穢れが世界に流れ出る。先の東京が世界で再現されるんだ」

 

1億人分の穢れ。それが世界中に流れ出てしまえば、渋谷事変のような大規模事件を越える混沌、そして呪霊が蔓延る東京の魔境化。それらの負の連鎖が世界中に蔓延してしまう。そうなってしまえば文字通り、世界の破滅だ。

 

「なんでそんなことすんだよ?」

 

「さあね。これも言っただろう?私には人の心まではわからない」

 

「でもそれって、天元様が同化を拒否すればいいじゃないんすか?」

 

真希の尤もな問いかけに対して、天元はこの問題の最大の懸念点を答える。

 

「そこが問題なんだ。進化を果たした今の私は組成としては呪霊に近い。私は・・・呪霊操術の術式対象だ」

 

『!!!!!』

 

呪霊操術。呪霊を取り込むことでその力を行使することができる。その対象が呪霊に近い存在となった天元にも当てはまる。それが本当ならば羂索が天元を取り込んでしまえば・・・。事の事態の大きさに気がついた全員は目を見開いて驚愕する。

 

「羂索の術師としての実力を考慮すると、接触した時点で取り込まれるかもしれない。だから私の本体は今薨星宮で全てを拒絶しているよ」

 

「そのうえで護衛を?」

 

憂太の疑問に天元は頷く。

 

「ああ。羂索は私に次ぐ結界術の使い手。薨星宮の封印もいつ解かれるかわからない」

 

「なぜ今なんだ?星漿体との同化を阻止、お前を進化させ、呪霊操術で取り込み、操る。羂索は宿儺とも関りがあるようだった。少なくとも1000年術師をやっている。なぜ!今なんだ!」

 

睨みを利かせる由貴の疑問に答えるために天元は1つの因果について説明する。

 

「私、星漿体、そして六眼。これらは全て因果で繋がっている。羂索は過去に二度、六眼の術師に敗れている。二度目の羂索は徹底していた。星漿体も六眼も全て生後一月以内に殺した。それでも同化当日に六眼と星漿体は現れた。その後羂索は六眼を抹殺ではなく封印に方針を変え、獄門疆の捜索を始めた。六眼持ちは同時に2人は現れないからね」

 

羂索が悟を獄門疆の封印対象に選んだ理由。それは単に強いだけではない。彼の持つ六眼がどれほどの脅威であるかを身を持って知っているからだ。

 

「だが12年前予期せぬ事態が起こった。それは君が身をもって知っているね?禪院赤女(あかめ)

 

一同は12年前の星漿体護衛任務に唯一関りがあった赤女(あかめ)に顔を向ける。赤女(あかめ)は苦々しい表情を浮かべながら、予期せぬ事態を口にする。

 

「・・・禪院甚爾とマリー・ユビキタスの介入・・・ですね」

 

「ああ。2人とも天与呪縛を持っている。片やフィジカルギフテッド、その中でも特異な完全に呪力から脱却した存在。片や人類で唯一海外で膨大な呪力を持って生まれた因果律を超越した存在」

 

甚爾と関りがあった赤女(あかめ)と真希は表情を固くし、シェーレを死に追いやった張本人、マリーの名を聞いた悠仁とマインは顔を強張らせている。

 

「呪縛の力で因果の外に出た人間たちが私たちの運命を破壊してしまった!そしてそこには呪霊操術を持つ少年。意図せず獄門疆以外のピースが揃ったんだ。そして6年前、その獄門疆がエスデスの手に渡ったんだ。それを知った羂索が彼女と協力関係を結ぶことで、全てピースが揃ってしまったんだ」

 

全てのピースを揃えた羂索の目的成就はまさに目の前まで来ている。だからこそわからない。死滅回游を行う理由が。

 

「じゃあ死滅回游は何のために始めたのよ?」

 

マインの問いにも天元は答える。

 

「同化前の慣らしだよ。星漿体以外との同化は不可能ではないが、現時点では高確率で不完全なものとなるだろう。死滅回游は泳者(プレイヤー)の呪力とコロニーとコロニーで結んだ境界を使ってこの国の人間を彼岸へ交わす儀式だ。それを慣らしとして私との同化を始めるつもりだろう。だがこれだけの儀式を成立させるために羂索自身も縛りを負ってるはずだ」

 

