これはまだ、夜蛾がまだ学長となる前の話。夜蛾は自らの術式で当然変異呪骸、パンダを生み出した。その話が総監部に知れ渡り、牢屋に投獄されてしまう。これの詳しい詳細を、東京校の前学長、鳳凰院烈と、京都校の学長、楽厳寺嘉伸が問いただす。
『夜蛾、ありゃなんだ?』
夜蛾にとって鳳凰院は恩人であり、教師だ。そんな彼を前にしても、夜蛾は答えない。
『知っての通り、人工的な呪骸は他の操術より自立して行動することが可能だ。だが動力である呪力は術師に与えられたものを消費する。あれの呪力はあれのもので、自己保管もできてやがる。まさに異質だ』
『・・・・・・』
『ジジイ共は今、お前を特級に認定して、無期限拘束を下そうとしてる。お前がもしあれを意図的に作ったのなら、簡単に軍隊を作ることができるわけだからな』
鳳凰院はあくまでも担任教諭としてではなく、組織の上層部として、夜蛾を教え子としてではなく罪人として睨んで問い詰める。
『答えろ、夜蛾。お前は本当に・・・あれの作り方を知らねぇんだな?』
『・・・はい』
夜蛾は突然変異呪骸の作り方を知っている。だが彼は恩師を前にしても、嘘をついてでも答えることはなかった。
●
場所は変わって、天元の結界が張られている自然豊かな森。この森には奇妙な生物が住んでいる。
『マサミチー。みんな心配してるよ。元気がないって』
牢から釈放された夜蛾を気にかけているのは、パンツとネクタイが特徴の二足歩行の犬のような生物だ。この奇妙な生物は実際には生物ではなく、夜蛾が秘密裏で作り上げた自立型の呪骸である。
『・・・そうか』
『だから僕言ってやったんだ。元気がなければ元気づければいいって』
『・・・そうか』
『天才だろ?』
『ふっ・・・そうだな』
夜蛾は犬型呪骸、タケルの頭を我が子のように優しく撫でる。
『タケル、すまないがまたしばらく帰れない。皆にもそう伝えてくれ』
『また出張?』
『ああ。長い出張だ。大丈夫。この森は天元様が守ってくれている。お前の母さんもまた会いに来てくれる。俺がいなくても、大丈夫』
夜蛾は伝えるべきことを伝え終え、この森の出入り口へと向かう。
『マサミチー。マサミチがいないと寂しいぜー』
夜蛾を見送っているのは、タケルと、タケルと同じく自立して動く多くの呪骸たちであった。
●
時は渋谷事変から翌日のこと。パンダは総監部の手によって拘束され、身動きが取れなくなっていた。そこへ、レオーネと日下部が現れて、パンダを拘束していた縄を解いた。
「よーし、動けるな、パンダ」
「・・・姉さん、日下部。いいのか?」
「俺が助けたって言うんじゃねぇぞ。お前が捕まってんのは、夜蛾さんを誘い出すためだ」
パンダが拘束された理由は姿をくらました夜蛾をおびき寄せるためである。パンダさえ捕らえておけば彼は必ず姿を現すと睨んだがゆえに。
「・・・あの人には、恩があんだよ・・・ほら、行け」
パンダたちの味方にはならないと言っていた日下部がパンダを助ける理由。それは恩人である夜蛾から受けた恩を返すためであった。
●
再び時は少し過去に遡り、場所は自立型呪骸が住む森の中。まだ高専の教師ではなかった頃の日下部は隣の車いすに乗った女性・・・息子を亡くし、心を閉ざしてしまった妹を連れてきていた。そんな彼に夜蛾は問いかける。
『本当にいいんだな?こいつはお前の甥ではない。甥の情報を持った何かだ』
『いつまでも死人に拘ってちゃ未来を生きていけませんっちゅー話ですよね。でも・・・妹はもう、タケルが支えてあげなきゃ生きていけないんです』
これが妹のためにならないことは日下部自身もわかっている。だがそれでも・・・彼は妹に、明るく生きていてもらいたいと本気で願っている。すると、夜蛾の後に隠れていたタケルがひょこっと姿を現す。
『マサミチー。あの人僕のお母さんじゃない?』
『ああ。よくわかったな』
『へへ、そうじゃないかと思ったぜ。天才だろ?』
