呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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思ったより長くなっちゃったのでコロニーの突入は次回の投稿になります。


脱出

夜。自分の家で就寝していた杉沢第三高校の女子高生、佐々木が目を覚ます。彼女の目の前には、五条袈裟を着込んだ額に縫い目がある男・・・羂索が立っていた。

 

「ごめんね」

 

「・・・誰?」

 

「ここに結界を張った術師だ。ここは選ばれたんだ・・・殺し合いの場にね。残念ながら、別に名誉なことではないよ」

 

「・・・殺し合い・・・⁉うちでそれは、勘弁してもらえませんか・・・?」

 

「ふ・・・はははは。面白いね、君は」

 

佐々木の発言がおもしろいからか羂索は愉快そうに笑っている。

 

「少し離れたところに刑場跡があるんだ。結界の中心はそこだよ。半径5、6キロってとこかな?かなり無理して作った結界だからね。あまり理不尽な条件付けはできないんだ。初めから結界の内側にいる君たちには、結界を出る権利がある。1度だけね。君が望めば、目が覚めたら結界の外さ。どうする?」

 

「目が覚めたらって・・・これは夢なの?」

 

「夢と現実の狭間・・・呪(まじな)いさ」

 

殺し合いや結界など・・・難しいことを説明されても理解できない佐々木は、これが夢であっても殺し合いに巻き込まれるよりはマシと思い、差し伸べられた羂索の手を掴み、起き上がった。

 

「気をつけて。ゆっくりだ。外にはもう気の早い連中がいる」

 

佐々木の手を掴んだ羂索はゆっくりと歩き、彼女を結界の外まで導く。佐々木の目には見えていないが・・・今外で様々な呪霊が活発化し、至る所で暴れまわっている。

 

「・・・そうだ、言い忘れるところだった」

 

羂索は思い出したかのように佐々木に顔を向け、こう発する。

 

「息子と仲良くしてくれて、ありがとう」

 

 

 

・・・き・・・

 

佐々木・・・

 

●

 

「佐々木!」

 

「!」

 

誰かの一声で佐々木は気が付く。彼女に声をかけてきたのは、杉沢第三高校の同級生、井口だ。ここに集まってるのは2人だけではない。他にも何人かが戸惑った様子で集まっている。

 

「井口・・・」

 

「よかったぁ・・・知ってる奴いて・・・」

 

「ここ・・・どこ?」

 

「勾当台と広瀬通の間くらいだ。それより見ろ!どう見るよ?オカ研として」

 

「どうって・・・」

 

2人の視界に入ったのは、とてつもなく巨大な真っ黒な結界だ。この中で死滅回游という殺し合いが行われているのだ。そしてこれが張られたのは・・・10月31日を過ぎてすぐのことだ。

 

11月1日 6時2分 仙台結界前

 

「・・・夢の話していい?」

 

「みんなしてるよ。ロン毛で袈裟の男だろ?」

 

「!じゃあ、井口もされた?息子がどうのって・・・」

 

「?いや、それは初耳だ」

 

夢の中で羂索が言っていた息子。その点で真っ先に思い浮かんだのが、かつてオカ研に所属していた1年の後輩の姿であった。

 

「・・・虎杖・・・?」

 

●

 

11月12日。東京の無人ホテルのグリーンの部屋。彼と協力関係を結んだ巽(たつみ)はお互いに情報の共有を始める。

 

「コガネ、さっそくだけど、全泳者(プレイヤー)の情報を開示してくれ」

 

「あいよ!」

 

グリーンの指示でコガネは体をタブレットに変形させる。巽(たつみ)はコガネに表示されたモニターをスクロールする。

 

「すげぇ・・・泳者(プレイヤー)ってこんなこともできんのか」

 

「新しく追加されたルールだよ。

ルール9、泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)の情報、『名前』『得点』『ルール追加回数』『滞留結界(コロニー)』を参照できる」

 

「・・・あ、こいつじゃないか?ルールを追加した奴」

 

スクロールしていると、高得点を所持している泳者(プレイヤー)の名前が目に留まった。

 

「鹿紫雲一・・・こいつ元々200点持ってたのかよ。どういう意図でのルール追加だ?」

 

「少なくとも40人は殺してるってことだろう?気持ちのいい理由じゃないだろうね」

 

「けど俺たちはこれで人を殺さずに死滅回游を進められるかもしれない。コガネ、得点が100以上の泳者(プレイヤー)をリストアップできるか?」

 

巽(たつみ)はコガネに100点保持者のリストアップを要求するが、コガネは渋った反応を見せる。

 

「俺は六道グリーンに憑いてるからなぁ・・・」

 

「ああ、いいよいいよ。彼の言うことは聞いて」

 

グリーンが許可を出すとコガネは100点保持者のリストアップを開始させる。

 

「協力体制を取るんだ。こっちの情報も渡しとくよ」

 

巽(たつみ)は自分が今持っている情報を渋谷事変から今に至るまでの全てをグリーンに打ち明かした。明かされた情報を前に、グリーンは口元を抑え、重い表情を浮かべる。

 

「なるほど・・・思っていた以上に、事態は深刻のようだね」

 