羂索自身が負った縛り。その縛り内容は死滅回游のルールと関係している。そのうちの1つが総則7『管理者(ゲームマスター)は死滅回游の永続に著しく障る場合を除き、前項によるルール追加を認めなくてはならない』である。

 

「その1つとして死滅回游の管理者(ゲームマスター)は羂索ではない。だがこれは君たちにとって不利に働くな。羂索を殺しても死滅回游は終わらないのだから。泳者(プレイヤー)が全員死ぬか、泳者(プレイヤー)が全員参加を拒否して死ぬか。それまで死滅回游は終わらない。死滅回游のルールにある永続はあくまで儀式を中断させないための保険だよ」

 

「となると・・・」

 

「だね・・・」

 

天元の説明を聞いて、一同は自分たちのやるべき方針を死滅回游のルールの中より見出した。それは総則6『泳者(プレイヤー)は自身に懸けられた点を除いた百得点を消費することで管理者(ゲームマスター)と交渉し死滅回游に総則を一つ追加できる』である。

 

「僕らも死滅回游に参加して津美紀さんやゲームに消極的な人は回游を抜けるルールを追加するしかない」

 

「エスデスを討つ事も並行すべきだ。奴は確実に回游に参加するはずだ」

 

「エスデス・・・始まりの特級呪術師・・・」

 

先にも出ていたエスデスの名を聞いた時、一同は苦い表情を浮かべている。悠仁自身も、渋谷で彼女が宿儺と共に残虐の限りを尽くした姿を思い返した。

 

「あっ、あの時渋谷にいたあいつか・・・!」

 

「そうだ。指15本分の宿儺と魔虚羅(まこら)と互角以上の実力を持った奴のことだ」

 

宿儺の指15本分の力を有する宿儺と魔虚羅(まこら)と同時に戦い、生き延びただけでなく、魔虚羅(まこら)を倒したのだ。彼女が悟に匹敵するほどの実力を有しているのは、言うまでもないため、全員が戦慄を覚える。

 

「奴の目的は永遠に終わらない戦争の実現だ。羂索の目的と利害が一致している。野放しにするにはあまりにも危険すぎる」

 

「ならなおさら悟の解放も並行するべきだ。私とあいつが合わされば、奴を葬ることができる」

 

自分たちの方針は決まった。そのためには獄門疆の解き方を天元に聞く必要がある。

 

「・・・天元様ー・・・教えて・・・」

 

ちなみに悠仁は理解が追い付いていないようで困った表情を浮かべている。

 

「その前に誰が残るのか決めてくれ」

 

だが天元は条件を譲るつもりがないらしく、誰が残るか決めない限り話すつもりはないようだ。まるで羂索の目的を話したのだから対価を払えと言わんばかりだ。

 

「「「俺(私)((わたくし))が残ろう(残りましょう)」」」

 

天元の護衛に名乗りを上げたのは脹相、アマテラス、由貴の3人であった。

 

「悠仁には赤女(あかめ)や乙骨、この女の協力が必要不可欠だろう。加茂憲倫(のりとし)・・・羂索がここに天元を狙って来るのならなおさらだ。奴の命を絶つことが弟たちの救済だからな」

 

悠仁のことを考え、なおかつ羂索と因縁がある脹相は彼を待ち構える意味も込めて残ることを決意したようだ。

 

(わたくし)の八咫鏡には数多の結界術があります。奴なら簡単に解くでしょうが、足止めにはなるはずです。それに、少なくとも(わたくし)たち姉弟も羂索とは因縁があります。奴が死したその時こそ、母様の無念も浮かばれるでしょう」

 

「姉様・・・だったら私も・・・」

 

アマテラスが残るなら自分も残ると主張するツクヨミだが、アマテラスはそれを拒む。

 

「いいえ。ツクヨミは(わたくし)に変わり、死滅回游に参加し、(たつみ)たちをサポートしてあげてください。そうすれば(わたくし)も安心して護衛に集中できます」

 

「姉様・・・」

 

「頼みましたよ、ツクヨミ。あなたが皆の手本になってあげてください」

 

「・・・うん・・・私、頑張る・・・」

 

アマテラスに頼りにされたツクヨミは微笑み、首を縦に頷いた。

 

「由貴、お前はそれでいいのか?」

 

