呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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熱

鳳凰院を羅刹四鬼から守り通し、スサノオの人造受肉を果たした赤女(あかめ)たちは廃棄した研究所を後にし、天元の結界が張られている森までやってきた。ここはかつて夜蛾が身を潜めていた場所であり、この森には夜蛾が作った自立型呪骸がたくさん暮らしている。

 

「だから僕言ってやったんだ。反省してるなら、謝って仲直りすればいいって」

 

「おお~、それは妙案だね~」

 

「へへっ、天才だろ?」

 

タケルを含めた自立型呪骸の遊び相手はツクヨミとウサギが務めることとなり、ウサギはタケルたちとおしゃべり、ツクヨミは大人しそうな呪骸にハープを弾いて歌を披露している。ツクヨミたちが呪骸の相手をしている間に、赤女(あかめ)たちはラバック、清孝、スサノオの3人と共にお互い情報を共有しあっている。

 

「・・・そうか。では夜蛾学長は本当に、楽厳寺学長が・・・」

 

赤女(あかめ)の言葉に、ラバックと清孝は首を縦に頷く。

 

「事情はよく知らないけど、鳳凰院元学長の話題が出た時、相当悩んだみたいだよ。自分はどっちを取るべきなんだって感じに」

 

「悩みに悩みまくって、最終的に元学長を選んだみてぇだがな」

 

「・・・妙だな。あの潔癖マニアの楽厳寺学長が総監部の意に背くなんてありえない。それに、楽厳寺学長は学長を相当煙たがっていたはずだ。なのになぜ・・・?」

 

学生時代の時から鳳凰院と楽厳寺の関係を知っている赤女(あかめ)は楽厳寺が鳳凰院を助けることに対して疑問符を浮かべている。

 

「そのことで赤女(あかめ)ちゃんに伝言を預かってるんだ」

 

「伝言?楽厳寺学長が私に?」

 

ラバックが首を縦に頷くと、楽厳寺より預かった伝言を彼女に伝える。

 

「呪いを生かすも殺すもお前次第だって」

 

「呪い・・・?」

 

楽厳寺の言う呪いが何を意味しているのかわからず、赤女(あかめ)は首をかしげる。

 

「なるほどなぁ。あいつらしい最期だぜ」

 

話に割って入ってきたのは体を修理し終えた鳳凰院であった。すぐそばでは人造受肉の治療を終えたナジェンダもいる。

 

「な、ナジェンダさん!もう大丈夫なんですか⁉」

 

「ああ。むしろ調子がいいくらいだ」

 

「爺さんも体はいいのかよ?」

 

「おう。ちょいとギクシャクするが、俺の身体は修理完了よ」

 

「それはいいのですが学長・・・あいつらしい最期とは?」

 

赤女(あかめ)は鳳凰院に疑問を問いかけ、鳳凰院はそれに答える。

 

「夜蛾を殺したのは楽厳寺っつったろ?夜蛾の奴、死ぬ前に楽厳寺に何かしらの呪いを残したんだよ。あいつ楽厳寺と仲良かったからな」

 

「夜蛾学長の・・・」

 

「つまり俺らは、あいつの呪いに助けられたってわけだ」

 

楽厳寺を突き動かしたのが、夜蛾の残した呪いであると判明したことにより、彼の生徒だった赤女(あかめ)はどう反応すればいいのかわからず、顔を俯かせる。

 

「禪院姉、夜蛾はお前のことを気にかけていたぜ」

 

「!」

 

「黙っとけって言われたが、あいつ言ってたぜ」

 

数年前に電話で夜蛾と連絡を取り合っていた鳳凰院。その時に夜蛾が赤女(あかめ)に言っていたことを伝える。

 

『禪院姉を学長候補に?本気か?』

 

『確かに赤女(あかめ)は強いですが、俺から言わせてみれば精神はまだ未熟です。しかし、厳しく教えを説いていけば、いずれは呪術界を牽引していく呪術師になるはずです』

 

『・・・楽しそうだな、夜蛾』

 

『ええ。まるで娘の成長を見守っている気分です』

 

悟とは別に自分のことをそこまで評価し、なおかつ娘のように自分のことを見守ってくれていた。夜蛾の隠された気持ちを知った赤女(あかめ)は涙が溢れだしそうになる。

 

「・・・夜蛾先生・・・!!」

 

涙を堪える赤女(あかめ)に鳳凰院は彼女の頭に手をポンと置く。

 

「心身ともに強くなれ、赤女(あかめ)。お前はまだまだ強くなれる。強くなって、正道が誇れる呪術師になってみせろ」

 

「・・・はい!」

 

夜蛾の想いが込められた鳳凰院からの期待という名の呪い。その呪いを受け止めるかのように、赤女(あかめ)は涙を拭い、力強く頷いた。その様子に鳳凰院は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「話を戻すが・・・その羂索という術師が、姉上たちを誑かし、母上を弄んだのだな?」

 

「アマテラスの話を信じるなら、そういうことになるな」

 

羂索の所業を知ったスサノオは拳を握りしめて怒りを表し、羂索に対し、明確な殺意が溢れ出る。

 

「羂索にとって、先の渋谷事変は単なる前哨戦にすぎないのだろう。死滅回游は日本全土を巻き込んだ大規模な呪術テロだ。平定するためには、私たちだけの力では足りない。どうか手を貸してくれないだろうか?」

 

ナジェンダからの協力要請に真っ先に声をあげたのはラバックだった。

 

「任せてくださいよナジェンダさん!あんたのためなら、火の中でも吹雪の中でも、どこへでもお付き合いしますよ!!」

 

ラバックはナジェンダのために死滅回游の平定を誓った。続いて清孝がナジェンダに問いかける。

 

「その死滅回游ってよぉ。俺のクソ親父を変えやがったあのクソ女(あま)が出やがるのか?」

 

清孝の言うクソ親父とは実の父親である三獣士のリヴァであり、クソ女(あま)というのは彼が崇拝している術師、エスデスのことだ。

 

「おそらくはな」

 

「・・・そうかよ」

 

清孝の脳裏に浮かんだのは、リヴァがまだ加茂家の一員としての矜持を持って、自分を育ててくれた父親としての姿であった。

 