「ああ。津美紀さんやゲームに消極的な泳者(プレイヤー)が回游を抜けるルールが絶対に必要なんだ。そのためには100点保持者がどうしても必要なんだ」

 

コガネが100点保持者を絞っている間、巽(たつみ)は現時点で考えてることをグリーンに伝える。

 

「お前や津美紀さんみたいに巻き込まれた人間は焦って結界から出たがらない限り、受肉した過去の術師には各々思惑があって羂索と契約しただけで必ずモチベーションが高いわけじゃないはずなんだ。鹿紫雲みたいにまだ点を持て余してる奴がいるとしたら・・・」

 

「!そうか、100点以上持ってて、ルール追加をする気がない泳者(プレイヤー)!そいつを倒して点を使わせるようにすれば!」

 

「津美紀さんたちが回游を抜けるルールを作れる!」

 

「出たぜ」

 

2人が100点保持者の存在に希望を見出した時、ちょうど100点保持者の絞り込みが終わった。モニターに表示された名前は現時点で2つ。

 

鹿紫雲一  得点100点  変更1回  滞留結界東京第2

 

日車寛見  得点102点  変更0回  滞留結界東京第1

 

「よし!もう1人!」

 

100点保持者がもう1人いたことに巽(たつみ)はガッツポーズをとる。

 

「これで津美紀さんを回游から離脱させることができるかも・・・」

 

「いや、まずはネックのルール8を逆手に取るルールを追加の方を優先した方がいい」

 

「?ルール8って、19日以内にポイントの変動がなかったら術式を没収・・・死に至らしめる奴だよな?」

 

巽(たつみ)の疑問にルールの提唱を述べたグリーンが説明する。

 

「まずはルールを追加して泳者(プレイヤー)間でのポイントの譲渡が可能にできるようにする。これで身内でポイントを回し続ければ、術式を剥奪して死ぬことはなくなるはずだ」

 

「それだけじゃねぇ・・・誰も殺さず、状況によってはポイントを一気に溜め込むチャンスがぐんと上がる!」

 

「ああ。その後でポイントを消費して死滅回游から離脱できるというルールを作ればいい」

 

「でもそのままだと死滅回游の永続に抵触するんじゃねぇか?」

 

「多分ね。でも、非泳者(プレイヤー)を引き込む身代わり条件があれば、いけると思うよ」

 

泳者(プレイヤー)が回游から離脱行為は殺し合いの参加者が減ることを意味するため死滅回游の永続に触れる可能性は十分に高い。だからこその身代わり条件だ。本来参加予定だった泳者(プレイヤー)に身代わりである非泳者(プレイヤー)を用意できれば、もしかしたら津美紀を回游を抜け出せるかもしれない。そこに加えてポイントの譲渡のルールさえあれば、身代わりとなった非泳者(プレイヤー)が結界の外にいてもポイントを交換し合えば、その身代わりも死なせることはなくなるはずだ。

 

「なるほど・・・確かに。その辺りはコガネが決めるのか?」

 

「なんにせよ、やるべき方針は決まったんじゃないか?」

 

「おう!まずはここを脱出して、100保持者の鹿紫雲一と日車寛見に会って、ルールを追加させる!」

 

これからやるべき目的は決まった。そのために巽(たつみ)が今やるべきことは、ここから脱出して悠仁たちと合流することだ。

 

●

 

話し合いがひと段落し、巽(たつみ)とグリーンはリビングに戻りながら目的のためにどう行動すればいいのか話し合っている。

 

「やることは決まったけど・・・グリーンはどうするんだ?俺たちと一緒に来るか?」

 

「いや、僕はここに残って少しでも情報を集めてみるよ。万が一君たちと合流できたなら、少しは情報交換もできるだろう?」

 

「わかった。後はどっちのコロニーにするか・・・」

 

巽(たつみ)が東京第1と第2、どっちのコロニーに突入するか悩んでいると、グリーンが提案する。

 

「そのことなんだけど・・・僕は東京第1に向かうのがいいと思ってる」

 

「?第1って日車がいるコロニーだよな?その理由は?」

 

「・・・コガネ、苗字が六道って名のつく泳者(プレイヤー)だけを表示してくれ」

 

「あいよ!」

 

理由を説明するためにグリーンは六道という苗字のついた泳者(プレイヤー)の表示をコガネに求める。その指示に従い、コガネのモニターには六道の名のつく泳者(プレイヤー)の名が表示される。

 

六道筑紫(つくし)  得点15点  変更0回  未宣誓

 

六道グリーン  得点5点  変更0回  未宣誓

 

「君に見てほしいのは、1番上と下だ」

 

巽(たつみ)はモニターに表示されている2人の名前の1番上の名前の下の名前に注目する。

 

六道ナハシュ  得点25点  変更0回  滞留結界東京第1

 

六道ポニィ  得点0点  変更0回  滞留結界東京第1

 

「!この2人・・・」

 

「僕の義兄妹たちさ。この2人は呪術界から離れていたんだけど、どういうわけか死滅回游の泳者(プレイヤー)になってしまっているんだ。僕たちと同じように羂索に術式を与えられたか、あるいは自分からコロニーに入って来たか・・・いずれにせよ、このままこの2人を放置しておくわけにはいかない」