「私はまだ天元と話し足りなくてね。私なりのケジメのつもりだよ。赤女(あかめ)ちゃんも乙骨君もそれでいいかな?」

 

「はい。僕はもう、みんなと離れたくないので」

 

「構わない」

 

憂太も赤女(あかめ)も承諾したことでここに残る3人は決定した。

 

「・・・ありがとう」

 

条件を呑んでくれたことに天元は感謝し、獄門疆を解くために必要なものを別空間から取り出す。それは獄門疆を彷彿とさせる黒い四角い物体だ。

 

「これが五条悟の解放・・・そのために必要な獄門疆「裏」だ」

 

「裏?」

 

「初耳だね」

 

「裏門ってこと?」

 

「そうなるね。エスデスに見つかる前、獄門疆は結界の外・・・おそらく海外にあった。この裏門を封印することで表の気配を抑えていたんだが無駄だったね。この獄門疆「裏」の中にも五条悟が封印されている」

 

「えっ⁉じゃあそれを開ければ・・・」

 

「いや、あくまで開門の権限は表の所有者となった羂索のものだ」

 

獄門疆「裏」さえ開ければ悟を解放できると(たつみ)は考えたが、やはりそう簡単にはいかない。獄門疆「裏」を開けるために必要なものが存在するのだ。

 

「これをこじ開けるには、あらゆる術式を強制解除する天逆鉾。あらゆる術式効果を乱し相殺する黒縄。あらゆる術式を斬り裂く青龍刀。このどちらかが必要だ」

 

獄門疆「裏」の鍵である呪具の名前が出た時、赤女(あかめ)とアマテラスはピクリと反応し、バツが悪そうな顔になる。

 

「だが天逆鉾は12年前海外に封印されたが、禪院黒女(くろめ)がこれを解き、去年五条悟が破壊してしまった」

 

「何してんの先生!!?」

 

「黒縄も去年禪院赤女(あかめ)が全て斬り裂いてしまった」

 

「何してんだあんた!!?」

 

「青龍刀も今年禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)が粉々に砕いてしまった」

 

「何してくれてんだアマさん!!?」

 

鍵である呪具が全て自分たちの身内が壊してしまったことに悠仁、恵、(たつみ)は憤慨する。特に当事者である赤女(あかめ)とアマテラスはぷいっと顔を逸らす。

 

「黒縄の残りは僕がアフリカでウェイブさんとミゲルさんと一緒に探してたんだけど・・・」

 

「海外ってそれで行ってたんですね」

 

「これに関しては無駄足だったね」

 

憂太が海外に行っていた理由は一時期行動を共にしていたウェイブと海外の術師、ミゲル・オドゥオールが持っていた黒縄の残りを全て探すためだったのだ。だが黒縄はミゲルが持っていたもので最後だったようで無駄足に終わったようだ。そのミゲルから「モウナイッテ」と言われた時はどうしようかと嘆いていた時のことを憂太は思い出す。

 

「手はあるんだろう?」

 

「ああ」

 

呪具がなくても獄門疆「裏」をこじ開けることができる方法を天元は語る。

 

「死滅回游に参加している泳者(プレイヤー)の中に、『天使』と呼ばれる1000年前の術師がいる。そして、羂索の手により天使と同じ術式を覚醒した泳者(プレイヤー)がいる。この2人の術式はあらゆる術式を消滅させる」

 

天使と名乗る1000年前の術師。その本当の名は来栖華。

 

そして現代に現れた天使と同じ術式を持つ泳者(プレイヤー)。名を来栖(らん)

 

この2人の術式、あらゆる術式を消滅させるという能力は3つの呪具とほぼ同じ効果を持つ。つまりこの2人こそが獄門疆「裏」をこじ開ける鍵なのだ。

 

「術式を・・・消滅させる?」

 

「ああ。この2人の術式なら獄門疆「裏」を開けることができる」

 

「そいつらがどこにいるかわかりますか?」

 

「2人とも東京の東側のコロニーだ。回游の結界は私を拒絶しているからそれ以上の情報はない」

 

天元はこの空間に日本全土の地図を広げて死滅回游の情報を整理する。

 

「まずはそこから整理しようか。全国等のコロニー。これが日本の人間を彼岸へと渡す境界を結ぶ結界と繋がっている」

 

天元の言葉に悠仁が思い浮かんだのは八十八橋で聞いた明の言葉だ。

 

