呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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葦を啣む

死滅回遊の平定のため、真希とマインは呪具を回収するために目の前の屋敷、禪院家までやってきた。禪院家に思い入れが全くない2人はあまりいい気分ではない。マインは元々御三家が嫌いだし、禪院家生まれの真希も禪院家の家訓に翻弄されてきたのだから当然だ。さっさと用事を済ませようと思って廊下を歩いていると・・・自室にいた直哉に絡まれてしまう。

 

「誰かと思たわ。ひどい面やのぉ。それもう治らんやろ?どうすんの、真希ちゃん?」

 

「・・・相変わらずのクソ野郎ね。あたしは全く見えてないわけ?」

 

真希の火傷跡を見て悪態をつく直哉にマインが口を挟んできた。彼女の物言いが気に入らない直哉は若干イラついた表情を見せて、ピアノの鍵盤に足を乗せる。

 

「君には聞いてへんねん。俺は今、真希ちゃんと話しとんねん。黙ってろや、ゴミカス」

 

マインに暴言を吐く直哉はだるそうにしながら真希に視線を向ける。

 

「で?ほんまにどうすんの、カス」

 

「・・・・・・」

 

「答えろや。呪術も使えん、呪霊も見えん、取り柄のお顔もグズグズ。もう君のこと誰も眼中にないでぇ」

 

「いい加減に・・・!」

 

「やめろ、マイン」

 

直哉のあまりの言い分にいい加減手を出しそうになるマイン。だがそれを真希が止める。

 

「君も君やで、悟君とこの犬の小便。背も乳もちっこい。性格も最悪。唯一の取り柄は顔と五条の血だけ。他はなんもパッとせぇへん。女としてなんも引き立てられへん。なんで悟君が君を気に入っとんのかわからんわ」

 

女を見下している直哉をマインは鋭く睨みつける。

 

「なんやのその目は?またイジメてほしいんか?あん時みたいに」

 

実のところを言うと、マインと直哉はこれが初対面というわけではない。憂太がまだ高専に転校する前の時期、マインは高専でブラブラしていた時、たまたま赤女(あかめ)に用事があって高専に来た直哉と偶然鉢合わせになったのだ。その時にも直哉は彼女を見て見下して暴言を吐いた。喧嘩っ早いマインは直哉に殴りかかったが、逆に手も足も折られ、顔もとことんまで殴られ、任務に赴くことが不可能なほどにボロボロにされたことがあるのだ。その時は赤女(あかめ)が止めに入って事なきを得たが・・・以来マインは直哉を敵視しており、その関係性はなお続いており、改善されることは永遠にない。

 

「いちいち相手にすんな。さっさと行くぞ」

 

「・・・チッ」

 

これ以上話していても無駄であるとわかってる真希はマインを連れて忌庫へと向かう。マインは直哉を睨みつけたまま、舌打ちをして真希の後をついていく。

 

「・・・はぁ・・・マジでどうする気やの?乙骨君と恵君の金魚の糞」

 

去っていく真希に向けて直哉は問いかけるが、真希は何も答えない。

 

「・・・なんとか言えやカス」

 

質問に答えようとしない真希に直哉は悪態をつくばかりであった。

 

 

忌庫に向かって廊下を歩く真希とマインは真希の母親と顔を合わせ、すれ違う。真希の母親はすれ違いざま、真希に声をかける。

 

「真希、戻りなさい。忘れたの?忌庫への立ち入りは私たちには許されていないの。それだけじゃない。五条家の人間まで連れてくるなんて・・・いったい何を考えているの?」

 

「こいつが勝手についてきてるだけだよ」

 

「いいでしょ、別に。当主様がいいって言ってんだから」

 

忌庫の出入りと、マインが禪院家への立ち入りに対して咎めることに対し、2人はのらりくらりとかわした。

 

 

そもそもの始まりは渋谷事変後の数日が経った頃合い。上層部から逃れるために身を潜んでいる赤女(あかめ)は恵に会い、禪院家の事情を全て話したことから始まる。

 

『禪院家当主⁉俺が⁉』

 

『ああ。直毘人との話し合いでな。お互いに万が一のことがあれば、恵に当主の座を譲るという縛りを結んだんだ。あいつもお前なら禪院家の財産を全て譲るといって承諾した』

 

『お断りします。勝手に話を進めないでください』

 

禪院家の当主になること自体面倒なのに話を勝手に進められて恵は赤女(あかめ)に異論を唱えている。

 

『悪いがお前に拒否権はない。縛りだからな。それに、禪院家の当主の座は今の私たちに必要なものだ。禪院家の金が全て手に入るだけじゃない。呪具や、御三家と上層部の情報が手に入れられる。これからの私たちの立ち回りが大きく変わる重要なことだ』

 

『じゃああんたがなってくださいよ。生きてるんだから』

 

『呪詛師になった当主に誰がついていきたいと思う?少なくとも私なら葬っている』

 

『うっ・・・』

 

『それに上層部は私を処刑したがっている。私が当主になってしまえば、禪院家に矛先が向けられ、情報が断たれてしまう。それだけは避けなければならない』

 

恵は禪院家の当主になることを拒んでいるが、赤女(あかめ)が当主なった場合のリスクや今後の立ち回りを聞かされて、反論しきれない。

 

『・・・じゃあ真希さんにやらせればいいじゃないですか。譲るんで』

 

『真希はダメだ。ただでさえ私でもギリギリだったんだ。今の禪院家を考えても、真希では誰も納得しないし、誰もついてこない。相伝の術式を継いでること、領域を会得していること、さらに悟に目をかけられてドラが乗った恵でやっと納得する』

 

『・・・納得とか・・・禪院家がどう思おうと関係なくないですか?さっき言ってた恩恵は当主になれさえすれば受けられるでしょう?』

 