タケルを見た日下部妹は彼の動作が死んだ息子と重なって見えて、目を見開いた。タケルが自分の息子なのであると本能的に理解したのだ。ただ、目の前のタケルが息子の情報を持った何かであるという点を除けばだが。
『・・・ぁ・・・ぁぁ・・・タケルぅ・・・』
死んだ息子とまた会えたと思い込んでいる彼女は車椅子から飛び出し、タケルに抱き着いて涙を流す。まるで空いてしまった喪失感を埋めるかのように。
『・・・悪いか?』
『わかってます。完全自立型の呪骸の存在は公にできない。一緒には暮らせない』
『・・・すまん』
『何謝ってんですか。・・・ありがとうございます・・・本当に・・・ありがとう・・・』
タケルは自立した呪骸。彼を連れて行くことはできない。しかしこの森に来ればタケルにまた会える。それこそが、妹にとって生きる希望となる。それだけで十分なのだ。妹に生きる希望を与えてくれた夜蛾に日下部は涙ぐみ、心から感謝している。
●
渋谷事変の後、死罪となった夜蛾は天元の結界で身を潜めていた。しかし、パンダが総監部に捕まっていると聞くや否や、パンダを助けに行くために結界を飛び出した。その道中の中で、夜蛾は街灯の上に立つ刺客と対面してしまう。
「呪骸も連れずどこに行くのですか?夜蛾学長殿」
「・・・息子に会いに」
「死罪となったあなたが唯一助かる方法を教えましょう。・・・完全自立型人口呪骸。その製造方法を明かせ!」
下手に出ていた刺客は途端に口調が荒くなる。
「悟がいなくなり、
夜蛾は着込んでいた上着を脱ぎ捨て、刺客を迎え撃とうとする。
ジャーンッ!ジャーンッ!
そこへ、ギターの音がこの一帯に鳴り響いた。音の出所に視線を向けてみると、そこには点滅する街灯に照らされている老人が1人、そこに立っていた。
「楽巌寺・・・学長・・・!」
そう、京都校の学長にして、歴戦の術師の1人、楽厳寺嘉伸である。
●
数分も経たず、夜蛾は楽巌寺に敗れ、致命傷を負ってしまった。
「学長殿」
「後は儂に任せて下がってよい」
「御意」
刺客は楽巌寺の指示に従い、暗闇に紛れて去っていった。この場に残ったのは楽巌寺と死に絶えようとしている夜蛾のみであった。するとそれを見越して夜蛾が口を開く。
「肉体の情報から魂の情報を複製するんです。その情報を呪骸の核に入力する」
「!!」
「それだけではダメなんです。相性のいい3つの魂を宿した核を1つの呪骸に・・・お互いの魂を常に観測させるんですよ。そうすることで、初めて魂が安定して、自我が芽生える。生後3か月を過ぎた辺りで呪力の自己補完を始めます」
夜蛾が語ったのは完全自立型人口呪骸の製造方法。それを死に間際に語ったことで、楽巌寺は目を見開き驚愕する。
『嘉伸。正道を頼んだぜ』
普段は苗字で呼ぶ腐れ縁の友からの頼み。その者が名前で呼ぶ時ほど、深い重みと呪いが込められている。その腐れ縁の教え子を自らの手で殺めたのだ。彼にとって、その重みはさらに膨れ上がり、のし上がっていく。
「何故・・・今さら話した?何故もっと早く・・・!何故生き延びなんだ・・・!」
「呪い・・・ですよ・・・楽巌寺学長。私からあなたへの・・・呪い・・・です・・・」
夜蛾は最期の最期に楽巌寺に呪いを送り、息を引き取った。
「夜蛾さん!!」
「正道!!!」
感傷に浸る余韻もなく、この場にレオーネとパンダが現れる。夜蛾が倒れている姿を見て、パンダは駆けだしていく。楽巌寺は向かって来るパンダを迎え撃とうと構える。だがパンダは相手にせずそのまま素通り、倒れようとする夜蛾を支える。
「・・・なぜ戦わん?儂が憎くないのか?」
夜蛾を殺したのに戦おうともしない2人の姿勢に楽巌寺は疑問を問いかける。
「・・・ムカつくけど、あんたは上のジジイ共とは違うでしょ。あんた夜蛾さんと仲良かったしね」
「そういうこった。憎いとか、パンダはそう言うのには囚われん。俺にとっちゃあんたは落ちてるナイフみたいなもんさ。だが・・・これだけは覚えとけ」
夜蛾の遺体を支えるパンダに、涙が溢れだす。
「・・・パンダだって・・・泣くんだ・・・!」
うおああああああああああああああ!!!