『川や境界をまたぐ彼岸へ渡る行為は呪術的に大きな意味を持つっス』

 

「あっ!八十八橋の時の・・・」

 

日本全土を覆う彼岸へ結ぶ境界。その中には北海道は含まれていなかった。ナジェンダはそこに対して疑問を問いかける。

 

「北海道が入ってないのは呪術連の結界ですか?」

 

「そうだ。あの地はすでに巨大な霊場として慣らしが済んでいる」

 

「さすが我が故郷、試される大地・・・」

 

一同の中で唯一北海道出身の(たつみ)は感服している。

 

「彼岸へ渡すと聞くと仰々しいが日本にいる人間全員に呪いをかけて同化の前準備をしているのさ」

 

「儀式が終わるまでどのくらいかかりますか?」

 

「回游次第だが二月もあれば済むだろう」

 

一同はここで状況を整理するために死滅回游のルールをおさらいする。まずは総則1だ。

 

総則1『泳者(プレイヤー)は術式覚醒後、十九日以内に任意の結界(コロニー)にて死滅回游への参加を宣誓しなければならない』

 

「今って確か11月9日の午前9時だったわよね」

 

泳者(プレイヤー)の術師が覚醒したのは10月31日24時頃・・・」

 

「津美紀が回游に参加するまでの猶予は・・・ざっと10日と15時か・・・」

 

津美紀やゲームに消極的な人間をコロニーから抜けるルールを追加するための猶予は残り10日の15時。それを越えてしまうとどうなるか。それは総則2が示している。

 

総則2『前項に違反した泳者(プレイヤー)からは術式を剥奪する』

 

「天元様はさっき参加を拒否すれば死ぬって言ってたよな?」

 

「ああ」

 

術式の剥奪。その点については硝子からの詳言もある。

 

『術式の剥奪かぁ・・・。後追いの術師にも適応されるルールだろう?だとしたら剥奪は無為転変で行われるわけじゃないと思う。使用禁止ではなく、剥奪だから縛りでもない。となると脳に無理やり何かしら作用するわけだから・・・ルール的にも剥奪されたら死ぬと思うよ。じゃなきゃみんな参加を拒否するだろうし』

 

「硝子さんの読み通りだったな。逆に私や(たつみ)みたいなのとか術式持ってない術師はノーリスクだよな?」

 

「てゆーかそれで言ったらパンダはどうなのよ?そもそもあいつ脳とかあんの?」

 

確かにパンダのようなイレギュラー中のイレギュラーがどうなるかは疑問だがそれは置いておく。とここで悠仁は気になることがある。それは総則3にある。

 

総則3『非泳者(プレイヤー)結界(コロニー)に侵入した時点で泳者(プレイヤー)は死滅回游の参加を宣誓したものと見做す』

 

「これさ、初めから結界の中にいる一般の人らはどうなんの?」

 

「少なくとも1度は外に出る機会が与えられる」

 

「マジ?」

 

「随分と親切ですね」

 

「ルールに1つもコロニーの出入りに関する情報がない。泳者(プレイヤー)に初め結界に出るという明確な目的を与えて回游を活性化させる狙いだろう。泳者(プレイヤー)を閉じ込めるには泳者(プレイヤー)が自ら望んで入ったという前提が重要だからね」

 

「猪野さんが言ってた結界の足し引きか・・・」

 

悠仁が猪野が言っていた結界の足し引きを思い出したところで次の総則の確認をする。

 

総則4『泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)の生命を絶つことで点を得る』

 

ルールを追加するために必要なこと。それは他泳者(プレイヤー)の命を奪うこと。あまり犠牲を出さないことを前提に考える者にとっては致命的な総則とも言える。そもそも点とは何を差しているのか。それは次の総則にある。

 

総則5『点とは管理者(ゲームマスター)によって泳者(プレイヤー)の生命に懸けられた価値を指し、原則術師五点、非術師一点とする』

 

「・・・総則に原則ってごちゃっとするなぁ・・・」

 

「わかる・・・ん?伏黒?どうした?」

 

「いや・・・」

 

とここで赤女(あかめ)は総則に出ている管理者(ゲームマスター)の存在が気になるようで、手を挙げて天元に質問する。

 

「天元様、総則にある管理者(ゲームマスター)というのは?」

 