『真希・・・いや、真衣にとってもそれではダメなんだ。それでは・・・あいつらのためにならない』

 

真希や真衣の居場所もできるなら作ってやりたいと考えている赤女(あかめ)は彼女が形だけの当主になるのでは意味がないと考えており、恵の反論を否定している。

 

『真希にはすでにこのことは話した。あいつもそれでいいと納得している。後はお前だけなんだ』

 

『・・・・・・』

 

『お前には悪いとは思っている。ただ本当になれと言ってるわけじゃない。当主と名乗ってるだけでいいんだ。引き受けてくれないか?』

 

『・・・・・・・わかりました』

 

まだ納得しきれていないが、これ以上駄々をこねても話は進まないと判断した恵は渋々ながら当主の座を引き継ぐことを受け入れた。

 

たまたま通りかかった真希とマインは曲がり角に隠れて2人の話を聞いていた。

 

『・・・本当によかったの?納得しようがしまいが、あんたが当主になればよかったじゃない』

 

『・・・まだ・・・私じゃダメなんだよ・・・。私じゃ・・・真衣の居場所を作ってやれない・・・』

 

『・・・・・・』

 

真希の言い分に対して、真衣に思うところがあるマインは言葉を詰まらせ、口を閉じてしまう。

 

 

真希とマインは母親を無視して忌庫へと向かう。

 

「戻りなさあああああああああい!!!!」

 

母親は声を荒げて真希を咎めるように声を荒げる。だがそんな母親の声も、2人には全く響かない。

 

「どうして・・・どうしてあなたはいつもそうなの・・・!!」

 

いうことを聞かない娘に対し、母親は嘆く。

 

「・・・一度くらい、生んでよかったと思わせてよ・・・真希」

 

無表情で瞳に光が宿らない表情をする母親の呟きも、真希には聞こえない。

 

しばらく歩いて、2人は目的である忌庫に到着した。真希は忌庫を封じている南京錠の鍵を解き、扉の封を破った。扉を開き、2人は忌庫の中へと入っていく。そこで目にしたのは・・・

 

 

同時刻、禪院家の一室で直哉と甚壱が話している。

 

「こうする気ぃやったら初めからそう言えや」

 

「・・・お前が先走りすぎなんだ。確かに伏黒恵はお前や赤女(あかめ)よりマシだ」

 

「あぁ?」

 

「五条家との関係修復の景気として彼を後押しする声も少なくない。だが全財産を伏黒恵に譲るというのは俺たちも到底納得できない」

 

「じゃあ何をとろついとったん?」

 

「伏黒恵は五条家だけでなく、加茂家次代当主・・・加茂憲紀とも友好な関係を築いてる。理由もなく消せば立場を悪くするのは我々禪院家。五条悟が封印され、赤女(あかめ)が禪院家より追放されたことで、変動する勢力争いに後れを取ることになる」

 

「それはわかったけど、なんで今なん?」

 

「総監部の通達を碌に聞いていないな」

 

甚壱・・・もとい禪院家が現在進行形で利用しようとしているのは、総監部からの通達の二条、『五条悟を渋谷事変共同正犯とし、呪術界から永久追放かつ、封印を解く行為も罪と決定する』である。

 

「利用しない手はない。五条悟の解放を企てた謀反者として、伏黒恵、三好マイン、赤女(あかめ)、真希、真衣を誅殺する」

 

「くっくっくっ、マインちゃんは悟君と1番繋がりが深いしな。あの子も実の娘も殺した方が信憑性が増すもんなぁ?」

 

「ああ。それにより総監部からの信頼もより強固となる」

 

「でも、それでいいん?扇の叔父さんは」

 

「発案者は扇だ」

 

 

忌庫の中で真希とマインが目にしたものは、呪具ではなく、真希の父親・・・禪院扇であった。

 

「禪院扇⁉」

 

「親父・・・⁉」

 

「ここに呪具はないぞ、真希、三好マイン。お前たちの動向を見越して空にしておいた」

 

扇は真希たちが呪具を取りくるであろうとあらかた予想を立てて、呪具を別の場所に移して待ち構えていたようだが、2人がそれよりも気にしているのは・・・血を流して倒れている真衣の姿であった。

 

「・・・なんで、来たのよ・・・バカ・・・」

 

真衣が傷ついて倒れている原因は父親である扇であるのは間違いない。真衣の姿を見たマインと真希は事前に呪詛師、組屋鞣造のアトリエより取ってきた呪具を取り出す。

 

「あんた自分の娘を・・・イカレてるわあんた・・・!」

 

組屋鞣造の傑作 呪具 パンプキン

 

組屋鞣造の傑作 呪具 竜骨

 

それぞれ呪具を手に取った真希とマインに対して扇は刀を構え、居合の体制に入る。

 

秘伝『落花の情』

 

「・・・なぜ、前当主が私ではなく、兄直毘人だったか、知ってるか?」

 

「てめぇが子供を殺せるクソ野郎だからだろ」

 

真希はゆっくりと歩き、扇に近づいていく。マインはいつでも撃てるように、扇に狙いを定めて構える。そして、松明の火が消えた瞬間・・・

 

ガキンッ!

 

扇は刀を抜刀、真希は竜骨で防御する。そして真希は竜骨の持ち手を変えて竜骨を振り下ろす。

 

ボキンッ!!

 

この一撃によって扇の刀が折れる。そのタイミングを狙ってマインは扇の頭目掛けて弾丸を撃つ放つ。しかし・・・

 

キィンッ!キィンッ!ザシュッ!!

 

扇の呪力が折れた刀の刀身となり、それを振るってマインの弾丸を弾いた。さらに真希が振るった竜骨も受け流し、真希に呪力の刀を振るって斬撃を与えた。

 

(なんで・・・?折ったはずだ・・・刀身が・・・)

 

斬撃を受けた真希は血を流し、倒れる。

 

「真希!!」

 

ヒュンッ!ザシュッ!!