「元より俺はあのクソ女(あま)を親父以上に憎んでんだ。そいつをぶっ殺せるってんなら、なんだってやってやんよ」

 

清孝はエスデスへの殺意を明確にして、死滅回游の平定に協力すると約束した。最後に残ったスサノオは考えるように顔を俯かせ、確認のためにツクヨミに問いかける。

 

「姉上。姉上は死滅回游の参加を?」

 

「・・・死滅回游のルール追加。それ以外に羂索の計画を潰すことはできないから」

 

スサノオは羂索の計画以前に、ツクヨミに殺し合いの場に立ってほしくないし、これ以上の殺傷をしてほしくないと考えている。だがツクヨミが性格に似合わず頑固であることも知っている。言ったところで彼女は自分の意思を曲げることは決してない。それならば・・・自分が姉を守ればいい。スサノオはそう結論づけた。

 

「・・・わかった。死滅回游の平定に俺も協力しよう」

 

「・・・ありがとう。協力に感謝する」

 

3人が協力に応じてくれたことに、ナジェンダは感謝を告げる。

 

「・・・とりあえず、まずは腹ごしらえから始めるとしよう」

 

ぐぅぅぅぅ~・・・

 

スサノオがそう言い切ると同時に、赤女(あかめ)のお腹が鳴った。

 

「・・・そういえば昨日から何も食べてないな」

 

「スー君の料理はとってもおいしいから、期待していいよ」

 

「今から調理を始める。何か食材はないか?」

 

「あ、それならいくつか研究所から持ってきたよ」

 

「拝見しよう」

 

「ウー、手伝ってあげて」

 

「ええ~~?僕スーさん苦手なのに・・・仕方ないなぁ」

 

スサノオは朝食の準備に取り掛かるため、研究員とウサギと共にその場を離れ、キャンプ器具で調理を始める。

 

「・・・そういやお前らよぉ、俺の研究所の場所よくわかったな。楽厳寺ですら教えてないんだぜ?どうやってわかったんだ?」

 

鳳凰院の疑問に対して、ラバックと清孝は答える。

 

「いや?学長も場所は知らないみたいだよ?ただオッサンが研究所を作りそうな場所のピックアップを教えてくれただけ」

 

「はあ!!?」

 

「現にあのドンパチがなかったら気付かず、別の場所に行ってただろうしな」

 

「んだよそれ⁉ただの勘かよ!勘で研究所見破られたのか⁉めっちゃ凹むんだけど・・・」

 

勘だけで自分の研究所の場所を特定されたことに鳳凰院はわかりやすいようにショックを受けている。だがそれとは別に赤女(あかめ)は2人の言葉を聞いて、考えるように手を顎に添えている。

 

●

 

朝食済ませた後、全員行動を開始した。ナジェンダ、ラバック、ツクヨミ、スサノオはさっそく死滅回游の参加。清孝は楽厳寺の報告のために一度京都に帰還。赤女(あかめ)自身も自分が担当するコロニーに向かっている。移動の最中、赤女(あかめ)は1つの疑念が浮かぶ。

 

(学長の疑問は尤もだ。羅刹四鬼はなぜ学長の研究所の場所がわかったんだ?学長の情報秘匿は徹底していた。それなのになぜ・・・?)

 

考える赤女(あかめ)の脳裏に浮かんだのは、あの額に縫い目を縫った術師・・・友の体を奪った羂索だ。羂索は上層部とも通じていたし、脳の入れ替えによる肉体の入れ替え術式を持っている。もしかすると羂索は研究員の・・・。

 

(・・・憶測はよそう。混乱するだけだ。羅刹四鬼は総監部の闇の1つだ。それが動いたとなると、総監部はろくに機能していないことは明白。そこに私たちが羅刹四鬼を殺したんだ。あの老人たちは余計に慌てだすだろう。この機に乗じて、やるべきことを果たす)

 

憶測を考えたところで、事態が起こってしまった今となっては無駄である考え、自分の役目に集中する。考え事をしている間にも、赤女(あかめ)は目的地である死滅回游のコロニーの1つ、仙台コロニーの前に辿り着いた。赤女(あかめ)がコロニーに足を踏み入れようとした時・・・

 

ポンッ!

 

軽快な音と共に、自分の目の前に悪魔のような尻尾を備え、天使の羽を生やした愛嬌のあるデザインの髑髏の奇妙な生物が出現した。この奇妙な生物こそが、各泳者(プレイヤー)に1体ずつ憑く、死滅回游の窓口だ。

 

「よお!俺はコガネ!この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!一度足を踏み入れたらお前も泳者(プレイヤー)!それでもオマエは結界(なか)に入るのかい⁉」

 

突如現れた死滅回游の窓口、式神コガネのシステムアナウンス。それに対して赤女(あかめ)は驚くことなく、決意も揺らぐことなく、宣誓する。

 

「ああ。参加しよう」

 

赤女(あかめ)の宣誓によって、コガネは彼女を死滅回游の泳者(プレイヤー)と認定した。

 

「禪院赤女(あかめ)が死滅回游へと参加しました。ルールを参照しますか?」

 

「ああ。頼む」

 

死滅回游の泳者(プレイヤー)となった赤女(あかめ)新たなルールが追加されていないかの確認する意味も兼ねてコガネにルールの参照を求めた。

 

(・・・他のみんなはうまくいっているだろうか?みんな・・・死ぬなよ)

 

コガネからルールを聞き終えた赤女(あかめ)はそれぞれの役目を負う皆の無事を祈りつつ、仙台コロニーに足を踏み入れるのであった。

 

●

 

日時は遡って昨日。栃木県に来ている悠仁、巽(たつみ)、恵の3人は現在停学中の高専生3年、秤金次の協力を仰ぐため、彼の居城へと向かっている。彼の居城は担任である赤女(あかめ)から聞いている。

 

『秤は今栃木県の立体駐車場跡地でファイトクラブという賭け試合の胴元として金を稼いでいる』

 

『賭け試合?』

 

『術師同士の殴り合いだ』

 

『術師同士の殴り合いって・・・それって客は・・・』

 