「各泳者(プレイヤー)に1体ずつ憑く式神コガネ。コガネも正確に言えば管理者(ゲームマスター)ではなく窓口だ。管理者(ゲームマスター)は死滅回游のプログラムそのものと思った方がいい」

 

「なるほど・・・?」

 

悠仁が理解してるかどうかは置いておいて、次の総則は最も重要なことである。

 

総則6『泳者(プレイヤー)は自身に懸けられた点を除いた百得点を消費することで管理者(ゲームマスター)と交渉し死滅回游に総則を一つ追加できる』

 

「追加・・・か。既にあるルールを消すのはなしかな?」

 

「・・・遠回しな否定ならいけるかもしれないけど・・・あまり期待しない方がいい」

 

「ツーちゃんは相変わらずネガティブだなー」

 

遠回しならルールを消すことも可能かもしれないが、あくまでもかもなので期待しない方がいいとツクヨミは忠告を入れる。一同は次の総則に注目する。

 

総則7『管理者(ゲームマスター)は死滅回游の永続に著しく障る場合を除き、前項によるルール追加を認めなくてはならない』

 

「・・・これありか?」

 

「懸念点は最もです。判断基準が管理者側に回りすぎです」

 

「いや。ある程度は公平な判断が見込めるはずだ。既に泳者(プレイヤー)にここまでのルールを強いているんだ。呪術的にはこれ以上羂索に利益が傾くことはない」

 

このルールもあって永続を消すことはできないが、ある程度の公平なルールを追加でき、羂索に利益が働かないことがわかったのはいい収穫ではある。だが最後の懸念点がある。それは最後の総則にある。

 

総則8『参加、または(ポイント)取得後、十九日以内に得点(ポイント)の変動が見られない場合、その泳者(プレイヤー)からは術式を剥奪する』

 

「・・・また・・・人を殺さなきゃいけないのか・・・」

 

「くそ・・・!あまりにも酷すぎんだろこのルール・・・!」

 

死滅回游の参加の宣誓と同じように得点を得ないと術式の剥奪・・・つまり術式使用者が死ぬルール。そして点を得るためには人を殺さなくてはいけない。犠牲を出さないことを前提に考えてる者からすれば厄介なルールである。特に悠仁は渋谷事変での大量殺害に責任を感じているため罪悪感を抱いている。

 

「・・・いや。いくつか考えがある」

 

どうやら恵はこの点の変動について何かしらの考えがあるようだ。その点は死滅回游に参加してから試すものとして、これで全ての総則を確認し、状況が整理できた。

 

「とりあえず状況は整理できたな。後はそれぞれの役割だが・・・」

 

次に話し合うのはこれからの行動についてだ。

 

「由貴さんとアマさんと脹相はここに残って天元様の護衛」

 

由貴とアマテラスと脹相は条件通りに天元の護衛。

 

「あたしと真希はまず禪院家に行って呪具の回収に行ってくるわ。悟が封印されてすぐ高専忌庫の呪具は加茂家と禪院家が持ちだしてすっからかん。でも伏黒が禪院家の当主になった」

 

「おおっ⁉」

 

「・・・後で説明する」

 

恵が禪院家の当主になった事実を知らない悠仁は驚愕する。

 

「おかげであたしも禪院家に入れるし、呪具も漁り放題」

 

「で、その前にだ・・・天元様」

 

「わかっている。組屋鞣造のアトリエだろ?」

 

「助かります。用が済んだらパンダ探して回游の平定に協力する」

 

マインと真希はまず呪詛師、組屋鞣造の工房に赴き、さらに禪院家に行って呪具を回収した後にパンダを探して死滅回游に参加。

 

「憂太はどうすんの?一緒に来る?」

 

「僕はさっそくコロニーに入って回游に参加するよ。津美紀さんや伏黒君たちが回游に参加する前に少しでも情報を集めたい」

 

憂太は単独で死滅回游に参加、可能な限りの情報集めだ。

 

「・・・すみません」

 

「また単独行動だけど、万が一身内同士で潰し合うことがないように。それから、津美紀さんに何かあった時のために近場のコロニーは避けるね。結界で電波が断たれるかもしれないから、しばらく連絡取れないかも・・・あっ・・・」

 

「あっ・・・」

 

憂太は一同との別行動についてある懸念点を思い出した。それは悠仁も同じだ。それは以前悠仁が言った言葉だ。

 