 

グリーンはコガネのモニターを閉じさせ、巽(たつみ)に視線を向けて1つの指示を出す。

 

「巽(たつみ)、君は東京第1に向かってこの2人の協力を仰いできてくれないか?点数から見てチーフは積極的に殺し合いに参加してるから望みは薄いけど、ポニィはまだに誰も殺してない。事情を説明すれば、きっと協力してくれるはずだ」

 

「それはわかったけど・・・呪術界を離れてたってことはこの2人、元々呪術師だったってことだよな?なんで呪術師やめたんだ?」

 

事情を何も知らない巽(たつみ)の質問に対して、グリーンはメガネをクイッと上げる。メガネの曇り加減からして、どんな表情をしているかわからない。

 

「・・・いろいろ複雑な事情があるんだよ」

 

歯切れの悪いグリーンの回答に巽(たつみ)は疑問符を浮かべるが、あまり深く追及はしないと思い、胸の内にしまった。話している間にもリビングに辿り着いた。リビングにはウェイブの他にも筑紫(つくし)を含めて他の術師も集まってきていた。

 

「よ、おかえり」

 

「あ、巽(たつみ)君おはよう。昨日はお楽しみだったね?」

 

「他人事みたいに言いやがって・・・」

 

「筑紫(つくし)・・・あまり巽(たつみ)をからかわないであげなよ」

 

「えへへ、ごめんね」

 

茶目っ気たっぷりな筑紫(つくし)の言葉に巽(たつみ)はこめかみを引くつかせている。

 

「・・・そういえば筑紫(つくし)の目覚めた術式ってどんなのなんだ?見ただけわからなくて・・・」

 

「あ、それは俺も思った」

 

巽(たつみ)のなんとなく発した質問に筑紫(つくし)は若干困ったように苦笑を浮かべる。

 

「う~ん・・・あんまりしゃべるのはよくないってお父さんに言われてるんだけど・・・もう1回見せるだけならいいよ」

 

そう言って筑紫(つくし)は机に置いてあるティーポットに視線を向ける。巽(たつみ)たちもそれに合わせてティーポットに視線を向ける。すると、中に入っていたお湯が沸騰した。その後ティーポットは宙に浮かび、置いてあったカップにお湯を注いで紅茶を入れる。

 

「おお、やっぱすげぇ・・・」

 

「念動力・・・じゃあねぇなぁ・・・それだとお湯が沸騰した説明がつかないし・・・」

 

筑紫(つくし)の術式を見て巽(たつみ)たちは感心の声をあげる。同時に紅茶が入ったカップ各々動き、一同の手元に収まる。

 

「術式の開示は術師を強化するのは知ってるけど、こういう風に何も知らないとアドバンテージを稼げるんだってお父さんが言ってたの。だからあまり術式のことは教えられないの。ごめんね」

 

「ああ、いや、そういうことならしょうがねぇよ」

 

申し訳なさそうに謝る筑紫(つくし)に巽(たつみ)は気にせず、手元に収まった紅茶を一口すする。

 

(少しでも情報をと思ったけど・・・そう簡単にはいかねぇか)

 

今後の対策の意味も込めて術式を探ろうとしていたようだが、明かせないならば仕方ないと思い、巽(たつみ)はここからの脱出方法の方を集中して考える。そうしていると、ようやく一同の待ち人であるエスデスが降りてきた。

 

「お前たち、私は少し軽めの任務に出るぞ。グリーンと筑紫(つくし)は私と共に来い。他の者はこの辺りの呪霊を狩ってウォーミングアップを済ませておけ。任務が終わり次第、いよいよコロニーに突入する」

 

『!了解!』

 

(!エスデスが外に出る!抜け出すチャンスかも!)

 

今日中にコロニーに突入すると聞き、一同が気合を入れてる中で、巽(たつみ)はここから抜け出すチャンスが巡ってきて一筋の希望が湧いてくる。

 

「グリーンと筑紫(つくし)の目覚めた術式はまだ底が見えないからな。これを機に見極めさせてもらう」

 

「「はい」」

 

「ウェイブ、私が留守の間巽(たつみ)を頼むぞ」

 

「了解!」

 

(ウェイブか・・・エスデスだって特級呪術師だしな。俺ばっかりに構ってるわけにはいかないか。実力は乙骨先輩のお墨付きらしいけど、エスデスより逃げやすいかな)

 

巽(たつみ)は憂太からウェイブのことはある程度のことは聞かされていた。一時期行動を共にしていたことも、彼自身の術師としての実力を。一筋縄ではいかないとは思うが、それでもエスデスよりは逃げやすいと巽(たつみ)は判断する。

 

「戻ったらコロニーの割り振りを決める。もちろん巽(たつみ)は私とだ」

 

「!!?」

 

自分がエスデスと同じコロニーを担当すると聞かされて、巽(たつみ)はかなり動揺している。

 

(できるだけ強者がいるコロニーで私の力を魅せてやるとしよう。腕の見せ所だな)

 

巽(たつみ)を惚れさせようと考えているエスデスは胸を躍らせながら気合を入れていた。

 

(こ、これはマズい・・・!エスデスと一緒にコロニーに入っちまったら鹿紫雲や日車に会えないどころか、みんなとの合流も叶わなくなる!チャンスは1度きり・・・エスデスが戻ってくる前に、ここから脱出しねぇと!)