『当然、非術師狙いだな』

 

『思っきり呪術規定8条の秘密に抵触してるじゃないですか』

 

『賭け試合の参加者の中には呪詛師もいる。参加をするなら用心していけ』

 

呪術規定第8条、非術師に術師の存在を明かしてはならない。秤はこの規定を破ってファイトクラブを設立した。その理由は自分たちの停学処分と大きく関係している。

 

「お、あれだな」

 

しばらく歩いていると、立体駐車場の建設跡が見えてきた。あれが秤の拠点であるファイトクラブの会場である。3人は中に入る前に、高専の制服を脱ぎ捨て、私服に着替える。

 

「なんで着替えんの?」

 

「秤さんは上と揉めて停学くらったんだ。呪術規定も現在進行形で破ってる。高専関係者ってバレたら逃げられるかもしれない。警察と泥棒みたいなものだからな」

 

「高専関係者っつーけどさ、俺らって今高専側なのかよ?」

 

「グレーだな。少なくとも秤さんから見たら黒だろう」

 

そもそも秤が停学を食らった理由というのは、百鬼夜行後、保守派の術師と揉めたことが原因だ。揉めた原因は保守派の術師が秤の持っている術式が呪いらしくないというくだらないことを言い出したことが事の発端だ。それで責め立てられ、怒り狂った秤がその術師に暴行を加えて大騒ぎになった。それがトリガーとなり、秤はもう1人の3年と共に停学処分を食らい、今に至るというわけだ。そういう事情があるからこそ、秤は限られた者しか信用しておらず、特に高専関係者で知らない人間ともなれば門前払いを食らう可能性が高い。だからこうして私服に着替えて、自分たちは高専とは無関係と装う必要があるのだ。

 

「そもそも協力してくれるような人なの?」

 

「どうだろうな。先輩たちはみんなろくでなしって言ってる。でも赤女(あかめ)先生は秤さんを認めてるし、あの乙骨先輩が自分より強いと言ってるんだ。戦力として絶対欲しい」

 

「ま、とりあえずは会ってみようぜ。話はそれからだ」

 

私服に着替え終えた3人は駐車場の通行止めバーを潜り抜けて中に入ろうとする。するとその直後、中にいたファイトクラブの関係者が止めに入る。

 

「帰れガキンチョ。ここは溜まり場には向かねぇよ」

 

「1、2の3で回れ右だ。それ以外の選択肢は俺に殴られる」

 

このファイトクラブの関係者もおそらくは術師だろう。術師からの一発は非術師からすればひとたまりもないだろう。だが3人は高専の術師だ。その程度では止まらない。3人は臆すること前に進み、恵が口を開く。

 

「金がいる。ここでやってる賭け試合に出場させてくれ」

 

ブォンッ!!

 

ファイトクラブの関係者が殴りかかろうとしたが、恵の発した賭け試合の単語を聞いて、パンチを寸止めした。

 

「ルールその1。クラブについて口にしてはならない。答えろ。誰に聞いた?お前を殴るのはその後だ」

 

「名前は知らない。殺したから」

 

「!」

 

「一月前だ。威勢だけのクズがいたろ」

 

恵は冷めた表情で事前に仕入れた情報をさも自分がやったように淡々と伝える。屈強な男性は確認するように糸目の男と目配せする。

 

「・・・一月前、コンドーが消えた」

 

本当に殺したかどうかは知らないが、どうやら一月前に参加選手が姿を消したことは確かのようだ。

 

「その穴を埋めてやる。なんなら胴元の前であんたを転がしてみせようか?」

 

(そっか。いきなり会わせてくれって言ったら警戒されんのか)

 

(つーことは秤って名前も知ってちゃダメってことだな。黙ってようぜ)

 

(オッケー)

 

恵が交渉している間悠仁と巽(たつみ)はコソコソと話し合い、余計なことを言わないように口をチャックする。すると、糸目の男の携帯から電話が鳴り、通話に出る。

 

「はい。・・・いえ、確証はないです。・・・いいんですか?」

 

一通りの通話を終えた糸目の男は通話を切って話を切り出す。

 

「そこまでだ。ボスからお許しが出た。今日の仕入れ枠にそいつを当てろ。ただし・・・出るのはそっちのガキ2人だ」

 

糸目の男が指しているのは悠仁と巽(たつみ)だった。

 

(好都合。試合は虎杖と和倉の方が適任だ)

 

確かに腕っぷしから考えて、悠仁と巽(たつみ)が出場する方が効率がいい。恵は意図を悟られないようにあえて反発する意見を述べる。

 

「ダメだ。俺が出る」

 

「ボスはてめぇは食えないとよ。嫌ならこの話はなしだ」

 

「・・・わかった。それでいい」

 

思惑通りにいった恵は引き下がるように条件を呑んだ。試合が始まるのは夜。3人はひとまずは準備のために駐車場跡地を後にする。

 

「伏黒、危ねぇなぁ。ハッタリがすぎるって」

 

悠仁が言っているのは一月前に参加者が消えた話のことを言っている。

 

「そうでもないだろ。呪詛師も参加してるなら、それなりに入れ替わりもあるはずだからな。それより・・・」

 

「おう。いるな。防犯カメラで俺らを見てたってことは、高確率で秤先輩はあそこにいる」

 

ファイトクラブの関係者と揉めている間にかかってきたあの電話の相手こそが自分たちが探している秤であるのは間違いない。あのタイミングで電話をかけてきたということは、秤は一部始終を見ていた。つまり駐車場跡地のどこかにいるのは間違いない。

 

「虎杖と和倉は内側から探りを入れてくれ。俺もその間にあの駐車場に潜入する・・・かも」

 

「「かも?」」

 

「俺は多分泳がされてる。潜入がバレた時点で信用をなくし、秤さんと接触する機会もなくなる」

 

「んじゃ、そん時はもう力づくだな」

 

「いや、それは本当の最終手段でいいだろ。俺らはあくまで秤先輩に協力をお願いしに来てる立場だぜ?もしなんかあったら今後の関係に響くだろ?できればそれは避けたい」

 