『もし次、俺が宿儺と変わったら迷わず殺してくれ』

 

もしも宿儺に変わってしまったら渋谷事変のようなことが起きかねない。そして悠仁は恵と(たつみ)と一緒に行動するのだが、安全面を考えれば憂太が悠仁の近くにいた方が安全だ。だが戦力的には憂太は単独で動いた方がより効率がいい。その考えに至った悠仁と憂太はどうするべきか悩んでいる。煮え切らない悠仁に対し、恵は拳で軽く小突く。

 

「言ってる場合か。大丈夫だ。そん時は俺が死んだ後、しっかり殺してもらえ」

 

「いや、そうならないためにさ・・・」

 

悠仁が異議を唱えようとするが、恵はそれを無視して話を進める。

 

「ナジェンダさん」

 

「ああ。私、赤女(あかめ)、ツクヨミは後烈さんのところに行ってくる」

 

「烈さん?」

 

知らない名前が出てきて疑問符を浮かべる悠仁に赤女(あかめ)が答える。

 

「鳳凰院烈。呪術高専東京校の元学長だ。今は立ち入り禁止区域にある呪術創生研究所の所長をやってる。あの人の術式、『錬金術』なら、誰も犠牲を出さずにスサノオを受肉させることができる」

 

「スサノオ?」

 

また知らない名前が出てきて悠仁は疑問を浮かべる。それは関係者である禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)が答える。

 

(わたくし)たち、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の長男で(わたくし)とツクヨミの弟です」

 

「私たちの目的は元々、そのスー君を見つけて受肉させること。その過程でたっちゃんたちといがみ合っちゃったけど」

 

「とにかく、烈さんが持っているそのスサノオを受肉させた後に、レオーネを探して死滅回游に参加するつもりだ」

 

ナジェンダ、赤女(あかめ)、ツクヨミは高専東京校の元学長、鳳凰院烈がいる呪術創生研究所に赴き、禍津神三貴子(まがつがみみはしらのうずのみこ)の3番、スサノオを犠牲なしで受肉させた後に、レオーネと合流して死滅回游に参加。

 

「じゃあ俺たちは予定通りに・・・」

 

「ああ。お前たちは金次のところに行け」

 

「金次?」

 

またまた知らない名前が出てきてさっきから悠仁は疑問符を浮かべっぱなしだ。

 

「秤金次。赤女(あかめ)が担当するはずだった停学中の3年生よ」

 

「今はとにかく人手が足んねぇ。何が何でも駆り出せ」

 

「その人強いの?」

 

「ムラっけはあるけど、乗ってる時は僕より強いよ」

 

「「それはない」」

 

ムラっけがあるとはいえ、乗っている秤が憂太より強いと言われて真希とマインは否定する。ともかく、悠仁、(たつみ)、恵は秤の元へ赴き、協力を要請した後に死滅回游に参加。これで全員の役割が決まった。

 

役割分担が終わったことで、閉ざされていた出入り口が出現し、由貴、アマテラス、脹相を除いた一同はさっそく行動に移すために出口へと向かって行く。

 

「・・・脹相!アマさん!」

 

悠仁は立ち止まり、今日まで一緒に支えてくれた脹相とアマテラスに感謝の言葉を告げる。

 

「ありがとう、助かった」

 

「・・・ご武運を」

 

「死ぬなよ」

 

脹相とアマテラスはふっと笑みを浮かべ、悠仁の背中を見送った。悠仁は去り行く前に2人に向けてを手上げて軽く会釈した。弟の逞しい背中を見送った脹相は嬉しさ半分、寂しさ半分の気持ちで涙が溢れそうになるが、片手で顔を覆って堪えている。

 

「泣いてんの~?」

 

「・・・っ」シッ、シッ

 

由貴に茶化された脹相はほっとけと言わんばかりに手を振り払うのであった。

 

 

一方その頃、日本国内のどこか。街の道路に巨大な帳が降りていた。おそらくこの帳の中が例の死滅回游の会場なのだろう。その帳の外に、とある家族が話し合っていた。

 

「あなた・・・本当に行くの?」

 

「うん・・・ここに出るまでの途中で目覚めたこの力は本物だ。なら夢で見たあの袈裟の人が言っていたことは本当のことなんだと思う。どちらにしろ、このままでは私は・・・」