 

脱出できる機会はおそらくはこれだけ。これを逃せば悠仁たちと合流できないだろう。このチャンスを物にしたい巽(たつみ)は脱出できる機会を探り始めるのであった。

 

●

 

エスデスが任務に出向いた後、残ったウェイブは巽(たつみ)と共に使えそうな物資を探しに東京の繫華街の探索に出ている。そんな中で巽(たつみ)は辺りを警戒しつつ、何とか脱出できる機会を探っている。

 

「しっかし、エスデスさんの前じゃこんなこと言えないけど・・・お前も大変だよな。何かあれば相談に乗るぜ」

 

昨日は巽(たつみ)とまともに話すことが叶わなかったウェイブは彼を気遣うように声をかける。

 

「・・・ありがとう。でも大丈夫。こんな方向性の扱い慣れてるから」

 

「あ・・・何となくわかる」

 

気苦労が絶えない巽(たつみ)の声を聞いてウェイブは彼の心情を察し、同情する。

 

「なんかさ・・・俺とお前って似てるとこあるよな」

 

似てると言われてもピンと来ない巽(たつみ)は疑問符を浮かべる。

 

「似てる・・・?似てるってどこが?」

 

「えっ⁉」

 

巽(たつみ)の問いかけに対し、どう表現すればいいかウェイブは悩む。

 

「・・・どう言ったらいいか・・・してきた苦労が同じっつうか・・・これからする苦労が同じっつうか・・・」

 

「ああ・・・いいよ、わかった・・・俺もなんとなくわかったからいいよ」

 

高専に在籍中だった頃、悟の奇行に振り回されてきた巽(たつみ)にとってエスデスもまた癖のある呪術師だと思っている。そんな彼女の下についているということでこれから彼女に振り回されるであろうと察して巽(たつみ)はウェイブに同情心を抱く。

 

「まぁ、せっかくだし、似た者同士仲良くやろうぜ」

 

巽(たつみ)に気さくに接するウェイブの背後にずるりとずるりと這いずる呪霊が現れる。ウェイブはまだそれに気づいていない。

 

「危ねぇ!!」

 

「うおああ⁉」

 

呪霊が近づいてきていたことに気付いた巽(たつみ)は呪霊が攻撃を仕掛けてくる前にインクルシオの鍵を抜き取り、剣として振るって呪霊を薙ぎ払った。

 

「助かったぜ!借りは返す!」

 

「何の!」

 

1体の呪霊がやられたことで他の呪霊が騒ぎに聞きつけてわらわらと現れて群れを成す。

 

(あれっ?体が動いて当然のように助けちまったけど・・・これは逃げるチャンス!)

 

わらわらと現れてくる呪霊を見て、戦闘に乗じてうまくやればこの場から離れることができると巽(たつみ)は考える。これは千載一遇のチャンスだろう。

 

「ぞろぞろとお出ましかぁ。まるで魚の群れみてぇだ」

 

「等級から見ても弱いけど、数だけはいるぜ」

 

「よぉし!!カカッと片付けるぜ!燃料にしてやる!」

 

ぞろぞろと自分たちを囲い込む呪霊たちに向かって巽(たつみ)とウェイブはそれぞれ呪霊の群れを祓おうと駆けだした。

 

●

 

等級の弱い呪霊がいくら集ったところで、2人の敵ではない。数十分も経たずして、呪霊の群れは全滅した。

 

「ふぅ・・・こんなもんかな。そっちも片付いたみたいだな、巽(たつみ)」

 

ウィイブは黒い剣を担ぎ、後ろを任せていた巽(たつみ)に振り向いた。しかし、そこには巽(たつみ)の姿はなく、影1つとして見えない。

 

「あれ?あれれ?」

 

突然巽(たつみ)がいなくなり、疑問符が浮かび上がるウェイブ。

 

●

 

姿を消したその巽(たつみ)はというと、戦闘に乗じてウェイブから離れ、途中でインクルシオを身に纏って、透明機能を生かしながら彼のとの距離を離していた。

 

「乙骨先輩のお墨付きなんだ。普通じゃ逃げられないと思うよな。でも・・・インクルシオの透明化があれば、話は別だろ」

 

巽(たつみ)は透明化の持続時間が続く限り、できる限りは距離を離し、悠仁たちの合流を急ぐのであった。

 

●

 

1人残ったウェイブは消えた巽(たつみ)を探して街中をくまなく捜索する。

 

「おっかしいなぁ・・・。巽(たつみ)・・・どこ行った?」

 

巽(たつみ)を探し回っていると、ウェイブはここで1つの答えに行きつく。

 

(まっ・・・まさか・・・逃げた・・・⁉)

 

巽(たつみ)が逃げたという可能性が頭に浮かび、次に思い浮かんだのは鬼の形相で待っているエスデスの姿だ。彼女のその姿を想像して、ウェイブは血の気が引いて顔を青ざめる。

 

「やべぇ!!気持ちはわかるがそうはさせねぇぞ!!俺だって死にたかねぇんだ!!」

 

尋常でないほどに焦りを見せるウェイブはふと黒い剣に視線を向ける。

 

「・・・仕方ねぇ!」

 

巽(たつみ)を探すためにウェイブは黒い剣の本当に力を使うことを決断する。その時に脳裏に浮かんだのは・・・12年前に命を救ってくれた大恩人である少年の姿だった。

 

(あなたの力を貸してください!)