「ああ。俺も同意見だ。正直、俺は今晩動くべきじゃないと思う。でも津美紀の回游への宣誓期限まで、時間は無駄にしたくない」

 

「今は・・・10日の17時・・・期限まで9日か。ここまで来るの、思ったより時間かけちゃったからなぁ」

 

「だから俺も今晩潜入して秤さんを探るが・・・ヤバそうならすぐ退く。だからかもだ」

 

「「了解」」

 

これからやるべき方針は決まった。悠仁と巽(たつみ)は賭け試合に参加して内側の潜入、恵は外側から秤の居場所を探る。そのためにも、まずは夜になるのを待つのみだ。

 

●

 

それから時がたって夜。賭け試合の始まりだ。賭け試合に参加する悠仁と巽(たつみ)は駐車場跡地に入り、屈強な男性から賭け試合のルールを説明される。

 

「今日の対戦は1対1のトーナメント形式だ。ルールは2つ。逃げるな。術式は使うな」

 

「なんで?俺は別に使ってもらってもいいけど。術式」

 

「右に同じく」

 

術式を使わないただのガチンコバトルで悠仁と巽(たつみ)の右に出るものはまずいない。術式の使用はむしろハンデとも言えるだろう。だがそういう問題ではない。なぜならこれはビジネスなのだ。少なくともファイトクラブ側からすればだが。

 

「客はほとんど非術師、見えない側だ。見えない勝負をされても盛り上がらん」

 

「確かに。じゃあ逃げるなの方は?」

 

「客の見える範囲で戦えってことだ」

 

「どこまでも客だなぁ」

 

「当然だ。ビジネスだぞ」

 

賭け試合と言えど、これは客商売だ。客商売である以上、客を意識するのは当然のことだ。

 

「ボスってどんな人?」

 

「気になるか?」

 

「まぁね」

 

「一応」

 

「会えばわかるさ」

 

「会えんの?」

 

「試合には2種類ある。今日のトーナメントのようなガチンコと、八百長だ。脚本はもちろんボスが書く。うまくアピールできたら声がかかるかもな」

 

ガチンコバトルでアピールする方法は簡単だ。客が大いに盛り上がるように、派手に戦いを演出すればいいのだ。

 

「要は派手に暴れりゃいいわけだ」

 

「だな。話が簡単になってきたな」

 

秤に会う手っ取り早い手段を早々に見出した2人は二ッと笑いあい、お互いに拳をぶつけ合う。

 

「時間だ。まずはお前からだ。来い」

 

「派手に暴れて来いよ、悠仁!」

 

「応!」

 

まず最初に試合に出るのは悠仁だ。指名された悠仁は屈強な男性に案内の下、試合会場がある地下へと向かった。

 

●

 

試合会場に辿り着いた悠仁はライトが照らされている会場のど真ん中に移動し、入場を果たす。光が当たってない各層の周りには非術師の客が試合を見に来ている。

 

「あれがお前の対戦相手だ」

 

悠仁が会場に入場したと同時に、対戦相手が入場してきた。その現れた対戦相手を見て、悠仁は目を見開いた。

 

「俺も初めて見た時はぶったまげたよ」

 

入場してきた対戦相手には驚いたが、悠仁はすぐにニッと笑みを浮かべている。

 

「まさに客寄せってわけだ」

 

入場してきた対戦相手とは・・・自分たちの先輩、高専生2年、パンダであった。悠仁とパンダが会場に入場したタイミングで、実況が始まる。

 

「さぁーーあ!!!今夜も始まりました!!!ガチンコファイトクラブトーナメントォ!!!実況はお馴染み、ジョンボリがお送りしまぁーーす!!!さっそくご機嫌な対戦カードを紹介するぜぇ!!!」

 

実況、ジョンボリは今回の試合の対戦カードを発表する。まずは悠仁。

 

「突如現れた刺客!!!三角の次も四角!!!デンジャラス火の玉ボーイ!!!ユゥーージ・イタドリィィィィィ!!!」

 

『おおおおおおおおおおお!!!』

 

新参者でも対戦カードの紹介だけで客は大盛り上がりだ。続いてパンダの紹介。

 

「立てばパンダ!!!座ればパンダ!!!歩く姿はマジパンダ!!!パ・ン・ダ・だああああああああ!!!」

 

『おおおおおおおおおおお!!!』

 

もちろん、パンダの紹介に客は大盛り上がり。

 

この観客席の中で、パンダと行動を共にしたレオーネが観客として紛れ込んでいた。

 

「はっはははは!こりゃマジで面白い対戦カードじゃん!」

 

面白い対戦カードにレオーネは他の客と共に盛り上がってこの状況を楽しんでいる。

 

●

 

一方その頃、立体駐車場跡地のどこかにあるモニタールーム。ここでは駐車場の各フロアだけでなく、ファイトクラブの試合状況を監視カメラを通して見ることができる。

 

そのモニタールームに1人の男がドカッとソファーに座り込み、酒瓶や缶ビールで散らかっている洒落たテーブルに足をドカッと乗せる。独特な金髪で口髭の剃り残しが特徴的な老け顔の強面の男だ。この男の隣には、口元に南十字座を模したピアスを付けた緑メッシュの黒髪のギャル風の女性?が座っていた。

 

「・・・熱が引いていくのがわかるぜ・・・」

 

「どうして?金ちゃん」

 

「運ってのはよ、試されてなんぼだろ。初めから勝ちが見えてる賭けはつまらん。野良術師でパンダに勝てる骨豚なんてそういねぇからな」

 

男はこの賭け試合の勝負の結果がパンダの勝ちとわかり切っているようで結果が見えている勝負に萎えている様子だ。だが試合の様子を見て女性?は男の予想とは全く違う展開になっていることに気が付く。

 

「・・・そうでもないみたい」

 

「ああ?」

 

女性?に促されて男は試合のモニターを見る。

 

●

 

試合が始まった直後、悠仁はパンダにパンチを繰り出すが、左手で受け止める。そこからパンダは追撃で繰り出してきたパンチを右手で腕を掴んで止め、悠仁にパンチを繰り出す。悠仁は右腕で防御する。悠仁はパンダの攻撃を躱しつつ、観客に聞こえないように小声で話しかける。

 

(パンダ先輩は秤先輩には会えた?)