 

「がっ・・・」

 

扇が刀を振るうと、刀に宿った呪力が斬撃波として飛び、マインの身体に切り傷を与えた。斬られ、血を流すマインは静かに倒れる。

 

「なぜ私が当主になれなかったか・・・それは私の子供が・・・出来損ないだからだ!!」

 

扇は刀を鞘に納め、自身の胸の内を倒れる3人に打ち明かした。

 

「刀身を折り、間合いを縮めたと判断し、深く踏み込んだな。だからお前はダメなのだ。私は剣士ではない、術師だ。出来損ないの物差しで私を測ろうなど、笑止千万」

 

「・・・あんた・・・最っ低ね・・・それが父親の言葉なの・・・?」

 

「何とでもいうがいい。五条の出来損ない。何度でも言ってやる。私が前当主に選ばれなかったのは、私の子供せいだ」

 

扇は3人の首根っこを掴み、そのまま引きずって歩みを進めてどこかへ向かっている。

 

「兄の術式は歴史が浅く、相伝であるか否かはそこまで争点ではなかった。術師として、ただ1つを除いて、兄に後れを取ったことはない。唯一、子供の出来のみ。子供が親の足を引くなど、あってはならない」

 

目的の場所に到着した扇は気を失っている真希をその中へと放り投げる。

 

「・・・知らないの・・・?この国では足の引っ張り合いが美徳なのよ・・・」

 

扇の言い分に対し、弱っている真衣は反論するが、扇は聞く耳を持たずに彼女の放り投げる。

 

「・・・だいたい・・・あんたの言ってること・・・論点がズレてるのよ・・・」

 

真衣の言い分に続けて、マインも扇に物申す。

 

「直毘人が当主になったのは・・・子供が生まれる前の話でしょ・・・。その時点であんたの言ってることは的外れ・・・」

 

マインの物言いに対し、扇は眉をひそめる。

 

「あんたが当主になれなかったのは・・・単純に兄より弱かっただけでしょ」

 

ドゴォ!!ゲシィ!!

 

「その減らず口だけで、貴様が五条家の人間であると理解できる。不愉快だ!!」

 

マインの言い分に苛立った扇はマインの頭を掴み、彼女を頭から地面に叩きつけ、腹を蹴り上げる。

 

「ここは訓練と懲罰に使われる部屋だ。2級以下の呪霊を無数に飼っている。今は私に脅えているが、時期にお前たちを食いにはい出てくる」

 

3人を懲罰部屋に入れた扇は真希に顔を向ける。

 

「天与呪縛、フィジカルギフテッド。それがなんだ?我々術師は日々鍛錬して肉体をさらに呪力で強化して戦う。真希、お前の力など、皆て抜かりなく持っているのだ」

 

言いたいことを言う扇はマインにも顔を向ける。

 

「三好マイン。五条悟が目をかけている割には、矮小だな。所詮貴様なぞ、五条悟と乙骨憂太の影に隠れる、ただの羽虫よ」

 

扇が3人を見る視線は本当にゴミを見ているかのように冷たいものだ。

 

「さらば。五条家の出来損ない。そして、我が人生の汚点」

 

扇は3人に暴言を吐き捨て、懲罰部屋を後にした。マインは扇の後を追いかけようと立ち上がろうとするが、傷は深いところまで入っており、その激痛でうまく立ち上がれない。

 

「うっ・・・はぁ・・・はぁ・・・あんたと一緒とか・・・最悪・・・」

 

「・・・それは・・・こっちのセリフよ・・・」

 

少しでも元気を見せようとマインは真衣に対して悪態をつく。それに対して真衣は返事を返しつつ、真希の元まで這いずる。

 

「・・・マイン・・・傷は・・・平気・・・?」

 

「当たり・・・前・・・でしょ・・・舐めん・・・じゃ、ない・・・わよ・・・」

 

「ヤバそうな顔しても・・・説得力ないわよ・・・」

 

平気を装っているが、マインの表情は激痛で相当険しく、視界も朦朧としてきている。真希の元まで近づいた真衣は彼女の顔に触れ、さらに胸に手を置き、心臓の脈を確認する。

 

「・・・さすが・・・しぶといわね・・・」

 

小さくはなっているが、脈は動いている。真希はまだ生きている。だがこのままでは時間の問題だろう。

 

「・・・いつか・・・こうなるんじゃないかって思ってた・・・」

 

真希の顔を見て、真衣は口元にほんの少し、小さな微笑みを浮かべ、顔を近づける。

 

「・・・あんた・・・何をしようと・・・」

 

「・・・もう気づいてるでしょ。私の術式。真希の方は私が何とかするから、あんたの怪我は自分で何とかしない」

 

「・・・!あんた・・・まさか・・・」

 

マインは真衣が今からやろうとしていることに勘づき、止めようと這いずる。

 

「・・・できないなんて言わせないわよ。あんたは天才なんだから・・・五条悟や乙骨君にできて、あんたにできないことなんてない・・・そうでしょ?」

 

「待ち・・・なさいよ・・・!」

 

「・・・これであんたのしょぼくれた顔も見納めと思うと、清々するわ」

 

真衣の元まで近づいたマインは力を振り絞って左手を伸ばし、真衣の裾を強く握りしめる。

 

「勝手なことすんじゃないわよ・・・!誰がそんなことしろと言ったのよ・・・!そんなことしたらあんたは・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「あたしは許さないわよ・・・!言ったでしょ・・・呪術師やめたら・・・軽蔑するって・・・!」

 

マインは必死に止めようと声をあげるが、どんな声も、真衣には届かない。

 

「・・・勝手に軽蔑すれば?私からも言ってあげる・・・私は呪術師になんて・・・なりたくなかったし・・・強くなんてなりたくないの・・・」

 