 

 

 

 

 

 

 

灰原さん!!

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!

 

 

 

「グランシャリオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 

 

 

●

 

透明化を使って逃亡する巽(たつみ)は川の流れがよく見える橋の上まで辿り着いた。と、ここでインクルシオの透明機能の持続時間が切れ、透明化が解除された。

 

「透明化は時間切れか。でも、ここまで来れば追ってはこれないだろう」

 

追い越せないとは言っても、他の術師がいるかもしれない。巽(たつみ)はインクルシオを着けたまま気を抜かずに先に進もうとする。すると・・・

 

「!!?」

 

突如として何者かの殺気を感じ取り、巽(たつみ)は咄嗟に前方へ飛び出して回避行動をとった。同時に・・・

 

ドゴォォォン!!

 

何者かが降りてきて、着地してきたと同時に大きな蒸気が噴出され、地面が抉れて大きなクレーターが出来上がる。

 

「な・・・なんだこいつ・・・⁉」

 

「おいおい・・・とんだ大物に出くわしちまったぜ」

 

立ち込める蒸気の中より現れたのは、顔と体に漆黒の鎧を纏った男であった。

 

「知ってるぜ、インクルシオ。このグランシャリオのプロトタイプ。そして何より・・・それを着てるってことは、お前、総監部を裏切った呪術師だろ?なるほど、悪魔の巣窟には胡散臭い奴も潜んでるぜ!」

 

黒い鎧から発せられている声はウェイブであった。

 

(目的変更!逃げた巽(たつみ)より目の前の術師を優先する!)

 

ウェイブはインクルシオを身に纏っているのが巽(たつみ)であることに気付かず、構えを取って戦闘態勢に入る。

 

(こいつ・・・ウェイブか?それとも別の追手?とにかく・・・!)

 

自分の正体がバレていようがバレていまいが、巽(たつみ)のやるべきことは変わらない。巽(たつみ)はウェイブとは戦おうとはせず、背を向けて駆けだした。

 

「あっ⁉」

 

(他の奴らと出くわすと面倒なことになる!早く離脱しないと!)

 

ドォン!!

 

「!!?」

 

逃げ出そうとする巽(たつみ)に対し、ウェイブは蒸気を噴射させて駆け出し、巽(たつみ)の前まで回り込んで逃げられないように立ちふさがる。

 

「逃がさないぜ。腹くくって戦いな!」

 

立ち塞がるウェイブは自身に蒸気を身に纏い、それを噴射して巽(たつみ)に猛接近し、蹴りを叩き込もうとする。巽(たつみ)は危なくも後退して攻撃を回避するが、ウェイブは即座に間合いに入り、拳による連撃を叩き込む。

 

「よせっ!お前と戦う理由がない!」

 

対して巽(たつみ)は繰り出される連撃を何とかいなしている。

 

「お前になくても、俺にはあるんだよ!」

 

防御に集中する巽(たつみ)の隙を突くように、ウェイブは彼の腹部に掌底を叩き込んだ。同時に、蒸気が勢いよく噴出し、巽(たつみ)は吹っ飛ばされ、橋の柵に叩きつけられる。

 

「うげっ・・・!」

 

「渋谷事変でのことは資料で読ませてもらったぜ。お前、総監部を裏切っただけでなく、エスデスさん直属の三獣士を殺したそうだな。おまけに宿儺の器である虎杖悠仁と繋がりがあったらしいじゃねぇか」

 

どうやら三獣士の死については羂索と繋がりがある上層部が都合の悪いところを隠すようにある程度の事実は改ざんしているようだ。とはいえ、真実も混じっているため、全てが嘘というわけではない。

 

「何の罪もない渋谷の人たちを皆殺しにした大悪党と一緒にいるんだ。殺されたって文句は言えねぇよ」

 

宿儺の大量虐殺の真実と悠仁の人柄を知らないウェイブの発言を聞いて巽(たつみ)は怒りで全身の血が煮えたぎって来る。

 

「・・・違う。確かに渋谷でのことは言い訳できない事実だ。けどあいつは、好き好んで宿儺と変わったわけじゃない」

 

巽(たつみ)はゆっくりと起き上がり、拳に力を込めて、強い殺気を募らせる。

 

 

「虎杖悠仁は、悪党なんかじゃねぇ!!」

 

 

(!来るか!)

 

強い殺気を感じ取ったウェイブは何が起きてもいいように身構える。ゆっくりと巽(たつみ)はふと、今は亡きブラートの言葉を思い出す。

 

『熱いだけじゃ生き残れないぜ』

 

(!)