 

「あなた・・・」

 

夫のことを心配する妻とは別に、夫はどこか悔いたような雰囲気を醸し出している。

 

「それに私は、君たちを守るためとはいえ、何人も殺した。もう取り返しのつかないところまで来た。だから・・・私はもう・・・」

 

自らの運命を悟り、夫は自ら死地へと赴こうとした時、妻が彼の手を握った。

 

「私は・・・あなたがどんな気持ちでいるのか・・・ちゃんとわかってる。だからこそ・・・あなたには、帰るべき場所が、必要なの」

 

「・・・っ」

 

「お願い・・・ちゃんと帰って来るって、約束して」

 

妻の切実な願いに、夫は涙が溢れそうになる。

 

「・・・いいのかい・・・?こんな私を・・・」

 

「私も・・・この子も・・・あなただからいいの」

 

人の命を奪ったのに、自分のことを愛し、支えてくれる妻。そんな彼女の心に、夫は感極まり、彼女を抱きしめる。

 

「ありがとう・・・!必ず帰って来るって・・・約束するよ・・・!」

 

「ええ。私はいつまでも、あなたを待ってるわ」

 

お互い抱きしめ合い、愛を確かめ合ったところで、夫の気持ちはさらに強くなり、帳の中に入ろうと歩みを進める。すると、2人の愛しき娘が夫に声をかけてきた。

 

「パパー、これからお仕事?」

 

「・・・うん。パパはこれからお仕事なんだ。ちょっと帰りが遅くなるけど・・・いい子にして待ってるんだよ?」

 

「はーい!お仕事頑張ってねー!」

 

「うん。お土産、楽しみにしててね」

 

娘の挨拶も済ませた。もう気持ちに揺るぎはない。

 

「・・・行ってきます」

 

「・・・いってらっしゃい」

 

夫は意を決すると同時に、ガスマスクのような覆面を顔に覆い、死滅回游の会場へと、足を運ぶのであった。

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  ボルス

 

 

同時刻。ここは日本のどこかにある小規模なお笑い会場。ここで1人のお笑い芸人がお客に向けてネタを披露していたのだが・・・来ているお客は数えられるほどに少なく、さらにはそのお笑い芸人のネタが超おもしろくないからか会場の空気は冷め切っている。

 

「あ・・・あざーした!」

 

ネタを披露し終えたお笑い芸人は締めのお辞儀を交わして退場していった。拍手も数えられるほどに少なかった。

 

イベントを終えた後、そのお笑い芸人はあまりの不完全燃焼に深く落ち込んでいた。

 

「高羽ぁ!やめぇやぁ!こっちまで辛気臭ぁなる!」

 

「うぅ・・・うす・・・」

 

あまりの不甲斐ない姿に先輩芸人は高羽と呼ばれる芸人に怒鳴り声をあげている。

 

「お前いくつやったっけ?」

 

「ぐす・・・35っす・・・!」

 

「ほなもうやめてまえ!!この業界、遅咲きの奴、よぉわからんきっかけで急に売れる奴、ぎょうさんおる。でもそいつらは急におもろなったわけやない。元々おもろかったけど、埋もれてただけやねん」

 

「っ!」

 

「お前はそうちゃうやろ⁉東京がああなって・・・。悪いことは言わん。お前にできる、向いてること探せ」

 

先輩芸人は言いたいことを言って控室から退室していった。あまりの不甲斐なさ、半端ない悔しさに、高羽は涙を流す。

 

「・・・俺は嫌いやなかったで。高羽のネタ」

 

「・・・ケンさん・・・」

 

そんな高羽に話を聞いていた先輩芸人であるケンが口を開いてきた。

 

「あいつもお前も勘違いしとる。おもろなくても、売れる奴は売れんねん」

 

「・・・・・・一発屋的な話ですか・・・?」

 

「ちゃうわ。ずっと売れ続ける奴には2種類おんねん。ずっとおもろい奴と、ずっと自分のことおもろいと勘違いできる奴や」

 

ケンは煙草に火をつけて煙を吸い、高羽に問いかける。

 

「・・・お前はどっちや?」

 

ケンに問われた高羽はブツブツと独り言を呟き、自身の今後のことについて考える。その際に高羽には・・・言葉では表現しきれない負の感情が芽生え始めていた。

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  高羽史彦

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