「・・・っ!」

 

「後のことは真希とうまくやりなさい。私は、あんたには期待してるんだから。また裏切ったりしたら承知しないわよ」

 

既に自分のことは諦めているような真衣の言い分に、マインは歯ぎしりを立て、右拳を地面に叩きつける。

 

「ふざっけんな・・・!約束はどうなんのよ・・・!約束・・・したでしょ・・・!いつかここを連れ出して・・・一緒に星空見ようって・・・!約束・・・したじゃない・・・!」

 

小さい頃に2人で交わした約束。もう忘れたと思っていた約束を、マインは今でも覚えている。それに対して真衣は静かに一筋の涙を流す。だがそれでも・・・真衣の決断は揺るがない。

 

「・・・バッカみたい。先に破ったのはそっちのくせに」

 

「どう思われようと・・・あたしは・・・あんたに・・・!」

 

「無理よ。もう決めたから。その約束も取り消しよ。でも・・・1つだけ約束して」

 

真衣は顔をあげてマインに向き直り、彼女の耳元に1つの約束を口にする。その約束を聞いたマインは、涙をこぼし、顔を俯かせる。

 

「頼むわね。また約束破ったら・・・一生あんたを呪ってやるから」

 

マインとの約束を交わした真衣は真希に向き直り、自分がやろうとしていたことを再開しようとする。

 

「!!やめてぇ!!!!真衣ぃぃ!!!!」

 

「・・・どいつもこいつ・・・最悪・・・」

 

 

「・・・っ!!」

 

目を覚ました真希の意識は今、薄暗い曇り空の中、さざ波の音が響き渡る広い海辺にいる。ぼんやりとする真希はゆっくりと起き上がる。

 

「私の術式、だいたいわかるでしょ」

 

「!」

 

真希の隣には、真衣が座り込んでいた。

 

「でも大きいものとか複雑なものとかは作れないのよ」

 

真衣の術式の名は構築術式。呪力を元にして0から物質を作ることができるというものだ。一度生成されたものは術式使用後も消えたりはしない。それを使って真衣は真希の失ってしまった体の一部をある程度を作り上げ、真希の命を繋ぎとめたのだ。だが・・・

 

「あの人に斬られた傷もあるし、これ使ったら私死ぬから」

 

構築術式は呪力消費が激しく、使用者への負担が大きい。ゆえに、扇に斬られ、怪我を負った状態で構築術式を遣えば、真希は助かる代わりに真衣の命は失われてしまう。それをわかっていたからマインは現実で真衣を止めようとしていたのだ。

 

「じゃあね。後はマインと2人で頑張んなさい」

 

「おい!待て!!何言ってんだ⁉戻って来い!!」

 

真衣はゆっくりと起き上がり、波を打ち続ける海に向かって歩みを進める。真希は起き上がり、真衣を止めようとする。

 

「・・・私、ずいぶん前からわかってたのよ。なんで呪術師にとって双子は凶兆か。何かを得るには何かを差し出さねばならない。これは縛りだけの話じゃないわ。痛い目を見て強くなるのと理屈は同じ。そう言う利害がいちいち成立しないのよ。私たちの場合ね。だって・・・一卵性双生児は呪術では同一人物としてみなされるから」

 

双子が凶兆とされる理由。それは呪術的には一卵性双生児は同一人物として扱われる。それらがあるからこそ、呪術師は双子の存在を忌み嫌い、生まれた一卵性双生児もまた、片方がいくら頑張っても、報われることは永遠にない。

 

「わかる?あんたは私で、私はあんたなの。あんたが血反吐吐いて努力しても、強くなりたいと願ったって意味ないのよ。私は強くなんてなりたくないから。あんたが術式持ってなくたって、私が持ってちゃ意味ないのよ。私がいる限り真希、あんたは一生半端者」

 

「わかったから!!戻れよ!!」

 

遠くへ行ってしまいそうな真衣を真希は必死に走り出して連れ戻そうとしている。真衣はあるものを握って真希に渡そうとする。

 

「これだけは置いていくわ。他は捨てなさい」

 

真希は真衣の手を掴み、引き寄せようとする。だが真衣はその際に何かを真希に渡し、彼女の手を振り払う。

 

「呪力も何もかも、私が持って行ってあげるから。1つだけ、約束して」

 

真衣は小さく微笑み、真希にマインと同じ約束を告げる。

 

「全部・・・壊して」

 

 

全部だからね

 

 

お姉ちゃん

 

 

 

「真衣!!真衣!!!」

 

意識を取り戻し、目を覚ました真希はすぐ目の前で横たわっている真衣に必死に呼びかける。

 

「真衣・・・!起きて・・・真衣・・・起きて!真衣・・・起きて・・・真衣・・・」

 

真希がどれだけ必死に呼びかけても、真衣の瞳には、もう光が宿っていない。彼女は・・・真希の命を引き換えに・・・自分の命を・・・散らしたのだ。

 

「真衣・・・起きて・・・」

 

どれだけ妹の死を否定しようとも現実は非常だ。自分たちの周りには、懲罰部屋に蔓延る呪霊が群がり始めた。すると、一緒に横たわっていたマインがゆっくりと起き上がる。

 

「マイン・・・真衣が・・・」

 

「・・・・・・」

 

マインは群がっている呪霊を見回し、自身の身体に呪力をみなぎらせる。すると、彼女に纏う呪力の質が、変動し始めた。その拍子に、ツインテールが解かれたと同時に、体の傷がみるみる消えていく。これは・・・反転術式だ。

 

 

3人を懲罰部屋に送った扇は部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。が、しかし、懲罰部屋にいた呪霊の消失反応を感じ取り、刀を構える。

 

(呪霊の消失反応・・・⁉)

 

刀を構える扇だが、体は今、底知れない恐怖を感じ取っている。

 

(なんだ・・・⁉体が覚えている・・・!忘れるよう努めたあの・・・恐怖・・・!)