 

(いや)

 

悠仁はパンダの攻撃を右手で止め、そこから胴体目がけてキック・・・

 

チョンッ

 

に見せかけて軽く突っついた。

 

「・・・ぐおおおおおおおおお!!」

 

悠仁の意図を察したパンダはあたかもキックを食らったかのように大げさに声をあげる。

 

(俺も姉さんも知った仲だから警戒はされてないが、避けられてる)

 

パンダは小声で話しつつ、悠仁に攻撃を繰り出そうとする。悠仁は攻撃が繰り出される前にパンダに連続キック・・・

 

チョンチョンチョンチョンチョン

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

に見せかけたチョンチョンキックを繰り出す。パンダもそれに合わせて声をあげる。

 

(後はもう1人の3年の術式が問題だな)

 

パンダは観客見えるように調整して、高く飛ぶ。悠仁もそれに合わせて高く飛んでパンダを追撃し、空中での攻防を繰り広げる。

 

(高専生ってことは隠してるんだろう?)

 

(ああ!)

 

(よしよし。後はわかるな?)

 

パンダは悠仁の片足を掴んで持ち上げて体を抑え込み、そのままフィニッシュ・ホールドを決めようとする。

 

「ふんっ!」

 

バキィ!

 

「ぐぅ!」

 

しかしまだ自由が利いている手でパンチを繰り出し、パンダのフィニッシュ・ホールドを阻止する。

 

「おおおおおおおお!!!こいつは確実に俺の実況人生でベストバウトだあああああああ!!!まだ実況始めて半月だけどねえええええええ!!!」

 

本人たちからすればただの手抜き試合だが、何も知らない客からすれば激しい攻防に見えているようで実況と同様、大盛り上がりだ。

 

悠仁はパンダの攻撃をいなしながらすかさずパンチ・・・

 

チョンッ

 

に見せかけた突っつきを繰り出して強烈な一撃を繰り出した演出を作る。

 

「うおらららららららああああああ!!」

 

チョンチョンチョンチョンチョン・・・チョンッ

 

悠仁はパンダに連続パンチに見せかけた連続突っつきを繰り出し、最後に強烈な一撃を繰り出した風に見せかけたパンチ突っつきを打ち込んだ。

 

「うああああああああああああ!」

 

パンダはわざと吹っ飛ばされたような演出を作り上げ、自分から柱に激突する。客からすればさも吹っ飛ばされて、柱に叩きつけられた風に見えるだろう。

 

「ぐばぁ!」

 

パンダはとどめに反吐を吐くような演出を作って、観客を盛り上げさせた。

 

「勝者!!イタドリィィィィィ!!!」

 

『いえええええええええええ!!』

 

見ごたえのある試合を見た観客は賭けに勝っても負けても大盛り上がりだ。

 

「グワァ!ナンテパンチダ!動ケン!コレハ動物愛護団体ガ黙ッテナイゾォォォォ!」

 

(演技下手)

 

パンダは一芝居を打っているが、棒読み感が半端なく、悠仁はパンダの演技に苦笑するのであった。

 

●

 

監視室にいた男は悠仁とパンダの試合の全てを見て、酒が入ったグラスを強く握りしめ、心が震えた。彼の内に秘めた熱が火照り始めるほどの熱い試合だった。男はこの熱が冷めないうちにファイトクラブのスタッフに電話を入れた。

 

「トーナメントが終わったら虎杖を屋上に上げろ」

 

『は?』

 

「どうせ勝ち残る。しかもあいつ、町会の客を魅せるために意識して立体で動いてた。いい本が書けそうだ。いつも言ってんだろ?」

 

ダンッ!

 

「熱は熱いうちに・・・だ」

 

「それバカっぽいからやめな?」

 

『はい。でも、どうします?相方のガキともう1人のガキの方は?』

 

「それは引き続き警戒しろ。後で警備に綺羅羅も出す」

 

「えぇ~~?」

 

男と一緒にいる時間を割かれて女性?は不満気だが、男の方は高ぶって来る熱に笑みを浮かべている。

 

「いい感じにざわつくぜ。こんなにざわつくのは、元カノがリボ払いしまくってた時以来だ」

 

呪術高専3年  秤金次

 

「元カノの話とかやめて」

 

呪術高専3年  星綺羅羅

 

●

 

悠仁とパンダの試合の後も賭け試合は続き、観客は試合の白熱ぶりに興奮して大盛り上がりを見せている。そんな盛り上がっている客の中に1人だけ、面白くなさそうにあくびをし、盛り下がっている者がいる。

 

「ふぁ・・・ぁ・・・まるで子供の遊びだな。退屈でつまらん」

 

その客とは、現在も羂索と協力関係を続けている特級呪術師、エスデスであった。なぜ彼女がここにいるのか。それは任務のついでであった。呪霊が東京に集中しているとはいえ、日本国内全域の呪霊被害が完全に消えたわけではない。今も現在進行形で国内の呪霊被害は増える一方で、呪術師はその対応に回っている。エスデスもその1人で、特に並みの術師では対応できない呪霊を今日祓い終えたところだ。想定より時間が余ったため、以前呪詛師が呟いたファイトクラブがどういうものか気になり、興味本位で覗きに来たのだ。戦闘を欲する彼女からすればファイトクラブの試合など、子供のじゃれ合いとそう変わらなかった。時間の無駄だと思ったくらいだ。

 

「さぁさぁ!!ファイトクラブトーナメント予選も、次がいよいよラストカードだぁ!!興奮が冷めないうちにさっさと紹介していくぜぇ!!」

 

ジョンボリは予選最後の対戦カードを発表する。

 

「繰り出すパンチは闘牛級!!パワーももちろん猛牛級!!パワフルミノタウロス!!カァァアルビィィィィ!!」

 

『おおおおおおおおおおお!!!』

 

見知った参加者、牛顔の筋骨隆々の男、カルビの登場に観客は大盛り上がり。続いては対戦相手の発表。

 

「高まれソウル!!震えよソウル!!期待のダークホーススピリット!!タツミィィィィィ・ワーーークラァァァァァァ!!」

 