自分を生み出した生みの親・・・もとい、大事な父親が死んだ。パンダは悲しみが溢れだし、声がかれるまで泣き続けた。
●
時は一同が高専を出た後の頃合い。ナジェンダ、
「おー、これが車って奴かー。いい時代になったもんだねー」
「綺麗。姉様もこの光景を見れたらよかったのに」
500年前の術師であるツクヨミは初めて乗る車にウサギと共に心躍らせている。その間にもナジェンダと
「呪術創生研究所は呪物や呪具、そして呪霊を解析、分解して新たなる呪具や呪物を作り上げる研究施設だとは聞いている」
「逆を言えば、引退した身で呪術師を続けてるという意味だから呪術規定違反になるな」
「あの人らしいと言えばらしいがな」
烈の人柄を知っているナジェンダは苦笑を浮かべつつ、天元の言葉を思い返す。
『鳳凰院烈の呪術創生研究所は新潟県にある土砂災害跡地に建てられている。あそこには高度な結界も張られているから、並みの術師が見つけるのは至難の業だろう』
『加えて、誰も立ち入らない場所だから、研究サンプルの呪霊を捕まえる場所としても、最適だろうな』
『それより本当にできるの?烈って奴が持ってるスー君・・・私たちの弟を人間を使わずに受肉するなんて』
『実行には移してないだけであって、彼にはその技術力がある。望むならば、君たちには相応の覚悟で挑んでもらう必要はあるがね』
『ちなみにですが・・・その方法をお伺いしても?』
『それは・・・錬金術によって作り上げた人造人間、ホムンクルスと呪物を融合させた・・・人造受肉だよ』
人造人間と呪物を融合させる人造受肉。それだけでも驚きだが、それ以前に術式、錬金術によって人が人を作ることができるという内容が1番驚かされる。もしそれが可能ならば、命令に忠実な軍隊をいくらでも作れるわけなのだから。
「術式でホムンクルスを作るのは理論上は可能だ。だがそれを到達できた者は現代の錬金術使いは烈さん以外では誰1人いない。当然だ。人間をつくる行為そのものが、特級案件だからな」
「よく上にバレなかったものだ」
「あの人は昔から自分の手の内を明かさないタイプの人間だ。今までうまく隠してやり過ごしていたのだろうな」
「・・・でもナジェ・・・本当にいいの?」
2人の話を聞いていたツクヨミは後ろ座席からひょっこり顔を出し、話に割って入ってきた。
「・・・何がだ?ツクヨミ」
「スー君の受肉に協力してくれるのは嬉しい。でも・・・天元の言葉、忘れてないよね?」
人造受肉を行うことの危険性。その点についても天元は語っていた。
『錬金術の基本は等価交換だ。それは人造受肉も同じで、やるからには対価が必要になってくる。これは危険な賭けだ。失敗すれば命を失うと考えてもいい』
失敗すれば命を失う可能性がある危険な賭け。その危険な賭けの対価に、ナジェンダが名乗りをあげたのだ。確かに人造受肉ならば犠牲は出ないかもしれない。だがそれはあくまでも一般人にはという意味であり、術師の犠牲は視野には入っていない。
「もうこれ以上・・・私たちのせいで誰かが死ぬのは・・・嫌」
「それでも、決意は変わらないの?ナジェっち」
不器用ながらも心優しいツクヨミの本質を垣間見たナジェンダは振り向き、笑みを浮かべて彼女の頭をポンと乗せる。
「・・・ありがとう。君は優しいんだな、ツクヨミ」
「・・・別に優しくなんて・・・」
「だが、
「・・・でも・・・」
「大丈夫だ。私は烈さんの技術力を信じてる。死ぬつもりはないさ」
ナジェンダは少しでもツクヨミの不安を和らげるために笑みを作って彼女の頭を撫でる。子供扱いされていると思ったツクヨミは不服そうに口を尖らせている。
「子供っぽいってさ~・・・ムギュッ」
「うるさい」
ツクヨミは茶化してくるウサギの頭をギューッと強く握りしめる。渋谷事変では敵として相まみえたが、こうして行動を共にして、彼女らの素顔を知った
「・・・そろそろだ」
話している間にも、目的地である新潟県の土砂災害跡地に辿り着いた。
●
土砂災害跡地に着いた3人は車から降り、事前に天元に言われた通りの場所を探っていると、研究所に通じる穴を発見する。そこに入って奥へと進んでいくと、人工的に作られた機械の扉を発見する。おそらくこれが研究所の入り口だろう。