 

その言葉を思い出して巽(たつみ)は一気に冷静さを取り戻し、ここから逃げようと駆けだした。

 

(そうだった・・・!ここは何としても逃げ延びて・・・みんなに情報を・・・!)

 

逃げ出す巽(たつみ)を見てウェイブは高く跳躍し、狙いを彼に絞る。

 

「あくまでも戦わないっていうなら・・・一方的に行くぞ」

 

(!ヤバい!)

 

強い殺気を感じ取り、巽(たつみ)は強力な一撃が来ると踏んで両腕を交差して防御態勢を取る。高く飛ぶウェイブは宙で1回転し、蒸気噴射とブースターを起動させ、巽(たつみ)に向かって急降下していく。

 

ウェイブ自身には術式は持っていない。しかし、彼の身に纏う特級呪具、修羅化身グランシャリオにはとある術式が込められており、グランシャリオを身に着けることで初めてその能力を使用できる。呪力を水、術式をボイラーとして蒸気を構築し、それを攻撃に転用するだけでなく、爆発的な身体能力を得られる術式。その名を・・・

 

 

蒸気呪法

 

 

「グランフォール!!」

 

 

ドゴォ!!!ドパアアアアアアン!!!

 

急降下の勢いに乗った強烈な蹴りを受けた巽(たつみ)は吹っ飛ばされ、川に勢いよく落ちていった。

 

「手応えバッチリ!川の中に蹴り込んじまったが、決して見失っては・・・」

 

川の中を凝視するウェイブだったが、川のどこを見回しても巽(たつみ)の姿はなかった。

 

「あれっ⁉いねぇ!どこだ⁉」

 

倒すべき敵を見失ったことでウェイブは焦りを見出す。

 

「・・・あ!川の流れに乗って泳いで逃げたのか⁉村1番の海の男にそいつは無謀だぜ!」

 

泳いで逃げたと思い込んだウェイブは巽(たつみ)を追うように川の流れに沿ってその場を立ち去った。

 

バシャアン!

 

ウェイブがいなくなったタイミングで途端に水飛沫が上がり、何かが地に這いずる。それは、透明化を再度使用してその場をやり過ごした巽(たつみ)であった。

 

「お・・・応戦せずやりすごせた・・・。あっちには透明化の機能はないみたいだな・・・」

 

川から上がってきたはいいが、あまりのダメージで体力に限界が来て巽(たつみ)は倒れる。鎧も顕現が難しくなり、元の剣の形状に戻ってしまう。

 

(最後の蹴り・・・すげぇ威力だった・・・防御に専念しなきゃ死んでた・・・。でもこれで・・・やっと離れられる・・・)

 

巽(たつみ)は気力を振り絞って起き上がろうとしたその瞬間・・・

 

ドパアアアアアアアアン!!!

 

【今日・・・はぁ・・・大漁・・・】

 

川の中に潜んでいた呪霊が騒ぎを聞きつけて飛び出してきた。呪霊の目には倒れてる巽(たつみ)を捉えている。

 

(呪霊⁉くそっ!何つータイミングで!)

 

応戦しようにも巽(たつみ)は先ほどのウェイブの一撃で思うように動けず、咄嗟の対応ができない。

 

(・・・ダメだ・・・ダメージがでかすぎて応戦できねぇ・・・やられる!!)

 

呪霊は大きな口を開けて巽(たつみ)を食らおうと突っ込んできた。死を直感した巽(たつみ)は目を閉じる。すると・・・

 

グイイイイ!

 

【たい・・・たい・・・?】

 

突然呪霊が何かに引っ張られるように巽(たつみ)から離れていく。そして、呪霊が引っ張られた先には、高専の制服を着た金髪の男がいた。

 

ドゴォ!!

 

男は突っ込んできた呪霊に拳を叩き込んで、呪霊を祓った。

 

(え・・・今・・・何が・・・起き・・・)

 

何が起きたのかわからない巽(たつみ)は体力の限界で気を失ってしまう。

 

 

「金ちゃん、この子だよね?」

 

「ああ。モニタールームで見た奴だ。間違いねぇ」

 

●

 

「ん・・・んん・・・」

 

河川敷の橋の真下で巽(たつみ)は目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。

 

「ここは・・・」

 

「お、起きた!」

 

「大丈夫か?よかったぜ、無事で」

 

「たくっ、手間取らせるんじゃねぇ」

 

隣には、必死の思いで合流したかった悠仁と恵、そしてパンダが座っており、巽(たつみ)が起きたことで安心した態度を見せている。

 

「悠仁・・・伏黒・・・パンダ先輩・・・いっつ⁉」

 

「あぁ、無理すんなって。まだ傷は癒えてないんだから」

 

「・・・ここは・・・?」

 

「河川敷の真下だ。今は綺羅羅の術式で誰も近づけない。心配するな」

 

「綺羅羅・・・?」

 

「目ぇ覚ましたか」

 

何が何だかわからず疑問符を浮かべる巽(たつみ)の前にレオーネと、3年の先輩である秤と綺羅羅が現れる。

 

「思ったより元気そうじゃん。安心したよ」

 

「姉さん・・・隣の人たちは・・・?」

 