『おおおおおおおおおおお!!!』

 

カルビの対戦相手、巽(たつみ)の登場でやはり会場は大盛り上がりだ。

 

「巽(たつみ)ぃー!!ぶっ飛ばしてやれー!!」

 

悠仁が出場していたことから巽(たつみ)も出るとわかっていたレオーネは観客と共に盛り上がりを見せている。

 

「あいつは・・・虎杖悠仁と一緒にいた・・・」

 

帰ろうと思っていたエスデスは巽(たつみ)の姿を一目見て、以前の里桜高校の事件の時に悠仁と一緒にいたことを思い出し、歩みを止めて彼の試合に注目する。

 

「さあ、張った張ったぁ!!」

 

観客は誰が勝利を収めるのかを予想し、どっちかに金を入れている。

 

「随分チビじゃねぇか。こりゃ賞金はいただきだぜ、くくく。破門されたとはいえ、俺は皇拳寺で9段だからよぉ」

 

自分より身長が倍あるカルビは巽(たつみ)を見て小ばかにした態度を取っている。対して場数を踏んできた巽(たつみ)は冷静だ。

 

(このオッサン、言うだけあって強いな。けど、術師で言うなら2級程度の強さだ。今まで戦った特級と比べたら、全然大したことねぇ!)

 

巽(たつみ)はこれまでも特級に相当する相手と何度も戦い、時には勝利を収めたこともある。それらの相手比べても、今の巽(たつみ)ならばカルビ程度の強さなど、取るに足らないものだ。観客が票を入れ終えたところで、試合が始まる。

 

「試合、開始ぃぃぃぃぃ!!!」

 

「いくぜぇ!!爆砕鉄拳フルコースだぁ!!」

 

試合開始と同時に動いたのはカルビだ。カルビは右手に力を強く込め、巽(たつみ)に強力な拳を叩き込もうとする。だがその動きを見越した巽(たつみ)は高く跳躍してカルビの攻撃を躱し、そのまま背後に回って蹴りを入れた。

 

「ぐっ・・・バァッ!!」

 

蹴りを受け止め、後退るカルビは怒りの表情を浮かべ、巽(たつみ)に猛接近して連続パンチを繰り出す。巽(たつみ)は繰り出される連続攻撃を全て難なく片手で受け止める。

 

「ふっ!!」

 

ドゴォ!!

 

「ぶっ・・・!」

 

カルビの動きに隙が見えた巽(たつみ)は攻撃の合間を掻い潜り、彼の腹部に強烈な拳を叩き込んだ。

 

「うぅ・・・モオオオオオオオオオ!!!」

 

拳を受け、よろめくカルビは両手を挙げ、スレッジハンマーを叩き込もうとする。だがそれよりも速く、巽(たつみ)は足払いを仕掛け、カルビの体制を崩した。

 

ドカァ!!

 

転びそうになったところを狙い、巽(たつみ)は回し蹴りを放ち、カルビを強く蹴とばした。防御態勢を取ることができないカルビは彼の蹴りを受けて場外へと吹っ飛ばされ、柱に叩きつけられて気を失った。ファイトクラブのルールに則るなら、勝敗は決した。

 

「勝者!!ワクラアアアアア!!」

 

『うおおおおおおおおおおお!!』

 

予想できなかった展開に観客は大盛り上がりを見せ、巽(たつみ)に大歓声を上げている。

 

(みんなが俺に・・・声援・・・!)

 

これが賭け試合であることはわかってはいるが、観客が自分に声援を送ってくれている。本来の目的を忘れてしまいそうになるくらい、この声援は巽(たつみ)にとって心地が良いものであった。

 

「やったぜ!!」

 

巽(たつみ)は歓声を上げてくれる観客に向けて、満面の笑みを浮かべた。

 

トクンッ・・・

 

巽(たつみ)の満面な笑顔を見たエスデスは頬を赤らめ、胸の鼓動が高まった。

 

(そうか・・・理解したぞ・・・この感情!)

 

羂索と行動を共にし、一度だけ彼の姿を目撃した時から彼女の中で理解できない感情が沸き上がっていた。しかし、彼の笑顔を見て、その感情の謎が理解した。

 

「ん?お、おい、あれ・・・」

 

「なんだなんだ?」

 

「おい、誰だあれ?」

 

「うわ、美人・・・!」

 

自分の感情を理解したエスデスは周りのことなどお構いなしに会場に入場して、巽(たつみ)に近づいていく。当然、観客はざわめきだす。

 

「!!?え、エスデス!!?」

 

「おおおっと!!乱入だああああああ!!」

 

(う・・・嘘だろ⁉エスデスがなんでここに⁉)

 

観客にいたレオーネと、薨星宮を出る前にエスデスのことをしっかり聞かされていた巽(たつみ)はまさか彼女がファイトクラブに来ていたなんて思わなかったため、非常に困惑した様子を見せている。

 

「対処します」

 

『動くな。下手に動いたら殺されるぞ』

 

「・・・っ!」

 

『今は様子を見るんだ。ヤバくなったら俺と綺羅羅が出る。いいな』

 

「は、はい!」

 

ファイトクラブのスタッフが止めに入ろうとしたが、エスデスをよく知っている秤からの電話越しの指示でいつでも動けるようにしつつ、待機を続ける。その様子をこっそりと見ていた者がいる。それは、影の中に身を潜める恵であった。

 

(なんでエスデスがここにいんだ⁉俺たちの行動がバレたのか⁉)

 

何故エスデスがここに来ているのかわからない恵は彼女の登場に困惑しつつも、冷静に身を潜めつつ、事の成り行きを見守る。周りのざわめきに気にせず、エスデスは巽(たつみ)に近づき、話しかける。

 

「和倉巽(たつみ)・・・といったな。いい名だ」

 

「ど、どうも・・・」

 

巽(たつみ)は自分が高専関係者であると悟らせないように、冷静に対応する。

 

「今の勝負鮮やかだった。褒美をやろう」

 

(!エスデスが・・・俺に褒美?何を渡す気だ・・・?)