「当たりだな」
パカッ、ギュイィィン・・・
3人が確信を得ると、扉の小さな穴が開き、そこから監視カメラが現れて、ナジェンダと
『・・・こりゃまたずいぶん懐かしい顔だな』
すると監視カメラから老人の音声が聞こえてくる。この声は東京校の元学長、鳳凰院烈のものだ。
「お久しぶりです、学長」
『学長はやめろ。今の学長は夜蛾だろうがよ。所長と呼べ所長と』
「私にとっては学長は学長です」
『・・・つかお前ら、なんでここがわかったんだよ。お前らを招いた覚えはねぇぞ』
鳳凰院の疑問にナジェンダが前に出て口を開く。
「烈さん、突然の訪問ですいません。しかし、緊急の案件のため、天元様のお力を借りさせていただきました」
『・・・天元様かよ。べらべらと余計なことを・・・』
研究所の場所がバレたのは天元のせいだと理解した鳳凰院は不機嫌を隠し切れない声を出している。
「単刀直入に言います。あなたが持っている
『人造受肉までしゃべったわけ⁉しゃべりすぎだろあのババアああああああああああああ!!!』
人造受肉の存在までバレて鳳凰院はキレている。とここで監視カメラ越しにツクヨミの存在にようやく気付く。
『!そいつは・・・まさか』
「はい。
『・・・・・・』
アマテラスとツクヨミが既に受肉を果たしていると理解すると、鳳凰院は考えるように黙り込んだ。
『・・・とにかく上がれ。話くらいは聞いてやる』
鳳凰院が言い終えると、監視カメラは扉の穴の中に戻っていく。すると、機械の扉はゆっくりとスライドし、研究所の扉が開かれた。入ることを許可された3人は研究所の中へと入っていく。
●
研究所に入った3人は研究員の案内の下、応接室で鳳凰院と対面する。12年前と比べて、彼は筋肉こそ衰えていないものの、髪も髭も短く整えている。何より変わったのはその体だ。腕や足、目などところどころに機械が組み込まれており、サイボーグと化している。これも術式、錬金術と鳳凰院の技術力によって成されたものだ。本人曰く、『もう年だから寿命を延ばすためにやった』とのことである。
「・・・なるほど、ね。渋谷事変に東京の魔境化。さらには死滅回游か。そっちではそんなことになってんだな」
今日本国内で起こっている全ての出来事を聞いた鳳凰院はナジェンダから煙草を受け取り、機械の右人差し指に搭載したライターで火をつけて煙を吸う。
「ご存知なかったのですか?テレビでも報道されていたはずですが」
「研究所建ててからずっと研究に没頭してたからな。どうも最近の呪術界の状勢に鈍くなっちまった。しかし、五条が封印されたとはねぇ・・・天地がひっくり返るほどに信じられない話だが、最近の観測データと照らし合わせりゃ、納得できるな」
鳳凰院はテーブルについていた蓋を開け、キーボードを片手で操作する。すると、テーブルのホログラムが起動し、日本国内の地図が表示される。その中で北海道は赤くなっており、他の地域では黄色く表示されている。そして、その黄色くなっている地域には、黒い点が各所に10個も表示されている。
「11月1日。その渋谷事変?からすぐのことだ。各地にこの黒い点・・・正体不明の帳が観測され、さらに4日後には日本の地脈の霊脈が急激に活性化し始めたんだ。多分これがお前らの言う、死滅回游・・・彼岸に渡すための儀式なんだろうな。五条がいりゃこんなの1週間もかからず解決すんだろ?それができてないってことは、あいつの身に何か起きたとした考えられない」
「そこまで理解していただけたなら、私たちに協力していただけませんか?」
「その前に1つ確認させろ」
鳳凰院は煙草を吸い、手の甲を開いて灰皿代わりにし、煙草の灰を落としながら質問をする。
「人造受肉がどれほど危険なもんか、天元様から聞いてんだろ?失敗すればお前、死ぬことになるんだぜ?それだけじゃない。仮に成功しても対価で寿命が削られるし、何より核となるのは呪物・・・大昔の術師だ。例えばそいつが血も涙もねぇ殺人鬼だったとしたら、受肉後真っ先に殺しにかかる危険性だってある」
「スー君はそんなことしない!」
「あくまでも例えばの話だ。とにかくそういう危険性がある以上、俺としてもオススメはできない。それを取っ払ってまでお前らはやるというのか?」