「ああ。こいつらが、高専の3年の秤金次とキラちゃんこと星綺羅羅だ」

 

「!」

 

目の前にいる2人が自分たちが仲間に引き入れようとしていた高専の3年生であると理解し、巽(たつみ)は驚く。

 

「安心しな。ちゃんと協力はこぎつけたぜ」

 

「いやー、ビックリしたよ。大きな音が聞こえたから様子を見に行ってみたらタッちゃん死にかけで襲われそうになってたからね。焦っちゃったよ」

 

(!そうだ、あの時・・・)

 

自分が気を失う前に、おぼろげながら呪霊を祓った秤たちの姿を見ていた巽(たつみ)はその時のことを思い出し、彼らに頭を下げて礼を言う。

 

「ってことは俺を助けたのは先輩たちってことだよな?ありがとうございました」

 

「うん、いいよ」

 

「っにしても派手にやられたじゃねぇか。氷女の仕業・・・じゃねぇんだろうな。あいつだったらその程度で済むわけねぇし。和倉、お前向こうで何があった?」

 

「・・・えっと・・・話せば長くなるというか・・・」

 

秤の問いかけに対し、巽(たつみ)は若干困ったような表情を浮かべてエスデスに拉致された後の出来事を包み隠さず全て話す。

 

●

 

一方その頃、巽(たつみ)を逃がし手ぶらな状態で無人ホテルに戻ったウェイブはというと・・・

 

「・・・あの・・・なんていうか・・・本当に申し訳ありませんでした・・・。このウェイブ、深く反省しております」

 

任務から戻ってきたエスデスの手によって失態を犯した罰としてパンツ一丁で石抱きの刑に処されていた。

 

「巽(たつみ)を逃がしたのも注意散漫だが、それよりなにより、裏切り者を逃がしたというのが情けない。筑紫(つくし)、石」

 

「は、はい!えと・・・ごめんね?」

 

ゴトッ!

 

「あだだだだだだだだ!!」

 

エスデスの指示で筑紫(つくし)はウェイブの膝の上に石を積み立てていく。もう十分な量の石を積み立てられていて、さらにそこに1つ追加でウェイブの表情は苦痛に歪む。

 

「インクルシオならば中身は100人斬りのブラートだろう。強者であるのは間違いないが、だからと言って逃がしていい理由にはならん。筑紫(つくし)、火」

 

ポタタッ

 

「ああああづあああああ!!」

 

筑紫(つくし)は指示通りに火で溶けた蝋燭をウェイブの背中に垂らす。石の重みに加え、背中から伝わる蝋燭の熱さにウェイブは絶叫する。

 

「ウェイブ・・・お前の強さの技量は完成されてると疑いはしないが・・・どうやらメンタルの方は甘いようだ。反省することだ」

 

ウェイブの強さこそ認めてはいるものの、詰めの甘さが目立つ彼に対して、エスデスは呆れてため息をもらす。

 

「今回は後水責めと鞭打ち程度の御遊戯で済ませてやるが・・・」

 

(御遊戯⁉)

 

絶対御遊戯程度で済まされない拷問でウェイブはツッコミを入れたくなるが、エスデスから発せられる威圧感にすぐに押し黙る。

 

 

「次に失態を犯したら・・・私自らお前を処罰する。肝に銘じておけ」

 

 

ゾッ・・・

 

「は・・・はい・・・」

 

彼女から発せられる静かながらも凄まじい殺気を前にウェイブはただ顔を青ざめ、ただ返事を返すことしかできなかった。

 

「筑紫(つくし)、お前の術式で巽(たつみ)を見つけられないのか?」

 

「一応今も『視覚共有』はしているんですけど・・・こう広いと見つけられなくて・・・」

 

「ふむ・・・この様子では、望みは薄いかもな・・・」

 

巽(たつみ)がいなくなったことで他の術師たちも捜索に回っているのだが、筑紫(つくし)の術式を使っても見つけられないようだ。そのことからもう遠くへ行ってしまったか、もしくはコロニーの中に入ってしまったか、そのどちらかを予想するエスデス。

 

「エスデスさん・・・その巽(たつみ)のことなんですが・・・」

 

と、ここで鉈落(なたら)が巽(たつみ)の件で質問をする。

 

「先ほどの話ではあいつの目的は五条悟の解放なのですよね?」

 

「ああ。大胆にも私に協力を仰いできたくらいだからな」

 

「そうなった場合、巽(たつみ)は俺たちの敵になるということになりますが・・・その場合、俺たちはどう対処した方がいいですか?」

 

今集まっているメンバーのほとんどは総監部の指示に忠実に従う言うなれば保守派寄りの術師ばかりで総監部の命令は絶対だと思っている。しかし自分たちの上司であるエスデスは巽(たつみ)に惚れていることは昨日ことで全員知るところである。悟を解放を目的としているなら、彼を誅殺しなければならないのだが、エスデスの指示次第ではそれも変わってくる。それゆえの質問に本人は少し考える素振りを見せて答える。

 