 

エスデスが何を渡すのか、巽(たつみ)は冷静を装いつつ、警戒を強める。そんな中でエスデスは懐を探り、あるものを取り出した。

 

ガシャンッ!

 

「・・・え?え?え?」

 

 

「今から私のものにしてやろう」

 

 

エスデスは取り出したもの・・・鎖付きの首輪を巽(たつみ)に着け、恍惚とした表情を浮かべ、彼を連れて行こうとする。

 

「ここは邪魔が多い。とりあえず出るぞ」

 

「ちょっ・・・待っ・・・!!」

 

「ダメだ。待たん」

 

トンッ!

 

首輪をつけられてもがく巽(たつみ)にエスデスは彼に手刀を放つ。

 

(今・・・何された・・・?)

 

一瞬のことで何をされたかわからなかった巽(たつみ)は気を失う。倒れそうになる彼をエスデスが抱える。

 

「私の部屋で語ろう。2人っきりでな」

 

まるで宝物を見つけたような恍惚とした表情でエスデスは巽(たつみ)を抱え、会場を去っていた。あまりに突然すぎる展開に観客はおろか、レオーネ、影に潜む恵は呆然としている。

 

な・・・何がどうなってるんだ・・・?

 

何も行動を移せなかった恵は内心では動揺を隠せないでいた。

 

「・・・えと・・・どうします?」

 

『熱が冷めた。放っておけ』

 

●

 

その後、駐車場跡地の近くにある林の中。レオーネは恵と合流し、先のこの場所に来ていたパンダに事の全てを話した。

 

「マジで!!?巽(たつみ)がエスデスに攫われたのか!!?」

 

事情を知ったパンダは当然ながら驚いている。

 

「マジだよ。目の前で首輪をガシャン!ってさ」

 

「俺も見ました。でも、見た感じ俺たちの行動はバレてない・・・はずです・・・」

 

あまりの唐突な出来事であったため、恵は歯切れの悪い返答を返した。

 

「はぁ・・・3人が来てくれてよかったと思った矢先にこれか・・・。虎杖は?」

 

「一応トーナメントは続けるみたいだし、こっそりあいつに会って試合に集中するように言っておいたよ」

 

「それが正解だと思います。もしバレてないなら、多分和倉に危害を加えることはないはずです。今は秤さんの説得を最優先。その後に和倉の救出する方法を考えましょう」

 

巽(たつみ)の身の安全保障、そして救出するための近道も考えて、恵は秤の説得が最優先であることを伝え、パンダとレオーネは頷く。

 

「だな。幸い虎杖は秤と会うチャンスを得たわけだし、これを逃したら多分次はないよ」

 

「それなんですが、2人はなんでまだ秤さんと会えてないんですか?」

 

秤と顔見知りの2人がなんで秤と会えていないのか。恵の尤もな疑問に2人は困った表情を浮かべる。

 

「んー、居場所はわかってんだけどなぁ。屋上のモニタールーム」

 

「ただねぇ、あそこ近づけないんだよ」

 

「近づけない?」

 

秤の居場所であるモニタールームに近づけない。その事象に恵は疑問符を浮かべる。

 

「ドアに近づいても距離が縮まらないんだよ。感覚としては五条の術式と近い気がする。多分キラちゃんの術式だと思うけど・・・」

 

「キラちゃん?」

 

「姉さんは綺羅羅のことをそう呼んでんだ」

 

「綺羅羅・・・もう1人の3年って男でしたよね?」

 

「「男だよ」」

 

恵はもう1人の3年生、星綺羅羅(男の娘)の術式の情報を聞こうと質問を続ける。

 

「それって、綺羅羅さんがモニタールームにいる時だけに起こる現象ですか?」

 

「それがわかんないだよねー。私もパンダもキラちゃんの術式はそこまで詳しくないからさ」

 

「深追いして逃げられるよりはマシだと思って姉さんは客に、俺は客寄せパンダに徹してたんだ」

 

「お2人は虎杖が秤さんを説得できると思いますか?」

 

「俺の見立てだと厳しい・・・が、時間次第だとも思ってるよ。虎杖の根明で人たらしな性格は秤と相性がいいと思う。でもあいつ嘘下手だろ?」

 

「下手っていうか・・・嘘をつくという発想が出にくいタイプですね」

 

「つーわけで、私は虎杖がモニタールームに入った時点でアジトをこっそり制圧、2人が話す時間を稼ぐべきだと思ってる」

 

「え・・・でもそれは・・・」

 

時間を稼ぐべきであるというのは賛成できるが、アジトの制圧はハイリスクだ。アジト内を動き回ったら秤の耳に入るかもしれない。もしバレてしまったら、悠仁の説得も無駄になってしまう可能性がある。さらに言えばここにいる3人は秤に顔割れしている。特に恵に至っては警戒されているため、下手に動けば秤の信頼を完全に失ってしまう危険性がある。

 

「大丈夫大丈夫。寝ててもらうだけだから。カメラの位置と視覚は把握してるし」

 

「見張りの人数は?」

 

「入口4、それ以外のフロアで各2」

 

カメラの位置と把握し、見張りの配置人数を元に考えて、恵は秤にバレることなく、静かにアジトを制圧できると睨んだ。ただ1つ、綺羅羅の術式を除いて。

 

「・・・いけますね。懸念事項は綺羅羅さんの術式ですね」

 

「まぁそれはしょうがないよ。ワープみたいに虎杖を出したり仲間を入れたりできる場合、もう秤の説得は諦めて、私たちで巽(たつみ)を助けよう」

 

綺羅羅の術式次第という前提ではあるが、秤の説得のため時間稼ぎ。決行するのは、今しかない。

 

●

 

ファイトクラブトーナメントで優勝を果たした悠仁は秤と共にいた黒髪のギャル風の服装を着込んだ高専生3年、星綺羅羅の案内で屋上のモニタールームに向かっている。正直に言えば、エスデスに攫われた巽(たつみ)を今すぐに助けに行きたい気持ちが大きい。だがこの機会を逃せば、秤と接触する機会がもう二度と訪れないかもしれない。せっかく秤と会うチャンスが手に入ったのだ。今は巽(たつみ)の無事を信じ、悠仁は己の役目を全うする。

 

「悠ちゃんはまだ高1なんだ。若いねー」

 

(悠ちゃん?)