真剣みを帯びた鳳凰院の鋭い眼光に対し、ナジェンダを怯まずにその眼光を見つめ、口を開く。
「命を賭けるほどの覚悟でなければ、あなたは決して首を縦に振らないでしょう」
「ほう?言うねぇ。死ぬのが怖くねぇのか?」
「それ以前の話です。術師が術師に頼みごとをする時は、お互いが一緒に命を懸ける事が前提。あなたの教えです」
「・・・・・・」
「錬金術は代々古くからある術式の中で最も上層部が重宝している術式です。その中でもあなたは類まれなる頭脳の持ち主。そんな人材を上層部が捨て置くとは到底思えません」
「・・・今までは悟がいたから手を出すことができなかった。でも今は違う。悟が封印されたことで、その足枷がなくなった。上は如何なる手段を使ってでも、学長を連れ戻そうとするはずです。私の処刑も、夜蛾学長の死罪も、おそらくはそのうちの1つでしょう」
「これは縛りでもあります。私たちが上層部の手からあなたをお守りする代わりに、スサノオの人造受肉を引き受けていただきたい。これはあなたが大好きな、等価交換になりませんか?」
「それで例え命尽きようともか?」
「むしろ命を賭けねば、死滅回游平定など夢のまた夢です」
鳳凰院とナジェンダの鋭いにらみ合いの沈黙。その長い沈黙を破ったのは、鳳凰院だ。
「・・・プッ!ガハハハハハ!青臭ぇガキだったお前が、言うようになったじゃねぇか!ガハハ!笑いが止まらん!」
一通り笑った鳳凰院はツクヨミに顔を向ける。
「ふぅ・・・お嬢ちゃん・・・ツクヨミ・・・っていったか?お前さんはどうだ?」
「え?」
「さっきも言ったが、人造受肉は危険性が孕んでる。失敗すれば対価を払った奴は死ぬし、成功しても寿命を半分失っちまうんだ。つまりだな・・・対価を支払うナジェンダの命を、お前さんも背負わなければならないんだ」
「・・・っ」
「その覚悟が、お前さんにあるか?」
人造受肉の対価として命を差し出すことを名乗りを上げたナジェンダだが、その命をツクヨミが背負わなければならない。そこまで考えなかったわけではないが、いざ指摘されると身が縮こまってしまうツクヨミ。
「学長、ツクヨミは・・・」
「黙ってろ。これから受肉させようとしてるのはお嬢ちゃんの弟だ。身内が関係してるってんなら、姉貴であるお嬢ちゃんが他人行事だと、筋が通らねぇだろ」
鳳凰院のことをよく知らないツクヨミでも、彼の言葉に1つ1つの重みが伝わってくる。彼の言うことは何1つ間違っていない。ゆえに試されているのだ。自分が弟のために命を賭けられるかどうかを。鳳凰院の刺すような視線に、ツクヨミは目を逸らさず、口を開こうとする。
「・・・私は・・・」
ヴゥーッ!ヴゥーッ!ヴゥーッ!
「「「「!」」」」
するとこの研究所全体に響く警報音が鳴り始める。警報を聞いて鳳凰院は自分の顔の通信機の通信を取り、研究員に状況を確認する。
「何事だ?」
『しょ、所長!侵入者です!この研究所に侵入者が!』
「侵入者だぁ?何人だ?」
『そ・・・それが・・・ぎゃああ!!』
ブツッ!!
「おいどうした⁉応答しろ!・・・チッ!」
だが途中で通信が切れてしまい、鳳凰院は舌打ちをする。だが聞こえてきた断末魔からして、よくないことが起きているのは明らかだ。鳳凰院はすぐに別の研究員に通信を入れ、すぐに指示を出す。
「俺だ!研究所に侵入者が入った!各フロアの防壁を張れ!これ以上の侵入を許すな!」
鳳凰院が通信を切った瞬間、指示通り研究所の防壁が閉じていく音が聞こえてくる。そして、この応接室の防壁もすぐに閉じられた。
「烈さん」
「学長」
「聞いての通りだ。お邪魔虫が入った。ついてこい」
鳳凰院は機械腕のパネルを操作した瞬間、戸棚が動き出し、隠し扉が出現する。一同は隠し扉を通って応接室を脱出する。
●
4人は隠し通路を通って安全に移動できている。少し歩いていると、その先に扉が見えてきた。扉が開き、中に入ってみると、そこには真っ白で何もない広大な空間が広がっている。
「ここはシュミレータールーム。研究員たちが呪具の実用試験、及び特訓のために使用されている場所だ。ここでなら、存分に暴れられるはずだ。・・・なあ?お前もそう思わないか?」
そう言って鳳凰院が閉じられた出入り口に視線を向ける。その数秒後・・・
バァン!!