 

構える扇の前に、懲罰部屋の呪霊を全て祓った原因・・・真希とマインが現れる。だが・・・扇の目には、真希には甚爾の、マインには悟の面影が強く重なって見えた。マインは有無を言わず、呪具パンプキンとは別に・・・真衣が持っていたリボルバーの呪具を扇に突きつける。

 

「!!術式解放―――『焦眉之赳』!」

 

己の術式を解放した扇の刀は青き炎を灯し始めた。

 

「・・・術式順転」

 

「いいだろう!!今一度この手で、骨の髄まで焼き尽くしてくれる!!」

 

扇は恐怖を振り払うように、声を荒げて迎え撃とうとする。

 

「来い!!出来損・・・」

 

「赫」

 

ドォォォォン!!!

 

マインが引き金を引くと、悟が使っていた無下限呪術、術式反転赫と似た砲撃が撃ち放たれる。扇が仕掛けるようにも速く、砲撃は扇の頭を撥ね飛ばした。頭が吹っ飛び、残った体は力なく倒れ伏す。

 

「・・・真衣・・・始めるよ」

 

扇が死んだことを確認した2人は真衣との約束を果たすため、外に出ようとする。

 

 

カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!

 

マインが扇を殺害したことがすでに知れ渡り、禪院家の敷地内は警報の鐘が鳴り響いている。

 

「なんや?やかましい」

 

呑気にあくびをする直哉とは対照的に、禪院家に所属する部隊はすでに動き始めている。

 

「甚壱さん!真希と三好マインが乱心しました!扇さんを殺害!現在躯倶留隊が処理に当たっています!」

 

禪院家の人間の1人、禪院蘭太は今起きている非常事態を甚壱に報告している。その間にも禪院家の部隊、躯倶留隊が出動する。

 

「扇さんだって寝こみや便所で襲われりゃ不覚を取ることもあらぁなぁ。俺が着く前に2人ともひっ捕らえろ」

 

『はっ!』

 

躯倶留隊の隊長、禪院信明は躯倶留隊の隊員全員に命令を下す。隊員は命令を受け、一斉に動く。

 

「もたもたして、後で甚壱にどやされんのは俺なんだからよ。あ、殺すなよ。締めは俺がやる。・・・聞いてる?」

 

躯倶留隊。術式を持たない禪院家男児は入隊を義務付けられており、炳の下部組織として日夜武芸を叩き込まれる。真希も高専入学前に籍を置いていた。

 

 

懲罰部屋の廊下を出た真希とマインは屋敷の廊下を歩いている。そんな中、マインは亡くなった真衣のことを考えている。

 

(真衣・・・あたしはあんたを一生許さないわ。真希が生きていても・・・あんたがいないんじゃ、意味ないじゃない)

 

『きれいな星空、一緒に見ようね!』

 

(・・・一緒に星空・・・見たかったのに・・・)

 

『バッカみたい。先に破ったのはそっちのくせに』

 

(わかってる。先に約束を破ったのはあたしの方だ。だから1級術師になって、仲直りしよう・・・一から全部やり直そう・・・そう決めていたのに・・・)

 

「いたぞぉ!!」

 

「正体不明の呪具を目視で確認!」

 

考えている間にも2人の前に躯倶留隊が集結し始めている。躯倶留隊に囲まれる中で、真希は思いふけっている。

 

『どうすんの?』

 

(どうしたかったんだろうな・・・?)

 

『なんで・・・マインもあんたも・・・落ちこぼれれになるのが嫌なのよ・・・!!』

 

(そうだな・・・きっとそれが・・・私たちの正解だったんだろうな・・・。ごめん・・・ごめんな・・・真衣・・・)

 

大切だった双子の妹。仲直りしたかった友達。真衣の気持ちを理解してあげられなかったことが、真希とマインにとって深い傷となってしまった。だからこそ・・・

 

『約束して。全部・・・壊して。全部だからね』

 

真衣と交わした最後の約束。これだけは絶対に、果たさなければならない。

 

「かかれぇ!!」

 

『うおおおおおおおお!!』

 

合図がかかり、躯倶留隊は一斉に2人に襲い掛かる。

 

ブンッ!!ズシャア!!

 

躯倶留隊が動いたと同時に、マインは高く飛び、真希は二振り呪具を握りしめ、一回転して襲い掛かる躯倶留隊を4人斬り捨てる。そこからさらに呪具を振るい、躯倶留隊1人1人殺害していく。

 

高く飛んだマインはリボルバーとパンプキンを持って両手を広げ、高火力の砲撃を撃ち放ち、何人もの躯倶留隊を殺害していく。そこへ、1人の躯倶留隊が槍を構えて、マインに投擲しようとする。それに勘づくマインはぎょろりと目線を向け、リボルバーの引き金を引いて弾丸を撃ち、投擲される前に躯倶留隊を殺害。

 

真希も襲い来る躯倶留隊に二振りの呪具を脳天に突き刺す。さらにそこから次々と躯倶留隊を殺し、さらに攻撃を仕掛ける躯倶留隊の刀をへし折り、そのまま切り倒す。その拍子で折れた刀身に向けてマインは弾丸を撃ち放つ。刀身は弾丸によって弾き、そのまま1人の躯倶留隊の頭に突き刺さる。

 

その後も真希は次々と襲い掛かる躯倶留隊を切り殺し、マインも弾丸を撃ち続けていき、1人1人確実に躯倶留隊を殺していく。真希の身体能力も、マインの術式精度も、以前とは比べ物にならないほどに高くなっている。真希は目にも留まらない斬撃を繰り出し、マインも常人では対処不可能の連射を放ち、大勢の躯倶留隊を殺していく。

 

ヒュンッ!ザシュ!パンッ!