 

「金ちゃんは中学ダブってるんだよ」

 

軽い雑談をしている綺羅羅の表情はどことなく嬉しそうな表情をしている。

 

「なんか、嬉しそうっすね」

 

「うふふ、まぁね。金ちゃんが久しぶりに熱くなってるからね」

 

屋上に建てられているモニタールームに辿り着き、綺羅羅がドアを開けて悠仁を招待する。

 

「私はね、熱い金ちゃんが大好きなの」

 

悠仁がモニタールームに入ったところで、綺羅羅は誰も邪魔が入らないようにドアを閉め、自分は警備に戻っていった。

 

モニタールームの中は暗く、複数のモニターが照明代わりになっている。この暗い空間の中で悠仁を招待したファイトクラブの胴元であり、高専生3年、秤金次がソファーにドカッと座っている。

 

「虎杖。1日1時間、あることをするだけで月収100万円にって言われて信じるか?」

 

悠仁が入ってきたタイミングで秤はスマホをいじりながら悠仁にこのような問いかけをする。

 

「え・・・んん?それは・・・あること次第だろ」

 

「だがそのあることを知るためには20万の情報商材を買わなきゃならん」

 

「ええ?俺は信じらんないなぁ」

 

「そう。お前が感じたとおり、これは典型的な詐欺だ。騙す側が金持ちを装って金持ちの成り方を売り、金を手に入れる。普通に考えりゃわかることだが騙されるアホウはアホほどいる。なぜか?それは全て熱のせいさ」

 

「熱?」

 

詐欺の話に熱がどう結びつくのかピンとこない悠仁に秤は話を続ける。

 

「騙す側も騙される側も持ってる、『ここで人生を変えてやろう』っていう熱さ。熱に浮かされて人は判断を誤る。だが熱がなければ人は恋1つできない。俺は熱を愛している。よりダイレクトな熱のやり取り、何かわかるか?」

 

「・・・ギャンブル」

 

「くっくく・・・やっぱりお前はわかってる」

 

熱のダイレクトなやり取りの悠仁の答えを聞いて、秤は満足気に笑っている。

 

「生きることはギャンブルだ。賭け事を嫌悪して俺を振った女は山ほどいるが、奴らは根本を間違えている。この社会では大きく張れない奴と、引き際を知らない奴から振り落とされていく。ギャンブルをしない人間なんていないのさ。奴らが憎んでいるのは賭け事ではなく、敗北と破滅だ」

 

「できるだけ穏やかに暮らしたい人もいるんじゃ?」

 

「んな奴知らないね」

 

悠仁の意見に秤は胡坐をかいて一蹴する。

 

「俺は熱を愛している。熱はギャンブルで、ギャンブルは人生さ。そして愛とは支配だ。俺はゆくゆくはファイトクラブでこの国の熱を支配したい。呪霊の存在が公表され、総監部もろくに機能していない今が事業拡大のチャンスだ。あらゆる障害を潰し、来たる呪術規定の改訂に乗じファイトクラブの存在を公に認めさせる。とにもかくにも、優秀な駒がいる」

 

自身の野望を打ち明けた秤は足を下ろしてじっと悠仁に目線を向けて、問いかける。

 

「虎杖。俺の熱に浮かされてみないか?」

 

早い話、秤は悠仁を来たる呪術規定改訂のための駒としてファイトクラブに勧誘しているのだ。だが悠仁は秤の協力を仰ぐためにわざわざ賭け試合に出場したのだ。このまま彼のペースに呑まれるわけにはいかず、本題に入ろうとする。

 

「・・・胴元、相談が・・・」

 

プルルルッ、プルルルッ・・・

 

悠仁が本題に入ろうとすると、秤のスマホから着信が鳴り響く。秤はスマホの着信に出ることなくじっと見つめた後、すっと立ち上がる。

 

「・・・虎杖。何か飲むか?」

 

「あー・・・じゃあ適当に。酒以外で」

 

「なんだ、弱いのか?」

 

「強い弱い以前に未成年」

 

秤は冷蔵庫から酒と悠仁に出す炭酸系のジュースを取り出し、席に戻って悠仁に出すグラスにジュースを注ぐ。

 

「気にするタイプには見えねぇなぁ。知ってるか?五条悟も下戸なんだ」

 

「へぇー、五条って誰?ていうかもって、俺は別に・・・」

 

「あのなぁ・・・」

 

「え?」

 

悠仁が悟の存在を知らないふりをした瞬間、秤から纏う空気が変わった。それもそうだ。なぜなら呪術師をやっているなら、悟の存在を知らない者など、誰1人としていないのだから。

 

「五条悟を知らない術師がいるかよ。なんで知らないフリした?」

 

秤は自分のグラスに酒を注ぎ、グビッと仰ぐ。

 

「お前・・・」

 

ダンッ!

 

「・・・高専の回しもんか?」

 

バレた。グレーとはいえ、自分が高専の関係者であることを。秤から放つ威圧に悠仁はマズいと思い、弁明を口にしようとするが・・・

 

「・・・聞いて!俺は・・・」

 

ブンッ!パリンッ!

 

秤は聞く耳を持たず、持っていたグラスを悠仁に向けて放り投げる。悠仁は投げられたグラスを避けて、必死に弁明しようとする。

 

「ちょ・・・聞い・・・!」

 

バンッ!ゲシッ!バンッ!

 

秤は自分の術式で電車の扉を具現化させて悠仁を挟み、さらに蹴り上げてまた電車の扉で挟む。

 

「綺羅羅からのTEL(テル)電での着信はなぁ、異常事態の合図なんだよ」

 

秤は悠仁の胸倉を掴み上げる。悠仁は秤に話を聞いてもらおうと彼に頭突きをかまし、声を荒げる。

 

「聞けぇ!!」

 

「やだね!!冷めちまってるからなぁ!!」

 

悠仁を完全に敵と認識した秤は容赦なく、彼に襲い掛かるのであった。

死滅回游泳者ボルスはどこのコロニーに向かった?

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