何者かが出入り口の扉を蹴とばして、強引に中に入ってきた。
「おっ?こいつはラッキー!指名手配犯の
シュミレーションルームに入ってきたのは短パンズボンを吐いた上半身裸の灰色髪の男だ。目元の縫い目と反転目が特徴のその男が持っているのは研究員の生首であった。
「
「おぉ♪俺のこと覚えててくれたの?嬉しいねぇ。
「誰?」
「奴は
「!処刑人・・・!」
羅刹四鬼の1人、
「へっへっへっ、まぁ待ちなって。俺はそこにいるおじいちゃんと話があるんだよ。やり合うのはその後だ」
「保守派の犬共と話す気はさらさらねぇんだが?」
鳳凰院は
「ほぉ~?夜蛾学長が死んだって聞いても?」
「「!!?」」
「・・・ほぉ?」
夜蛾が死んだ。その事実を伝えられたナジェンダと
「夜蛾学長が・・・⁉」
「楽厳寺学長が殺した。完全自立型人口呪骸の作り方をしゃべらなかったからなぁ」
「・・・話が見えんな。それが俺とどう関係あるってんだ?」
「ヒヒッ!わかってるくせにぃ。錬金術は頭が切れてる奴でないと扱えない複雑な術式だ。あんたは賢い!それなら完全自立型人口呪骸の作り方を知っててもおかしくないだろぉ?いや・・・知らなかったとしても、それ以上のことをいろいろ知ってそうだぁ」
人を嘲笑する邪悪な笑みを浮かべ、
「今すぐに戻ってきな。そうすりゃ、あんたまた学長の座に・・・」
「断る」
「我が身かわいさに首を縦に振ると思ったか?舐めるなよクソガキ。夜蛾を学長に推薦したのは俺だ。あいつに学長の席を譲ったその時から、俺も夜蛾も、てめぇの身の振り方は決めてんだよ」
わかっていたことだ。どんな交渉術を用いても、伝統や秩序よりも人道を重んずる鳳凰院が決して首を縦に頷くはずがないと。だからこそ、
「ヒヒ!聞き分けのないおじいちゃんだぜ!そんな老害には、おしりぺんぺんレベルじゃ済まない罰を与えないとなぁ?」
交渉が決裂した瞬間、
ドシュッ!
スパァ!
「お?」
そこへツクヨミが前に出てきた槍で
「月光蝶・
ツクヨミはすかさず指に止まっている赤黒い蝶を
「へっへっへ、なんだそりゃ!」
だが
「⁉なんだこりゃ・・・うおおおお!!」
粒子は意思があるかのように動き、
(今のは姉様の受肉体と同じ肉体操作・・・。でも髪の毛だけの操作じゃない。こいつの肉体操作は完全に上位互換!だったら今ので終わりじゃない!)
『しょ、所長!大変です!』
「今度は何だ⁉」
『サンプル呪霊が侵入者の手によって解放されましたぁ!』
「なんだとぉ⁉」
自分たちが研究サンプルとして捕まえた呪霊が別の侵入者の手によって解放されたと聞き、鳳凰院は驚愕する。
「侵入者は
「四鬼羅刹っていうくらいだもん。絶対いると思った」
『呪霊は現在、通気口を通って次々と外へと出ています!』
「外に出た呪霊は俺が何とかする!お前らは呪霊を1匹残らず処分しろ!これ以上外には出すんじゃねぇぞ!」
研究者に指示を与え、通信を切る。何とかするとは言ったものの、鳳凰院は粒子に飲まれている
「とは言ったものの、どう切り抜けるべきか・・・」
すると、
「禪院姉・・・」
「学長、
「・・・すまん、恩に着る」
この場に残り、
「私は烈さんを守る!