 

真希は刀身を投げ、マインは弾丸を撃ち放って残った躯倶留隊を殺し、全滅させた。

 

「うぃ~、首尾はどうだい・・・うぁっ⁉びっくらポンだぜ・・・」

 

と、ここで隊長の信明が出てきて、辺り一帯躯倶留隊の死体で埋め尽くされたこの惨状を見て驚愕している。すると・・・

 

ドオオオオオオオン!!!

 

真希とマインがいた足場が途端に盛り上がり、岩の巨大な手が出現して空高くまで上っていく。そして・・・

 

ドオオオオン!!

 

岩の両手が閉じ、真希とマインを押しつぶしてしまう。信明が振り返ってみると、そこには禪院家が誇る精鋭部隊の3人がいた。甚壱、蘭太、そして術式を発動させた老人、禪院長寿郎の3人である。

 

(長寿郎さんの術式!炳のお出ましか!)

 

炳。高専資格条件で準1級以上の実力を認められた者たちで構成された禪院家最強の術師集団。高専に入学する前の赤女(あかめ)も筆頭として籍を置いていた。

 

ヒュンッ!

 

「!!」

 

信明が勝利を確信した時、岩の手から破片が飛んできた。その瞬間、信明は目を閉じて剣を振るい・・・

 

ガキンッ!!!

 

一瞬で間合いに入ってきた真希が振るう竜骨を受け止め、距離を取る。

 

(長寿郎さんのあれを食らって、なんで動ける⁉)

 

信明は真希に向けて剣を振るうが、真希はその斬撃を受け止め、素早く竜骨の連撃を放つ。信明はその連撃を剣で防御する。

 

ズンッ!!

 

だが、真希は左手を伸ばして信明の喉幕を貫き、抉り潰す。

 

(速い!呪力のガードもやすやすと・・・!)

 

ズンッ!!

 

喉幕を抉られて血を流す信明に真希は竜骨を彼の頭に突き刺してとどめを刺した。

 

(こやつ本当に・・・あの真希か⁉)

 

以前までの真希とはまるで別人のような動きをする彼女に長寿郎は驚きを隠しきれておらず、すぐに応戦しようした時・・・

 

ドォォォン!!ドゴォ!!ゴキィ!!

 

岩の手が崩壊すると同時に飛び出したマインはパンプキンの砲撃をブースター代わりにして長寿郎に猛接近し、彼の顔を蹴り、首をへし折る。

 

ドォン!

 

それだけでなく、マインは振り返りざまにリボルバーの弾丸を撃ち放ち、長寿郎の心臓を撃ち抜いた。

 

ギィィン!!

 

すると、真希とマインの目の前に巨大な目が出現し、彼女らを睨みつける。その瞬間、2人は重力に引っ張られるかのように重くなり、動きを止めた。これは、蘭太の術式だ。

 

「甚壱さん!!!」

 

「そのまま止めてろ!!蘭太!!」

 

蘭太が2人を止めている間にも、甚壱は歩みを進める。だが、真希は重い重力波の中で自身の全身の筋肉に力を込めることによって、両手を動かせている。マインの方も、全身に高い呪力を身に纏わせることで、重力波に抗い、一歩歩みを進めている。

 

(と・・・止めきれない・・・!!)

 

真希とマインが一歩を歩むことで、睨んでいる巨大な目に大きなヒビが入り、それらフィードバックされ、蘭太は血涙を流す。

 

「構うな甚壱さん!!!今の禪院家が在るのは甚爾さんの気まぐれだ!!!気付いてるだろ!!!真希は今あの人と同じに成ったんだ!!!三好マインだってあの呪力量!!!奴は今、五条悟と1番近い存在となったんだ!!!今!!!! ここで!!!! 殺るんだあああああああああ!!!!!」

 

甚壱は真希とマインが行動に入る前に拳を振るう。それと同時に、彼女らの上空にオーラでできた巨大な拳がいくつも出現する。この数多の拳が甚壱の術式だろう。オーラの拳はまだ動きを止めている2人に向かって降って来る。

 

ドドドドドドドドッ!!!

 

ドカアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

降り注ぐオーラの拳の連撃によって、辺りに大きな衝撃が走り、大きな爆発を引き起こした。この爆発によって、辺りは硝煙が立ち込める。

 

「・・・やりましたね・・・甚壱さん・・・」

 

術式によって失明した蘭太は勝利を確信し、そのまま顔を項垂れ、気を失ってしまった。だが・・・彼の確信は虚しく、硝煙から出てきたのは無傷の真希とマインであった。真希の左手には、頭を撃ち抜かれた甚壱の首であった。真希は甚壱の首を池に投げ捨てた。

 

非道(ひど)いなぁ」

 

そこへ遅れて現れたのは、炳の現筆頭、禪院直哉である。

 

「人の心とかないんかぁ?」

 

直哉は憎らしい笑みを浮かべて2人を煽っていく。

 

「・・・ああ。あいつが持って行っちまったからな」

 

「おあいにく様。そんなもんはとっくの昔に捨てたわ」

 

その煽りに対して、淡々とした返答を返した。

 

 

幼少期の直哉は幼さゆえの純粋さがあったが歪な性格はこの頃からあった。

 

『俺は天才なんやて!みんな言うとる!父ちゃんの次の当主は俺やて!』

 

だがその矜持は、後に禪院家に迎えられた後の特級呪術師となる少女の手によって、崩された。

 

『妹をいじめるな』

 

自分がきっかけで10代も満たない少女が歴代最年少で黒閃を繰り出した。直哉はこの時から大人顔負けの殺意を持った赤目の少女は・・・すで強者側・・・あっち側の人間であると理解する。

 

『禪院家には落ちこぼれがおるんやて。男のくせに、呪力が1ミリもないんやて。どんなしょぼくれた人なんやろう?どんな惨めな顔しとるんやろ?』

 

実際にその男を目にした時・・・直哉は理解した。瞳の輝きを失い、生気が感じられない呪力0のその男に潜んだ・・・有無を言わせない万人を震え上がらせるほど恐ろしき圧力を。その時から理解した。この男は、自分をボコしたあの忌々しい女と同じ・・・あっち側であることを。

 

 

ダダダダダダッ!