「・・・正直・・・巽(たつみ)のことは今でも好きだ。なかなか手に入らないからこそ燃えてくるものもある。だがそれよりも部下の命が優先だ。生け捕りが望ましいが、いざとなれば殺しても構わん」

 

弱肉強食を理論とする彼女にとって総監部の命令に従った方が都合がいいと考えている。それゆえに、例え敵対関係になるのだとしても、彼女の意思はブレない。いや、むしろそうでなくてはならないとさえ考えている。

 

「了解しました」

 

一同がエスデスの命令に了承すると、エスデスは椅子から立ち上がり、巽(たつみ)の姿を想い馳せる。

 

(もし・・・殺されるようならそこまでの男ということだが、お前はそんな弱者じゃないだろう。これは確信だ。あいつには生き延びる強かさを持っている。不思議なものだな・・・巽(たつみ)とはまた会える・・・そんな気がする。いや、会ってみせる!その時は問答無用でこの気持ちを・・・ありったけの想いをぶつけてやるからな!覚悟しろ、巽(たつみ)!)

 

強い者だけが生き残るこの呪いの世界で巽(たつみ)は必ず生き残ると断言しているエスデスは強まっていく思いを高ぶらせ、彼との再会を決意するのであった。

 

●

 

悠仁たちが身を隠している東京の河川敷の真下。巽(たつみ)は自分がこの目で見たこと、経験したことを全てを彼らに打ち明けた。

 

「・・・以上が、俺が見てきたことの全てだ」

 

巽(たつみ)の口から告げられた情報に恵たちは渋い顔つきになる。

 

「日下部が言ってた噂は本当だったか・・・キッツいなー・・・」

 

「確かに、高専には術式を持っていない術師が何人かいる。羂索はそいつらにも目を着けていたのか・・・面倒だな・・・」

 

「どうして?」

 

恵が問題視している事態を理解していない悠仁に恵は呆れる。

 

「術式が目覚めたってことは、そいつらも泳者(プレイヤー)になったってことだ。そこに加えてルール9だ。虎杖が既に泳者(プレイヤー)になってしまっている以上、お前の名前も載ってある。もしかしたら、お前が生きてることもバレてるかもしれないんだ」

 

「あ・・・!」

 

恵の指摘に盲点だった悠仁はそれに気が付き、深刻な表情を浮かべる。

 

「でもグリーンが味方になってくれたのは大きい。あっち側に1人でも味方がいれば、新しい情報が手に入るかもしれん」

 

「それと、グリーンの言っていた東京第1にいる義兄妹。そいつらの協力をこぎつければ、俺たちの行動も有利に進むかもしれない」

 

「本当にそいつは信用できるのか?」

 

パンダと巽(たつみ)の発言にグリーンと直接会ったことがない恵が懐疑的な発言をする。そこに口を挟んできたのは秤だった。

 

「あいつには信頼できるほどの熱はある。そこは信用していい。俺が保証する」

 

「・・・秤さんがそう言うなら・・・まぁ・・・」

 

秤からのお墨付きもあり、いったんは納得する恵。

 

「なんにしても、欲しい情報が集まっただけでも大きな収穫だ!よくやったぞ、巽(たつみ)!」

 

ムニュッ!

 

「んぶ・・・」

 

「うほっ・・・」

 

有益な情報を持って帰ってきた巽(たつみ)を褒めるようにレオーネは彼を抱きしめる。もちろん、彼の顔は彼女の胸に押し付けられ、その光景を見た悠仁は若干鼻の下を伸ばしてる。

 

「す・・・少しでも情報が役に立ったなら拉致られた甲斐があったってもんだよ・・・」

 

「なんだよ拉致られた甲斐って」

 

思春期真っ盛りな巽(たつみ)自身も少し鼻の下を伸ばしており、彼の態度と発言に恵は呆れる。

 

「で、実際にあいつらの強さはどうだったよ?間近で見たんだろ?」

 

パンダに質問された時、巽(たつみ)は正気に戻り、咄嗟にレオーネから離れて質問に答える。

 

「・・・メンバーの実力は多分俺たちと互角か、あるいはアマさんたちと同レベルだと思ってる。けどエスデス・・・あの人の力は別格だ。五条先生と互角レベルと言われるのも納得できるほどだった」

 

実際にはエスデスの戦った姿は見ていないが、ファイトクラブで拉致された時、巽(たつみ)は何をされたのか理解できずに気絶させられた。その時のことから考えても、自分たちでは彼女に勝つことは叶わないと巽(たつみ)は睨んでいる。

 

「だろうなぁ。あの氷女は底が知れねぇ。正直アカ先でも勝てるかどうかっていうレベルだ」

 

「となると、やっぱ来栖蘭(らん)と天使を探すのも重要だな」

 

「ああ。獄門疆の封印さえ解けば、五条先生は解放される。そうすれば、死滅回游も一気に片がつく」

 

「じゃあ、俺たちのやることに変更はないな」

 

「ああ」

 

一同のやるべきことが決まり、皆気合が入った表情になる。

 

「獄門疆の封印を解ける天使と来栖蘭(らん)を探しながら、鹿紫雲一と日車寛見を狩る!」

 

これで準備は整った。後はコロニーに突入して、各々の役目を全うするのみだ。

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