ナジェンダは鳳凰院についてき、護衛につくことを選ぶ。
「・・・ウー。私と離れても大丈夫な呪力を送っておいた。それでナジェとおじいちゃんを守ってあげて」
「ツーちゃんは?」
「私はもう1人の侵入者を潰す」
ツクヨミは呪霊を解き放ったもう1人の侵入者の撃退することを選んだ。
「いいか!事が済んだら外で落ち合うぞ!」
「了解」
「うん」
この場を
「ほぅあ!!!」
赤黒い粒子に飲まれていた
「
「・・・
「へっへっへ。さぁて、なんでかねぇ?」
「答える気がないならそれでも構わない」
質問に答える気がない
「葬る!」
先手必勝として、
「やってみなぁ!」
突っ込んでくる
「ふぉう!!」
だが
「へぇあ!!」
小さなブツブツが突起し、無数の針となって
「へっへっへ・・・俺たち羅刹四鬼は壮絶な修行に加え、1級呪霊のレイククラーケンの煮汁を食べて育った!だから体の操作は自由自在よぉ!!」
軟体動物のように体をくねくねと動かしてみせている
●
2人が乗った非常用エレベーターはゴウンゴウンと音を立てながら上に上がり、やがて地上に到着し、外に出てきた。2人が出た場所は森の中で木々が生い茂っている。そして外には研究員の言うとおり、大量の呪霊が出てきていた。
「烈さん・・・あなたいったいどれだけ呪霊を捕まえたんですか・・・」
「サンプルは多ければ多い方がいいからな!ガハハハハ!」
「笑い事じゃないです」
呪霊さえ捕まえなければこんな事にはならなかったはずなのだが、鳳凰院は特に悪びれもせず豪快に笑っている。それにはナジェンダは呆れてものも言えない。
「んなことよりナジェンダ。いけそうか?」
「現状、自分の力は四割減ですが、呪霊くらいなら対処できます」
「よし。付属品。お前は?」
「せめてぬいぐるみって呼んでよ。誰に物言ってんだ。僕はツーちゃんの最強の式神、月陰ノ白兎だぞ!」
鳳凰院の質問に答えるようにウサギは彼の頭から飛び出し、呪霊に突っ込んでツクヨミからもらった呪力を纏って拳を叩き込んだ。拳を叩き込まれた呪霊はぶち抜かれ、黒い塵となって祓われる。さらにウサギは自身の耳を伸ばし、さらに2体の呪霊を刺し貫いて祓う。どうやらウサギはぬいぐるみ状態でも十分な戦力を持っているようだ。
「やるじゃねぇか付属品!」
「オッサンマジで殺してやろうか!」
「こりゃ俺も綿毛に負けちゃいられんな!」
ウサギへの対抗心を燃やす鳳凰院は自身の白衣を脱ぎ捨て、サイボーグと化した体を披露し、腹部位を開けて鉄をその中に入れる。
「見ろぃ!!これが錬金術の錬成であり、この鳳凰院烈の世界一の化学力の結集よぉ!!!」
ウィーンッ!ガシャン!ジャキーン!ダダダダダダダッ!
鳳凰院が腹部位の蓋を閉じると、機械の腹は変形し、銃機関砲となる。そして、腹の中の鉄を徹甲弾へと錬成し、それに呪力を纏わせて銃機関砲によって連射される。徹甲弾は呪霊を貫き、次々と祓っていく。
ナジェンダはウサギが呪霊に頭突きで呪霊を祓ったタイミングで義手の拳を飛ばし、その背後にいた呪霊を貫いて祓う。そこへ別の呪霊がナジェンダを襲うが、彼女はそれを察知して、軽く跳躍して躱す。同時に飛ばした拳を戻し、襲ってきた呪霊に拳を飛ばして祓う。飛ばした拳はそのまま木の枝を掴み、ナジェンダは義手のスイッチを押す。
「リールアサルト!」
スイッチを押したことで義手に内蔵されているワイヤーリールは回転し始め、呪霊は動きを制限される。ナジェンダはリールワイヤーを引っ張られるような形で戻し、呪霊に接近して呪力を纏った蹴りを放つ。蹴りをまともにくらった呪霊は頭が吹っ飛び、祓われる。
「ほーらっと!」
ウサギは高く飛び、呪霊の頭上高くまで跳ぶ。そして、ウサギは一回転し、足に呪力を纏って呪霊の頭蓋骨目掛けて急降下し、その勢いで呪霊の頭を潰して祓った。今のが最後の呪霊で、それを祓ったことで呪霊は全滅した。しかし、全員は警戒を解いていない。まだ終わりではないのだ。
「高みの見物とは言い御身分じゃない?出てきたらどうだい?」
ブオンッ!グシャ!