 

戦闘開始直後、直哉は投射呪法による素早い動きを作り上げ、一瞬で真希の間合いに入り、絶え間ないラッシュを叩き込む。真希は目で直哉の速さを見ながら、繰り出されるラッシュを防御する。

 

(お前は・・・!!)

 

真希を見て甚爾の姿が浮かんだ直哉は防御する真希の合間をくぐり、彼女の体に触れる。その瞬間、真希はトレース失敗により1秒間の動きが停止する。

 

(お前は・・・甚爾君やない!!!!)

 

1秒の停止を逃さず、直哉は蹴りを叩き込んで真希を蹴とばす。そこへ、パンプキンの砲撃で速く飛ぶマインは直哉に向けてリボルバーの弾丸を数発撃ち放つ。直哉は迫ってきた弾丸を素早い動きを作って難なく躱し、一瞬マインの間合いに入る。

 

(雑魚の次は強さを知らんこと。誰も甚爾君を理解してへんかった。ただ赤女(あかめ)ちゃんと・・・悟君を除いて)

 

直哉はマインの間合いに入って触り、彼女を1秒間フリーズさせる。この時、直哉の脳裏にはかつて赤女(あかめ)の隣を歩いていた悟の姿が思い浮かぶ。

 

(お前は悟君やない!!!)

 

直哉はフリーズしたマインに強烈な拳を叩き込み、彼女を真希の元まで吹き飛ばさせる。そして一瞬で彼女らの元まで接近し、目にも止まらないラッシュを両者に叩きつける。

 

(お前らやない!!!あっち側に立つんは・・・俺や!!!!!)

 

直哉はマインを強く蹴とばし、さらに真希の足を掴んで、勢いをつけて放り投げて岩に叩きつける。直哉は彼女らに反撃する隙を与えず、素早さで翻弄し続けるように絶え間なく攻撃を叩き込んでいく。

 

(まずいな・・・)

 

(弾を撃つ隙がない・・・)

 

投射呪法による超スピードに真希とマインは劣勢に追い込まれている。

 

投射呪法は過度に物理法則や軌道を無視した動きは作れない。同じく速度も術式発動時の加速度には上限がある。逆に絶えず術式を重ねれば重ねるほど、出せるスピードは上がっていく。

 

(あっち側に立つんは・・・)

 

 

俺や!!!!!!

 

 

直哉は真希とマインを殴り飛ばし、さらに一瞬でマインの間合いに入って彼女をさらに殴り飛ばし、さらに真希に接近し、ラッシュを叩き込み続け、岩をぶち抜いて彼女を殴り飛ばす。

 

(もう止まらん!!あの時みたいなへまはせん!!力は・・・重さと速さ!!!)

 

パンッ!!

 

地に着地した真希は両足を広げ、両手を叩いて左右に広げ、音速で動く直哉を待ち構える。

 

(真っ向勝負っちゅーわけか!!)

 

「抱いてやるよ」

 

(最高速度でぶち抜いたる!!!!!)

 

音速で動く直哉は地面などに手を付けて投射呪法を発動させる。その瞬間、直哉が触れたものがフリーズし、触れた個所が砕け、衝撃が走る。

 

投射呪法発動中も掌に触れたものも24分の1秒で動きを作らねばならず、失敗すれば1秒フリーズする。

 

直哉はこれらを利用して出来上がった土埃などで真希の視界を遮り、一瞬で彼女の肩に触れる。その瞬間に真希は1秒フリーズする。それを狙って直哉は回り込もうとする。そこへ、マインが直哉に狙いを定め、パンプキンとリボルバーを放り投げ、両手を翳す。すると、彼女の両掌に無限が現れ、辺りのものを吸い込んでいく。

 

反転術式を会得したことで、浪漫呪法に生のエネルギーを流し込むことが可能となった。これにより、浪漫呪法の攻撃手段である発散が『収束』へと反転する。そこに加え、『音速による翻弄』という危機が上乗せされ、その収束率は、無下限呪術、蒼をも凌駕する。

 

「出力最大。見様見真似・・・術式反転―――『蒼』!」

 

マインは作り上げた無限、蒼を直哉に向けて投げ放つ。放たれた蒼は悟の蒼と同様に、回りの岩や水、木などを吸い込んでいく。直哉は新たな動き作り出して、軌道を変えて迫って来る蒼を避ける。蒼はマインの意思に従うように、直哉を追いかけ回すように周りを1周する。

 

ポンッ。

 

だがマインの間合いに入った直哉は彼女の肩に触れた。これによってマインは、1秒フリーズする。同時に、術式が途切れ、蒼はその場で爆散し、吸い込んでいたものが爆散する。

 

(俺の動きを制限させて、チビの術式で片付けるつもりやったんやろ?そんな見え見えな誘いに乗るかい。やっぱお前らは偽者や)

 

一瞬で周りを一周した直哉はマインに猛接近し、まずは彼女から片付けようと、拳を叩き込もうとする。

 

「・・・今のでとどめなんて期待してないわよ。そういうのは・・・目が慣れた奴がやるべきだわ」

 

ヒュンッ!ドゴォ!!

 

「ごぉ・・・!!」

 

マイン呟いた瞬間、真希が投擲した大きな石が飛んできて、直哉の顔に直撃する。作った動きが乱れたことで、直哉は術式によって1秒フリーズする。1秒という時間の間に、真希は直哉の間合いに近づいた。

 

「24回だ。直毘人のジジイもお前も速いだけじゃねぇ。違和感があった。1秒に24回動きを刻んでた。この身体になってようやく見えたよ」

 

「・・・っ!!この・・・!!偽・・・」

 

ドゴォォン!!!!!ベキィィ!!!!!

 

真希は直哉の顔面に向けて、強烈な拳を叩き込み、地面に叩きつけて頭蓋骨を割ってみせた。

 

「・・・ごめん、こいつなんて言ったの?」

 

「さあ?聞こえなかったぜ」

 

 

戦いが終わった後、マインはパンプキンとリボルバーを回収して、呪具を探して屋敷を徘徊し始め、真希は実の母親を探しに向かっている。客室や厨房なども探してみたが、姿は見当たらなかった。

 

「母さん」

 

一室の襖を開けてみると、ようやく母親を見つけた。

 

「いや・・・来ないで!!」

 

だが彼女は、怯え切っており、真希を見るその顔はまるで殺人鬼を見ているかのようだ。

 

「母さん」

 

「どうして・・・どうしてあなたは・・・!!」

 

「お願いだ、聞いて」

 

真希は母の非難には構わず、聞きたいことを問いだす。

 

「あの時なんで・・・戻れって言ったの?」

 

真希が言っているのは、忌庫に向かおうとして戻れと言われた時のことだ。仮にも扇が娘を殺そうとしていたことを知っていたとしても、娘を疎んでいた母のことを考えれば、言う必要がなかったはずだ。ただ単に知らなかっただけか、それとも別の理由があったのか。

 

「・・・?何の話・・・?」

 

だが母親は話の意図が理解できないのかとぼけている。その様子を見て真希は聞くだけ無駄と判断し、竜骨を掲げ、振り下ろそうとする。

 

「いや・・・いやぁ!!いややぁ!!いやああぁ・・・」

 

ザシュッ!!

 

真希は竜骨を振り下ろし、実の母親は斬り捨てた。斬られた母親は血を流し、力なく倒れる。

 

「・・・いいの?そいつ、母親なんでしょ?」

 

一部始終を見ていたマインはツインテールを結び直しながら真希を気遣っている。

 

「・・・気遣いなんていらねぇよ。行くぞ」

 

「・・・あんたがいいならいいけど」

 

真希はマインの気遣いを一蹴して、その場を後にしようとする。真希の事情に深入りはしないと決めたマインは彼女の後をついていく。

 

「・・・マイン」

 

「何?」

 

「・・・お前はちゃんと両親と話し合いはつけとけよ」

 

「・・・気が向いたらね」

 

マインは自分の両親に対して快く思っていないのか一瞬渋い顔つきになったが、何ともなかったかのようにはぐらかした。

 

 

2人が禪院家を出ていった後のこと。頭蓋骨を割られ、顔もひどく腫れている直哉はまだ生きていた。だが体が思うように動けない直哉は襖を破って倒れる。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・!く・・・くっくっく・・・詰めが甘いんじゃ・・・クソ(アマ)共・・・!」

 

直哉は這いずってゆっくりと進んでいく。すると・・・

 

ドスッ!!!

 

「・・・!!!ざっけんなや・・・!!!」

 

辛うじて生きていた真希の母親が包丁を持ってやってきて、後ろから直哉の背中を心臓目掛けて突き刺した。

 

(呪力が練れん・・・!!!)

 

直哉は抵抗として呪力を練り上げようとしたが、既に心臓が突き刺さっているため、意味を成さなかった。

 

「・・・ドブカス・・・がぁ・・・!!!」

 

3歩後ろ歩けない女は背中を刺されて死んだらいい。そう言っていた直哉は3歩後ろを歩けない女たちに負けた上に眼中になかった3歩後ろを歩いていた女に背中を刺された。直哉は屈辱と不快感に満ちた呪詛を吐き、醜い最期を遂げた。

 

直哉を刺した真希の母親も、命の灯が消えようとしていた。そんな彼女が今際の際に思い浮かべたのは、まだ娘が愛おしいと思っていた頃の・・・幼少期の真希と真衣の姿であった。

 

「・・・生んで・・・よかっ・・・た・・・」

 

母親はそう呟き、その命を散らした。どれだけ疎んでいようと・・・彼女の心の奥底には・・・娘を愛する気持ちが、隠れていたのであった。

 

 

禪院家でやるべきを事を果たした真希とマインは真衣の遺体を抱え、屋敷の外に出た。

 

「真衣ちゃん!!!」

 

そこへ、慌てた様子の西宮が駆けつけてきた。マインが抱えている真衣の遺体を見て、西宮は間に合わなかったと悟り、悲しみの涙を流す。

 

「・・・だから・・・私は・・・行くなって・・・」

 

後輩にして最愛の友である真衣を失い、悲しみに暮れる西宮にマインは真衣の遺体を彼女の預けた。

 

「真衣を頼む」

 

「・・・これからどうするの・・・?真希ちゃん・・・マインちゃん・・・」

 

西宮の問いに真希とマインは何も答えず、禪院家を後にした。

 

 

その日、禪院家に不在だった"炳"6名、"灯"9名、"躯倶留隊"21名が間もなく非業の死を遂げる。

 

現場には三好マインの残穢が残されており、一部の遺体の傷口には凶器の呪具とみられる呪力が僅かに検出される。

 

後日、総監部は三好マインを五条悟解放の謀反者と見なし、同人を呪詛師と認定。各術師に同人の処刑執行を通達する。

 

同時に、五条家及び、加茂家から呪術総監部に対し、禪院家の御三家除名が提議され、総監はこれを保留としている。




悲しい過程を経て、マインちゃんが大幅に強化されました。後は領域展開を会得させたいところですが、ぶっちゃけどんな領域内容にするか結構悩んでます。
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