ウサギが言い終えると同時に、遠くの木から何かが飛び出してきた。飛び出してきたそれは、嫌な音を立てながら地面に叩きつけられる。飛び出してきたそれは、胴体に風穴が開いた研究員の死体であった。
「あっはっは!呪骸の割にはやるじゃん!いや、式神の方が正しいか?ま、どっちもいっか!面白いし!」
死体が地面に叩きつけられたと同時、放り投げた張本人が木から飛び降りてきた。その人物は褐色肌の女性は下は道着、上は水着と似たような恰好をしている女性だ。
「お前も羅刹四鬼?」
「お?もってことは、パイセンには会ったんだ。そうだよ、ウサちゃん。私は
羅刹四鬼の1人、六道
「自己紹介なんざいいんだよ。んなことより・・・俺の大事な部下に何しやがんだクソガキ」
「何って?呪術規定を破ってるわけだし?殺すだろ?普通」
鳳凰院の怒気もどこの空、
「違うぞ、
すると
「んだよ。てめぇはお呼びじゃねぇんだよ・・・
「久しいな、鳳凰院学長殿。ずいぶん哀れな姿になってしまったな」
巨漢の漢の名は
「俺の部下を殺した奴に、このイカした姿をどうこう言う筋合いはねぇぞ」
「殺したのではない。生にしがみつく哀れな魂を救ったのだ。むしろ感謝してもらいたいものだな」
「相変わらずイカレてんな、てめぇ。殺しを救いだと本気で思ってやがる」
「鳳凰院殿。残念ながらお前の魂を救うことはできん。お前を連れ戻せと言う命令があるのでな」
「はんっ、嫌だね・・・つったらどうするよ?」
鳳凰院の反発の声に対して、
「そりゃあもちろん・・・力づくに決まってんでしょ!」
先に動いた
「ウサちゃん、さすがに私のこと舐めすぎでしょ」
「そっちこそ、僕のこと舐めてんだろ」
ウサギは体を揺らし、
「はは!おもしろ!マジでどうなってんのこのウサギ!」
「笑ってられんのも今の内だよ。狼の狩猟本能は・・・本当に怖いものだ!」
ウサギは人狼形態の素早い動きを生かして爪を振るって連撃を放つ。だが
一方の鳳凰院は
「ぬぅぅん!!」
「ぬるい!この程度で儂を止められると思ったか!」
弾丸を防いでいるところを狙い、ナジェンダは
カチッ!プシューッ!!
「ぬっ!」
ナジェンダがスイッチを押すと筒から大量の煙を噴き出し、
「賢しい真似を。このような煙幕で、目くらましにもならぬわ!」
煙で視界が遮られている中、
ビュンッ!!ドゴォ!!
「ぐああああああ!!」
「烈さん!!」
「ぬんっ!!」
「ぐっ・・・ぅあ!!」
ナジェンダは鳳凰院に駆けつけようとしたが、
ドカッ!ゲシィ!!
「がっ・・・ぎぃぃ!!」
ウサギも
「衰えたな、鳳凰院殿。昔のお前は・・・もっと骨があった奴だった!!」
鳳凰院の拳を片手でぐしゃぐしゃに握りつぶす
「うおおおおおおおお!!」
「れ・・・烈さん・・・」
「ぎ・・・オッサン・・・」
「安心しろ。殺しはせん。だが・・・無傷で捕らえろとは言われていない」
「・・・っ」
「どうやら全身が機械のようだな。まずはその機械を全て削ぎ落すとしよう」
シュッ!ブオンッ!
「ギリギリセーフ・・・ってとこかな?」
「状況が飲み込めねぇぞ。どういうこったよ、これは?」
一同が手斧が戻った方角に視線を向けてみると、そこにはジャケットを着込んだ緑髪の男と、礼儀正しく高専の制服を着込んだ水色髪のポニーテールの男だ。この場に駆けつけたのは・・・
「無事ですか⁉ナジェンダさん!」
「わけわかんなすぎてイライラしてくるぜ、クソがよぉ」
京都校に所属する高専生3年、ラバック。同じく高専生2年、加茂清孝。意外な助っ人がこの戦況を大きく変えるのであった。
死滅回游泳者ボルスはどこのコロニーに向かった?
-
東京第1結界
-
東京第2結界
-
仙台結界
-
桜島結界
-
御所湖結界(オリ話)